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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B05C
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B05C
管理番号 1349682
異議申立番号 異議2018-700554  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-10 
確定日 2019-02-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6259612号発明「画像形成装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6259612号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、5について訂正することを認める。 特許第6259612号の請求項4、5に係る発明についての特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6259612号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年8月22日を出願日とする特許出願であり、平成29年12月15日に特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、特許異議申立人柏木香陽子(以下、「申立人」という。)により、同年7月10日に、請求項4、5に係る本件特許について、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項に基づく取消理由を主張する特許異議の申立てがされた。
その後、平成30年9月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月16日に意見書及び訂正請求書の提出があった。そして、申立人に対する訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)に対し、申立人は、同年12月21日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1.請求の趣旨
平成30年11月16日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6259612号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、5について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。」
と記載されているのを、
「缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段による缶体の搬送に応じて、前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記複数の画像形成ヘッドを移動させ、
前記複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行うことを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。」
と記載されているのを、
「缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記複数の画像形成ヘッドを移動させ、
前記複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う画像形成装置。」
に訂正する。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項5は、訂正請求の対象である請求項4の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項4、5について請求されている。
また、訂正後の請求項5に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項4とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1に係る請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4では「画像形成手段の移動を行う移動手段」が、「搬送経路に向けての画像形成手段の移動、および、搬送経路から離れる方向への画像形成手段の移動を行う」ものであると特定されるのみで、そのタイミングについては特定されていなかったのを、「画像形成手段の移動を行う移動手段」が、移動を「搬送手段による缶体の搬送に応じて」のタイミングで行うよう構成されたものであることを限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の【0004】に、「画像形成手段へ缶体を搬送して缶体への画像形成を行う構成において、画像形成手段の一部が缶体の搬送経路上に位置していると、搬送される缶体と画像形成手段との干渉を招いてしまう。その一方で、缶体と画像形成手段との干渉を避けるため、缶体の搬送経路を画像形成手段から離してしまうと、画像形成手段から缶体が離れ、形成される画像の質の低下を招くおそれがある。本発明の目的は、画像形成手段に向けて搬送される缶体とこの画像形成手段との干渉をさけつつ、画像形成手段の近くへの缶体の配置を可能にすることにある。」と記載され、また、【0006】に、「本発明によれば、画像形成手段に向けて搬送される缶体とこの画像形成手段との干渉をさけつつ、画像形成手段の近くへの缶体の配置を行うことができるようになる。」と記載されるとおり、本件特許明細書には、訂正前の請求項4に係る発明を含め、本件特許に係る発明の画像形成装置における「画像形成手段の移動を行う移動手段」が、「画像形成手段に向けて搬送される缶体」と「画像形成手段」との干渉をさけるように駆動されるものであることが記載されており、そのような画像形成装置では、画像形成手段の移動は、搬送される缶体と干渉しないように、つまり、「搬送手段による缶体の搬送に応じて」行われると認められる。
また、本件特許明細書の【0041】?【0042】には、図5を参照して、「同図(A)、(B)に示すように、缶体10がインクジェットヘッド170の下方に到達する。このとき、第2インクジェットヘッド172は上昇しており、第2インクジェットヘッド172と缶体10との干渉は避けられる。次いで、同図(B)、(C)に示すように、第2インクジェットヘッド172が下降し、第1インクジェットヘッド171と第2インクジェットヘッド172の直下に缶体10が位置するようになる。付言すると、水平方向搬送経路に向かって第2インクジェットヘッド172が移動し、第2インクジェットヘッド172が缶体10に接近した状態で配置されるようになる。」と記載され、【0043】?【0044】には、缶体10への画像形成を行った(同図(D)参照)後に関し、「同図(E)に示すように、第1インクジェットヘッド171および第2インクジェットヘッド172を上昇させる。付言すると、水平方向搬送経路から離れる方向に向けて、第1インクジェットヘッド171および第2インクジェットベッド172を移動させる。そして、同図(E)、(F)に示すように、缶体10を下流側に向けて移動させる。ここで、このとき、第1インクジェットヘッド171は上方に位置しており、缶体10と第1インクジェットヘッド171との干渉は避けられる。なお、缶体10が下流側へ移動した後は(同図(F)の状態の後は)、第1インクジェットヘッド171が下降し、図5(A)に示す状態に復帰する。」と記載されており、「画像形成手段の移動を行う移動手段」が、「搬送手段による缶体の搬送に応じて」移動される構成を備える具体例が記載されている。
よって、訂正事項1に係る請求項4についての訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2に係る請求項5についての訂正は、訂正前の請求項5が請求項4を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、この訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
また、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、5について訂正することを認める。


第3 本件発明4、5
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項4、5に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項4、5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項4に係る発明を「本件発明4」、請求項5に係る発明を「本件発明5」という。)

「【請求項4】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段による缶体の搬送に応じて、前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項5】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記複数の画像形成ヘッドを移動させ、
前記複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う画像形成装置。」


第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要
1.特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由
本件訂正前の請求項4、5に係る発明についての特許に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)、(2)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に添付して、証拠方法として下記(3)の甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
(1)取消理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項4、5に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(甲第2号証を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項4、5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第1号証及び甲第2号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(主引例:下記の甲第2号証、副引例:下記の甲第1号証)

(3)証拠方法
甲第1号証:特開2012-232771号公報
甲第2号証:特許第4917700号公報
(以下、甲第1号証、甲第2号証を、それぞれ、「甲1」、「甲2」ともいう。)

2.平成30年9月19日付け取消理由通知書に記載した取消理由
取消理由通知書で通知した取消理由は、1.で記載した申立人が主張する申立て理由のうち、取消理由1(甲第1号証に基づく新規性;但し、請求項4に係る発明についての特許に対してのみ)と同旨である。


第5 当審合議体の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、本件発明4、5についての本件特許を取り消すことはできない。

第5-1 取消理由1(甲1に基づく新規性の取消理由)
1.甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、当審合議体が付した。

「【請求項1】
マンドレルホイール、マンドレルホイールに備えられた複数個の自転可能なマンドレル、及び該マンドレルに装着されたシームレス缶外面の少なくとも胴部にインクジェット印刷により印刷画像を形成するインクジェット印刷ステーションを有する印刷装置において、
前記インクジェット印刷が少なくとも一つのインクジェット印刷ステーションで行われ、該インクジェット印刷ステーションには複数個のインクジェットヘッドが配置されていることを特徴とするシームレス缶の印刷装置。
・・・
【請求項6】
前記インクジェット印刷ステーションに、インクジェットヘッドに連結するヘッドクリーニング装置が配置されている請求項1乃至5の何れかに記載の印刷装置。」

「【0013】
(インクジェット印刷装置)
シームレス缶の少なくとも胴部外面に印刷を行う場合、マンドレルホイール上に形成されたマンドレルにシームレス缶を自転可能に固定して、マンドレルホイールに沿って設置された印刷ステーションによってインクジェット印刷を行う印刷装置が、生産性に優れていることから、本発明のインクジェット印刷装置においても、かかる搬送機構が採用される。この装置では、シームレス缶の搬入、印刷、搬出を連続的に行うことができる。
図1にその概略を示す従来のインクジェット印刷装置は、マンドレルホイール1上に複数個のマンドレル2が均等に配置されており、マンドレルホイール1は時計回りに間欠的に公転し、マンドレル2は各ステーションで時計周りに自転する。マンドレルホイール1に沿って、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各インクに対応するインクジェットヘッド3b?3eをそれぞれ一つずつ有する印刷ステーションがマンドレルホイールの外周側に設置されている。マンドレルに搬入・装着されたシームレス缶は、各色毎の印刷ステーションから順次インクの液滴が噴射され、マンドレル2に装着されたシームレス缶上に印刷画像が形成される。印刷画像が形成されたシームレス缶は、マンドレルから取外され印刷シームレス缶が完成する。
【0014】
図2にその概略を示す、本発明のインクジェット印刷装置においては、上述した従来のインクジェット印刷装置と基本的な構造は同一であるが、各印刷ステーションに複数個のインクジェットヘッドが設けられていることが重要な特徴である。」

「【0019】
(ヘッドクリーニング装置)
本発明のインクジェット印刷装置においては、各印刷ステーションに、インクジェットヘッドに連結するヘッドクリーニング装置が配置されていることが好ましい。これにより一つのクリーニング装置で複数個のインクジェットヘッドに対応できるため、効率よくインクジェットヘッドをクリーニングでき、生産効率を向上させることが可能になる。
図4は本発明のインクジェット印刷装置におけるクリーニング機構の一例を説明するための図であり、図4(a)?(c)に示すように、印刷装置マンドレルホイール(図中、点線でその軌道を示す)の外周側に配置された、シームレス缶の高さ方向に移動可能な2つのインクジェットヘッド3A,3Bを有する印刷ステーションにおいて、シームレス缶の高さ方向の位置にインクジェットヘッド3A,3Bに連結するクリーニング装置6が設置されている。
【0020】
・・・クリーニング装置6は、2つのインクジェットヘッド3A、3Bに対して、インクジェットヘッドの移動方向にマンドレル側から、空打ちエリア6a、洗浄エリア6b、ワイピングエリア6c、キャッピングエリア6dが直列的に配置されており、次のようにインクジェットヘッドのクリーニングが行われる。
クリーニング装置に移動したインクジェットヘッドは、洗浄エリア6bで下方からクリーニング液でインクジェットヘッドに付着したインクを洗い落とし、次いでワイピングエリア6cに移動し、ワイパーでインクジェットヘッド先端に付着したクリーニング液を掻き落とす。次にキャッピングエリア6dに移動し、キャップされ、待機する。次に、ワイピングエリアに移動し、ワイパーでインクジェットヘッド先端に付着したインクを掻き落とし、次いでマンドレル方向に移動し、空打ちエリア6aで数回インクを空打ちし、マンドレルと印刷画面に移動して印刷を再開する。」

「【実施例】
【0029】
・・・
(実施形態1)
実施形態1のインクジェット印刷装置は、図7(a)に示すように、各印刷ステーションにインクジェットヘッドが各2個設置された態様であり、印刷ステーション数は4個、図4に示したクリーニング装置が各印刷ステーションに1個ずつの計4個(インクジェットヘッド2つ共有)が設置されている。
各印刷ステーションはマンドレルホイールの公転軌道(図7(a)の点線)に対して外周側に設置する。インクジェットヘッドはマンドレルホイールの公転軌道に重ならないように、且つ公転軌道の上部に2つのインクジェットヘッドが隣接するように下向きに配設される。」
(なお、図7(a)の記載は省略する。)

(2)甲1に記載された発明
上記の甲1の記載、特に請求項1、6の記載、及び、【0013】の「マンドレルホイールに沿って設置された印刷ステーションによってインクジェット印刷を行う印刷装置」、【0019】の「シームレス缶の高さ方向の位置にインクジェットヘッド・・・に連結するクリーニング装置・・・が設置されている」、【0029】の「各印刷ステーションはマンドレルホイールの公転軌道・・・に対して外周側に設置する。インクジェットヘッドはマンドレルホイールの公転軌道に重ならないように、且つ公転軌道の上部に配設される。」なる記載によれば、甲1には次の構造を有する印刷装置が記載されていると認められる。
「マンドレルホイール、マンドレルホイールに備えられた複数個の自転可能なマンドレル、及び該マンドレルに装着されたシームレス缶外面の少なくとも胴部にインクジェット印刷により印刷画像を形成するインクジェット印刷ステーションを有する印刷装置において、
インクジェット印刷が少なくとも一つのインクジェット印刷ステーションで行われ、該インクジェット印刷ステーションには複数個のインクジェットヘッド、及び、インクジェットヘッドに連結するヘッドクリーニング装置が配置され、
前記インクジェット印刷ステーションは、マンドレルホイールの公転軌道に沿って外周側に設置され、インクジェットヘッドは、マンドレルホイールの公転軌道に重ならないように、且つ公転軌道の上部に配設され、ヘッドクリーニング装置は、シームレス缶の高さ方向の位置に設置される、
シームレス缶の印刷装置。」

また、甲1の【0020】の、ヘッドクリーニング装置の動作に関する記載によれば、上記の「印刷装置」では、「クリーニング装置に移動したインクジェットヘッド」に対し、クリーニング装置により、洗浄、ワイピング等の一連のクリーニング操作がおこなわれ、インクジェットヘッドは、工程の最後に「マンドレル方向に移動」し、クリーニング装置の空打ちエリアでインクを空打ちした後に、「マンドレルと印刷画面に移動」して印刷を再開することが記載されている。

そうすると、甲1の上記記載を総合すると、甲1には次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「マンドレルホイール、マンドレルホイールに備えられた複数個の自転可能なマンドレル、及び該マンドレルに装着されたシームレス缶外面の少なくとも胴部にインクジェット印刷により印刷画像を形成するインクジェット印刷ステーションを有する印刷装置であって、
インクジェット印刷が少なくとも一つのインクジェット印刷ステーションで行われ、該インクジェット印刷ステーションには複数個のインクジェットヘッド、及び、インクジェットヘッドに連結するヘッドクリーニング装置が配置され、
前記インクジェット印刷ステーションは、マンドレルホイールの公転軌道に沿って外周側に設置され、インクジェットヘッドは、マンドレルホイールの公転軌道に重ならないように、且つ公転軌道の上部に配設され、ヘッドクリーニング装置は、シームレス缶の高さ方向の位置に設置されており、
ヘッドクリーニングの際、インクジェットヘッドは、シームレス缶にインクジェット印刷画像を形成していたマンドレルホイールの公転軌道の上部の位置から、ヘッドクリーニング装置の方向に移動され、クリーニングが終了したら、マンドレルの位置まで移動されて、印刷を再開されるよう動作されるものである、
シームレス缶の印刷装置。」

2.本件発明4について
ア 対比
(ア) 甲1発明の「シームレス缶」、「インクジェットヘッド」は、それぞれ、本件発明4の「缶体」、「画像形成を行う画像形成手段」に相当するし、甲1発明の「印刷装置」は、「インクジェット印刷により印刷画像を形成するインクジェット印刷ステーションを有する」ものであるから、本件発明4の「画像形成装置」に相当する。
(イ) 甲1発明の「マンドレルホイール、マンドレルホイールに備えられた複数個の自転可能なマンドレル」(以下、「シームレス缶の搬送手段」という。)は、本件発明4の「缶体を搬送する搬送手段」に相当する。
(ウ) 甲1発明における「マンドレルホイールの公転軌道」は、本件発明4の「一方向に向かって延びるように形成される」「搬送経路」に相当するといえるし、甲1発明においては、マンドレルホイールの公転軌道に沿って外周側に設置される印刷ステーションに配置される「インクジェットヘッド」が、「マンドレルホイールの公転軌道に重ならないように、且つ公転軌道の上部に配設」されているから、甲1発明のシームレス缶の搬送経路は、本件発明4の「画像形成手段の脇を通過するように」形成されているといえる。そうすると、甲1発明における「シームレス缶の搬送手段」は、本件発明4の、「一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段」との発明特定事項を満足するといえる。
(エ) 甲1発明の印刷装置においては、「インクジェットヘッド」は、「ヘッドクリーニングの際、シームレス缶にインクジェット印刷画像を形成していたマンドレルホイールの公転軌道の上部の位置から、(当該位置から離れた位置に設置されている)ヘッドクリーニング装置の方向に移動され、クリーニングが終了したら、マンドレルの位置まで移動されるように動作されるもの」であるから、甲1発明の印刷装置は、マンドレルホイールの公転軌道(本件発明4の「搬送経路」)に向けてのインクジェットヘッド(同「画像形成手段」)の移動、及び、マンドレルホイールの公転軌道(搬送経路)から離れる方向へのインクジェットヘッド(画像形成手段)の移動の動作を行う移動手段を必然的に備えているといえる。

以上を踏まえて本件発明4と甲1発明を対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違している。
<一致点>
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。

<相違点1>
画像形成装置において、搬送経路に向けての画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段について、本件発明4では、当該移動が「搬送手段による缶体の搬送に応じて」行われるものであることが特定されているのに対して、甲1発明には、かかる特定はされていない点。

イ 相違点1についての検討
甲1には、印刷装置(本件発明4の「画像形成装置」に相当)において、インクジェットヘッド(同「画像形成手段」に相当)が、「シームレス缶にインクジェット印刷画像を形成していたマンドレルホイールの公転軌道の上部の位置から、ヘッドクリーニング装置の方向」への「移動」、及び、クリーニングが終了後の「マンドレルの位置まで」の「移動」を、「シームレス缶の搬送手段」の駆動と関連づけて行うこと(つまり、本件発明4の「搬送手段による缶体の搬送に応じて」行うこと)は記載されていないし、本件特許に係る出願の出願時の技術常識を参酌しても、甲1に上記のことが記載されているに等しいともいえない。

そうすると、相違点1は実質的な相違点であるから、甲1発明と相違点1で異なる本件発明4について、甲1に記載された発明であるということはできない。

3.本件発明5について
ア 対比
甲1発明の「インクジェットヘッド」は、本件発明5の「画像形成ヘッド」に相当するところ、甲1発明の印刷装置は「複数個のインクジェットヘッド」を備えているから、これは、本件発明5の「前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え」を満足する。
また、甲1発明においては、「ヘッドクリーニングの際、インクジェットヘッドは、シームレス缶にインクジェット印刷画像を形成していたマンドレルホイールの公転軌道の上部の位置から、ヘッドクリーニング装置の方向に移動され、クリーニングが終了したら、マンドレルの位置まで移動され」るのであるから、これは、本件発明5の「前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記画像形成ヘッドを移動させ」を満足する。

そして、上記2.アにおける本件発明4との対比を踏まえて本件発明5と甲1発明を対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違している。

<一致点>
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、画像形成ヘッドを移動させる、
前記画像形成装置。

<相違点2>
画像形成装置において画像形成ヘッドを移動させる移動手段について、本件発明5では、「複数の」画像形成ヘッドを移動させるものであり、また、この移動が、「複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う」ように行われることが特定されているのに対し、甲1発明には、かかる特定はされていない点。

イ 相違点2についての検討
甲1には、インクジェットヘッド(本件発明5の「画像形成ヘッド」)を移動させる移動手段が、「複数の」インクジェットヘッドを移動させるものであることも、また、複数のインクジェットヘッドが、「共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う」ように行われることも記載されていないし、本件特許に係る出願の出願時の技術常識を参酌しても、甲1にそれらのことが記載されているに等しいともいえない。

そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、甲1発明と相違点2で異なる本件発明5について、甲1に記載された発明であるということはできない。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明4、5について甲1に記載された発明であるということはできないから、申立人の主張する取消理由1には、理由がない。


第5-2 取消理由2(甲2を主引例とする進歩性の取消理由)
1.甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
(1)甲2の記載事項
「【請求項1】
被印字材上にドット状の塗料を吐出する塗料吐出部と、
該塗料吐出部を複数個線状に配列した印字ヘッドと、
前記印字ヘッドと被印字材とを前記塗料吐出部の配列方向と交差する方向に沿って相対的に移動させる移動手段と、
前記印字ヘッドを昇降自在に支持する支持部と、
複数の前記塗料吐出部の夫々に塗料を供給する塗料供給手段と、
被印字材の移動距離を検出し、入力された印字情報に基づいて、前記塗料吐出部の吐出動作を制御する制御手段とを備え、
前記支持部は、前記印字ヘッドに干渉する厚さの被印字材上に乗り上げて前記印字ヘッドを被印字材上に退避させる保護車輪を備え、前記印字ヘッドと前記保護車輪との重量バランスをとるカウンターウエイトを備えることを特徴とする印字装置。」

「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る印字装置の全体構成を示した説明図である。印字装置1は、塗料吐出部10と、この塗料吐出部10を備える印字ヘッド11と、被印字材Wを移動させる移動手段20と、塗料吐出部10に塗料を供給する塗料供給手段30と、塗料吐出部10の吐出動作を制御する制御手段40を備えている。
【0013】
塗料吐出部10は、塗料供給手段30によって供給流路31を経由して供給される塗料を吐出して、被印字材W上にドット状の文字を印字するものである。この塗料吐出部10は、例えば、制御手段40からの出力で制御される高圧エアーで駆動する塗料ガンを用いることができる。・・・
【0014】
印字ヘッド11は、複数の塗料吐出部10を備えており、塗料吐出部10が複数個(例えば10個)線状に配列されている。また、印字ヘッド11は、必要に応じて、移動手段20の移動方向と塗料吐出部10の配列方向との交差角度が変更自在になるように回転自在に軸支されている。
【0015】
印字装置1は、印字ヘッド11を昇降自在に支持する支持部12を備えている。この支持部12は印字ヘッドの昇降と一体に揺動するスイングアーム12Eと、スイングアーム12Eを揺動させるチェーン12Gと、チェーン12Gを巻き上げ又は巻き戻す昇降モータ12Fを備えている。
【0016】
具体的には、支持部12は、支持部本体12A、平行リンク12B、連結アーム12Cを備えており、回転軸12Dを介して印字ヘッド11が回転自在に支持されている。また、支持部本体12Aには平行リンク12Bと一体にスイングアーム12Eが軸支されており、昇降モータ12Fがチェーン12Gを巻き上げると、スイングアーム12Eが立ち上がり平行リンク12Bを引き起こして印字ヘッド11が上昇する。昇降モータ12Fがチェーン12Gを緩めると印字ヘッド11は自重で下降する。支持部本体12Aには印字ヘッド11とのウエイトバランスを維持するため、平行リンク12Bとスイングアーム12Eと一体にカウンターウエイト12Hが軸支されている。
【0017】
移動手段20は、被印字材Wを塗料吐出部10の配列方向と交差する方向に沿って移動させるものであり、スラットコンベヤやローラコンベヤなどの各種搬送装置を用いることができる。図示の例は、被印字材Wを点支持するスラットバー21を矢印方向に移動させるスラットコンベヤを示している。この移動手段20はスラットバー21の移動を検出するエンコーダ22を備えており、このエンコーダ22の検出信号が制御手段40に入力されることで、制御手段40は移動手段20による被印字材Wの移動距離を認識することができる。
【0018】
塗料供給手段30は、図示省略した塗料タンクや塗料タンクから所定圧で供給流路31に塗料を供給する加圧手段などを備えている。・・・
【0019】
制御手段40は、塗料吐出部10の吐出タイミングや吐出時間などを制御するものであり、移動手段20に設けたエンコーダ22からの検出信号,支持部12に設けた被印字材Wの検出センサ13からの検出信号,回転軸12Dに設けた回転角センサ14からの検出信号がそれぞれ入力され、塗料吐出部10の吐出動作(吐出タイミングと吐出時間),電磁弁32の開閉動作,塗料供給手段30の供給動作(供給圧など)を制御するものである。
【0020】
また、制御手段40は、印字ヘッド11の昇降動作を制御する。支持部12における昇降モータ12Fの動作が制御手段40によって制御されており、検出センサ13によって検出される被印字材Wまでの距離に応じて、制御手段40は印字ヘッド11と被印字材Wとの距離が適正な距離になるように、印字ヘッド11を昇降制御する。」

「【図1】




(2)甲2に記載された発明
甲2の上記(1)の記載、特に請求項1、2、及び、【0017】の「移動手段20は、被印字材Wを塗料吐出部10の配列方向と交差する方向に沿って移動させるものであり」なる記載によれば、甲2には次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「被印字材上にドット状の塗料を吐出する塗料吐出部と、
該塗料吐出部を複数個線状に配列した印字ヘッドと、
前記被印字材を前記印字へッドの塗料吐出部の配列方向と交差する方向に沿って相対的に移動させる移動手段と、
前記印字ヘッドを昇降自在に支持する支持部と、
複数の前記塗料吐出部の夫々に塗料を供給する塗料供給手段と、
被印字材の移動距離を検出し、入力された印字情報に基づいて、前記塗料吐出部の吐出動作を制御する制御手段とを備え、
前記支持部は、前記印字ヘッドに干渉する厚さの被印字材上に乗り上げて前記印字ヘッドを被印字材上に退避させる保護車輪を備え、前記印字ヘッドと前記保護車輪との重量バランスをとるカウンターウエイトを備える印字装置。」

2.本件発明4について
ア 対比
(ア) 甲2発明の「印字」は、本件発明4の「画像形成」に相当するし、甲2発明において印字をする「ドット状の塗料を吐出する塗料吐出部を複数個線状に配列した印字ヘッド」は、本件発明4の「画像形成手段」に相当する。
(イ) 本件発明4の「缶体」は、画像形成が行なわれる対象物であるから、「画像形成対象物」であるといえるところ、甲2発明の「被印字材」も印字(画像形成)が行われる対象物であるから、甲2発明の「被印字材」と本件発明4の「缶体」は、「画像形成対象物」である限りにおいて一致する。
(ウ) 甲2発明の「移動手段」は、本件発明4の「搬送手段」に相当するところ、甲2発明における移動手段は、「印字へッドの塗料吐出部の配列方向と交差する方向に沿って相対的に移動させる」ものであるから、本件発明4の「一方向に向かって延びるように形成される」を満足するといえるし、甲2発明においては、(画像形成対象物である)被印字体の移動は、塗料吐出部により印字が可能な位置を通るようになされるのであるから、これは、本件発明4の「画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、(画像形成対象物である缶体を)搬送する」を満足する。
(エ) 甲2発明の「支持部」は、搬送経路上の被印字材に印字をするための「印字ヘッド」(本件発明4の「画像形成装置」)を「昇降自在に支持する」ものであるから、本件発明4の「前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段」に相当するといえる。

以上のとおりであるから、本件発明4と甲2発明を対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違している。
<一致点>
画像形成対象物への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、画像形成対象物を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。

<相違点3>
画像形成対象物が、本件発明4では「缶体」であるが、甲2発明では「被印字材」である点。
<相違点4>
画像形成対象物の搬送経路に向けての画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段について、本件発明4では、これらの移動を「搬送手段による缶体(画像形成対象物)の搬送に応じて」行うものであると特定されているのに対して、甲2発明では、支持部による印字ヘッドの昇降を、被印字体(画像形成対象物)の搬送に応じて行うことは特定されていない点。

イ 相違点についての検討
まず、相違点3について検討する。
甲2発明の印字装置に関し、甲2には、以下の記載がある。
「【0002】
造船などの大型構造物を製造するに際して、構成部品の鋼材などに部品を管理するための文字や記号を記入して、その後の部品管理を円滑に行うことがなされている。一般には、人手を介して鋼材の表面に文字や記号を書き込むことが行われているが、鋼材の搬送速度を高めて作業効率の向上を図ろうとする場合に、人手による書き込み作業がボトルネックになって高い作業効率が得られない問題が生じる。
【0003】
これに対処するために、構成部品の鋼材などを被印字材とする印字装置が提案されている。下記特許文献1に記載の印字装置は、鋼材などの表面にドットマトリクスで印字を行う装置であり、鋼材の搬送方向に対して垂直な方向にペンキ又はインクを吐出する複数のノズルを配置した印字ヘッドを備えている。
・・・
【0004】
【特許文献1】特開平10-86448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような印字装置では、印字されるドットの大きさを設定された大きさにするために、印字ヘッドの先端から被印字材までの距離を均一に維持することが必要になる。これに対して被印字材の厚さは様々であるから、比較的薄厚の被印字材の流れの中に厚手の被印字材が混在している場合などは、被印字材が印字ヘッドに干渉して、印字ヘッドを破損させてしまう問題が生じる。
【0006】
このような問題を解消するためには、印字ヘッドと被印字材との距離を一定に保つように印字ヘッドを昇降制御することが考えられる。このような制御がなされている場合であっても、予期せぬ事態で昇降制御が非作動になった場合や、距離センサの検知後に被印字材が変形した場合には、印字ヘッドが被印字材に干渉することがあり、一旦印字ヘッドが破損してしまうと印字ラインを停止せざるを得ないので、作業効率が大きく低下してしまう問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、印字ヘッドと被印字材等との干渉による印字ヘッドの損傷を未然に防ぎ、印字装置の作業効率を良好に維持することができること、印字ヘッドの昇降制御におけるフェールセーフを実現できること等が、本発明の目的である。」

上記甲2の【0002】?【0007】の記載、及び、甲2発明が「印字ヘッドと前記保護車輪との重量バランスをとるカウンターウエイトを備える」との発明特定事項を備えることからも理解できるとおり、甲2発明の印字装置は、造船などの大型構造物を製造するに際して、その後の構成部品の鋼材部品などを管理するためのものであり、造船などの大型構造物の鋼材部品を対象物として、文字等を印字することを前提とした印字装置の発明である。

一方、申立人が提示した甲1は、第5-1の1.で述べたように、シームレス缶の印刷装置(請求項1参照)に関するものであり、また、【0002】にもあるとおり、これは、炭酸飲料等の飲料や各種食品用容器として利用されるシームレス缶への印刷技術に関するものである。
そうすると、甲1から、飲料等に使用されるシームレス缶に印刷を施す技術が周知であることが理解できるとしても、甲2発明では、甲1に記載されるようなシームレス缶を印字対象とすることは全く想定されていないのであるから、甲2発明の印字装置を、甲1に示されるような周知の缶体の印刷に適用することを当業者が動機付けられるとはいえない。
してみると、当業者は、甲2発明を相違点3に係る構成を備えたものとすることを容易に想到し得ない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、相違点3に係る構成を有する本件発明4について、甲2発明(甲2に記載の発明)及び甲1発明(甲1に記載の発明)から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3.本件発明5について
ア 対比
上記2.アにおける本件発明4との対比を踏まえて本件発明5と甲2発明を対比する。
甲2発明の「塗料吐出部」は、「被印字材上にドット状の塗料を吐出」して「印字」(すなわち、画像形成)を行うものであるから、これは、本件発明5の「画像の形成を行う画像形成ヘッド」に相当する。
そして、甲2発明の、印字ヘッドは、「塗料吐出部を複数個線状に配列した」ものであるから、本件発明5の画像形成手段についての、「画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え」、及び、「複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う」を満足する
そうすると、本件発明5と甲2発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違している。

<一致点>
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記複数の画像形成ヘッドを移動させ、
前記複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う画像形成装置。

<相違点3’>
画像形成対象物が、本件発明5では「缶体」であるが、甲2発明では「被印字材」である点。

イ 相違点についての検討
相違点3’は、本件発明4について上記2.アに記載した相違点3に対応するものである。
そして、相違点3’については、本件発明4について上記2.イの相違点3についての判断において説示したと同様の理由によって、当業者は容易に想到し得ない。
よって、本件発明5は、甲2発明(甲2に記載の発明)及び甲1発明(甲1に記載の発明)から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明4、5について甲2に記載の発明及び甲1に記載の発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。よって、申立人の主張する取消理由2には、理由がない。

第5-3 申立人の平成30年12月21日提出の意見書について
申立人は、平成30年12月21日提出の意見書において、訂正後の請求項4に係る発明は、「搬送手段による缶体の搬送に応じて」、「画像形成手段の移動を行う移動手段」の具体的な構造や制御が不明であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書の【0004】、【0006】及び【0041】?【0044】の記載によれば、「搬送手段による缶体の搬送に応じて」、「画像形成手段の移動を行う移動手段」が、「画像形成手段に向けて搬送される缶体」と「画像形成手段」との干渉をさけるように、「搬送手段による缶体の搬送に応じて」駆動されるように制御されるものであり、当該移動手段は、「画像形成手段に向けて搬送される缶体」と「画像形成手段」との干渉がさけられる限り、どのように制御されてもよいし、また、「画像形成手段の移動を行う移動手段」自体の構造も、画像形成手段の移動が可能な構造であれば任意の構造でよいことは明らかである。
よって、訂正後の請求項4に係る発明について、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないということはできない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項4、5に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項4、5に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に向かって突出した突出部を有し、下方に向けてインクを吐出して缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
横方向に延び前記画像形成手段の下方を通る搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段により缶体が搬送されて前記画像形成手段の下方に当該缶体が達した後、当該缶体を上方へ移動させ、当該画像形成手段の対向位置まで当該缶体を移動させるとともに当該缶体の一部を前記突出部の下端よりも上方に位置させる缶体移動手段と、を備える画像形成装置。
【請求項2】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路上の前記缶体を前記一方向と交差する方向に向けて移動させ、当該缶体を前記画像形成手段に向けて移動させる缶体移動手段と、
を備え、
前記缶体は、筒状に形成され、
前記画像形成手段は、前記缶体の軸心が予め定められた配置箇所に配置された状態の当該缶体に対して画像形成を行い、
前記缶体移動手段は、前記搬送経路上の予め定められた箇所を始点として、前記画像形成手段に向けての前記缶体の移動を開始し、その後、前記予め定められた配置箇所に前記軸心が位置するように当該缶体を配置し、
前記搬送経路に対する垂線であって前記予め定められた配置箇所を通る当該垂線と、当該搬送経路との交差箇所の位置と、前記始点の位置とを比較した場合に、当該始点の方が当該交差箇所よりも、缶体の搬送方向上流側に位置している画像形成装置。
【請求項3】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路上の前記缶体を前記一方向と交差する方向に向けて移動させ、当該缶体を前記画像形成手段に向けて移動させる缶体移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、前記缶体に対峙する対峙面であって前記搬送経路が延びる方向に対して傾斜して配置された当該対峙面に形成されたインク吐出口から当該缶体に向けてインクを吐出することで、当該缶体に対する画像形成を行い、
前記缶体移動手段は、前記缶体を前記画像形成手段に向けて移動させる際、前記一方向とは交差する方向に向けて且つ前記対峙面が延びる方向に沿うように当該缶体を移動させる画像形成装置。
【請求項4】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段による缶体の搬送に応じて、前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項5】
缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
一方向に向かって延びるように形成されるとともに前記画像形成手段の脇を通過するように形成された搬送経路に沿って、缶体を搬送する搬送手段と、
前記搬送経路に向けての前記画像形成手段の移動、および、当該搬送経路から離れる方向への当該画像形成手段の移動を行う移動手段と、
を備え、
前記画像形成手段は、画像の形成を行う画像形成ヘッドを複数備え、
前記移動手段は、前記画像形成手段の前記移動に際し、前記複数の画像形成ヘッドを移動させ、
前記複数の画像形成ヘッドは、共通の支持部材により支持され、前記移動手段による移動に際し、一体となって移動を行う画像形成装置。
【請求項6】
上流側から搬送経路に沿って予め定められた箇所まで缶体を搬送した後、当該予め定められた箇所から下流側に向けて当該缶体をさらに搬送する搬送手段と、
前記搬送経路の脇に配置されるとともに、前記予め定められた箇所よりも上流側および下流側の少なくとも一方の側にて、その一部が当該搬送経路上に突出するように設けられ、当該予め定められた箇所に位置している前記缶体に対して画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段の前記一部を前記搬送経路上から退避させる退避手段と、
を備える画像形成装置。
【請求項7】
前記退避手段は、予め定められた回転中心を中心に前記画像形成手段を回転させることで、前記一部の前記搬送経路上からの退避を行うことを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
搬送経路に沿って第1の箇所へ筒状の缶体を搬送するとともに、当該第1の箇所よりも下流側に位置する第2の箇所へ当該缶体をさらに搬送する搬送手段と、
前記第1の箇所に位置する缶体の外周面の第1の部位に対して、画像を形成する第1の画像形成ヘッドと、
前記第1の画像形成ヘッドよりも前記缶体の搬送方向下流側に配置され、前記第2の箇所に位置する当該缶体の外周面の第2の部位であって当該缶体の軸方向における位置が前記第1の部位とは異なる当該第2の部位に対して、画像を形成する第2の画像形成ヘッドと、
を備え、
前記第1の部位に形成される画像と前記第2の部位に形成される画像とが前記軸方向において部分的に重なるように、前記第1の画像形成ヘッドによる画像形成および前記第2の画像形成ヘッドによる画像形成が行われ、
前記第1の部位に形成される画像と前記第2の部位に形成される画像とが重なる重なり部分に対して、前記第1の画像形成ヘッドが画像を形成する際に吐出するインクの一滴あたりの量が、当該第1の画像形成ヘッドが当該重なり部分以外に対して吐出するインクの一滴あたりの量よりも少なく、
前記第2の画像形成ヘッドが前記重なり部分に対して画像を形成する際に吐出するインクの一滴あたりの量が、当該第2の画像形成ヘッドが当該重なり部分以外に対して吐出するインクの一滴あたりの量よりも少ない画像形成装置。
【請求項9】
前記第1の画像形成ヘッドが前記重なり部分に対して吐出するインクの一滴あたりの量と前記第2の画像形成ヘッドが当該重なり部分に対して吐出するインクの一滴あたりの量との和が、当該第1の画像形成ヘッドが当該重なり部分以外に対して吐出するインクの一滴あたりの量と等しくなっている請求項8に記載の画像形成装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-24 
出願番号 特願2013-172740(P2013-172740)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B05C)
P 1 652・ 113- YAA (B05C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6259612号(P6259612)
権利者 昭和アルミニウム缶株式会社
発明の名称 画像形成装置  
代理人 尾形 文雄  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  
代理人 水戸 洋介  
代理人 古部 次郎  
代理人 水戸 洋介  

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