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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1349644
異議申立番号 異議2018-700026  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-12 
確定日 2019-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6166235号発明「塗工液、塗工膜、及び複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6166235号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?22〕について訂正することを認める。 特許第6166235号の請求項1?22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6166235号の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成26年8月26日に特願2014-171188号として特許出願され、平成29年6月30日に特許権の設定登録がされ、平成29年7月19日にその特許公報が発行され、その請求項1?22に係る発明の特許に対し、平成30年1月12日に加藤加津子(以下「特許異議申立人A」という。)により、その請求項1?2、4?16及び19?22に係る発明の特許に対し、平成30年1月18日に大野芙美(以下「特許異議申立人B」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 3月 9日付け 取消理由通知
同年 5月10日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 5月14日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 6月12日 意見書(特許異議申立人A)
同年 7月23日付け 取消理由通知
同年 9月25日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月15日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、特許異議申立人Bは、平成30年5月14日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。
また、特許異議申立人A及びBは、平成30年10月15日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 訂正の適否
1.訂正請求の趣旨及び内容
平成30年5月10日付けの訂正請求は特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
平成30年9月25日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6166235号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?22について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?12のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付した。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、
前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体、デンプン誘導体、未変性ポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、
前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記未変性ポリビニルアルコールの鹸化度が、98モル%以下であり、
前記変性ポリビニルアルコールが、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変成ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である塗工液。」とあるのを
「極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、
前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、
前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、
前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、
固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液。」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の明細書の段落0011に
「[1]極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体、デンプン誘導体、未変性ポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記未変性ポリビニルアルコールの鹸化度が、98モル%以下であり、前記変性ポリビニルアルコールが、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変成ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である塗工液。」とあるのを
「[1]極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液。」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落0109に「(実施例2?7、11?20、参考例8?10、比較例1?2)」とあるのを「(実施例2、3、5?7、11、12、参考例4、8?10、13?20、比較例1?2)」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落0110の表I-2に「実施例4」、「参考例8」、「参考例9」、「参考例10」、「実施例13」、「実施例14」、「実施例15」、「実施例16」、「実施例17」、「実施例18」、「実施例19」及び「実施例20」とあるのを「参考例4」、「参考例8」、「参考例9」、「参考例10」、「参考例13」、「参考例14」、「参考例15」、「参考例16」、「参考例17」、「参考例18」、「参考例19」及び「参考例20」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落0117に「(実施例22?24、26、参考例25、比較例3?4)」とあるのを「(実施例22?24、参考例25、26、比較例3?4)」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落0118の表I-3に「参考例25」及び「実施例26」とあるのを「参考例25」及び「参考例26」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落0124に「(実施例28、31、32、参考例29、30)」とあるのを「(参考例28?32)」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落0125に「実施例27、28、31、32、参考例29、30のキャパシタ」とあるのを「実施例27、参考例28?32のキャパシタ」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の明細書の段落0126の表I-4に「実施例28」、「参考例29」、「参考例30」、「実施例31」及び「実施例32」並びに「実施例4」、「参考例8」、「参考例10」、「実施例15」及び「実施例20」とあるのを「参考例28」、「参考例29」、「参考例30」、「参考例31」及び「参考例32」並びに「実施例4」、「参考例8」、「参考例10」、「参考例15」及び「参考例20」に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の明細書の段落0130に「(実施例34?39、43?52、参考例40?42、比較例6?7、参考例1)」とあるのを「(実施例34、35、37?39、43、44、参考例36、40?42、45?52、比較例6?7、参考例1)」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正前の明細書の段落0131の表II-1に「実施例36」、「参考例40」、「参考例41」、「参考例42」、「実施例45」、「実施例46」、「実施例47」、「実施例48」、「実施例49」、「実施例50」、「実施例51」及び「実施例52」とあるのを「参考例36」、「参考例40」、「参考例41」、「参考例42」、「参考例45」、「参考例46」、「参考例47」、「参考例48」、「参考例49」、「参考例50」、「参考例51」及び「参考例52」に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の明細書の段落0132に「実施例33?39、43?52、参考例40?42の塗工膜」とあるのを「実施例33?35、37?39、43、44、参考例36、40?42、45?52の塗工膜」に訂正する。

2.訂正事項1?12の適否
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的
訂正事項1において、訂正前の請求項1の「を含有し、前記親水性ポリマーが」との記載部分を「を含有し、前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、前記親水性ポリマーが」との記載に改める訂正は、その「親水性ポリマーの含有量」を「前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部」に対して「5質量部以上10.4質量部以下」の範囲に限定することにより「特許請求の範囲の減縮」をしようとするものである。
また、訂正前の請求項1の「キトサン誘導体、デンプン誘導体、未変性ポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種」との記載部分を「キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種」との記載に改めるとともに「前記未変性ポリビニルアルコールの鹸化度が、98モル%以下であり、前記変性ポリビニルアルコールが、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変成ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種」との記載部分を削除する訂正は、その「親水性ポリマー」の選択肢の範囲から「未変性ポリビニルアルコール」及び「変性ポリビニルアルコール」の選択肢を削除するとともに当該削除された選択肢に関する記載を削除することにより「特許請求の範囲の減縮」をしようとするものである。
そして、訂正前の請求項1の「であり、…である塗工液」との記載部分を「であり、全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液」との記載に改める訂正は、その「ポリフッ化ビニリデンの含有量」を「全量を100質量部とした場合」に「5質量部以下」の範囲に限定するとともに、その「塗工液」を「固形分の含有量が、1?35質量%」であるものに限定することにより「特許請求の範囲の減縮」をしようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、訂正後の請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?22についても同様に特許請求の範囲が減縮されることになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1は、上記「ア.」に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
本件特許明細書の段落0056には「親水性ポリマーの含有量が0.1質量部未満であると、形成される塗工膜の強度や密着性が不足し、塗工膜から塗工膜中の成分が脱落しやすくなる。一方、親水性ポリマーの含有量が40質量部を超えると、均一な溶液が得られなくなる。」との記載があり、同段落0104の表I-1には、極性溶媒90質量部、親水性ポリマー5質量部、及びポリフッ化ビニリデン5質量部の合計100質量部に対する、親水性ポリマーの含有量が、5質量部である「例I-3」の具体例と、極性溶媒85質量部、親水性ポリマー9.9質量部、及びポリフッ化ビニリデン0.1質量部の合計100質量部に対する、親水性ポリマーの含有量が、10.4質量部である「例I-7」の具体例が記載されているので、訂正事項1の「親水性ポリマーの含有量」を「前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部」に対して「5質量部以上10.4質量部以下」に限定する訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
また、複数の選択肢のうちの一部の選択肢を削除することによって新たな技術的事項が導入されないことは明らかであるから、訂正事項1の「親水性ポリマー」の選択肢から「未変性ポリビニルアルコール」及び「変性ポリビニルアルコール」の選択肢を削除するとともに当該削除された選択肢に関する記載を削除する訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
さらに、本件特許明細書の段落0056には「PVDFの含有量が40質量部を超えると、均一な溶液が得られなくなる。」との記載があり、同段落0104の表I-1には、極性溶媒90質量部、親水性ポリマー5質量部、及びポリフッ化ビニリデン5質量部の合計100質量部に対する、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の含有量が、5質量部である「例I-3」の具体例と、これより少ないPVDF含有量の具体例が記載されているので、訂正事項1の「ポリフッ化ビニリデンの含有量」を「全量を100質量部とした場合」に「5質量部以下」に限定する訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
そして、本件特許明細書の段落0055には「塗工液中の固形分の含有量は、1?35質量%であることが好ましい。」との記載があるので、訂正事項1の「塗工液」を「固形分の含有量が、1?35質量%」であるものに限定する訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア.訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1にともない特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項2は、訂正事項1にともない特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、上記「(1)イ.」に示したのと同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項2は、訂正事項1にともない特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、上記「(1)ウ.」に示したのと同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3?12
ア.訂正の目的
訂正事項3?12は、本件特許明細書中の実施例のうち訂正事項1により実施例に該当しなくなったものを参考例に改め、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、訂正事項3?12は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ.拡張又は変更の存否
訂正事項3?12は、本件特許明細書中の実施例に該当しなくなったものを参考例に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項3?12は、本件特許明細書中の実施例に該当しなくなったものを参考例に改めるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?22について、その請求項2?22はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?22に対応する訂正後の請求項1?22は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

(5)明細書又は図面の訂正と関連する請求項について
訂正事項2?12による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1?22であるから、訂正事項2?12と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。
したがって、訂正事項2?12による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3.訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1?12による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?22〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正により訂正された請求項1?22に係る発明(以下「本1発明」?「本22発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、
前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、
前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、
前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、
固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液。
【請求項2】前記極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、及びβ-アルコキシプロピオンアミド類からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】前記ヒドロキシアルキルキトサンが、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサン、及びジヒドロキシプロピルキトサンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の塗工液。
【請求項4】さらに多塩基酸を含有する請求項1?3のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項5】さらに導電性材料を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項6】前記導電性材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層カーボンナノファイバー、多層カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項5に記載の塗工液。
【請求項7】請求項1?6のいずれか一項に記載の塗工液を用いて形成される塗工膜。
【請求項8】JIS R3257に準拠して測定される接触角が70°以上である請求項7に記載の塗工膜。
【請求項9】請求項1?6のいずれか一項に記載の塗工液を80℃以上に加熱する工程を含む塗工膜の形成方法。
【請求項10】基材と、前記基材上に一体的に配設された請求項7又は8に記載の塗工膜と、を備える複合材料。
【請求項11】前記基材が、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革からなる群より選択される少なくとも一種である請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】前記金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、及びステンレスからなる群より選択される少なくとも一種である請求項11に記載の複合材料。
【請求項13】集電体と、前記集電体の表面上に配設された、請求項5に記載の塗工液からなる塗工膜と、を備える電極板用部材。
【請求項14】請求項13に記載の電極板用部材と、
前記電極板用部材を構成する前記塗工膜の表面上に配設された電極層と、を備える蓄電装置用電極板。
【請求項15】前記塗工膜の膜厚が0.1?10μmである請求項14に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項16】前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、
前記電極層が正極活物質を含有する請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項17】前記電極用部材を構成する前記集電体が銅箔であり、
前記電極層が負極活物質を含有する請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項18】前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、
前記電極層が分極性電極である請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項19】請求項5に記載の塗工液を集電体の表面に塗布して塗工膜を形成した後、前記塗工膜の表面上に電極層を形成する工程を有する蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項20】前記塗工液を塗布し、次いで、
前記塗工液中の前記極性溶媒を加熱して除去した後、又は除去しながら、100?250℃で1秒?60分加熱処理して前記塗工膜を形成する請求項19に記載の蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項21】請求項14?18のいずれか一項に記載の蓄電装置用電極板を備える蓄電装置。
【請求項22】二次電池又はキャパシタである請求項21に記載の蓄電装置。」

第4 特許異議申立て及び取消理由通知の概要について
1.特許異議申立人Aの証拠と主張の概要
特許異議申立人Aは、証拠として以下の甲第1号証?甲第6号証(以下「甲1A」?「甲6A」ともいう。)を提出し、以下の取消理由1及び2により、本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消す旨の決定がなされるべきものであるとの主張をしている。
甲第1号証:特許第5454725号公報
甲第2号証:特開2008-60060号公報
甲第3号証:国際公開2009/147989号
甲第4号証:特許第4240157号公報
甲第5号証:特開2010-61932号公報
甲第6号証:共立出版株式会社「化学大辞典5」、昭和56年10月15日縮刷版第26刷、624頁
取消理由1:特許法第29条第1項第3号(請求項1?2、5?7、9?13)
取消理由2:特許法第29条第2項(請求項1?22)

2.特許異議申立人Bの証拠と主張の概要
特許異議申立人Bは、証拠として以下の甲第1号証?甲第6号証(以下「甲1B」?「甲6B」ともいう。)を提出し、以下の取消理由1及び2により、本件特許の請求項1、2、4?16及び19?22に係る特許を取り消す旨の決定がなされるべきものであるとの主張をしている。
甲第1号証:特許第5454725号公報
甲第2号証:特開2004-363018号公報
甲第3号証:特開2005-239929号公報
甲第4号証:特開2001-181862号公報
甲第5号証:特開2009-123463号公報
甲第6号証:特開2010-61996号公報
取消理由1:特許法第29条第1項第3号(請求項1?2、5?13)
取消理由2:特許法第29条第2項(請求項1、2、4?16、19?22)

3.取消理由通知の概要
訂正前の請求項1?22に係る特許に対して平成30年3月9日付け及び同年7月23日付けで特許権者に通知した取消理由1及び2の要旨は、次のとおりである。
〔理由1〕本件特許の請求項1?2及び5?13に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
〔理由2〕本件特許の請求項1?22に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?6に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
〔引用刊行物一覧〕
刊行物1:特許第5454725号公報(甲1A及び甲1Bに同じ。)
刊行物2:特開2008-60060号公報(甲2Aに同じ。)
刊行物3:国際公開第2009/147989号(甲3Aに同じ。)
刊行物4:特開2009-123463号公報(甲5Bに同じ。)
刊行物5:特開2004-363018号公報(甲2Bに同じ。)
刊行物6:特開2010-61996号公報(甲6Bに同じ。)

また、平成30年5月10日付けの訂正請求による訂正後の請求項1?22に係る特許に対して平成30年7月23日付けで特許権者に通知した取消理由3の要旨は、次のとおりである。
〔理由3〕本件特許の請求項1?22に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(い)訂正後の請求項1に導入された「前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上」という上限値を規定しない数値範囲の全てが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。
(ろ)塗工液の全量100質量部に対するポリフッ化ビニリデン(PVDF)の含有量が、訂正後の実施例における最大値(5質量部)を超える範囲にあるのもの全てが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。
(は)本件特許明細書の段落0055の「塗工液中の固形分の含有量は、1?35質量%である」との記載にある固形分含有量の数値範囲の範囲外にあるもの全てが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

第5 当審の判断
1.取消理由通知の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)刊行物1?6の記載事項
ア.刊行物1の記載事項
摘記1a:特許請求の範囲
「【請求項1】カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、60?85mol%であり、カーボンブラックのBET比表面積をXm^(2)/g、カーボンブラック1gに対するポリビニルアルコール樹脂の添加量をaXgとした場合に、aが0.00017≦a≦0.00256の範囲であり、カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が2重量部以上、8重量部以下であることを特徴とするカーボンブラック分散液。
【請求項2】請求項1記載のカーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液。
【請求項3】請求項1記載のカーボンブラック分散液または請求項2記載の電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項4】集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項3記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。」

摘記1b:背景技術と発明の効果
「【0007】…現在、リチウムイオン二次電池用電極の生産においては、電極を形成するために特に好適な結合剤としてポリフッ化ビニリデンが、…溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンが、一般に用いられている。…
【0017】本発明により、従来公知の樹脂型分散剤を用いた場合よりも、顕著に低粘度なカーボンブラック分散液を得ることができ、カーボンブラック濃度を高くすることが可能となる。その結果、従来よりも高濃度なカーボンブラック分散液を提供できるようになり、N-メチル-2-ピロリドン溶剤の使用量を大幅に低減できると共に、塗工した塗膜の乾燥プロセスも大幅に短縮することが出来るようになる。また、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N-メチル-2-ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが可能となる。
【0018】また、該分散体を用いて二次電池用電極合材液を調製した場合、低粘度であることから活物質粉体の添加や混練が容易になり、さらに、各電極成分が高濃度な電極合材液を用いても、均質で良好な塗膜を得ることが出来るため、表面抵抗の低い電池電極合材層を得る事が可能となる。」

摘記1c:ポリビニルアルコール樹脂
「【0026】本発明で使用するポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルエステル、特にポリ酢酸ビニルをけん化することによって得られるポリビニルアルコール樹脂が専ら使用されるが、これに限定されない。また、けん化度は60?85mol%のものが使用される。上記けん化度のポリビニルアルコール樹脂であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0027】また、上記けん化度の範囲内であれば、水酸基、酢酸基以外の官能基として、例えば、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基を導入されたものや、各種の塩によって変性されたもの、その他アニオンあるいはカチオン変性されたもの、アルデヒド類によってアセタール変性(ブチラール変性等)されたものなども、本発明で使用するけん化度が60?85mol%であるポリビニルアルコール樹脂の範囲に含まれ、これらは、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。」

摘記1d:従来公知の樹脂(キトサン類)と添加剤(有機酸)
「【0047】本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。…また樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、…キトサン類、デンプン等が挙げられる。また添加剤としては、リン化合物、硫黄化合物、有機酸…等が挙げられる。」

摘記1e:刊行物1記載の発明の用途
「【0048】<カーボンブラック分散液の用途>
本発明のカーボンブラック分散液の利用分野としては、特に制限はないが、遮光性、導電性、耐久性、漆黒性等が要求される分野、例えば、グラビアインキ、オフセットインキ、磁気記録媒体用バックコート、静電トナー、インクジェット、自動車塗料、繊維・プラスチック形成材料、電池用電極、電子写真用シームレスベルトにおいて、安定かつ均一な組成物を提供し得るものである。中でも、NMPを使用すること、ポリフッ化ビニリデンやポリイミド前駆体などと相溶すること、および形成される塗膜や成型物の強度、柔軟性が良好なことから、リチウムイオン二次電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極、電子写真用シームレスベルトに好適などに用いられる。」

摘記1f:実施例
「【0050】以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%を、それぞれ表す。
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、ポリビニルアルコール樹脂(「PVA」と略記することがある)、バインダー、電極活物質等を以下に示す。また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、全てN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。
【0051】<カーボンブラック>
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径30nm、比表面積74m^(2)/g、以下#30と略記する。…
・デンカブラックHS-100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m^(2)/g、以下HS-100と略記する。…
【0053】<ポリビニルアルコール樹脂>
・クラレポバール L-8(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・s、以下L-8と略記する。…
【0054】<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、PVDFと略記する。…
【0055】<活物質>
・HLC-22(本荘ケミカル社製):正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m^(2)/g、以下、LCOと略記する。…
【0063】<バインダーを含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例2-1?実施例2-4、実施例2-9、実施例2-10、実施例2-12、実施例2-17、実施例2-18]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ポリビニルアルコール樹脂と各種バインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。…
【0066】[比較例2-1?比較例2-5]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、各種ポリビニルアルコール樹脂とPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。…
【0068】<正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例3-1?実施例3-3、実施例3-9、実施例3-10、実施例3-12]
表3に示す組成に従い、実施例2-1?実施例2-3および実施例2-9、実施例2-10、実施例2-12で得たバインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。…
【0071】[比較例3-1?比較例3-3]
表3に示す組成に従い、比較例2-3?比較例2-5で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。…
【0073】<電池電極合材層の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液を電池電極合材液として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜(電池電極合材層)を作製した。…
【0076】<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例5-1?実施例5-3、実施例5-8、実施例5-9、実施例5-11、比較例5-1?比較例5-3]
先に調製した電池電極合材液(実施例3-1?実施例3-3、実施例3-9、実施例3-10、実施例3-12、比較例3-1?比較例3-3の正極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF_(6)を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。…
【0083】【表2】

【0084】【表3】



イ.刊行物2の記載事項
摘記2a:請求項1?6及び15?16
「【請求項1】非プロトン性極性溶媒中にヒドロキシアルキルキトサンと有機酸および/またはその誘導体とを含む溶液に、活物質を添加して混練してなることを特徴とする電極板を製造するための塗工液。
【請求項2】ヒドロキシアルキルキトサンが、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサンおよびグリセリル化キトサンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】さらに導電助剤としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他の炭素系導電助剤のいずれかを含む請求項1に記載の塗工液。
【請求項4】非プロトン性極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ビニルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよびジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の塗工液。
【請求項5】有機酸が、多塩基酸である請求項1に記載の塗工液。
【請求項6】多塩基酸が、ピロメリット酸および/またはトリメリット酸である請求項5に記載の塗工液。…
【請求項15】集電体が、アルミニウム箔であり、活物質が正極活物質であり、電極板が正極である請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】集電体が、銅箔であり、活物質が負極活物質であり、電極板が負極である請求項13に記載の製造方法。」

摘記2b:刊行物2記載の発明の効果
「【0014】本発明によれば、活物質層の結着剤としてヒドロキシアルキルキトサン溶液を使用して活物質層を形成し、該層を加熱してヒドロキシアルキルキトサンを有機酸および/またはその誘導体で架橋させることによって、架橋されたヒドロキシアルキルキトサンは、電解液に溶解・膨潤することがなく、活物質層が集電体に対して密着性が優れ、集電体に対する接触抵抗が顕著に低減され、また、活物質層が良好な可撓性を有しているので、電池またはキャパシタの組立工程および充放電時に、活物質層の剥離、脱落、ひび割れなどが生じない電極板、電池およびキャパシタが得られる。…
【0016】…キトサンの誘導体であるヒドロキシアルキルキトサン…ヒドロキシアルキルキトサンの水溶液を電極板を製造するための塗工液の結着剤として使用してみたところ、該水溶液と活物質および導電助剤との馴染みが低く、基材である集電体との密着性が低く、従来技術の課題は解決されなかった。」

摘記2c:塗工液の固形分と密着性と運搬コストなどの観点
「【0030】本発明で用いるヒドロキシアルキルキトサン溶液中のヒドロキシアルキルキトサンの濃度は、塗布適性や運搬コストなどの観点から1?40質量%が好ましく、より好ましくは5?10質量%である。上記濃度が1質量%未満であると安定した活物質層が得にくく、かつ運搬コストの点でも不利であり、一方、上記濃度が40質量%を超えると均一な溶液を得にくくなる。…
【0033】本発明の塗工液は、前記ヒドロキシアルキルキトサンと有機酸および/またはその誘導体とを含む有機溶剤溶液に、前記活物質と必要に応じて前記導電助剤とを添加して混練することによって得られる。該塗工液における各成分の割合は活物質を100質量部とした場合、ヒドロキシアルキルキトサンが1?10質量部、有機酸および/またはその誘導体が0.5?30質量部、および導電助剤(使用する場合)が1?15質量部であることが好ましい。また、塗工液の固形分は10?80質量%であることが好ましい。
【0034】上記において、ヒドロキシアルキルキトサンの使用量が1質量部未満であると、形成される活物質層の強度および集電体に対する密着性が不足する場合がある。一方、ヒドロキシアルキルキトサンの使用量が10質量部を超えると形成される活物質層の導電性が低下する場合がある。」

ウ.刊行物3の記載事項
摘記3a:トリメリット酸などの有機酸
「[0020]本発明者らは、水酸基含有樹脂から形成される皮膜の耐有機溶剤性を改善すべく検討し、水酸基含有樹脂を有機酸および/またはその誘導体とともに特定の有機溶剤に加えて形成した溶液が、金属材料表面に優れた密着性と耐溶剤性を有する皮膜を与えることを見いだした。また、該有機溶剤溶液を活物質層の結着剤として使用して活物質層を形成すると、加熱乾燥時に有機酸および/またはその誘導体が水酸基含有樹脂の架橋剤として作用し、水酸基含有樹脂からなる皮膜が有機溶剤や電解液に対する溶解性・膨潤性がなくなり、金属材料表面や集電体に対して優れた密着性および耐溶剤性を有する活物質層が形成されることを見いだした。…
[0030]本発明で使用する有機酸またはその誘導体としては…トリメリット酸、…ピロメリット酸…などの有機酸が挙げられる。…
[0032]前記水酸基含有樹脂の架橋性の面から、特に3価以上の多塩基酸である…トリメリット酸、ピロメリット酸…が好ましい。本発明では有機酸および/またはその誘導体の使用量は、水酸基含有樹脂100質量部当たり1?150質量部であり、2?100質量部が好ましい。上記有機酸および/またはその誘導体の使用量が1質量部未満であると、架橋ポリマーの架橋密度が低く、形成される活物質層の集電体に対する密着性および架橋ポリマーの電解液に対する不溶解性、非膨潤性、電気化学的安定性の点で不十分であり、一方、上記使用量が150質量部を超えると形成される皮膜あるいは活物質層の可撓性が低下するとともに不経済である。」

摘記3b:塗布適性や運搬コストなどの観点からの組成
「[0036]本発明の塗工液中のポリマーの濃度は、塗布適性や運搬コストなどの観点から1?40質量%が好ましく、より好ましくは5?10質量%である。上記濃度が1質量%未満であると安定した皮膜あるいは活物質層が得にくく、かつ運搬コストの点でも不利であり、一方、上記濃度が40質量%を超えると均一な溶液を得にくくなる。」

エ.刊行物4の記載事項
摘記4a:硫黄やリンを含む化合物
「【0015】本発明によれば、硫黄(S)やリン(P)を含む化合物と、主結着剤となる高分子と、所定の異種高分子を併用することとしたため、正極合剤層の均一性、耐久性及び生産性に優れたリチウムイオン二次電池用正極、その製造方法及び当該正極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。…
【0021】…硫黄含有化合物としては、例えば、硫酸…及び有機硫酸塩などが挙げられる。…リン含有化合物としては、リン酸…及び有機リン酸塩などが挙げられる。」

オ.刊行物5の記載事項
摘記5a:PVDFの撥水性
「【0046】水に対する接触角が80°以上の撥水性物質としては…ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂…などがある」

カ.刊行物6の記載事項
摘記6a:リチウム二次電池
「【0174】リチウム二次電池は、集電体上に正極合剤層を有する正極と、集電体上に負極合剤層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。前記正極合剤層と前記集電体との間や、前記負極合剤層と前記集電体との間には、電極下地層が形成されていてもよい。
【0175】電極について、使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が用いられるが、特に正極材料としてはアルミニウムが、負極材料としては銅が、好ましい。又、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状のものも使用できる。
【0176】集電体上に電極下地層を形成する方法としては、前述の電極下地ペーストを電極集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。電極下地層の膜厚としては、導電性及び密着性が保たれる範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。
【0177】集電体上に電極合剤層を形成する方法としては、集電体上に上述の電極合剤ペーストを直接塗布し乾燥する方法、及び集電体上に電極下地層を形成した後に電極合剤ペーストを塗布し乾燥する方法等が挙げられる。又、電極下地層の上に電極合剤層を形成する場合、集電体上に電極下地ペーストを塗布した後、湿潤状態のうちに電極合剤ペーストを重ねて塗布し、乾燥を行っても良い。電極合剤層の厚みとしては、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。」

(2)刊行物1に記載された発明
ア.刊1発明
摘記1aの「カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって…請求項1記載のカーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液。」との記載、並びに
摘記1fの「本実施例中、部は重量部を、%は重量%を、それぞれ表す。実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、ポリビニルアルコール樹脂(「PVA」と略記することがある)、バインダー、電極活物質等を以下に示す。…特に記載の無い残りの成分は、全てN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。…
<カーボンブラック>…デンカブラックHS-100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m^(2)/g、以下HS-100と略記する。…
<ポリビニルアルコール樹脂>…クラレポバール L-8(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・s、以下L-8と略記する。…
<バインダー>…KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、PVDFと略記する。…
<活物質>…正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))…以下、LCOと略記する。…
実施例2-10…表2に示す組成に従い、…各カーボンブラック分散液を得た。…実施例3-10…表3に示す組成に従い、…実施例2-10…で得たバインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。…先に調製した電池電極合材液(…実施例3-10…の正極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した」との記載、並びに「表2」の「実施例2-10」及び「表3」の「実施例3-10」の記載からみて、刊行物1には、
『カーボンブラック(デンカブラックHS-100(電気化学工業社製):平均一次粒子径48nm、比表面積39m^(2)/gのアセチレンブラック)12重量%と、バインダーとしてのPVDF(KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン)6重量%(固形成分量)と、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂(クラレポバール L-8(クラレ社製):けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・sのポリビニルアルコール樹脂)0.96重量%と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とからなるカーボンブラック分散液を、カーボンブラック(CB)の含有量が2.67重量%、正極活物質であるLCO(正極活物質コバルト酸リチウム)の含有量が62.7重量%になるように仕込んだドクターブレードを用いて塗布する電池用カーボンブラック分散液。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
ア.対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)」は、本件特許の請求項2の「前記極性溶媒が…N-メチル-2-ピロリドン…より選択される」との記載にあるとおりの「極性溶媒」に該当することが明らかであるから、本1発明の「極性溶媒」に相当する。
刊1発明の「分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂(クラレポバール L-8(クラレ社製):けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・sのポリビニルアルコール樹脂)0.96重量%」は、その「4%水溶液粘度」との記載からみて、親水性のポリマー樹脂であることが明らかであるから、本1発明の「親水性ポリマー」に相当する。
刊1発明の「バインダーとしてのPVDF(KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン)6重量%(固形成分量)」は、本1発明の「ポリフッ化ビニリデン」に相当する。
刊1発明の「ドクターブレードを用いて塗布する電池用カーボンブラック分散液」は、その「塗布する…分散液」との記載にあるように「塗布」に供される「液」であることが明らかであるから、本1発明の「塗工液」に相当する。
そして、刊1発明の「カーボンブラック(…)12重量%と、…PVDF(…ポリフッ化ビニリデン)6重量%(固形成分量)と、…ポリビニルアルコール樹脂(…)0.96重量%と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを含んでなるカーボンブラック分散液を、カーボンブラック(CB)の含有量が2.67重量%、正極活物質であるLCO(正極活物質コバルト酸リチウム)の含有量が62.7重量%になるように仕込んだ…分散液」は、
溶剤(NMP)81.04重量部(=100-12-6-0.96)と、親水性ポリマー(ポリビニルアルコール樹脂)0.96重量部と、ポリフッ化ビニリデン6重量部の合計88重量部を基準にして、
親水性ポリマー(ポリビニルアルコール樹脂)0.96重量部の含有量が、本1発明の「前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量」に換算して0.96÷88×100=1.09重量部となり、
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)6重量部の含有量が、本1発明の「全量を100質量部とした場合」に換算して6÷88×100=6.82重量部となり、
カーボンブラック(CB)12重量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)6重量%、及びポリビニルアルコール(PVA)0.96重量%を含むカーボンブラック分散液を、カーボンブラック(CB)2.67重量%、コバルト酸リチウム(LCO)62.7重量%になるように仕込んだ分散液の固形分濃度が、(6+0.96)×2.67/12+2.67+62.7=66.9重量%となる。

してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有する塗工液。』である点において一致し、次の相違点α?δにおいて相違する。

相違点α:極性溶媒、親水性ポリマー、及びポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する「親水性ポリマーの含有量」が、本1発明においては「5質量部以上10.4質量部以下」であるのに対して、刊1発明においては「1.09重量部」である点。

相違点β:親水性ポリマーが、本1発明においては「キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種」であるのに対して、刊1発明においては「ポリビニルアルコール」である点。

相違点γ:全量を100質量部とした場合の「ポリフッ化ビニリデンの含有量」が、本1発明においては「5質量部以下」であるのに対して、刊1発明においては「6.82重量部」である点。

相違点δ:塗工液の「固形分の含有量」が、本1発明においては「1?35質量%」であるのに対して、刊1発明においては「66.9重量%」である点。

イ.判断
(ア)相違点αについて
刊行物1に記載された発明は、刊行物1の請求項1(摘記1a)の「カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって、…カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が2重量部以上、8重量部以下であることを特徴とするカーボンブラック分散液。」との記載にあるように、その「ポリビニルアルコール樹脂」を「バインダー」としてではなく「分散剤」として含むものであって、その含有量は、カーボンブラック100重量部に対して「2重量部以上、8重量部以下」として、その上限値を「8重量部」に設定しているものである。
してみると、刊1発明は「CB100部に対するPVAの量」が「8.0部」という上限値での配合となっている(刊行物1の表2の「実施例2-10」を参照)ので、刊1発明の親水性ポリマーの含有量を、刊行物1に記載された発明における上限値を超えた範囲に設定することには阻害事由があるといえ、動機付けがあるとはいえない。
また、本件特許明細書の段落0080の「バインダーである親水性ポリマー及びPVDF」との記載にあるように、本1発明の「5質量部以上10.4質量部以下」という「親水性ポリマーの含有量」の数値範囲は、バインダーとしての好適値を設定したものであるところ、刊1発明の「分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂」の含有量を、バインダーとしての観点から好適化することに、動機付けがあるとはいえない。
そして、刊1発明の含有量の上限値をより大きな範囲に設定する動機付けが存在しないので、刊行物2(甲2A)の段落0030(摘記2c)に「ヒドロキシアルキルキトサン溶液中のヒドロキシアルキルキトサンの濃度は…より好ましくは5?10質量%」である」との記載があり、刊行物3(甲3A)の段落0036(摘記3b)に「塗工液中のポリマー濃度は…より好ましくは5?10質量%である」との記載があるとしても、刊1発明の含有量の範囲を、刊行物2?3に記載された濃度範囲にすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。
さらに、甲4A(特許第4240157号公報)には「電池用組成物」についての発明が記載され、甲5A(特開2010-61932号公報)には「電池用組成物」についての発明が記載され、甲6A(化学大辞典5)には「多塩基酸」についての説明が記載され、刊行物5として引用した甲2B(特開2004-363018号公報)には「固体高分子型燃料電池用多孔質電極基材」についての発明が記載され、甲3B(特開2005-239929号公報)には「コーティング用組成物」についての発明が記載され、甲4B(特開2001-181862号公報)には「基材への防汚性付与方法及び防汚性部材」についての発明が記載され、刊行物4として引用した甲5B(特開2009-123463号公報)には「リチウムイオン二次電池用正極、その製造方法及びリチウムイオン二次電池」についての発明が記載され、刊行物6として引用した甲6B(特開2010-61996号公報)には「電池用組成物」についての発明が記載されているところ、これらの刊行物には、塗工液において、極性溶媒、親水性ポリマー、及びポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、親水性ポリマーの含有量を「5質量部以上10.4質量部以下」とすることについて、示唆を含めて記載がない。
このため、本件特許の出願日当時の技術常識ないし甲4A?甲6A及び甲2B?甲6Bの刊行物の記載を参酌しても、刊1発明の含有量の範囲を、本1発明の範囲にすることが、当業者にとって容易であるとはいえない。
加えて、刊行物1に記載された発明は、刊行物1の段落0017(摘記1b)の記載にあるように「溶剤の使用量を大幅に低減」することを課題とした発明であって、取消理由通知に示した『カーボンブラック72重量部と、ポリフッ化ビニリデン(バインダー)6重量部と、ポリビニルアルコール樹脂(分散剤)5.76重量部と、NMP(溶剤)16.24重量部とからなる分散液。』のような組成からなるものを除外するものではないものの、本1発明は「固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液」に関するものとされたから、本1発明の「固形分の含有量」の条件を満たした上で、刊1発明の「親水性ポリマーの含有量」を「5質量部以上10.4質量部以下」に設定することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落0056の「親水性ポリマーの含有量が0.1質量部未満であると、形成される塗工膜の強度や密着性が不足し、塗工膜から塗工膜中の成分が脱落しやすくなる。一方、親水性ポリマーの含有量が40質量部を超えると、均一な溶液が得られなくなる。」との記載にあるように、本1発明は「親水性ポリマーの含有量」を好適な範囲に設定することによって、塗工膜の強度や密着性が十分で、均一な溶液が得られるようになるものであり、同段落0104の表I-1において、その下限値(5質量部)の「例I-3」の具体例と、その上限値(10.4質量部)の「例I-7」の具体例によって、格別顕著な効果が裏付けられている。
したがって、上記相違点αについての構成及び効果を想到することが、当業者にとって容易であるとはいえない。

(イ)相違点δについて
刊行物1に記載された発明は、刊行物1の段落0017(摘記1b)の記載にあるように「溶剤の使用量を大幅に低減」することを課題とした発明であるから、刊1発明の「66.9重量%」という固形分量の「ドクターブレードを用いて塗布する電池用カーボンブラック分散液」について、その溶剤の使用量を増大させて、本1発明の「固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液」と同様な固形分量のものにすることには阻害事由があるといえ、動機付けがあるとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落0055の「塗工液中の固形分の含有量は、1?35質量%であることが好ましい。」との記載からみて、本1発明は「固形分の含有量」を「1?35質量%」の範囲に設定することによって、塗工膜の強度や密着性が十分で、均一な溶液が得られるようになるものと自然には解される。
したがって、上記相違点δについての構成及び効果を想到することが、当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本1発明と刊1発明は、上記相違点α及びδにおいて実質的に相違しており、これらの相違点が実質的な差異ではないといえる事情も見当たらないので、相違点β及びγについて検討するまでもなく、本1発明は、刊行物1(甲1A及び甲1B)に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、相違点α及びδについて当業者が容易に想到することができるとはいえないので、相違点β及びγについて検討するまでもなく、本1発明は、刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
したがって、取消理由通知において示した理由1及び2には理由がなく、本1発明?本22発明に係る特許が、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

2.取消理由通知の理由3(サポート要件)について
(1)理由3(い)について
理由3の(い)の記載不備についての指摘は、平成30年5月10日付けの訂正請求による訂正後の請求項1に導入された「親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上」という上限値を規定しない数値範囲の全てが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないということを趣旨とするものであるところ、本件訂正による訂正後の請求項1の関連記載は「親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下」に改められたので、上記(い)の記載不備は解消している。
したがって、取消理由通知において示した理由3(い)には理由がない。

(2)理由3(ろ)について
理由3の(ろ)の記載不備についての指摘は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の含有量が大きい範囲のものが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないということを趣旨とするものであるところ、本件訂正による訂正後の請求項1の関連記載は「ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下」に改められたので、上記(ろ)の記載不備は解消している。
したがって、取消理由通知において示した理由3(い)には理由がない。

(3)理由3(は)について
理由3の(は)の記載不備についての指摘は、塗工液中の「固形分の含有量」が特定されないもの全てが、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないということを趣旨とするものであるところ、本件訂正による訂正後の請求項1の関連記載は「固形分の含有量が、1?35質量%」に改められたので、上記(は)の記載不備は解消している。
したがって、取消理由通知において示した理由3(は)には理由がない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1並びに当該請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?22の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。
したがって、取消理由通知において示した理由3には理由がなく、本1発明?本22発明に係る特許が、特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人Aの申立て理由について
特許異議申立人Aは、証拠として甲1A?甲6Aを提出し、理由1として、本件特許の請求項1?2、5?7、9?13に係る発明は甲1A(刊行物1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、理由2として、本件特許の請求項1?22に係る発明は甲1A記載の発明並びに甲2A(刊行物2)及び周知技術/技術常識から容易想到であるから、特許法第29条第2項に違反するとの主張をしている。
しかしながら、上記「1.(3)イ.(ウ)」に示したように、本1発明?本22発明に係る特許が特許法第29条の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

(2)特許異議申立人Bの申立て理由について
特許異議申立人Bは、証拠として甲1B?甲6Bを提出し、理由1として、本件特許の請求項1?2及び5?13に係る発明は甲1B(刊行物1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、理由2として、本件特許の請求項1、2、4?16及び19?22に係る発明は甲1B、甲5B(刊行物4)、及び甲6B(刊行物6)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反するとの主張をしている。
しかしながら、上記「1.(3)イ.(ウ)」に示したように、本1発明?本22発明に係る特許が特許法第29条の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人A及びBが申し立てた理由及び証拠によっては、本1発明?本22発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、この他に本1発明?本22発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塗工液、塗工膜、及び複合材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、樹脂等の基材の表面に密着性等に優れた塗工膜を形成することが可能な塗工液、この塗工液を用いて形成される塗工膜及びその形成方法、複合材料、電極板用部材、蓄電装置用電極板及びその製造方法、並びに蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フッ素樹脂を用いた表面処理技術が盛んに利用されている。フッ素樹脂は、その特徴的な構造から、非粘着性、耐熱性、耐酸化性、耐候性、耐薬品性、すべり性、撥水・撥油性、及び電気特性等の様々な特性を示す。これらの特性を発揮させるべく、フッ素樹脂を含有する溶液、スラリー、又はペースト等(以下、纏めて「スラリー」とも記す)の機能性塗工液を用いて形成した塗工膜の各種機能性を利用することが、塗料、インク、コート剤、被覆材、建材、厨房用品、家庭用品、OA機器、自動車、医療、電子材料、半導体、液晶、家電品、及び蓄電装置などの様々な分野で検討されている。
【0003】
塗工液やコート剤に用いられるフッ素樹脂としては、塗工適性等を考慮して、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」とも記す)が汎用されている。塗工膜が具備すべき特性の一つとして、基材に対する優れた密着性を挙げることができる。これは、塗工膜の機能性は、基材に対する密着性が優れていてはじめて十分に発揮されるためである。しかしながら、PVDFは一般的な基材に対して非粘着性を示すため、PVDFを単に含有する塗工液を用いても、形成される塗工膜の基材との密着性は不十分となる。したがって、PVDFを含有する塗工膜の基材に対する密着性を改善する種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、外装建材用塗料の分野において、PVDFにアクリル樹脂を配合して形成した塗膜の上に、フィルムや他の塗膜をさらに積層する提案がなされている(特許文献1及び2)。また、密着性の向上効果が期待される官能基や変性物質を基本となる繰り返し単位に導入した変性フッ素樹脂を用いることが提案されている(特許文献3及び4)。
【0005】
一方、電池分野においては、PVDFはリチウムイオン電池の活物質を結着させるバインダーとして広く使用されており、PVDFをNMP溶液に溶解させて得られるバインダー溶液が分散媒として汎用されている。PVDFは、その非晶部が電解液中の極性溶媒や電解質のマトリックスとして好適に機能し、リチウムイオンの拡散を完全には阻害しない(非特許文献1)。しかしながら、PVDFをNMP溶液に溶解させて得られるバインダー溶液を用いて電極を作製すると、活物質の結着力が不足する場合がある。このため、活物質の結着力を改善するための方策が種々検討されている。
【0006】
例えば、正極活物質の一次粒子を水溶性高分子バインダーで結着させるとともに、二次粒子同士や、二次粒子と集電体とをフッ素樹脂系バインダー又はゴム系バインダーで結着させて得た電極が提案されている(特許文献5)。また、アルカリにより部分的に脱フッ化水素処理した後、さらに酸化剤で酸化処理して得た変性PVDFを用いることが提案されている(特許文献6及び7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-280402号公報
【特許文献2】特開2005-246923号公報
【特許文献3】特開平10-329280号公報
【特許文献4】特開2004-067716号公報
【特許文献5】特開2007-234277号公報
【特許文献6】特開2004-071517号公報
【特許文献7】特開2004-071518号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】▲葛▼尾巧、栗原あづさ、永井愛作;「PVDF系電池材料」電池技術、第12巻、第108頁、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献等で提案された手法であっても、解決すべき種々の課題を有していた。例えば、特許文献1及び2で提案された手法の場合、加熱溶融工程が必須となるために、金属焼付けの工場塗装に用途が限定されるといった問題があった。また、特許文献3及び4で提案された手法では、塗工液を塗布する工程の前段階である素材調製工程が煩雑になるという問題があった。また、特許文献5?7で提案された手法では処理工程が多くなるため、電極の作製過程が煩雑になるといった問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、顕著な非粘着性を示すPVDFを含有しながらも、金属、ガラス、及び樹脂等の基材の表面に、密着性に優れているとともに、非粘着性、防汚性、耐薬品性、摺動性、撥水性、導電性、防かび・抗菌性、及び防臭性などの所望とする種々の機能性を発揮しうる塗工膜を形成することが可能な塗工液を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この塗工液を用いて形成される塗工膜、及びその形成方法、複合材料、電極板用部材、蓄電装置用電極板及びその製造方法、並びに蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す塗工液が提供される。
[1]極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液。
[2]前記極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、及びβ-アルコキシプロピオンアミド類からなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]に記載の塗工液。
[3]前記ヒドロキシアルキルキトサンが、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサン、及びジヒドロキシプロピルキトサンからなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]又は[2]に記載の塗工液。
[4]さらに多塩基酸を含有する前記[1]?[3]のいずれかに記載の塗工液。
[5]さらに導電性材料を含む含有する前記[1]?[4]のいずれかに記載の塗工液。
[6]前記導電性材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層カーボンナノファイバー、多層カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[5]に記載の塗工液。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す塗工膜及びその形成方法が提供される。
[7]前記[1]?[6]のいずれかに記載の塗工液を用いて形成される塗工膜。
[8]JIS R3257に準拠して測定される接触角が70°以上である前記[7]に記載の塗工膜。
[9]前記[1]?[6]のいずれかに記載の塗工液を80℃以上に加熱する工程を含む塗工膜の形成方法。
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示す複合材料が提供される。
[10]基材と、前記基材上に一体的に配設された前記[7]又は[8]に記載の塗工膜と、を備える複合材料。
[11]前記基材が、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革からなる群より選択される少なくとも一種である前記[10]に記載の複合材料。
[12]前記金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、及びステンレスからなる群より選択される少なくとも一種である前記[11]に記載の複合材料。
【0014】
また、本発明によれば、以下に示す電極板用部材が提供される。
[13]集電体と、前記集電体の表面上に配設された、前記[5]に記載の塗工液からなる塗工膜と、を備える電極板用部材。
【0015】
さらに、本発明によれば、以下に示す蓄電装置用電極板及びその製造方法、並びに蓄電装置が提供される。
[14]前記[13]に記載の電極板用部材と、前記電極板用部材を構成する前記塗工膜の表面上に配設された電極層と、を備える蓄電装置用電極板。
[15]前記塗工膜の膜厚が0.1?10μmである前記[14]に記載の蓄電装置用電極板。
[16]前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、前記電極層が正極活物質を含有する前記[14]又は[15]に記載の蓄電装置用電極板。
[17]前記電極用部材を構成する前記集電体が銅箔であり、前記電極層が負極活物質を含有する前記[14]又は[15]に記載の蓄電装置用電極板。
[18]前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、前記電極層が分極性電極である前記[14]又は[15]に記載の蓄電装置用電極板。
[19]前記[5]に記載の塗工液を集電体の表面に塗布して塗工膜を形成した後、前記塗工膜の表面上に電極層を形成する工程を有する蓄電装置用電極板の製造方法。
[20]前記塗工液を塗布し、次いで、前記塗工液中の前記極性溶媒を加熱して除去した後、又は除去しながら、100?250℃で1秒?60分加熱処理して前記塗工膜を形成する前記[19]に記載の蓄電装置用電極板の製造方法。
[21]前記[14]?[18]のいずれかに記載の蓄電装置用電極板を備える蓄電装置。
[22]二次電池又はキャパシタである前記[21]に記載の蓄電装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、顕著な非粘着性を示すPVDFを含有しながらも、金属、ガラス、及び樹脂等の基材の表面に、密着性に優れているとともに、非粘着性、防汚性、耐薬品性、摺動性、撥水性、導電性、防かび・抗菌性、及び防臭性などの所望とする種々の機能性を発揮しうる塗工膜を形成することが可能な塗工液を提供することができる。また、本発明によれば、この塗工液を用いて形成される塗工膜、及びその形成方法、複合材料、電極板用部材、蓄電装置用電極板及びその製造方法、並びに蓄電装置を提供することができる。
【0017】
本発明の塗工液を用いれば、導電性や撥水性などの種々の機能が付与された塗工膜、及びこのような機能が付与された塗工膜を備えた複合材料を製造することができる。また、本発明の塗工液は、長期間保存しても適度な粘度が維持されるとともに、導電性材料などのフィラーを含有させた場合であってもフィラーが沈降分離しにくい。このため、本発明の塗工液を用いれば、アルミニウム箔や銅箔などの集電体と電極層との間に、密着性及び耐電解液性に優れているとともに、集電体との接触抵抗も改良されたアンダーコート層となる導電性塗工膜(薄膜)を形成することもできる。したがって、本発明の塗工液を用いれば、各種特性に優れた電池やキャパシタ等の蓄電装置用電極板、及びこの蓄電装置用電極板を備えた蓄電装置を提供することができる。
【0018】
さらに、本発明の塗工液は上記のような蓄電装置等に限らず、例えば、電子材料用の塗料、インク、トナー、ゴム、プラスチック、セラミック、磁性体、接着剤、及び液晶カラーフィルターなどの多くの産業分野での利用が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<塗工液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、鋭意検討した結果、極性溶媒中に親水性ポリマーとポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含有させることで、非粘着性及び撥水性などのフッ素樹脂に由来する機能性と、基材への密着性とを確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の塗工液は、極性溶媒と、導電性材料などのフィラーに対する結着性及び分散性とともに親水性を有する親水性ポリマーと、PVDFとを含有するものである。
【0020】
本発明の塗工液を用いて形成される塗工膜中には、各成分の濃度勾配が生ずる。具体的には、塗工膜中の下層(基材と接する層)では親水性ポリマーの存在割合が相対的に多くなり、基材との密着性が発揮される。また、塗工層中の上層(表面層(基材と反対側の層))ではPVDFの存在割合が相対的に多くなり、非粘着性、撥水性、及び耐薬品性などが発揮される。しかも、親水性ポリマー及びPVDFの二成分の濃度勾配がいずれも連続的であるため、二成分の間に界面が生じることがなく、界面剥離が生ずる可能性極めて低い。
【0021】
(親水性ポリマー)
本発明の塗工液は親水性ポリマーを含有する。親水性ポリマーは、水酸基やカルボキシル基などの親水性の官能基をその分子構造中に有するポリマー(高分子)である。親水性ポリマーの具体例としては、キトサン誘導体、セルロース誘導体、デンプン誘導体、未変性ポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0022】
キトサン誘導体は、有機溶媒に対する溶解性が良好であるために好ましい。キトサン誘導体は、市場から入手したものをそのまま用いることができる。キトサン誘導体の具体例としては、ヒドロキシアルキルキトサン、カルボキシアルキルキトサン、カルボキシアシルキトサン、サクシニルキトサン、カチオン化キトサンなどを挙げることができる。なかでも、ヒドロキシアルキルキトサン、カルボキシアルキルキトサン、及びカルボキシアシルキトサンが好ましい。
【0023】
ヒドロキシアルキルキトサンは、生物由来の天然系ポリマーであり、環境に対する負荷が少ないものである。ヒドロキシアルキルキトサンとしては、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサン、ヒドロキシブチルヒドロキシプロピルキトサン、及びジヒドロキシプロピルキトサンが好ましい。
【0024】
ヒドロキシアルキルキトサンは、例えば、キトサンのアミノ基にアルキレンオキサイド又はオキシランメタノールを反応させて製造することができる。但し、他の方法で製造されたヒドロキシアルキルキトサンを用いることもできる。また、アルキレンオキサイドやオキシランメタノールを混合して反応させたものであってもよい。
【0025】
例えば、含水イソプロピルアルコールなどの媒体にキトサンを撹拌分散させた後、水酸化ナトリウム及びブチレンオキサイドを添加し、次いで加熱撹拌すれば、ヒドロキシブチルキトサンを得ることができる。また、含水イソプロピルアルコールなどの媒体にキトサンを撹拌分散させた後、オキシランメタノールを添加し、次いで加熱撹拌すればジヒドロキシプロピルキトサンを得ることができる。
【0026】
本発明の塗工液がフィラーである導電性材料をさらに含有する場合、ヒドロキシアルキルキトサンのヒドロキシアルキル化度は0.5?4であることが好ましい。ヒドロキシアルキル化度が上記の範囲内であるヒドロキシアルキルキトサンを用いることで、導電性材料の分散性を向上させることができる。ヒドロキシアルキルキトサンのヒドロキシアルキル化度が0.5未満であると、フィラーの分散性やスラリー(塗工液)の安定性が不十分となる場合がある。一方、ヒドロキシアルキルキトサンのヒドロキシアルキル化度が4を超えてもフィラー分散性は変わらないため、不経済となる傾向にある。
【0027】
「ヒドロキシアルキル化度(単位なし)」は、キトサンへのアルキレンオキサイド又はオキシランメタノールの付加率を意味する。すなわち、「ヒドロキシアルキル化度が0.5?4」とは、キトサンを構成するピラノース環1個(1モル)当たり、0.5?4モルのアルキレンオキサイド又はオキシランメタノールが付加していることを意味する。ヒドロキシアルキル化度が上記の範囲内であるヒドロキシアルキルキトサンを得るには、キトサンに対して、キトサンを構成するピラノース環1個(1モル)当たり、0.6?10モルのアルキレンオキサイド又はオキシランメタノールを反応させればよい。
【0028】
ヒドロキシアルキルキトサンの重量平均分子量は、2,000?350,000であることが好ましく、5,000?250,000であることがさらに好ましい。ヒドロキシアルキルキトサンの重量平均分子量が2,000未満であると、塗工膜の強度が不十分になる場合がある。一方、ヒドロキシアルキルキトサンの重量平均分子量が350,000を超えると、塗工液の粘度が上昇しやすく、導電性材料等のフィラーの固形分濃度を上げにくくなる傾向にある。
【0029】
塗工液中のキトサン誘導体の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.1?40質量部であることが好ましく、0.5?20質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
セルロース誘導体は、安全性に優れた親水性ポリマーであるために好ましい。セルロース誘導体は、市場から入手したものをそのまま用いることができ、単独であっても混合物であってもよい。セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸セルロース、アルカリセルロース、ビスコース、硫酸セルロース、脂肪酸セルロース、カチオン化セルロースなどを挙げることができる。なかでも、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
【0031】
塗工液中のセルロース誘導体の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.1?40質量部であることが好ましく、0.5?20質量部であることがさらに好ましい。
【0032】
デンプン誘導体は、安全性に優れた親水性ポリマーであるために好ましい。デンプン誘導体は、市場から入手したものをそのまま用いることができ、単独であっても混合物であってもよい。デンプン誘導体の具体例としては、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシブチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、カチオン化デンプンなどを挙げることができる。なかでも、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンが好ましい。
【0033】
塗工液中のデンプン誘導体の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.1?40質量部であることが好ましく、0.5?20質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも記す)は、未変性PVAであっても変性PVAであってもよい。PVAは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。PVAは、環境に対する負荷が少ない親水性ポリマーであるために好ましい。
【0035】
未変性PVAは、ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる公知の樹脂である。未変性PVAの鹸化度は、98%以下であることが好ましく、70?98%であることがさらに好ましい。なお、鹸化度が98%を超えて100%以下の未変性PVAは、極性溶媒に均一に溶解しにくい傾向にある。また、未変性PVAは、重合度が300?5,000であるとともに、鹸化度が70?98%であることが好ましい。このような未変性PVAとしては、例えば、商品名「クラレポバール」(クラレ社製)、商品名「ゴーセノール」(日本合成化学工業社製)、商品名「デンカポバール」(電気化学工業社製)、商品名「J-ポバール」(日本酢ビ・ポバール社製)などの市販品を市場から入手して使用することができる。
【0036】
変性PVAは、上記の未変性PVAに水酸基及び酢酸基以外の官能基を導入した親水性ポリマーである。変性PVAの具体例としては、カルボキシル基変性PVA、カルボニル基変性PVA、シラノール基変性PVA、アミノ基変性PVA、カチオン変性PVA、スルホン酸基変性PVA、及びアセトアセチル基変性PVAなどを挙げることができる。
【0037】
変性PVAとしては、例えば、商品名「ゴーセラン」(スルホン酸基変性PVA)、商品名「ゴーセファイマーK」(カチオン変性PVA)、商品名「ゴーセファイマーZ」(アセトアセチル基変性PVA)、商品名「ゴーセナール」(カルボキシル基変性PVA)(以上、日本合成化学工業社製);商品名「Dポリマー」(カルボニル基変性PVA)、商品名「Aシリーズ」(カルボキシル基変性PVA)(以上、日本酢ビ・ポバール社製);商品名「クラレCポリマー」(カチオン変性PVA)、商品名「クラレRポリマー」(シラノール変性PVA)(以上、クラレ社製)などの市販品を市場から入手して使用できる。
【0038】
塗工液中のPVAの含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、1?40質量部であることが好ましく、1?20質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の塗工液は、使用分野に応じて適切な機能を有する親水性ポリマーを選択して含有させることで、基材に対する密着性に優れるとともに、非粘着性、耐薬品性、耐熱性、及び耐候性などのフッ素樹脂特有の機能性が発揮される塗工膜を形成しうる塗工液として、例えば、塗料、インク、磁性体、セラミックス、蓄電装置、接着剤、電子材料、液晶カラーフィルター、医薬品、化粧品、香料、及び建材など様々な分野での利用が期待される。また、カーボンブラックなどの導電性材料を含有させることで、リチウムイオン二次電池やキャパシタなどの蓄電装置を構成する集電体のアンダーコート層や電極層を形成しうる導電性塗工液として用いることができる。
【0040】
(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))
本発明の塗工液はポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含有する。PVDFは、フッ化ビニリデンの乳化重合や懸濁重合によって得られるフッ素系樹脂である。PVDFとしては、商品名「KFポリマー」(クレハ社製)、商品名「kynar」(アルケマ社製)などの種々のグレードのものを市場から入手して使用することができる。
【0041】
塗工液中のPVDFの含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.02?40質量部であることが好ましく、0.02?20質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
(極性溶媒)
本発明の塗工液は極性溶媒を含有する。極性溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ビニルピロリドン、ピペリドン、N-メチルピペリドン、N-エチルピペリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルオキサゾリジノン、エチルオキサゾリジノン、β-アルコキシプロピオンアミド類などのアミド類;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール類;エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;ジメチルスルホキシドなどスルホキシド類;テトラメチレンスルホンなどのスルホン類を挙げることができる。
【0043】
上記の極性溶媒のなかでも、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、β-アルコキシプロピオンアミド類などの非プロトン性極性溶媒が好ましい。これらの極性溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、極性溶媒は、市販品をそのまま用いてもよいし、必要に応じて精製したものを用いてもよい。
【0044】
(多塩基酸)
本発明の塗工液は、さらに多塩基酸を含有することが好ましい。多塩基酸としては、多塩基酸そのもののほか、酸無水物、一部又は全部のカルボキシル基の塩、アルキルエステル、アミド、イミド、アミドイミドなどを用いることができる。カルボキシル基の塩としては、アンモニウム塩やアミン塩などがある。また、多塩基酸の一部又は全部のカルボキシル基をN-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって修飾した誘導体などを多塩基酸として用いることもできる。なお、多塩基酸の誘導体としては、塗工膜を形成する際の加熱時に多塩基酸を生成する化合物であることが好ましい。
【0045】
多塩基酸の具体例としては、以下に示す2塩基酸、3塩基酸、4塩基酸、及び6塩基酸を挙げることができる。なお、以下に示す多塩基酸の誘導体、特に酸無水物を用いることが好ましい。
【0046】
[2塩基酸]シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、メチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、アセチレンジカルボン酸、酒石酸、リンゴ酸、スピクリスポール酸、グルタミン酸、グルタチオン、アスパラギン酸、シスチン、アセチルシスチン、ジグリコール酸、イミノジ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、チオジグリコール酸、チオニルジグリコール酸、スルホニルジグリコール酸、ポリエチレンオキシドジグリコール酸(PEG酸)、ピリジンジカルボン酸、ピラジンジカルボン酸、エポキシコハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロルフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸
【0047】
[3塩基酸]クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、2-ホスホノ-1,2,4-ブタントリカルボン酸、トリメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、
【0048】
[4塩基酸]エチレンジアミンテトラ酢酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸
【0049】
[6塩基酸]1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸
【0050】
なお、以下に示すような「その他の多塩基酸」を上記の多塩基酸と併用してもよい。すなわち、「その他の多塩基酸」の具体例としては、イソクエン酸、アコニット酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、カルボキシエチルチオコハク酸、トリメシン酸等の3塩基酸;エチレンジアミンN,N’-コハク酸;1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸;ペンテンテトラカルボン酸;ヘキセンテトラカルボン酸;グルタミン酸二酢酸;マレイン化メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸、フランテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、フタロシアニンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸などの単環式テトラカルボン酸;ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸などのビシクロ環、ノルボルナン環、又はテトラシクロ環を有する多環式テトラカルボン酸類などの4塩基酸;ジエチレントリアミン五酢酸などの5塩基酸;フタロシアニンポリカルボン酸、フィチン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸及びこれらの共重合体;スチレン・マレイン酸共重合体、イソブチレン・マレイン酸共重合体、ビニルエーテル・マレイン酸共重合体、ペクチン酸、ポリグルタミン酸、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸、アクリル酸・マレイン酸・ビニルアルコール共重合体などを挙げることができる。
【0051】
多塩基酸を含有する塗工液を使用して加熱乾燥して塗工膜を形成すると、加熱乾燥時に多塩基酸が親水性ポリマー、PVDF、及び任意に添加されるその他の樹脂成分の架橋剤として作用する。このため、金属材料表面や蓄電装置を構成する集電体に対して非常に優れた密着性及び耐溶剤性を有する塗工膜を形成することができる。
【0052】
塗工液中の多塩基酸の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.01?40質量部であることが好ましく、0.01?20質量部であることがさらに好ましい。
【0053】
(導電性材料)
本発明の塗工液は、さらに導電性材料を含有することが好ましい。導電性材料の具体例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層カーボンナノファイバー、多層カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びグラフェンなどを挙げることができる。これらの導電性材料を含有させることで、リチウム二次電池やキャパシタなどの蓄電装置を構成する集電体の表面に形成される塗工膜(アンダーコート層)の電気的な接触性が一段と向上する。すなわち、塗工膜の導電性が確保されるため、電極層の内部抵抗が小さくなるとともに、容量密度が高まる。
【0054】
塗工液中の導電性材料の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、0.1?30質量部であることが好ましく、1?20質量部であることがさらに好ましい。
【0055】
(各成分の含有量)
本発明の塗工液に含まれる各成分の量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、それぞれ以下に示す範囲であることが好ましい。すなわち、親水性ポリマーの含有量は、0.1?40質量部であることが好ましく、0.5?20質量部であることがさらに好ましい。PVDFの含有量は、0.02?40質量部であることが好ましく、0.02?20質量部であることがさらに好ましい。多塩基酸の含有量は、0.01?40質量部であることが好ましく、0.01?20質量部であることがさらに好ましい。導電性材料の含有量は、0.1?30質量部であることが好ましく、1?20質量部であることがさらに好ましい。なお、塗工液中の固形分の含有量は、1?35質量%であることが好ましい。
【0056】
親水性ポリマーの含有量が0.1質量部未満であると、形成される塗工膜の強度や密着性が不足し、塗工膜から塗工膜中の成分が脱落しやすくなる。一方、親水性ポリマーの含有量が40質量部を超えると、均一な溶液が得られなくなる。PVDFの含有量が0.02質量部未満であると、形成される塗工膜表面の非粘着性や耐薬品性などの各種機能性が不十分となる。一方、PVDFの含有量が40質量部を超えると、均一な溶液が得られなくなる。
【0057】
多塩基酸の含有量が0.01質量部未満であると、架橋の程度が不十分となりやすく、形成される塗工膜の架橋密度が低くなる場合がある。このため、基材に対する密着性が低下するとともに、溶媒に対する不溶解性が低下し、非膨潤性も低下する傾向にある。一方、多塩基酸の含有量が40質量部を超えると、形成される塗工膜の可撓性が低下する傾向にあるとともに、経済性の面で不利になる場合がある。導電性材料の含有量が0.1質量部未満であると、形成される塗工膜の導電性が不足する場合がある。一方、導電性材料の含有量が30質量部を超えると、他の成分が相対的に不足してしまい、形成される塗工膜の性能が低下する場合がある。
【0058】
本発明の塗工液を集電体表面の導電性塗工膜を形成するための塗工液として用いる場合、塗工液の全量100質量部に対して、親水性ポリマーの含有量が1?15質量部、PVDFの含有量が0.1?10質量部、多塩基酸の含有量が1?10質量部、及び導電性材料の含有量が1?20質量部であることが好ましい。また、本発明の塗工液をセラミックスや金属材料の表面に設ける防汚用撥水性塗工膜を形成するための塗工液として用いる場合、塗工液の全量100質量部に対して、親水性ポリマーの含有量が0.1?15質量部、PVDFの含有量が0.1?20質量部、及び多塩基酸の含有量が0.1?10質量部であることが好ましい。
【0059】
(その他の樹脂成分)
物理的強度、耐久性、耐摩耗性、及び基材に対する接着性などの特性を形成される塗工膜にさらに付与したい場合には、塗工液に、親水性ポリマー以外の樹脂(その他の樹脂成分)をバインダーとして添加することが好ましい。その他の樹脂成分の具体例としては、ポリビニルアセタール、含フッ素高分子(PVDFを除く)、スチレン系重合体、ポリアミド、ポリイミド、及びポリアミドイミドなどの従来公知の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂成分は、市場から入手したものをそのまま使用してもよく、溶媒への溶解性や分散媒への分散性等を考慮して誘導体としたものを用いることも好ましい。
【0060】
塗工液中のその他の樹脂成分の含有量は、親水性ポリマー100質量部に対して、10?2,000質量部であることが好ましく、10?1,000質量部であることがさらに好ましい。また、塗工液中のその他の樹脂成分の含有量は、塗工液の全量を100質量部とした場合に、1?40質量部であることが好ましく、5?20質量部であることがさらに好ましい。その他の樹脂成分の含有量が、塗工液の全量を100質量部とした場合に1質量部未満であると、形成される塗工膜の強度や基材に対する接着性が不足しやすく、塗工膜から各成分が脱落しやすくなる場合がある。一方、その他の樹脂成分の含有量が、塗工液の全量を100質量部とした場合に40質量部を超えると、均一な溶液を得ることが困難になる場合がある。また、その他の樹脂成分の含有量が、塗工液の全量を100質量部とした場合に40質量部を超えるとともに、導電性材料を含有する際には、塗工液の流動性が低下するとともに、導電性材料がその他の樹脂成分に覆い隠されてしまい、導電性材料の導電性が十分に発揮されなくなる傾向にある。
【0061】
上記のその他の樹脂成分を含有する塗工液を用いて塗工膜を形成すると、加熱乾燥時に多塩基酸が、親水性ポリマー、PVDF、及びその他の樹脂成分の架橋剤として作用する。このため、金属材料等の基材の表面に対する優れた接着性、耐溶剤性、及び耐水性を有する塗工膜を形成することができる。
【0062】
上記のその他の樹脂成分を含有する場合において、塗工液中の多塩基酸の含有量は、その他の樹脂成分100質量部当たり1?150質量部であることが好ましく、2?100質量部であることがさらに好ましい。多塩基酸の含有量がその他の樹脂成分100質量部当たり1質量部未満であると、形成される架橋ポリマーの架橋密度が低くなり、基材に対する塗工膜の密着性が不足する傾向にある。また、電池に用いる場合、多塩基酸の含有量がその他の樹脂成分100質量部当たり1質量部未満であると、形成される架橋ポリマーの電解液に対する不溶解性、非膨潤性、及び電気化学的安定性などが不十分になる場合がある。一方、多塩基酸の含有量がその他の樹脂成分100質量部当たり150質量部を超えると、形成される塗工膜の可撓性が低下する場合があるとともに、経済性の面で不利となる傾向にある。
【0063】
(架橋剤)
本発明の塗工液には、架橋剤(多塩基酸を除く)を含有させることができる。架橋剤の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物;トルイレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、フェニルジイソシアナートなどのイソシアナート化合物;前記イソシアナート化合物をフェノール類、アルコール類、活性メチレン類、メルカプタン類、酸アミド類、イミド類、アミン類、イミダゾール類、尿素類、カルバミン酸類、イミン類、オキシム類、亜硫酸類などのブロック剤でブロックしたブロックイソシアナート化合物;グリオキサール、グルタルアルデヒド、ジアルデヒド澱粉などのアルデヒド化合物;ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物;メチロールメラミン、ジメチロール尿素のなどのメチロール化合物;酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、乳酸チタンなどの有機酸金属塩;アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリブトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、アルミニウムジプロポキシドアセチルアセトネート、チタニウムジメトキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジブトキシドビス(エチルアセトアセテート)などの金属アルコキシド化合物;ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イミダゾールシランなどのシランカップリング剤;メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシランなどのシラン化合物;カルボジイミド化合物を挙げることができる。
【0064】
塗工液中の架橋剤の含有量は、親水性ポリマー、PVDF、及びその他の樹脂成分の合計に対して、0.01?200質量%であることが好ましい。
【0065】
(塗工液の調製方法)
本発明の塗工液が導電性材料を含有しない溶液である場合は、親水性ポリマー、PVDF、及び必要に応じて添加する多塩基酸などを極性溶媒に添加して溶解させれば、本発明の塗工液を調製することができる。各成分を極性溶媒に溶解させる際には、各成分を極性溶媒に添加する順番はどのようにしてもよい。また、室温条件下で撹拌すれば十分であるが、必要に応じて加熱条件下で撹拌してもよい。
【0066】
本発明の塗工液が導電性材料を含有する分散塗工液である場合は、親水性ポリマー、PVDF、導電性材料、及び必要に応じて添加する多塩基酸などを極性溶媒(分散媒)に添加した後、混合機を用いて混合分散させれば、本発明の塗工液を調製することができる。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いることができる。また、導電性材料を擂潰機、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、オムニミキサーなどの混合機を用いて予め混合しておき、その後、親水性ポリマー、PVDF、及びその他の任意成分を添加して均一に混合することも好ましい。これらの方法によって、均一な塗工液を容易に調製することができる。
【0067】
<塗工膜及びその形成方法>
本発明の塗工膜は、前述の塗工液を用いて形成される。例えば、基材の表面に塗工液を塗布して形成した塗膜を乾燥することによって、塗工膜を形成することができる。塗工液を基材の表面に塗布する際の塗布量は特に限定されないが、形成される塗工膜の厚さが、通常、0.05?100μm、好ましくは0.1?50μmとなる量であればよい。基材としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、皮革などを挙げることができる。蓄電装置を構成する電極板用部材を製造する場合には、アルミニウム箔、銅箔、及びステンレス箔などの集電体を基材として用いることが好ましい。
【0068】
塗工液は、例えば、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、マイヤーバーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアーナイフコート、コンマコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、エクストルージョンコート、スプレーコート、ハケ塗りなどの各種塗工方法によって基材の表面に塗布することができる。乾燥厚みが、好ましくは0.1?100μm、さらに好ましくは0.1?50μm、特に好ましくは0.1?20μmとなるように塗工液を塗布した後、加熱乾燥等すれば、塗工膜を形成することができる。なお、乾燥後の膜厚が0.1μm未満となるように均一に塗布することは困難である場合が多い。一方、乾燥後の膜厚が100μmを超えると塗工膜の可撓性が低下する場合がある。
【0069】
基材の表面に形成した塗膜を加熱乾燥等すれば、塗工膜を形成することができる。加熱乾燥は、好ましくは80℃以上で1秒以上、さらに好ましくは80?250℃で1秒?60分とすることが好ましい。このような加熱乾燥の条件であれば、塗工液中の親水性ポリマーやPVDFなどのポリマー類を十分に架橋させることができるとともに、形成される塗工膜の基材に対する密着性及び塗工膜の電気化学的安定性を向上させることができる。なお、加熱乾燥の条件が80℃未満又は1秒未満であると、塗工膜の基材に対する密着性及び塗工膜の電気化学的安定性が不十分になる場合がある。
【0070】
導電性材料を含有する本発明の塗工液は、二次電池やキャパシタなどの蓄電装置を構成する電極板用の導電性塗工膜の形成材料として有用である。導電性塗工膜を形成する場合には、先ず、導電性材料を含有する本発明の塗工液を集電体の表面に塗布して塗工膜を形成する。塗工膜の膜厚は、0.1?10μmとすることが好ましく、0.1?5μmとすることがさらに好ましく、0.1?2μmとすることが特に好ましい。形成した塗工膜の表面上に、電池用の正極電極層、電池用の負極電極層、又はキャパシタ用の分極性電極などの電極層を形成すれば、電極層-集電体間の電気抵抗が小さく、かつ、環境負荷の少ない蓄電装置用電極板を製造することができる。
【0071】
本発明の塗工液を物品等の表面に塗布すれば、物品等の表面に塗工膜を形成することができる。このため、本発明の塗工液は、アルミニウム製の物品等の表面に配設する撥水性塗工膜を形成するための材料として有用である。乾燥膜厚が、例えば0.1?200μm、好ましくは0.5?100μm、さらに好ましくは1?50μmとなるように物品等の表面に塗工液を塗布して加熱乾燥すれば、耐水性に優れた撥水性塗工膜を形成することができる。80℃以上の温度で加熱乾燥すれば、物品等の表面に強固に密着した撥水性塗工膜を形成することができる。
【0072】
物品表面の濡れ性の制御は、非常に重要な技術である。具体的には、物品表面に撥水性を付与することで、防曇性、水切れ性、着霜・除霜性などの多くの機能性が発現する。例えば、構造物表面の撥水性を高めれば雨水等の付着を抑制できるため、防汚性を発現させることができる。
【0073】
撥水性を評価する一般的な指標としては、水に対する接触角が用いられる。接触角が大きいほど表面自由エネルギーが小さくなり、撥水性が高くなる。例えば、建物外壁表面の水に対する接触角が大きいほど撥水性が高くなるので、雨水などが付着しにくくなる。このため、建物の美観の維持や清掃頻度の低減などが容易になる。
【0074】
JIS R3257に準拠して測定される本発明の塗工膜の接触角は、好ましくは70°以上であり、高い撥水性を発揮する。また、ガラスや金属等の親水性基材の表面に撥水性の高い本発明の塗工膜をプライマー層として予め形成しておけば、フッ素樹脂等の疎水性ポリマーを塗布する場合に、疎水性ポリマーの密着性を向上させることができる。
【0075】
塗工膜の接触角は、以下に示す方法にしたがって測定することができる。先ず、アルミニウム板上に塗工液を塗布した後、200℃で10秒間乾燥し、塗工膜(乾燥膜厚0.7μm)を形成する。そして、形成した塗工膜表面の水に対する接触角をJIS R3257に準拠した静滴法に従って測定及び算出する。本発明においては、協和界面科学社製の接触角計(商品名「Drop Master 100」)を使用し、25℃、相対湿度60%の条件下で接触角を測定した。
【0076】
<複合材料、電極板用部材>
本発明の複合材料は、基材と、基材上に一体的に配設された上述の塗工膜とを備える。基材としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革を用いることができる。すなわち、本発明の塗工液を用いれば、上記の基材と形成される塗工膜とが一体化され、撥水性、非粘着性、耐薬品性、摺動性、導電性、抗菌・防臭性、風合い、防曇性、紙力、染色性、耐水性、及び防汚染性などに優れた複合材料が提供される。特に、アルミニウム、銅、ニッケル、及びステンレスなどの金属製の基材上に塗工膜を形成した複合材料は、蓄電装置を構成する電極板用部材として有用である。
【0077】
<蓄電装置用電極板及びその製造方法>
本発明の蓄電装置用電極板は、前述の電極板用部材と、この電極板用部材を構成する塗工膜の表面上に配設された電極層とを備える。蓄電装置用電極板の具体例としては、電極層が正極活物質を含有する正極板、電極層が負極活物質を含有する負極板、及び電極層が分極性電極であるキャパシタ用の電極板などを挙げることができる。
【0078】
電極板用部材を構成する集電体のうち、正極集電体としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ステンレス、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどの金属箔を挙げることができる。なかでも、正極集電体としては、電解液に対して優れた耐食性を有するとともに、軽量で機械加工が容易なアルミニウム箔が好ましい。負極集電体としては、銅、ステンレス、アルミニウムなどの金属箔を挙げることができる。金属箔等の集電体の厚さは、5?30μmであることが好ましく、8?25μmであることがさらに好ましい。集電体の表面は、シラン系、チタネート系、アルミニウム系などのカップリング剤により予め処理しておいてもよい。
【0079】
本発明の蓄電装置用電極板を製造するには、先ず、集電体の表面に塗工液を塗布した後、加熱乾燥等して塗工膜を形成する。塗工膜の膜厚(乾燥厚み)は、0.1?10μmとすることが好ましく、0.1?5μmとすることがさらに好ましく、0.1?2μmとすることが特に好ましい。塗工膜の膜厚が0.1μm未満であると、均一に塗工するのが困難な場合がある。一方、塗工膜の膜厚が10μmを超えると、塗工膜の可撓性が低下する場合がある。塗工液を集電体の表面に塗布するには、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、マイヤーバーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアーナイフコート、コンマコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコートなどを用いることができる。
【0080】
塗工液を集電体の表面に塗布した後は、塗工液中の極性溶媒を加熱して除去した後、又は除去しながら加熱乾燥することが好ましい。加熱乾燥の条件は、100?250℃、1秒?60分とすることが好ましい。この条件で加熱乾燥することで、バインダーである親水性ポリマー及びPVDFが十分に架橋し、形成される塗工膜の集電体に対する密着性及び電解液に対する電気化学的安定性を向上させることができる。加熱乾燥の条件が100℃未満又は1秒未満であると、集電体に対する塗工膜の密着性及び電解液に対する電気化学的安定性が不十分となる場合がある。
【0081】
形成された塗工膜の表面上に電極層を形成すれば、蓄電装置用電極板を得ることができる。形成される電極層の均質性を向上させるために、金属ロール、加熱ロール、シートプレス機などを用いて電極層をプレス処理することも好ましい。プレス処理の条件は、500?7,500kgf/cm^(2)とすることが好ましい。500kgf/cm^(2)未満であると、電極層の均一性が向上しにくい場合がある。一方、7,500kgf/cm^(2)を超えると、集電体を含めた電極板自体に破損が生じやすくなる傾向にある。
【0082】
<蓄電装置>
本発明の蓄電装置は、前述の蓄電装置用電極板を備えるものであり、二次電池やキャパシタとして有用である。
【0083】
(二次電池)
本発明の蓄電装置のうち、二次電池は、前述の蓄電装置用電極板(正極板及び負極板)を用いて作製される非水電解液二次電池である。リチウム系の非水リチウムイオン電池を作製する場合には、溶質のリチウム塩を有機溶剤やイオン液体に溶解して得られる非水電解液が用いられる。非水電解液に含有されるリチウム塩の具体例としては、LiClO_(4)、LiBF_(4)、LiPF_(6)、LiAsF_(6)、LiCl、LiBrなどの無機リチウム塩;LiB(C_(6)H_(5))_(4)、LiN(SO_(2)CF_(3))_(2)、LiC(SO_(2)CF_(3))_(3)、LiOSO_(2)CF_(3)、LiOSO_(2)C_(2)F_(5)、LiOSO_(2)C_(3)F_(7)、LiOSO_(2)C_(4)F_(9)、LiOSO_(2)C_(5)F_(11)、LiOSO_(2)C_(6)F_(13)、LiOSO_(2)C_(7)F_(15)などの有機リチウム塩を挙げることができる。
【0084】
有機溶剤の具体例としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類などを挙げることができる。環状エステル類の具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0085】
鎖状エステル類の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルなどを挙げることができる。
【0086】
環状エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソランなどを挙げることができる。鎖状エーテル類の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテルなどを挙げることができる。
【0087】
イオン液体は、有機カチオンとアニオンとの組み合わせによる、イオンのみからなる液体である。有機カチオンの具体例としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオンなどのジアルキルイミダゾリウムカチオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオンなどのトリアルキルイミダゾリウムカチオン、ジメチルエチルメトキシアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオンなどのアルキルピリジニウムイオン、メチルプロピルピロリジニウムイオンなどのジアルキルピロリジニウムイオン、メチルプロピルピペリジニウムイオンなどを挙げることができる。
【0088】
有機カチオンの対イオンであるアニオンの具体例としては、AlCl_(4)^(-)、PF_(6)^(-)、PF_(3)(C_(2)F_(5))_(3)^(-)、PF_(3)(CF_(3))_(3)^(-)、BF_(4)^(-)、BF_(2)(CF_(3))_(2)^(-)、BF_(3)(CF_(3))^(-)、CF_(3)SO_(3)^(-)(TfO;トリフレートアニオン)、(CF_(3)SO_(2))_(2)N^(-)(TFSI;トリフルオロメタンスルフォニル)、(FSO_(2))_(2)N^(-)(FSI;フルオロスルフォニル)、(CF_(3)SO_(2))_(3)C^(-)(TFSM)などを挙げることができる。
【0089】
(キャパシタ)
本発明の蓄電装置のうちのキャパシタの具体例としては、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどを挙げることができる。キャパシタ用の電極板を構成する塗工膜の形成に用いる塗工液中の親水性ポリマーの含有量は、塗工液の全量100質量部に対して、1?40質量部であることが好ましく、1?20質量部であることがさらに好ましく、2?10質量部であることが特に好ましい。親水性ポリマーの量が少なすぎると、塗工膜から塗工膜成分が脱落しやすくなる場合がある。一方、親水性ポリマーの量が多すぎると、導電性材料が親水性ポリマーに覆い隠されてしまい、電極板の内部抵抗が増大する傾向にある。
【0090】
また、塗工液中のPVDFの含有量は、塗工液の全量100質量部に対して、0.02?20質量部であることが好ましく、0.05?15質量部であることがさらに好ましく、0.1?10質量部であることが特に好ましい。PVDFの量が少なすぎると、塗工膜と電極層との密着性が低下しやすくなる。一方、PVDFの量が多すぎると、電極板の内部抵抗が増大する傾向にある。
【0091】
多塩基酸は、バインダーとして用いられる親水性ポリマーの架橋性の面から、前述の3価以上の多塩基酸及びその酸無水物が好ましい。塗工液中の多塩基酸の含有量は、親水性ポリマーとPVDFの合計100質量部に対して、1?300質量部であることが好ましく、10?200質量部であることがさらに好ましい。多塩基酸の含有量が、親水性ポリマーとPVDFの合計100質量部に対して1質量部未満であると、形成される架橋ポリマーの架橋密度が低くなる。このため、形成される塗工膜の集電体に対する密着性及び電解液に対する不溶解性、非膨潤性、電気的化学安定性が不十分となる場合がある。一方、多塩基酸の含有量が、親水性ポリマーとPVDFの合計100質量部に対して300質量部を超えると、形成される塗工膜層の可撓性が低下するとともに、経済性の面で不利となる場合がある。
【0092】
導電性材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの導電性カーボンを用いることが好ましい。導電性カーボンを導電性材料として用いることにより、塗工膜の電気的接触が一段と向上する。このため、得られるキャパシタの内部抵抗が低くなるとともに、容量密度を高めることができる。塗工液中の導電性材料の含有量は、塗工液の全量100質量部に対して、通常0.1?20質量部、好ましくは2?15質量部である。
【0093】
塗工液は、必要に応じて塗工前に、物理的加工手段によって加工処理しておくことが好ましい。物理的加工手段としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いた加工手段を挙げることができる。また、導電性材料を擂潰機、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、オムニミキサーなどの混合機を用いて予め混合しておき、その後、バインダーである親水性ポリマーの溶液を添加して均一に混合することも好ましい。これにより、均一な塗工液を容易に調製することができるとともに、より良好なキャパシタ用の電極板を製造することができる。
【0094】
キャパシタ用の電極板を構成する集電体は、導電性を有するとともに、電気化学的な耐久性を有する材料が用いられる。耐熱性の観点から、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、金、白金などの金属材料が好ましく、アルミニウム及び白金がさらに好ましい。集電体の形状は特に限定されないが、通常、厚さ0.001?0.5mm程度のシート状のものを用いる。
【0095】
塗工膜を形成する方法は特に限定されないが、塗工液を集電体に塗布した後、乾燥すれば、塗工膜を形成することができる。塗工液の塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法、スプレーコート法などを挙げることができる。
【0096】
塗工液の粘度は、使用する塗工機の種類や塗工ラインの形状によっても異なるが、通常10?100,000mPa・s、好ましくは、50?50,000mPa・s、さらに好ましくは100?20,000mPa・sである。塗布する塗工液の量は、形成される塗工膜の膜厚が、通常0.05?100μm、好ましくは0.1?10μmとなる量である。
【0097】
上記の電極板を有する本発明のキャパシタは、上記の電極板、電解液、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタを製造することができる。具体的には、例えば、セパレータを介して電極板を重ね合わせ、これをキャパシタ形状に応じて巻く、折るなどして容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。
【0098】
電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解させて得られる非水電解液を用いることが好ましい。電気二重層キャパシタ用の電解質としては、例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェートなどを挙げることができる。リチウムイオンキャパシタ用の電解質としては、例えば、LiI、LiClO_(4)、LiAsF_(6)、LiBF_(4)、LiPF_(6)などのリチウム塩を挙げることができる。
【0099】
電解質を溶解させる有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ-ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類を挙げることができる。なかでも、耐電圧の高いカーボネート類が好ましい。非水電解液中の電解質の濃度は、通常0.5モル/L以上、好ましくは0.8モル/L以上である。
【0100】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜又は不織布;一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜;などを用いることができる。また、無機セラミック粉末と樹脂バインダーを溶剤に分散させたものを電極層上に塗布及び乾燥してセパレータを形成してもよい。さらに、セパレータに代えて、固体電解質又はゲル電解質を用いてもよい。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0102】
<塗工液の調製>
(例I-1)
N-メチル-2-ピロリドン88部に、ヒドロキシプロピルキトサン5部及びPVDF(商品名「kynar741」、アルケマ社製)5部を分散させて分散液を得た。得られた分散液にピロメリット酸2部を加えた後、50℃で2時間撹拌して塗工液を調製した。
【0103】
(例I-2?I-22)
親水性ポリマーの種類及び量(未変性ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールについては鹸化度)、PVDFの量、多塩基酸の種類及び量、並びに極性溶媒の種類及び量を表I-1に示すようにしたこと以外は、前述の例I-1と同様にして塗工液を調製した。なお、表I-1中の略号の意味を以下に示す。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
NEP:N-エチル-2-ピロリドン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
DMMPA:N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミド
DMBPA:N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド
【0104】

【0105】
<導電性塗工液及び導電性塗工膜の作製・評価>
(実施例1)
(1)導電性塗工液
アセチレンブラック6部及び例I-1の塗工液94部を配合し、プラネタリーミキサーを使用して、回転数60rpmで120分間撹拌混合して導電性塗工液を調製した。
【0106】
(2)導電性塗工膜
コンマロールコーターを使用し、調製した導電性塗工液を厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に塗布した。110℃のオーブンで2分間加熱乾燥した後、180℃のオーブンで2分間加熱乾燥して、膜厚1μmの導電性塗工膜を集電体の片面上に形成した。
【0107】
(3)密着性
形成した導電性塗工膜にカッターを用いて直交する縦横11本ずつの平行線を1mmの間隔で引き、1cm^(2)の範囲内に100個の升目を形成した。升目を形成した導電性塗工膜の表面にメンディングテープを貼り付けた。メンディングテープを剥離し、剥離しなかった升目の個数(10回の平均値)を求め、集電体に対する導電性塗工膜の密着性の指標とした。結果を表I-2に示す。
【0108】
(4)表面抵抗率
コンマロールコーターを使用し、調製した導電性塗工液をPETフィルム上に塗布した後、180℃のオーブンで5分間乾燥して、導電性塗工膜(乾燥膜厚4μm)をPETフィルム上に形成した。形成した導電性塗工膜の表面抵抗率を、JIS K 7194に準拠した四探針法により測定した。結果を表I-2に示す。なお、四探針法による表面抵抗率の測定には、商品名「ロレスターGP、MCP-T610」(三菱化学アナリテック社製)を使用し、25℃、相対湿度60%の条件下で測定した。
【0109】
(実施例2、3、5?7、11、12、参考例4、8?10、13?20、比較例1?2)
塗工液の種類及び量、並びにフィラー(導電性材料)の種類及び量を表I-2に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして導電性塗工液を調製するとともに、導電性塗工膜を形成した。また、前述の実施例1と同様にして密着性の評価及び表面抵抗率の測定を行った。結果を表I-2に示す。なお、表I-2中の略号の意味を以下に示す。
AB:アセチレンブラック(商品名「デンカブラックHS-100」、電気化学工業社製)
KB:ケッチェンブラック(商品名「ECP600JD」、ライオン社製)
FB:ファーネスブラック(商品名「トーカブラック#4500」、東海カーボン社製)
CNT:カーボンナノチューブ(東京化成工業社製、多層型、直径40?60nm、長さ1?2μm)
【0110】

【0111】
<電池への応用>
(実施例21)
(1)正極電極板
コンマロールコーターを使用し、実施例1の導電性塗工液を厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に塗布した。110℃のオーブンで2分間加熱乾燥した後、180℃のオーブンで2分間加熱乾燥して、膜厚1μmの導電性塗工膜を集電体の片面上に形成した。
【0112】
LiCoO_(2)粉末(粒径1?100μm)90部、アセチレンブラック5部、及びPVDFの5%NMP溶液(PVDF溶液)50部を混合した。プラネタリーミキサーを用いて回転数60rpmで120分間撹拌混合し、正極活物質を含有するスラリー状の正極液を得た。コンマロールコーターを使用し、得られた正極液を導電性塗工膜の表面に塗布した後、110℃のオーブンで2分間乾燥処理した。さらに、180℃のオーブンで2分間乾燥して溶媒を除去し、乾燥膜厚が100μmの電極層(正極活物質層)を導電性塗工膜上に形成した。5,000kgf/cm^(2)の圧力でプレスして膜厚を均一にした後、80℃の真空オーブン中で48時間エージングして揮発分(水や溶剤など)を十分に除去し、正極電極板を得た。
【0113】
(2)負極電極板
コンマロールコーターを使用し、実施例1の導電性塗工液を銅箔(集電体)の片面に塗布した。110℃のオーブンで2分間加熱乾燥した後、180℃のオーブンで2分間加熱乾燥して、膜厚が1μmの導電性塗工膜を集電体の片面上に形成した。
【0114】
石炭コークスを1200℃で熱分解して得たカーボン粉末90部、アセチレンブラック5部、及びPVDFの5%NMP溶液(PVDF溶液)50部を混合した。プラネタリーミキサーを用いて回転数60rpmで120分間撹拌混合し、負極活物質を含有するスラリー状の負極液を得た。コンマロールコーターを使用し、得られた負極液を導電性塗工膜の表面に塗布した後、110℃のオーブンで2分間乾燥処理した。さらに、180℃のオーブンで2分間乾燥して溶媒を除去し、乾燥膜厚が100μmの電極層(負極活物質層)を導電性塗工膜上に形成した。5,000kgf/cm^(2)の圧力でプレスして膜厚を均一にした後、80℃の真空オーブン中で48時間エージングして揮発分(水や溶剤など)を十分に除去し、負極電極板を得た。
【0115】
(3)電池
得られた正極電極板及び負極電極板を、三次元空孔構造(海綿状)を有する、正極電極板より幅広のポリオレフィン系(ポリプロピレン、ポリエチレン、又はこれらの共重合体)の多孔性フィルムからなるセパレータを介して渦巻き状に捲回して電極体を作製した。作製した電極体を、負極端子を兼ねた有底円筒状のステンレス容器内に挿入した。EC(エチレンカーボネート):PC(プロピレンカーボネート):DME(ジメトキシエタン)=1:1:2(体積比)で全量1リットルになるように調製した混合溶媒に、支持塩として1モルのLiPF_(6)を溶解して得た電解液を注液して、AAサイズで定格容量500mAhの電池を作製した。
【0116】
(4)充放電容量維持率
充放電測定装置を使用して、25℃の温度条件で作製した電池の充放電容量維持率を測定及び算出した。20セルずつ、充電電流0.2CAの電流値で、充電方向から電池電圧4.1Vになるまで充電した。10分間休止した後、同一電流で2.75Vになるまで放電した。10分間休止した後、以下同一条件で100サイクルの充放電を繰り返して充放電特性を評価した。1サイクル目の充放電容量値を100%とした場合における、100回目の充放電容量値(充放電容量維持率)は98%であった。
【0117】
(実施例22?24、参考例25、26、比較例3?4)
表I-3に示す導電性塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例21と同様にして正極電極板及び負極電極板と電池を作製した。また、前述の実施例21と同様にして充放電容量維持率を測定及び算出した。結果を表I-3に示す。
【0118】

【0119】
<キャパシタへの応用>
(実施例27)
コンマロールコーターを使用し、実施例1の導電性塗工液を厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に塗布した。110℃のオーブンで2分加熱乾燥した後、180℃のオーブンで2分間加熱乾燥して、膜厚0.5μmの導電性塗工膜を集電体の片面上に形成した。
【0120】
比表面積1,500m^(2)/g、平均粒径10μmの高純度活性炭粉末100部、及びアセチレンブラック8部をプラネタリーミキサーに入れた。PVDFの5%NMP溶液(PVDF溶液)を、固形分濃度が45%となるように加えて60分間混合した。固形分濃度が42%となるようにNMPで希釈し、さらに10分間混合して電極液を得た。ドクターブレードを用いて得られた電極液を導電性塗工膜上に塗布した後、送風乾燥機を使用して80℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレス機を用いてプレスし、厚さ80μm、密度0.6g/cm^(3)のキャパシタ用の分極性電極板を得た。
【0121】
得られた分極性電極板を直径15mmの円形に切り抜いたものを2枚作製し、200℃で20時間乾燥させた。2枚の分極性電極板の電極層面を対向させ、その間に直径18mm、厚さ40μmの円形セルロース製セパレータを挟み込み、ポリプロピレン製のパッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼の厚さ0.25mm)内に収納した。コイン型外装容器内に空気が残らないように電解液を注入した後、パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、容器を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのキャパシタを作製した。なお、電解液としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートをプロピレンカーボネートに1モル/リットルの濃度で溶解させて得た溶液を用いた。作製したキャパシタの静電容量及び内部抵抗を電流密度20mA/cm^(2)で測定し、以下に示す評価基準にしたがって評価した。結果を表I-4に示す。
【0122】
[静電容量の評価基準]
A:比較例5よりも静電容量が20%以上大きい。
B:比較例5よりも静電容量が10%以上20%未満大きい。
C:比較例5と静電容量が同等以下である。
【0123】
[内部抵抗の評価基準]
A:比較例5よりも内部抵抗が20%以上小さい。
B:比較例5よりも内部抵抗が10%以上20%未満小さい。
C:比較例5と内部抵抗が同等以下である。
【0124】
(参考例28?32)
表I-4に示す導電性塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例27と同様にしてキャパシタを作製した。また、前述の実施例27と同様にして静電容量及び内部抵抗を測定し及び評価した。結果を表I-4に示す。
【0125】
(比較例5)
表I-4に示す導電性塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例27と同様にしてキャパシタを作製した。また、前述の実施例27と同様にして静電容量及び内部抵抗を測定し、実施例27、参考例28?32のキャパシタの静電容量及び内部抵抗を評価する基準とした。
【0126】

【0127】
<親水性基材に対する疎水性表面改質への応用>
(実施例33)
(1)塗工膜の形成
バーコーター(No.12)を用いて、板厚1mmのガラス板(100mm×100mm)の表面に例I-1の塗工液を4g/m^(2)の乾燥膜量となるように塗布した。表II-1に示す乾燥条件で塗工液を塗布したガラス板を加熱乾燥し、ガラス板上に塗工膜が形成された供試材を得た。
【0128】
(2)密着性
形成した塗工膜にカッターを用いて直交する縦横11本ずつの平行線を1mmの間隔で引き、1cm^(2)の範囲内に100個の升目を形成した。升目を形成した塗工膜の表面にメンディングテープを貼り付けた。メンディングテープを剥離し、剥離しなかった升目の個数(10回の平均値)を求め、親水性基材に対する塗工膜の密着性の指標とした。結果を表II-1に示す。
【0129】
(3)接触角
水平状態にした供試材の塗工膜の表面に純水2μLを滴下した。接触角計(商品名「DropMaster100」、協和界面科学社製)を使用し、JIS R3257に準拠して水滴の接触角を測定した。結果を表II-1に示す。
【0130】
(実施例34、35、37?39、43、44、参考例36、40?42、45?52、比較例6?7、参考例1)
表II-1に示す塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例33と同様にして塗工膜を形成した。また、前述の実施例33と同様にして密着性の評価及び接触角の測定を行った。結果を表II-1に示す。
【0131】

【0132】
表II-1に示すように、実施例33?35、37?39、43、44、参考例36、40?42、45?52の塗工膜は、親水性基材であるガラス板との密着性が良好であるとともに、その表面の疎水性も十分に高いものであった。これに対して、比較例6の塗工膜は、ガラス板との密着性は良好であったが、その表面の疎水性は不十分であった。また、比較例7の塗工膜は、その表面の疎水性は十分に高いものであったが、ガラス板への密着性が不十分であった。なお、参考例1の塗工膜は、ガラス板への密着性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の塗工液は、導電性や撥水性などの種々の機能が付与された塗工膜、このような機能が付与された塗工膜を備えた複合材料、各種特性に優れた電池やキャパシタ等の蓄電装置用電極板、及びこの蓄電装置用電極板を備えた蓄電装置を製造するための材料として有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒と、親水性ポリマーと、ポリフッ化ビニリデンと、を含有し、
前記極性溶媒、前記親水性ポリマー、及び前記ポリフッ化ビニリデンの合計100質量部に対する、前記親水性ポリマーの含有量が、5質量部以上10.4質量部以下であり、
前記親水性ポリマーが、キトサン誘導体及びデンプン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記キトサン誘導体が、ヒドロキシアルキルキトサンであり、
前記デンプン誘導体が、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、及びヒドロキシブチルデンプンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
全量を100質量部とした場合に、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、5質量部以下であり、
固形分の含有量が、1?35質量%である塗工液。
【請求項2】
前記極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、及びβ-アルコキシプロピオンアミド類からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキルキトサンが、ヒドロキシエチルキトサン、ヒドロキシプロピルキトサン、ヒドロキシブチルキトサン、及びジヒドロキシプロピルキトサンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の塗工液。
【請求項4】
さらに多塩基酸を含有する請求項1?3のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項5】
さらに導電性材料を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項6】
前記導電性材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層カーボンナノファイバー、多層カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びグラフェンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項5に記載の塗工液。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載の塗工液を用いて形成される塗工膜。
【請求項8】
JIS R3257に準拠して測定される接触角が70°以上である請求項7に記載の塗工膜。
【請求項9】
請求項1?6のいずれか一項に記載の塗工液を80℃以上に加熱する工程を含む塗工膜の形成方法。
【請求項10】
基材と、前記基材上に一体的に配設された請求項7又は8に記載の塗工膜と、を備える複合材料。
【請求項11】
前記基材が、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革からなる群より選択される少なくとも一種である請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、及びステンレスからなる群より選択される少なくとも一種である請求項11に記載の複合材料。
【請求項13】
集電体と、前記集電体の表面上に配設された、請求項5に記載の塗工液からなる塗工膜と、を備える電極板用部材。
【請求項14】
請求項13に記載の電極板用部材と、
前記電極板用部材を構成する前記塗工膜の表面上に配設された電極層と、を備える蓄電装置用電極板。
【請求項15】
前記塗工膜の膜厚が0.1?10μmである請求項14に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項16】
前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、
前記電極層が正極活物質を含有する請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項17】
前記電極用部材を構成する前記集電体が銅箔であり、
前記電極層が負極活物質を含有する請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項18】
前記電極用部材を構成する前記集電体がアルミニウム箔であり、
前記電極層が分極性電極である請求項14又は15に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項19】
請求項5に記載の塗工液を集電体の表面に塗布して塗工膜を形成した後、前記塗工膜の表面上に電極層を形成する工程を有する蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項20】
前記塗工液を塗布し、次いで、
前記塗工液中の前記極性溶媒を加熱して除去した後、又は除去しながら、100?250℃で1秒?60分加熱処理して前記塗工膜を形成する請求項19に記載の蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項21】
請求項14?18のいずれか一項に記載の蓄電装置用電極板を備える蓄電装置。
【請求項22】
二次電池又はキャパシタである請求項21に記載の蓄電装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-25 
出願番号 特願2014-171188(P2014-171188)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
登録日 2017-06-30 
登録番号 特許第6166235号(P6166235)
権利者 大日精化工業株式会社
発明の名称 塗工液、塗工膜、及び複合材料  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  
代理人 山田 龍也  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  
代理人 山田 龍也  

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