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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
管理番号 1349433
審判番号 無効2017-800137  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-10-13 
確定日 2019-03-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4589502号発明「台輪、台輪の設置構造及び設置方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4589502号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成12年 8月30日 本件出願(特願2000-261372号)
平成22年 9月17日 設定登録(特許第4589502号)
平成29年 7月18日 本件特許の訂正2017-390041号審決(請求項2?5の訂正認容)
平成29年10月13日 本件無効審判請求
平成29年12月27日 審判事件答弁書提出
平成30年 1月16日 審理事項通知(起案日)
平成30年 2月20日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成30年 3月 6日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出(差出日)
平成30年 3月23日 口頭審理

第2 本件発明
本件特許は、本件特許を対象とした平成29年6月2日に訂正請求された訂正2017-390041号の平成29年7月18日付け審決で、訂正明細書のとおり訂正することが認められたので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において、
複数の台輪のそれぞれは、
前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、
この台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、
前記台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、
前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており、
前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっていること
を特徴とする台輪。

【請求項2】
基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される長尺板状に形成されたプラスチック製の台輪において、
複数の台輪のそれぞれは、
前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、
この台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、
前記台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、
前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており、
前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっており、
前記嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え、
前記被嵌合部は前記溝部に嵌る突部を備えること
を特徴とする台輪。

【請求項3】
請求項1又は2に記載の台輪において、
前記台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されていること
を特徴とする台輪。

【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の台輪が基礎上端に基礎の長手方向に沿って複数接続されて敷き込まれ、基礎と基礎上に構築される構造物本体との間に介在された台輪の設置構造であって、
隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、
嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されていること
を特徴とする台輪の設置構造。

【請求項5】
基礎上端に請求項1?3のいずれかに記載の台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態で、基礎上に設置する台輪の設置方法であって、
嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定すること
を特徴とする台輪の設置方法。」

第3 請求人の主張
請求人は、特許第4589502号の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概ね以下のとおり主張している(審判請求書(以下「請求書」という。)、平成30年2月20日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述書」という。)を参照。)。また、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。

1 無効理由の概要
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証?甲第13号証)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(第1回口頭審理調書)

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:実願昭58-74578号(実開昭59-181103号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実願平4-55570号(実開平6-10413号)のCD-ROM
甲第3号証:実願昭56-59783号(実開昭57-172810号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭58-111992号(実開昭60-19601号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特開平9-13392号公報
甲第6号証:特許第2533417号公報
甲第7号証:意匠登録第1044570号公報
甲第8号証:実用新案登録第2586977号公報
甲第9号証:特開平11-100911号公報
甲第10号証:特開平10-113475号公報
甲第11号証:特開平10-237877号公報
甲第12号証:実願昭63-148978号(実開平2-68910号)のマイクロフィルム
甲第13号証:実願昭51-30686号(実開昭52-122510号)のマイクロフィルム

2 具体的な理由
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)との対比
本件発明1と甲1発明は、
「基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において、複数の台輪のそれぞれは、前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、この台輪本体の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、前記台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されている、台輪。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」ているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本件発明1は、「前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となって」いるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(請求書17頁16行?18頁5行)

イ 相違点に関する容易想到性について
(ア)相違点1について
基礎の長手方向に沿って台輪本体を隣接して配置することは、甲1発明のほか、甲第2号証にも記載されており、また、台輪本体を長方形(長尺板状)に形成することは、甲1のほか、甲第2号証?甲第5号証にも記載されているとおり周知の技術にすぎない。
そして、甲第2号証には、長方形(長尺板状)の保護板11の一端中央部には突起12をもち、保護板11の上下面に渡って形成された上下方向に延在する係合突片13が、また、保護板11の他端中央部には前記係合突片13が適嵌する係合凹所14が形成してあり、連設される保護板11間に間隙が生じないようにすること(以下、「甲2発明」という。)が記載されていることから、相違点1の「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」ることは、甲2発明から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
相違点1について、被請求人は、甲第1号証には、「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」ていることについての直接的な記載がないことから、本件発明1と甲1発明との相違点として挙げたが、基礎の長手方向に沿って台輪本体を隣接して配置することは、甲1発明のほか、甲第2号証にも記載されており、また、台輪本体を長方形(長尺板状)に形成することは、甲1のほか、甲第2号証?甲第5号証にも記載されているとおり周知の技術にすぎないこと、さらに、これに甲第2号証に記載された発明(甲2発明)を併せて考慮すると、相違点1の「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」ることは、甲2発明及び上記周知技術から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、「方形若しくは長方形基盤1」と記載されているとおり、台座の形状は、「方形」に限定されず、「長方形」の場合もあることから、甲第1号証に記載された発明は、本件発明1の構成要件中「該台輪本体の長手方向に細長い形状に形成されたアンカーボルト挿通用のアンカー用長孔」の構成を備えるものである。また、甲第1号証の第4図には、基礎が交わる角部の施工に関する記載ではあるが、布基礎の直線部分において台座を長手方向に隣接して配置することが記載されており、さらに、台座を長手方向にどのように配置するかは、アンカーボルトの位置に加え、台座の支持力を考慮して行う(台座の支持力が不足する場合は、当然に、複数の台座を隣接して配置することになる。ちなみに、甲第1号証の第3頁第12?20行には、「基盤1の片側壁に楔状突部t、反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であつたり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するものである。」との記載があり、当該事項が示唆されている。)設計的な事項と認められることから、甲第1号証に記載された発明は、本件発明1の構成要件中「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」る構成を備えるものであるといえるものである。
また、被請求人の「甲1発明を本件発明1の相違点1を備えた構成へと改変することは容易に想到されない。」との主張に関しては、甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、「基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し」と記載されているとおり、突部t及び凹部hを形成する側壁は、二方の各側壁に限定されず、一方の各側壁の場合もあることから、上記被請求人の主張は、甲1発明を極めて限定的に解釈するものであって、失当である。
(請求書18頁7行?18行、請求人陳述書2頁下から10行?4頁13行)

(イ)相違点2について
種々の相互に接続して用いられる部材の端部にそれぞれ設けられた嵌合部と被嵌合部とからなる接続部を備え、該接続部を幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して部材同士を接続するようにすることは、接続構造として一般的なものであって、当該接続部の嵌合部と被嵌合部との形成位置に関しては、(a)部材に方向性を持たせる形成位置とする、具体的には、部材の一端部に「凸、凸」の嵌合部を設け、他端部に「凹、凹」の被嵌合部を設けるようにするか、(b)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする、具体的には、部材の一端部に「凸、凹」の嵌合部及び被嵌合部を設け、他端部に「凹、凸」の被嵌合部及び嵌合部を設けるようにするかの2通りしかなく、また、上記(a)の接続方式と同様に、上記(b)の接続方式も、技術分野に関係なく、嵌合部と被嵌合部とからなる接続部の構造として、本件出願前に一般的に行われていた周知の技術にすぎない(例えば、甲第6号証?甲第10号証参照。)。また、当該周知技術は、部材の向きを逆にしても接続可能とすることを目的として、部材や適用箇所等に関わらず、転用可能な技術であるといえる。
そうであれば、甲1発明において、上記(b)の方式を採用することは、当業者が容易になし得る事項であるといえる。なお、さらに付言すれば、甲第6号証?甲第9号証に記載のものは、土木・建築業界に関する技術であるので、技術分野が大きく異なるものとはいえず、甲第6号証?甲第9号証に記載された技術を、甲1発明に適用することに困難性があるとは到底いえない。
よって、相違点2は、上記周知技術に基づいて、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
(請求書18頁20行?19頁12行、請求人陳述書4頁15行?5頁13行)

(2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記相違点1?2のほか、次の点で相違する。

(相違点3)
本件発明2は、「前記嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え、前記被嵌合部は前記溝部に嵌る突部を備える」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点3について検討すると、甲第2号証には、長方形(長尺板状)の保護板11の一端中央部には突起12をもち、保護板11の上下面に渡って形成された上下方向に延在する係合突片13が、また、保護板11の他端中央部には前記係合突片13が適嵌する係合凹所14が形成してあり、連設される保護板11間に間隙が生じないようにすること(甲2発明)が記載されていることから、相違点3の「前記嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え、前記被嵌合部は前記溝部に嵌る突部を備える」ことは、甲2発明から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
被請求人は、「甲第2号証の【図9】に符号13として示される係合突片13は、同号証明細書段落【0016】の『突起12(は)高さを6mm(荷重による歪み1mm)としたものである』との記載及び同号証【図4】から、せいぜい高さ3mm程度のものと推認されるところ(【図4】の左右両端の突起(高さ6mm)の略半分)、このような薄板平板状の『突片』を、通常の用語としての『溝部』(『(1)地を細く掘って水を流すところ。どぶ。渠。(2)戸・障子をたてるために敷居と鴨居にきざんだ細長いくぼみ。また、一般に、細長くくぼんだところ』。広辞苑第六版)と呼ぶことは、無理のある解釈である。且つ、甲1発明に相違点3の構成を適用する動機付けとなるものを、請求人は全く示していない。」と主張する(審判事件答弁書第9頁第1?14行)が、嵌合部及び非嵌合部の形状や寸法は、嵌合部及び非嵌合部に要求される嵌合強度に応じて適宜設定しうる設計上の事項にすぎない(例えば、甲1発明の「突部t」及び「凹部h」参照。)。
なお、相違点3における、「台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部」の構成は、嵌合構造としては極めて一般的なものであり、基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在されるため、平面視したときの意匠性が問題とならない台輪本体の製造のし易さ等を考慮して、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
(請求書21頁1行?22行、請求人陳述書5頁15行?6頁8行)

(3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記相違点1?3のほか、次の点で相違する。

(相違点4)
本件発明3は、「前記台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点4について検討すると、甲第3号証には、長手方向に沿つて所定間隔をおきながら換気孔が複数個形成されている台輪(甲3発明)が記載されていることから、相違点4の「前記台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」ことは、甲3発明から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
被請求人は、「甲1発明の台座は第3図で示されるとおり、一定の間隔を空けて配置されることで、基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を設けるものである(甲第1号証明細書3頁4?5行、第3図)。従って、甲1発明の台座はそのままで通気孔が確保されるものであるから、あえて甲1発明の台座の形状を改変し、甲第3号証に開示された換気孔をさらに設ける動機付けは存在しない。」と主張する(審判事件答弁書第10頁第5?10行)が、甲1発明の台座のように、一定の間隔を空けて配置される台座においても、間隔を空けることなく配置される台座と同様に、通気部を設けて通気性を持たせるようにする要請は存在し、一般的に行われていること(例えば、甲第11号証(除湿溝13)、甲第12号証(通風溝)及び甲第13号証(アルミ合金枠体2)。)であることから、甲1発明の台座に、甲第3号証に開示された換気孔をさらに設ける動機付けは存在しないとの被請求人の主張は失当である。
被請求人は、「甲1発明に相違点4の構成(甲第3号証の記載)である『台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている』を設けてしまうと、楔状突部tを設ける側壁1面と、楔状凹部hを設ける側壁1面が『換気孔』が設けられた面となってしまい、甲1発明の意図する効果を奏さなくなる。従って、この点でも、甲1発明に相違点4の構成(甲第3号証の記載)を適用する動機付けはない。」と主張する(審判事件答弁書第10頁第11行?第11頁第14行)が、甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、「基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し」と記載されているとおり、突部t及び凹部hを形成する側壁は、二方の各側壁に限定されず、一方の各側壁の場合もあること、さらに、突部t及び凹部hを形成する側壁が二方の各側壁であるとしても、突部t及び凹部hにかからないように換気孔を形成することは可能であることから、上記被請求人の主張に基づいて、甲1発明に相違点4の構成(甲第3号証の記載)を適用する動機付けはないとする被請求人の主張は失当である。
なお、この点に関連して、本件発明1は、「基礎の長手方向に沿って配置される台輪」と特定しているだけで、台輪間には通気孔となる間隙を一切設けない構成を特定したものではないと認められるが、仮に、当該構成を特定するものであるとしても、当該構成は、甲第3号証のほか、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証にも記載されているように、周知の技術であり、また、甲1発明とこの周知技術とを組み合わせることに、何ら阻害要因はない。
(請求書22頁4行?15行、請求人陳述書6頁15行?7頁下から3行)

(4)本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記相違点1?4のほか、次の点で相違する。

(相違点5)
本件発明4は、「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点5について検討すると、甲第1号証には、「方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に、平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち・・・前記挿通孔の周辺に釘孔rを穿設した建築における基礎と土台間に介装する台座」(甲1発明)が記載されており、どの釘孔rに釘を打ち込んで基盤1をコンクリート基礎3に固着するか(その場合、隣接する基盤1と嵌合するため、コンクリート基礎3に固着しない基盤1を設けること。)は単なる設計上の事項(施工上の選択事項)にすぎないことから、相違点5の「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」ことは、甲1発明から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
(請求書23頁1行?15行、請求人陳述書8頁3行?19行)

(5)本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記相違点1?5のほか、次の点で相違する。

(相違点6)
本件発明5は、「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態で、基礎上に設置する台輪の設置方法であって、嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定する」ようにしているのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点6について検討すると、上記(4)と同様に、相違点6の「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態で、基礎上に設置する台輪の設置方法であって、嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定する」ようにすることは、甲1発明から、当業者が容易になし得る事項であるといえる。
(請求書23頁下から2行?24頁17行、請求人陳述書8頁20行、21行)

(6)被請求人が追加した相違点4について(下記第4の2)
被請求人は、被請求人が追加した相違点4について、「本件発明2は、『長尺板状に形成された』ものであるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。」で相違すると主張する(審判事件答弁書第9頁第1?14行)が、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、被請求人が主張する相違点4は、相違点とはいえない。
(請求人陳述書6頁10行?13行)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成29年12月27日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)、平成30年3月6日差出口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述書」という。)を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証を提出している。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:訂正2017-390041号審決

1 本件発明1について
(1)相違点1(審決注;請求人の相違点1と同じ)について
甲1発明が相違点1にかかる構成(「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」ている構成)を備えるためには、その前提として「長手方向」が存在する、すなわち、甲1発明の台座を長方形(長尺板状)とする必要がある。
ところで、甲1発明の台座は「平面鍵形若しくはT字形の場合自由に接続して介在固着し得られ」る効果を奏するとされており(甲第1号証明細書1頁「3考案の詳細な説明」本文5?6行)、そのための構成として「基盤1の片側壁に楔状突部t、反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であつたり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有する」(甲第1号証明細書3頁下から9?末行)ことが開示されている。また、甲1発明の台座は「下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」(甲第1号証明細書4頁4?5行)との効果も記載されている。
上記のような甲1発明の効果を奏することができるのは、甲1発明の台座が方形、すなわち基盤1の側壁の長さが略同一であるからであって、これを長方形(長尺板状)とした場合に同様の効果を奏するような具体的な形状は甲第1号証には記載がない。
このように、甲1発明の台輪本体を長方形(長尺板状)に形成すること(甲第2?5号証)を適用すると甲1発明が意図する効果を奏さず、同効果を奏するためにはさらなる改変を要する結果となってしまう。当業者はこのような不都合のある改変を行うことはせず、甲1発明を本件発明1の相違点1を備えた構成へと改変することは容易に想到されない。
請求人は、「甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、『方形若しくは長方形基盤1』と記載されているとおり、台座の形状は、『方形』に限定されず、『長方形』の場合もある」(請求人要領書3頁17?19行)と主張するが、甲第1号証に具体的に開示されている台座は第1図、第4図等で記載されているような「方形」(短尺)のもののみである。長方形の台座であって、甲第1号証に記載されている上記効果を奏するような具体的な構成は一切開示がないし、甲第1号証の開示からその構成を容易に理解することはできない。当業者が甲第1号証の開示に接した場合は、当該考案の効果を奏する構成をもって、開示されている発明(考案)として把握する。公報中の従来技術の記載を引用例とする場合等は別として、実用新案公報に開示された当該考案の内容を主引例とする場合にあえて当該考案の効果を奏さない構成、奏するかどうか分からない構成を主引例として把握するというのは不自然である。そのような主引例の把握は、本件発明1を見た上での後知恵であって失当である。
また、請求人は、「甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、『基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し』と記載されているとおり、突部t及び凹部hを形成する側壁は、二方の側壁に限定されず、一方の各側壁の場合もあることから、上記被請求人の主張は、甲1発明を極めて限定的に解釈するものであって、失当である」(請求人要領書4頁7?13行)と述べるが、甲第1号証の考案の各作用効果を奏する構成として具体的に記載されているのは第4図のような4面の側壁のうち、隣り合う2面の側壁に楔状突部tを設け、当該側壁2面と対向する残り2面の側壁に楔状凹部hを設ける構成のみである。請求人が主張するように、一方の各側壁のみに突部及び凹部がある台座であって、かつ、上記各作用効果を奏するような台座は甲第1号証に開示されていないし、当業者が甲第1号証の記載から記載されているのと同様のものとして把握することはできない。
以上の通り、相違点1に関する構成が甲第1号証に開示されているとの請求人の主張は失当である。また、本件発明2の相違点4については、上記の議論が同様にあてはまる。
(答弁書6頁11行?7頁下から5行、被請求人陳述書3頁8行?4頁末行)

(2)相違点2(審決注;請求人の相違点2と同じ)について
甲第6?10号証には甲1発明の台座に相当する部材が一切開示されておらず、接続される部材も技術分野も大きく異なる。具体的には以下の通りである。
甲第6号証は、型枠ブロックに関する発明であり、甲第6号証の型枠ブロックはそもそも甲1発明の台座と全く異なる部材である。また、部材が異なることにも起因し、甲第6号証の型枠ブロックは、予め接着剤を用いて組み上げておくものであり、甲1発明の台座のように現場において突部tと凹部hを係合することで接続するものと接続方法が全く異なる。このように部材も接続方法も異なる甲第6号証の接続方法をあえて甲1発明の台座に適用する動機付けは認められない。
また、甲第9号証において請求人が摘示する金具25は、2分割の2つのL形の金具26、27を接続するだけのものであり、金具26も金具27も同じ形をしており一端面に切欠と突起を有するが他端面は切欠も突起も有さない側部を有するのみであって、相違点2に係る構成(「前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となって」いる構成)を備えない。従って、そもそも、相違点2に関する副引例として適当ではない。
さらに、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証は、すでに本件発明の平成29年7月18日付訂正審決(乙第1号証)においても、これらを甲1発明に適用して、相違点2の構成に想到することが困難であると判断している(本件発明2の相違点2に関する判断であるが、相違点の構成は同一である。)。訂正審決も述べるとおり、甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証の発明は適用箇所も技術分野も異なりこれを甲1発明に適用する動機付けはない。
この点に関し、請求人は「なお、さらに付言すれば甲第6号証?甲第9号証に記載のものは、土木・建築業界に関する技術であるので、技術分野が大きく異なるものとはいえず、甲第6号証?甲第9号証に記載された技術を、甲1発明に適用することは困難性があるとは到底いえない」(審判請求書19頁6?10行)と述べる。
しかし、甲第6号証はパネル用の型枠ブロック、甲第7号証は芝生保護材、甲第8号証は情報ケーブル等各種の配線を収容保護する配線路用ブロックに関する発明であり、甲1発明の台座との適用箇所、技術分野の違いは大きい。甲1発明の台座に、土木・建築に関するものであればどのような部材の構成も適用可能であるような動機付けは存在しない。なお、甲第9号証は既述の通りそもそも相違点2にかかる構成自体の開示がない。
また、請求人は接続部の嵌合部と被嵌合部との形成位置について、「(ア)部材に方向性を持たせる形成位置とする…、(イ)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする…の2通りしかなく、…(イ)の接続方法も、…本件出願前に一般的に行われていた周知の技術にすぎない」(審判請求書18頁下から5行?19頁4行)と述べるが、既述のとおり提出された証拠からしても(イ)の方法が甲1発明のような台座にとって当業者であれば当然に適用を検討するような周知の技術であったことを示す証拠はない。さらに言えば、甲1発明の嵌合部と被嵌合部の形状、位置、接続方法に着目するとしても、そこには様々な技術要素が含まれている。それにもかかわらず、あえて上記(ア)(イ)の2通りの分類方法に着目する必然性がない。上記のような分類を持ち出すこと自体が後知恵そのものである。
よって、甲1発明に甲第6?10号証に開示された事項を適用しても、相違点2に係る構成(「前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となって」いる構成)は想到されない。
(答弁書3頁下から8行?6頁9行、被請求人陳述書2頁下から8行?3頁5行)

2 本件発明2について
甲1発明に具体的に開示されている台座は方形であって、長尺板状のものは具体的に開示されていない。従って、本件発明2と甲1発明は、請求人主張の相違点1から3に加えて、以下の点でも相違する。

(相違点4)(審決注;被請求人が追加した相違点)
本件発明2は、「長尺板状に形成された」ものであるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点4は相違点1の判断が同様にあてはまる。
相違点3について、請求人は、相違点3が甲第2号証の保護板11における「係合突片13」及び「係合凹所14」の記載により補えるとするものであるが(審判請求書21頁15?22行)、甲第2号証の【図9】に符号13として示される係合突片13は、同号証明細書段落【0016】の「突起12(は)高さを6mm(荷重による歪み1mm)としたものである」との記載及び同号証【図4】から、せいぜい高さ3mm程度のものと推認されるところ(【図4】の左右両端の突起(高さ6mm)の略半分)、このような薄板平板状の「突片」を、通常の用語としての「溝部」(「(1)地を細く掘って水を流すところ。どぶ。渠。(2)戸・障子をたてるために敷居と鴨居にきざんだ細長いくぼみ。また、一般に、細長くくぼんだところ」。広辞苑第六版)と呼ぶことは、無理のある解釈である。且つ、甲1発明に相違点3の構成を適用する動機付けとなるものを、請求人は全く示していない。
(答弁書8頁14行?9頁14行)

3 本件発明3について
本件発明3と甲1発明を比較すると以下の点でも相違する。

(相違点5)(審決注;請求人の相違点4と同じ)
本件発明3は「台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

甲第3号証に記載の構成を甲1発明へ適用する動機付けがあるとする請求人の主張は妥当ではない。
まず、甲1発明の台座は第3図で示されるとおり、一定の間隔を空けて配置されることで、基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を設けるものである(甲第1号証3頁4?5行、第3図)。
従って、甲1発明の台座はそのままで通気孔が確保されるものであるから、あえて甲1発明の台座の形状を改変し、甲第3号証に開示された換気孔をさらに設ける動機付けは存在しない。
また、甲1発明の台座は、「平面鍵形若しくはT字形の場合自由に接続して介在固着し得られ」る効果も奏する(甲第1号証明細書1頁「3考案の詳細な説明」本文5?6行)。
そして、甲1発明の台座は「基盤1の片側壁に楔状突部t、反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であつたり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するのである。」(甲第1号証明細書3頁下から9?末行)と記載されている。
さらに、「下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」(甲第1号証明細書4頁4?5行)との効果も記載されている。
上記記載から明らかなとおり、甲1発明の台座は4面の側壁のうち、隣り合う2面の側壁に楔状突部tを設け、当該側壁2面と対向する残り2面の側壁に楔状凹部hを設けるものである。これによって、平面鍵形若しくはT字形であっても、「突部と凹部を順次係合して接続する」ことが可能となる。また、「基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」ことも可能となる。
ここで、甲1発明に相違点5の構成(甲第3号証の記載)である「台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」を設けてしまうと、楔状突部tを設ける側壁1面と、楔状凹部hを設ける側壁1面が「換気孔」が設けられた面となってしまい、甲1発明の意図する効果を奏さなくなる。従って、この点でも、甲1発明に相違点5の構成(甲第3号証の記載)を適用する動機付けはない。
請求人は甲第11乃至13号証を示して、「一定の間隔を空けて配置される台座においても、…通気部を設けて通気性を持たせるようにする要請は存在し、一般的に行われている」と主張するが、甲第11乃至13号証の記載から、一定の間隔を空けて配置されるものではなく、形状が全く違う甲第3号証の換気孔の形状を甲1発明の台座に適用できるとの動機付けや技術常識は認められず(現に甲第11乃至13号証には甲第3号証のような換気孔の形状は一切記載がない)、甲1発明に甲第3号証の記載を適用する動機付けにはならない。
なお、甲第13号証にはアルミ等の金属の枠体2が記載されているものの、枠体の形状は不明であって、請求人が主張するような「通気孔」が設けられているとの事実自体開示されていない。とりわけ、甲第13号証の第2図によれば、ネコ1は基礎コンクリート4に埋め込まれるように設置されており、手前側は基礎コンクリート4の端部とネコ1の端部が揃った位置であるが、奥側はネコ1の端部は基礎コンクリートの幅方向の途中に埋め込まれており、およそ通気・換気を意図したものとは思えない使用方法がされている。また、ネコ1は、その上に重量物である土台5が載せられることからすると、枠体2が縦方向及び横方向のいずれにも設けられていると理解できるのであり、この場合、甲第13号証のネコ1は「通気孔」を有しない。結局、甲第13号証には明細書の記載にも図面にも、請求人が主張するような「通気孔」が設けられていると理解することはできないのである。
また、請求人は「甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、『基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し』と記載されているとおり、突部t及び凹部hを形成する側壁は、二方の各側壁に限定されず、一方の各側壁の場合もあること、…から、上記被請求人の主張に基づいて、甲1発明に相違点1の構成(甲第3号証の記載)を適用する動機付けはないとする被請求人の主張は失当である。」(請求人要領書7頁13?20行)と主張するが、「平面鍵形若しくはT字形の場合各台座を自由に接続して介在固着し得られ」(甲第1号証明細書1頁下から4?3行)、「平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合…上記突部と凹部を順次係合して接続する」(同明細書3頁下から6?3行)、「下地材の張設に際しては基板側壁の突部が測定具の用を兼ねる」(同明細書4頁4?5行)という甲第1号証の考案の各作用効果を奏する構成として具体的に記載されているのは第4図のような4面の側壁のうち、隣り合う2面の側壁に楔状突部tを設け、当該側壁2面と対向する残り2面の側壁に楔状凹部hを設ける構成のみである。請求人が主張するように、一方の各側壁のみに突部及び凹部がある台座であって、かつ、上記各作用効果を奏するような台座は甲第1号証に開示されていないし、当業者が甲第1号証の記載から記載されているのと同様のものとして把握することはできない。
また、請求人は、「突部t及び凹部hを形成する側壁が二方の各側壁であるとしても、突部t及び凹部hにかからないように換気孔を形成することは可能であることから、上記被請求人の主張に基づいて、甲1発明に相違点1の構成(甲第3号証の記載)を適用する動機付けはないとする被請求人の主張は失当である。」(請求人要領書7頁16?20行)とも主張するが、甲第3号証に開示されている換気孔の形状を甲第1号証に適用すると、突部t及び凹部hを形成する余地がなくなることは明らかであるし、甲第1号証と甲第3号証に記載されている各形状を組み合わせるためにさらなる改変(両方の構成が組み合わされるような突部、凹部、換気孔の形状に変化させる)を必要とするとすれば、それは進歩性判断において禁忌とされている「容易の容易」の論理であって、想到容易の範囲を超えている。
(答弁書9頁17行?11頁15行、被請求人陳述書5頁6行?8頁3行)

4 本件発明4について
本件発明4と甲1発明を比較すると以下の点でも相違する。

(相違点6)(審決注;請求人の相違点5と一部同じ)
本件発明4は「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続」される設置構造であって、「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

請求人は上記相違点6のうち「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」部分のみを相違点とする(審判請求書23頁3?6行)が、本件発明4は基礎のどこかの部分において「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合する」という構成であればよいわけではなく、特許請求の範囲の記載から明らかなとおり「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続」される場合に「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合する」ものである。そして、甲第1号証に具体的に開示されている台座の設置構造は、第3図に示されているとおり、布基礎の直線部分においては、台座がアンカーボルトの挿入部分にのみ、間隔をあけて設置されており、「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続」される場合に「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合する」構成は具体的に記載されていない。
従って、本件発明4と甲1発明は上記相違点6の点で相違する。
請求人の主張は、相違点6の認定を誤ったことに起因し、「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続」される設置構造において「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され」るという部分について検討しておらず、そもそも失当である。
相違点6の認定で述べたが、甲1発明の台座はアンカーボルトの挿入部分にのみ、間隔をあけて設置することで通気孔を確保しているのであるから、これを相違点6の構成(「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続」される設置構造において「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され」る)に改変すると、換気することができなくなる。
従って、甲1発明を改変し、相違点6のような構成を備えるようにする動機付けは存在しない。
また、甲第1号証には相違点6のうち「嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」構成は一切開示されていない。請求人は、当該構成は甲第1号証から容易に想到できる設計事項と主張するが、甲第1号証には「各釘孔rより釘を打込んで固着し」(甲第1号証明細書2頁下から2行)と記載されているとおり、1つの甲1発明の台座に設けられている複数の釘孔(第1図であれば4カ所)に全て釘を打ちこんで固着することがむしろ開示されており(上記「各釘孔」という記載より明らか)、釘孔の一部に釘を打ちこまないとか、ましてや釘を一カ所も打ちこまないような設置方法は一切開示されていない。一方で、甲1発明のような台座の一部について全く釘を打たずに固定しないことが技術常識や設計事項であることを示す証拠は請求人から提出されていない。
(答弁書11頁18行?14頁15行)

(5)本件発明5について
本件発明5と甲1発明を比較すると以下の点でも相違する。

(相違点7)(審決注;請求人の相違点6と同じ)
本件発明5は「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合」される設置方法であって、「嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点7について、本件発明4の相違点6と同様、請求人は「台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合」される設置方法について検討しておらず、そもそも失当である。
甲1発明の構成を改変して上記設置方法とすることは容易に想到できないことは本件発明4の相違点6と同様である。
また、相違点7のうち「嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定されている」構成についても、本件発明4の相違点6と同様、かかる構成は甲第1号証に開示されておらず、また、この構成が技術常識や設計事項であるとする証拠も存在せず、請求人の主張は失当である。
(答弁書14頁18行?15頁18行)

第5 証拠
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同様。)

ア 「2.実用新案登録請求の範囲
方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に、平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち且つ基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し然して前記挿通孔の周辺に釘孔rを穿設した建築における基礎と土台間に介装する台座。」

イ 「本考案は基礎と土台間に介装する通気用の台座に関するものであつてアンカーボルトによる締着並に釘打ちを自在ならしめ確固安定的に固着せられると共に基礎及び土台が長間であつたりこれらが平面鍵形若しくはT字形の場合各台座を自由に接続して介在固着し得られ然して側壁の突部はラス等の下地材張設に際しその下端部を当接することにより該下地材の張設作業を常に容易に然も正確に遂行せしめるようにしたものである。
即ち実施例の図面に示したように、ポリプロピレン、硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る略方形の基盤1の板面中央部に平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを形成し且つ該基盤の片側壁に楔状突部tを突設すると共に反対側壁に該突部と係合する凹部hを形成し然して前記挿通孔の4辺に釘孔rを穿設して成るものであつて、なお図面中3はコンクリート基礎、4は土台、5は土台4上に設立した柱、6はラス等の下地材、7は締着用ナツト、8は座金を示した。
本案は以上のように構成したので今本台座を使用する一般の場合は、第3図に示したように予め基盤1の挿通孔Hよりアンカーボルト2をその下端の向きに応じて挿入して該下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設して基盤1を載置した後その各釘孔rより釘を打込んで固着し次で該基盤上面に突出したアンカーボルト2の上部を土台4に予め穿設してあるボルト孔より挿入して上方に突出せしめ然る後該台座上に突出したアンカーボルト2の上端に座金8を介在してナツト7で締着すれば基礎3と土台4間には等間隔の通気孔を介して強固安定的に固着せられ・・・能率的に遂行せられるものである。
然して又本案は以上のほか基盤1の片側壁に楔状突部t、反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であったり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するものである。
本案は以上のようであるから・・・然も下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねるので常に容易且つ正確に張設せられ・・・至極有益な考案である。」(明細書1頁13行?4頁10行)

ウ 第3図から、台座(基盤1)は、コンクリート基礎3の長手方向に沿って間隔を空けて複数配置されることが看て取れる。

エ 第1図、第4図から、突部t、凹部hのサイズは略同一であること、及び突部t、凹部hはそれぞれ係合面に沿って並んで配置されていることが看て取れる。

(2)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記(1)で記載した事項を踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリプロピレン、硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に、平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち且つ基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部tと係合する凹部hを形成し、前記挿通孔Hの周辺に釘孔rを穿設したコンクリート基礎と土台間に介装する通気用の台座であって、
予め基盤1の挿通孔Hよりアンカーボルト2をその下端の向きに応じて挿入して該下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設して、基盤1をコンクリート基礎3の長手方向に沿って間隔を空けて複数配置した後、その各釘孔rより釘を打込んで固着し、該基盤1上面に突出したアンカーボルト2の上部を土台4に予め穿設してあるボルト孔より挿入して上方に突出せしめて、該台座上に突出したアンカーボルト2の上端に座金8を介在してナツト7で締着することにより、コンクリート基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を介して強固安定的に固着せられ、
突部t、凹部hのサイズは略同一であり、突部t、凹部hはそれぞれ係合面に沿って並んで配置されており、
コンクリート基礎3及び土台4が長間であったり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は上記突部tと凹部hを順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる、通気用の台座。」

また、甲第1号証には、「コンクリート基礎3と土台4間に配置された台座の設置構造」、「コンクリート基礎3上に配置された台座の設置方法」と限定した発明としての甲1発明が記載されているとも認められる。

2 甲第2号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、土台保護板の改善に関する。」

イ 「【0016】
図1の11は、ゴム,合成ゴム,合成樹脂その他の同効性質をもつ弾性材料からなる長尺の保護板であって、該保護板11の表面全域に、テーパー構造の突起12を一体に形成したものである。この突起12は図で示すような截頭円錐形状に形成してあるが、截頭角錐形状や角柱,円柱構造でも同様な作用効果が得られるので、図示実施例のものに特定されることはない。
ちなみに、前記突起12の上辺径は約9mm,基部径は約11mm,高さを6mm(荷重による歪1mm)としたものである。また、図1においては突起12は碁盤目状に配設形成されているが、千鳥状に配設形成してもよい。
【0017】
前記保護板11の長さ、および、形状は任意であるが、保護板11の一端中央部には突起12をもつ係合突片13が、また、保護板11の他端中央部には前記係合突片13が適嵌する係合凹所14が形成してあり、連設される保護板11間に間隙が生じないようにしてある。また、少くとも前記保護板11の巾は、コンクリート基礎15の巾、および、土台となる角材16の巾と略同一にすることが好ましい。また、保護板11の任意個所には、前記コンクリート基礎15に植設したアンカーボルト17が挿通する孔が穿設可能であることは当然である。図7は、図1に示す係合突片13と係合凹所14の平面形状を楔形状とし、土台である角材16をコンクリート基礎15上に保護板11を敷き込みする際に、保護板11同志が引っ張り方向に移動したり、分離したりするのを防止させるようにしたものである。」

ウ 図1、6から、係合凹所14は保護板11の上下面に渡って形成されていることが看て取れる。

3 甲第3号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
全体が所定の剛性と強度を有して直方体状をなし、且つ長手方向に沿つて所定間隔をおきながら換気孔が複数個形成されていることを特徴とする台輪。」

イ 「以下、図面を参照して、この考案の各種実施例を説明する。第1図および第2図は第1実施例である。第1図において、1はコンクリートによる布基礎であり、この布基礎1には従来の布基礎に形成されているような換気孔は形成されていない。上記布基礎1上には、第2図に示すような直方体状の長手部材であるこの実施例の台輪2が載置されている。この台輪2は、防錆処理された鋼材からなり、またその長手方向に沿つて所定間隔をおきながら複数の換気孔2A.2B.2c.・・・が、その中央部において且つその幅方向に沿つて貫通形成されている。・・・而して上記台輪2、半土台3、床パネル4、壁パネル5は夫々、上記布基礎1上に所定間隔をおいて立てられているアンカーボルト6によつて結合固定されている。」(明細書2頁9行?3頁9行)

4 甲第4号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面ともに次の事項が記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
コンクリート基礎と建物躯(審決注;原文は「躯」のはこがまえの中が「品」。以下同じ。)体との間に介在されアンカーボルトを貫通させて固定される、偏平な細長形状の板状体からなる合成樹脂製の土台において、上記板状体にその長手方向に沿って複数個の打ち抜き可能なアンカーボルト貫通孔形成部を所定間隔で設けたことを特徴とする合成樹脂製の土台。」

イ 「3.考案の詳細な説明
本考案は、現場施工作業の省力化を図ることができる合成樹脂製の土台に関するものである。
家屋の構築、特に木質系パネル式住宅の構築にあたっては、コンクリート基礎上に壁体、床体等の建物躯体を設置する際、コンクリート基礎の天端と建物躯体との間にコンクリート基礎と略同巾の偏平な細長形状の土台(台輪)、好ましくは合成樹脂製の土台を介在させることが行われており、かかる土台には、コンクリート基礎に立設したアンカーボルトを建物躯体を固定するため貫通させる必要がある。」(明細書1頁12行?2頁3行)

5 甲第5号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 建築物の布基礎と床パネルとの間に敷設するプラスチック台輪において、該プラスチック台輪を構成する成分が少なくとも低密度ポリエチレンとポリプロピレンあるいは/および高密度ポリエチレンから成ることを特徴とするプラスチック台輪。」

イ 「【0014】【実施例】以下、本発明の実施例をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。また、本発明の実施例に使用するプラスチック製台輪および比較のために使用するプラスチック製台輪の外形は、従来の技術のところで示したと同種の(材質の異なる)ものであり、図2に示したようなものである。しかし、本実施例のプラスチック製台輪は、図2に示すような孔を有するものであっても、アンカーボルト部のみ孔を設けるようなタイプであっても構わない。図1に示すようにプラスチック製台輪3は、先に従来の技術のところで示したのと同様に、布基礎1の上にモルタル4を敷き、アンカーボルト2を台輪3の孔を通すようにして台輪3を敷き、図には示していないが、台輪3の上に床パネルを敷設するという方法で使用される。」

6 甲第6号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、型枠ブロックの施工方法に関し、型枠ブロックを組積みして壁や塀等の構造物を建造するに際し、建設現場における型枠ブロックの積み上げ作業を少なくして工期の短縮を可能にするための施工方法を提供するものである。」

イ 「【0017】しかして、前板部21および後板部22の左右の端面に互いに嵌合する高さ方向の凹凸条が型枠ブロックの中心Mに対して点対称に、かつ幅方向の中心線Nに対して非対称に形成される。すなわち、図2に示すように、前板部21の左端部および後板部22の右端部にそれぞれ外側で突出し内側で窪む階段状の凹凸条が、また前板部21の右端部および後板部22の左端部にそれぞれ外側で窪み内側で突出する階段状の凹凸条がそれぞれ高さ方向に形成され、前者の凹凸条と後者の凹凸条とが噛み合うようになっている。」

ウ 「【0020】上記の図2、3に示す型枠ブロック20は、前板部21および後板部22の左右の端面に互いに嵌合する高さ方向の凹凸条を備えているので、組積みの際の位置決めが容易である。そして、上記の凹凸条が型枠ブロックの中心Mに対して点対称に、かつ幅方向の中心線Nに対して非対称に形成されているので、組積みの際に型枠ブロックの天地を間違えない限り、表裏を間違えても支障がない。」


7 甲第7号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「本物品は、芝生を保護するために用いられるもので、合成樹脂により一体的に成形される。本物品は、その四辺に設けた連結部により順次連結して面を構成し」(意匠公報説明)

イ 平面図の連結部の形状から、連結部が芝生保護材の向きを逆にしても接続可能となっていることが看て取れる。

8 甲第8号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「[産業上の利用分野]
本考案は、鉄道、高速道路等で使用する情報ケーブル等各種の配線を収容保護する配線路を構築敷設するための配線路用ブロックに関するものである。」(3欄23行?26行)

イ 「上記において、ブロック本体aの底板1の長手方向一端面1′に所要の間隔をおいて形成した突起部4′及び受入凹部5′と、両長手方向他端面1″に形成する受入凹部5″及び突起部4″を互いに対応させるとともに、左右側壁2、3の長手方向一端面2′、3′に形成した突起部6′あるいは受入凹部7′に同長手方向他端面2″、3″に形成する受入凹部7″あるいは突起部6″を互いに対応させておく。
さらに、ブロック蓋板b、あるいはブロック蓋板cの長手方向一端面b′、c′に所要の間隔をおいて形成した突起部10′、12′及び受入孔11′、13′と、長手方向他端面b″、c″に形成する受入孔11″、13″及び突起部10″、12″を対応させておく。そしてこれらを噛合させ、配線路用ブロックを接続する。
これによって、これらブロック本体a及びブロック蓋板b、あるいはブロック蓋板cは、いずれもその前後方向に動くことがなく一体のものとなる。」(5欄26行?42行)

ウ 上記イで摘記した事項を踏まえると、第1図、第2図から、突起部4′及び受入凹部5′、又は突起部10′及び受入孔11′は向きを逆にしても接続可能となっていることが看て取れる。


9 甲第9号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 布基礎上に載置されアンカボルトの挿通孔が設けられたパッキンと、
端面視U字形状をなし前記パッキン上に載置され、底部に前記アンカボルトの挿通孔が設けられると共に側部に釘孔が設けられ、土台を受け且つ釘固定する金具と、
前記アンカボルトに螺合して前記金具と前記パッキンとを前記布基礎に固定するナットとを備えたことを特徴とする土台の締結装置。」

イ 「【0024】図7は、金具の他の実施例を示す。図7において金具25は、2分割タイプとされ、2つのL形の金具26と27とから成り、金具26、27は、底部26a、27aに各対抗する端面に開口する略半円状の切欠26b、27bが設けられ、これらの切欠26b、27bの両側に互いに噛み合うように、櫛状の突起26cとスリット27d、突起27cとスリット状の切欠26dとを設け、対抗する側部26eと27eとの間隔を任意に調節可能としたものである。そして、中央の対抗する半円形状の切欠26bと27bとによりアンカボルトの挿通孔が形成される。これにより土台の幅寸法に応じて側部26eと27eとの間隔を自由に調節することができ、土台の両側面に確実に側部26e、27eを当接することができる。また、汎用性があり、土台の寸法毎の金具を備える必要がなくなり、在庫品を少なくすることができる。」

10 甲第10号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、乗用玩具とともに用いられる乗用玩具用レールに関するものである。」

イ 「【0029】図3ないし図5は、1つの直線レールユニット2を示すもので、図3は平面図、図4は正面図、図5は左側面図である。直線レールユニット2は、その幅方向中心線に沿って位置し、かつ直線状に延びるガイド凸部16aを有している。このレールユニット2の一方端部であって、ガイド凸部16aの一方側には、第1形式の連結部17が設けられ、同じく他方側には、第2形式の連結部18が設けられる。他方、レールユニット2の他方端部であって、ガイド凸部16aの一方側には、第2形式の連結部18が設けられ、同じく他方側には、第1形式の連結部17が設けられる。これら第1形式および第2形式の連結部17および18の詳細については後述するが、第1形式の連結部17と第2形式の連結部18とは、互いに着脱可能に係合され得る構造を有している。」

ウ 上記イで摘記した事項を踏まえると、図3、6?9から、レールユニット2の左右の連結部は向きを逆にしても接続可能となっていることが看て取れる。

11 甲第11号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は建築物、特に住宅における床下換気工法の部材として使用する基礎受け板、及び、この基礎受け板を使用した建築物の基礎部分に関する。」

イ 「【0021】図1は、本発明に係る基礎受け板の一実施例を示す全体外観斜視図であり、(a)はその上面を、(b)はその下面を主に表している。同図において、基礎受け板1は100ミリメートル四方の正方形の板状体であり、その上面11の面積は、ボルト孔14部分を除くと80平方センチメートルである。さらに、その下面12中央には放射状の除湿溝13を有する(図2(b)参照)。」

ウ 「【0022】また基礎受け板1を布基礎と木製土台との間に挿入した状態で、基礎受け板1の見附面積が大きい程、布基礎と木製土台との間に基礎受け板1を挿入することによって生じる隙間、すなわち隣り合う基礎受け板と木製土台及び布基礎とによって形成される床下換気有効面積が小さくなり、床下換気効果の低い基礎部分を形成することになるので、基礎受け板1の見附面積が最小となるように使用することが望ましい。」

エ 「【0025】そして基礎受け板1の下面12には、放射状の除湿溝13が基礎受け板1の外縁部にかけて刻まれている。この除湿溝13の形状を放射状として、外縁部にかけて刻むということによって、この基礎受け板1に接する布基礎部分の除湿を目的とした、外部と基礎内部との多方向の空気流通を可能ならしめる。」

オ 「【0031】ここで注意すべきは、この基礎受け板2を使用する際には、図9(a)のように短手方向を外部に見せるように、すなわち基礎受け板2同士の間隔によって形成される床下換気有効面積が最大となるように配置することである。このように基礎受け板2を配置すれば、荷重支持に必要な面積も確保でき、かつ床下換気有効面積が最大となるように使用できることになり、またさらに除湿溝13の向きも、外部と内部を直接結ぶ向きとなり、床下換気にとって有効である。」


12 甲第12号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
1.平面方形の基板部1Aの上面と下面に平面十字状の上面通風溝1A1,1A2と下面通風溝1B1,1B2を刻設することで、当該基板部1Aの上面の四隅部分に上面肉厚部1A4,1A5,1A6,1A7が形成されていると共に、当該基板部1Aの下面の四隅部分に下面肉厚部1B4,1B5,1B6,1B7が形成され、上記上面通風溝1A1,1A2の交差部分にはアンカーボルト用開口部1A8が開設され、上記上面肉厚部1A4,1A5,1A6,1A7には連結孔1A41,1A51,1A61,1A71が穿設されていることを特徴とする土台用パッキン。」

13 甲第13号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の事項が記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
(1)アルミ合金枠体2の上面に薄い鉛シ一ト3を貼着した土台支持用ネコ。」

イ 「(2) 第2図、第3図のように本考案ネコ1は基礎コンクリート4上に載置ないしは部分的に埋め込まれる。
本考案ネコ1上に土台5を載置する。7は柱である。6は基礎コンクリ一ト4と土台5との間の空間である。」(明細書2頁下から2行?3頁4行)

ウ 第1図から、ネコ1には水平方向に4つの穴が形成されていることが看て取れる。

第6 無効理由についての判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「基礎」は、本件発明1の「基礎」に相当し、甲1発明の「土台」は建造物本体の一部であるから、本件発明1の「建造物本体」に相当する。そして、甲1発明の「基礎と土台間に介装する」「台座」は、本件発明1の「基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪」に相当する。また、甲1発明の台座は「方形若しくは長方形」であるから、長方形の態様を含んでおり、本件発明1の「台輪」と同様、「長手方向」を有する。

イ 甲1発明の「(台座の)基盤1を基礎3の長手方向に沿って間隔を空けて複数配置」することは、本件発明1の「(台輪本体が)前記基礎の長手方向に沿って配置される」ことに相当する。

ウ 甲1発明の「突部t」、「凹部h」は互いに嵌合可能であるから、本件発明1の「被嵌合部」、「嵌合部」に相当する。甲1発明は「突部t、凹部hのサイズは略同一で」あることから、係合時には係合面(嵌合面)に沿う方向に移動しないように接続されることは自明であり、「係合面(嵌合面)に沿う方向」は、本件発明1の「幅方向」と同じ方向であることも明らかである。したがって、甲1発明の「突部t」、「凹部h」は、本件発明1の「両接続部の嵌合部と被嵌合部は、長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成され」ることと、「両接続部の嵌合部と被嵌合部は」「隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に」「嵌合面に沿う方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成され」る点で共通する。

エ したがって、両者は、次の一致点1で一致し、相違点1?3で相違する。

(一致点1)
「基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において、
複数の台輪のそれぞれは、
前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、
この台輪本体の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、
前記台輪本体の両端部の接続部には、嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが配置され、
前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に嵌合面に沿う方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されている、
台輪。」

(相違点1)
本件発明1は「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」台輪であるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本件発明1は、接続部が「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられ」ているのに対し、甲1発明は、接続部が台座の長手方向の両端部に設けられているのか明らかでない点。

(相違点3)
接続部に関して、本件発明1は「台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、」「嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1について
(ア)当審の判断
甲第2号証には、土台保護板を基礎の長手方向に沿って複数接続することが記載されている(上記第5の2参照)。
しかしながら、甲1発明は、台座を間隔を空けて配置し「基礎3と土台4間に等間隔の通気孔」を形成させることが前提となっている通気用の台座であるから、甲第2号証に記載された事項のように台座間に間隙を生じないように複数接続することには阻害要因があるというべきであり、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用する動機付けはない。
また、甲1発明の「基礎3及び土台4が長間であったり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は上記突部tと凹部hを順次係合して接続する」点は、上記のように甲1発明は台座を間隔を空けて配置することを前提としつつ、耐荷力を増大したり形状に順応するために台座を部分的に隣接させるものであるから、本件発明1の「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」ものではないし、また、あくまで部分的に台座を隣接させるにとどまる以上、甲1発明の当該構成から本件発明1の「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」構成を得ることは、当業者が容易に想到しうる事項であるともいえない。

(イ)請求人の主張について
請求人は、「基礎の長手方向に沿って台輪本体を隣接して配置することは、甲1発明のほか、甲第2号証にも記載されており、・・・また、甲第1号証の第4図には、基礎が交わる角部の施工に関する記載ではあるが、布基礎の直線部分において台座を長手方向に隣接して配置することが記載されており、さらに、台座を長手方向にどのように配置するかは、アンカーボルトの位置に加え、台座の支持力を考慮して行う(台座の支持力が不足する場合は、当然に、複数の台座を隣接して配置することになる。ちなみに、甲第1号証の第3頁第12?20行には、「基盤1の片側壁に楔状突部t、反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であつたり、或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するものである。」との記載があり、当該事項が示唆されている。)設計的な事項と認められることから、甲第1号証に記載された発明は、本件発明1の構成要件中「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部を備え」る構成を備えるものであるといえるものである」旨(上記第3の2(1)イ(ア)参照)、主張する。
しかしながら、上記(ア)で説示したように、甲1発明は台座を間隔を空けて配置させることが前提となっているから、甲第2号証に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けはなく、また、布基礎の直線部分において台座を長手方向に隣接して配置することが設計事項であるということもできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

イ 相違点2について
(ア)当審の判断
甲1発明の台座は「方形若しくは長方形」であるから、長方形の態様を含んでおり、長方形の台座に対して、突部、凹部をその長手方向の両端部に設けることは、台座の配置方向等を勘案して当業者が適宜選択しうる事項にすぎない。
そして、突部、凹部が長手方向の両端部に設けられることにより、一致点1に係る「嵌合面に沿う方向」は、本件発明1の「幅方向」と一致することになる。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「甲1発明の効果を奏することができるのは、甲1発明の台座が方形、すなわち基盤1の側壁の長さが略同一であるからであって、これを長方形(長尺板状)とした場合に同様の効果を奏するような具体的な形状は甲第1号証には記載がない。このように、甲1発明の台輪本体を長方形(長尺板状)に形成すること(甲第2?5号証)を適用すると甲1発明が意図する効果を奏さず、同効果を奏するためにはさらなる改変を要する結果となってしまう。当業者はこのような不都合のある改変を行うことはせず、甲1発明を本件発明1の相違点1(審決注;上記(1)エの相違点2)を備えた構成へと改変することは容易に想到されない。」旨(上記第4の1(1)参照)、主張する。
しかしながら、上記(ア)で説示したように甲1発明の台座は長方形の態様を含んでおり、台座が長方形の場合でも突部、凹部を形成できるし、台座として機能できるわけであるから、甲第1号証の実施例に長方形の態様がないことをもって、長方形の態様を採用できないとまではいえない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
(ア)当審の判断
甲1発明は、「基礎と土台間に介装する通気用の台座に関するものであつてアンカーボルトによる締着並に釘打ちを自在ならしめ確固安定的に固着せられると共に・・・側壁の突部はラス等の下地材張設に際しその下端部を当接することにより該下地材の張設作業を常に容易に然も正確に遂行せしめるようにしたもので」あり(上記第5の1(1)イ参照)、「基礎上端に隣接して設置される複数の台輪の設置作業を容易に行うことができる」(本件明細書の【0005】)、「台輪の接続部に他の台輪の両接続部のうちのどちらでも嵌合部と被嵌合部とを嵌合接続することで、台輪どうしを接続することができる」(本件明細書の【0013】【0063】)との本件発明の課題は何ら記載も示唆もない。
また、甲1発明の突部t、凹部hは、本件発明1のように「それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され」ているものではないし、さらに、突部tは「下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」(上記第5の1(1)イ参照)ものであるから、基盤の一方側に突部tを実施例のように並べて設ける必要性があり、突部tと凹部hを並べて配置することは想定できない。
そして、甲第6号証は型枠ブロックの組積みに関するものであり、甲第7号証は芝生保護材に関するものであり、甲第8号証は鉄道、高速道路等で使用する情報ケーブル等各種の配線を収容保護する配線路を構築敷設するための配線路用ブロックに関するものであり、甲第10号証は乗用玩具とともに用いられる乗用玩具用レールに関するものであり、甲1発明の建築における基礎と土台間に介装する台座と比較して、それぞれ、その適用箇所、技術分野が大きく異なるものである。さらに、甲第6号証(図2)、甲第7号証(平面図)、甲第10号証(図3、10)に記載された接続形式(凹凸の形状や嵌合の形態など)は、甲1発明にどのように適用できるのか、あるいは、仮に甲1発明に適用したとしても接続形式として機能するのか定かでないほど、甲1発明の接続形式とは異なるものとなっている。これらのことから、甲第6?8、10号証に記載された技術を、甲1発明に適用する動機付けはないというべきである。
また、相違点3に関して、甲第2号証に記載された事項は、土台保護板に関するものであり、本件発明1の台輪と共通する技術分野であるが(上記第5の2参照)、係合突片13、係合凹所14は「向きを逆にしても接続可能」となっておらず、相違点3に関する技術事項は記載されていない。また、甲第9号証においては、2分割タイプの金具の噛み合い部として切欠、突起が記載されており(上記第5の9参照)、切欠、突起の形状は本件発明1と似通っている部分はあるものの、これらは2つの金具の1箇所の接合に関するものであり、「向きを逆にしても接続可能」とはなっていないし、また、そのようにする必要性もないものであるので、相違点3に関する技術事項とはいえない。
そして、その他の証拠である甲第3号証?甲第5号証、甲第11号証?甲第13号証においても、相違点3に相当する構成は開示されていない。

(イ)請求人の主張について
請求人は、「種々の相互に接続して用いられる部材の端部にそれぞれ設けられた嵌合部と被嵌合部とからなる接続部を備え、該接続部を幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して部材同士を接続するようにすることは、接続構造として一般的なものであって、当該接続部の嵌合部と被嵌合部との形成位置に関しては、(a)部材に方向性を持たせる形成位置とする、具体的には、部材の一端部に「凸、凸」の嵌合部を設け、他端部に「凹、凹」の被嵌合部を設けるようにするか、(b)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする、具体的には、部材の一端部に「凸、凹」の嵌合部及び被嵌合部を設け、他端部に「凹、凸」の被嵌合部及び嵌合部を設けるようにするかの2通りしかなく、また、上記(a)の接続方式と同様に、上記(b)の接続方式も、技術分野に関係なく、嵌合部と被嵌合部とからなる接続部の構造として、本件出願前に一般的に行われていた周知の技術にすぎない(例えば、甲第6号証?甲第10号証参照。)。また、当該周知技術は、部材の向きを逆にしても接続可能とすることを目的として、部材や適用箇所等に関わらず、転用可能な技術であるといえる」旨(上記第3の2(1)イ(イ)参照)、主張する。
しかしながら、嵌合部、被嵌合部の形成については凹凸の数を含めて様々な態様があり得るので必ずしも請求人が主張するような2種類に集約できるものではない。また、甲第6号証?甲第10号証については、上記(ア)で説示したとおりである。

(ウ)小括
以上のことから、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、上記(2)ア、ウのとおり、相違点1、3に係る本件発明1の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 本件発明2について
(1)本件発明2と甲1発明との対比
ア 甲1発明の台座は「方形若しくは長方形」であるから、長方形の態様を含んでおり、本件発明2の「台輪」と同様、「長尺板状に形成された」といえる。

イ 「ポリプロピレン、硬質ポリエチレン等の合成樹脂」は「プラスチック製」といえるから、甲1発明の「ポリプロピレン、硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る」「基盤(台座)」は、本件発明2の「プラスチック製の台輪」に相当する。

ウ 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、上記1(1)の一致点1、相違点1?3に加えて、次の相違点4で相違する。

(相違点4)
嵌合部に関して、本件発明2は「嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え」るのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?3について
相違点1?3については、上記1(2)で説示したとおりである。

イ 相違点4について
(ア)当審の判断
相違点4に関して、例えば、甲第2号証に係合凹所14は保護板11の上下面に渡って形成されていることが記載されているように(上記第5の2ウ参照)、嵌合、被嵌合形状として、部材の上下面に渡る溝部を形成することは一般に広く用いられている周知技術にすぎず、このような周知技術を採用することは当業者が通常行いうる行為であり、また、当該周知技術を甲1発明の「凹部」に適用することに格別の阻害要因は見受けられず、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「甲第2号証の【図9】に符号13として示される係合突片13は、同号証明細書段落【0016】の「突起12(は)高さを6mm(荷重による歪み1mm)としたものである」との記載及び同号証【図4】から、せいぜい高さ3mm程度のものと推認されるところ(【図4】の左右両端の突起(高さ6mm)の略半分)、このような薄板平板状の「突片」を、通常の用語としての「溝部」(「(1)地を細く掘って水を流すところ。どぶ。渠。(2)戸・障子をたてるために敷居と鴨居にきざんだ細長いくぼみ。また、一般に、細長くくぼんだところ」。広辞苑第六版)と呼ぶことは、無理のある解釈である」旨(上記第4の2参照)、主張するが、甲第2号証に記載された係合突片13、係合凹所14は接続部として機能しており、上記(ア)で説示したように、甲第2号証に記載された係合凹所14は溝部ということができるものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明2は、上記(2)のとおり、相違点1、3に係る本件発明2の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本件発明3について
(1)本件発明3と甲1発明との対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記1(1)の相違点1?3及び上記2(1)の相違点4(本件発明2を引用した場合)に加えて、次の相違点5で相違する。

(相違点5)
本件発明3は「台輪本体には、換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?4について
相違点1?4については、上記1(2)、2(2)で説示したとおりである。

イ 相違点5について
(ア)当審の判断
甲第3号証には、「台輪本体をその幅方向に貫通するようにして形成された換気孔」を設けることが記載されている(上記第5の3参照)。
一方、甲1発明においては、台輪を間隔を空けて複数配置し、その間隙を換気孔(通気孔)としていることから、台輪本体にさらに換気孔を設ける必要性はなく、甲第3号証に記載された事項を適用する動機付けはないというべきである。また、甲1発明の実施例となる甲第1号証の第1図、第4図等の基盤1の形状を参照しても、方形状であることや、凹部、突部の存在から、幅方向を貫通するように換気孔をあらためて設けるためには比較的大きな構成の変更が必要となることが予測され、そのような意味からも、甲1発明において台輪そのものにあらためて換気孔を設けることは想定されていないというべきである。
また、その他の証拠である甲第2号証、甲第4号証?甲第13号証においても、相違点5に相当する構成は開示されていない。

(イ)請求人の主張について
請求人は、「甲1発明の台座のように、一定の間隔を空けて配置される台座においても、間隔を空けることなく配置される台座と同様に、通気部を設けて通気性を持たせるようにする要請は存在し、一般的に行われていること(例えば、甲第11号証(除湿溝13)、甲第12号証(通風溝)及び甲第13号証(アルミ合金枠体2)。)であることから、甲1発明の台座に、甲第3号証に開示された換気孔をさらに設ける動機付けは存在」し、「甲第1号証の実用新案登録請求の範囲には、「基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し」と記載されているとおり、突部t及び凹部hを形成する側壁は、二方の各側壁に限定されず、一方の各側壁の場合もあること、さらに、突部t及び凹部hを形成する側壁が二方の各側壁であるとしても、突部t及び凹部hにかからないように換気孔を形成することは可能である」旨(上記第3の2(3)参照)、主張する。
しかしながら、甲第11号証、甲第12号証に開示されたパッキン(台座)は、台座部分は換気機能は有するものの、甲第3号証に記載されたような貫通する孔ではなく「溝」が形成されており、甲第12号証については、間隔を空けて配置される台座であるのか明らかでなく、また、甲第13号証に開示されたものは、アルミ合金枠体2が換気機能を有するのか、また貫通する孔を有するのかも明らかでないことから、甲第3号証に記載されたような貫通する孔を「一定の間隔を空けて配置される台座においても」適用する証拠としては充分なものといえない。よって、上記(ア)で説示したように、甲第3号証に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けはない。

(ウ)小括
以上のことから、甲1発明において、相違点5に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明3は、上記(2)のとおり、相違点1、3、5に係る本件発明3の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

4 本件発明4について
(1)本件発明4と甲1発明の対比
本件発明4は「請求項1?3のいずれかに記載の台輪」の設置構造に係る発明であるから、本件発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、上記1(1)の一致点1で一致し、相違点1?3、上記2(1)の相違点4(本件発明2を引用した場合)及び上記3(1)の相違点5(本件発明3を引用した場合)で相違し、それらに加えて、次の一致点2で一致し、相違点6、7で相違する。

(一致点2)
「基礎と基礎上に構築される構造物本体との間に介在された台輪の設置構造」

(相違点6)
本件発明4は「基礎上端に基礎の長手方向に沿って複数接続されて敷き込まれ」、「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され」た「台輪の設置構造」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点7)
本件発明4は「嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?5について
相違点1?5については、上記1(2)、2(2)、3(2)で説示したとおりである。

イ 相違点6について
相違点6は、相違点1と実質的に同じであるから、上記1(2)アで説示したとおりである。

ウ 相違点7について
(ア)当審の判断
甲第1号証には「その各釘孔rより釘を打込んで固着」する旨の記載(上記第5の1(1)イ参照)はあるものの、「嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」ようにすることを示唆する記載はなく、またその他の証拠である甲第2号証?甲第13号証においても、相違点7に相当する構成は開示されていない。

(イ)請求人の主張について
請求人は、「甲第1号証には、「方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に、平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち・・・前記挿通孔の周辺に釘孔rを穿設した建築における基礎と土台間に介装する台座」(甲1発明)が記載されており、どの釘孔rに釘を打ち込んで基盤1をコンクリート基礎3に固着するか(その場合、隣接する基盤1と嵌合するため、コンクリート基礎3に固着しない基盤1を設けること。)は単なる設計上の事項(施工上の選択事項)にすぎないことから、相違点5(審決注;上記(1)の相違点7)の「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され、嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」ことは、甲1発明から、当業者が容易になし得る事項である」旨(上記第3の2(4)参照)、主張する。
しかしながら、上記(ア)で説示したように、相違点7に相当する構成は甲第1号証には記載されておらず、甲第1号証の「その各釘孔rより釘を打込んで固着」するとの記載から見て、釘孔を選択的に使うことまで想定されておらず、相違点7に係る本件発明4にすることは当業者が容易になし得る事項であるとはいえない。

(ウ)小括
以上のことから、甲1発明において、相違点7に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明4は、上記(2)のとおり、相違点1、3、5?7に係る本件発明4の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

5 本件発明5について
(1)本件発明5と甲1発明の対比
本件発明5は「請求項1?3のいずれかに記載の台輪」の設置方法に係る発明であるから、本件発明5と甲1発明とを対比すると、両者は、上記1(1)の一致点1で一致し、相違点1?3、上記2(1)の相違点4(本件発明2を引用した場合)及び上記3(1)の相違点5(本件発明3を引用した場合)で相違し、それらに加えて、次の一致点3で一致し、相違点8、9で相違する。

(一致点3)
「基礎上に設置する台輪の設置方法」

(相違点8)
本件発明5は「基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ、これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点9)
本件発明は「嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定する」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

(2)各相違点に対する判断
ア 相違点1?5について
相違点1?5については、上記1(2)、2(2)、3(2)で説示したとおりである。

イ 相違点8について
相違点8は、相違点1と実質的に同じであるから、上記1(2)アで説示したとおりである。

ウ 相違点9について
相違点9は、相違点7と実質的に同じであるから、上記4(2)ウで説示したとおりである。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明5は、上記(2)のとおり、相違点1、3、5、8、9に係る本件発明5の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

6 無効理由のまとめ
以上のとおり、本件発明1?5は、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

第7 むすび
上記第6で検討したとおり、本件発明1?5について、請求人の主張する無効理由には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-28 
結審通知日 2018-05-31 
審決日 2018-06-12 
出願番号 特願2000-261372(P2000-261372)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋行鉄 豊郎  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
井上 博之
登録日 2010-09-17 
登録番号 特許第4589502号(P4589502)
発明の名称 台輪、台輪の設置構造及び設置方法  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 速見 禎祥  
代理人 岩坪 哲  
代理人 岩坪 哲  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 鈴木 章  
代理人 速見 禎祥  
代理人 森 治  
代理人 朝野 修治  

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