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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C02F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F |
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管理番号 | 1349650 |
異議申立番号 | 異議2017-701062 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-10 |
確定日 | 2018-12-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6128964号発明「有機物含有水の処理装置および処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6128964号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-8〕について訂正することを認める。 特許第6128964号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6128964号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年5月31日に出願されたものであって、平成29年4月21日に特許の設定登録(特許掲載公報発行 平成29年5月17日)がされ、その後、その特許に対して同年11月10日付けで特許異議申立人 矢部和夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたので、これを検討して平成30年1月17日付けで当審から取消理由を通知したところ、同年3月23日付けで意見書(特許権者)が提出され、これに対して同年6月8日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、同年8月8日付けで訂正請求書と共に意見書が提出され、同年9月21日付けで意見書(申立人)が提出されたものである。 第2 訂正請求について 平成30年8月8日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)が認められるかについて検討する。 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1の「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過する膜ろ過装置」を、「前記酸化処理した酸化処理水をUF膜で膜ろ過する膜ろ過装置」に訂正する。 訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?4についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の本件明細書の【0013】の「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過する膜ろ過装置」を、「前記酸化処理した酸化処理水をUF膜で膜ろ過する膜ろ過装置」に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項5の「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水して膜ろ過する膜ろ過工程」を、「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程」に訂正する。 訂正前の請求項5を引用する訂正前の請求項6?8についても同様に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の本件明細書の【0017】の「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水して膜ろ過する膜ろ過工程」を、「前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「膜ろ過する」ことを「UF膜で膜ろ過する」ことに限定するものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。 また、「UF膜で膜ろ過」することは本件明細書【0046】に記載され、【0053】には実施例としても記載されるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1の請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 また、訂正事項1と同様に、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項5の「膜ろ過する」ことを「UF膜で膜ろ過する」ことに限定するものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。 また、「UF膜で膜ろ過する」ことは本件明細書【0046】に記載され、【0053】には実施例としても記載されるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、訂正事項3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正事項3の請求項5の訂正に伴い、明細書の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 また、訂正事項3と同様に、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 3.一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について (1)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1?4について、訂正前の請求項2?4はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであり、本件訂正前の請求項5?8について、訂正前の請求項6?8はそれぞれ訂正前の請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?4、請求項5?8はそれぞれ一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 (2)明細書の訂正に関係する請求項について 訂正事項2は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項2と関係する請求項は訂正前の請求項1?4であり、訂正事項4は、訂正前の請求項5に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項6?8は、訂正前の請求項5を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項4と関係する請求項は訂正前の請求項5?8である。 すると、本件訂正請求は、訂正事項2と関係する一群の請求項の全て、及び、訂正事項4と関係する一群の請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 4.本件訂正請求についての結言 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-8〕について訂正を認める。 第3 本件訂正発明について 上記訂正請求が認められたので、特許第6128964号の請求項1ないし8に係る発明は、それぞれ、以下の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものである。 以下、請求項の順に「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明8」という。 また、上記訂正請求により訂正された本件明細書を「本件訂正明細書」という。 【請求項1】 分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、 前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を酸化処理する、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽と、 前記酸化処理した酸化処理水をUF膜で膜ろ過する膜ろ過装置と、 を備えることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項2】 請求項1に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項3】 請求項1または2に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記有機物含有水のTOCを測定するTOC測定手段と、 前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御する制御手段と、 をさらに備えることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項5】 分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、 前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽に通水して酸化処理する酸化処理工程と、 前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程と、 を含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項6】 請求項5に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項7】 請求項5または6に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項8】 請求項5?7のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記有機物含有水のTOCを測定し、前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御することを特徴とする有機物含有水の処理方法。 第4 取消理由の要旨 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が平成30年6月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨の一つは次のとおりである。 (要旨)本件発明1ないし8に係る特許は、同発明が、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証、甲第9の1号証、甲第10号証、甲第102ないし104号証に記載の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 本件訂正発明1?8に係る特許に対して、上記取消理由の妥当性を以下で検討する。 1.証拠 上記取消理由で引用する甲各号証は特許異議申立書に添付された以下のとおりのものである。ただし、甲第102?104号証は特許異議申立書中で甲各号証とは別に記載された文献であり、当審で当該番号を付与した。 ○甲第4号証:河川水のUF膜ろ過(当審注:原文では「ろ過」の「ろ」は「さんずい」に「戸」であるが、当庁の起案システムで表記できないので「ろ過」とした。以下で甲第4号証を引用する場合において全て同様である。)における膜ファウリング発現機構、渡辺義公 外3名、水道協会雑誌、社団法人日本水道協会、平成12年2月1日、第69巻第2号、12-23頁 ○甲第6号証:特開平1-99689号公報 ○甲第9の1号証:ろ過材メーカー日本原料株式会社ハイパータンク、ウエブページ等に掲載されたもの(URL:http://www.genryo.co.jp/HT.html) ○甲第10号証:特開平10-277572号公報 ○甲第102号証:国際公開第2010/109838号 ○甲第103号証:特開平11-156375号公報 ○甲第104号証:特開2013-52359号公報 特許権者が平成30年3月23日付け意見書に添付した乙各号証は次のとおりのものである。 ○乙第1号証:特開2006-231274号公報 ○乙第2号証:水道膜ろ過法入門、(財)水道技術研究センター編、株式会社日本水道新聞社、第9頁、平成14年1月28日発行 ○乙第3号証:特開2007-296464号公報 2.甲第4号証の記載事項 (ア)「要旨:・・・(2)その後、膜面への懸濁粒子や高分子フミン質の堆積によるケーキ層が形成され、膜ファウリングは主にケーキ層の形成により生ずる。(3)一部のケーキ層が物理洗浄により剥離する。(4)剥離しきれないケーキ層が膜面に蓄積し、連続UF膜ろ過の膜ファウリングは主にケーキ層の蓄積により生ずる。」(12頁「要旨」1?5行) (イ)「3.1 河川水中の不純物 河川水には、粘土粒子、バクテリア、鉄・マンガン・アルミニウムなどの金属析出物を含む懸濁成分、アンモニア性窒素、マンガンなどの溶解性無機成分、フミン質を主体とする天然有機成分が存在する。UF膜ろ過における不純物の除去特性と膜ファウリング特性は、これらの不純物の寸法に大きく影響される。」(13頁右欄下から24行?下から17行) (ウ)「また、溶解性有機成分の大部分を占めるフミン質はさまざまな分子サイズを有する混合体であるため、膜ファウリングとの関わりはその分子サイズにより異なる。膜細孔径以上のサイズを有する高分子フミン質は膜面に堆積し、ケーキ層抵抗を発現するが、膜細孔径以下のサイズを有する低分子フミン質は膜細孔内に吸着し、膜細孔径の減少を引き起こすと考えられる。」(13頁右欄下から4行?14頁左欄4行) (エ)「図-1は分子篩膜の・・・YM系列UF膜を用い、千歳川表流水のE260を分画した結果である。YM系列のUF膜は、表面無荷電の親水性膜であり、有機物の吸着が無視できるため、フミン質の見かけ分子量の測定によく使われている。図-1によると、千歳川表流水中のフミン質はほとんどが見かけ分子量100kDa以上(35%)と30kDa以下(60%)の両端に分布し、30kDa?100kDaの間には、わずか5%程度しか存在しない。」(14頁左欄5?15行) (オ)「公称孔径0.1μm、0.03μmのMF膜と分画分子量50kDa、150kDa、200kDaのUF膜を用いた千歳川表流水の連続ろ過では、E260の平均除去率がほぼ同程度の30?35%であった。この除去率は上記の分子篩膜により分画された100kDa以上のフミン質の存在比とほぼ同じであり・・・UF膜ろ過で除去できない低分子フミン質はほとんど見かけ分子量30kDa以下であり・・・」(14頁左欄16?26行) 3.甲第4号証に記載された発明 (1)上記甲第4号証の記載事項(イ)(エ)(オ)から、「YM系列のUF膜」を用いて「千歳川表流水の連続ろ過」を行ったところ、「E260」は波長260nmの紫外線吸収度から定量された有機物の量、すなわち「千歳川」の表流水中に含まれる有機物の量を示すので、「千歳川」の表流水中には、フミン質を主体とする天然有機成分が含まれており、フミン質の分子量は「100kDa(100,000)以上」(35%)と「30kDa(30,000)以下」(60%)に集中することが記載されているといえる。 (2)また、同(ウ)(エ)(オ)から、「YM系列のUF膜」には、分子量が「100kDa(100,000)以上」の「フミン質」が「千歳川表流水」から除去されて「膜面に堆積し、ケーキ層抵抗を発現」して「膜ファウリング」の原因となることが示され、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」は、「YM系列のUF膜」は「表面無荷電の親水性膜」であるので「有機物の吸着が無視」できることから、「YM系列のUF膜」で「除去でき」ずに透過したいえる。 (3)以上から、本件訂正発明5の請求項の記載に沿って甲第4号証に記載された発明を整理すれば、甲第4号証には、 「分子量100,000以上のフミン質および分子量30,000以下のフミン質を含有する千歳川表流水をYM系列のUF膜で濾過する処理方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 4.本件訂正発明5について 4-1.本件訂正発明5と引用発明との対比 (1)特許権者の提出した乙第1ないし3号証にも記載されるように、「フミン質」は、「植物の残骸や微生物の遺体が微生物による分解を受け、その分解産物から化学的、生物的に合成された高分子有機酸の総称」(乙第1号証【0007】)であり、「フミン酸やフルボ酸などはフミン物質の一種であ」って(乙第3号証【0001】)、「フミン酸(分子量:1,000?数10万)やフルボ酸(分子量:数百)が有機物質」(乙第2号証 9頁 表-2.1-1)であって、「分子量100,000」超の「フミン質類」が「高分子有機物」に含まれることは当業者にとって明らか」だから、引用発明の「分子量100,000」超の「フミン質類」は「高分子有機物」に含まれるものである。 (2)本件訂正発明5の「有機物含有水」は「河川水」等を原水とするものである(本件訂正明細書【0002】)ところ、引用発明の「千歳川表流水」について、河川毎にも時間的にも河川に含まれる成分には相違があると考えられるが、「千歳川」が特異な地形土壌を流れる河川ではなく、周辺での時間的に大きな環境の変化があったものとも認められないので、「千歳川」は一般的な河川であるといえることを考慮すれば、「千歳川表流水」の上記含有成分は河川水のものとして一般的なものといえる。 (3)本件訂正発明5の「UF膜」は、本件訂正明細書【0046】には「膜ろ過装置14において用いるろ過膜は、酸化処理工程で処理された溶存有機物のうち低分子化に至らなかった有機物や濁質成分等をろ過できるものであればよく、特に制限はないが、例えば、UF膜、MF膜等が挙げられ、酸化触媒から剥離した微細な触媒粒子(例えば、0.1μm未満)等を除去できる等の点から、UF膜が好ましい。」と記載されており、これは引用発明の「YM系列のUF膜」を含むものといえ、また、引用発明も「YM系列のUF膜」へ通水するための「膜ろ過装置」を当然に有するものといえる。 (4)すると、本件訂正発明5と引用発明とは、次の点で一致し、相違する。 (一致点)「分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物」及び「分子量500以上30,000以下のフミン質を含」む有機物含有水を「膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程」を含む「有機物含有水の処理方法」である点。 (相違点)本件訂正発明5は「有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽に通水して酸化処理する酸化処理工程」を含むのに対して、引用発明は当該処理工程を含まない点。 4-2.相違点の検討 (1)上記甲第4号証の記載事項(ア)(ウ)(オ)から、引用発明においては、「分子量100,000以上のフミン質」すなわち「分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物」が膜面にケーキ層として蓄積して膜ファウリングを生じているから、これを除去すべき課題が当然に存在するものといえる。 (2)ここで、甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証について示す。 i)甲第6号証には、「上、下水や工業用水等の水中に存在する有機物質を除去」する(1頁右下欄3-4行)方法、装置において、「次亜塩素酸ナトリウム」や「過酸化水素」といった「酸化剤の存在下」で、「活性度の高い電解二酸化マンガンのβ型やγ型二酸化マンガン粒子」の「触媒ろ材層」に「通水」「ろ過」することで、「水中の有機物を酸化分解して除去する」こと(2頁左上欄19行-同頁右上欄20行)が示されている。 ii)また、甲第102号証には、「一般排水、産業排水、下水、河川水、地下水、湖沼水など、種々の有機物含有水」([0033])を被処理水として、「塩素系酸化剤を添加し、マンガン系濾過材に通水して有機物を接触酸化分解する」([0018])ことが示され、「マンガン系濾過材」は「β-MnO_(2)を含む天然の二酸化マンガン(MnO_(2))の結晶粉末を、粒子状の担体の表面にバインダーによって担持させた濾過材」を用い得る([0025])ものであり、「塩素系酸化剤」は「次亜塩素酸ナトリウム」を用い得る([0032])ものであることが示されている。 iii)さらに、甲第103号証には、「用水処理あるいは廃水処理などの水処理」(【0001】)において、そのような「有機物を含有する原水に、酸化剤を添加し、粒状又は粉末状のマンガン鉱石と接触させて該有機物を酸化」(【請求項1】)すると、原水中の有機物は強力に酸化分解される(4頁5欄1行、【0034】)ものであることが示されるが、「マンガン鉱石」より高価である「二酸化マンガン」(【0034】)を用いる従来法として「触媒酸化法」も示され、同法において、「酸化剤」として「過酸化水素」が、酸化触媒として「粉末状二酸化マンガン触媒」が用いられても、原水中の有機物は強力に酸化分解されること(【0029】【0031】【0033】)が示されている。 iv)以上から、有機物を含む種々の性状の原水に、酸化剤を添加して二酸化マンガン触媒に接触させると、有機物が分解し、原水より除去できることは周知技術ということができる。 (3)すると、引用発明においては、上記「3.(2)」の検討から、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」の大きさ以下であれば、引用発明の「UF膜」を透過するのであるから、引用発明に上記周知技術の工程を適用して、「分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物」が分解されて、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」の大きさ以下になれば、引用発明の「YM系列のUF膜」を透過して「膜面への膜ファウリング」を防止出来ることになるといえる。 したがって、引用発明において、甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に示される周知技術を適用して、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」の大きさ以下の大きさの物質に分解しようとすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。 (4)以下に、意見書での特許権者の主張について検討する。 i)特許権者は、平成30年3月23日付け意見書(10?12頁「(キ)」)で、甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の技術手段は、「分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含」んでいる「有機物含有水」に対して有機物を酸化分解するものではないから、引用発明に適用して有機物を酸化分解することはできない旨を主張する。 しかしながら、上記甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の周知技術は、各種の有機物を含む種々の性状の原水に酸化剤を添加して二酸化マンガン触媒に接触させると有機物が分解し原水より除去できることを示すもので、例えば甲第102号証の[0011]には「難分解性である有機物(例えば、フェノールなど)」も分解できることが示されており、引用発明への適用が困難なものとはいえない。 ii)特許権者は、平成30年8月8日付け意見書(14?17頁「(7)」)で、本件発明は「低分子化した有機物がUF膜を通過することを見出したことから、至ったものである(本件訂正明細書【0029】)」ところ、引用発明に甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の周知技術を適用する動機付けはなく、本件発明を容易に成し得るものでは無い旨を主張する。 しかしながら、甲第4号証には、上記「3.(2)」の検討から、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」の大きさ以下であれば、引用発明の「UF膜」を透過することが記載されているから、引用発明においてUF膜面にケーキ層として蓄積して膜ファウリングを生じている「分子量100,000以上のフミン質」という有機物に当該周知技術を適用して、分子量が「30kDa(30,000)以下」の「フミン質」の大きさ以下の物質にしようと試みることには十分な動機付けがあるというべきである。 したがって、特許権者の上記主張は採用できない。 4-3.本件訂正発明5についての結言 以上から、本件訂正発明5に係る特許は、同発明が甲第4号証に記載された発明と、甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、取り消されるべきものである。 5.本件訂正発明1について 本件訂正発明1の「有機物含有水の処理装置」は、本件訂正発明5の「有機物含有水の処理方法」と発明のカテゴリーが異なるだけで実質的に同一の技術思想の発明である。 よって、上記「4.」で記したのと同様の理由により、本件訂正発明1に係る特許は、取り消されるべきものである。 6.本件訂正発明2及び6、本件訂正発明3及び7、本件訂正発明4及び8について (1)本件訂正発明2及び6について 本件訂正発明2、6は、それぞれ本件訂正発明1、5を引用して、「二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むこと」をさらに特定事項とするものであるところ、同特定事項は、甲第6号証(【請求項3】)、甲第9の1号証(2/2頁 「除色 (フミン質)処理」の欄)、甲第102号証([0012])に記載されるように周知技術であり、引用発明への甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の周知技術の適用において、「二酸化マンガン」を「ベータ型の結晶構造を持つ」ものとすることに格別の困難性は見出せない。 (2)本件訂正発明3及び7について 本件訂正発明3、7は、それぞれ本件訂正発明1又は2、5又は6を引用して、「酸化剤は、過酸化水素であること」をさらに特定事項とするものであるところ、同特定事項は、酸化マンガンを触媒として酸化剤を添加して目的物(有機物)を酸化する上記周知技術において、次に示すように種々の薬剤を使用し得ることが知られているから、引用発明に周知技術を適用するにあたり、被処理水の状況に応じて酸化の程度を調整する等のために設計的に成し得ることにすぎない。 ○甲第6号証(有機物の処理):酸化剤が塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸カリウム(【特許請求の範囲2】) ○甲第102号証(有機物の処理):次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過マンガン酸カリウム([0032]) ○甲第103号証(有機物の処理):過酸化水素、次亜塩素酸、過マンガン酸(【0019】) (3)本件訂正発明4及び8について 本件訂正発明4、8は、それぞれ本件訂正発明1ないし3、又は、5ないし7を引用して、「有機物含有水のTOCを測定するTOC測定手段と、前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御する制御手段と、をさらに備える」ことをさらに特定事項とするものであるところ、同特定事項は甲第10号証(【0010】)、甲第104号証(【特許請求の範囲】【図1】)に記載されるように周知技術といえる。 すると、引用発明は「有機物含有水の処理方法」であって、「4-2.(1)」で検討したように、膜面への有機物によるファウリングを防止するという課題を有するから、「有機物含有水」中の有機物量の指標として上記周知技術である「TOC測定手段」を設けて「TOC」を測定し、甲第6号証、甲第102号証、甲第103号証に記載の二酸化マンガン触媒と酸化剤による有機物を分解する周知技術において、TOC測定値に対応させて酸化剤量を決定し、ファウリングを防止しようとすることに格別の困難性は見いだせない。 (4)結言 したがって、本件訂正発明2及び6、本件訂正発明3及び7、本件訂正発明4及び8に係る特許は、同発明が、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証、甲第9の1号証、甲第10号証、甲第102ないし104号証に記載の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、取り消されるべきものである。 第7 むすび 以上から、本件訂正発明1ないし8に係る特許は、同発明が、甲第4号証に記載された発明及び他の甲各号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 有機物含有水の処理装置および処理方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、有機物を含む有機物含有水の処理装置および処理方法に関する。 【背景技術】 【0002】 河川水、湖沼水、地下水等から水道水を生成する方法として凝集、沈殿、ろ過処理の組合せによる処理が一般的となっているが、これらは濁度除去と殺菌等を主目的としており、有機物の高い原水が混入した場合は処理水質が悪化しやすく、凝集、沈殿、ろ過処理に加え、オゾン処理や活性炭処理を組み合わせる処理が通常行われる。 【0003】 このような処理を行うための水処理装置の一例を図2に示す。図2に示す水処理装置は、原水槽50と、凝集処理を行うための凝集槽52と、沈殿処理を行うための沈殿槽54と、オゾン処理を行うためのオゾン反応槽56と、活性炭処理を行うための活性炭槽58と、ろ過処理を行うための砂ろ過槽60と、処理水槽62とを備えるものである。 【0004】 しかし、凝集、沈殿、ろ過処理に、オゾン処理や活性炭処理を組み合わせる処理方法では、オゾンの酸化力に限界があり、必ずしも二酸化炭素にまで分解できないことがある上に、オゾンにより生成した中間生成物を必ずしも効率的に活性炭で吸着できるわけでなく、活性炭の使用量が増加するという問題がある。 【0005】 例えば、特許文献1には、河川水、湖沼水、地下水等の被処理水に鉄系凝集剤を添加して水中の懸濁物質および溶解性有機物を凝集させ、セラミック膜分離装置を用いて凝集物を除去する方法が記載されている。 【0006】 しかし、このような方法では、溶解性有機物を凝集させるためにpHを4?6にまで下げなければならないという問題がある。また、pHを4?6にまで下げても効率的に溶解性有機物を凝集できない場合もある。 【0007】 また、近年では、有機物対策として、活性炭処理と膜ろ過処理とを組み合わせた処理プロセスも提案されている。 【0008】 このような処理を行うための水処理装置の一例を図3に示す。図3に示す水処理装置は、原水槽70と、活性炭処理を行うための活性炭塔72と、膜ろ過処理を行うための膜ろ過装置74と、処理水槽76とを備えるものである。 【0009】 しかし、活性炭処理と膜ろ過処理とを組み合わせた方法でも、活性炭の使用量が増加してしまうという問題がある上に、原水中に多糖類、タンパク質等の高分子有機物が含まれる場合、それらを活性炭で十分に吸着することができず、後段のろ過に膜ろ過装置を導入した場合に、不可逆的な膜の閉塞を起こりやすくしてしまうという問題もある(例えば、非特許文献1参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】特開2002-059173号公報 【非特許文献】 【0011】 【非特許文献1】衛生工学シンポジウム論文集,13:pp.227-230 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明の目的は、従来型システムと比べ、より設備費およびランニングコストが低く、膜ろ過装置の安定運転が可能な有機物含有水の処理装置および処理方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を酸化処理する、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽と、前記酸化処理した酸化処理水をUF膜で膜ろ過する膜ろ過装置と、を備える有機物含有水の処理装置である。 【0014】 また、前記有機物含有水の処理装置において、前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことが好ましい。 【0015】 また、前記有機物含有水の処理装置において、前記酸化剤は、過酸化水素であることが好ましい。 【0016】 また、前記有機物含有水の処理装置において、前記有機物含有水のTOCを測定するTOC測定手段と、前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御する制御手段と、をさらに備えることが好ましい。 【0017】 また、本発明は、分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽に通水して酸化処理する酸化処理工程と、前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程と、を含む有機物含有水の処理方法である。 【0018】 また、前記有機物含有水の処理方法において、前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことが好ましい。 【0019】 また、前記有機物含有水の処理方法において、前記酸化剤は、過酸化水素であることが好ましい。 【0020】 また、前記有機物含有水の処理方法において、前記有機物含有水のTOCを測定し、前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御することが好ましい。 【発明の効果】 【0021】 本発明では、有機物含有水に酸化剤を添加した後、酸化触媒により酸化処理し、その酸化処理水を膜ろ過することにより、従来型システムと比べ、より設備費およびランニングコストが低く、膜ろ過装置の安定運転が可能な有機物含有水の処理装置および処理方法を提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【0022】 【図1】本発明の実施形態に係る有機物含有水の処理装置の一例を示す概略構成図である。 【図2】従来の水処理装置の一例を示す概略構成図である。 【図3】従来の水処理装置の他の例を示す概略構成図である。 【図4】実施例1および比較例1の処理結果を示す図である。 【図5】実施例1における原水のTOC濃度と酸化剤(過酸化水素)の注入濃度との関係を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0023】 本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。 【0024】 本発明の実施形態に係る有機物含有水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。有機物含有水処理装置1は、酸化触媒を充填した酸化処理槽12と、膜ろ過装置14とを備える。有機物含有水処理装置1は、原水槽10と、処理水槽16とを備えてもよい。 【0025】 図1の有機物含有水処理装置1において、原水槽10の入口には原水配管26が接続され、原水槽10の出口と酸化処理槽12の酸化剤添加水入口とはポンプ20を介して原水供給配管28により接続され、酸化処理槽12の出口と膜ろ過装置14の入口とは酸化処理水配管30により接続され、膜ろ過装置14の膜ろ過水出口と処理水槽16の入口とは膜ろ過水配管32により接続され、処理水槽16の処理水出口には処理水配管34が接続されている。また、原水供給配管28のポンプ20の下流側には、酸化剤槽18の出口がポンプ22を介して酸化剤配管36により接続されている。原水槽10にはTOC測定装置24が設置され、TOC測定装置24とポンプ22とは電気的接続手段等により接続されている。 【0026】 本実施形態に係る有機物含有水処理方法および有機物含有水処理装置1の動作について説明する。 【0027】 原水である、有機物を含む有機物含有水は、原水配管26を通して、必要に応じて原水槽10に貯留される。有機物含有水は、ポンプ20によって原水供給配管28を通して酸化処理槽12に送液されるが、原水供給配管28の途中において酸化剤槽18から酸化剤がポンプ22によって酸化剤配管36を通して有機物含有水に添加され(酸化剤添加工程)、酸化剤添加水として酸化処理槽12に送液される。本実施形態では、酸化剤槽18、ポンプ22および酸化剤配管36が酸化剤添加手段として機能する。 【0028】 酸化処理槽12において、酸化剤添加水は上向流で通水され、充填された酸化触媒により酸化処理される(酸化処理工程)。有機物含有水に酸化剤が添加されながら、酸化触媒が充填された酸化処理槽12に通水されることにより、溶存有機物が酸化分解される。 【0029】 酸化処理された酸化処理水は、酸化処理槽12の出口から酸化処理水配管30を通して膜ろ過装置14へ送液される(膜ろ過工程)。溶存有機物のうち高分子有機物やフミン質類等は酸化処理されて低分子化されることから、膜ろ過装置14の膜を透過するので、膜ろ過装置14の膜の閉塞を抑えることが可能となる。よって、膜ろ過装置14では、酸化処理工程で処理された溶存有機物のうち低分子化に至らなかった有機物や濁質成分等が除去される。 【0030】 膜ろ過装置14の膜ろ過水は、膜ろ過水配管32を通して処理水槽16へ送液され、貯留される。処理水槽16に貯留された処理水の所定の量が処理水配管34を通して排出される。 【0031】 有機物含有水に酸化剤を添加した後、酸化触媒により酸化処理し、その酸化処理水を膜ろ過することにより、従来型システムと比べ、より設備費およびランニングコストが低く、膜の安定運転が可能となる。 【0032】 本実施形態に係る有機物含有水処理方法および有機物含有水処理装置1では、酸化剤を添加した原水を、酸化処理槽12へ例えば1,200m/日以上の高流速の上向流で通水することが可能であるため、装置を非常にコンパクトにすることができる。さらに、酸化触媒を流動状態に維持することができることから、原水が高濁度となった場合にも酸化処理槽12が閉塞する恐れがほとんどないという利点がある。さらに、酸化剤と酸化触媒とを組み合わせることにより、原水中の多糖類、タンパク質等の高分子有機物等の有機物を効率的に分解することができるため、後段の膜ろ過装置14の閉塞が従来型システムと比較して格段に起こりにくく、膜ろ過装置14の長期安定運転が可能となる。また、イニシャルコストやランニングコストも従来のオゾン処理と活性炭処理とを組み合わせたシステム等と比較して、大幅に削減することができる。 【0033】 本実施形態では、TOC測定装置24により原水槽10中の有機物含有水のTOCを測定し、測定したTOCに基づいて酸化剤の添加量を制御することが好ましい。例えば、TOC測定装置24により原水槽10中の有機物含有水のTOCを測定し、測定したTOCに基づいて図示しない制御手段としての制御装置によりポンプ22を制御して、酸化剤の添加量を調整すればよい。 【0034】 ジャーテスト等であらかじめ多糖類、タンパク質等の高分子有機物等の有機物の分解に必要となる酸化剤の添加率を調べておいて、原水のTOC濃度に応じて、酸化剤添加量を自動制御するシステムを採用することにより、薬品添加量を適正に管理することができるため、薬品注入の無駄を省くことができ、かつ酸化剤に次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合でも、過剰なトリハロメタンの生成を防ぐことができるという利点もある。 【0035】 処理対象となる有機物含有水は、少なくとも1つの有機物を含む。有機物としては、多糖類、タンパク質、ポリペプチド等の親水性有機物、生物処理代謝物、分散剤等の高分子有機物や、フミン酸、フルボ酸等のフミン質類等が挙げられる。有機物としては、高分子有機物やフミン質類の他に、フミン酸の分解生成物や、脂肪族低分子有機酸(炭素数2以下)、低分子フミン等の低分子有機酸や、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミノ酸等の低分子量の弱荷電親水性物質、疎水性脂肪族化合物等の疎水性化合物等の低分子有機物等を含んでもよい。ここで、高分子有機物の分子量は、例えば、100,000以上2,000,000以下の範囲、フミン質類の分子量は、例えば、500以上100,000以下の範囲、フミン酸の分解生成物、低分子有機酸、低分子有機物等の分子量は、例えば、500未満である。 【0036】 有機物含有水中の有機物の含有量は、多糖類、タンパク質等の高分子有機物の含有量は、例えば0.02?2.0mg/Lの範囲であり、フミン質類の含有量は、例えば0.02?4.0mg/Lの範囲である。 【0037】 処理対象となる有機物含有水としては、例えば、河川水、地下水、湖沼水等が挙げられる。 【0038】 酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、さらし粉、過マンガン酸カリウム、二酸化塩素、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、ランニングコスト、汎用性等の点から、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素が好ましく、過酸化水素がより好ましい。 【0039】 酸化触媒としては、例えば、二酸化マンガンが粒状、固形状となった酸化触媒や、マンガン砂等が挙げられる。また、二酸化マンガンとしては、特に制限はなく、α型、β型、ε型、γ型、λ型、δ型およびR型の結晶構造を有する二酸化マンガンが挙げられ、これらのうち、反応性等の点から、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンが好ましい。 【0040】 酸化剤、酸化触媒の組み合わせとしては、原水中の多糖類、タンパク質等の高分子有機物やフミン質類等の有機物を効率的に分解することができるものなら特に制限はない。例えば、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを、酸化触媒としてβ型の結晶構造を有する二酸化マンガン触媒を使用することができる。これらの組み合わせとした場合は、原水である有機物含有水中に鉄およびマンガンのうち少なくとも1つが含まれる場合には、鉄およびマンガンの酸化析出もともに起こり、後段の膜ろ過装置14での除去も可能となるため、より効率的なシステムとなる。 【0041】 酸化剤として過酸化水素を、酸化触媒としてβ型の結晶構造を有する二酸化マンガン触媒を使用した場合は、多糖類、タンパク質等の高分子有機物等をより効率的に分解することができる上、トリハロメタンの生成もほとんど起こらないので、さらに効率的なシステムとなる。 【0042】 酸化触媒の密度は、2.8g/cm^(3)以上であることが好ましい。酸化触媒の密度が2.8g/cm^(3)未満であると、高速で通水した場合に触媒が展開し、酸化処理槽12の槽高が高くなる場合がある。 【0043】 酸化触媒の粒径は、0.4mm?2.0mmの範囲であることが好ましい。酸化触媒の粒径が0.4mm未満であると、触媒の展開率が上がり、粒径の小さいものが流出する場合があり、2.0mmを超えると、触媒表面積が減り、反応効率が低下する場合がある。 【0044】 酸化処理槽12における上向流による通水流速は、例えば、1,000m/日?3,600m/日の範囲の高線速であり、1,200m/日?2,400m/日の範囲であることが好ましい。酸化処理槽12における上向流による通水流速が1,000m/日未満であると、触媒が略均一に流動せず、片流れが生じる場合があり、3,600m/日を超えると、触媒の展開率が上がり、酸化処理槽12の槽高が高くなる場合がある。 【0045】 酸化処理槽12における反応温度は、例えば、1℃?50℃の範囲である。 【0046】 膜ろ過装置14において用いるろ過膜は、酸化処理工程で処理された溶存有機物のうち低分子化に至らなかった有機物や濁質成分等をろ過できるものであればよく、特に制限はないが、例えば、UF膜、MF膜等が挙げられ、酸化触媒から剥離した微細な触媒粒子(例えば、0.1μm未満)等を除去できる等の点から、UF膜が好ましい。 【0047】 膜ろ過装置14の膜の洗浄が必要となった場合、処理水槽16に貯留された処理水の少なくとも一部を用いて膜ろ過装置14のろ過膜の逆洗が行われてもよい(逆洗工程)。 【0048】 また、膜ろ過装置14の逆洗排水の少なくとも一部を用いて、洗浄水として酸化処理槽12において上向流で通水して、酸化処理槽12を洗浄してもよい(洗浄工程)。 【0049】 本実施形態に係る有機物含有水処理方法および処理装置においては、上記の通り、酸化処理槽12を例えば1,000m/日以上の高線速の上向流で有機物含有水を通水させるが、もちろん酸化処理槽中を下向流で有機物含有水を通水させる方法への適用も可能である。 【0050】 酸化処理槽12における下向流による通水流速は、例えば、120m/日?720m/日の範囲であり、140m/日?360m/日の範囲であることが好ましい。酸化処理槽12における下向流による通水流速が120m/日未満であると、装置が大きくなってしまう場合があり、720m/日を超えると、すぐに濁質が詰まり通水不能になる場合がある。 【0051】 本実施形態に係る有機物含有水処理装置および処理方法は、例えば、浄水処理場、地下水の用水処理等において好適に適用可能である。 【実施例】 【0052】 以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。 【0053】 <実施例1> 図1に記載の有機物含有水処理装置を用いて、有機物含有水の処理を行った。酸化剤として過酸化水素を0.5?2.0mg/L注入した。注入方法は、原水のTOCを、TOC測定装置(島津製作所製、TOC-4200型)を用いてオンラインで測定し、その濃度に応じて、注入量を自動で調節した。酸化処理槽においては、1,560m/日の上向流で通水した。酸化触媒として、有効径0.5mm、密度4.0g/cm^(3)のβ型の結晶構造を有する二酸化マンガン触媒粒子を用いた。ろ過膜としては、PVC製UF膜を用い、膜ろ過流束は2.4m/日とし、原水に対する処理水の回収率は95%とした。膜ろ過装置の膜間差圧経時変化を図4に示す。また、原水のTOC濃度(mg/L)に対する過酸化水素注入濃度(mg/L)の関係を図5に示す。 【0054】 原水である有機物含有水および酸化処理水のLC-OCD(DOC-LABOR社製、model8型)によるTOC分画分析結果を表1に示す。LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detector)は、高感度型TOC成分分析装置であり、サンプル水に含まれる親水性の有機物(TOC)の特性についてppbレベルで検出が可能な装置である。数多くの河川水や湖沼水、有機化合物を測定したデータを元に構築された自動解析ソフトでTOC成分を分類し、成分濃度ではなくTOCとして表示した。 【0055】 なお、表1において、「高分子有機物」は、100,000以上2,000,000g/mol以下程度の多糖類、タンパク質、ポリペプチド等の高分子量の親水性有機物、生物処理代謝物、分散剤等を含み、膜ろ過装置のろ過膜を閉塞させやすい物質である。「フミン質類」は、分子量500以上1,200g/mol程度のフミン類やフルボ酸等を含む。「フミン分解生成物」は、分子量300以上450g/mol以下程度のフミン酸の分解生成物等を含む。「低分子有機酸」は、分子量350以下程度の脂肪族低分子有機酸(炭素数2以下)、低分子フミン等を含む。「低分子有機物」は、分子量350以下程度のアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミノ酸等の低分子量の弱荷電親水性物質、疎水性脂肪族化合物等の疎水性化合物等を含む。 【0056】 また、処理水質の分析結果を表2に示す。濁色度は、日本電色製WA25000N、TOCは、島津製作所製TOC5000、金属は、パーキンエルマー製NexION、トリハロメタンは、島津製作所製GC-14Bで測定した。 【0057】 <比較例1> 図3に記載の水処理装置を用いて、有機物含有水の処理を行った。図3に示す水処理装置は、原水槽70と、活性炭処理を行うための活性炭塔72と、膜ろ過処理を行うための膜ろ過装置74と、処理水槽76とを備えるものである。その他の条件は実施例1と同様にして行った。膜ろ過装置の膜間差圧経時変化を図4に示す。 【0058】 実施例1と同様にして測定した、原水である有機物含有水および活性炭処理水のTOC分画分析結果を表1に示す。また、処理水質の分析結果を表2に示す。 【0059】 【表1】 【0060】 【表2】 【0061】 実施例1の有機物含有水処理装置を用いることにより、比較例1の水処理装置と比べ、多糖類、タンパク質等の高分子有機物等の有機物の分解が促進され、その結果として、顕著に膜間差圧の上昇を抑えることが可能となった。また、処理水質に関しても比較例1と比較し、同等以上の水質を得られることが確認できた。さらに膜ろ過の前処理の設置スペースも80%以上削減可能となった。 【0062】 このように、実施例1の有機物含有水処理装置では、従来型システムと比べ、より設備費およびランニングコストが低く、膜の安定運転が可能となった。 【符号の説明】 【0063】 1 有機物含有水処理装置、10,50,70 原水槽、12 酸化処理槽、14,74 膜ろ過装置、16,62,76 処理水槽、18 酸化剤槽、20,22 ポンプ、24 TOC測定装置、26 原水配管、28 原水供給配管、30 酸化処理水配管、32 膜ろ過水配管、34 処理水配管、36 酸化剤配管、52 凝集槽、54 沈殿槽、56 オゾン反応槽、58 活性炭槽、60 砂ろ過槽、72 活性炭塔。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、 前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を酸化処理する、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽と、 前記酸化処理した酸化処理水をUF膜で膜ろ過する膜ろ過装置と、 を備えることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項2】 請求項1に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項3】 請求項1または2に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理装置であって、 前記有機物含有水のTOCを測定するTOC測定手段と、 前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御する制御手段と、 をさらに備えることを特徴とする有機物含有水の処理装置。 【請求項5】 分子量100,000以上2,000,000以下の高分子有機物および分子量500以上100,000以下のフミン質類の少なくとも1つを含む有機物含有水に酸化剤を添加する酸化剤添加工程と、 前記酸化剤が添加された酸化剤添加水を、二酸化マンガン触媒を充填した酸化処理槽に通水して酸化処理する酸化処理工程と、 前記酸化処理した酸化処理水を膜ろ過装置に通水してUF膜で膜ろ過する膜ろ過工程と、 を含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項6】 請求項5に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記二酸化マンガン触媒は、β型の結晶構造を有する二酸化マンガンを含むことを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項7】 請求項5または6に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする有機物含有水の処理方法。 【請求項8】 請求項5?7のいずれか1項に記載の有機物含有水の処理方法であって、 前記有機物含有水のTOCを測定し、前記測定したTOCに基づいて前記酸化剤の添加量を制御することを特徴とする有機物含有水の処理方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-11-15 |
出願番号 | 特願2013-115161(P2013-115161) |
審決分類 |
P
1
651・
853-
ZAA
(C02F)
P 1 651・ 851- ZAA (C02F) P 1 651・ 121- ZAA (C02F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 富永 正史 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 中澤 登 |
登録日 | 2017-04-21 |
登録番号 | 特許第6128964号(P6128964) |
権利者 | オルガノ株式会社 |
発明の名称 | 有機物含有水の処理装置および処理方法 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |