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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09D |
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管理番号 | 1349707 |
異議申立番号 | 異議2018-701054 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-12-25 |
確定日 | 2019-03-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6351896号発明「塗料組成物、塗膜及び塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6351896号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6351896号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成29年11月6日(優先権主張 平成28年11月7日、日本国)に出願された特願2017-214095号の一部を平成30年3月22日に新たな特許出願としたものであって、平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月25日に、特許異議申立人小林瞳(以下、単に、「申立人」という。)により、請求項1?10に係る特許について、特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第6351896号の請求項1?10の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?10の特許に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。また、本件発明1?10について、特許異議申立書の記載に沿って発明特定事項を分説して記載した(以下、分説した発明特定事項をそれぞれ「構成A:」などといい、関連が深い発明特定事項については、「A’:」などと「’」が付されている。)。 「【請求項1】 A:樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、 B:不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり C:且つ不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下であることを特徴とする塗料組成物。 【請求項2】 B’:不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10^(-5)/K以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。 【請求項3】 B’’:不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.0×10^(-5)/K以下であることを特徴とする請求項2に記載の塗料組成物。 【請求項4】 C’:不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が2.0×10^(-5)/K以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の塗料組成物。 【請求項5】 D:前記塗料組成物が、構造物に適用されることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の塗料組成物。 【請求項6】 E:前記塗料組成物が、鋼構造物の補修のために使用されることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の塗料組成物。 【請求項7】 F(A’):樹脂及び顔料を含む塗膜であって、 G(B’):該塗膜のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり且つ H(C’):該塗膜のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下であることを特徴とする塗膜。 【請求項8】 I(A’):被塗装物を、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物で塗装し、 B’’’:ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり且つ C’’:ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下である塗膜を形成させる工程を含むことを特徴とする塗装方法。 【請求項9】 J:前記被塗装物が、鋼構造物であることを特徴とする請求項8に記載の塗装方法。 【請求項10】 K:前記塗装方法が補修のための塗装方法であって、 L:前記工程が補修の度に繰り返されることを特徴とする請求項8又は9に記載の塗装方法。」 3.申立理由の概要 申立人は、次の理由A及びBにより、本件の請求項1?10に係る発明の特許は取り消されるべきである旨主張している。 (1)理由A(特許法第36条第6項第1号) ア 本件発明の課題は、「耐久性に優れ、補修に適した塗膜を形成可能な塗料組成物を提供すること」や「耐久性に優れ、補修に適した塗膜と、該塗膜を形成する塗装方法とを提供すること」にある(【0007】)。 上記課題を解決するために、本件発明は、「ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1)を特定の範囲にまで低下させることで、塗膜の剥離を大幅に防ぐことができ、耐久性に優れ、補修に適した塗膜を提供できること」を見出したものである(【0013】)。 そして、耐久性に優れ、補修に適した塗膜を形成するために、本件発明1、7及び8で規定する塗料組成物、又は、塗膜を構成する原料として、「樹脂成分及び顔料を含むことが規定されている。 また、上記課題を解決することに関して、本件明細書には、「表1から分かるように、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分の線膨張係数α_(1)を低下させることができる。また、線膨張係数α_(1)は顔料の種類にも影響されることがわかる。即ち、顔料形状が球状よりも麟片状の方が少量で線膨張係数α_(1)を低下させる効果が大きく、更に同じ鱗片状顔料の場合でも、粒径の大きい方が線膨張係数α_(1)を低下させる効果が大きいことが分かる。」と記載(【0039】)されている。 すなわち、本件発明の課題を解決するために規定される「ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1)」を特定の範囲に調整するために、塗料組成物中の顔料の割合や、顔料の種類などを特定する必要があることがわかる。 更に、本件実施例においては、本件発明の課題を解決することが立証されている塗料組成物中の前記「樹脂成分」として、「エポキシ樹脂」を主成分として使用し、「硬化剤」として、アミン化合物のみを使用する塗料組成物のみが記載(【0043】、【0085】?【0088】、【0096】?【0098】)されている。 そうすると、本件発明の課題を解決できる具体的な塗料組成物を構成する必須成分である「樹脂成分および顔料」として、前記「樹脂成分」が、少なくとも、エポキシ樹脂を配合することが必要であり、前記「顔料」としては、その配合割合や種類など、さらに前記「硬化剤」については、少なくとも、アミン化合物を配合することが必要であって、それ以外の樹脂成分、顔料、硬化剤を配合した塗料組成物については、本件発明の課題を解決できることが立証された具体的な記載は発明の詳細な説明には存在しない。 つまり、前記樹脂成分として、本件発明1、7及び8は、本件発明の課題を解決できない(所望の効果が立証されていない)樹脂成分や顔料、更にこれらに加えて、本件発明の課題を解決できない(所望の効果が立証されていない)硬化剤についても包含するものである。 したがって、本件発明1、7及び8は、本件発明の課題を解決することができない発明を包含しており、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。また、本件発明1、7及び8に従属する、本件発明2?6、9及び10についても同様である。 イ 小括 よって、本件発明1?10は、サポート要件を充足しない。 (2)理由B(特許法第29条第2項) 本件発明1?10は、次の甲1(甲各号証は、単に「甲1」などという。)に記載された発明、甲2記載事項、甲3記載事項(周知技術)、及び、甲4記載事項(周知技術)に基づき、容易想到であり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、それらの特許は取り消されるべきである。 甲1:特開2009-160538号公報 甲2:特開2001-164092号公報 甲3:佐藤弘三、「塗膜物性に及ぼす顔料効果」、色材協会誌、社団法人色材協会、昭和39年12月30日、37巻、12号、p473?480、509 甲4:「エポキシ樹脂の“特性改良”と“高機能/複合化”技術」、株式会社技術情報協会、平成27年2月27日、表紙、p15、19、23、奥付 4.判断 (1)理由Aについて ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するかどうか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるところ、上記の観点に立って、本件について検討することとする。 イ 本願の明細書の記載 本願の明細書には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、特許文献1に記載される技術を利用したとしても、補修塗膜の剥離が発生する場合があり、補修塗膜の付着力については依然として改善の余地がある。 【0007】 そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、耐久性に優れ、補修に適した塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、耐久性に優れ、補修に適した塗膜と、該塗膜を形成する塗装方法とを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、補修塗膜の剥離について検討したところ、特に、補修塗膜の塗り重ねを繰り返し行ったり、膜厚を厚くしたりすることで、旧塗膜層からの剥離の発生が起こり易くなることが分かった。これは、塗り重ねた塗膜が厚膜化する事により、塗膜の内部応力が上昇する事によって、塗膜の付着性が低下し、それによって剥離が生じ易くなったものと考えられる。 【0009】 塗膜の内部応力を小さくするためには、塗膜のガラス転移温度を低下させる手法や、塗膜の弾性率を低下させる手法が知られている。しかしながら、塗膜の内部応力を小さくする目的でこれらの手法について検討したところ、ガラス転移温度や弾性率が低くなるに従い腐食性物質に対する遮断性が低下し、防食性が悪化する傾向にある。このような結果は、例えば橋梁等の鋼構造物に対して望ましくない結果である。 【0010】 そこで、本発明者は、塗膜の線膨張係数に着目した。下記関係式(1)に示されるように、線膨張係数を小さくすることで応力も小さくなることが知られていたものの、通常、ガラス転移温度や弾性率を低くすると、線膨張係数が高くなる関係にあるため、塗膜の内部応力を小さくする手法として注目されていたとは言えない。 【数1】 関係式(1)において、σは応力であり、αは線膨張係数であり、Eは弾性率であり、T_(1)は低温側の温度であり、T_(2)は高温側の温度である。 【0011】 例えば、特定の線膨張係数を有する塗膜を金属製構造物の表面に形成させる防食工法が提案されているが、かかる防食工法では、金属製部材の荷重や熱膨張収縮による動きに対して追従性を持たせるため、塗膜の線膨張係数が規定されている。このように被塗装物である金属との熱膨張係数の差を小さくさせることによって、塗膜の耐久性を向上させる手法は知られているものの、塗膜の内部応力を小さくする観点からの線膨張係数の検討については十分に行われていない。 【0012】 線膨張係数はガラス転移温度を境にして変化するため、関係式(1)を下記関係式(2)として表すことができる。また、一般には、α_(1)<α_(2)の関係があるものの、E_(1)>>E_(2)の関係があるため、関係式(2)の右辺におけるガラス転移温度から高温側(右辺第2項)はガラス転移温度から低温側(右辺第1項)に比べてその影響力は小さい。 【数2】 関係式(2)において、σは応力であり、α_(1)はガラス転移温度から低温側の線膨張係数であり、α_(2)はガラス転移温度から高温側の線膨張係数であり、E_(1)はガラス転移温度から低温側の弾性率であり、E_(2)はガラス転移温度から高温側の弾性率であり、T_(g)はガラス転移温度であり、T_(1)は低温側の温度であり、T_(2)は高温側の温度である。 【0013】 本発明者は更に検討したところ、ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1)を特定の範囲にまで低下させることで、塗膜の剥離を大幅に防ぐことができ、耐久性に優れ、補修に適した塗膜を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0014】 また、本発明者は、上記線膨張係数α_(1)が特定の範囲にまで低下した塗膜では、膜厚が大きいほど、剥離防止効果も大きくなることも見出した。一般的に、膜厚が大きければ内部応力も高くなることから、剥離防止効果が小さくなると考えられており、本発明が奏する効果はこの点からも驚くべきものである。なお、このような効果が得られる明確な理由は現段階では不明であるが、塗膜が厚くなるほど塗膜の剛性が高くなっていることに起因しているのではないかと、考えられる。 さらに、本発明者は、上記のように線膨張係数α_(1)を特定の範囲にまで低下させた塗膜について、上記線膨張係数α_(2)も特定の範囲に低下させると、剥離防止効果がより向上することも見出した。 【0015】 即ち、本発明の塗料組成物は、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であることを特徴とする。」 「【0037】 本発明の塗料組成物においては、樹脂成分の種類や顔料の種類にかかわらず、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分のガラス転移温度以下の温度での線膨張係数を低下させることができる。この理由としては、塗料組成物に使用される樹脂と顔料を比較すると、顔料の線膨張係数の方が樹脂よりも小さいことが挙げられる。以下に、不揮発分中に占める顔料の割合と線膨張係数α_(1)の関係について、表1に示す。 【0038】 【表1】 【0039】 表1から分かるように、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分の線膨張係数α_(1)を低下させることができる。また、線膨張係数α_(1)は顔料の種類にも影響されることがわかる。即ち、顔料形状が球状よりも麟片状の方が少量で線膨張係数α_(1)を低下させる効果が大きく、更に同じ麟片状顔料の場合でも、粒径の大きい方が線膨張係数α_(1)を低下させる効果が大きいことが分かる。 なお、線膨張係数α_(2)も同様の手法により低下させることが可能であるが、線膨張係数α_(1)と比べて、顔料の粒径の影響が大きい。このため、粒径の大きな顔料による線膨張係数α_(2)を低下させる効果は、線膨張係数α_(1)を低下させる効果よりも大きい。」 「【0086】 各エポキシ樹脂塗料組成物の製造は以下の方法で行った。主剤については、ガラスフレークおよびマイカを除く各成分を表2の配合比率に従って混合した後、ガラスビーズ充填のもと、卓上サンドミルを用いて十分に分散させ製造した。ガラスフレーク及びマイカを含む塗料については、卓上サンドミルで十分に分散したベースに表2の配合比率に従ってガラスフレーク及びマイカを加え、ディスパー分散機により均一に撹拌混合して製造した。 得られた主剤を表2に示した配合比率で硬化剤と混合して、各エポキシ樹脂塗料組成物を製造した。 【0087】 【表2】 【0088】 (注1)JER1001X75:商品名 三菱ケミカル社製 ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、不揮発分75質量%、エポキシ当量450?500g/eq (注2)JER168V70:商品名 三菱ケミカル社製 変性ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、不揮発分70質量%、エポキシ当量420?480g/eq (注3)JER828:商品名 三菱ケミカル社製 ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、不揮発分100質量%、エポキシ当量184?194g/eq (注4)ニカノールLLL:商品名、フドー社製 キシレン樹脂 (注5)K-WHITE#82:商品名、テイカ社製 縮合リン酸アルミニウム、平均粒径:3.5μm (注6)クラウンタルク3S:商品名、松村産業社製 タルク、平均粒径:11.9μm (注7)RCF-015:商品名、日本板硝子社製、ガラスフレーク顔料、粒径小(平均粒径:15μm) (注8)RCF-160:商品名、日本板硝子社製、ガラスフレーク顔料、粒径中(平均粒径:160μm) (注9)RCF-600:商品名、日本板硝子社製、ガラスフレーク顔料、粒径大(平均粒径:600μm) (注10)FB-20D/5D:商品名、デンカ社製、球状溶融シリカ、FB-20D(平均粒径:22.5μm)、FB-5D(平均粒径:4.9μm)、FB-20D/5D=9/1(質量比)に混合 (注11)マイカB-82:商品名、ヤマグチマイカ社製、マイカ、粒径大(平均粒径:180μm) (注12)ベンガラ130R:商品名、戸田工業社製 酸化鉄、平均粒径:0.2μm (注13)ディスパロンD4200-20X:商品名、楠本化成社製、分散剤 (注14)ディスパロンOX-66:商品名、楠本化成社製、消泡剤 (注15)KBM403:商品名、信越化学社製、シランカップリング剤 (注16)サンマイド150-65:商品名、エアープロダクツアンドケミカルズ社製、変性脂肪族ポリアミドアミン、不揮発分65質量%、アミン価 62mgKOH/g (注17)JERキュアXD#639:商品名、三菱ケミカル社製、変性脂肪族ポリアミドアミン、不揮発分99質量%、アミン価 220 mgKOH/g (注18)アンカマイド350A:商品名、エアープロダクツアンドケミカルズ社製、ポリアミドアミン、不揮発分100質量%、アミン価 380mgKOH/g」 「【0096】 (実施例10,11) 実施例10?11(実-10?実-11)、比較例1(比-1)のエポキシ樹脂塗料組成物の配合を表3に示す。各配合は、標準配合として参考文献3に記載されている「鋼構造物用厚膜形変性エポキシ樹脂塗料下塗基準塗料」を比較例1とし、それに含まれる樹脂や顔料を種々の対象原料に置換えた。 各エポキシ樹脂塗料組成物の製造は実施例1?9と同様の方法で行い、得られた主剤を表3に示した配合比率で硬化剤と混合して、各エポキシ樹脂塗料組成物を製造した。 【0097】 【表3】 【0098】 (注19) エピクロン5900-60:商品名 DIC社製、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂のミネラルスピリット溶液、不揮発分60質量%、エポキシ当量640?700g/eq (注20)アデカグリシロールED502:商品名 ADEKA社製 アルキルグリシジルエーテル、不揮発分100質量%、エポキシ当量320g/eq (注21)マイカA-41S:商品名 ヤマグチマイカ社製、白雲母、平均粒径:47μm、アスペクト比:80(平均) (注22) トーマイド225-X:商品名 T&K TOKA社製、ポリアミノアミド、アミン価:340(注23)アデカハードナーEH235R-2:商品名 ADEKA社製 ケチミン系硬化剤、不揮発分100質量%、アミン価 290mgKOH/g」 ウ 上記イより、本件発明の課題は、「耐久性に優れ、補修に適した塗膜を形成可能な塗料組成物を提供すること」及び「耐久性に優れ、補修に適した塗膜と、該塗膜を形成する塗装方法とを提供すること」(本件明細書【0007】)であると認められる。 そして、本件発明は、「補修塗膜」は、「塗り重ねた塗膜が厚膜化する事により、塗膜の内部応力が上昇する事によって、塗膜の付着性が低下し、それによって剥離が生じ易くな」(同【0008】)るという知見に基づくものであり、従来、「塗膜の内部応力を小さくするためには、塗膜のガラス転移温度を低下させる手法や、塗膜の弾性率を低下させる手法が知られて」(同【0009】)いたものの、塗膜の「線膨張係数を小さくすること」は「塗膜の内部応力を小さくする手法として注目されていたとは言えな」(同【0010】)かったところ、本件発明は、塗膜について、「ガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1)を特定の範囲にまで低下させることで、塗膜の剥離を大幅に防ぐことができ、耐久性に優れ、補修に適した塗膜」(同【0013】)となることを仮定して実験を行い、実施例1?11、比較例1?8(【0087】【表2】)及び比較例1(【0097】【表3】)から、塗膜のガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1) が.3.2(×10^(-5)/K)以下の上記実施例1?11は、該線膨張係数α_(1) が.3.2(×10^(-5)/K)以下ではない比較例1?8(【0087】【表2】)及び比較例1(【0097】【表3】)よりも、ヒートサイクル剥離試験(50サイクル)の試験結果が良好であることが理解でき、本件明細書に記載された実施例1?11によって、上記仮定が成り立つことが確認されたといえる。 そうすると、本件明細書に記載された実施例1?11、比較例1?8(【0087】【表2】)及び比較例1(【0097】【表3】)から、本件発明まで拡張ないし一般化しうると認められる。 また、本件明細書には、「樹脂成分の種類や顔料の種類にかかわらず、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることで、不揮発分のガラス転移温度以下の温度での線膨張係数を低下させることができる。この理由としては、塗料組成物に使用される樹脂と顔料を比較すると、顔料の線膨張係数の方が樹脂よりも小さいことが挙げられる。」(同【0037】)と記載されており、一般に、顔料の線膨張係数の方が樹脂よりも小さいことは、当業者にとって技術常識であり、塗料組成物において、線膨張係数の小さい顔料の割合が増加すれば、塗料組成物全体の線膨張係数が小さくなることは明らかであるから、本件明細書に接した当業者は、樹脂成分の種類や顔料の種類がどのようなものであっても、顔料の割合を増加させることで、塗膜の線膨張係数を小さいものとすることができ、その結果、塗膜の内部応力の上昇が抑えられ、塗膜の付着性が低下せず、剥離が生じにくくなることが理解できる。 なお、本件発明において、樹脂成分がエポキシ樹脂を主成分とするものかどうか、顔料の割合や顔料の種類がどのようなものか、及び、硬化剤としてアミン化合物のみを使用するかどうかによって、ヒートサイクル剥離試験の結果に、大きな変化をもたらすような事情は見出すことができない。 たとえば、本件明細書の【表2】の実施例2と比較例6とを参照すると、実施例2と比較例6とは、実施例2は、主剤に「RCF-160:商品名、日本板硝子社製、ガラスフレーク顔料、粒径中(平均粒径:160μm)」が含まれ、比較例6は、「クラウンタルク3S:商品名、松村産業社製 タルク、平均粒径:11.9μm」が含まれていて、顔料の種類が異なるものといえるところ、実施例2と比較例6の不揮発分中の対象顔料量は、43.7質量%で同量である。 そして、実施例2と比較例6の樹脂成分は、「JER1001X75:商品名 三菱ケミカル社製 ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、不揮発分75質量%、エポキシ当量450?500g/eq」(【0088】)で同じであって、主剤における含有量は、24.8質量部含まれており同量である。 しかも、実施例2と比較例6の硬化剤は、「サンマイド150-65:商品名、エアープロダクツアンドケミカルズ社製、変性脂肪族ポリアミドアミン、不揮発分65質量%、アミン価 62mgKOH/g」(【0088】)で同じであって、主剤に対する割合も、79.0:21.0で同じである。 しかしながら、得られた塗膜の線膨張係数(α_(1)(×10^(-5)/K))は、実施例2が「2.5」で、比較例6は「4.4」であって、比較例6は、本件発明の線膨張係数(α_(1))の規定を満たさず、しかも、ヒートサイクル試験では、実施例2は、比較例6より優れたものとなっていることがわかる。 また、実施例2と比較例4とを比較すると、両者とも、顔料として、主剤に「RCF-160:商品名、日本板硝子社製、ガラスフレーク顔料、粒径中(平均粒径:160μm)」が含まれているところ、その配合量が異なっていて、比較例4は、本件発明の線膨張係数(α_(1))の規定を満たさず、しかも、ヒートサイクル試験では、実施例2は、比較例4より優れたものとなっていることがわかる。 そうすると、塗料組成物において、樹脂成分、顔料、及び、硬化剤の種類や量にかかわらず、「不揮発分のガラス転移温度から低温側の線膨張係数α_(1)を特定の範囲にまで低下させ」たものであれば、本件発明の課題を解決することができることが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できるというべきである。 エ 本件発明2?6は、本件発明1を引用してさらに限定したものである。 また、本件発明7は、本件発明1の「塗料組成物」を「塗膜」とし、「不揮発分」を「塗膜」としたものであって、実質的に、本件発明1に係る塗料組成物の不揮発分である塗膜に係るものである。 そして、本件発明8は、本件発明8を方法の発明としたものであり、本件発明9及び10は、本件発明8を引用してさらに限定したものである。 したがって、本件発明2?10は、本件発明1と同様な理由により、本件発明の課題を解決することができることが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できるというべきである。 よって、本件発明1?10は、本件発明の課題を解決することができない発明を包含しており、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるということはできず、上記理由Aには理由がない。 (2)理由Bについて ア 甲1?4の記載 (ア)甲1には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂を結合剤とする旧塗膜の表面に、該旧塗膜を溶解又は膨潤させる溶剤を含有し且つ伸び率が5?150%の塗膜を形成する下塗塗料を乾燥膜厚で50?300μmとなるように塗装し、次いで、伸び率が2?200%の塗膜を形成する厚膜型塗料を乾燥膜厚で200?1000μmとなるように塗装することを特徴とする旧塗膜の補修塗装法。」 「【請求項3】 更に、前記厚膜型塗料の塗膜上に仕上げ塗料を塗装する請求項1又は2記載の旧塗膜の補修塗装法。 【請求項4】 前記下塗塗料がエポキシ樹脂系又はウレタン樹脂系の塗料である請求項1?3の何れか1項に記載の旧塗膜の補修塗装法。 【請求項5】 前記下塗塗料がエポキシ樹脂系又はウレタン樹脂系の塗料であり且つ鱗片状顔料を含有している請求項4記載の旧塗膜の補修塗装法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は道路のガードレール、橋梁、トンネル等の各種鋼構造物や、プラント、船舶等に塗装され、長期間暴露された旧塗膜、即ち、日光や風雨に曝された熱可塑性樹脂を結合剤とする旧塗膜の補修塗装法に関する。」 「【0008】 本発明は、熱可塑性樹脂を結合剤とする塗料、例えば塩化ゴム系塗料やビニル系塗料からなる旧塗膜を全面剥離する必要がなく、チヂミ、クラック、ハガレ等が生じることがなく、防食性、付着力、冷熱サイクル性、柔軟性又は内部応力緩和等に優れた下塗塗膜の補修塗装が可能であり、且つ厚膜型塗料や仕上げ塗料による塗装が可能な、旧塗膜の補修塗装法を提供することを目的としている。」 「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂を結合剤とする旧塗膜の表面に、該旧塗膜を溶解又は膨潤させる溶剤を含有するが特定の伸び率の塗膜を形成する下塗塗料を特定の乾燥膜厚となるように塗装し、次いで、特定伸び率の塗膜を形成する厚膜型塗料を特定の乾燥膜厚となるように塗装することにより、上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。」 「【0014】 次に、本発明で使用する補修塗料について説明する。 本発明で使用する下塗塗料は、その形成される塗膜が被塗物や旧塗膜の膨張、収縮に追従出来る必要があるため、伸び率が5?150%、好ましくは20?100%、より好ましくは30?80%の塗膜を形成する下塗塗料を乾燥膜厚で50?300μm、好ましくは70?280μm、より好ましくは90?250μmとなるように塗装することが必要である。なお、塗膜の伸び率は、例えば、引張り強度試験器(島津製作所製のオートグラフAG2000B)で測定した破断伸び率として表すことができる。 【0015】 下塗塗膜の伸び率が5%より小さい場合には、そのような塗膜は被塗物や旧塗膜の膨張、収縮に追従しにくく、後にクラックや割れの原因となる。また、下塗塗膜の伸び率が150%を越える場合には、そのような塗膜は架橋密度が小さくなり、溶剤の浸透性が大きくなってチヂミの原因となる。また、下塗塗膜の乾燥膜厚が50μmより薄い場合には、そのような塗膜は耐久性(防食性)が不十分となる。また、下塗塗膜の乾燥膜厚が300μmを越える場合には、そのような塗膜は乾燥性や、作業性、付着性が悪くなる。」 (イ)甲2には、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および充填材(C)からなるエポキシ樹脂組成物であって、該樹脂組成物を熱硬化した時のガラス転移温度以下での線膨張係数α_(1)が8.5×10^(-6)/K以下、ガラス転移温度以上での線膨張係数α_(2)が35.0×10^(-6)/K以下であり、かつガラス転移温度が120?145℃であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、半田耐熱性、接着性に優れ、特に半導体封止用として好適なエポキシ樹脂組成物に関するものである。」 「【0002】 【従来の技術】エポキシ樹脂は耐熱性、耐湿性、電気特性および接着性などに優れており、さらに配合処方により種々の特性が付加できるため、塗料、接着剤、電気絶縁材料など工業材料として利用されている。」 「【0005】最近はプリント基板への半導体装置パッケージの実装において高密度化、自動化が進められており、従来のリードピンを基板の穴に挿入する“挿入実装法式”に代わり、基板表面に半導体装置パッケージを半田付けする“表面実装方式”が盛んになってきた。それに伴い、半導体装置パッケージも従来のDIP(デュアル・インライン・パッケージ)から、高密度実装・表面実装に適した薄型のFPP(フラット・プラスチック・パッケージ)に移行しつつある。 【0006】その中でも最近では、微細加工技術の進歩により、厚さ2mm以下のTSOP、TQFP、LQFPが主流となりつつあることから、湿度や温度など外部からの影響をいっそう受けやすくなり、半田耐熱性、高温信頼性、耐熱信頼性などの信頼性が今後ますます重要となってくる。すなわち、表面実装においては、通常半田リフローによる実装が行われ、この方法では、基板の上に半導体装置パッケージを乗せ、これらを200℃以上の高温にさらし、基板にあらかじめつけられた半田を溶融させ半導体装置パッケージを基板表面に接着させる。このような実装方法では半導体装置パッケージ全体が高温にさらされる。このとき樹脂の接着性が悪いとリードフレームと封止樹脂が剥離を起こし、また、耐熱性が悪いとクラックが生じるという現象が起こる。従って半導体用封止樹脂において半田耐熱性、接着性は非常に重要となる。 【0007】更に、近年では環境保護の点から鉛を含んでいない鉛フリー半田の使用が進んでいる。鉛フリー半田は融点が高く、そのためリフロー温度も上がることになりこれまで以上の半田耐熱性が求められている。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は半田リフロー時の剥離・クラックの発生を抑え、半田耐熱性に優れる半導体封止用エポキシ系樹脂組成物を提供するものである。」 「【0010】 【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を詳述する。 【0011】本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、硬化物とした時の、ガラス転移温度以下での線膨張係数α_(1)が8.5×10^(-6)/K以下、好ましくは5.0×10^(-6)/K?7.0×10^(-6)/K、ガラス転移温度以上での線膨張係数α_(2)が35.0×10^(-6)/K以下、好ましくは10.0×10^(-6)/K?29.0×10^(-6)/Kであり、かつ該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が120?145℃の範囲内である。エポキシ樹脂組成物の硬化物がこの範囲の物性を満たす場合に、接着性、半田耐熱性が大幅に向上する。硬化物のガラス転移温度以下の線膨張係数α_(1)が8.5×10^(-6)/Kより大きい場合、ガラス転移温度以上の線膨張係数α_(2)が35.0×10^(-6)/Kより大きい場合のいずれも剥離・クラックが発生しやすく、接着性、半田耐熱性に劣る。また、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が120?145℃の範囲外の場合も剥離・クラックが発生しやすく、接着性、半田耐熱性に劣る。」 (ウ)甲3には、次の記載がある。 「3.2収縮と膨張 塗液が乾燥硬化する際には (1)溶剤の揮発による収縮 (2)加熱時の加熱温度から室温まで冷却する際の収縮 (3)硬化反応に伴う収縮 が起こり,・・・(略)・・・ 塗膜は成膜中から常湿下にさらされて吸湿状態にあるため吸湿膨張し,あるいは塗膜を囲む環境の温度変化に伴って塗膜は膨張収縮する。このような塗膜形成後の膨張,収縮は塗膜の割れやハク離の原因となり,塗膜付着の耐侯性を劣化させる。顔料添加によってこのような塗膜の膨張,収縮は阻止される。図-1521)はメラミン・アルキド樹脂塗膜の熱膨張性を示し,顔料添加によつて熱膨張係数の低下することが認められる。」(477頁左欄下から5行?右欄下から6行) 「 」(478頁左欄) (エ)甲4には、次の記載がある。 「1.2フィラーの種類・機能 1.2.1 GF,ガラス粉 GFを添加したエポキシ樹脂は,GF強化プラスチック(GFRP)として一般的に周知されている。・・・(略)・・・船舶の防食塗料や自動車部材用塗料,橋梁の耐震補強・コンクリート補強・・・(略)・・・絶縁塗料などが対象である。これらの各種部材や塗料は,軽量,高強度,耐久性,耐薬品性,補修の観点からエポキシ樹脂の需要が多く,基本的には劣化しない設計指針の概念の基で配合手法が確立されてきた。」と開示されている(15頁21?27行)。 イ 甲1に記載された発明(甲1発明)の認定 上記ア(ア)の下線部から、甲1には、「旧塗膜を全面剥離する必要がなく、チヂミ、クラック、ハガレ等が生じることがなく、道路のガードレール、橋梁、トンネル等の各種鋼構造物の旧塗膜の表面に厚膜型塗料を塗装する補修塗装方法に用いられる下塗塗料であって、エポキシ樹脂系又ウレタン樹脂系の塗料であり且つ鱗片状顔料を含有した下塗塗料。」(以下、「甲1発明」という。)、「該下塗塗料から形成された塗膜。」(以下、「甲1’発明」という。)、及び、「該下塗塗料を用いた補修塗装方法。」(以下、「甲1’’発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 (ア)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「エポキシ樹脂」及び「ウレタン樹脂」は、本件発明1の「樹脂成分」に相当する。 甲1発明の「鱗片状顔料」及び「下塗塗料」は、本件発明1の「顔料」及び「塗料組成物」にそれぞれ相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「A:樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点1) 塗料組成物の不揮発分の特性について、本件発明1は、 「B:不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり C:且つ不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下である」のに対し、甲1発明の下塗塗料の不揮発分の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」はいかなる値でも良い点。 ここで、相違点1について検討する。 甲2の請求項1には、「エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および充填材(C)からなるエポキシ樹脂組成物であって、該樹脂組成物を熱硬化した時のガラス転移温度以下での線膨張係数α_(1)が8.5×10^(-6)/K以下であるエポキシ樹脂組成物。」が記載されていると認められる。 また、甲3には、「塗膜形成後の膨張,収縮は塗膜の割れやハク離の原因となり,塗膜付着の耐侯性を劣化させる」こと及び「顔料添加によってこのような塗膜の膨張,収縮は阻止される」ことが記載され、図-15から、メラミン・アルキド樹脂塗膜の線膨張係数が、顔料濃度が約30Vol%の際に、3.0×10^(-5)/℃以下となるものがあることが看取できる。 そして、甲4には、エポキシ樹脂が耐久性に優れ、補修等の観点から需要が多いこと、さらに、塗膜形時に、顔料を添加することで線膨張係数(熱膨張係数)を低下させられることが記載されているといえる。 しかしながら、甲2?甲4には、甲1発明のような補修方法ないし補修塗装方法に用いるための下塗塗料の不揮発分の特性について、線膨張係数を低下させることは記載されているとは認められない。そして、甲2?甲4に示された構造物等に対する一般的な塗膜と、甲1発明のような旧塗膜に対する補修方法ないし補修塗装方法に用いるための下塗塗膜とは、塗膜が付着する部分の材質が異なり、求められる特性が同じものであるとはいえず、補修塗装方法に用いられる下塗塗料に関する甲1発明に、甲2?甲4に記載された線膨張係数に関する事項を適用する動機付けを見出すことはできない。 さらに、甲1には、該「下塗塗料」について、「旧塗膜を溶解又は膨潤させる溶剤を含有し且つ伸び率が5?150%の塗膜を形成する下塗塗料」(【請求項1】)、「本発明で使用する下塗塗料は、その形成される塗膜が被塗物や旧塗膜の膨張、収縮に追従出来る必要があるため、伸び率が5?150%、好ましくは20?100%、より好ましくは30?80%の塗膜を形成する下塗塗料を乾燥膜厚で50?300μm、好ましくは70?280μm、より好ましくは90?250μmとなるように塗装することが必要である。」(【0014】)と記載されており、甲1発明の「下塗塗料」によって形成される塗膜は、「被塗物や旧塗膜の膨張、収縮に追従出来る必要があ」って、その「伸び率」は「5?150%」であるから、該「下塗塗料」によって形成される塗膜は、「旧塗膜」と大きく異ならない線膨張係数を有することが必要であり、一方、「旧塗膜」は、一般的な塗膜であるから、その不揮発分の線膨張係数は小さくないものといえることから、甲1発明の「下塗塗料」の不揮発分の線膨張係数を小さな値のものとすること、すなわち、「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下」及び「不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下」とすることは想定されていないともいうべきである。 また、甲1には、「下塗塗料」の不揮発分の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」についての言及はなく、甲1発明において、甲1発明の「下塗塗料」の不揮発分の線膨張係数がいかなる値でも良いとしても、上述したように、より小さい値であっても良いわけではないことから、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにする動機付けも見出すことができない。 そして、仮に、甲1発明における「下塗塗料」について、「各種鋼構造物の旧塗膜の表面に厚膜型塗料を塗装する補修塗装方法に用いられる」という用途については特定されない、単なる「塗料」と認定できるとしても、甲1には、該「(下塗)塗料」による塗膜について、上述したように、「伸び率が5?150%」であることが必要であり、それ以外の塗料については想定されていないのであるから、甲1発明の「(下塗)塗料」の不揮発分について、「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下」及び「不揮発分のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下」とすることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。 そして、本件発明1は、補修方法に用いられる塗料組成物について、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えることによって、本件明細書に、「本発明の塗膜によれば、該塗膜のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数を3.2×10^(-5)/K以下にすることで、塗膜の剥離を大幅に防ぐことができる。」(本件明細書【0066】)、「本発明の塗膜は、膜厚が厚いほど、剥離防止効果も大きくなるため、本発明の塗膜で繰り返し補修を行うと、本発明の塗膜の膜厚が厚くなり、剥離防止効果も補修を繰り返す度に良くなる。」(同【0067】)と記載されるように、甲1発明及び甲2?4の記載からは、予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。 (イ)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明及び甲2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (ウ)本件発明7について 本件発明7と甲1’発明とを対比すると、本件発明7と甲1’発明とは、本件発明1と同様に、「樹脂及び顔料を含む塗膜。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点2) 塗膜の特性について、本件発明7では、「G(B’):塗膜のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり且つH(C’):該塗膜のガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下である」のに対し、甲1’発明の下塗塗料によって形成された塗膜の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」はいかなる値であっても良い点。 ここで、塗膜の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」は、それぞれ、塗料の不揮発分の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」と異なるものではなく、相違点2は、上記相違点1を含むものであるから、本件発明7は、本件発明1と同様に、甲1’発明及び甲2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (エ)本件発明8について 本件発明8と甲1’’発明とを対比すると、本件発明8と甲1’’発明とは、本件発明1と同様に、「被塗装物を、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物で塗装する塗装方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。 (相違点3) 塗膜の特性について、本件発明8では、「B’’’:ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10^(-5)/K以下であり且つC’’:ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数が3.0×10^(-5)/K以下である」のに対し、甲1’’発明の下塗塗料によって形成された塗膜の「ガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」及び「ガラス転移温度以上の温度における線膨張係数」はいかなる値であっても良い点。 ここで、相違点3は、上記相違点2について述べたように、上記相違点1を含むものであるから、本件発明8は、本件発明1と同様に、甲1’’発明及び甲2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (オ)本件発明9及び10について 本件発明9及び10は、本件発明8を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明8と同様な理由から、甲1’’発明及び甲2?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 オ 以上のとおり、上記理由Bには理由がない。 (申立人の主張について) 申立人は、上記相違点1について、「甲第2号証には、甲1発明と同様に、塗料に関する記載があり、技術分野が共通し、使用する原料として、樹脂成分および顔料を使用することも記載され、『樹脂組成物(塗料組成物に相当)を熱硬化した時のガラス転移温度以下での線膨張係数α_(1)が8.5×10^(-6)/K以下』であること・・・が記載され、構成B、及び、構成Cに相当する記載が存在する。 更に、甲第3号証には、顔料の添加により、熱膨張係数が低下することが記載され、甲第4号証には、内部応力を低下するために、無機充てん材(顔料に相当)を添加することが記載され、顔料の添加により、線膨張係数を低下させることは、周知技術である。 そうすると、甲1発明に、甲第2号証に記載の事項を組み合わせることには動機付けがあり、当業者にとって、甲1発明及び甲第2号証、更に、周知技術に基づけば、本件特許発明1の構成B、及び、構成Cに容易に想到できることは、明らかである。」(特許異議申立書25頁3?14行)と主張している。 しかしながら、「エポキシ樹脂は耐熱性、耐湿性、電気特性および接着性などに優れており、さらに配合処方により種々の特性が付加できるため、塗料、接着剤、電気絶縁材料など工業材料として利用されている」(甲2の【0002】)と記載され、エポキシ樹脂が塗料として用いられることは甲2に記載されているとしても、「本発明は半田リフロー時の剥離・クラックの発生を抑え、半田耐熱性に優れる半導体封止用エポキシ系樹脂組成物を提供するものである。」(甲2の【0008】)という記載からみて、甲2の請求項1に記載されたエポキシ樹脂は、「半田耐熱性、接着性に優れ、特に半導体封止用として好適なエポキシ樹脂組成物」(【0001】)であって、半田リフロー時の耐熱性に優れたエポキシ樹脂であるというべきである。 そして、甲1発明の「下塗塗料」は、「道路のガードレール、橋梁、トンネル等の各種鋼構造物や、プラント、船舶等に塗装され、長期間暴露された旧塗膜、即ち、日光や風雨に曝された熱可塑性樹脂を結合剤とする旧塗膜の補修塗装法」(甲1の【0001】)に用いられるものであり、半田リフロー時のような高温に曝されることは想定されていないというべきである。 したがって、甲1発明に、甲2に記載の事項を組み合わせることに動機付けがあるとはいえない。 そして、上述したように、本件発明1の作用効果は、甲2の記載からは、予測し得ないものというべきであるから、甲1発明及び甲2に基づけば、本件発明1の構成B、及び、構成Cに、容易に想到できるということはできない。 また、甲1発明において、本件明細書に記載された実施例で用いられた顔料と、同様なものを、同様な配合量で含まれる態様が想定できるのであればともかく、甲1には、そのような態様については記載されていないし、上述したように、甲1発明の下塗塗料によって形成された塗膜の「伸び率」は「5?150%」であることから、本件明細書に記載された実施例で用いられた顔料と、同様なものを、同様な配合量で含まれる態様が想定できるとはいえない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-03-08 |
出願番号 | 特願2018-54914(P2018-54914) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09D)
P 1 651・ 537- Y (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 櫛引 智子 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
川端 修 天野 宏樹 |
登録日 | 2018-06-15 |
登録番号 | 特許第6351896号(P6351896) |
権利者 | 神東塗料株式会社 株式会社四国総合研究所 大日本塗料株式会社 関西ペイント株式会社 |
発明の名称 | 塗料組成物、塗膜及び塗装方法 |
代理人 | 青木 孝博 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 青木 孝博 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 森山 正浩 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 青木 孝博 |
代理人 | 市川 祐輔 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 森山 正浩 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 青木 孝博 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 市川 祐輔 |
代理人 | 森山 正浩 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 飯野 陽一 |
代理人 | 森山 正浩 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 市川 祐輔 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 五味渕 琢也 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 今藤 敏和 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 川嵜 洋祐 |
代理人 | 市川 祐輔 |
代理人 | 安藤 健司 |