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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1349169
審判番号 不服2018-934  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-24 
確定日 2019-02-13 
事件の表示 特願2016-85069「微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料が供給されるエンジンを運転する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月1日出願公開、特開2016-200149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)3月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年(平成23年)3月17日(FR)フランス共和国)を国際出願日とする特願2013-558434号の一部を平成28年4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月3日付け(発送日:平成29年2月14日)で特許法第50条の2の通知を伴う拒絶の理由が通知され、その指定期間内の平成29年8月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年9月22日付け(発送日:平成29年9月26日)で決定をもって平成29年8月10日付けにされた手続補正が却下されるとともに同日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年1月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年1月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
触媒微粒子フィルタを備える排気システムが装備された車両の内燃機関を運転する方法であって、前記機関に、前記微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料が供給される方法において、前記燃料における前記触媒の濃度が不連続に変化することを特徴とする方法。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
触媒微粒子フィルタを備える排気システムが装備された車両の内燃機関を運転する方法であって、酸化触媒が微粒子フィルタの壁の孔に導入されており、前記機関に、前記微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料が供給される方法において、
前記燃料における前記触媒の濃度が不連続に変化し、
ある分量の燃料添加触媒を手動で車両燃料タンクに添加する、あるいは、定量の燃料添加触媒を定期的な間隔で車両燃料タンクに定量ポンプで注入することを特徴とする方法。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「触媒微粒子フィルタ」について「酸化触媒が微粒子フィルタの壁の孔に導入されており」との限定を付加し、さらに「微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料」について「ある分量の燃料添加触媒を手動で車両燃料タンクに添加する、あるいは、定量の燃料添加触媒を定期的な間隔で車両燃料タンクに定量ポンプで注入する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開2010/150040号(以下、「引用文献1」という。)には、「SYNERGISTIC DETERGENT AND ACTIVE METAL COMPOUND COMBINATION(相乗性の洗剤と活性金属化合物との組合せ物)」に関して以下の記載がある。
(括弧内の訳文は、引用文献1のパテントファミリーである特表2012-530840号公報の記載を参考にして当審が作成したものである。なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(ア) ”[0001] The compositions of the present invention relate to a detergent composition comprising a quaternary ammonium salt detergent and optionally an oxygen-containing detergent in combination with an active metal containing compound, such as a fuel catalyst and/or an exhaust trap additive. These compositions may be used in fuels and provide improved engine performance when such fuels are used, specifically by reducing fuel injector fouling in the engine and/or by improving the regeneration of the particulate exhaust trap.”(段落[0001])
([0001] 本発明は、第4級アンモニウム塩洗剤及び随意としての酸素含有洗剤を、活性金属含有化合物、例えば燃料触媒及び/又は排気ガストラップ用添加剤等との組合せとして含む洗剤組成物に関する。これらの組成物は、燃料中に用いることができ、この燃料を用いた時に、特にエンジン中の燃料インジェクターの汚染を減らし且つ/又は粒状排気ガストラップの再生を向上させることによって、改善されたエンジン性能を提供することができる。)

(イ) ”[0004] Metals may be introduced into fuels from various sources including contact with metal components in the fuel distribution system, contamination, and by other means. One example of the presence of a metal in a fuel is through the deliberate addition to the fuel of a metal catalyst. Such catalysts can aid in Diesel Particulate Filter (DPF) regeneration and so are desirable, although the deposits they may promote are not. DPFs are often used on the exhausts of diesel vehicles to filter out soot from the exhaust gas. The filter quickly becomes filled with soot, and requires regular cleaning. This is done by raising the exhaust temperature to cause the soot on the filter to burn off. This process is facilitated by adding a metal catalyst to the diesel fuel. The catalyst becomes incorporated in the soot, and allows the soot to be burnt at lower temperatures. The kinetics of the combustion is also im-proved. A preferred method of delivering such catalysts is by continuously dosing a metal-containing additive into the fuel from an on-board container. The additive then passes through the engine and into the exhaust system where it comes into contact with the DPF and the soot on the DPF. Unfortu-nately, such metal-containing additives can promote engine deposit formation, leading to higher levels of injector fouling in the engine.”(段落[0004])
([0004] 金属は、燃料分配システム中の金属部品との接触、汚れ混入他を含む様々な原因で燃料中に入り込むことがある。燃料中の金属の存在の1つの例は、故意に燃料に金属触媒を添加することによるものである。かかる触媒は、ディーゼル粒状フィルター(DPF)再生を助成し、従って望ましいものであるのが、それらが促進するかも知れない付着物は望ましくないものである。DPFは、ディーゼル輸送機関の排気ガスからすすを取り除くために、排気装置にしばしば用いられている。そのフィルターはすぐにすすでいっぱいになり、定期的な掃除が必要である。これは、排気ガスの温度を上げてフィルター上のすすを燃焼させることによって行われる。このプロセスは、金属触媒をディーゼル燃料に加えることによって促進される。この触媒はすす中に入り込み、低温においてすすを燃焼させる。燃焼速度も改善される。かかる触媒の好ましい送出方法は、金属含有添加剤を搭載容器から燃料中に連続的に定量供給することによるものである。この添加剤は次いでエンジン内を通り、排気装置中に入って、DPF及びDPF上のすすと接触する。残念ながら、このような金属含有添加剤は、エンジン付着物の形成を促進して、エンジン中でより高レベルのインジェクターの汚染をもたらすことがある。)

(ウ) ”[0090] The compositions of the present invention comprise a metal- containing fuel catalyst.
[0091] This metal-containing fuel catalyst is in the form of a colloidal dispersion, comprising: an organic phase; particles of an iron compound in its amorphous form; and at least one amphiphilic agent.”(段落[0090]及び[0091])
([0090] 本発明の組成物は、金属含有燃料触媒を含む。
[0091] この金属含有燃料触媒は、有機相と非晶質形態の鉄化合物の粒子と少なくとも1種の両親媒性物質とを含むコロイド分散体の形にある。)

(エ) ”[0097] The particles of the dispersion of the invention are particles of an iron compound the composition of which essentially corresponds to an iron oxide and/or hydroxide and/or oxyhydroxide. The iron is generally essentially present in oxidation state 3. The particles also contain a complexing agent. The complexing agent corresponds to that which is used in the process for preparing the dispersion either as such or in the form of an iron complex.”(段落[0097])
([0097] 本発明の分散体の粒子は鉄化合物の粒子であり、その組成は本質的に鉄酸化物及び/又は水酸化物及び/又はオキシ水酸化物に本質的に相当する。鉄は本質的に酸化状態3で存在するのが一般的である。この粒子はまた、錯化剤をも含有する。錯化剤は、そのままで又は鉄錯体の形で分散体を調製するための方法に用いられるものに相当する。)

(オ) ”[0165] In one embodiment the composition of the invention comprising (a) the detergent composition and (b) the active metal compound is combined with the fuel by direct addition and the fuel is used to operate an engine equipped with an exhaust system particulate trap. The fuel containing the composition of the invention may be contained in a fuel tank, transmitted to the engine where it is burned, and the metal compound reduces the ignition temperature of particles collected in the DPF. In another embodiment, the foregoing operational procedure is used except that the composition of the invention is maintained on board the apparatus being powered by the engine (e.g., automobile, bus, truck, etc.) in a separate composition dispenser apart from the fuel. In such embodiments the composition is combined or blended with the fuel during the operation of the engine. Other techniques comprise adding the composition of the invention to the fuel and/or fuel tank at fuel depots prior to filling the tank of the powered vehicle.”(段落[0165])
([0165] 1つに実施形態において、(a)洗剤組成物と(b)活性金属化合物とを含む本発明の組成物は、直接添加によって燃料と一緒にされ、この燃料は排気ガスシステム粒状トラップを備えたエンジンを運転するために用いられる。本発明の組成物を含有する燃料は、燃料タンク中に入れられ、エンジンに送出されてそこで燃焼し、金属化合物はDPF中に採集された粒子の発火温度を低下させる。別の実施形態においては、本発明の組成物を搭載しておき、燃料とは別に別個の組成物ディスペンサーにおいてエンジン(例えば自動車、バス、トラック等)によって装置を始動させる。かかる実施形態においては、エンジン運転中に組成物が燃料と一緒にされ又はブレンドされる。その他の技術は、本発明の組成物を動力車のタンクに入れる前に燃料貯蔵所の燃料及び/又は燃料タンクに加えることから成る。)

(カ) ”[0166] The composition of the invention may be added to the fuel in a quantity such as the amount of iron is comprised between 1 ppm and 50 ppm, more particularly between 2 ppm and 20 ppm, this quantity being expressed by weight of iron element with respect to the fuel weight.”(段落[0166])
([0166] 本発明の組成物は、燃料の重量に対する鉄原子の重量で表した鉄の量が1ppm?50ppmの範囲、より特定的には2ppm?20ppmの範囲と成るような量で、燃料に加えることができる。)

(キ) ”[0167] Where the invention is used as a liquid fuel composition for an internal combustion engine suitable internal combustion engines include spark ignition and compression ignition engines; 2-stroke or 4-stroke cycles; liquid fuel supplied via direct injection, indirect injection, port injection and carburetor; common rail and unit injector systems; light (e.g. passenger car) and heavy duty (e.g. commercial truck) engines; and engines fuelled with hydrocarbon and non-hydrocarbon fuels and mixtures thereof. The engines may be part of integrated emissions systems incorporating such elements as; EGR systems; aftertreatment including three-way catalyst, oxidation catalyst, NOx absorbers and catalysts, catalyzed and non-catalyzed particu- late traps; variable valve timing; and injection timing and rate shaping.”(段落[0167])
([0167] 本発明を内燃エンジン用の液体燃料組成物として用いる場合、好適な内燃エンジンには、火花点火エンジン及び圧縮点火エンジン;2サイクル又は4サイクル;直接噴射、間接噴射、ポート噴射及びキャブレーターによって供給される液体燃料;コモンレール及びユニットインジェクターシステム;ライトエンジン(例えば乗用車)及びヘビーデューティーエンジン(例えば商用トラック);並びに炭化水素及び非炭化水素及びそれらの混合物を燃料とするエンジンが包含される。このエンジンは、EGRシステム;後処理含有スリーウェイ触媒、酸化触媒、NOX吸収剤及び触媒、触媒入り又は触媒なし粒状トラップ;可変弁開閉;並びに噴射タイミング及び速度シェーピングのような部品・成分・要素等を組み込んだ統合エミッションシステムの一部であることができる。)

(ク) 上記(オ)及び(キ)から、エンジンは、自動車、バス、トラック等の車両のエンジンであることが分かる。

(ケ) 上記(キ)の記載から、「本発明を内燃エンジン用の液体燃料組成物として用いる場合、好適な内燃エンジンは、触媒入り又は触媒なし粒状トラップのような部品・成分・要素等を組み込んだ統合エミッションシステムの一部であることができる。」ことが分かる。すなわち、内燃エンジン用の液体燃料組成物を用いる場合に、エンジンの排気ガストラップとして、触媒入り粒状トラップを用いることが分かる。

(コ) 上記(オ)から、金属含有燃料触媒は、車両の燃料タンクに入れる前に燃料貯蔵所の燃料及び/又は燃料タンクに加えられるものであることが分かる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「触媒入り粒状トラップを備える排気装置が装備された車両のエンジンを運転する方法であって、エンジンに、触媒入り粒状トラップのすすを燃焼するための金属含有燃料触媒を含む燃料が送出される方法において、
金属含有燃料触媒は、車両の燃料タンクに入れる前に燃料貯蔵所の燃料及び/又は燃料タンクに加える方法。」

イ 引用文献2
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2004-526902号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「燃料添加剤を燃料に投入する方法」に関して図面(特に図9を参照。)とともに以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料添加剤を燃料に投入する方法であって、
(i)燃料コンテナから投入装置経由で燃料を送ること、
(ii)該投入装置経由で送られる燃料に基づく量の添加剤を、燃料中の添加剤の濃度とは無関係に該燃料に投入すること、
(iii)該燃料の一部分(「戻し部分」)を該コンテナに戻すことを特徴とする燃料添加剤を燃料に投入する方法。
【請求項2】
投入装置を経由する燃料の瞬間流量に正比例して、添加剤を燃料に添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
投入装置経由で送られる燃料の経時的平均流量に基づいて、添加剤を燃料に添加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
燃料がディーゼルであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項5】
燃料添加剤が、ディーゼル微粒子除去装置の再生に触媒作用を及ぼせることを特徴とする請求項1?4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
燃料添加剤が、金属であること又は金属を含むことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
金属が、鉄、ストロンチウム、カルシウム、セリウム、ナトリウム、白金、銅、マンガン、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
金属が、鉄であることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
燃料添加剤が、燃料に溶解可能であることを特徴とする請求項5?8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
コンテナに戻さない部分の燃料が、燃焼室に送られることを特徴とする請求項1?9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
コンテナに戻す部分の燃料が、投入装置経由で送られる燃料の少なくとも80%であることを特徴とする請求項1?10のいずれか記載の方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項11】)

(イ) 「【請求項20】
投入装置が、投入装置経由で送られる燃料と流体連通している、添加剤コンテナ内に配置された液体添加剤を含むことを特徴とする請求項1?12のいずれか記載の方法。
【請求項21】
液体添加剤が、投入装置経由で送られる燃料に、電磁気装置によって投入されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
制御された頻度で添加剤を投入するために、電磁気装置が電気回路によって制御されていることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
電気回路が、燃料の流量に比例して、制御された頻度で添加剤を投入することを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
電気回路が、燃料の流量とは無関係に一定のレベルにて、制御された頻度で添加剤を投入することを特徴とする請求項22記載の方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項20】ないし【請求項24】)

(ウ)「【0034】
投入装置経由で送られる燃料に基づいた量の添加剤が(燃料中の添加剤の濃度とは無関係に)投入される単純な投入システムを応用するのは、燃料の一部分が燃料タンクに戻るディーゼルエンジンや改良型ガソリンエンジンでは実現不可能だと以前は思われていた。燃料が戻ることにより、添加剤と燃料との比率が多少変動する。これは、「ワンススルー」を応用する際には見られないものである。燃料への投入は燃料が投入装置を通過するたびに行われるため、燃料が戻るということは、燃料が確実に多数回にわたって添加剤投入を受けるということである。しかし、驚いたことに本発明者らは、DPF搭載車両に典型的に使用される燃料投入返送システムにおいて単純な投入装置を使用できるようにするいくつかの重要な因子があることを見い出した。【0035】
本発明者らは、添加剤と燃料との比率は小さな変動であり、DPFの応用において、戻ってくる流量の比率が変化したことによって生じる触媒とススとの比率の変動を、車両タンク内の燃料レベルの低下によって生じる添加剤と燃料との比率の変動によって無視できることを見い出した。燃料補給の直後、燃料中の添加剤の濃度は非常に低くなる。これは、必要とされる平均投入レベルよりも低いレベル(一般的には、必要とされる平均投入レベルの10?15%)で投入するように投入装置を設定していることに起因する。タンクのレベルが低下するにつれ、燃料の反復的な投入により添加剤の濃度が次第に増大する。
【0036】
タンクがほぼ空になると、タンクが満杯の場合と比較して、燃料中の添加剤のレベルは非常に高いレベル(一般的には、最初の投入レベルの50?100倍)に達する。図3は、本件の投入装置をハイリターンフロー燃料設備において使用することによって生じる添加剤濃度のパターンを示す。燃料補給後の最初の燃料供給では、有効添加剤含量は低い(ppm金属)が、燃料が消費されるにつれて有効含量が急激に増大する。この増大は、有効含量が非常に高くなる燃料補給直前まで続く。
【0037】
この投入パターンの実際の作用は、図1及びSAEの文献番号2000-01-0473の図9に記載されたタイプのシステムに関しては、添加剤処理速度が一定ではないため、不利なものであると思われていた。しかし、多くのシステムにおいて、本発明者らはこれが利点であることを見い出した。例えば、DPFシステムにおいては、エンジンに由来しDPF中に蓄積するススに含まれる触媒レベル、すなわち、触媒とススとの比率は、当初は低いものの、その後付着したススでは、触媒とススとの比率がどんどん高くなっていく。しかし、燃料タンクが満杯の状態では、触媒とススとの比率の平均値は、複雑な投入システムで生じるもの、例えば、平均20ppmという触媒燃料処理速度によって提供されるものと同等となる。
【0038】
タンクがほぼ空になっている状態で比較的少量の燃料を消費している間、燃料補給の直前に、非常に高い有効投入速度が実現する。これはまったく不利なものではなく、再生が生じるという点で、とりわけ都市での操作の場合に有意な利点をもつ。経時的な平均添加剤処理速度は、例えば20ppm金属という有効処理速度のように、望ましい速度又はそれに近い速度を維持しているため、DPF中に蓄積した灰に関して、複雑な投入システムの場合と比べて有意な差はない。
【0039】
タンク内の燃料レベルが低い場合、単純な投入装置により、触媒とススとの全体的比率が平均値前後のDPF中でススが生じるのは、比較的短い時間であり、これによって、FBCの触媒活性が増大する。そのため、再生には都市での操作という難問が伴う可能性が高く、排気温度が低いとススの焼却が難しくなるのは周知である。このように、本投入装置は、電子管理システムを利用した費用のかかる複雑なバッチ投入システムに対し、操作上の大きな利点を有している。
【0040】
本発明のシステムを用いたDPFの再生性能は、本発明の投入装置が有する特徴によりさらに向上すると思われる。タンク内燃料レベルの変化に伴って燃料中の添加剤濃度が変化するのは一見欠点だと思われるが、燃料燃焼触媒を使用したときの特徴である、DPF中のスス貯蔵、その後の定期的な燃焼又は再生という特徴を考えれば、実際に操作上の利点となりうる。
【0041】
本発明者らは、当該技術における教示とは逆に、本発明のシステムを用いて投入した燃料中の燃料添加剤の濃度変化は、関連する使用期間中の燃料添加剤の平均濃度に実質的に影響しないことを見い出した。例えば、DPF再生触媒の投入に使用する場合では、車両に搭載されたDPFで再生を補助するために燃料添加剤を使用するものは、バッチプロセス装置と見なされるべきである。Johnson Matthey連続再生トラップ(CRT)は、気相触媒二酸化窒素に依存してDPF内のスス粒子を酸化しており、基本的に、通常操作ではDPF中にススは蓄積しない。しかし、燃料燃焼触媒(FBC)は、燃焼によるススの内部に深く入りこんで作用する。このススは、温度条件又は圧力条件によってススの焼却が助長されるまで、DPFに蓄積する。これは、ベッドエンジンテスト及び車両テストの両方で示されている。SAEの文献982654には、DPFベッドエンジンテストにおいて、ススがまず蓄積し、その後燃焼する際の、排出システム圧力の標準的な上昇及び下降が示されている。一方、SAEの文献番号2000-01-2849は、DPFを搭載したテスト車両での同じプロセスを示している。これらを図4及び5にそれぞれ示す。」(段落【0034】ないし【0041】)

(エ) 「【0047】
添加剤
好ましくは、燃料添加剤は、ディーゼル微粒子除去装置の再生に触媒作用を及ぼすことができる。
【0048】
好ましくは、燃料添加剤は金属であるか、金属を含んでいる。好ましくは、金属は、鉄、ストロンチウム、カルシウム、セリウム、ナトリウム、白金、銅、マンガン、及びそれらの混合物から選択される。より好ましくは、金属は鉄である。」(段落【0047】及び【0048】)

(オ) 「【0056】
投入装置
一つの態様においては、投入装置には、SATAcenR鉄有機金属添加剤のペレットなどの固形燃料可溶性添加剤を内包し、下端に開口部を備え、その開口部によってパイプラインを流れる燃料が添加剤と接触するような添加剤コンテナが配置されている。かかる配置を図2に示す。添加剤を燃料に溶解するこの手段は、DE4332933C2に記載されている。
【0057】
別の態様においては、該投入装置は、液体燃料可溶性添加剤を内包する添加剤コンテナであって、添加剤を計測し、該装置を経由して流れる燃料に基づいて添加剤を燃料へ添加する電気機械的装置に接続している添加剤コンテナを含むものである。好ましくは、かかる電気機械的装置は、燃料に混合する添加剤の量を制御し、該装置を通して流れる燃料に対して所望の比率で混合するようにする、電気を動力とするソレノイドである。好ましくは、かかるソレノイド装置は、波形又はシグナルを発する電気回路により制御される頻度の一連のパルスを操作するように配置される。このようにして、燃料へと向かう添加剤の流量は、該装置を経由して流れる燃料に基づいて制御される。ソレノイド装置からの流出物が、適切な流体連通(fluid communication)手段によりエンジンに送られる燃料と混合するような配置がなされている。
【0058】
一つの態様においては、該投入装置は、該投入装置経由で送られる燃料と流体連通している(in fluid communication with)添加剤コンテナに装備された液体添加剤を包んでいる。かかる液体添加剤は、電磁気装置によって、該投入装置経由で送られる燃料に投入される場合がある。かかる電磁気装置は、制御された頻度で添加剤を投入する電気回路により制御される場合がある。かかる電気回路は、燃料の流量に比例して制御された頻度で添加剤を投入する場合がある。かかる電気回路は、燃料の流量とは無関係の一定のレベルで制御された頻度で添加剤を投入する場合がある。一つの態様においては、かかる電磁気装置はソレノイドである。
【0059】
別の態様においては、該投入装置は、該投入装置経由で送られる燃料と流体連通している添加剤コンテナ内に装備された固形燃料可溶性添加剤を包んでいる。該投入装置経由で送られる燃料は、電磁気装置によって制御される場合がある。かかる電磁気装置は、該投入装置を経由する燃料の流量を制御するための電気回路により制御される場合がある。かかる電気回路は、コンテナからの燃料の流量に比例して、該投入装置を経由する燃料の流量を制御する場合がある。かかる電気回路は、コンテナへ戻る燃料の流量に比例して、該投入装置を経由する燃料の流量を制御する場合がある。かかる電気回路は、コンテナへの又はコンテナからの燃料の流量とは無関係に、該投入装置を経由する燃料の流量を制御する場合がある。一つの態様においては、かかる電磁気装置はソレノイドである。」(段落【0056】ないし【0059】)

(カ) 「【0064】
単純な添加剤投入装置を、テストベッドに載せた1.9リットルのプジョーディーゼルエンジンXUD9型とともに用いた。テストエンジンの排気システムには、ベッドエンジンから発生するスス粒子を捕らえるディーゼル微粒子除去装置(DPF)を装備した。テスト中に使用データを作成するため、ベッドエンジンの排気管には圧力変換機を装備し、DPFの上流及び下流には熱電対を装備した。荷重吸収装置又は動力計が稼動するようにベッドエンジンを配置し、エンジンテスト関係者には周知のコンピュータ制御システムを該ベッドエンジンに装備した。こうした装備の結果、エンジンを制御して所望のスピード条件及び荷重条件で長期にわたって操作できるようになり、手動操作を介入させる必要はなくなった。
【0065】
ベッドエンジン用燃料を、容量50リットルのタンク内から供給管中へ送った。該タンクから供給された燃料が、ディーゼルエンジンの噴射ポンプに入る前に投入装置を経由するようにした。該投入装置は、添加剤貯蔵タンク、電気機械的噴射ユニット、電気パルス発生器及び装置類の連結に必要な配管などから構成されていた。該投入装置による燃料処理は、一定比率の添加剤を使用し、DPFの再生に必要な目的とする平均処理速度の約10%から15%の範囲内の処理速度で行われた。
【0066】
一般的には、DPFの再生に必要な処理速度は、5?30mg(鉄)/kg(燃料)の範囲内であり、好ましい処理速度は一般的に、20mg(鉄)/kg(燃料)である。投入装置は、エンジン噴射ポンプによって送り出された燃料の一般的には80%?95%がタンクに戻ったときに、1.5mg(鉄)/kgという処理速度を達成した。したがって、ベッドエンジン燃料の大半は、最終的にベッドエンジンにより消費される前に何度も投入装置を経由したことになる。投入装置を経由するたびに有効な添加剤処理速度が増し、これにより燃料中の鉄含有量が増大した。
【0067】
金属添加剤を含む燃料を燃焼させると、当業者には周知のように、燃焼プロセスで発生したススに金属化合物、一般的に金属酸化物が取りこまれる。その結果、好適な鉄系有機金属添加剤を燃料への投入に使用する場合、DPF中に存在するススの鉄含有量は、燃料に添加剤を何度も投入するにつれて増大した。エンジンへの供給に使用したタンク内燃料のレベルが低下するにしたがい、燃料中の金属含有量は図3に示したものと同様に増大した。このように、燃料供給タンク内の燃料レベルが低下するにつれてDPFに付着したスス中の金属含有量は増大した。」(段落【0064】ないし【0067】)

(キ) 「【0070】
DPF装着排気管を備えたテストベッドエンジンを、鉄系有機金属添加剤で処理した燃料で操作すると、図4に示したものと類似した圧力と温度のパターンが現れた。好適な鉄系有機金属添加剤は、電気機械的ソレノイドにより操作され、エンジンへの燃料流量とは無関係な一定の投入速度で動いている投入システムを用いて、前述の方式で燃料に添加された。未燃焼燃料はエンジン噴射ポンプから燃料貯蔵タンクへ戻され、結果的に、上述のとおり、何度も燃料に添加剤が投入された。また、エンジンへの供給を行う貯蔵タンク中に残った燃料中の鉄濃度は、タンク中の燃料レベルが低下するにつれて増大した。
【0071】
経時的な燃料添加剤濃度が非線形となるように添加剤を投入したにもかかわらず、テストで現れたのは古典的なススの蓄積と焼却のパターンだった。単純な投入装置を使用することにより、結果的に、効果的なススの焼却すなわちDPFの再生が行われたとはいえ、均一に投入される燃料として許容される要件である、事前に決定した一定量の金属が燃料中に含まれるという状態とはかけ離れた状態が生じたのは明らかである。エンジン操作は、排気温度の低い、かなりの低速及び低荷重という条件で、及び、それよりも排気温度の高い、かなりの高速及び高荷重という条件で行われた。エンジンの燃料要求量に違いがあるにもかかわらず、どちらのエンジン操作条件においても、投入装置はソレノイドの操作頻度により決定した同一の定値条件で稼動した。
【0072】
エンジン操作で現れたトレースを図示し、再生プロセスを説明する。エンジンに供給される燃料中の実際の瞬間的添加剤含有量、及び何度も燃料補給を受けた燃料中の添加剤の平均レベルに関する計算結果も、説明のために図に入れておく。
【0073】
燃料中の金属に対する正確で一定した比率が経時的に維持されている事前処理済燃料を用いたエンジン操作で現れたトレース、及びDPFに生じた再生も、比較のために示す。事前処理済燃料中の添加剤処理レベルが低下すると、排気背圧の上昇がDPF中で観察される。これに対し、燃料中で事前処理される添加剤のレベルが高くなると、排気背圧は低くなる。図6の上部のトレースは、燃料中に10mg/kg及び20mg/kgの金属を含有する事前処理済燃料の排気背圧トレースを示すものである。単純な投入バルブを使用し、タンク内の燃料レベルが下がるにつれて燃料添加剤レベルが上がる場合は、DPF中の排気背圧は、燃料中の事前処理済金属が20mg/kgの場合に得られるレベルに近づくまで経時的に下がることがわかる。下部のトレースは、投入装置を使用して生じた、燃料中の経時的な金属濃度変化を算出して示したものである。」〈段落【0070】ないし【0073】)

(ク) 「【0074】
図7では、エンジン操作が2710rev/minでトルクが30Nmの場合について、類似したトレースが示されている。上部パネルは、事前処理済燃料のトレースを示し、15mg/kg及び20mg/kgの場合を含んでいる。下部パネルは、単純な投入装置を用いた燃料中の金属処理速度変化を算出して示している。また、数回にわたって燃料補給を行った後の燃料中の、対応する平均金属濃度をも示している。燃料が補給されると、未処理燃料がタンク内に新しく導入されるため、燃料中の金属含有量が急低下する。燃料補給を繰り返すと、図7の下部パネルに顕著に見られる特徴的な添加剤濃度パターンが生じる。
【0075】
図8は、2つの異なるエンジン操作条件、すなわち1260rev/minでトルクが5Nmの場合(上部パネル)及び2710rev/minでトルクが30Nmの場合(下部パネル)における、排気背圧トレースを示す。どちらの場合においても、ソレノイドが操作する投入装置の操作頻度により、燃料の添加剤処理速度が34mg/hという一定した同一の速度になるように、単純な投入装置を設定する。未燃焼燃料がタンクへ戻され何度も処理されることによって、燃料中の添加剤の経時的濃度が着実に上昇することは、一般的には操作開始から15?20h後の、DPFのより頻繁な再生に反映されている。エンジン操作条件及び燃料消費レベルが大きく異なる場合に一定の添加剤処理速度を使用すると、どちらの条件でも、DPFが申し分なく再生されるという驚くべき結果になる。」(段落【0074】及び【0075】)

(ケ) 「【0076】
図9は、燃料に対する一定の添加剤処理速度が34mg/hの場合における、2つのエンジン操作条件での燃料含有量の経時的な変化を算出して示している。上部の2つのパネルは、1260rev/minで5Nmというエンジン操作条件での計算結果を示している。下部の2つのパネルは、2710rev/minで30Nmというエンジン操作条件での計算結果を示している。「のこぎり歯」の形状はそれぞれ、燃料補給とも記載される燃料レベル低下後の新しい燃料の添加による作用を示している。燃料を補給する都度、経時的な平均金属濃度は累進的に増大し、やがて安定するのが認められている。34mg/hという同一で不変の添加剤処理速度を低速低荷重操作で常時使用すると、安定した平均金属濃度は30mg/kgをわずかに上回る程度になるのが認められており、高速高荷重条件の場合、同じ添加剤処理速度では、安定した平均金属濃度が約7mg/kgになるのが認められている。DPFを申し分なく再生するには燃料添加剤の金属含有量を正確に制御することが必要であるとの以前の見解にもかかわらず、車両タンク内での燃料レベルの変化に伴う経時的変化だけではなく、大きく異なるエンジン操作条件と一定の添加剤投入速度とが併用されている場合のエンジンスピード及び荷重の変化など、さまざまな変化が生じても、申し分のない再生が行われるという驚くべき結果が示されている。
【0077】
図10は、DPFを搭載し、本発明の原理で稼動する添加剤投入装置も備えた車両のデータロガートレースを示す。該投入装置は、電気機械的ソレノイド装置を用いて、車両の噴射ポンプにつながる燃料パイプまで有機金属燃料添加剤を送達した。添加剤処理速度は、投入装置経由で送ることができる燃料の最大流量及び最小流量に基づいて計算したが、ソレノイドの操作は、燃料の実際の流量とは関係なく一定の頻度で行った。」(段落【0076】及び【0077】)

(コ) 上記(ケ)及び図9の記載から、燃料添加剤の燃料に対する濃度は、燃料タンク内の燃料添加剤の濃度が燃料補給の際に急低下することにより、「のこぎり歯」の形状、すなわち「不連続」となるように変化する。
そして、燃料添加剤は一定の投入速度で供給されているから、燃料タンク内の燃料添加剤の濃度が不連続に変化すれば、エンジンに供給される燃料における添加剤の濃度も不連続に変化することは明らかである。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。

「燃料補給により、エンジンに供給される燃料における添加剤の濃度が不連続に変化した場合においてもディーゼル微粒子除去装置の再生が行われること。」

(3) 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「触媒入り粒状トラップ」は、その機能、構成および技術的意義からみて、前者の「触媒微粒子フィルタ」及び「微粒子フィルタ」に相当し、以下同様に「排気装置」は「排気システム」に、「エンジン」は「内燃機関」及び「機関」に、「金属含有燃料触媒」は「触媒」及び「燃料添加触媒」に、「含む」は「含有する」に、「送出される」は「供給される」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「触媒微粒子フィルタを備える排気システムが装備された車両の内燃機関を運転する方法であって、前記機関に、前記微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料が供給される方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「触媒微粒子フィルタ」及び「微粒子フィルタ」に関し、前者は「酸化触媒が微粒子フィルタの壁の孔に導入」されるのに対し、後者の「触媒入り粒状トラップ」がかかる事項を備えるかが不明である点。

[相違点2]
前者は「燃料における触媒の濃度が不連続に変化し、ある分量の燃料添加触媒を手動で車両燃料タンクに添加する、あるいは、定量の燃料添加触媒を定期的な間隔で車両燃料タンクに定量ポンプで注入する」のに対し、後者は、燃料における金属含有燃料触媒の濃度の変化については不明であって、金属含有燃料触媒は、車両の燃料タンクに入れる前に燃料貯蔵所の燃料及び/又は燃料タンクに加える点。

(4) 判断
相違点について検討する。
相違点1について検討する。
内燃機関の排気ガスシステムで用いる煤煙を除去するための触媒微粒子フィルタ及び微粒子フィルタとして、「酸化触媒が微粒子フィルタの壁の孔に導入」されるものは、例えば、特開平8-332329号公報(段落【0001】、及び段落【0047】ないし【0052】並びに図1ないし図6に記載された排ガス浄化用フィルタを参照。)及び特表2010-520406号公報(段落【0039】ないし【0044】に記載された触媒PFを参照。)にみられるように周知(以下、「周知技術1」という。)である。
そして、上記周知技術1を示すために提示された、特表2010-520406号公報(段落【0010】の記載等を参照。)には、鉄化合物及びセリウム化合物から実質的になる添加剤を含有する燃料をエンジンに供給することと、燃料の燃焼によって生成した排気ガスが通過する粒子フィルタとして、触媒フィルタが使用されることが記載されている。
そうすると、引用発明において、周知技術1に基づいて当業者の通常の創作能力の範囲で相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。

相違点2について検討する。
内燃機関の作動時における排気ガス浄化のために使用される燃料添加剤(以下、単に「燃料添加剤」という。)を燃料に加えるための手段として、「所定量の燃料添加剤を手作業で燃料補給時などに車両の燃料タンクに加えること」は、例えば、特開2000-130153号公報(段落【0016】、図1における添加剤42の記載等を参照)及び特開2007-154203号公報(段落【0047】の記載等を参照)にみられるように周知(以下、「周知技術2」という。)である。
また、燃料添加剤を車両の燃料タンクに入れる前の燃料に予め添加しておくことも、例えば、特表2010-515801号(段落【0244】の記載等を参照)及び特表2010-502820号(段落【0021】及び【0022】の記載等を参照)にみられるように周知(以下、「周知技術3」という。)である。
そして、上記周知技術3を示すために提示された、特表2010-515801号(段落【0244】の記載を参照)には、燃料添加剤の添加は、精油所、或いは流通末端などにおいて、車両の燃料タンクに入れる前の燃料に予め添加すること、及び、ユーザが燃料タンクに燃料添加剤を添加することのどちらを選択してもよいことについても示唆されている。
そうすると、燃料添加剤を燃料に添加するにあたり、車両の燃料タンクに入れる前の燃料に燃料貯蔵所等で予め添加しておくこと、及び、所定量の燃料添加剤を手作業で燃料補給時などに車両の燃料タンクに加えることは、いずれも常套手段であるといえるから、引用発明において、所定量の金属含有燃料触媒を手作業で燃料補給時等に車両の燃料タンクに加えるようにすることは、当業者が燃料添加剤を燃料に添加するための常套手段のうちの一つを単に選択したということにすぎない。
そして、引用文献2の記載事項である「燃料補給により、エンジンに供給される燃料における添加剤の濃度が不連続に変化した場合においてもディーゼル微粒子除去装置の再生が行われること。」によれば、燃料補給時にはエンジンに供給される燃料における金属含有燃料触媒の濃度は不連続に変化するものとなり、
さらに、上記周知技術2である「所定量の燃料添加剤を手作業で燃料補給時などに車両の燃料タンクに加えること」は、車両の燃料タンク内の燃料に対して所定量の燃料添加剤を手作業で容器等から一度に加えることを意味するから、燃料添加剤を手作業で燃料タンクに加えることが、エンジンに供給される燃料における燃料添加剤の濃度が不連続に変化する要因となることは技術常識からみて明らかである。
そうすると、引用発明において、引用文献2の記載事項並びに周知技術2及び3に基いて、所定量の金属含有燃料触媒を手作業で燃料補給時等に車両の燃料タンクに加えるようにするとともに、燃料における金属含有燃料触媒の濃度を、燃料補給を行なうことのみならず車両の燃料タンクに手作業で燃料添加剤を所定量加えることにより不連続に変化するものとして触媒入り粒状トラップのすすを燃焼して再生することにより、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年1月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし10に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開2010/150040号(本審決の引用文献1)
引用文献2:特表2004-526902号公報(本審決の引用文献2)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項並びに引用発明は、前記第2 2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.で検討した本件補正発明から、「触媒微粒子フィルタ」についての「酸化触媒が微粒子フィルタの壁の孔に導入されており」との限定及び「微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料」についての「ある分量の燃料添加触媒を手動で車両燃料タンクに添加する、あるいは、定量の燃料添加触媒を定期的な間隔で車両燃料タンクに定量ポンプで注入する」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2の記載事項並びに周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-14 
結審通知日 2018-09-18 
審決日 2018-10-01 
出願番号 特願2016-85069(P2016-85069)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 水野 治彦
金澤 俊郎
発明の名称 微粒子フィルタを再生するための触媒を含有する燃料が供給されるエンジンを運転する方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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