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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1349275
審判番号 不服2017-12856  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-30 
確定日 2019-03-12 
事件の表示 特願2012- 66834「表示素子前面用フィルムおよび表面部材付き表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日出願公開、特開2013-200332、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年3月23日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 3月 1日付け:拒絶理由通知書
平成28年 5月 9日:意見書、手続補正書の提出
平成28年10月24日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知
平成28年12月22日:意見書、手続補正書の提出
平成29年 5月23日付け:平成28年12月22日提出の手続補正についての補正却下の決定
平成29年 5月23日付け:拒絶査定(以下、当該拒絶査定を「原査定」といい、原査定における拒絶の理由を「原査定拒絶理由」という。)
平成29年 8月30日:審判請求書の提出
平成29年 8月30日:手続補正書の提出
平成29年 9月 1日:手続補正書(審判請求書の補正)の提出
平成30年 6月22日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月14日:意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月19日付け:拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
平成30年11月16日:意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定拒絶理由の概要は次のとおりである。

本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例A:特開平9-265004号公報
引用例B:特開2010-66761号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:特開2002-98809号公報
引用例2:特開2010-66761号公報(原査定時の引用例B)
引用例3:特開平10-217380号公報
引用例4:特開2005-265863号公報
引用例5:特開平10-282312号公報
引用例6:特開平10-73719号公報

第4 本件発明
本件出願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、平成30年11月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルムであって、
透明基材上に機能層を有してなり、
前記機能層はバインダー成分およびマット剤を含み、
前記バインダー成分は、電離放射線硬化型樹脂と、ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である熱可塑性樹脂とを含み、前記バインダー成分中における各成分の重量割合が、前記電離放射線硬化型樹脂が50重量%以上71重量%以下、前記熱可塑性樹脂の重量割合が29重量%以上50重量%以下であり、
前記マット剤は、粒子径分布の変動係数が15%以下である、
表示素子前面用フィルムの全光線透過率(JISK7361-1:1997)が90%以上、ヘーズ(JIS K7136:2000)が10%以下
であることを特徴とする表示素子前面用フィルム。
【請求項2】
前記マット剤の含有量が、前記バインダー成分100重量部に対して0.35重量部以上1重量部以下であることを特徴とする請求項1記載の表示素子前面用フィルム。
【請求項3】
前記マット剤の平均粒子径が0.5?10μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の表示素子前面用フィルム。
【請求項4】
前記機能層が防眩層またはニュートンリング防止層であることを特徴とする請求項1から3何れか1項記載の表示素子前面用フィルム。
【請求項5】
表示素子上に表面部材を有してなり、前記表面部材の少なくとも一部に、請求項1から4何れか1項記載の表示素子前面用フィルムを含むことを特徴とする表面部材付き表示素子。」

第5 引用例の記載及び引用発明
1 引用例1の記載
当審拒絶理由において引用された引用例1(特開2002-98809号公報)には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様)。
(1) 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光拡散性シートに関し、特に液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する光拡散性シートに関する。
【0002】
【従来の技術】近年急速に発展している液晶ディプレイに用いられる液晶表示ユニットの後ろ側にあって表示画像の輝度を向上させるバックライトユニットには、その正面輝度を向上させつつ広い視野角を付与するために、光拡散性シートが用いられている。
【0003】このような光拡散性シートとしては、広い視野角を付与しつつ正面方向への輝度を向上させるものであることが望まれており、一般には支持体上に光拡散層やバックコート層を設けた構造をしている。また、この光拡散性シートは、液晶ディスプレイの表示品質を低下させるような塵や埃等が表面に付着しづらくなるように、帯電防止性を有していることが要求され、光拡散層やバックコート層の表面に帯電防止剤を塗布して帯電防止性を付与しているものが一般に用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような帯電防止性を有する光拡散性シートであっても、低湿環境下等においてはその帯電防止性が低下したりする場合もあり、必ずしも塵や埃等を完全に付着させなくすることはできず、バックライトユニットに組み込む前の検品時等において塵や埃等を付着させてしまうことが起り、非常に歩留まりを低下する原因となっている。
【0005】また、光拡散性シートは、製造された後バックライトユニットに組み込まれるまでの間に積み重ねられて搬送されたりすることで、光拡散層及びバックコート層のいずれか一方又は双方の表面を傷つけてしまい、歩留まりを低下させる原因となっている。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、これら歩留まりを低下させる問題を解決するため、一旦付着した塵や埃等を何らかの方法で除去できないかと鋭意検討したところ、洗浄液中で超音波洗浄することによって有効に除去することができることを突き止めたが、それに伴い表面処理した帯電防止性も失ってしまうという問題に突き当たった。そこで、一旦付着した塵や埃等を超音波洗浄等によって除去しても、帯電防止性を失わない光拡散性シートを得られないものかと更に研究を進めたところ、光拡散性シートの表面層として特定の組成物を用いて形成したものを用いることによって、一旦付着した塵や埃等を超音波洗浄等によって除去しても帯電防止性を失わず、更には積み重ねて搬送しても光拡散層やバックコート層の表面に傷の付き難い耐擦傷性を有する光拡散性シートを完成するに至り、歩留まり低下の問題を解決する本発明をするに至った。
【0007】即ち、本発明の光拡散性シートは、少なくとも一方の表面層が電離放射線硬化性組成物から形成されてなる光拡散性シートであって、該電離放射線硬化性組成物が、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有するものであることを特徴とするものである。」

(2) 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の光拡散性シート1について、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0009】本発明の光拡散性シート1は、光拡散性シートの少なくとも一方の表面層3、4が、特定の電離放射線硬化性組成物を用いて形成されてなるものである。そして、当該表面層3、4としては、例えば、透明支持体2上の少なくとも一方の表面に設けられる光拡散層31自体若しくは必要に応じて設けるそのオーバーコート層32又は必要に応じて光拡散層31を設けない面に設けるバックコート層41等の光拡散性シート1の少なくとも一方の表面に有する層であれば何れの層であってもよい。尚、ここで光拡散層31とは、透明支持体2の片面ないし両面に設けられることで、光拡散性シート1に、バックライト等からの入射光を液晶表示ユニット等の表面方向へ向ける集光性、及び液晶ディスプレイとしての適当な視野角が得られる光拡散性を付与する役割を担う層であり、電離放射線硬化性組成物等のバインダー成分に光拡散剤等を含有せしめたものを被膜化する等により得ることができるものである。また、必要に応じて設けるそのオーバーコート層32とは、上記光拡散層31の役割を損なわない範囲で設ける光拡散層31の表面処理層である。また、必要に応じて設けるバックコート層41とは、光拡散層31の役割を損なわない範囲で光拡散層31を設けない面に設けて、必要に応じてマット化剤等を含有してニュートンリング防止効果等を備える層である。
【0010】ここで、特定の電離放射線硬化性組成物とは、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有するものである。このような電離放射線硬化性組成物は、必要に応じて添加する光重合開始剤、光拡散剤、マット化剤等の添加剤や希釈溶媒によって調製されて塗料化した後、従来公知のコーティング方法によって塗布し、乾燥、硬化することにより被膜化することで表面層3、4として使用されるものであり、表面層において光拡散剤等を保持するためのバインダー成分になると共に、表面層3、4に帯電防止性及び耐擦傷性を付与する役割を担うものである。
【0011】このような電離放射線硬化性組成物は、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体に有する(メタ)アクリロイル基と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとの、ラジカル反応によって3次元網目構造に架橋することにより被膜硬度が上昇し、高い耐擦傷性を有する表面層が得られるものである。これによって、当該重合体に有する4級アンモニウム塩基部分及びオルガノポリシロキサン部分が被膜表面から遊離することをも抑えられ、超音波洗浄する等にもかかわらず長期にわたって帯電防止性が持続し、且つ滑り性を付与して耐擦傷性をより向上する。また、当該重合体は、その分子内にオルガノポリシロキサン骨格を有することによって、表面エネルギーが低くなっている。そのため当該重合体は、その表面エネルギーの低さから、当該組成物を塗布、乾燥して硬化させるまでの間に被膜表面に移行して、被膜内部よりも被膜表面に多く存在することになる。すると、当該組成物中における当該重合体の占める割合を少なくして、表面層を電離放射線硬化させて被膜硬度を高くしても、十分な帯電防止性と滑り性を付与することができるようになるものである。
・・・略・・・
【0013】また、本発明の電離放射線硬化性組成物を構成する多官能(メタ)アクリレートは、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に限定されず、アクリレート基かメタクリレート基のいずれか一方のみを有するものであってもよいし、両方を有するものであってもよい。好ましいのは反応性が高いことから、アクリレート基を有する化合物である。この分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート・・・略・・・を挙げることができる。
・・・略・・・
【0014】ここで電離放射線硬化性組成物を塗料化して被膜化した表面層3、4に十分な帯電防止性及び滑り性を付与させるためには、塗料中のバインダー成分100重量%における、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体の割合を、1重量%以上とすることにより得ることができるようになる。これは上述したように、当該重合体が、オルガノポリシロキサン骨格を有することによる表面エネルギーの低さを利用して、被膜内部から被膜表面に移行する性質を利用しているからである。従って、そのような性質を阻害しないものであれば、電離放射線硬化性組成物には他のバインダー成分を含有することも特に問題ない。例えば、分子内に1個ないし2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートや、電離放射線硬化性を持たない熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含有することが可能である。尚、このような他のバインダー成分の含有量としては、電離放射線硬化性組成物の役割を損なわせない観点から、バインダー成分中の50重量%以下が好ましく、より好ましくは25重量%以下が望ましい。
【0015】また、必要に応じて電離放射線硬化性組成物中に添加する光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル・・・略・・・等が挙げられ、これらの光重合開始剤は2種以上を適宜に併用することもできる。
【0016】また、必要に応じて電離放射線硬化性組成物中に添加する光拡散剤やマット化剤としては、シリカ・・・略・・・等の無機系の微粒子の他、ポリメチルメタクリレート・・・略・・・等の有機系の微粒子が好適に使用される。
【0017】適宜これら添加剤が添加された電離放射線硬化性組成物に必要に応じて希釈溶媒を使用して塗料化したものを、従来公知のコーティング方法等によって、透明支持体2上に塗布、乾燥、硬化することにより被膜化することで、本発明の機能を発揮する表面層を少なくとも一方の表面に有する光拡散性シート1が得られる。ここで透明支持体2としては、ポリエチレンテレフタレート・・・略・・・などを用いることができる。」

(3) 「【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。尚、「部」「%」は特記しない限り重量基準である。
・・・略・・・
【0022】[実施例2]厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2(ルミラーT-60:東レ社)の一方の表面に、次の組成の光拡散層用塗料を塗布し、加熱乾燥硬化させることにより、被膜厚み約12μmの光拡散層31を形成し、次いでその光拡散層31上に次の組成のオーバーコート層用塗料を塗布、乾燥し、窒素雰囲気下で高圧水銀灯により紫外線を照射することにより、被膜厚み1μm以下のオーバーコート層32を形成した。更にもう一方の表面に、次の組成のバックコート層用塗料を塗布、乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射することにより硬化させ、被膜厚み約8μmのバックコート層41を形成して、図1の光拡散性シート1を作製した。
【0023】<光拡散層用塗料>
・アクリルポリオール(アクリディックA807<固形分50%>:大日本インキ化学工業社) 10.0部
・イソシアネート(タケネートD110N<固形分60%>:武田薬品工業社) 2.0部
・光拡散剤(PMMA微粒子、テクポリマーMBX-8<平均粒子径8μm>(当合議体注:「<平均粒子径8μm)」は「<平均粒子径8μm>」の誤記である。):積水化成品工業社) 10.0部
・メチルエチルケトン 18.0部
・酢酸ブチル 18.0部
【0024】<オーバーコート層用塗料>
・4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物(ユピマーUV H6000DS<固形分35%>:三菱化学社)85.7部
・光重合開始剤(イルガキュア651:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社) 0.9部
・イソプロピルアルコール 14.3部
【0025】<バックコート層用塗料>
・4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物(ユピマーUV H6000DS<固形分35%>:三菱化学社)85.7部
・光重合開始剤(イルガキュア651:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社) 0.9部
・熱可塑性アクリル樹脂(アクリディックA-195<固形分40%>:大日本インキ化学工業社) 25.0部
・マット化剤(PMMA微粒子、MX-500KS<平均粒子径5μm>:綜研化学社) 0.1部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 40.0部
【0026】[比較例1]厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2(ルミラーT-60:東レ社)の一方の表面に、実施例2の組成の光拡散層用塗料を塗布し、加熱乾燥硬化させることにより、被膜厚み約12μmの光拡散層31を形成し、次いでその光拡散層31上に次の組成のオーバーコート層用塗料を塗布、乾燥させることにより、被膜厚み1μm以下のオーバーコート層32を形成した。更にもう一方の表面に、次の組成のバックコート層用塗料を塗布、乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射することにより硬化させ、被膜厚み約8μmのバックコート層41を形成して、光拡散性シート1を作製した。
【0027】
<オーバーコート層用塗料>
・界面活性剤型帯電防止剤(スタチサイド 固形分60%:アナリティカル・ケミカル・ラボラトリズ社) 1.0部
・メタ変性アルコール 199.0部
・蒸留水 100.0部
【0028】<バックコート層用塗料>
・紫外線硬化型アクリル樹脂(ユニディック17-813<固形分80%>:大日本インキ化学工業社) 37.5部
・熱可塑性アクリル樹脂(アクリディックA-195<固形分40%>:大日本インキ化学工業社) 25.0部
・光重合開始剤(イルガキュア651:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社) 0.5部
・マット化剤(PMMA微粒子、MX-500KS<平均粒子径5μm>:綜研化学社) 0.1部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 88.2部
【0029】実施例及び比較例で得られた光拡散性シート1の超音波洗浄前後における帯電防止性、及び表面層3、4の耐擦傷性についての評価を以下のように行った。
【0030】[帯電防止性]光拡散層31若しくはそのオーバーコート層32、及びバックコート層41の表面について、温度20℃、湿度60%RHの環境下における表面抵抗率を高抵抗測定機(3329A:ヒューレットパッカード社)で測定した。尚、結果を表1に示す。
【0031】[耐擦傷性]実施例及び比較例で得られた光拡散性シート1を2枚用意し、その表面層3(光拡散層31若しくはそのオーバーコート層32)と表面層4(バックコート層41)を、1kPaの圧力で、5m/minの速度で擦り合わせた際に、表面層3、4への傷付き具合で評価を行い、傷付かなかったものを「○」とし、傷付いたものを「×」として評価したものを表1に示す。
【0032】
【表1】


【0033】表1の結果からも明らかなように、実施例1、2の光拡散性シートは超音波洗浄前後においてその表面抵抗率が変化せず、超音波洗浄後においても帯電防止性が持続しており、また、表面層が傷付き難いものであった。
【0034】一方、比較例の光拡散性シートは、超音波洗浄後に表面抵抗率が上昇し、帯電防止性を失っており、且つ表面層が傷付き易いものであった。
【0035】
【発明の効果】従って、本発明の光拡散性シートによれば、光拡散性シートの少なくとも一方の表面層を、4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物を用いて形成することにより、表面に一旦付着した塵や埃等を超音波洗浄等によって除去しても帯電防止性を失わず、更には積み重ねて搬送しても光拡散層やバックコート層の表面に傷が付き難いために、歩留まりを低下させない光拡散性シートを提供することができる。
【0036】また、本発明の光拡散性シートは、表面層が滑り性を有しているために、光拡散性シートをバックライトユニットに組み込んだ後においても、その滑り性の利点から、他のバックライトユニット部材(導光板、プリズムシート、偏光フィルム等)と擦れ会った際にも、当該他の部材表面を傷付けることがないという効果をも発揮するものである。」

(4) 「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の光拡散性シートの一実施例を示す断面図。
【図2】 本発明の光拡散性シートの他の実施例を示す断面図。
【符号の説明】
1・・・・・光拡散性シート
2・・・・・透明支持体
3・・・・・表面層
31・・・・光拡散層
32・・・・オーバーコート層
4・・・・・表面層
41・・・・バックコート層」

(5) 「【図1】



2 引用発明1
(1) 引用例1(特に、段落【0001】?【0004】、【0007】?【0010】、【0022】?【0025】、【0030】?【0032】、【0036】、図1等)には、[実施例2]として、「厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2」「の一方の表面に」、段落【0023】に記載された「組成の光拡散層用塗料を塗布し、加熱乾燥硬化させることにより、被膜厚み約12μmの光拡散層31を形成し、次いでその光拡散層31上に」、段落【0024】に記載された「組成のオーバーコート層用塗料を塗布、乾燥し、窒素雰囲気下で高圧水銀灯により紫外線を照射することにより、被膜厚み1μm以下のオーバーコート層32を形成し」、「もう一方の表面に」、段落【0025】に記載された「組成のバックコート層用塗料を塗布、乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射することにより硬化させ、被膜厚み約8μmのバックコート層41を形成して」「作製」された「光拡散性シート1」が記載されている。

(2) 引用例1の段落【0001】によれば、[実施例2」の「光拡散性シート1」は、「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する」ものである。

(3) 引用例1の段落【0009】によれば、[実施例2]の「バックコート層41」は、「光拡散層31の役割を損なわない範囲で光拡散層31を設けない面に設け」られ、「マット化剤」「を含有してニュートンリング防止効果」「を備える層である」。
また、引用例1の段落【0009】によれば、[実施例2]の「オーバーコート層32」は、「光拡散層31の役割を損なわない範囲で設ける光拡散層31の表面処理層である」。

(4) 上記1(1)?(5)及び上記(1)?(3)より、引用例1には、「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する」「光拡散性シート1」として、以下のものが記載されているものと認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する光拡散性シート1であって、
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2の一方の表面に、以下の組成の光拡散層用塗料を塗布し、加熱乾燥硬化させることにより、被膜厚み約12μmの光拡散層31を形成し、次いでその光拡散層31上に、以下の組成のオーバーコート層用塗料を塗布、乾燥し、窒素雰囲気下で高圧水銀灯により紫外線を照射することにより、被膜厚み1μm以下のオーバーコート層32を形成し、もう一方の表面に、以下の組成のバックコート層用塗料を塗布、乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射することにより硬化させ、被膜厚み約8μmのバックコート層41を形成して作製され、
オーバーコート層32は、光拡散層31の役割を損なわない範囲で設ける光拡散層31の表面処理層であり、
バックコート層41は、光拡散層31の役割を損なわない範囲で光拡散層31を設けない面に設けられ、マット化剤を含有してニュートンリング防止効果を備える層である、
光拡散性シート1。
<光拡散層用塗料>
・アクリルポリオール(アクリディックA807<固形分50%>:大日本インキ化学工業社) 10.0部
・イソシアネート(タケネートD110N<固形分60%>:武田薬品工業社) 2.0部
・光拡散剤(PMMA微粒子、テクポリマーMBX-8<平均粒子径8μm>:積水化成品工業社) 10.0部
・メチルエチルケトン 18.0部
・酢酸ブチル 18.0部
<オーバーコート層用塗料>
・4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物(ユピマーUV H6000DS<固形分35%>:三菱化学社)85.7部
・光重合開始剤(イルガキュア651:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社) 0.9部
・イソプロピルアルコール 14.3部
<バックコート層用塗料>
・4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と、分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物(ユピマーUV H6000DS<固形分35%>:三菱化学社)85.7部
・光重合開始剤(イルガキュア651:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社) 0.9部
・熱可塑性アクリル樹脂(アクリディックA-195<固形分40%>:大日本インキ化学工業社) 25.0部
・マット化剤(PMMA微粒子、MX-500KS<平均粒子径5μm>:綜研化学社) 0.1部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 40.0部」

3 引用例Aの記載
原査定拒絶理由において引用された引用例A(特開平9-265004号公報、当審拒絶理由における引用例2)には、以下の事項が記載されている。
(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光拡散性を有する光学フィルムに関し、特に液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適な光学フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ラップトップ及びノート型パソコン、ワープロ、モノクロ及びカラー液晶テレビ等の各種表示装置のバックライトとして用いられる面光源装置として図4に示すようなものがある。
【0003】この面光源装置は、エッジライト方式と呼ばれるもので、導光板20の側端面より管状光源30からの光を入射させ、光散乱パターンが設けられた導光板20をそのパターン状に光らせるようにしており、このパターンを隠すために導光板20の光出射面20a側に光拡散性シート10を設けるようにしている。
【0004】このような光拡散性シート10としては、従来より光線透過率が良いこと、導光板の光散乱パターンを隠すことができること、演色性が良いこと等が要求されており、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等に無機系或いは有機系の光拡散剤を均一に分散し板状に成型したものや、ポリエステルフィルム等の薄いフィルムに光拡散剤含有の透明性樹脂溶液を塗布したものがある。
【0005】またカラー液晶表示装置では、特に充分な明るさを得ることが必要であるために、導光板より出射された光をできるだけ正面方向に出射させるプリズムレンズと光拡散シートとを組合せたものがある。このような面状光源装置では、導光板の光出射面側にプリズムレンズと光拡散シートが積層されるため、光拡散シートとしては一層の光透過性が要求される。しかし上述したように光拡散剤を含有せしめた光拡散シートでは、充分な光拡散効果を得るために少なくとも光拡散層を形成する樹脂100に対し150重量%程度の光拡散剤を含有せしめており、高い光透過性を得ることができない。
【0006】このため高い光透過性の要求される用途では、光拡散シートとしてポリカーボネート等の高透明性の樹脂の表面をエンボス加工することによって光拡散性を得るようにしたものが使用されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような光拡散シートを製造するためには、エンボス加工のための金属ロールを製造する必要があり、製造コストを押し上げる。また一度、金属ロールを作製してしまうとエンボスによる凹凸の程度を容易に調整することはできず、種々の光拡散性を有する光拡散シートを製造するためには、高価な金属ロールを要求される光拡散性に応じて作製しなければならない。さらに一般にポリカーボネート等の高透明性樹脂フィルムの表面はぎらつきを生じるという問題もある。
【0008】従って本発明は、光透過性が高くしかも充分な光拡散性を有する光学フィルムを提供することを目的とする。また本発明は、光拡散剤の極めて少ない添加で所望の光拡散性を得ることができ、製造が容易で低コストの光学フィルムを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決しようとする手段】本発明者らは、このような目的を達成するため、樹脂と光拡散剤との組合せについて鋭意研究するとともに、光拡散性の評価方法について検討した。その結果、光拡散性の評価方法として従来より用いられているヘイズ値は、光透過性の減少に伴いその値が増加する傾向があり、同等の光拡散性を示す材料であっても光透過性の低い材料の方が高いヘイズ値となるのに対し、写像性(像鮮明度)を用いることにより光拡散性をより正確に評価できること、そして光透過性及び光拡散性の2つの要請を満たす材料の評価方法として像鮮明度が最適であることを見出した。またかかる評価方法を採用して、光透過性及び光拡散性に優れた光学フィルムを提供し得る樹脂と光拡散剤との組合せについて研究した結果、電離放射線硬化型樹脂に顔料を含有せしめて層形成することにより、層表面に顔料による凹凸以外の「うねり」(波状の凹凸)を生じ、顔料の含有量が極めて少なくてもエンボスによる凹凸と同様の凹凸を形成でき、結果として光拡散性を高めることができることを見出し本発明に至った。
【0010】即ち本発明の光学フィルムは、透明な支持体とこの支持体の少なくとも片面上に形成された光拡散層とを備え、光拡散層はバインダーとして電離放射線硬化型樹脂と該バインダー中に分散された光拡散剤とを含むものである。
【0011】本発明において光拡散剤は、従来の光拡散剤(ビーズ)のようにバインダーと光拡散剤との屈折率との差によって光拡散性を高めるというよりは、光拡散剤の少なくとも一部が光拡散層表面から突出することにより、バインダー表面に「うねり」を生じさせ光拡散性を高める効果を与える。従って、光拡散剤の材料は特に限定されないが、光拡散剤は、少なくともその一部が光拡散層の表面から突出していることが望ましい。これにより少ない光拡散剤の含有量で光拡散性を上げることができ、その結果、光拡散層の透明性を高めることができる。」

(2) 「【0012】
【発明の実施の形態】本発明の光学フィルムにおける支持体としては、実質的に透明なフィルムであればプラスチックフィルム、ガラス等を使用できる。
・・・略・・・
【0013】支持体の厚さは特に限定されないが、本発明の光学フィルムを光拡散シートとして用いる場合、50?200μm程度である。
【0014】光拡散層は、バインダーとバインダー中に分散された光拡散剤とからなり、バインダーとして電離放射線硬化型樹脂を含むものを用いる。ここで電離放射線硬化型樹脂とは、光重合性プレポリマー、光重合性モノマー、光重合開始剤を含む電離放射線硬化塗料を電子線或いは紫外線照射により硬化することにより形成されるものである。
【0015】一般に光拡散層として熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に光拡散剤粒子を分散させた場合、図1(a)に示すように光拡散層2から出射する光は、光拡散層2を透過する光の方向が一様であるとした場合、平坦な層の表面から出射する光は同方向に出射されるが、樹脂3’の表面から突出する光拡散剤粒子4があるとそこから出射する光は種々の方向に出射し、光拡散効果を生じる。この場合、光拡散剤粒子4が多いほど拡散性が高くなる。これに対し、光拡散層の樹脂として電離放射線硬化型樹脂3を用いた場合には、同図(b)に示すように光拡散剤粒子の周囲に「うねり」(波状の凹凸)を生じ、このうねりが更に光拡散層表面の光拡散性を増加させる。
【0016】また電離放射線硬化型樹脂は、透明性が高いので本発明の光学フィルムの光透過性を高め、更に硬化後の硬度が高いので光学フィルムの耐久性を向上させることができ、傷がつきにくくハンドリング性を向上させることができる。
【0017】電離放射線硬化型塗料に含まれる光重合性プレポリマーは、骨格中に導入された官能基が電離放射線照射されることによりラジカル重合及び/またはカチオン重合するものであり、特にラジカル重合により硬化するものは硬化速度が速く、樹脂設計の自由度も大きいため好ましい。
・・・略・・・
【0022】電離放射線硬化型樹脂の成分として、上記光重合性プレポリマー、光重合性モノマー及び光重合開始剤の他、・・・略・・・等の添加剤を含有させることができる。
【0023】このような電離放射線硬化型樹脂は、光拡散層を形成するバインダー樹脂の25重量%以上含まれることが好ましく、更に好適には50重量%以上、より好適には75重量%以上とする。
【0024】更に光拡散層を形成する樹脂としては、電離放射線硬化型樹脂の他、・・・略・・・ポリカーボネート、熱可塑性アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等の熱可塑性樹脂を含ませることができる。但し、これら熱硬化型樹脂或いは熱可塑性樹脂の含有量は、電離放射線硬化型樹脂の「うねり」の生成を阻害しないために、光拡散層を形成する樹脂全体に対し75重量%を超えない範囲とすることが好ましい。
【0025】光拡散層に含有される光拡散剤としては、酸化チタン・・・略・・・等の無機系顔料およびポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズ・・・略・・・等の合成樹脂ビーズを単独で或いは2種類以上を混合して用いることができる。
【0026】これら光拡散剤の粒径は、光拡散層の厚さとの関係で適宜選択されるが、通常平均粒径1μm?30μm程度のものが用いられ、特に粒径の分布範囲が狭い方が好ましい。本発明において光拡散剤は、少なくともその一部が光拡散層表面から突出することにより、光拡散性を高める効果を与えるので、平均粒径は、少なくとも光拡散剤の一部が光拡散層の表面から突出するような大きさとすることが必要である。これにより少ない光拡散剤の含有量で光拡散性を上げることができ、これにより光拡散層の透明性を高めることができる。これに対し粒径が小さく光拡散剤が光拡散層内に埋れてしまう場合には、光拡散剤によって電離放射線硬化型樹脂表面に「うねり」を生じさせる効果を得ることができない。また粒径分布が広く、光拡散層のバインダー中に埋れてしまう光拡散剤粒子の割合が多くなる場合には、含有量を多くしなければ所期の効果を得ることができないので、粒径の揃ったものの方が好ましい。
【0027】本発明の光学フィルムでは、上述のように光拡散剤粒子それ自体によるマット効果に加え、これら粒子による樹脂の「うねり」により光拡散効果を付与されるので、光拡散剤の添加量は、通常の光拡散層に加えられる顔料の添加量(通常樹脂100に対し150重量%)に比べ大幅に少なくすることができる。具体的には100重量%以下、好適には50重量%以下、更に好適には20重量%以下とすることができる。また本発明の効果を得るためには、少なくとも0.1重量%、好適には0.5重量%以上、更に好適には1.0重量%以上添加する。このような範囲で、高い透明性と充分な光拡散効果を得ることができる。具体的には、JIS K7105の透過法による像鮮明度(スリット2mm)で、30以下とすることが可能であり、しかもフィルム全体の全光線透過率を90%以上とすることができる。
【0028】本発明において採用した光拡散性の評価方法(JIS K7105の透過法による像鮮明度)は、図2に示すようなクラリティメータを用い、50×50mmの試料5に垂直に光を当て、試料を透過する光源6からの光を、図中矢印方向に移動する光学くし7(スリット幅0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を通して測定することによって求める。この透過する光(受光器8が受光する光)は、試料がない場合には、光学くしのスリットのある部分が通過するときに100%となり、スリットのない部分が通過するとき100%光が遮断され0%となるので、受光器の受光波形は、図3(a)のようになる。これに対し試料がある場合には、図3(b)に示すように、スリットがある場合でも試料の光拡散性によって100%とはならず、最高波高M(100>M)%となり、またスリットがない場合でも0%とはならず、最低波高m(m>0)%となる。像鮮明度Cは、これらM及びmから、次式
C={(M-m)/(M+m)}×100
により求める。
・・・略・・・
【0030】光拡散層の厚さは、光拡散剤との関係でバインダー部分の厚さが光拡散剤の粒径よりも薄いことが好ましく、1?30μm程度とする。
・・・略・・・
【0032】以上のように構成される本発明の光学フィルムは、面光源装置の光拡散性シートとして用いられる他、またプリント基板作製時の露光機に使用されるカバーフィルム、写真製版のスキャナによる色分解時に使用されるオーバーレイフィルム、印画紙等の保護フィルムとしても使用できる。」

(3) 「【0033】
【実施例】以下に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
実施例1
ポリエステルフィルム(厚さ100μm易接着処理フィルム、ダイヤホイル○300E:ダイヤホイルヘキスト社)の片面に、下記の処方の光拡散層用塗布液を厚さ1.9μm、2.6μm及び3.4μmとなるように塗布し、高圧水銀灯により紫外線を1?2秒照射して、光拡散層を有する光学フィルムを製造した。
【0034】光拡散層用塗布液の処方:
紫外線硬化型アクリル樹脂(固形分80%) 100重量部
(ユニディック17-813:大日本インキ化学工業社)
光重合開始剤 1重量部
(イルガキュア651:チバガイギー社)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 200重量部
光拡散剤(平均粒径5μm) 1.6重量部
(PMMAビーズ、MX-500KS:綜研化学社)
片面に光拡散層を有し、それぞれ光拡散層の厚さの異なる3つの試料について、光拡散層面に光を入光した場合の像鮮明度(JIS K7105による透過法、スリット幅2.0mm)を測定した。また同じ試料について全光線透過率を測定した。像鮮明度測定の結果を表1に、また全光線透過率測定の結果を表2にそれぞれ示した。
実施例2
光拡散層用塗布液の樹脂処方を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして片面に光拡散層に有する光学フィルムを製造し、その像鮮明度及び全光線透過率を測定した。結果を併せて表1及び表2に示す。
【0035】光拡散層用塗布液の処方:
熱可塑性アクリル樹脂(固形分40%) 50重量部
(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)
紫外線硬化型アクリル樹脂(固形分80%) 75重量部
(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)
光重合開始剤 1重量部
(イルガキュア651:チバガイギー社)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 175重量部
光拡散剤(平均粒径5μm) 1.6重量部
(PMMAビーズ、MX-500KS:綜研化学社)
実施例3、4及び比較例1
実施例2の熱可塑性アクリル樹脂と紫外線硬化型アクリル樹脂との割合を表1に示すように変えて、その他は実施例1と同様にして片面に光拡散層を有する光学フィルムを製造し、その像鮮明度及び全光線透過率を測定した。結果を併せて表1及び表2に示す。
・・・略・・・
【0036】
【表1】


尚、表1及び表2においてUVは紫外線硬化型アクリル樹脂を、TPは熱可塑性アクリル樹脂を表す。
【0037】表1に示す結果からもわかるように、光拡散層の樹脂として紫外線硬化型アクリル樹脂を用いた場合には(実施例1?4)、樹脂中における紫外線硬化型アクリル樹脂の含有量が増加するに伴い、像鮮明度が低下し、光拡散性が上がっていることが認められた。特に紫外線硬化型アクリル樹脂の含有量が50重量%を超えると大幅に光拡散性が向上した。これに対し、光拡散層の樹脂として熱可塑性樹脂のみを用いた場合には(比較例1)、光拡散剤を全く含まない場合(参考例)と比較して、像鮮明度の変化が少なかった。
【0038】また紫外線硬化型アクリル樹脂を100重量%用いた場合には、光拡散層(樹脂層)の厚さが薄いほど(光拡散剤の粒径が層の厚さに対し相対的に大きくなるほど)、像鮮明度は小さな値を示した。これは光拡散剤が光拡散層から突出する程度が大きくなるほど、樹脂の「うねり」による光拡散効果が現れるためと考えられる。
【0039】尚、図2に示すクラリティメータのスリット幅を2.0mmから1.0mm、0.5mm、0.125mmに変えて測定した場合に、像鮮明度の値はスリット幅が小さくなるにつれ、小さい値となったが、2.0mmの場合と同様に紫外線硬化型アクリル樹脂の含有量が多くなるほど小さい値を示し、また紫外線硬化型アクリル樹脂を100重量%用いた場合には、光拡散層(樹脂層)の厚さが薄いほど、小さな値を示した。
【0040】
【表2】


表2に示す結果からわかるように、いずれの試料でも光拡散剤の添加量が極めて少ないため、高い光透過性を示した。
・・・略・・・
【0044】
【発明の効果】以上の実施例からも明らかなように本発明の光学フィルムは、光拡散層の樹脂として電離放射線硬化型樹脂を用いることにより、少量の光拡散剤を分散させた場合でも高い光拡散効果が得られ、しかも光拡散剤の添加量が少量であるので高い透明性が得られる。従って、充分な明るさを得ることが必要なカラー液晶表示装置や、プリズムレンズ等他の光学部材と組合せて用いる用途において、高い光透過性と光拡散性とを兼ね備えた光学フィルムを提供することができる。更に本発明の光学フィルムは、最外層となる光拡散層の樹脂が電離放射線硬化型樹脂で構成されているので、耐久性が優れ、ハンドリング性がよい。」

(4) 「【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は従来の光学フィルムの断面図、(b)は本発明の光学フィルムの実施例の断面図。
【図2】 本発明の光学フィルムの評価方法として像鮮明度を測定する装置の概略を示す図。
【図3】 図2の装置による像鮮明度の計算方法を説明する図。
【図4】 本発明及び従来の光学フィルムが適用される面光源装置用光拡散性シートの一例を示す構造図。
【符号の説明】
1・・・・・・・支持体
2・・・・・・光拡散層
3・・・・・・樹脂
4・・・・・・光拡散剤」

(5) 「【図1】



(6) 「【図2】



(7) 「【図3】



(8) 「【図4】



4 引用発明A
(1) 引用例Aの段落【0033】?【0035】には、「実施例2」について、「光拡散層用塗布液の樹脂処方を」、段落【0035】に記載の「光拡散層用塗布液の処方」「に変更した以外は」、段落【0033】に記載された「実施例1と同様にして片面に光拡散層に有する光学フィルムを製造し」たことが記載されている。
また、引用例Aの段落【0035】には、「実施例3」について、「実施例2の熱可塑性アクリル樹脂と紫外線硬化型アクリル樹脂との割合を表1に示すように変えて、その他は実施例1と同様にして片面に光拡散層を有する光学フィルムを製造し」たことが記載されている。
ここで、「実施例2」及び「実施例3」の「熱可塑性アクリル樹脂と紫外線硬化型アクリル樹脂との割合」については、引用例Aの段落【0036】【表1】の「樹脂」「UV/TP」欄に、「UV」は「紫外線硬化型アクリル樹脂」、「TP」は「熱可塑性アクリル樹脂」を表すものとして、「実施例2」の「樹脂」「UV/TP」は「75/25」、「実施例3」の「樹脂」「UV/TP」は「50/50」であることが示されている。
そうすると、「実施例3」の「光拡散層用塗布液の処方」は、段落【0035】に記載の「実施例2」の「光拡散層用塗布液の処方」における組成において、「熱可塑性アクリル樹脂(固形分40%)」「(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)」を「50重量部」から「100重量部」、「紫外線硬化型アクリル樹脂(固形分80%)」「(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)」を「75重量部」から「50重量部」に変更したものとなる。

(2) 引用例Aの段落【0035】によれば、「実施例3」について、「実施例1と同様にして片面に光拡散層を有する光学フィルムを製造し、その像鮮明度及び全光線透過率を測定し」、「結果を併せて表1及び表2に示す」と記載されている。
ここで、「像鮮明度」は、引用例Aの段落【0028】及び図2、図3(b)の記載によれば、「JIS K7105の透過法による像鮮明度」であって、「クラリティメータを用い、50×50mmの試料」「に垂直に光を当て、試料を透過する光源」「からの光を」、「移動する光学くし」「(スリット幅0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を通して測定することによって」得られた、「受光器の受光波形」の「最高波高M」及び「最低波高m」から、「次式」「C={(M-m)/(M+m)}×100により求め」たものである。
また、段落【0034】によれば、「実施例1」の「像鮮明度」は、「スリット幅2.0mm」として「測定した」ものである。
そして、段落【0036】【表1】及び【0040】【表2】には、「実施例3」において「膜厚」「3.4μm」としたものの、「像鮮明度」は「80.5」であり、「全光線透過率」(%)は「93.6」であることが示されている。

(3) 上記3(1)?(8)及び上記(1)、(2)によれば、引用例Aには、「実施例3」で製造された「片面に光拡散層を有する光学フィルム」であって、「光拡散層用塗布液を厚さ」「3.4μmとなるように塗布し」たものとして、以下のものが記載されているものと認められる(以下、「引用発明A」という。)。

「片面に光拡散層を有する光学フィルムであって、
特に液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適なものであり、
ポリエステルフィルム(厚さ100μm易接着処理フィルム)の片面に、下記の処方の光拡散層用塗布液を厚さ3.4μmとなるように塗布し、高圧水銀灯により紫外線を1?2秒照射して製造され、
下記により求めた像鮮明度Cは80.5であり、全光線透過率は93.6%である、
光学フィルム。
<光拡散層用塗布液の処方>
熱可塑性アクリル樹脂(固形分40%) 100重量部
(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)
紫外線硬化型アクリル樹脂(固形分80%) 50重量部
(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)
光重合開始剤 1重量部
(イルガキュア651:チバガイギー社)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 175重量部
光拡散剤(平均粒径5μm) 1.6重量部
(PMMAビーズ、MX-500KS:綜研化学社)
<像鮮明度Cの求め方>
JIS K7105の透過法による像鮮明度であって、クラリティメータを用い、50×50mmの試料に垂直に光を当て、試料を透過する光源からの光を、移動する光学くし(スリット幅2.0mm)を通して測定することによって得られた、受光器の受光波形の最高波高M及び最低波高mから、次式
C={(M-m)/(M+m)}×100
により求めたもの。」

第6 対比・判断
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明1の「バックコート層41」は、「マット化剤を含有してニュートンリング防止効果を備える層である」から、本件発明1の「機能層」に相当する。
また、引用発明1の「光拡散層31」は、本件発明1の「機能層」に相当する。

イ 引用発明1は、「厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2の」「もう一方の表面に」、「バックコート層41を形成して」いるから、引用発明1は、「厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2」上に「バックコート層41」を有している。
技術的にみて、引用発明1の「厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2」は、本件発明1の「透明基材」に相当する。
そうすると、引用発明1は、本件発明1の「透明基材上に機能層を有してなり」との要件を満たす。

ウ 引用発明1の「バックコート層用塗料」の組成及び「バックコート層41」の形成方法からみて、「バックコート層用塗料を塗布、乾燥し、高圧水銀灯により紫外線を照射することにより硬化させて形成され」た「バックコート層41」は、「4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物」の固形分、「光重合開始剤」、「熱可塑性アクリル樹脂」としての「アクリディックA-195」及び「マット化剤」としての「PMMA微粒子、MX-500KS<平均粒子径5μm>:綜研化学社」を、合計「40.995部」(=「85.7部」×0.35+「0.9部」+「25.0部」×0.4+「0.1部」)に対し、それぞれ「29.995部」、「0.9部」、「10.0部」及び「0.1部」の割合で含むものである。
技術的にみて、引用発明1の「バックコート層41」が含んでいる、「4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物」の固形分、「熱可塑性アクリル樹脂」としての「アクリディックA-195」及び「マット化剤」としての「PMMA微粒子、MX-500KS 平均粒子径5μm:綜研化学社」は、それぞれ、本件発明1の「電離放射線硬化型樹脂」、「熱可塑性樹脂」及び「マット剤」に相当する。
また、技術的にみて、引用発明1の「4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物」の固形分及び「熱可塑性アクリル樹脂」としての「アクリディックA-195」は、本件発明1の「バインダー成分」に相当する。
そうすると、引用発明1は、本件発明1の「前記機能層はバインダー成分およびマット剤を含み」との要件を満たす。

エ 本件出願の明細書の[実施例1]の段落【0051】の「・熱可塑性アクリル樹脂(アクリディックA195 :DIC社、固形分40%)」、「(ガラス転移温度:94℃、重量平均分子量:85000)」との記載によれば、「熱可塑性アクリル樹脂」である「アクリディックA195」は、「ガラス転移温度:94℃」、「重量平均分子量:85000」である(あるいは、国際公開第2015/046046号の段落[0078]においても同様の事項が開示されている。)。
そうすると、引用発明1の「熱可塑性アクリル樹脂」としての「アクリディックA-195」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂」の「ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である」との要件を満たす。
してみると、引用発明1は、「バックコート層41」が「4級アンモニウム塩基、(メタ)アクリロイル基、及びオルガノポリシロキサン単位を有する重合体と分子内に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートとを含有する電離放射線硬化性組成物」の固形分及び「熱可塑性アクリル樹脂」としての「アクリディックA-195」を含んでいる点において、本件発明1の「前記バインダー成分は、電離放射線硬化型樹脂と、ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である熱可塑性樹脂とを含み」との要件を満たしている。

オ 本件出願の明細書の[実施例1]の段落【0051】の記載によれば、「アクリル樹脂粒子」である「綜研化学工業社」の「MX-500」の「平均粒子径」は「5μm」であり、「変動係数」は「9%」である(あるいは、「綜研化学工業株式会社」の「MX-500」の「平均粒子径」、「変動係数」については、特表2010-514845号公報の段落【0044】、特開2009-244374号公報の段落【0031】、国際公開第2015/046046号の段落[0080]等にも、同様の事項が記載されている。)。
ここで、引用発明1の「マット化剤」は「PMMA微粒子、MX-500KS<平均粒子径5μm>:綜研化学社」であるところ、「綜研化学工業株式会社」のホームページ(URL://https://www.soken-ce.co.jp/product/fine_particles/mx/を参照。)によれば、架橋アクリル単分散粒子「MXシリーズ」には、「MX-500」の品番はあるが、「MX-500KS」の品番は存在しない。そして、上記「MX-500KS」及び上記「MX-500」の両者とも「綜研化学工業株式会社」から入手されたものであって、平均粒子径が5μmのアクリル樹脂(PMMA)粒子である点において一致するものであるから、「MX-500KS」と「MX-500」とは同じ製品を指していると認められる。あるいは、同ホームページ(上記URL参照)によれば、架橋アクリル単分散粒子「MXシリーズ」は、その特長が「粒子径分布が狭い単分散アクリル粒子」である製品であって、平均粒子径が「10μm」の「MX-1000」の「CV値(%)」(変動係数)は、「MX-500」と同じ「9(参考値)」であるから、引用発明1の「MX-500KS」も、その「変動係数」は、「9%」程度である蓋然性が高い。
そうすると、引用発明1の「MX-500KS」である「マット化剤」は、本件発明1の「マット剤」の「粒子径分布の変動係数が15%以下である」との要件を満たす。

カ 引用発明1は、「厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2」の一方の表面に「被膜厚み約12μmの光拡散層31」及び「被膜厚み1μm以下のオーバーコート層32」を形成し、もう一方の表面に「被膜厚み約8μmのバックコート層41を形成して」いる。
引用発明1は、その層構造からみて、フィルム形状であるということができる。
また、引用発明1は、「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する光拡散性シート1」であって、液晶表示素子と共に用いられるものであるから、引用発明1と本件発明1は、表示素子と共に用いられるフィルムである点において共通する。

キ 以上の対比結果を踏まえると、本件発明1と引用発明1とは、
「表示素子と共に用いられるフィルムであって、
透明基材上に機能層を有してなり、
前記機能層はバインダー成分およびマット剤を含み、
前記バインダー成分は、電離放射線硬化型樹脂と、ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である熱可塑性樹脂とを含み、
前記マット剤は、粒子径分布の変動係数が15%以下である、
フィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「フィルム」が、「表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルム」であって、「表示素子前面用フィルムの全光線透過率(JISK7361-1:1997)が90%以上、ヘーズ(JIS K7136:2000)が10%以下である」のに対して、
引用発明1は、「フィルム」が、「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する光拡散性シート1」であり、また、全光線透過率及びヘーズが不明である点。

(相違点2)
本件発明1は、「前記バインダー成分中における各成分の重量割合」が、「前記電離放射線硬化型樹脂が50重量%以上71重量%以下」、「前記熱可塑性樹脂の重量割合が29重量%以上50重量%以下であ」るのに対して、
引用発明1は、「バインダー成分」中における「電離放射線硬化性組成物」の固形分の重量割合が約75重量%、「熱可塑性アクリル樹脂」の固形分の重量割合が約25重量%である点。
(合計「40.995部」のうち、「電離放射線硬化性組成物」の固形分及び「熱可塑性アクリル樹脂」の固形分を、それぞれ「29.995部」及び「10.0部」で含むから、「電離放射線硬化性組成物」の固形分の重量割合は約75重量%(≒29.995(部)/(29.995(部)+10.0(部)))、「熱可塑性アクリル樹脂」の固形分の重量割合は約25重量%(≒10.0(部)/39.995(部)となる。)

(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
技術常識を踏まえると、「光拡散層31」を備える「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する光拡散性シート1」である引用発明1のヘーズは相当程度大きいから、引用発明1の「光拡散性シート1」を、「表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルム」として用いようとは当業者は考えることはない。また、「液晶ディスプレイのバックライトユニット用に適する」引用発明1の「光拡散性シート1」の「ヘーズ」を10%以下にしようと当業者が考えることもない。
また、引用例1の段落【0004】?【0006】等に記載によれば、引用例1における発明が解決しようとする課題は、「帯電防止性を有する光拡散シート」における帯電防止性の低下による歩留まりの低下、あるいは「光拡散シート」を積み重ねて搬送する時に光拡散層あるいはバックコート層の表面を傷付けてしまうことによる歩留まりの低下を解決することである。
そうすると、引用例2?6等に例示されているように、ニュートンリング防止層、あるいはニュートンリング防止フィルム(シート)は、液晶ディスプレイのバックライトユニットなど表示素子の後面側だけでなく、表示素子上あるいは表示素子の前面側に配置される保護部材やフィルター等の表面部材に対しても設けられることが当業者の技術常識であること、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる透明基材上にニュートンリング防止層を備えたニュートンリング防止フィルムは、本件出願前に周知のものであること、表示素子の前面に用いられるニュートンリング防止フィルムとして、全光線透過率は高い方が好ましいこと、また、ヘーズもできるだけ小さい方が画像の明るさや画像鮮明性等から好ましいことが技術常識であることを考慮しても、引用発明1の「光拡散性シート1」において、「光拡散層31」及び「オーバーコート層32」を「ポリエチレンテレフタレートフィルム2」から取り除き、「表示素子前面用フィルム」とすることには、動機付けがないというべきである。
してみると、引用発明1において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易になし得たということはできない。

イ したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

2 本件発明2?5について
上記1(2)のとおり、本件発明1が、引用発明1及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2?5も同様に、引用発明1及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明Aを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明Aの「光拡散層」は、本件発明1の「機能層」に相当する。

イ 引用発明Aは、「片面に光拡散層を有する光学フィルムであって」、「ポリエステルフィルム」である「厚さ100μm易接着処理フィルム」「の片面に」、「光拡散層」が「厚さ3.4μmとなるように」「製造され」たものである。
技術的にみて、引用発明Aの「ポリエステルフィルム」である「厚さ100μm易接着処理フィルム」は、本件発明1の「透明基材」に相当する。
そうすると、引用発明Aは、本件発明1の「透明基材上に機能層を有してなり」との要件を満たす。

ウ 引用発明Aの「光拡散層用塗布液の処方」における組成及びその製造方法からみて、引用発明Aの「光拡散層」は、「紫外線硬化型アクリル樹脂」「(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」、「熱可塑性アクリル樹脂」「(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」、「光重合開始剤」及び「光拡散剤(平均粒径5μm)」「(PMMAビーズ、MX-500KS:綜研化学社)」を含むものである。
技術的にみて、引用発明Aの「紫外線硬化型アクリル樹脂」「(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」及び「熱可塑性アクリル樹脂」「(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」は、それぞれ本件発明1の「電離放射線硬化型樹脂」及び「熱可塑性樹脂」に相当する。
また、技術的にみて、引用発明Aの、「紫外線硬化型アクリル樹脂」「(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」及び「熱可塑性アクリル樹脂」「(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」は、本件発明1の「バインダー成分」に相当する。
また、光学フィルム技術分野において、層表面に凹凸等を形成する粒子がマット剤と呼ばれることは技術常識であるところ、引用発明Aの「光拡散層」の厚さ及び「光拡散剤」の平均粒径からみて、引用発明Aの「光拡散層」は、「光拡散剤」により表面に凹凸が形成されていることは明らかである(引用例Aの請求項3、段落【0011】、【0015】、【図1】等からも確認できることである。)。そうすると、引用発明Aの「光拡散剤」は、マット剤ということもできるから、引用発明Aの「光拡散剤(平均粒径5μm)」「(PMMAビーズ、MX-500KS:綜研化学社)」は、本件発明1の「マット剤」に相当する。
してみると、引用発明Aは、本件発明1の「前記機能層はバインダー成分およびマット剤を含み」との要件を満たす。

エ 引用発明Aの「光拡散層用塗布液の処方」における組成より、引用発明Aの「光拡散層」は、「紫外線硬化型アクリル樹脂」の「固形分」及び「熱可塑性アクリル樹脂」の「固形分」を、それぞれ「40重量部」含むものである。
してみると、上記ウより、引用発明Aは、本件発明1の「前記バインダー成分」の「前記バインダー成分中における各成分の重量割合が、前記電離放射線硬化型樹脂が50重量%以上71重量%以下、前記熱可塑性樹脂の重量割合が29重量%以上50重量%以下であり」との要件を満たす。

オ 本件出願の明細書の[実施例1]の段落【0051】の「・熱可塑性アクリル樹脂(アクリディックA195 :DIC社、固形分40%)」、「(ガラス転移温度:94℃、重量平均分子量:85000)」との記載によれば、引用発明Aの「熱可塑性アクリル樹脂」である「アクリディックA195」は、「ガラス転移温度:94℃」、「重量平均分子量:85000」である(あるいは、国際公開第2015/046046号の段落[0078]においても同様の事項が開示されている。)。
そうすると、引用発明Aの「アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社」である「熱可塑性アクリル樹脂」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂」の「ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である」との要件を満たす。
してみると、上記ウより、引用発明Aは、「光拡散層」が、「紫外線硬化型アクリル樹脂」「(ユニディック17-713:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」及び「熱可塑性アクリル樹脂」「(アクリディックA-195:大日本インキ化学工業社)」の「固形分」を含んでいる点において、本件発明1の「前記バインダー成分は、電離放射線硬化型樹脂と、ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である熱可塑性樹脂とを含み」との要件を満たしている。

カ 引用発明Aの「光拡散剤」は、「平均粒径5μm」の「PMMAビーズ」で、「綜研化学社」製の「MX-500KS」であるところ、「綜研化学社」製の「MX-500KS」の「変動係数」は、「9%」程度である蓋然性が高い(上記「第6」「1(1)オ」参照。)
そうすると、引用発明Aの「光拡散剤」は、本件発明1の「マット剤」の「粒子径分布の変動係数が15%以下である」との要件を満たす。

キ 引用発明Aは、「片面に光拡散層を有する光学フィルム」である。
引用発明Aと本件発明1は、フィルムである点において共通する。

ク 以上の対比結果を踏まえると、本件発明1と引用発明Aとは、
「フィルムであって、
透明基材上に機能層を有してなり、
前記機能層はバインダー成分およびマット剤を含み、
前記バインダー成分は、電離放射線硬化型樹脂と、ガラス転移温度45℃以上かつ重量平均分子量7万以上である熱可塑性樹脂とを含み、前記バインダー成分中における各成分の重量割合が、前記電離放射線硬化型樹脂が50重量%以上71重量%以下、前記熱可塑性樹脂の重量割合が29重量%以上50重量%以下であり、
前記マット剤は、粒子径分布の変動係数が15%以下である、
フィルム。」の点で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点A)
本件発明1は、「表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルム」であって、「全光線透過率(JISK7361-1:1997)が90%以上、ヘーズ(JIS K7136:2000)が10%以下」であるのに対して、
引用発明Aは、「特に液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適なものであ」り、また、「全光線透過率(JISK7361-1:1997)が90%以上、ヘーズ(JIS K7136:2000)が10%以下」であるのか否か不明である点。

(2) 相違点Aについての判断
ア 技術常識を踏まえると、「特に液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適な」引用発明Aの「光学フィルム」のヘーズは相当程度大きいから、引用発明Aの「光学フィルム」を、「表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルム」として用いることを当業者が考えることはない。また、高い光拡散効果が要求される液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適な引用発明Aの「光学フィルム」の「ヘーズ」を10%以下にしようと当業者が考えることもない。
また、原査定拒絶理由において引用された引用例B(特開2010-66761号公報、請求項11、請求項12、段落【0017】、【0018】、【0028】、【0038】、【0163】、【0164】(【表1】、【表2】の実施例2?15等の「全体ヘーズ」等)に、コントラストと防眩性とを両立させることができる光学フィルム、あるいは防眩性と写像鮮明性とを両立させることができ、かつニュートンリングの発生も抑制できる光学フィルムにおいて、ヘーズを10%以下とすることや、表示部の前面側あるいは背面側に設けることが記載されていることを考慮したとしても、上記のとおり、「特に液晶ディスプレイ装置のバックライト用光拡散シートに好適な」引用発明Aの「光学フィルム」において、「表示素子上に設けられる表面部材の少なくとも一部に用いられる表示素子前面用フィルム」の構成とすることや、「ヘーズ」を10%以下とすることには動機付けがない。
してみると、引用発明Aにおいて、上記相違点Aに係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできない。

イ したがって、本件発明1は、引用発明A及び引用例Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

2 本件発明2?5について
上記1(2)のとおり、本件発明1が、引用発明A及び引用例Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2?5も同様に、引用発明A及び引用例Bに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本件出願を拒絶することはできない。
他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-26 
出願番号 特願2012-66834(P2012-66834)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
発明の名称 表示素子前面用フィルムおよび表面部材付き表示素子  
代理人 大倉 宏一郎  

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