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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1349188
審判番号 不服2018-701  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-18 
確定日 2019-03-05 
事件の表示 特願2015-510859「バッテリの充電状態の推定」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開、WO2013/167833、平成27年 8月20日国内公表、特表2015-524048、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月3日(パリ条約による優先権主張2012年5月11日(以下、「優先日」という。)、フランス共和国)を国際出願日とする国際出願であって、平成26年12月25日に翻訳文が提出され、平成29年1月10日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月14日に手続補正がなされたが、平成29年9月12日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成29年9月19日)、これに対し、平成30年1月18日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、平成30年9月7日付けで拒絶理由が通知され、平成30年12月13日に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年9月12日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
この出願の請求項1-10に係る発明は、下記の引用文献1-6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献等一覧
1.独国特許出願公開第102009054924号明細書
2.特開2012-063244号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2010/140235号
4.特公昭48-018078号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平10-299533号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2011-211808号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、平成30年12月13日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
直列接続された3以上の電気化学セル(C_(1)、…C_(N))を含むバッテリの充電状態(SOC_(BAT))を推定する方法であって、
前記バッテリの端子間の電圧は、セル電圧と呼ばれる各セルの端子間の電圧の合計に対応しており、
?所定の時点に、前記セル電圧の中から最小セル電圧(U_(Cmin))及び最大セル電圧(U_(Cmax))を決定するためのステップと、
?前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、
前記物理量は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記最大セル電圧(U_(Cmax))に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記最小セル電圧(U_(Cmin))に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))に解析的に、直接的又は間接的に依存し、
前記物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))は、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))のみを使用して計算され、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))以外のセル電圧は使用されない、方法。」

本願発明2-8は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明9は、本願発明1に係る「バッテリの充電状態(SOC_(BAT))を推定する方法」に対応する「バッテリの充電状態(SOC_(BAT))を推定するための装置」の発明であり、本願発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。
本願発明10は、本願発明9を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、独国特許出願公開第102009054924号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。なお、原文が独文のため、パテントファミリーである特表2013-513809号公報による翻訳文を、該公表公報に付された段落番号とともに示す。)。
「【0001】
本発明は、複数の個別バッテリセルで構成されるバッテリパックの充電状態を判定する方法に関する。」

「【0003】
ハイブリッド自動車や電気自動車では、直列または並列につながれた多数の電気化学セルで構成されるLiイオンまたはNiMHテクノロジーのバッテリパックが採用されている。」

「【0011】
以下においては0-100の範囲内の充電状態値が利用され、値「0」は完全な放電の充電状態「0%」に相当しており、「100」は完全な充電の充電状態「100%」に相当する。しかしながら、このような区分に限定をするものではない。たとえば0-1の値範囲なども使用できることは、当業者には明らかである。その場合、下記の関数も対応して再スケーリングされる。」

「【0026】
図1には、バッテリパックの充電状態を決定するための本発明にかかる方法のフローチャートが示されている。バッテリパックは、以下においてはLiイオンバッテリセルで構成されているが、複数の電気化学セルで構成されるこれ以外のバッテリ型式に適用することもできる。
【0027】
図1では、符号「A」は「すべてのi=1、NについてのSOCiの決定」を表しており、符号「B」は「すべてのSOCiの平均値mean(SOCi)の決定」を表しており、符号「C」は「gw(SOC):gw(SOC→0%)→0;gw(SOC→100%)→1;かつgw()連続的、による重みw=gw(mean(SOCi))の決定」を表しており、符号「D」は「SOCp=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i))による、バッテリパックの総充電状態SOC_(p)の決定」を表している。
【0028】
充電状態を判定する本発明の方法は、「N」個の個々のバッテリセルで構成されるバッテリパックを対象としている。
【0029】
第1のステップでは、各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)がすべてのi=1、Nについて決定され、バッテリ充電状態は、完全な放電の最小の充電状態SOC_(min)と、完全な充電の最大の充電状態SOC_(max)との間で変動する。最小の充電状態は、たとえば値「0」または「0%」を有することができ、最大の充電状態は値「1」、「100」または「100%」を有することができる。
【0030】
第2のステップでは、個々のバッテリセルの充電状態の平均値mean(SOC_(i))が決定される。平均値は、通常、式mean(SOC_(i))=1/N*Σ_(i=1,N)SOC_(i)から算出される。
【0031】
次いで第3のステップで、式w=gw(mean(SOC_(i)))に基づいて、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))の重み「w」、または、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態(min(SOC_(i)))の重み(1-w)の決定が行われ、関数gw(SOC)については次の事項が成り立ち、すなわち、
関数値は、その独立変数が完全な放電の最小の充電状態SOC_(min)に向かう場合には、値「0」の最小値に向かおうとし、
関数値は、その独立変数が完全な充電の最大の充電状態SOC_(max)に向かう場合には、値「1」の最大値に向かおうとし、及び、
関数gw()は連続的である。
【0032】
換言すると、重みづけをするために、次のような特性、すなわち、
- gw(SOC→0%) →0 (1)
- gw(SOC→100%) →1 (2)
- gw()は連続的 (3)
を有する、充電状態SOCに依存する数学的な関数gw=f(SOC)が利用される。
【0033】
上の例では、w_(max)=1かつw_(min)=0と設定されていた。ここでも当業者には明らかなように、最小値と最大値のそれぞれの値「0」と「1」はこれに限定されるものではなく、最小値についての「0%」、または、最大値についての「100%」もしくは「100」といった他の値を使用することもできる。
【0034】
続いて第4のステップでは、バッテリパック全体の充電状態SOC_(p)が、重みの値wと、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))と、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))と、の関数として算出される。これは次式に従って行われる。
SOC_(p)=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i)) (4)」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「直列につながれた多数の電気化学セルで構成されるバッテリパック(段落【0003】より。以下、同様。)の充電状態を判定する方法(【0028】)であって、
「N」個の個々のバッテリセルで構成されるバッテリパックを対象とし(【0028】)、
第1のステップでは、各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)がすべてのi=1、Nについて決定され(【0029】)、
第2のステップでは、個々のバッテリセルの充電状態の平均値mean(SOC_(i))が決定され、平均値は、通常、式mean(SOC_(i))=1/N*Σ_(i=1,N)SOC_(i)から算出され(【0030】)、
次いで第3のステップで、式w=gw(mean(SOC_(i)))に基づいて、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))の重み「w」、または、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態(min(SOC_(i)))の重み(1-w)の決定が行われ、関数gw(SOC)については次の事項が成り立ち、すなわち、
関数値は、その独立変数が完全な放電の最小の充電状態SOC_(min)に向かう場合には、値「0」の最小値に向かおうとし、
関数値は、その独立変数が完全な充電の最大の充電状態SOC_(max)に向かう場合には、値「1」の最大値に向かおうとし、及び、
関数gw()は連続的であり(【0031】)、
続いて第4のステップでは、バッテリパック全体の充電状態SOC_(p)が、重みの値wと、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))と、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))と、の関数として算出され、これは次式に従って行われる、
SOC_(p)=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i))(【0034】)、
方法。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す文献として引用された、特開2012-063244号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、電気自動車等のバッテリの充電率を推定するバッテリの充電率推定装置に関する。」

「【0020】
本実施例で用いるバッテリ等価回路モデル4Aを図2に示す。この等価回路モデル4Aとしては、本実施例では図2に示すフォスタ型RC梯子回路(ただし1段のみ)を用いる。すなわち、この回路は、バッテリ1の電解液抵抗と結線によるオーム抵抗等の直流成分を設定するバスク抵抗(R0)に、抵抗(R1:ファラデー・インピーダンスでありバッテリ1中の電荷移動過程における動的振る舞いを表す反応抵抗として設定)とコンデンサ(C1:非ファラデー・インピーダンスであり電気二重層を表わすものとして設定)の並列回路を接続したものである。また、同図中には、開放電圧部を表わす開放電圧部コンデンサ(COCV)の開放電圧値をOCV、端子電圧値をV、上記並列回路で発生する過電圧値をV1でそれぞれ表示してある。端子電圧値Vは、開放電圧値OCVと過電圧値V1との合計に等しくなる。なお、R0およびR1は上記各抵抗の抵抗値を表わし、C1およびCOCVは上記各コンデンサの容量を表わす。」

「【0023】
充電率算出部5は、バッテリの種類ごとにあらかじめ実験等で測定した開放電圧値OCVと充電率SOCとの関係データを記憶する開放電圧値(OCV)と充電率(SOC)との関係データを記憶する関係データ記憶部5Aを有する。この関係データの例を図3に示す。したがって、バッテリ1の開放電圧が推定されれば、この推定値OCV^から関係データに基づき充電率SOCを求めることが可能となる。この充電率SOCは、バッテリ・マネージメントに利用される。」

以上より、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「バッテリの種類ごとにあらかじめ実験等で測定した開放電圧値OCVと充電率SOCとの関係データを記憶し、バッテリ1の開放電圧を推定し、この推定値OCV^から関係データに基づき充電率SOCを求める技術。」

3.引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2010/140235号(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の技術事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「[0058] 図5は、図2のSOCテーブル又は関数5が持っている第2のテーブルを示す図である。ここでは、SOCテーブル又は関数5が、図5に示すような第2のテーブルを用いて、SOCshh及びSOCsllを基準にして代表SOCを求める場合の具体的な例を説明する。

[0059] 図5に示す第2のテーブルは、横軸にSOCsll?SOCshhのレンジ範囲を示し、縦軸にSOCmin?SOCmaxのレンジ範囲にある代表SOCのレベルを示していて、SOCsll?SOCshhのレンジ範囲においてリニアに変化する代表SOCの特性グラフを表わしている。なお、図5に示す第2のテーブルは、各電池セルのSOCのバラツキが小さい場合について図示している。

[0060] 最初に、横軸のSOCsll?SOCshhのレンジ範囲を、範囲1、範囲2、範囲3に分割する。なお、範囲1は、SOCmax≧SOCshhの範囲であり、範囲2は、SOCmin≦SOCsllの範囲であり、範囲3は、SOCsll<SOCmin、及び、SOCmax<SOCshhの範囲である。

[0061] SOCを演算して行く順序は、以下の例では範囲1、範囲2、範囲3の順番であるが、二次電池の過充電防止を優先するか、過放電防止を優先などの状況に応じて演算の順番を適宜に入れ替えてもよい。ここで、上位順番で代表SOCが決まらなければ、下位順番で代表SOCを決定すればよい。

[0062] ここで、 SOCmax≧SOCshh(つまり、範囲1)であれば、代表SOC=SOCmaxとなり、 SOCmin≦SOCsll(つまり、範囲2)であれば、代表SOC=SOCminとなり、 SOCll<SOCmin,SOCmax<SOChhであれば(つまり、範囲3)であれば、次の式(4)が成り立つ。
代表SOC=SOCmax×α+SOCmin×(1-α) (4)
但し、α=(SOCshh-SOCmax)/{(SOCshh-SOCmax)+(SOCmin-SOCsll)}である。

[0063] すなわち、図5に示すような第2のテーブルを用いた場合は、SOCmaxが運用範囲の最大SOC(SOCshh)以上であれば、代表SOCはSOCmaxを用い、SOCminが運用範囲の最小SOC(SOCsll)以下であれば、代表SOCはSOCminを用いる。それ以外の場合(つまり、SOCminが運用範囲の最小SOC(SOCsll)超であり、かつ、SOCmaxが運用範囲の最大SOC(SOCshh)未満である場合)は、運用中のSOCレベルに応じて増加傾向に代表SOCを決定する。このとき、運用中のSOCレベルがSOCsllとSOCshhの中間にあるときは、代表SOCは、SOCmaxとSOCminの中間の値(つまり、(SOCmax+SOCmin)×1/2)を用いる。

[0064] 以上述べたように、実施例1の群電池充電率演算装置2aによれば、SOCmaxとSOCminの値をSOCテーブル又は関数5に入力すれば1個の代表SOCを出力することができる。つまり、群電池の各単セルにバラツキがあっても、エンプティから満充電まで連続して、群電池の代表SOCを一意に決定することができる。したがって、群電池のエンプティから満充電まで一個の代表SOCの値を運用することができるので、後段の制御系や表示系を違和感なく安定して動作させることが可能となる。さらに、SOCテーブル又は関数5は、満充電側ではSOCmax側に近い値、エンプティ側ではSOCmin側に近い値を出力することもできるので、電池セルのSOCのバラツキを考慮して群電池の電池エネルギを有効に活用することができる。」

以上より、引用文献3には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「SOCll<SOCmin,SOCmax<SOChhであれば、
代表SOC=SOCmax×α+SOCmin×(1-α)
但し、α=(SOCshh-SOCmax)/{(SOCshh-SOCmax)+(SOCmin-SOCsll)}(段落[0062]より。以下同様。)
により、運用中のSOCレベルに応じて増加傾向に代表SOCを決定し([0063])、群電池の各単セルにバラツキがあっても、エンプティから満充電まで連続して、群電池の代表SOCを一意に決定することができる([0064])技術。」

4.引用文献4
原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す文献として引用された、特公昭48-018078号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の技術が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「発明の詳細な説明
本発明は、最強又は最大入力信号を検出するための装置、特に入力信号として心雑音を用い、その最大あるいは最強となる身体上の個所を検出する場合に適した装置に関する。」(第1頁第1欄第17-21行)

イ 「特許請求の範囲
1 複数個の信号をそれぞれ入力とする複数個の演算増幅器と、上記各演算増副器に接続されると共に、その出力側が各々共通に接続されたダイオードとを具え、各ダイオードの出力を上記各演算増幅器の他方の入力として帰還する如く構成したことを特徴とする最強又は最大入力信号検出装置。」(第1頁第2欄第33行-第2頁第4欄第1行)

以上より、引用文献4には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「複数個の信号をそれぞれ入力とする、最強又は最大入力信号検出装置。」

5.引用文献5
原査定において、周知技術を示す文献として新たに引用された、特開平10-299533号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0026】上記した実施形態では、バッテリの充電量をバッテリの端子電圧で代表するものとして説明したが、既知の他の方法、例えば電解液の比重の変化あるいは充放電量の履歴情報に基づいて検知することもできる。充放電量の履歴情報に基づいて検知する場合は、バッテリの充電電流および放電電流を検知し、当初の充電量に充放電量を順次累算することによって現在の充電量を求めることができる。このようにして求めた現在の充電量が当初の充電量または満充電量に匹敵するときは、ステップS32の判定が肯定とされる。」

よって、引用文献5には、「バッテリの充電量をバッテリの端子電圧で代表する」ことが記載されている。

6.引用文献6
原査定において、周知技術を示す文献として新たに引用された、特開2011-211808号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0018】
均等化回路20は、電池11の電気特性を均等化してアンバランスを解消する。電気特性としては、電池の残容量(State Of Charge:SOCや電池の充電量、充電状態値等とも呼ばれる。以下「SOC」ともいう)が挙げられる。SOCを電池電圧で代表させる場合は、電池電圧を均等化させる。」

よって、引用文献6には、「SOCを電池電圧で代表させる」ことが記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「「N」個の個々のバッテリセルで構成されるバッテリパック」は、「直列につながれた多数の電気化学セルで構成される」から、本願発明1における「直列接続された3以上の電気化学セル(C1、…CN)を含むバッテリ」に相当する。

イ 引用発明における、上記「バッテリパック」の「充電状態を判定する方法」が、本願発明1おける「直列接続された3以上の電気化学セル(C1、…CN)を含むバッテリの充電状態(SOC_(BAT))を推定する方法」に相当する。

ウ 引用発明における「バッテリパック」は、「直列につながれた多数の電気化学セルで構成され」ているから、引用発明における「バッテリパック」の端子電圧は、各「電気化学セル」の端子間の電圧の合計に対応していることは明らかであって、このことが、本願発明1における、「前記バッテリの端子間の電圧は、セル電圧と呼ばれる各セルの端子間の電圧の合計に対応して」いることに相当する。

エ 引用発明における「各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)」と、本願発明1における「セル電圧」とは、「セルに関連する物理量」の点で共通する。

オ 引用発明における「バッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))」と、本願発明1における「セル電圧の中」の「最小セル電圧(U_(Cmin))」とは、「セルに関連する物理量の中」の「セルに関連する最小の物理量」の点で共通する。
同様に、引用発明における「バッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))」と、本願発明1における「セル電圧の中」の「最大セル電圧(U_(Cmax))」とは、「セルに関連する物理量の中」の「セルに関連する最大の物理量」の点で共通する。

カ 上記「エ」、「オ」を踏まえると、引用発明における「第1のステップでは、各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)がすべてのi=1、Nについて決定され、第2のステップでは、個々のバッテリセルの充電状態の平均値mean(SOC_(i))が決定され、平均値は、通常、式mean(SOC_(i))=1/N*Σ_(i=1,N)SOC_(i)から算出され、次いで第3のステップで、式w=gw(mean(SOC_(i)))に基づいて、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))の重み「w」、または、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態(min(SOC_(i)))の重み(1-w)の決定が行われ、関数gw(SOC)については次の事項が成り立ち、すなわち、関数値は、その独立変数が完全な放電の最小の充電状態SOC_(min)に向かう場合には、値「0」の最小値に向かおうとし、関数値は、その独立変数が完全な充電の最大の充電状態SOC_(max)に向かう場合には、値「1」の最大値に向かおうとし、及び、関数gw()は連続的であり、続いて第4のステップでは、バッテリパック全体の充電状態SOC_(p)が、重みの値wと、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))と、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))と、の関数として算出され、これは次式に従って行われる、
SOC_(p)=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i))」ことと、

本願発明1における「?所定の時点に、前記セル電圧の中から最小セル電圧(U_(Cmin))及び最大セル電圧(U_(Cmax))を決定するためのステップと、
?前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、
前記物理量は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記最大セル電圧(U_(Cmax))に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記最小セル電圧(U_(Cmin))に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))に解析的に、直接的又は間接的に依存し、前記物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))は、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))のみを使用して計算され、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))以外のセル電圧は使用されない」こととは、

「所定の時点に、セルに関連する物理量の中から、セルに関連する最小の物理量及びセルに関連する最大の物理量を決定するためのステップと、前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))に依存する物理量(SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、前記物理量(SOC_(BAT))は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記セルに関連する最大の物理量に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記セルに関連する最小の物理量に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記セルに関連する最小の物理量及び前記セルに関連する最大の物理量に解析的に、直接的又は間接的に依存する」点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「直列接続された3以上の電気化学セル(C_(1)、…C_(N))を含むバッテリの充電状態(SOC_(BAT))を推定する方法であって、前記バッテリの端子間の電圧は、セル電圧と呼ばれる各セルの端子間の電圧の合計に対応しており、所定の時点に、セルに関連する物理量の中から、セルに関連する最小の物理量及びセルに関連する最大の物理量を決定するためのステップと、前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、前記物理量(SOC_(BAT))は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記セルに関連する最大の物理量に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記セルに関連する最小の物理量に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記セルに関連する最小の物理量及び前記セルに関連する最大の物理量に解析的に、直接的又は間接的に依存する、方法。」

(相違点)
所定の時点に、セルに関連する物理量の中から、セルに関連する最小の物理量及びセルに関連する最大の物理量を決定するためのステップと、前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、前記物理量(SOC_(BAT))は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記セルに関連する最大の物理量に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記セルに関連する最小の物理量に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記セルに関連する最小の物理量及び前記セルに関連する最大の物理量に解析的に、直接的又は間接的に依存することが、

本願発明1では、「?所定の時点に、前記セル電圧の中から最小セル電圧(U_(Cmin))及び最大セル電圧(U_(Cmax))を決定するためのステップと、
?前記バッテリの前記充電状態(SOC_(BAT))が直接的又は間接的に依存する物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))を計算するためのステップとを含み、
前記物理量は、関連するセルの充電状態が上昇するときに前記最大セル電圧(U_(Cmax))に関連する重み付けが増加し、関連するセルの充電状態が下降するときに前記最小セル電圧(U_(Cmin))に関連する重み付けが増加することを保証する重み付け要素を含む方程式に従って、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))に解析的に、直接的又は間接的に依存し、
前記物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))は、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))のみを使用して計算され、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))以外のセル電圧は使用されない」のに対し、

引用発明では、「第1のステップでは、各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)がすべてのi=1、Nについて決定され、
第2のステップでは、個々のバッテリセルの充電状態の平均値mean(SOC_(i))が決定され、平均値は、通常、式mean(SOC_(i))=1/N*Σ_(i=1,N)SOC_(i)から算出され、
次いで第3のステップで、式w=gw(mean(SOC_(i)))に基づいて、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))の重み「w」、または、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態(min(SOC_(i)))の重み(1-w)の決定が行われ、関数gw(SOC)については次の事項が成り立ち、すなわち、
関数値は、その独立変数が完全な放電の最小の充電状態SOC_(min)に向かう場合には、値「0」の最小値に向かおうとし、
関数値は、その独立変数が完全な充電の最大の充電状態SOC_(max)に向かう場合には、値「1」の最大値に向かおうとし、及び、
関数gw()は連続的であり、
続いて第4のステップでは、バッテリパック全体の充電状態SOC_(p)が、重みの値wと、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))と、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))と、の関数として算出され、これは次式に従って行われる、
SOC_(p)=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i))」点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点について検討すると、引用発明では、「各個々のバッテリセルの充電状態SOC_(i)がすべてのi=1、Nについて決定され」ている。
これは、「平均値mean(SOC_(i))」が「式mean(SOC_(i))=1/N*Σ_(i=1,N)SOC_(i)から算出」され、「重み「w」」が「w=gw(mean(SOC_(i)))に基づいて」決定され、「バッテリパック全体の充電状態SOC_(p)が、重みの値wと、バッテリパックのバッテリセルの最大のバッテリ充電状態max(SOC_(i))と、バッテリパックのバッテリセルの最小のバッテリ充電状態min(SOC_(i))と、の関数として算出され、これは次式に従って行われる、
SOC_(p)=w*max(SOC_(i))+(1-w)*min(SOC_(i))」ためである。

イ したがって、引用発明が、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えるようにするには、引用発明において、すべてのセルの充電状態SOC_(i)に代えて、「最小セル電圧(U_(Cmin))」及び「最大セル電圧(U_(Cmax))」を決定するようにし、さらに、「重み「w」」を当該「最小セル電圧(U_(Cmin))」及び「最大セル電圧(U_(Cmax))」のみを使用して決定する必要がある。
しかしながら、引用発明からはそのようなことは示唆されず、また、引用文献2-6に記載された事項も、そのようなことを示唆するものでない。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者に動機付けられないことである。

ウ 以上のとおり、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-8について
本願発明2-8は、本願発明1を減縮した発明であるから、上記相違点に係る本願発明1と同じ構成を備えるものである。
よって、本願発明2-8は、本願発明1について述べたのと同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

3.本願発明9について
本願発明9は、本願発明1に対応する装置の発明であり、上記相違点に係る本願発明1と同様の構成を備えるものである。
よって、本願発明9は、本願発明1について述べたのと同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない

4.本願発明10について
また、本願発明10は、本願発明9を減縮した発明であるから、本願発明9と同じ構成を備えるものである。
よって、本願発明10は、本願発明9について述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第1号について
当審では、請求項1、9の「前記電気化学セルの充電状態(SOC)は前記最小セル電圧(U_(Cmin))又は前記最大セル電圧(U_(Cmax))のみを使用して計算され、前記最小セル電圧(U_(Cmin))又は前記最大セル電圧(U_(Cmax))以外のセル電圧は使用されない」という点は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶理由を通知しているが、平成30年12月13日の手続補正において、「前記物理量(U_(mp)、SOC_(BAT))は、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))のみを使用して計算され、前記最小セル電圧(U_(Cmin))及び前記最大セル電圧(U_(Cmax))以外のセル電圧は使用されない」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-10は、当業者が引用発明及び引用文献2-6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-15 
出願番号 特願2015-510859(P2015-510859)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01R)
P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 續山 浩二  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
清水 稔
発明の名称 バッテリの充電状態の推定  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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