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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1349313
審判番号 不服2017-17253  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-21 
確定日 2019-02-21 
事件の表示 特願2016-234738「偏光フィルム及び偏光性積層フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 91980〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月2日に出願された特願2016-234738号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 5月29日 拒絶理由通知(平成29年6月6日発送)
平成29年 7月31日 意見書、手続補正書
平成29年 8月16日 拒絶査定(平成29年8月22日発送)
平成29年11月21日 審判請求、手続補正書
平成30年 8月15日 拒絶理由通知
平成30年10月26日 意見書

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成29年11月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
前記積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの前記ポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色して染色層を形成することにより染色積層フィルムを得る染色工程と、
ホウ酸を含む架橋液で前記染色積層フィルムの前記染色層を架橋して架橋層を形成することにより架橋積層フィルムを得る架橋工程と、
前記架橋積層フィルムの前記架橋層に含まれるホウ素含有率を低下させて偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る脱ホウ素工程と、をこの順に有し、
前記架橋液におけるホウ酸の含有量は、溶媒100重量部に対して5?15重量部であり、
前記脱ホウ素工程では、前記架橋層と脱ホウ素液とが接触する脱ホウ素液接触工程を複数回行い、前記脱ホウ素液は、前記架橋液のホウ酸濃度よりも低いホウ酸濃度を有するとともに、前記脱ホウ素液におけるホウ酸の含有量が溶媒100重量部に対して10重量部未満であり、
前記脱ホウ素液接触工程では、前記架橋積層フィルムに加えられる張力の大きさを、前記架橋工程において前記染色積層フィルムに加えられる張力の大きさよりも小さくなるように制御する、偏光性積層フィルムの製造方法。」

第3 当審において通知した拒絶の理由
当審より平成30年8月15日付けで通知した拒絶理由のうち、引用文献1(国際公開第2015/098734号)に基づく拒絶理由は、概ね次のとおりである。

1 本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は審決にて付した。)。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、偏光子、ならびに、この偏光子を備える偏光板および偏光性積層フィルムに関する。」

イ 「[0052] <偏光板の製造方法>
本発明の偏光板は、例えば図3に示される方法によって好適に製造することができる。図3に示される偏光板の製造方法は、保護フィルム付の偏光板1を製造するための方法であり、下記工程:
(1)基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程S10、
(2)積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S20、
(3)延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S30、
(4)偏光性積層フィルムの偏光子上に、接着剤層を介して保護フィルムのいずれか一方を貼合して貼合フィルムを得る貼合工程S40、
(5)貼合フィルムから基材フィルムを剥離除去して片面保護フィルム付偏光板を得る剥離工程S50
をこの順で含む。
………
[0054] (1)樹脂層形成工程S10
図4を参照して、本工程は、基材フィルム30の両面にポリビニルアルコール系樹脂層61,62を形成して積層フィルム100を得る工程である。このポリビニルアルコール系樹脂層61,62は、延伸工程S20及び染色工程S30を経て偏光子51,52となる層である。
………
[0101] (2)延伸工程S20
図5を参照して、本工程は、基材フィルム30及びポリビニルアルコール系樹脂層61,62からなる積層フィルム100を延伸して、延伸された基材フィルム30’及びポリビニルアルコール系樹脂層61’,62’からなる延伸フィルム200を得る工程である。
………
[0103] 延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。この場合、多段階の延伸処理のすべてを染色工程S30の前に連続的に行ってもよいし、二段階目以降の延伸処理を染色工程S30における染色処理及び/又は架橋処理と同時に行ってもよい。このように多段で延伸処理を行う場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行うことが好ましい。
………
[0111] (3)染色工程S30
図6を参照して、本工程は、延伸フィルム200のポリビニルアルコール系樹脂層61’,62’を二色性色素で染色してこれを吸着配向させ、偏光子51,52とする工程である。本工程を経て基材フィルム30’の両面に偏光子51,52が積層された偏光性積層フィルム300が得られる。
………
[0113] 二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、ヨウ素を含有する染色溶液にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。
………
[0115] なお、染色工程S30を延伸工程S20の前に行ったり、これらの工程を同時に行ったりすることも可能であるが、ポリビニルアルコール系樹脂層に吸着させる二色性色素を良好に配向させることができるよう、積層フィルム100に対して少なくともある程度の延伸処理を施した後に染色工程S30を実施することが好ましい。すなわち、延伸工程S20にて目標の倍率となるまで延伸処理を施して得られる延伸フィルム200を染色工程S30に供することができるほか、延伸工程S20にて目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30中に総延伸倍率が目標の倍率となるまで延伸処理を施すこともできる。後者の実施態様としては、1)延伸工程S20において目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30における染色処理中に総延伸倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う態様や、後述するように、染色処理の後に架橋処理を行う場合には、2)延伸工程S20において目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率に達しない程度まで延伸処理を行い、次いで、最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行う態様等を挙げることができる。
[0116] 染色工程S30は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。架橋処理は、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができ、例えば、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。架橋剤は1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0117] 架橋溶液は、具体的には架橋剤を溶媒に溶解した溶液であることができる。溶媒としては、例えば水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。架橋溶液における架橋剤の濃度は、1?20重量%の範囲であることが好ましく、6?15重量%の範囲であることがより好ましい。
………
[0120] なお架橋処理は、架橋剤を染色溶液中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、架橋処理中に延伸処理を行ってもよい。架橋処理中に延伸処理を実施する具体的態様は上述のとおりである。………
[0121] 染色工程S30の後、後述する貼合工程S40の前に洗浄工程及び乾燥工程を行うことが好ましい。洗浄工程は通常、水洗浄工程を含む。水洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水に染色処理後の又は架橋処理後のフィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3?50℃、好ましくは4?20℃の範囲である。水への浸漬時間は通常2?300秒間、好ましくは3?240秒間である。
[0122] 洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよい。また、水洗浄工程及び/又はヨウ化物溶液による洗浄処理で使用する洗浄液には、水のほか、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロパノールのような液体アルコールを適宜含有させることができる。」

ウ 図3は次のものである。


(2)引用発明
上記(1)によると、引用文献1には、保護フィルム付の偏光板1の製造に用いられる偏光性積層フィルムの製造方法の一態様として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 下記工程:
(1)基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程S10、
(2)積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S20、
(3)延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S30、
をこの順で含む偏光性積層フィルムの製造方法であって、
染色工程S30は、二色性色素としてヨウ素を使用し、
染色工程S30は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含み、架橋処理は、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行い、架橋剤としてホウ酸を使用し、架橋溶液におけるホウ酸の濃度は、6?15重量%の範囲であり、
延伸工程S20において目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率に達しない程度まで延伸処理を行い、次いで、最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行い、
染色工程S30の後、洗浄工程及び乾燥工程を行い、洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせである、
偏光性積層フィルムの製造方法。」

2 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「基材フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂層」は、技術的にみて、それぞれ本願発明の「基材フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂層」に相当し、引用発明の「基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る」「樹脂層形成工程S10」は、本願発明の「基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る」「樹脂層形成工程」に相当する。

イ 引用発明の「延伸工程S20」は、「積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る」ものであるから、本願発明の「前記積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る」「延伸工程」に相当する。

ウ 引用発明の「染色工程S30」において、「偏光子」は、「延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層」を「ヨウ素」で染色して形成するから、本願発明の「染色層」に相当する。そうすると、引用発明の「延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を」「ヨウ素」「で染色して偏光子を形成することにより偏光性積層フィルムを得る」「染色工程S30」は、本願発明の「前記延伸フィルムの前記ポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色して染色層を形成することにより染色積層フィルムを得る」「染色工程」に相当する。

エ 引用発明の「架橋処理工程」における「架橋処理」は、「架橋剤としてホウ酸」を含む「溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行」うものであり、偏光フィルムに係る技術常識を勘案すると、「架橋溶液」は「偏光子」(染色されたポリビニルアルコール系樹脂層)を架橋することは明らかである。そうすると、引用発明の「架橋処理は、架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に染色されたフィルムを浸漬することにより行」う「架橋処理工程」は、本願発明の「ホウ酸を含む架橋液で前記染色積層フィルムの前記染色層を架橋して架橋層を形成することにより架橋積層フィルムを得る」「架橋工程」に相当する。また、引用発明の架橋処理工程は、「架橋溶液におけるホウ酸の濃度」が「6?15重量%の範囲であ」るから、本願発明の「前記架橋液におけるホウ酸の含有量は、溶媒100重量部に対して5?15重量部であ」るとの要件を満たしている。

オ 引用発明の「洗浄工程」は、「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせである」ところ、技術常識を勘案すると、「洗浄工程」により「偏光性積層フィルム」の「偏光子」に含まれるホウ素含有率が低下することは明らかである(このことは、本願の明細書の段落【0086】ないし【0088】に、脱ホウ素液接触工程は、脱ホウ素液に架橋積層フィルムを浸漬する、架橋積層フィルムの架橋層を脱ホウ素液のシャワーで洗浄する等により行うことができること、脱ホウ素液は、水が使用でき、ヨウ化物を含んでいてもよいことが記載されていることからも明らかである。)。そうすると、引用発明の「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせである」「洗浄工程」は、本願発明の「前記架橋積層フィルムの前記架橋層に含まれるホウ素含有率を低下させて偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る」「脱ホウ素工程」に相当する。
また、引用発明の「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程」における「水」及び「ヨウ化物溶液」は、技術的にみて、本願発明の「脱ホウ素液」に相当し、同様に「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程」は「脱ホウ素液接触工程」に相当する(本願の明細書の段落【0086】ないし【0088】の上記記載事項からみても明らかである。)。そして、引用発明の「洗浄工程」では、「水洗浄」と「ヨウ化物溶液による洗浄」の2回の洗浄が行われ、脱ホウ素液は「水」及び「ヨウ化物溶液」であってホウ酸は含まれない(引用文献1の[0122]には、「水洗浄工程及び/又はヨウ化物溶液による洗浄処理で使用する洗浄液には、水のほか、メタノール、……のような液体アルコールを適宜含有させることができる。」と記載されているが、洗浄液にホウ酸を含有させることは記載されていない。)。そうすると、引用発明は、本願発明の「前記脱ホウ素工程では、前記架橋層と脱ホウ素液とが接触する脱ホウ素液接触工程を複数回行い、前記脱ホウ素液は、前記架橋液のホウ酸濃度よりも低いホウ酸濃度を有するとともに、前記脱ホウ素液におけるホウ酸の含有量が溶媒100重量部に対して10重量部未満であ」るとの要件を満たしている。

カ 引用発明は、「樹脂層形成工程S10」、「延伸工程S20」、「染色工程S30」「をこの順で含」み、「染色工程S30は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含み」、「染色工程S30の後、洗浄工程」を行うから、本願発明の「樹脂層形成工程」と、「染色工程」と、「架橋工程」と、「脱ホウ素工程と、をこの順に有」するとの要件を満たしている。

キ 上記アないしカを踏まえると、引用発明の「偏光性積層フィルムの製造方法」は、本願発明の「偏光性積層フィルムの製造方法」に相当する。

(2)以上によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
前記積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、
前記延伸フィルムの前記ポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色して染色層を形成することにより染色積層フィルムを得る染色工程と、
ホウ酸を含む架橋液で前記染色積層フィルムの前記染色層を架橋して架橋層を形成することにより架橋積層フィルムを得る架橋工程と、
前記架橋積層フィルムの前記架橋層に含まれるホウ素含有率を低下させて偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る脱ホウ素工程と、をこの順に有し、
前記架橋液におけるホウ酸の含有量は、溶媒100重量部に対して5?15重量部であり、
前記脱ホウ素工程では、前記架橋層と脱ホウ素液とが接触する脱ホウ素液接触工程を複数回行い、前記脱ホウ素液は、前記架橋液のホウ酸濃度よりも低いホウ酸濃度を有するとともに、前記脱ホウ素液におけるホウ酸の含有量が溶媒100重量部に対して10重量部未満である、偏光性積層フィルムの製造方法。」

<相違点>
本願発明では、脱ホウ素液接触工程は、架橋積層フィルムに加えられる張力の大きさを、架橋工程において染色積層フィルムに加えられる張力の大きさよりも小さくなるように制御するのに対し、引用発明では、そのような制御を行っているか一応明らかではない点。

3 判断
(1)相違点について
ア 引用発明は、「最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行」うから、目標の倍率まで延伸された後の工程である「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程」においては、フィルムを実質的に延伸していないと解される。そして、フィルムを延伸する際に加えられる張力よりも、フィルムを実質的に延伸することなく搬送する際に加えられる張力が小さいことは技術的にみて明らかである。そうすると、上記相違点は実質的な相違点ではない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

イ 仮に上記相違点が実質的な相違点であるとして更に検討する。引用発明は、上記のとおり「水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程」においてはフィルムを実質的に延伸しないから、フィルムに加えられる張力は、フィルムの搬送過程で弛みやシワ等が発生しない程度の大きさであれば十分であることは当業者にとって自明である。してみると、引用発明の洗浄工程において、フィルムに加えられる張力を、フィルムの搬送過程で弛みやシワ等が発生しない程度の大きさに制御し、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得たことである。
そして、本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、引用発明から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)意見書について
請求人は平成30年10月26日提出の意見書の「(3)理由1について」において、
ア 引用文献1には、本願発明における「前記架橋積層フィルムの前記架橋層に含まれるホウ素含有率を低下させて偏光子層を形成する」点について明記されていないこと、
イ 引用文献1には、架橋処理及び洗浄工程で処理されるフィルムの張力について具体的には記載されておらず、架橋処理におけるフィルムの張力と、洗浄工程で処理されるフィルムの張力との関係についても記載されていないこと、
ウ 引用文献1には、本願発明における、「前記脱ホウ素工程では、前記架橋層と脱ホウ素液とが接触する脱ホウ素液接触工程を複数回行」う点、及び、「前記脱ホウ素液接触工程では、前記架橋積層フィルムに加えられる張力の大きさを、前記架橋工程において前記染色積層フィルムに加えられる張力の大きさよりも小さくなるように制御する」点の両方を行って偏光子を製造することについて記載されているとはいえないこと、等主張している。
しかし、上記ア及びイの主張については、上記2(1)オ及び上記(1)のとおりであって採用できない。また、上記ウの主張についても、引用文献1には、偏光性積層フィルムの製造方法において、最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行うことができること、及び、洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよいことが記載されているのみであって、これらの工程を同時に採用することができないことは記載されておらず、これらの工程を同時に採用することができない特段の事情も見当たらないから、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-17 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2016-234738(P2016-234738)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 113- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
関根 洋之
発明の名称 偏光フィルム及び偏光性積層フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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