• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1349898
審判番号 不服2017-13798  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-15 
確定日 2019-03-13 
事件の表示 特願2016-544366「交感神経アブレーション用の医療デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月30日国際公開、WO2015/061457、平成28年11月10日国内公表、特表2016-534842〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014(平成26)年10月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013(平成25)年10月25日、米国特許庁(US))を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年12月15日付け:拒絶理由通知書
平成29年 3月15日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 5月18日付け:拒絶査定
平成29年 9月15日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成29年3月15日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「交感神経アブレーション用の医療デバイスであって、
カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトに配置される拡張可能なバルーンであって、未拡張形態と拡張形態との間で移行可能である前記バルーンと、
絶縁層と前記拡張可能なバルーンに対面するベース層とを含む複数の層を有する可撓性の回路としてそれぞれ構成される複数の細長い電極アセンブリであって、前記バルーンの外面に取り付けられる複数の前記電極アセンブリと、
を備え、複数の前記電極アセンブリの各々は、前記複数の層の内部であって、前記ベース層と前記絶縁層との間に埋め込まれる温度センサを含む医療デバイス。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由である、平成29年5月18日付け拒絶査定の理由2は、概略、次のとおりのものである。

この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2013/0165916号明細書
引用文献2:特開2001-8902号公報(周知技術を示す文献)


第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。日本語訳は対応する特表2015-503365号公報を参考にして当審で付与したものであり、下線も当審で付与したものである。
(1)段落[0047]
「The heat sensing device may have a thickness of less than approximately 0.15 mm.」(熱感知デバイスの厚さは0.15mm未満とすることができる。)
(2)段落[0293]
「Catheters can be used to perform renal denervation by RF energy treatment in patients with refractory hypertension. This is a relatively new procedure, which has been found to be clinically effective in treating hypertension. In the procedure, RF energy is applied to walls of the renal artery to reduce hyper-activation (which is often the cause of chronic hypertension) of the sympathetic nervous system adjacent to the renal artery.」(カテーテルは、治療抵抗性の高血圧の患者においてRFエネルギー治療によって腎除神経を行うために用いることができる。これは比較的新しい処置であり、高血圧の治療において臨床的に効果的であることが分かっている。その処置では、RFエネルギーは、腎動脈に隣接する交感神経系(多くの場合に慢性高血圧の原因である)の過剰活性を低下させるように腎動脈の壁に適用される。)
(3)段落[0304]
「FIG. 1A shows a system 100 for performing a treatment within a body passageway. The system 100 includes a control unit 110 . The control unit 110 can include an RF generator for delivering RF energy to catheter device 120 . 」(図1Aは、身体通路内で治療を行うシステム100を示している。システム100は制御ユニット110を含む。制御ユニット110は、RFエネルギーをカテーテルデバイス120に送達するRF発生器を含んでいてもよい。)
(4)段落[0307]
「Returning to FIG. 1A , the catheter device 120 can include an expandable device 130 , which can be a compliant, non-compliant, or semi-compliant balloon.The expandable device 130 includes a plurality of electrode assemblies electrically coupled to the control unit 110 . Such electrode assemblies can be electrically configured to be monopolar or bipolar, and further have heat sensing capability.」(図1Aを参照すると、カテーテルデバイス120は、柔軟であるか、柔軟ではないか、又は半柔軟性であるバルーンであり得る拡張可能なデバイス130を含んでいてもよい。拡張可能なデバイス130は、制御ユニット110に電気的に接続されている複数の電極アセンブリを含む。そのような電極アセンブリは、単極又は双極であるように電気的に構成することができ、熱感知機能を更に有する。)
(5)段落[0323]
「FIG. 2A shows a top view of electrode assembly 200 , which is identified in FIG. 1C as electrode assembly 140 . The electrode assembly 200 is constructed as a flexible circuit having a plurality of layers. Such layers can be continuous or non-contiguous, i.e., made up of discrete portions. Shown in FIGS. 2B and 2C , a base layer 202 of insulation provides a foundation for the electrode assembly 200 . The base layer 202 can be constructed from a flexible polymer such as polyimide. In some embodiments, the base layer 202 is approximately 0.5 mil (0.0127 mm) thick. A conductive layer 204 made up of a plurality of discrete traces is layered on top of the base layer 202 . The conductive layer 204 can be, for example, a layer of electrodeposited copper. In some embodiments, the conductive layer 204 is approximately 0.018 mm thick. An insulating layer 206 is discretely or continuously layered on top of the conductive layer 204 , such that the conductive layer 204 is fluidly sealed between the base layer 202 and the insulating layer 206 . Like the base layer 202 , the insulating layer 206 can be constructed from a flexible polymer such as polyimide. In some embodiments, the insulating layer 206 is approximately 0.5 mil (0.0127 mm) thick. In other embodiments, the insulating layer 206 is a complete or partial polymer coating, such as PTFE or silicone.」(図2Aは、図1Cにおいて電極アセンブリ140として特定されている電極アセンブリ200の上面図を示している。電極アセンブリ200は、複数の層を有する可撓性回路として構成されている。そのような層は、連続的であるか、又は不連続的である、すなわち別個の部分から構成することができる。図2B及び図2Cに示されているのは、電極アセンブリ200の基礎を提供する絶縁の底部層202である。底部層202は、ポリイミド等の可撓性ポリマーから構成することができる。幾つかの実施形態では、底部層202はおよそ0.5ミル(0.0127mm)厚である。複数の別個のトレースから構成される導電層204が、底部層202の上部に重ねられる。導電層204は例えば電着銅の層とすることができる。幾つかの実施形態では、導電層204はおよそ0.018mm厚である。絶縁層206が導電層204の上部に離散的に又は連続的に重ねられており、導電層204が底部層202と絶縁層206との間で流体シールされるようにする。絶縁層206は、底部層202と同様に、ポリイミド等の可撓性ポリマーから構成することができる。幾つかの実施形態では、絶縁層206はおよそ0.5ミル(0.0127mm)厚である。他の実施形態では、絶縁層206は、PTFE又はシリコーン等の全体的又は部分的なポリマーコーティングである。)
(6)段落[0339]
「The sensor trace 214 is centrally located on the distal electrode pad 208 and includes a sensor power pad 224 facing the sensor ground pad 218 . These pads can connect to power and ground poles of a heat sensing device 226 , such as a thermocouple (for example, Type T configuration: Copper/Constantan) or thermistor, as shown in the partial cross-section depicted in FIG. 2C .」(センサトレース214は遠位の電極パッド208の中央に位置付けられ、センサ接地パッド218に面するセンサ電源パッド224を含む。これらのパッドは、図2Cに示されている部分断面図に示されているように、熱電対(例えばT型の構成:銅/コンスタンタン)又はサーミスタ等の熱感知デバイス226の電源及び接地極に接続することができる。)
(7)段落[0340]
「The heat sensing device 226 is proximately connected to the sensor power pad 224 and distally connected to the sensor ground pad 218 . To help reduce overall thickness, the heat sensing device 226 is positioned within an opening within the base layer 202 . In some embodiments, the heat sensing device 226 is a thermistor having a thickness of 0.1 mm, which is unusually thin-approximately two-thirds of industry standard. As shown, the heat sensing device 226 is on a non-tissue contacting side of the distal electrode pad 208 . Accordingly, the heat sensing device 226 is captured between the electrode structure and a balloon when incorporated into a final device, such as catheter 120 .」(熱感知デバイス226は近位側がセンサ電源パッド224に接続され、遠位側がセンサ接地パッド218に接続される。全体的な厚さを減らすことを助けるために、熱感知デバイス226は底部層202内の開口内に位置決めされる。幾つかの実施形態では、熱感知デバイス226は、業界基準のおよそ3分の2と珍しく薄い0.1mmの厚さを有するサーミスタである。図示されるように、熱感知デバイス226は、遠位の電極パッド208の、組織に接触しない側にある。したがって、熱感知デバイス226は、カテーテル120等の最終的なデバイスに組み込まれると、電極構造とバルーンとの間に捕捉される。)
(8)段落[0349]
The arrangement and geometry of the electrode pads, as well as the arrangement and geometry of the tails of the flexible circuits may also facilitate folding or otherwise collapsing the balloon into a relatively compact un-expanded state. For instance, in embodiments with an expanded diameter of up to 10 mm, the device in an un-expanded state may have as low as an approximately 1 mm diameter.(電極パッドの配置及び幾何学的形状、並びに可撓性回路のテール部の配置及び幾何学的形状はまた、バルーンの折り畳み、又はそうでなければバルーンをしぼませて比較的コンパクトな未拡張状態にすることを容易にすることができる。例えば、最大10mmの拡張径を有する実施形態では、未拡張状態のデバイスはおよそ1mmもの小ささの直径を有していてもよい。)
(9)図1Aには、カテーテルデバイス120に拡張可能なデバイス130が配置されている点が開示されている。
(10)図1Bないし1Fには、拡張可能なデバイス130の外面に複数の細長い電極アセンブリが取り付けられる点が開示されている。
(11)図2Cには、絶縁層206が上面を形成する点、及び、熱感知手段226が底部層202によって左右から挟まれ、熱感知手段226と底部層202とで下面を形成する点が開示されている。

2 引用発明
(a)上記(4)及び(8)の摘記事項並びに(9)の開示事項からみて、拡張可能なデバイス130は、カテーテルデバイス120に配置されており、未拡張状態と拡張状態との間を移行可能であることは明らかである。
(b)上記(7)の摘記事項からみて、熱感知デバイス226は遠位の電極パッド208の組織に接触しない側にある、つまり、熱感知デバイス226は電極構造とバルーンとの間に捕捉されていることから、熱感知デバイス226は拡張可能なデバイス130に対面していることは明らかである。そして、同じ上記(7)の摘記事項及び上記(11)の開示事項からみて、熱感知デバイス226は底部層202内の開口内に位置決めされ、熱感知デバイス226と底部層202とで下面を形成する。これらを併せて鑑みれば、底部層202が拡張可能なデバイス130に対面していることは明らかである。
したがって、技術常識を踏まえ、摘記事項(1)ないし(8)、開示事項(9)ないし(11)及び認定事項(a)及び(b)をみれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

「交感神経系の過剰活性を低下させるためのRFエネルギー治療を行う医療デバイスであって、
カテーテルデバイスと、
前記カテーテルデバイスに配置される拡張可能なデバイスであって、未拡張状態と拡張状態との間で移行可能である前記拡張可能なデバイスと、
絶縁層と前記拡張可能なデバイスに対面する底部層とを含む複数の層を有する可撓性回路としてそれぞれ構成される複数の細長い電極アセンブリであって、前記拡張可能なデバイスの外面に取り付けられる複数の前記電極アセンブリと、
を備え、複数の電極アセンブリの各々は、前記複数の層の内部であって、底部層内の開口内に位置決めされる熱感知デバイスを含む医療デバイス。」


第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「交感神経系の過剰活性を低下させるためのRFエネルギー治療を行う医療デバイス」は、その作用と機能からみて、本願発明の「交感神経アブレーション用の医療デバイス」に相当し、以下同様に、「カテーテルデバイス」は「カテーテルシャフト」に、「拡張可能なデバイス」は「拡張可能なバルーン」に、「底部層」は「ベース層」に、「可撓性回路」は「可撓性の回路」に、「熱感知デバイス」は「温度センサ」に、それぞれ相当する。

してみれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
「交感神経アブレーション用の医療デバイスであって、
カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトに配置される拡張可能なバルーンであって、未拡張形態と拡張形態との間で移行可能である前記バルーンと、
絶縁層と前記拡張可能なバルーンに対面するベース層とを含む複数の層を有する可撓性の回路としてそれぞれ構成される複数の細長い電極アセンブリであって、前記バルーンの外面に取り付けられる複数の前記電極アセンブリと、
を備え、複数の前記電極アセンブリの各々は、温度センサを含む医療デバイス。」

(相違点)
「温度センサ」について、本願発明においては、「前記複数の層の内部であって、前記ベース層と前記絶縁層との間に埋め込まれる」のに対して、引用発明においては、「底部層内の開口内に位置決めされる」である点。


第6 判断
1 相違点について
上記相違点について検討する。
上記第4の1(6)の摘記事項によれば、熱感知デバイス226としてサーミスタのほかに「熱電対(例えばT型の構成:銅/コンスタンタン)」を採用することが記載されている。
そして、同(1)に「熱感知デバイスの厚さは0.15mm未満とする」と記載されているように、血管内に押入される拡張可能なデバイスの外面に設ける温度センサの厚みを可及的に薄くすべきことは、当業者にとって自明の課題である。また、引用発明の「熱感知デバイス」が「前記複数の層の内部であって、底部層内の開口内に位置決めされる」ことの技術的意義は、上記第4の1(7)の摘記事項によれば、熱感知デバイス226をサーミスタとした場合に、全体的な厚さを減らすことを助けるためにある。
さらに、同(4)の記載によれば、底部層は「絶縁」の機能を有している。
ところで、熱電対は、誘電体層(絶縁体層)上に、相異なる起電力を有する導電層をスパッタリング等により薄膜状に設置し、当該導電層の周囲を絶縁体層で被覆して形成されるものであること、そして、サーミスタに比べて薄い(厚みが低減されている)ことは、いずれも周知の技術である。(必要とあらば、引用文献2の段落【0026】ないし段落【0036】、段落【0043】及び【図7】、特開平2-171626号公報の2ページ右上欄7行目ないし右下欄10行目、第1図及び第2図、特開平6-317481号公報の段落【0012】ないし段落【0030】及び【図2】、特表2004-508074号公報の段落【0024】ないし段落【0037】を参照のこと。)
してみれば、引用発明の温度センサの厚みをより薄くするため、サーミスタに替えて、導電層の周囲が絶縁層で覆われた熱電対を採用することで、上記相違点に係る本願発明の構成、つまり、熱電対が複数の層の内部であって、絶縁の底部層と絶縁層との間に埋め込まれた構成とすることは、周知技術の単なる置換に過ぎないので、当業者にとって何ら困難性はない。
なお、熱電対はサーミスタに比べて十分に薄いことから、熱電対を位置決めするに当たって、サーミスタを位置決めする場合とは異なり、底部層に開口部をコストをかけてまでわざわざ設ける必要のないことは、技術常識からみて明らかである。
そして、引用文献1や上記周知技術を示す文献の記載内容等を勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

2 請求人の主張について
平成29年9月15日に提出された審判請求書において請求人は、「引用文献1に記載の装置には、既に全体的な厚さを低減するために温度センサを底部層202内の開口に位置決めすることが記載されていることから、他の手段を採用する、即ち、引用文献2の構成を組み合わせる動機が存在しておりません。」と主要する。
しかしながら、上記1で指摘したとおり、熱感知デバイス226としてサーミスタのほかに「熱電対(例えばT型の構成:銅/コンスタンタン)」を採用することが記載されており、サーミスタに替えて、当該サーミスタに比べて厚みの低減された熱電対を採用する動機付けは存在しているといえる。
よって、請求人の主張は採用しない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-11 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-10-29 
出願番号 特願2016-544366(P2016-544366)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 利充  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 関谷 一夫
芦原 康裕
発明の名称 交感神経アブレーション用の医療デバイス  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ