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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W |
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管理番号 | 1349631 |
審判番号 | 不服2017-8083 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-06 |
確定日 | 2019-03-06 |
事件の表示 | 特願2015-539553「WIFI伝送リンク上での同期パケットの分散」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日国際公開、WO2014/070056、平成28年 2月12日国内公表、特表2016-504782〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)10月31日を国際出願日とする出願であって、平成28年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月26日付けで拒絶査定がされたところ、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年6月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「伝送リンクインターフェイスにおけるベアラとしてWIFI技術を使用するデータ通信システムおよびネットワークのリンク層における適正かつ正確なパケットベースの同期を確実にし、WIFI伝送リンクインターフェイス上の1つのアクセスポイントから別のアクセスポイントへ同期パケットを分散する方法であって、前記アクセスポイントは、前記方法を実施するように構成された装置によって、様々な符号化および変調方式を用いて前記伝送リンクインターフェイスの動的伝送レート適応を提供し、 受信した同期パケットそれぞれを識別すること(S110)と、 所定の同期パケット送信規則に従って前記受信した同期パケットの伝送レートを設定すること(S120)と、 遅延なくまたは最短の利用可能な遅延で定められるチャネルアクセス優先度クラスに前記同期パケットを分類すること(S122)と、 遅延をもたらさないまたは最短の利用可能な遅延をもたらす前記チャネルアクセス優先度クラスに分類されるデータパケットおよびフレームに対するキューに各同期パケットを誘導かつ転送すること(S122b)とを含み、 前記キューは同期パケットのみに提供される、方法。」 なお、請求人は、審判請求の理由において「独立請求項である請求項1及び11の補正は、前述の通り、補正前の従属請求項の記載に基づく特許請求の範囲の減縮補正に相当します。」と述べているが、本件補正により請求項1に新たに追加された事項は、方法の発明として補正前の請求項1に存在しなかった発明特定事項であって、既存の発明特定事項を更に限定するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限縮(限定的限縮)を目的とするものとはいえない。そして、請求項1についての補正は、本件補正前の請求項6?8を引用する請求項9を独立請求項として本件補正後の請求項1としたものと解するのが相当である。 第3 引用発明及び周知技術 1 引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2012/086372号(2012年(平成24年)6月28日国際公開。以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。([当審注]:下線は、強調のために当審が付与した。) (1)「 技術分野 [0001] 本発明は、通信路を介してクロック同期を行うための技術に関する。 背景技術 [0002] 現在、パケット網を使ってクロック同期を行う技術(特許文献1参照)として、IEEE 1588v2(アイトリプルイー・イチ・ゴー・ハチ・ハチ・バージョンツー)のような国際規格が制定されている。IEEE 1588v2では、クロックの周波数の同期をとるだけでなく、時刻やクロックの位相を合わせることが可能である。IEEE 1588v2では、クロックのマスタ装置と、マスタ装置に同期したいスレイブ装置とが設けられる。マスタ装置とスレイブ装置との間では、パケットを用いた通信により、遅延時間が測定される。この遅延時間の測定結果に基づいて、クロックの周波数の同期、時刻合わせ、クロックの位相合わせが実現される。そのため、遅延時間の誤差や揺れが、そのままスレイブ装置のクロック再生精度に影響する。 [0003] 遅延時間の誤差や揺れの原因の多くは、クロック同期用のパケットがパケット伝送装置に入力されてから出力されるまでの時間が一定にならないことである。このような時間の揺らぎは、パケット伝送装置内でのQoS(Quality of Service)制御等によって生じる。一方でIEEE 1588v2には、パケット伝送装置内の遅延時間を補正する技術が定義されている。この技術によれば、IEEE 1588v2に対応したパケット伝送装置であれば遅延時間の誤差の補正が可能である。 (中略) [0005] しかしながら、これらの補正技術はあくまでもパケット伝送装置内の遅延時間を補正することが主眼である。上述したパケット伝送装置内での遅延時間の誤差の他にも、伝送路そのものの遅延時間が変化してしまうようなケースがある。このようなケースは、IEEE 1588v2では想定されていない。なぜならば、一般的な有線の接続であれば、その伝送路の遅延時間が大きく変わることが無いためである。 [0006] 昨今、モバイルバックホールネットワークにおいてもIEEE 1588v2の技術を用いてクロック同期を行おうという要求が高まりつつある。モバイルバックホールネットワークでは、パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられることが多い。無線伝送は空間を伝送する関係で雨等の環境の影響を受け易く、最悪の場合には回線断が生じてしまう場合もある。そこで、伝送路の状況に応じて無線伝送帯域を減らして接続性を確保する技術が存在する。 [0007] このような無線伝送路の伝送帯域が減った場合、実質的にそれはパケットを伝送するため時間が長くなり、結果として伝送遅延が変化することにつながる。先に述べたとおり、IEEE 1588v2のクロック同期技術では、遅延時間の誤差がクロック精度に直接つながる。 また、パケット伝送装置内の遅延誤差を保障する技術は存在するものの、伝送路における遅延時間が変化するようなケースは想定されていない。そのため、無線伝送路における伝送帯域が変動することに応じて、変動時に一時的にクロック精度が悪化してしまうという問題があった。また、このような問題は無線伝送に限った問題ではなく、伝送帯域が変化する伝送路を用いた場合には有線伝送においても同様の問題が生じうる。 [0008] 上記事情に鑑み、本発明は、伝送帯域が変動する伝送路を介してクロック同期を精度良く行うための技術を提供することを目的としている。」(1?2ページ) (2)「[0031] 図3は、本発明の一実施形態である通信システム1のシステム構成図である。通信システム1は、PRC(Primary Reference Clock)10、クロックマスタ300、クロックスレイブ400、無線伝送装置500a、無線伝送装置500bを備える。通信システム1は、IEEE 1588v2に従って動作する。クロックマスタ300は伝送路を介して無線伝送装置500aに通信可能に接続される。クロックスレイブ400は伝送路を介して無線伝送装置500bに通信可能に接続される。無線伝送装置500aと無線伝送装置500bとは、無線伝送路を介して無線通信を行う。 [0032] PRC10は、ITU-T G.811等の標準勧告に従って設計された装置であり、正確なクロック情報を出力する。なお、PRC10として、GPS(Global Positioning System)が用いられても良い。クロックマスタ300はPRC10からクロック情報を取得する。 クロックスレイブ400は無線伝送装置500a及び無線伝送装置500bを介して、クロックマスタ300と同期パケット(制御パケット)の送受信を行う。クロックスレイブ400は、同期パケットの送受信によって、遅延時間を測定してクロック情報を再生し、クロック出力を行う。クロックマスタ300及びクロックスレイブ400は、同期パケットに含まれる装置内遅延情報(ノード内滞在時間)を元に遅延時間の補正を行う。このように、同期パケットは同期データとして用いられる。また、装置内遅延情報は遅延情報として用いられる。 [0033] 次に無線伝送装置500aについて説明する。なお、無線伝送装置500aと無線伝送装置500bとは基本的に同じ構成であるため、無線伝送装置500bについての説明は省略する。無線伝送装置500aは、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、伝送プログラムを実行する。無線伝送装置500aは、伝送プログラムの実行によって、第一受信キュー501、第一演算部502、第一送信キュー503、無線送信部504、無線受信部505、第二受信キュー506、第二演算部507、第二送信キュー508を備える装置として機能する。なお、無線伝送装置500aの各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable GateArray)等のハードウェアを用いて実現されても良い。伝送プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。伝送プログラムは、記録媒体に記録され、コンピュータによって読み出されて実行されても良い。伝送プログラムは、電気通信回線を介して送信されても良い。 [0034] 第一受信キュー501は、伝送路を介してパケットを受信する。第一受信キュー501は、受信したパケットから同期パケットを選別する。第一受信キュー501は、同期パケットを受信した場合、受信した時刻Trと同期パケットに含まれる装置内遅延情報Tdとを第一演算部502に通知する。また、第一受信キュー501は、受信したパケットを第一送信キュー503へ転送する。 (中略) [0037] 無線送信部504は、第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換し、符号化処理や変調処理を行い無線伝送路に送信する。無線送信部504は、無線伝送路の無線帯域情報BWを取得し、演算部502に通知する。このように、無線送信部504は、少なくとも伝送帯域取得部としての機能をもつ。無線帯域情報BWは、自局(自装置)から対向局(対向装置)までの無線伝送路における伝送帯域(通信速度)を表す。対向局とは、無線伝送路を介した無線通信の相手となる装置を表す。例えば、無線伝送装置500aに備えられた無線送信部504にとっては、無線伝送装置500aが自局であり、無線伝送装置500bが対向局となる。無線送信部504は、どのような方法によって無線帯域情報BWを取得しても良い。以下、無線帯域情報BWを取得する方法の一例について説明する。 [0038] 無線伝送装置500aと無線伝送装置500bとは、適応変調方式に従って無線通信を行う。無線伝送装置500a(自局)の無線送信部504は、無線伝送装置500bから変調方式について通知を受ける。そして、無線送信部504は、通知された変調方式にしたがって無線送信を行うとともに、この変調方式で送信した場合の伝送帯域(無線帯域情報BW)を算出する。 (中略) [0039] より具体的に上記処理について説明する。無線伝送装置500b(対向局)の無線受信部505は、受信した信号の受信強度や復号化処理の結果等に基づいて、無線伝送装置500aから無線伝送装置500bへの無線伝送路における伝送路の状態を表す情報を取得する。無線受信部505は、取得した情報に基づいて、無線伝送装置500aの無線送信部504が用いる変調方式を決定する。無線受信部505は、決定した変調方式を表す情報を、同じ装置(無線伝送装置500b)の無線送信部504へ通知する。無線送信部504は、通知された変調方式を表す情報を、無線伝送路を介して無線伝送装置500aへ送信する。無線伝送装置500aの無線受信部505は、無線伝送装置500bから変調方式を表す情報を受信すると、この変調方式を無線送信部504へ通知する。このようにして、無線伝送装置500a(自局)の無線送信部504は、無線伝送装置500b(対向局)から変調方式について通知を受ける。」(8?11ページ) (3)「[図3] 」 上記摘記事項の記載及びこの分野における技術常識を考慮すると、次のことがいえる。 (i) 上記(1)の段落0002、0006?0008の記載によれば、パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられるモバイルバックホールネットワークにおいてIEEE 1588v2の技術を用いたクロック同期を精度よく行うことが記載されていると認められる。そして、上記(2)の段落0031、0032の記載及び上記(3)の図3によれば、無線伝送路を介して無線伝送装置500aから無線伝送装置500bへ同期パケットが送信されると認められる。 したがって、引用例には、「パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられるモバイルバックホールネットワークにおいてIEEE 1588v2の技術を用いたクロック同期を精度よく行い、無線伝送路を介して無線伝送装置500aから無線伝送装置500bへ同期パケットが送信される方法」について記載されていると認められる。 (ii) 上記(2)の段落0034には、無線伝送装置500aの第一受信キュー501が、受信したパケットから同期パケットを選別すること、受信したパケットを第一送信キュー503へ転送することが記載されている。 したがって、引用例には、「無線伝送装置500aの第一受信キュー501が、受信したパケットから同期パケットを選別し、受信したパケットを第一送信キュー503へ転送すること」が記載されていると認められる。 (iii) 上記(2)の段落0037によれば、無線伝送装置500aの無線送信部504は、第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換して符号化処理及び変調処理を行い無線伝送路に送信するところ、当該パケットに同期パケットが含まれることは明らかであり、同段落0038、0039の記載によれば、無線伝送装置500bから通知された適応変調方式にしたがって変調処理を行って無線送信を行うものである。 したがって、引用例には、「無線伝送装置500aの無線送信部504が、第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換して符号化処理及び変調処理を行うこと、ここで前記変調処理は無線伝送装置500bから通知された適応変調方式にしたがう」ことが記載されていると認められる。 以上を総合すると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (引用発明) 「パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられるモバイルバックホールネットワークにおいてIEEE 1588v2の技術を用いたクロック同期を精度よく行い、無線伝送路を介して無線伝送装置500aから無線伝送装置500bへ同期パケットが送信される方法であって、 無線伝送装置500aの第一受信キュー501が、受信したパケットから同期パケットを選別し、受信したパケットを第一送信キュー503へ転送すること、 無線伝送装置500aの無線送信部504が、第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換して符号化処理及び変調処理を行うこと、ここで前記変調処理は無線伝送装置500bから通知された適応変調方式にしたがう、を含む方法。」 2 周知技術 原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-112780号公報(平成16年4月8日出願公開。)には、以下の記載がある。([当審注]:下線は、強調のために当審が付与した。) (1)「【0007】 Network Controlは、ネットワーク環境を維持するために必要なトラフィックであり、最も高い優先度「7」で取り扱われている。遅延時間やジッタに制限があるVoiceとVideoは、Network Controlの次に高い優先度「6」、「5」で扱われる。以下、Controlled Load、Excellent Effort、Best Effort、Backgroundの順に優先度が設定され、メールやWEBアクセス等の通常のLANトラフィックはBest Effortに対応付けられている。 (中略) 【0022】 以下、本発明の1実施例について図面を参照して詳細に説明する。 図1は、本発明による無線送受信機の1実施例を示すブロック構成図である。 無線送受信機は、データ入出力部10と、本発明の主要部となるQoS制御部11と、該QoS制御部11からQoS制御された送信データを受け取るアクセス制御部12と、変復調部13、RF部14、アンテナ部15と、内部バス16および制御部20から構成される。上記変復調部13には、無線区間の状況によってデータ送信速度を可変にする適応変調方式のものが採用される。 (中略) 【0027】 図2は、QoS制御部11の詳細図を示す。 QoS制御部11は、データ入出力部10から供給される送信データを一時的に保持するためのバッファメモリ111と、優先度決定処理部(クラス分け処理部)110と、クラス別の送信キュー112-0?112-nが形成された送信バッファメモリ112と、上記送信バッファメモリ112から予めQoSを考慮して設定された順序で送信データを読み出し、信号線L11を介してアクセス制御部12に出力する読出し制御部113と、クラス分け処理部110と読出し制御部113が参照するQoS制御情報テーブル用のメモリ30とからなっている。 (中略) 【0029】 本発明では、無線区間情報伝送速度xが閾値Aよりも小さい場合、すなわち、送信データに輻輳が発生する場合にのみ、QoS制御を実行する。この場合、クラス分け処理部110は、QoS制御情報テーブルメモリ30を参照して送信データのクラスpを決定し(1113)、送信データをクラスpと対応する送信キュー112-pに格納する(1114)。1つの送信データを送信キュー112-0または112-pに格納すると、ステップ1111に戻り、次の送信データについて同様の動作を繰り返す。 (中略) 【0031】 図4は、読出し制御部113の動作(読出し制御処理1130)を示すフローチャートである。 読出し制御部113は、アクセス制御部12から信号線L12に出力されるイネーブル信号の状態から、データの送信が可能か否かを判定し(ステップ1131)、データ送信が可能な状態であれば、送信バッファメモリ112の高優先度の送信キューから順に送信データを読出し、信号線L11を介してアクセス制御部12に出力する(1132)。 (中略) 【0039】 本実施例では、送信パケットのTCP(またはUDP)ヘッダから抽出されるポート番号をクラスと対応付けるために、QoS制御情報テーブルメモリ30に、例えば、図10に示すポート番号対応のクラス分けテーブル32を用意する。クラス分けテーブル32では、TCPヘッダやUDPヘッダに適用され得るポート番号321の値と対応してクラス322の値が定義されている。 【0040】 クラス分け処理部110は、クラス決定ステップ1113において、送信データ(送信パケット)のIPヘッダからプロトコル番号433を抽出し、該プロトコル番号から適用プロトコルを判定し、適用プロトコルに応じてトランスポート層ヘッダの構造を認識して、送信元ポート番号411(または421)の値を読み出す。次に、図10に示したポート番号対応のクラス分けテーブル32から、ポート番号321が上記送信データの送信元ポート番号の値に一致するエントリを検索し、該エントリが示すクラス322の値pと対応する送信キュー112-pに送信データをキューイングする(1114)。送信元ポート番号411(または421)の値がクラス分けテーブル32に未登録の場合は、送信データをデフォルトの送信キューにキューイングする。読出し制御部113は、例えば、図14に示すクラス別帯域割当てテーブル35に従って、クラス別のキューからデータを読出すことにより、所定のQoSを実現する。」(3、5?6、8ページ) 特開2012-34224号公報(平成24年2月16日出願公開。)には、以下の記載がある。([当審注]:下線は、強調のために当審が付与した。) (2)「【0004】 そこで、新たな設備を付加することなく時刻同期が可能なIEEE1588に規格された高精度時間プロトコル(PTP:Precision Time Protocol)を用い、スレーブ端末の時刻をマスタ端末の時刻と同期させることが提案されている。 (中略) 【0007】 無線アクセス回線は、有線アクセス回線に比べて一般的に回線速度が遅いことから、中継機器にて有線アクセス回線から無線アクセス回線にパケットを中継する際には、中継機器内にて有線アクセス回線からのパケットをバッファリングし、バッファリングしたパケットを無線アクセス回線の回線速度に合わせて順次送信するようにしている。 【0008】 そのため、従来の中継機器では、データパケットの送信中に時刻同期パケットを有線アクセス回線から受信した場合、それを有線アクセス回線から無線アクセス回線に中継するまでの遅延時間が、既にバッファリングされているデータパケットの長さに応じて様々に変わってしまう。 【0009】 その結果、マスタ端末とスレーブ端末間で発生する遅延時間にばらつきが生じ正確な時刻同期が行えないと言う問題が生じる。 (中略) 【0019】 図1に示すように、マスタ端末Mとスレーブ端末Sとの間で送受信されるデータパケットの中継を行うための中継機器1は、マスタ端末Mに有線アクセス回線2aを介して接続される第1中継部1aと、第1中継部1aと無線アクセス回線3を介して接続されると共にスレーブ端末Sに有線アクセス回線2bを介して接続される第2中継部1bと、からなる。 【0020】 マスタ端末Mは、GPSや原子時計などの正確な時刻を刻む参照クロック4を有しており、この参照クロック4からの時刻がPTP回路5aを介して時刻同期パケットとしてマスタ端末M側の第1中継部1aに送られ、その時刻同期パケットが第1中継部1aからスレーブ端末S側の第2中継部1bに送信するようになっている。 (中略) 【0025】 第1中継部1aの送信部9は、時刻同期パケット検出手段11と、データパケット用キュー12と、時刻同期パケット用キュー13と、応答パケット生成手段14と、送信制御手段15と、変調器16と、送信アンテナ17とを備える。 【0026】 時刻同期パケット検出手段11は、有線アクセス回線2aから受信するパケットを監視して時刻同期パケットを検出すると共に、該検出の結果、時刻同期パケットを検出した場合には、該検出した時刻同期パケットを時刻同期パケット用キュー13に、それ以外のデータパケットを検出した場合には、該検出したデータパケットをデータパケット用キュー12に送るように制御される。具体的には、データパケット用キュー12に向かう経路と、時刻同期パケット用キュー13に向かう経路とをソフトスイッチ18によって切り替える制御を行うことで、上述の動作を実現する。」 (中略) 【0032】 この送信部9においては、データパケットと時刻同期パケットをそれぞれ別のキューにバッファリングしているため、バッファリングされている以後に送信すべきデータパケットに優先させて時刻同期パケットを割り込ませることができ、時刻同期パケットの送信タイミングをバッファリングされたデータパケットの長さに依存せずに制御できる。 (中略) 【0034】 これにより、現在送信中のデータパケットが無線アクセス回線側に送信し終わってから、時刻同期パケットを無線アクセス回線側に送信することができ、時刻同期パケットの送信タイミングを常に同じにできる。その結果、時刻同期パケットを有線アクセス回線から無線アクセス回線に送信するまでの遅延時間を常に一定にすることができる。」(3、5?7ページ) 特開2011-172135号公報(平成23年9月1日出願公開。)には、以下の、以下の記載がある。([当審注]:下線は、強調のために当審が付与した。) (3)「【0002】 次世代(3.9G)の無線基地局装置であるLTE(Long Term Evolution)に要求されるEthernet(登録商標)通信においては、よりリアルタイム性を追求した通信サービスが求められると考えられる。また、IEEE1588のようなネットワーク同期に使用されるPTP(Precise Time Protocol)パケットがあり、パケットによっては、トラフィック状況によらず、パケットのゆらぎ量をできる限り小さくすることが求められている。 【0003】 特に、ETHERパケットのトラフィックが集中する伝送路インタフェースのETHERパケット送信部においてパケットのゆらぎが発生しやすい。その理由は、トラフィックが集中するETHERパケット処理部にはトラフィック状況によっては、内部バッファに保持し送信待ちとなっているパケットがある場合がある。このような場合において、ジャンボフレームのような大きなパケットが先に出力されると、その転送の間は送信待ちのパケットは出力を待つことになり、このことが積み重なることでパケットのゆらぎが発生してしまう。 (中略) 【0008】 近年のETHERパケットは1500バイトを超えるジャンボフレームを扱う装置が多く、一般的には転送効率を高める為に9600バイトぐらいまでを扱う。このようなパケットは他の送信パケットが無い場合には、特に問題はない。しかし、ゆらぎ量を小さくしたいIEEE1588のPTPパケットのような最優先パケットが存在している場合には、優先度に応じたクラス分けで送信キューから優先的に出力を行っても、ジャンボフレームが転送状態に入った場合に、送信キューに入っても、送信中は待たされる為、この分のゆらぎが発生する。これを、図5を参照して説明する。 (中略) 【0028】 外部ETHERパケット処理部103は、図1に示したパケットスイッチ部102から転送された、他の装置に転送されるETHERパケットを優先度に応じてクラス分けするQoS分割部110と、優先度に応じてクラス分けされたパケットを格納する第1?第4のデータフレームバッファ部111-1?111-4と、優先度に応じてクラス分けされたパケットのフラグメント処理を実施する第1?第4のデータフラグメント部112-1?112-4と、外部ETHERパケット送信部105に送信する送信キューをもつ送信バッファ部113と、を含む。パケット処理パラメータ部104は、クラス分けされた第1?第4のデータフレームバッファ部111-1?111-4の監視を行い、各データフレームバッファ部の状態に応じて、クラス分けされた各データフラグメント部にフラグメントサイズを通知する。 (中略) 【0031】 このような問題に対して、本実施例では、優先度に応じてクラス分けされた各データフレームバッファ部の状態に応じて、優先度に応じてクラス分けされた各データフラグメント部におけるデータフラグメントサイズを制御する機能を持つパケット処理パラメータ部104を備える。これにより、図5(c)に示す、他のパケットがある場合の本実施例の適応フラグメントによる送信のように、最優先パケットがある場合には、優先度が低くパケット長の長いパケットがフラグメントされる。その結果、最優先パケットを、他のパケットが無い場合の送信(図5(a))と同じような送信タイミングで送信することができる為、最優先パケットのゆらぎ量を抑えることができる。一方、優先度の高いパケットが無い場合には、パケット処理パラメータ部104は各データフラグメント部におけるデータフラグメントサイズを大きくしてゆき、これにより、できるだけデータ転送効率を高める構成とすることができる。」(2?3、6ページ) 上記(1)?(3)の記載によれば、以下の事項は本願の国際出願日前に周知であったといえる。(以下、「周知技術」という。) (周知技術) 「送信パケットを優先度により分類して対応するキューに格納し、高優先度のキューから順に送信データを読み出す。」 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 (i) 引用発明の「パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられるモバイルバックホールネットワーク」は、「伝送リンクインターフェイスにおけるベアラとして無線技術を使用するデータ通信システムおよびネットワーク」といえる。 また、本願明細書の段落0003、0042によれば、本願発明はIEEE1588v2PTPを前提としていると解され、引用発明の「IEEE 1588v2の技術を用いたクロック同期を精度よく行い」は、本願発明と「リンク層における適正かつ正確なパケットベースの同期を確実にし」の点で共通する。 さらに、本願発明の「1つのアクセスポイント」及び「別のアクセスポイント」と、引用発明の「無線伝送装置500a」及び「無線伝送装置500b」とは、いずれも「1つの無線伝送装置」及び「別の無線伝送装置」といえるから、本願発明の「WIFI伝送リンクインターフェイス上の1つのアクセスポイントから別のアクセスポイントへ同期パケットを分散する」と、引用発明の「無線伝送路を介して無線伝送装置500aから無線伝送装置500bへ同期パケットが送信される」とは、「無線伝送リンクインターフェイス上の1つの無線伝送装置から別の無線伝送装置へ同期パケットを分散する」点で共通する。 そうすると、本件補正発明と引用発明とは、「伝送リンクインターフェイスにおけるベアラとして無線技術を使用するデータ通信システムおよびネットワークのリンク層における適正かつ正確なパケットベースの同期を確実にし、無線伝送リンクインターフェイス上の1つの無線伝送装置から別の無線伝送装置へ同期パケットを分散する方法」である点で共通する。 (ii) 引用発明の無線伝送装置500aの「第一受信キュー501」や「無線送信部504」は、引用発明の方法を実施するように構成された装置といえる。また、引用発明は「無線伝送装置500aの無線送信部504は、第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換して符号化処理及び変調処理を行う」ところ、「前記変調処理は無線伝送装置500bから通知された適応変調方式にしたがう」のであるから、符号化および様々な変調方式を用いて無線伝送における動的伝送レート適応を提供しているといえる。したがって、引用発明は、「前記装置は、前記方法を実施するように構成された装置によって、符号化および様々な変調方式を用いて前記伝送リンクインターフェイスの動的伝送レート適応を提供」する点で本願発明と共通する。 (iii) 引用発明の「無線伝送装置500aの第一受信キュー501が、受信したパケットから同期パケットを選別し」は、本願発明の「受信した同期パケットそれぞれを識別すること」に相当する。 (iv) 引用発明の「無線伝送装置500aの無線送信部504」は、「第一送信キュー503から受信したパケットを無線フレームに変換して符号化処理及び変調処理を行う」ものであり、当該変調処理は「無線伝送装置500bから通知された適応変調方式にしたがう」との規則に従うといえるところ、「受信したパケット」には「同期パケット」も含まれることは明らかであるから、当該規則は「所定の同期パケット送信規則」ともいえる。さらに、伝送レートは符号化処理及び変調処理により規定されることが技術常識であるから、「所定の同期パケット送信規則に従って前記受信した同期パケットの伝送レートを設定する」といえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「所定の同期パケット送信規則に従って前記受信した同期パケットの伝送レートを設定すること」の点で共通する。 (v) 本願発明の「遅延なくまたは最短の利用可能な遅延で定められるチャネルアクセス優先度クラスに前記同期パケットを分類すること(S122)と、遅延をもたらさないまたは最短の利用可能な遅延をもたらす前記チャネルアクセス優先度クラスに分類されるデータパケットおよびフレームに対するキューに各同期パケットを誘導かつ転送すること(S122b)とを含み、前記キューは同期パケットのみに提供される」と、引用発明の「無線伝送装置500aの第一受信キュー501が、受信したパケットから同期パケットを選別し、受信したパケットを第一送信キュー503へ転送すること」とは、「キューに受信したパケットを誘導かつ転送すること」の点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「伝送リンクインターフェイスにおけるベアラとして無線技術を使用するデータ通信システムおよびネットワークのリンク層における適正かつ正確なパケットベースの同期を確実にし、無線伝送リンクインターフェイス上の1つの無線伝送装置から別の無線伝送装置へ同期パケットを分散する方法であって、前記装置は、前記方法を実施するように構成された装置によって、符号化および様々な変調方式を用いて前記伝送リンクインターフェイスの動的伝送レート適応を提供し、 受信した同期パケットそれぞれを識別することと、 所定の同期パケット送信規則に従って前記受信した同期パケットの伝送レートを設定することと、 キューに受信したパケットを誘導かつ転送することを含む方法。」 (相違点1) 一致点の「伝送リンクインターフェイスにおけるベアラとして無線技術を使用するデータ通信システムおよびネットワークのリンク層における適正かつ正確なパケットベースの同期を確実にし、無線伝送リンクインターフェイス上の1つの無線伝送装置から別の無線伝送装置へ同期パケットを分散する方法」の「無線技術」、「無線伝送装置」、「無線伝送リンクインターフェイス」に関し、本願発明は「WIFI技術」、「アクセスポイント」、「WIFI伝送リンクインターフェイス」であるのに対し、引用発明は当該事項が特定がされていない点。 (相違点2) 一致点の「符号化および様々な変調方式を用いて前記伝送リンクインターフェイスの動的伝送レート適応を提供し」に関し、本願発明の「動的伝送レート適応」は「様々な符号化および変調方式を用い」てなされるに対し、引用発明は、変調処理は適応変調方式であるものの、符号化処理については様々な符号化方式を用いることが明らかにされていない点。 (相違点3) 一致点の「キューに受信したパケットを誘導かつ転送すること」に関し、本願発明は、「遅延なくまたは最短の利用可能な遅延で定められるチャネルアクセス優先度クラスに前記同期パケットを分類すること(S122)と、遅延をもたらさないまたは最短の利用可能な遅延をもたらす前記チャネルアクセス優先度クラスに分類されるデータパケットおよびフレームに対するキューに各同期パケットを誘導かつ転送すること(S122b)とを含み、前記キューは同期パケットのみに提供される」との発明特定事項を有するのに対して、引用発明は「無線装置500aの第一受信キュー501が」「受信したパケットを第一送信キュー503へ転送する」ものの、本願発明の上記発明特定事項を有していない点。 第5 当審の判断 相違点1について検討する。 本件補正発明の「WIFI」は、Wi-Fi Allianeの認証を取得した無線LAN製品による無線通信を含むと解される。そして、無線通信を構成する際、Wi-Fi Allianeの認証を取得した無線LAN製品は、一般的に使用されるものであるから、引用発明の無線伝送装置500aと無線伝送装置500bとの間の無線伝送の無線技術をWIFI技術とすることは、適宜なし得ることにすぎない。 また、引用発明は、「パケット伝送装置として無線伝送装置が用いられるモバイルバックホールネットワーク」におけるものであるから、引用発明の「無線伝送装置」を「アクセスポイント」とすることは格別困難なことではなく、適宜なし得ることに過ぎない。 したがって、相違点1は当業者が適宜なし得ることに過ぎない。 次に、相違点2について検討する。 動的伝送レート適応として様々な符号化および変調方式を用いることは常套手段であるから、引用発明の符号化処理及び変調処理を様々な符号化および変調方式を用いたものとすることは、適宜なし得ることに過ぎない。 したがって、相違点2は当業者が適宜なし得ることに過ぎない。 次に、相違点3について検討する。 引用発明は、遅延時間の誤差や揺れがそのままスレイブ装置のクロック再生精度に影響するところ、伝送路そのものの遅延時間が変化してしまうようなケースにも対応するものである(上記「第3 1(1)【0002】、【0005】」参照。)。ここで、遅延時間はキューに蓄積されたデータ量にも影響されることは当業者にとって明らかであり(必要とあれば、上記「第3 2(2)【0007】?【0009】、同(3)【0003】」参照。)、上記「第3 2」のとおり、「送信パケットを優先度により分類して対応するキューに格納し、高優先度のキューから順に送信データを読み出す。」ことは周知技術である。そして、引用発明においても第一送信キュー503に蓄積されたデータ量により遅延時間が変化することは自明であるから、遅延時間の変化をより少なくするために、引用発明の「受信したパケットを第一送信キュー503へ転送すること」に関して上記周知技術を適用して、「遅延なくまたは最短の利用可能な遅延で定められるチャネルアクセス優先度クラスに前記同期パケットを分類することと、遅延をもたらさないまたは最短の利用可能な遅延をもたらす前記チャネルアクセス優先度クラスに分類されるデータパケットおよびフレームに対するキューに各同期パケットを誘導かつ転送することとを含み、前記キューは同期パケットのみに提供される」ようにすることは,当業者が容易になし得ることである。 なお、請求人は審判請求の理由において、「すなわち、引用文献1によれば、適応変調方式により決定される伝送レートは、同期パケットであるか否かに関わらず、無線通信に一律に適用されると解されます。したがって、本願発明の「同期パケット送信規則」に相当する構成は、引用文献1に開示も示唆もされていないと思料いたします。」と主張している。 しかしながら、請求項1には同期パケットの伝送レートの設定が所定の同期パケット送信規則に従うことが規定されるのみであり、他の受信パケットの伝送レートの設定に同じ規則が用いられることを排除するものではないから、上記主張は請求項に記載に基づかないものであり、採用できない。 仮に、発明の詳細な説明の段落0043を参酌して、「所定の同期パケット通信規則」が、「適応変調器が、低い伝送レート、例えば、二位相偏移変調、BPSK、の変調を規定するMCS指数0(表2を参照)に設定するように強制すること」であるとしても、LTEの同期信号であるPSSやSSSの送信は高い耐性を有する低い伝送レートによりなされ、また、例えば原査定の拒絶理由に引用された特開2007-166037号公報の【0033】にも「同期信号SYについては映像信号の変調方式に比べてシンボルレートの速いあるいは多値度が小さい、つまり減衰耐性が高い変調方式(例えば、BPSK< Binary Phase Shift Keying>)を用いており」と記載されているように、そのような規則は格別な技術的特徴を有するものではなく、容易に採用し得るものに過ぎない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-09-28 |
結審通知日 | 2018-10-09 |
審決日 | 2018-10-22 |
出願番号 | 特願2015-539553(P2015-539553) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04W)
P 1 8・ 113- Z (H04W) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三浦 みちる |
特許庁審判長 |
菅原 道晴 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 海江田 章裕 |
発明の名称 | WIFI伝送リンク上での同期パケットの分散 |
代理人 | 石岡 利康 |
代理人 | 藤井 亮 |
代理人 | 園田 吉隆 |
代理人 | 冨樫 義孝 |