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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
管理番号 1349667
異議申立番号 異議2018-700041  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-18 
確定日 2019-01-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6166372号発明「アルカリ金属カルボン酸塩および脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化セルロースエーテルを調製するためのプロセス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6166372号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?10]について訂正することを認める。 特許第6166372号の請求項1?4及び8?10に係る特許を維持する。 特許第6166372号の請求項5?7に係る特許についての異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6166372号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2013年8月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年8月24日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日として特許出願され、平成29年6月30日に特許権の設定登録がされ、同年7月19日にその特許公報が発行され、平成30年1月18日に、その請求項1?10に係る発明の特許に対し、信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 4月20日付け 取消理由通知
同年 7月17日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 9月 5日付け 通知書
同年10月 9日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成30年7月17日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。その訂正内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
ア 訂正前の請求項1、8?10の「エステル化セルロースエーテル」を、訂正後の請求項1、8?10の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」(審決注:下線は訂正部分を示す。以下同様。)と、

イ 訂正前の請求項1の「アルカリ金属カルボン酸塩および脂肪族カルボン酸の存在下で」を、訂正後の請求項1の「酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で」と、

ウ 訂正前の請求項1の「(i)脂肪族モノカルボン酸無水物または(ii)ジカルボン酸無水物または(iii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせ」を、訂正後の請求項1の「無水酢酸および無水コハク酸」と、

エ 訂正前の請求項1の「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[1.00/1]であり」を、訂正後の請求項1の「モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり」と、

オ 訂正前の請求項1の「モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[3.55/1]?[9.0/1]であり」を、訂正後の請求項1の「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり」と、

カ 訂正前の請求項1の「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」を、訂正後の請求項1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」と、
それぞれ訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2の「[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[3.8/1]?[8.0/1]である」を、訂正後の請求項2の「[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[8.0/1]である」と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3及び9の「脂肪族カルボン酸」を、訂正後の請求項3及び9の「酢酸」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4及び10の「アルカリ金属カルボン酸塩」を、訂正後の請求項4及び10の「酢酸ナトリウム」と訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5?7を削除する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項8の「請求項1?7のいずれか1項」並びに訂正前の請求項9及び10の「請求項1?8のいずれか1項」を、訂正後の請求項8?10の「請求項1?4のいずれか1項」と訂正する。

2 訂正の適否

(1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正後の請求項1?10に対応する訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する、訂正後の請求項1?10は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

(2)訂正事項1

ア 訂正の目的の適否

(ア)訂正事項1のアの「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」とする事項は、「エステル化セルロースエーテル」を「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」に化合物を下位概念に限定して減縮するものである。

(イ)訂正事項1のイの「酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で」とする事項は、「アルカリ金属カルボン酸塩」を「酢酸ナトリウム」に、及び、「脂肪族カルボン酸」を「酢酸」に、それぞれ化合物を下位概念に限定して減縮するものである。

(ウ)訂正事項1のウの「無水酢酸および無水コハク酸」とする事項は、「(i)脂肪族モノカルボン酸無水物または(ii)ジカルボン酸無水物または(iii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせ」について、「(iii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせ」に限定し、且つ、「脂肪族モノカルボン酸無水物」を「無水酢酸」に、及び、「ジカルボン酸無水物」を「無水コハク酸」にそれぞれ化合物を下位概念に限定して減縮するものである。

(エ)訂正事項1のエの「モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり」とする事項は、「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[1.00/1]であり」について、「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」を「モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」に限定すると共に、その範囲の「[0.30/1]?[1.00/1]」を「[0.30/1]?[0.90/1]」と比の範囲を限定するものである。

(オ)訂正事項1のオの「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり」とする事項は、「モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[3.55/1]?[9.0/1]であり」について、「モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」を「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」に限定すると共に、その範囲の「[3.55/1]?[9.0/1]」を「[4.5/1]?[9.0/1]」と比の範囲を限定するものである。

(カ)訂正事項1のカの「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」とする事項は、「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」を「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」に化合物を下位概念に限定して減縮するものである。

以上(ア)?(カ)より、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無

(ア)訂正事項1のアの「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0038】ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)が、最も好ましいエステル化セルロースエーテルである」と記載されている。

(イ)訂正事項1のイの「酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0028】セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、・・といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。・・さらに、エステル化反応は、酢酸ナトリウム・・といった、エステル化触媒としてのアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行される。」と記載されている。

(ウ)訂正事項1のウの「無水酢酸および無水コハク酸」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0024】・・さらに好ましくは、セルロースエーテルを、・・(iii)無水酢酸、・・から選択される脂肪族モノカルボン酸無水物と組み合わせた無水コハク酸・・でエステル化する。」と記載されている。

(エ)訂正事項1のエの「モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり」とする事項については、願書に添付した明細書に、前記(イ)に示した段落【0028】の前記記載に加え、「【0029】・・一般的に、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は・・最も好ましくは(0.35/1)?(0.90/1)・・である」と記載されている。

(オ)訂正事項1のオの「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり」とする事項については、願書に添付した明細書に、前記(イ)に示した段落【0028】の前記記載に加え、「【0029】・・好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)・・」と記載されている。

(カ)訂正事項1のカの「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0018】・・最も好ましくは、セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。」と記載されている。

以上(ア)?(カ)において指摘した関連記載により、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項2

ア 訂正の目的の適否
訂正事項2の「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[8.0/1]であり」とする事項は、「[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[3.8/1]?[8.0/1]であり」について、「モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」を「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」に限定すると共に、その範囲の「[3.8/1]?[8.0/1]」を「[4.5/1]?[8.0/1]」と比の範囲を限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項2の「モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[8.0/1]であり」とする事項については、願書に添付した明細書に、「【0028】セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、・・といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。」及び「【0029】・・好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)・・」と記載されている。
そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項3

ア 訂正の目的の適否
訂正事項3の「酢酸」とする事項は、「脂肪族カルボン酸」を「酢酸」と化合物を下位概念に限定して減縮するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項3の「酢酸」とする事項については、願書に添付した明細書に、「【0028】セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、・・といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。」と記載されている。
そうすると、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項4

ア 訂正の目的の適否
訂正事項4の「酢酸ナトリウム」とする事項は、「アルカリ金属カルボン酸塩」を「酢酸ナトリウム」と化合物を下位概念に限定するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項4の「酢酸ナトリウム」とする事項については、願書に添付した明細書に「【0028】・・エステル化反応は、酢酸ナトリウム・・といった、エステル化触媒としてのアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行される。」と記載されている。
そうすると、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものといえる。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載の範囲で特許請求の範囲の減縮するものであって、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項5

ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、請求項を削除したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項5は、請求項を削除したもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項5は、請求項を削除したもので、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものでないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項6

ア 訂正の目的の適否
訂正事項6の「請求項1?4のいずれか1項」とする事項は、引用する請求項の数を限定するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無
訂正事項6は、引用する請求項の数を限定したもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項6は、引用する請求項の数を限定したもので、実質上特許請求の範囲特許請求の範囲の拡張・変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?10]についての訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された特許の請求項1?4及び8?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」及び「本件発明8」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4及び8?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセスであって、ここでセルロースエーテルを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸および無水コハク酸でエステル化し、ここで、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり、前記セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、前記プロセス。
【請求項2】前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[8.0/1]である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[6.0/1]である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.50/1]?[0.80/1]である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、40,000?700,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。」

第4 取消理由の概要

1 特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1:訂正前の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平5-339301号公報(以下「甲1」という。)

理由2:訂正前の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に示された証拠及び甲第3号証に記載の技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:理由1で示したとおりである。
甲第2号証:本件特許に係る特許協力条約に基づく国際出願における国際予備審査機関による見解書への回答書(2014年11月13日提出)(以下「甲2」という。)
甲第3号証:Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, vol.56, (2011), p.743-748 (以下「甲3」という。)

理由3:訂正前の請求項1?10に係る発明は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項1に記載の、セルロースエーテルである「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エステル化剤である「脂肪族モノカルボン酸無水物」として無水酢酸、及び、同じくエステル化剤である「ジカルボン酸無水物」として無水コハク酸をそれぞれ使用し(エステル化剤として(iii)を使用した場合に相当)、生成物である「エステル化セルロースエーテル」としてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を製造した場合‘以外’の場合が包含されている、訂正前の請求項1に係る、「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」、「脂肪族モノカルボン酸無水物」、「ジカルボン酸無水物」及び「エステル化セルロースエーテル」については、その全体にわたって課題を解決できるとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明、及び、これを直接又は間接に引用して特定されている訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

理由4:訂正前の請求項1?10に係る発明については、下記の点で、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1?10に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項1に記載の、「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」、「脂肪族モノカルボン酸無水物」、「ジカルボン酸無水物」及び「エステル化セルロースエーテル」について、発明の詳細な説明には、出発原料のセルロースエーテルである「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エステル化剤である「脂肪族モノカルボン酸無水物」として無水酢酸、及び、同じくエステル化剤である「ジカルボン酸無水物」として無水コハク酸をそれぞれ使用し(エステル化剤として(iii)を使用した場合に相当)、生成物である「エステル化セルロースエーテル」としてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を製造した場合‘以外’の場合については、具体的に製造方法が記載されておらず、本願出願時の技術常識を勘案しても、具体的に記載されている以外の場合を実施するには、当業者といえども試行錯誤を繰り返す必要があり、過度の負担を強いるものといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1に係る発明、及び、これを直接又は間接に引用して特定されている訂正前の請求項2?10に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

理由5:訂正前の請求項9及び10に係る発明は、下記の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の請求項9及び10に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項9及び10に係る発明は、モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]とモル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]のいずれか一方を変えるプロセスに関する発明であるが、プロセスが1つのエステル化反応を意味する場合には、アルカリ金属カルボン酸塩、脂肪族カルボン酸、又はセルロースエーテルの量を、どの段階で変化させるのか不明であり、プロセスが複数のエステル化反応を意味する場合には、第1のエステル化反応で得られたエステル化セルロースエーテルをどのように処理した後に、一方のモル比を変えて第2のエステル化反応を行うのか不明であり、不明確である。

2 平成30年3月1日付けで当審が通知した取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る発明に対して、平成30年4月20日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1:訂正前の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

刊行物1:特開平5-339301号公報(甲1)
甲第2号証:本件特許に係る特許協力条約に基づく国際出願における国際予備審査機関による見解書への回答書(2014年11月13日提出)

理由2:訂正前の請求項1?10に係る発明は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

訂正前の請求項1に記載の、セルロースエーテルである「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エステル化触媒である「アルカリ金属カルボン酸塩」として酢酸ナトリウム、反応希釈剤である「脂肪族カルボン酸」として酢酸、エステル化剤である「脂肪族モノカルボン酸無水物」として無水酢酸、及び、同じくエステル化剤である「ジカルボン酸無水物」として無水コハク酸をそれぞれ使用し(エステル化剤として(iii)を使用した場合に相当)、生成物である「エステル化セルロースエーテル」としてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を製造した場合、‘以外’の場合が包含されている、訂正前の請求項1に係る、「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」、「アルカリ金属カルボン酸塩」、「脂肪族カルボン酸」、「脂肪族モノカルボン酸無水物」、「ジカルボン酸無水物」及び「エステル化セルロースエーテル」については、その全体にわたって課題を解決できるとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明、及び、これを直接又は間接に引用して特定されている訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?4及び8?10は、特許異議申立人が申し立てた取消理由及び当審の通知した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
さらに、訂正前の請求項5?7に係る特許は、訂正により削除されているので、訂正前の請求項5?7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

I 平成30年4月20日付けで当審が通知した取消理由についての判断

1 取消理由の理由1(特許法第29条第2項)に対して

(1)刊行物の記載について

ア 刊行物1(甲1)

1a「【請求項1】カルボン酸アルカリ金属塩を触媒として酢酸溶媒中でセルロース類と多価カルボン酸無水物とをエステル反応させるに当り、酢酸溶媒の使用量を該セルロース類に対して1?2倍重量とし、双軸撹拌機で撹拌することを特徴とするカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項2】前記セルロース類がアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの中から選択される請求項1に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項3】前記アルキル基はいずれもメチル基、エチル基、プロピル基の中から選択される請求項2に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項4】前記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースがヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項3に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項5】前記セルロース類は分子中にO-アシル基結合を有しているセルロース類である請求項1?4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】前記アシル基が低級脂肪族カルボニル基である請求項5に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項7】前記低級脂肪族カルボニル基がアセチル基である請求項6に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項8】前記多価カルボン酸無水物が無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸の中から選択される請求項1?7のいずれかに記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項9】前記多価カルボン酸無水物が無水脂肪族モノカルボン酸との混酸である請求項1?8のいずれかに記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。
【請求項10】前記無水脂肪族モノカルボン酸が無水酢酸である請求項9に記載のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法。」

1b「【0004】カルボン酸エステル系セルロース誘導体の合成には、一般にセルロース類と酸無水物とをエステル反応させて行う。反応溶媒には酢酸を用い、酢酸ナトリウムなどカルボン酸のアルカリ金属塩を触媒とする。」

1c「【0013】触媒の使用量は、酢酸溶媒の仕込量及びセルロース類との反応物である酸無水物の種類あるいは仕込量により異なる。反応効率、合成目的物のエステル置換度を考慮して任意に選択すればよい。一般にはおおむね原料セルロース類に対して、0.2?0.8倍重量が好ましい。
【0014】酢酸溶媒の使用量は該セルロース類に対して1?2倍重量、好ましくは該セルロース類の1?1.5倍重量とするとよい。溶媒の量を等重量より少なくすると、粘性が高く撹拌が困難になる。しかも、原料のセルロース類が十分に溶解されないため、得られる反応生成物のエステル置換率が不均一になって好ましくない。2倍重量より多いと十分な反応速度が得られず好ましくない。」

1d「【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1?3
双軸撹拌機を有する51ニーダ型反応機にヒドロキシプロピルメチルセルロース400gと、表1に示す量の酢酸、無水フタル酸、酢酸ナトリウムを仕込み、85℃で3時間、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水フタル酸とを反応させた。ヒドロキシプロピルメチルセルロースには、グルコース単位1個当りのヒドロキシプロポキシル基置換数0.24、メトキシル基置換数1.87のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた。
【0021】次いで、反応液にその約5倍重量の水を徐々に加えて反応生成物を析出させ、その析出物を十分に水洗、乾燥した。得られた析出物を分析した結果、生成物はグルコース1個当りの2-カルボキシ-ベンゾイル基の置換数がいずれも0.65のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートだった。酢酸、無水フタル酸、酢酸ナトリウムの各仕込み量と無水フタル酸の反応効率を表1に示す。酢酸の仕込量の減少に従い無水フタル酸の反応効率が高くなっていることが分かった。
【0022】
【表1】

【0023】比較例1、2
実施例1と同様に表1に示す量で酢酸・無水フタル酸・酢酸ナトリウムを仕込み、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートを合成した。重量でセルロース類の2倍以上の酢酸を用いると反応効率が低下することが分かった。
【0024】実施例4?6
無水フタル酸の代りに無水コハク酸と無水酢酸との混酸を用い、表2に示す量でその混酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースとのエステル反応を行った。グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体を得た。
【0025】酢酸、無水コハク酸、無水酢酸、酢酸ナトリウムの仕込量及び、無水フタル酸の反応効率を表1に示す。酢酸の仕込量が減少するに従って無水コハク酸及び無水酢酸の反応効率が高くなっていることが分かった。
【0026】
【表2】

【0027】比較例3、4
実施例4と同様に表2に示す量の無水コハク酸と無水酢酸との混酸を用いた。重量でセルロース類の2倍以上の酢酸を用いると反応効率が低下することが分かった。」

イ 甲第2号証 (訳文で示す。)

2a「B)新規性
D4(特開平5-33901号(当審注:特開平5-339301号の誤記と認める)公報、公開日1992年(当審注:1993年の誤記と認める)12月21日、信越化学工業株式会社、カルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法)が新たに引用されている。
審査官の計算によれば、D4の実施例4?6は、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位(AGU)]が、それぞれ1.05、1.06、1.17である。
出願人の計算によれば、D4の実施例4?6は、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位(AGU)]が、それぞれ1.05、1.11、1.17である。 ・・・・・
C)進歩性
本願発明は、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位(AGU)]及びモル比[脂肪族カルボン酸/AGU]がD4に記載のプロセスよりも低いことにおいてD4と相違する。
・・・・・
この驚くべき発見をよりよく説明するために、出願人は、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/AGU]をD4の実施例4と同じ1.04とした比較例Dを追加している。比較例Dでは、本願の実施例1と同じモル比[脂肪族カルボン酸/AGU]5.6を用いた。このモル比[脂肪族カルボン酸/AGU]5.6は、D4の実施例4?6(4.37、5.04および6.72)の範囲内にある。無水コハク酸とAGUの比と、無水酢酸とAGUの比は、本願の実施例1と同じとした。
アネックスAの表1における比較例Dと実施例1の比較は、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩とAGU]を変化(減少)させることによって得られる技術的効果を示す。・・・」(1頁下から10行?2頁末行)

2b「

」(4頁アネックスA)

(2)刊行物1(甲1)に記載された発明
刊行物1(甲1)は、「カルボン酸アルカリ金属塩を触媒として酢酸溶媒中でセルロース類と多価カルボン酸無水物とをエステル反応させるに当り、酢酸溶媒の使用量を該セルロース類に対して1?2倍重量とし、双軸撹拌機で撹拌することを特徴とするカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法」(1a 請求項1)に関し記載するものであって、実施例4(1d)には、特許請求の範囲に対応する「カルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法」の具体例が記載されており、実施例1の方法(双軸撹拌機を有する51ニーダ型反応機を用いる)において、無水フタル酸の代りに無水コハク酸と無水酢酸との混酸を用い、表2に示す量(酢酸520g、無水コハク酸64g、無水酢酸202g、酢酸ナトリウム170g)でその混酸とヒドロキシプロピルメチルセルロース[実施例1のヒドロキシプロピルメチルセルロース(グルコース単位1個当りのヒドロキシプロポキシル基置換数0.24、メトキシル基置換数1.87)400g]とのエステル反応を行う方法が記載され、該方法により、グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体を得たことが記載されている(1d)。

そうすると、刊行物1(甲1)には、実施例4に記載された具体的発明として、
「双軸撹拌機を有する51ニーダ型反応機にヒドロキシプロピルメチルセルロース(グルコース単位1個当りのヒドロキシプロポキシル基置換数0.24、メトキシル基置換数1.87)400gと、酢酸520g、無水コハク酸64g、無水酢酸202g、酢酸ナトリウム170gを仕込み、85℃で3時間、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水コハク酸及び無水酢酸とのエステル反応を行い、次いで、反応液にその約5倍重量の水を徐々に加えて反応生成物を析出させ、その析出物を十分に水洗、乾燥する、グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)引用発明との対比

a 引用発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、「グルコース単位1個当り」「ヒドロキシプロポキシル基置換数0.24、メトキシル基置換数1.87」で、グルコースの水酸基がヒドロキシプロポキシル基及びメトキシル基で置換されたセルロースエーテルであるから、本件発明1の「セルロースエーテル」「前記セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである」に相当する。

b 引用発明の「グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体」は、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水コハク酸及び無水酢酸とのエステル反応を行」うことによって得られたものであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがエステル化され3-カルボキシ-プロピオニル基及びアセチル基を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである。
そうすると、引用発明の「グルコース単位1個当りの3-カルボキシ-プロピオニル基置換数0.30、アセチル基置換数0.53のカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法」は、本件発明1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセス」に相当する。

c 引用発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース・・と、酢酸・・、無水コハク酸・・、無水酢酸・・、酢酸ナトリウム・・を仕込み・・ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水コハク酸及び無水酢酸とのエステル反応を行」うことについて、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水コハク酸及び無水酢酸とのエステル反応を行」うこととは、セルロースエーテルであるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、無水コハク酸及び無水酢酸との混酸で、エステル反応を行うことといえる。
また、当該エステル反応における「酢酸」及び「酢酸ナトリウム」について、刊行物1(甲1)の「【0004】カルボン酸エステル系セルロース誘導体の合成には、一般にセルロース類と酸無水物とをエステル反応させて行う。反応溶媒には酢酸を用い、酢酸ナトリウムなどカルボン酸のアルカリ金属塩を触媒とする」(1b)との記載を踏まえると、当該エステル反応を行う際の、「酢酸」は反応溶媒であり、「酢酸ナトリウム」は触媒であると理解され、当該エステル反応は「酢酸」及び「酢酸ナトリウム」の存在下でなされるものといえる。
そうすると、引用発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース・・と、酢酸・・、無水コハク酸・・、無水酢酸・・、酢酸ナトリウム・・を仕込み・・ヒドロキシプロピルメチルセルロースと無水コハク酸及び無水酢酸とのエステル反応を行」うことは、本件発明1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセスであって、ここでセルロースエーテルを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で」「無水酢酸および無水コハク酸でエステル化」することに相当する。

d 引用発明に関する数値について

(a)引用発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースの無水グルコース単位基準のモル数(n1)の算出について
無水グルコース単位(C_(6)H_(10)O_(5))の分子量は162である。ヒドロキシプロポキシ基の一置換につき無水グルコース単位の分子量が58増加し、メトキシル基の一置換につき無水グルコース単位の分子量が14増加するから、引用発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースの無水グルコース単位の分子量(M)と、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの無水グルコース単位基準のモル数(n1)は、
M=162+(0.24×58)+(1.87×14)=202.1g/mol
n1=400g/202.1g/mol=1.98mol であると計算できる。

(b)引用発明におけるモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]について
引用発明の酢酸のモル数(n2)が、酢酸(分子量60.1)を520g用いていることから、n2=520g/60.1g/mol=8.65mol である。
それ故、引用発明にけるモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、8.65mol/1.98mol=4.37 である。

(c)引用発明におけるモル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]について
引用発明の酢酸ナトリウムのモル数(n3)は、酢酸ナトリウム(分子量82.0)を170g用いていることから、n3=170g/82.0g/mol=2.07mol である。
それ故、引用発明にけるモル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、2.07mol/1.98mol=1.05 である。

そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセスであって、ここでセルロースエーテルを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸および無水コハク酸でエステル化し、ここで、前記セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、前記プロセス」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、本件発明1では[0.30/1]?[0.90/1]であるのに対し、引用発明では1.05である点
相違点2:モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、本件発明1では[4.5/1]?[9.0/1]であるのに対し、引用発明では4.37である点

(イ)判断

a 相違点について
相違点1及び相違点2をまとめて検討する。

(a)引用発明のエステル反応における「酢酸ナトリウム」及び「酢酸」について、刊行物1(甲1)の「【0004】カルボン酸エステル系セルロース誘導体の合成には、一般にセルロース類と酸無水物とをエステル反応させて行う。反応溶媒には酢酸を用い、酢酸ナトリウムなどカルボン酸のアルカリ金属塩を触媒とする」(1b)との記載を踏まえると、当該エステル反応を行う際の、「酢酸」は反応溶媒であり、「酢酸ナトリウム」は触媒であると理解されるのは前記のとおりである。

(b)この触媒の使用量について、刊行物1(甲1)には「触媒の使用量は・・反応効率、合成目的物のエステル置換度を考慮して任意に選択すればよい。一般にはおおむね原料セルロース類に対して、0.2?0.8倍重量が好ましい」(1c【0013】)と記載されていることから、触媒の使用量として、当業者は当該範囲内で使用量を検討してみることは想起し得ることではある。
酢酸ナトリウム(分子量82.0)の使用量の前記好ましい範囲からモル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]の範囲を検討するに、原料セルロースエーテルの使用量をYgとすると、無水グルコース単位の分子量(202.1)であることより、モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]の範囲は、
(0.2×Y/82.0)/(Y/202.1)?(0.8×Y/82.0)/(Y/202.1)=0.49?1.97 となる。

そこで、引用発明において、酢酸ナトリウムの使用量は1.05のモル比で使用されているところ、触媒の使用量として前記好ましい範囲(1c)を踏まえ、好ましい範囲であるモル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が0.49?1.97の範囲のうち、下限に近い範囲に変更することが考えられる。

触媒の使用量に関し、刊行物1(甲1)には「【0013】触媒の使用量は、酢酸溶媒の仕込量及びセルロース類との反応物である酸無水物の種類あるいは仕込量により異なる。」(1c)との記載があるが、触媒の使用量を変更する場合、酢酸溶媒の仕込量をどのように変更すればよいかの指針はなく、本件発明1の、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]の範囲とする示唆はない。

(c)溶媒の使用量について、刊行物1(甲1)には「酢酸溶媒の使用量は該セルロース類に対して1?2倍重量、好ましくは該セルロース類の1?1.5倍重量とするとよい」(1c【0014】)と記載されていることから、引用発明において、溶媒の使用量として前記好ましい範囲(1c)を踏まえ、当業者は当該範囲内で使用量を検討してみることは想起し得ることではある。
しかし、前記(b)で述べたことと同様に、溶媒の使用量を変更する場合、触媒の使用量をどのように変更すればよいかの指針もなく、本件発明1の、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.9/1]の範囲とする示唆もない。

(d)したがって、引用発明において、相違点1及び2の構成である、触媒のモル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]1.05を低減させて[0.30/1]?[0.90/1]の範囲内にし、かつ、溶媒のモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を4.37より高い[4.5/1]?[9.0/1]の範囲内とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

b 本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、本件特許明細書の段落【0014】、【0030】の記載及び実施例2?4の結果である表1及び表2(【0080】、【0081】)に示されているように、(a)ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを生産するプロセスにおいて、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)及びモル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を、それぞれ特定範囲で変えることで、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量を変化させ得ること、さらには、(b)モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)及びモル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の双方が、先行技術で教示される特定のプロセスと比較して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを生産するプロセスにおいて低下する場合でも、先行技術のプロセスと実質的に同一又はより高い重量平均分子量Mwを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを生産させ得ること、それ故、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するための非常に経済的な方法(原材料コストの節約、余分な原材料をヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートから分離するためのコストの著しい低下)を提供し得ることであると認められる。

前記効果(a)については、引用発明において、刊行物1(甲1)に記載の触媒や溶媒の使用量を前記好ましい範囲(1c)を踏まえ、原料セルロースエーテルに対して変更することが、エステル化反応にどのような影響を与えるのかは不明である。
それに対し、本件発明1の効果(a)は、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)及びモル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を、それぞれ特定範囲で変えることで、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量を変化させ得るものであり、刊行物1(甲1)の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。

前記効果(b)については、効果(a)について前述したように、刊行物1(甲1)に記載の触媒や溶媒の使用量を前記好ましい範囲(1c)を踏まえ、原料セルロースエーテルに対して変更することが、エステル化反応にどのような影響を与えるのかは不明であることから、前記効果(b)も、刊行物1(甲1)の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。

また、甲第2号証は、本件特許に係る特許協力条約に基づく国際出願における国際予備審査機関による見解書への回答書(2014年11月13日提出)で、本件の優先日前に公知ではないが、甲第2号証のアネックスAの表1及び表2(2b)に、特許権者が刊行物1(甲1)の実施例4(引用発明)の実施結果を比較例Dとして本件発明1の実施例2?4の実験結果と比較した結果が示されていることから、当該比較結果を参酌すると、本件発明1は、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)及びモル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を、それぞれ特定範囲で変えることで、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量を変化させることが示されているものの、刊行物1(甲1)に記載の触媒や溶媒の使用量を、原料セルロースエーテルに対して変更することが、エステル化反応にどのような影響を与えるのかは不明であることから、甲第2号証に示される証拠を考慮しても、本件発明1の効果は当業者が予測し得たものとはいえないことに変わりはない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、本件優先日前に頒布された刊行物1(甲1)に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4及び8?10について
本件発明2?4及び8?10は、本件発明1において、それぞれ、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[4.5/1]?[8.0/1]である」こと、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[4.5/1]?[6.0/1]である」こと、「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.50/1]?[0.80/1]である」こと、「生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、40,000?700,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する」こと、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する」こと、及び、「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する」ことをさらに特定したものである。

そして、本件発明1が、本件優先日前に頒布された刊行物1(甲1)に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2?4及び8?10は、刊行物1(甲1)に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 平成30年10月9日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について

(ア)特許異議申立人は、当該意見書1?6頁「4 意見の内容(1)理由1(特許法第29条第2項)について」において、本件発明1の、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であること、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であることについて、引用発明の、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]1.05を、刊行物1(甲1)に記載の、触媒である酢酸ナトリウムの使用量の好ましい範囲(1c)を踏まえ、好ましい範囲であるモル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が0.49?1.97の範囲から、下限に近い範囲とすること、かつ、刊行物1(甲1)に記載の、酢酸溶媒の使用量の好ましい範囲(1c)を踏まえ、溶媒のモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を4.37より高い[4.5/1]?[9.0/1]の範囲内とすることに、格別の困難性はない、したがって、本件発明は依然として特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨、主張する。
しかしながら、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]及びモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を特定の範囲に設定することが容易になし得る技術的事項でないことについては、前記ア(イ)で述べたとおりである。

(イ)特許異議申立人は、当該意見書1?6頁「4 意見の内容(1)理由1(特許法第29条第2項)について」において、本件発明1の効果について、本件明細書の段落【0030】の記載より本件発明1の効果は、酢酸及び酢酸ナトリウムの使用量を減少させながら、エステル基の置換度を増加させずに、先行技術でのプロセスと実質的に同じ又はそれよりも高い重量平均分子量Mwを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを生産させることができることであり、実施例1?4では、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を0.54に限定し、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を5.6又は5.1?4.8に減少させた場合の結果にすぎないため、本件発明1の、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.30/1]?[0.90/1]、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[9.0/1]の範囲でも、同様な効果が得られるか不明である旨、主張する。
しかしながら、本件明細書には、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は(1.20/1)以下、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は(3.55/1)?(9.0/1)の範囲で本件発明1を実施し得ることが記載されており(【0029】?【0030】)、「モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量が変化し得ることが発見された・・・ここで、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.55/1)?(9.0/1)である」(【0014】?【0015】)と記載されていること、及び、その実施例を含めた本件明細書の記載を参酌することで、この範囲内であれば、実施例2?4と同様に重量平均分子量を変化させるという本件発明1の効果を奏し得ると認識できる。

(ウ)したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

エ 以上のとおり、本件発明1?4及び8?10は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1?4及び8?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 取消理由の理由2(特許法第36条第6項第1号)に対して

(1)本件発明の解決しようとする課題
本件発明1?4及び8?10が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の段落【0002】?【0011】の【背景技術】の記載、段落【0012】?【0015】の【発明の概要】の記載、段落【0030】の記載及び段落【0052】?【0089】の実施例の記載からみて、公知のプロセスにしたがって生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと実質的に同一又はそれよりも高い分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを生産する方法を提供することであると認める。

(2)特許請求の範囲の記載
本件発明1?4及び8?10は、第3に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、本件発明1?4及び8?10に関連した記載として、クレームの実質的な繰り返し記載を除いて、以下の記載がある。

ア モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]及びモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]の実施の態様、並びに、これらのモル比とヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量Mwとの関連の実施の態様について

「【0014】驚くことに、エステル化セルロースエーテルを生産するプロセスにおいて、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量が変化し得ることが発見された。さらに驚くことには、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)およびモル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の双方が、先行技術で教示される特定のプロセスと比較して、エステル化セルロースエーテルを生産するプロセスにおいて低下する場合でも、先行技術のプロセスと実質的に同一またはより高い重量平均分子量を有するエステル化セルロースエーテルが生産され得ることが発見された。
【0015】したがって、本発明は、エステル化セルロースエーテルを調製するプロセスに関わり、ここで、セルロースエーテルは、アルカリ金属カルボン酸塩および脂肪族カルボン酸の存在下で、(i)脂肪族モノカルボン酸無水物または(ii)ジカルボン酸無水物または(iii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせでエステル化され、ここで、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.55/1)?(9.0/1)である。」

「【0029】モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、(3.55/1)?(9.0/1)である。一般的に、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、(0.20/1)?(1.20/1)、好ましくは(0.25/1)?(1.10/1)、さらに好ましくは(0.30/1)?(1.00/1)、最も好ましくは(0.35/1)?(0.90/1)、および具体的には(0.50/1)?(0.80/1)である。好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.8/1)?(8.0/1)、さらに好ましくは(4.2/1)?(7.0/1)、最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)、および具体的には(4.6/1)?(5.5/1)である。好ましくは、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の、好まれる、さらに好まれる、および最も好まれる範囲は、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の、好まれる、さらに好まれる、および最も好まれる範囲と組み合わされる。
【0030】出願人らは驚くことに、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、エステル化のための反応混合物に存在する脂肪族カルボン酸および/またはアルカリ金属カルボキシ酸塩の選択された量によって影響され得ることを発見した。この発見によって、それらのエステル基の置換度を増加させること、または異なる分子量のセルロースエーテルを出発材料として使用すること以外の方法で、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwを修飾することが可能になる。本発明の一実施形態によると、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、変化する。驚くことに、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)およびモル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の双方を、先行技術で教示される特定のプロセスと比較してエステル化セルロースエーテルを生産するプロセスで減少させる場合、先行技術でのプロセスと実質的に同じ、またはそれよりも高い重量平均分子量を有するエステル化セルロースエーテルを、顕著に低下したコストで生産し得ることもわかった。本発明のプロセスは、エステル化セルロースエーテルを調製するための非常に経済的な方法を提供する。必要とされる原材料が著しく減っただけでなく、具体的には、原材料コストの節約につながる、セルロースエーテル1モルあたりより少ないアルカリ金属カルボン酸塩およびより少ない脂肪族カルボン酸というだけでなく、余分な原材料をエステル化セルロースエーテルから分離するためのコストも著しく低下する。」

イ ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセス関連(出発材料、エステル化剤、エステル化触媒、反応希釈剤、反応温度、反応時間)の実施の態様について

「【0016】実施形態の説明
本発明のプロセスで出発材料として使用されるセルロースエーテルは、本発明の文脈では無水グルコース単位と呼ばれる、β-1,4グリコシド結合D-グルコピラノース反復単位を有するセルロース主鎖を有し、該無水グルコース単位は、非置換セルロースに関して、無水グルコース単位における炭素原子のナンバリングを示す式、
【0017】

によって表される。無水グルコース単位における炭素原子のナンバリングを、それぞれの炭素原子に共有結合する置換基の位置を指定するために参照する。本発明のプロセスで出発材料として使用されるセルロースエーテルは、好ましくはアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースまたはヒドロキシアルキルアルキルセルロースである。・・
・・・・・
【0018】上記で定義されたセルロースエーテルの実例は、メチルセルロース、エチルセルロースおよびプロピルセルロースといったアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシブチルセルロースといったヒドロキシアルキルセルロース;および、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、およびヒドロキシブチルエチルセルロースといったヒドロキシアルキルアルキルセルロース;ならびに、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースといった、2つ以上のヒドロキシアルキル基を有するものである。最も好ましくは、セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
・・・・・
【0023】本発明のプロセスで出発材料として使用されるセルロースエーテルは好ましくは、ASTM D2363-79(再承認、2006)にしたがって20℃の2重量%水性溶液として測定される、2.4?200mPa・s、好ましくは2.4?100mPa・s、さらに好ましくは2.5?50mPa・s、具体的には3?30mPa・sの粘度を有する。そのような粘度のセルロースエーテルは、より高い粘度のセルロースエーテルを部分的脱重合プロセスにかけることで、得ることができる。部分的脱重合プロセスは当該技術分野で公知であり、たとえば、欧州特許出願EP第1,141,029号;EP第210,917号;EP第1,423,433号;およびUS特許第4,316,982号で説明される。または、部分的脱重合は、たとえば酸素または酸化剤の存在によって、セルロースエーテルの生産の間に達成され得る。
【0024】セルロースエーテルを、(i)脂肪族モノカルボン酸無水物または(ii)ジカルボン酸無水物または(iii)脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物の組み合わせと反応させる。好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は、無水酢酸、無水酪酸および無水プロピオン酸から成る群から選択される。好ましいジカルボン酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸および無水フタル酸から成る群から選択される。好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は、単独で使用され得;または好ましいジカルボン酸無水物は単独で使用され得;または好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は好ましいジカルボン酸無水物と組み合わせて使用され得る。さらに好ましくは、セルロースエーテルを、(ii)無水コハク酸もしくは無水フタル酸または(iii)無水酢酸、無水酪酸および無水プロピオン酸から成る群から選択される脂肪族モノカルボン酸無水物と組み合わせた無水コハク酸または無水フタル酸でエステル化する。
【0025】脂肪族モノカルボン酸無水物およびジカルボン酸無水物を、セルロースエーテルをエステル化するために使用する場合、2つの無水物は同時に反応容器内に導入してもよく、または、別々に次から次へ導入してもよい。反応容器内に導入される各無水物の量を、最終生成物で得られるエステル化の所望する度合いによって決定し、通常は、エステル化による無水グルコース単位の所望するモル置換度の計算量の1?10倍である。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は、一般的に0.1/1以上、好ましくは0.3/1以上、さらに好ましくは0.5/1以上、最も好ましくは1/1以上、および具体的には1.5/1以上である。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は好ましくは17/1以下、さらに好ましくは10/1以下、および最も好ましくは6/1以下である。【0026】ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は好ましくは0.01/1以上、さらに好ましくは0.04/1以上、および最も好ましくは0.2/1以上である。ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位との間のモル比は好ましくは2.5/1以下、さらに好ましくは1.5/1以下、および最も好ましくは1/1以下である。
【0027】本発明のプロセスで用いられるセルロースエーテルの無水グルコース単位のモル数を、DS(アルコキシル)およびMS(ヒドロキシアルコキシル)から置換無水グルコース単位の平均分子量を計算することで、出発材料として使用されるセルロースエーテルの重量から決定し得る。
【0028】セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、プロピオン酸または酪酸といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。反応希釈剤は、室温では液体であり、セルロースエーテルと反応しない、ベンゼン、トルーエン、1,4-ジオキサンもしくはテトラヒドロフラン;またはジクロロメタンまたはジクロロメチルエーテルといったハロゲン化C1-C3誘導体といった、芳香族または脂肪族溶媒といった他の溶媒または希釈剤を少量含み得るが、脂肪族カルボン酸の量は一般的に、反応希釈剤の総重量に基づき、50%超、好ましくは少なくとも75%、および、さらに好ましくは少なくとも90%であるべきである。最も好ましくは、反応希釈剤は、脂肪族カルボン酸を含む。さらに、エステル化反応は、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムといった、エステル化触媒としてのアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行される。」

「【0030】・・・反応混合物は通常60℃?110℃、好ましくは70?100℃で、反応を完全にするのに十分な期間、すなわち、一般的に2?25時間、さらに一般的には2?8時間の間、加熱する。出発材料としてのセルロースエーテルは、必ずしも脂肪族カルボン酸に溶解性であるとは限らないが、特にセルロースエーテルの置換度が比較的小さいときは脂肪族カルボン酸によってのみ分散または膨潤し得る。エステル化反応はそのような分散または膨潤したセルロースエーテルとでも生じ得、エステル化反応がすすむにつれて、反応下のセルロースエーテルは通常反応希釈剤に溶解し、最終的に均質な反応混合物を得る。」

「【0033】本発明のプロセス・・・
・・・・・
【0037】好ましいエステル化セルロースエーテルは、
i)HPMCXYおよびHPMCXであり、ここで、HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、XはA(アセテート)、もしくはXはB(ブチレート)、もしくはXはPr(プロピオネート)であり、YはS(サクシネート)、もしくはYはP(フタレート)、もしくはYはM(マレエート)であり、たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート(HPMCAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート(HPMCAM)、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、もしくはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA)であり;または、
ii)ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP);ヒドロキシプロピルセルロースアセテートサクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートサクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートサクシネート(HEHPCPrS);およびメチルセルロースアセテートサクシネート(MCAS)である。
【0038】ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)が、最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。」

ウ ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量Mwの実施の態様について

「【0039】エステル化セルロースエーテルは、上記のDS(メトキシル)およびMS(ヒドロキシアルコキシル)を有する。
【0040】エステル化セルロースエーテルは一般的に、0?1.75、好ましくは0.05?1.50、さらに好ましくは0.10?1.25、および最も好ましくは0.20?1.00の、アセチル、プロピオニルまたはブチリル基といった脂肪族一価アシル基の置換度を有する。
【0041】エステル化セルロースエーテルは一般的に、0?1.6、好ましくは0.05?1.30、さらに好ましくは0.05?1.00、および最も好ましくは0.10?0.70または0.10?0.60もの、サクシノイルといった式-C(O)-R-COOAの基の置換度を有する。
【0042】i)脂肪族一価アシル基の置換度およびii)式-C(O)-R-COOAの基の置換度の合計は0よりも上である。通常は、0.05?2.0、好ましくは0.10?1.4、さらに好ましくは0.20?1.15、最も好ましくは0.30?1.10および具体的には0.40?1.00である。
【0043】アセテートおよびサクシネートエステル基の含有量を、「Hypromellose Acetate Succinate,United States Pharmacopia and National Formulary、NF 29、pp.1548-1550」にしたがって決定する。報告値を揮発性物質に関して校正する(上記HPMCASモノグラフのセクション「乾燥の際の損失」で記載される通りに決定する)。類似したやり方でその方法を使用し、プロピオニル、ブチリル、フタリルおよび他のエステル基の含有量を決定し得る。
【0044】エステル化セルロースエーテルの含有量を、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、pp 3467?3469の「ヒプロメロース」に関して記載されるのと同じやり方で決定する。
【0045】上記分析によって得られたエーテルおよびエステル基の含有量を、下記の式にしたがって、各置換基のDSおよびMS値に変換する。式を類似したやり方で使用して、他のセルロースエーテルエステルの置換基のDSおよびMSを決定してもよい。
【0046】【数1】

【0047】従来、重量パーセントは、全置換基を含むセルロース反復単位の総重量に基づいた平均重量パーセンテージである。メトキシル基の含有量は、メトキシル基(すなわち、-OCH_(3))の質量に基づいて報告される。ヒドロキシアルコキシル基の含有量は、ヒドロキシアルコキシル基(すなわち、-O-アルキレン-OH)の質量に基づいて報告され;たとえば、ヒドロキシプロポキシル(すなわち、-O-CH_(2)CH(CH_(3))-OH)である。脂肪族一価アシル基の含有量は、アセチル(-C(O)-CH_(3))といった、R1が一価脂肪族基である-C(O)-R_(1)の質量に基づいて報告される。式-C(O)-R-COOHの基の含有量は、この基の質量、たとえば、サクシノイル基(すなわち、-C(O)-CH_(2)-CH_(2)-COOH)の質量に基づいて報告される。
【0048】本発明のプロセスにしたがって生産されたエステル化セルロースエーテル(複数可)は、出発材料として使用されたセルロースエーテルの重量平均分子量に基づいて予測されるよりも高い重量平均分子量を有することがわかった。理論に縛られることは望まないが、より高いこの分子量は、疎水性/親水性鎖結合および/または架橋結合反応によって作り出されていると考えられる。
【0049】上記のプロセスしたがい、一般的に40,000?700,000ダルトン、好ましくは70,000?400,000ダルトン、さらに好ましくは100,000?250,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有するエステル化セルロースエーテルが生産される。生産されたエステル化セルロースエーテルは通常、10,000?250,000ダルトン、好ましくは15,000?150,000ダルトン、さらに好ましくは20,000?50,000ダルトンの数平均分子量M_(n)を有する。生産されたエステル化セルロースエーテルは通常、150,000?2,500,000ダルトン、好ましくは300,000?2,000,000ダルトン、さらに好ましくは500,000?1,800,000ダルトンのz平均分子量、M_(z)を有する。
【0050】40体積部のアセトニトリルならびに50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含む60体積部の水性緩衝液の混合物を移動相として用いて、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743にしたがってM_(W)、M_(n)およびM_(z)を測定する。移動相をpH8.0に調節する。M_(W)、M_(n)およびM_(z)の測定を実施例でさらに詳細に説明する。」

エ ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の調製の実施例について

「【0069】実施例1?5のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の生産
氷酢酸、無水酢酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、無水コハク酸および酢酸ナトリウム(水なし)を、下記表1で列挙される量で、徹底的な撹拌下で3L容積の反応容器内に導入した。
【0070】HPMCは、下記表2に列挙されるメトキシル置換(DS_(M))およびヒドロキシプロポキシル置換(MS_(HP))、ならびに、ASTM D2363-79(再承認、2006)にしたがい、20℃の水中2%溶液として測定された約3mPa・sの粘度を有した。HPMCの重量平均分子量は、約20,000ダルトンであった。HPMCは、Methocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして、ダウ・ケミカル・カンパニー社から市販されている。
【0071】混合物を3.5時間の撹拌を伴って、85℃で加熱し、エステル化をもたらした。実施例1?4では、2.3Lの水を撹拌下でリアクターに添加し、HPMCASを沈殿させた。5200rpmで運転するUltra-Turrax攪拌機S50-G45を用いた高せん断混合を利用することで、沈殿した生成物をリアクターから取り除き、16Lの水で洗浄した。生成物を濾過によって単離し、50℃で一晩乾燥した。実施例5を、2Lの水をリアクターに添加し、HPMCASを沈殿させ、沈殿した生成物を3Lの水で1回、3.5Lの水で4回洗浄した点を除き、実施例1?4のように実施した。
【0072】比較実施例AおよびBのHPMCASの生産
比較実施例AおよびBにしたがったHPMCASの生産を、氷酢酸、無水酢酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、無水コハク酸および酢酸ナトリウム(水なし)の重量比が欧州特許出願EP第0219 426 A2の実施例2で開示される通りに使用された点以外は、実施例1?4の通りに実行した。使用した量を下記表1に記載する。
【0073】比較実施例AおよびBで使用したそれぞれのHPMCは、ASTM D2363-79(再承認、2006)にしたがって20℃の水中2%溶液として測定された、約6mPa・sおよび約3mPa・sの粘度をそれぞれ有した。各HPMCは、約10重量%のヒドロキシプロポキシル基および約29重量%のメトキシル基を含んでいた。これらのHPMCは、それぞれMethocel E6 LV PremiumセルロースエーテルおよびMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして、ダウ・ケミカル・カンパニー社から市販されている。
【0074】混合物を3.5時間の撹拌を伴って85℃で加熱し、エステル化をもたらした。1.2Lの水を撹拌下でリアクターに添加し、HPMCASを沈殿させた。5200rpmで運転するUltra-Turrax攪拌機S50-G45を用いた高せん断混合を利用することで、沈殿した生成物をリアクターから取り除き、8Lの水で洗浄した。生成物を濾過によって単離し、55℃で12時間乾燥した。
【0075】比較実施例Cの生産
比較実施例CにしたがったHPMCASの生産を、氷酢酸、無水酢酸、HPMC、無水コハク酸および酢酸ナトリウム(水なし)の重量比がUS特許第5,776,501号の比較実施例3で開示される通りに使用された点以外は、実施例1?4の通りに実行した。US特許第5,776,501号の比較実施例3で使用されたHPMCは、水中の2%溶液で測定された8.9mPa・sの粘度を有した。しかし、HPMC粘度の違いがHPMCASの分子量に影響を及ぼすことを避けるため、比較実施例Bで実施例1?4と同一のHPMCを使用した。
【0076】使用された量は下記表1に列挙される。混合物を5時間の撹拌を伴って85℃で加熱し、エステル化をもたらした。252.86gの水を撹拌下でリアクターに添加し、次いで、70.71gの濃塩酸(37重量%の濃度)を添加した。反応混合物を撹拌下(200rpm)で3.1Lの水に添加することで、沈殿した生成物を得た。5200rpmで運転するUltra-Turrax攪拌機S50-G45を用いた高せん断混合を利用することで、粗生成物を11Lの水で洗浄した。生成物を濾過によって単離し、12時間55℃で乾燥した。
【0077】比較実施例A?Cの反復
比較実施例AおよびBで得られたエステル置換%アセチルおよび%サクシノイルは、欧州特許出願EP第0219 426 A2号の実施例2で開示されたものとは著しく異なった。比較実施例Cでは、得られるエステル置換%アセチルおよび%サクシノイルは、US特許第5,776,501号の比較実施例3で報告されたエステル置換とある程度良好に適合した。
【0078】したがって、比較実施例A?Cを繰り返した。比較実施例A?Cの繰り返したセットで得られたエステル置換%アセチルおよび%サクシノイルは、比較実施例A?Cの1番目のセットと実質的に同じであった。表1および2における結果は、比較実施例A、BおよびCの2つのセットの平均を示す。
【0079】実施例1?4および比較実施例A?Cの結果を下記表2に列挙する。表2では、省略文字は次の通りの意味を有する:
DS_(M)=DS(メトキシル):メトキシル基との置換度;
MS_(HP)=MS(ヒドロキシプロポキシル):ヒドロキシプロポキシル基とのモル置換;
DOS_(Ac):アセチル基の置換度;
DOS_(S):サクシノイル基の置換度。
【0080】【表1】

【0081】【表2】

【0082】実施例3および4は、同じ反応の独立した繰り返しを表す。測定された分子量M_(n)、M_(W)およびM_(Z)は、2つの独立した反応の正常な変動内である。
【0083】実施例3/4を実施例1および2と比較すると、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)をエステル化セルロースエーテル生産プロセスで変えることで、出発材料として使用されたセルロースエーテルおよびエステル化剤の量が同じに保たれた場合でも、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量は変化し得ることが示される。モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)が減少する際、HPMCASといった生産されたエステル化セルロースエーテルの重量平均分子量は、増加する。
【0084】実施例1?4では、比較実施例BおよびCよりも非常に小さいモル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および(酢酸/セルロースエーテル無水グルコース単位)が使用されるにも関わらず、実施例1?4のHPMCASが、比較実施例BおよびCにしたがって生産されたHPMCASよりも非常に高い重量平均分子量M_(W)を有するのは、非常に驚くことである。
【0085】このことは、原材料コストの節約をもたらすだけでなく、余分な原材料をエステル化セルロースエーテルから分離するコストも低下させる。本発明のプロセスによって、必要とされる原材料は著しく少なくなる。
【0086】上記で考察される発見は、比較実施例BおよびCで得られる結果を考慮すると、非常に驚くべきことである。比較実施例Cのモル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、比較実施例Bより小さく、比較実施例CのMwもまた、比較実施例Bより小さかった。
【0087】実施例3および4で出発材料として使用されたHPMCは比較実施例Aで使用されたHPMCよりも低い粘度を有するのにも関わらず、また、実施例3および4のモル比(無水コハク酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および(無水酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は比較実施例Aよりもはるかに小さいのにも関わらず、実施例3および4で比較実施例Aと同様のMwが達成されることも、驚くことである。
【0088】実施例5では、モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、比較実施例Cで用いられるものと同等になるように選択された(したがって、比較実施例Bで使用されるものよりも低い)。実施例5では、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、比較実施例BおよびCよりも顕著に小さかった。実施例5で、比較実施例BおよびCよりもはるかに高い重量平均分子量M_(W)のHPMCASが達成されるのは、非常に驚くことである。
【0089】実施例5のモル比(無水コハク酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および(無水酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は、実施例5で比較実施例Cと同様のエステル置換を達成する目的で選択された。本発明のプロセスでは、比較実施例Cのプロセスと同様のエステル置換を達成するために、著しくより低いモル比(無水コハク酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)が必要とされることは、非常に驚くことである。」

(4)検討

ア 本件発明1について

(ア)発明の詳細な説明には、前記(3)ア?ウに記載されるように、一般的記載ではあるが、段落【0014】?【0015】に「モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量が変化し得ることが発見された・・ここで、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.55/1)?(9.0/1)である」と記載され、段落【0029】にも「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は(1.20/1)以下であり、・・さらに好ましくは(0.30/1)?(1.00/1)・・具体的には、(0.50/1)?(0.80/1)である。好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.8/1)?(8.0/1)・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)」と記載されている。
また、段落【0018】に「上記で定義されたセルロースエーテルの実例・・最も好ましくは、セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである」と記載され、段落【0024】に「好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は、無水酢酸・・。好ましいジカルボン酸無水物は、無水コハク酸・・。」と記載され、段落【0028】に「セルロースエーテルのエステル化は、酢酸・・といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。・・さらに、エステル化反応は、酢酸ナトリウム・・といった、エステル化触媒としてのアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行される」と記載され、及び、段落【0049】に「上記のプロセスしたがい、一般的に40,000?700,000ダルトン・・の重量平均分子量M_(w)を有するエステル化セルロースエーテル」と記載されている。
加えて、段落【0030】には「反応混合物は通常60℃?110℃・・で、反応を完全にするのに十分な期間・・一般的に2?25時間・・の間、加熱する。出発材料としてのセルロースエーテルは、必ずしも脂肪族カルボン酸に溶解性であるとは限らないが、特にセルロースエーテルの置換度が比較的小さいときは脂肪族カルボン酸によってのみ分散または膨潤し得る。エステル化反応はそのような分散または膨潤したセルロースエーテルとでも生じ得、エステル化反応がすすむにつれて、反応下のセルロースエーテルは通常反応希釈剤に溶解し、最終的に均質な反応混合物を得る」と記載されている。

(イ)さらに、段落【0030】に「エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、変化する。・・モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)およびモル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の双方を、先行技術で教示される特定のプロセスと比較してエステル化セルロースエーテルを生産するプロセスで減少させる場合、先行技術でのプロセスと実質的に同じ、またはそれよりも高い重量平均分子量を有するエステル化セルロースエーテルを、顕著に低下したコストで生産し得る」と記載され、並びに、段落【0048】に「本発明のプロセスにしたがって生産されたエステル化セルロースエーテル・・は、出発材料として使用されたセルロースエーテルの重量平均分子量に基づいて予測されるよりも高い重量平均分子量を有することがわかった。・・より高いこの分子量は、疎水性/親水性鎖結合および/または架橋結合反応によって作り出されていると考えられる」と記載されている。

(ウ)さらに、具体的実施例として、前記(3)エに記載されるように、実施例2?4(【0069】?【0071】、【0079】?【0089】)には、出発材料としてヒドロキシプロピルメチルセルロース、エステル化触媒として酢酸ナトリウム、反応希釈剤として酢酸、及び、エステル化剤として無水酢酸および無水コハク酸を用い、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)4.8?5.1[比較例A?C(【0072】?【0089】)は10.1]、及び、モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)0.54(比較例A?Cは0.98と1.97)で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製し、調製されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)は230?299kDa(比較例A?Cの重量平均分子量M_(w)は53?270kDa)であることが記載されている。

(エ)このように、本件発明1についての一般的な実施の態様として、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)及びモル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)の双方を、先行技術で教示される特定のプロセスと比較してエステル化セルロースエーテルを生産するプロセスで減少させる場合、先行技術でのプロセスと実質的に同じ、またはそれよりも高い重量平均分子量を有するエステル化セルロースエーテルを、顕著に低下したコストで生産し得ることが記載され、そのより高い重量平均分子量を有するエステル化セルロースエーテルは、疎水性/親水性鎖結合および/または架橋結合反応によって作り出されていると考えられると説明され、さらに、実施例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸及び無水コハク酸につき、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を[0.30/1]?[0.90/1]の範囲内である4.8?5.1、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を[4.5/1]?[9.0/1]の範囲内である0.54でエステル化し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が230?299kDa(比較例A?Cの重量平均分子量M_(w)は53?270kDa)を得ていることが記載されていることを考慮すると、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸及び無水コハク酸につき、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を[0.30/1]?[0.90/1]及びモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を[4.5/1]?[9.0/1]で、エステル化して調製されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートは、公知のプロセスにしたがって生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと実質的に同一又はそれよりも高い分子量を有するものと理解できる。

そうすると、本件発明1は、前記本件発明1の解決しようとする課題を解決できるといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

イ 本件発明2?4及び8?10について
前記1(3)イで述べたように、本件発明2?4及び8?10は、本件発明1において、それぞれ、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[4.5/1]?[8.0/1]である」こと、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が、[4.5/1]?[6.0/1]である」こと、「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.50/1]?[0.80/1]である」こと、「生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、40,000?700,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する」こと、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する」こと、及び、「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する」ことをさらに特定したものである。

そして、発明の詳細な説明には、それらの点について、段落【0029】に「好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.8/1)?(8.0/1)・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)」及び「モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は・・具体的には(0.50/1)?(0.80/1)である」という記載が、段落【0049】に「上記のプロセスしたがい、一般的に40,000?700,000ダルトン・・の重量平均分子量M_(w)を有するエステル化セルロースエーテル」という記載が、並びに、段落【0030】に「エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、変化する」という記載が、それぞれ存在することから、これらの記載も考慮すれば、本件発明2?4及び8?10も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(5)平成30年10月9日付け意見書に記載の特許異議申立人の主張について

ア 特許異議申立人は、当該意見書6頁「(2)理由2(特許法第36条第6項第1号)について」において、実施例で実施されているのは、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]0.54、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]5.6又は5.1?4.8の場合にすぎないため、本件発明1の、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.30/1]?[0.90/1]、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[9.0/1]の範囲でも、本件発明1の課題を解決できるか不明である旨、主張する。

しかしながら、前記(4)で述べたとおりであるから、前記範囲内である、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.30/1]?[0.90/1]、及び、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]の範囲では、本件発明1の課題を解決できるといえる。
本件発明2?4及び8?10についても同様である。

イ 特許異議申立人は、当該意見書6頁「(2)理由2(特許法第36条第6項第1号)について」において、乙第2号証(特許権者が平成30年7月17日付け意見書に添付物件として提出。特表2015-527464号公報。以下「乙2」という。)の表1及び2(【0080】?【0081】)は、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を低下させることにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの分子量を低下させることが示されており、前記各モル比の範囲では本件発明1の課題を解決できない可能性がある旨、主張する。

しかしながら、乙2に記載の実施例1?6(【0059】?【0082】)の実験結果である表1及び2(【0080】?【0081】)を検討すると、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が1.52?3.54であり、本件発明1の当該モル比[0.30/1]?[0.90/1]の範囲内になく直接関連するものではないから、当該文献の内容を参酌しない。
それ故、本件発明1が本件発明1の課題を解決できるか否かの判断は、乙2の記載によって左右されず、前記(3)で述べたとおり、本件発明1は本件発明1の課題を解決できるといえる。
本件発明2?4及び8?10についても同様である。

ウ したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(5)したがって、発明の詳細な説明には、本件発明1?4及び8?10が記載されているといえ、特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできない。
よって、本件発明1?4及び8?10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

II 平成30年4月20日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について

1 特許異議申立人が申し立てた理由1(特許法第29条第1項第3号)について

甲1(刊行物1)については、前記I 1(3)ア(ア)に記載の本件発明1と引用発明との相違点1及び2は、実質的な相違点であることから、本件発明1は甲1(刊行物1)に記載された発明とはいえない。
したがって、本件発明1及びこれを直接又は間接に引用して特定されている本件発明2?4及び8?10は、甲1(刊行物1)に記載された発明ではない。

よって、本件発明1?4及び8?10に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 特許異議申立人が申し立てた理由2(特許法第29条第2項)について

特許異議申立人は、訂正前の請求項8?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に示された証拠及び甲第3号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項8?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨、主張している。

本件発明8は、本件発明1?4において、生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量Mwを特定したものであり、本件発明9は、本件発明1?4において、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、生産されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が変化することを特定したものであり、及び、本件発明10は、本件発明1?4において、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、生産されるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が変化することを特定したものである。

甲3の表2(747頁)の、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS:アセチル/スクシノイルの比を変えた3つのサブクラス-LF、-MF、-HF)の測定重量平均分子量Mwが、HPMCAS-LF 134,145、HPMCAS-MF 130,458、HPMCAS-HF 281,463であるという記載を参酌しても、本件発明8?10が引用する本件発明1?4における、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]及びモル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を本件発明1?4の特定の範囲とすることを示唆するものではないから、刊行物1(甲1)に記載された発明及び甲第2号証に示された証拠に、さらに甲3に記載された技術的事項を参酌したとしても、前記I 1(3)で述べたように、本件発明1?4がそれらに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは依然としていえない以上、本件発明1?4を引用して特定されている本件発明8?10も、それらに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件発明8?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に示された証拠及び甲第3号証に記載の技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明8?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

3 特許異議申立人が申し立てた理由4(特許法第36条第4項第1号)について

(1)発明の詳細な説明の記載について
前記I 2(3)で述べたように、発明の詳細な説明には、本件発明1?4及び8?10に関して、段落【0014】?【0015】に「モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量が変化し得ることが発見された・・ここで、モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.55/1)?(9.0/1)である」と記載され、段落【0029】にも「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は(1.20/1)以下であり、・・さらに好ましくは(0.30/1)?(1.00/1)・・具体的には、(0.50/1)?(0.80/1)である。好ましくは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.8/1)?(8.0/1)・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)」と記載されている。
また、段落【0018】に「上記で定義されたセルロースエーテルの実例・・最も好ましくは、セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである」と記載され、段落【0024】に「好ましい脂肪族モノカルボン酸無水物は、無水酢酸・・。好ましいジカルボン酸無水物は、無水コハク酸・・。」と記載され、及び、段落【0028】に「セルロースエーテルのエステル化は、酢酸・・といった、反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。・・さらに、エステル化反応は、酢酸ナトリウム・・といった、エステル化触媒としてのアルカリ金属カルボン酸塩の存在下で実行される」と記載されている。
加えて、段落【0049】に「上記のプロセスしたがい、一般的に40,000?700,000ダルトン・・の重量平均分子量M_(w)を有するエステル化セルロースエーテル」と記載され、及び、段落【0030】に「エステル化セルロースエーテルの重量平均分子量Mwは、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)および/またはモル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)を変えることで、変化する」と記載されている。
さらに、実施例2?4(【0069】?【0071】、【0079】?【0089】)には、出発材料としてヒドロキシプロピルメチルセルロース、エステル化触媒として酢酸ナトリウム、反応希釈剤として酢酸、及び、エステル化剤として無水酢酸および無水コハク酸を用い、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)4.8?5.1[比較例A?C(【0072】?【0089】)は10.1]、及び、モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)0.54(比較例A?Cは0.98と1.97)で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製し、該調製されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が230?299kDa(比較例A?Cの重量平均分子量M_(w)は53?270kDa)であることが記載されている。

(2)検討

ア 本件発明1について
本件訂正により、本件発明1は、「エステル化セルロースエーテル」という発明特定事項が「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」、「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」という発明特定事項が「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」、「脂肪族カルボン酸」という発明特定事項が「酢酸」、並びに、「(i)「脂肪族モノカルボン酸無水物」または(ii)「ジカルボン酸無水物」または(iii)「脂肪族モノカルボン酸無水物」および「ジカルボン酸無水物」の組み合わせ」という発明特定事項が「無水酢酸および無水コハク酸」、とそれぞれ訂正された。
それ故、出発原料のセルロースエーテルである「ヒドロキシアルキルアルキルセルロース」としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エステル化剤である「脂肪族モノカルボン酸無水物」として無水酢酸、及び、同じくエステル化剤である「ジカルボン酸無水物」として無水コハク酸をそれぞれ使用し(エステル化剤として(iii)を使用した場合に相当)、生成物である「エステル化セルロースエーテル」としてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を製造した場合‘以外’の場合については、本件発明1の範囲外となった。

そして、前記(1)の記載のとおり、本件発明1に関して、実施例2?4には、出発材料としてヒドロキシプロピルメチルセルロース、エステル化触媒として酢酸ナトリウム、反応希釈剤として酢酸、及び、エステル化剤として無水酢酸および無水コハク酸を用い、モル比(酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)4.8?5.1(比較例A?Cは10.1)、及び、モル比(酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位)0.54(比較例A?Cは0.98と1.97)でヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製したことが記載され、並びに、段落【0014】?【0015】に「モル比(アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(1.20/1)以下であり、モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.55/1)?(9.0/1)である」と記載され、段落【0029】にも「モル比[アルカリ金属カルボン酸塩/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は(1.20/1)以下であり、・・さらに好ましくは(0.30/1)?(1.00/1)・・である。・・モル比(脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位)は(3.8/1)?(8.0/1)・・最も好ましくは(4.5/1)?(6.0/1)」と記載されている。

これらの記載があれば、当業者は、本件発明1である「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセスであって、ここでセルロースエーテルを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸および無水コハク酸でエステル化し、ここで、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり、前記セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、前記プロセス」を過度な試行錯誤を経ることなく、実施することができるといえる。
したがって、本件発明1については、発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

イ 本件発明2?4及び8?10について
本件発明2?4及び8?10についても、前記(1)の発明の詳細な説明の一般的記載及び具体例である実施例の記載から、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

ウ したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1?4及び8?10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、本件発明1?4及び8?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

4 特許異議申立人が申し立てた理由5(特許法第36条第6項第2号)について

本件発明9は、「前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで」、及び、本件発明10は「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで」、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量Mwが変化することを特定したに過ぎないものであって、本件発明9及び10は、プロセスを各段階で特定した発明ではないので、「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」又は「前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]」をどの段階で変化させるのかを特定していないからといって、不明確となるものではない。
したがって、プロセスが1つのエステル化反応を意味する場合、アルカリ金属カルボン酸塩、脂肪族カルボン酸、又はセルロースエーテルの量を、どの段階で変化させるのかを特定していないことによって、また、プロセスが複数のエステル化反応を意味する場合、第1のエステル化反応で得られたエステル化セルロースエーテルをどのように処理した後に、一方のモル比を変えて第2のエステル化反応を行うのかを特定していないことによって、クレームが不明確となるとはいえない。

したがって、本件発明9及び10は、明確であるといえ、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないということはできない。
よって、本件発明9及び10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?4及び8?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立ての理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4及び8?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項5?7は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5?7に係る特許に関する申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを調製するプロセスであって、ここでセルロースエーテルを、酢酸ナトリウムおよび酢酸の存在下で、無水酢酸および無水コハク酸でエステル化し、ここで、モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[0.30/1]?[0.90/1]であり、モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は[4.5/1]?[9.0/1]であり、前記セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、前記プロセス。
【請求項2】
前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[8.0/1]である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[4.5/1]?[6.0/1]である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]が[0.50/1]?[0.80/1]である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
生産されたヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、40,000?700,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記モル比[酢酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記モル比[酢酸ナトリウム/セルロースエーテルの無水グルコース単位]を変えることで、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの前記重量平均分子量M_(w)が変化する、請求項1?4のいずれか1項に記載のプロセス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-25 
出願番号 特願2015-528539(P2015-528539)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C08B)
P 1 651・ 121- YAA (C08B)
P 1 651・ 537- YAA (C08B)
P 1 651・ 536- YAA (C08B)
P 1 651・ 113- YAA (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2017-06-30 
登録番号 特許第6166372号(P6166372)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 アルカリ金属カルボン酸塩および脂肪族カルボン酸の存在下でエステル化セルロースエーテルを調製するためのプロセス  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 三橋 真二  
代理人 出野 知  
代理人 松井 光夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 三橋 真二  

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