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審決分類 |
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C22C 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C22C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C22C 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C22C |
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管理番号 | 1349875 |
審判番号 | 訂正2018-390184 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-11-28 |
確定日 | 2019-02-28 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5372316号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5372316号の明細書、特許請求の範囲及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判に係る特許第5372316号(以下、「本件特許」という。)は、平成18年5月29日(優先権主張 平成18年5月19日)を出願日とする特願2006-148497号の請求項1に係る発明について平成25年9月27日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、平成30年11月28日付けで本件訂正審判の請求がされたものである。 第2 請求の趣旨及び訂正事項 1 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は「特許第5372316号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。 2 訂正事項 本件訂正審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?13のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すために当審が付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上2質量%以下であり、且つ前記窒化物面積率が1%以上10%未満であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であり、C:0.3質量%以上1.2質量%以下、Si:0.3質量%以上2.2質量%以下、Mn:0.3質量%以上2.0質量%以下、Cr:0.5質量%以上2.0質量%以下で、且つSi/Mnが5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とする転動部材。」という記載を 「内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つ前記窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であり、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とする転動部材。」という記載に訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の【0005】の「上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に係る転動部材は、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上2質量%以下であり、且つ前記窒化物面積率が1%以上10%未満であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であることを特徴とするものである。」という記載を 「上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に係る転動部材は、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つ前記窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であることを特徴とするものである。」という記載に訂正し、 明細書の【0006】の「また、C:0.3質量%以上1.2質量%以下、Si:0.3質量%以上2.2質量%以下、Mn:0.3質量%以上2.0質量%以下、Cr:0.5質量%以上2.0質量%以下で、且つSi/Mnが5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とするものである。」という記載を 「また、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とするものである。」という記載に訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の【0007】の「本発明では、窒化物の面積率を1?10%にして」という記載を「本発明では、窒化物の面積率を1?3.56%にして」という記載に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の【0019】の「而して、本発明の転動部材によれば、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上2質量%以下であり、且つSi・Mn系窒化物の面積率が1%以上10%未満であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数を102個以上としたことにより、より長寿命で、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れる。 また、C:0.3質量%以上1.2質量%以下、Si:0.3質量%以上2.2質量%以下、Mn:0.3質量%以上2.0質量%以下、Cr:0.5質量%以上2.0質量%以下で、且つSi/Mnが5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことにより、より一層の長寿命、耐摩耗性、耐焼き付き性を得ることができる。」という記載を 「而して、本発明の転動部材によれば、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つSi・Mn系窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数を102個以上としたことにより、より長寿命で、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れる。 また、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことにより、より一層の長寿命、耐摩耗性、耐焼き付き性を得ることができる。」という記載に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の【0023】の「各試験辺」という記載を「各試験片」という記載に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の【0024】【表2】の「実施例」「鋼種1」のうち「6?9」を「参考例」に訂正する。 「【表2】 」 (7)訂正事項7 明細書の【0029】の「比較例21(SUJ2相当)」という記載を「比較例11(SUJ2相当)」という記載に訂正する。 (8)訂正事項8 明細書の【0030】【表4】の「実施例12」?「実施例29」を「参考例12」?「参考例29」に訂正する。 「【表4】 」 (9)訂正事項9 明細書の【0031】の「表4から明らかなように、本発明範囲の鋼を用い、窒素濃度0.2質量%以上2.0質量%以下、Si・Mn系窒化物面積率1%以上10%以下、0.05?1μmのSi・Mn系窒化物の個数が102個以上の実施例は、比較例に比べて寿命延長効果が大きい。 また、この表4中のSi/Mn比率とSi・Mn系窒化物面積率との関係を図6に示す。例えば比較例13,14は、本発明範囲の鋼を用い、更に窒素濃度を0.2質量%以上としているが、Si含有量に対してMn含有量が少ないものであり、Si・Mn系窒化物の析出量が面積率で1%以下になっている。図6から明らかなように、Si/Mnの比率を5以下にすることによって、Si・Mn系窒化物の析出を促進することができる。」という記載を 「表4から明らかなように、本発明範囲の鋼を用い、窒素濃度0.35質量%、Si・Mn系窒化物面積率0.51%、0.05?1μmのSi・Mn系窒化物の個数が138個の実施例11は、比較例に比べて寿命延長効果が大きい。 また、この表4中のSi/Mn比率とSi・Mn系窒化物面積率との関係を図6に示す。例えば比較例13,14は、窒素濃度を0.2質量%以上としているが、Si含有量に対してMn含有量が少ないものであり、Si・Mn系窒化物の析出量が面積率で1%以下になっている。図6から明らかなように、Si/Mnの比率を0.51以上5以下にすることによって、Si・Mn系窒化物の析出を促進することができる。」という記載に訂正する。 (10)訂正事項10 明細書の【0033】【図6】の「Si/MN比率」という記載を「Si/Mn比率」という記載に訂正する。 (11)訂正事項11 図面の【図3】の「本発明範囲」が示す「窒素濃度 %」の範囲を0.2質量%以上2質量%以下から0.2質量%以上0.64質量%以下に訂正する。 「【図3】 」 (12)訂正事項12 図面の【図4】の「本発明範囲」が示す「Si・Mn窒化物面積率 %」の範囲を1%以上10%未満から1%以上3.56%以下に訂正する。 「【図4】 」 (13)訂正事項13 図面の【図6】の「本発明範囲」が示す「Si/Mn」の範囲を5以下から0.51以上5以下に訂正する。 「【図6】 」 第3 当審の判断 1 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 (ア)訂正事項1に係る本件訂正のうち、 (1a)「表面層の窒素濃度」の上限を「2質量%以下」から「0.64質量%以下」にする訂正、 (1b)「窒化物面積率」の上限を「10%未満」から「3.56%以下」にする訂正、 (1c)「C」(炭素)の含有量を「0.3質量%以上1.2質量%以下」から「0.95質量%以上1.10質量%以下」にする訂正、 (1d)「Si」(ケイ素)の含有量を「0.3質量%以上2.2質量%以下」から「0.4質量%以上0.7質量%以下」にする訂正、 (1e)「Mn」(マンガン)の含有量を「0.3質量%以上2.0質量%以下」から「0.9質量%以上1.15質量%以下」にする訂正、 (1f)「Cr」(クロム)の含有量を「0.5質量%以上2.0質量%以下」から「0.9質量%以上1.20質量%以下」にする訂正、及び (1g)「Si/Mn」の範囲を「5以下」から「0.51以上5以下」にする訂正は、いずれも、本件訂正前の数値範囲をその範囲内でさらに狭い範囲に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (イ)訂正事項1に係る本件訂正のうち、「前記窒化物面積率」という記載を「前記窒化物の面積率」という記載にする訂正は、「窒化物面積率」という記載が「前記」されていないことによる不明瞭さを解消するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 (ア)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、「JIS SUJ3」に該当し、成分元素の含有量は質量%で「C:1.01,Si:0.56,Mn:1.10,Cr:1.10」である「鋼種1」(【0020】【0021】【表1】)に対し、「直径65mm厚さ6mmの円板に旋削加工し、820?900℃で2?10時間、Rxガス、プロパンガス、及びアンモニアガスの混合ガス中で浸炭窒化処理後、油焼入れを施し、その後、160?270℃で2時間、焼戻し処理を施し」、その際に「処理温度、処理時間、アンモニアガス流量を変化させて、種々の窒素濃度の試験片を作成し」、「熱処理後、表面を研磨・ラッピングして鏡面仕上げした」(【0020】)ところ、「Si・Mn系窒化物の面積率、即ち析出量は、窒素濃度に比例して増大」(【0025】)し、このうち「実施例5」では、「窒素濃度:0.64質量%,Si・Mn系窒化物の面積率:3.56%」であったこと(【0024】【表2】)が記載されている。 (イ)また、本件明細書等には、「種々の鋼に対し、820?870℃で2?10時間、Rxガス、プロパンガス、及びアンモニアガスの混合ガス中で浸炭窒化処理後、油焼入れを施し、その後、160?270℃で2時間、焼戻し処理を施し」、「その際、熱処理時間、熱処理温度、アンモニアガス流量を変化させて鋼種11?27の鋼を作製し、その鋼で、JIS6206深溝玉軸受の転動体を作製し、合わせてSUJ2で軌道輪を作製し、以下の寿命試験を行った」(【0028】)ところ、成分元素の含有量(質量%)が「SUJ3中央値」の「C:1.01,Si:0.56,Mn:1.10,Cr:1.10」である「鋼種11」を用いた「実施例11」では、「Si/Mn比率」が「0.51」であったこと(【0030】【表4】)が記載されている。 (ウ)一方、本件明細書等には、「JIS SUJ3」という記載はあるが、その成分元素の含有量について明示的な記載はない。 しかし、「JIS G 4805:2008」(高炭素クロム軸受鋼鋼材)の内容が記載された下記の甲第1号証には、上記成分元素の含有量について、質量%で「C:0.95-1.10,Si:0.40-0.70,Mn:0.90-1.15,P:0.025以下,S:0.025以下,Cr:0.90-1.20,Mo:-」であること記載されており、「JIS G 4805(1990)」の内容が記載された下記の甲第2号証にも同一の記載がされている。 さらに、「JIS G 4805」は「JIS G 4805(1990)」と「JIS G 4805:2008」との間に「JIS G 4805:1999」として一度改正されているところ、この「JIS G 4805:1999」においても、「JIS SUJ3」の成分元素の含有量について、甲第1号証及び甲第2号証と同一の記載がされていることを確認できる。 したがって、本件特許の優先日(平成18年5月19日)の時点において既に「JIS SUJ3」の成分元素の含有量が、質量%で「C:0.95-1.10,Si:0.40-0.70,Mn:0.90-1.15,P:0.025以下,S:0.025以下,Cr:0.90-1.20,Mo:-」であることは、当業者の技術常識であったものと認められる。 [証拠方法] 甲第1号証:「日本工業規格 JIS G 4805:2008 高炭素クロム軸受鋼鋼材 High carbon chromium bearing steels」 (http://kikakurui.com/g4/G4805-2008-01.html) 甲第2号証:「高炭素クロム軸受鋼鋼材 - High carbon chromium bearing steels - JIS G 4805(1990)」 (http://www.forming.co.jp/database/pdf/hccbs-1.pdf) (エ)以上によれば、訂正事項1に係る本件訂正のうち、前記(1a)及び(1b)の訂正(前記(ア))は、「JIS SUS3」に該当する「鋼種1」を用いた「実施例5」において「窒素濃度:0.64質量%,Si・Mn系窒化物の面積率:3.56%」であったことに基づくものであり、 前記(1c)?(1f)の訂正(前記(ア))は、「実施例5」の「鋼種1」及び「実施例11」の「鋼種11」が、いずれも「JIS SUS3」に該当する鋼材であること、及び「JIS SUS3」の成分元素の含有量についての前記(ウ)の技術常識に基づくものであり、 前記(1g)の訂正(前記(ア))は、「JIS SUS3」に該当する「鋼種11」を用いた「実施例11」において「Si/Mn比率」が「0.51」であったことに基づくものである。 したがって、訂正事項1に係る本件訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1に係る本件訂正は、前記アのとおり、各発明特定事項の数値範囲をその範囲内でさらに狭い範囲に限定するとともに、記載の不明瞭さを解消するものであって、前記イのとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2,3,4,11,12,13について 訂正事項2,3,4,11,12,13に係る本件訂正は、訂正事項1に係る本件訂正によって請求項1の記載が訂正されたことに伴って、本件訂正後の請求項1の記載と整合させるために、明細書の【0005】及び【0006】(訂正事項2),【0007】(訂正事項3),【0019】(訂正事項4),【図3】(訂正事項11),【図4】(訂正事項12),【図6】(訂正事項12)の記載をそれぞれ訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。 (3)訂正事項5,7,10について 訂正事項5に係る本件訂正は、本件訂正前の明細書の【0023】における明らかな誤記である「各試験辺」という記載を「各試験片」という記載に訂正するものであり、訂正事項10に係る本件訂正は、本件訂正前の明細書の【0033】【図6】における明らかな誤記である「Si/MN比率」という記載を「Si/Mn比率」という記載に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 また、訂正事項7に係る本件訂正は、本件訂正前の明細書の【0029】の「比較例21(SUJ2相当)」という記載を「比較例11(SUJ2相当)」という記載に訂正するものであるところ、本件訂正前の明細書には「比較例11」?「比較例15」が記載されているのみで「比較例21」は記載されておらず、上記「比較例21(SUJ2相当)」という記載は、「比較例11(SUJ2相当)」の誤記であることは明らかであるから、訂正事項7に係る本件訂正についても、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 そして、訂正事項5,7,10に係る本件訂正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。 (4)訂正事項9について 訂正事項9に係る本件訂正は、訂正事項1に係る本件訂正によって請求項1の記載が訂正されたことに伴って、本件訂正前の明細書の【0031】に記載された「実施例」が「実施例11」のみとなり、「比較例13,14」の鋼が「本発明範囲の鋼」ではなくなったところ、これと整合するように上記【0031】の記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。 (5)訂正事項6,8について 訂正事項6に係る本件訂正は、訂正事項1に係る本件訂正によって請求項1の記載が訂正されたことに伴って、本件訂正前の明細書の【0024】の【表2】に記載された「実施例1?9」のうち「実施例6?9」が「実施例」に該当しないものとなっため、これを「参考例6?9」に訂正するものであり、同様に、訂正事項6に係る本件訂正は、本件訂正前の明細書の【0030】の【表4】に記載された「実施例11?29」のうち「実施例」に該当しないものとなった「実施例12?29」を「参考例12?29」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定にも適合する。 2 独立特許要件 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号,第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第5?7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 転動部材 【技術分野】 【0001】 本発明は転動部材に関するものであり、例えば転がり軸受やボールねじ、リニアガイドの寿命延長や耐摩耗性・耐焼付き性向上といった機能向上に好適なものである。 【背景技術】 【0002】 従来、転がり軸受には、JIS SUJ2、SUJ3に代表される軸受鋼が用いられ、通常、焼入れ・焼戻し処理によって硬度HRC60以上で使用される。しかし、転がり軸受の使用環境が多様化し、異物が混入するような潤滑下や潤滑が不十分な環境下では、これらの軸受鋼では十分な寿命が得られなかったり、焼き付きが生じたりする場合がある。 このため、SUJ2を用いてマルストレッシングと呼ばれる浸炭窒化処理を施し、窒素を固溶させることにより、軌道面表面の残留オーステナイト量を増加させることによって、異物混入潤滑下での圧痕縁の応力緩和を図ったり、窒素の効果で、耐焼き付き性の改善を図ったりしている。しかしながら、近年、転がり軸受の使用環境は益々過酷化し、SUJ2に浸炭窒化処理下だけでは、十分な効果が得られない場合が発生している。 【0003】 これを解決するため、下記特許文献1に記載される転がり軸受では、Si添加量の多い材料を用い、Si-Mnを含有する炭化物又は炭窒化物を面積率で1?30%析出させ、滑り接触を伴う環境下や潤滑油が枯渇する環境下での耐摩耗性及び耐焼き付き性を改善している。 【特許文献1】特開2003-193200号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、前記特許文献1に記載される転がり軸受では、Si及びMnを含有した窒化物(以下、Si・Mn系窒化物と記す)を形成するための適正な材料組成や窒素濃度が規定されておらず、十分な性能を発揮できない場合がある。 本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、Si・Mn系窒化物の適正化を図ることで、より長寿命で、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れる転動部材を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に係る転動部材は、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つ前記窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であることを特徴とするものである。 【0006】 また、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とするものである。 本発明者らは、異物混入潤滑下の寿命を支配する因子を鋭意研究した結果、以下に述べるメカニズムによって転がり軸受の寿命が影響を受けることを見出した。異物混入潤滑下では、異物の噛み込みによって軌道輪に圧痕が形成される。この圧痕上を転動体が繰り返し通過すると、転動体が弱い場合には、形状の崩れを起こす。この形状が崩れた転動体が軌道輪に更に大きなダメージを与えて剥離に至る。従って、異物混入潤滑下で寿命を延長するためには、従来のように軌道輪の残留オーステナイトのみを増やして圧痕縁の応力を緩和させるだけでは寿命延長効果が小さく、転動体表面の圧痕の形成自体を抑制できるように転動体を強化する必要がある。 【0007】 本発明では、転動体にSi及びMnを多く添加した鋼を用い、浸炭窒化処理を施して窒素を高濃度化し、硬質なSiとMnとを含有する窒化物、即ちSi・Mn系窒化物を表面に析出させて転動体を強化し、軌道輪に生じた圧痕による転動体の形状変化を著しく抑制しようとするものである。 転動体の強さは、Si・Mn系窒化物が寄与するものである。圧痕の形成を抑制するためには、変形の抵抗を大きくすることが重要であり、析出物の大きさが大きくなると、強化の効果が低減する。即ち、表面を強化するためには、Si・Mn系窒化物を微細に分散させる必要がある。本発明では、窒化物の面積率を1?3.56%にして、十分に析出させると共に、1μm以下又は500nm以下の細かい析出物の個数を増やしたり比率を窒化物全体の20%以上としたりすることによって表面を強化することを特徴としている。 【0008】 転動体に関する数値の臨界的意義は以下の通りである。 [窒素濃度が0.2質量%以上2質量%以下、Si・Mn系窒化物の面積率が1?10%] Si及びMnを含有した析出物は、熱的に安定な窒化物であり、窒化物中におけるSiとMnとの組成の比率が約5:1であり、基地組織に0.01μm?1μmの大きさで均一微細に分散し、硬さを向上させる特徴がある。この効果によって、寿命延長、耐摩耗性、耐焼き付き性の向上を図ることができる。Si・Mn系窒化物の面積率が1%以上で寿命が著しく向上するため、下限値を1%以上とし、窒素濃度を0.2質量%とする。Si・Mn系窒化物の面積率が10%を越えると効果が飽和するので、上限値を10%、窒素濃度を2質量%とすることが好ましい。 【0009】 [面積375μm^(2)中における0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の個数が102個以上] 1μmを越える窒化物は、材料の強化にあまり寄与しない。細かい窒化物が分散している方が強化される。この理由としては、析出強化の理論において析出物粒子間距離の小さい方が強化能に優れるので、窒化物の面積率が同じであっても、析出粒子数が多ければ、相対的に粒子間距離が短くなり、強化される。即ち、Si及びMnの含有量の多い鋼を用い、Si・Mn系窒化物の面積率が1?10%の範囲で、0.05μm以上1μm以下の微細な窒化物の個数を増やすのがよい。また、平均粒径が0.05μm以上のSi・Mn系窒化物のうち、0.05?0.50μmのSi・Mn系窒化物の個数の比率を20%以上とすることにより、更に強化することが可能になる。 【0010】 面積375μm^(2)の範囲で、0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物を102個以上にする手法としては、浸炭窒化処理温度を800℃以上870℃以下とすることが好ましい。この温度を越えると、窒化物が粗大化して、微細なSi・Mn系窒化物の個数が減少する。また、この処理温度より温度が高くなると、窒素の固溶限が大きくなるため、窒化物の量が少なくなり、所望の面積率が得られなくなる。浸炭窒化工程の初期から、Rxガスとエンリッチガスとアンモニウムガスの混合ガス雰囲気とし、CP値は1.2以上、アンモニアガスの流量はRxガス流量の少なくとも1/5以上とする。また、浸炭窒化後の焼入れは、油温60?120℃の範囲で行う。この温度より高いと、十分な硬さが得られない場合がある。焼戻しは、160?270℃の温度で行い、硬さの範囲としてはHv740以上、望ましくはHv780以上とする。また、必要に応じて、焼入れ処理後に、サブゼロ処理を行ってもよい。 【0011】 [Si含有量:0.3?2.2質量%、Mn含有量:0.3?2.0質量%、且つSi/Mn比率:5以下] Si・Mn系窒化物を十分に析出させるためには、Si及びMnを多く含有した鋼を用いる必要がある(SUJ2(Si含有量0.25質量%、Mn含有量0.4質量%)では、浸炭窒化などで窒素を過剰に付与しても、Si・Mn系窒化物量が少ない)。このため、Si及びMnの含有量は以下の値を臨界値とする。 【0012】 [Si含有量:?質量%] 本発明に係る窒化物の析出に必要な元素であり、Mnの存在によって、質量%以上の添加で、窒素と効果的に反応して顕著に析出する。 [Mn含有量:?質量%] 本発明に係る窒化物の析出に必要な元素であり、Siとの共存によって、質量%以上の添加でSi・Mn系窒化物の析出を促進させる作用がある。また、Mnはオーステナイトを安定化する働きがあるので、硬化熱処理後に残留オーステナイトが必要以上に増加するといった問題を防止するため、質量%以下とする。 【0013】 [Si/Mn比率:5以下] 本発明に係る析出物は、焼戻しによる窒化物とは異なり、浸炭窒化処理時に侵入してきた窒素がオーステナイト域で、Mnを取り込みながら、Siと反応して形成される。従って、Si添加量に対してMn添加量が少ないと、十分に窒素を拡散させても、Si・Mn系窒化物の析出が促進されない。前述したSi及びMn添加量の範囲で、且つ窒素量を0.2%以上侵入させた場合、Si/Mn比率を5以下とすることによって、寿命延長や耐摩耗性・耐焼き付き性向上に効果のある面積率1.0%以上のSi・Mn系窒化物の析出量を確保することができる。 【0014】 [C:0.3質量%以上1.2質量%以下] Cは、焼入れによってマルテンサイト組織となり、基地組織を硬化させる作用がある。転動部材として必要な心部硬さを得るためにCの下限値は0.3質量%以上とすることが好ましい。浸炭窒化時間を短縮するためには、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、0.95質量%以上が更に好ましい。一方、過剰に添加すると、セメンタイトの析出が過剰となり、浸炭窒化処理によって粗大化して、靭性が低下する。このため、上限値を1.2質量%とすることが好ましい。 【0015】 [Cr:0.5質量%以上2.0質量%以下] Crは焼入れ性を向上させると同時に、炭化物形成元素であり、材料を強化する炭化物の析出を促進し、更に微細化させる。0.5質量%未満であると焼入れ性が低下して十分な硬さが得られなかったり、浸炭窒化時に炭化物が粗大化したりする。2.0質量%を越えると、浸炭窒化時に表面にCr酸化膜が形成されて、炭素及び窒素の核酸を阻害する。Cr含有量は0.5質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。 また、必要に応じて、Mo、Ni、Vの少なくとも1種類以上を添加してもよい。 【0016】 [Mo:0.2質量%以上1.2質量%以下] Moは、焼入れ性を向上させると同時に、炭窒化物形成元素であり、材料を強化する炭化物及び炭窒化物、窒化物の析出を促進し、更に微細化させる作用がある。その効果は、0.2質量%以上の添加で顕著になる。1.2質量%を越えると効果が飽和し、コストが高くなる。従って、Mo含有量は0.2質量%以上1.2質量%以下とすることが好ましい。 【0017】 [Ni:0.5質量%以上3.0質量%以下] Niは、焼入れ性を向上させると同時に、靭性を向上させる作用があり、その効果は0.5質量%以上の添加で顕著となる。オーステナイト安定化元素であり、3.0質量%以上添加すると残留オーステナイトが過剰となり、心部硬度が低下する。従って、Ni含有量は0.5質量%以上3.0質量%以下とすることが好ましい。 【0018】 [V:0.5質量%以上1.5質量%以下] Vは、浸炭窒化によって硬質な炭化物や炭窒化物を形成して、耐摩耗性を向上させる作用がある。その効果は、0.5質量%以上の添加で顕著となる。1.5質量%を越えて過剰に添加すると、素材の固溶炭素と結びついて炭化物を形成し、硬さが低下する。従って、V含有量は0.5質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。 【発明の効果】 【0019】 而して、本発明の転動部材によれば、内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つSi・Mn系窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数を102個以上としたことにより、より長寿命で、耐摩耗性、耐焼き付き性に優れる。 また、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことにより、より一層の長寿命、耐摩耗性、耐焼き付き性を得ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0020】 次に、本発明の転動部材の一実施形態について図面を参照しながら説明する。 図1は、本実施形態の転がり軸受の断面図である。この転がり軸受は、内方部材である内輪1、外方部材である外輪2、転動体3、保持器4を備えた深溝玉軸受である。 まず、窒素量とSi・Mn析出物量及び性能との関係を明らかにするため、下記表1の材料を直径65mm厚さ6mmの円板に旋削加工し、820?900℃で2?10時間、Rxガス、プロパンガス、及びアンモニアガスの混合ガス中で浸炭窒化処理後、油焼入れを施し、その後、160?270℃で2時間、焼戻し処理を施した。処理温度、処理時間、アンモニアガス流量を変化させて、種々の窒素濃度の試験片を作成した。熱処理後、表面を研磨・ラッピングして鏡面仕上げした。なお、下記表1中、鋼種1はJIS SUJ3、鋼種2はJIS SUJ2に相当する。 【0021】 【表1】 【0022】 [表面の窒化物の面積率及び窒素濃度の測定] 電界放射型走査型顕微鏡(FE-SEM)を用い、加速電圧10kVで転動体表面の観察を行った。窒化物面積率については、倍率5000倍で最低3視野以上写真を撮影し、写真を二値化してから画像解析装置を用いて面積率を計算した。対象となる窒化物が微細なものであるので、測定倍率5000倍、測定面積375μm^(2)とすると、0.05μm以上1μm以下の窒化物の数を測定することができる。窒素濃度の測定は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用い、加速電圧15kVで行った。 【0023】 [寿命試験] 続いて、種々の試験片に対し、スラスト型寿命試験機により、異物混入潤滑下での試験を行った。試験条件は以下の通りである。 試験荷重:5880N(600kgf) 回転数:1000min^(-1) 潤滑油:VG68 異物の硬さ:Hv870 異物の大きさ:74?147μm 異物混入量:200ppm 各試験片における窒素濃度、面積率、寿命比を下記表2に示す。寿命比は、比較例1のL10寿命を1としたときの比率で示す。また、転動体表面の窒化物の観察写真を図2に示す。図2の下は、エネルギー分散型X線分散型分析装置で分析した窒化物の元素分析結果を示している。分析結果から、Si、Mn、Nのピークが出現しており、表面の窒化物は、Si・Mn系窒化物であることが分かる。 【0024】 【表2】 【0025】 図3には、窒素濃度とSi・Mn系窒化物の面積率との関係を示す。Si・Mn系窒化物の面積率、即ち析出量は、窒素濃度に比例して増大することが分かる。従って、Si、Mn添加量の多い鋼の方が、同一窒化量で比較した場合に、Si・Mn系窒化物の析出量が多いことになる。また、図4には、Si・Mn系窒化物の面積率とL10寿命との関係を示す。Si・Mn系窒化物の面積率が1%以上になると寿命が著しく向上することが分かる。また、Si・Mn系窒化物の面積率が10%を越えると効果が飽和していることが分かる。 【0026】 また、下記表3には、Si・Mn系窒化物の面積率、0.05μm?1μmのSi・Mn系窒化物の個数、寿命試験結果を、図5には0.05μm?1μmのSi・Mn系窒化物の個数と寿命比率との関係を示す。これらから明らかなように、測定面積375μm^(2)の範囲内にSi・Mn系窒化物を102個以上分散させることにより、基地組織が強化され、異物混入潤滑下での寿命が延長する。 【0027】 【表3】 【0028】 次に、前述と同様に、種々の鋼に対し、820?870℃で2?10時間、Rxガス、プロパンガス、及びアンモニアガスの混合ガス中で浸炭窒化処理後、油焼入れを施し、その後、160?270℃で2時間、焼戻し処理を施した。その際、熱処理時間、熱処理温度、アンモニアガス流量を変化させて鋼種11?27の鋼を作製し、その鋼で、JIS6206深溝玉軸受の転動体を作製し、合わせてSUJ2で軌道輪を作製し、以下の寿命試験を行った。 【0029】 [寿命試験] 試験荷重:6223N(635kgf) 回転数:3000min^(-1) 潤滑油:VG68 異物の硬さ:Hv590 異物の大きさ:74?147μm 異物混入量:200ppm 寿命試験の結果、化学成分(質量%)、Si/Mn比率、窒素濃度(質量%)、Si・Mn系窒化物面積率、0.05μm?1μmのSi・Mn系窒化物の個数を表4に示す。寿命は、比較例11(SUJ2相当)のL10寿命を1としたときの比で表す。 【0030】 【表4】 【0031】 表4から明らかなように、本発明範囲の鋼を用い、窒素濃度0.35質量%、Si・Mn系窒化物面積率0.51%、0.05?1μmのSi・Mn系窒化物の個数が138個の実施例11は、比較例に比べて寿命延長効果が大きい。 また、この表4中のSi/Mn比率とSi・Mn系窒化物面積率との関係を図6に示す。例えば比較例13,14は、窒素濃度を0.2質量%以上としているが、Si含有量に対してMn含有量が少ないものであり、Si・Mn系窒化物の析出量が面積率で1%以下になっている。図6から明らかなように、Si/Mnの比率を0.51以上5以下にすることによって、Si・Mn系窒化物の析出を促進することができる。 【0032】 なお、上記実施形態では、転動体に本発明の転動部材を適用した事例のみを示したが、内外輪の何れか、又は内外輪、転動体全てに適用しても同様の効果が得られる。 また、説明した深溝玉軸受を始め、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受のほか、軸受の種類を問わず、好適に使用することができる。 また、ボールねじやリニアガイドの転動体にも好適に用いることができる。 【図面の簡単な説明】 【0033】 【図1】本発明の転動部材を用いた深溝玉軸受の一実施形態を示す断面図である。 【図2】Si・Mn系窒化物の観察写真である。 【図3】窒素濃度とSi・Mn系窒化物の面積率との関係を示す説明図である。 【図4】Si・Mn系窒化物の面積率とL10寿命との関係を示す説明図である。 【図5】0.05?1μmのSi・Mn系窒化物の個数と寿命比との関係を示す説明図である。 【図6】Si/Mn比率とSi・Mn系窒化物の面積率との関係を示す説明図である。 【符号の説明】 【0034】 1は内輪(内方部材) 2は外輪(外方部材) 3は転動体 4は保持器 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 内方部材及び外方部材及び転動体の少なくとも一つの表面層に、浸炭窒化処理又は窒化処理によるSi・Mn系窒化物を有し、当該表面層の窒素濃度が0.2質量%以上0.64質量%以下であり、且つ前記窒化物の面積率が1%以上3.56%以下であり、且つ0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物の面積375μm^(2)中の個数が102個以上であり、C:0.95質量%以上1.10質量%以下、Si:0.4質量%以上0.7質量%以下、Mn:0.9質量%以上1.15質量%以下、Cr:0.9質量%以上1.20質量%以下で、且つSi/Mnが0.51以上5以下であり残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を浸炭窒化焼入れ、焼き戻し処理したことを特徴とする転動部材。 【図面】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2019-02-01 |
結審通知日 | 2019-02-05 |
審決日 | 2019-02-18 |
出願番号 | 特願2006-148497(P2006-148497) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(C22C)
P 1 41・ 841- Y (C22C) P 1 41・ 853- Y (C22C) P 1 41・ 856- Y (C22C) P 1 41・ 851- Y (C22C) P 1 41・ 855- Y (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 真明 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
長谷山 健 土屋 知久 |
登録日 | 2013-09-27 |
登録番号 | 特許第5372316号(P5372316) |
発明の名称 | 転動部材 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |