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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1349670
異議申立番号 異議2018-700281  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-04 
確定日 2019-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6207846号発明「透明導電性フィルムおよびタッチパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6207846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9及び18〕について訂正することを認める。 特許第6207846号の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許を維持する。 特許第6207846号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6207846号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、平成25年3月4日の出願であって、平成29年9月15日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、同年10月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年4月4日に特許異議申立人 星 正美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、当審において同年6月11日付けで取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、同年8月10日に特許権者 富士フイルム株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年8月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月28日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年10月30日付けで審尋がされ、同年12月21日に特許権者から回答書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成30年8月10日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含み、前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であることを特徴とする」と記載されているのを、「前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含み、前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であり、前記透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%であることを特徴とする」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2、3、5ないし9及び18についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3のいずれか1項」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項5を引用する請求項6ないし9及び18についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3、5のいずれか1項」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項6を引用する請求項7ないし9及び18についても、請求項6を訂正したことに伴う訂正をする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3、5、6のいずれか1項」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項7を引用する請求項8、9及び18についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3、5?7のいずれか1項」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項8を引用する請求項9及び18についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3、5?8のいずれか1項」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項9を引用する請求項18についても、請求項9を訂正したことに伴う訂正をする。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項18に「請求項1?9のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1?3、5?9のいずれか1項」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、「透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%である」という記載を追加することによって、訂正前の請求項1に係る発明における透明導電性フィルムの誘電率の変化率を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項4及び本件特許の願書に添付した明細書の【0027】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5並びに訂正前の請求項5を引用する訂正前の請求項6ないし9及び18が訂正前の請求項1ないし4のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6並びに訂正前の請求項6を引用する訂正前の請求項7ないし9及び18が訂正前の請求項1ないし5のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項7並びに訂正前の請求項7を引用する訂正前の請求項8、9及び18が訂正前の請求項1ないし6のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項8並びに訂正前の請求項8を引用する訂正前の請求項9及び18が訂正前の請求項1ないし7のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項9及び訂正前の請求項9を引用する訂正前の請求項18が訂正前の請求項1ないし8のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項18が訂正前の請求項1ないし4及び5ないし9のいずれか1項を引用するものであったのを、訂正前の請求項4を引用するものを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

なお、訂正前の請求項2ないし9及び18は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし9及び18は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし8は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし8は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし9及び18〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9及び18〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、平成30年8月10日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
透明樹脂フィルムと、前記透明樹脂フィルムの上に形成された導電層を含む透明導電性フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含み、
前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であり、
前記透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記導電層は、間欠部を有するように形成されることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記導電層が水溶性樹脂と銀を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
面内複屈折(Re)が1?20nmであり、厚み方向複屈折(Rth)が1?20nmであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
100℃熱水中60秒の熱寸法変化率の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
-20?30℃の誘電率の変化率の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5、6のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
面内複屈折(Re)の面内変動が1?10%であり、厚み方向複屈折(Rth)の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項9】
前記透明樹脂フィルムの厚みが20?60μmであることを特徴とする請求項1?3、5?8のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項10】
環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムを形成する工程と、
前記透明樹脂フィルムの上に導電層を形成する工程とを含み、
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含み、
前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含み、
前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であることを特徴する透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記押出工程の前に、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をダイに送る工程を有し、前記溶融樹脂をダイに送る工程では、溶融樹脂をダイに送るメルト配管に1?10℃の温度分布を付与することを特徴とする請求項10に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記押出工程の前に、環状オレフィン樹脂を含む組成物を押出機に投入する工程を含み、前記投入する工程では、前記組成物を(Tg-80)?Tg℃に加熱することを特徴とする請求項10または11に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記投入する工程は、前記押出機に不活性ガスを投入する工程を含み、前記不活性ガスを投入する工程では、前記不活性ガスの供給量に0.5?10%の変動を付与することを特徴とする請求項12に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記押出工程は、溶融樹脂に10?300回/分の振動を与える工程を含むことを特徴とする請求項10?13のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記押出工程は、溶融樹脂をキャストドラムに押し出す工程を含み、前記キャストドラムには、0.5?10℃の温度分布が付与されることを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記キャストドラムに押し出す工程の後に、シート状の樹脂シートを熱ロールに接触させる工程を含み、前記熱ロールに接触させる工程では、熱ロールの回転数に0.1?5%の変動を与えることを特徴とする請求項15に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記導電層を形成する工程は、ハロゲン化銀乳剤層を形成する工程と、前記ハロゲン化銀乳剤層に露光処理をし、現像処理をする工程を含む請求項10?16のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項1?3、5?9のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを用いたタッチパネル。」

第4 特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立ての理由の概要
平成30年4月4日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、該理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし18に対するものである。

(1)申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1、2及び18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(主引用文献は、甲第1号証である。)。なお、特許異議申立書の「3(1)」及び「3(4)エ(ア)」においては、本件特許の請求項10に係る発明も該申立理由の対象とされているが、具体的な理由は示されていないので、該申立理由の対象は、本件特許の請求項1、2及び18に係る発明であると判断した。以下、「申立理由1」という。

(2)申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(主引用文献は、甲第1号証又は甲第3号証である。)。以下、「申立理由2」という。

(3)申立理由3(サポート要件)
発明の詳細な説明には、下塗り層が介在しない透明導電性フィルムは、実施例74を除いて全く記載されていないので、下塗り層を必須要件としない本件特許発明1ないし18について、発明の課題が達成できることを十分にサポートしている記載があるとは認められない。
したがって、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。以下、「申立理由3」という。

(4)申立理由4(明確性)
本件特許発明10ないし17は、押出工程に「シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程」を含むことを規定しているが、発明の詳細な説明には、「厚みムラを付与する工程」に該当するか否かをどのようにして判断するかについては何も記載されていない。
また、発明の詳細な説明には、ダイリップ間隔分布を設けることが「厚みムラを付与する工程」の具体例のように記載されているが、「厚みムラを付与する工程」に該当するかも不明瞭である。
したがって、本件特許の請求項10ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。以下、「申立理由4」という。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開2012-25158号公報(2012年2月9日公開)
甲第2号証:特開2007-2027号公報(2007年1月11日公開)
甲第3号証:WO2011/108494号(2011年9月9日公開)
甲第4号証:特開2012-66481号公報(2012年4月5日公開)
甲第5号証:特開2011-43628号公報(2011年3月3日公開)
甲第6号証:特開2012-80091号公報(2012年4月19日公開)
甲第7号証:特開2008-307831号公報(2008年12月25日公開)
甲第7号証の2:特開2012-133386号公報(2012年7月12日公開)
甲第8号証:特開2005-43740号公報(2005年2月17日公開)
甲第9号証:特開2003-279741号公報(2003年10月2日公開)
甲第9号証の2:再公表2003/081299号公報(2005年11月17日発行)
甲第10号証:特開2008-273057号公報(2008年11月13日公開)
甲第11号証:特開2006-255892号公報(2006年9月28日公開)
甲第11号証の2:特開2002-113758号公報(2002年4月16日公開)
甲第11号証の3:特開2003-266520号公報(2003年9月24日公開)
甲第12号証:特開2009-154518号公報(2009年7月16日公開)
甲第12号証の2:特開2009-90541号公報(2009年4月30日公開)
甲第12号証の3:特開2006-153983号公報(2006年6月15日公開)
甲第13号証:特開2009-83322号公報(2009年4月23日公開)
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
取消理由の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし18に対するものである。

(1)取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1、2及び18に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び18に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。以下、「取消理由1」という。なお、該取消理由1は、申立理由1と同旨である。

(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。以下、「取消理由2」という。なお、該取消理由2は、申立理由3と同旨である。

第5 特許異議申立ての理由及び取消理由についての判断
1 特許異議申立ての理由についての判断
1-1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
ア 甲号証に記載された事項等
(ア)甲1に記載された事項及び甲1発明
a 甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、予め付されたものもある(甲9)が、基本的には他の甲号証を含め当審で付したものである。

・「【請求項1】
透明基板の一方面側にパターニングされた透明導電膜を有する透明面状体であって、
前記透明基板の他方面側に偏光板を備えており、
前記透明基板は、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が80:20?90:10、MVR(メルトボリュームレート)が0.8?2.0cm^(3)/10分である環状オレフィンの付加(共)重合体よりなるリタデーション100nm?150nmの位相差フィルムである透明面状体。
【請求項2】
前記透明基板は、160℃で30分の熱処理による収縮率がMD(流れ方向)、TD(垂直方向)ともに、0.5%以下である請求項1に記載の透明面状体。
・・・(略)・・・
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の透明面状体を少なくとも1つ備える透明タッチパネルであって、前記透明面状体の透明導電膜と、該透明導電膜とは異なる第2の透明導電膜とが、互いに対向する向き、或いは、同一方向となる向きに配置されている透明タッチパネル。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリカーボネートやシクロオレフィンポリマーフィルム等の、ガラス転移点(Tg)が150℃以下の素材からなる位相差フィルムは、フィルム111上にITO(酸化インジウムスズ)を成膜する際に、例えばTg=150℃のフィルムでは、フィルム温度を140℃以上に設定すると、リタデーションが低下する為、成膜温度や成膜後の熱処理(アニール処理)の温度が上げられず、ITOの結晶化度が低いものしか得られない。この結果、ITO膜の低抵抗化が困難であるという問題があった。
【0009】
また、透明導電膜を所定のパターン形状を有するように構成した場合(例えば、複数の帯状の導電部の集合体となるように構成した場合)、透明導電膜のパターン形状が目立ってしまい、視認性が低下するという問題もあった。この問題の要因の一つとして、ITOの結晶化が不十分であると、波長400?450nmの光の吸収が大きくなり、ITO膜が黄色味の強い色目となることが考えられる。
【0010】
また、透明導電膜のパターン形状を目立ちにくくするためには、透明導電膜の厚みを薄くする必要があるが、透明導電膜の厚みを薄くすると抵抗値が上昇してしまうという問題もあった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、低抵抗化が可能でかつ視認性を向上させることができる透明面状体及び透明タッチパネルを提供することを目的とする。」

・「【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る透明タッチパネルの概略構成断面図である。この透明タッチパネル100は、静電容量式のタッチパネルであり、第1透明面状体1と第2透明面状体2とを備えている。第1透明面状体1は、一方面側にパターニングされた透明導電膜11を有する透明基板12と、該透明基板12の他方面側に配置される偏光板13とを備えている。この偏光板13は、通常、図示しないエポキシ系やアクリル系などの一般的な透明接着剤を介して透明基板12に貼着されている。第2透明面状体2は、一方面側にパターニングされた透明導電膜21が形成された透明基板22を備えている。第1の透明面状体1と第2の透明面状体2とは、それぞれの透明導電膜11,21が互いに離間して対向するようにして、粘着層3を介して貼着されている。なお、それぞれの透明導電膜11,21が同一方向を向くようにして配置してもよい。」

・「【0026】
また、160℃で30分の熱処理による収縮率がMD(流れ方向)、TD(垂直方向)ともに、0.5%以下であるのが好ましい。収縮率が0.5%を超えると、例えば高結晶の透明導電膜(ITO膜)を形成するために150℃のような高温でスパッタリング加工する際に、フィルムのフラット性が維持できずに変形したり、さらには表面に形成したITO膜にクラックが発生する不具合が生じる。収縮率を0.5%以下に抑えるための手段は特に制限はないが、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が80:20?90:10、MVR(メルトボリュームレート)が0.8?2.0cm^(3)/10分である、ガラス転移温度が170?200℃の環状オレフィンの付加(共)重合体を使用し、例えば180℃以上で延伸加工を行うことによって得られる。」

・「【0038】
収縮率の測定は、100×100mmのサイズに切り出したフィルムの4辺の長さを測長機を用い、0.001mm単位で測定し、次いで測定したフィルムを160℃に設定したオーブンに30分間投入した後取りだし、再度フィルムの4辺の長さを測長機を用い、0.001mm単位で測定し、4辺の長さのそれぞれの変化量を求めた。2枚ずつ測定し、MD方向、TD方向それぞれについて平均値を求め収縮率とした。値がマイナスの場合は収縮を意味し、プラスの場合は膨張を意味する。」

・「【0044】
また、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18であり、ガラス転移温度180℃、MVR=1.5の共重合体を溶融押出法にて樹脂温度300℃、引取りロール温度130℃で、厚みが200μmになるようにフィルムを作成した。次いでテンタークリップ方式の延伸機にて、速度1.0m/min、延伸倍率2.0倍、フィルム温度を185.5℃にて横延伸することにより、リタデーション138nm、Nz係数=1.5、フィルム厚み95μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.06%、TD=-0.12%であった。得られた位相差フィルムの強度は十分使用できるものであった。
【0045】
得られた位相差フィルムの両面に、紫外線硬化型のアクリル系塗料を用い、厚みが表裏それぞれ6μmになるようにハードコート層を設けた。得られたフィルムの表面の鉛筆硬度はHBであった。上記で得られたフィルムの片面に、フィルム温度を1
5 0℃に保った状態で抵抗値236Ω/□のITO透明導電膜をスパッタリング法により形成した。得られたITO膜(実施例3)の結晶化度の測定結果を図8に示す。」

・「【0055】
このような構成のアンダーコート層14,24を透明基板12,22と透明導電膜11,21との間に介在させることにより、光の可視範囲波長である450nm?700nmにおいて、透明導電膜11,21が形成された部分(パターン形成領域)を透過する光の透過スペクトルと、透明導電膜11,21が形成されていない部分(非パターン形成領域)を透過する光の透過スペクトルとの差を小さくすることができ、透明導電膜11,21のパターン形状が目立ちにくい視認性が良好な透明面状体1,2及び透明タッチパネル100を得ることが可能になる。なお、上記薄膜構成以外にも、光の可視範囲波長において、パターン形成領域を透過する光の透過スペクトルと、非パターン形成領域を透過する光の透過スペクトルとの差を小さくする構成であれば同様の効果が得られる。
【0056】
本発明者らは、アンダーコート層14を透明基板12と透明導電膜11との間に介在させた、図11に示す構造を有するサンプルを作成して、透過光を照射した場合に、透明導電膜11のパターン形状が目立たないか否かの官能試験、及びシート抵抗値の測定を行った。
[実施例1]
本サンプルは、図11に示す構造を有しており、アンダーコート層14を構成する低屈折率層14aと高屈折率層14bとは、それぞれ、スパッタで成膜したSiO_(2)薄膜(屈折率:1.46)と、酸化ジルコニウム微粒子を含有するハードコート剤(東洋インキ製造株式会社製リオデュラス)をコーティングして成膜した高屈折率ハードコート層(屈折率:1.65)と、により形成した。また、パターニングされた透明導電膜は、スパッタで成膜したITO膜をエッチングして形成した。低屈折率層14a(SiO_(2)薄膜)の厚みを7.5nmとし、高屈折率層14b(高屈折率ハードコート層)の厚みを5μmとし、透明導電膜(ITO膜)の厚みを20nmとした。また、粘着層3の厚みは、25μmであり、粘着層3の屈折率は、1.47である。また、透明基板12は、ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18であり、ガラス転移温度180℃、MVR=1.5の共重合体を溶融押出法にて樹脂温度300℃、引取りロール温度130℃で、厚みが100μmになるようにフィルムを作成し、次いでロール周速が7.0m/minと、ロール周速が14.0m/minの2本の異なる周遠の金属ロール間を、フィルム温度を190℃に保った状態で走行させることにより、延伸倍率2.0倍、リタデーション138nm、Nz係数=1.0、フィルム厚み86μmの位相差フィルムにより形成している。得られた位相差フィルムの160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.46%、TD=0.22%である。なお、この位相差フィルム(透明基板12)の屈折率は、1.53である。また、透明基板12の他方面(透明導電膜11が形成されていない側の面)には、アクリル系UV硬化樹脂からなるハードコート層6が配置されている。このハードコート層の厚みは、5μmである。」

・「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



・「【図11】



b 甲1発明
甲1に記載された事項、特に【0044】及び【0045】の記載を整理すると、甲1には、次の2つの発明(以下、順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人は、甲1に記載された発明を具体的には認定していない。

<甲1発明1>
「ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18である透明基板と、前記透明基板の上に形成された透明導電膜を含む透明面状体であって、
前記透明基板の160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.06%、TD=-0.12%である透明面状体。」

<甲1発明2>
「ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18である透明基板を形成する工程と、
前記透明基板の上に透明導電膜を形成する工程とを含み、
前記透明基板を形成する工程は、共重合比率が、82:18であるノルボルネンとエチレンをシート状にする押出工程を含み、
前記透明基板の160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.06%、TD=-0.12%である透明面状体の製造方法。」

(イ)甲3に記載された事項及び甲3発明
a 甲3に記載された事項
甲3には、次の事項が記載されている。

・「請求の範囲
[請求項1] 透明樹脂からなるフィルム(I)に透明導電層(III)が積層されてなる導電性積層フィルムであって、透明導電層(III)側の表面部が複数の凸部を有しており、表面が曲面で形成されている、複数の凸部を含む部位を有することを特徴とする導電性積層フィルム。
・・・(略)・・・
[請求項16] 前記フィルム(I)が、環状オレフィン系樹脂およびポリカーボネート樹脂の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1?15のいずれかに記載の導電性積層フィルム。
・・・(略)・・・
[請求項19] 透明導電層(III)が、結晶性ITOにより形成されていることを特徴とする請求項1?18のいずれかに記載の導電性積層フィルム。
[請求項20] 請求項1?19のいずれかに記載の導電性積層フィルムを有することを特徴とするタッチパネル。」

・「[0115] 透明樹脂をフィルム状に成形する方法は、透明樹脂の種類あるいはフィルムの所望特性などに応じて適宜選択して行うことができ、たとえば、溶融成形法および溶剤キャスト法(溶液流延法)などの方法を採用することができる。フィルムの成形方法としては、膜厚の均一性および表面平滑性が良好になる点からは溶剤キャスト法が好ましい。また、製造コスト面からは溶融成形法が好ましい。このようにして成形したフィルムは、特に限定されるものではないが、フィルム厚みが通常70?300μm、好ましくは80?250μmであり、フィルムの最大厚みと最小厚みとの差が通常3μm以内、好ましくは2μm以内である。」

・「[0189] (8)熱収縮率(%)は、150℃に加熱した強制循環式乾燥機の中に標記フィルムを60分間静置させ、ミツトヨ製 寸法測定顕微鏡176-812を用いて加熱前後のフィルムの寸法変化を測定し、熱収縮率を算出する場合、1.5%以下が好ましく、1.3%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。熱収縮率が1.5%を超えると、タッチパネルの変形が発生する場合がある。」

・「[0223]・・・(略)・・・
[合成例1](環状オレフィン系重合体Aの合成)
8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.1^(2.5).1 ^(7.10)]-3-ドデセン227.5部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン22.5部、1-ヘキセン(分子量調節剤)18部、トルエン(開環重合反応用溶媒)750部とを窒素置換した反応容器内に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(1.5モル/L)0.62部と、t-ブタノール/メタノールで変性した六塩化タングステン(t-ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/L)3.7部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環共重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
[0224] このようにして得られた開環共重合体溶液4,000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C_(6)H_(5))_(3) ]_(3) 0.48部を添加し、水素ガス圧力100kg/cm^(2)、反応温度160℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。
[0225] 得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加された環状オレフィン系重合体Aを得た。
[0226] [作製例1](環状オレフィン系重合体フィルムA-1の製造)
合成例1で得られた環状オレフィン系重合体Aを、固形分濃度が30%となるようにトルエンに溶解した。得られた溶液の室温における溶液粘度は30,000mPa・sであった。この溶液に、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を、環状オレフィン系重合体A100重量部に対して0.1重量部を添加し、得られた溶液を日本ポール製の孔径5μmの金属繊維焼結フィルターを用い、差圧が0.4MPa以内に収まるように溶液の流速をコントロールしながら濾過した後、クラス1000のクリーンルーム内に設置した井上金属工業製の「INVEXラボコーター」を用い、アクリル酸系表面処理剤によって親水化(易接着性化)処理された、厚みが100μmのPETフィルム(東レ(株)製の「ルミラーU94」)に塗布した。次いで、得られた液層に対して、50℃で一次乾燥処理を行い、さらに、90℃で二次乾燥処理を行った後、PETフィルムから剥離させることにより、厚さ188μmの環状オレフィン系重合体フィルムA-1を形成した。得られた環状オレフィン系重合体フィルムA-1の残留溶媒量は0.5重量%であり、光線透過率は93%以上であった。」

・「[0230] [製造例1](積層フィルムB-1の製造)
UV硬化樹脂(JSR(株)製 デソライトKZ-9136)を、グラビアリバース法にて、環状オレフィン系重合体フィルム作製例1により得られたA-1の片面に塗布後、畝形状が形成されたロールに密着させながら、1J/cm^(2)の紫外線を照射して、厚さ2μmの土台の上に凸部の最大高さ2μm、ピッチP1000μmの正弦曲線を持つ畝形樹脂層を有する積層フィルムB-1を得た。」

・[0238]の[表1]に、製造例1の積層フィルムB-1の熱収縮率はMD方向で0.2%、TD方向で0.1%であることが記載されている。

・「[0276] [作製例4](環状オレフィン系樹脂フィルムA-1aの製造)
環状オレフィン系樹脂として、ノルボルネン系樹脂(JSR株式会社製:商品名「ARTON D4531」、ガラス転移温度130℃)を用いた。この原料を乾燥温度100℃で、窒素下で除湿乾燥を行い、押出機(ジーエムエンジニアリング社製:GM-65)に導き260℃で溶融し、ギアポンプを用いて定量で送液し、5μmリーフディスクフィルターを用いて、異物を除去し、250℃に設定したアルミ鋳込みヒーターにより加熱されたTダイから押出を実施した。このときのTダイの開口は1.0mmであり、Tダイ出口と冷却ロール1のフィルムの圧着点との間の距離は70mmとした。冷却ロール1は、300mmφのロールの表面に、頂角100度でピッチ50μのプリズム形状の凸部がロール周方向に連続して彫刻された、畝形状の凸部を有するものであった。Tダイから押出された溶融物を冷却ロール1に圧着させた。冷却ロール1の温度は120℃としてノルボルネン系樹脂フィルムの表面に当該形状が良く転写するようにした。そして、その下流側に300mmφの冷却ロール2を、さらに下流側に300mmφの剥離ロールを設けた。それぞれのロールの温度を115℃、100℃として、フィルム表面温度98℃で剥離ロールからフィルムを剥離させて、頂角100度でピッチ50μmのプリズム形状の凸部がフィルム長手方向に連続した、畝形状の凸部を持つ250μm厚みのノルボルネン系樹脂フィルムA-1aを得た。」

b 甲3発明
甲3に記載された事項を整理すると、甲3には、次の2つの発明(以下、順に「甲3発明1」及び「甲3発明2」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人は、甲3に記載された発明を具体的には認定していない。

<甲3発明1>
「環状オレフィン系樹脂を含有する透明樹脂からなるフィルムに結晶性ITOにより形成されている透明導電層が積層されてなる導電性積層フィルムであって、
前記フィルムの150℃、60分処理後の熱収縮率が、MD方向で0.2%、TD方向で0.1%である導電性積層フィルム。」

<甲3発明2>
「環状オレフィン系樹脂を含有する透明樹脂からなるフィルムを形成する工程と、
前記フィルムの上に結晶性ITOにより形成されている透明導電層を形成する工程とを含み、
前記フィルムを形成する工程は、環状オレフィン系樹脂を含有する透明樹脂をPETフィルムに塗布し、次いで、乾燥し、PETフィルムから剥離することによりシート状に形成する工程を含み、
前記フィルムの150℃、60分処理後の熱収縮率が、MD方向で0.2%、TD方向で0.1%である導電性積層フィルムの製造方法。」

(ウ)甲2及び4ないし13に記載された事項
甲2及び4ないし13には、次の事項が記載されている。

a 甲2に記載された事項
・「【請求項1】
60℃・相対湿度90%の環境下にて500時間吊したときの寸法変化率が遅相軸方向およびそれに直交する方向とも-0.1%?0.1%であり、90℃ドライの環境下にて500時間吊したときの寸法変化率が遅相軸方向およびそれに直交する方向とも-0.1%?0.1%であり、厚みのバラツキが0?2μm、面内のレターデーション(Re)のバラツキが0?5nm、厚み方向のレターデーション(Rth)のバラツキが0?10nmであり、遅相軸のズレが-0.5?0.5°であることを特徴とする飽和ノルボルネン樹脂フィルム。」

・「【0009】
以上に鑑みて、本発明は、延伸飽和ノルボルネン樹脂フィルムの寸法安定性向上とボーイング現象抑制という二つの課題を同時に解決することを目的とする。すなわち、温湿または乾熱における寸法安定性が優れ、且つフィルムの長手方向と幅方向における物性が均一であり、レターデーション(Re、Rth)のムラと幅方向の遅相軸ズレが極めて小さい飽和ノルボルネン樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、そのような飽和ノルボルネン樹脂フィルムを用いて、優れた光学的性質を有する偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムを提供し、さらに高温環境下や高湿環境下における色ムラを改良した液晶表示装置を提供することも目的とする。」

・「【0132】
(6)湿熱処理および乾熱処理によるフィルムの寸法変化
湿熱および乾熱におけるフィルムの寸法変化は自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いて測定した。サンプルフィルムの流延方向(MD)および横方向(TD)より、50mm幅×150mm長さのサンプル片を各5枚ずつ採取した。サンプル片の両端に6mmφの穴をパンチを用いて100mm間隔で開けた。これを、25℃・相対湿度60%の室内で24時間以上調湿した。ピンゲージを用いて、パンチ間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。次にサンプル片を60℃・相対湿度90%の恒温器または90℃ドライのオーブンに無荷重で吊して500時間熱処理し、その後25℃・相対湿度60%の室内で24時間以上調湿してから、自動ピンゲージで熱処理後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。次式により湿熱寸法変化率を算出した。ここで言う寸法変化率は、測定した各5枚の測定値の平均値である。
寸法変化率(%)={(L2 -L1)/L1}×100」

・「【0141】
【表1】



b 甲4に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートが熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなり、基材シート表面に第1ハードコート層、反対側基材シート表面に第2ハードコート層が積層され、
前記第1ハードコート層に平均一次粒子径が10nm以上100nm以下である鱗片状の無機粒子を含み、当該積層フィルムの写像鮮明性が90%以上である積層フィルム。
・・・(略)・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載の積層フィルムの第1ハードコート層上に、導電膜が積層されているタッチパネル用積層フィルム。」

・「【0025】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる基材シートは、膜厚が20μm以上250μm以下が好ましく、より好ましくは23μm以上188μm以下である。
【0026】
本発明の一態様として、用いられる熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる基材シートは、10nm以下の面内及び厚み方向の面内位相差(レターデーション)を示す。バックライトから発せられた光および表面から入ってきた光をそのまま通す必要性がある場合は、レターデーション(複屈折率)値の小さい光学等方性有することが必要となる。レターデーション値が10nmを越えるような大きい値であると、バックライトから出射された光および偏光板を通過した光が互いに垂直な振動方向をもつ2つの光波に分けられ、光波の位相ずれが発生して円偏光が楕円偏光になり、バックライトから出射された色と異なる色になったり、色むらが生じたりする。」

・「【0070】
熱収縮率(%)は、150℃に加熱した強制循環式乾燥機の中に積層フィルムを60分間静置させ寸法変化を測定し、熱収縮率を算出する場合、1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以下である。熱収縮率が1.5%を超えると、タッチパネルの変形が発生する場合がある。」

・「【0102】
(実施例1)
10nm以下のレターデーションを有する基材シートとして、厚みが100μmのZFを用いた。前記基材シート上に、ハードコート層形成組成物H1を1μm片面に塗布し、もう一方の面にH5を1μm塗布し紫外線照射により硬化を行った。H2上にITOを150℃でスパッタリングして、さらに150℃で1時間熱処理を行うことにより、結晶性に優れた透明電極を形成し、タッチパネル用光学シートを得た。結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
【0105】
・・・(略)・・・
(実施例6)
140nmのレターデーションを有する基材シートとして、厚みが60μmの日本ゼオン社製、商品名「ゼオノアフィルム(登録商標)ZD14」(以下ZDと省略)を用いた。前記基材シート上に、ハードコート層形成組成物H3を1μm片面に塗布し、もう一方の面にH5を1μm塗布し紫外線照射により硬化を行った。H3上にITOを150℃でスパッタリングして、さらに150℃で1時間熱処理を行うことにより、結晶性に優れた透明電極を形成し、タッチパネル用光学積層体を得た。結果を表1に示す。
(実施例7)
140nmのレターデーションを有する基材シートとして、厚みが60μm(日本ゼオン社製、商品名ZD)を用いた。前記基材シート上に、ハードコート層形成組成物H3を1μm片面に塗布し、もう片面にH6紫外線照射により硬化を行った。H3面上に、導電性ポリマー(信越ポリマー製 セブルジーダ)を150nmの厚みにて塗工氏、120℃2分熱処理を行うことにより、透明電極を形成し、タッチパネル用光学積層体を得た。結果を表1に示す。」

c 甲5に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が80:20?90:10、MVR(メルトボリュームレート)が0.8?2.0cm^(3)/10分である、ガラス転移温度が170?200℃の環状オレフィンの付加(共)重合体よりなるリタデーション100?150nmの位相差フィルム。
【請求項2】
160℃で30分の熱処理による収縮率がMD(流れ方向)、TD(垂直方向)ともに、0.5%以下である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
請求項1?2に記載の位相差フィルム上に、該フィルムの温度を150 ℃ 以上に保って抵抗値100?1000Ω/□の透明導電膜を形成することを特徴とするタッチパネル用透明導電性積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項1?2に記載の位相差フィルム上に、該フィルムの温度を -10℃?150℃に保って透明導電膜を形成した後、140?180℃の温度で熱処理を行い抵抗値100?1000Ω/□の透明導電膜を形成することを特徴とするタッチパネル用透明導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
表面に透明導電膜が形成された2つの基板を前記透明導電膜が対向するように所定の間隔をあけて配置してなるタッチパネルにおいて、少なくとも一方の前記基板が、請求1?2に記載の位相差フィルムシートであるタッチパネル。
【請求項6】
請求1?2に記載の位相差フィルムシートと、
前記位相差フィルムシートの少なくとも片面に形成されたITO透明導電膜と、を備えた静電容量方式のタッチパネル。」

d 甲6に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体上に配置されている導電メッシュと、該導電メッシュの開口部内及び該導電メッシュ上に該導電メッシュと接触して配置され、導電性繊維とバインダー樹脂とを含む導電性繊維層と、該導電性繊維層上に配置されるホール輸送性ポリマー層と、を有する透明導電フィルム。
【請求項2】
前記導電メッシュが銀を含む請求項1に記載の透明導電フィルム。
【請求項3】
前記導電メッシュが銀および親水性ポリマーを含む請求項1又は請求項2に記載の透明導電フィルム。」

・「【0024】
プラスチックフィルム基板は、耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上、及び、線熱膨張係数が40ppm/℃以下のうち、少なくともいずれかの物性を満たす耐熱性を有し、さらに、前記したように露光波長に対し高い透明性を有する素材により成形された基板であることが好ましい。
なお、プラスチックフィルムのTg及び線膨張係数は、JIS K 7121に記載のプラスチックの転移温度測定方法、及び、JIS K 7197に記載のプラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法により測定され、本発明においては、プラスチックフィルムのTg及び線膨張係数は、この方法により測定した値を用いている。
【0025】
プラスチックフィルム基板のTgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような耐熱性に優れる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001-150584号公報の化合物:162℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF-PC:特開2000-227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP-PC:特開2000-227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002-80616号公報の化合物:300℃以上)、ポリイミド等が挙げられ(以上、括弧内において、略称などと併記した数値は、当該樹脂のTgをそれぞれ示す)、ここに記載した樹脂はいずれも本発明における基材として好適である。なかでも、特に透明性が求められる用途には、脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。」

e 甲7に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン系樹脂を溶融してダイからシート状に押し出し、
該シートを、算術平均高さRaが100nm以下の表面性で、少なくとも一方のロールが金属製の弾性ロールによって構成された一対のローラで挟むことにより冷却固化して製膜する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記ダイのリップクリアランスを、0.2?1.0mmの範囲に設定するとともに、
ダイ押出口での単位面積当りの樹脂流量を1時間当り0.1?1.5kg/mm^(2)の範囲に設定することを特徴とする環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項6】
フィルム厚みが20?300μm、面内のレターデーションReが20nm以下、厚み方向のレターデーションRthが20nm以下であることを特徴とする請求項1?5の何れか1に記載の環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法。」

・「【0166】
(6)ダイ
前記の如く構成された押出機によって熱可塑性樹脂が溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0?5.0倍がよく、好ましくは1.2?3倍、さらに好ましくは1.3?2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍小さい場合には製膜により面状の良好なシートを得ることが困難である。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍を超えて大きい場合にはシートの厚み精度が低下するため好ましくない。ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整が厳密にコントロール出来るものが好ましい。通常厚み調整は40?50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、さらに好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、製膜フィルムの均一性を向上するために、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラの出来るだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。」

・「【0211】
延伸後の熱可塑性フィルムの厚みはいずれも15μm?200μmが好ましく、より好ましくは20μm?120μm、さらに好ましくは30μm?80μmである。厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%?3%が好ましく、より好ましくは0%?2%、さらに好ましくは0%?1%である。薄手フィルムを用いることでより延伸後にフィルム内に残留歪が残りにくく、経時でのレターデーション変化が発生しにくい。これは、延伸後に冷却する際、厚みが厚いと表面に比べ内部の冷却が遅れ、熱収縮量の差に起因する残留歪が発生し易いためである。
【0212】
熱寸法変化率は0%以上0.5%以下が好ましく、より好ましく0%以上0.3%以下、さらに好ましくは0%以上0.2%以下である。なお、熱寸法変化率とは80℃で5時間熱処理した際の寸法変化をさす(詳細後述)。」

・「【0336】
[溶融製膜]
表1に記載の環状ポリオレフィン系樹脂を120℃で3時間送風乾燥し、含水率を0.1質量%にした。これに、可塑剤としてトリフェニルフォスフェート(TPP)3wt%、及び二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%、ホスファイト系安定剤(P-1)0. 20質量%、「紫外線吸収剤a」2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン(0. 8質量%)、「紫外線吸収剤b」2(2’-ヒドロキシ-3’,5‘-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(0.25質量%)を添加し、混合物を2軸混練押出し機を用いて260℃で溶融混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)を行った。水浴中に直径3mmのストランド状に押出し、長さ5mmに裁断した。
【0337】
上記混練樹脂は90℃の脱湿風を用いて3時間乾燥させ、水分率を0.1wt%にした後、L/D=35、圧縮率3.5、スクリュー径が65mmのフルフライトスクリューを挿入した単軸押し出し機を用いて260℃で溶融させた後、厚み精度をアップさせるために、ギアポンプを用いて一定量送り出した。ギアポンプから送り出された溶融ポリマーは異物除去のために4μmの焼結フィルターを経由した後、スリット状の隙間を有するダイへ送り出され、冷却ロールで冷却固化されて、環状ポリオレフィン系樹脂フィルムとなった。固化したシートを冷却ロールから剥ぎ取り、ロール状に巻き取った。冷却ロールは直径500mm、肉厚25mmで表面粗度Ra=25nm(但し、実施例5は100nm)の金属ローラであり、設定温度は120℃とした。また、弾性ロールは、直径300mm、肉厚0.3mmで表面粗度Ra=25nmの金属ローラであり、設定温度は120℃とした。ここで、冷却ロールと弾性ロールとの線圧Pは40kg/cmであり、シートの厚みが80μmになるように製膜した。尚、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした。
【0338】
このようにして製造された未延伸フィルムについてレターデーション値(Re及びRth)の測定、スジ故障の観察、ヘイズの測定を行った。その結果はまとめて表1に示している。また、これらの結果から総合評価を行った。
【0339】
(i)フィルムの厚みムラ(Rmax)
得られた未延伸フィルム1000mを連続厚み計により測定を行い、最大厚みと最小厚みの差を求めた。Rmaxが±1.5μm未満を○、±1.5μm以上±2.0μm未満を△、±2.0μm以上を×、と評価した。
【0340】
(ii)レターデーション値(Re及びRth)
未延伸フィルムの幅方向に等間隔で10点サンプリングし、これを25℃、60%rhにて4時間調湿した後に、自動複屈折計(KOBRA-21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃60%RHにおいて、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から-50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差値を測定した。
【0341】
(iii)スジ故障の観察
得られた未延伸フィルムの外観を目視で検査した。スジの全く見られないものを○、ごくわずかに薄いスジが見られるが実用上に支障の無いものを△、薄いスジが見られ、実用上にも問題のあるものを×、スジが一目で分かるものを××と4段階で評価した。
【0342】
(iv)ヘイズの測定
得られた未延伸フィルムを日本着色工業(株)製の濁度計 NDH-1001DPを用いて測定した。
【0343】
尚、表1中のダイエッジ巾は、ダイのエッジ部のレプリカを採取し、顕微鏡観察により求めている。
【0344】
図5の表1から分かるように、実施例1?6では、ダイのリップクリアランス(リップギャップ)を0.2?1.0mmの範囲とし、ダイ押出口での単位面積当りの樹脂流量を1時間当り0.1?1.5kg/mm^(2)の範囲にしているので、その範囲に設定していない比較例1及び比較例2に比べフィルムの厚みムラが小さく、良い結果であった。
【0345】
更に、実施例1?6において、ダイのエッジ部のR面取り、又はC面取り(表1中のダイエッジ巾)が30μm以下の範囲でない実施例4は、スジ故障が見受けられ、総合評価が△であった。」

f 甲7の2に記載された事項
・「【0208】
[比較例2]
比較例として、市販のシクロオレフィンのフィルムであるゼオノアZF-14(日本ゼオン社製、膜厚100μm)を用意した。このフィルムは表4に示す光学性能を持っていた。」

・【0209】の【表4】の比較例2の欄に、市販のシクロオレフィンのフィルムであるゼオノアZF-14(日本ゼオン社製、膜厚100μm)はRe及びRthがともに20nmを下回っていることが記載されている。

g 甲8に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなり、揮発性成分量が0.1重量%以下で、かつ飽和吸水率が0.05重量%以下であり、長手方向に一直線に走るダイラインの深さ及び高さが50nm未満で、並びに前記ダイラインの幅が500nm以上である原反フィルムを、縦方向と横方向共に延伸倍率1.3倍以上で二軸延伸してなる、以下の[1]?[2]を満たす光学補償フィルム。
[1]0≦Re≦200
[2]100≦Rth≦500
(ここで、Reは光学補償フィルムの面内のレターデーション値を意味し、Rthは光学補償フィルムの厚さ方向のレターデーション値を意味する。前記Re及びRthは、それぞれRe=(Nx-Ny)×d[nm]、Rth=(Nx-Nz)×d[nm]である。また、dは光学補償フィルムの厚さ、Nx、Nyは光学補償フィルム面内の主屈折率、Nzは厚さ方向の主屈折率であり、Nx>Nyである。)」

・「【0064】
(製造例3)原反フィルム1の製造
製造例1で得られた熱可塑性ノルボルネン系樹脂1のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した後、リーフディスク形状のポリマーフィルター(濾過精度30μm)を設置した65mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ(Tダイの幅350mm、ダイスリップ部材質が炭化タングステンで#1000番のダイヤモンド砥石で研磨したもので、内面に平均高さRa=0.05μmのクロムメッキを施したもの)式フィルム溶融押出成形機を使用して、押出成形機の温度260℃、ダイス温度260℃で押出し、押出されたシート状の熱可塑性ノルボルネン系樹脂を3本の冷却ドラム(直径300mm、ドラム温度100℃、引き取り速度0.35m/s)に通して冷却し、厚さ200μm、幅300mmの原反フィルム1を得た。得られた原反フィルム1の揮発性成分量は0.01重量%、飽和吸水率は0.01重量%であった。また、厚さ変動は、幅方向で前記厚さの±1.2%であり、長手方向では±1.1%であった。また、フィルムの長手方向に一直線に走るダイラインの深さ及び高さは最大で30nm、その幅が最小で1300nmであった。
【0065】
(製造例4)原反フィルム2の製造
T型ダイスとして、ダイスリップの内面に平均高さRa=0.23μmのクロムメッキを施した、幅350mmのものを使用した他は製造例2と同様にして、原反フィルム2を得た。得られた原反フィルム2の揮発性成分量は0.01重量%、飽和吸水率は0.01重量%であった。また、厚さ変動は、幅方向で前記厚さの±1.4%であり、長手方向では±1.5%であった。また、フィルムの長手方向に一直線に走るダイラインの深さ及び高さは最大で80nm、その幅が最小で850nmであった。」

h 甲9に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融押出法により得られる熱可塑性樹脂製フィルムから得られる光学用フィルムであって、平均厚みD_(ave)が100μm以下であり、該フィルム全面にわたって、厚みの最大値と最小値の差Drと前記平均厚みD_(ave)の比D_(r)/D_(ave)が7%以下、レターデーションReが4nm以下、かつ視野角40°における位相差Re_(40)と視野角0°における位相差Re_(0)の比Re_(40)/Re_(0)の平均値が0.8以上で1.3以下であることを特徴とする光学用フィルム。
【請求項2】 熱可塑性樹脂が脂環式構造含有重合体である請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】 押出機から押し出された溶融状態の熱可塑性樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムの3本の冷却ドラムに順に外接させて移送する工程を有し、該第3冷却ドラムの周速度R_(3)の、前記第2冷却ドラムの周速度R_(2)に対する比R_(3)/R_(2)を0.999未満で0.990以上とし、該第1冷却ドラムでの樹脂接触時間をt_(1)(秒)、該第1冷却ドラムを離れるときの該溶融状体の熱可塑性樹脂の温度をT_(1)(℃)、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたときのt_(1)×(T_(1)-Tg)(単位:秒・deg)を、-50以上+20以下とすることにより該熱可塑性樹脂製フィルムを得ることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の光学用フィルムを製造する方法。」

・「【0008】
【発明の実施の形態】本発明の光学用フィルムの製造に用いる熱可塑性樹脂は、通常の光学用フィルムの製造に用いられるフィルムであればよく、特に限定されない。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートや脂環式構造含有重合体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、透明性が高く、フィルム強度に優れることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートや脂環式構造含有重合体が好ましく、更にレターデーションをより小さくできることから脂環式構造含有重合体が特に好ましい。」

・「【0013】本発明の光学用フィルムは、平均厚みD_(ave)が100μm以下である。平均厚みDaveは、溶融押出機に投入する原料ペレットの投入速度、冷却ドラムの回転速度及びこれらの両方を変化させること等により、任意に設定することができる。本発明の光学用フィルムは、薄型のフラットパネルディスプレイ用などに適したものであり、厚み100μm以下、80μm以下、特に60μm以下の厚みで用いる場合にも好適である。」

・「【0034】実施例1(当審注:下線は予め付されたものである。)
ZEONOR1420(ノルボルネン類の開環重合体の水素化物、日本ゼオン社製、Tg140℃)のペレットを用いた。ペレットをシリンダー内径が50mm、スクリューL/Dが28の単軸押出成形機(日本製鋼所製)でバレル温度260℃で溶融押出し、ダイ温度260℃のコートハンガーダイから幅650mmのシート状溶融樹脂を押し出し、第1冷却ドラム(直径200mm、温度T_(1):135℃、周速度R_(1):12.50m/秒)に密着させ、直ちにナイフコーターにより第1冷却ドラムを、次いで第2冷却ドラム(直径350mm、温度T_(2):125℃、周速度R_(2):14.46m/秒)、次いで第3冷却ドラム(直径350mm、温度T_(3):80℃、周速度R_(3):14.40m/秒)に順次密着させて移送し、逐次、冷却ならびに冷却ドラム面転写による表裏面の平滑化を行い、幅550mm(ネックインは左右各50mm)の熱可塑性樹脂製フィルムが得られ、調整ドラムを経た後、カッターにより両方の端から各30mmをミミとして取り除き、巻き取りドラムによりロール状に巻き取り、ロール状の光学用フィルムを得た。この際、第1冷却ドラムでのシート状熱可塑性樹脂の接触時間t_(1)は3.1(秒)、第1冷却ドラムを離れるときの樹脂温度をT_(1)は132(℃)、t_(1)×(T_(1)-Tg)は-12(単位:秒・deg)であった。得られた光学用フィルムについて、上記の各試験項目を行った結果を表1に記す。」

・【0039】の【表1】に、膜厚(D_(ave))が48?52μm、厚みの変動率(D_(f)/D_(ave))が7.6%以下、Reの最大値が6.8以下のZEONOR1420製溶融押出フィルムの実施例及び比較例が記載されている。

i 甲9の2に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融押出機を用いて得られた熱可塑性樹脂フィルムで構成してある光学用フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂フィルムが、該熱可塑性樹脂フィルムの前記溶融押出機からの押出方向と各点における遅相軸とのなす角度をαとし、各点におけるレターデーションの大きさをReとしたときに、フィルム全面に亘って、下記式の関係を満足するものであることを特徴とする光学用フィルム。
[sin^(2)2α]×[sin^(2)(π・Re/550)]≦4.0×10^(-5)。
【請求項2】
前記Reの値が10nm以下である請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が脂環式構造含有重合体である請求項1または2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
押出機から押出された溶融状態の熱可塑性樹脂を、第1冷却ドラム、第2冷却ドラム及び第3冷却ドラムに、順に、外接させて冷却する工程を有する、熱可塑性樹脂フィルムで構成してある光学用フィルムの製造方法であって、
前記第3冷却ドラムの周速度をR_(3)(m/分)とし、前記第2冷却ドラムの周速度をR_(2)(m/分)としたときの、該R_(3)とR_(2)との比(R_(3)/R_(2))を0.990以上0.999未満として、前記熱可塑性樹脂を冷却する、光学用フィルムの製造方法。」

・「熱可塑性樹脂としては、光学用フィルムの製造に通常用いられている樹脂であれば、特に限定されない。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートや脂環式構造含有重合体などが挙げられる。中でも、透明性が高く、フィルム強度に優れることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートや脂環式構造含有重合体が好ましく、更に位相差を小さくしやすいことから脂環式構造含有重合体が特に好ましい。
脂環式構造含有重合体とは、繰り返し単位内に、炭素-炭素飽和結合からなる環構造(本発明では「脂環式構造」という。)を有する重合体のことであり、たとえば特開2002-321302号公報などに開示されている公知の重合体を使用できる。たとえば、ノルボルネン環構造を有するモノマー(以下、「ノルボルネン類」という。)の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン類の付加重合体及びその水素添加物、ノルボルネン類とビニル化合物との付加共重合体及びその水素添加物;ポリスチレンなどの芳香族ビニル炭化水素化合物の重合体の芳香環を水素添加した重合体、脂環式構造とビニル基とを有するモノマーの付加重合体、炭素-炭素からなる環構造の中に一つ以上の不飽和結合を有するモノマーの付加重合体及びその水素添加物などが挙げられる。」(第5ページ第13ないし29行)

j 甲10に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューを有する成形機を用い、シクロオレフィン樹脂を加熱溶融して、溶融押出法によりシクロオレフィン樹脂フィルムを製造する方法であって、スクリュー供給部に投入する際の、原料樹脂の温度をTg-80℃?Tg+10℃とし、かつ、その温度分布を±0.5℃?±5℃の範囲とすることを特徴とするシクロオレフィン樹脂フィルムの製造方法。」

k 甲11に記載された事項
・「【0053】
成形条件は、使用目的や成形方法により適宜選択される。溶融押出成形法においては、通常、押出機に樹脂を投入する前に、樹脂中に含まれている水分、気体(酸素など)、残溶剤などを予め除去することを目的として樹脂のTg以下の適切な温度で樹脂ペレットなどの乾燥を行う。乾燥に用いる乾燥機は特に限定されるものではないが、通常、熱風循環乾燥機、除湿式乾燥機、真空乾燥機、窒素などの不活性ガス循環式乾燥機が用いられ、共重合体中の揮発成分あるいは溶存酸素を効率よく取り省ける点で、特に不活性ガス循環式乾燥機あるいは真空乾燥機を用いることが好ましい。また、ホッパー中での吸湿や酸素の吸収を抑えるため、ホッパーを窒素やアルゴンなどの不活性ガスでシールしたり、減圧状態に保持できる真空ホッパーを使用したりすることも好ましいものである。さらに、押出機シリンダーには、溶融押出し中に発生する揮発成分を取り省くためにベント機能や酸素混入によるポリマーの劣化を押させるために窒素やアルゴンなどの不活性ガスによりシールする機能を設けることが好ましい。」

l 甲11の2に記載された事項
・「【0027】また、押出機に供給した後の脂環式ポリオレフィン樹脂を、真空下もしくは窒素雰囲気下で溶融させることにより、フィルムのスジが低減し、色目も良くなる。真空下もしくは窒素雰囲気下で溶融させるには、気密性の高い押出機を用いて押出機内部を真空下にする方法、もしくは押出機入口直前から窒素を流入する方法などが好ましく用いられる。」

m 甲11の3に記載された事項
・「【0009】・・・(略)・・・本発明方法においては、スクリューが挿入されたシリンダー内及びホッパー内を窒素置換して樹脂を加熱溶融することが好ましい。シリンダー内及びホッパー内を窒素置換する方法に特に制限はなく、例えば、ホッパー下部に窒素導入管を設けて窒素ガスを導入することができ、あるいは、簡易的にホッパー内に窒素ガス配管を差し込んで窒素ガスを導入することもできる。図4は、窒素置換方法の一態様を示す説明図である。本態様においては、ホッパー3の下部に窒素導入管4が設けられ、窒素導入管に接続された窒素ガス配管5から窒素ガスが供給される。本態様の方法により、スクリュー6が挿入されたシリンダー7内及びホッパー内を窒素置換することができる。樹脂ペレットが空気により搬送される場合であっても、本態様の方法により効果的に窒素置換することができる。」

n 甲12に記載された事項
・「【0009】
本発明者らは、ダイが高温であるため冷却ロールとの温度差が大きくなり、例えば、従来のタッチロール方式の図23で説明すると、特に、冷却ロール2とタッチロール3との間の幅方向の両サイドからダイ4へ向かって上昇する上昇気流(矢印)がフィルム6の両面に生じることを見出した。この上昇気流は、ダイと冷却ロール表面との間のフィルム表面近傍において風速変動をもたらし、フィルム表面に温度分布を生じる原因となる。また、フィルム表面に温度分布が生じると冷却ロール上で冷却固化する際に、厚みむらを引き起こす原因ともなる。」

・「【0032】
本発明の請求項13は前記目的を達成するために、溶融した熱可塑性樹脂をダイからフィルム状に吐出し、該吐出したフィルムを冷却ロール上で冷却固化する工程を備えた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、前記吐出したフィルムの表面近傍における風速変動を0.5m/秒以下にすることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供する。」

o 甲12の2に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融熱可塑性樹脂を口金から冷却ロール上に押し出してシートとし、このシートを熱処理して得られるフィルムを巻取機にて巻き取る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、口金および冷却ロールを覆う空間を設け、この空間内を間欠的に換気すると共に、換気を停止しているときにフィルムの製造を行う熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルムの製造時には、冷却ロール上のシートの着地点から少なくとも500mm離れたいずれかの位置における風速を0.1m/s以下に制御する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。」

・「【0003】
厚みムラの要因としては、主に口金から樹脂を押し出す際の吐出量の変動、口金と冷却ロール間での溶融状態のシートの膜振動、冷却ロールの回転ムラがあり、従来から各種の改善方法が提案されているが、いずれも完全に満足のゆく技術ではなかった。」

p 甲12の3に記載された事項
・「【0023】
従って、本発明の製造方法においては、換気の給気風速を0.2m/s以下とすることが好ましい。より好ましくは、換気の給気風速を0.1m/s以下とする。
換気の給気風速が0.2m/sを超えると、換気気流の脈動が起こりやすくなり、エアギャップ区間でのフィルムの揺れが起こりやすくなることがある。
【0024】
また、押出成形の際の、エアギャップ区間周辺の気流風速を低下させるためには、製膜部分の機械設備をパネル等で囲い、風防を設けることが好ましい。ただし、風防を設けた場合でも、機械設備に接続されているロール熱媒用配管や配線等のために隙間が発生したり、フィルムパスラインを遮断することは不可能なため、完全な無風状態を作ることはできない。」

q 甲13に記載された事項
・「【特許請求の範囲】
・・・(略)・・・
【請求項5】
前記加熱ローラの幅方向の温度分布が±2℃以内であることを特徴とする請求項4記載の環状オレフィン系樹脂フィルムの製造方法。」

イ 申立理由1及び申立理由2のうち甲1に基づく理由についての判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1における「ノルボルネンとエチレンとの共重合比率が、82:18である透明基板」は本件特許発明1における「環状オレフィン樹脂」を含む「透明樹脂フィルム」に相当し、以下、同様に、「透明導電膜」は「導電層」に、「透明面状体」は「透明導電性フィルム」に、それぞれ相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明1は、次の点で一致する。
<一致点>
「透明樹脂フィルムと、前記透明樹脂フィルムの上に形成された導電層を含む透明導電性フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含む、
透明導電性フィルム。」

そして、次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」であるのに対し、甲1発明1においては、「前記透明基板の160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.06%、TD=-0.12%」である点。

<相違点2>
本件特許発明1においては、「前記透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」であるのに対し、甲1発明1においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点1について検討する。
甲1発明1における「160℃で30分」という条件は、甲1の【0038】によると、「160℃に設定したオーブンに30分間投入した後」という条件のことであるから、本件特許発明1における「100℃熱水中60秒」という条件よりも厳しい条件である。
また、甲2には、各種ノルボルネン系樹脂の溶融押出フィルムについて、湿熱処理(60℃、相対湿度90%、500時間)および乾燥処理(90℃、ドライ、500時間)における寸法安定性のデータが示されており(実施例1ないし17、【表1】参照。)、処理温度が30℃高い乾燥処理の方がやや高い寸法変化率を示すものの、その差は0.1%よりもはるかに小さいことが示されている。
そして、本件特許明細書の【0017】にも記載されているように、環状オレフィン樹脂(特に極性基を持たない樹脂)は疎水性に優れた樹脂であり、湿度の影響は少ないといえる。
そうすると、甲1発明1における寸法変化率は、本件特許発明1における「100℃熱水中60秒」という条件においても大きくかけ離れた値になるとは考えられず、ましてそのフィルムが極性基を持たない樹脂で形成されていることを勘案すると、甲1発明1における寸法変化率(平均値で-0.09%)よりも0に近い値になると考えるのが合理的である。
したがって、甲1発明1においても、「100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」である蓋然性は高く、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

次に、相違点2について検討する。
甲1には、甲1発明1が、「-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」を満足するものであることを示す記載はなく、また、甲1発明1が、「-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」を満足するものであることが技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点である。
そして、「-20?30℃の誘電率の変化率」に着目することは、甲1には記載も示唆もされていないし、甲2ないし13のいずれにも記載も示唆もされていない。
なお、特許異議申立人は、フィルムの誘電率が温度によって変化しないことは当業者が当然に求める事項である旨主張するが、その裏付けとなる証拠は何ら示されていないので、該主張は採用できない。
したがって、甲1発明1において、「-20?30℃の誘電率の変化率」を「0.1?10%」として、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本件特許発明1は甲1発明1、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件特許発明2及び18について
本件特許発明2及び18は、請求項1を引用するものであり、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件特許発明3及び5ないし9について
本件特許発明3及び5ないし9は、請求項1を引用するものであり、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲1発明2を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1発明1の間と同様の相当関係が成り立つ。

したがって、本件特許発明10と甲1発明2は、次の点で一致する。
<一致点>
「環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムを形成する工程と、
前記透明樹脂フィルムの上に導電層を形成する工程とを含み、
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含む透明導電性フィルムの製造方法。」

そして、次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明10においては、「前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」むものであるのに対し、甲1発明2においては、そのように特定されていない点。

<相違点4>
本件特許発明10においては、「前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」であるのに対し、甲1発明2においては、「前記透明基板の160℃で30分での寸法変化率はMD=-0.06%、TD=-0.12%」である点。

まず、相違点4について検討するに、相違点4は、相違点1と同じであるから、甲1発明2においても、「100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」である蓋然性は高く、相違点4は実質的な相違点とはいえない。

次に、相違点3について検討する。
甲1には、甲1発明2が、「前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」むものであることを示す記載はないし、「前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程」を含ませることは、甲2ないし13のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、通常、溶融樹脂は厚みムラが生じないように押し出されるものであるから、当業者は、厚みムラが生じないような工夫をすることがあるとしても、何の示唆もない場合、あえて厚みムラを付与するとは考えられない。
したがって、甲1発明2において、「前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」ませるようにして、相違点3に係る本件特許発明10の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本件特許発明10は甲1発明2、すなわち甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)本件特許発明11ないし17について
本件特許発明11ないし17は、請求項10を引用するものであり、相違点3に係る本件特許発明10の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明10と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(カ)申立理由1及び申立理由2のうち甲1に基づく理由についての判断のまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2及び18に係る特許は、申立理由1によっては、取り消すことはできないし、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許は、申立理由2のうち甲1に基づく理由によっては、取り消すことはできない。

ウ 申立理由2のうち甲3に基づく理由についての判断
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明1を対比する。
甲3発明1における「環状オレフィン系樹脂を含有する透明樹脂からなるフィルム」は本件特許発明1における「環状オレフィン樹脂」を含む「透明樹脂フィルム」に相当し、以下、同様に、「結晶性ITOにより形成されている透明導電層」は「導電層」に、「導電性積層フィルム」は「透明導電性フィルム」に、それぞれ相当する。

したがって、本件特許発明1と甲3発明1は、次の点で一致する。
<一致点>
「透明樹脂フィルムと、前記透明樹脂フィルムの上に形成された導電層を含む透明導電性フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含む、
透明導電性フィルム。」

そして、次の点で相違する。
<相違点5>
本件特許発明1においては、「前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」であるのに対し、甲3発明1においては、「前記フィルムの150℃、60分処理後の熱収縮率が、MD方向で0.2%、TD方向で0.1%である」である点。

<相違点6>
本件特許発明1においては、「前記透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」であるのに対し、甲3発明1においては、そのようには特定されていない点。

まず、事案に鑑み、相違点6について検討する。
甲3には、甲3発明1が、「-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」を満足するものであることを示す記載はなく、また、甲3発明1が、「-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%」を満足するものであることが技術常識であるともいえない。
そして、「-20?30℃の誘電率の変化率」に着目することは、甲3には記載も示唆もされていないし、甲1、2及び4ないし13のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、甲3発明1において、「-20?30℃の誘電率の変化率」を「0.1?10%」として、相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明1、すなわち甲第3号証に記載された発明並びに甲第1、2及び4ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明2、3、5ないし9及び18について
本件特許発明2、3、5ないし9及び18は、請求項1を引用するものであり、相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1、2及び4ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲3発明2を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲3発明1の間と同様の相当関係が成り立つ。

したがって、本件特許発明10と甲3発明2は、次の点で一致する。
<一致点>
「環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムを形成する工程と、
前記透明樹脂フィルムの上に導電層を形成する工程とを含み、
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする工程を含む透明導電性フィルムの製造方法。」

そして、次の点で相違する。
<相違点7>
本件特許発明10においては、「前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含み、
前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」むものであるのに対し、甲3発明2においては、「前記フィルムを形成する工程は、環状オレフィン系樹脂を含有する透明樹脂をPETフィルムに塗布し、次いで、乾燥し、PETフィルムから剥離することによりシート状に形成する工程を含」むものである点。

<相違点8>
本件特許発明10においては、「前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%」であるのに対し、甲3発明2においては、「前記フィルムの150℃、60分処理後の熱収縮率が、MD方向で0.2%、TD方向で0.1%」である点。

まず、相違点7について検討する。
甲3には、甲3発明2が、「前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」むものであることを示す記載はないし、「前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程」を含ませることは、甲1、2及び4ないし13のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、通常、溶融樹脂は厚みムラが生じないように押し出されるものであるから、当業者は、厚みムラが生じないような工夫をすることがあるとしても、何の示唆もない場合、あえて厚みムラを付与するとは考えられない。
したがって、甲3発明2において、「前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含み、
前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含」ませるようにして、相違点7に係る本件特許発明10の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点8について検討するまでもなく、本件特許発明10は甲3発明2、すなわち甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2及び4ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件特許発明11ないし17について
本件特許発明11ないし17は、請求項10を引用するものであり、相違点7に係る本件特許発明10の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明10と同様に、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1、2及び4ないし13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)申立理由2のうち甲3に基づく理由についての判断のまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許は、申立理由2のうち甲3に基づく理由によっては、取り消すことはできない。

エ 申立理由1及び申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許は、申立理由1及び2によっては、取り消すことはできない。

1-2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、サポート要件の存在は、特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日知財高裁特別部判決参照。)。

(2)検討
そこで、検討する。
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムおよびタッチパネルに関する。具体的には、高温高湿度条件下で測定した熱寸法変化率が特定の範囲内である透明導電性フィルムおよび該透明導電性フィルムを用いたタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明樹脂フィルム等の支持体上に透明導電層が形成された透明導電性フィルムは、様々な電子機器に用いられている。特に最近では、タッチパネルを搭載した電子機器の普及が目覚ましく、静電容量方式のタッチパネルに使用する透明導電性フィルムの開発が進められている。
【0003】
従来、透明導電性フィルムの透明導電層には、インジウム系酸化物であるITO膜が主に用いられている。透明導電層としてのITO膜は、主にスパッタリング法により形成されているが、スパッタリング法は、製膜速度が遅いことに加え、装置が大型化するという問題点を有していた。このため近年は、スパッタリング法を利用せずに、銀等の導電性物質から透明導電層を形成することが行われている。このような透明導電層は、層状に形成された透明導電層に露光・現像処理を施し、導電層の一部を除去することによりパターン状に形成される(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献2には、透明樹脂フィルム基材の上に銀と水溶性バインダーを含む導電性メッシュを形成した透明導電性フィルムが開示されている。特許文献2では、透明樹脂フィルム基材としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いているが、透明樹脂フィルム基材として環状オレフィン(COC、COP)を用いることができる旨の記載がある。ここでは、このような透明導電性フィルムを用いることによって、有機薄膜太陽電池の発電効率を高めることが提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、環状オレフィンを含む透明樹脂フィルム基材の上に銀系の導電性材料を用いたメッシュ状導電層を形成した透明導電性フィルムが開示されている。ここでは、透明導電性フィルムは、プラズマディスプレイパネル用フィルタや表示装置に用いることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-4042号公報
【特許文献2】国際公開2012/033103号パンフレット
【特許文献3】特開2003-202810号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、銀等の導電性物質から形成された導電層が設けられた透明導電性フィルムは各種電子機器に用いられている。また、透明導電性フィルムの透明樹脂フィルム基材には、環状オレフィンを用いることができることが知られている。
しかしながら、透明樹脂フィルムに環状オレフィンを用いた透明導電性フィルムをタッチパネルに使用した場合、導電層が透明樹脂フィルム基材から剥離しやすくなるという問題があった。導電層が透明樹脂フィルムから剥離した場合、タッチパネルとして機能しなくなるため重大な欠陥を生ずることとなる。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、透明樹脂フィルムに環状オレフィンを用いた透明導電性フィルムであって、導電層と透明樹脂フィルム基材の密着性に優れた透明導電性フィルムを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、透明樹脂フィルムに環状オレフィンを用いた透明導電性フィルムにおいて、透明導電性フィルムの熱寸法変化を所定の範囲内とすることにより、透明導電層と透明樹脂フィルム基材の密着性を高めることができることを見出した。これにより、高感度であり、かつ耐久性に優れたタッチパネルを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。」

・「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「?」を用いて表される数値範囲は「?」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(1.透明導電性フィルム)
本発明は、透明樹脂フィルムと、透明樹脂フィルムの上に形成された導電層を含む透明導電性フィルムに関する、透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含む。また、透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率は0.01?0.2%である。ここで、導電層には透明導電層が含まれるものとする。また、導電層は層状に形成されてもよく、パターン状もしくはメッシュ状に形成されてもよいものとする。
【0015】
従来、透明樹脂フィルムに環状オレフィンを含有した場合、透明樹脂フィルムと導電層との密着性が悪くなるという課題があった。また、透明樹脂フィルム自体の層間剥離が生じやすく、透明樹脂フィルムが脆化しやすくなるため問題となっていた。これは、環状オレフィン支持体は、環状構造が嵩高いため分子間の隙間(自由体積)が大きいことに加え、極性基が少なく分子間相互作用が小さいため、分子間をすり抜け易い性質を有するためであると考えられる。このため、環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムに、製膜過程でストレス(例えば、張力が掛かることによるストレス)が掛かった際に残留歪が発生すると、熱などの刺激で容易に分子がすり抜け、環状オレフィン樹脂は安定(ランダム)な構造に戻ろうとする。これにより、透明樹脂フィルムの上層に位置する導電層との寸法変化が発生し、導電層との剥離が発生する。特に、導電層が親水性樹脂からなる場合、親水性樹脂も湿度により伸縮するため、透明樹脂フィルムと導電層の層間の剥離による密着不良がより発生し易くなる。
【0016】
本発明では、このような密着不良は、透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率を0.01?0.2%することにより解消されることが見出された。100℃熱水中60秒の熱寸法変化率は、0.01%以上であればよく、0.02%以上であることが好ましく、0.03%以上であることがより好ましい。また、100℃熱水中60秒の熱寸法変化率は、0.2%以下であればよく、0.15%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。100℃熱水中60秒の熱寸法変化率を上記範囲内とすることにより、環状オレフィンの残留歪みを低減することができる。これにより、導電層と透明樹脂フィルムの密着性を高めることができる。さらに、透明樹脂フィルム自体の層間剥離を抑制することができる。なお、100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01%を下回ると、残留歪が小さすぎ、環状オレフィン分子が丸まった構造で存在することになるため、分子間相互作用が弱くなりすぎ、透明樹脂フィルム自体の層間剥離や劈開が発生しやすくなり好ましくない。
【0017】
通常、環状オレフィン樹脂は疎水性であり湿度の影響を受け難いと予想される。しかし、本発明では、高温かつ高湿度環境下で短時間熱処理を行うことにより、環状オレフィン樹脂に与える湿度の影響を測ることを可能とした。電極層には親水性樹脂を用いる場合が多く、このような場合においては、100℃の熱水中において60秒間熱処理は、電極層と組み合わせた際に、電極層から与えられる湿度の影響を再現することができる。すなわち、本発明では、100℃の熱水中における60秒間熱処理は、電極層と組合せた際の電極層に含まれる樹脂層中の水分が与える密着不良への寄与を再現しているものと考えられる。なお、本発明の熱処理は、高湿雰囲気下における熱処理であるため60秒という短時間処理でよい。高湿雰囲気では、熱容量が大きくなり、乾燥雰囲気より環状オレフィンフィルムに与える熱量が大きくなり易く、短時間の熱処理で十分である。
【0018】
100℃熱水中60秒の熱寸法変化率とは、透明樹脂フィルムを100℃の熱水に60秒間浸漬した際の寸法の変化率を表すものである。寸法の変化率Rは、下記式で算出することができる。
R={|L1-L2|/L1}×100
ここで、L1は、100℃の熱水中で60秒間熱処理を行う前の透明導電フィルムの寸法を表し、L2は100℃の熱水中で60秒間熱処理を行った後の透明導電フィルムの寸法を表す。透明導電フィルムの寸法は、例えば、10cm間隔のピン孔を開け、ピン間の間隔を、ピンゲージを用いて測長することによって求めることができる。
【0019】
上記のような100℃熱水中60秒の熱寸法変化率は、透明樹脂フィルムを形成する溶融樹脂を固化する前に、溶融樹脂に若干の厚みムラを付与することで達成することができる。溶融樹脂に厚みムラを付与する方法としては、例えば、ダイリップのリップ間隔(隙間)に1?20%、より好ましくは2?15%、さらに好ましくは3?10%の分布を与える方法を挙げることができる。このようにダイリップ間隔に分布があると、そこから出てくる溶融樹脂(メルト)に厚みムラが発生する。この結果、溶融樹脂がキャストドラム上で冷却固化する際に、冷却速度が異なる箇所が生じることとなる。すなわち、厚い箇所の冷却速度が遅くなり、薄い箇所では冷却速度が速くなる。キャストドラム上で急冷される際に体積収縮するが、メルトが一部柔らかい箇所が存在することで冷却収縮を吸収し、残留歪を減少させることができる。
通常、溶融樹脂は厚みムラが生じないように押し出されるため、ダイリップの間隔は一定である。このように一定間隔のダイリップから吐出された透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率は少なくとも0.3%以上であり、1%以上であることが多い。」

・「【0036】
(2.透明樹脂フィルム)
(2-1)透明樹脂フィルムに含まれる樹脂
本発明の透明導電性フィルムは透明樹脂フィルムを含み、透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含む。環状オレフィン樹脂のとしては、例えば、付加重合型シクロオレフィン樹脂(COC)や開環重合型シクロオレフィン樹脂(COP)等が挙げられる。これらは単独で使用しても良く、混合して使用しても良い。また、これらの環状オレフィン樹脂のTgは100?200℃が好ましく、120?190℃であることがより好ましく、125?185℃であることがさらに好ましい。なお、環状オレフィン樹脂は重合した後、ペレット化して使用することが好ましい。
【0037】
開環重合型シクロオレフィン樹脂(COP)としては、例えば、特開2010-164538号公報の段落[0032]?[0069]に記載のものや、特許4492116号公報の段落[0016]?[0022]に記載のものを使用することができる。
【0038】
付加重合型シクロオレフィン樹脂(COC)としては、例えば、特許3723616号公報の段落[0014]?[0060]に記載のものや、特許3683631号公報の段落[0015]?[0062]に記載のもの、特許3377833号公報の段落[0008]?[0093]に記載のものを使用することができる。」

・「【0040】
(3.導電層)
本発明の透明導電性フィルムは、導電層を含む。導電層は層状に形成されてもよいが、間欠部を有するように形成されることが好ましい。間欠部とは、導電層が設けられていない部分をいい、間欠部の外周は導電層により囲まれていることが好ましい。本発明では、間欠部を有するように導電層が形成されることを、パターン状やメッシュ状に導電層が形成されるともいう。
図1(a)は、本発明の透明導電性フィルム10の一態様を示す概略断面図である。図1(a)に示されているように、本発明の透明導電性フィルム10は、透明樹脂フィルム12と導電層14を有する。なお、導電層14は図1(a)に示されているように、部分的に形成されてもよく、透明樹脂フィルムの全面を覆うように層状に形成されてもよい。
図1(b)は、本発明の透明導電性フィルム10の一態様を示す概略平面図である。図1(b)に示されているように、透明導電性フィルム10は、間欠部20を有することが好ましい。間欠部20は導電層14が設けられていない箇所であり、透明樹脂フィルム12と導電層14が隣接して積層されている場合は、透明樹脂フィルム12が露出することとなる。
【0041】
本発明では、導電層は、パターン状やメッシュ状に形成されることが好ましい。導電層としては、例えば、特開2013-1009号公報、特開2012-216550号公報、特開2012-151095号公報、特開2012-25158号公報、特開2011-253546号公報、特開2011-197754号公報、特開2011-34806号公報、特開2010-198799号公報、特開2009-277466号公報、特開2012-216550号公報、特開2012-151095号公報、国際公開2010/140275号パンフレット、国際公開2010/114056号パンフレットに記載された導電層を例示することができる。」

・「【0055】
さらに、本発明では、下塗り層や帯電防止層といった他の機能層を設けてもよい。下塗り層としては、特開2008-250233号公報の段落[0021]?[0023]のものを適用できる。また、帯電防止層としては、特開2008-250233号公報の段落[0012]、[0014]?[0020]のものを適用できる」

・「【0056】
(5.透明導電性フィルムの製造方法)
本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムを形成する工程と、透明樹脂フィルムの上に導電層を形成する工程とを含む。なお、透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含み、この押出工程は、シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含む。」

・「【0087】
(6.タッチパネル)
タッチパネルは、上述したような透明導電性フィルムを含むため、光透過性が高く、無色であり、耐久性、耐水性が高く、動作可能温度範囲が広い。このため、様々な表示装置に使用することができる。また、本発明のタッチパネルは、本発明の透明導電性フィルムを少なくとも有し、必要に応じて、さらにその他の部材を有する。例えば、偏光板、反射防止膜、ハードコート膜、帯電防止膜および防汚膜等の機能性層を有してもよい。
【0088】
タッチパネルにおけるタッチパネルセンサー電極部の層構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2枚の前記導電膜を貼合する貼合方式、1枚の基材の両面に前記導電膜を具備する方式、片面ジャンパーあるいはスルーホール方式あるいは片面積層方式のいずれかであることが好ましい。
【0089】
本発明によれば、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等、何れの方式のタッチパネルも製造することができる。タッチパネルとしては、光透過性、耐熱性および耐熱着色性等に優れる透明導電性フィルムを含むため、抵抗膜方式や静電容量方式のタッチパネルが好ましく、静電容量方式のタッチパネルがより好ましい。」

・「【0092】
(実施例1)
(透明樹脂フィルムの製膜)
実施例および比較例では、透明樹脂フィルムは以下のものを用いた。
・COP-1:特開2008-273029の段落[0021](当審注:回答書によると[0221]の誤記である。)に記載のもの:Tg=139℃
・COP-2:特開2008-273029の段落[0022]?[0023](当審注:回答書によると[0222]?[0223]の誤記である。)に記載のもの:Tg=110℃
・COC-1:トパス6015(ポリプラスチック社製):Tg=150℃
・COC-2:トパス6017(ポリプラスチック社製):Tg=170℃
【0093】
<マスターバッチの調製>
上記樹脂を各々、100℃で10時間乾燥し、脱水した。次いで、乾燥した樹脂に安定剤(チバ・ジャパン株式会社製、イルガノックス1010)を30wt%添加した。これを、2軸押出機を用い、窒素気流中280℃で混練し、ペレット化した。
【0094】
<製膜>
イ)押出し
上記樹脂および安定剤を添加したマスターバッチを、真空中で乾燥し水分を30ppmとした後、表3に記載の温度(ペレット加熱温度)に加熱した後、押出機のホッパーに投入した。次いで、上記樹脂およびマスターバッチを混合し、単軸押出機にて窒素気流中280℃で混練する。この時、表1のように不活性ガス(N_(2))流量に変動を与えた。なお、N_(2)の平均流量は投入ペレットの体積と同じ量になるように調整した。また、マスターバッチは全樹脂量の1/100の重量になるように添加した。
【0095】
ロ)メルト配管
上記混練後、表3に記載の温度分布となるように、溶融樹脂をダイに送るメルト配管に温度分布を付与した。なお、溶融樹脂に付与した温度分布は、メルト配管の初流部分(溶融樹脂が押出機から流入してくる側からメルト配管の1/3の長さまでの箇所)と終流部分(溶融樹脂が出口方向へ流出していく側からメルト配管の1/3の長さまでの箇所)に2つのヒーターを設置し、押出機側の初流部分の温度を出口側の終流部分の温度より、表3記載の温度だけ高くすることで実施した。なお、2つのヒーターの平均温度はいずれも280℃とした。なお、3つ以上のヒーターを設置した実験も行ったが、温度分布が同じであれば、2つのヒーターの場合と同じ効果であった。
【0096】
ハ)ダイ
ダイリップのリップ間隔(隙間)に表3に示す分布を付与した。ダイリップ間隔はダイリップ上の20等分した点に設置したボルトの締め込みにより調整した。すなわち、ボルトの締め込みをきつくした箇所では、ダイリップのリップ間隔が大きくなり、ボルトの締め込みを緩くした箇所では、ダイリップのリップ間隔は小さくなる。このように、ダイリップ上の20等分した点に設置したボルトの締め込み具合を変動させることによって、ダイリップの間隔に凹凸を持たせることができる。本発明では、ダイリップの間隔は中央部を厚く、両端を薄くなるように設定したが、その逆の設定でも同様の効果が得られ、パターンによらず分布が支配要因であることがわかった。なお、ダイ、ダイリップの温度は280℃とした。
【0097】
ニ)キャスト
ダイからキャストドラムの間(エアギャップ)のメルトに表3に記載の振動を与えた。なお、この振動はキャストドラムの回転数に振動を与えることで達成した。なお、この時のキャストドラムの温度はTg-30℃で実施した。ここでいうキャストドラムの温度とは、幅方向に5等分した箇所×周長方向に6等分した箇所の計30点の測定点の平均値である。なお、エアギャップは100mmとし、キャストロールにメルトが着地する地点に、メルトの両端に静電印加を行った。
【0098】
さらに、キャストドラムには、表3に記載の温度分布を付与した。キャストドラムに温度分布を付与することで、Re、Rthの分布を形成することができる。このような分布は、キャストドラム内を流れる熱媒オイルの流路に変調を与えることで達成できる。例えば、熱媒オイルの流路に邪魔板等を設置することで達成することができる。
【0099】
ホ)熱ロール
キャストロールの直後の工程には熱ロールを設置した。熱ロールの温度は表3に記載したように調整した。また、この回転数の平均値は、キャストロールの周速度の98%となるように設置し、かつ表1に記載の回転数変動を与えた。なお、熱ロール上では、ラップ角120度で搬送し、搬送張力は表3の通りとした。
【0100】
ヘ)巻取り
両端5%ずつをトリミングし、両端に厚み出し加工を行った後、室温において表3に記載の張力で巻き取った。なおトリミング後の幅は1.5mであった。
【0101】
<下塗り層塗布>
上記のように製膜した透明樹脂フィルムの片面に、コロナ処理を行った後、第一下塗り層、第ニ下塗り層を塗設した。一下塗り層、第ニ下塗り層の組成および塗布方法は、特開2010-256908の段落[0117]?[0120]に記載の通りとした。
【0102】
(水溶性樹脂と銀を含む導電層の形成)
上記下塗り層の上に、下記ハロゲン化銀感光材料を塗設し透明導電性フィルムを作成した。
【0103】
<ハロゲン化銀感光材料>
水媒体中のAg150gに対してゼラチン10.0gを含む、球相当径平均0.1μmの沃臭塩化銀粒子(I=0.2モル%、Br=40モル%)を含有する乳剤を調製した。なお、この乳剤中にはK_(3)Rh_(2)Br_(9)及びK_(2)IrCl_(6)を濃度が10^(-7)(モル/モル銀)になるように添加し、臭化銀粒子にRhイオンとIrイオンをドープした。この乳剤にNa_(2)PdCl_(4)を添加し、さらに塩化金酸とチオ硫酸ナトリウムを用いて金硫黄増感を行った後、ゼラチン硬膜剤と共に、銀の塗布量が10g/m^(2)となるように、透明樹脂フィルムの上記下塗り層上に塗布した。この際、Ag:ゼラチンの体積比は2:1とした。
【0104】
1.5mの幅で2000m分の塗布を行ない、塗布の中央部1.4mを残すように両端を切り落としてロール状のハロゲン化銀感光材料を得た。
【0105】
<露光>
露光のパターンは、特許4820451号の図1に示すパターンに準じて形成した。小格子18の配列ピッチPsを200μmとし、中格子20a?hの配列ピッチPmを2×Psとした。また、小格子18の導電部の厚みを2μmとし、幅を10μmとした。露光は上記パターンのフォトマスクを介して高圧水銀ランプを光源とした平行光を用いて露光した。
また、特許4820451の図5に準じてもドウデンパターン形成したが、下記評価結果は図1の場合と同様の結果が得られた。
【0106】
<現像処理>
現像液1Lの処方は下記の通りである。
ハイドロキノン 20 g
亜硫酸ナトリウム 50 g
炭酸カリウム 40 g
エチレンジアミン・四酢酸 2 g
臭化カリウム 3 g
ポリエチレングリコール2000 1 g
水酸化カリウム 4 g
pHは10.3に調整した。
【0107】
定着液1Lの処方は下記の通りである。
チオ硫酸アンモニウム液(75%) 300 ml
亜硫酸アンモニウム・1水塩 25 g
1,3-ジアミノプロパン・四酢酸 8 g
酢酸 5 g
アンモニア水(27%) 1 g
pHは6.2に調整した。
【0108】
上記処理剤を用いて露光済み感材を、富士フイルム社製自動現像機 FG-710PTSを用いて処理条件:現像35℃、30秒、定着34℃、23秒、水洗、流水(5L/分)の20秒処理で行った。」

・「【0109】
(評価)
<100℃熱水中60秒の熱寸法変化、および面内分布>
サンプルフィルムを短辺5cm、長辺15cmに裁断した。長辺をMD方向に平行に裁断したものを「MD」、短辺をMD方向に平行に裁断したものを「TD」とし、各々10枚ずつ任意の箇所から裁断した。具体的には、幅方向、長手方向に各々5点ランダムに抽出した30cm×30cmの正方形のサンプルを切り出した。
次いで、上記フィルムを25℃、相対湿度60%で2時間調湿後、10cm間隔のピン孔を開け、ピン間の間隔をピンゲージを用いて測長した。これをL1とした。次いで、100℃の熱水中で60秒熱処理を行った。
熱処理後、25℃、相対湿度60%で2時間調湿後、10cm間隔のピン孔を開け、ピン間の間隔をピンゲージを用いて測長した。これをL2とした。
{|L1-L2|/L1}×100を求め、MD、TD各10点の全平均値を熱寸法変化率(%)とした。
また、MDの10点について最大の熱寸法変化率と最小の熱寸法変化率の差を全10点の平均値で割り百分率で表したものをMDの熱寸法変化の面内分布とした。同様にTDの熱寸法変化率の面内分布も求めた。 MD、TDの熱寸法変化の面内分布の平均を、熱寸法変化の面内分布とした。
・・・(略)・・・
【0113】
<密着性>
サンプルフィルムを10cm角に裁断したものを10枚、任意の箇所から裁断した。具体的には、幅方向、長手方向に各々5点ランダムに抽出した30cm×30cmの正方形のサンプルを切り出した。このサンプルフィルムを100℃熱水に60秒浸漬した。
次いで、-20℃と30℃にそれぞれ10分ずつ交互に曝すサイクルサーモを10回繰り返した。透明導電層に5mm間隔で、MD、TDに沿って各11本、カッターナイフで切り込みを入れ、100の升目を形成した。これに粘着テープを貼り付け、一気に剥ぎ取り、透明導電層が剥離した升目の数を数え、これを剥離率(%)とした。
なお、この方法は大きな温度変化、湿度変化を伴い、過酷な条件での密着評価である。」

・「【0114】
【表3】

【0115】
【表4】



・「【0116】
実施例1?5では、熱寸法変化率が0.01?0.2%である。これは、ダイリップの間隔分布の変動を1?20%とし、透明樹脂フィルムに厚みの変動を付与することにより達成されている。これにより、実施例1?5では、剥離率が低くなっている。一方、比較例1および2は、熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲外であり、剥離率が格段に高くなっていることがわかる。
【0117】
実施例6?12では、透明樹脂フィルムの熱寸法変化率に面内分布を変えている。これは、メルト配管に温度分布を付与することにより達成されている。実施例6?12では熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例7?11では、熱寸法変化率の面内分布が1?10%であるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
また、実施例13?19では、透明樹脂フィルムの誘電率の変化率を変えている。これは、押出し前のペレット加熱温度を特定の範囲内とすることにより達成されている。実施例13?19では熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例14?18では、誘電率の変化率が0.1?10%であるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
【0118】
実施例20?26では、透明樹脂フィルムの誘電率変化の面内分布を変えている。これは、不活性ガスの流量に変動を付与することにより達成されている。実施例20?26では熱寸法変化率が熱寸法変化率に面内分布0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例21?25では、誘電率変化の面内分布が1?10%であるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
また、実施例27?33では、透明樹脂フィルムのRe、Rthを変えている。これは、キャストドラムの回転数に振動を付与することにより達成されている。実施例27?33では熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例28?32では、Re、Rthが1?20nmであるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
【0119】
実施例34?40では、透明樹脂フィルムのRe、Rthの面内分布を変えている。これは、キャストドラムの温度分布に変動を付与することにより達成されている。実施例34?40では熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例35?39では、Re、Rthの面内分布が1?10%であるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
また、実施例41?47では、透明樹脂フィルムの厚みおよび厚みムラを変えている。実施例41?47では熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、剥離率が抑制されているが、実施例42?46では、透明樹脂フィルムの厚みおよび厚みムラが所定の範囲内であるため、剥離率がより効果的に抑制されていることがわかる。
【0120】
実施例48?54では、熱ロール回転変動と、これに伴うRe、Rthの効果を示している。実施例48?54では、熱ロールの回転数変動を特定の範囲とすることにより、Re、Rthが所望の範囲となっており、剥離率がより抑制される傾向となっている。
また、実施例55?61では、熱ロール温度と、これに伴う厚みムラへの影響を示している。実施例55?61では、熱ロール温度を特定の範囲とすることにより、厚みムラが所望の範囲となっており、剥離率がより抑制されている。
実施例62?68では、熱ロール搬送張力と、これに伴う厚みムラへの影響を示している。実施例62?68では、熱ロール搬送張力を特定の範囲とすることにより、厚みムラが所望の範囲となっており、剥離率がより抑制されている。
【0121】
比較例3は、特許文献2の実施例1を追試したものである。透明支持体としてPENを使用(Tg=120℃)し、透明導電層は特許文献2の実施例1に従い銀ナノワイヤーからなるものを使用したものである。比較例3は、熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内にないため、剥離率が極めて高い。
実施例69は、比較例3に対し本発明を実施したものである。透明導電層は特許文献1に従い形成した。実施例69では、熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内であるため、極めて低い剥離率を示している。
【0122】
比較例4は、特許文献1の実施例1を追試したものである。透明支持体としてPETを使用(Tg=78℃)し、透明導電層は特許文献2の実施例1に従いハロゲン化銀を現像した導電パターン銀からなるものを使用した。比較例3は、熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内にないため、剥離率が極めて高い。また、ペレットの加熱温度は本発明内で実施しているが(PETのTgが低く、室温で投入しても本発明の範囲内である)、これに対応する誘電率変化は本発明の範囲から外れている。これは本発明の樹脂(環状オレフィン)と異なるため(環状オレフィンは脂環部が嵩高く運動性が小さいのに対し、PETは芳香環で平面構造のため嵩が低く運動性が高いため、誘電率変化が大きいものと推定される。
また、比較例5は、透明支持体としてPETを使用(Tg=78℃)し、実施例70と同様の製膜方法を実施したものである。実施例70では、剥離率が極めて低いのに対し、比較例5では、剥離率が高くなっている。これは、透明支持体としてPETを使用したことによる性能低下が現れている。すなわち、透明樹脂フィルムの脂環ポリマーの効果が示されている。
なお、比較例6は、特許文献3の実施例2に従い、脂環ポリマー(アートン)上にスパッタ法によりITOを製膜したものである。実施例71は、比較例6と同様にアートンを用いたが、製膜法において本発明を実施した。透明導電層は実施例1と同様にハロゲン化銀と水溶性樹脂からなるものを形成した。これにより、実施例71では、熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内となり、剥離率が効果的に抑制されていることがわかる。
実施例72および73は透明導電層の効果を比較したものである。実施例72は上記の銀と水溶性樹脂から成る導電層を付与したものであり、実施例73は特許文献1の実施例1に従い銀ナノワイヤーからなるものを使用したものである。また、実施例74は特許文献3の実施例2に従いスパッタ法によりITOを製膜したものである。これらの中では、実施例72が最も剥離率が低いことがわかる。
【0123】
(タッチパネルの作成)
特開2009-176608の段落[0073]?[0075]の記載に従い、タッチパネルを作成した。熱寸法変化率が0.01?0.2%の範囲内の透明導電性フィルムを用いたタッチパネルは、-20℃?30℃のサイクルサーモ後も良好な動作性能を示すことを確認した。」

イ 上記の発明の詳細な説明の記載、特に【0001】ないし【0009】によると、本件特許発明1ないし3及び5ないし9の解決しようとする課題は、「透明樹脂フィルムに環状オレフィンを用いた透明導電性フィルムであって、導電層と透明樹脂フィルム基材の密着性に優れた透明導電性フィルム」を提供することであり、本件特許発明10ないし17の解決しようとする課題は、そのような透明導電性フィルムの製造方法を提供することであり、本件特許発明18の解決しようとする課題は、そのような透明導電性フィルムを用いたタッチパネルを提供することである(以下、総称して、「発明の課題」という。)。

ウ そして、発明の詳細な説明の一般記載である【0009】、【0013】ないし【0019】、【0036】ないし【0038】、【0040】、【0041】、【0056】及び【0087】ないし【0089】において、環状オレフィン樹脂のフィルムであることに基づく作用機序によって、下塗り層の有無や導電層の種類にかかわらず、本件特許発明により、発明の課題が解決できる旨記載されている。
したがって、発明の詳細な説明の上記一般記載から、「100℃熱水中60秒の熱寸法変化率」を「0.01?0.2%」の範囲内にすると、「0.01?0.2%」の範囲外のものと比べて、剥離率が低下すること、すなわち発明の課題が解決できることを当業者は認識できる。

なお、このことは、次のことからも裏付けられている。
・発明の詳細な説明の【0092】ないし【0123】において、下塗り層を設けた透明導電性フィルム及びそれを用いたタッチパネルについて、「100℃熱水中60秒の熱寸法変化率」を「0.01?0.2%」の範囲内にすると、「0.01?0.2%」の範囲外のものと比べて、剥離率が低下することが、具体的な実施例及び比較例によって実証されていること。
・以下の回答書の第5及び6ページに記載された表から導かれる回答書の第3ページに記載された表及びグラフから、透明樹脂フィルムと導電層の剥離率については、下塗り層の有無よりも透明樹脂フィルムの熱寸法変化率が支配的な要因であるといえ、また、同じく第4ページの表及びグラフから、透明樹脂フィルムと導電層の剥離率については、導電層の種類よりも透明樹脂フィルムの熱寸法変化率が支配的な要因であるといえ、下塗り層の有無や導電層の種類にかかわらず、「100℃熱水中60秒の熱寸法変化率」を「0.01?0.2%」の範囲内にすると、「0.01?0.2%」の範囲外のものと比べて、剥離率が低下することが、具体的な実施例及び比較例によって実証されていること。

<回答書第5ページの表>

<回答書第6ページの表>

<回答書第3ページの表>

<回答書第3ページのグラフ>

<回答書第4ページの表>

<回答書第4ページのグラフ>


そうすると、発明の詳細な説明の記載により、本件特許発明が発明の課題を解決できると当業者は認識することができるといえる。

エ したがって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(3)申立消理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由3によっては、取り消すことはできない。

1-3 申立理由4(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)検討
そこで、検討する。
ア 特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記第5 1 1-2(2)アのとおりの記載がある。

イ 特許請求の範囲の請求項10の記載自体から、本件特許発明10ないし17における「厚みムラを付与する工程」とは、厚みムラを生じさせるために積極的に何らかの処理をする工程であることは、当業者に明らかである。

ウ また、発明の詳細な説明の記載、特に【0019】の「溶融樹脂に厚みムラを付与する方法としては、例えば、ダイリップのリップ間隔(隙間)に1?20%、より好ましくは2?15%、さらに好ましくは3?10%の分布を与える方法を挙げることができる。」及び【0096】の「ダイリップのリップ間隔(隙間)に表3に示す分布を付与した。ダイリップ間隔はダイリップ上の20等分した点に設置したボルトの締め込みにより調整した。」等の記載からも、本件特許発明10ないし17における「厚みムラを付与する工程」とは、厚みムラを生じさせるために積極的に何らかの処理をする工程であり、厚みムラを生じさせないことを意図する工程は含まれないと当業者は理解する。

エ したがって、ある工程が「厚みムラを付与する工程」に該当するか否かは、当業者は判断することができるといえる。
また、ダイリップ間隔分布を設けることが、厚みムラを生じさせるために積極的に行われることであれば、「厚みムラを付与する工程」に該当することは、明確である。

オ よって、本件特許発明10ないし17に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、本件特許発明10ないし17は明確である。

(3)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項10ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立理由4によっては、取り消すことはできない。

2 取消理由についての判断
(1)取消理由1(新規性)について
取消理由1は、申立理由1と同旨であるから、申立理由1と同様に、該取消理由1では、本件特許の請求項1、2及び18に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(サポート要件)について
取消理由2は、申立理由3と同旨であるから、申立理由3と同様に、該取消理由2では、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許を取り消すことはできない。

第6 結語
上記第5のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3及び5ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4は、訂正により削除されたため、請求項4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルムと、前記透明樹脂フィルムの上に形成された導電層を含む透明導電性フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムは、環状オレフィン樹脂を含み、
前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であり、
前記透明導電性フィルムの-20?30℃の誘電率の変化率が0.1?10%であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記導電層は、間欠部を有するように形成されることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記導電層が水溶性樹脂と銀を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
面内複屈折(Re)が1?20nmであり、厚み方向複屈折(Rth)が1?20nmであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
100℃熱水中60秒の熱寸法変化率の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
-20?30℃の誘電率の変化率の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5、6のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
面内複屈折(Re)の面内変動が1?10%であり、厚み方向複屈折(Rth)の面内変動が1?10%であることを特徴とする請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項9】
前記透明樹脂フィルムの厚みが20?60μmであることを特徴とする請求項1?3、5?8のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項10】
環状オレフィン樹脂を含む透明樹脂フィルムを形成する工程と、
前記透明樹脂フィルムの上に導電層を形成する工程とを含み、
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をシート状にする押出工程を含み、
前記押出工程は、前記シート状の溶融樹脂に厚みムラを付与する工程を含み、
前記透明樹脂フィルムの100℃熱水中60秒の熱寸法変化率が0.01?0.2%であることを特徴する透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記押出工程の前に、環状オレフィン樹脂を含む溶融樹脂をダイに送る工程を有し、前記溶融樹脂をダイに送る工程では、溶融樹脂をダイに送るメルト配管に1?10℃の温度分布を付与することを特徴とする請求項10に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記押出工程の前に、環状オレフィン樹脂を含む組成物を押出機に投入する工程を含み、前記投入する工程では、前記組成物を(Tg-80)?Tg℃に加熱することを特徴とする請求項10または11に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記投入する工程は、前記押出機に不活性ガスを投入する工程を含み、前記不活性ガスを投入する工程では、前記不活性ガスの供給量に0.5?10%の変動を付与することを特徴とする請求項12に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記押出工程は、溶融樹脂に10?300回/分の振動を与える工程を含むことを特徴とする請求項10?13のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記押出工程は、溶融樹脂をキャストドラムに押し出す工程を含み、前記キャストドラムには、0.5?10℃の温度分布が付与されることを特徴とする請求項10?14のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記透明樹脂フィルムを形成する工程は、前記キャストドラムに押し出す工程の後に、シート状の樹脂シートを熱ロールに接触させる工程を含み、前記熱ロールに接触させる工程では、熱ロールの回転数に0.1?5%の変動を与えることを特徴とする請求項15に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記導電層を形成する工程は、ハロゲン化銀乳剤層を形成する工程と、前記ハロゲン化銀乳剤層に露光処理をし、現像処理をする工程を含む請求項10?16のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項1?3、5?9のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを用いたタッチパネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-17 
出願番号 特願2013-41688(P2013-41688)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 康晴  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
阪▲崎▼ 裕美
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6207846号(P6207846)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 透明導電性フィルムおよびタッチパネル  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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