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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1349663
異議申立番号 異議2018-700450  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2019-01-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6241187号発明「嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6241187号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?10〕、〔11?12〕について訂正することを認める。 特許第6241187号の請求項1?6、8?12に係る特許を維持する。 特許第6241187号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6241187号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成25年10月15日に出願され、平成29年11月17日に特許権の設定登録がされ、同年12月 6日にその特許公報が発行され、その後、平成30年 6月 5日付け(受理日平成30年 6月 6日)で特許異議申立人片桐 麻希子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 8月 6日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年 9月25日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年10月10日付けで前記訂正請求書の手続補正書が提出され、同年 11月21日付けで申立人より意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年10月10日付けの手続補正書により補正された同年 9月25日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「該種汚泥として、少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを用い、」
と記載されているのを、
「該種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用い、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6、8も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「該嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる」
と記載されているのを、
「該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させるものであり、該循環水が該処理水の0.1?10倍である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6、8も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1ないし7のいずれか1項において、」
と記載されているのを、
「請求項1ないし6のいずれか1項において、」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「該嫌気反応槽に少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、」
と記載されているのを、
「該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「該嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備える」
と記載されているのを、
「該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、該循環水が該処理水の0.1?10倍である」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項11に
「該嫌気反応槽に嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段と、」
と記載されているのを、
「該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段と、」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項11に
「該嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備える」
と記載されているのを、
「該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、該循環水が該処理水の0.1?10倍である」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、5、7について
訂正事項1、5、7による訂正は、いずれも、嫌気反応槽に添加する嫌気グラニュールの破砕前の平均粒径を1.0?2.0mmに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0031】の記載によれば、本件特許明細書には、嫌気反応槽に添加する嫌気グラニュールの破砕前の平均粒径を1.0?2.0mmとすることが記載されているといえるから、前記訂正事項1、5、7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、このことは、請求項1を引用する請求項2?6、8における訂正事項1による訂正、請求項9を引用する請求項10における訂正事項5による訂正、請求項11を引用する請求項12における訂正事項7による訂正も同様である。

(2)訂正事項2、6、8について
訂正事項2、6、8による訂正は、いずれも、処理水の意味が明瞭でなく、「嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる」との発明特定事項からは、循環水の量の、処理水の量に対する比率を明確に特定することができなかったのを、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水とし、該流出水の残部を循環水として、該循環水が該処理水の0.1?10倍であるものとして、前記処理水の量に対する循環水の量の比率を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0046】、【0050】及び図面の【図1】の記載によれば、本件特許明細書には、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水とし、該流出水の残部を循環水として、該循環水を該処理水の0.1?10倍とすることが記載されているといえるから、前記訂正事項2、6、8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、このことは、請求項1を引用する請求項2?6、8における訂正事項2による訂正、請求項9を引用する請求項10における訂正事項6による訂正、請求項11を引用する請求項12における訂正事項8による訂正も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?請求項8は、直接的又は間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?8は、一群の請求項である。
本件訂正前の請求項10は、訂正前の請求項9を引用するものであるから、本件訂正前の請求項9?10は、一群の請求項である。
本件訂正前の請求項12は、訂正前の請求項11を引用するものであるから、本件訂正前の請求項11?12は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?10〕、〔11?12〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、前記訂正事項1?5からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?10〕、〔11?12〕について訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6241187号の請求項1?6、8?12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」、「本件発明8」?「本件発明12」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
槽内に流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽に被処理水を通水して嫌気性処理を行う嫌気性処理装置の立ち上げに際して、該嫌気反応槽に種汚泥を添加する嫌気性処理方法において、
該流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体であり、
該種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用い、
該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させるものであり、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、前記嫌気反応槽外で破砕処理された後、該嫌気反応槽に添加された嫌気グラニュールであることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項3】
請求項1において、前記少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、前記嫌気反応槽内に添加された後、該嫌気反応槽内の破砕処理手段で破砕処理された嫌気グラニュールであることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気反応槽の運転開始時に前記種汚泥を一括投入することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気反応槽の運転開始以降の立ち上げ運転期間に、前記種汚泥を該嫌気反応槽に連続的又は間欠的に添加することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記嫌気反応槽への前記種汚泥の添加量が、該嫌気反応槽の槽容量に対して、破砕前の嫌気グラニュールの汚泥容量として1?50%であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記流動性非生物担体が粒径1.0?5.0mm、沈降速度100?500m/hrの樹脂製担体であり、前記嫌気反応槽容量に対する該担体の充填量が10?80%であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項9】
槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項10】
請求項9において、前記嫌気反応槽に少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールを添加する手段が、水中ポンプを備える嫌気グラニュール破砕槽を有し、該嫌気グラニュール破砕槽に投入された嫌気グラニュールを該水中ポンプで破砕すると共に前記嫌気反応槽に送給するように構成されていることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項11】
槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項12】
請求項11において、前記嫌気反応槽内で前記嫌気グラニュールを破砕する手段が、該嫌気反応槽内に設けられた異物通過性水中ポンプであることを特徴とする嫌気性処理装置。」

第4 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の申立理由1?3によって、訂正前の本件発明1?12の特許を取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:特開2012-110821号公報
甲第2号証:特開2013-17946号公報
甲第3号証:国際公開第2012/070493号
甲第4号証:特開平7-328687号公報

1 申立理由1(特許法第29条第2項)
訂正前の本件発明1?12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(申立書10頁下から7行?26頁下から4行)。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号)
(1)樹脂製担体表面の凹凸について
訂正前の本件発明1、9、11は、「流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体」であることを発明特定事項としているが、発明の詳細な説明の実施例に記載されているのは、「非生物担体:ポリオレフィン系樹脂担体 粒径:1.8?2.2mm 沈降速度:300m/hr」のみであり、「表面に凹凸のある樹脂製担体」を用いた態様は記載されていないので、同本件発明1、9、11及び本件発明2?8、10、12は、発明の詳細な説明に記載したものでない(申立書26頁下から2行?27頁8行)。

(2)処理水の0.1?10倍を循環させることについて
訂正前の本件発明1、9、11は、嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を循環させることを発明特定事項としているが、発明の詳細な説明の実施例には、処理水の循環倍率が記載されておらず、実施例に記載されているほかの数値からもその循環倍率を計算することができないし、処理水の0.1?10倍と数値限定する臨界的意義も示されていないから、同本件発明1、9、11及び本件発明2?8、10、12は、発明の詳細な説明に記載したものでない(申立書27頁9行?17行)。

(3)本件発明3について
訂正前の本件発明3は、少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、嫌気反応槽内に添加された後、該嫌気反応槽内の破砕処理手段で破砕処理された嫌気グラニュールであることを特徴とするものであるが、発明の詳細な説明の実施例には、嫌気反応槽外で破砕処理された後、該嫌気反応槽内に添加される態様しか記載されておらず、嫌気反応槽内の破砕処理手段で嫌気グラニュールを破砕した態様についての発明が記載されていないから、同本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものでない(申立書27頁18行?28頁2行)。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第2号)
訂正前の本件発明1、9、11は、「流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体」であることを発明特定事項としているが、「凹凸」とは、肉眼で確認できる凹凸なのか、表面の一部に凹凸があればよいのか、表面全体に凹凸があればよいのか、どのような意味であるか発明の詳細な説明には記載がないので、同本件発明1、9、11及び本件発明2?8、10、12の外延が不明確である(申立書28頁4行?12行)。

第5 取消理由の概要
1 取消理由1(特許法第29条第2項)
訂正前の本件発明1?8は、甲第1号証に記載される発明、甲第4号証の記載事項及び本件特許に係る出願日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
同本件発明9、10は、甲第1号証に記載される発明、甲第4号証の記載事項及び本件特許に係る出願日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
同本件発明11、12は、甲第1号証に記載される発明、甲第4号証の記載事項及び本件特許に係る出願日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)
少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールの粒径を、請求項7に記載される0.01?10mmの範囲とすることが、本件特許明細書に記載されているとはいえないから、訂正前の本件発明7が発明の詳細な説明に記載されているとはいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由3(特許法第36条第6項第2号)
嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる水(循環水)が、嫌気反応槽の処理水(流入水)の一部である場合、循環水の量が処理水(流入水)の量より多くなることはないから、訂正前の本件発明は、これの「嫌気反応槽の処理水の0.1?10倍を該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる」との発明特定事項からは、循環水の量の、処理水の量に対する比率を明確に特定することができないから、不明確であり、このことは、同本件発明2?12についても同様であるので、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 当審の判断
1 申立理由についての当審の判断
(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について
(1-1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する廃水を、非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する有機性排水の処理方法において、該反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部を解体、分散化させることを特徴とする有機性排水の処理方法。」

(1b)「【0001】
本発明は有機性排水の処理方法に係り、詳しくは、有機物を含有する廃水を、非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する方法において、運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体表面に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮すると共に、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う有機性排水の処理方法に関する。」

(1c)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、有機物を含有する廃水を、非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する方法において、運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体表面に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮すると共に、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行うことができる有機性排水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、非生物担体を保持する反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に、種汚泥としてメタン菌グラニュールを非生物担体に対して所定の割合で添加し、運転開始初期のみ反応槽内にメタン菌グラニュールを存在させ、その後はメタン菌グラニュールを解体、分散化させるような運転条件を採用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。」

(1d)「【0025】
本発明の有機性排水の処理方法は、有機物を含有する廃水を、非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する有機性排水の処理方法において、該反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部を解体、分散化させることを特徴とする。
【0026】
本発明では非生物担体を充填した反応槽内に、種汚泥としてメタン菌グラニュールを投入し、反応槽の立ち上げを行うことを特徴としている。
投入されたメタン菌グラニュールは、運転を継続することにより徐々に肥大化、或いは解体し、浮上、分散、分解等により反応槽から流出して消失する。しかし、運転開始初期においては、有機性排水内のCOD成分の分解を行い、同時に種汚泥として担体表面への微生物の付着を促進して活性の高い生物膜を形成する効果を奏する。
【0027】
本発明において、処理対象とする有機性排水は、嫌気性微生物により処理可能な有機物を含むものであればよく、そのCOD濃度に特に規定はないが、高濃度排水(COD_(Cr)濃度2000mg/L程度超過)では、反応槽の滞留時間を長くとることができるため、ある程度の分散菌を反応槽内部に保持することが可能であり、メタン菌グラニュールを種汚泥としての添加することによる担体への生物膜付着促進効果は少ない。
【0028】
これに対して、低濃度排水(COD_(Cr)濃度2000mg/L程度以下)においては、高負荷処理を行うためには反応槽の滞留時間を短くする必要があり、反応槽内に分散状態の菌を保持することができない。この場合には、本発明に従って、種汚泥としてメタン菌グラニュールを使用することによる立上げ期間の短縮効果を顕著に得ることができる。
・・・
【0030】
種汚泥として反応槽に投入するメタン菌グラニュールは、嫌気性微生物を含む汚泥が微生物の自己造粒作用により粒状化して沈降性のグラニュールとなった汚泥であり、通常のUASB、EGSB法において形成されるグラニュールを使用することができる。・・・
種汚泥として使用するメタン菌グラニュールの平均粒径は0.5?3.0mm、特に0.8?2.5mm程度で、例えば、担体として後述の流動性担体を用いる場合、その担体の平均粒径の0.1?0.6倍程度の大きさであることが好ましい。」

(1e)「【0032】
本発明では、運転開始に際して、反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールを保持して反応槽に有機性排水(原水)を通水し、有機性排水をメタン菌グラニュール及び担体と接触させて嫌気性処理を行う。その処理方式としては特に制限はないが、UASB法、EGSB法と同様に反応槽に原水を上向流で通水し、非生物担体とメタン菌グラニュールを展開させてスラッジブランケットを形成する方式であると、原水とメタン菌グラニュール及び担体との接触効率が高くなるので好ましい。
・・・
【0034】
この場合、使用する流動性担体としては、特に制限は無いが、発泡により表面積を大きくすることができ、比重の制御が容易であることから樹脂製担体、例えばポリオレフィン系樹脂製担体、ポリウレタン樹脂製担体が好ましく、担体の平均粒径は1?5mm、特に2?4mmであることが好ましい。」

(1f)「【0039】
[実施例1]
図1に示す生物処理装置により、糖主体の合成排水(COD_(Cr)濃度1000mg/L(COD成分の内訳:糖60重量%、タンパク20重量%、エタノール20重量%)、pH6.8)を原水として処理を行った。
この生物処理装置は、原水をpH調整槽1に導入してpH調整した後、ポンプPにより反応槽2に上向流で通水し、反応槽2の流出水の一部を循環水としてpH調整槽1に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出するものである。1AはpH計、2A,2Bはスクリーンである。
【0040】
運転開始時に、反応槽(容量10L、直径15cm、高さ約65cm)2に、ポリオレフィン系樹脂製担体(円柱形、直径2mm、長さ3?4mm)4Lと種汚泥としてメタン菌グラニュール(汚泥濃度60g-VSS/L、平均粒径2.3mm)0.5Lを加え、原水はpH調整槽1でアルカリ剤として水酸化ナトリウムを添加してpH7.0に調整した後、ポンプPにより反応槽2に以下の条件で上向流通水した。
【0041】
<通水条件>
HRT:2hr
上昇流速(LV):3m/hr
循環水流量:890mL/min
温度:30℃
【0042】
その結果、運転開始後数日で処理能力(負荷)は10kg-COD_(Cr)/m^(3)/day(汚泥負荷として1.3kg-COD_(Cr)/kg-VSS/day)に到達した。このとき、反応槽2内の担体にはまだ生物膜が形成されていないため、投入した種汚泥が処理を行っていることになる。その後、60日程度の運転で種汚泥として添加したメタン菌グラニュールは徐々に解体、分散化して反応槽から流出していき、その代わりに担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになった。
この実施例1における処理能力の経時変化を図2(a)に示す。」

(1g)「



(ア)前記(1a)?(1c)によれば、甲第1号証には有機性排水の処理方法に係る発明が記載されており、当該有機性排水の処理方法は、有機物を含有する廃水を、非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する有機性排水の処理方法において、該反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部を解体、分散化させるものである。

(イ)また、前記(1d)によれば、前記有機性排水の処理方法においては、非生物担体を充填した反応槽内に、種汚泥としてメタン菌グラニュールを投入し、反応槽の立ち上げを行うものであって、種汚泥として使用するメタン菌グラニュールの平均粒径は0.5?3.0mmであり、投入されたメタン菌グラニュールは、運転を継続することにより徐々に肥大化、或いは解体し、浮上、分散、分解等により反応槽から流出して消失するものであり、前記(1e)によれば、使用する非生物担体は、流動性担体であって、発泡により表面積を大きくすることができ、比重の制御が容易である樹脂製担体が好ましいものである。

(ウ)更に、前記(1f)、(1g)によれば、前記有機性排水の処理方法は、pH調整槽、ポンプ、容量10L、直径15cm、高さ約65cmの反応槽等からなる生物処理装置を使用するものであって、原水をpH調整槽に導入してpH調整した後、ポンプにより反応槽に上向流で通水し、反応槽の流出水の一部を循環水としてpH調整槽に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出するものであり、前記反応槽における上向流通水の条件は、HRT:2hr、上昇流速(LV):3m/hr、循環水流量:890mL/min、温度:30℃とするものであり、有機性廃水の通水を継続することにより、種汚泥として添加したメタン菌グラニュールは徐々に解体、分散化して反応槽から流出していき、その代わりに担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになるものである。

(エ)そうすると、甲第1号証には、
「有機物を含有する廃水を、流動性非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する有機性排水の処理方法において、
該反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に流動性非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部が解体、分散化して反応槽から流出していき、その代わりに担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになるものであり、
流動性非生物担体は、発泡により表面積を大きくすることができる樹脂製担体であり、
種汚泥として、平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを使用し、
原水をpH調整槽に導入してpH調整した後、ポンプにより反応槽に上向流で通水し、反応槽の流出水の一部を循環水としてpH調整槽に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出するものであり、
前記反応槽における上向流通水の条件を、HRT:2hr、上昇流速(LV):3m/hr、循環水流量:890mL/min、温度:30℃とする、有機性排水の処理方法。」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。

(オ)また、甲第1号証に記載される生物処理装置の構成(前記(1f)、(1g))からみれば、甲第1号証には、
「槽内に、発泡により表面積を大きくすることができる樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した反応槽と、該反応槽に原水を通水する手段と、該反応槽に、平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを添加する手段と、原水をpH調整槽に導入してpH調整した後、ポンプにより反応槽に上向流で通水し、反応槽の流出水の一部を循環水としてpH調整槽に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出する手段とを備え、
前記反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に流動性非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部が解体、分散化して反応槽から流出していき、その代わりに担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになるものであり、
前記反応槽における上向流通水の条件を、HRT:2hr、上昇流速(LV):3m/hr、循環水流量:890mL/min、温度:30℃とする、生物処理装置。」の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】
有機廃水の嫌気性処理を行う嫌気性処理装置において、
前記有機廃水を一時的に貯留するフィードタンクと、
このフィードタンクに供給管および排水管で接続されたリアクターと、
前記供給管に接続されて前記フィードタンク内の有機廃水を前記リアクターに送る供給ポンプとを備え、
前記リアクター内には多数の担体が充填され、各担体には前記有機廃水を浄化処理するための嫌気性微生物が付着していることを特徴とする嫌気性処理装置。」

(2b)「【0051】
また、担体223に嫌気性微生物Cを付着するには以下の方法を用いるのが好ましい。この付着作業は有機廃水の浄化処理の立ち上げの前に行う。まず最初に、新品の担体223を水に浸した後にリアクター22内に投入して充填する。
【0052】
担体223は主にスポンジから形成されているため保水性に優れるが、新品の場合は疎水性であるため、水をはじいてしまう。効果的な充填方法としては、新品の担体223を水道水に攪拌などの振動を行いながら浸し、水を十分に内部まで吸収させてからリアクター22内に投入することが好ましい。
【0053】
次に、フィードタンク21の原水槽21a内に嫌気性微生物Cを含むスラリーを入れる。このスラリーは、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたものである。次に供給ポンプ212を駆動して、原水槽21a内のスラリーを供給管201と散水管222とを介してリアクター22内に散水する。このときに廃水ポンプ203aは駆動せず、希釈水の流量制御弁204aも閉じた状態にする。また、処理水槽21bから後処理装置3に処理水が流れないようにするために、処理水管301を外して処理水管301と処理水槽21bとの接続口に栓をする、あるいは処理水管301に開閉弁を設け、この開閉弁で処理水管301を閉弁する。
【0054】
リアクター22内に散水されたスラリーはリアクター22内を下方へ流れる。このときにスラリーは、リアクター22内に充填されている担体223に接触し、スラリー中の嫌気性種汚泥(嫌気性微生物C)の一部が担体223に付着する。
【0055】
嫌気性微生物Cが付着したスラリーは、排水管202を介してフィードタンク21の処理水槽21b内に送られて原水槽21aへ移動する。原水槽21aへ移動したスラリーは、再びリアクター22内に散水されて担体223に嫌気性微生物Cが付着した後にフィードタンク21の処理水槽21bに送られる。
【0056】
このように嫌気性微生物Cは、スラリーをフィードタンク21とリアクター22との間で所定期間循環させることにより多数の担体223に付着される。したがって、嫌気性微生物Cを多数の担体223に効率良く付着させることが可能になるので、嫌気性微生物Cの付着作業にかかる時間を短縮することができる。なお、嫌気性微生物Cに土壌中の微生物を混ぜて担体223に付着させても良い。」

ウ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 嫌気性微生物を含むグラニュール汚泥によってスラッジブランケットを形成し、有機性排液を上向流で通液して有機物を嫌気的に分解する嫌気性反応槽と、
前記スラッジブランケットを形成するグラニュール汚泥を破砕する破砕装置とを備えていることを特徴とする嫌気性処理装置。」

(4b)「【0004】ところでUASB法の処理性能はグラニュール汚泥の沈降性に大きく依存しており、汚泥の沈降性が悪化した場合、汚泥保持量が低下して処理不可能な状態に陥ることがある。すなわち、グラニュール汚泥の粒径が増加すると、グラニュール内部に浸透する基質量が少なくなるため、内部の細菌は飢餓状態に陥り、死滅および自己分解する。その結果、グラニュール内部に空隙を生じ、ここに発生したガスがたまることにより浮力が生じて汚泥の沈降性が悪化し、場合によっては汚泥が浮上することもある。
【0005】こうした沈降性悪化現象は、特に高負荷時、すなわち汚泥あたりのガス発生量が大きいときに頻繁に起こり、著しい場合には汚泥が浮上流出して、処理に必要な汚泥量を維持できなくなることがある。同様に、グラニュール汚泥の浮上現象は、原水に有機性SSが比較的高濃度に含まれる場合に、SSを包含しながらグラニュールが成長すると、トラップされたSSが長期的に生物分解され、ここに空隙を生じ上記と同様な現象が起こることになる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記のグラニュール汚泥の浮上は、現象的には従来の嫌気性消化法におけるスカムの浮上に似ているが、スカムのように付着したガスに随伴して浮上するのとは異なり、グラニュール汚泥自体の比重が小さくなるためであり、従来のスカムブレーカのように外部に付着したガスを除去するだけでは、沈降性は回復しない。従って自然に汚泥の性状が回復するのを待つしかなく、その間処理効率の低い状態が続くことになる。
【0007】このように、グラニュール汚泥の沈降性悪化防止策は、UASB法の安定処理には欠かせない重要事項といえるが、これまで具体的な対策はほとんど検討されていないのが現状である。・・・
【0008】本発明の目的は、UASB法における上記のような問題点を解決し、グラニュール汚泥の沈降性悪化を防止し、沈降性が悪化した場合でも速やかに汚泥の沈降性を回復させることができ、これにより汚泥の浮上流出を防止するとともに、汚泥を安定して増殖させることができ、このため槽内汚泥濃度を高く維持して、高処理効率で処理を行うことが可能な嫌気性処理装置を提供することである。」

(4c)「【0012】グラニュール汚泥を破砕する破砕装置としては、ホモジナイザー、グラインダーポンプなど、グラニュール汚泥を機械的に破砕して、空洞部の内壁を露出させることが可能なものを使用する。この破砕装置は嫌気性反応槽に設けて、スラッジブランケットを形成するグラニュール汚泥を直接破砕してもよく、また反応槽外に設けて、反応槽から取出したグラニュール汚泥を破砕して反応槽に戻すようにしてもよい。また破砕装置は間欠的に運転してもよく、連続的に運転してもよいが、スラッジブランケットを形成する汚泥が粒径0.25?1.5mm、好ましくは0.5?1mmとなるように運転するのが好ましい。連続的に運転する場合は汚泥を少量ずつ取出し、あるいは取出すことなく破砕するようにする。」

(4d)「【0017】以上の観点から、グラニュール汚泥の沈降性悪化現象への有効な対策として、本発明では、スラッジブランケットを形成するグラニュール汚泥を適度に破砕して、粒状化汚泥の平均粒径を減じ、同時に内部の空洞化部を外面に露出させて、沈降性を維持し、槽内汚泥濃度を高く維持する。すなわち本発明では、汚泥が浮上する前にあらかじめ粒径を浮上しにくい範囲に制御することにより、汚泥の沈降性悪化ないし浮上流出を防止するものである。すなわち嫌気性反応槽内のグラニュール汚泥の粒径あるいは浮上性を適宜測定し、平均粒径を0.25?1.5mm、好ましくは0.5?1mmにするように、破砕装置により汚泥を連続的または間欠的に、反応槽内または槽外において機械的に破砕することにより、汚泥の沈降性を維持し、浮上流出を防止する。
・・・
【0019】上記のようにしてグラニュール汚泥を破砕することにより、汚泥の沈降性悪化が防止されて、浮上流出が防止されるほか、破砕により生じた微細粒子が新しい核となって汚泥が増殖するため、汚泥が安定的に増殖し、これにより汚泥を高密度化して高負荷処理が可能になる。」

(1-2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明は、「有機物を含有する廃水を、流動性非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理する有機性排水の処理方法において、反応槽の立ち上げに際して、該反応槽に非生物担体とメタン菌グラニュールとを、非生物担体とメタン菌グラニュールの体積比が100:5?100:500の範囲で存在させた状態で該有機性廃水の通水を開始し、その後、有機性廃水の通水を継続するものである」から、本件発明1と甲1-1発明とは、「槽内に流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽に被処理水を通水して嫌気性処理を行う嫌気性処理装置の立ち上げに際して、該嫌気反応槽に種汚泥を添加する嫌気性処理方法である」点で一致するものといえる。

(イ)また、甲1-1発明における流動性非生物担体は、「発泡により表面積を大きくすることができる樹脂製担体」であり、そのような流動性非生物担体に凹凸があることは明らかであるから、本件発明1における、「表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体」に相当し、甲1-1発明は、種汚泥として、「平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを使用」するものであって、メタン菌グラニュールは嫌気グラニュールといえるから、本件発明1と甲1-1発明とは、「種汚泥として、嫌気グラニュールを用いる」点で一致するものといえる。

(ウ)更に、甲1-1発明は、「原水をpH調整槽に導入してpH調整した後、ポンプにより反応槽に上向流で通水し、反応槽の流出水の一部を循環水としてpH調整槽に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出する」ものであるから、本件発明1と甲1-1発明とは、「嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側に循環させる」点で一致するものといえる。

(エ)そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「槽内に流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽に被処理水を通水して嫌気性処理を行う嫌気性処理装置の立ち上げに際して、該嫌気反応槽に種汚泥を添加する嫌気性処理方法において、
該流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体であり、
該種汚泥として、嫌気グラニュールを用い、
該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側に循環させるものである、嫌気性処理方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1は、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるのに対して、甲1-1発明は、種汚泥として、平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを使用する点。

相違点1-2:本件発明1は、循環水が処理水の0.1?10倍であるのに対して、甲1-1発明は、循環水が処理水の0.1?10倍であるか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)まず、前記相違点1-1から検討すると、前記(1-1)イ(2a)?(2b)によれば、甲第2号証には嫌気性処理装置に係る発明が記載されており、当該嫌気性処理装置において担体223に嫌気性微生物Cを付着する付着作業は、有機廃水の浄化処理の立ち上げの前に行うものであって、まず最初に、新品の担体223を水に浸した後にリアクター22内に投入して充填し、次に、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーをリアクター22内に散水し、リアクター22内に散水されたスラリーはリアクター22内を下方へ流れ、このときスラリーは、リアクター22内に充填されている担体223に接触し、スラリー中の嫌気性種汚泥(嫌気性微生物C)の一部が担体223に付着するものであり、スラリーは、フィードタンク21の処理水槽21b内に送られて原水槽21aへ移動し、嫌気性微生物Cは、スラリーをフィードタンク21とリアクター22との間で所定期間循環させることにより多数の担体223に付着されるものであり、したがって、嫌気性微生物Cを多数の担体223に効率良く付着させることが可能になるので、嫌気性微生物Cの付着作業にかかる時間を短縮することができるものである。

(イ)ここで、甲第2号証に記載される嫌気性処理装置は、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーをリアクター22内に散水し、リアクター22内に散水されたスラリーはリアクター22内を下方へ流れ、このときスラリーは、リアクター22内に充填されている担体223に接触するものであり、散水されたスラリーがリアクター22内を下方へ流れる嫌気性処理装置における担体223は、流動性の担体とはいえないし、前記付着作業は、嫌気性処理装置における有機廃水の浄化処理の立ち上げの前に行うものであって、浄化処理の立ち上げの際に行うものではない。
また、甲第2号証には、細かく砕く前の嫌気性種汚泥の平均粒径、及び、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーにおける嫌気性種汚泥の平均粒径が記載されるものでもない。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、甲第2号証に記載される嫌気性処理装置においては、嫌気性微生物は、有機廃水の浄化処理の立ち上げの前に、流動性の担体ではない担体に付着するものであり、更に、甲第2号証には、細かく砕く前の嫌気性種汚泥の平均粒径、及び、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーにおける嫌気性種汚泥の平均粒径が記載されるものでもないから、甲第2号証に、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーにより、嫌気性微生物Cの付着作業にかかる時間を短縮することができることが開示されているとしても、甲1-1発明に、甲第2号証に記載される前記(ア)に記載される技術事項を適用して、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。

(エ)更に、下記(2)(2-1)(a)、(b)、(f)によれば、本件発明は、反応槽内に流動性非生物担体を充填した嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置において、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮するとともに、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置を提供することを課題とするものであって、具体的には、非生物担体の菌体付着量が800mg-VSS/Lに達するまでの時間は、破砕したグラニュールを投入した実施例1の場合は約30日、破砕していないグラニュールを投入した比較例1の場合は60日掛かっており、破砕したグラニュールを用いることで約1カ月の短縮を図れる、という効果を奏するものである。

(オ)一方、前記(1-1)ア(1f)によれば、甲1-1発明の実施例においては、担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになるのは、60日程度運転した後であり、これは、前記(エ)の比較例1と同等のものに過ぎない。
また、甲第2号証に記載される嫌気性処理装置における担体は、流動性の担体とはいえないし、前記付着作業は、嫌気性処理装置における有機廃水の浄化処理の立ち上げの前に行うものであって、浄化処理の立ち上げの際に行うものではないこと、更に、甲第2号証には、細かく砕く前の嫌気性種汚泥の平均粒径、及び、嫌気性種汚泥を細かく砕いたものを水道水に分散させたスラリーにおける嫌気性種汚泥の平均粒径が記載されるものでもないことは、前記(イ)に記載のとおりであるから、当業者は、甲第2号証の記載事項に基づいて、甲1-1発明の装置の立ち上げに要する時間を更に約1カ月短縮できることを予測することはできない。

(カ)そうすると、当業者は、甲第1号証、甲第2号証の記載から、前記(エ)に記載される効果を予測することはできない。

(キ)してみれば、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ク)また、前記(1-1)ウ(4a)?(4d)によれば、甲第4号証には嫌気性処理装置に係る発明が記載されており、当該嫌気性処理装置は、嫌気性微生物を含むグラニュール汚泥によってスラッジブランケットを形成し、有機性排液を上向流で通液して有機物を嫌気的に分解する嫌気性反応槽と、前記スラッジブランケットを形成するグラニュール汚泥を破砕する破砕装置とを備えているものであって、破砕装置は、スラッジブランケットを形成する汚泥が粒径0.25?1.5mm、好ましくは0.5?1mmとなるように運転するのが好ましいものである。
すなわち、甲第4号証に記載される嫌気性処理装置は、流動性非生物担体を用いずに、スラッジブランケットを形成するものであり、破砕装置によってスラッジブランケットを形成する汚泥が粒径0.25?1.5mm、好ましくは0.5?1mmとなるように運転するものであって、汚泥が浮上する前にあらかじめ粒径を浮上しにくい範囲に制御することにより、汚泥の沈降性悪化ないし浮上流出を防止するものである。

(ケ)一方、甲1-1発明は、有機物を含有する廃水を、流動性非生物担体を保持する反応槽に通水して該担体に付着した嫌気性微生物により生物学的に処理するものであって、有機性廃水の通水を継続することにより、該反応槽内のメタン菌グラニュールの少なくとも一部を解体、分散化して反応槽から流出していき、その代わりに担体表面に生物膜が形成され、処理を行うようになるものであるから、嫌気性微生物を破砕しなくても、担体表面に生物膜が形成されるものであり、このため、スラッジブランケットを形成する必要がないものである。
してみると、スラッジブランケットを形成する必要がない甲1-1発明に、前記(ク)に記載される、甲第4号証の技術事項を適用すると、かえってスラッジブランケットが形成されてしまうこととなるから、そのような適用には阻害要因が存在するというべきである。
また、甲1-1発明と、甲第4号証に記載される嫌気性処理装置とでは、汚泥を破砕する理由が異なっているから、当業者は、甲第4号証の記載事項から、前記(エ)に記載される効果を予測することはできない。

(コ)してみれば、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(サ)更に、甲第3号証には、嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いることは記載も示唆もされていないから、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(シ)前記(キ)、(コ)、(サ)によれば、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-3)本件発明2?6、8について
ア 対比、判断
(ア)本件発明2と甲1-1発明とを対比すると、本件発明2は請求項1を引用するものであり、本件発明2と甲1-1発明とは、少なくとも、前記相違点1-1、相違点1-2の点で相違するものである。
そして、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-2)イ(シ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2を、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、このことは、同様に請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明3?6、8についても同様である。

(1-4)本件発明9について
ア 対比
(ア)本件発明9と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明における「反応槽」は、本件発明9における「嫌気反応槽」に相当し、甲1-2発明における、「反応槽に原水を通水する手段」は、本件発明9における、「嫌気性反応槽に被処理水を通水する手段」に相当し、甲1-2発明における「流動性非生物担体」は、発泡により表面積を大きくすることができる樹脂製担体であり、そのような流動性非生物担体に凹凸があることは明らかであるから、本件発明9における、「表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体」に相当する。
また、甲1-2発明におけるメタン菌グラニュールは、本件発明9における嫌気グラニュールといえるので、甲1-2発明における、「反応槽に、平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを添加する手段」は、本件発明9における、「反応槽に、嫌気グラニュールを添加する手段」に相当する。

(イ)更に、甲1-2発明における、「原水をpH調整槽に導入してpH調整した後、ポンプにより反応槽に上向流で通水し、反応槽の流出水の一部を循環水としてpH調整槽に循環すると共に、残部を処理水として系外へ排出する手段」は、本件発明9における、「該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段」に相当し、甲1-2発明に係る「生物処理装置」は、本件発明9における「嫌気性処理装置」といえるものである。

(ウ)そうすると、本件発明9と甲1-2発明とは、
「槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備える、嫌気性処理装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点9-1:本件発明9は、嫌気グラニュールを添加する手段が、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加するものであるのに対して、甲1-2発明は、嫌気グラニュールを添加する手段が、平均粒径0.5?3.0mmのメタン菌グラニュールを添加する点。

相違点9-2:本件発明9は、循環水が処理水の0.1?10倍であるのに対して、甲1-2発明は、循環水が処理水の0.1?10倍であるか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)まず、前記相違点9-1から検討すると、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-2)イ(シ)に記載のとおりである。

(イ)してみれば、同様の理由により、甲1-2発明に係る嫌気性処理装置において、嫌気グラニュールを添加する手段を、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加するものとして、前記相違点9-1に係る本件発明9の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明9を、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-5)本件発明10について
ア 対比、判断
(ア)本件発明10と甲1-2発明とを対比すると、本件発明10は請求項9を引用するものであり、本件発明10と甲1-2発明とは、少なくとも、前記相違点9-1、相違点9-2の点で相違するものである。
そして、甲1-2発明に係る嫌気性処理装置において、嫌気グラニュールを添加する手段を、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加するものとして、前記相違点9-1に係る本件発明9の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-4)イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明10を、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-6)本件発明11について
ア 対比
(ア)本件発明11と甲1-2発明とを対比すると、前記(1-4)ア(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明11と甲1-2発明とは、
「槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備える、嫌気性処理装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点11-1:本件発明11は、嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段を備えるのに対して、甲1-2発明は、嫌気反応槽に嫌気グラニュールを添加する手段が、平均粒径0.5?3.0mmの嫌気グラニュールを添加するものであり、かつ、前記破砕する手段を備えない点。

相違点11-2:本件発明11は、循環水が処理水の0.1?10倍であるのに対して、甲1-2発明は、循環水が処理水の0.1?10倍であるか否かが不明である点。

イ 判断
(ア)まず、前記相違点11-1について検討すると、甲1-1発明に係る嫌気性処理方法において、種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用いるものとして、前記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-2)イ(シ)に記載のとおりである。

(イ)してみれば、同様の理由により、甲1-2発明に係る嫌気性処理装置において、嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段を備えるものとして、前記相違点11-1に係る本件発明11の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明11を、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-7)本件発明12について
ア 対比、判断
(ア)本件発明12と甲1-2発明とを対比すると、本件発明12は請求項11を引用するものであり、本件発明12と甲1-2発明とは、少なくとも、前記相違点11-1、相違点11-2の点で相違するものである。
そして、甲1-2発明に係る嫌気性処理装置において、嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段を備えるものとして、前記相違点11-1に係る本件発明11の発明特定事項とすることを、甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記(1-6)イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明12を、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-8)小括
以上のとおりであるので、前記申立理由1は理由がない。

(2)申立理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(2-1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置に関する。詳しくは、本発明は、反応槽内に流動性非生物担体を充填し、該非生物担体の表面及び/又は内部に生物膜を形成させて嫌気条件下で被処理水を通水して処理するに当たり、装置の運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体の表面及び/又は内部に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮するとともに、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置を提供することを課題とする。」

(b)「【0031】
本発明において種汚泥として好適に用いられるUASB、EGSB法による嫌気性処理系等から得られる嫌気グラニュールは、通常汚泥濃度として40000?60000mg-VSS/L程度であり、その粒径(破砕前の粒径)は概ね0.5?3.0mmの範囲で、平均粒径として1.0?2.0mm程度である。
【0032】
従来技術では種汚泥の嫌気グラニュールは、破砕することなくそのまま嫌気反応槽に投入されていたが、この方法では、グラニュールから剥離した菌体が水流に乗って担体表面まで移動し、担体表面に付着する必要があり、菌体と担体の接触効率が悪く、担体に生物膜を形成させるまでに長い立ち上げ時間が必要となっていた。
【0033】
これに対し、本発明では、嫌気グラニュールの一部又は全部を破砕して担体と接触させるため、担体表面に高濃度の菌体が接触することができる。また、嫌気グラニュールを破砕することで種菌が微細となり、非生物担体表面への物理的な接触頻度が増加し、非生物担体への菌体の付着が促進される。また、非生物担体表面に凸凹がある場合には微細なグラニュール汚泥が担体表面の該凸凹部分に吸着する。これにより破砕しない場合と比べて効率的に微生物を担体表面に付着させることができる。」

(c)「【0035】
種汚泥の嫌気グラニュールは嫌気反応槽に投入された後流動床式嫌気反応槽内で破砕されてもよく(以下、この方法を「槽内破砕」と称す。)、また、予め破砕した嫌気グラニュールを流動床式嫌気反応槽に投入することもできる(以下、この方法を「槽外破砕」と称す。)。
・・・
【0039】
本発明においては、嫌気グラニュールの一部又は全部を破砕することで、その粒径が概ね0.01?10mmの範囲となり、平均粒径で0.1?1.0mmとなったものを種汚泥として用いることが好ましい。破砕後の嫌気グラニュールの粒径が大きすぎると、嫌気グラニュールを破砕することによる本発明の効果を十分に得ることができず、小さ過ぎると、流動床式嫌気反応槽から流出する種汚泥量が多くなり、種汚泥の添加効果が得られなくなる。」

(d)「【0046】
本発明において、流動床式嫌気反応槽としては、攪拌機等を用いる完全混合型反応槽、水流と発生ガスにより槽内を混合する上向流型反応槽等を利用することができるが、特に反応槽の高さ、形を自由に設定でき、担体を多く投入できることから上向流型反応槽を用いることが好ましい。また、流動床式嫌気反応槽の処理水の一部、例えば0.1?10倍、好ましくは0.1?5倍程度を流動床式嫌気反応槽の入り口側或いは前述の酸生成槽の入口側に循環させることが好ましく、これにより、処理の安定化、高効率化を図ることができる。」

(e)「【0050】
[実験装置及び通水試験条件]
以下の実施例及び比較例では、図1に示す実験装置を用いて通水試験を行った。この実験装置は、非生物性担体2が充填された、嫌気反応槽1の底部から、原水を配管11を経てポンプP_(1)より上向流で通水し、嫌気反応槽1の上記からの流出水の一部を配管12より処理水として系外へ排出し、残部を配管13を経てポンプP_(2)により、嫌気性反応槽1の底部に循環させるものであり、破砕グラニュール(比較例では破砕していないグラニュール)をポンプP_(3)により配管14及び原水の導入配管11を経て嫌気反応槽1に投入するように構成されている。
嫌気性反応槽1は、直径5cm、高さ40cm、容量約750mLの小型反応槽であり、原水としては、酢酸ナトリウムを主体とする合成排水(COD_(cr)濃度として3500?7000mg/L、pH7.0)を用い、以下の試験条件で通水試験を行った。
原水通水量:1440mL/day
嫌気反応槽 HRT:12hr
温度:35℃
通水LV:0.03m/hr
槽負荷:6.5?13kg-COD_(cr)/m^(3)/day
汚泥負荷:3?26kg-COD_(cr)/kg-VSS/day
非生物担体:ポリオレフィン系樹脂担体
粒径:1.8?2.2mm
沈降速度:300m/hr
嫌気反応槽の担体充填率:40%」

(f)「【0055】
[考察]
実施例1と比較例1の処理水のCOD_(cr)濃度は同程度であり、グラニュールを破砕することによる処理能力の低下は起こらなかった。また、非生物担体の菌体付着量は、実施例1の場合は運転開始1日後に600mg-VSS/Lとなり、比較例1の場合は200mg-VSS/Lとなった。その後はほぼ同じ傾向で菌体量が増加し、初期の付着量の差の分、破砕したグラニュールを用いた実施例1の方が多くなった。菌体量が800mg-VSS/Lに達するまでの時間は、破砕したグラニュールを投入した実施例1の場合は約30日、破砕していないグラニュールを投入した比較例1の場合は60日掛かっており、破砕したグラニュールを用いることで約1カ月の短縮を図れた。」

(2-2)樹脂製担体表面の凹凸について
(ア)前記(2-1)(a)によれば、本件発明は、嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置に関するものであって、反応槽内に流動性非生物担体を充填し、該非生物担体の表面及び/又は内部に生物膜を形成させて嫌気条件下で被処理水を通水して処理するに当たり、装置の運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体の表面及び/又は内部に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮するとともに、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置を提供することを課題とするものである。

(イ)前記(2-1)(b)によれば、本件発明では、嫌気グラニュールの一部又は全部を破砕して担体と接触させるため、担体表面に高濃度の菌体が接触することができるものであり、非生物担体表面に凸凹がある場合には微細なグラニュール汚泥が担体表面の該凸凹部分に吸着するので、破砕しない場合と比べて効率的に微生物を担体表面に付着させることができるものである。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題を解決できる非生物担体表面の凸凹は、破砕された嫌気グラニュールが担体表面の凸凹部分に吸着する程度のものであればよいことが記載されているといえ、そのような凹凸の具体的な態様は、当業者であれば技術常識に基づいて理解することができるものである。
そして、前記(2-1)(e)によれば、前記発明の詳細な説明には、非生物担体としてポリオレフィン系樹脂担体が例示されているから、前記発明の詳細な説明には、本件発明1?6、8?12の発明特定事項である「流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体」であることが記載されているといえるので、前記第4の2(1)の申立理由は理由がない。

(2-3)処理水の0.1?10倍を循環させることについて
(ア)前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、本件発明1は、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させるものであり、該循環水が該処理水の0.1?10倍であるものである。

(イ)一方、前記(2-1)(d)によれば、前記発明の詳細な説明には、本件発明において、流動床式嫌気反応槽の処理水の一部、例えば0.1?10倍、好ましくは0.1?5倍程度を流動床式嫌気反応槽の入り口側或いは前述の酸生成槽の入口側に循環させることが好ましく、これにより、処理の安定化、高効率化を図ることができることが記載され、前記(2-1)(e)によれば、前記循環は、嫌気反応槽1の上記からの流出水の一部を配管12より処理水として系外へ排出し、残部を配管13を経てポンプP_(2)により、嫌気性反応槽1の底部に循環させるものであることが記載されているから、前記発明の詳細な説明には、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させること、このとき、循環水が処理水の0.1?10倍であることが記載されているといえる。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2?6、8は、発明の詳細な説明に記載したものといえ、このことは、実施例に記載されているほかの数値から循環倍率を計算することができないとか、処理水の0.1?10倍と数値限定する臨界的意義が示されていないことに左右されるものではない。
更に、このことは、本件発明9?12においても同様であるので、前記第4の2(2)の申立理由は理由がない。

(2-4)本件発明3について
(ア)前記(2-1)(a)によれば、本件発明は、嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置に関するものであって、反応槽内に流動性非生物担体を充填し、該非生物担体の表面及び/又は内部に生物膜を形成させて嫌気条件下で被処理水を通水して処理するに当たり、装置の運転開始に際して担体への微生物の付着を促進して担体の表面及び/又は内部に活性の高い生物膜を早期に形成させることにより、装置の立ち上げに要する時間を大幅に短縮するとともに、装置の立ち上げ後においても効率的な処理を行う嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置を提供することを課題とするものである。

(イ)前記(2-1)(b)、(c)によれば、本件発明では、嫌気グラニュールの一部又は全部を破砕して担体と接触させるため、担体表面に高濃度の菌体が接触することができ、また、嫌気グラニュールを破砕することで種菌が微細となり、非生物担体表面への物理的な接触頻度が増加し、非生物担体への菌体の付着が促進されるものであって、種汚泥の嫌気グラニュールは嫌気反応槽に投入された後流動床式嫌気反応槽内で破砕されてもよく、また、予め破砕した嫌気グラニュールを流動床式嫌気反応槽に投入することもできるものである。

(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、嫌気グラニュールの一部又は全部を、流動床式嫌気反応槽内で破砕するか、または、予め破砕した嫌気グラニュールを流動床式嫌気反応槽に投入することで、本件発明の課題を解決できることが記載されるものであって、嫌気グラニュールの一部又は全部を流動床式嫌気反応槽内で破砕するための具体的な態様は、当業者であれば技術常識に基づいて理解することができるものである。
してみれば、前記発明の詳細な説明には、本件発明3の発明特定事項である「前記少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、前記嫌気反応槽内に添加された後、該嫌気反応槽内の破砕処理手段で破砕処理された嫌気グラニュールである」ことが記載されているといえ、このことは、発明の詳細な説明の実施例に、嫌気グラニュールの一部又は全部を流動床式嫌気反応槽内で破砕するための態様が記載されていないことに左右されるものではない。
したがって、第4の2(3)の申立理由は理由がない。

(2-5)小括
以上のとおりであるので、前記申立理由2は理由がない。

(3)申立理由3(特許法第36条第6項第2号)について
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、非生物担体表面の凸凹は、破砕された嫌気グラニュールが担体表面の該凸凹部分に吸着する程度のものであればよいことが記載されているといえ、そのような凹凸の具体的な態様は当業者であれば技術常識に基づいて理解することができることは、前記(2)(2-2)(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、請求項1、9、11に係る発明の「流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体」との発明特定事項における「凹凸」の態様は、当業者であれば技術常識に基づいて理解することができるものであるから、請求項1、9、11に係る発明及び請求項1、9、11を引用する請求項2?6、8、10、12に係る発明の外延が不明確であるとはいえない。
したがって、前記申立理由3は理由がない。

2 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1について
(ア)本件発明1?6、8を、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、前記1(1)(1-2)イ(シ)、1(1)(1-3)ア(イ)に記載のとおりであり、本件発明9?12を、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、前記1(1)(1-4)イ(ウ)、1(1)(1-5)ア(イ)、1(1)(1-6)イ(ウ)、1(1)(1-7)ア(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2について
前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるものであって、本件訂正により請求項7は削除されるものとなったので、取消理由2は理由がない。

(3)取消理由3について
(ア)前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、本件発明1は、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させるものであり、該循環水が該処理水の0.1?10倍であるものである。

(イ)そして、本件発明1において、嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる場合、該循環水を該処理水の0.1?10倍とすることに不明確な点は存在しないので、本件発明1が不明確であるとはいえない。
このことは、請求項1を引用する本件発明2?6、8についても同様であり、同様の記載がある本件発明9、11、請求項9を引用する本件発明10、及び請求項11を引用する本件発明12についても同様であるので、取消理由3は理由がない。

3 申立人の意見書における主張について
(1)申立人の意見書における主張の概要
平成30年11月21日付けで申立人が提出した意見書における、特許法第29条第2項(進歩性)についての主張の概要は、以下のとおりである。
(ア)甲第1号証及び甲第4号証に記載された処理方式は、いずれも、有機性排水が嫌気性反応槽の下部に導入され、上向流で通水された後、反応槽の上部から処理水が取り出されるものであって、その際当該反応槽内にメタン菌グラニュールを存在させるものであり、多くの共通点を有するものである。

(イ)甲第4号証に記載された処理方法が解決しようとする課題は、グラニュール汚泥を破砕して粒径を制御し、浮上流出を防止し、結果として汚泥を高密度化するというものである。

(ウ)甲第1号証のように反応槽内に担体を存在させて嫌気性処理する場合には、長期的にはグラニュール汚泥の濃度が低下するが、少なくとも初期の一定期間は、担体に嫌気性微生物を効率的に付着させるために、グラニュール汚泥の濃度を高くすることが好ましいから、甲第1号証に記載された発明において、装置の立ち上げに際して、反応槽内の担体に嫌気性微生物の付着を促進するために、グラニュール汚泥の流出を防ぐ事は当然に行われることである。
そうであれば、甲第1号証に記載された処理方法において、甲第4号証に記載された破砕方法を採用することは、当業者であれば容易なことである。

(エ)したがって、甲第4号証に記載されたグラニュールの破砕を甲第1号証に記載された処理方法に採用することは当業者にとって容易なことであり、本件発明1?12に係る特許は、平成30年 8月 6日付けの取消理由通知書に記載された理由により取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
(ア)前記1(1)(1-2)イ(ケ)で述べたように、甲1-1発明に甲第4号証の技術事項を適用することには阻害要因が存在するというべきであり、また、甲1-1発明と、甲第4号証に記載される嫌気性処理装置とでは、汚泥を破砕する理由が異なっているから、当業者は、甲第4号証の記載事項から、前記1(1)(1-2)イ(エ)の効果を奏することを予測することもできないことは、前記1(1)(1-2)イ(ケ)に記載のとおりである。
そして、このことは、甲第1号証及び甲第4号証に記載された処理方式が多くの共通点を有することに左右されるものではない。

(イ)また、反応槽内に担体を存在させて嫌気性処理する場合、少なくとも初期の一定期間は、担体に嫌気性微生物を効率的に付着させるために、グラニュール汚泥の濃度を高くすることが好ましいとしても、甲1-1発明に甲第4号証の技術事項を適用することには阻害要因が存在するというべきであり、かつ、甲第4号証の記載事項から、前記1(1)(1-2)イ(エ)の効果を奏することを予測することができないことに変わりはない。
したがって、本件発明1を、甲1-1発明及び甲第4号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)そして、このことは、本件発明2?6、8?12についても同様であるので、異議申立人の前記意見書における主張はいずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?6、8?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6、8?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件発明7に係る特許に対して特許異議申立人片桐 麻希子がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内に流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽に被処理水を通水して嫌気性処理を行う嫌気性処理装置の立ち上げに際して、該嫌気反応槽に種汚泥を添加する嫌気性処理方法において、
該流動性非生物担体は表面に凹凸のある樹脂製担体であり、
該種汚泥として、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕して平均粒径0.1?1.0mmとした嫌気グラニュールを用い、
該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させるものであり、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、前記嫌気反応槽外で破砕処理された後、該嫌気反応槽に添加された嫌気グラニュールであることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項3】
請求項1において、前記少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールが、前記嫌気反応槽内に添加された後、該嫌気反応槽内の破砕処理手段で破砕処理された嫌気グラニュールであることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気反応槽の運転開始時に前記種汚泥を一括投入することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記嫌気反応槽の運転開始以降の立ち上げ運転期間に、前記種汚泥を該嫌気反応槽に連続的又は間欠的に添加することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記嫌気反応槽への前記種汚泥の添加量が、該嫌気反応槽の槽容量に対して、破砕前の嫌気グラニュールの汚泥容量として1?50%であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記流動性非生物担体が粒径1.0?5.0mm、沈降速度100?500m/hrの樹脂製担体であり、前記嫌気反応槽容量に対する該担体の充填量が10?80%であることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項9】
槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールの少なくとも一部を破砕した平均粒径0.1?1.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項10】
請求項9において、前記嫌気反応槽に少なくとも一部を破砕した嫌気グラニュールを添加する手段が、水中ポンプを備える嫌気グラニュール破砕槽を有し、該嫌気グラニュール破砕槽に投入された嫌気グラニュールを該水中ポンプで破砕すると共に前記嫌気反応槽に送給するように構成されていることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項11】
槽内に、表面に凹凸のある樹脂製担体である流動性非生物担体を充填した嫌気反応槽と、該嫌気反応槽に被処理水を通水する手段と、該嫌気反応槽に、平均粒径1.0?2.0mmの嫌気グラニュールを添加する手段と、該嫌気グラニュールを該嫌気反応槽内で平均粒径0.1?1.0mmに破砕する手段と、該嫌気反応槽の流出水の一部を処理水として系外へ排出し、該流出水の残部を循環水として該嫌気反応槽の入口側あるいは該嫌気反応槽の前処理槽である酸生成槽の入口側に循環させる手段とを備え、
該循環水が該処理水の0.1?10倍であることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項12】
請求項11において、前記嫌気反応槽内で前記嫌気グラニュールを破砕する手段が、該嫌気反応槽内に設けられた異物通過性水中ポンプであることを特徴とする嫌気性処理装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-09 
出願番号 特願2013-214799(P2013-214799)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 537- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 金 公彦
山崎 直也
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6241187号(P6241187)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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