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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1349315
審判番号 不服2017-18299  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-08 
確定日 2019-02-21 
事件の表示 特願2017-519703「高効率太陽電池及び高効率太陽電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月24日国際公開、WO2018/092172〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年11月15日を国際出願日とする出願であって、以後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 5月 9日:出願審査請求書の提出
同年 6月 1日:拒絶理由通知(6月6日発送)
同年 7月 6日:意見書の提出
同年 9月 5日:拒絶査定(9月12日送達)
同年12月 8日:審判請求書の提出
平成30年 9月14日:拒絶理由通知(9月18発送)
同年11月15日:手続補正書・意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年11月15日付け手続補正により補正された請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「第1導電型を有する半導体基板を備え、該半導体基板の第1主表面に、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型を有するエミッタ領域と、前記エミッタ領域に接するエミッタ電極と、前記第1導電型を有するベース領域と、前記ベース領域に接するベース電極と、前記エミッタ領域と前記ベース領域の電気的短絡を防ぐ絶縁膜とを備えた太陽電池であって、
前記絶縁膜が前記エミッタ領域と前記ベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記ベース領域と前記エミッタ電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記エミッタ電極と前記ベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜はポリイミドからなり、
前記絶縁膜はTOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下であることを特徴とする太陽電池。」(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)

第3 刊行物の記載
1 引用文献
(1)平成30年9月14日付け拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)に引用した、特開2016-72467号公報(2016年年5月9日公開。以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】
一方の主表面を受光面とし、もう一方の主表面を裏面とする第1導電型の半導体基板を備え、該半導体基板が、前記裏面において、前記第1導電型の領域と、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型の領域とを有するものである太陽電池であって、
前記第1導電型の領域に接合された第1のコンタクト部と、該第1のコンタクト部上に形成された第1の集電部とからなる第1のフィンガー電極、
前記第2導電型の領域に接合された第2のコンタクト部と、該第2のコンタクト部上に形成された第2の集電部とからなる第2のフィンガー電極、
前記第1の集電部と電気的に接合された第1のバスバー電極、及び、
前記第2の集電部と電気的に接合された第2のバスバー電極
を備え、
少なくとも前記第1のバスバー電極及び前記第2のバスバー電極の直下の全域に絶縁膜を備え、該絶縁膜上において、前記第1の集電部及び前記第1のバスバー電極、並びに前記第2の集電部及び前記第2のバスバー電極の前記電気的な接合がされたものであり、
少なくとも前記絶縁膜の直下において、前記第1のコンタクト部及び前記第2のコンタクト部がライン状に連続したものであることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
……
【請求項4】
前記絶縁膜が、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂及びポバール樹脂から一つ以上選択された樹脂を含有する材料からなるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項5】
……
【請求項6】
前記第1の集電部、前記第2の集電部、前記第1のバスバー電極及び前記第2のバスバー電極が、Ag、Cu、Au、Al、Zn、In、Sn、Bi、Pbから選択される1種類以上の導電性物質を含有し、さらにエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂から選択される1種類以上の樹脂を含有する材料からなるものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の太陽電池。」

イ 「【背景技術】
【0002】
……
【0005】
裏面電極型太陽電池を高効率化するために、発電層であるP型拡散層をできる限り広くすると短絡電流の増加が期待できる。このため、P型拡散層とN型拡散層の面積割合は80:20?90:10とP型拡散層の領域を広く形成することが望ましい。また、基板とコンタクト電極の接触面積(以下、コンタクト面積とも記載する。)をできるだけ小さくしてパッシベーション領域を広くすると開放電圧の増加が期待できるため、コンタクト電極の形状を、細いラインや、ドット状とすることによりコンタクト領域をできるだけ小さく設計することが望ましい。
【0006】
……
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、コンタクト面積を減少させつつ、フィンガー電極の断面積を大きくし、フィンガー電極の長さを短くすることができる太陽電池が要求されている。このため裏面電極型太陽電池において電極構造を立体構造とすること等が検討されている。しかしながら、これまで、電極構造を立体構造とすると並列抵抗が低くなりやすいなどの問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、パッシベーション領域が広く、配線抵抗が低く、並列抵抗が高く、変換効率の高い太陽電池を提供すること、及びそのような太陽電池を低コストで製造することができる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0028】
なお、本明細書では半導体基板、特に、第1導電型の領域及び第2導電型の領域とコンタクトを形成している電極のことをコンタクト部と定義する。また、バスバー電極とコンタクト部を接続している電極のことを集電部と定義する。また集電部とコンタクト部を総称してフィンガー電極と呼ぶ。集電部は、「ライン部」とも呼ぶことができる。」

エ 「【発明を実施するための形態】
【0033】
……
【0042】
以下、本発明の太陽電池について図面を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、第1導電型の半導体基板がN型シリコン基板である場合(すなわち、第1導電型がN型、第2導電型がP型)を中心に説明するが、第1導電型の半導体基板がP型シリコン基板であっても、ボロン、リン等の不純物源を逆に使用すればよく、同様に本発明を適用できる。
【0043】
[太陽電池(裏面電極型太陽電池セル)]
図1は、本発明の太陽電池の一例を示す上面模式図である。図2は、本発明の太陽電池の一部分を拡大した拡大図である。また、図3?5は、本発明の太陽電池の一部分を拡大した断面模式図である。なお、図3は、図1に示す太陽電池のa-a’断面図、図4は、図1に示す太陽電池のb-b’断面図、図5は図1に示す太陽電池のc-c’断面図である。
【0044】
本発明の太陽電池10は、図1に示すように、一方の主表面を受光面とし、もう一方の主表面を裏面とする第1導電型の半導体基板13を備える。太陽電池10は、図3?5に示すように、この半導体基板が、裏面において、第1導電型の領域(N型拡散層)20と、第1導電型と反対の導電型である第2導電型の領域(P型拡散層)21とを有するものである太陽電池、いわゆる裏面電極型太陽電池である。
【0045】
更に、図2?5に示すように、太陽電池10は、第1導電型の領域20に接合された第1のコンタクト部26と、第1のコンタクト部26上に形成された第1の集電部35とからなる第1のフィンガー電極を備える。また、第2導電型の領域21に接合された第2のコンタクト部27と、第2のコンタクト部27上に形成された第2の集電部36とからなる第2のフィンガー電極を備える。また、第1の集電部35と電気的に接合された第1のバスバー電極37を備える。また、第2の集電部36と電気的に接合された第2のバスバー電極38を備える。
【0046】
……
【0049】
更に、太陽電池10は、図2に示すように、少なくとも第1のバスバー電極37及び第2のバスバー電極38の直下の全域に絶縁膜24、25を備える。また、絶縁膜24上において、第1の集電部35及び第1のバスバー電極37が電気的に接合されている。また、絶縁膜25上において、第2の集電部36及び第2のバスバー電極38が電気的に接合されている。
【0050】
絶縁膜24、25は、通常、第1のバスバー電極37、第2のバスバー電極38の直下のコンタクト部上においては、第1コンタクト部26、第2コンタクト部27の上部及び側部を覆うことができる厚みで形成されている。【0051】
更に、図2?5に示すように、太陽電池10は、少なくとも絶縁膜24、25の直下において、第1のコンタクト部26及び第2のコンタクト部27がライン状に連続したものである。図5に示すように、太陽電池10において、異なる導電型用のバスバー電極とフィンガー電極は絶縁膜24、25を介して物理的に接合することができる。すなわち、異なる導電型用のバスバー電極と集電部は電気的に接合されていない(離間している。)。一方、図5に示すように、同じ導電型用のバスバー電極とフィンガー電極が交差する領域(最隣接部)においては、絶縁膜24、25は、コンタクト部と集電部との間に挟まれている。すなわち、同じ導電型用のバスバー電極と集電部は、絶縁膜上において電気的に接合されている。なお、図5における37(35)は、第1のバスバー電極37と第1の集電部35とが重なり合う(電気的に接合されている)部分を示す。
【0052】
このような太陽電池であれば、絶縁膜を設けることによって、バスバー電極とフィンガー電極を立体構造とすることができる。これにより、バスバー電極の本数を増やし、フィンガー電極の長さを短くすることができる。また、バスバー電極が直接シリコン基板と接触することがないため、シャントが発生しない。さらに、バスバー電極の直下の全域に絶縁膜が形成されていることにより、バスバー電極形成時の工程不良を発生させることなく、第1のフィンガー電極と第2のバスバー電極をより確実に絶縁し、第2のフィンガー電極と第1のバスバー電極をより確実に絶縁することができる。これにより、並列抵抗が高く、変換効率が高い太陽電池とすることができる。さらに、本発明の太陽電池は、絶縁膜の直下において、基板自体と直接結合するコンタクト部がライン状に連続して形成されたものである。そのため、図16(2)に示すような、コンタクト部同士を接続するための1工程を削減することができ、歩留りが高く安価な太陽電池を製造することができる。
【0053】
……
【0055】
[コンタクト部]
第1のコンタクト部及び第2のコンタクト部の材料としては、例えば、銀粉末とガラスフリットを有機物バインダで混合した流動性のあるペースト(以下、焼結ペーストとも記載する。)を用いることができる。
【0056】
上述のように、絶縁膜の直下において、基板自体と直接結合するコンタクト部がライン状に連続して形成されたものである必要があるが、その他の箇所において、コンタクト部の形状は特に限定されない。例えば、絶縁膜が形成された箇所以外の箇所におけるコンタクト部の形状が、ドット状、ライン状、又はこれらの形状の組み合わせのいずれかであることが好ましい。例えば、当該箇所におけるコンタクト部の形状がドット状であれば、コンタクト面積をより小さくすることができる。これにより、パッシベーション領域を広くし、開放電圧を増加させることができる。
【0057】
……
【0062】
[集電部、バスバー電極]
集電部及びバスバー電極は、Ag、Cu、Au、Al、Zn、In、Sn、Bi、Pbから選択される1種類以上の導電性物質を含有し、さらにエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂から選択される1種類以上の樹脂を含有する材料からなるものであることが好ましい。このような電極材料からなるものであれば、ガラスフリットを含む必要がないので、加熱時に電極材料がシリコン基板等の半導体基板と直接結合することがなく、コンタクト面積の増加が抑制される。」

オ 「【0103】
[実施例1]
実施例1では、図2、7に示すようなパターンのコンタクト部、絶縁膜、集電部及びバスバー電極を形成した(図6(j)?(l))。
【0104】
まず、幅100μmのライン状のパターンのコンタクト部を形成した。具体的には、拡散層上の所定の箇所にAg粒子、ガラスフリット、バインダー、溶剤からなる導電性ペースト(焼結ペースト)をスクリーン印刷により塗布し、乾燥、700℃、5分の焼成を行い、第1のコンタクト部26及び第2のコンタクト部27を形成した。次に、バスバー電極直下に、上記フィンガー電極(コンタクト部)と直交するように、幅3mm(フィンガー電極長手方向)、長さ150mm(バスバー電極長手方向)の絶縁膜を形成した。絶縁膜の材料として、ポリイミドペーストを用い、このペーストをスクリーン印刷により所定の箇所に塗布し、150℃で、20分加熱し硬化させ、絶縁膜を形成した。
【0105】
次に、幅100μmの集電部と、1.2mm幅で長さが148mmのバスバー電極を同時に形成した。集電部とバスバー電極の材料としては、Ag粒子と、熱硬化樹脂からなる導電性ペースト(熱硬化ペースト)を用いた。この熱硬化ペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥し、200℃で30分間加熱して硬化させ、第1の集電部35、第2の集電部36、第1のバスバー電極37及び第2のバスバー電極38を同時に形成した。」

カ 図1は、以下のものである(上面模式図)。


キ 図2ないし図5は、以下のものである。
図2(一部分を拡大した拡大図)


図3(図1における、a-a’断面)


図4(図1における、b-b’断面)


図5(図1における、c-c’断面)


(2)引用文献の記載から把握できる事項
ア 上記(1)アの記載からして、引用文献には、
「一方の主表面を受光面とし、もう一方の主表面を裏面とする第1導電型の半導体基板を備え、該半導体基板が、前記裏面において、前記第1導電型の領域と、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型の領域とを有するものである太陽電池であって、
前記第1導電型の領域に接合された第1のコンタクト部と、該第1のコンタクト部上に形成された第1の集電部とからなる第1のフィンガー電極、
前記第2導電型の領域に接合された第2のコンタクト部と、該第2のコンタクト部上に形成された第2の集電部とからなる第2のフィンガー電極、
前記第1の集電部と電気的に接合された第1のバスバー電極、及び、
前記第2の集電部と電気的に接合された第2のバスバー電極
を備え、
少なくとも前記第1のバスバー電極及び前記第2のバスバー電極の直下の全域に絶縁膜を備え、該絶縁膜上において、前記第1の集電部及び前記第1のバスバー電極、並びに前記第2の集電部及び前記第2のバスバー電極の前記電気的な接合がされたものであり、
少なくとも前記絶縁膜の直下において、前記第1のコンタクト部及び前記第2のコンタクト部がライン状に連続したものである、太陽電池。」が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)イの記載からして、上記アの「太陽電池」は、
コンタクト面積を減少させつつ、パッシベーション領域を広くした、太陽電池であることが理解できる。

ウ 上記(1)エの記載を踏まえて、図3ないし図5を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)上記アにおける「第1導電型の半導体基板」は、N型シリコン基板13であってもよいこと。
(イ)上記アにおける「第1導電型」はN型であり、「第2導電型」はP型であってもよいこと。
(ウ)上記アの「第1導電型の領域」はN型拡散層20であり、「第2導電型の領域」はP型拡散層21であること。
(エ)上記アの「太陽電池」は、裏面電極型太陽電池10であること。

エ また、上記(1)エの記載を踏まえて、図1及び図2を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)図2は、図1において、絶縁膜24が左となる位置を拡大したものであること。
(イ)「第1のコンタクト部26」は、絶縁膜25の直下において(左右に)ライン状に連続していること(他の箇所では、ドット状であってもよいこと。)。
(ウ)「第2のコンタクト部27」は、絶縁膜24の直下において(左右に)ライン状に連続していること(他の箇所では、ドット状であってもよいこと。)。
(エ)「(左右に延びる)第1の集電部35」は、絶縁膜24上において(上下に延びる)第1のバスバー電極37と電気的に接合していること。
(オ)「(左右に延びる)第2の集電部36」は、絶縁膜25上において(上下に延びる)第2のバスバー電極38と電気的に接合していること。

オ 上記(1)オの[実施例1]に関する記載からして、
上記アの「絶縁膜」は、ポリイミドペーストを硬化させてなる絶縁膜であってもよいことが理解できる。

2 引用文献に記載された発明
上記1(2)の検討からして、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「N型シリコン基板13を備え、該N型シリコン基板13が、前記裏面において、N型拡散層20とP型拡散層21とを有する裏面電極型太陽電池であって、
前記N型拡散層20に接合された第1のコンタクト部26と該第1のコンタクト部26上に形成された第1の集電部35とからなる第1のフィンガー電極と、
前記P型拡散層21に接合された第2のコンタクト部27と該第2のコンタクト部27上に形成された第2の集電部36とからなる第2のフィンガー電極と、
前記第1の集電部35と電気的に接合された第1のバスバー電極37と、
前記第2の集電部36と電気的に接合された第2のバスバー電極38と、
を備え、
前記第1のバスバー電極37及び前記第2のバスバー電極38の直下の全域に、ポリイミドペーストを硬化させてなる絶縁膜(24、25)を備え、
前記絶縁膜24上において第1の集電部35と第1のバスバー電極37が電気的に接合され、
前記絶縁膜25上において第2の集電部36と第2のバスバー電極38が電気的に接合され
前記第1のコンタクト部26及び前記第2のコンタクト部27は、前記絶縁膜(24、25)の直下において、ライン状に連続して形成されたものである、
裏面電極型太陽電池。」

第4 対比・判断
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「N型シリコン基板13」は、本願発明の「第1導電型を有する半導体基板」に相当する。
以下、同様に、
「裏面」は、「第1主表面」に、
「P型拡散層21」は、「第1導電型と反対の導電型である第2導電型を有するエミッタ領域」に、
「N型拡散層20」は、「第1導電型を有するベース領域」に、
「ポリイミドペーストを硬化させてなる絶縁膜(24、25)」は、「『ポリイミドからな』る『絶縁膜』」に、
「裏面電極型太陽電池」は、「太陽電池」に、それぞれ、相当する。

(2)ア 引用文献の【0028】における「……第1導電型の領域及び第2導電型の領域とコンタクトを形成している電極のことをコンタクト部と定義する。」(摘記ウを参照。)との記載からして、
引用発明の「第1のコンタクト部26」及び「第2のコンタクト部27」は、電極と呼べるものである。

イ そうすると、引用発明の「N型拡散層20に接合された第1のコンタクト部26」及び「P型拡散層21に接合された第2のコンタクト部27」は、本願発明の「ベース領域に接するベース電極」及び「エミッタ領域に接するエミッタ電極」に、それぞれ、相当する。

(3)ア 次に、本願発明の「絶縁膜がエミッタ領域とベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜がベース領域と前記エミッタ電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記エミッタ電極とベース電極を電気的に絶縁するように形成されており」の意味について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

イ 本願明細書には、図とともに、以下の記載がある。
(ア)「【0039】
また、図1に示すように、本発明の太陽電池100は、絶縁膜118がエミッタ領域112とベース電極123を電気的に絶縁するように形成されていることが好ましい。このような太陽電池であれば、絶縁膜により、エミッタ領域とベース電極の電気的短絡を防ぐことができる。
【0040】
また、図1に示すように、本発明の太陽電池100は、絶縁膜118がベース領域113とエミッタ電極122を電気的に絶縁するように形成されていることが好ましい。このような太陽電池であれば、絶縁膜により、ベース領域とエミッタ電極の電気的短絡を防ぐことができる。
【0041】
また、図1に示すように、本発明の太陽電池100は、絶縁膜118がエミッタ電極122とベース電極123を電気的に絶縁するように形成されていることが好ましい。このような太陽電池であれば、絶縁膜により、エミッタ電極とベース電極の電気的短絡を防ぐことができる。」

(イ)「【0051】
次に、エミッタ領域112とベース領域113の電気的短絡を防ぐ絶縁膜118としてカルボキシ基を含まないポリイミドを形成する。図1に示した裏面構造の太陽電池の場合、絶縁膜118を、エミッタ領域112とベースバスバー133の交差箇所、及び、ベース領域113とエミッタバスバー132の交差箇所に形成する。」

(ウ)図1は、以下のものである。


ウ 上記イの記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)左右方向に、「ベース領域113」、「ベース電極123」、「エミッタ領域112」及び「エミッタ電極122」が形成されていること。
(イ)縦方向に、「エミッタバスバー132」及び「ベースバスバー133」が形成されていること。
(ウ)「絶縁膜118」は、「エミッタ領域112」と「ベースバスバー133」の交差箇所、及び「ベース領域113」と「エミッタバスバー132」の交差箇所に形成すされていること。

エ 上記ウの理解を前提にすると、
「絶縁膜118」は、「ベース電極(エミッタ電極)」と「ベースバスバー(エミッタバスバー)」が交差する箇所に設けら、
「エミッタ領域112」と「ベースバスバー133」を電気的に絶縁するとともに、「ベース領域113」と「エミッタバスバー132」を電気的に絶縁するものであることが理解できる。

オ 以上の検討を踏まえると、
本願発明の「絶縁膜がエミッタ領域とベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜がベース領域と前記エミッタ電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記エミッタ電極とベース電極を電気的に絶縁するように形成されており」とは、
絶縁膜を、「エミッタ領域112」と「ベース領域113」とが「ベースバスバー(エミッタバスバー)」を介して電気的に短絡しないように形成することを意味しているものと解さされる。

カ 一方、引用発明においては、「絶縁膜24上において第1の集電部35と第1のバスバー電極37が電気的に接合され、
絶縁膜25上において第2の集電部36と第2のバスバー電極38が電気的に接合され」ているから、
引用発明の「絶縁膜(24、25)」は、「N型拡散層20(ベース領域)」と「P型拡散層21(エミッタ領域)」とが、「第1のバスバー電極37(ベースバスバー)」及び「第2のバスバー電極38(エミッタバスバー)」を介して電気的に短絡しないように形成されていることは、明らかである。

キ 上記アないしカより、
本願発明と引用発明とは、絶縁膜について、
「エミッタ領域とベース領域の電気的短絡を防ぐ絶縁膜を備え、
前記絶縁膜がエミッタ領域とベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜がベース領域とエミッタ電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜がエミッタ電極とベース電極を電気的に絶縁するように形成されている」点で一致する。

(4)以上のことから、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「第1導電型を有する半導体基板を備え、該半導体基板の第1主表面に、前記第1導電型と反対の導電型である第2導電型を有するエミッタ領域と、前記エミッタ領域に接するエミッタ電極と、前記第1導電型を有するベース領域と、前記ベース領域に接するベース電極と、
前記エミッタ領域と前記ベース領域の電気的短絡を防ぐ絶縁膜とを備えた太陽電池であって、
前記絶縁膜が前記エミッタ領域と前記ベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記ベース領域と前記エミッタ電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜が前記エミッタ電極と前記ベース電極を電気的に絶縁するように形成されており、
前記絶縁膜はポリイミドからなる、太陽電池。」

(5)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
絶縁膜に関して、
本願発明は、「TOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下である」のに対して、
引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。

2 判断
(1)上記<相違点>について検討する。
ア 本願発明において、「『TOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下である』『ポリイミド』」を採用する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

(ア)本願明細書には、以下の記載がある。
「【0037】
本発明の太陽電池では、絶縁膜118はポリイミドからなり、かつ、絶縁膜118は飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)法において
Bi_(5)^(++)イオン(ビスマス5量体の2価イオン)を加速電圧30kVで0.2pA(ピコアンペア)照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下である。この検出カウント数は概ねTOF-SIMS法の検出下限程度である。また、カルボキシ基を含む有機物は、TOF-SIMSにおいてBiイオン照射により弾き出される2次イオンのうち、例えばm/z値(m:イオン質量数、z:イオン電荷数)が115付近に現れるC_(6)H_(11)O_(2)のピークとして検出できる。従って、本発明の太陽電池は、絶縁膜がカルボキシ基をほとんど又は全く含まないポリイミドからなるものであるとも言える。絶縁膜にカルボキシ基を含む有機物が残存する、すなわち、当該カウント数が100を超えると耐候性が著しく低下する。この理由は未だ明確にはなっていないが、絶縁膜の吸湿に伴ってアミック酸由来のカルボキシ基に起因してカルボン酸が生成され、電極自体あるいは電極とシリコンの界面に作用して電気抵抗を悪化させていると考えられる。
【0037】
……従って、本発明の太陽電池は、絶縁膜がカルボキシ基をほとんど又は全く含まないポリイミドからなるものであるとも言える。絶縁膜にカルボキシ基を含む有機物が残存する、すなわち、当該カウント数が100を超えると耐候性が著しく低下する。この理由は未だ明確にはなっていないが、絶縁膜の吸湿に伴ってアミック酸由来のカルボキシ基に起因してカルボン酸が生成され、電極自体あるいは電極とシリコンの界面に作用して電気抵抗を悪化させていると考えられる。」

「【0053】
……従って、本発明の方法においては、TOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下である本硬化後の絶縁膜を、カルボキシ基を含まないポリイミドからなる絶縁膜とみなしても良い。なお、上記検出カウント数(100)は概ねTOF-SIMS法の検出下限程度である。
【0054】
絶縁膜にカルボキシ基を含む有機物が残存すると耐候性が著しく低下する。この理由は未だ明確にはなっていないが、絶縁膜の吸湿に伴ってアミック酸由来のカルボキシ基に起因してカルボン酸が生成され、電極自体あるいは電極とシリコンの界面に作用して電気抵抗を悪化させていると考えられる。【0055】
……
【0056】
しかしながら、好ましくはアミック酸を含まない絶縁膜前駆体を使用するのが良い。この場合、例えば特開2015-180721号公報に記載されている可溶性ポリイミドを使用した可溶性ポリイミド塗布剤が使用できる。」

(イ)上記記載から、以下のことが理解できる。
a 「カルボキシ基を含む有機物」は、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)法においてC_(6)H_(11)O_(2)のピークとして検出でき、その検出カウント数が100以下であれば、カルボキシ基を含まないものと見なせること。
b 絶縁膜にカルボキシ基を含む有機物が残存すると、耐候性が著しく低下したり、電気抵抗を悪化させること。

(ウ)そうすると、上記「『TOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下である』『ポリイミド』」を採用する技術的意義は、
「カルボキシ基を含む有機物(アミック酸)が存在しない絶縁膜」を採用することにより、耐候性が低下したり、電気抵抗を悪化させることを防止することにあるものと解される。

イ(ア)ところで、当審拒絶理由において、銅や銀等とポリアミック酸が接触すると化学反応を引き起こすこと、ポリアミック酸が残留すると耐湿性や耐腐食性などが低下すること、ポリアミック酸を経由しないでポリイミドを形成できることは、本願の出願日時点で周知であることを指摘した(必要ならば、下記の文献を参照。)。

特開2012-69594号公報(【0032】)
特開平11-52572号公報(【0009】ないし【0011】)
特開平10-4263号公報(【0005】)
特開平8-148339号公報(【0003】)
特開平6-73338号公報(【0003】及び【0004】)
特開平2-167741号公報(第3頁右上欄ないし同頁左下欄)
特開平1-129233号公報(第2頁右上欄ないし同頁左下欄)

(イ)そして、引用発明の「(ライン状に連続して形成された)第1のコンタクト部26及び第2のコンタクト部27」は、引用文献の【0055】の記載からして、導電性粒子を含む焼結ペーストを用いて形成されたものであり、引用発明の「第1の集電部35、第2の集電部36、第1のバスバー電極37及び第2のバスバー電極38」は、引用文献の【0062】の記載からして、導電性物質を含有する樹脂材料を用いて形成されたものであるところ、このような導電性粒子(導電性物質)としては、一般に、銀粉末や銅粉末等の金属粉末が用いられている。

(ウ)してみると、引用発明の「ポリイミドペーストを硬化させてなる絶縁膜(24、25)」の中に「カルボキシ基を含む有機物(アミック酸)」が存在すると、導電性粒子(導電性物質)である銀粉末や銅粉末と化学反応を引き起こしたり、耐湿性、耐腐食性及び電気的特性などが低下するおそれのあることは、当業者が予測し得ることである。

ウ そうすると、上記周知技術を考慮して、引用発明の「(絶縁膜を形成するための)ポリイミドペースト」として「アミック酸を含まないポリイミドペースト」を採用し、化学反応を引き起こしたり、耐湿性、耐腐食性及び電気的特性などが低下することのないようにすることに、何ら困難性は認められない。

エ 上記ウのようにした引用発明の「ポリイミドペーストを硬化させてなる絶縁膜(24、25)」は、「カルボキシ基を含まないポリイミドからなる絶縁膜(24、25)」であるから、「TOF-SIMS法においてBi_(5)^(++)イオンを加速電圧30kVで0.2pA照射された際のC_(6)H_(11)O_(2)検出カウント数が100以下」となる。

オ よって、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を備えることは、当業者が周知技術に基いて容易になし得たことである。

(2)効果
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

3 平成30年11月15日提出の意見書について
(1)請求人は、意見書において、以下のように主張するので、この点について検討する。

「文献Cの[0043]段落には、ポリイミド樹脂溶液組成物を太陽電池の表面保護膜などの用途に用いることが例示されていますが、本発明のように、太陽電池のエミッタ領域とベース領域の電気的短絡を防ぐ絶縁膜等、エミッタ電極に関する領域とベース電極に関する領域の絶縁膜として用いるものではありません。」(第3頁中段)

ア 請求人が指摘する文献C(特開平6-73338号公報)には、以下の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、低温・短時間の熱処理によって接着性、耐熱性、電気的特性、機械的特性などに優れたポリイミド樹脂膜を得ることができるポリイミド樹脂溶液組成物及びコーティング剤に関する。」

「【0003】
……特に電子部品の絶縁保護膜に用いる場合、これらの性能の低下は、電子部品の劣化、短寿命化を招くこととなり、大きな問題となる。」

「【0043】
……太陽電池の表面保護膜などの用途にコーティング剤として広い範囲に亘り利用することができる。」

イ また、太陽電池において、絶縁膜の材料としてポリイミド樹脂は、汎用されている材料である(必要ならば、例えば、特開2006-203056号公報の【0006】及び国際公開第2015/190024号の請求項5を参照。)。

ウ そうすると、文献Cの記載に接した当業者は、文献Cに記載された「ポリイミド樹脂膜」は、太陽電池の表面保護膜だけではなく、太陽電池の絶縁膜としても利用できると認識できる。

(2)よって、請求人の主張は、上記「2」の判断を左右するものではない。

4 まとめ
本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-13 
結審通知日 2018-12-18 
審決日 2019-01-09 
出願番号 特願2017-519703(P2017-519703)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 星野 浩一
村井 友和
発明の名称 高効率太陽電池及び高効率太陽電池の製造方法  
代理人 小林 俊弘  
代理人 好宮 幹夫  

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