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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A41D
管理番号 1349708
異議申立番号 異議2018-700751  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-14 
確定日 2019-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6293340号発明「マスク」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6293340号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6293340号の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成29年7月27日に出願され,平成30年2月23日にその特許権の設定登録がされ,平成30年3月14日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,平成30年9月14日に特許異議申立人石川敏夫(以下「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされ,平成30年12月12日付けで当審より申立人に対して審尋がされ,平成30年12月28日に申立人より回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6293340号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
2枚以上の不織布を含むマスク本体と、マスク本体を耳に固定できる耳掛け部材と、マスク本体に、鼻梁との密着性を向上させることのできる密着部材とを有するマスクであり、次の式から算出される通気係数(Ca)が58?182であることを特徴とするマスク。
Ca=Ap×Se
ここで、Apはマスク本体の通気度(単位:cm^(3)/cm^(2)・sec.)、Seは耳掛け部材を95mm伸長した時の応力(単位:N)、をそれぞれ意味する。
【請求項2】
マスク本体の通気度が50cm^(3)/cm^(2)・sec.以上であることを特徴とする、請求項1記載のマスク。
【請求項3】
マスク本体を構成する不織布として、帯電不織布を有することを特徴とする、請求項1又は2記載のマスク。
【請求項4】
マスク本体が襞折りされたプリーツ型マスクであることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載のマスク。」

第3 申立ての理由の概要
申立人は,以下の甲第1?4号証(以下「甲1」等といい,甲1に記載された発明を「甲1発明」という。また,甲1等に記載された事項を「甲1記載事項」等という。)を提出し,次の取消理由を主張している。

本件発明1?4は,甲1発明及び甲2?4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2014-198165号公報
甲第2号証:特開2014-209946号公報
甲第3号証:特開2006-247402号公報
甲第4号証:特開2007-276号公報

第4 甲1?4の記載
1.甲1記載事項,甲1発明
甲1には以下の記載がある。
(1)【請求項1】
「着用者の鼻口部を覆うマスク本体部と、
前記マスク本体部の両端より延びて着用者の耳に引っ掛けられる一対の耳掛け部とを備えるマスクであって、
前記マスク本体部は、マスク着用時に外気と接触する側より着用者鼻口部と接触する側に向けて、順に外層、内層及び口元層を備え、
前記外層は不織布の層よりなり、
前記内層は、
極細繊維不織布よりなる一又は二以上の層により構成されるフィルター層と、
吸湿性繊維不織布よりなる一又は二以上の層により構成される吸湿層とを備え、
前記口元層は不織布よりなる
ことを特徴とするマスク。」

(2)【請求項14】
「前記マスク本体部上縁部に帯状可撓体を設けた請求項1?13のいずれか一項に記載のマスク。」

(3)【請求項17】
「前記耳掛け部は、紐状またはテープ状の弾性体であって、
マスク着用時における前記弾性体の伸長率は45?65%の範囲にあり、かつ
その伸張率45?65%の全範囲において、張力が0.3?0.6ニュートンの範囲にある
ことを特徴とする請求項1?16に記載のマスク。」

(4)【0022】
「上記帯状可撓体は、着用時にマスク本体部を着用者の顔面形状に沿って変形可能とし、マスクの漏れ率を低減する。上記帯状可撓体としては、プラスチック素材(例えばポリプロピレンと炭酸カルシウムの配合物)や薄い金属片などを挙げることが出来る。」

(5)【0035】
「(耳掛け部)
マスク1の耳掛け部3として、ゴム、弾性不織布に代表される紐状弾性体を用いることは従来広く採用されているところである。本発明の好ましい態様においては、着用時における紐状弾性体の張力が特定範囲に収まる弾性体を採用するので、長時間使用時においても、耳の痛みの生じにくい、使用感に優れるマスクとなる。」

(6)【0048】
「[実施例7]
実施例2と同一のマスクを用いて、7名の試験者に連続して1時間着用させ、耳の痛みの度合いを評価した。ここで、耳掛け部は幅3mmの紐状弾性体を用いた。
引っ張り試験機にてあらかじめ当該弾性体の引っ張り挙動を測定の結果、伸張率45?65%の全範囲において、張力は0.4から0.6ニュートンの範囲であった。
また、耳掛け部の長さは7名の試験者に共通であったが、着用時の伸張率が48?52%の範囲にあることを確認した。
次いで、官能試験(耳の痛み)を実施したところ、2名が全く感じない、5名がやや弱い痛みを感じる結果となった。」

以上の記載事項を総合すると,甲1には,次の甲1発明が記載されていると認められる。
「着用者の鼻口部を覆うマスク本体部と、前記マスク本体部の両端より延びて着用者の耳に引っ掛けられる紐状又はテープ状の弾性体からなる一対の耳掛け部と、前記マスク本体部上縁部に設けられ、前記マスク本体部を着用者の顔面形状に沿って変形可能とし、マスクの漏れ率を低減する帯状可撓体とを備えるマスクであって、
前記マスク本体部は、マスク着用時に外気と接触する側より着用者鼻口部と接触する側に向けて、順に外層、内層及び口元層を備え、
前記外層は不織布の層よりなり、
前記内層は、
極細繊維不織布よりなる一又は二以上の層により構成されるフィルター層と、
吸湿性繊維不織布よりなる一又は二以上の層により構成される吸湿層とを備え、
前記口元層は不織布よりなり、
マスク着用時における耳掛け部の伸長率は45?65%の範囲にあり、かつ、その伸張率45?65%の全範囲において、張力が0.3?0.6ニュートンの範囲にある
マスク。」

2.甲2記載事項
甲2には以下の記載がある。
(1)【請求項1】
「鼻部及び口部を覆うマスク本体を備えたマスクであって、
前記マスク本体は、波長280?400nmの紫外線遮蔽率が80%以上、通気度が80?180cc/cm^(2)/secであることを特徴とするマスク。」

(2)【0027】
「また、マスク本体1の通気度は、80?180cc/cm^(2)/sec、より好ましくは90?160cc/cm^(2)/secである。通気度が80cc/cm^(2)/sec未満であると、マスク装着時に息苦しさや暑苦しさ等の不快感を与える。一方、通気度が180cc/cm^(2)/secを超えると、繊維の密度が低くなり、繊維間の空隙が大きくなるため、紫外線を反射、吸収することができず、紫外線遮蔽効果が十分に得られない。本発明における通気度は、JIS L 1096のフラジール形法に準拠した方法により測定した。」

3.甲3記載事項
甲3には以下の記載がある。
(1)【0013】
「本発明のウイルス及び/又は微生物防護用マスクは、通気度が50?600cm^(3)/cm^(2)・secであることが好ましい。通気度が、50cm^(3)/cm^(2)・sec未満では、ウイルス防護効果は高いが、使用時に息苦しくなり、長時間使用し辛い。一方、通気度が600cm^(3)/cm^(2)・secを越えると、呼吸は楽であるが、ウイルス防護効果が低下する。」

4.甲4記載事項
甲4には以下の記載がある。
(1)【0021】
「本発明の積層不織布の30℃、90%RH(相対湿度)での保湿率は7?13%の範囲が好ましく、より好ましくは9?12%である。通気度は10?100cc/cm^(2)・secの範囲が好ましく、より好ましくは20?90cc/cm^(2)・secの範囲である。保湿率と、通気度がこの範囲であると、立体形状マスクにおいても、高湿度条件下でも保湿性と通気性に優れ、長時間の使用快適性が得られる。」

(2)【0028】
「以下に述べる実施例および比較例で作成した不織布を用いて、マスク覆い部を規定の形状に作成し、耳かけ部として、伸縮性のあるポリウレタンフィルムを使用し、ヒートシール接着剤で覆い部と固定し、マスクを作成した。なお、本発明での評価方法(性能の評価)は次の通りに行った。
(1)通気性
JIS-L-1096.6.27(A法:フラジール試験機)に規定される方法
で測定した。」

第5 当審の判断
1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「マスク本体部」は,不織布の層よりなる外層,極細繊維不織布よりなるフィルター層,吸湿性繊維不織布よりなる吸湿層及び不織布よりなる口元層を備えたものであるから,本件発明1の「2枚以上の不織布を含むマスク本体」に相当する。また,甲1発明の「耳掛け部」は,本件発明の「耳掛け部材」に相当する。
甲1発明の「帯状可撓体」は,鼻口部を覆うマスク本体部の上縁部に設けられて,マスク本体部を着用者の顔面形状に沿って変形可能とし,マスクの漏れ率を低減するものであるから,着用者の鼻梁の形状に沿って変形して,鼻梁との密着性を向上させることができるものであるといえる。よって,甲1発明の「帯状可撓体」は,本件発明1の「鼻梁との密着性を向上させることのできる密着部材」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,「2枚以上の不織布を含むマスク本体と,マスク本体を耳に固定できる耳掛け部材と,マスク本体に,鼻梁との密着性を向上させることのできる密着部材とを有するマスク。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点)本件発明1は,次の式から算出される通気係数(Ca)が58?182であるのに対し,甲1発明は,次の式から算出される通気係数(Ca)が不明である点。
Ca=Ap×Se
ここで,Apはマスク本体の通気度(単位:cm^(3)/cm^(2)・sec.),Seは耳掛け部材を95mm伸長した時の応力(単位:N),をそれぞれ意味する。

(2)相違点についての判断
ア 甲1発明における「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」の概算
本件発明1の「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」に関して,本件特許明細書の段落【0033】には,「この伸長時応力は耳掛け部材を95mm伸長した時の応力である。つまり、顔面の形状は個体差があり、一概に決定することができないため、JIS T8151:2005「防じんマスク」で規定する試験用人頭を基準とした場合に、耳掛け部材が95mm伸長した状態で装着することになることから、95mm伸長した時の応力で判断した。具体的には、図5に伸長時応力の測定方法を示す概念図を示すように、引張り試験機のチャックCにマスク本体1の耳側端部を固定し、大人の耳の大きさを想定した直径50mmの円柱状フックFに、耳掛け部材2a、2bの一方を引っ掛けた後、チャックCから円柱状フックFの上端までの距離が95mmとなるまで円柱状フックFを上昇させ、この上昇させた状態における応力を測定する。この応力の測定を5回行い、その結果を算術平均し、小数点以下第三位を四捨五入して、95mm伸長時応力とする。」との記載がされている。この記載によれば,本件発明1の「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」(以下「伸張時応力」という。)は,試験用人頭にマスクを装着した時に耳にかかる応力を想定したものであるといえる。
一方,甲1発明は,マスク着用時における耳掛け部の伸長率が45?65%の範囲にあり,かつ,その伸張率45?65%の全範囲において張力が0.3?0.6ニュートンの範囲にあるものであるところ,甲1発明の着用者は特に限定されたものではなく,頭部各部の寸法が試験用人頭と概ね同じである者が着用者である場合も想定されるから,甲1発明は,着用時に耳掛け部が95mm伸長し,その伸長率が45?65%の範囲にあり,その張力が0.3?0.6ニュートンの範囲にあるものを含み得るといえる。
そこで,甲1発明として,耳掛け部が95mm伸長した時に,その張力が0.3?0.6ニュートンの範囲にあるものを考えた場合に,伸張時応力が概ねどのような値をとり得るかについて,以下検討する。

まず,以下の【参考図1】のように,耳掛け部と円柱状フックの接点をA,円柱状フックの中心点をB,チャック上端に対応する直線をC,耳掛け部と直線Cとの交点をD,接点Aから直線Cに垂直におろした直線と直線Cとの交点をE,円柱状フックの中心点Bから直線Cに垂直におろした直線と直線Cとの交点をGとおく。

そして,耳掛け部の太さや摩擦等の影響は軽微であるとして,これらの影響を無視して極単純にモデル化すると,円柱状フックに接触している部分の耳掛け部が受ける力は,耳掛け部の他の部分から受ける張力Tと,円柱状フックから受ける力Fであり,この力Fと2つの張力Tの合力とがつり合うこととなる(【参考図2】を参照のこと)。この力Fが,伸張時応力に対応する。
特定の張力Tの値に対して,伸張時応力が最も大きくなるのは,点Dと点Eの位置が一致し,DGの長さ=EGの長さ=25mmの場合であって,この場合の伸張時応力と張力Tとの関係は,「伸張時応力=2×張力T」(以下「式1」という。)と表すことができる。
一方,特定の張力Tの値に対して,伸張時応力が最も小さくなるのは,マスク本体の隅部に耳掛け部が取り付けられて,点Dが点Gから最も離れた位置にある場合である。甲1には,マスクの鼻梁-顎方向の長さについての記載はないけれども,一般に,大人用の長方形状のマスクについては,鼻梁-顎方向の長さが90mm前後であるものが文献を示すまでもなく周知であることから,鼻梁-顎方向の長さが90mmであるマスク本体の隅部に耳掛け部が取り付けられ,DGの長さが45mmである場合を想定して,伸張時応力と張力Tとの関係を求めることとする。
張力Tと合力の半分(以下「1/2合力」という。)の作る三角形(【参考図3】を参照のこと)は,三角形ADEと相似であるから,1/2合力=張力T×sin∠ADEと表すことができる。
三角形BDGについて考えると,DGの長さ=45mmで,BGの長さ=95mm-25mm=70mmであるから,BDの長さ=(45^(2)+70^(2))^(1/2 )mm≒83.2mmと計算できる。
三角形BDAの各辺の長さを用いて,∠BDA=arcsin(25/83.2)≒17.5°と計算でき,三角形BDGの各辺の長さを用いて,∠BDG=arctan(70/45)≒57.3°と計算できる。
そうすると,∠ADEは,∠ADE=∠BDA+∠BDG=17.5°+57.3°=74.8°と計算できる。
よって,DGの長さが45mmである場合,1/2合力=張力T×sin74.8°≒張力T×0.97であり,伸張時応力と張力Tとの関係は,「伸張時応力=2×1/2合力=2×張力T×0.97」(以下「式2」という。)と表すことができる。
上記式1及び上記式2の比較より,伸張時応力が最も小さくなる場合でも最も大きくなる場合の0.97倍程度であることに加え,上記式1及び上記式2が単純化したモデルを前提としたものであって,計算される値が数値的に厳密なものとはいえないことを踏まえると,概算としては,伸張時応力≒2×張力Tとするのが適当であると考えられる。
よって,甲1発明は概ね0.6N?1.2Nの伸張時応力をとり得る蓋然性が高いといえる。

イ 特許異議申立書における申立人の主張について
申立人は,特許異議申立書において,以下の(ア)及び(イ)を前提として,甲1には耳掛け部材を95mm伸長した時の応力が0.25?0.6Nの範囲にあることが実質的に記載されている旨主張している。
(ア)本件特許明細書に記載された実施例は,伸長前の耳掛け部材の長さが17cmであり,耳掛け部材を95mm伸長した時の全長が220.22mmとなるものであるから,本件発明1の「耳掛け部材を95mm伸長した時」とは,伸長率が30%の時と言い換えることができる。
(イ)甲1の「張力」は,本件発明1の「応力」に相当するものである。

しかしながら,申立人が前提とする上記(ア)及び(イ)は,以下の(ウ)及び(エ)の点で誤りであるから,甲1に耳掛け部材を95mm伸長した時の応力が0.25?0.6Nの範囲にあることが実質的に記載されている旨の申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件特許明細書の段落【0086】の「なお、耳掛け部材2a、2bに関しては、耳掛け部材2a、2bの融着位置を変え、その長さを調整することにより、表1に示す伸長時応力とした。」との記載を考慮すると,本件特許明細書に記載された実施例の耳掛け部材の長さは,17cmよりは短く,その具体的な長さの値は不明である。よって,本件発明1の「耳掛け部材を95mm伸長した時」を,伸長前の長さが17cmであることを前提に伸長率が30%の時であると言い換えることはできない。
(エ)本件発明1の「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」は,本件特許明細書の段落【0033】及び図5に示される測定方法によって測定されるものである一方,上記第4の1.(6)の記載等を考慮すると,甲1の「張力」は,あらかじめ引っ張り試験機にて紐状弾性体の引っ張り挙動を測定した結果得られた値であると解されることから,本件発明1の「応力」に相当するものではない。

ウ 回答書における申立人の主張について
当審は,平成30年12月12日付けで申立人に対して審尋を行い,上記イ(ウ)及び(エ)と同様の点を指摘した上で,甲1に「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」に関して,何が実質的に記載されているのかについての回答を求めた。
これに対し,申立人は,平成30年12月28日に回答書を提出し,計算の過程を示しつつ,甲1には「耳掛け部材を95mm伸長した時の応力」に関して,0.6N?1.2Nとすることが実質的に記載されている旨主張した。回答書で示された計算の過程は上記アの概算の過程と同じではないものの,甲1発明が0.6N?1.2Nの伸張時応力をとり得るという点においては上記アの概算と同じである。

エ 相違点の容易想到性,効果の検討
上記アの概算と上記ウの主張とを踏まえ,甲1発明が0.6N?1.2Nの伸張時応力をとり得るものであると推認した上で,上記相違点の容易想到性について検討する。
一般に,マスク本体の通気度は,マスクの設計にあたって当業者が通常考慮するパラメータであり,甲1発明においても,マスク本体の通気度は,種々の観点からさまざまな値をとり得るものであるといえる。その一方で,甲1には,通気度の具体的な値の記載はなく,通気度の具体的な値を示唆するような記載もない。
また,上記第4で示したとおり,甲2にはマスク本体の通気度を80?180cc/cm^(2)/secとする点が,甲3にはマスクの通気度を50?600cm^(3)/cm^(2)・secとする点が,甲4にはマスク覆い部を作成する積層不織布の通気度を10?100cc/cm^(2)・secとする点がそれぞれ記載されており,この甲2?4に記載された通気度の範囲内には,0.6N?1.2Nの伸張時応力と掛け合わせたときに算出される通気係数が本件発明1の「58?182」という範囲内となるものが含まれているとはいえる。しかしながら,甲2?4に記載された通気度の範囲内から,0.6N?1.2Nの伸張時応力と掛け合わせたときに算出される通気係数が本件発明1の「58?182」という範囲内となるような特定の値を選択し,選択した特定の値を甲1発明に対して組み合わせる動機付けを甲1?4の記載から見いだすことはできない。
加えて,本件特許明細書の段落【0009】?【0010】,【0027】?【0029】等の記載によれば,本件発明1は,マスク本体の通気度と耳掛け部材の伸張時応力の積である通気係数が一定の範囲内に収まると,眼鏡が曇りにくく,視界を遮りにくいマスクであることを見いだし,その通気係数を具体的に「58?182」と設定したものであるところ,甲1?4のいずれにも,マスク本体の通気度と耳掛け部材の伸張時応力の積と眼鏡の曇りにくさとの関係を示唆するような記載はなく,マスクに関する技術常識を踏まえても,このような関係が当業者にとって自明なものであるとまではいえない。そうすると,本件発明1は,通気係数を「58?182」と設定したことにより,甲1発明と比較して,眼鏡を曇りにくくする点で有利な効果を奏するものといえる。
よって,上記のとおり甲1発明が0.6N?1.2Nの伸張時応力をとり得るものであっても,甲1発明において,甲2?4記載事項に基いて通気係数を「58?182」とすることまでも当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえない。

オ 相違点についての判断のむすび
以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1発明及び甲2?4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2?4について
本件発明1を引用する本件発明2?4も,甲1発明と少なくとも上記相違点で相違するものであるから,本件発明1と同じ理由により,甲1発明及び甲2?4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-07 
出願番号 特願2017-145679(P2017-145679)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A41D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米村 耕一  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 白川 敬寛
千壽 哲郎
登録日 2018-02-23 
登録番号 特許第6293340号(P6293340)
権利者 日本バイリーン株式会社
発明の名称 マスク  

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