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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1349611
審判番号 不服2018-4685  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-06 
確定日 2019-03-07 
事件の表示 特願2013-250583「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月11日出願公開、特開2015-107696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月3日の出願であって、平成29年6月29日付け(発送日:平成29年7月4日)で拒絶理由が通知され、平成29年8月29日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成30年1月15日付け(発送日:平成30年1月23日)で拒絶査定がされ、これに対して、平成30年4月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年8月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
駆動系にスタータモータとエンジンと走行用モータを備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記走行用モータと駆動輪との間に変速機を介装し、
前記走行用モータにより駆動され、前記変速機の油圧源になるオイルポンプを設け、
前記走行用モータを駆動源とするEVモードにてエンジン始動要求があると、前記走行用モータを用いた強電始動と、前記スタータモータを用いたスタータ始動と、のいずれかを用いて前記エンジンを始動するエンジン始動制御手段と、
ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図の有無を判定する加速意図判定手段と、を設け、
前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合、前記変速機を変速することなく、前記スタータ始動を実行する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2007-15679号公報(本審決における引用文献1)
引用文献2.特開2004-339943号公報(本審決における引用文献2)
引用文献3.特開2002-291104号公報
引用文献4.特開2004-122879号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開平7-15806号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1(特開2007-15679号公報)には、図面(特に図1及び図10を参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【0001】
本発明は、エンジン、第1クラッチ、モータジェネレータ、第2クラッチ、駆動輪の順に接続してハイブリッド駆動系を構成したハイブリッド車両のオイルポンプ駆動制御装置に関する。」

イ 「【0008】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1のオイルポンプ駆動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、モータジェネレータMGと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、メカオイルポンプO/P(オイルポンプ)と、を有する。
【0009】
前記エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。
【0010】
前記モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0011】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装された油圧式単板クラッチや油圧式多板クラッチ等であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ開放を含み締結・開放が制御される。
【0012】
前記第2クラッチCL2は、前記モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装された油圧式多板クラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結とスリップ開放を含み締結・開放が制御される。
【0013】
前記自動変速機ATは、例えば、前進5速後退1速や前進6速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの変速要素として設けられている複数の摩擦締結要素のうち、各変速段の動力伝達経路に存在する摩擦締結要素を流用している。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0014】
前記メカオイルポンプO/Pは、前記モータジェネレータMGと第2クラッチCL2との間に配置したもので、前記エンジンEと前記モータジェネレータMGの少なくとも一方をポンプ動力源として吐出圧を発生する内接ギヤ式ポンプや外接ギヤ式ポンプやベーンポンプ等が採用される。このメカオイルポンプO/Pは、モータジェネレータMGの回転軸、即ち、トランスミッションインプットシャフトの回転を受け、油圧を発生することができる構成となっており、第1クラッチCL1を締結させてエンジンEにより駆動することも、第1クラッチCL1を開放してモータジェネレータMGにより駆動することも可能である。そして、メカオイルポンプO/Pはハイブリッド駆動システムにおけるただ1つの油圧源であり、メカオイルポンプO/Pからの吐出油は、前記第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8に供給される。
【0015】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いに情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。」

ウ 「【0023】
次に、実施例1のハイブリッド車両の走行モードについて説明する。
実施例1のハイブリッド駆動系は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に第1クラッチCL1を介装すると共に前記モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に第2クラッチCL2を介装して構成している。そして、走行モードとして、「エンジン走行モード」、「モータ走行モード」、「モータアシスト走行モード」、「走行発電モード」の4つの走行モードを有する。
【0024】
前記「エンジン走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間の第1クラッチCL1を締結し、エンジンEのみを動力源として駆動輪である左右後輪RL,RRを動かすモードである。
前記「モータ走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間の第1クラッチCL1を開放し、モータジェネレータMGのみを動力源として駆動輪である左右後輪RL,RRを動かすモードである。
前記「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間の第1クラッチCL1を締結し、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪である左右後輪RL,RRを動かすモードである。
前記「走行発電モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間の第1クラッチCL1を締結し、エンジンEを動力源として駆動輪である左右後輪RL,RRを動かすと同時に、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させるモードである。
なお、第2クラッチCL2は、例えば、「モータ走行モード」から「エンジン走行モード」へとモード遷移する場合、「モータ走行モード」において停止しているエンジンEを始動するとき、滑り締結によりエンジン始動ショックを駆動輪である左右後輪RL,RRへ伝達させないために用いられる。
【0025】
図2は実施例1の統合コントローラ10にて実行されるオイルポンプ駆動制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(オイルポンプ駆動制御手段)。
【0026】
ステップS101では、エンジンEを停止し、第1クラッチCL1を開放するアイドリングストップ中であるか否かを判断し、YES(アイドリングストップ中)の場合はステップS102へ移行し、NO(非アイドリングストップ中)の場合はリターンへ移行する。
【0027】
ステップS102では、ステップS101でのアイドリングストップ中であるとの判断に続き、自動変速機ATのセレクトレバーにより選択されているレンジ位置が、走行レンジであるドライブレンジ(Dレンジ),リバースレンジ(Rレンジ)、あるいは、停車レンジであるパーキングレンジ(Pレンジ),ニュートラルレンジ(Nレンジ)かを判断し、走行レンジ(Dレンジ,Rレンジ)の場合にはステップS103へ移行し、停車レンジ(Pレンジ,Nレンジ)の場合にはステップS105へ移行する。
【0028】
ステップS103では、ステップS102での走行レンジ(Dレンジ,Rレンジ)の選択時であるとの判断に続き、ブレーキ操作時か否かを判断し、YES(ブレーキ操作時)にはステップS106へ移行し、NO(ブレーキ解除時)にはステップS104へ移行する。
【0029】
ステップS104では、ステップS103でのブレーキ解除時であるとの判断に続き、アクセル操作時であるか否かを判断し、YES(アクセル操作時)にはステップS108へ移行し、NO(アクセル足離し時)にはステップS110へ移行する。
【0030】
ステップS105では、アイドリングストップ中で(ステップS101)、かつ、P,Nレンジ選択中である(ステップS102)との判断に続き、モータジェネレータMGの回転数をアイドル回転数NMG1とし、リターンへ移行する。
【0031】
ステップS106では、アイドリングストップ中で(ステップS101)、かつ、D,Rレンジ選択中で(ステップS102)、かつ、ブレーキONである(ステップS103)との判断に続き、第2クラッチCL2をスリップ制御用油圧P1とし、ステップS107へ移行する。
【0032】
ステップS107では、ステップS106での第2クラッチCL2のスリップ締結制御に続き、モータジェネレータMGの回転数をアイドル回転数NMG1とし、リターンへ移行する。
【0033】
ステップS108では、アイドリングストップ中で(ステップS101)、かつ、D,Rレンジ選択中で(ステップS102)、かつ、ブレーキOFFで(ステップS103)、かつ、アクセルOFFである(ステップS104)との判断に続き、第2クラッチCL2をスリップ制御用油圧P1とし、ステップS109へ移行する。
【0034】
ステップS109では、ステップS108での第2クラッチCL2のスリップ締結制御に続き、モータジェネレータMGの回転数をアイドル回転数NMG1とし、リターンへ移行する。
【0035】
ステップS110では、アイドリングストップ中で(ステップS101)、かつ、D,Rレンジ選択中で(ステップS102)、かつ、ブレーキOFFで(ステップS103)、かつ、アクセルONである(ステップS104)との判断に続き、第2クラッチCL2をスリップが発生しない締結油圧とし、ステップS111へ移行する。
【0036】
ステップS111では、ステップS110での第2クラッチCL2の締結制御に続き、モータジェネレータMGの回転数をアクセル開度に応じた回転数とし、リターンへ移行する。」

エ 「【0041】
[オイルポンプ駆動制御作用]
これに対し、実施例1では、ハイブリッド車両にエンジンEと共に搭載されているモータジェネレータMGを有効利用し、モータジェネレータMGの持つ既存の機能(駆動モータ機能・発電ジェネレータ機能・エンジンスタータモータ機能)に加え、メカオイルポンプO/Pを駆動させるポンプモータ機能を持たせ、アイドリングストップ中においても第2クラッチCL2を有する自動変速機ATを制御する油圧を確保できるようにした。
(中略)
【0046】
そして、アイドルストップ中であり、D,Rレンジ選択時で、かつ、ブレーキOFF時であり、アクセルがONとされると、図2のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104→ステップS110→ステップS111へと進み、ステップS110では、第2クラッチCL2をスリップすることなく締結させる制御が実行され、ステップS111では、モータジェネレータMGの回転数がアクセル開度に応じた回転数とされる。」

オ 「【0047】
次に、実施例1におけるオイルポンプ駆動制御作用を、図3の各走行シーンでの油圧発生状態を示すタイムチャートに基づいて説明する。
図3は車両停止→発進→一定走行→減速→停止→急発進を行った場合を示しており、(a)はメカオイルポンプO/Pの発生油圧、(b)はブレーキ踏み込み量、(c)はアクセル踏み込み量、(d)はモータジェネレータMGの回転数、(e)は第1クラッチCL1のトルク容量、(f)は第2クラッチCL2のトルク容量、(g)は本車両の車速をあらわす。
【0048】
まず、充分に暖機が行われ、アイドリングストップしている時刻t0から時刻t1においては、図3のイに示すように、車両停止中もモータジェネレータMGはアイドリング相当の回転を保持する。これによって、図3のアに示すように、自動変速機AT内の第2クラッチCL2を含むクラッチ・ブレーキの作動油圧を確保することができる。
【0049】
そして、時刻t0と時刻t1の途中で、例えば、PレンジからDレンジにシフトされた場合は、第2クラッチCL2をスリップ制御によりクリープ可能な締結容量とし、これをアクセルが踏み込み開始時刻t3まで維持する。これによって、図3のウに示すように、時刻t1にてブレーキ解除が開始され、時刻t2にてブレーキが完全に解除されると、時刻t2の直前から車両は動きだし、アクセルの踏み込み開始時刻t3までクリープ車速が保たれる。
【0050】
そして、時刻t3から時刻t4までアクセル踏み込み量を増し、時刻t4から時刻t6までアクセル踏み込み量を維持し、時刻t6からアクセルを足離し操作を開始し、時刻t7にてアクセル全閉とする。そして、時刻t8からブレーキ操作を開始し、時刻t9から時刻t11までブレーキ踏み込み量を一定とする。このアクセル操作及びブレーキ操作により、時刻t3から時刻t5まで車両は加速し、時刻t5から時刻t7まで一定走行を維持し、時刻t7から緩減速に入り、時刻t8から急減速となって時刻t10にて車両が停止する。
【0051】
そして、時刻t9から時刻t10までの途中において、車両停止寸前(クリープ車速程度)まで車速が減少すると、図3のエに示すように、再度、第2クラッチCL2の締結容量を下げるスリップ制御を行い、クリープトルクを確保する。また、時刻t10から時刻t11までの車両停止中は、図3のア,イに示すように、モータジェネレータMGによりアイドリング相当の回転を保持することで、自動変速機AT内の第2クラッチCL2を含むクラッチ・ブレーキの作動油圧を確保する。
【0052】
さらに、D,Rレンジでブレーキを踏み込んでの停車中である時刻t10から時刻t11までにおいては、その途中の時点で、図3のオに示すように、第2クラッチCL2の締結容量をさらに下げ、時刻t11から時刻t12の途中の時点でブレーキ踏み込み量の減少を検知して第2クラッチCL2を締結容量を元に戻す再締結させる。これにより、第2クラッチCL2の発熱・摩耗を防ぐことができる。
【0053】
そして、時刻t11からブレーキ解放を開始し、時刻t12にてブレーキが完全に開放されると、図3のウに示すように、時刻t12の直前から車両は動きだし、アクセルの急踏み開始時刻t13までクリープ車速が保たれる。
【0054】
次に、時刻t13にて急発進要求に基づきアクセル急踏みを開始し、時刻t14にてアクセル踏み込み量を最大とし、時刻t15まで車両を加速させる急発進時には、図3のカに示すように、第1クラッチCL1のトルク容量を、時刻t13から時刻t14まで所定の勾配にて高めて保持する制御を行うことで、モータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動する。この時のショックを左右後輪RL,RRに伝達させないように、第2クラッチCL2はスリップ制御を維持する。
なお、第1クラッチCL1のトルク容量は、時刻t13から時刻t14まで所定の勾配にて高めて保持した後、完全締結となるトルク容量まで高め、第2クラッチCL2のトルク容量は、第1クラッチCL1のトルク容量が完全締結レベルのトルク容量となった時点になるとスリップ制御から完全締結へと移行する。」

カ 「【0061】
(5) 前記オイルポンプ駆動制御手段は、車両停止中でモータアイドリング中に急発進を要求されたときは、前記メカオイルポンプO/Pを駆動している前記モータジェネレータMGにより前記エンジンEを始動するため、急発進要求時にモータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動させることができる。
このように、急発進時にモータイナーシャを利用することで、モータジェネレータMGも含めた完全停止状態からの急発進よりも素早くエンジンEを始動させることが可能で、従来車に近い、或いは、相当短い発進時間が確保できると見込まれる。」

キ 「【0121】
実施例1?4では、図1に示すように、第2クラッチCL2として自動変速機ATに使われているクラッチを流用する例を示したが、図10に示すように、自動変速機ATと駆動輪との間のプロペラシャフトPS等のトルク伝達経路に、別途、新たな第2クラッチCL2を設定するようにしても良い。要するに、第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと駆動輪との間の動力伝達経路の何れかの位置に配置されていれば良い。」

ク 上記段落【0001】の「本発明は、エンジン、第1クラッチ、モータジェネレータ、第2クラッチ、駆動輪の順に接続してハイブリッド駆動系を構成したハイブリッド車両のオイルポンプ駆動制御装置に関する。」という記載、段落【0008】の「実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、モータジェネレータMGと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、メカオイルポンプO/P(オイルポンプ)と、を有する。」という記載、及び段落【0015】の「次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いに情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。」という記載から、引用文献1には、駆動系にエンジンEとモータジェネレータMGを備えたハイブリッド車両の制御装置が記載されているといえる。

ケ 上記段落【0008】の「実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、モータジェネレータMGと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、メカオイルポンプO/P(オイルポンプ)と、を有する。」という記載、上記段落【0013】の「前記自動変速機ATは、例えば、前進5速後退1速や前進6速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの変速要素として設けられている複数の摩擦締結要素のうち、各変速段の動力伝達経路に存在する摩擦締結要素を流用している。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。」という記載、上記段落【0014】の「前記メカオイルポンプO/Pは、前記モータジェネレータMGと第2クラッチCL2との間に配置したもので、前記エンジンEと前記モータジェネレータMGの少なくとも一方をポンプ動力源として吐出圧を発生する内接ギヤ式ポンプや外接ギヤ式ポンプやベーンポンプ等が採用される。このメカオイルポンプO/Pは、モータジェネレータMGの回転軸、即ち、トランスミッションインプットシャフトの回転を受け、油圧を発生することができる構成となっており、第1クラッチCL1を締結させてエンジンEにより駆動することも、第1クラッチCL1を開放してモータジェネレータMGにより駆動することも可能である。そして、メカオイルポンプO/Pはハイブリッド駆動システムにおけるただ1つの油圧源であり、メカオイルポンプO/Pからの吐出油は、前記第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8に供給される。」という記載及び図1の記載から、引用文献1には、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に自動変速機ATを介装し、モータジェネレータMGにより駆動され、前記自動変速機ATの油圧源になるメカオイルポンプO/Pを設けたことが記載されているといえる。

コ 上記段落【0047】の「次に、実施例1におけるオイルポンプ駆動制御作用を、図3の各走行シーンでの油圧発生状態を示すタイムチャートに基づいて説明する。図3は車両停止→発進→一定走行→減速→停止→急発進を行った場合を示しており、(a)はメカオイルポンプO/Pの発生油圧、(b)はブレーキ踏み込み量、(c)はアクセル踏み込み量、(d)はモータジェネレータMGの回転数、(e)は第1クラッチCL1のトルク容量、(f)は第2クラッチCL2のトルク容量、(g)は本車両の車速をあらわす。」という記載、段落【0048】の「まず、充分に暖機が行われ、アイドリングストップしている時刻t0から時刻t1においては、図3のイに示すように、車両停止中もモータジェネレータMGはアイドリング相当の回転を保持する。これによって、図3のアに示すように、自動変速機AT内の第2クラッチCL2を含むクラッチ・ブレーキの作動油圧を確保することができる。」という記載、段落【0054】の「次に、時刻t13にて急発進要求に基づきアクセル急踏みを開始し、時刻t14にてアクセル踏み込み量を最大とし、時刻t15まで車両を加速させる急発進時には、図3のカに示すように、第1クラッチCL1のトルク容量を、時刻t13から時刻t14まで所定の勾配にて高めて保持する制御を行うことで、モータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動する。この時のショックを左右後輪RL,RRに伝達させないように、第2クラッチCL2はスリップ制御を維持する。」、及び上記段落【0061】の「前記オイルポンプ駆動制御手段は、車両停止中でモータアイドリング中に急発進を要求されたときは、前記メカオイルポンプO/Pを駆動している前記モータジェネレータMGにより前記エンジンEを始動するため、急発進要求時にモータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動させることができる。」という記載、及び図3の記載から、引用文献1には、モータジェネレータMGを駆動源とするモータ走行モードにてエンジン始動要求があると、モータジェネレータMGを用いた始動を用いて前記エンジンを始動するエンジン始動制御手段と、ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求を判定する急発進要求判定手段と、を設け、エンジン始動制御手段は、車両停止中でモータアイドリング中に、ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求有りと判定された場合、モータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動させることが記載されている。

(2)引用発明
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

〔引用発明〕
「駆動系にエンジンEとモータジェネレータMGを備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に自動変速機ATを介装し、
前記モータジェネレータMGにより駆動され、前記自動変速機ATの油圧源になるメカオイルポンプO/Pを設け、
前記モータジェネレータMGを駆動源とするモータ走行モードにてエンジン始動要求があると、前記モータジェネレータMGを用いた始動を用いて前記エンジンを始動するエンジン始動制御手段と、
ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求かどうかを判定する急発進要求判定手段と、を設け、
前記エンジン始動制御手段は、車両停止中でモータアイドリング中に、ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求有りと判定された場合、モータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動させるハイブリッド車両の制御装置。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開2004-339943号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの始動技術に関し、特に、駆動力源としてエンジンとモータを用いる車両におけるエンジンの始動制御技術に関する。
【0002】
【従来技術】
車両の駆動力源としてエンジンとモータジェネレータの両方を切り換えて、または併せて使用するハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、所定条件のもと、走行中にエンジンを停止しモータジェネレータで駆動したり、必要に応じて、エンジンを再度始動させたりすることで、駆動性能を確保しつつ燃料消費率の向上を図っている。ハイブリッド車両におけるエンジンの始動は、エンジンに付設されたスタータにより行われたり、モータジェネレータがスタータの代替機能を果したりする。
【0003】
ところで、ハイブリッド車両におけるエンジンの始動において、エンジンを始動することに伴う駆動トルクの低下やそれに伴うドライバビリティの悪化を防止することを目的として、アクセルオンのとき、つまりドライバによる要求トルクが大きいときは、モータジェネレータとスタータを併用してエンジンを始動し、アクセルオフのとき、つまりドライバによる要求トルクが小さいときは、モータジェネレータのみでエンジンを始動する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2000-145496号公報(全文)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1で示されている技術では、アクセルオン、つまり要求されているトルクが大きい場合、エンジン始動のためにモータジェネレータが使用されるため、つまり車両の駆動力以外に駆動用のバッテリが使用されるため、ときとして駆動トルクが不足し、ユーザが望む加速が得られないという課題があった。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、ハイブリッド車両において、エンジン始動に伴うトルク低下の発生を抑制するエンジン始動技術を提供することにある。」

イ 「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のある態様は、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置に関する。このエンジン始動制御装置は、車両の駆動力源としての機能と第1の電源を利用してエンジンを始動する機能とを備えたモータと、第1の電源とは別の第2の電源を利用してエンジンを始動する機能を備えたスタータとを有するハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、エンジンの始動要求が有ったとき、当該車両に対する要求トルクを判定する要求トルク判定手段と、要求トルクが所定値以下と判定された場合、エンジンの始動手段としてモータのみを選択し、要求トルクが所定値より大きいと判定された場合、エンジンの始動手段としてスタータのみを選択する始動装置決定手段と、を備える。また、スタータは、ベルトを介してエンジンを始動してもよい。
【0008】
一般に、エンジンの始動は、運転者によりアクセルが踏まれ加速要求があったときや、モータの電源である電池の充電状態が低下したときなどに要求される。エンジンの始動が必要となったとき、要求トルクがそれほど大きくない場合は、モータの駆動力を利用してエンジンを始動しても、加速性に影響はでない。スタータによるエンジン始動は、モータによるエンジン始動と比較して、騒音や振動が発生しやすい傾向にある。そこで、例えば、あまり加速を要求されない場合などは、モータを利用してエンジンを始動してもよい。
【0009】
また要求トルクが大きい場合は、一般に、静寂性に対する要求は少なく、また、エンジン始動以外の要因によって、騒音や振動が発生することがあるので、運転者が望む加速を実現するために、スタータによるエンジン始動を行う。これによって、モータは、駆動力以外にエネルギを使用することがないので、運転者が違和感を覚えるようなトルクの低下を防止できる。
【0010】
本発明の別の態様も、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置に関する。このエンジン始動制御装置は、車両の駆動力源としてエンジンとモータの両方を切り換えて、または併せて使用するハイブリッド車両において、モータが利用する電力を供給する第1の電源と、当該車両の駆動力以外に利用される電力を供給する第2の電源と、エンジンの始動要求が有ったとき、当該車両に対する要求トルクを判定する要求トルク判定手段と、エンジンの始動に利用する電源として、要求トルクが所定値以下と判定された場合、第1の電源のみを選択し、要求トルクが所定値より大きいと判定された場合、第2の電源のみを選択する始動電源決定手段と、を備える。
【0011】
また、第1の電源の温度を検出する温度検出手段を更に有してもよく、始動電源決定手段は、エンジンの始動手段を選択する際に第1の電源の温度を反映させてもよい。電源の種類によっては、出力可能な電力が温度によって変化することがある。例えば、電池などは、温度が極端に低下すると、出力が低下する。そこで、第1の電源の温度を、エンジンの始動手段の選定に反映させることで、不必要なトルク低下を招くことなく、エンジン始動が実現できる。
【0012】
本発明の別の態様は、ハイブリッド車両のエンジン始動制御方法に関する。このエンジン始動制御方法は、車両の駆動力源としてエンジンとモータの両方を切り換えて、または併せて利用するハイブリッド車両において、エンジンを始動する際の電源として、要求トルクが所定値以下の場合には、モータに対する駆動力を供給する第1の電源のみを利用し、要求トルクが所定値より大きい場合には、当該車両の駆動力以外に利用される電力を供給する第2の電源のみを利用する。これにより、駆動力に利用されている電力が駆動力以外に利用されることがないので、エンジン始動によるトルク低下を抑制できる。
【0013】
本発明の別の態様も、ハイブリッド車両のエンジン始動制御方法に関する。このエンジン始動制御方法は、車両の駆動力源としてエンジンとモータの両方を切り換えて、または併せて使用するハイブリッド車両において、エンジンを始動する際に、エンジン始動の電源として、要求トルクが大きい場合には、エンジン始動要求があった時点における車両走行に寄与しない電源を用いる。」

ウ 「【0014】
【発明の実施の形態】
本実施の形態のエンジン始動制御では、車両がモータ駆動による走行中に、エンジンを始動させる必要が生じた際、エンジン始動のためにモータジェネレータ駆動のための高電圧系バッテリを利用するか、補機用の低電圧系バッテリを利用するかを、運転者が要求するトルクに応じて選定する。より具体的には、要求トルクが大きい場合は、補機用の低電圧系バッテリを電源とするスタータがエンジンを始動し、要求トルクがそれほど大きくない場合は、高電圧系バッテリを電源とするモータジェネレータが、その駆動力の一部を振り分けてエンジンを駆動する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るハイブリッド車両のハイブリッドシステム90の構成を示す。ハイブリッドシステム90は、内燃機関であるエンジン10と、モータ及びジェネレータの機能を有するモータジェネレータ22と、車両駆動に利用する電力を供給及び回収するHVバッテリ42と、HVバッテリ42の直流とモータジェネレータ22の交流との変換を行うインバータ24と、エンジン10の始動機能を有するスタータ12と、車両駆動以外に利用する電力を供給および回収する補機用バッテリ44と、ハイブリッドシステム90を制御するハイブリッドシステム制御部30とを備える。
【0016】
スタータ12は、エンジン10とVベルト14で連結されており、補機用バッテリ44を利用し回転することで、Vベルト14を介してエンジン10を始動する。補機用バッテリ44の定格電圧は、例えば、12Vに設定される。なお、エンジン10が駆動中は、スタータ12は、ジェネレータとして機能し、発電した電力は補機用バッテリ44によって回収される。補機用バッテリ44の電力供給対象として、スタータ12、図示しない照明やオーディオ機器、エアコン用コンプレッサなどがある。
【0017】
モータジェネレータ22は、モータとして機能するときは、HVバッテリ42から電力の供給を受けて、発生させたトルクを駆動力として車輪に伝達し車両を走行させるとともに、車両の減速時もしくは制動時には、ジェネレータとして機能し、回生動力を発生する。モータジェネレータ22は、例えば、三相交流同期型である。モータジェネレータ22において発生するトルクは、モータジェネレータ22に供給される電流の大きさにほぼ比例し、モータジェネレータ22の回転数は、交流電流の周波数によって制御される。モータジェネレータ22をモータとして機能させる場合は、例えば、そのトルクを10Nm?110Nmの範囲で制御することができる。なお、モータジェネレータ22とエンジン10は、必要に応じて図示しない電磁クラッチなどを含む動力切替機構によって接続および切り離しがなされる。」

エ 「【0023】
図2は、本実施の形態に係るハイブリッド車両のエンジン10の始動制御の処理を示すフローチャートである。この処理は、車両がモータジェネレータ22のみの駆動力で走行している場合に、エンジン10の始動要求が発生した際に起動する。エンジン10の始動要求の有無は、ハイブリッドシステム制御部30によって、運転者の要求トルクや、HVバッテリ42の充電状態に応じて判定される。
【0024】
この処理が起動すると、まず、ハイブリッドECU34は、要求トルクTdを取得する(S10)。なお、要求トルクTdは、ハイブリッドECU34の別のプロセスにおいて、アクセルポジションセンサ54やシフトポジションセンサ56の出力に基づいて算出される。つづいて、ハイブリッドECU34は、エンジン始動をスタータ12またはモータジェネレータ22のいずれを使用して行うかを判断する基準である判定基準トルクTrを決定する(S12)。この判定基準トルクTrの決定は、所定のマップを参照してなされる。
【0025】
図3は、判定基準トルクTrを決定する際に参照するマップであり、判定基準トルクTrが車速Vと要求トルクTdとの関係で示されている。以下、このマップを単に「速度基準マップ」ともいう。判定基準トルクTrは、車速Vに応じて設定されており、車速Vが大きくなるに従って、判定基準トルクTrが小さくなる。この速度基準マップは、ハイブリッドECU34が備える不図示のROMに保持される。
【0026】
図2に戻り、ハイブリッドECU34は、要求トルクTdと判定基準トルクTrを比較する(S14)。要求トルクTdが判定基準トルクTr以下の領域Aに含まれると判定された場合(S14のN)、ハイブリッドECU34は、モータジェネレータ22を使用してエンジン10の始動を行う(S16)。要求トルクTdが判定基準トルクTrより大きい領域Bに含まれると判定された場合(S14のY)、ハイブリッドECU34は、エンジンECU32に対して、スタータ12によるエンジン始動要求及びエンジン出力の要求値を通知し、エンジンECU32はその通知を受けてスタータ12を使用してエンジン10を始動する(S18)。エンジン10の始動が終了すると、このエンジン10の始動制御の処理は終了する。」

オ 上記イの段落【0007】の「このエンジン始動制御装置は、車両の駆動力源としての機能と第1の電源を利用してエンジンを始動する機能とを備えたモータと、第1の電源とは別の第2の電源を利用してエンジンを始動する機能を備えたスタータとを有するハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、エンジンの始動要求が有ったとき、当該車両に対する要求トルクを判定する要求トルク判定手段と、要求トルクが所定値以下と判定された場合、エンジンの始動手段としてモータのみを選択し、要求トルクが所定値より大きいと判定された場合、エンジンの始動手段としてスタータのみを選択する始動装置決定手段と、を備える。」という記載、段落【0015】の「ハイブリッドシステム90は、内燃機関であるエンジン10と、モータ及びジェネレータの機能を有するモータジェネレータ22と、車両駆動に利用する電力を供給及び回収するHVバッテリ42と、HVバッテリ42の直流とモータジェネレータ22の交流との変換を行うインバータ24と、エンジン10の始動機能を有するスタータ12と、車両駆動以外に利用する電力を供給および回収する補機用バッテリ44と、ハイブリッドシステム90を制御するハイブリッドシステム制御部30とを備える。」という記載、段落【0016】の「スタータ12は、エンジン10とVベルト14で連結されており、補機用バッテリ44を利用し回転することで、Vベルト14を介してエンジン10を始動する。」という記載、段落【0017】の「モータジェネレータ22は、モータとして機能するときは、HVバッテリ42から電力の供給を受けて、発生させたトルクを駆動力として車輪に伝達し車両を走行させるとともに、車両の減速時もしくは制動時には、ジェネレータとして機能し、回生動力を発生する。」という記載から、引用文献2には、駆動系にスタータ12とエンジン10とモータジェネレータ22を備えたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、運転者の要求トルクに応じて、要求トルクが大きい場合にはスタータ12によるエンジン始動を選択し、要求トルクが大きくない場合にはモータジェネレータ22によるエンジン始動を選択するエンジン始動制御装置が記載されているといえる。

カ 上記エの段落【0024】の「要求トルクTdは、ハイブリッドECU34の別のプロセスにおいて、アクセルポジションセンサ54やシフトポジションセンサ56の出力に基づいて算出される。」という記載から、要求トルクTdは、アクセルポジションセンサ54やシフトポジションセンサ56の出力に基づいて算出されることが分かる。

キ 上記イの段落【0009】の「また要求トルクが大きい場合は、一般に、静寂性に対する要求は少なく、また、エンジン始動以外の要因によって、騒音や振動が発生することがあるので、運転者が望む加速を実現するために、スタータによるエンジン始動を行う。これによって、モータは、駆動力以外にエネルギを使用することがないので、運転者が違和感を覚えるようなトルクの低下を防止できる。」という記載から、要求トルクが大きい場合には、スタータによるエンジン始動を行い、これにより、モータとして機能するモータジェネレータ22は、駆動力以外にエネルギを使用することがないので、モータとして機能するモータジェネレータ22のトルクの低下を防止できることが分かる。

ク 上記イの段落【0012】の「要求トルクが所定値より大きい場合には、当該車両の駆動力以外に利用される電力を供給する第2の電源のみを利用する。これにより、駆動力に利用されている電力が駆動力以外に利用されることがないので、エンジン始動によるトルク低下を抑制できる。」という記載から、要求トルクが所定値より大きい場合には、当該車両の駆動力以外に利用される電力を供給する第2の電源のみを利用し、これにより、駆動力に利用されている電力が駆動力以外に利用されることがないので、エンジン始動によるモータジェネレータ22のトルク低下を抑制できることが分かる。

(2)引用文献2記載事項
上記(1)の記載及び図面の記載を総合すると、引用文献2には以下の事項が記載されていると認める。

〔引用文献2記載事項1〕
「駆動系にスタータ12とエンジン10とモータジェネレータ22を備えたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、
運転者の要求トルクに応じて、要求トルクが大きい場合にはスタータ12によるエンジン始動を選択し、要求トルクが大きくない場合にはモータジェネレータ22によるエンジン始動を選択するエンジン始動制御装置」

〔引用文献2記載事項2〕
「要求トルクが所定値よりも大きい場合に、駆動力に利用されている電力が駆動力以外に利用されることがなく、モータとして機能するモータジェネレータ22は、駆動力以外にエネルギを使用することがないので、エンジン始動によるモータジェネレータ22のトルク低下を抑制できること。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジンE」は本願発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「モータジェネレータMG」は「走行用モータ」に、「左右後輪RL,RR」は「駆動輪」に、「自動変速機AT」は「変速機」に、「メカオイルポンプO/P」は「オイルポンプ」に、「モータ走行モード」は「EVモード」に、「モータジェネレータMGを用いた始動」は「走行用モータを用いた強電始動」に、「急発進要求かどうか」は「加速意図の有無」に、「急発進要求判定手段」は「加速意図判定手段」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「前記モータジェネレータMGを用いた始動を用いて前記エンジンを始動する」ことは、「前記走行用モータを用いた強電始動を用いて前記エンジンを始動する」という限りにおいて、本願発明の「前記走行用モータを用いた強電始動と、前記スタータモータを用いたスタータ始動と、のいずれかを用いて前記エンジンを始動する」に一致する。
また、引用発明の「前記エンジン始動制御手段は、車両停止中でモータアイドリング中に、ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求有りと判定された場合、モータジェネレータMGのイナーシャを利用してエンジンEを素早く始動させる」ことは、「前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合、所定の始動を実行する」という限りにおいて、本願発明の「前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合、前記変速機を変速することなく、前記スタータ始動を実行する」に一致する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「駆動系にエンジンと走行用モータを備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記走行用モータと駆動輪との間に変速機を介装し、
前記走行用モータにより駆動され、前記変速機の油圧源になるオイルポンプを設け、
前記走行用モータを駆動源とするEVモードにてエンジン始動要求があると、前記走行用モータを用いた強電始動を用いて前記エンジンを始動するエンジン始動制御手段と、
ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図の有無を判定する加速意図判定手段と、を設け、
前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合、所定の始動を実行するハイブリッド車両の制御装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明は、駆動系に「スタータモータ」を備え、前記走行用モータを駆動源とするEVモードにてエンジン始動要求があると、前記走行用モータを用いた強電始動「と、前記スタータモータを用いたスタータ始動と、のいずれか」を用いて前記エンジンを始動するのに対し、引用発明は、駆動系にスタータモータを備えるか否か明らかでなく、前記モータジェネレータMGを駆動源とするモータ走行モードにてエンジン始動要求があると、「前記モータジェネレータMGを用いた始動」を用いて前記エンジンを始動する点。

〔相違点2〕
本願発明は、「前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合、前記変速機を変速することなく、前記スタータ始動を実行する」のに対し、引用発明は、前記エンジン始動制御手段は、車両停止中「でモータアイドリング中」に、ドライバのアクセル急踏みにより急発進要求有りと判定された場合、「モータジェネレータMGのイナーシャを利用して」エンジンEを「素早く」始動させる点。

上記相違点について判断する。
(1)相違点1について
ハイブリッド車両において、スタータモータを備え、走行用モータを用いた強電始動と、スタータモータを用いたスタータ始動と、のいずれかを用いてエンジンを始動することは、本願出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、引用文献2の段落【0002】の「ハイブリッド車両におけるエンジンの始動は、エンジンに付設されたスタータにより行われたり、モータジェネレータがスタータの代替機能を果したりする。」という記載を参照。)である。
したがって、引用発明において、周知技術を適用することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
引用文献2には、「駆動系にスタータ12とエンジン10とモータジェネレータ22を備えたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、運転者の要求トルクに応じて、要求トルクが大きい場合にはスタータ12によるエンジン始動を選択し、要求トルクが大きくない場合にはモータジェネレータ22によるエンジン始動を選択するエンジン始動制御装置。」(上記「引用文献2記載事項1」)が記載されている。ここで、「要求トルクが大きい場合」が、本願発明の「加速意図有り」に相当することは明らかである。
そうすると、引用発明において、引用文献2記載事項1を参照することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のうち「前記エンジン始動制御手段は、車速ゼロからの発進時、ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図有りと判定された場合」、「前記スタータ始動を実行する」ようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。
次に、引用文献1及び2には、「前記変速機を変速することなく」始動することについて明記されてはいないが、ハイブリッド車両において、エンジン始動よりも前に変速機は発進のための制御を行い、エンジン始動の際には変速機を変速しないことは、技術常識である。それに加え、引用文献2には、「要求トルクが所定値よりも大きい場合に、駆動力に利用されている電力が駆動力以外に利用されることがなく、モータとして機能するモータジェネレータ22は、駆動力以外にエネルギを使用することがないので、エンジン始動によるモータジェネレータ22のトルク低下を抑制できること。」(上記「引用文献2記載事項2」)が記載されており、このことから、エンジン始動時に変速機の変速にエネルギを使用することなく、エンジンの始動を行うことは、自明であるといえる。
したがって、引用発明において、引用文献2記載事項1及び引用文献2記載事項2を参照することにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術、引用文献2記載事項1及び引用文献2記載事項2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術、引用文献2記載事項1及び引用文献2記載事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

なお、請求人は、審判請求書(3.(3)(B)(d))において、引用文献1の「急踏み」と引用文献2の「要求トルクの大小」は異なるものである旨主張している。
本願の請求項1には「ドライバのアクセル踏み込み操作速度により加速意図の有無を判定する」と記載されているが、本願の明細書(例えば段落【0078】)を参照すると、本願発明の実施例においては、急加速判定に「アクセル開度」及び「踏込速度」の両方を用いている。
引用文献1の段落【0054】には、「時刻t13にて急発進要求に基づきアクセル急踏みを開始し、時刻t14にてアクセル踏み込み量を最大とし、時刻t15まで車両を加速させる急発進時」と記載され、「アクセル急踏み」と「アクセル踏み込み量」について記載されている。
他方、引用文献2記載事項1の「要求トルク」に関して、引用文献2の段落【0024】には、「要求トルクTdは、ハイブリッドECU34の別のプロセスにおいて、アクセルポジションセンサ54やシフトポジションセンサ56の出力に基づいて算出される。」と記載されている。そして、アクセルポジションセンサ54の出力としては、アクセルポジション(「アクセル踏み込み量」に対応する)及びアクセルポジションの変化速度(「アクセル急踏み」又は「アクセル踏み込み操作速度」に対応する)のいずれか一方又は両方が採用できることは当業者であれば当然理解し得たことである。
してみれば、引用文献1及び2には、「アクセル踏み込み量」と「アクセル踏み込み操作速度」を使用することが記載又は示唆されているといえるから、引用発明において引用文献2記載事項1を参照する際に、「アクセル踏み込み速度」、又は「アクセル踏み込み量」及び「アクセル踏み込み操作速度」を検出するようにすることは、当業者が容易に想到できることである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2018-12-27 
結審通知日 2019-01-08 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願2013-250583(P2013-250583)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼木 真顕  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 粟倉 裕二
金澤 俊郎
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  

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