• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1349653
異議申立番号 異議2018-700502  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-20 
確定日 2019-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6250242号発明「ジルコニア微粉末およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6250242号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第6250242号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6250242号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月28日(優先権主張 平成28年3月30日)を国際出願日とする出願であって、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月20日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その特許について、平成30年6月20日付けで特許異議申立人浜俊彦により、甲第1号証?甲第3号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成30年8月31日付けで取消理由が通知され、平成30年11月1日付けで特許権者より、乙第1号証を証拠方法とする意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成30年12月11日付けで特許異議申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:四方良一他、Y-TZPの表面改質による熱劣化の改善、材料、1991年、第40巻、第454号、第927?933頁
甲第2号証:特開2013-42047号公報
甲第3号証:木原正浩他、Y-TZPの機械的性質及び微細組織に及ぼすAl_(2)O_(3)添加の影響、日本セラミックス協会学術論文誌、1988年、第96巻、第6号、第646?653頁
乙第1号証:四方良一他、Y-PSZ-Al_(2)O_(3)複合焼結体の高強度化、粉体および粉末冶金、1990年、第37巻、第2号、第357?361頁

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に記載された
「静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上である」を、
「ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%のアルミナを含み,
静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に記載された「請求項1?4のいずれか1項に記載の」を「請求項1?3のいずれか1項に記載の」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項4が引用する請求項3に記載された「さらに酸化アルミニウムを含む」ことに限定するとともに、その含有量を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付された明細書段落【0027】に、「アルミナの含有量は特に制限はなく,例えば,ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%とすることができる。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項5における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項5及び6が、訂正前の請求項4を引用するものであるから、訂正事項1及び2の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項4?6について請求されたものである。
但し、訂正後の請求項5及びこれを引用する請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合に、一群の請求項である請求項4と別の訂正単位として扱われることが求められている。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項4、〔5、6〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立について

1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。

【請求項1】
2?6mol%のイットリアを含み,
細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/gであり,
静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の下記式(1)
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
で表される相対成型密度が44?55%である,ジルコニア粉末。
【請求項2】
比表面積が5?20m^(2)/gであり,
平均粒子径が0.3?0.8μmである,請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
さらに酸化アルミニウムを含む,請求項1又は2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%のアルミナを含み,
静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上である,請求項1?3のいずれか1項に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のジルコニア粉末の製造方法であって,
硫酸塩化剤溶液を75℃以上,100℃未満の温度で加温して当該温度で保持する第1工程と,
ジルコニウム塩溶液を75℃以上,100℃未満の温度で加温して当該温度で保持する第2工程と,
前記第1工程で保持している硫酸塩化剤溶液と第2工程で保持しているジルコニウム塩溶液とを混合して反応物を調製する第3工程と,
前記第3工程で調製した反応物を塩基処理した後,1000℃以上,1200℃未満の温度雰囲気で加熱する第4工程と,
を含む,ジルコニア粉末の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程の温度が80℃以上,98℃以下であり,
前記第2工程の温度が80℃以上,98℃以下である,請求項5に記載のジルコニア粉末の製造方法。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項4?6に係る特許に対して通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の取消理由
アルミナの含有量を特定しない訂正前の請求項4に係る発明が「静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの相対焼結密度が99.5%以上である」ことを満たすことは、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できないから、訂正前の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえない。
よって、訂正前の請求項4に係る発明、並びに、これを引用する請求項5及び6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の請求項4?6に係る特許は取り消すべきものである。

3 取消理由に対する当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の取消理由について
ア 本件発明4について
本件発明4は、
「2?6mol%のイットリアを含み,
細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/gであり,
静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の下記式(1)
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
で表される相対成型密度が44?55%である」こと、及び、
「ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%のアルミナを含み,
静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上である」ことを特定事項として含む「ジルコニア粉末」の発明といえる。
ここで、本件発明4が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、発明の詳細な説明に記載された発明であることを、発明の詳細な説明の記載に基づき当業者が認識できる範囲のものであることを要する。
そこで検討するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記特定事項の裏付けとして、2.0?5.5mol%のイットリア、0.25wt%のアルミナを含み、細孔径200nm以下の細孔容量が0.16?0.27mL/gであり、静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の相対成型密度が44.7?54.0%であり、静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの相対焼結密度が99.5?99.9%であるジルコニア粉末(実施例1?12)が具体的に記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0027】に「ジルコニア粉末がアルミナを含有する場合,ジルコニア粉末の焼結性が向上」することが記載され、また、乙第1号証の「2.1 原料粉末」欄(第357?358頁)に、イットリアを3.6又は5.3wt%含有したジルコニア粉末にアルミナを0.005wt%含有させた焼結体の相対密度が100%となることが記載されていることを考慮すると、アルミナを含有することでジルコニア粉末の焼結性が向上することは、本件特許の優先日前の技術常識であると認められ、「ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%のアルミナを含」むことで、上記実施例と同様に、「静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上」となると当業者が認識できるから、本件発明4は、発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、請求項4に係る特許に対する取消理由は解消した。

イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、申立人意見書において、甲第3号証の


」(第647頁)及び


」(第647頁)
の記載に基づき、アルミナの含有量が0.005wt%である場合と、0.31wt%(0.375mol%)である場合とでは、得られるジルコニア焼結体の焼結密度に大きな差があるから、アルミナ含有量が0.25wt%である実施例の記載から、アルミナ含有量0.005質量%を含む、本件発明4の範囲まで拡張又は一般化できない旨を主張している(申立人意見書第5頁第11?24行)。
そこで検討するに、甲第3号証には、上記記載によれば、アルミナ含有量が0.01wt%であるイットリア含有ジルコニア粉末を1400℃で焼結したときに相対焼結密度が95%程度であることが記載されているものの、一方で、乙第1号証の「2.1 原料粉末」欄(第357?358頁)には、上記3(1)で検討したように、アルミナを0.005wt%含有したイットリア含有ジルコニア粉末を1400℃で焼結したときの相対焼結密度が100%となることが記載されており、ジルコニア粉末を焼結した時の相対焼成密度は、アルミナ含有量だけで決まるものでなく、ジルコニア粉末の性状の影響を受けることが明らかである。
そして、甲第3号証に記載されたジルコニア粉末は、アルミナ含有量が本件発明4の実施例(0.25wt%)より多い0.31wt%であるジルコニア粉末を、本件発明4の実施例と同様に1450℃で2時間焼結した場合でも、その相対焼結密度が97.5%程度にしかならないことから、当該ジルコニア粉末の性状が本件発明4の性状と異なることは明らかである。
そうしてみると、甲第3号証に、ジルコニア粉末のアルミナ含有量が0.01wt%である場合と0.31wt%である場合に、得られるジルコニア焼結体の焼結密度に大きな差があることが記載されているとしても、これら記載は、ジルコニア粉末の性状(細孔容積)が特定された本件発明4のサポート要件を否定する根拠にならない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 本件発明5及び6について
訂正前の請求項5及び6に係る発明は、請求項4に係る発明を引用していたところ、訂正後の本件発明5及び6は、本件発明4を引用しないため、請求項5及び6に係る特許に対する取消理由は解消した。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項の申立理由について
ア 特許異議申立人は、請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、請求項1?4に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないことを主張している(特許異議申立書第第5頁第20行?第17頁第15行)。

イ そこで検討するに、甲第1号証には、
「著者らがすでに報告した加水分解法によって,3モル%のY_(2)O_(3)を含有する粉末比表面積30m^(2)/gのジルコニア原料粉末を作製した.この粉末の化学成分と特性をTable Iに示す.これを39MPaで金型成形後,98MPaでCIP成形し,外径60mm,厚さ4.5mmの生成形体を作製した.この生成形体の密度は,重量と寸法の測定より2.80g/cm^(3)であった.また,この生成形体の細孔径分布を水銀圧入式ポロシメーターによって測定した結果をFig.1に示す.生成形体は主として半径75?375Åからなる空げきを約53vol%含んでいることがわかる.」(第928頁左欄第3行?右欄第3行)、


」(第928頁)、及び、


」(第928頁)
が記載され、これら記載をジルコニア原料粉末に注目して整理すると、
「3モル%のY_(2)O_(3)及び0.005wt%のAl_(2)O_(3)を含み、
98MPaでCIP成形した場合の生成形体の密度が2.80g/cm^(3)であり、この生成形体の空隙は、細孔半径が375Å以下の細孔からなり、全細孔容積が0.19cc/gである、ジルコニア原料粉末。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 本件発明1について検討する。
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「3モル%のY_(2)O_(3)」を含むこと、「98MPaでCIP成形した場合」、「ジルコニア原料粉末」は、それぞれ、本件発明1の「2?6mol%のイットリアを含」むこと、「静水圧1t/cm^(2)で成型した場合」、「ジルコニア粉末」に相当する。
また、本件発明1の「3モル%のY_(2)O_(3)及び0.005wt%のAl_(2)O_(3)を含」むジルコニア粉末の理論焼結密度ρ_(0)は、本件特許明細書の段落【0040】の記載に基づき算出すると、6.098g/cm^(3)であるから、本件発明1の「生成形体の密度が2.80g/cm^(3)」ことは、相対成型密度が45.9%(=2.80/6.098×100)となり、本件発明1の「相対成型密度が44?55%」に相当する。
したがって、本件発明1は、甲1発明と、
「2?6mol%のイットリアを含み,
静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の下記式(1)
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
で表される相対成型密度が44?55%である,ジルコニア粉末」
の点で一致し、本件発明1のジルコニア粉末は、「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」であるのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点で相違している。
上記相違点を検討すると、特許異議申立人は、甲第2号証の段落【0060】に、水銀圧入法の測定時の圧力0.4?30000psi(0.00276?207MPa)において、二次粒子は変形破壊されないことが記載されているから、甲1発明の98MPaでCIP成形した生成形体においても、成形前のジルコニア粉末の二次粒子は変形破壊されておらず、一次粒子が凝集して形成される二次粒子中の間隙の大きさに相当する「細孔径200nm以下の細孔容積」は、測定対象がジルコニア粉末であっても、生成形体であっても、ほぼ変化しないから、甲1発明の「98MPaでCIP成形した場合」の「生成形体の空隙は、細孔半径が375Å以下の細孔からなり、全細孔容積が0.19cc/gである」ことは、本件発明1の「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」であることに相当し、上記相違点は実質的な相違点でない旨を主張している(特許異議申立書第12頁第23行?第15頁第5行)。
しかしながら、CIP成形では、ジルコニア粉末自体に98MPaの圧力が加えられるため、生成形体中のジルコニア粉末の二次粒子の変形破壊が起こらないとしても、その細孔容積の値である0.19cc/gは、成形前のジルコニア粉末の二次粒子間の間隙が成形により小さくなってしまったものを含んで測定されたものであることは明らかであるから、甲1発明の「98MPaでCIP成形した場合」の「生成形体の空隙は、細孔半径が375Å以下の細孔からなり、全細孔容積が0.19cc/gである」ことが、成形前のジルコニア粉末の全細孔容積が0.19mL/g以下であることを示しているとしても、細孔径200nm以下の細孔容量が0.14mL/g以上であることを示しているとまではいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえない。
次に、本件発明1の進歩性について検討すると、甲第2号証及び甲第3号証には、ジルコニア粉末の細孔径200nm以下の細孔容量を0.14?0.28mL/gとすることや、当該細孔容積とすることでジルコニア焼結体の相対焼結密度が高められることについて記載も示唆もされていないから、甲1発明において、ジルコニア粉末の細孔径200nm以下の細孔容量を0.14?0.28mL/gとすることは、当業者が容易に想到できるものでない。
よって、本件発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明2?4について検討すると、これら発明は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1に対する判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号の申立理由について
特許異議申立人は、請求項1及び2に係る発明は、アルミナを含有することやその含有量を特定しておらず、また、請求項3に係る発明は、酸化アルミニウムの含有量を特定していないため、0.25wt%のアルミナを含有するジルコニア粉末に関する実施例の記載に基づき、「成形性に優れ,高い焼結密度を有し,簡便な方法でジルコニア焼結体を製造できるジルコニア粉末・・・を提供」(本件特許明細書段落【0012】)できることを当業者が認識できないから、請求項1?3に係る発明及びこれを引用する請求項4?6に係る発明は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない旨を主張している(特許異議申立書第17頁第16行?第19頁第16行)。
また、特許異議申立人は、申立人意見書において、実施例及び比較例に鑑みれば、上記課題の「高い焼結密度」は、「静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上」を意味していることは明らかである旨を主張している(申立人意見書第2頁第2行?第3頁第11行)。
そこで検討するに、本件特許明細書の段落【0010】?【0012】には、「高い焼結密度」の具体的な数値目標は記載されていないし、また、実施例及び比較例に基づき「高い焼結密度」を限定解釈する根拠もないから、本件発明1?6に係る発明の課題は、「成形性に優れ,高い焼結密度を有し,簡便な方法でジルコニア焼結体を製造できるジルコニア粉末及びその製造方法を提供する」(本件特許明細書段落【0012】)ことによって解決されるものであるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例欄には、2.0?5.5mol%のイットリア、0.25wt%のアルミナを含むジルコニア粉末であって、細孔径200nm以下の細孔容量が0.16?0.27mL/gであり、静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の相対成型密度が44.7?54.0%であるジルコニア粉末(実施例1?12)は、当該細孔容積が0.13mL/g以下(比較例2、4、6,7)または0.29mL/g以上(比較例1、3、5)、あるいは、当該相対成型密度が41.1%(比較例3)または55.2%(比較例2)と比較して、静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの相対焼結密度が高くなっていることが具体的に記載されているし、また、本件特許明細書の段落【0032】、【0042】及び【0051】には、高い焼結密度を得るために、ジルコニア粉末の200nm以下の細孔容積を0.14?0.28mL/gにして、一次粒子の凝集度を制御し、相対成型密度を44?55%とすることが記載され、この作用機序にアルミナ含有量は直接関係していないことから、本件発明1?6は、発明の詳細な説明の記載に基づき上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(3)特許法第36条第6項第2号の申立理由について
特許異議申立人は、請求項1に記載のジルコニア粉末は、「2?6mol%のイットリア」を含むところ、その製造方法である、請求項5に係る発明では、イットリアを生じ得る原料を何ら規定していないため、請求項5に係る発明は明確でなく、請求項5に係る発明及びこれを引用する請求項6に係る発明は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない旨を主張している(特許異議申立書第19頁第17行?第20頁第3行)。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0094】の記載を参酌すれば、イットリウム原料は、本件発明5の任意の工程で添加されることは明らかであるから、本件発明5及びこれを引用する本件発明6が不明確であるといえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

5 申立人意見書において主張した新たな理由について
特許異議申立人は、乙第1号証には、「2.1 原料粉末」欄(第357?358頁)、Table 1(第357頁)及びFig.1(第358頁)の記載からみて、「2モル%及び3モル%のY_(2)O_(3)及び0.005wt%のAl_(2)O_(3)を含み、98MPaでCIP成形した場合の生成形体の相対密度が45%程度であり、生成形体を1400℃で焼成したときの相対密度が100%である、ジルコニア粉末」の発明(以下、「乙1発明」という。)が記載されているところ、1400℃で焼成したときの相対密度が100%であること、あるいは、甲第1号証の記載を根拠にして、乙1発明は、「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」である要件を満たしている蓋然性が高いし、仮にそうでないとしても、1400℃で焼成したときの相対密度100%である乙1発明において、「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」とすることは当業者が適宜なし得る設計変更にすぎないから、本件発明1は、乙第1号証に記載された発明に対して、新規性及び進歩性を有していない旨を主張している(特許異議申立人意見書第5頁下から2行?第7頁第10行)。
しかしながら、ジルコニア焼結体の相対焼結密度は、ジルコニア粉末の細孔径200nm以下の細孔容量のみによって決まるものでなく、ジルコニア粉末の他の特性や焼結条件の影響を受けることから、乙1発明のジルコニア粉末が、1400℃で焼成したときの相対密度が100%であったとしても、「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」である要件を満たしているとまではいえない。
また、上記4(1)で検討したとおり、甲第1号証には、ジルコニア粉末の細孔径200nm以下の細孔容量を0.14?0.28mL/gとすることは記載されていないから、甲第1号証の記載を根拠にしても、乙1発明のジルコニア粉末が「細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/g」である要件を満たしているといえない。
さらに、乙第1号証あるいは甲第1号証?甲第3号証のいずれにも、ジルコニア粉末の細孔容積を制御することは記載も示唆もされていないから、乙1発明のジルコニア粉末の細孔容量を制御する動機づけがない。
そうしてみると、本件発明1?6は、乙第1号証に記載された発明であるといえないし、また、乙1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2?6mol%のイットリアを含み,
細孔径200nm以下の細孔容量が0.14?0.28mL/gであり,
静水圧1t/cm^(2)で成型した場合の下記式(1)
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
で表される相対成型密度が44?55%である,ジルコニア粉末。
【請求項2】
比表面積が5?20m^(2)/gであり,
平均粒子径が0.3?0.8μmである,請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
さらに酸化アルミニウムを含む,請求項1又は2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
ジルコニア粉末の全質量に対して0.005?2質量%のアルミナを含み,
静水圧1t/cm^(2)で成型された成型体を1450℃で焼結したときの焼結密度が理論焼結密度の99.5%以上である,請求項1?3のいずれか1項に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のジルコニア粉末の製造方法であって,
硫酸塩化剤溶液を75℃以上,100℃未満の温度で加温して当該温度で保持する第1工程と,
ジルコニウム塩溶液を75℃以上,100℃未満の温度で加温して当該温度で保持する第2工程と,
前記第1工程で保持している硫酸塩化剤溶液と第2工程で保持しているジルコニウム塩溶液とを混合して反応物を調製する第3工程と,
前記第3工程で調製した反応物を塩基処理した後,1000℃以上,1200℃未満の温度雰囲気で加熱する第4工程と,
を含む,ジルコニア粉末の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程の温度が80℃以上,98℃以下であり,
前記第2工程の温度が80℃以上,98℃以下である,請求項5に記載のジルコニア粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-28 
出願番号 特願2017-535479(P2017-535479)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01G)
P 1 651・ 113- YAA (C01G)
P 1 651・ 537- YAA (C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
宮澤 尚之
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6250242号(P6250242)
権利者 第一稀元素化学工業株式会社
発明の名称 ジルコニア微粉末およびその製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ