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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1349382
審判番号 不服2017-3455  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2019-02-27 
事件の表示 特願2013-518836「植物における安定な形質転換のためのPEG化量子ドットを用いた直鎖DNA分子送達」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日国際公開、WO2012/006443、平成25年 7月25日国内公表、特表2013-529934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)7月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年7月7日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 7月22日付け:拒絶理由通知書
平成28年 1月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 3月17日付け:拒絶理由通知書
平成28年 6月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年10月28日付け:拒絶査定
平成29年 3月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 4月27日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 8日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1?20に係る発明は、平成30年8月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
対象とする直鎖核酸分子を、細胞壁を有する植物細胞に導入する方法であって、
細胞壁を有する植物細胞を用意する工程、
対象とする直鎖核酸分子でナノ粒子を被覆する工程であって、前記ナノ粒子が、ポリエチレングリコールで被覆されている、工程、
細胞壁を有する植物細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させる工程、
細胞壁を含む前記細胞へ前記ナノ粒子および前記対象とする直鎖核酸分子を取り込ませる工程であって、移動が、前記粒子が取り込まれる細胞以外の何かによって前記粒子に与えられるモーメントの結果として単独に生じるものではない、工程、ならびに
前記対象とする直鎖核酸分子を安定に組み込んでいる細胞を選択する工程を含む方法。」
第3 当審の拒絶理由通知書の概要
平成30年4月27日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒理」という。)は、本願発明が、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1?5に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:国際公開第2009/046384号
引用例2:J. Exp. Bot., 2006, vol. 57, no. 14, p.3737-3746
引用例3:低温科学, 2009, vol.67, p.607-613
引用例4:特表2002-533057号公報
引用例5:特表2008-500016号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献の記載
(1)引用例1
当審拒理で「引用例1」として引用した国際公開第2009/046384号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は、引用例1のファミリー文献である特表2010-539989号公報を参考に、当審が行った。)。
(1-ア)「1. 細胞壁を有する植物細胞に目的の分子を導入する方法であって、
細胞壁を有する植物細胞を提供するステップと、
ナノ粒子を目的の分子で被覆するステップと、
細胞壁を有する細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させて置くステップと、
細胞壁を含む細胞へのナノ粒子および目的の分子の取り込みを可能にするステップと
を含む方法。」(特許請求の範囲)
(1-イ)「11. 目的の分子が、核酸、DNA、RNA、RNAi分子、遺伝子、プラスミド、コスミド、YAC、BAC、ポリペプチド、酵素、ホルモン、糖ペプチド、糖類、脂肪、シグナル伝達ペプチド、抗体、ビタミン、メッセンジャー、セカンドメッセンジャー、アミノ酸、cAMP、薬剤、除草剤、殺菌剤、抗生物質およびそれらの組合せからなる群から選択される構成要素を含む、請求項1に記載の方法。
・・・
14. 目的の分子が安定に組み込まれている細胞を選択するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。」(特許請求の範囲)
(1-ウ)「ナノ粒子は、細胞へのDNA送達における使用について開発されてきた独自の特性を有する。・・・プラスミドDNAは、・・・金ナノ粒子(「GNP」)にさらされ得る。・・・
金属ナノ粒子に加えて、サイズ範囲3?5nm内の半導体ナノ粒子(例えば量子ドット)(「QD」)も、細胞内に分子を送達するための担体として使用されている。DNAおよびタンパク質はQD表面に付着するリガンドに連結できる・・・。」(1頁11?24行)
(1-エ)「取り込み 取り込みは、例えば金または量子ドットであるナノ粒子などの粒子の細胞壁または細胞膜を超える移動であって、粒子が取り込まれる細胞以外の何かによって粒子に与えられるモーメントの結果として単独に生じるのではない移動を意味する。」(6頁21?24行)
(1-オ)「一実施形態において、ナノ粒子は、PEG化されても良い。」(8頁3?4行目)
(1-カ)「実施例4
核形質転換のためのDNA付着GNP送達
・・・SH-PEG(3)-OCH_(3) 2mgをクエン酸GNP溶液に加えた。混合物を直ちに室温で20時間撹拌し、・・・次いでTHF 3容量を反応混合物に加え、得られた溶液を13Krpmで4℃、30分間遠心分離した。上清を除去し、沈殿を超純水・・・10mLに再溶解し、THF 30mLを加え、同じ条件で2度目の遠心分離を実施した。次いで沈殿を超純水・・・に溶解し、室温に置いた。形質転換実験用に、プラスミドDNAをH_(3)CO-PEG-SH-GNPに被覆するために、精製プラスミドDNA 1mgを金粒子10mgと水50ml中で2時間、23°でインキュベートした・・・。」(23頁29行?24頁22行)
(1-キ)「実施例5
核形質転換のためのDNA付着PEG化量子ドット送達
・・・プラスミドDNAとのQDコンジュゲーション:TOPO(トチオクチルホスフィンオキシド)で被覆されたQD・・・2mgをHS-PEG-OCH_(3)・・・4mgと、一晩、約60?70℃で懸濁した。真空オーブンで溶媒を除去した。次いで残渣を水・・・1mLに懸濁した。・・・形質転換実験のためのプラスミドDNAをH_(3)CO-PEG-SH-QDに被覆するために、精製プラスミドDNA・・・0.02mgを、得られたQDコンジュゲートと水2ml中で2時間、23°、暗所でインキュベートした・・・。」(24頁下から2行?25頁17行)
(1-ク)「実施例7
シロイヌナズナ栽培種ColumbiaのT1後代における導入遺伝子のゲノムへの組込みのための分子分析および立証
シロイヌナズナトランスジェニック植物由来のゲノムDNAを6週齢の葉全体の材料からDNeasy Plant Mini kitを製造者の説明書・・・に従って使用して抽出した。・・・YFPおよびPAT PCRプライマーを、野外噴霧レベルの4?5×の除草剤Finaleに耐性のT1実生由来の鋳型ゲノムDNAを使用するPCR反応において使用した。
・・・
PATおよびYFP・・・遺伝子産物についてのPCRは、ゲノム鋳型DNA 100ng、1×ExTaq反応緩衝液・・・、0.2mM dNTP、各プライマー10pmol及び0.025単位/μL ExTaqを含有する混合物の合計反応容量50μL中で増幅した。・・・
PCR断片を・・・配列決定し、配列をSequencherソフトウェアを使用して分析した。
結果は、PATおよびYFP配列はナノ粒子を通じて送達され、量子ドットはDNA送達を介在することを示し、したがって、T1植物のゲノムDNAにおける導入遺伝子の安定なゲノムへの組込みの明確な証拠を提供している。」(31頁9行?32頁6行)
(2)引用例2
当審拒理で「引用例2」として引用した「J. Exp. Bot., 2006, vol. 57, no. 14, p.3737-3746」(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。
(2-ア)「ベクター骨格配列を欠く直線状遺伝子構築物の2つのグループ(gus及びbar並びに1Ax1及びbar)が、独立して、エリートコムギ(Triticum aestivum L.)品種EM12中に導入され、低コピー数の導入遺伝子の組み込みを伴う、遺伝的に安定なトランスジェニック植物が回収された。共形質転換実験は、環状全プラスミド、又は制限酵素消化により同じプラスミドから精製され、プロモーター、オープンリーディングフレーム及びターミネーターからなる直線状の遺伝子カセットを用い、並行して行われた。」(3737頁左欄1?12行)
(3)引用例3
当審拒理で「引用例3」として引用した「低温科学, 2009, vol.67, p.607-613」(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3-ア)「4.1 ポリエチレングリコールを用いたプロトプラストへの遺伝子導入
ポリエチレングリコール(PEG)法によるヒメツリガネゴケの形質転換と相同組換えによる効率の高い遺伝子ターゲティングが、・・・報告された。・・・同法による形質転換の実験プロトコルは・・・から入手できる。同法はコケ原糸体細胞のプロトプラストの調製、PEGを用いたプロトプラストへのDNAの導入、薬剤耐性形質転換体の選択の3つのステップからなる。ここでは当研究室で行っている核と葉緑体の形質転換の実験手順を紹介する。」(607頁左欄1?18行)
(3-イ)「4.1.2 プロトプラストへのDNAの導入
・・・30μlの*DNA溶液(30μgDNA断片)、300μlのプロトプラスト溶液、300μlのPEG/T溶液の順に、14mlポリピレン丸底チューブ・・・に加えて混合し、・・・インキュベートする。
*市販のキット・・・で調製したプラスミドDNAを制限酵素で完全消化し直鎖状にする。」(608頁右欄1?10行)
(3-ウ)「4.1.5 留意点および課題など
・・・(3)形質転換用の導入DNAは必ず断片化して直鎖状にしたものを用いる。プラスミドのまま導入すると、核ゲノムへの組み込みがほとんど起こらない。」(610頁左欄最終行?右欄2行)
(4)引用例4
当審拒理で「引用例4」として引用した特表2002-533057号公報(以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(4-ア)「実質的にいずれのDNA組成物もいずれかの与えられた形質転換技術にて導入して、結局は稔性トランスジェニック植物を生産することができるのは当業者によく知られている。本発明と組み合わせて使用することができるベクターの構築は本開示に鑑みて当業者に知られるであろう(例えば、Sambrookら,1989;Gelvinら,1990)。本発明の技術は、かくして、特定のDNA配列には限定されない。例えば、ベクターおよびプラスミドの形態のDNAセグメント、またはある場合には植物で発現されるべきDNAエレメントのみを含有する線状DNA断片を使用することができる。」(【0180】)
(5)引用例5
当審拒理で「引用例5」として引用した特表2008-500016号公報(以下「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(5-ア)「本発明の核酸配列および/または本発明の発現カセットを少なくとも1コピー含むベクターもまた、本発明に含まれる。
プラスミドに加えて、ベクターは更にまた、当業者が精通しているすべての他の公知のベクター、例えば、ファージ、SV40、CMV、バキュロウイルス、アデノウイルスなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、ファージミド、コスミドまたは直鎖状もしくは環状DNAなどを意味するものとして理解される。これらのベクターは宿主生物内で自律複製することができるか、または染色体上で複製されるが、染色体上での複製が好ましい。
ベクターの更なる実施形態では、本発明の核酸構築物はまた、有利には、直鎖状DNAの形で生物に導入され、非相同組換えまたは相同組換えによって宿主生物のゲノム内に組み込まれる。この直鎖状DNAは、直鎖状にしたプラスミドで、もしくはベクターとしての核酸構築物のみで構成されていてもよいし、用いる核酸配列で構成されていてもよい。」(【0089】?【0091】)
(5-イ)「これに関連して、本発明の核酸、発現カセットまたはベクターの、対象の生物への導入(形質転換)は、原則的に、当業者が精通しているすべての方法によって達成され得る。
・・・
双子葉植物の場合には、形質転換および植物組織もしくは植物細胞からの植物体の再生について記載されている方法が、一過性のまたは安定した形質転換のために利用され得る。適切な方法は、バイオリスティック法またはプロトプラスト形質転換による方法・・・、エレクトロポレーション、乾燥胚のDNA含有溶液中でのインキュベーション、マイクロインジェクションおよびアグロバクテリウムを介した遺伝子導入である。・・・
・・・
アグロバクテリウムを用いたベクターに基づく単子葉植物の形質転換もまた記載されている・・・。単子葉植物の形質転換のための代替システムは、バイオリスティック法を用いた形質転換・・・、プロトプラスト形質転換、部分的透過性細胞のエレクトロポレーション、ならびにグラスファイバーを用いたDNAの導入である。・・・」(【0097】?【0101】)
2 引用発明
摘記事項(1-ア)からみて、引用例1には、
「細胞壁を有する植物細胞に目的の分子を導入する方法であって、
細胞壁を有する植物細胞を提供するステップと、
ナノ粒子を目的の分子で被覆するステップと、
細胞壁を有する細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させて置くステップと、
細胞壁を含む細胞へのナノ粒子および目的の分子の取り込みを可能にするステップと
を含む方法」
が記載されている。
そして、摘記事項(1-イ)からみて、引用例1には、上記方法において、目的の分子が核酸であることが記載されている。また、摘記事項(1-イ)からみて、引用例1には、目的の分子が安定に組み込まれている細胞を選択するステップをさらに含むことが記載されているところ、このステップは、目的の分子が細胞へ取り込まれた後に行われることは明らかである。
したがって、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「細胞壁を有する植物細胞に目的の核酸分子を導入する方法であって、
細胞壁を有する植物細胞を提供するステップと、
ナノ粒子を目的の核酸分子で被覆するステップと、
細胞壁を有する細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させて置くステップと、
細胞壁を含む細胞へのナノ粒子および目的の核酸分子の取り込みを可能にするステップと、
目的の分子が安定に組み込まれている細胞を選択するステップと
を含む方法。」
第5 対比、判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「目的の核酸分子」と、本願発明の「対象とする直鎖核酸分子」とは、植物細胞に導入する対象の核酸分子である点で共通する。
また、引用発明の「細胞壁を有する細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させて置くステップと、細胞壁を含む細胞へのナノ粒子および目的の核酸分子の取り込みを可能にするステップと」(下線は当審による。)を含む「導入する方法」は、引用例1に、「取り込み」との文言について、「取り込みは、例えば金または量子ドットであるナノ粒子などの粒子の細胞壁または細胞膜を超える移動であって、粒子が取り込まれる細胞以外の何かによって粒子に与えられるモーメントの結果として単独に生じるのではない移動を意味する。」(摘記事項(1-エ))と記載されていることからみて、本願発明の「細胞壁を有する植物細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させる工程、細胞壁を含む前記細胞へ前記ナノ粒子および前記対象とする核酸分子を取り込ませる工程であって、移動が、前記粒子が取り込まれる細胞以外の何かによって前記粒子に与えられるモーメントの結果として単独に生じるものではない、工程」を含む「導入する方法」に相当するといえる。
したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
(一致点)「対象とする核酸分子を、細胞壁を有する植物細胞に導入する方法であって、
細胞壁を有する植物細胞を用意する工程、
対象とする核酸分子でナノ粒子を被覆する工程、
細胞壁を有する植物細胞と被覆されたナノ粒子とを互いに接触させる工程、
細胞壁を含む前記細胞へ前記ナノ粒子および前記対象とする核酸分子を取り込ませる工程であって、移動が、前記粒子が取り込まれる細胞以外の何かによって前記粒子に与えられるモーメントの結果として単独に生じるものではない、工程、ならびに
前記対象とする核酸分子を安定に組み込んでいる細胞を選択する工程を含む方法。」である点。
(相違点1)対象とする核酸分子が、本願発明は「直鎖核酸分子」であると特定されているのに対して、引用発明はその点が特定されていない点。
(相違点2)ナノ粒子が、本願発明は「ポリエチレングリコールで被覆されている」と特定されているのに対して、引用発明はその点が特定されていない点。
2 判断
(1)相違点1について
摘記事項(1-イ)のとおり、引用例1には、植物細胞に導入する対象の核酸分子として「核酸、DNA、RNA、RNAi分子、遺伝子、プラスミド、コスミド、YAC、BAC、・・・」と、直鎖状及び環状の様々な核酸分子が記載されており、引用例1の記載に接した当業者は、引用発明で用いる核酸分子として、環状のもののみならず、直鎖状のものを採用することもできると理解するといえる。
そして、引用例2?5に、植物細胞へ直鎖核酸分子を導入することが記載されている(摘記事項(2-ア)、(3-ア)?(3-ウ)、(4-ア)、(5-ア)及び(5-イ))ことからみて、植物細胞に導入する際の核酸の形態として直鎖状のものを用いることは本願優先日前から当業者にとって周知の技術であったといえる。
そうすると、引用発明において、対象の核酸分子として直鎖状のもの、すなわち、直鎖核酸分子を用いることは、引用例1の記載、及び上記周知技術に基づき、当業者が容易に想到し得ることである。
(2)相違点2について
引用例1には、ナノ粒子がPEG化されても良いことが記載されている(摘記事項(1-オ))。また、摘記事項(1-ウ)、(1-カ)及び(1-キ)からみて、引用例1には、ナノ粒子である金ナノ粒子及び量子ドットをPEG化した上で核酸を被覆したことが記載されている。
そうすると、引用発明において、ナノ粒子を目的の核酸分子で被覆するにあたり、予めナノ粒子をPEG化しておくこと、すなわち、ポリエチレングリコールで被覆しておくことは、引用例1の記載に基づき、当業者が容易に想到し得ることである。
(3)本願発明の効果について
引用発明は、対象とする核酸分子を安定に組み込んでいる細胞を選択する工程を有するものであるから、当然に、核酸分子を安定に組み込んだ植物細胞を得るためのものであるといえ、また、引用例1の実施例7には、ナノ粒子を通じて、導入遺伝子がT1植物のゲノムに安定に組み込まれたことが記載されている(摘記事項(1-ク))から、引用発明により、ある程度の蓋然性をもって、対象とする核酸分子を安定に組み込んだ植物細胞を得ることができると当業者は期待するといえる。
ここで、前記(1)で検討したとおり、引用例1には、植物細胞に導入する対象の核酸分子として、直鎖状及び環状の様々な核酸分子が記載されているのであるから、上記期待は、引用発明で用いる核酸分子として、環状のものを採用する場合であっても、直鎖状のものを採用する場合であってもかわりはないといえる。
一方、本願明細書の実施例の記載をみても、ある程度の蓋然性をもって、対象とする直鎖核酸分子を安定に組み込んだ植物を得たことが理解できるのみであるところ、上記のとおり、この程度の効果は当業者の予測の範囲内のものといえる。そして、本願明細書のその余の記載を考慮しても、核酸分子として直鎖状のものを採用することにより奏される有利な効果(例えば、環状のものを採用することに比した有利な効果)を理解することはできない。したがって、本願明細書の記載から、引用発明に比した本願発明の有利な効果を推認することはできない。
したがって、本願発明について、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものと推認することはできない。
(4)平成30年8月8日提出の意見書における請求人の主張について
ア 相違点1に関する主張について
請求人は、要するに、直鎖核酸分子を植物細胞に導入する方法として、引用例2?5の記載から当業者が理解あるいは動機づけられる方法は、パーティクルボンバードメント法やエレクトロポレーション法等の侵襲的な方法のみであって、非侵襲的な方法ではないから、合理的な成功の期待をもって、引用発明の非侵襲的な方法と、引用例2?5に記載の直鎖核酸分子とを組み合わせようとする動機や根拠はないと主張する。
この点について検討すると、確かに、引用例2?5には、引用発明に記載された非侵襲的な方法により直鎖核酸分子を植物細胞に導入することは記載されてはいない。しかし、前記(1)で検討したとおり、引用例1の記載に接した当業者は、引用発明で用いる核酸分子として、環状のもののみならず、直鎖状のものを採用することもできると理解するといえ、加えて、引用例2?5の記載から、植物細胞に導入する際の核酸の形態として直鎖状のものを用いることが本願優先日前から当業者の周知技術であったといえるのであるから、引用発明で用いる核酸分子として、直鎖核酸分子を採用することには十分な動機づけがあるというべきである。
したがって、この点における請求人の主張を採用することはできない。
イ 相違点に関する他の主張について
請求人は、要するに、本願発明が「対象とする直鎖核酸分子を安定に組み込んでいる細胞を選択する工程」を含むところ、引用発明にはそれが特定されていない点を相違点とし、この相違点の存在を前提とする主張をする。
しかし、前記1で検討したとおり、この点に関し、本願発明と引用発明とは、「対象とする核酸分子を安定に組み込んでいる細胞を選択する工程」を含む点で一致しており、両者の相違点は、対象とする核酸分子が、本願発明は「直鎖核酸分子」であると特定されているのに対して、引用発明はその点が特定されていない点というべきものであるから、請求人の主張は前提において誤りがある。この点をおくとしても、結局、上記相違点は、前記1で検討したとおり、相違点1に相当し、当該相違点1については、前記(1)で検討したとおり、引用例1の記載、及び周知技術に基づき、当業者が容易に想到し得ることであるというべきものである。
したがって、この点における請求人の主張を採用することはできない。
ウ その他の主張について
請求人は、要するに、引用例1は、環状核酸分子の植物ゲノムへの取り込みを記載するものであって、直鎖核酸分子が植物ゲノムに安定に組み込まれたことは記載されていないから、直鎖核酸分子が植物ゲノムに安定に組み込まれるとの効果は、引用例1の記載からは予測することができないと主張する。
しかし、前記アで検討したとおり、引用発明で用いる核酸分子として、直鎖核酸分子を採用することには十分な動機づけがあるといえ、また、前記(3)で検討したとおり、ある程度の蓋然性をもって、対象とする直鎖核酸分子を安定に組み込んだ植物を得ることができるとの本願発明の効果は当業者の予測の範囲内のものというべきである。
したがって、この点における請求人の主張を採用することはできない。
(5)まとめ
以上からみて、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び引用例1?5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する 。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-27 
結審通知日 2018-10-02 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2013-518836(P2013-518836)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
P 1 8・ 121- WZ (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一宮 里枝平林 由利子  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 高堀 栄二
小暮 道明
発明の名称 植物における安定な形質転換のためのPEG化量子ドットを用いた直鎖DNA分子送達  
代理人 小林 浩  
代理人 藤田 尚  
代理人 片山 英二  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  

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