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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1349148
審判番号 不服2017-7710  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-30 
確定日 2019-02-13 
事件の表示 特願2015-520505「可変焦点電気活性型眼用レンズ」拒絶査定不服審判事件〔2014年(平成26年)1月3日国際公開,WO2014/004836,平成27年8月27日国内公表,特表2015-524937〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-520505号(以下「本件出願」という。)は,2013年(平成25年)6月27日(優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)6月29日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 8月18日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月10日付け:意見書
平成29年 1月10日付け:手続補正書
平成29年 1月26日付け:拒絶査定
平成29年 5月30日付け:審判請求書
平成29年 5月30日付け:誤訳訂正書
平成29年 5月30日付け:手続補正書(以下「本件手続補正書」という。)
平成30年 3月13日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 3日付け:意見書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである。
「 可変焦点眼用装置であって,
前方湾曲上部光学表面と前方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の前方湾曲光学部と,
後方湾曲上部光学表面と後方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の後方湾曲光学部と,
前記可変焦点眼用装置の前記前方湾曲光学部の前記前方湾曲底部光学表面と前記可変焦点眼用装置の前記後方湾曲光学部の前記後方湾曲上部光学表面とによって形成された空洞と,
第1の屈折率を有する第1の流体及び第2の屈折率を有する第2の流体であって,前記第1の屈折率と前記第2の屈折率が異なり,前記2つの流体が不混和性である,第1の流体及び第2の流体と,
前記第1の流体又は前記第2の流体のうちの1つ又は複数の少なくとも一部と接触し,電界を確立し得る電極を覆う誘電性フィルムと,
前記第1の流体の体積と同等又は略同等の体積の流体を収容するための1つ又は複数の貯留領域であって,当該1つ又は複数の貯留領域が,前記形成された空洞を,それらの領域と空洞の間にある1つ又は複数の壁で取り囲む,1つまたは複数の貯留領域と,
前記1つ又は複数の貯留領域と前記空洞との間にあり,前記第1の流体と前記第2の流体の流れを可能にするよう前記1つ又は複数の壁の間を通って通じる1つ又は複数の流路とを含み,
前記第1の流体が前記空洞を占有すると前記第2の流体が当該空洞から排除されるように,前記空洞と前記1つ又は複数の貯留領域とが構成されている,
可変焦点眼用装置。」

3 拒絶の理由の概要
本願発明に関して,平成30年3月13日付け拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由(以下「当合議体の拒絶の理由」という。)は,概略,本願発明は,本件出願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特表2012-507748号公報
引用文献2:国際公開第2011/143554号
引用文献3:特表2007-531038号公報
なお,主引用例は,引用文献1であり,引用文献2は技術水準を示す文献,引用文献3は,副引用例である。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1?引用文献3の記載及び引用発明等
(1) 引用文献1の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある(要部のみを摘記する。)。なお,下線部は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0002】
(発明の分野)
本発明は,眼科用レンズ内に埋め込んだマイクロコントローラ装置を備える眼科用レンズについて,より具体的には,マイクロコントローラ及び1つ以上の構成要素を埋め込んだ媒体挿入物を備える眼科用レンズの製造方法について説明する。
【背景技術】
【0003】
従来,コンタクトレンズ又は眼内レンズのような眼科用レンズは,所定の光学品質を提供してきた。例えばコンタクトレンズなら,視力矯正機能性,美容強化,及び治療的効果の1つ以上を提供することが可能であるが,視力矯正機能については一つのセットしか提供することができなかった。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,時により,目に装着される生物医学的装置が複数の機能を持つことが装用者にとって有益と考えられることもある。例えば,眼科用レンズが複数の焦能力を有することで視力の調整が可能になれば,有利である。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって本発明は,眼科用レンズ内の1つ以上の構成要素の状態を変化させるように機能するマイクロコントローラを備えた眼科用レンズを含む。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は,内部に組み込んだマイクロコントローラを備える眼科用レンズを製造するための方法及び装置を含む。加えて本発明は,内部に組み込んだマイクロコントローラを備える眼科用レンズを含む。
…(省略)…
【0014】
ここで図1を参照すると,埋め込みマイクロコントローラ111を備えた眼科用レンズ100はまた,エネルギーの蓄積手段としての電気化学セル又は電池などのエネルギー源109,並びに実施形態によっては,エネルギー源を構成する材料を眼科用レンズが配置される環境から封止及び分離する手段を含み得る。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


ウ 「【0015】
眼科用レンズのための代表的な成形型100の図が,マイクロコントローラ111とともに示されている。成形型は,レンズ形成混合物の反応又は硬化に際して所望の形状の眼科用レンズが製造されるように,中にレンズ形成混合物を分配することができるキャビティ105を有する形態100を含む。
…(省略)…
【0016】
少なくとも1つの鋳型部分101?102は,その表面103?104の少なくとも一部がレンズ形成用混合物と接触していて,レンズ形成用混合物の反応又は硬化の際に,表面103?104が所望の形状及び形態を表面が接触しているレンズ部分にもたらすようになっている。
…(省略)…
【0018】
レンズ形成表面は,光学品質表面仕上げとした表面103?104を含むことができ,光学品質表面仕上げとは,表面が十分に滑らかで,成形型表面に接触しているレンズ形成材料の重合によって作られるレンズ表面が光学的に許容可能となるように形成されていることを示す。更に,実施形態によっては,レンズ形成表面103?104は,レンズ表面に任意の所望の光学特性を付与するのに必要な幾何学形状を有することができる。
…(省略)…
【0034】
付加的実施形態によってはまた,眼科用レンズ内の液体メニスカスレンズ部分108の状態を変化させる命令を発するマイクロコントローラを含むことができ,液体メニスカスレンズ部分の状態の変化によってレンズの光学品質が変化する。
…(省略)…
【0038】
実施形態によっては,マイクロコントローラ111によって制御される可変レンズは,2つ以上の液体の容積を保持するための液体包含セルを含む液体メニスカスレンズを含むことができる。非平面である下面は,円錐又は円筒形の凹部又はくぼみ(デルタ軸)を含み,ここに1滴の絶縁液体が包含される。セルの残部は,絶縁液体とは非親和性で異なる屈折率を有し,実施形態によっては絶縁液体と類似又は同一の密度を有する,導電性液体を含む。くぼみに面して開いた環状電極が,下部プレートの後面上に位置づけられる。別の電極が導電性液体に接触して配置される。電極全体の電圧の印加を利用して,電気的な濡れを生じさせ,また2つの液体相互間のインターフェースの曲率を,電極間の印加電圧(V)に応じて変化させる。上部プレート及び下部プレートに垂直にセルを透過して液滴領域に入る光速は,電極に印加される電圧に応じて,より大きな,又は小さな程度に収束する。導電性液体は典型的には水性液体であり,絶縁液体は典型的には油性の液体である。一般に,マイクロコントローラが液体メニスカスレンズ部分の電極全体の電圧の印加を制御し,それによって眼科用レンズの光学特性を制御する。マイクロコントローラはまた,液体メニスカスレンズ部分に関係する変数,例えば光学特性の現在の状態を監視し追跡することもある。
【0039】
ユーザーによって制御される調整装置を用いることにより,マイクロコントローラとインターフェースをとり,またそれによってレンズの焦点を制御することが可能である。
…(省略)…
【0040】
実施形態によっては,マイクロコントローラ111を備えるレンズは,剛性の中心部部分の軟性周縁部を有する設計の媒体上に配置されるが,このマイクロコントローラ111を含む中心の剛性光学素子は,大気及び角膜表面とそれぞれ前面及び後面上で直接接触し,レンズ材料(典型的にはヒドロゲル材料)からなる軟性の周縁部が剛性の光学素子の周囲に付着される。
…(省略)…
【0049】
レンズ
ここで図2を参照すると,マイクロコントローラ204を含む媒体挿入物201を備えた,活性化された眼科用レンズ200の素子が示されている。
…(省略)…
【0051】
ここで図7を参照すると,本発明のある種の実施形態の斜視図が示されている。この図は,エネルギーハーベスタ701及びエネルギー源702の実施形態を示すが,両者はそれぞれ導電回線経路706を介してマイクロコントローラ704と電気的導通状態にある。その他の構成要素707は,媒体挿入物内に含まれる回路内で一定の役割を果たす,様々な半導体,固体,能動的又は受動的な装置であり得る。実施形態によっては,回線経路706,構成要素707,エネルギーハーベスタ701,エネルギー源702及びマイクロコントローラ704,センサー及びその他の装置を,可撓性基材705上に搭載してもよい。
【0052】
図7には更に,媒体挿入物700上の視覚ゾーン内に位置する液体メニスカスレンズ部分703が示されている。」
(当合議体注:図2及び図7は以下の図である。)
図2:


図7:


(2) 引用発明
引用文献1の【0038】,【0039】,【0049】,【0051】及び【0052】の下線部の記載,並びに,引用文献1の図7から,マイクロコントローラ704及びその他の装置が,液体メニスカスレンズ部分の周囲の可撓性基材705上に搭載されている様子が看取されることを考慮すると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 マイクロコントローラを含む媒体挿入物を備えた,活性化された眼科用レンズであって,
マイクロコントローラによって制御されるレンズは,2つの液体の容積を保持するための液体包含セルを含む液体メニスカスレンズを含み,ユーザーによって制御される調整装置を用いることにより,マイクロコントローラとインターフェースをとり,それによってレンズの焦点を制御することが可能であり,
液体メニスカスレンズ部分が,媒体挿入物上の視覚ゾーン内に位置するとともに,マイクロコントローラ及びその他の装置が,液体メニスカスレンズ部分の周囲の可撓性基材上に搭載されている,
眼科用レンズ。」

(3) 引用文献2
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献2には,以下の記載がある(要部のみを摘記する。)。
ア 1頁7?10行
「FIELD OF USE
The present invention relates generally to an arcuate liquid meniscus lens, some specific embodiments include a liquid meniscus lens with a front curve arcuate lens and a back curve arcuate lens.」
(参考訳:利用分野
本発明は,概して,弓形液体メニスカスレンズに関し,一部の特定の実施形態は,前方湾曲弓形レンズ及び後方湾曲弓形レンズを備える液体メニスカスレンズを含む。)

イ 1頁11?18行
「BACKGROUND
Liquid meniscus lenses have been known in various industries. …(省略)… Known examples of the use of liquid meniscus lenses include devices such as electronic cameras and mobile phone devices.」
(参考訳:背景
液体メニスカスレンズは,様々な産業において公知である。…(省略)…液体メニスカスレンズの使用の既知の例としては,電子カメラ及び携帯電話装置等の装置が挙げられる。)

ウ 2頁17?24行
「Fig.1A illustrates a prior art example of a cylindrical liquid meniscus lens in a first state.
Fig.1B illustrates the prior art example of a cylindrical liquid meniscus lens in a second state.
Fig.2 illustrates a profile sliced cut away of an exemplary liquid meniscus lens according to some embodiments of the present invention.
Fig.3 illustrates a cross section of a portion of an exemplary arcuate liquid meniscus lens, according to some embodiments of the present invention.」
(参考訳:図1Aは,第1の状態における円柱形液体メニスカスレンズの先行技術の例である。
図1Bは,第2の状態における円柱形液体メニスカスレンズの先行技術の例である。
図2は,本発明の一部の実施形態による,代表的な液体メニスカスレンズのプロファイル切り出し断面である。
図3は,本発明の一部の実施形態による,代表的な弓形液体メニスカスレンズの一部分の断面である。)

エ Fig.1A,Fig1.B,Fig.2,Fig.3
Fig.1A:


Fig.1B:


Fig.2:


Fig.3:



オ 7頁14?26行
「In still another aspect, in some embodiments, an insulator coating 305 is applied to a front curve lens 301. …(省略)… Insulators may include, for example, Parylene C, Teflon AF or other materials with various electrical and mechanical characteristics and electrical resistance.
In some specific embodiments, an insulator coating 305 creates a boundary area to maintain separation between the conductive coating 303 and a saline solution 306 contained in a cavity between the front curve lens 301 and the back curve lens 302. Some embodiments accordingly include an insulator coating 305 patterned and positioned in an one or more areas of one or both of the front curve lens 301 and the back curve lens 302 to prevent a positively charged conductor 303 and negatively charged saline solution 306 from coming into contact, wherein contact of a conductor 303 and a saline solution 306 will result in an electrical short.」
(参考訳: 更に別の態様において,一部の実施形態では,絶縁体コーティング305が前方湾曲レンズ301に適用される。…(省略)…絶縁体は,例えば,パリレンC,テフロンAF,又は様々な電気及び機械特徴並びに電気抵抗を備える他の材料を含むことができる。
一部の実施形態では,絶縁体コーティング305は,導電性コーティング303と,前方湾曲レンズ301と後方湾曲レンズ302との間の空洞に収容される食塩水溶液306との間の分離を維持するための境界区域を作り出す。導電体303及び食塩水溶液306の接触は,電気的短絡をもたらすため,一部の実施形態は,正帯電した導電体303及び負帯電した食塩水溶液306が接触するのを防止するために,前方湾曲レンズ301及び後方湾曲レンズ302のうちの1つ又は両方の1つ又は2つ以上の区域でパターン化され,位置付けられた絶縁体コーティング305を含む。)

(4) 引用文献3
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献3には,以下の記載がある(要部のみを摘記する。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,個別に調整可能なレンズに関し,特に,カメラレンズ配置内のマクロレンズとしての使用に適したレンズに関する。さらに,本発明は,そのような個別に調整可能なレンズを担持するカメラレンズ配置に関する。
【背景技術】
…(省略)…
【0006】
通常のエレクトロウェッティングレンズは,密閉チャンバを有し,この密閉チャンバは,2つの流体を収容し,撥水性および親水性の内表面を有し,流体は,適正に定められた空間の相互関係を維持し,レンズ形状のメニスカスを定形する。屈折率が異なるため,メニスカスは,メニスカスを通って進行する光に,光出力を提供する。そのようなレンズは,極めて多目的に使用できるため,現在,各種用途に対して注目されている。このレンズは,低コストで製作することが可能であり,可動部分を有さず,小型設計が可能になるという利点を有する。
【0007】
…(省略)…
しかしながら,この設計には,いくつかの問題が生じる。特に,十分に長期にわたって,メニスカスの形状を正確に制御し,維持することは難しく,特に,レンズが異なる状態間で,繰り返し切り替えられる場合,これは難しくなる。また,前述のように,通常の場合,マクロレンズの使用により,像収差が増大する。この像収差は,利用可能な技術を用いて,複雑かつ高コストで,さらに重厚なレンズシステムによってのみ,補正することができる。
【0008】
このように,マクロレンズでの使用に適し,小型,低コストで,余分な像収差の発生を抑え,正確に制御することの可能な,改善されたレンズに対する要求がある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
従って,本発明では,2つの異なる状態間を,個別に切り替えることの可能なレンズが提供される。各状態は,簡単に異なる光出力を提供する(例えば,第1の状態は,ミクロ状態に対応し,第2の状態は,マクロ状態に対応するなど)。またレンズは,固有の収差補正を提供し,この補正は,2つの状態の各々に対して,個別に調整され,これにより,2つの状態間を切り替えた際の,像収差の発生が抑制あるいは排除される。そのようなレンズには,切り替え可能なマクロレンズのような明らかな用途がある。ただし,本発明によるレンズが適用可能な,同様の機能が要求される他の領域でも使用することができる。
【0011】
このように,本発明のある態様では,
光路を定形し,該光路に沿って配置された少なくとも一つのレンズ面を有するレンズチャンバと,
該レンズチャンバと流体的に連通された貯蔵チャンバであって,前記レンズチャンバとともに,密閉システムを形成する貯蔵チャンバと,
前記両チャンバ内に含まれ,第1の屈折率を有する第1の流体,および前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する第2の流体を有する流体システムであって,さらに,前記流体は,非混和性であり,電場に対して異なる引力を示すところの流体システムと,
電極を有し,静電力によって,第1の個別の状態と第2の個別の状態の間で,前記流体システムを再配置するように作動する流体システムスイッチと,
を有し,
前記第1の個別の状態では,前記第1の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆され,前記第2の個別の状態では,前記第2の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆されるところのレンズが提供される。
【0012】
本発明のこの態様では,静電力によって,2つの個別の状態間を切り替えることが可能なレンズが提供される。流体は,前述のエレクトロウェッティング効果のように,それらの流体を電場に晒すことにより制御される。ただし,レンズ機能は,固体レンズ面と2つの流体の一方との界面に提供される。これは,界面が確実に再現することが可能な形状となる点で有意である。結果的に,制御可能なメニスカスを有する,前述のエレクトロウェッティングレンズの場合のように,レンズパワーは,界面形状の変化によっては制御されなくなる。その代わり,レンズパワーは,異なる屈折率を有する異なる界面媒体(流体)間を切り替えることにより,制御することが可能となる。各々が個別の屈折率を有する,2つの非混和性流体を用いることにより,2つの個別の状態を得ることができる。
【0013】
レンズチャンバおよび貯蔵チャンバは,相互に連通される。通常の場合,実質的に(一つまたは複数の)レンズ面を覆う流体は,レンズチャンバ内で大きな容積を占め,他の流体は,主として,貯蔵チャンバに収容される。従って,個別の状態間の切り替えには,流体を一つのチャンバから他のチャンバに移動することが含まれる。これは,静電力によって行われ,流体は,それらの流体の非混和性のため,常時,互いに分離されている。
【0014】
チャンバおよびそれらのチャンバの流体接続には,多くの異なる構造がある。2つのチャンバ間での流体の移動を容易にするため,チャンバは,通常,2つの溝に相互接続されている。このため,溝の一つは,レンズチャンバからの流体の移動に利用され,他の溝は,レンズチャンバへの他の流体の移動に利用される。しかしながら,チャンバは,一つの溝のみによって,または多数の溝によって相互接続されても良い。あるいは,レンズチャンバおよび貯蔵チャンバは,単一のチャンバの一部を構成しても良い。そのような場合,レンズチャンバは,(一つまたは複数の)レンズ面が配置された位置に存在する。
【0015】
流体の制御性は,流体システムの2つの流体に対する濡れ性が異なる表面の設置によって,改善される。例えば,水とオイルが使用される場合,チャンバの内表面は,テフロン(登録商標)のような撥水剤でコーティングされても良い。この場合,静電力との組み合わせにより,チャンバ間の流体の移動がさらに加速される。従って,エレクトロウェッティング力として広く知られている複合力は,前述の連続的に調整可能なエレクトロウェッティングレンズに利用される力と同様である。このように,ある実施例では,チャンバの密閉システムは,第1および第2の流体に対する濡れ性が異なる内表面を有する。
…(省略)…
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下,添付図面を参照して,本発明の実施例の詳細な説明を示す。
【0029】
図1および2を参照すると,本発明によるレンズ100の一実施例では,レンズ100は,レンズチャンバ101を有し,このレンズチャンバ101は,チャンバ101の2つの開口102,103を介して,2つの開口を有する溝形状の貯蔵チャンバ104に連通されている。レンズチャンバ101の第1の開口102は,貯蔵チャンバ104の第1の開口に連通され,レンズチャンバ101の第2の開口103は,貯蔵チャンバ104の第2の端部に連通されており,これにより,流体システムの流体密封容器が形成される。レンズチャンバ101の片側は,レンズチャンバ101の内部に向かって露出したレンズ面105で覆われている。レンズ面105は,例えばポリカーボネートのような透明材料で構成される。」
(当合議体注:図1及び図2は以下の図である。)
図1:


図2:


ウ 「【0030】
レンズチャンバ101は,さらにカバープレート106によって覆われ,このカバープレートは,例えばポリカーボネートのような透明材料で構成された平坦な部品である。カバープレート106は,撥水性流体接触層107で被覆されており,この層は透明で,例えば,ジュポン社(登録商標)によって製作されたテフロン(登録商標)AF1600(登録商標)である。ある用途では,撥水性流体接触層は,省略しても良く,これにより製作工程が簡略化される。ただし,好適実施例では,撥水性接触層は,レンズ面105に配置された追加の撥水性層によって補完されても良く,この場合,チャンバの濡れ性がさらに変化し,チャンバがより濡れにくくなる。この撥水性流体接触層107の一表面は,レンズチャンバ101の内面に向かって露出している。第1のエレクトロウェッティング電極108は,カバープレート106と親水性流体接触層107(当合議体注:「親水性流体接触層107」は「撥水性流体接触層107」の誤記である。)の間に設置される。
…(省略)…
【0031】
貯蔵チャンバ104は,貯蔵チャンバ壁109とカバープレート110の間に形成される。カバープレート110は,撥水性接触層111によって被覆され,この撥水性接触層111は,貯蔵チャンバ104の内面の一つの表面に対応している。撥水性流体接触層111は,例えばAF1600(登録商標)で構成される。第2のエレクトロウェッティング電極112は,カバープレート110と撥水性流体接触層111の間に設置される。
…(省略)…
【0032】
密閉流体システムは,第1の流体120(無地)と第2の流体121(破線)とを有する。第1の流体120は,例えば塩水のような,屈折率が予め定められた水溶液系の電気導電性流体を有する。第2の流体121は,例えばシリコンオイルのような,オイル系の電気絶縁性流体を有する。
…(省略)…
【0034】
切り替え可能レンズの第1の個別の状態では,図1に示すように,第1の流体120は,レンズチャンバ101と,貯蔵チャンバ104の一部に,実質的に充填される。実質的に充填されるとは,第1の流体120が,少なくともレンズ表面105の大部分と接していることを意味する。また,この状態では,第1の流体120は,少なくとも,チャンバの撥水性接触層107の露出表面の大部分と接触する。
【0035】
必要に応じて,例えば金属からなる共通の第3の電極130が,貯蔵チャンバ内のレンズチャンバの開口102の近傍に設置されても良い。
…(省略)…
【0036】
…(省略)…切り替え可能なレンズの第2の個別の状態では,図2に示すように,第1の流体120が,貯蔵チャンバ104に実質的に充填される。…(省略)…第1の流体120は,貯蔵チャンバ104の撥水性流体接触層111と接触し,第2の流体120は,レンズチャンバ101に実質的に充填される。このように,第2の流体120は,レンズ面105と接触し,レンズチャンバ101の撥水性流体接触層107の露出表面と接する。
…(省略)…
【0038】
レンズの第1の個別の状態では,第1のエレクトロウェッティング電極108と共通の第3の電極130の間に,適切な値の印加電圧V_(1)が印加される。印加電圧V_(1)は,エレクトロウェッティング力を提供し,これにより,本発明の切り替え可能なレンズは,第1の個別の状態を取るようになり,導電性の第1の流体120は,レンズチャンバ101に実質的に充填されるように移動する。印加電圧V_(1)の結果として,レンズチャンバ101の撥水性流体接触層107は,一時的に,少なくとも比較的親水性となり,これにより,第1の流体120は,優先的に,レンズチャンバ101に実質的に充填されるようになる。第1の個別の状態では,第2のエレクトロウェッティング電極112と,共通の第3の電極130の間には,電圧が印加されず,貯蔵チャンバ内の流体接触層では,比較的撥水性の状態が維持される。
…(省略)…
【0040】
切り替え可能レンズの第1の個別の状態と第2の個別の状態間を切り替えるため,流体システムスイッチの電圧制御システムは,印加電圧V_(1)をオフにし,第2のエレクトロウェッティング電極112と,共通の第3の電極130の間に,適切な値の第2の電圧V_(2)を印加する。V_(2)の値は,前述のV_(1)と同様の考えに基づいて選定される。また,第1のエレクトロウェッティング電極108と共通の第3の電極130の間に,電圧が印加されないようにするため,第1のエレクトロウェッティング電極108と共通の第3の電極130の間に印加される電圧V_(1)は,オフにされる。
【0041】
次に,切り替え可能レンズが,第2の個別の状態にある場合,印加電圧V_(2)によって提供されるエレクトロウェッティング力によって,第1の流体120は,貯蔵チャンバ104に実質的に充填される。印加電圧V_(2)では,貯蔵チャンバ104の撥水性流体接触層111は,少なくとも親水性となり,第1の流体120を引き寄せるようになる。共通電極130が設置されている貯蔵チャンバ104の位置は,未だ第1の流体120で充填されていることは明らかである。前述のように,第2の流体121は,レンズチャンバ室101に実質的に充填される。レンズチャンバ101の撥水性流体接触層107は,比較的高撥水性となり,第2の個別の状態における第2の流体のこの配置を助長する。
【0042】
流体システムスイッチによって制御される,レンズの第1および第2の個別の状態間の遷移の間,流体システムの第1および第2の流体120,121は,流体システムを通り循環的に流れ,各流体が相互に置換される。この循環的な流体の流れでは,第1から第2の個別の状態の遷移の間,第1の流体は,レンズチャンバ101を通過し,レンズチャンバ101の一つの開口102を介して,貯蔵チャンバ104の一つの端部に入り,第2の流体121は,レンズチャンバ101の他の開口103を介して,レンズチャンバ101に入る。第2の個別の状態から第1の個別の状態への遷移の間,流体の流れに反対の循環が生じる。
…(省略)…
【0051】
このように,本発明では,個別に調整可能なレンズ100,300,604が提供され,これらのレンズは,静電的な力またはエレクトロウェッティング力によって制御することができる。レンズは,高精度に再現することができ,自由に設計することが可能な2つのレンズ状態を有し,これらの状態は,2つの流体120,121の一方と,少なくとも一つのレンズ面105,155の間の界面によって定められる。静電的な力またはエレクトロウェッティング力による流体の位置の移動によって,レンズ状態間の切り替えが可能となる。」

(5) 引用文献3記載技術
引用文献3の【0011】?【0015】の下線部の記載によると,引用文献3には,次の技術が記載されている(以下「引用文献3記載技術」という。)。
「 光路を定形し,該光路に沿って配置された少なくとも一つのレンズ面を有するレンズチャンバと,
該レンズチャンバと流体的に連通された貯蔵チャンバであって,前記レンズチャンバとともに,密閉システムを形成する貯蔵チャンバと,
前記両チャンバ内に含まれ,第1の屈折率を有する第1の流体,および前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する第2の流体を有する流体システムであって,さらに,前記流体は,非混和性であり,電場に対して異なる引力を示すところの流体システムと,
電極を有し,静電力によって,第1の個別の状態と第2の個別の状態の間で,前記流体システムを再配置するように作動する流体システムスイッチと,
を有し,
前記第1の個別の状態では,前記第1の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆され,前記第2の個別の状態では,前記第2の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆され,
静電力によって,2つの個別の状態間を切り替えることが可能なレンズであって,ここで,
流体は,エレクトロウェッティング効果のように,それらの流体を電場に晒すことにより制御され,ただし,レンズ機能は,固体レンズ面と2つの流体の一方との界面に提供され,これは,界面が確実に再現することが可能な形状となる点で有意であり,
個別の状態間の切り替えには,流体を一つのチャンバから他のチャンバに移動することが含まれ,これは,静電力によって行われ,流体は,それらの流体の非混和性のため,常時,互いに分離され,
2つのチャンバ間での流体の移動を容易にするため,チャンバは,2つの溝に相互接続され,溝の一つは,レンズチャンバからの流体の移動に利用され,他の溝は,レンズチャンバへの他の流体の移動に利用され,
流体の制御性は,流体システムの2つの流体に対する濡れ性が異なる表面の設置によって,改善され,例えば,水とオイルが使用される場合,チャンバの内表面は,テフロンのような撥水剤でコーティングされ,この場合,静電力との組み合わせにより,チャンバ間の流体の移動がさらに加速される,
レンズ。」

2 対比及び判断
(1) 対比
ア 可変焦点眼用装置
引用発明の「眼科用レンズ」は,「ユーザーによって制御される調整装置を用いることにより,マイクロコントローラとインターフェースをとり,それによってレンズの焦点を制御することが可能」である。
そうしてみると,引用発明の「眼科用レンズ」は,可変焦点の機能を具備する,眼用の装置ということができる。
したがって,引用発明の「眼科用レンズ」は,本願発明の「可変焦点眼用装置」ということができる。

イ 前方湾曲光学部,後方湾曲光学部及び空洞
引用発明の「眼科用レンズ」において,「マイクロコントローラによって制御されるレンズは,2つの液体の容積を保持するための液体包含セルを含む液体メニスカスレンズを含」む。
ここで,引用発明の「眼科用レンズ」の「液体メニスカスレンズ」について技術常識を考慮すると,引用発明の「液体メニスカスレンズ」は,「前方湾曲上部光学表面と前方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の前方湾曲光学部と」,「後方湾曲上部光学表面と後方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の後方湾曲光学部と」,「前記可変焦点眼用装置の前記前方湾曲光学部の前記前方湾曲底部光学表面と前記可変焦点眼用装置の前記後方湾曲光学部の前記後方湾曲上部光学表面とによって形成された空洞」を具備する(この点は,引用文献1の図1,図2,図7及びその説明(【0014】,【0015】,【0016】,【0018】及び【0049】)からも確認できる事項である。)。
したがって,引用発明の「眼科用レンズ」は,本願発明の「可変焦点眼用装置」における,「前方湾曲上部光学表面と前方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の前方湾曲光学部と」,「後方湾曲上部光学表面と後方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の後方湾曲光学部と」,「前記可変焦点眼用装置の前記前方湾曲光学部の前記前方湾曲底部光学表面と前記可変焦点眼用装置の前記後方湾曲光学部の前記後方湾曲上部光学表面とによって形成された空洞と」を含む,という要件を満たす。

ウ 第1の流体及び第2の流体
同様に技術常識を考慮すると,引用発明の「液体メニスカスレンズ」は,「第1の屈折率を有する第1の流体及び第2の屈折率を有する第2の流体であって,前記第1の屈折率と前記第2の屈折率が異なり,前記2つの流体が不混和性である,第1の流体及び第2の流体」を具備する(この点は,引用文献1の【0038】の記載からも確認できる事項である。)。
したがって,引用発明の「眼科用レンズ」は,本願発明の「可変焦点眼用装置」における,「第1の屈折率を有する第1の流体及び第2の屈折率を有する第2の流体であって,前記第1の屈折率と前記第2の屈折率が異なり,前記2つの流体が不混和性である,第1の流体及び第2の流体」を含む,という要件を満たす。

エ 誘電性フィルム
さらに,技術常識を考慮すると,液体メニスカスレンズでは,通常,第1の流体及び第2の流体の一方が,導電性液体(例:食塩水)である。そこで,液体メニスカスレンズの電極が短絡する不具合を回避するため,電極を覆う,樹脂からなる絶縁体(誘電体フィルム)を設けている(必要ならば,引用文献2の7頁14?26行,特表2007-526517号公報の【0037】を参照。)。
このような液体メニスカスレンズに関する技術常識を心得た当業者ならば,引用発明の「眼科用レンズ」は,本願発明の「前記第1の流体又は前記第2の流体のうちの1つ又は複数の少なくとも一部と接触し,電界を確立し得る電極を覆う誘電性フィルム」を含む,という要件を満たすものと理解できる。
(当合議体注:なお,仮に,この点が相違点になるとしても,後で述べる引用文献3記載技術と組み合わせてなるものは,やはり,この要件を満たすものとなる。)

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 可変焦点眼用装置であって,
前方湾曲上部光学表面と前方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の前方湾曲光学部と,
後方湾曲上部光学表面と後方湾曲底部光学表面とを含む前記可変焦点眼用装置の後方湾曲光学部と,
前記可変焦点眼用装置の前記前方湾曲光学部の前記前方湾曲底部光学表面と前記可変焦点眼用装置の前記後方湾曲光学部の前記後方湾曲上部光学表面とによって形成された空洞と,
第1の屈折率を有する第1の流体及び第2の屈折率を有する第2の流体であって,前記第1の屈折率と前記第2の屈折率が異なり,前記2つの流体が不混和性である,第1の流体及び第2の流体と,
前記第1の流体又は前記第2の流体のうちの1つ又は複数の少なくとも一部と接触し,電界を確立し得る電極を覆う誘電性フィルムと,を含む,
可変焦点眼用装置。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
本願発明は,「前記第1の流体の体積と同等又は略同等の体積の流体を収容するための1つ又は複数の貯留領域であって,当該1つ又は複数の貯留領域が,前記形成された空洞を,それらの領域と空洞の間にある1つ又は複数の壁で取り囲む,1つまたは複数の貯留領域と」,「前記1つ又は複数の貯留領域と前記空洞との間にあり,前記第1の流体と前記第2の流体の流れを可能にするよう前記1つ又は複数の壁の間を通って通じる1つ又は複数の流路とを含み」,「前記第1の流体が前記空洞を占有すると前記第2の流体が当該空洞から排除されるように,前記空洞と前記1つ又は複数の貯留領域とが構成されている」という構成を具備するのに対して,引用発明は,これとは異なる構成を具備する(液体メニスカスレンズである)点。

(3) 判断
引用発明の「眼科用レンズ」は,液体メニスカスレンズの原理を活用したものであるところ,液体メニスカスレンズは,カメラ用の可変焦点レンズにおける周知技術である(必要ならば,前記1(3)イを参照。)。
そうしてみると,引用発明のような可変焦点の眼科用レンズに携わる者からしてみれば,カメラ用の可変焦点レンズの技術分野を,関連技術分野として心得ていると考えられるところ,引用文献3には,カメラ用2焦点レンズを実施例とし,ただし,カメラ用に限定されない2焦点レンズが開示されている(前記1(5)参照。)。
引用文献3記載技術は,「余分な像収差の発生を抑え,正確に制御することの可能な,改善されたレンズに対する要求」(【0008】)に応えることを目的としたものである。したがって,引用発明において,例えば,遠近両用の眼科用レンズを得ることを目的として引用文献3記載技術を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。また,引用発明の眼科用レンズの構成を前提にして引用文献3記載技術を採用する場合に,その貯蔵チャンバを視覚ゾーン(眼科用レンズとしての機能を果たす光学中心領域)の周辺領域に配することは,眼科用レンズの機能を損ねないようにするために,当業者が最も自然に選択するレイアウトと考えられる。
また,本件出願の明細書の【0004】の記載からみて,本願発明の効果は,「レンズの光学効果を個別に変更し得る可変的視覚部分を有する眼用レンズ」を得ることと考えられるところ,このような効果は,引用発明が奏する効果であり,あるいは,引用発明と引用文献3記載技術を組み合わせようとする当業者が期待する効果である。

したがって,引用文献3記載技術を心得た当業者が,引用発明において引用文献3記載技術を採用し,相違点に係る本願発明の構成に到ることは,容易に発明できたものである。


念のため,引用発明の眼科用レンズの構成において,引用文献3記載技術を採用すると,どのような構成に到るかを確認する。
(ア)引用文献3記載技術の「レンズチャンバ」は,「光路を定形し,該光路に沿って配置された少なくとも一つのレンズ面を有するレンズチャンバ」である。すなわち,引用文献3記載技術の「レンズチャンバ」は,レンズとしての光学的な機能を果たす最も適切な位置に配置すべきものである。
したがって,引用発明において引用文献3記載技術の「レンズチャンバ」の構成を採用するに際しては,これを,引用発明の「液体メニスカスレンズ部分」に替えて,「媒体挿入物上の視覚ゾーン内に位置する」ように配置するのが最も適切である。

(イ)引用文献3記載技術の「貯蔵チャンバ」は,「該レンズチャンバと流体的に連通された貯蔵チャンバであって,前記レンズチャンバとともに,密閉システムを形成する貯蔵チャンバ」である。すなわち,引用文献3記載技術の「貯蔵チャンバ」は,「レンズチャンバと流体的に連通された」ものであるから,「レンズチャンバ」に接して配置する必要がある。ただし,引用文献3記載技術の「貯蔵チャンバ」は,レンズとしての光学的な機能を果たすものではないから,引用発明の「眼科用レンズ」の「視覚ゾーン」(光学中心領域)に配置することは不適切である。
そうしてみると,引用発明において引用文献3記載技術の「貯蔵チャンバ」の構成を採用するに際しては,これを,引用発明の「マイクロコントローラ及びその他の装置」と同様に,液体メニスカスレンズを取り囲むようなチャンバ形状で配置するのが最も適切といえる(この場合,「レンズチャンバ」は,必然的に,「レンズチャンバ」と「貯留チャンバ」を「チャンバ」として隔てるための壁によって,取り囲まれることになる。)。

ここで,引用文献3記載技術は,「前記第1の個別の状態では,前記第1の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆され,前記第2の個別の状態では,前記第2の流体によって,前記少なくとも一つのレンズ面が実質的に被覆され」という構成,及び「個別の状態間の切り替えには,流体を一つのチャンバから他のチャンバに移動することが含まれ」という構成を具備する。そうしてみると,引用文献3記載技術の「貯蔵チャンバ」の体積は,「第1の流体」の体積と同等又は略同等ということができ,この構成は,引用発明において引用文献3記載技術を採用する場合においても維持する必要がある。
加えて,引用文献3記載技術が具備する,「2つのチャンバ間での流体の移動を容易にするため,チャンバは,2つの溝に相互接続され,溝の一つは,レンズチャンバからの流体の移動に利用され,他の溝は,レンズチャンバへの他の流体の移動に利用され」という構成についても,引き続き維持する必要があるといえる。

以上勘案すると,引用発明において,引用文献3記載技術を採用してなる「貯蔵チャンバ」は,第1の流体の体積と同等又は略同等の体積の流体を収容するためのものであって,貯蔵チャンバが,レンズチャンバを,貯蔵チャンバとレンズチャンバの間にある壁で取り囲むものとなる。したがって,この「貯蔵チャンバ」は,相違点に係る本願発明の,「貯留領域」の「前記第1の流体の体積と同等又は略同等の体積の流体を収容するための1つ又は複数の貯留領域であって,当該1つ又は複数の貯留領域が,前記形成された空洞を,それらの領域と空洞の間にある1つ又は複数の壁で取り囲む,1つまたは複数の貯留領域」という要件を満たすものとなる。
また,引用発明において,引用文献3記載技術を採用してなる「溝」は,貯蔵チャンバとレンズチャンバとの間にあり,第1の流体と第2の流体の流れを可能とするよう,貯蔵チャンバとレンズチャンバの間にある壁を通って通じる2つの流路となる。したがって,この「溝」は,相違点に係る本願発明の,「流路」の「前記1つ又は複数の貯留領域と前記空洞との間にあり,前記第1の流体と前記第2の流体の流れを可能にするよう前記1つ又は複数の壁の間を通って通じる1つ又は複数の流路」という要件を満たすものとなる。
そして,引用発明において,引用文献3記載技術を採用してなる「レンズチャンバ」及び「貯蔵チャンバ」は,第1の流体がレンズチャンバを占有すると第2の流体がレンズチャンバから排除されるように,レンズチャンバと貯蔵チャンバが構成されることとなる。したがって,この「レンズチャンバ」及び「貯蔵チャンバ」は,相違点に係る本願発明の「前記第1の流体が前記空洞を占有すると前記第2の流体が当該空洞から排除されるように,前記空洞と前記1つ又は複数の貯留領域とが構成されている」という要件を満たすものとなる。

なお,以上のように引用発明において引用文献3記載技術を採用した場合においても,前記(2)アで一致点とした構成(前方湾曲光学部,後方湾曲光学部,空洞,第1の流体,第2の流体及び誘電性フィルムの構成)については,これを敢えて削除する必要はない(一致点であり続ける。)。あるいは,引用発明は,引用文献1の図2及び図7から看取されるような形状を引き続き維持すべきものであるから,前記(2)アで一致点とした構成のうち,前方湾曲光学部,後方湾曲光学部及び空洞の構成は,引き続き具備すべきものと理解される。また,前記(2)アで一致点とした構成のうち,第1の流体,第2の流体及び誘電性フィルムの構成については,引用文献3記載技術も具備する構成でもあるから,やはり,引き続き具備すべきものと理解される。

(ウ)したがって,本願発明は,引用文献3記載技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて,容易に発明できたものである。

(4) 審判請求人の主張について
審判請求人は,概略,引用文献3記載技術は,カメラレンズ等に関するものであって眼用レンズに向けたものではなく,また,図面に示された嵩張った構造そのものが,眼用には不適切であることを示していると主張する。
確かに,引用文献3には,眼用レンズに関する記載はない。また,普通の眼用レンズ(現在市販されている普通のコンタクトレンズ)の当業者が,引用文献3記載技術を心得ているとも言い難い。
しかしながら,引用発明の「眼用レンズ」は,普通の眼用レンズではなく,液体メニスカスレンズの原理を活用したものである。そうしてみると,前記(3)で述べたとおり,引用発明の「眼用レンズ」の当業者ならば,液体メニスカスレンズに関する先行技術が存在するカメラ用の可変焦点レンズの技術分野に属する,引用文献3記載技術も心得ているといえる。
そして,引用文献3の【0010】には,「本発明によるレンズが適用可能な,同様の機能が要求される他の領域でも使用することができる。」と記載されている。また,「十分に長期にわたって,メニスカスの形状を正確に制御し,維持することは難しく」(【0007】)という問題や,「余分な像収差の発生を抑え,正確に制御することの可能な,改善されたレンズに対する要求」(【0008】)が,引用発明の「眼科用レンズ」においても内在することは明らかである。
そうしてみると,引用発明の「眼科用レンズ」の当業者が,例えば,余分な像収差の発生を抑え,正確に制御することの可能な,改善された眼科用レンズを得ることを目的として,引用発明において引用文献3記載技術を採用することには,十分な動機付けがあるといえる。
また,引用発明は「眼科用レンズ」であるから,引用発明において引用文献3記載技術を採用するに際しては,引用文献1の図2及び図7から看取されるような「眼科用レンズ」に適した形状の範囲内で,両者を組み合わせるのが相当である(この点は,引用文献2において,図1A及び図1Bに示される先行技術の円柱形液体メニスカスレンズの形状が,図2及び図3のように変更されていることからみても,明らかである。)。あるいは,引用文献3の図1及び図2に示された形状は,実施例のものにすぎない。引用文献3記載技術のレンズの形状は,「レンズチャンバ」と,レンズチャンバと流体的に連通された「貯留チャンバ」を構成しうる範囲内で,任意であることは,その動作原理からみて明らかであるともいえる。
したがって,請求人の主張は採用できない。

3 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献3記載技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-14 
結審通知日 2018-09-18 
審決日 2018-10-03 
出願番号 特願2015-520505(P2015-520505)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
川村 大輔
発明の名称 可変焦点電気活性型眼用レンズ  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  
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