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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1349194
審判番号 不服2018-5960  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-27 
確定日 2019-03-05 
事件の表示 特願2014- 74245「光導波路素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 9日出願公開,特開2015-197499,請求項の数(7)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成26年3月31日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 6月27日 拒絶理由通知(同年7月4日発送)
同年 8月28日 手続補正・意見書提出
平成30年 1月29日 拒絶査定(同年2月6日謄本送達)
同年 4月27日 審判請求・手続補正
(同年 7月 3日 前置報告書)
同年 9月 6日 上申書提出

2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は,平成30年4月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである(以下,請求項1?7の各請求項に係る発明を,それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)。
「【請求項1】
基板と,
前記基板上に形成された第1の電極と,
前記基板上の外縁部に形成され,前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された高さ調整部と,
前記第1の電極および前記高さ調整部上に形成され,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路と,
前記光導波路上に形成された第2の電極と,
を備え,
前記第2の電極の端部の下方に位置する前記第1の電極は,前記第2の電極と重ならない領域を有し,
前記高さ調整部は,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料からなることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記高さ調整部の高さと前記第1の電極の高さとの差が0.2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記基板と前記高さ調整部は,一体で形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
基板上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程と,
前記基板上の外縁部において,前記第1の電極に隣接するとともに,前記第1の電極の外縁全周を囲むように高さ調整部を形成する高さ調整部形成工程と,
前記第1の電極および前記高さ調整部上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程と,
前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程と,
を有し,
前記光導波路形成工程において,前記高さ調整部を,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成することを特徴とする光導波路素子の製造方法。
【請求項5】
前記高さ調整部形成工程において,前記高さ調整部の高さと前記第1の電極の高さとの差が0.2μm以下となるように,前記高さ調整部を形成することを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子の製造方法。
【請求項6】
基板の表面に,凹部を形成する凹部形成工程と,
前記凹部内に,第1の電極を形成する第1の電極形成工程と,
前記第1の電極および前記基板上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程と,
前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程と,
を有する光導波路素子の製造方法において,
前記凹部の側壁部は高さ調整部であり,
前記光導波路形成工程において,前記高さ調整部を,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成することを特徴とする光導波路素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1の電極形成工程において,前記第1の電極の高さが前記基板の表面と略等しくなるように,前記第1の電極を形成することを特徴とする請求項6に記載の光導波路素子の製造方法。」

3 原査定の理由の概要
---< 引用例等一覧 >-------------------
1 特開2003-98371号公報
2 特開2009-98197号公報
3 特開2003-101044号公報
--------------------------------
(1)原査定の理由の概要は次のとおりである。
ア 請求項1-3について
請求項1-3に係る発明に対する理由は,引用例1には,基板11上に配線層33を形成し、高さを調節するように隣接して平坦化絶縁層37を形成し、配線層と平坦化絶縁層の上にポリマーからなるクラッド、コアを有する光導波路を備えた素子が記載されており,また,引用例1には,基板11と高さ調整部が一体化されており、凹部に埋込導電層17を形成し、その上にポリマーからなる光導波路を備えた素子も記載されており,さらに,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料からなるものとすることは,当業者が適宜に行うことであるから,請求項1-3に係る発明は,引用例1に記載された発明であり,また,引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。

イ 請求項4及び5について
請求項4及び5に係る発明に対する理由は,引用例2には,基板上の下部電極・下部電極非形成領域上に光導波路層を形成した光導波路素子の製造方法が記載されており,引用例2には,さらに,電極層の上に,光導波路層の下部クラッド層の形成前に,何らかの下引層を形成してもよいことが記載されており,一方,当業者であれば,引用例2に係る製造方法において,下部電極非形成領域も含めて凹凸を平坦化することは当然考慮することであり,その際,前記引用例1に記載された発明を採用することは容易になし得たことである,というものである。

ウ 請求項6及び7について
請求項6及び7に係る発明に対する理由は,引用例2には,上記イに記載したとおりの光導波路素子の製造方法が記載されており,当該製造方法において,電極を設ける位置は当業者が適宜に選択できるものであり,その際,引用例3に記載された基板の表面に凹部を設け,電極配線を埋め込み,その上に光導波路を形成する方法や,引用例1に記載された基板の凹部に埋込層伝送を形成する方法を採用することは,当業者が容易になし得たことである,というものである。

4 引用例に記載された発明
(1)引用例1に記載された発明
ア 本願の出願前に日本国内において頒布された文献である引用例1(特開2003-98371号公報)には,図とともに以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は平坦化電気配線を有する光配線基板に関するものであり,光通信システムのネットワーク網のクロスポイントに配置する,光信号の交換機(切換え装置,光クロスコネクト)に用いられる導波路形態の光スイッチ基板における電気配線による光結合効率の低下を低減するための電気配線構造に特徴のある平坦化電気配線を有する光配線基板に関するものである。
【0002】
・・・(中略)・・・
【0024】図11(e)及び(e′)参照
次いで,配線層80のパッド部81に接続するように,例えば,LiNbO_(3)からなる下部クラッド層87,TiドープLiNbO_(3) からなるコア層88,及び,SiO_(2) からなる上部クラッド層89によって構成された光偏向素子74を実装することによって光スイッチ基板の基本構成が完成する。なお,図示を省略しているが,光偏向素子74の上側にプリズム型電極を設ける。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】しかし,図10及び図11に示した様に,通常の方法で配線を基板上に形成すると,配線層80が数μm以上盛り上がるため,光の結合効率が著しく低下してしまうという問題がある。
【0026】即ち,一般にシングルモード導波路のコア径は10μm程度であるため,偏向部や光導波路を同一基板上に形成しても,高さ位置は配線層80の厚さに起因して数μmずれて光の結合効率が著しく低下してしまうためである。
【0027】したがって,本発明は配線層を含む基板の表面を平坦化して光導波路と光学能動素子との高さ合わせを容易にして光結合効率を向上することを目的とする。」

「【0028】
【課題を解決するための手段】図1は本発明の原理的構成の説明図であり,この図1を参照して本発明における課題を解決するための手段を説明するが,図1(a)は光配線基板の入力側の要部平面図であり,図1(b)は図1(a)におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。
図1(a)及び(b)参照
上記の目的を達成するために,本発明は,平坦化電気配線2を有する光配線基板において,少なくとも光学能動素子3及び光導波路4,5を実装する基板として,電気配線2を含む表面が平坦な基板を用いたことを特徴とする。
【0029】この様に,電気配線2を含む表面が平坦な基板を用いることによって,光導波路4,5と光学能動素子3との高さ合わせを容易にして光結合効率を向上することができる。
【0030】この場合,光学能動素子3を電気配線2の上表面の少なくとも一部に接するように実装された構造において,光導波路4,5と光学能動素子3とのシングルモードの光結合効率を向上するためには,電気配線2を含む表面が平坦な基板の表面粗さを,3μm以下,より,好適には,1μm以下であることが望ましい。なお,この場合の表面粗さとは,JIS規格B01660-1994規定による算術平均表面粗さである。
【0031】この様な表面が平坦な基板としては,絶縁性基板1に設けた溝に電気配線2を埋め込んだ基板を用いても良いし,或いは,絶縁性基板1上に設けた電気配線2の周囲に平坦化絶縁層を設けた基板を用いても良い。」

「【0033】
【発明の実施の形態】ここで,図2乃至図4を参照して,本発明の第1の実施の形態の光スイッチ基板の製造工程を説明する。なお,「′」の伴なわない図がある場合には入射側の要部断面図であり,「′」の伴う図がある場合には「′」の付かない図は入射側の要部平面図であり,「′」付きの図は「′」の付かない図におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図であり,出射側は入射側と対称的に構成される。
【0034】図2(a)及び(a′)参照
まず,表面が平坦な石英基板11上に,厚さが,例えば,0.5μmのAl膜をスパッタ法によって堆積させたのち,レジストパターンを用いた通常のフォトエッチング工程によって所定配線形状の開口部を有する形状にエッチングすることによってAlマスク12を形成する。
【0035】次いで,このAlマスク12をマスクとして,フッ素系の原料ガスを用いた反応性イオンエッチングを施すことによって,石英基板11を例えば,5μmの深さのパッド部14及び配線部15からなるn本の溝13を形成する。
【0036】図2(b)参照
次いで,Alマスク12をウェット・エッチングによって除去したのち,全面に密着性改善層となるCr膜及びメッキ下地層となるCu膜をスパッタ法によって堆積させたのち,電解メッキ法を用いて厚さが,例えば,6μmのCuメッキ膜を堆積させて導電層16を形成する。
【0037】図3(c)及び(c′)参照
次いで,CMP(化学機械研磨)法によって,表面を1μm程度研磨して石英基板11の表面を露出させることによって,埋込パッド部18及び埋込配線部19とからなる埋込導電層17を形成する。なお,この場合の埋込導電層17を含む全表面の表面粗さを3μm以下,より好適には1μm以下にする。
【0038】図3(d)参照
以降は,従来と同様に,スパッタ法によって,全面に例えば,SiO_(2) からなる下部クラッド層21,GeドープSiO_(2) からなるコア層22,及び,SiO_(2) からなる上部クラッド層23を順次堆積させることによって光導波路20を形成する。
【0039】図4(e)及び(e′)参照
次いで,所定のパターンのマスクを用いてドライエッチングを施すことによって光導波路20をエッチングして,n本の入射側光導波路となるチャネル光導波路24,このチャネル光導波路24と一体になったマイクロレンズアレイ状の二次元レンズ25,及び,埋込導電層17の埋込配線部19の一部を覆うスラブ光導波路26を形成する。
【0040】図4(f)及び(f′)参照
次いで,埋込導電層17の埋込パッド部18に接続するように,例えば,LiNbO_(3) からなる下部クラッド層28,TiドープLiNbO_(3) からなるコア層29,及び,SiO_(2) からなる上部クラッド層30によって構成された光偏向素子27を実装することによって光スイッチ基板の基本構成が完成する。なお,図示を省略しているが,光偏向素子27の上側にプリズム型電極を設ける。
【0041】この様に,本発明の第1の実施の形態においては,CMP法を利用して埋込導電層17を形成して基板の表面を平坦化しているので,その上に設けるチャネル光導波路24,二次元レンズ25,光偏向素子27,及び,スラブ光導波路26の相互間で,コアの中心軸がずれることがなく良好な光結合を実現することができる。」

「【0043】次に,図5乃至図7を参照して,本発明の第2の実施の形態の光スイッチ基板の製造工程を説明する。なお,「′」の伴なわない図がある場合には入射側の要部断面図であり,「′」の伴う図がある場合には「′」の付かない図は入射側の要部平面図であり,「′」付きの図は「′」の付かない図におけるA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図であり,出射側は入射側と対称的に構成される。
【0044】図5(a)参照
まず,表面が平坦な石英基板31上に,密着性改善層となるCr膜及びメッキ下地層となるCu膜をスパッタ法によって堆積させたのち,電解メッキ法を用いて厚さが,例えば,5μmのCuメッキ膜を堆積させて導電層32を形成する。
【0045】図5(b)及び(b′)参照
次いで,通常のフォトエッチ工程によって導電層32をエッチングして,パッド部34と配線部35とからなるn本の配線層33を形成する。
【0046】図5(c)参照
次いで,配線層33上の厚さが少なくとも1μmになるように,全面にポリイミドを塗布して,配線層33を覆うポリイミド膜36を形成する。
【0047】図6(d)及び(d′)参照
次いで,CMP(化学機械研磨)法によって,ポリイミド膜36を1μm程度研磨して配線層33の表面を露出させることによって,平坦化絶縁層37を形成する。なお,この場合も配線層33及び平坦化絶縁層37からなる全表面の表面粗さを3μm以下,より好適には1μm以下にする。
【0048】図6(e)参照
以降は,従来と同様に,スパッタ法によって,全面に例えば,SiO_(2) からなる下部クラッド層39,GeドープSiO_(2) からなるコア層40,及び,SiO_(2) からなる上部クラッド層41を順次堆積させることによって光導波路38を形成する。
【0049】図7(f)及び(f′)参照
次いで,所定のパターンのマスクを用いてドライエッチングを施すことによって光導波路38をエッチングして,n本の入射側光導波路となるチャネル光導波路42,このチャネル光導波路42と一体になった二次元レンズ44,及び,配線層33の配線部35の一部を覆うスラブ光導波路43を形成する。
【0050】図7(g)及び(g′)参照
次いで,配線層33のパッド部34に接続するように,例えば,LiNbO_(3)からなる下部クラッド層46,TiドープLiNbO_(3) からなるコア層47,及び,SiO_(2) からなる上部クラッド層48によって構成された光偏向素子45を実装することによって光スイッチ基板の基本構成が完成する。なお,図示を省略しているが,光偏向素子45の上側にプリズム型電極を設ける。
【0051】この様に,本発明の第2の実施の形態においては,CMP法を利用して平坦化絶縁層37を形成して配線層33を埋め込んで基板の表面を平坦化しているので,その上に設けるチャネル光導波路42,二次元レンズ44,光偏向素子45,及び,スラブ光導波路43の相互間で,コアの中心軸がずれることがなく良好な光結合を実現することができる。
【0052】なお,この第2の実施の形態においては,基板の平坦化のために,ポリイミド膜を用いているので,光導波路の形成工程において,堆積温度に制限があるため,光導波路を構成する材料に制限がある。」

「【0053】以上,本発明の各実施の形態を説明したが,本発明は各実施の形態に記載した構成及び条件に限られるものではなく,各種の変更が可能である。例えば,上記の各実施の形態においては,チャネル光導波路,スラブ光導波路,或いは,二次元レンズを構成する光導波路を,SiO_(2) 系によって構成しているが,クラッド層及びコア層の両方をポリマによって構成しても良いものである。」

以上を総合すると,引用例1には,光配線基板上にチャネル光導波路,二次元レンズ,光偏向素子,及び,スラブ光導波路が設けられた光スイッチ基板として,次の各発明が記載されているものと認められる。(ここで,下線は,両発明間で相違する箇所である。)

「光クロスコネクトに用いられる導波路形態の光スイッチ基板であって,
電気配線による光結合効率の低下を低減するための電気配線構造に平坦化電気配線17を有する光配線基板を備え,
電気配線17を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板11に設けた溝に電気配線17を埋め込んだ基板であり,
平坦化電気配線17を有する光配線基板上に,チャネル光導波路24,二次元レンズ25,光偏向素子27,及び,スラブ光導波路26が設けられ,光偏向素子27の上側にプリズム型電極が設られ,
チャネル光導波路24及びスラブ光導波路26は,ともに下部クラッド層21,コア層22,及び,上部クラッド層23からなるものであり,ポリマによって構成しても良いものである,
光スイッチ基板。」
(以下「引用発明1-1」という。)

「光クロスコネクトに用いられる導波路形態の光スイッチ基板であって,
電気配線による光結合効率の低下を低減するための電気配線構造に平坦化電気配線33を有する光配線基板を備え,
電気配線33を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板31上に設けた電気配線33の周囲に平坦化絶縁層37を設けた基板であり,
平坦化電気配線33を有する光配線基板上に,チャネル光導波路42,二次元レンズ44,光偏向素子45,及び,スラブ光導波路43が設けられ,光偏向素子45の上側にプリズム型電極が設られ,
チャネル光導波路42及びスラブ光導波路43は,ともに下部クラッド層39,コア層40,及び,上部クラッド層41からなるものであり,ポリマによって構成しても良いものである,
光スイッチ基板。」
(以下「引用発明1-2」という。)

(2)引用例2に記載された事項
ア 本願の出願前に日本国内において頒布された文献である引用例2(特開2009-98197号公報)には,図とともに以下の記載がある。

「【0001】
本発明は,光導波路素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0008】
このような有機材料の有する電気光学効果を用いて光を制御する上記光導波路素子においては,ポーリング処理と呼ばれる電界の印加による,分子の配向を一定の方向にそろえてやるための工程が不可欠である(例えば,特許文献1)。
【特許文献1】特開2003-84323号公報
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS VOLUME 77, NUMBER 1, PAGE 1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
・・・(中略)・・・
【0010】
このポーリング処理においては,例えば,80℃以上150℃以下の温度において,数100Vの電圧を印加することにより行われるが,高温高電圧の条件では,素子の静電破壊が起こりやすくなるとともに,素子表面を流れる放電が生じやすくなることにより,制御用の電極が破壊されるという問題があった。このため,非線形光学分子の電気化学効果をより高く引き出すためには,より高い電圧によりポーリング処理を行うことが好ましいが,上限電圧が,制限されてしまい,素子の性能を十分に引き出すことができないという問題があった。
【0011】
本発明の課題は,静電破壊や放電を抑制しつつより高い電圧でポーリング処理を行うことが可能であり,より高い有機非線形光学材料の電気光学効果が引き出された光導波路素子及びその製造方法を提供することである。」

「【0023】
以下,本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,実質的に同一の機能・作用を有する部材には,全図面を通して同じ符合を付与し,重複する説明は省略する場合がある。
【0024】
図1は,実施形態に係る光導波路素子の斜視図を示す。図2は,実施形態に係る光導波路素子の断面図を示し,図1のA-A断面図である。図3は,他の実施形態に係る光導波路素子の断面図であり,図1のA-A断面図に相当する。
【0025】
本実施形態に係る光導波路素子100は,図1及び図2に示すように,基板10上に,下部電極層12,下部クラッド層14,光を伝播する導波路16Aを有する導波路層16,上部クラッド層18,及び上部電極層20が順次備える。そして,実施形態に係る光導波路素子100は,下部電極層12は,2つの光の入出力端面X1,X2と,該入出力端面X1,X2と交わる2つの側端面Y1,Y2とを有しており,当該各面における下部電極層12の全部が下部クラッド層14で覆われている。即ち,下部電極層12が下部クラッド層14により完全に覆われて,下部クラッド層14内に埋設されている。但し,図示しないが,ポーリング処理や駆動のために,接地を図る目的で,端面から一部,下部電極層12が露出していることがよい。」

「【0027】
以下,本実施形態に係る光導波路素子100を,その製造方法に従って際に説明する。図4及び図5は,実施形態に係る光導波路素子の製造方法を示す工程図である。
【0028】
まず,本実施形態に係る光導波路素子100の製造方法では,基板10を準備し,図4(A)に示すように,当該基板10上の全面に下部電極層12を形成する。
【0029】
・・・(中略)・・・
【0031】
次に,図4(B)に示すように,あらかじめ決められた素子の形状にしたがって,後述する切断工程(図5(H)参照)による切断により形成される切断面と交わる領域における下部電極層12の全部を除去して,下部電極層非形成領域12Aを設ける。具体的には,図6に示すように,素子の形状枠(切断線:点線)に沿って下部電極層非形成領域12Aを設けて,下部電極層12を形成している。但し,図示しないが,ポーリング処理や駆動のための接地を図る目的で,切断面から下部電極層12を露出させるため,切断面と交わる領域の一部の下部電極層12を除去しないことがよい。
【0032】
・・・(中略)・・・
【0034】
次に,図4(C)に示すように,下部電極層12が形成された基板10上に下部クラッド層14を形成する。これにより,下部電極層12上と共に基板10上の下部電極層非形成領域12A上にも形成され,下部クラッド層14により下部電極層が表面及び側面共に覆われる。
【0035】
下部クラッド層14としては,導波路層よりも屈折率の低い材料を選択することがよい。下部クラッド層を構成する材料としては,導波路層の形成時にインターミキシングを起こさない材料が好ましく,一般的に知られている熱硬化型の架橋樹脂,紫外線硬化型の架橋樹脂,無機材料,導電性高分子,フッ素化ポリマーなどを用いることができる。
【0036】
・・・(中略)・・・
【0039】
次に,図4(D)に示すように,下部クラッド層14上に,有機非線形光学材料(非線形効果を付与したポリマー)を含む導波路層16を形成する。
【0040】
・・・(中略)・・・
【0041】
導波路層16を構成する材料としては,光導波路が形成可能なものであり,下部クラッド層14よりも屈折率の高い材料である有機非線形光学材料(非線形光学ポリマー)を用いることが好ましく,前記のように,高分子の側鎖又は主鎖に,ポリマーに非線形性を付与する目的でクロモフォア構造を導入したものを用いることができる。
【0042】
・・・(中略)・・・
【0050】
次に,図4(E)に示すように,例えば,ドライエッチング法により導波路層16に加工を施し,リッジ型(導波路16Aが上部クラッド層18側へ凸状に突出した形状)の導波路16Aを形成する。
【0051】
・・・(中略)・・・
【0054】
次に,図5(F)に示すように,導波路16Aが形成された導波路層16上に,上部クラッド層18を形成する。上部クラッド層18を構成する材料としては,導波路層16よりも屈折率の低い材料であり,上部クラッド層18形成時に,導波路層とインターミキシングを起こさない材料が好ましく,下部クラッド層14に用いた材料等を用いることができる。また,上部クラッド層18を形成する手段としても,下部クラッド層14の形成に用いた手段を同様に使用することができる。なお,上部クラッド層18の膜厚としては,1μm以上20μm以下の範囲が好ましく,1.5μm以上10.0μm以下の範囲がより好ましい。
【0055】
・・・(中略)・・・
【0056】
次に,図5(G)に示すように,上部クラッド層18の表面に,上部電極層20を形成する。上部電極層20は,例えば,下部電極層12との間に電界が形成されたときに,その形成された電界内に位置する導波路16Aの領域を伝播する光の位相を変化させるとともに,導波路16Aに入射した光の強度が変調されて出射されるような位置に設けられる。
【0057】
ここで,下部電極層12と下部クラッド層14との間,及び上部クラッド層18と上部電極層20との間には,必要に応じて他の層が形成されていてもよく,接着性を向上させるための接着層,表面の凹凸を平滑化するための下引層,あるいはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層,が形成されていてもよい。
【0058】
・・・(中略)・・・
【0060】
次に,図5(H)に示すように,上記の工程により作製された光導波路素子基板(積層体)を,素子状に切断し,素子を完成する。この切断により切断面として,2つの光の入出力端面X1,X2と該入出力端面X1,X2と交わる2つの側端面Y1,Y2とが形成される。切断にはダイサーなどが用いられる。なお,素子状とは,一般的には矩形状のことを指すが,光入出力端面での戻り光を低減することを目的として,菱形状,あるいは台形状に加工する場合も含まれる。さらに,モジュール化のためにパッケージングなどの都合により,羽根状の突起部分,あるいは窪み部分を設けたりすることも含む。
【0061】
ここで,上記光導波路素子100の導波路16Aに,非線形光学効果(電気光学効果)を発現させるためには,ポーリング処理により分子の配向を揃える必要がある。
【0062】
上部電極を形成した後,必要に応じてポーリング処理を行う。ここで該ポーリング処理とは,成膜した後に,ガラス転移温度(Tg)以上に加熱した状態で電場を印加して配向処理することにより,導波路16A(導波路層16)を構成する上記有機非線形材料の分極方向,あるいは,前記クロモフォアを有する有機非線形材料のクロモフォア部分の分極方向,に配向させ,これを維持した状態で,Tg以下に温度を下げた後に電界を取り除く処理をいう。
【0063】
・・・(中略)・・・
【0067】
このように構成された光導波路素子100は,光の変調を行う光変調素子や,スイッチングを行う光スイッチとして用いられる。
【0068】
以上説明した本実施の形態の光導波路素子100では,素子作製時に,素子状に切削するときの切断面と交わる領域の一部又は全部に下部電極層非形成領域12Aを設けて下部電極層12することで,素子端面において,下部電極層12の全部(又は一部)が下部クラッド層14により覆われている,即ち,下部クラッド層14により下部電極層12が埋設された構造となっている。このため,ポーリング処理の際,下部電極層12が素子端面に全て露出している場合に比べ,電圧の印加による電極の放電や静電破壊が抑制されつつ,高い電圧の印加によるポーリング処理が実現される。その結果,有機非線形光学材料の配向度が向上し,より高い有機非線形光学材料の電気光学効果が引き出される。」

ここで,上記段落【0034】?【0054】の記載から,下部クラッド層,導波路層及び上部クラッド層は,いずれも樹脂により形成できることがわかる。

以上を総合すると,引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「基板10上に,下部電極層12,下部クラッド層14,光を伝播する導波路16Aを有する導波路層16,上部クラッド層18,及び上部電極層20を順次備え,2つの光の入出力端面X1,X2と,該入出力端面X1,X2と交わる2つの側端面Y1,Y2とを有しており,当該各面における下部電極層12の全部が下部クラッド層14で覆われ,即ち,下部電極層12が下部クラッド層14により完全に覆われて,下部クラッド層14内に埋設されているものである,光導波路素子100の製造方法であって,
基板10を準備し,基板10上の全面に下部電極層12を形成する工程,
あらかじめ決められた素子の形状にしたがって,後の切断工程による切断により形成される切断面と交わる領域における下部電極層12の全部を除去して,下部電極層非形成領域12Aを設ける工程,
次いで,下部電極層12が形成された基板10上に下部クラッド層14を形成する工程,
次いで,下部クラッド層14上に,有機非線形光学材料(非線形効果を付与したポリマー)を含む導波路層16を形成する工程,
次いで,例えば,ドライエッチング法により導波路層16に加工を施し,リッジ型(導波路16Aが上部クラッド層18側へ凸状に突出した形状)の導波路16Aを形成する工程,
次いで,導波路16Aが形成された導波路層16上に,上部クラッド層18を形成する工程,
次いで,上部クラッド層18の表面に,上部電極層20を形成する工程,
次いで,必要に応じてポーリング処理を行う工程,
次いで,光導波路素子基板(積層体)を,素子状に切断する切断工程の,各工程からなり,
ここで,下部クラッド層14,導波路層16及び上部クラッド層18は,いずれも樹脂により形成できるものであり,
また,下部電極層12と下部クラッド層14との間,及び上部クラッド層18と上部電極層20との間には,必要に応じて他の層が形成されてもよく,接着性を向上させるための接着層,表面の凹凸を平滑化するための下引層,あるいはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層,が形成されてもよい,
光導波路素子100の製造方法。」


(3)引用例3に記載された事項
ア 本願の出願前に日本国内において頒布された文献である引用例3(特開2003-101044号公報)には,図とともに以下の記載がある

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,基板上に形成された光導波路によって伝搬させる伝搬光を同じ基板上に配置された半導体受光素子で受光・検出するための,高い信頼性を有する光導波路と半導体受光素子との接続構造に関するものである。
【0002】
・・・(中略)・・・
【0007】本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,基板上に形成された光導波路を伝搬する伝搬光をこの基板上の光導波路の近傍に配置された半導体受光素子によって受光・検出することができる高い信頼性を有した光導波路と半導体受光素子との接続構造を提供することにある。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の光導波路と半導体受光素子との接続構造は,基板上に形成されたクラッド部およびこのクラッド部中のコア部を有する光導波路を伝搬する伝搬光を,前記基板上の前記コア部の近傍に受光面を前記コア部に略平行にして配置された半導体受光素子で検出するための光導波路と半導体受光素子との接続構造であって,前記半導体受光素子は,半導体受光素子設置用の電極配線を前記基板の上面に埋設することによって表面が略平坦に形成された設置部に設置されていることを特徴とするものである。
【0009】
・・・(中略)・・・
【0013】
【発明の実施の形態】以下,図面に基づいて本発明の光導波路と半導体受光素子との接続構造を詳細に説明する。
【0014】図1および図2は,それぞれ本発明の光導波路と半導体受光素子との接続構造の実施の形態の例を示す断面図である。
【0015】図1に示す例では,基板11上に半導体受光素子設置用の電極配線18を基板11の上面に埋設することによって表面が略平坦に形成された設置部に半導体受光素子12が配置固定されて設置されており,その上に下部クラッド部13・コア部14・上部クラッド部15から構成される光導波路16が形成されている。また,半導体受光素子12の下面に電圧印加用や光電流検出用の電極配線18が形成されている。
【0016】
・・・(中略)・・・
【0020】本発明の接続構造に用いられる光導波路16の形成材料としては,光導波路を形成できる種々の光学材料を用いることができるが,中でもシロキサン系ポリマを用いることが望ましい。シロキサン系ポリマによる光導波路とすれば,下部および上部クラッド部13・15にシロキサン系ポリマを用い,コア部14に金属,例えばチタン(Ti)を含有したシロキサン系ポリマを用いた光導波路16とすることにより,チタン含有量の制御によってクラッド部13・15とコア部14との間で所望の屈折率差を有する光導波路16を容易に作製することができ,半導体受光素子12・22との受光効率が良好となる構造のものを設計することが容易となる。また,100℃?300℃程度の低温で光導波路16を作製することができるので,半導体受光素子12・22を埋設するようにしてこの上に光導波路16を作製する場合でも,半導体受光素子12・22に熱的ダメージを与えることがない。また,下地の表面状態によらず膜表面の平坦化性・平滑化性に優れており,半導体受光素子12・22を埋設するように光導波路16を形成する場合に,散乱損失を招来する表面の凹凸を緩和することができるので好適である。」

以上を総合すると,引用例3には,次の技術事項が記載されていると認められる。
「基板11上に形成されたクラッド部13,15およびクラッド部13,15中のコア部14を有する光導波路16を伝搬する伝搬光を,基板11上のコア部14の近傍に受光面をコア部14に略平行にして配置された半導体受光素子12で検出するための光導波路16と半導体受光素子12との接続構造であって,
基板11上に半導体受光素子設置用の電極配線18を基板11の上面に埋設することによって表面が略平坦に形成された設置部に半導体受光素子12が配置固定されて設置されており,その上に下部クラッド部13・コア部14・上部クラッド部15から構成される光導波路16が形成されており,半導体受光素子12の下面に電圧印加用や光電流検出用の電極配線18が形成されており,
光導波路16の形成材料としては,光導波路を形成できる光学材料としてシロキサン系ポリマを用いることが望ましいものである,
光導波路16と半導体受光素子12との接続構造。」

5 当審の判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1-1とを対比する。
・引用発明1-1の「基板」は,本願発明1の「光配線基板」に相当する。
・引用発明1-1の「絶縁性基板11に設けた溝に」「埋め込んだ」「電気配線17」は,本願発明1の「前記基板上に形成された第1の電極」に相当する。
・引用発明1-1の「電気配線17を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板11に設けた溝に電気配線17を埋め込んだ基板」においては,「電気配線17」を「埋め込んだ基板」の,「電気配線17」の周囲部分は,平坦にするための構成といえるから,当該部分と,本願発明1の「前記基板上の外縁部に形成され,前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された高さ調整部」とは,「前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁を囲むように形成された高さ調整部」である点で一致する。
・引用発明1-1の,「平坦化電気配線17を有する光配線基板上に」「設けられ」た「チャネル光導波路24及びスラブ光導波路26」であって,「ともに下部クラッド層21,コア層22,及び,上部クラッド層23からなるもの」は,「ポリマによって構成しても良いもの」であるから,本願発明1の「前記第1の電極および前記高さ調整部上に形成され,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路」に相当する。
・引用発明1-1の「光偏向素子27の上側に」設けられた「プリズム型電極」は,本願発明1の「前記光導波路上に形成された第2の電極」に相当する。
・引用発明1-1の「電気配線17を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板11に設けた溝に電気配線17を埋め込んだ基板」における,「電気配線17」を「埋め込んだ基板」の,「電気配線17」の周囲部分は,本願発明1の「前記高さ調整部は,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料からなること」とは,「前記高さ調整部は,絶縁性であ」る点で一致する。
・引用発明1-1の「光スイッチ基板」は,本願発明1の「光導波路素子」に相当する。

イ よって,両者は以下の点で一致する。
「基板と,
前記基板上に形成された第1の電極と,
前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁を囲むように形成された高さ調整部と,
前記第1の電極および前記高さ調整部上に形成され,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路と,
前記光導波路上に形成された第2の電極と,
を備え,
前記高さ調整部は,絶縁性である,光導波路素子。」

ウ 一方,両者は以下の点で相違する。
《相違点1》
本願発明1は,「前記基板上の外縁部に形成され,前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された高さ調整部」を備えるが,引用発明1-1においては,「前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁を囲むように形成された高さ調整部」に対応する構成は備えるものの,「高さ調整部」が,「前記基板上の外縁部に形成され,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された」ものであることを備えることまでは明らかでない点。

《相違点2》
本願発明1は「前記第2の電極の端部の下方に位置する前記第1の電極は,前記第2の電極と重ならない領域を有し」との発明特定事項を備えるのに対し,引用発明1-1がそのような構成を備えるのか不明である点。

《相違点3》
本願発明1は「前記高さ調整部は,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料からなること」との発明特定事項を備えるのに対し,引用発明1-1がそのような構成を備えるのか不明である点。

エ 判断
(ア)上記ウのとおり,本願発明1と引用発明1-1との間には相違点1ないし相違点3が存在するから,本願発明1は引用発明1-1とはいえない。

(イ)次に,相違点1について検討する。
引用発明1-1は,「絶縁性基板11に設けた溝に電気配線17を埋め込んだ」構成を備えるところ,引用例1の図3及び図4(更に図6,7をも)参照しても,電極配線17(33)の全周(特に基板端において)が,「高さ調整部」に対応するものによって囲まれているとはいえず,また,「高さ調整部」に対応するものによって,電極配線17(33)の全周を囲むように構成することが,当業者にとって容易になし得たこととはいえない。
従って,相違点1は,周知技術を勘案しても,当業者が引用発明1-1に基づいて容易になし得たこととはいえない。

(ウ)まとめ
よって,相違点2及び3について検討するまでもなく,本願発明1は,周知技術を勘案しても,引用発明1-1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
さらに,引用発明1-2は,引用発明1-1と同じく,「前記第1の電極に隣接して,かつ前記第1の電極の外縁を囲むように形成された高さ調整部」に対応する構成を備える一方,本願発明1に係る「高さ調整部」が,「前記基板上の外縁部に形成され,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された」という構成は備えないから,少なくとも前記相違点1と同じ相違点が存在する。したがって,本願発明1は引用発明1-2とはいえず,また,上記(イ)と同様に,本願発明1は,周知技術を勘案しても,引用発明1-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,本願発明1は,引用例1に記載された発明とはいえず,また,周知技術を勘案しても,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(エ)前置報告書において提示された引用例4について
前置報告書において提示され,上申書においても言及されている引用例4(特開2012-78489号公報)を見ても,その図2(c)には,第2の接地電極22の図示上下方向端部が,素子基板11の同方向端部と一致していると見て取れることから,相違点1に係る「高さ調整部」が,「前記基板上の外縁部に形成され,かつ前記第1の電極の外縁全周を囲むように形成された」構成を備えているとは認められない。
よって,引用例4を参照しても,本願発明1は,周知技術を勘案して,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本願発明2及び3について
本願の請求項2及び3は,請求項1を引用するものであるから,本願発明2及び本願発明3は,本願発明1に係る発明特定事項を含むものである。
そして,前記ア?エで検討したとおり,本願発明1は,引用例1に記載された発明とはいえず,また,周知技術を勘案しても,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,本願発明2及び本願発明3についても,引用例1に記載された発明とはいえず,また,周知技術を勘案しても,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本願発明4について
ア 対比
本願発明4と引用発明2とを対比する。

・引用発明2の「基板10」,「下部電極層12」,「下部クラッド層14」,「導波路層16」,「上部クラッド層18」,及び「上部電極層20」は,それぞれ本願発明4の「基板」,「第1の電極」,「下部クラッド」,「コア」,「上部クラッド」,及び「第2の電極」に相当する。

・引用発明2の「基板10上の全面に下部電極層12を形成する工程」は,本願発明4の「基板上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程」に相当する。

・引用発明2においては,「2つの光の入出力端面X1,X2と,該入出力端面X1,X2と交わる2つの側端面Y1,Y2とを有しており,当該各面における下部電極層12の全部が下部クラッド層14で覆われ,即ち,下部電極層12が下部クラッド層14により完全に覆われて,下部クラッド層14内に埋設されているもの」であって,「あらかじめ決められた素子の形状にしたがって,後の切断工程による切断により形成される切断面と交わる領域における下部電極層12の全部を除去して」いるから,当該引用発明2の構成と,本願発明4の「前記基板上の外縁部において,前記第1の電極に隣接するとともに,前記第1の電極の外縁全周を囲むように高さ調整部を形成する高さ調整部形成工程」とは,「前記基板上の外縁部において,前記第1の電極が露出しないようにする」点で共通する。

・引用発明2の,「下部電極層12が形成された基板10上に下部クラッド層14を形成する工程,次いで,下部クラッド層14上に,有機非線形光学材料(非線形効果を付与したポリマー)を含む導波路層16を形成する工程,次いで,例えば,ドライエッチング法により導波路層16に加工を施し,リッジ型(導波路16Aが上部クラッド層18側へ凸状に突出した形状)の導波路16Aを形成する工程,次いで,導波路16Aが形成された導波路層16上に,上部クラッド層18を形成する工程」の各工程にあっては,「ここで,下部クラッド層,導波路層及び上部クラッド層は,いずれも樹脂により形成できるものであ」るから,当該引用発明2の各工程を合わせた工程と,本願発明4の「前記第1の電極および前記高さ調整部上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程」とは,「前記第1の電極を含む部分上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程」である点で一致する。

・引用発明2の「上部クラッド層18の表面に,上部電極層20を形成する工程」が行われる時点において,「下部クラッド層14,光を伝播する導波路16Aを有する導波路層16,上部クラッド層18」を含む部分,すなわち本願発明4の「光導波路」に相当する部分は既に形成されているから,引用発明2の当該工程は,本願発明4の「前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程」に相当する。

・引用発明2の「光導波路素子100の製造方法」は,本願発明4の「光導波路素子の製造方法」に相当する。

イ よって,両者は次の点で一致する。
「基板上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程と,
前記第1の電極を含む部分上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程と,
前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程と,
を有し,
前記基板上の外縁部において,前記第1の電極が露出しないようにする,光導波路素子の製造方法。」

ウ 一方,両者は次の各点で相違する。

《相違点4》
本願発明4は,「前記基板上の外縁部において,前記第1の電極に隣接するとともに,前記第1の電極の外縁全周を囲むように高さ調整部を形成する高さ調整部形成工程」を備えるのに対し,引用発明2は,「前記基板上の外縁部において,前記第1の電極が露出しないように」してはいるものの,前記「高さ調整部を形成する高さ調整部形成工程」自体を備えない点。

《相違点5》
本願発明4は,「前記第1の電極および前記高さ調整部上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程」を備えるのに対して,引用発明2は,「前記第1の電極を含む部分上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程」に対応する構成は備えるものの,前記《相違点4》のとおり「高さ調整部」自体が形成されないから,「前記高さ調整部上に,…光導波路を形成する光導波路形成工程」する構成までは備えない点。

《相違点6》
本願発明4は,前記光導波路形成工程において,前記高さ調整部を,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成すること

エ 判断
(ア)上記相違点4について検討する。
引用発明2は,「ここで,下部電極層12と下部クラッド層14との間,及び上部クラッド層18と上部電極層20との間には,必要に応じて他の層が形成されてもよく,接着性を向上させるための接着層,表面の凹凸を平滑化するための下引層,あるいはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層,が形成されてもよい」との構成を有するが,当該「表面の凹凸を平滑化するための下引層」が形成されるのは,「下部電極層12と下部クラッド層14との間,及び上部クラッド層18と上部電極層20との間」であって,「下部電極層12と下部クラッド層14との間,及び上部クラッド層18と上部電極層20との間」以外に形成するものではなく,また,引用例2の他の記載から見ても,例えば「基板10」と「下部クラッド層14」との間に「何らかの層」等を形成する旨は読み取れない。
一方,前記4(1)のとおり,引用例1には,引用発明1-2として「電気配線による光結合効率の低下を低減するための電気配線構造に平坦化電気配線33を有する光配線基板を備え, 電気配線33を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板31上に設けた電気配線33の周囲に平坦化絶縁層37を設けた基板」を備える発明が記載されてはいるが,当該発明に係る「平坦化絶縁層37」は,「絶縁性基板31上に設けた電気配線33の周囲に」設けられるものである。
それゆえ,引用発明2に係る「表面の凹凸を平滑化するための下引層」と,引用発明1-2に係る「平坦化絶縁層37」とは,形成される箇所が異なるものであるから,引用発明2において,引用発明1-2に係る「平坦化絶縁層37」を形成する技術を適用すること自体,当業者が容易になし得たこととはいえず,当該適用によって,相違点4に係る「前記基板上の外縁部において,前記第1の電極に隣接するとともに,前記第1の電極の外縁全周を囲むように高さ調整部を形成する高さ調整部形成工程」を備えることもまた,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)まとめ
よって,相違点5及び6について検討するまでもなく,本願発明4は,周知技術を勘案しても,引用発明2及び引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

オ 本願発明5について
本願の請求項5は,請求項4を引用するものであるから,本願発明5は,本願発明4に係る発明特定事項を含むものである。
そして,前記ア?エで検討したとおり,本願発明4は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本願発明5についても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3)本願発明6について
ア 対比
本願発明6と引用発明2とを対比する。

・引用発明2の「基板10」,「下部電極層12」,「下部クラッド層14」,「導波路層16」,「上部クラッド層18」,及び「上部電極層20」は,それぞれ本願発明6の「基板」,「第1の電極」,「下部クラッド」,「コア」,「上部クラッド」,及び「第2の電極」に相当する。

・引用発明2の「基板10上の全面に下部電極層12を形成する工程」は,本願発明6の「前記凹部内に,第1の電極を形成する第1の電極形成工程」とは,「第1の電極を形成する第1の電極形成工程」である点で一致する。

・引用発明2の,「下部電極層12が形成された基板10上に下部クラッド層14を形成する工程,次いで,下部クラッド層14上に,有機非線形光学材料(非線形効果を付与したポリマー)を含む導波路層16を形成する工程,次いで,例えば,ドライエッチング法により導波路層16に加工を施し,リッジ型(導波路16Aが上部クラッド層18側へ凸状に突出した形状)の導波路16Aを形成する工程,次いで,導波路16Aが形成された導波路層16上に,上部クラッド層18を形成する工程」の各工程にあっては,「ここで,下部クラッド層,導波路層及び上部クラッド層は,いずれも樹脂により形成できるものであ」るから,当該引用発明2の各工程を合わせた工程は,本願発明6の「前記第1の電極および前記基板上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程」に相当する。

・引用発明2の「上部クラッド層18の表面に,上部電極層20を形成する工程」が行われる時点において,「下部クラッド層14,光を伝播する導波路16Aを有する導波路層16,上部クラッド層18」を含む部分,すなわち本願発明4の「光導波路」に相当する部分は既に形成されているから,引用発明2の当該工程は,本願発明6の「前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程」に相当する。

・引用発明2の「光導波路素子100の製造方法」は,本願発明6の「光導波路素子の製造方法」に相当する。

イ よって,両者は次の点で一致する。
「第1の電極を形成する第1の電極形成工程と,
前記第1の電極および前記基板上に,ポリマーからなる下部クラッドおよび上部クラッド,並びにポリマーからなるコアで構成される光導波路を形成する光導波路形成工程と,
前記光導波路上に,第2の電極を形成する第2の電極形成工程と,
を有する光導波路素子の製造方法。」

ウ 一方,両者は次の各点で相違する。
《相違点7》
本願発明6は「基板の表面に,凹部を形成する凹部形成工程」であって,
「前記凹部の側壁部は高さ調整部であ」る構成を備えるが,引用発明2はそのような構成を備えない点。

《相違点8》
本願発明6は「前記凹部内に,第1の電極を形成する第1の電極形成工程」を備えるのに対して,引用発明2は「第1の電極を形成する第1の電極形成工程」に対応する構成は備えるものの,「第1の電極を」「前記凹部内に」形成する点までは備えない点

《相違点9》
本願発明6は「前記光導波路形成工程において,前記高さ調整部を,絶縁性であり,かつ,前記下部クラッドのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成する」構成を備えるが,引用発明2はそのような構成を備えない点。

エ 判断
(ア)上記相違点7及び8を併せて検討する。
前記4(1)のとおり,引用例1には,引用発明1-1として,「電気配線による光結合効率の低下を低減するための電気配線構造に平坦化電気配線17を有する光配線基板を備え, 電気配線17を含む表面が平坦な光配線基板が,絶縁性基板11に設けた溝に電気配線17を埋め込んだ基板」を備える発明が記載されており,また,前記4(3)のとおり,引用例3には「基板11上に半導体受光素子設置用の電極配線18を基板11の上面に埋設することによって表面が略平坦に形成された設置部に半導体受光素子12が配置固定され」る技術が記載されている。
ここで,引用発明2においては,基板10の表面に下部電極層12を形成した上に,下部クラッド層14,光を伝播する導波路16Aを有する導波路層16,及び上部クラッド層18を形成するものであるところ,引用例2には,当該形成にあたり,下部電極層12が形成された基板10に形成された凹凸について特段の指摘はされていないから,特に前記凹凸に対応する動機が生ずるとはいえない。
特に,引用例3における「【0020】本発明の接続構造に用いられる光導波路16の形成材料としては,光導波路を形成できる種々の光学材料を用いることができるが,中でもシロキサン系ポリマを用いることが望ましい。・・・(中略)・・・。また,下地の表面状態によらず膜表面の平坦化性・平滑化性に優れており,半導体受光素子12・22を埋設するように光導波路16を形成する場合に,散乱損失を招来する表面の凹凸を緩和することができるので好適である。」との記載を参照すると,光導波路をポリマにより構成することにより,基板側に配されるポリマからなるクラッド層によって表面凹凸の緩和を図ることができることが明らかである。ここで,引用発明2に係る「下部クラッド層14,導波路層16及び上部クラッド層18は,いずれも樹脂」(すなわちポリマー)「により形成できるものであ」るから,上記引用例3の記載からみても,引用発明2において,当該各層を樹脂により形成したものにあっては,平坦化する動機が生ずるとはいえない。
よって,引用発明2において,引用例1または引用例3に記載された技術を適用することは,当業者が容易になし得たこととはいえず,また,当該適用により相違点7及び8に係る構成を備えることもまた,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)まとめ
よって,相違点9について検討するまでもなく,本願発明6は,周知技術を勘案しても,引用発明2並びに引用例1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ 本願発明7について
本願の請求項7は,請求項6を引用するものであるから,本願発明7は,本願発明6に係る発明特定事項を含むものである。
そして,前記ア?ウで検討したとおり,本願発明6は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本願発明7についても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり,本願の請求項1?7に係る発明は,周知技術を勘案して引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-19 
出願番号 特願2014-74245(P2014-74245)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02F)
P 1 8・ 121- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂上 大貴岸 智史林 祥恵  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 近藤 幸浩
野村 伸雄
発明の名称 光導波路素子およびその製造方法  
代理人 萩原 綾夏  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 西澤 和純  

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