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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1349654
異議申立番号 異議2017-700566  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-06 
確定日 2019-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6042295号発明「記録ヘッド及びその製造方法並びに記録装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6042295号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11、13?21〕、12について訂正することを認める。 特許第6042295号の請求項9ないし21に係る特許を維持する。 特許第6042295号の請求項1ないし8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6042295号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成25年9月4日に特許出願され、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年6月6日付けで特許異議申立人佐藤日出子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年9月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月29日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求があり、平成30年1月5日付けで異議申立人から意見書が提出され、同年2月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月23日に特許権者から意見書の提出があり、同年5月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年7月10日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、同年9月27日付けで異議申立人から意見書が提出されたものである。

なお、平成29年11月29日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1ないし8を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9に、
「前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える請求項8記載の記録装置。」
とあるのを、請求項9のうち請求項8を介して請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールの前記一方向の一端部の液滴の吐出量が前記一端部とは反対側の他端部の液滴の吐出量よりも多くなる第1ヘッドモジュールと、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる第2ヘッドモジュールと、を前記一方向に交互に繋ぎ合せて構成される記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える記録装置。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に、
「平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項9記載の記録装置。」
とあるのを、
「前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項9記載の記録装置。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録ヘッドの製造方法。」
とあるのを、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成され、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8ないし11のうち、直接的または間接的に請求項2を引用するものについて、
「前記第1ヘッドモジュールは交換用の前記第1ヘッドモジュールと交換可能であり、前記第2ヘッドモジュールは交換用の前記第2ヘッドモジュールと交換可能である請求項9から11のいずれか1項記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項13と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8のうち、請求項3を引用するものについて独立形式に改め、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備える記録装置。」
と記載し、新たに請求項14と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8のうち、請求項4を引用するものについて、
「前記n段階のそれぞれの範囲に対応する前記吐出量差の範囲が均等である請求項14記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項15と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8のうち、請求項5を引用するものについて、
「前記n段階のそれぞれに属する前記ヘッドモジュールの数が均等となる請求項14記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項16と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8のうち、請求項6を引用するものについて、
「前記n段階は3段階であり、前記k段階は1段階である請求項14ないし16のいずれか1項記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項17と訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8のうち、請求項7を引用するものについて、
「前記第1区分の前記ヘッドモジュールと前記第2区分の前記ヘッドモジュールとが前記一方向に交互に繋ぎ合わされており、
3段階のうちの第2段階に区分される前記ヘッドモジュールを交換用の前記ヘッドモジュールとして用いる請求項17記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項18と訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9のうち、直接的または間接的に請求項8を介して請求項3を引用するものについて、
「前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える請求項14から18のいずれか1項に記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項19と訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10のうち、直接的または間接的に請求項8を介して請求項3を引用するものについて、
「前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項19記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項20と訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11のうち、直接的または間接的に請求項8を介して請求項3を引用するものについて、
「前記濃度測定部の測定結果に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を当該記録ヘッドの全体にわたって一定に補正するための濃度補正値を算出する濃度補正値算出部と、
前記濃度補正値算出部が算出した濃度補正値に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を補正する濃度補正部と、
を備える請求項19または20記載の記録装置。」
と記載し、新たに請求項21と訂正する。

2.本件訂正前後の請求項の対応
上記「1.」を踏まえると、本件訂正前の各請求項は、実質的に以下の通り本件訂正後の各請求項と対応するものと認められる。

(1)本件訂正前の請求項1ないし7
削除。
(2)本件訂正前の請求項8
請求項1又は2を引用するものは、削除。
請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものは、それぞれ本件訂正後の請求項14ないし18に対応。
(3)本件訂正前の請求項9
請求項8を介して請求項1を引用するものは、本件訂正後の請求項9に対応。
請求項8を介して請求項2を引用するものは、本件訂正後の請求項13のうち請求項9を引用するものに対応。
請求項8を介して請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものは、本件訂正後の請求項19に対応。
(4)本件訂正前の請求項10
請求項8及び9を介して請求項1を引用するものは、本件訂正後の請求項10に対応。
請求項8及び9を介して請求項2を引用するものは、本件訂正後の請求項13のうち請求項10を引用するものに対応。
請求項8及び9を介して請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものは、本件訂正後の請求項20に対応。
(5)本件訂正前の請求項11
請求項8及び9又は8ないし10を介して請求項1を引用するものは、本件訂正後の請求項11に対応。
請求項8及び9又は8ないし10を介して請求項2を引用するものは、本件訂正後の請求項13のうち請求項11を引用するものに対応。
請求項8及び9又は8ないし10を介して請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものは、本件訂正後の請求項21に対応。
(6)本件訂正前の請求項12
本件訂正後の請求項12に対応。

3.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1ないし7を削除するものであり、また、本件訂正前の請求項8については、上記「2.(2)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7のいずれかを引用するものが、訂正事項7ないし10によって訂正された訂正後の請求項14ないし18にそれぞれ対応することを踏まえると、本件訂正前の請求項8のうち請求項1又は2を引用するものを削除するものである。
してみると、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項9のうち請求項8を介して請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
そして、上記「2.(3)」のとおり、本件訂正前の請求項9のうち請求項8を介して請求項2ないし7のいずれか1項を引用するものは、訂正事項5及び11によって訂正された訂正後の請求項13及び19に対応するものであって、本件訂正後も対応する請求項が存在している。
してみると、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項2に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
上記訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項10における「平均吐出量補正値算出部」が、請求項10が引用する請求項9における「平均吐出量補正値算出部」と同じ機構を指すことを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
上記訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項12の「記録ヘッド」について「前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる」及び「記録装置に用いられる」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、かかる訂正は、本件特許明細書の「本発明の目的を達成するための記録装置は、各請求項のいずれかに記載の記録ヘッドと、記録ヘッドと記録媒体とを一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、記録ヘッド及び相対移動部を制御して、記録ヘッドにより記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、を備える。」(段落【0020】)及び「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、濃度測定部の測定結果からヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、平均吐出量の算出結果に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、平均吐出量補正値算出部が算出した平均吐出量補正値に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、を備えることが好ましい。」(段落【0021】)との記載等に基づくものであり、明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
また、訂正事項4は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
上記訂正事項5に係る訂正は、訂正事項1及び2に係る訂正に合わせて、訂正前の特許請求の範囲の請求項9ないし11のうち、直接的または間接的に請求項2を引用するものについて、請求項間の引用関係を整理するものである。
そして、上記「2.(3)ないし(5)」のとおり、訂正前の請求項9ないし11のうち直接的または間接的に請求項1を引用するものは訂正後の請求項9ないし11に対応し、訂正前の請求項9ないし11のうち直接的または間接的に請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものは、訂正事項11ないし13によって訂正された訂正後の請求項19ないし21に対応するものであって、訂正後も対応する請求項が存在している。
してみると、上記訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項5に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
上記訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項8のうち請求項3を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項8の「記録制御部」について「前記記録制御部は、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備える」と限定するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
そして、かかる訂正は、本件特許明細書の「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、濃度測定部の測定結果からヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、平均吐出量の算出結果に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、平均吐出量補正値算出部が算出した平均吐出量補正値に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、を備えることが好ましい。」(段落【0021】)との記載等に基づくものであり、明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。
また、訂正事項6は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7ないし10について
上記訂正事項7ないし10に係る訂正は、訂正事項6によって訂正前の請求項8のうち請求項3を引用するものが訂正後の請求項14と訂正されることに合わせて、訂正前の請求項8のうち請求項4ないし7を介して請求項3を引用するものを、訂正後の請求項14を引用する形式に改めた上で、訂正前の請求項4ないし7にそれぞれ対応する訂正後の請求項15ないし18と訂正するものであって、請求項間の引用関係を整理するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記「2.(2)」のとおり、訂正前の請求項8のうち、請求項1又は2を引用するものは訂正事項1に係る訂正によって削除されるところ、上記訂正事項7ないし10に係る訂正は、請求項1ないし7のいずれか1項を引用するものであった訂正前の請求項8を、請求項4ないし7の各1項ずつを引用するもののみに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。
そして、上記訂正事項7ないし10に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(8)訂正事項11ないし13について
上記訂正事項11ないし13に係る訂正は、訂正事項6ないし10によって訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するものが訂正後の請求項14ないし18と訂正されたことに合わせて、訂正前の請求項9のうち請求項8を介して請求項3ないし7のいずれか1項を引用するものを、訂正後の請求項14ないし18のいずれか1項を引用するものに改めて訂正後の請求項19と訂正するとともに、訂正前の請求項9を引用する請求項10を訂正後の請求項19を引用するものとして訂正後の請求項20と訂正し、訂正前の請求項9又は10を引用する請求項11を訂正後の請求項19又は20を引用するものとして訂正後の請求項21と訂正するものであって、請求項間の引用関係を整理するものである。
また、上記「2.(3)ないし(5)」のとおり、訂正前の請求項9ないし11のうち直接的または間接的に請求項1を引用するものは訂正後の請求項9ないし11に対応し、訂正前の請求項9ないし11のうち直接的または間接的に請求項2を引用するものは、訂正事項5によって訂正された訂正後の請求項13に対応するものであって、訂正後も対応する請求項が存在している。
してみると、上記訂正事項11ないし13に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項11ないし13に係る訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(9)一群の請求項について
本件訂正前の請求項8は請求項1ないし7の記載を引用し、かつ、本件訂正前の請求項9ないし11は請求項8の記載を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし11は上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1ないし8に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項1ないし11に対応する訂正後の請求項1ないし11及び13ないし21は一群の請求項である。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11、13?21〕、12について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件訂正特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし21に係る発明(以下「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明21」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールの前記一方向の一端部の液滴の吐出量が前記一端部とは反対側の他端部の液滴の吐出量よりも多くなる第1ヘッドモジュールと、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる第2ヘッドモジュールと、を前記一方向に交互に繋ぎ合せて構成される記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える記録装置。
【請求項10】
前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項9記載の記録装置。
【請求項11】
前記濃度測定部の測定結果に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を当該記録ヘッドの全体にわたって一定に補正するための濃度補正値を算出する濃度補正値算出部と、
前記濃度補正値算出部が算出した濃度補正値に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を補正する濃度補正部と、
を備える請求項9または10記載の記録装置。
【請求項12】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成され、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1ヘッドモジュールは交換用の前記第1ヘッドモジュールと交換可能であり、前記第2ヘッドモジュールは交換用の前記第2ヘッドモジュールと交換可能である請求項9から11のいずれか1項記載の記録装置。
【請求項14】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備える記録装置。
【請求項15】
前記n段階のそれぞれの範囲に対応する前記吐出量差の範囲が均等である請求項14記載の記録装置。
【請求項16】
前記n段階のそれぞれに属する前記ヘッドモジュールの数が均等となる請求項14記載の記録装置。
【請求項17】
前記n段階は3段階であり、前記k段階は1段階である請求項14ないし16のいずれか1項記載の記録装置。
【請求項18】
前記第1区分の前記ヘッドモジュールと前記第2区分の前記ヘッドモジュールとが前記一方向に交互に繋ぎ合わされており、
3段階のうちの第2段階に区分される前記ヘッドモジュールを交換用の前記ヘッドモジュールとして用いる請求項17記載の記録装置。
【請求項19】
前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える請求項14から18のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項20】
前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項19記載の記録装置。
【請求項21】
前記濃度測定部の測定結果に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を当該記録ヘッドの全体にわたって一定に補正するための濃度補正値を算出する濃度補正値算出部と、
前記濃度補正値算出部が算出した濃度補正値に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を補正する濃度補正部と、
を備える請求項19または20記載の記録装置。」

2.取消理由及び異議申立理由の概要
(1)平成29年9月29日付け取消理由の概要
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る特許に対して平成29年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア.特許法第29条第1項第3号
本件訂正前の請求項1及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

イ.特許法第29条第2項
(ア)本件訂正前の請求項1及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.特許法第36条第6項第2号
本件訂正前の請求項3の「前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し」(以下「発明特定事項A」という。)、及び、「互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している」(以下「発明特定事項B」という。)という発明特定事項によって、ヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差を小さくできるとは限らないから、これらの発明特定事項を採用する技術的意義が不明りょうであって、本件特許の本件訂正前の請求項3ないし12の記載は不明確である。

エ.特許法第36条第4項第1号
本件訂正前の請求項3の発明特定事項A及びBによって、ヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差を小さくできることが、発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の請求項3ないし12に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)平成30年2月26日付け取消理由及び同年5月17日付け取消理由(決定の予告)の概要
平成29年11月29日付けの訂正の請求に係る訂正(以下「前回訂正」という。)によって訂正された特許請求の範囲の請求項8及び13に係る特許に対して平成30年2月26日付け取消理由通知及び同年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア.特許法第29条第2項
(ア)前回訂正後の請求項8に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)前回訂正後の請求項13に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

ア.特許法第29条第1項3号
本件訂正前の請求項3、4及び12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

イ.特許法第29条第2項
(ア)本件訂正前の請求項3ないし6及び12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)本件訂正前の請求項9及び10に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第4号証に示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ)本件訂正前の請求項11に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第4号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.特許法第36条第6項第2号
(ア)本件訂正前の請求項3の発明特定事項Aは、繋ぎ合せて構成されたヘッドモジュールの形状、構造を表わしたものなのか、ヘッドモジュールを繋ぎ合せて記録ヘッドを構成するための準備作業に言及したものなのかが不明りょうであるから、本件特許の本件訂正前の請求項3ないし11の記載は不明確である。

(イ)本件訂正前の請求項3においては「kは(n-1)以下の自然数」と定義されているところ、kが(n-1)の場合には発明特定事項Aに加えて発明特定事項Bを規定する意味はないと考えられ、発明特定事項A及びBの相互の関係が不明りょうであるから、本件特許の本件訂正前の請求項3ないし11の記載は不明確である。

甲第1号証:特開2012-183721号公報
甲第2号証:特開2011-79272号公報
甲第3号証:特開2006-198902号公報
甲第4号証:特開2007-38435号公報

3.甲各号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2012-183721号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア.「【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイを備えた画像形成装置であって、
前記ヘッドは、前記ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度との間に濃度差があり、
記録領域に配置される前記ヘッドの全てが、前記濃度が高いノズル同士又は濃度が低いノズル同士が隣接して液体吐出ヘッドアレイに配置されている
ことを特徴とする画像形成装置。」

イ.「【0005】
しかしながら、ヘッドの長尺化を進めると、各ヘッドで印写する画像濃度のヘッド内分布においてヘッド両端の濃度差が大きくなるという新たな問題が生じる。このような濃度差が生じる要因としては各ノズルから吐出される液滴の径にムラがあることが挙げられる。」

ウ.「【0027】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、本発明の第1実施形態におけるヘッドアレイについて図1を参照して説明する。なお、図1は同ヘッドアレイの平面説明図である。
このヘッドアレイ100は、複数のヘッド101A?101D(区別しないときは、「ヘッド101」という。)をノズル配列方向に千鳥状に配列したヘッド列を備えている。ヘッド101は、液滴を吐出する複数のノズル4を配列したノズル列102a、102b(全体として「ノズル列102」という。)を有している。」

エ.「【0045】
4つのヘッド101A?101Dは、同一の液体を充填して均一な画像チャートを印写したとき、ノズル配列方向において、ノズル列102の一端のノズル4から吐出される液滴で形成される画像の濃度と他端のノズル4から吐出される液滴で形成される画像の濃度との間に濃度差(以下、「明度差」という。)があり、例えば、ノズル列102を構成するすべてのノズル4について見たとき、それぞれ、図4に示すような明度勾配(濃度勾配)がある。
【0046】
すなわち、ヘッド101Aは左右端(ノズル配列方向の一端と他端の意味)で明度差|ΔEa|があり、同様に、ヘッド101Bは明度差|ΔEb|があり、ヘッド101Cは明度差|ΔEc|があり、ヘッド101Dは明度差|ΔEd|がある。そこで、ヘッド101Aの明度が高い端のノズルとヘッド101Bの明度が高い端のノズルが隣接し、ヘッド101Bの明度が低い端のノズルとヘッド101Cの明度が低い端のノズルが隣接し、ヘッド101Cの明度が高い端のノズルとヘッド101Dの明度が高い端のノズルが隣接して、ヘッド101Aないし101Dを配置している。これにより、ヘッドアレイ全体での明度差は|ΔEmax|となる。
【0047】
なお、本実施形態における明度差は、分光光度計を用いて測定し、CIELAB色空間における明度の値をもとに算出するものとする。なお、前記明度差は上記以外の方法で算出してもよく、例えばヘッドから吐出されたインクによって形成された画像のドットの大きさや、インク付着面積を測定し、それを前記明度に換算することで行っても良いし、用紙上に形成された画像を確認することなく、ヘッドから吐出されたインク滴の大きさを直接観測することで行ってもよい。」

オ.「【0055】
次に、上述したヘッドアレイを製作するために印写検査方法について説明する。
印写検査では、ヘッドアレイに組み込むヘッドの組み合わせ方と、各ヘッドの駆動時に適用する駆動電圧値を設定する。印写検査では、全ヘッドに共通の三段階の電圧倍率で各ヘッドの左右端の濃度値を測定し、記録する。また、得られた結果からヘッド左右端の濃度傾きが右肩上がり、右肩下がりのどちらであるかを判断し、選別を行う。このとき、最大明度差|ΔEmax|をより低減するために、各ヘッドの左右端の濃度差の大きさのランク分けも行う。ランクはヘッド左右端の濃度差が、明度換算で0.5ごとに区切られるように設定し、各ヘッドに濃度差ランクとしてランク値を付与して管理する。これにより、各ヘッドは、右端の濃度値、左端の濃度値、駆動電圧を変化させた際の濃度の変動率、ヘッド内濃度傾きの向き、濃度差ランク、の5つの情報で管理される。
【0056】
そこで、まず、ランク値が同じで濃度傾きが逆になっているヘッドを2個ずつ2組選別し、それを組となったヘッドが隣接するようにアレイ化する(組み付ける)。そして、隣り合うヘッドの各端部の明度差が全て1.0以下になるように、個別のヘッドの駆動電圧値を設定する。」

カ.「【0058】
また、印写検査の方法は、同一の画像チャートを同1条件で印写し、分光測色系を用いてCMYKの各色のいずれか大きな値の濃度や、明度を測定することで行う。しかし、測定をより精密に行うために、高倍率のCCDカメラ等を用いてドット径を測定してその値を明度値に近似的に変換することで行ってもいいし、CCDカメラで得られた画像を2値化して、黒と白のデータの比を明度値に近似的に変換することで行ってもいい。なお、前記濃度と明度、カメラによる画像の二値化データについては、同一色インクを使用する場合は強い相関関係を持つものであり、ドット径についても、印刷されたドット形状がきれいな円形を保てる限り、前記明度、濃度と強い相関関係を持つため、濃度、明度、ドット径、二値化データが表す画像特性を、まとめて「濃度」と表現する。」

キ.「【0078】
次に、本発明の第7実施形態について図9を参照して説明する。なお、図9は同実施形態のノズル列方向の位置と明度の関係を説明する説明図である。
本実施形態では、前記第1実施形態と同様に、ヘッド101A?ヘッド101Dを配列したヘッド列を有している。そして、各ヘッド101A?ヘッド101Dのそれぞれの濃度勾配における濃度差は、|ΔEa|>1.5、|ΔEb|>1.5であり、|ΔEc|<1.5、|ΔEd|<1.5であるとする。
【0079】
ここで、ヘッド左右端の濃度差が1.5より大きいヘッドであるヘッド101Aとヘッド101Bと、それらのヘッドに隣接しているヘッドCだけが、隣接する各ヘッドの濃度傾きが逆向きになるように配置されている。
【0080】
このように構成にすることで、厳密にヘッドの左右端の濃度が右肩上がりのヘッド、右肩下がりのヘッドを同数用意することなく本発明を適用することができ、ヘッドの左右端の濃度傾きに、例えば右肩下がりが多いというように偏りがある場合でも、より多くのヘッドを製品に組み込むことができるため、コストを下げながら画像品質を向上させることができる。
【0081】
次に、本発明に係る画像形成装置の全体構成の一例について図10を参照して説明する。なお、図10は同画像形成装置の概略構成図である。
この画像形成装置は、ライン型画像形成装置であり、装置本体401の内部に画像形成部402等を有し、装置本体401の下方側に多数枚の記録媒体(用紙)403を積載可能な給紙トレイ404を備え、この給紙トレイ404から給紙される用紙403を取り込み、搬送機構405によって用紙403を搬送しながら画像形成部402によって所要の画像を記録した後、装置本体401の側方に装着された排紙トレイ406に用紙403を排紙する。」

ク.「【0083】
ここで、画像形成部402は、例えばブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の液滴を吐出する、フルライン型の4個の本発明に係る液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッド411k、411c、411m、411y(色を区別しないときには「記録ヘッド411」という。)を備え、各記録ヘッド411は液滴を吐出するノズルを形成したノズル面を下方に向けてヘッドホルダ413に装着している。」

ケ.「【0088】
搬送機構405は、駆動ローラである搬送ローラ431と従動ローラ432との間に掛け渡した無端状の搬送ベルト433と、この搬送ベルト433を帯電させるための帯電ローラ434と、画像形成部402に対向する部分で搬送ベルト433の平面性を維持するプラテン部材435と、搬送ベルト433から送り出す用紙403を搬送ローラ431側に押し付ける押さえコロ436と、その他図示しないが、搬送ベルト433に付着したインクを除去するためのクリーニング手段である多孔質体などからなるクリーニングローラなどを有している。」

コ.「【0090】
このように構成した画像形成装置において、搬送ベルト433は矢示方向に周回移動し、高電位の印加電圧が印加される帯電ローラ434と接触することで帯電され、この高電位に帯電した搬送ベルト433上に用紙403が給送されると、用紙403は搬送ベルト433に静電的に吸着される。このようにして、搬送ベルト433に強力に吸着した用紙403は反りや凹凸が校正され、高度に平らな面が形成される。」

サ.上記「ウ.及びキ.ないしコ.」の記載を踏まえると、第10図からは「液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドと用紙とがヘッド列方向に対して直交方向に相対移動する」ことを看取できる。

シ.上記「オ.」(段落【0055】)の「次に、上述したヘッドアレイを製作するために印写検査方法について説明する。」との記載を踏まえると、甲第1号証には「ヘッドアレイを製作する方法」が記載されているといえる。

以上の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイを備えた画像形成装置であって、
前記ヘッドは、前記ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度との間に濃度差があり、
記録領域に配置される前記ヘッドの全てが、前記濃度が高いノズル同士又は濃度が低いノズル同士が隣接して液体吐出ヘッドアレイに配置され、
4つのヘッドは、ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像の濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像の濃度との間に濃度差(以下、「明度差」という。)があり、
前記明度差の算出は、ヘッドから吐出されたインク滴の大きさを直接観測することで行ってもよく、
ヘッドアレイを製作するための印写検査では、ヘッドアレイに組み込むヘッドの組み合わせ方と、各ヘッドの駆動時に適用する駆動電圧値を設定し、
各ヘッドの左右端の濃度値を測定し、得られた結果から、ヘッド左右端の濃度傾きが右肩上がり、右肩下がりのどちらであるかを判断し、選別を行い、各ヘッドの左右端の濃度差の大きさのランク分けも行い、ランクはヘッド左右端の濃度差が、明度換算で0.5ごとに区切られるように設定し、各ヘッドに濃度差ランクとしてランク値を付与して管理し、
ランク値が同じで濃度傾きが逆になっているヘッドを2個ずつ2組選別し、それを組となったヘッドが隣接するようにアレイ化し、隣り合うヘッドの各端部の明度差が全て1.0以下になるように、個別のヘッドの駆動電圧値を設定し、
印写検査の方法は、同一の画像チャートを同1条件で印写し、分光測色系を用いてCMYKの各色のいずれか大きな値の濃度や、明度を測定することで行い、
装置本体の内部に画像形成部を有し、
画像形成部は、液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドを備え、
搬送機構によって用紙を搬送しながら画像形成部によって所要の画像を記録し、
液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドと用紙とがヘッド列方向に対して直交方向に相対移動する
画像形成装置。」(以下「引用発明1」という。)

「液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイを備えた画像形成装置でおいて、
前記ヘッドは、前記ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度との間に濃度差があり、
記録領域に配置される前記ヘッドの全てが、前記濃度が高いノズル同士又は濃度が低いノズル同士が隣接して液体吐出ヘッドアレイに配置され、
4つのヘッドは、ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像の濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像の濃度との間に濃度差(以下、「明度差」という。)があり、
前記明度差の算出は、ヘッドから吐出されたインク滴の大きさを直接観測することで行ってもよく、
ヘッドアレイを製作するための印写検査では、ヘッドアレイに組み込むヘッドの組み合わせ方と、各ヘッドの駆動時に適用する駆動電圧値を設定し、
各ヘッドの左右端の濃度値を測定し、得られた結果から、ヘッド左右端の濃度傾きが右肩上がり、右肩下がりのどちらであるかを判断し、選別を行い、各ヘッドの左右端の濃度差の大きさのランク分けも行い、ランクはヘッド左右端の濃度差が、明度換算で0.5ごとに区切られるように設定し、各ヘッドに濃度差ランクとしてランク値を付与して管理し、
ランク値が同じで濃度傾きが逆になっているヘッドを2個ずつ2組選別し、それを組となったヘッドが隣接するようにアレイ化し、隣り合うヘッドの各端部の明度差が全て1.0以下になるように、個別のヘッドの駆動電圧値を設定する、
ヘッドアレイを製作する方法。」(以下「引用発明1’」という。)

(2)甲第2号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2011-79272号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「【0039】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドが組み込まれたインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す構成図である。」

イ.「【0062】
図3に示すように、インクヘッド12のヘッド本体をなす固定部材14に対して、短尺ヘッドであるヘッドモジュール16が複数取り付けられている。ヘッドモジュール16は、平面形状が平行四辺形状をなし、その表面にはインクを吐出するノズル22が2次元マトリクス状に配列され、その縦方向の列はヘッドモジュール16の短辺に略平行に配置されている。このような複数のヘッドモジュール16が固定部材14の長手方向に互いにその短辺が隣接するように並べて配列され、全体としてフルライン型ヘッドを構成するようになっている。」

ウ.「【0073】
本発明は、複数のヘッドモジュール16を固定部材14に並べて配置し、フルラインヘッドを構成する際、各ヘッドモジュール16間の封止や各ヘッドモジュール16を交換容易とするように工夫したものである。詳しく言うと、固定部材14に並べて配置された各ヘッドモジュール16の間の隙間に対して、比較的強度が高く薄膜化可能なPET、PI、PENなどの樹脂やステンレスなどの金属材料によるフィルムと、接着力が比較的強くないシリコーンなどの接着剤・充填剤を主とし、構成によっては潤滑剤などを用いて封止することにより、各ヘッドモジュール16間の極めて狭い間隔に対しても容易に封止することを可能としたものである。また、隙間に充填されたフィルムを引き出すことなどによって容易に封止を解除(破壊)することができ、これによりヘッドモジュール16を容易に取り出し、新しいヘッドモジュール16と交換することができる。」

以上の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の技術事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

「インクジェット記録装置において、
複数のヘッドモジュールを固定部材に並べて配置し、フルラインヘッドを構成する際、各ヘッドモジュール間の封止や各ヘッドモジュールを交換容易とするように工夫し、ヘッドモジュールを容易に取り出し、新しいヘッドモジュールと交換することができること。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2006-198902号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「【0021】
図2(A)は、ヘッド11の概略斜視図であり、図2(B)は、ヘッド11を構成するヘッドユニット14の平面図である。図2(A)に示すように、ヘッド11は、記録媒体の最大幅に対応する長さに設定されたヘッドバー13を備えている。このヘッドバー13には、複数のヘッドユニット14が一列に繋ぎ合わされ、二次元的に配置されている。図2(B)に示すように、各ヘッドユニット14の略平行四辺形部分には、インクを吐出する多数の液滴イジェクタ24からなる2つのイジェクタ基体16,18が配設されている。各イジェクタ基体16,18は、例えば、512個の液滴イジェクタ24を32段に2次元配置し、左右で非対称となるように構成されている。また、2つのイジェクタ基体16,18は略台形形状であり、ヘッドユニット14内に、略台形形状の同じ長さの斜辺(本実施形態では、短い斜辺)が向かい合うように配置されている。ヘッドユニット14の両側には、イジェクタ基体16,18にインクを供給するインク供給口(図示省略)が設けられている。
【0022】
このプリンタ10はFWA(Full Width Array)方式のインクジェットプリンタであって、ヘッド11は、複数のヘッドユニット14が一列に配置されることによって記録媒体の最大幅に対応する印字領域を有している。これにより、ヘッド11を主走査することなく、ヘッド11を固定したまま、記録媒体のみを搬送しながら記録を行うことによって記録媒体の全幅に印字することができる。」

イ.「【0028】
図4は、プリンタ10のコントローラ部30の構成図である。コントローラ部30は、各液滴イジェクタ24に設けられたアクチュエータ7に供給する駆動電圧波形を発生する波形発生部33と、この波形発生部33で駆動電圧波形を発生させるための情報が予め記憶された記憶部32と、各ノズル2に対応して設けられたアクチュエータ7に供給する駆動電圧波形を切り換える切換部34と、記憶部32、波形発生部33、切換部34等の間で信号の授受を行うとともにこれらを制御する制御部31とを含んで構成されている。なお、吐出動作を開始するためのメカ等から受信する信号や、各種センサーからの信号線等は省略している。
【0029】
アクチュエータ7に供給される駆動電圧波形及びこの駆動電圧波形によってノズル2から吐出されるインク滴径の例を、図5(A)?(E)に示す。なお、インク滴の滴径は略吐出滴量により定まるため、ここでは、滴径を滴量で示す。
【0030】
図5に示されるように、駆動電圧波形に応じて滴径は変化する。本実施の形態では、このような複数の駆動電圧波形を、滴径を変化させて印字する階調印字のために用いるだけでなく、ノズル2(液滴イジェクタ24)の吐出特性のばらつきを補正するためにも用いる。なお、液滴イジェクタ24の吐出特性のばらつきとは、液滴イジェクタ24を構成する部材や製造ばらつきが原因で吐出効率や固有周期などがばらつくことであり、これによりノズル2から吐出されるインク滴の滴径、滴速がばらついてしまう。ここでは、駆動電圧波形を適切に発生させ選択的に印加することによって、このようなばらつきを抑える。」

ウ.「【0039】
各液滴イジェクタ24の吐出特性は、予めプリンタ10製造時の検査により数値化されて記憶部32に記憶されている。例えば、主要な吐出特性として、各液滴イジェクタ24の圧力発生室4内に発生する圧力波の固有周期や各液滴イジェクタ24のインク滴の吐出効率などのばらつき等を数値化したものが記憶されていてもよいし、該数値化したときの標準値に対するばらつきに対応して定められたランクが記憶されていてもよい。後者の場合には、例えば、図8に示されるように、標準値を0ランクとしたときに、該標準値に対する吐出効率ばらつき及び固有周期ばらつきに応じて±7のランクを定めることができる。印字モード「1」における15種類の駆動電圧波形には、全ノズル2から略同様の滴径(2pl)かつ滴速のインク滴が吐出されるように各ランク毎に波高値や立ち上がり及び立ち下がりタイミングが異なる駆動電圧波形を割り当てることができる。」

エ.「【0070】
また、上記実施の形態では、液滴イジェクタ24毎に吐出特性の情報を記憶しておき、吐出特性のばらつきを補正する場合には、液滴イジェクタ24毎の吐出特性に応じて駆動電圧波形を選択して駆動素子(アクチュエータ7)に印加する例について説明したが、ヘッドを構成する液滴イジェクタ24を複数個の群に分割し、各群を構成する液滴イジェクタ24の吐出特性の平均的な値を各群毎の吐出特性(平均吐出特性)として記憶しておき、各吐出特性のばらつきを補正する場合には、該記憶した群毎の吐出特性から駆動電圧波形を選択して駆動素子(アクチュエータ7)に印加するようにしてもよい。滴径、滴速のばらつきは、各群毎にそれほど大きなずれはないので、いくつかの群毎に駆動電圧波形を設定すれば、吐出特性ばらつきを低減した高品質な印字が可能となる。
【0071】
なお、ヘッド11を構成する液滴イジェクタ24をどのように分割するかは特に限定されず、例えば、ヘッドユニット14毎に分割してもよいし、ヘッドユニット14を構成する各イジェクタ基体毎に分割してもよい。」

オ.「【0073】
なお、各ヘッドユニット14内の各液滴イジェクタ24の吐出特性ばらつきはそれほど大きくないが、ヘッドユニット14毎に製造環境や部材が異なるため、ヘッドユニット14内の各液滴イジェクタ24の吐出特性を平均した特性値(以下、ヘッドランク値ともいう)はヘッドユニット14間で大きく異なることが多い。従って、ヘッドユニット14毎の吐出特性のばらつき補正(すなわち、ヘッドユニット14毎に適した駆動電圧波形を選択して用いる)を行うことで印字品質は向上する。
【0074】
ヘッドユニット14毎に吐出特性のばらつき補正を行う場合には、上記プリンタ10の記憶部32には、前述の液滴イジェクタ24毎の吐出特性の情報に代えて、各ヘッドユニット14毎のヘッドランク値を記憶しておく。その他の装置構成は、上記実施の形態と同様とすることができる。」

以上の記載事項を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「ヘッドは、複数のヘッドユニットが一列に配置され、
コントローラ部は、各液滴イジェクタに設けられたアクチュエータに供給する駆動電圧波形を発生する波形発生部と、この波形発生部で駆動電圧波形を発生させるための情報が予め記憶された記憶部と、各ノズルに対応して設けられたアクチュエータに供給する駆動電圧波形を切り換える切換部と、記憶部、波形発生部、切換部等の間で信号の授受を行うとともにこれらを制御する制御部とを含んで構成され、
複数の駆動電圧波形を、ノズル(液滴イジェクタ)の吐出特性のばらつきを補正するためにも用い、
液滴イジェクタの吐出特性のばらつきとは、液滴イジェクタを構成する部材や製造ばらつきが原因で吐出効率や固有周期などがばらつくことであり、これによりノズルから吐出されるインク滴の滴径、滴速がばらつき、
インク滴の滴径は略吐出滴量により定まり、
駆動電圧波形を適切に発生させ選択的に印加することによって、このようなばらつきを抑え、
プリンタの記憶部には、ヘッドユニット内の各液滴イジェクタの吐出特性を平均した特性値である各ヘッドユニット毎のヘッドランク値を記憶しておき、
ヘッドユニット毎の吐出特性のばらつき補正を行う
プリンタ。」

(4)甲第4号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2007-38435号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「【0086】
先ず、本発明に適用される印字ヘッド200について説明する。
図2は、この印字ヘッド200の構造を示す部分拡大底面図である。
図示するように、この印字ヘッド200は、いわゆるラインヘッド型のプリンタに用いられる印刷用紙の紙幅方向に延びる長尺構造をしており、ブラック(K)インクを専用に吐出するノズルNが複数個(図では18個)、主走査方向に直線状に配列されたブラックノズルモジュール50と、イエロー(Y)インクを専用に吐出するノズルNが複数個、同じく主走査方向に直線状に配列されたイエローノズルモジュール52と、マゼンタ(M)インクを専用に吐出するノズルNが複数個、同じく主走査方向に直線状に配列されたマゼンタノズルモジュール54と、シアン(M)インクを専用に吐出するノズルNが複数個、同じく主走査方向に直線状に配列されたシアンノズルモジュール56といった4つのノズルモジュール50、52、54、56が印刷方向(紙送り方向)に重なるように一体的に配列して構成されている。なお、モノクロを目的とする印字ヘッドの場合は、ブラック(K)ノズルモジュールのみ、また、高画質な画像をターゲットとする印字ヘッドの場合はライトマゼンタ(LM)インクを専用に吐出するライトマゼンタモジュールやライトシアン(LC)インクを専用に吐出するライトシアンモジュールなどを加えた6色や7色のものもある。
【0087】
そして、各ノズルN1、N2、N3…ごとにそれぞれ設けられた図示しないインクチャンバー内に供給されたインクをそれら各インクチャンバーごとに設けられた図示しないピエゾ素子(piezo actuator)などの圧電素子によって各ノズルN1、N2、N3…から吐出することで、白色の印刷用紙上に円形のドットを印字(インク着弾)すると共に、さらに、この圧電素子に加える電圧を多段階に制御することによってインクチャンバーからのインクの吐出量を制御して各ノズルN1、N2、N3…ごとにサイズの異なるドットが印字可能となっている(本実施の形態では、後述するように、「ドットなし」を含めた8パターン(サイズ)のドットが印字可能になっている)。
【0088】
また、このような構造をした印字ヘッド200にあっては、製造段階における各ノズルN1、N2、N3…のノズル孔の大きさのバラツキやインクの供給圧の差などにより、規定量通りにインクが吐出されない場合がある。
例えば、図3に示すような印字ヘッド200の場合、ノズルN6?N11がそれぞれ同じインク吐出量(同じドットサイズ)となるように制御されているにもかかわらず、ノズルN7では、ノズルN6などの正常なノズルの吐出量に比べて多くのインクが吐出されてしまい(吐出量大)、反対にノズルN10は、正常なノズルの吐出量に比べてインク吐出量が不足してしまうことがある(吐出量大)。
【0089】
そしてこのような印字ヘッド200を用いて印刷、すなわちドットを連続して印字すると、図4に示すように、吐出量が規定値よりも多い(吐出量大)ノズルでは、印字されるドットのサイズが、目的とするドットサイズよりも大きくなってしまい、吐出量が規定値よりも多い(吐出量大)ノズルでは、印字されるドットのサイズが、目的とするドットサイズよりも小さくなってしまう。」

イ.「【0094】
次に、画像データ補正手段12は、この画像データ取得手段10で取得した多値の画像データの各画素値をその印字ヘッド200のノズル特性に応じて補正する機能を提供するものである。
すなわち、この画像データ補正手段12は、補正情報記憶手段30に記憶・保存された入力濃度補正テーブル300に基づいて各ノズルに対応する画素ごとにその画像データ取得手段10で取得した多値の画像データの各画素値を補正して前述したような濃度ムラ現象を軽減する機能を提供するようになっている。
【0095】
図7は、この入力濃度補正テーブル300の一例を示したものであり、また、図8はこの入力濃度補正テーブル300に記録されたノズルのうち、ノズル番号1?4までの4つのノズルの入力輝度値と出力輝度値(測定輝度平均)との関係を示したものである。
図8の例では、ノズル番号1、3、4のノズルは、それぞれ同じようなノズル特性を発揮しているのがわかるが、ノズル番号2のノズルは、他のノズルと比べて入力輝度値に対する出力濃度値がやや高いことが分かる。これは、ノズル番号1、3、4を正常なノズルと仮定した場合、これら正常なノズルに比べてノズル番号2のノズルはインクがやや少なめに吐出される傾向にあることを示している。
【0096】
従って、この画像データ補正手段12では、ノズル番号1、3、4のノズルに対応する画像データの画素を検出すると共に、その画素値に関しては、元の画素値に対して所定の画素値を付加してその画素値を一律に補正することになるが、ノズル番号2のノズルに対応する画素の画素値については、ノズル番号1、3、4のノズルに対応する画素に付加した画素値よりも多めの画素を付加してその画素値を補正する。また、図示していないがインク吐出量が正常よりも多いノズルに対する画素値については、通常に付加する画素値よりも小さい画素値を付加してその画素値を補正することになる。
【0097】
図9は、このような画素値補正処理の具体例を模式的に示したものである。
例えば、実際の印刷物において、測定輝度(または濃度)平均値で「70」の測定輝度(または濃度)を得るためには、ノズル番号Lのノズルに対応する画素の場合は、画素値「60」に画素値「55」を加えた「105」にその画素値を補正し、また、ノズル番号Mのノズルに対応する画素の場合は、画素値「60」に画素値「70」を加えた「130」にその画素値を補正し、さらにまた、ノズル番号Mのノズルに対応する画素の場合は、画素値「60」に画素値「85」を加えた「145」にその画素値を補正(変換)することでそれぞれ測定輝度(または濃度)平均値「70」の測定輝度(または濃度)を得ることができる。
【0098】
ここで、この画像データ補正手段12で画像の補正に用いる補正情報(入力濃度補正テーブル300)は、図1に示すように、多値のテストパターンデータを生成するテストパターンデータ生成手段32と、このテストパターンデータ生成手段32で生成されたテストパターンデータをN値化するテストパターンデータN値化手段34と、このテストパターンデータN値化手段34でN値化されたテストパターンデータを前記印字ヘッド200を用いて印刷するテストパターン印刷手段36と、このテストパターン印刷手段36で印刷したテストパターンの出力濃度を検出する出力濃度検出手段38と、この出力濃度検出手段で検出された前記テストパターンの出力濃度から前記印字ヘッドの補正情報を生成する補正情報生成手段300と、によって形成および最新のものに適宜更新されるようになっている。
【0099】
すなわち、先ず、テストパターンデータ生成手段32によって、例えば図13に示すように輝度が段階的に変化する8階調(輝度「0」、「36」、「73」、「109」、「146」、「182」、「219」、「255」)のビットマップデータからなるテストパターンデータ500を生成してから、テストパターンデータN値化手段34によって、図11に示すようなドット・階調変換テーブル400(後に詳述する)などに倣ってこのテストパターンデータ500をN値化してN値化データを生成する。
【0100】
その後、このテストパターンのN値化データを同じく図11に示すようなドット・階調変換テーブル400(後に詳述する)などに倣ってドットパターンに変換した印刷データを作成してから、印刷装置100の印刷機能を利用したテストパターン印刷手段36によって、そのテストパターンの印刷データを印刷してテストパターンの印刷物を生成する。
そして、このテストパターンの印刷物を、少なくともその画素数よりも高解像度な性能を有するスキャナなどの出力濃度検出手段38によって光学的に読み取って各ノズルに対応するドットラインの出力濃度を検出し、その検出結果に基づいて補正情報生成手段300が前述したような入力濃度補正テーブル300を生成することになる。
【0101】
従って、このような一連の入力濃度補正テーブル300の生成処理を対象となる印字ヘッドが特定されたときや交換されたときのみならず、定期的にあるいは必要に応じて実行すれば、仮に径時劣化などによって印字ヘッド200のノズル特性が変化した場合でも、常にそのときの印字ヘッド200の状態を的確に反映した高精度な入力濃度補正テーブル300を作成してこれを保持・提供することができる。」

ウ.「【0107】
なお、この画素値として「濃度値」を採用する場合は、この「濃度値」とは逆の関係のドットにそれぞれ変換されるようになっている。また、図4に示したインク吐出量に対するドットサイズの関係もこの図11のドット・階調変換テーブル400の左欄に示したドットサイズに対応するものである。」

エ.上記「ア.」の「そしてこのような印字ヘッド200を用いて印刷、すなわちドットを連続して印字すると、図4に示すように、吐出量が規定値よりも多い(吐出量大)ノズルでは、印字されるドットのサイズが、目的とするドットサイズよりも大きくなってしまい、吐出量が規定値よりも多い(吐出量大)ノズルでは、印字されるドットのサイズが、目的とするドットサイズよりも小さくなってしまう。」(段落【0089】)及び「ウ.」の「なお、この画素値として「濃度値」を採用する場合は、この「濃度値」とは逆の関係のドットにそれぞれ変換されるようになっている。また、図4に示したインク吐出量に対するドットサイズの関係もこの図11のドット・階調変換テーブル400の左欄に示したドットサイズに対応するものである。」(段落【0107】)における「吐出量」(インク吐出量)、「ドットのサイズ」(ドットサイズ)及び「濃度値」に関する記載並びに図4及び11を総合すると、「ノズルの吐出量は濃度値と相関する」といえる。

以上の記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。

「印刷装置の印刷機能を利用したテストパターン印刷手段によって、そのテストパターンの印刷データを印刷してテストパターンの印刷物を生成し、
スキャナなどの出力濃度検出手段によって光学的に読み取って各ノズルに対応するドットラインの出力濃度を検出し、その検出結果に基づいて補正情報生成手段が入力濃度補正テーブルを生成し、
画像データ補正手段は、補正情報記憶手段に記憶・保存された入力濃度補正テーブルに基づいて各ノズルに対応する画素ごとにその画像データ取得手段で取得した多値の画像データの各画素値を補正し、
画素値として「濃度値」を採用し、
ノズルの吐出量は濃度値と相関する
印刷装置。」

4.平成30年2月26日付け取消理由通知及び同年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断

平成30年2月26日付け取消理由通知及び同年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由は、前回訂正(平成29年11月29日付けの訂正の請求に係る訂正)によって訂正された請求項8及び13に対するものであった。
このうち、前回訂正後の請求項8は、本件訂正前(特許された特許請求の範囲)の請求項8のうち請求項1を引用するものに対応するものであったが、上記「第2 2.(2)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項1を引用するものは本件訂正によって削除された。
これにより、上記取消理由のうち前回訂正後の請求項8に係るものは、対象となる請求項が存在しないものとなった。
また、前回訂正後の請求項13は、本件訂正前の請求項8ないし11のうち請求項2を引用するに対応するものであり、上記取消理由はこのうち本件訂正前の請求項8のうち請求項2を引用するものに対応するものに対するものであったが、上記「第2 2.(2)ないし(5)」のとおり、本件訂正後の請求項13は、本件訂正前の請求項9ないし11のうち請求項2を引用するものに対応するものに訂正され、本件訂正前の請求項8のうち請求項2を引用するものに対応するものではなくなった。
これにより、上記取消理由のうち前回訂正後の請求項13に係るものは、解消された。
なお、本件訂正前の請求項9ないし11のうち請求項2を引用するものに対応する本件訂正後の請求項13については、下記「5.(2)ア.及びイ.」のとおりであって、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.平成29年9月29日付け取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
特許法第29条第1項第3号に係る平成29年9月29日付け取消理由は本件訂正前の請求項1及び8に対するものであり、取消理由通知において採用しなかった特許法第29条第1項第3号に係る取消理由は本件訂正前の請求項3、4及び12に対するものであるところ、上記「第2 2.(1)及び(2)」のとおり、本件訂正によって、訂正前の請求項1、3及び4並びに請求項8のうち請求項1又は2を引用するものは削除された。また、上記「第2 2.(2)及び(6)」のとおり、訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するものは訂正後の請求項14ないし18に対応し、訂正前の請求項12は訂正後の請求項12に対応する。
よって、以下では、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項12に対応する、本件訂正後の請求項12及び14ないし18について検討する。

ア.請求項12について
本件訂正特許発明12と引用発明1’とを対比する。
後者の「液滴」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「液滴」に相当し、同様に「ノズル」は「ノズル」に、「ヘッド」は「ヘッドモジュール」に、「液体吐出ヘッドアレイ」は「記録ヘッド」に、「ヘッドアレイを製作する方法」は「記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法」にそれぞれ相当する。
後者の「液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイ」と、前者の「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成され、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる記録ヘッド」とは、「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッド」との概念で共通する。
後者の「各ヘッドの左右端の濃度値を測定し、得られた結果から、ヘッド左右端の濃度傾きが右肩上がり、右肩下がりのどちらであるかを判断し、選別を行い、各ヘッドの左右端の濃度差の大きさのランク分けも行い、ランクはヘッド左右端の濃度差が、明度換算で0.5ごとに区切られるように設定し、各ヘッドに濃度差ランクとしてランク値を付与して管理し、ランク値が同じで濃度傾きが逆になっているヘッドを2個ずつ2組選別し、それを組となったヘッドが隣接するようにアレイ化し」と、前者の「前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している」とは、「ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成している」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法において、
ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成している記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者の記録ヘッドが「ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点2]
ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成する際に、前者が「ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している」のに対して、後者はそのようなものでない点。

そうすると、引用発明1’は、上記相違点1及び2に係る本件訂正特許発明12の発明特定事項を具備していないから、本件訂正特許発明12が引用発明1’であるとすることはできない。

イ.請求項14について
本件訂正特許発明14と引用発明1とを対比する。

後者の「液滴」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「液滴」に相当し、同様に「ノズル」は「ノズル」に、「ヘッド」は「ヘッドモジュール」に、「液体吐出ヘッドアレイ」は「記録ヘッド」に、それぞれ相当する。
後者の「液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイ」は、前者の「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッド」に相当する。
後者の「各ヘッドの左右端の濃度値を測定し、得られた結果から、ヘッド左右端の濃度傾きが右肩上がり、右肩下がりのどちらであるかを判断し、選別を行い、各ヘッドの左右端の濃度差の大きさのランク分けも行い、ランクはヘッド左右端の濃度差が、明度換算で0.5ごとに区切られるように設定し、各ヘッドに濃度差ランクとしてランク値を付与して管理し、ランク値が同じで濃度傾きが逆になっているヘッドを2個ずつ2組選別し、それを組となったヘッドが隣接するようにアレイ化し」と、前者の「前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している」とは、「ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成している」との概念で共通する。
後者においては「搬送機構によって用紙を搬送しながら画像形成部によって所要の画像を記録し、液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドと用紙とがヘッド列方向に対して直交方向に相対移動する」から、後者の「搬送機構」は前者の「前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部」に相当する。
後者は「装置本体の内部に画像形成部を有し、画像形成部は、液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドを備え、搬送機構によって用紙を搬送しながら画像形成部によって所要の画像を記録し」ているのだから、後者が「搬送機構によって用紙を搬送し」、「画像形成部によって所要の画像を記録」するための制御を行っており、当該制御のための部分を有することは明らかであって、後者の当該部分は前者の「前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部」に相当する。

したがって、両者は、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、
ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成している記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備える記録装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点3]
前者の記録制御部が「ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部」を備えるのに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点4]
前者の記録ヘッドが「ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している」のに対して、後者はそのようなものでない点。

そうすると、引用発明1は、上記相違点3及び4に係る本件訂正特許発明14の発明特定事項を具備していないから、本件訂正特許発明14が引用発明1であるとすることはできない。

ウ.請求項15ないし18について
本件訂正特許発明15ないし18は、本件訂正特許発明14をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正特許発明15ないし18は、本件訂正特許発明14と同様に、引用発明1であるとすることはできない。

エ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び12に対応する本件訂正特許発明12及び14ないし18に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
なお、本件訂正前の請求項1、3及び4並びに請求項8のうち請求項1又は2を引用するものに対応する本件訂正後の請求項1、3、4及び8は、本件訂正により削除された。

(2)特許法第29条第2項について
特許法第29条第2項に係る平成29年9月29日付け取消理由は本件訂正前の請求項1、2及び8に対するものであり、特許法第29条第2項に係る取消理由通知において採用しなかった取消理由は本件訂正前の請求項3ないし7及び9ないし12に対するものであるところ、上記「第2 2.(1)及び(2)」のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項1ないし7及び請求項8のうち請求項1又は2を引用するものは削除された。また、上記「第2 2.(2)ないし(6)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するものは本件訂正後の請求項14ないし18に対応し、本件訂正前の請求項9ないし11は本件訂正後の請求項9ないし11、13及び19ないし21に対応し、本件訂正前の請求項12は本件訂正後の請求項12に対応する。
よって、以下では、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし11に対応する、本件訂正後の請求項9ないし21について検討する。

ア.請求項9について
(ア)対比
本件訂正特許発明9と引用発明1とを対比する。

後者の「液滴」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「液滴」に相当し、同様に「ノズル」は「ノズル」に、「ヘッド」は「ヘッドモジュール」に、「液体吐出ヘッドアレイ」は「記録ヘッド」に、それぞれ相当する。
後者の「液滴を吐出する複数のノズルを配列したノズル列を有する複数のヘッドがノズル配列方向に千鳥状に配列された少なくとも1つのヘッド列を備える液体吐出ヘッドアレイ」は、前者の「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッド」に相当する。
後者においては、「明度差の算出は、ヘッドから吐出されたインク滴の大きさを直接観測することで行ってもよ」いところ、「インク滴の大きさ」が「液滴の吐出量」に比例することは明らかであるから、後者における「濃度差」(明度差)は液滴の吐出量の差であるといえる。そうすると、後者の「前記ヘッドは、前記ノズル列の一端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度と他端のノズルから吐出される液滴で形成される画像濃度との間に濃度差があり、記録領域に配置される前記ヘッドの全てが、前記濃度が高いノズル同士又は濃度が低いノズル同士が隣接して液体吐出ヘッドアレイに配置され」は、前者の「前記ヘッドモジュールの前記一方向の一端部の液滴の吐出量が前記一端部とは反対側の他端部の液滴の吐出量よりも多くなる第1ヘッドモジュールと、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる第2ヘッドモジュールと、を前記一方向に交互に繋ぎ合せて構成される」に相当する。
後者においては「搬送機構によって用紙を搬送しながら画像形成部によって所要の画像を記録し、液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドと用紙とがヘッド列方向に対して直交方向に相対移動する」から、後者の「搬送機構」は前者の「前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部」に相当する。
後者は「装置本体の内部に画像形成部を有し、画像形成部は、液体吐出ヘッドアレイで構成した記録ヘッドを備え、搬送機構によって用紙を搬送しながら画像形成部によって所要の画像を記録し」ているのだから、後者が「搬送機構によって用紙を搬送し」、「画像形成部によって所要の画像を記録」するための制御を行っており、当該制御のための機構を有することは明らかであって、後者の当該機構は前者の「前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部」に相当する。
なお、後者は「隣り合うヘッドの各端部の明度差が全て1.0以下になるように、個別のヘッドの駆動電圧値を設定し」ているものの、これは「ヘッドアレイを製作するための印写検査」において行われることであって、製造されたヘッドアレイを含む画像形成装置で行われることではないから、後者の画像形成装置が個別のヘッドの駆動電圧値を設定するための機構を有するということはできない。

したがって、両者は、
「液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールの前記一方向の一端部の液滴の吐出量が前記一端部とは反対側の他端部の液滴の吐出量よりも多くなる第1ヘッドモジュールと、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる第2ヘッドモジュールと、を前記一方向に交互に繋ぎ合せて構成される記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備える記録装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点5]
前者が「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、前記濃度測定部の測定結果からヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、を備える」のに対して、後者はそのようなものでない点。

(イ)検討
上記相違点5について検討する。

まず、引用発明3について検討する。
引用発明3は上記「3.(3)」のとおりであって、引用発明3の「ヘッド」は、その構造、機能、作用等からみて、本件訂正特許発明9の「記録ヘッド」に相当し、同様に「液滴イジェクタ」は「ノズル」に、「ヘッドユニット」は「ヘッドモジュール」に、「吐出滴量」は「吐出量」に、それぞれ相当する。
引用発明3において、「液滴イジェクタの吐出特性のばらつきとは、液滴イジェクタを構成する部材や製造ばらつきが原因で吐出効率や固有周期などがばらつくことであり、これによりノズルから吐出されるインク滴の滴径、滴速がばらつ」くところ、「インク滴の滴径は略吐出滴量により定ま」るのだから、「液滴イジェクタの吐出特性のばらつき」に吐出滴量のばらつきが含まれることは明らかである。そうすると、引用発明3の「各液滴イジェクタの吐出特性を平均した特性値である各ヘッドユニット毎のヘッドランク値」には、各液滴イジェクタの吐出滴量を各ヘッドユニット毎に平均した特性値が含まれるといえ、このような特性値は本件訂正特許発明9の「ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量」に相当する。そして、引用発明3の「ヘッドユニット毎の吐出特性のばらつき補正を行う」ことは、本件訂正特許発明9の「ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する」ことに相当するといえ、引用発明3における「ばらつき補正」が「各液滴イジェクタに設けられたアクチュエータに供給する駆動電圧波形を発生する波形発生部と、この波形発生部で駆動電圧波形を発生させるための情報が予め記憶された記憶部と、各ノズルに対応して設けられたアクチュエータに供給する駆動電圧波形を切り換える切換部と、記憶部、波形発生部、切換部等の間で信号の授受を行うとともにこれらを制御する制御部とを含んで構成され」る「コントローラ部」によって行われることは明らかであるから、引用発明3の「コントローラ部」は本件訂正特許発明9の「平均吐出量補正部」に相当する。
しかしながら、引用発明3は、「記録制御部」が「記録ヘッドにより記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ」るものではなく、「テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、前記濃度測定部の測定結果からヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部」を有するものではない。また、引用発明3の「コントローラ部」は吐出特性のばらつきを「平均吐出量補正値算出部が算出した平均吐出量補正値に基づき」補正するものではない。

そこで、次に引用発明4について検討する。
引用発明4は上記「3.(4)」のとおりであって、引用発明4の「印刷装置」は、その構造、機能、作用等からみて、本件訂正特許発明9の「記録装置」に相当し、同様に「テストパターン」は「テストチャート」に、「出力濃度検出手段」は「濃度測定部」に、それぞれ相当する。
引用発明4の「印刷装置の印刷機能を利用したテストパターン印刷手段によって、そのテストパターンの印刷データを印刷してテストパターンの印刷物を生成し」は、本件訂正特許発明9の「前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ」に相当する。
引用発明4の「出力濃度検出手段」は、「テストパターンの印刷物」を「スキャナなどの出力濃度検出手段によって光学的に読み取って各ノズルに対応するドットラインの出力濃度を検出」するものであるから、本件訂正特許発明9の「前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部」に相当する。
引用発明4の「補正情報生成手段」は、「スキャナなどの出力濃度検出手段によって光学的に読み取って各ノズルに対応するドットラインの出力濃度を検出し、その検出結果に基づいて補正情報生成手段が入力濃度補正テーブルを生成」するものであるところ、引用発明4の当該「補正情報生成手段」と本件訂正特許発明9の「前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部」とは「濃度測定部の測定結果から、補正情報を算出する補正情報算出部」との概念で共通する。
引用発明4の「画像データ補正手段」は、「補正情報記憶手段に記憶・保存された入力濃度補正テーブルに基づいて各ノズルに対応する画素ごとにその画像データ取得手段で取得した多値の画像データの各画素値を補正する」ところ、引用発明4が「画素値として「濃度値」を採用し、ノズルの吐出量は濃度値と相関する」ことを踏まえると画素値を補正すればノズルの吐出量が補正されるといえる。そうすると、引用発明4の当該「画像データ補正手段」と本件訂正特許発明9の「前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部」とは、「補正情報算出部が算出した補正情報に基づき、吐出量を補正する吐出量補正部」との概念で共通する。
以上のとおりであるから、引用発明4は本件訂正特許発明9の相違点5に係る発明特定事項のうち、「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、前記濃度測定部の測定結果から、補正情報を算出する補正情報算出部と、前記補正情報算出部が算出した前記補正情報に基づき、吐出量を補正する吐出量補正部と、を備える」との発明特定事項を備えるものである。
しかしながら、引用発明4の「補正情報算出部」は平均吐出量補正値を算出するものではなく、「吐出量補正部」はヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正するものではないから、引用発明1に引用発明4を適用しても、平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部とヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部とを備えるものとはならない。

そして、引用発明3及び4を総合しても、引用発明1に引用発明3を適用して、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備えるものとした上で、さらに引用発明4を適用して、記録制御部を、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、前記濃度測定部の測定結果から、補正情報を算出する補正情報算出部とを備えるものとするとともに、平均吐出量補正部を、前記補正情報算出部が算出した前記補正情報に基づき、吐出量を補正するものとなすことが、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。

また、「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、前記濃度測定部の測定結果から、補正情報を算出する補正情報算出部と、前記補正情報算出部が算出した前記補正情報に基づき、吐出量を補正する吐出量補正部と、を備える」との事項を引用発明4が備えることのみを以て、当該事項が周知技術であるとまではいうことができない。

さらに、上記相違点5に係る本件訂正特許発明9の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そして、本件訂正特許発明9は、上記相違点5に係る本件訂正特許発明9の発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「記録制御部は、記録ヘッドにより記録媒体に画像として、テストチャートを記録させ、テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、濃度測定部の測定結果からヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、平均吐出量の算出結果に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、平均吐出量補正値算出部が算出した平均吐出量補正値に基づき、ヘッドモジュールごとの平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、を備えることが好ましい。これにより、ヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差をより小さくすることができる。」(段落【0021】)という作用効果を奏するものである。

したがって、本件訂正特許発明9は、当業者が、引用発明1、3及び4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、甲第2号証にも、上記相違点5に係る本件訂正特許発明9の発明特定事項は記載されていない。

イ.請求項10、11及び13について
本件訂正特許発明10、11及び13は、本件訂正特許発明9をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正特許発明10、11及び13は、本件訂正特許発明9と同様に、当業者が、引用発明1、3及び4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.請求項12について
上記「5.(1)ア.」において対比したとおり、本件訂正特許発明12と引用発明1’とは、相違点1及び2において相違し、その余の点で一致する。

相違点2について検討する。
引用発明1’は、ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成するものの、上記相違点2に係る本件訂正特許発明12の「ヘッドモジュールを液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、互いに隣り合うヘッドモジュールを吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる区分のヘッドモジュールにより構成する」との発明特定事項を備えるものではない。

また、上記相違点2に係る本件訂正特許発明12の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そして、本件訂正特許発明12は、上記相違点2に係る本件訂正特許発明12の発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「本発明の記録ヘッド及びその製造方法並びに記録装置によれば、ヘッドモジュールの繋ぎ部分での濃度ムラを抑制することができる。」(段落【0025】)という作用効果を奏するものである。

したがって、本件訂正特許発明12は、当業者が、引用発明1’に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、甲第2号証ないし甲第4号証にも、上記相違点2に係る本件訂正特許発明12の発明特定事項は記載されていない。

エ.請求項14について
上記「5.(1)イ.」において対比したとおり、本件訂正特許発明14と引用発明1とは、相違点3及び4において相違し、その余の点で一致する。

相違点4について検討する。

上記「5.(1)イ.」のとおり、引用発明1は、本件訂正特許発明14と「ヘッドモジュールを一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の特性差に応じて複数段階に区分し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、区分が特定の段階のヘッドモジュールと、前記ヘッドモジュールと区分が一定の関係にあるヘッドモジュールにより構成している」との概念で共通するものの、ヘッドモジュールを液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、互いに隣り合うヘッドモジュールを吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる区分のヘッドモジュールにより構成するとの発明特定事項を備えるものではない。
また、上記相違点4に係る本件訂正特許発明14の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そして、本件訂正特許発明14は、上記相違点4に係る本件訂正特許発明9の発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「本発明によれば、ヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差を小さくすることができる。また、両端部でインクの吐出量差があるヘッドモジュールを使用することができるので、ヘッドモジュールの得率を上げることができる。」(段落【0015】)という作用効果を奏するものである。

したがって、本件訂正特許発明14は、当業者が、引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、甲第2号証ないし甲第4号証にも、上記相違点4に係る本件訂正特許発明14の発明特定事項は記載されていない。

オ.請求項15ないし21について
本件訂正特許発明15ないし21は、本件訂正特許発明14をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正特許発明15ないし20は、本件訂正特許発明14と同様に、当業者が、引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、上記「エ.」のとおり、甲第2号証にも上記相違点4に係る本件訂正特許発明14の発明特定事項は記載されていないから、本件訂正特許発明21は、当業者が、引用発明1及び甲2記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

カ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正特許発明9ないし21に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
なお、本件訂正前の請求項3ないし7及び請求項8のうち請求項1又は2を引用するものに対応する本件訂正後の請求項3ないし8は、本件訂正により削除された。

(3)特許法第36条第6項第2号について
ア.上記「2.(1)ウ.」の点について
特許法第36条第6項第2号に係る平成29年9月29日付け取消理由(上記「2.(1)ウ.」)は、本件訂正前の請求項3ないし12に対するものであるところ、上記「第2 2.(1)及び(2)」のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項3ないし7及び請求項8のうち請求項1又は2を引用するものは削除された。また、上記「第2 2.(2)ないし(6)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし12は、本件訂正後の請求項9ないし21に対応する。
よって、以下では、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし12に対応する、本件訂正後の請求項9ないし21について検討する。

本件訂正により、本件訂正後の請求項9ないし11及び13ないし21に係る発明は「前記記録制御部は、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備える」ものとされ、また、本件訂正後の請求項12に係る発明は「記録ヘッド」が「前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる」ものとされた。
これにより、本件訂正特許発明9ないし21がヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差を小さくできることが明らかとなったから、本件訂正後の請求項9ないし21に記載された発明は明確になった。

イ.上記「2.(3)ウ.」の点について
特許法第36条第6項第2号に係る取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(上記「2.(3)ウ.」)は、発明特定事項Aを備える本件訂正前の請求項3ないし11に対するものであるところ、上記「第2 2.(1)及び(2)」のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項3ないし7及び請求項8のうち請求項1又は2を引用するものは削除された。また、上記「第2 2.(2)ないし(5)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし11は、本件訂正後の請求項9ないし11及び13ないし21に対応し、このうち発明特定事項Aを備えるのものは、本件訂正後の請求項14ないし21である。
よって、以下では、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし11に対応するものであって、発明特定事項Aを備える、本件訂正後の請求項14ないし21について検討する。

(ア)上記「2.(3)ウ.(ア)」の点について
本件訂正後の請求項14ないし21は「記録装置」に係る物の発明である。また、「ヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッド」を有することから、複数の「ヘッドモジュール」を有することは明らかである。
そして、本件訂正後の請求項14ないし21の「前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し」との記載は、当該複数の「ヘッドモジュール」が一定の条件で区分されたものであることを特定するものと解することができ、ヘッドモジュールを繋ぎ合せて記録ヘッドを構成するための準備作業を特定すると解すべき特段の事情もない。
そうすると、本件訂正後の請求項14ないし21に記載された発明は、異議申立人の主張する理由により不明確であるとはいえない。

(イ)上記「2.(3)ウ.(イ)」の点について
本件訂正後の請求項14ないし21においては、kが(n-1)の場合であっても、「互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成」することが可能であるから、「前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し」との発明特定事項と、「互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録ヘッド」との発明特定事項とは、相互に矛盾するものではなく、これらの発明特定事項の関係に不明りょうな点はない。
そうすると、本件訂正後の請求項14ないし21に記載された発明は、異議申立人の主張する理由により不明確であるとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし12に対応する本件訂正後の特許請求の範囲の請求項9ないし21の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものである。

(4)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号に係る平成29年9月29日付け取消理由は、本件訂正前の請求項1ないし12に対するものであるところ、上記「第2 2.(1)及び(2)」のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項1ないし7及び請求項8のうち請求項1又は2を引用するものは削除された。また、上記「第2 2.(2)ないし(6)」のとおり、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし12は、本件訂正後の請求項9ないし21に対応する。
よって、以下では、本件訂正前の請求項8のうち請求項3ないし7を引用するもの及び請求項9ないし12に対応する、本件訂正後の請求項9ないし21について検討する。

上記「(3)ア.」のとおり、本件訂正によって本件訂正特許発明9ないし21がヘッドモジュールの繋ぎ部分の液滴の吐出量差を小さくできることが明らかとなったから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正特許発明9ないし21を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなった。

以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものである。

第4 むすび

以上のとおり、請求項9ないし21に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項9ないし21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1ないし8に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の本件訂正後の請求項1ないし8に係る特許異議申立人がした特許異議の申立については、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下することとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールの前記一方向の一端部の液滴の吐出量が前記一端部とは反対側の他端部の液滴の吐出量よりも多くなる第1ヘッドモジュールと、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる第2ヘッドモジュールと、を前記一方向に交互に繋ぎ合せて構成される記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える記録装置。
【請求項10】
前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項9記載の記録装置。
【請求項11】
前記濃度測定部の測定結果に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を当該記録ヘッドの全体にわたって一定に補正するための濃度補正値を算出する濃度補正値算出部と、
前記濃度補正値算出部が算出した濃度補正値に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を補正する濃度補正部と、
を備える請求項9または10記載の記録装置。
【請求項12】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成され、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1ヘッドモジュールは交換用の前記第1ヘッドモジュールと交換可能であり、前記第2ヘッドモジュールは交換用の前記第2ヘッドモジュールと交換可能である請求項9から11のいずれか1項記載の記録装置。
【請求項14】
液滴を吐出するノズルが複数配列されているヘッドモジュールを一方向に複数繋ぎ合せて構成される記録ヘッドであって、前記ヘッドモジュールを前記一方向の一端部と前記一端部とは反対側の他端部とにおける液滴の吐出量差に応じて2n(nは2以上の自然数)段階に区分し、前記2n段階の区分を、前記一端部の液滴の吐出量が前記他端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第1区分と、前記他端部の液滴の吐出量が前記一端部の液滴の吐出量よりも多くなる前記ヘッドモジュールをn段階に区分した第2区分とにより構成し、互いに隣り合う前記ヘッドモジュールを、前記第1区分及び第2区分のいずれか一方の区分の第i(1≦i≦n)段階の前記ヘッドモジュールと、他方の区分の第i段階の前記ヘッドモジュールに対して前記吐出量差がk(kは(n-1)以下の自然数)段階以内となる前記ヘッドモジュールとにより構成している記録ヘッドと、
前記記録ヘッドと記録媒体とを前記一方向に対して垂直方向に相対移動させる相対移動部と、
前記記録ヘッド及び前記相対移動部を制御して、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に画像を記録させる記録制御部と、
を備え、
前記記録制御部は、前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部を備える記録装置。
【請求項15】
前記n段階のそれぞれの範囲に対応する前記吐出量差の範囲が均等である請求項14記載の記録装置。
【請求項16】
前記n段階のそれぞれに属する前記ヘッドモジュールの数が均等となる請求項14記載の記録装置。
【請求項17】
前記n段階は3段階であり、前記k段階は1段階である請求項14ないし16のいずれか1項記載の記録装置。
【請求項18】
前記第1区分の前記ヘッドモジュールと前記第2区分の前記ヘッドモジュールとが前記一方向に交互に繋ぎ合わされており、
3段階のうちの第2段階に区分される前記ヘッドモジュールを交換用の前記ヘッドモジュールとして用いる請求項17記載の記録装置。
【請求項19】
前記記録制御部は、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に前記画像として、テストチャートを記録させ、
前記テストチャートの濃度を測定する濃度測定部と、
前記濃度測定部の測定結果から前記ヘッドモジュールごとの液滴の平均吐出量を算出し、前記平均吐出量の算出結果に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正するための平均吐出量補正値を算出する平均吐出量補正値算出部と、
前記平均吐出量補正値算出部が算出した前記平均吐出量補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとの前記平均吐出量を均一に補正する平均吐出量補正部と、
を備える請求項14から18のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項20】
前記平均吐出量補正値算出部は、前記平均吐出量補正値として、前記ヘッドモジュールごとの前記ノズルからの吐出を制御する駆動信号の電圧を補正する電圧補正値を算出し、
前記平均吐出量補正部は、前記電圧補正値に基づき、前記ヘッドモジュールごとに前記ノズルの駆動信号の電圧を補正する請求項19記載の記録装置。
【請求項21】
前記濃度測定部の測定結果に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を当該記録ヘッドの全体にわたって一定に補正するための濃度補正値を算出する濃度補正値算出部と、
前記濃度補正値算出部が算出した濃度補正値に基づき、前記記録ヘッドにより前記記録媒体に記録される画像の濃度を補正する濃度補正部と、
を備える請求項19または20記載の記録装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-10 
出願番号 特願2013-182901(P2013-182901)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B41J)
P 1 651・ 536- YAA (B41J)
P 1 651・ 121- YAA (B41J)
P 1 651・ 113- YAA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
登録日 2016-11-18 
登録番号 特許第6042295号(P6042295)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 記録ヘッド及びその製造方法並びに記録装置  
代理人 松浦 憲三  
代理人 松浦 憲三  

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