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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1349426
審判番号 不服2017-18544  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-13 
確定日 2019-02-26 
事件の表示 特願2016-526530「太陽光管理」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日国際公開,WO2015/007580,平成28年 8月25日国内公表,特表2016-525711〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2014年7月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年7月18日 欧州特許庁)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成28年3月18日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文が提出され,同年11月29日付けで拒絶理由が通知され,平成29年5月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年8月3日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年12月13日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。
なお,平成30年5月30日に上申書が提出されている。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成29年12月13日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成29年12月13日提出の手続補正書による手続補正の内容
(1)補正前後の記載
平成29年12月13日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,同年5月8日提出の手続補正書による手続補正後(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前後の請求項6の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
ア 本件補正前の請求項6
「透明な基材の表面上に中断された金属層を含む,ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用するための素子であって,前記表面は,基材平面に対して傾斜角のナノ平面で構造化され,かつ当該ナノ平面の少なくとも一部に金属コーティングを有し,前記金属層における中断の周期は50?1000nmの範囲であり,かつ前記金属コーティングの厚さは1?50nmの範囲である,前記素子。」

イ 本件補正後の請求項6
「透明な基材の表面上に中断された金属層を含む,ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用するための素子であって,前記表面は,基材平面に対して傾斜角のナノ平面で構造化され,かつ当該ナノ平面の少なくとも一部に金属コーティングを有し,前記金属層における中断の周期は50?1000nmの範囲であり,前記金属コーティングの厚さは1?50nmの範囲であり,かつ,前記金属層が,銀,金,銅及び白金からなる群から選択される金属を含む,前記素子。」

(2)本件補正のうち請求項6に係る補正の内容
本件補正のうち請求項6に関する補正は,請求項6末尾の「である,前記素子。」という記載を,「であり,かつ,前記金属層が,銀,金,銅及び白金からなる群から選択される金属を含む,前記素子。」という記載に補正するものである。

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無について
本件補正のうち請求項6に関する補正は,本件補正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「金属層」について,補正前にはその材質について特定されていなかったものを,銀,金,銅及び白金からなる群から選択される金属を含むものに限定する補正であって,補正の前後で当該請求項6に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,「金属層」が,銀,金,銅及び白金からなる群から選択される金属を含むことは,国際出願日における明細書の翻訳文の【0029】等に記載されているから,本件補正のうち請求項6に関する補正は,同法184条の12第2項において読み替えて準用する同法17条の2第3項の規定に適合する。

3 独立特許要件について
前記2で述べたとおり,本件補正のうち請求項6に係る補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから,本件補正後の請求項6に係る発明が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について判断する。
(1)本件補正後の請求項6に係る発明
ア 本件補正後の請求項6に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)は,本件補正後の請求項6に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本件補正後の請求項6の記載は,前記1(1)イに示したとおりである。

イ なお,本件補正後の請求項6に記載された「中断された金属層」とは,国際出願日における明細書の翻訳文の【0017】の説明を参酌すると,「一つの方向においては一定の周期で中断され,直交する方向においては中断されていない金属層」を意味していると解するのが相当である。
また,本件補正後の請求項6に記載された「ナノ平面」とは,国際出願日における明細書の翻訳文の【0010】に記載された「ナノ平面」についての説明を参酌すると,「一つの方向には基材平面の全体にわたって延び,直交する方向には1000nm以下延び,平坦であっても湾曲していてもよい構造」を意味していると解するのが相当であり,「基材平面に対して傾斜角のナノ平面」とは,同明細書の翻訳文の【0011】に記載された「傾斜角」についての説明を参酌すると,「一つの方向には基材平面の全体にわたって延び,直交する方向には1000nm以下延び,平坦であっても湾曲していてもよい構造(ナノ平面)であって,基材平面と平行でないもの」を意味していると解するのが相当である。

(2)引用例
ア 特開2012-155163号公報
(ア) 特開2012-155163号公報の記載
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された特開2012-155163号公報(以下,原査定と同様に「引用文献1」という。)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ワイヤグリッド偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトリソグラフィー技術の発達により,光の波長レベルのピッチを有する微細構造パターンを形成することができるようになってきた。このように非常に小さいピッチのパターンを有する部材や製品は,半導体分野だけでなく,光学分野において利用範囲が広く有用である。
【0003】
例えば,金属などで構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなる凸凹構造を持つワイヤグリッドは,そのピッチが入射光(例えば,可視光の波長400nmから700nm)に比べてかなり小さいピッチ(例えば,2分の1以下)であれば,導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し,導電体線に対して直交する電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため,単一偏光を作り出す偏光板として使用できる。ワイヤグリッド偏光板は,透過しない光を反射し再利用することができるので,光の有効利用の観点からも望ましいものである。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・(中略)・・・
【0007】
一方で,近年における様々な製品設計のニーズから,偏光特性以外の他の機能を備えたワイヤグリッド偏光板が求められている。例えば,可視領域および赤外領域における偏光特性に加え,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性とを備えたワイヤグリッド偏光板が望まれている。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性とを備えたワイヤグリッド偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤグリッド偏光板は,表面に周期的な凹凸構造を有する基材と,前記基材の凹凸構造表面に配置された金属層と,を有し,前記凹凸構造の周期が100nm以上400nm以下であり,前記凹凸構造の凸部の頂点と凹部の底との高低差が70nm以上400nm以下であり,可視領域の光の全光透過率が60%以上であり,かつ赤外領域の光の全光透過率と全光反射率との和が90%以下であることを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0012】
本発明のワイヤグリッド偏光板において,前記金属層のデューティー比が0.2以下であり,アスペクト比が10以上であっても良い。
【0013】
本発明のワイヤグリッド偏光板において,前記金属層の平均膜厚が10nm以下であっても良い。
【0014】
本発明のワイヤグリッド偏光板において,前記金属層は,アルミニウムを含んで構成されても良い。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性とを備えたワイヤグリッド偏光板を提供することができる。」

b 「【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係るワイヤグリッド偏光板の構成例を説明する図である。
【図2】実施例に係るワイヤグリッド偏光板の透過率の測定結果を示す図である。
【図3】実施例に係るワイヤグリッド偏光板の反射率の測定結果を示す図である。」

c 「【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は,ワイヤグリッド偏光板の金属層の厚みを一定以下に抑えることで,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性とを実現できることを見出した。以下に,本発明の赤外線用ワイヤグリッド偏光板について説明する。
【0020】
図1は,本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光板の構成例を示す模式図である。図1に示されるワイヤグリッド偏光板1は,表面に凹凸構造を有する基材11と,当該基材11の凹凸構造表面に設けられた金属層12と,を有する。
【0021】
ワイヤグリッド偏光板1において,基材11の一方の主面には微細な凹凸構造が形成されている。当該凹凸構造は,複数の凸部および凹部を含んで構成されており,複数の凸部および凹部は,互いに略平行となるように一方向に延在している。ここで,凸部とは平均高さより高い部位を指し,凹部とは平均高さより低い部位を指す。なお,凹凸構造表面に形成される金属層12が所定の形状となるように,凹凸構造は周期的かつ所定の高低差を有するものであることが望ましい。
【0022】
金属層12は,基材11の凹凸構造に対応して周期的に配置されている。凹凸構造の周期は特に限定されないが,例えば100nm以上400nm以下とすることができる。また,凹凸構造においては,凸部の頂点と凹部の底との高低差が70nm以上400nm以下であることが望ましい。また,金属層12は,可視領域の光の透過率(全光透過率)が所定以上となり,赤外領域の光の吸収が所定以上となるような態様で配置されている。より具体的には,金属層12は,可視領域の光の全光透過率が60%以上となり,赤外領域の光の全光透過率と全光反射率との和が90%以下となるように,そのデューティー比が0.2以下,アスペクト比が10以上であることが望ましい。ここで,金属層12のデューティー比とは,断面視における金属層12の幅wと,それ以外の部分(空気や樹脂など)の幅Wとの比w/Wをいい,例えば,凹凸構造の平均高さ(半値幅となる高さ)において算出される値である。つまり,デューティー比が十分に小さいということは,平面視において金属層12が十分に細いことを示す。また,金属層12のアスペクト比とは,金属層12の幅wと,金属層12の高さhとの比h/wをいうものとする。つまり,アスペクト比が十分に大きいということは,平面視において金属層12が十分に細いことを示す。なお,金属層12がアルミニウムを主成分として構成される場合,その厚み(平均厚み)は10nm以下であると,より望ましい。このような態様の金属層12を用いることにより,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性とを備えたワイヤグリッド偏光板1が実現する。なお,赤外領域の光に対する低い透過性は,吸収と反射との相乗効果によって実現される。このため,上述した金属層12は,赤外領域の光の吸収が大きいだけでなく,反射も十分に大きいものであることが望ましい。
【0023】
ワイヤグリッド偏光板1において,上述したように金属層12の周期(ピッチ),デューティー比,アスペクト比,厚みなどを制御するのは,金属層12の形状が,可視領域における透過特性と赤外領域における透過抑制特性(吸収特性,反射特性等)に大きな影響を与えるためである。通常,金属層12の長手方向に対して垂直に振動する電場ベクトル成分の光(P偏光)は,金属層12中の自由電子の振動が起こりにくいため透過する。また,金属層12の長手方向に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光(S偏光)は,金属層12中の自由電子の振動方向が金属層12の長手方向となり,振動が起こりやすいため反射する。ここで,金属層12を薄く形成する場合,本来反射するS偏光成分において十分な自由電子の振動が得られず,S偏光成分の一部が透過成分になる。このため,金属層12を薄く形成することにより,可視光の透過率を十分に高めることができる。特に,ピッチに対して波長が小さい場合には透過率が高くなる。つまり,短波長側では透過率が高くなる。このためアスペクト比等を調整することにより,赤外領域での反射能を保ったまま可視領域では透過能を高めることができる。また,金属層12を薄くすることで,金属材料の特性が変化し,光(特に赤外領域の光)を吸収することができるようになる。
・・・(中略)・・・
【0026】
以下,ワイヤグリッド偏光板1を構成する各部材について詳述する。
【0027】
<基材>
基材11は,目的とする波長領域において実質的に透明であればよい。例えば,ガラスなどの無機材料や樹脂材料を基材11に用いることができる。他にも,樹脂材料を基材11に用いることができる。・・・(中略)・・・
【0028】
また,基材11は,表面に所定の周期を有する凹凸構造を有している。所定方向に凸部および凹部が延在する凹凸構造を用いて,凸部に金属膜を選択的に設けることにより金属層12を形成することができる。凹凸構造の周期は特に限定されないが,金属層12に要求される周期に対応させることが望ましい。・・・(中略)・・・基材11表面に形成する凹凸構造の形状としては,例えば,台形,矩形,方形,プリズム状や,半円状などの正弦波状などが挙げられる。ここで,正弦波状とは凹部と凸部の繰り返しからなる曲線部をもつことを意味する。なお,曲線部は湾曲した曲線であればよく,例えば,凸部にくびれがある形状も正弦波状に含める。透過率の観点から基材断面形状は矩形または正弦波状であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0030】
<金属層>
金属層12は,基材11上に所定の周期で一定の方向に略平行に延在するように形成することができる。例えば,図1に示されるように格子状に配置された凸部の少なくとも一方の側面に接して設けることができる。金属層12として用いる金属としては,アルミニウム,銀,銅,白金,金またはこれらの各金属を主成分とする合金などが挙げられる。特に,アルミニウムまたは銀を用いて金属層12を形成することにより,可視域での吸収損失を小さくすることができるため好ましい。
・・・(中略)・・・
【0032】
金属層12の形成方法に特に制限は無い。例えば,電子線リソグラフィ法または干渉露光法によるマスクパターンニングとドライエッチングとを用いて形成する方法や,斜め蒸着法によって形成する方法などが挙げられる。金属層12は非常に薄く形成する必要があるため,生産性,光学対称性の観点からは,斜め蒸着法を用いることが好ましい。・・・(中略)・・・
【0034】
<使用形態>
本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光板1は,可視領域の光に対する高い透過性と,近赤外領域以上の長波長の光に対する低い透過性(高い吸収性)と有するため,可視領域の光を透過し,赤外領域の光を遮断する用途に好適に用いられる。
【0035】
例えば,自動車や鉄道などの車両が備える窓ガラスなどにワイヤグリッド偏光板1を貼り付けて,太陽光に含まれる赤外光の車両内への侵入を低減し,車両内の温度上昇を抑制することが可能である。ワイヤグリッド偏光板1は,可視領域において高い透過性を有するため,車両の運転に支障をきたすこと無く上述の車両内の温度上昇抑制の効果を得ることができる。また,ワイヤグリッド偏光板1は可視領域および赤外領域において十分な偏光特性を備えているため,一方の偏光(例えばS偏光)を分離して,反射または吸収させることができる。これにより,本来は窓を透過する赤外線を遮断することができるため,赤外線による車両室内の温度上昇を抑制することが可能である。」

d 「【0039】
(実施例)
まず,本実施例で用いたワイヤグリッド偏光板の作製方法について以下に説明する。
【0040】
〈紫外線硬化樹脂を用いた格子状凹凸形状を有する転写フィルムの作製〉
基材として用いる格子状凹凸形状を有する転写フィルムの作製には,Ni製金型(以下,「金型」とする)を用いた。金型はピッチ幅145nmの格子状凹凸形状を有し,格子の延在する方向に垂直な断面における凹凸形状が略正弦波状であった。基材は,厚み80μmのトリアセチルセルロース樹脂(以下,「TAC」とする)フィルム(TD80UL-H:富士写真フィルム社製)とし,該TACフィルムの波長550nmにおける面内位相差値は3.2nmで,遅相軸はMD方向と略一致していた。該TACフィルムにアクリル系紫外線硬化樹脂(屈折率1.52)を約3μm塗布し,塗布面を下にして金型とTACフィルムとを重畳させた。この際,TACフィルムのTD方向と金型の格子状凹凸形状の延在方向が略平行になるように配置した。また,金型とTACフィルム間に空気が入らないように配置した。その後,TACフィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm^(2)の条件で照射し,金型の格子状凹凸形状を転写した。TACフィルムを金型から剥離し,縦300mm,横200mmの格子状凹凸形状を転写したフィルムを作製した。以下,これを,「転写フィルム」とする。
【0041】
〈真空蒸着法を用いた金属の蒸着〉
次に,転写フィルムの格子状凹凸形状転写表面に,真空蒸着によりアルミニウム(Al)膜を成膜した。Alの蒸着は,常温下,真空度2.0×10^(-3)Pa,蒸着速度2.5nm/sの条件で約3秒間行った。形成されるAl膜の厚みを測定するため,表面が平滑なガラス基板を転写フィルムと同時に装置に挿入し,平滑ガラス基板上のAl膜の厚みをAl膜の平均厚みとした。蒸着は,蒸着角θが20°とし,Al平均厚みが5nmとなるように行った。なお,ここでは,蒸着角θを,格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線と蒸着源のなす角度と定義する。また,ここでいう平均厚みとは,平滑ガラス基板上にガラス面に垂直方向から物質を蒸着させたと仮定した時の蒸着物の厚みのことを指す。
【0042】
〈光学特性の測定〉
上述のように作製されたワイヤグリッド偏光板について,透過率および反射率の測定を行った。なお,透過率および反射率の測定は,Alワイヤの延在方向に平行な方向の偏光,Alワイヤの延在方向に垂直な方向の偏光を用いて行った。図2は透過率の測定結果を示すグラフであり,図3は反射率の測定結果を示すグラフである。図2には,平行透過率および垂直(直交)透過率に加え,これらの平均値(全光透過率)を併せて示す。図3には,平行反射率および垂直(直交)反射率に加え,これらの平均値(全光反射率)を示す。
【0043】
図2から,本実施例のワイヤグリッド偏光板は,可視領域(特に,400nm以上650nm以下の領域)の全光透過率が60%以上であることが分かる。また,赤外領域(特に,800nm以上1200nm以下の領域)の全光透過率も60%以上であることが分かる。また,図3から,本実施例のワイヤグリッド偏光板は,赤外領域(特に,800nm以上1200nm以下の領域)の全光反射率が,10%?16%程度であることが分かる。このことから,本実施例のワイヤグリッド偏光板は,赤外領域(特に,800nm以上1200nm以下の領域)の全光透過率と全光反射率との和が90%以下であることが分かる。
【0044】
上述のように,赤外領域(特に,800nm以上1200nm以下の領域)における全光透過率と全光反射率との和が90%以下となるのは,Al膜による光吸収が生じているためと考えられる。このように,Al膜が赤外領域の光を吸収することで,赤外領域の光の透過を抑制することができる。
【0045】
〈温度上昇抑制効果の算出〉
上述のように作製されたワイヤグリッド偏光板を用い,室内温度上昇について検証した。特に熱作用の高い太陽光スペクトルの近赤外領域である800nm以上の波長において,PVAにヨウ素を吸着した従来の吸収型偏光板ではほぼ全光透過してしまう。また耐熱性も良くない。
【0046】
一方,本実例のワイヤグリッド偏光板は全光線透過率が全領域で約70%であり,従来の吸収型ワイヤグリッド偏光板よりも赤外光で約20%以上透過率が低い。このため温度上昇率は抑制され約0.8倍になる。従来のワイヤグリッド偏光板は偏光度が高いため,反射率と透過率がそれぞれ50%を上回る事はないが,本実施例のワイヤグリッド偏光板は透過率が向上している分,視認性にも優れた。」

e 「【図1】

【図2】

【図3】



(イ)引用文献1に記載された発明
前記(ア)dで摘記した記載中で説明されている「実施例」は,その【0046】に説明された温度上昇率及び視認性についての特性や,その厚みからみて,前記(ア)cの【0035】に説明された「自動車や鉄道などの車両が備える窓ガラスなどに貼り付けて,太陽光に含まれる赤外光の車両内への侵入を低減し,車両内の温度上昇を抑制する」という用途に適したものであることが明らかであるから,引用文献1に,当該「実施例」に係る発明として,次の発明が記載されていると認められる。

「表面に周期的な凹凸構造を有する基材と,前記基材の凹凸構造表面に配置された金属層と,を有し,前記凹凸構造の周期が100nm以上400nm以下であり,前記凹凸構造の凸部の頂点と凹部の底との高低差が70nm以上400nm以下であり,可視領域の光の全光透過率が60%以上であり,かつ赤外領域の光の全光透過率と全光反射率との和が90%以下であるワイヤグリッド偏光板であって,
前記基材として,厚み80μmのトリアセチルセルロース樹脂フィルムである富士写真フィルム社製のTD80UL-Hに,屈折率1.52のアクリル系紫外線硬化樹脂を約3μm塗布し,塗布面を下にして,前記TD80UL-Hと,ピッチ幅145nmの格子状凹凸形状であって格子の延在する方向に垂直な断面における凹凸形状が略正弦波状である格子状凹凸形状を有するNi製金型とを重畳し,前記TD80UL-H側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm^(2)の条件で照射して,前記Ni製金型の格子状凹凸形状を転写し,前記TD80UL-Hを前記Ni製金型から剥離するという方法によって作製された,格子状凹凸形状を有する転写フィルムを用い,
前記金属層として,前記転写フィルムの格子状凹凸形状転写表面に,常温下,真空度2.0×10^(-3)Pa,蒸着速度2.5nm/sの条件で,蒸着角θを20°とした斜め蒸着法を用いて,約3秒間真空蒸着するという方法によって作製された,平均厚みが5nmのアルミニウム膜を用い,
前記アルミニウム膜の延在方向に平行な方向の偏光の透過率である平行透過率,前記アルミニウム膜の延在方向に垂直な方向の偏光の透過率である直交透過率,及び平行透過率と直交透過率の平均値である全光透過率が,下記[透過率の測定結果を示す図]のとおりであり,
前記アルミニウム膜の延在方向に平行な方向の偏光の反射率である平行反射率,前記アルミニウム膜の延在方向に垂直な方向の偏光の反射率である直交反射率,及び平行反射率と直交反射率の平均値である全光反射率が,下記[反射率の測定結果を示す図]のとおりであり,
自動車や鉄道などの車両が備える窓ガラスなどに貼り付けて,太陽光に含まれる赤外光の車両内への侵入を低減し,車両内の温度上昇を抑制するという用途に適した,
ワイヤグリッド偏光板。

[透過率の測定結果を示す図]

[反射率の測定結果を示す図]

」(以下,「引用発明」という。)

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「『基材』である『転写フィルム』」,「『金属層』である『アルミニウム膜』」及び「ワイヤグリッド偏光板」は,その機能等からみて,本件補正発明の「基材」,「金属層」及び「素子」にそれぞれ対応する。

イ(ア) 引用発明の「転写フィルム」(本件補正発明の「基材」に対応する。以下,「(3)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該構成に対応する本件補正発明の発明特定事項を表す。)は,厚み80μmのトリアセチルセルロース樹脂フィルムである富士写真フィルム社製のTD80UL-Hと,当該TD80UL-H上に形成されたアクリル系紫外線硬化樹脂とからなるところ,前記TD80UL-H及び前記アクリル系紫外線硬化樹脂がいずれも透明であり,したがって「転写フィルム」が透明であることは,技術常識から自明である。また,「転写フィルム」が透明であることは,引用発明の[透過率の測定結果を示す図]において,可視光領域のほぼ全域に渡って直交透過率が概ね90%を超えていることからも確認できることである。
したがって,引用発明の「転写フィルム」は,本件補正発明の「透明な基材」に相当する。

(イ) 引用発明の「アルミニウム膜」(金属層)は,「転写フィルム」(透明な基材)の表面の格子状凹凸形状の表面に,蒸着角θを20°とした斜め蒸着法により形成されたものであるから,所定の周期で一定の方向に略平行に延在するように形成されたものである。このことは,引用文献1の【0030】の記載や図1からも確認できることである。
しかるに,所定の周期で一定の方向に略平行に延在するとは,「一つの方向においては一定の周期で中断され,直交する方向においては中断されていない」ことにほかならないから,前記(1)イで述べた解釈に基づくと,引用発明の「アルミニウム膜」は,本件補正発明の「中断された金属層」に相当する。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らせば,引用発明は,「透明な基材の表面上に中断された金属層を含む素子」である点で,本件補正発明と一致する。

ウ(ア) 引用発明の「転写フィルム」(基材)の表面には,Ni製金型の格子状凹凸形状が転写されている。そして,Ni製金型の格子状凹凸形状は,凸部の頂点と凹部の底との高低差が70nm以上400nm以下であり,ピッチ幅が145nmであり,格子の延在する方向に垂直な断面における凹凸形状が略正弦波状である。そうすると,「転写フィルム」の格子状凹凸形状における凸部の側壁は,「格子の延在する方向には基材平面の全体にわたって延び,格子の延在する方向と直交する方向には1000nm以下延び,湾曲している構造であって,基材平面と平行でないもの」といえる。
しかるに,前記(1)イで述べた解釈に基づくと,「格子の延在する方向には基材平面の全体にわたって延び,格子の延在する方向と直交する方向には1000nm以下延び,湾曲している構造であって,基材平面と平行でないもの」とは,「基材平面に対して傾斜角のナノ平面」にほかならないから,引用発明の「転写フィルム」は,「基材平面に対して傾斜角のナノ平面で構造化され」ているといえる。

(イ) 引用発明の「アルミニウム膜」(金属層)は,「転写フィルム」(透明な基材)の表面の格子状凹凸形状の表面に,蒸着角θを20°とした斜め蒸着法により形成されたものであるから,前記格子状凹凸形状における凸部の2つの側壁のうちの一方から,当該凸部の頂面に渡って形成されたものである。このことは,引用文献1の図1からも確認できることである。
しかるに,前記(ア)で述べたとおり,引用発明の「転写フィルム」における凸部の側壁は,本件補正発明の「基材平面に対して傾斜角のナノ平面」に相当するから,引用発明は,「基材平面に対して傾斜角のナノ平面」の少なくとも一部に「アルミニウムからなる金属コーティングを有し」ているといえる。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らせば,引用発明は,本件補正発明の「(基材の)表面は,基材平面に対して傾斜角のナノ平面で構造化され,かつ当該ナノ平面の少なくとも一部に金属コーティングを有し,」との発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の転写フィルム表面の格子状凹凸形状は,そのピッチ幅が145nmであるから,「アルミニウム膜」(金属層)の周期が145nmであることは明らかである。したがって,引用発明は,本件補正発明の「金属層における中断の周期は50?1000nmの範囲であ」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。
また,引用発明の「アルミニウム膜」の平均厚みは5nmであるから,引用発明は,本件補正発明の「金属コーティングの厚さは1?50nmの範囲である」という発明特定事項に相当する構成も具備している。

オ 前記アないしエに照らせば,本件補正発明と引用発明は,
「透明な基材の表面上に中断された金属層を含む素子であって,前記表面は,基材平面に対して傾斜角のナノ平面で構造化され,かつ当該ナノ平面の少なくとも一部に金属コーティングを有し,前記金属層における中断の周期は50?1000nmの範囲であり,前記金属コーティングの厚さは1?50nmの範囲である,前記素子。」
である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。

相違点1:
本件補正発明が,ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用するためのものであるのに対して,
引用発明は,自動車や鉄道などの車両が備える窓ガラスなどに貼り付けて,太陽光に含まれる赤外光の車両内への侵入を低減し,車両内の温度上昇を抑制するという用途に用いられるものである点。

相違点2:
本件補正発明の「金属層」が,銀,金,銅及び白金からなる群から選択される金属を含むのに対して,
引用発明の「金属層」である「アルミニウム膜」は,アルミニウムからなり,銀,金,銅及び白金のいずれも含んでいない点。

(4)相違点1について
ア 本件補正発明は,「素子」という物の発明であるところ,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項は,「ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用するためのもの」という「素子」の用途を用いて,その「素子」を特定しようとする,いわゆる「用途限定」である。
用途限定については,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して,用途限定が付された物が,その用途に特に適した構造,組成等を有する物を意味すると解される場合は,当該用途限定を,当該構造,組成等を有することを特定するものと解し,その用途に特に適した構造,組成等を有する物を意味していないと解される場合は,当該用途限定を,物を特定するための意味を有していないと解するのが相当である。

イ 本件補正発明の「素子」において,「ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用するためのもの」という用途に特に適した構造,組成等がどのようなものであるのかは,本件明細書及び図面の記載や本件出願の出願時の技術常識からは明確に特定し難いものの,少なくとも,引用発明は,自動車や鉄道などの車両が備える窓ガラスなどに貼り付けて用いられるのであるから,「ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラス」にも貼り付けて用いることができることは明らかである。
したがって,引用発明は,「ファサード要素又は建築物の窓の窓ガラスに使用する」という用途にも適した構造,組成等を有していると認められる。
よって,相違点1は,実質的な相違点ではない(少なくとも,引用発明を,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである)。

(5)相違点2の容易想到性について
ア 引用文献1の【0030】(前記(2)ア(ア)cを参照。)には,金属層として用いる金属として,アルミニウム,銀,銅,白金,金又はこれらの各金属を主成分とする合金が例示され,これらの中でも,可視域での吸収損失を小さくできることから,アルミニウム又は銀が好ましいことが記載されている。

イ 引用発明の金属層はアルミニウムで形成されたものであるが,当該材質として,アルミニウムに代えて,引用文献1の【0030】に例示された銀,銅,白金,金又はこれらの各金属を主成分とする合金,中でも特に,アルミニウムとともに好ましいとされた材質である銀を採用することは,引用文献1自体の記載に基づいて,当業者が適宜行う設計変更にすぎない。

ウ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を具備したものとすることは,単なる設計変更にすぎない。

(6)効果について
本件補正発明が有する効果は,引用文献1の記載や技術常識等に基づいて,当業者が予測できた程度のものであって,本件補正発明の進歩性の有無の判断を左右するほど格別のものではない。

(7)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願の請求項6に係る発明について
1 請求項6に係る発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本件出願の請求項6に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)アに示した請求項6に記載された事項により特定されるものと認められる。

2 原査定の拒絶の理由の概要
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,本件発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載及び引用発明については,前記第2〔理由〕3(2)ア及びイのとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明は,上記第2〔理由〕2のとおり,本件発明の発明特定事項を限定したものである。
そうすると,本件発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が,上記第2〔理由〕3に記載したとおり,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明も同様の理由により,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
前記第3のとおり,本件発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-18 
結審通知日 2018-10-01 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2016-526530(P2016-526530)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 川村 大輔
清水 康司
発明の名称 太陽光管理  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 森田 拓  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  

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