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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1349124
審判番号 不服2017-17442  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-24 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2012-271121「周波数帯域を選択する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月17日出願公開、特開2014- 50098〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年12月12日(パリ条約による優先権主張2012年9月3日,韓国)の出願であって,平成28年9月15日付けで拒絶理由が通知され,平成29年2月27日付けで手続補正書が提出され,同年7月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
平成29年11月24日付けの手続補正書でした補正(以下,「本件補正」という。)は,平成29年2月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,
「周波数帯域を選択するスイッチング回路であって,
周波数帯域に対応する複数個の表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタと,
前記複数個のSAWフィルタそれぞれの入力ポートに接続され,アンテナ回路に接続される第1のスイッチと,
前記複数個のSAWフィルタそれぞれの出力ポートに接続され,前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチと,を含むことを特徴とするスイッチング回路。」
(以下,本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」ともいう。)を,補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された,
「周波数帯域を選択するスイッチング回路であって,
周波数帯域に対応する複数個の表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタと,
前記複数個のSAWフィルタそれぞれの入力ポートに接続され,アンテナ回路に接続される第1のスイッチと,
前記複数個のSAWフィルタそれぞれの出力ポートに接続され,臨界アイソレーション要求値又は臨界周波数帯域減衰要求値のうちの少なくとも一つに基づいて,前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチと,を含むことを特徴とするスイッチング回路。」
(以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2 補正の目的要件について
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する」ことについて,「臨界アイソレーション要求値又は臨界周波数帯域減衰要求値のうちの少なくとも一つに基づいて」いる点で限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで,補正後の発明が特許法17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)補正後の発明
上記1において「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-154337号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【背景技術】
【0002】
携帯電話などの無線端末では現在多数の無線通信方式が用いられている。最近では,下記特許文献1に記載されているように,1つの無線端末で複数の無線通信方式に対応できるマルチモード,マルチバンド対応の無線端末の開発が盛んに行なわれるようになった。マルチモード,マルチバンド対応の無線端末では,そのフロントエンド部分においてRFスイッチ(高周波信号の経路を切り替えるためのスイッチ)およびRFフィルタ(高周波信号の通過帯域を選択するためのフィルタ)を組み合わせたフィルタバンクモジュールと称されるモジュールが用いられる。
【0003】
現在用いられているフィルタバンクモジュールは,各無線通信方式に対応するRFフィルタを複数並べ,アンテナポートとRFフィルタとの間に切り替えスイッチを設けて無線通信方式ごとにその切り替えスイッチを切り替えるようになっている。」(2頁)

(イ)「【0016】
図3は本発明に係る高周波モジュールの全体構成を概念的に示した図である。
【0017】
高周波モジュール100は,入力部20と,フィルタ部30と,出力部40とで構成される。
【0018】
入力部20はスイッチ22を備え,スイッチ22はたとえばFETなどの半導体スイッチが用いられる。
【0019】
フィルタ部30は二つの弾性波フィルタ32A,32Bを備え,弾性波フィルタ32A,32Bはたとえば表面弾性波フィルタが用いられる。弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bとはスイッチ22によって選択できる。弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bとはそれぞれ異なる周波数特性を有し通過させることができる周波数帯が異なっている。弾性波フィルタ32A,32Bはそれぞれ二つの出力端子を有している。一方の出力端子と他方の出力端子からは相互に180°位相のずれた信号が出力される。したがって,両方の出力端子の信号を合成すると,ノイズ成分が相殺され歪みの少ない信号が得られる。フィルタ部30はいわゆるディファレンシャル対応になっている。
【0020】
出力部40はスイッチ42A,42Bを備え,スイッチ42A,42Bも入力部20と同様たとえばFETなどの半導体スイッチが用いられる。スイッチ42A,42Bは,スイッチ22と同期して動作する。したがって,スイッチ22が弾性波フィルタ32A側に切り替わったときにはスイッチ42A,42Bも弾性波フィルタ32A側に切り替わり,スイッチ22が弾性波フィルタ32B側に切り替わったときにはスイッチ42A,42Bも弾性波フィルタ32B側に切り替わる。スイッチ42A,42Bは,弾性波フィルタ32A,32Bそれぞれから出力される180°位相のずれた信号を出力端子に出力する。
【0021】
本発明は特に高周波モジュール100の出力部40の配線を工夫して出力端子に出力される信号のクロストークおよびディファレンシャル特性を改善するものである。」(4頁)

(ウ)「【0022】
図4は本発明に係る高周波モジュール100の具体的な構成を示す図である。
【0023】
高周波モジュール100はスイッチ基板50と弾性波フィルタ基板60とを有する。
【0024】
スイッチ基板50はそのアクティブ領域(Active Area)に図3に示したスイッチ42A,スイッチ42Bを備えている。スイッチ42A,スイッチ42Bは半導体スイッチである。スイッチ基板50の表面には図3に示した弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bの出力端子をスイッチ42A,スイッチ42Bを介してスイッチ42A,スイッチ42Bの出力端子に接続するための配線の一部分が形成されている。
【0025】
弾性波フィルタ基板60は弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bを備えている。弾性波フィルタ基板60の表面には図3に示した弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bの出力端子をスイッチ42A,スイッチ42Bを介してスイッチ42A,スイッチ42Bの出力端子に接続するために必要となる,スイッチ基板50には形成されていない部分の配線が形成される。弾性波フィルタ基板60に形成される配線はスイッチ基板50に形成されている配線と交差する部分および弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bの出力端子からスイッチ42A,スイッチ42Bの出力端子までの距離を等しくするために必用となる部分の配線である。
【0026】
スイッチ基板50と弾性波フィルタ基板60の配線は複数のバンプ70A?70Dによって電気的に接続される。スイッチ基板50と弾性波フィルタ基板60の配線がバンプ70A?70Dで接続されると,弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bの出力端子からスイッチ42A,スイッチ42Bの出力端子までの配線が繋がる。
【0027】
スイッチ基板50と弾性波フィルタ基板60との距離はバンプ70A?70Dによって10μm?50μm離れることになる。弾性波フィルタ基板60の配線はスイッチ基板50の配線と交差する部分に形成してあるので,交差する配線間のクロストークノイズが軽減される。」(4?5頁)

(エ)「【0029】
図5は本発明に係る高周波モジュールの具体的な構成を示す図である。
【0030】
第1基板であるスイッチ基板50の表面にはIN1-とIN2-の入力端子が接続されるコ字状の配線52とOUT+の出力端子が接続されるT字状の配線54が形成される。これらの配線は,図3に示した弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bの出力端子をスイッチ42A,スイッチ42Bを介してスイッチ42A,スイッチ42Bの出力端子に接続するための配線の一部分である。加えて,スイッチ基板50の表面にはバンプ70E,70Iを接続するためのパッドも形成される。」(5頁)

(オ)「


(図3)

(カ)「


(図5)

イ 上記ア(ア)?(エ)の記載について,同(オ),(カ)等の図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると,以下を指摘することできる。
(ア)上記ア(イ)の段落【0019】に記載のとおり,高周波モジュール100の弾性波フィルタ32Aと弾性波フィルタ32Bは,表面弾性波フィルタが用いられるものであり,それぞれ異なる周波数特性を有し通過させることができる周波数帯が異なり,一方の出力端子と他方の出力端子からは相互に180°位相のずれた信号が出力される。また,特に段落【0020】の記載から,高周波モジュール100は,スイッチ22,並びに,出力部40が備えるスイッチ42A及び42Bにより,弾性波フィルタ32A,32Bのそれぞれから出力される180°位相のずれた信号を切り替えて出力端子に出力するといえる。ここで,スイッチ22は,入力部20が備えるものである(段落【0018】)。
(イ)上記ア(ア)は「背景技術」に関する記載であり,段落【0003】の記載によれば「現在用いられているフィルタバンクモジュール」はアンテナポートに接続されるものであるが,上記(ア)に加え,上記ア(エ)の記載や,同(カ)に示した図5に存在する「フィルタバンクモジュール入力」,「入力側半導体スイッチ部」等の表記を考慮すると,図5の「フィルタバンクモジュール入力」付近に示されている端子は,図3の入力部20におけるスイッチ22の左側の端子に対応しており,当該端子は,上記背景技術と同様に,アンテナポートに接続されることが明らかである。
(ウ)上記ア(イ)の特に段落【0020】?【0021】の「出力部40」についての記載,及び上記ア(ウ)から,スイッチ42A及び42Bから出力される信号は,クロストーク特性が改善されたものであるといえる。

ウ したがって,引用文献1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれから出力される相互に180°位相のずれた信号を切り替えて出力端子に出力する高周波モジュールであって,
異なる周波数特性を有し通過させることができる周波数帯が異なる表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bと,
前記表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれに接続され,アンテナポートに接続される,入力部20が備えるスイッチ22と,
前記表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれに接続され,前記表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれから出力される相互に180°位相のずれた信号であってクロストーク特性が改善された信号を切り替えて出力する,出力部40が備えるスイッチ42A及び42Bと,を含む高周波モジュール。」

(3)対比
ア 補正後の発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「高周波モジュール」は,異なる周波数特性を有し通過させることができる周波数帯が異なる表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bを含むとともに,表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれから出力される相互に180°位相のずれた信号を切り替えて出力端子に出力するものであるから,補正後の発明の「周波数帯域を選択するスイッチング回路」に相当する。
また,引用発明の「異なる周波数特性を有し通過させることができる周波数帯が異なる表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32B」は,補正後の発明の「周波数帯域に対応する複数個の表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタ」に含まれる(引用発明の個々の表面弾性波フィルタが,補正後の発明の「表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタ」に相当する。)。
(イ)引用発明の「アンテナポートに接続される」こと,「スイッチ22」は,それぞれ補正後の発明の「アンテナ回路に接続される」こと,「第1のスイッチ」に相当し,ここで,引用発明の「スイッチ22」は,「入力部20が備える」ものであるから,表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bの入力ポートに接続されるものである。
(ウ)補正後の発明の「前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチ」との発明特定事項(以下,「発明特定事項A」という。)は,平成29年2月27日付け手続補正書における請求項1の補正により存在することとなったものであることから,当該発明特定事項の技術的意味を把握するに当たっては,請求人が,審判請求書の請求の理由(平成29年11月27日付けの手続補正書により補正されたもの)につき,上記平成29年2月27日付け手続補正書の補正事項が「本願の図3,段落0063?段落0066」に基づく旨を主張している(平成29年11月27日付け手続補正書の3頁2.(1))ことに基づき,本願明細書の図3に関する記載である段落【0043】?【0048】を参酌すべきものと解される(「段落0063?段落0066」は誤記と考えられる。)。
そして,上記段落範囲の「FEM215は,SP8T(Single-Pole 8 Throw)スイッチ310と,8個のSAWフィルタ・・・(中略)・・・と,DP16T(Dual-Pole 16 Throw)スイッチ330とを含む。したがって,FEM215の出力ポートは,1個である。」(段落【0043】)との記載や,「DP16Tスイッチ330が使用される理由は,SAWフィルタ320-1・・・(中略)・・・320-8から出力される信号各々がバランス(balance)信号であるためである。」(段落【0047】)との記載によれば,図3において,DP16Tスイッチ330の出力ポートの個数は1個である一方,「バランス信号」は,ノーマルモードの差動信号,すなわち相互に180°位相のずれた2個の信号であり,8個のSAWフィルタのいずれかから出力される相互に180°位相のずれた2個の信号が,DP16Tスイッチの1個の出力ポートから出力されるものと解される。
そうすると,発明特定事項Aは,「第2のスイッチ」の出力するものが相互に180°位相のずれた2個の信号であるものを含んでいるといわざるを得ないものである。
(エ)引用発明の「出力部40が備えるスイッチ42A及び42B」は,引用文献1の上記ア(イ)(特に段落【0020】)の記載及び図3により,単一のDPnTスイッチであると理解し得るものであるから,補正後の発明の「第2のスイッチ」に相当する。
(オ)上記(ウ)及び(エ),並びに,上記(ア)のとおり,引用発明の「表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32B」は異なる周波数特性を有し通過させることができるものであることから,引用発明の「前記表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれに接続され,前記表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのそれぞれから出力される相互に180°位相のずれた信号」を「切り替えて出力する,出力部40が備えるスイッチ42A及び42B」は,補正後の発明の「前記複数個のSAWフィルタそれぞれの出力ポートに接続され,」「前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチ」に含まれる。

イ したがって,補正後の発明と引用発明とは以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)「周波数帯域を選択するスイッチング回路であって,
周波数帯域に対応する2個の表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタと,
前記2個のSAWフィルタそれぞれの入力ポートに接続され,アンテナ回路に接続される第1のスイッチと,
前記2個のSAWフィルタそれぞれの出力ポートに接続され,前記2個のSAWフィルタによりフィルタリングされた2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチと,を含むことを特徴とするスイッチング回路。」
(相違点)一致点の「第2のスイッチ」が出力する信号に関し,補正後の発明は,「臨界アイソレーション要求値又は臨界周波数帯域減衰要求値のうちの少なくとも一つに基づいて」出力するものであるのに対し,引用発明は「クロストーク特性が改善された」信号である点。

(4)判断
そこで,上記相違点について判断する。
引用発明において,信号の「クロストーク特性が改善され(る)」とは,アイソレーションが要求水準を満足していることを意味することが明らかであり,ここで,要求水準の指標は,通常,具体的な数値(要求値)で示されるものである。
他方で,本願明細書における「臨界アイソレーション要求値」に関する記載としては,例えば,「8個のSAWフィルタから出力される信号を統合するために,信号受信装置で要求される臨界周波数帯域減衰要求値(threshold frequency band attenuation value)と臨界アイソレーション要求値(threshold isolation value)は,8個のSAWフィルタから出力される信号が統合された後に満足されなければならない。本発明において,臨界周波数帯域減衰要求値と臨界アイソレーション要求値は,各々40dBであると仮定する。」(段落【0044】)との記載や,「臨界周波数帯域減衰要求値と臨界アイソレーション要求値を満たすために,SPnTスイッチとDPnTスイッチがSAWフィルタの前後に接続されるタイプで実現されるFEM構成は,図3に示されている。」(段落【0046】)といった記載があるにすぎないことから,補正後の発明の「臨界アイソレーション要求値」は,単に,アイソレーションの要求値を意味するものと解される。
以上のことから,引用発明において,「出力部40が備えるスイッチ42A及び42B」,すなわち「第2のスイッチ」から出力される信号が,臨界アイソレーション要求値に基づいて出力されるものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

(5)発明特定事項Aの異なる解釈に基づく対比・判断
ア 請求人は,上記(3)ア(ウ)で指摘した主張の他,請求項に記載された「前記複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた少なくとも2個の信号を出力する出力ポートを有する第2のスイッチ」(発明特定事項A)で,少なくとも2個の信号は,複数個のSAWフィルタによりフィルタリングされた信号を意味することが明らかである旨を主張する(平成29年11月27日付け手続補正書の7頁)。このことからすると,請求人の発明特定事項Aの解釈は,「少なくとも2個の信号を出力する」とは,「少なくとも2個のSAWフィルタから出力される信号を出力する」という意味であるとするものであって,上記(3)ア(ウ)とは異なり,「第2のスイッチ」の出力するものが相互に180°位相のずれた2個の信号であるものを含まないと解される。
請求人の上記主張は,本願明細書の記載に基づいたものとは認められないことから採用することができないものであるが,念のため,発明特定事項Aの「少なくとも2個の信号」とは「少なくとも2個のSAWフィルタから出力される信号」の意味であるとした場合の,補正後の発明と引用発明との対比・判断について,以下,検討する。
イ 引用発明の「出力部40が備えるスイッチ42A及び42B」が出力する「相互に180°位相のずれた信号」は,「表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32B」のいずれかが出力する1個の信号であるから,補正後の発明と引用発明とは,上記(3)イの相違点に加えて,次の点でも相違する。
すなわち,一致点の「第2のスイッチ」が出力する信号が,補正後の発明では,「少なくとも2個」のSAWフィルタから出力されるものであるのに対し,引用発明では「1個」のSAWフィルタ(表面弾性波フィルタ32A及び表面弾性波フィルタ32Bのいずれか)から出力されるものである点。
しかしながら,引用文献1には,「以上のように,上記実施形態では,四つの入力端子を二つの出力端子に切り替える構成を例として説明したが,本発明は以上の実施形態に拘わらず,複数の入力端子を複数の出力端子に切り替える構成においても応用することができる。」(6頁,段落【0039】)との記載があり,ここで,「複数の出力端子」とは,出力端子の個数を「二つ」よりも増加させて,2個以上の弾性波フィルタに対応する4個以上の出力端子であると解されることから,2個以上の弾性波フィルタから出力される信号をスイッチが出力するようにすることが示唆されているといえる。
したがって,引用発明において,「出力部40」が備えるスイッチが,2個以上の表面弾性波フィルタ,すなわち少なくとも2個のSAWフィルタから出力される信号を出力するものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

(6)そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

(7)したがって,補正後の発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合していない。

4 補正の却下の決定の[理由]についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記第2の[理由]1において「本願発明」として認定したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,この出願の請求項1-5,7-12,14に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないとともに,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用文献1に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2010-154337号公報

3 引用発明
引用発明は,上記第2の[理由]3(2)ウで認定したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明は,補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。そして,当該限定は,本願発明の「第2のスイッチ」が出力する信号に関し,補正後の発明において「臨界アイソレーション要求値又は臨界周波数帯域減衰要求値のうちの少なくとも一つに基づいて」いるとするものであるから,上記第2の[理由]3(3)イで認定した相違点に対応している。
そうすると,補正後の発明から上記限定を省いた本願発明と,引用発明との差異はないから,本願発明は,引用文献1に記載された発明である。

(2)また,仮に,補正後の発明が,引用発明と更に上記第2の[理由]3(5)イの点でも相違するとしても,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正後の発明が,上記第2の[理由]3(7)のとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-05 
結審通知日 2018-09-10 
審決日 2018-09-26 
出願番号 特願2012-271121(P2012-271121)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
P 1 8・ 113- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 聖子  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 中野 浩昌
富澤 哲生
発明の名称 周波数帯域を選択する装置及び方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 木内 敬二  
代理人 崔 允辰  

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