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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03B
審判 一部申し立て 2項進歩性  G03B
管理番号 1349662
異議申立番号 異議2017-701093  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-12-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6133522号発明「透明スクリーンおよびそれを備えた映像投影システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133522号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、3、7-12〕について訂正することを認める。 特許第6133522号の請求項1、3に係る特許を取り消す。 同請求項7ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6133522号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成29年4月28日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年5月24日に特許掲載公報が発行された。その後、平成29年11月22日に特許異議申立人岡本敏夫(以下「申立人」という。)により請求項1、3、7?12に対して特許異議の申立てがされ、平成30年1月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年3月26日(受理日:平成30年3月27日)に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して平成30年4月26日(受理日:平成30年4月27日)に申立人から意見書が提出され、平成30年5月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年7月23日(受理日:平成30年7月24日)に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して平成30年9月21日(受理日:平成30年9月25日)に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において「バインダと、微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンであって、」との記載を、「バインダと、一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、」と訂正し、併せて特許請求の範囲の請求項1における「前記光散乱微粒子の一次粒子が、0.1?2500nmのメジアン径を有し、」との記載を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.20以下である」との記載を、「C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3において、「前記光散乱微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の透明スクリーン。」との記載を、
「バインダと、一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み、
前記光散乱微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55である、透明スクリーン。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1?6のいずれか一項に記載」との記載を「請求項2および4?6のいずれか一項に記載」と訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8、9も同様に補正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10において、「請求項1?9のいずれか一項に記載」との記載を「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11において、「請求項1?9のいずれか一項に記載」との記載を「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項12において、「請求項1?9のいずれか一項に記載」との記載を「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
まず、訂正事項1を整理すると、特許請求の範囲の請求項1に「バインダと、微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンであって、」、「前記光散乱微粒子の一次粒子が、0.1?2500nmのメジアン径を有し、」との記載を、「バインダと、一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、」と訂正するものと認められる。
そして、訂正事項1は、「光拡散層」に含まれる「微粒子」である「光散乱微粒子」を「光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)」に限定し、「光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)」の「一次粒子」のメジアン径を「0.1?2500nm」から「0.5?500nm」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
訂正事項1の「一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子」に関しては、本件特許の明細書段落【0047】には「『光散乱微粒子の一次粒子のメジアン径は』『0.5?500nmである。』」と記載されているので、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、条件Cの出射光相対輝度を「0.0005以上0.20以下」から「0.0005以上0.05以下」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
訂正事項2の条件Cの出射光相対輝度の上限値を「0.05」とすることに関しては、本件特許の明細書段落【0026】には「『C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が』『0.05以下である』」と記載されているので、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項3は、「光拡散層」に含まれる「微粒子」である「光散乱微粒子」の「一次粒子」のメジアン径を「0.1?2500nm」から「0.5?500nm」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項3は、条件Cの出射光相対輝度を「0.0005以上0.20以下」から「0.0005以上0.05以下」に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
訂正事項3の「一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子」に関しては、本件特許の明細書段落【0047】には「『光散乱微粒子の一次粒子のメジアン径は』『0.5?500nmである。』」と記載され、訂正事項3の条件Cの出射光相対輝度の上限値を「0.05」とすることに関しては、本件特許の明細書段落【0026】には「『C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が』『0.05以下である』」と記載されているので、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、訂正前の請求項7の従属先から請求項1および3を削除して、訂正後の請求項7における従属番号の記載を「請求項1?6のいずれか一項に記載」から「請求項2および4?6のいずれか一項に記載」へと訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
上記アで検討したように、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、訂正前の請求項10の従属先から請求項1および3を削除して、訂正後の請求項10における従属番号の記載を「請求項1?9のいずれか一項に記載」から「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」へと訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
上記アで検討したように、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、訂正前の請求項11の従属先から請求項1および3を削除して、訂正後の請求項7における従属番号の記載を「請求項1?9のいずれか一項に記載」から「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」へと訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
上記アで検討したように、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7は、訂正前の請求項12の従属先から請求項1および3を削除して、訂正後の請求項7における従属番号の記載を「請求項1?9のいずれか一項に記載」から「請求項2および4?9のいずれか一項に記載」へと訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで検討したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 新規事項の有無
上記アで検討したように、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(8)一群の請求項について
また、訂正前の請求項1、3、7?12は、請求項3、7?12が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第4項、及び、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1、3、7?12]について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3、7?12に係る特許に対して、当審が平成30年5月23日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

請求項1、3、7?12に係る特許は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、請求項1、3、7?12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する満たしていない特許出願に対してされたものであり、請求項1、3、7?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する満たしていない特許出願に対してされたものである。
以上のとおりであるから、請求項1、3、7?12に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、3、7?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明7」?「本件発明12」という。)は、下記のとおりのものである。

「【請求項1】
バインダと、一次粒子が0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55である、透明スクリーン。」

「【請求項3】
バインダと、一次粒子が0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み、
前記光散乱微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55である、透明スクリーン。」

「【請求項7】
前記バインダが、有機系バインダまたは無機系バインダである、請求項2および4?6のいずれか一項に記載の透明スクリーン。
【請求項8】
前記有機系バインダが、熱可塑性樹脂または自己架橋性樹脂である、請求項7に記載の透明スクリーン。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の透明スクリーン。
【請求項10】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンを備えた、車両用部材。
【請求項11】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンを備えた、建物用部材。
【請求項12】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンと、前記透明スクリーンのスクリーン面の法線方向に対して±10°以上の角度から画像を投影する投射装置とを備えた、映像投影システム。」

第5 甲第1号証の記載
本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証(特開2014-153708号公報 )には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。)。
1 「【請求項1】
高屈折率ナノ粒子(A)を分散媒体(B)中に分散させた高屈折率ナノ粒子・ナノコンポジットであって、前記分散媒体(B)と同質または類似した材料(D)を含む高屈折率ナノ粒子複合体(C)の平均サイズが40?4000nmであることを特徴とする高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。
【請求項2】
請求項1の高屈折率ナノ粒子複合体(C)の相対標準偏差が5?50%未満である高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。
【請求項3】
請求項1及び請求項2の高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体において、高屈折率ナノ粒子(A)の含有量が0.2?40重量%で、0.2?400μmの薄膜である高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体において、高屈折率ナノ粒子(A)がダイヤモンド(屈折率2.4)、チタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、酸化チタニウム(屈折率2.7)から選ばれるナノ粒子である高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体。」

2 「【0031】
高屈折率ナノ粒子複合体を含有する透明光拡散体において、高屈折率ナノ粒子(A)が一次粒径サイズが100nm以下のダイヤモンド、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウムから選ばれるナノ粒子である。上述の条件であれば、好適な透明光拡散体を得ることができるが、平均粒子直径及び相対標準偏差を制御し易く、また分散性に優れるナノ粒子(A)が一層好ましく、具体的にはナノダイヤモンドが好適である。」

3 「【0044】
透明光拡散体を透過型スクリーンとして使用した時の色むらについては、プロジェクターによりカラー像を投影し、以下の2階の基準に従い評価した。
○:色むらがなく、快適な表示である。
×色むらや像の鮮明さが不十分である。
【0045】
[実施例及び比較例で用いたナノ粒子]
ナノ粒子(A)として、代表的な屈折率2.42であるビジョン開発株式会社製ナノダイヤモンド粒子を使用した。
【0046】
[透明光拡散体の作製]
実施例1?10及び比較例1?5においては、ナノ粒子(A)としてナノダイヤモンドと分散媒体(B)としてポリビニルアルコール(クラレ製PVA117;以下「PVA」という)と蒸留水から水-8質量%PVAの溶液を調合した。ここで、全固形分(ナノダイヤモンドとPVAの総量)に対して、ナノダイヤモンドの割合を0.1?50重量%まで変化させた試料を準備した。これらの分散溶液をBRANSON製超音波ホモジナイザーModel450Dを用いて60Wの出力で1分間の5回実施し均一分散液とした。実施例1?実施例10及び比較例1?比較例6においては、約25mm四方×厚み約1mmのガラス基板上にこれらの分散液をスピン回転数を調整してスピンコートした。実施例11においては、分散液をシャーレ上でキャスティングすることにより、薄膜試料を得た。比較例1では平均直径33nm、相対標準偏差12%では光拡散性が認められなかった。比較例2では平均直径4100nm、相対標準偏差20%では光拡散性が認められるが、光透過性が大幅に低下した。比較例3では平均直径420nm、相対標準偏差50%では光拡散性が認められるが、光透過性が低下し、色むらも発生した。比較例4ではナノダイヤモンドの含有量が0.1%であるため、光拡散性が認められなかった。比較例5ではナノダイヤモンドの含有量が50%であるため、光拡散性が認められるが、光透過性が大幅に低下した。比較例6では平均直径60nm、相対標準偏差4%の単分散性で光拡散性が認められるが、色むらが発生した。」

4 表1には、比較例4として、平均直径54nm、相対標準偏差5%、膜厚2μmと記載されている。

5 上記1ないし4から、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されている。
「ポリビニルアルコール(クラレ製PVA117;以下「PVA」という)と平均直径54nm、相対標準偏差5%のナノダイヤモンド粒子とを調合し作製した透明光拡散体を使用した透過型スクリーンにおいて、屈折率2.42であるナノダイヤモンド粒子の含有量が0.1%であり、膜厚2μmである透明光拡散体を使用した透過型スクリーン。」

第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件発明1及び本件発明3は、上記条件A?Cの散乱光輝度プロファイル(以下、「構成A」という。)及び上記条件A?C以外の発明特定事項(以下、「構成B」という。)を有しており、構成A及び構成Bを満たす実施例については、発明の詳細な説明に記載されている。
しかしながら、構成Aについて「透明スクリーン」のどのような構成に基づき、その特性が発揮されるのかについて十分な記載がなく自明ともいえない。すなわち、構成Bを満たす透明スクリーンの中で構成Aを満たすものが実施例となるのか、それとも構成B以外の要件により構成Aの特性を有するのかが不明であるため、構成Aがどのように実施できるのか不明である。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1及び本件発明3を実施できる程度に、明確かつ十分に記載したものであるということができない。

(2)特許権者の意見書での主張について
特許権者は、平成30年7月23日(受理日:平成30年7月24日)に提出した意見書において、「本件再訂正発明1および3では、構成Bを満たす透明スクリーンの中で構成Aを満たすものが実施例となります。すなわち、光拡散層に使用する光散乱光微粒子の種類や濃度、バインダの種類、光拡散層の厚さ等の構成要件は透明スクリーンを製造する上での前提条件であり、これらの構成要件を満たす透明スクリーンの中で、さらに、条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たすものが、本件訂正発明1および3の範囲内となります。そして、当業者であれば、明細書段落[0074]?[0082]及び実施例の記載ならびに技術常識に鑑みれば、構成Bを満たす透明スクリーンを製造することができます。そして、得られた透明スクリーンについて、明細書段落[0087]の記載に基づき、市販の変角分光光度計を用いて光学特性(散乱光輝度プロファイル)を測定することは、当業者であれば容易になし得ることです。実際、本件再訂正発明に限らず、従来から存在する光学特性を規定した発明に関して、得られた製品の光学特性を測定することでその発明の範囲内であるか否かを調べること自体は、当業者の通常の作業であり、容易になし得ることです。したがって、得られた透明スクリーンの散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験する必要があったとしても、試行錯誤や複雑高度な実験が必要であるとは到底言えません。」旨主張する。

まず、本件特許の明細書段落【0074】?【0082】には、透明スクリーンの製造方法の一例として、押出成形法の各工程について詳述され、本件特許の明細書段落【0087】には「以下、実施例と比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定解釈されるものではない。」と記載されているものの、構成Aを限定させる透明スクリーンを製造する方法については記載されていない。
そして、構成Bを満たすものを、市販の変角分光光度計を用いて光学特性(散乱光輝度プロファイル)を測定することは、当業者であれば容易になし得ることであっても、特許権者の主張によれば、得られた透明スクリーンの散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験しない限り、構成Aを満たすものが製造できたか否かが確認できないのであるから、結局、本件発明1及び本件発明3の上記構成Bに加え他の条件が必要なことが明らかといえる。当該条件が不明な中、上記条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たすことができるようにするためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。
つまり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合、当業者がどのように実施するかを理解できるとはいえないので、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されていないことになる。
したがって、当該主張は採用されない。

2 取消理由通知に記載した取消理由3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件発明1及び本件発明3には「一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子」と特定されている。
本件特許の実施例の光散乱微粒子としては、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))粉末(一次粒子のメジアン径11nm、屈折率2.40)のみしか記載されていない。
また、本件特許の明細書段落【0047】には「光散乱微粒子の一次粒子のメジアン径は好ましくは0.1?2500nmであり、より好ましくは0.2?1500nmであり、さらに好ましくは0.5?500nmである。光散乱微粒子の一次粒子のメジアン径が上記範囲内であると、透過視認性を損なわずに投影光の十分な拡散効果が得られることで、透明スクリーンに鮮明な映像を投影することができる。」と記載されているものの、当該数値範囲全体において有効であることを示す理論上ないし実験上の根拠は示されていないし、当業者が技術常識を考慮しても予測可能であったとはいえない。
そうすると、一次粒子のメジアン径11nmの実施例のみで、当該数値範囲全体にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1及び本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができない。

(2)特許権者の意見書での主張について
特許権者は、平成30年7月23日(受理日:平成30年7月24日)に提出した意見書において、「実施例で使用した酸化ジルコニウム粉末は、一次粒子のメジアン径が11nmなのであって、粒径の範囲はある程度の幅を持つものであり、11nmよりも大きい粒子も小さい粒子も含まれています。してみると、実施例で使用した酸化ジルコニウム粉末は、仮にミー散乱およびレイリー散乱のいずれか一方の散乱が拡散作用に支配的であったとしても、いずれか一方の散乱のみを生じているのではなく、両方の散乱を生じているとも考えられます。そして、本件再訂正発明1および3においては、散乱微粒子の一次粒子のメジアン径が0.5?500nmですので、ミー散乱およびレイリー散乱のいずれか一方のみの散乱が生じるものである必要は無く、ミー散乱およびレイリー散乱の両方の散乱が生じていても全く問題無いと言えます。すなわち、本件訂正発明1および3においては、散乱の種類が構成要件上問われるものではありません。本件訂正発明1および3において『一次粒子が0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子』を用いることは透明スクリーンを製造する上での前提条件であり、得られた透明スクリーンの中で、さらに条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たすものが、本件訂正発明1および3の範囲内となります。したがって、ミー散乱およびレイリー散乱のいずれか一方または両方の散乱を生じていようとも、散乱の種類に関わらず、結果的に条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たす透明スクリーンであれば本件訂正発明1および3の範囲内であり、条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たさない透明スクリーンであれば、本件訂正発明1および3の範囲外となります。」旨主張する。

散乱体(粒子)が光の波長と同程度の大きさの場合、ミー散乱が適用され、散乱体(粒子)が小さくなると(光の波長の1/10以下)であれば、レイリー散乱が適用されることは、技術常識である(必要であれば、平成30年4月26日(受理日:平成30年4月27日)に申立人が提出した意見書に添付された参考資料4(色彩工学入門、森北出版株式会社、2007年発行)、平成30年9月21日(受理日:平成30年9月25日)に申立人が提出した意見書に添付された参考資料2(機能性酸化チタン材料の開発、生産と技術、第66巻、第1号、2014年、一般社団法人 生産技術振興協会発行(http://seisan.server-shared.com/seisan.html)の特に、3.酸化チタンの製造方法及び4.微粒子酸化チタン、を参照されたい。)。
そして、ミー散乱が適用されるか、レイリー散乱が適用されるかで、光散乱の挙動や透明性が大きく異なることが、技術常識であり、ミー散乱が支配的なメジアン径を有する光散乱微粒子とレイリー散乱が支配的なメジアン径を有する光散乱微粒子をもつものでは、光散乱の挙動や透明性が大きく異なる。

本件特許の実施例の光散乱微粒子としては、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))粉末(一次粒子のメジアン径11nm、屈折率2.40)のみしか記載されておらず、透明スクリーンに適用される光が可視光であることを考慮すると、レイリー散乱が支配的なメジアン径を有する光散乱微粒子のみの実施例であり、光散乱の挙動や透明性が大きく異なるミー散乱が支配的なメジアン径を有する光散乱微粒子の実施例については記載されていない。
そして、透明スクリーンに適用される光が可視光であることを考慮すると、本件発明1及び本件発明3には「一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子」は、可視光の波長に応じてミー散乱、レイリー散乱と散乱状態が異なる領域にメジアン径がまたがっているため、光散乱微粒子の散乱挙動はメジアン径に応じて大きく異なるといえる。

そうすると、一次粒子のメジアン径11nmの実施例のみから、他の当該数値範囲全体において機能を発揮するものか、他の当該数値範囲全体において上記条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たすのかは一義的に定まるとはいえないから、当該数値範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、散乱の種類に関わらず、結果的に上記条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たさない透明スクリーンであれば本件発明1及び本件発明3の範囲外となると特許権者は上記のように主張しているが、結果的に上記条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たす透明スクリーンの実施例として挙げられている光散乱微粒子は、一次粒子のメジアン径11nmのものだけであって、主張の根拠を確認することができない。
したがって、当該主張は採用されない。

3 取消理由通知に記載した取消理由1(特許法第29条第2項)について(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「バインダ」に、甲1発明の「ナノダイヤモンド粒子」は、本件発明1の「光散乱微粒子」に、甲1発明の「透明光拡散体」は、本件発明1の「光拡散層」に、甲1発明の「透過型スクリーン」は、本件発明1の「透明スクリーン」に、それぞれ相当する。

(イ)甲1発明の「ナノダイヤモンド粒子」は平均直径54nm、相対標準偏差5%であるのでナノダイヤモンド粒子の多くは直径54nm前後であり、「一次粒径」について、甲第1号証段落【0031】の「高屈折率ナノ粒子(A)が一次粒径サイズが100nm以下のダイヤモンド」との記載から考えて、ナノダイヤモンド粒子の直径は一次粒径サイズを表すものと考えられる。
そうすると、甲1発明の「平均直径54nm、相対標準偏差5%のナノダイヤモンド粒子」は、本件発明1の「一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子」に相当する。

(ウ)甲1発明の「ナノダイヤモンド粒子の含有量が0.1%であり」は、本件発明1の「前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み」の「前記光拡散層が、前記バインダに対して0.1%の光散乱微粒子を含み」に相当する。

(エ)甲1発明の「膜厚」は、本件発明1の「光拡散層の厚さ(t)」に、甲1発明の「ナノダイヤモンド粒子の含有量」は、本件発明1の「前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度(c)」に、それぞれ相当するから、甲1発明のt×cは、2×0.1=0.2となる。
そうすると、甲1発明の「ナノダイヤモンド粒子の含有量が0.1%であり、膜厚2μmであり、」は、本件発明1の「前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):0.05≦(t×c)≦50・・・(I)を満たし、」の「前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):t×c=0.2・・・(I)を満たし、」に相当する。

(オ)ポリビニルアルコールの屈折率は、1.49?1.53であることは、事実であり(必要ならば、甲第2号証(http://www.poval.jp/japan/poval/s_grades/sg2.html(クラレ社のHP)の印刷物)、甲第3号証(http://www.kayo-corp.co.jp/common/pdf/pla_propertylist01.pdf(華陽物産株式会社のHP)の印刷物 )を参照されたい。)、甲1発明は「屈折率2.42であるナノダイヤモンド粒子」を用いているものであることから、ポリビニルアルコールの屈折率1.49?1.53とナノダイヤモンド粒子2.42との差の絶対値は0.89?0.93となる。
そうすると、甲1発明の「『ポリビニルアルコール(クラレ製PVA117;以下「PVA」と』『屈折率2.42であるナノダイヤモンド粒子』」は、本件発明1の「バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上」の「バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.89?0.93」に相当する。
また、甲1発明の「屈折率2.42であるナノダイヤモンド粒子」は、本件発明1の「光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55」の「光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、2.42」に相当する。

(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「バインダと、一次粒子が、0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.1%の光散乱微粒子を含み、 前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
t×c=0.2 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.89?0.93であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、2.42である、透明スクリーン。」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
光散乱微粒子が、本件発明1において「ナノダイヤモンド粒子を除く」のに対し、甲1発明においてナノダイヤモンド粒子である点。

(相違点2)
本件発明1において「前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、を満たす」のに対して、甲1発明において透過型スクリーンの散乱光輝度プロファイルについて記載されていない点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
甲第1号証の請求項4には「高屈折率ナノ粒子(A)がダイヤモンド(屈折率2.4)、チタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、酸化チタニウム(屈折率2.7)から選ばれるナノ粒子である」と記載されており、バインダの屈折率n_(1)(ポリビニルアルコールの屈折率1.49?1.53)とチタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、又は酸化チタニウム(屈折率2.7)の屈折率n_(2)との差の絶対値は0.1以上であり、チタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、又は酸化チタニウム(屈折率2.7)の屈折率n_(2)が、1.80?3.55のものであり、チタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、又は酸化チタニウム(屈折率2.7)がダイヤモンド(屈折率2.4)と同様な屈折率であることから、甲1発明のナノダイヤモンド粒子に換えて酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、チタン酸バリウムの少なくとも1種を選択することは、当業者が容易になし得た事項にすぎない。

(イ)相違点2について
まず、甲1発明において構成Aを満たすことについて、本件特許明細書の実施例から考えると構成Bを同時に満たすものは、構成Aを必ず満たすものである。
そうすると、甲1発明は、光散乱微粒子の種類は異なるものの光散乱微粒子の屈折率、粒子サイズは構成Bを満たし、他の構成も構成Bを満たすものであるから、構成Aという特性を有するものと推認される。
したがって、上記のように考えた場合には、本件発明1と甲1発明との相違点2は、相違点にならない。

この点に関連して、特許権者は、意見書において「本件再訂正発明1に係る透明スクリーンは、光源から出射される投影光を異方的に散乱反射することにより投影光の視認性と透過光の視認性とを両立できるものであり、条件Aを満たすことでスクリーンの透明性が高くなり、条件Bを満たすことで濁りが非常に少なくなり、条件Cを満たすことで広角の散乱光輝度が高いため、プロジェクター投影画像をスクリーンに鮮明に映すことができます」、「光拡散層に使用する光散乱微粒子の種類や濃度、バインダの種類、光拡散層の厚さ等の構成要件は透明スクリーンを製造する上での前提条件であり、これらの構成要件を満たす透明スクリーンの中で、さらに条件A?Cの散乱光輝度プロファイルを満たすものが、本件訂正発明1および3の範囲内となります。」及び「得られた透明スクリーンの散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験する必要があったとしても、試行錯誤や複雑高度な実験が必要であるとは到底言えません。」と主張しているところ、当該主張は上記1(2)のとおり、試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要があるものであるが、仮にそうでないとした場合について検討する。
甲第1号証の段落【0046】には「比較例4ではナノダイヤモンドの含有量が0.1%であるため、光拡散性が認められなかった。比較例5ではナノダイヤモンドの含有量が50%であるため、光拡散性が認められる」と記載され、光拡散性を高めるために、含有量を0.1%より高くしたほうがよいことが示唆されている。
そして、甲第1号証の請求項3には「高屈折率ナノ粒子(A)の含有量が0.2?40重量%」と記載されている。
以上のことから、高屈折率ナノ粒子(A)の含有量が0.2?0.6重量%のものについても記載されている。
そうすると、甲1発明が、散乱光輝度プロファイルについて記載されておらず上記散乱光輝度プロファイルを満たすかどうか不明であったとしても、上記散乱光輝度プロファイルの数値の上限、下限の臨界的意義については記載されていないこと、さらに、上記意見書での特許権者の主張を踏まえると、甲1発明において、光拡散性を高めるために高屈折率ナノ粒子の含有量を高めたものも含め、散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験し、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項のものを選択することは、当業者が容易になし得たことであるといわざるをえない。

ウ 特許権者の意見書での主張について
特許権者は、平成30年7月23日(受理日:平成30年7月24日)に提出した意見書において、「甲1発明は、本件再訂正発明1の効果(光拡散層内で投影光を異方的に散乱反射させて、投影光の視認性と透過光の視認性とを両立できること)を奏するものではありません。してみると、当業者が、甲1発明において、光拡散性を向上しようとした場合、微粒子の種類をナノダイヤモンドから他の粒子に換える以前に、甲第1号証の『光拡散性』の評価が『○』の実施例5?9のように微粒子の含有量を1?35重量%の範囲まで向上させようとすることに想到するのが当然であると考えます。その場合、本件再訂正発明1の濃度範囲(0.0001?0.6重量%)を超えることになります。そのため、当業者、甲1発明に基づいて本件再訂正発明1に想到することは容易ではありません。」、「本件再訂正発明1では、上記相違点Aの通り、光散乱微粒子の種類が異なっています。してみると、甲1発明は、上記認定の前提条件(散乱光輝度プロファイル以外の構成要件)を満たしていないため、上記特性(散乱光輝度プロファイルの要件)を有するものとは言えないことになります。」、「本件再訂正発明1に係る透明スクリーンは、光源から出射される投影光を異方的に散乱反射することにより投影光の視認性と透過光の視認性とを両立できるものであり、条件Aを満たすことでスクリーンの透明性が高くなり、条件Bを満たすことで濁りが非常に少なくなり、条件Cを満たすことで広角の散乱光輝度が高いため、プロジェクター投影画像をスクリーンに鮮明に映すことができます(本件特許明細書【0023】および【0026】等)。一方、甲1発明は、段落【0046】において「光拡散性が認めれなかった」と記載されていることから、広角の散乱光輝度(すなわち、光拡散性)に影響する条件Cの数値範囲を満たさないと考えられます。」と主張している。

まず、甲第1号証の請求項3には「高屈折率ナノ粒子(A)の含有量が0.2?40重量%」と記載されていることから、光拡散性の評価が高いものとして、高屈折率ナノ粒子(A)の含有量が0.2?0.6重量%のものも甲第1号証には記載されている。

さらに、上記イの相違点の判断(ア)相違点1についてで記載したように、甲第1号証の請求項4にはナノダイヤモンド粒子以外にもダイヤモンド(屈折率2.4)と同様な屈折率であるチタン酸バリウム(屈折率2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率2.4)、酸化チタニウム(屈折率2.7)から選ばれるナノ粒子についても記載されている。

また、本件特許の明細書段落【0026】には「当該透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が、50以上95以下であり、好ましくは55以上90以下であり、さらに好ましくは60以上85以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が1.1以下であり、好ましくは0.04以上1.0以下であり、さらに好ましくは0.06以上0.9以下であり、さらにより好ましくは0.075以上0.5以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上であり、好ましくは0.0007以上0.20以下であり、さらに好ましくは0.0009以上0.1以下であり、さらにより好ましくは0.001以上0.05以下である、
を満たす。条件Aを満たすことで、スクリーンの透明性が高くなる。条件Bを満たすことで、濁りが非常に少なくなる。人間の目は、透過光が数度低角に拡散しても濁りと認識するため、低角の散乱輝度は小さい方が良い。一方、プロジェクター光源が眩しいため、このような低角方向から投影画像を観るようなプロジェクターの配置は行わないのが通常であり、投影画像を鮮明に投影するという観点でも低角の散乱輝度は不要である。また、条件Cを満たすことで、プロジェクター投影画像をスクリーンに鮮明に映すことができる。投影像をはっきり表示するためには広角の散乱光輝度が必要である。すなわち、条件A?Cを全て満たすことで、スクリーンの透明性が高いため透過光の視認性に優れ、かつスクリーンに鮮明な映像を表示することができる。また、このスクリーン面の法線方向に対して±10°以上の角度から画像を投影する投射装置を配置することで、スクリーンの背景と投影像を同時に視認可能な映像投影システムを提供することができる。」と記載され、条件Aを満たすことで、スクリーンの透明性が高くなり、条件Bを満たすことで、濁りが非常に少なくなり、条件Cを満たすことで、プロジェクター投影画像をスクリーンに鮮明に映すことができることは理解できるものの、条件A?Cは透明性とスクリーンの機能の両立をするための条件を記載したものであり、そして、条件A?Cについて数値の上限、下限がそれぞれ複数記載されているものの、当該数値の上限、下限の臨界的意義については記載されておらず、好適と考えられる数値範囲を複数記載したものと認められる。
さらに、平成30年7月23日(受理日:平成30年7月24日)に提出した意見書において、特許権者は「本件再訂正発明に限らず、従来から存在する光学特性を規定した発明に関して、得られた製品の光学特性を測定することでその発明の範囲内であるか否かを調べること自体は、当業者の通常の作業であり、容易になし得ることです。したがって、得られた透明スクリーンの散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験する必要があったとしても、試行錯誤や複雑高度な実験が必要であるとは到底言えません。」旨主張し、上記1で検討した実施可能要件について特許権者が実施できると主張するならば、散乱光輝度プロファイルの範囲を適宜設定し、条件を換えながら作製した透過型スクリーンの散乱光輝度プロファイルを1つ1つ実験し、当該散乱光輝度プロファイルの範囲のものを選択することは、当業者が容易になし得たことであるといわざるをえない。
したがって、当該主張は採用されない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明3について
本件発明1と本件発明3を比べると、本件発明3は、光散乱微粒子について「酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種である」と本件発明1をさらに限定したものである。
当該限定についての判断は、上記イの相違点の判断(ア)相違点1についてで記載したとおりである。
以上のとおり、本件発明3は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 請求項7?12に係る特許について
請求項7?12に係る特許は、独立項の請求項1又は請求項3に係る特許以外の取消理由通知書(決定の予告)に記載していない独立項の請求項2に係る特許を直接的又は間接的に引用する訂正がなされた(訂正事項4?7)。
そうすると、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由により、請求項7?12に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、3に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許の請求項7?12に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダと、一次粒子が0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子(但し、ナノダイヤモンド粒子を除く)とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55である、透明スクリーン。
【請求項2】
バインダと、微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンであって、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?5.0質量%の光輝性薄片状微粒子を含み、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.20以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光輝性薄片状微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記光輝性薄片状微粒子は、平均アスペクト比が3?800であり、
前記光輝性薄片状微粒子に用いる金属材料は、誘電率の実数項ε’が、-60?0である、透明スクリーン。
【請求項3】
バインダと、一次粒子が0.5?500nmのメジアン径を有する光散乱微粒子とを含む光拡散層を備えた透明スクリーンにおいて、
前記光拡散層が、前記バインダに対して0.0001?0.6質量%の光散乱微粒子を含み、
前記光散乱微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、およびチタン酸ストロンチウムからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記透明スクリーンは、変角分光光度計で測定したXYZ表色系におけるYを輝度としたときの散乱光輝度プロファイルが、下記の条件A?C:
A:入射光輝度を100としたとき、0°方向の出射光相対輝度が50以上95以下である、
B:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±5°方向の出射光相対輝度が0.04以上1.1以下である、
C:0°方向の出射光相対輝度を100としたとき、±50°方向の出射光相対輝度が0.0005以上0.05以下である、
を満たすことを特徴とし、
前記光拡散層の厚さをt(μm)とし、前記バインダに対する前記光散乱微粒子の濃度をc(質量%)としたとき、tとcが、下記数式(I):
0.05≦(t×c)≦50 ・・・(I)
を満たし、
前記バインダの屈折率n_(1)と前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)との差の絶対値が0.1以上であり、
前記光散乱微粒子の屈折率n_(2)が、1.80?3.55である、透明スクリーン。
【請求項4】
前記光輝性薄片状微粒子は、一次粒子の平均径が0.01?100μmである、請求項2に記載の透明スクリーン。
【請求項5】
前記光輝性薄片状微粒子は、正反射率が12?100%である、請求項2または4に記載の透明スクリーン。
【請求項6】
前記光輝性薄片状微粒子が、アルミニウム、銀、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ-コバルト合金、インジウム、クロム、酸化チタン、酸化アルミニウム、および硫化亜鉛からなる群から選択される金属系微粒子、ガラスに金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母もしくは合成雲母に金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料である、請求項2、4、および5のいずれか一項に記載の透明スクリーン。
【請求項7】
前記バインダが、有機系バインダまたは無機系バインダである、請求項2および4?6のいずれか一項に記載の透明スクリーン。
【請求項8】
前記有機系バインダが、熱可塑性樹脂または自己架橋性樹脂である、請求項7に記載の透明スクリーン。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の透明スクリーン。
【請求項10】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンを備えた、車両用部材。
【請求項11】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンを備えた、建物用部材。
【請求項12】
請求項2および4?9のいずれか一項に記載の透明スクリーンと、前記透明スクリーンのスクリーン面の法線方向に対して±10°以上の角度から画像を投影する投射装置とを備えた、映像投影システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-30 
出願番号 特願2016-562616(P2016-562616)
審決分類 P 1 652・ 537- ZDA (G03B)
P 1 652・ 121- ZDA (G03B)
P 1 652・ 536- ZDA (G03B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 小野 博之  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
野村 伸雄
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133522号(P6133522)
権利者 JXTGエネルギー株式会社
発明の名称 透明スクリーンおよびそれを備えた映像投影システム  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  
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