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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1349927
審判番号 不服2018-7758  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2014- 13196「波長変換光学装置、波長変換素子及びレーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 3日出願公開、特開2015-141274、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月28日の出願であって、平成29年7月28日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成30年2月27日付け(同年3月6日送達)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年6月6日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術(例えば、引用文献5を参照。)に基づいて、本願の請求項2及び3に係る発明は、引用文献2ないし4に記載された発明及び周知技術(例えば、引用文献5を参照。)に基づいて、本願の請求項4に係る発明は、引用文献1又は2に記載された発明及び周知技術(例えば、引用文献5を参照。)に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献等一覧
引用文献1:特開2008-185891号公報
引用文献2:特開2011-107551号公報
引用文献3:特開2002-250949号公報
引用文献4:特開2008-224708号公報
引用文献5:特開2007-298932号公報(周知技術を示す文献)


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(以下「本件補正」という。)は、以下のとおり、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正によって、請求項1ないし3の「円形ビーム」について「真円からなる」という事項を追加し、同「真円と比較して」との記載について「前記真円」とする補正(以下「補正事項」という。)が新規事項を追加するものではないか、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかについて検討する。
本願の当初明細書の段落0011ないし0021の記載及び図1及び2から、「円形ビーム」が真円からなること及び「同じ面積の真円」が変形前の「円形ビーム」を意味することは明らかであるから、上記補正事項は、当初明細書等に記載された事項であり、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
また、本件補正は、上記補正前の請求項1に係る発明の「円形ビーム」について「真円からなる」との事項を特定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、下記に示すように、補正後の請求項1ないし4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成30年6月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
基本波の真円からなる円形ビームを基本波の楕円ビームに変形するビーム変形素子と、
周期分極反転構造を形成し、前記ビーム変形素子で変形された基本波の楕円ビームを第2高調波の楕円ビームに変換する疑似位相整合素子と、
を備え、
前記疑似位相整合素子の出射端面でのビーム形状が楕円形であり、同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍であることを特徴とする波長変換光学装置。
【請求項2】
周期分極反転構造を形成し且つ基本波の真円からなる円形ビームを第2高調波の楕円形の基本モードに変換する導波路を有し、
出射端面での第2高調波の楕円形の基本モードについて、同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍であることを特徴とする波長変換素子。
【請求項3】
周期分極反転構造を形成し且つ基本波の真円からなる円形ビームを第2高調波の矩形の基本モードに変換する導波路を有し、
出射端面での第2高調波の矩形の基本モードについて、同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍であることを特徴とする波長変換素子。
【請求項4】
半導体レーザと、
請求項1の波長変換光学装置とを備え、
前記半導体レーザは、前記ビーム変形素子にレーザ光を前記基本波の円形ビームとして入射することを特徴とするレーザ装置。」


第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。以下同じ)。

(1)「【0001】
本発明は、波長変換レーザ光源に関し、詳細には、二次高調波発生素子によって波長変換を行う波長変換レーザ光源が安定した波長変換性能を有するレーザ光源及びレーザ波長変換方法に関する。」

(2)「【0004】
短波長化の技術としては、LD励起ファイバーレーザと擬似位相整合(QPM)方式の分極反転型デバイスを用いた第2高調波発生(SHG)がある。
・・・(略)・・・
【0006】
図8は、入射する基本波の出力と分極反転デバイスで波長変換される第二高調波の出力の関係を示している。26mmの分極反転デバイスの中心でφ50μmとなるような集光条件で調整している。基本波の出力を強くすると波長変換される第二高調波も強くなるが、エネルギー密度が300KW/cm2(基本波6W相当)を超えると、光損傷と呼ばれる局部的な屈折率変化が発生し、位相整合条件が乱されることや、ビーム形状が延伸して集光条件が乱されるなどの障害が生じ、基本波の出力が数W程度の弱い領域での波長変換効率における理論値から乖離し始める。基本波の出力が10W程度を境に得られる第二高調波の出力は飽和し、更に高出力な基本波を用いると分極反転デバイスの破損に至る。
・・・(略)・・・
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高出力な波長変換に対応し、かつビーム形状の乱れがなく安定した波長変換効率を有する波長変換レーザ光源を提供することを目的とする。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の波長変換レーザ光源は、波長変換を行なう波長変換レーザ光源において、レーザダイオード部と、前記レーダイオード部から出射されるレーザ光線を集光するコリメートレンズと、当該集光されたレーザ光線を入射してビーム形状を楕円形状に変形集光する第1のシリンドリカルレンズと、当該楕円形状の入射ビームを前記レーザ光線の基本波を第2高調波に変換する分極反転デバイスと、前記分極反転デバイスから出射するレーザ光線のビーム形状を円形にする第2のシリンドリカルレンズと、を備え、前記第1のシリンドリカルレンズは、レーザ光を前記分極反転デバイスの中央部で焦点化することを特徴としたものである。
【0012】
また、本発明のレーザ光波長変換方法は、波長変換を行なうレーザ光波長変換方法において、レーザ光線を第1のシリンドリカルレンズを介して分極反転デバイスに入射し、前記分極反転デバイスの中央部で楕円のビーム形状に集光し、前記分極反転デバイスのレーザ光線の出力のビーム形状を第2のシリンドリカルレンズを介して円形に再生し、前記レーザ光線の基本波を第2高調波に変換することを特徴としたものである。」

なお、上記の段落には、「シリドリンカルレンズ」及び「シリドリリンカルレンズ」との記載が複数箇所あり、これらは「シリンドリカルレンズ」の誤記と認められるため、「シリンドリカルレンズ」と修正し、下線を付けて摘記した。

(4)「【0022】
・・・(略)・・・シリンドリカルレンズの焦点距離が150mmであるから、その焦点位置でのビーム形状は、X方向のビーム幅24は入射したレーザ光の大きさのままの150μm、Y方向のビーム幅25は50μmである。レーザ光が分極反転デバイスを伝播した後に配置されたシリンドリカルレンズ11を通過することで再びY方向のビーム幅を分極反転デバイス16に入射時のビーム幅を拡大し、φ150μmのビーム形状のレーザ光になる。
・・・(略)・・・
【0025】
図4と図9を比較すると、本実施例のシリンドリカルレンズを使用の構成において、基本波の出力が10Wまでの範囲では、波長変換される第二高調波の出力は小さくなっていることがわかる。これはレーザ光の形状を150μm×50μmの扁平形状に制御することにより、分極反転デバイスを伝播するレーザ光のエネルギー密度の低下により、波長変換効率が減少したためである。しかしながら、基本波を高出力な15Wまで変化させても、分極反転デバイス1を伝播するレーザ光のエネルギー密度を300KW/cm^(2)以下であるため、光損傷によるビーム形状の劣化がなく、更に基本波の出力が数W程度の弱い領域で得られる波長変換効率から乖離し第二高調波の出力が飽和することなく、3W以上の高出力な第二高調波に波長変換することができる。」

(5)上記(2)の記載から、引用文献1には、分極反転デバイスの中心でφ50μmとなるような集光条件で調整した場合に、基本波の出力を強くすると光損傷と呼ばれる局部的な屈折率変化が発生し、位相整合条件が乱されることや、ビーム形状が延伸して集光条件が乱されるなどの障害が生じ、基本波の出力が10W程度を境に得られる第二高調波の出力は飽和し、更に高出力な基本波を用いると分極反転デバイスの破損に至ることを課題としていることが理解できる。

(6)上記(5)を踏まえ、(4)の記載を見ると、「レーザ光の形状を150μm×50μmの扁平形状」とすることで、上記(5)の場合に比べて、「分極反転デバイスを伝播するレーザ光のエネルギー密度の低下させている」ことが理解できる。

(7)引用文献1の図1からは、コリメートレンズ9を通過したレーザ光線は、シリンドリカルレンズ10を透過し、分極反転デバイス1に入射していることから、シリンドリカルレンズ10と分極反転デバイス1とで波長変換を行う光学装置を構成していることが把握できる。また、コリメートレンズ9で集光されたレーザ光線は真円からなる円形であること、分極反転デバイス1から出射するレーザ光線の形状は楕円形であることが把握できる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「コリメートレンズで集光された真円からなる円形のレーザ光線を楕円形状に変形集光する第1のシリンドリカルレンズと、当該楕円形状の入射ビームを前記レーザ光線の基本波を第2高調波に変換する分極反転デバイスと、前記分極反転デバイスから出射する楕円形状のレーザ光線のビーム形状を円形にする第2のシリンドリカルレンズと、を備え、前記第1のシリンドリカルレンズは、レーザ光を前記分極反転デバイスの中央部で焦点化させ、
レーザ光の形状を扁平形状とすることで、分極反転デバイスを伝播するレーザ光のエネルギー密度の低下させて、光損傷と呼ばれる局部的な屈折率変化が発生し、位相整合条件が乱されることや、高出力な基本波を用いると分極反転デバイスが破損することを防止する、
波長変換を行う光学装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源から射出された基本を2次高調波に変換し射出するレーザ光源ユニットに関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そして、このようなレーザ光源ユニットを構成する場合、図7に示すように、レーザ光源1、集光光学素子4、SHG素子2およびビーム形成素子5はそれぞれの光軸を一致させるように実装面11が一水平面を基準とした同一平面内あるいは平行平面である。
・・・(略)・・・
【0010】
しかしながら、レーザ光源1から射出される光束は実装面11と平行な偏波面12を有し、この偏波面12を有する光束は対物レンズ4aにより相似変形されSHG素子2に入射されるため、この入射光束の偏波面12の傾きが水平であるのに対して、光導波路3のC軸9の傾きがオフカット角の分だけ水平からズレてしまうこととなり、SHG素子2における最大変換効率が劣化し、結果的にレーザ光源ユニットの出力レベルを低下させてしまうといった課題を有していた。
【0011】
そこで、本発明はこのような課題を解決しレーザ光源ユニットの高出力化を目的とする。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、この目的を達成するために本発明は、レーザ光源と集光光学素子とSHG素子とビーム成形素子を備えたレーザ光源ユニットにおいて、SHG素子はオフカット角を有する単結晶からなる強誘電体基板に分極反転領域を設けた光導波路を有し、レーザ光源から射出される光束の偏波面の傾きと強誘電体基板におけるC軸の傾きを一致させるとともに、集光光学素子としてアナモフィックレンズを用いレーザ光源から射出された光束のアスペクト比を調節し光導波路内に集光させる構造としたのである。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「レーザ光源1から射出される光束は実装面11と平行な偏波面12を有し、この偏波面12を有する光束は対物レンズ4aにより相似変形されSHG素子2に入射される、オフカット角を有する単結晶からなる強誘電体基板に分極反転領域を設けた光導波路を有するSHG素子。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば擬似位相整合方式の第二高調波発生デバイスに適した光導波路素子およびその製造方法に関するものである。」

(2)「【0006】本発明の課題は、光導波路型デバイスにおいて、光導波路からの出射光の出力を増加させたときにも、出力の変動を少なくし、安定した発振を可能とすることである。」

(3)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、バルク状の非線形光学結晶からなる三次元光導波路と、この光導波路に対して接合されている基板と、光導波路と基板とを接合している非晶質材料からなる接合層とを備えていることを特徴とする、光導波路素子に係るものである。」

(4)「【0015】図1に示す光導波路素子1Aにおいては、基板2の表面2a上に、接合層3を介して、光導波路4が接合されている。光導波路4はリッジ型のものであり、光導波路4の横断面方向の両側にはそれぞれ平板形状の延設部15が延設されている。本例では、更に各延設部15の各末端(溝7の外側)に、肉厚部分8が形成されている。各延設部15の上方は、リッジ型光導波路を成形するための空間ないし溝7が形成されている。5は、周期分極反転構造である。本例では、光導波路の上部に、非分極反転部分6が残留しているが、これはなくしてもよい。・・・(略)・・・」

(5)「【0080】(シングルモード条件の成立)導波路型の光波長変換素子において、高効率の波長変換を行うには、光導波路のシングルモード伝搬の条件成立が不可欠である。・・・(略)・・・
【0081】・・・(略)・・・屈折率差が大きくなるとシングルモード条件はさらに厳しくなる。この結果は、上記の閉じ込めの強い光導波路を実現するための接合層との屈折率(5%以上)を実現するには、導波路層の厚みを1μm以下に制御しなければならないことを示している。ところが、導波路の厚みを薄くすると導波モードのアスペクト比が増大し、出射光のモードプロファルのアスペクト比がこれに比例するため、光のレンズ系で集光する場合に出射光のビーム整形等が必要になる。さらに、導波路に光を結合させる場合にも通常の半導体レーザや固体レーザのビームプロファイルと大きく異なるため、結合効率の低下の原因になる。さらに導波路の厚み変動に対する実効屈折率の変化が大きくなるため導波路の不均一性が増大する。・・・(略)・・・」

したがって、上記引用文献3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「バルク状の非線形光学結晶からなる三次元光導波路と、この光導波路に対して接合されている基板と、前記光導波路と前記基板とを接合している非晶質材料からなる接合層とを備え、前記光導波路内に周期分極反転構造が形成された、高調波発生用素子として機能する光導波路素子。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子に関するものである。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、周期分極反転構造を形成した領域にリッジ型光導波路を形成し、基本波を入射させた場合、素子外の光ファイバーなどへの結合効率が低くなる場合があり、また光の伝搬損失が増大する傾向が見られた。これによって、高調波出力が低くなることが判明してきた。これは、周期分極反転構造をスラブ導波路として使用した場合には見られなかった現象であり、予測を超えたものであった。
【0006】
本発明の課題は、周期分極反転構造の形成されたリッジ型光導波路を有する波長変換素子を形成するのに際して、高調波の発生効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、周期分極反転構造の形成されたリッジ型光導波路を有する波長変換素子であって、リッジ型光導波路の側壁面と上面との間のエッジ部にR面が形成されていることを特徴とする。」

(3)「【0011】
図1の素子1では、光導波路基板5の背面5a側にバッファ層4が形成されている。支持基板2の表面2aに対して、光導波路基板5のバッファ層4が接着層3によって接合されている。光導波路基板5の表面は加工されており、リッジ型光導波路8、リッジ型光導波路8の両側にある溝7および各溝の外側に形成された延在部6を備えている。9は肉薄部であり、10はリッジ型光導波路8のうちの底部である。リッジ型光導波路8の上面8bと側壁面8cとの境界にはエッジ部8aが設けられている。リッジ型光導波路8内には周期分極反転構造30が設けられている。」

(4)「【0012】
図2の素子11では、・・・(略)・・・。リッジ型光導波路18の上面18bと側面18cとの境界にはエッジ部18aが設けられている。
・・・(略)・・・
【0014】
このリッジ型光導波路18内を伝搬する光ビーム10は、大きく歪む傾向があることがわかった。非対称に歪んだ伝播モードが結合効率劣化や伝搬損失増大の原因になる。
【0015】
これに対して、本発明では、図1(b)に示すように、リッジ型光導波路8のエッジ部8aにR面を形成する。この結果、図3(b)に示すように、伝播モード22の形状が、対称性の高い形状に改善されていることを見いだした。そして、この結果として、R面形成前に比べて高調波出力が顕著に向上することを確認した。」

したがって、上記引用文献4には次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「リッジ型光導波路の側壁面と上面との間のエッジ部にR面が形成されている、周期分極反転構造の形成されたリッジ型光導波路を有する波長変換素子であって、リッジ型光導波路内を伝搬する光ビームの伝播モードの形状が、対称性の高い形状に改善されている波長変換素子。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、主に紫外レーザーを発生させることを目的として、非線形光学結晶からなる波長変換素子でレーザービームを波長変換するための波長変換方法に関するものである。」

(2)「【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、四ホウ酸リチウム単結晶からなる波長変換素子でレーザービームを波長変換するに際して、位相整合の角度調整に敏感なX軸方向にビームサイズを拡大するとともに、位相整合の角度調整に鈍感なY軸方向にビームサイズを縮小することにより、入力パワー密度を保ちながら、同時に角度許容幅による制限が厳しいX軸方向のビーム広がりが改善されるため、レーザービームの断面が円形である場合と比べて、波長変換効率を増加させることができる。その結果、波長変換素子に入射させるレーザービームの出力を低く抑えることが可能となるので、波長変換装置の経済性を高めるとともに、レーザービームによる四ホウ酸リチウム単結晶の損傷を回避することができる。」

(3)「【0030】
このレーザービームの断面を横長楕円形にしたことによる効果を確認するため、繰返し数が10kHz、出力が20WであるNd:YLFレーザーの2倍波(波長523nmのグリーンレーザー)を用いて、四ホウ酸リチウム単結晶からなる波長変換素子2による波長変換を行った。
【0031】
ここで、レーザービームの断面として6種類の横長楕円形(1)?(6)および3種類の円形(1)?(3)を採用した。・・・(略)・・・
【0032】
その結果を図2にグラフで示す。このグラフにおいて、横軸は入力グリーンレーザーのピークパワー密度を表し、縦軸は波長変換効率を表す。図2のグラフから明らかなように、少なくとも入力パワー密度が概ね25?50MW/cm^(2)の範囲内においては、入力パワー密度の大小を問わず、レーザービームの断面が円形である場合と比べてレーザービームの断面が横長楕円形である場合は波長変換効率が約2倍に向上することが実験的に明らかとなった。・・・(略)・・・
【0034】
その結果を図3にグラフで示す。このグラフにおいて、横軸は入力グリーンレーザーのピークパワー密度を表し、縦軸は波長変換効率を表す。図3のグラフから明らかなように、入力パワー密度が160MW/cm^(2)以下である場合、レーザービームの断面が楕円形であるときの方が、レーザービームの断面が円形であるときより波長変換効率が向上した。ただ、レーザービームの断面が楕円形であるとき、入力パワー密度が100MW/cm^(2)を超えると、レーザービームが発熱の影響を強く受けて不安定になるため、却って波長変換効率が低下し始める。したがって、入力パワー密度をさらに100MW/cm^(2)以下に制限すれば、レーザービームの断面が楕円形であるときの波長変換効率を安定して高めることが可能となる。」

(5)「【0035】
また、入力パワーとビームの断面積が一定、つまり入力パワー密度が一定(具体的には、100MW/cm^(2))となる条件下で、レーザービーム断面の楕円率を0.088?11.1の範囲内で変化させたときに波長変換効率がどのように変化するかを調べた。その結果を図4にグラフで示す。このグラフにおいて、横軸はレーザービーム断面の楕円率を表し、縦軸は波長変換効率を表す。図4のグラフから明らかなように、レーザービーム断面が真円に近いとき(つまり、楕円率が1前後であるとき)には、波長変換効率が5%程度であるのに対し、レーザービーム断面の楕円率が1より大きくなれば波長変換効率が向上する傾向がみられ、レーザービーム断面の楕円率が3以上になると、波長変換効率がほぼ一定の値に安定して約6.5?7.0%(すなわち、レーザービーム断面が真円に近いときの約1.3?1.4倍)を維持することが判明した。」


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1の「第1のシリンドリカルレンズ」は、「コリメートレンズで集光された真円からなる円形のレーザ光線を楕円形状に変形集光する」ものであるので、本願発明1の「ビーム変形素子」と「基本波の真円からなる円形ビームを基本波の楕円ビームに変形するビーム変形素子」である点で一致する。

イ 引用発明1の「分極反転デバイス」は、「当該楕円形状の入射ビームを前記レーザ光線の基本波を第2高調波に変換する」ものであって、分極反転デバイスから出射するレーザ光線のビーム形状は楕円形状であるから、本願発明1の「疑似位相整合素子」と「ビーム変形素子で変形された基本波の楕円ビームを第2高調波の楕円ビームに変換する」点で一致する。

ウ 引用発明1において、分極反転デバイスから出射する楕円形状のレーザ光線は、第2のシリンドリカルレンズで円形にされるものであるから、引用発明1は、本願発明1の「前記疑似位相整合素子の出射端面でのビーム形状が楕円形であり」との事項を備える。

したがって、本願発明1と引用発明1の間には、次の一致点、相違点がある。
・一致点
「基本波の真円からなる円形ビームを基本波の楕円ビームに変形するビーム変形素子と、
周期分極反転構造を形成し、前記ビーム変形素子で変形された基本波の楕円ビームを第2高調波の楕円ビームに変換する疑似位相整合素子と、
を備え、
前記疑似位相整合素子の出射端面でのビーム形状が楕円形である波長変換光学装置。」

・相違点
前記疑似位相整合素子の出射端面でのビーム形状が、本願発明1では、「同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍である」のに対し、引用発明1では、円形のレーザ光線と、第1のシリンドリカルレンズで楕円形状に変形集光されたレーザ光線とは同じ面積ではなく、「同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍である」との発明特定事項を備えていない点。

(2)相違点についての判断
ア 引用文献5の記載(上記第5の5を参照。)から、引用文献5には、以下の技術(以下「引用文献5技術」という。)が記載されているものと認められる。

「四ホウ酸リチウム単結晶からなる波長変換素子においてレーザービームを波長変換するに際して、位相整合の角度調整に敏感なX軸方向にビームサイズを拡大するとともに、位相整合の角度調整に鈍感なY軸方向にビームサイズを縮小するようにし、
入力パワーとビームの断面積が一定、つまり入力パワー密度が一定となる条件下で、レーザービーム断面が真円に近いときには、波長変換効率が5%程度であるのに対し、レーザービーム断面の楕円率が3以上になると、波長変換効率がほぼ一定の値に安定して約6.5?7.0%を維持すること。」

イ 一方、引用発明1は、「レーザ光のエネルギー密度の低下させ」るものであって、それにより、「光損傷と呼ばれる局部的な屈折率変化が発生し、位相整合条件が乱されることや、高出力な基本波を用いると分極反転デバイスが破損することを防止する」ものである。

ウ これに対し、引用文献5技術においては、レーザービームを楕円とすることは、「四ホウ酸リチウム単結晶からなる波長変換素子において、そのX軸方向がY軸方向に比べて位相整合の角度調整に敏感であること」を踏まえて波長変換効率を高くするために、「X軸方向にビームサイズを拡大する」とともに「Y軸方向にビームサイズを縮小する」ものであるから、「入力パワーとビームの断面積」つまり「入力パワー密度」をできる限り一定にしようとするものであることは明らかである。

エ そうすると、波長変換素子に入射するレーザ光線のエネルギー密度について、引用発明1では「低下させる」ものであるのに対し、引用文献5技術では「できるだけ一定」とするものであって、円形ビームを楕円ビームに変形することの技術上の意義は相反するものである。

オ さらに、引用文献5の段落0034には、「レーザービームの断面が楕円形であるとき、入力パワー密度が100MW/cm^(2)を超えると、レーザービームが発熱の影響を強く受けて不安定になるため、却って波長変換効率が低下し始める。」との記載があり、発熱の影響を考慮した場合に、楕円形よりも円形の方が望ましいと考えられる記載もある。

カ したがって、当業者であっても、引用発明1に引用文献5技術を適用することは容易なことではない。

キ また、上記相違点に係る事項は、引用発明2ないし4のいずれにも特定されていない。
したがって、引用発明1に引用発明2ないし4を適用して、本願発明1となすことはできない。

ク そして、本願発明1は、上記相違点にかかる発明特定事項により、「放熱が容易となるため、波長変換素子の温度上昇が発生しにくくなり、波長変換素子の効率低下や破壊を防止することができる」という作用効果を奏するものであって、当該作用効果は、引用文献1ないし5に記載された事項を総合して検討しても、当業者が容易に予測し得るものでもない。

以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者が、引用発明1ないし4及び引用文献5技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2及び3について
(1)対比
本願発明2及び3と引用発明2ないし4とを対比すると、すくなくとも、出射端面での第2高調波の楕円形の基本モードについて、本願発明2及び3が「同じ面積の前記真円と比較してビーム断面積/周長≦0.56倍である」のに対し、引用発明2ないし4はそのようなものではない点で相違する。

(2)判断
上記相違点は、上記1(1)の相違点と同じであるから、上記1(2)で判断したことと同様に、本願発明2及び3は、当業者が、引用発明2ないし4及び引用文献5技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明4について
(1)引用文献1記載の発明
引用文献1には、上記第5の1(3)に摘記したように、引用発明1の光学装置と、レーザダイオード部と、前記レーダイオード部から出射されるレーザ光線を集光するコリメートレンズとを備えた波長変換レーザ光源の発明(以下「引用文献1レーザ光源発明」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明4と上記引用文献1レーザ光源発明とを対比すると、上記1(1)の一致点及び相違点に加え、本願の請求項4で特定される事項についても一致する。

(3)判断
したがって、上記1(2)で判断したことと同様に、本願発明4は、当業者が、引用文献1レーザ光源発明、引用発明2ないし4及び引用文献5技術に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし4は、当業者が、引用文献1ないし4に記載された発明及び引用文献5に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2014-13196(P2014-13196)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 宙子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
小松 徹三
発明の名称 波長変換光学装置、波長変換素子及びレーザ装置  
代理人 阿久津 好二  
代理人 喜多 俊文  
代理人 妹尾 明展  
代理人 江口 裕之  
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