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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02D
管理番号 1349643
異議申立番号 異議2018-700135  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-16 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6210760号発明「基礎構造の設計方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6210760号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕,5について訂正することを認める。 特許第6210760号の請求項5に係る特許を維持する。 特許第6210760号の請求項1?4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6210760号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年7月1日に特許出願され、平成29年9月22日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年10月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について平成30年2月16日に特許異議申立人清水仁(以下、「申立人」という。)より請求項1ないし5に対して特許異議の申立てがされ、平成30年6月25日付けで取消理由(発送日同年6月28日)が通知され、その指定期間内である同年8月27日に意見書の提出及び訂正請求がなさたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項1?4について
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(2)明細書について
ア 訂正事項5
明細書の【発明の名称】の「基礎構造及び基礎構造の設計方法」を「基礎構造の設計方法」に訂正する。

イ 訂正事項6
明細書の段落【0001】の「本発明は、基礎構造及び基礎構造の設計方法に関する。」を「本発明は、基礎構造の設計方法に関する。」に訂正する。

ウ 訂正事項7
明細書の段落【0009】の「請求項1の発明」を「第一態様の基礎構造」に訂正する。

エ 訂正事項8
明細書の段落【0010】の「請求項1に記載の発明」を「第一態様の基礎構造」に訂正する。

オ 訂正事項9
明細書の段落【0011】の「請求項2の発明」を「第二態様の基礎構造」に訂正する。

カ 訂正事項10
明細書の段落【0012】の「請求項2に記載の発明」を「第二態様の基礎構造」に訂正する。

キ 訂正事項11
明細書の段落【0013】の「請求項3の発明」を「第三態様の基礎構造」に訂正する。

ク 訂正事項12
明細書の段落【0014】の「請求項3に記載の発明」を「第三態様の基礎構造」に訂正する。

ケ 訂正事項13
明細書の段落【0015】の「請求項4の発明」を「第四態様の基礎構造」に訂正する。

コ 訂正事項14
明細書の段落【0016】の「請求項4に記載の発明」を「第四態様の基礎構造」に訂正する。

サ 訂正事項15
明細書の段落【0017】の「請求項5の発明」を「第五態様の基礎構造の設計方法」に訂正する。
なお、訂正請求書の6頁23?24行には、「明細書の段落【0017】に記載された『請求項5の発明』を『第五態様の基礎構造』に訂正する。」と記載されているが、訂正明細書の段落【0017】には、「第五態様の基礎構造の設計方法は、・・・」と記載されており、また、訂正請求書の14頁25?26行には、「訂正事項15は、上記訂正事項1?4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。」と記載されていることから、訂正請求書の上記箇所は、「明細書の段落【0017】に記載された『請求項5の発明』を『第五態様の基礎構造の設計方法』に訂正する。」と記載すべきところの誤記と認める。

シ 訂正事項16
明細書の段落【0018】の「請求項5に記載の発明」を「第五態様の基礎構造の設計方法」に訂正する。
なお、訂正請求書の6頁26?27行には、「明細書の段落【0018】に記載された『請求項5に記載の発明』を『第五態様の基礎構造』に訂正する。」と記載されているが、訂正明細書の段落【0018】には、「第五態様の基礎構造の設計方法では、・・・」と記載されており、また、訂正請求書の15頁17?18行には、「訂正事項16は、上記訂正事項1?4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。」と記載されていることから、訂正請求書の上記箇所は、「明細書の段落【0018】に記載された『請求項5に記載の発明』を『第五態様の基礎構造の設計方法』に訂正する。」と記載すべきところの誤記と認める。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1?4について
訂正事項1?4は、それぞれ請求項1?4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから請求項1?請求項4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項5?16について
訂正事項5?16は、訂正事項1?4に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の請求項1?5の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?16は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項5に係る発明
本件訂正後の請求項5に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。

本件発明
「【請求項5】
軟弱地盤に設けられた基礎部と、
前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、
前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体と、
を備える基礎構造に適用され、
前記免震装置の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する第一工程と、
前記第一工程で求められた短周期の卓越成分による前記構造物の二次周期の応答を小さくするように、前記地盤改良体の構造を、該地盤改良体による前記軟弱地盤の改良率を計算した計算結果に基づき、前記軟弱地盤のせん断剛性と等価な地盤を設定し、前記地盤の地表面の加速度応答を評価して決定する第二工程と、
を備える基礎構造の設計方法。」

2 取消理由の概要
(1)本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3)本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証及び本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:鬼丸貞友、外3名、“格子状地盤改良を有する免震建物の動 的相互作用効果の観測と解析”、[online]、
2012年10月、日本建築学会、技術報告集、第18巻、 第40号、第871?876頁
[平成30年2月14日検索]、インターネット
〈URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/18/40/18_
871/_pdf〉
甲第2号証:斉藤賢二、外5名、“埋立て地盤上に建つ大規模免震建物を 支持する格子状基礎その1?その5”、日本建築学会、
2002年度大会(北陸)、大会学術講演梗概集、
2002年6月30日、第467?476頁

3 甲号証の記載
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
(ア)「1.はじめに
近年、・・大規模建築物においても杭に替えて地盤改良により支持する場合が見られるようになってきた。また,杭基礎と併用し,液状化対策として格子状地盤改良を実施するケースも増加している。地盤改良としては深層混合処理工法によりセメント系固化材を混合して改良を実施しているが,地盤に比べ剛性の高い改良地盤を作成することになり,地盤との間に動的相互作用効果が生じ,建物に作用する入力動に影響すると考えられる。
著者らは,東京都江東区に建つパイルド・ラフトと格子状地盤改良を併用した12階建ての免震建物で,建設時点から地震観測を実施・・しており,2011年東北地方太平洋沖地震とその余震を含む多数の地震について良好な観察記録を得ることが出来た・・。更に,地盤と杭および格子状地盤改良を出来るだけ詳細にモデル化した3次元FEMモデルを作成して,建物の応答のシミュレーション解析を実施し,相互作用効果の分析を実施した。」(871頁左欄1-18行)

(イ)「2 観測建物と地震観測の概要
2.1 建物概要
(1)建物
建物は・・・免震構造で,・・・12階建ての集合住宅である。免震装置は鉛プラグ入り積層ゴム12基と天然ゴム系積層ゴム4基に回転摩擦ダンパー,オイルダンパーを組合せて用いている。図1に建物の概略形状を示す。」
(2)地盤・基礎
図1に地盤の概要を示す。地盤は東京都江東区の厚く軟弱な粘性土層が堆積した地盤で,GL-7mまでは,埋土,軟弱なシルト層,緩いシルト質細砂層である。その下,GL-44mまではN値が0?3程度の非常に軟弱な沖積粘性土層であり,GL-44m以深でN値60以上の砂礫層が出現する。
基礎は,格子状地盤改良を併用したパイルド・ラフト基礎である。杭と格子状地盤改良の配置を図2に示す。地表面加速度200cm/s^(2)で液状化の可能性がある3m?7mの緩いシルト質細砂層に対して格子状地盤改良工法を採用し,液状化対策とし,沈下を抑制するために,直径0.8m?1.2m,長さ45mの既製杭(SC+PHC)を16本打設し,パイルド・ラフト基礎としている。・・・
2.2 観測概要
パイルド・ラフトと格子状地盤改良に作用する荷重に着目した長期的な計測と同時に,地盤系と建物系の地震観測を実施している・・。加速度計の配置を図1に併せ示す。建物系は免震層より下の免震ピット上と免震層より上の一階,および12階の3レベル、地盤系は建物から約10m離れた位置の地表と格子状地盤改良の下端に当るGL-15mおよび杭先端の砂礫層に3深度で実施している。」(871頁左欄19行?872頁右欄2行)

(ウ)「3.地震観測記録の検討
3.1 観測地震の概要
・・・
図6に地表に対する免震ピット上の最大加速度の比を示す。免震ピットがGL-4.8mまで埋め込まれていること,その下にGL-16mまで格子状地盤改良が施工されていることから免震ピット上の加速度は地表に比べ大きく低下し,概ねGL-15mの地盤の応答と同等か,それよりも更に小さい値となっている。・・・
3.2 免震ピットの応答低減
免震ピット上での応答低減は,地盤に比べ剛性の高い免震ピットと格子状地盤改良により,動的相互作用の代表的効果の一つである入力損失が生じていると考えられる。・・・
3.3 地盤の卓越周期
表層地盤の特定を確認するため,表1に示した5地震について,GL-50mに対するGL-1.5mの伝達関数を求め、図8に示した。表層の卓越周期はほぼ1秒付近にあり,本震ではやや長周期化している。また,3.2節に示した入力損失の効果が表層地盤の卓越周期よりも更に短周期側で生じていることが分かる。・・・」(872頁右欄9行?873頁右欄12行)

(エ)「4.観測記録のシミュレーション解析
観測記録から相互作用効果が明瞭に確認できたことから,より詳細な分析を目的に,3次元FEMにより地盤と杭や格子状改良地盤および建物を出来るだけ詳細にモデル化し,本震を対象にシミュレーション解析を実施した。
・・・
4.2 地盤-基礎-建物系の応答解析
(1)FEMモデルの作成
図14に作成した3次元FEMモデルを示す。・・・・
b)杭と格子状地盤改良のモデル化
杭は梁要素で,格子状地盤改良はシェル要素でモデル化した。格子状地盤改良の剛性については,既往の調査事例・・などを参考にせん断波速度Vs=800m/s程度とし,せん断剛性を1000MN/m^(2)とした。
c)免震層のモデル化
免震層に関しては設計時に設定した,各装置の規格仕様に基づく特性をそのまま用い,バイリニア型のばね要素でモデル化した。
・・・
(3)相互作用効果に及ぼす影響要因の検討
・・・
a)慣性の相互作用の影響
免震ピット上の応答は地盤からの応答と建物からの応答が複合している。・・・」(874頁左欄8行?875頁右欄12行)

(オ)「5.まとめ
・・・
・観測記録の地表と免震ピット上の加速度応答スペクトルの比をとると2秒付近から短周期になるにつれ低減の程度が増加し,基礎による入力低減効果が明瞭に見られた。・・・
・・・
・検討建物地下部には免震ピットと格子状地盤改良があることから,免震ピット上の応答の低減には両者が影響するため,格子状地盤改良が無い場合を解析的に検討した結果,入力低減には免震ピットと改良地盤がそれぞれ50%程度寄与していることが確認できた。」(875頁右欄28?47行)

(カ)図1





(キ)図14




(ク)図1からは、地盤改良が、GL-44m以深に出現するN値60以上の砂礫層に到達していない点が看て取れる。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アによれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「建物地下部に免震ピットと格子状地盤改良があり、
免震層より下に免震ピットがあり、免震装置は、鉛プラグ入り積層ゴム12基と天然ゴム系積層ゴム4基に回転摩擦ダンパー、オイルダンパーを組合せて用いているものであり、
GL-7mまでは、埋土,軟弱なシルト層、緩いシルト質細砂層であって、その下、GL-44mまではN値が0?3程度の非常に軟弱な沖積粘性土層であり、
免震ピットがGL-4.8mまで埋め込まれ、その下にGL-16mまで格子状地盤改良が施工され、地盤改良として深層混合処理工法によりセメント系固化材を混合して改良を実施し、地盤に比べ剛性の高い改良地盤を作成するものであって、GL-44m以深に出現するN値60以上の砂礫層に到達していないものであって、
地表と免震ピット上の加速度応答スペクトルの比をとると2秒付近から短周期になるにつれ低減の程度が増加し、基礎による入力低減効果が明瞭に見られる観測記録があり、
観測記録から相互作用効果が明瞭に確認できたことから、より詳細な分析を目的に,3次元FEMにより地盤と杭や格子状改良地盤および建物を出来るだけ詳細にモデル化し,本震を対象にシミュレーション解析を実施するにあたって、
地盤-基礎-建物系の応答解析において、
免震層に関しては設計時に設定した、各装置の規格仕様に基づく特性をそのまま用い、バイリニア型のばね要素でモデル化し、
格子状地盤改良の剛性については、既往の調査事例などを参考にせん断波速度Vs=800m/s程度とし、せん断剛性を1000MN/m^(2)として、モデル化した解析方法。」

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証は、5つに分けられており、それぞれ副題が付けられている(「その1 計画の概要と格子状基礎の評価」(467?468頁)、「その2 連成系地震応答解析による基礎構造と自由地盤応答」(469?470頁)、「その3 上部構造の地震応答性状と免震効果」(471?472頁)、「その4 液状化防止効果」(473?474頁)、「その5 不同沈下抑止効果」(475?476頁))。

(ア)「1.はじめに
・・・基礎構造の計画上、層厚が18mの厚い埋土層の液状化対策、軟弱地盤上での免震建物の地震時挙動と免震効果、不同沈下対策等がポイントとなり、杭基礎案と格子状基礎案を想定した。本報告(その1)では、上部構造、基礎、地盤の概要と、両基礎案について、沈下性状、および地震時挙動を解析的に検討した結果をまとめて報告し、本報告(その2)?(その5)では、各解析・検討の詳細を報告する。」((その1)467頁左欄1?10行)

(イ)「2.建物および地盤の概要と基礎構造の計画
建物は、・・鉄骨構造である・・。大地震時にも通信施設としての機能の確保を図るため、1階と基礎の間に免震装置を設置した免震構造となっている。
敷地地盤は、図2に示すように、地表面から深さ40mまで厚さ18mの埋立て土層と厚さ22mの沖積粘性土層からなる軟弱な地層が堆積し、以下、密実な砂礫層と堅い粘土層の互層からなる洪積層が続いている。上部の埋立て土層は、日本建築学会、建築基礎構造設計指針(2001)の液状化判定法によると、地表面加速度が200gal程度の地震時には部分的に、また400gal程度の地震時には、全面的に液状化する可能性が高い。・・・
格子状基礎案・・・:連続地中壁を格子状に配置した格子状基礎よって、深さ44m付近の第1天満礫層に支持させる。」((その1)467頁左欄11行?右欄13行)

(ウ)「1.はじめに
本報では免震建物の基礎構造として格子状基礎と杭基礎を用いた場合に、レベル2の地震動に対する応答(自由地盤,基礎構造の応答)について検討する。」((その2)469頁左欄1?4行)

(エ)「2.解析モデル
・・地盤-連続地中壁-上部構造体連成系および地盤-杭-上部構造体連成系を修正Penzienモデルによりモデル化する。
自由地盤系は地盤踏査結果に基づき第2天満層より上部の地盤をせん断型弾塑性モデルとする。・・
上部構造は上部構造体は建物を12質点の等価せん断モデルとし,免震装置は図3に示すBilinear型の履歴特性を与える。・・・
基礎構造は連続地中壁による格子状基礎と鋼管巻きコンクリート杭による杭基礎の2種類を考える。連続地中壁および杭基礎を曲げせん断弾性梁にモデル化する。連続地中壁先端は第1天満層に,杭は第2天満層に根入れさせている。」((その2)469頁左欄5?22行)

(オ)「2.上部構造の地震応答
・・・
格子状基礎は周囲の地盤に比較してかなり剛な構造体であり固有周期も短周期側にある。・・・
図3は建物頂部における加速度応答スペクトルである。約5秒に免震1次の卓越周期のピークが,0.8秒には地盤-基礎構造系の固有周期に対応すると考えられるピークが見られる。スペクトル全体では1秒より短周期成分では格子状基礎の場合が,長周期成分では杭基礎の場合が大きな応答を示している。また,杭基礎の場合は方向による差異は小さいが,格子状基礎の場合はより剛性の高いX(長辺)方向の応答が短周期成分で小さくなり,基礎構造の剛性の差異が現われた結果といえる。」((その3)471頁左欄5行?右欄7行)

(カ)「3.免震層の地震応答
・・・格子状基礎では0.7秒付近に単一のピークが見られる。杭基礎では明瞭なピークは見られずほぼ自由地盤と等しいスペクトル特性となっている。・・・免震装置の機能する周期帯において杭基礎に比べ格子状基礎では地震動の入力低減効果がみられることがわかる。」((その3)472頁左欄10?17行)

(キ)「4.まとめ
埋立て地盤に建つ大規模免震建物の基礎構造として格子状基礎と杭基礎を用いた場合にレベル2の地震動に対する応答を地盤-基礎構造-上部建物連成系モデルにより検討した。」((その3)472頁右欄4?7行)

(ク)「2.検討方法
・・・
2)地震応答解析
・・・
地盤は平面要素でモデル化し、等価線形化手法により非線形性を考慮した。」((その4)473頁左欄7?20行)

(ケ)「5.おわりに
格子状基礎および拡底杭基礎の即時および圧密沈下性状に関する予測解析結果に基づき、拡底杭基礎で本建物を支持する場合には第2天満礫層(Dg2層)を支持層とする必要があるが、格子状基礎で支持する場合には第1天満礫層(Dg1層)で支持可能であることが分かった。」((その5)476頁右欄1?6行)

(コ)(その1)の図2




(サ)上記(イ)及び(コ)の(その1)図2から、地表面から深さ40mまで厚さ18mの埋立て土層と厚さ22mの沖積粘性土層からなる軟弱な地層に配置され、深さ44m付近の第1天満礫層に支持され、深さ66m付近の第2天満礫層に支持されていない、格子状基礎が看て取れる。

イ 甲第2号証に記載された発明
上記アによれば、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「建物は鉄骨構造であって、1階と基礎の間に免震装置を設置した免震構造となっており、
軟弱な地層に配置されるとともに、深さ44m付近の第1天満礫層に支持され、深さ66m付近の第2天満礫層に支持されていない、周囲の地盤に比較してかなり剛な構造体である格子状基礎とを備え、
地表面から深さ40mまで厚さ18mの埋立て土層と厚さ22mの沖積粘性土層からなる軟弱な地層が堆積し、以下、密実な砂礫層と堅い粘土層の互層からなる洪積層が続いており、
基礎構造として格子状基礎を用いた場合の、地震動に対する応答解析において、
免震装置はBilinear型の履歴特性を与え、
基礎構造は連続地中壁による格子状基礎を曲げせん断弾性梁にモデル化し、
免震層の地震応答について、免震装置の機能する周期帯において杭基礎に比べ格子状基礎では地震動の入力低減効果がみられるようにした解析方法。」

4 判断
(1)新規性欠如・進歩性欠如について(特許法第29条第1項第3号第29条第2項)
ア 甲1発明を主引用例として
(ア)対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の建物地下部にある「免震ピット」は、本件発明の「基礎部」に相当し、また、GL-7mまでは,埋土,軟弱なシルト層,緩いシルト質細砂層であることから、GL-4.8mまで埋め込まれた「免震ピット」は、軟弱地盤に設けられているといえる。そうすると、甲1発明の「GL-4.8mまで埋め込まれ」た建物地下部にある「免震ピット」は、本件発明1の「軟弱地盤に設けられた基礎部」に相当する。

また、甲1発明の「免震装置」及び「建物」は、本件発明の「免震装置」及び「構造物」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明の「免震ピット」が「免震層」の下にある、つまりこのような相対位置において免震ピットに対して免震層が設けられているといえるから、「免震層」は「免震ピット」に設置されているといえる。
また、甲1発明の「免震層」は、免震装置によって形成されていることは明らかであり、甲1発明の免震装置が、鉛プラグ入り積層ゴム12基と天然ゴム系積層ゴム4基に回転摩擦ダンパー,オイルダンパーを組合せて用いているものであることから、「免震層」は、建物を支持するものであることは明らかである。
そうすると、甲1発明の「免震層」は、免震ピットに設置され、建物である構造物を支持しているといえるから、本件発明の「前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置」に相当するといえる。

また、甲1発明のGL-7mまでは,埋土,軟弱なシルト層,緩いシルト質細砂層であり、その下,GL-44mまではN値が0?3程度の非常に軟弱な沖積粘性土層である。これらの層は、本件発明の「軟弱地盤」に相当する。
また、甲1発明の深層混合処理工法によりセメント系固化材を混合して改良を実施し、地盤に比べ剛性の高い改良地盤を作成するものとしているのであるから、軟弱地盤よりも剛性が高いことは明らかであり、また、甲1発明のGL-44m以深に出現するN値60以上の砂礫層は、本件発明の支持層に相当する。
そうすると、GL-4.8mの下にGL-16mまで施工され、GL-44m以深に出現するN値60以上の砂礫層に到達していない「格子状地盤改良」は、本件発明の「前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体」に相当する。

そして、甲1発明の建物地下部にある「免震ピットと格子状地盤改良」及び「免震層」からなる構造体は、本件発明の「基礎構造」に相当する。

そうすると、両者は、
「軟弱地盤に設けられた基礎部と、
前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、
前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体と、
を備える基礎構造」の点で一致し、

少なくとも、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明は、「第一工程」を「前記免震装置の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する」と特定されているのに対して、甲1発明は、そのように特定されておらず、地盤-基礎-建物系の応答解析において「免震層に関しては、各装置の規格仕様に基づく特性をそのまま用い、バイリニア型のばね要素でモデル化」されている点。
相違点2:本件発明は、「第二工程」を「前記第一工程で求められた短周期の卓越成分による前記構造物の二次周期の応答を小さくするように、前記地盤改良体の構造を、前記地盤の地表面の加速度応答を評価して決定する」と特定されているのに対して、甲1発明は、そのように特定されておらず、地盤-基礎-建物系の応答解析において「格子状地盤改良の剛性については,既往の調査事例などを参考にせん断波速度Vs=800m/s程度とし,せん断剛性を1000MN/m^(2)として、モデル化」されている点。

(イ)判断
上記のとおり、本件発明と甲1発明とは上記の点で相違するので、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。したがって、本件発明は、新規性を有する。

次に、上記相違点1及び2について検討すると、相違点1及び2に係る本件発明の構成は、いずれも、甲第1号証の記載から自明なものではなく、また、甲第2号証に記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用しても、相違点1及び2に係る本件発明の構成に想到することはできない。
したがって、本件発明は、甲1発明、又は甲1発明及び甲第2号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明、又は甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2発明を主引用例として
(ア)対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、
甲2発明の「基礎」は、本件発明の「基礎部」に相当する。また、地表面から深さ40mまで厚さ18mの埋立て土層と厚さ22mの沖積粘性土層からなる軟弱な地層が堆積していることからみて、甲2発明の「基礎」は、軟弱な地層が堆積した沖積粘性土層に設けられていることは明らかである。
そうすると、甲2発明の軟弱な地層が堆積した沖積粘性土層に設けられている「基礎」は、本件発明の「軟弱地盤に設けられた基礎部」に相当する。

また、甲2発明の鉄骨構造である「建物」は、本件発明の「構造物」に相当し、甲2発明の「免震装置」は、1階と基礎の間に設置しており、建物の1階より上を支えていることは明らかであるから、甲2発明の1階と基礎の間に設置された「免震装置」は、本件発明の「前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置」に相当する。

また、甲2発明の「軟弱な地層に配置されるとともに、深さ44m付近の第1天満礫層に支持され、深さ66m付近の第2天満礫層に支持されていない、周囲の地盤に比較してかなり剛な構造体である格子状基礎」と、本件発明の「前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体」とは、軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高い構造体である点で共通する。

そして、甲2発明の「基礎」、「免震装置」及び「格子状基礎」からなる構造体は、本件発明の「基礎構造」に相当する。

そうすると、両者は、
「軟弱地盤に設けられた基礎部と、
前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、
前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高い構造体と、
を備える基礎構造」の点で一致し、

少なくとも、以下の点で相違する。
相違点1:軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高い構造体について、本件発明は、軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体であるのに対して、甲2発明は、深さ44m付近の第1天満礫層に支持され、深さ66m付近の第2天満礫層に支持されていない、周囲の地盤に比較してかなり剛な構造体である格子状基礎である点。
相違点2:本件発明は、「第一工程」を「前記免震装置の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する」と特定されているのに対して、甲2発明は、そのように特定されておらず、基礎構造として格子状基礎を用いた場合の、地震動に対する応答解析において、「免震装置はBilinear型の履歴特性を与え」ている点。
相違点3:本件発明は、「第二工程」を「前記第一工程で求められた短周期の卓越成分による前記構造物の二次周期の応答を小さくするように、前記地盤改良体の構造を、前記地盤の地表面の加速度応答を評価して決定する」と特定されているのに対して、甲2発明は、そのように特定されておらず、基礎構造として格子状基礎を用いた場合の、地震動に対する応答解析において、「基礎構造は連続地中壁による格子状基礎を曲げせん断弾性梁にモデル化」している点。

(イ)判断
上記のとおり、本件発明と甲2発明とは上記の点で相違するので、本件発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。したがって、本件発明は、新規性を有する。

次に、上記相違点について検討する。
先に相違点2及び3について検討すると、相違点2及び3に係る本件発明の構成は、いずれも、甲第2号証の記載から自明なものではなく、また、甲第1号証に記載も示唆もされていない。
よって、甲2発明に甲第1号証に記載された事項を適用しても、相違点2及び3に係る本件発明の構成に想到することはできない。
したがって、本件発明は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2発明、又は甲第2号証及び甲第1号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明、又は甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ まとめ
したがって、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明ないしは事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、その特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)請求項1?4に対する特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、請求項1?4を削除する本件訂正が認められたので、請求項1?4に対する本件特許異議の申立ては、不適法な特許異議の申立てであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?4に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
基礎構造の設計方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、支持層の地盤の上に、液状化または軟弱な地盤と支持層の地盤との中間層の地盤と、液状化または軟弱な地盤とが順に積層される地盤上に構築する上部躯体の基礎構造が開示さている。この先行技術では、支持層まで達する杭基礎を上部躯体に設け、液状化するまたは軟弱な地盤の部分では該杭基礎周囲非改良部を残し、地震時の上部躯体の側からのせん断力、一部の軸方向応力をせん断耐力によってさらに下方に位置する前記中間層の地盤に伝達し処理するよう、上部躯体に接合し、かつ、前記中間層の地盤に達する地盤改良部を形成している。
【0003】
特許文献2には、固化工法を用いた高水平耐力基礎工法が開示されている。この先行技術では、液状化する可能性ある表層地盤中に、深層混合処理機により安定剤を撹拌混合させて、該表層地盤の下端部から上端部に達する平面格子状の難透水性壁構造体を形成すると共に、該構造体の格子目状部分が囲む複数表層地盤部分に、上記表層地盤下方の支持力を有してかつ液状化しない中層乃至深層支持地盤まで下端を貫入させて基礎杭を構築している。
【0004】
特許文献3には、軟弱地盤上に構築される構造物の基礎構造が開示されている。この先行技術では、構造物に接合して下方より支持する杭と、構造物下方の軟弱地盤内に所定の深さをもって形成された固化壁体をなし杭の周囲の軟弱地盤に水平抵抗を与える地盤改良壁と、を備えた基礎構造となっている。
【0005】
ここで、軟弱地盤(地盤の軟弱層)の揺れは、地表面に近づくにつれて大きく増幅し、地表面の地震動が大きくなることが知られている。しかし、このような地震動の増幅成分は主に短周期であり、免震装置によって支持された一次周期が長い構造物では、地震動の短周期成分による影響は受けにくいと考えられていた。
【0006】
しかしながら本発明者らの研究によって、免震装置によって支持された構造物の振動(揺れ)の最大値は、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性により励起される「短周期の卓越成分による二次振動モード」によって支配されることが判った。そして、免震装置を支持する基礎部に入力される地震動は地表面の地震動に近い入力となり、このため免震装置によって支持された構造物は、短周期の卓越成分による二次周期(二次振動モード)で大きく揺れることが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特許第3946848号
【特許文献2】 特許第2645899号
【特許文献3】 特開2007-9421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事実に鑑み、免震装置に支持された構造物に入力される地震動の短周期成分を低減させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一態様の基礎構造は、軟弱地盤に設けられた基礎部と、前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体と、を備えている。
【0010】
第一態様の基礎構造では、免震装置によって構造物の一次周期を長周期にすることで、地震時に構造物が受ける影響が低減する。また、軟弱地盤に形成した剛性の高い地盤改良体によって地震動の入力損失が生じ、基礎部に入力される地震動の短周期成分が低減する。よって、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物の二次振動モードの振動が低減する。
【0011】
第二態様の基礎構造は、前記地盤改良体は、前記軟弱地盤の下層部分を構成する過圧密層に到達するように形成されている。
【0012】
第二態様の基礎構造では、地盤改良体を軟弱地盤の下層部分を構成する過圧密層に到達するように形成することで、基礎部に入力される地震動の短周期成分が効果的に低減する。よって、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物の二次振動モードの振動が効果的に低減する。
【0013】
第三態様の基礎構造は、前記地盤改良体は、前記支持層よりも剛性が高い。
【0014】
第三態様の基礎構造では、地盤改良体を支持層よりも剛性を高くすることで、基礎部に入力される地震動の短周期成分が効果的に低減する。よって、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物の二次振動モードの振動が効果的に低減する。
【0015】
第四態様の基礎構造は、前記地盤改良体は、平面視にて格子状に構成されている。
【0016】
第四態様の基礎構造では、地盤改良体を平面視にて格子状に形成することで、地盤改良体全体の剛性を効果的に高くすることできる。よって、基礎部に入力される地震動の短周期成分が効果的に低減し、この結果、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物の二次振動モードの振動が効果的に低減する。
【0017】
第五態様の基礎構造の設計方法は、軟弱地盤に設けられた基礎部と、前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体と、を備える基礎構造に適用され、前記免震装置の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する第一工程と、前記第一工程で求められた短周期の卓越成分による前記構造物の二次周期の応答を小さくするように、前記地盤改良体の構造を、該地盤改良体による前記軟弱地盤の改良率を計算した計算結果に基づき、前記軟弱地盤のせん断剛性と等価な地盤を設定し、前記地盤の地表面の加速度応答を評価して決定する第二工程と、を備えている。
【0018】
第五態様の基礎構造の設計方法では、免震装置によって構造物の一次周期を長周期にすることで、地震時に構造物が受ける影響が低減する。また、軟弱地盤に形成した剛性の高い地盤改良体によって地震動の入力損失が生じ、基礎部に入力される地震動の短周期成分が低減する。よって、免震装置を構成する履歴ダンパー等の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物の二次振動モードの振動が低減する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、免震装置に支持された構造物に入力される地震動の短周期成分を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る基礎構造を模式的に示す垂直断面図である。
【図2】基礎構造を構成する地盤改良体及び杭を示す(A)は拡大斜視図であり、(B)は水平断面図である。
【図3】(A)は基礎構造を構成する免震装置を構成する積層ゴムの斜視図であり、(B)は基礎構造を構成する免震装置を構成するダンパーの斜視図である。
【図4】(A)は本発明が適用されていな比較例の基礎構造を示す垂直断面図であり、(B)は図1に示す垂直断面図である。
【図5】フロアレスポンススペクトルを示す模式図(グラフ)である。
【図6】本実施形態の基礎構造における、(A)は免震ピットの底部上の水平加速度を示すグラフであり、(B)は表層の水平加速度を示すグラフである。
【図7】(A)は表層(地表面付近)の水平加速度、免震ピットの底部上の水平加速度、構造物の1階の水平加速度、及び構造物の12階の水平加速度のそれぞれのフーリエ振幅を示すパルツェン窓がある場合のグラフであり、(B)は表層(地表面付近)の水平加速度及び免震ピットの底部上の水平加速度のフーリエ振幅を示すパルツェン窓等の平滑化処理がない場合のグラフである。
【図8】(A)は免震ピットの水平加速度のフーリエスペクトルと表層の水平加速度のフーリエスペクトルとの比を実測値を元に模式的に示す図であり、(B)は構造物の水平加速度のフーリエスペクトルと免震ピットの水平加速度のフーリエスペクトルとの比を実測値を元に模式的に示す図であり、(C)は構造物の水平加速度のフーリエスペクトルと表層の水平加速度とのフーリエスペクトルの比を実測値を元に模式的に示す図である。
【図9】(A)は免震ピットの直上の構造物の1階の水平加速度と構造物の最上階である12階の加速度とのそれぞれの時刻歴波形を示すグラフであり、(B)は(A)のBで囲った部分を拡大した図である。
【図10】(A)は構造物の東西方向における免震ピットの底部上の水平加速度応答スペクトルと表層の水平加速度応答スペクトルとの比を示すグラフであり、(B)は構造物の東西方向における免震ピットの底部上の水平加速度応答スペクトルと表層の水平加速度応答スペクトルとの比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
(地盤)
図1に示すように、構造物10は、液状化する可能性のある軟弱な軟弱地盤20の上に構築されている。軟弱地盤20は、表層(地表面付近)22と、上層部分を構成する軟弱層24と、下層部分を構成する軟弱層24よりも剛性が高い過圧密層26と、の三層構造となっている。また、軟弱地盤20の下には支持層(非液状化層)28が存在している(図2(A)も参照)。なお、本地盤構成は一例であって、これに限定されるものではない。例えば、表層22が明確には存在しない地盤構成であってもよい。
【0023】
(基礎構造)
本発明の一実施形態に係る基礎構造100は、軟弱地盤20に設けられた基礎部の一例としての免震ピット110と、免震ピット110に設置され構造物10を支持する免震装置200と、軟弱地盤20に造成され軟弱地盤20よりも剛性が高い平面格子状の地盤改良体150(図2も参照)と、支持層28に根入れされた杭120(図2も参照)と、を含んで構成されている。
【0024】
(平面格子状の地盤改良体)
図1と図2とに示すように、平面格子状の地盤改良体150は、複数の縦壁152によって平面格子状に構成されている。地盤改良体150は、軟弱地盤20の下層部分を構成する過圧密層26に到達するように形成されている。また、地盤改良体150は、軟弱地盤20よりも剛性が高い材料で構成されている。更に、本実施形態では、地盤改良体150は軟弱地盤20よりも固い支持層28の剛性よりも高い材料で構成されている。本実施形態では、地盤改良体150はセメントを主成分とする地盤改良材で構成されている。
【0025】
なお、地盤改良体150の造成(形成)方法は限定されない。一例として本実施形態では、深層混合処理機を用いて、貫入及び引抜きする際に、スラリー状のセメント系固化材を吐出しながら土と撹拌混合させて形成する深層混合処理工法(DCM工法(登録商標):Deep Cement Mixing)によって地盤改良体150を造成(形成)している。
【0026】
また、過圧密層26は、十分に圧密された地盤であり、本実施形態においては、下部から地盤中を伝播してきた地震動を、上層部分の軟弱層24よりも、地盤改良体150に伝える層である。
【0027】
(杭)
図1と図2とに示すように、杭120は、地盤改良体150の各格子目154部分に設けられ、下端部122は支持層28に根入れされている。なお、本実施形態では、このように、杭120の下端部122は支持層28に根入れされているが、根入れされていなくてもよい。
【0028】
(免震ピット)
図1に示すように、免震ピット110は、鉄筋コンクリート製とされ、平面格子状の地盤改良体150及び杭120の上に設けられている。すなわち、免震ピット110は、地盤改良体150及び杭120によって支持されている。
【0029】
免震ピット110は、底部112と周壁114とを含む構成とされ、免震ピット110の底部112の上に、免震装置200が設けられている。
【0030】
(免震装置)
図1に示すように、免震装置200は、アイソレーターの一例としての積層ゴム210(図3(A))とエネルギー吸収装置の一例としてのダンパー220(図3(B))とを含んで構成されている。免震装置200(積層ゴム210及びダンパー220)は、免震ピット110の底部112と構造物10とに連結されている。また、積層ゴム210は、杭120の直上に設置されている。そして、この免震装置200(積層ゴム210及びダンパー220)の上に構造物10が構築されている。
【0031】
なお、積層ゴム(アイソレーター)210は、短い周期の揺れを長い周期の揺れに変える機能を有し、ダンパー(エネルギー吸収装置)220は、長い周期の揺れに変わった構造物10を早く止めるためにエネルギー吸収する機能を有する。
【0032】
図3(A)に示すように、免震装置200を構成する積層ゴム210は、ゴム板212と鋼板214とを厚み方向に交互に積層した構成とされている。なお、積層ゴムは、図3(A)に示す構成に限定されない。他の構成の積層ゴムであってもよい。更に、積層ゴム以外のアイソレーター、例えば滑り免震支承であってもよい。
【0033】
図3(B)に示すように、ダンパー220は、花弁状の鋼棒222が変形することでエネルギーを吸収する鋼棒ダンパーとなっている。なお、ダンパーは、図3(B)に示す構成に限定されない。他の構成の履歴ダンパーであってもよい。更に、ダンパー以外の非線形性を示すエネルギー吸収装置であってもよい。
【0034】
また、本実施形態の免震装置200は、積層ゴム(アイソレーター)210(図3(A))とダンパー(エネルギー吸収装置)220(図3(B))とが別々に設置される別置型であったが、これに限定されない。アイソレーターとエネルギー吸収装置とが一体化された一体型の免震装置であってもよい。
【0035】
(構造物)
図1に示すように、構造物10は、柱12と梁14とを有するラーメン構造となっている。そして、免震装置200を構成する積層ゴム210は、柱12の直下に位置するように免震ピット110の底部112に設置されている。
【0036】
<作用及び効果>
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
(比較例)
まず、本発明が適用されていない比較例について説明する。
【0038】
図4(A)に示す比較例の基礎構造500は、軟弱地盤20に設けられた免震ピット110と、免震ピット110に設置され構造物10を支持する免震装置200と、杭120(図1、図4(B))よりも太い杭520と、を含んで構成されている。免震ピット110は杭520の上に設けられている。
【0039】
このように比較例の基礎構造500は、本発明が適用された基礎構造100に対して軟弱地盤20に平面格子状の地盤改良体150(図1、図4(B))が造成(形成)されていない構造である。また、地盤改良体150が造成されていない分、太い杭520で免震ピット110及び構造物10を支持している。
【0040】
(構造物の地震動の影響)
図4(A)の比較例の基礎構造500及び図4(B)の本実施形態の基礎構造100(図1も参照)は、免震装置200によって構造物10の一次周期を長周期にすることで、地震時に構造物10が受ける影響(損傷)が低減される。
【0041】
ここで、軟弱地盤20の揺れは、表層22(地表面)に近づくにつれて大きく増幅し、表層22の地震動が大きくなることが知られている。しかし、このような地震動の増幅成分は主に短周期であり、免震装置200によって支持された一次周期が長い構造物10では、地震動の短周期成分による影響は受けにくいと考えられていた。
【0042】
しかしながら本発明者らの研究によって、比較例のように免震装置200によって支持された構造物10の振動(揺れ)の最大値は、免震装置200を構成するダンパー220の非線形性により励起される「短周期の卓越成分による二次振動モード」によって支配されることが判った。なお、このことは、後述する図9に示されているように、長周期振動中は短周期(約0.4秒)で構造物10が振動していることから判る。
【0043】
なお、免震装置を構成する履歴ダンパー(本実施形態ではダンパー220)等の非線形性によって短周期が励起されることは周知であり、例えば、日本建築学会の免震構造設計指針(ISBN-4-8189-0529-1)の199頁等に記載されている。これは、線形の場合は入力に高次(=短周期)の成分がなければ(加速度)応答にもその成分が出てこないが、非線形の場合、特にバイリニアのように履歴ループに角(かど)がある場合は、インパルスが発生し、全振動数を刺激することになり、短周期(=高次)が励起されるからである。
【0044】
図5は、上述した日本建築学会の免震構造設計指針(ISBN-4-8189-0529-1)の121頁に示されているフロアレスポンススペクトルを示す模式図(グラフ)である。この模式図には、免震装置を介して基礎部に支持された免震構造物の一次固有周期のうち、積層ゴム(アイソレータ)のみの周期Tfと、積層ゴム(アイソレータ)とダンパーのばね定数との和から求まる周期Tsとの間の応答増幅の他に、二次周期T2があることが示されている。そして、入力地震動は、様々な周波数成分の波を有しており、この二次周期T2における免震構造物の応答加速度は、ダンパーの非線形特性によって増幅されることが示されている。また、高い振動数成分の入力地震動を低減しない場合、免震装置が非線形性を持てば、更に高次モードを励起することが示唆されている。
【0045】
よって、図4(A)に示す比較例の基礎構造500では、杭520の水平剛性が小さく地盤の応答にほとんど抵抗しないことから、免震装置200を支持する免震ピット110に入力される地震動は表層22(地表面)の地震動に近い入力となり、このため免震装置200によって支持された構造物10は、短周期の卓越成分による二次周期(二次振動モード)で大きく揺れる。
【0046】
これに対して、図1及び図4(B)に示す本実施形態の基礎構造100では、軟弱地盤20に造成(形成)した剛性の高い地盤改良体150によって地震動の入力損失が生じ、免震ピット110に入力される地震動の短周期成分が低減する。よって、免震装置200を構成するダンパー220の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物10の二次振動モードの振動が低減する。
【0047】
すなわち、図4(A)に示すように、比較例の基礎構造500の場合は、軟弱地盤20の表層22(地表面)の加速度Aによって、免震ピット110に加速度B1が生じ、構造物10は加速度C1となる。
【0048】
これに対して、図4(B)に示すように、本実施形態の基礎構造100の場合は、剛性の高い地盤改良体150で入力損失することで、免震ピット110では加速度B1よりも小さい加速度B2となり、この結果、構造物10は加速度C1よりも小さい加速度C2となる。
【0049】
また、地盤改良体150を軟弱地盤20の下層部分を構成する過圧密層26に到達するように形成することで、免震ピット110に入力される地震動の短周期成分が効果的に低減し、この結果、構造物10の二次振動モードの振動が効果的に低減する。
【0050】
また、地盤改良体150を支持層28よりも剛性が高い材料で構成することで、免震ピット110に入力される地震動の短周期成分が更に効果的に低減し、この結果、構造物10の二次振動モードの振動が更に効果的に低減する。
【0051】
なお、このように地盤改良体150と軟弱地盤20との剛性比を高めることで、入力損失の効果が向上する。よって、地盤改良体150は、上述したようにセメント系固化材を用いている。しかし、地盤改良体の材料はセメント系固化材に限定されるものではない。
【0052】
また、地盤改良体150を平面視にて格子状に形成することで、地盤改良体150全体の剛性を効果的に高くすることできる。よって、免震ピット110に入力される地震動の短周期成分が更に効果的に低減し、この結果、構造物10の二次振動モードの振動が更に効果的に低減する。
【0053】
また、地盤改良体150を液状化防止や鉛直および水平支持力の増強機能と兼用することで、本実施形態の杭120は、比較例の杭520(図4(A))と比べて、規模(杭径、杭長、本数)を少なくすることが可能となり、この結果、施工コストを抑えることができる。更に、杭120が設けられていない基礎構造とすることも可能である。
【0054】
(設計方法)
つぎに、基礎構造100の設計方法の一例を説明する。
【0055】
まず、構造物10を支持する免震装置200の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する(第一工程)。
【0056】
具体的には、免震装置200を考慮した構造物10の応答解析を行い2次モードを特定することで、励起される地震動の短周期の卓越成分が判る。
【0057】
つぎに、求められた短周期の卓越成分による構造物10の二次周期の応答を小さくするように、免震装置200が設置された免震ピット(基礎部)200が設けられた軟弱地盤20に形成する地盤改良体150の構造(深さ、改良率、せん断剛性等)を計算する(第二工程)。
【0058】
具体的には、地盤改良体150の配置より、地盤改良体150による原地盤(軟弱地盤20)の改良率を計算し、原地盤のせん断剛性の低下程度を適切に考慮して等価な地盤のせん断剛性を設定して、地盤の1次元応答解析などを行い地表面の加速度応答を評価するし、地盤改良体150の構造を決定する。
【0059】
(検証データ)
つぎに、軟弱地盤20に剛性の高い地盤改良体150を造成(形成)することで、免震ピット110に入力される地震動の短周期成分が低減し、この結果、免震装置200を構成するダンパー220の非線形性によって励起される短周期の卓越成分による構造物10の二次振動モードの振動が低減することを検証した検証データについて説明する。
【0060】
[地盤改良体と免震ピットによる入力損失効果]
本実施形態の基礎構造100においては、図6(A)に示すように、免震ピット110の底部(基礎スラブ)112(Raft)上の水平加速度は約100galであるが、図6(B)に示すように表層22(GL-1.5m)の水平加速度は約175galである。このように、免震ピット110の底部112の水平加速度は、表層22の水平加速度の約60%程度に低減されており、地盤改良体150の埋設効果による入力損失が明確にみられる。
【0061】
図7(A)はパルツェン窓(Parzen window、カーネル密度推定)がある場合の、表層(GL-1.5m)の水平加速度、免震ピットの底部(Raft)上の水平加速度、構造物の1階(1F)の水平加速度、及び構造物の12階(12F)の水平加速度それぞれのフーリエ振幅を示している。図7(B)は、パルツェン窓(Parzen window、カーネル密度推定)等の平滑化処理がない場合の、表層(GL-1.5m)の水平加速度及び免震ピットの底部(Raft)上の水平加速度のフーリエ振幅を、参考として示している。
【0062】
これら図7(A)及び図7(B)において、免震ピット110の底部112上の水平加速度と表層22の水平加速度のフーリエスペクトルとを比較すると、免震ピット110の水平加速度は、入力損失により1s以下の短周期成分が大幅に低減されていることが判る。
【0063】
しかし、図7(A)に示すように、構造物10の1階(1F)及び12階(12F)においては、二次周期に相当する0.4s(2.5Hz)付近の低減割合は小さいことが判る。
【0064】
図8(A)は、免震ピット110の底部(基礎スラブ)112上の水平加速度のフーリエスペクトル(図4(A)の比較例の加速度B1と図4(B)の本実施形態の加速度B2)と、表層22(地表面付近)の水平加速度(図4(A)及び図4(B)の加速度A)のフーリエスペクトルと、の比を、実測値を元に模式的に図示している。
【0065】
これを見るとわかるように、本実施形態の基礎構造100(図4(B))は、比較例の基礎構造500(図4(A))と比較し、入力損失により1s以下(1Hz以上)の短周期成分が大幅に低減されている。
【0066】
そして、図8(C)は、構造物10の1階の水平加速度のフーリエスペクトル(図4(A)の加速度C1と図4(B)の加速度C2)と、表層22(地表面付近)の水平加速度(図4(A)及び図4(B)の加速度A)とのフーリエスペクトルと、の比を、実測値を元に模式的に図示している。
【0067】
これを見るとわかるように、本実施形態の基礎構造100(図4(B))は、比較例の基礎構造500(図4(A))と比較し、入力損失により1s以下(1Hz以上)の短周期成分が大幅に低減されている。
【0068】
[構造物の揺れの最大値(最大加速度)が構造物の二次周期に支配されている説明]
図8(B)は、構造物10の1階の水平加速度のフーリエスペクトル(図4(A)の加速度C1と図4(B)の加速度C2)と、免震ピット110の底部(基礎スラブ)112上の水平加速度のフーリエスペクトル(図4(A)の加速度B1と図4(B)の加速度B2)と、の比を、実測値を元に模式的に図示している。これは図4(A)の比較例の加速度B1及び加速度C1と、図4(B)の本実施形態の加速度B2と加速度C2との比に相当する。
【0069】
また、免震ピットの応答B1及びB2と建物応答C1及びC2との比は同じであるため、図8(C)で構造物10の二次周期にあたる0.4s(2.5Hz)での増幅が明確にみられる。
【0070】
なお、免震装置200がない場合の構造物10の固有周期は、1階に対する12階1のフーリエスペクトル比は1.5Hz程度であり、2.5Hzは、構造物10自身の一次固有周期ではない。
【0071】
図9(A)は、免震ピット110の直上の構造物10の1階の水平加速度と、構造物10の最上階である12階の加速度とのそれぞれにおける時刻歴波形が示されている。
【0072】
この図9(A)の波形を図9(B)に示すように拡大すると判るように、2次モード(周期0.4秒)で位相が逆転しており、構造物10の上部構造部分(12階)の最大応答加速度が、構造物10の二次振動モード(二次周期)に支配されていることが判る。
【0073】
また、図示は省略するが免震ピット110の直上の構造物10の1階と構造物10の最上階である12階とにおける加速度のフーリエスペクトルは、構造物10の二次周期にあたる0.4(2.5Hz)の増加が明確にみられることを確認した。
【0074】
[地盤改良体の効果(地盤改良体がない比較例との比較)]
前述したように、図8(C)に模式的に図示しているように、本実施形態の基礎構造100(図4(B))は、比較例の基礎構造500(図4(A))と比較し、入力損失により1s以下(1Hz以上)の短周期成分が大幅に低減されている。
【0075】
また、地盤改良体150がない比較例の基礎構造500(図4(A))の場合、免震ピット110の下部に入力する地震動は、表層22(地表面付近)の加速度Aとほぼ等しいことから、175gal程度と推定される。
【0076】
図10は、地盤改良体150が造成(形成)されていない比較例の基礎構造500(図4(A))と、地盤改良体150が造成(形成)されている本実施形態の基礎構造100(図1、図4(B))と、の入力損失の比較をFEM解析した結果が示されている。
【0077】
具体的には、図10は免震ピット110の底部(基礎スラブ)112上の水平加速度応答スペクトルと、表層22(地表面付近)の水平加速度応答スペクトルと、の比を示している。
【0078】
この図10を見ると判るように、本実施形態の基礎構造100(図4(B))は、比較例の基礎構造500(図4(A))と比較し、入力損失により1s以下(1Hz以上)の短周期成分が大幅に低減されている。したがって、免震装置200を用いる場合、本実施形態の基礎構造100で支持された構造物10の上部構造部分の揺れは、比較例の基礎構造500で支持される場合と比較し、60%程度に低減されることが推定される。
【0079】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0080】
また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
10 構造物
20 軟弱地盤
22 表層
24 軟弱層
26 過圧密層
28 支持層
100 基礎構造
110 免震ピット(基礎部の一例)
150 地盤改良体
200 免震装置
210 積層ゴム(アイソレーターの一例)
220 ダンパー(履歴ダンパーの一例)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
軟弱地盤に設けられた基礎部と、
前記基礎部に設置され、構造物を支持する免震装置と、
前記軟弱地盤に形成され、前記軟弱地盤よりも剛性が高く、前記軟弱地盤よりも下層にある該軟弱地盤よりも固い支持層に到達していない地盤改良体と、
を備える基礎構造に適用され、
前記免震装置の非線形性によって励起される地震動の短周期の卓越成分を計算する第一工程と、
前記第一工程で求められた短周期の卓越成分による前記構造物の二次周期の応答を小さくするように、前記地盤改良体の構造を、該地盤改良体による前記軟弱地盤の改良率を計算した計算結果に基づき、前記軟弱地盤のせん断剛性と等価な地盤を設定し、前記地盤の地表面の加速度応答を評価して決定する第二工程と、
を備える基礎構造の設計方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-18 
出願番号 特願2013-138432(P2013-138432)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (E02D)
P 1 651・ 121- YAA (E02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 苗村 康造  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
西田 秀彦
登録日 2017-09-22 
登録番号 特許第6210760号(P6210760)
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 基礎構造の設計方法  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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