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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01L
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 G01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01L
管理番号 1349943
審判番号 不服2018-5921  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-27 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2017-193045「故障検出装置、電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年10月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年10月25日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月11日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 1月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。送達日:
同年2月6日)
平成30年 4月27日 :審判請求書の提出
平成31年 1月24日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」とい
う。発送日:同年同月29日)
平成31年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1、3-15に係る発明は、下記の引用文献1-3に記載された発明に基いて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-046094号公報
引用文献2:国際公開第2015/071974号
引用文献3:特開2010-138666号公報

なお、請求項2および16は、原査定の対象ではない。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.請求項8が、請求項1を引用する請求項6または7を引用する場合に、請求項8に係る発明において「前記連続トルクに起因する振動の周波数を5Hz?7kHzとする」という事項により何を特定しようとしているのか、明確でない。“請求項1を引用する請求項6または7を引用する請求項8”を引用する請求項11?13においても同様のことがいえる。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.本願の下記の請求項に係る発明は、本願の出願日前の特願2017-104589号(特許第6228341号公報)(以下「先願」という。)に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。
(1)本願の請求項1に係る発明は、先願の、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項8を引用する請求項12に係る発明(以下「請求項12-8-4-3-1発明」のように表記する。)と同一である。
(2)本願の請求項11-1発明は、先願1の請求項12-10-8-4-3-1発明と同一である。
(3)本願の請求項12-1発明は、先願1の請求項12-11-8-4-3-1発明と同一である。
(4)本願の請求項13-1発明は、先願1の請求項12-8-4-3-2-1発明と同一である。
(5)本願の請求項14-1発明は、先願1の請求項12-8-4-3-1発明と同一である。

第4 本願発明
本願の請求項1-14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明14」という。)は、平成31年2月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、13、14は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
回転軸に印加されたトルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
モータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力させ、
前記故障検出部は、前記モータが前記連続トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断し、前記振動の1周期内で、前記他方のトルクセンサの出力値が、トルクがゼロである場合の出力値を跨らない場合に故障していると判断する
故障検出装置。」

「【請求項13】
操舵トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部と、
前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
モータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力させ、前記連続トルクにて車両のステアリングホイールに振動を与えることで前記トルク検出部の故障を報知し、前記連続トルクにて前記ステアリングホイールに与える振動の周波数を5Hz以上600Hz以下とし、
前記故障検出部は、前記モータが前記連続トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断し、前記振動の振幅が基準振幅未満である場合に前記他方のトルクセンサが故障していると判断する
電動パワーステアリング装置。」

「【請求項14】
操舵トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部と、
前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
モータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力させ、
前記故障検出部は、前記モータが前記連続トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断し、前記振動の1周期内で、前記他方のトルクセンサの出力値が、トルクがゼロである場合の出力値を跨らない場合に故障していると判断する
電動パワーステアリング装置。」

なお、本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由において引用された特開2012-046094号公報(引用文献1)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同様。)
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなセンサ信号の多重化による利益を享受するためには、当然ながら、少なくとも二つのセンサ信号が必要である。また、特に、磁気式のセンサ素子は、その温度特性にバラツキがあることから、高精度のトルク検出には、複数のセンサ信号を用いた補正処理が不可欠である。このため、従来、残るセンサ信号が一つになった後のアシスト継続制御は、速やかにそのアシスト力付与を停止すべく、その残りのセンサ信号を用いてアシスト力を漸次低減するに留まっていたのが実情であり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、一のセンサ信号に基づく操舵トルクの検出時において、より安定的にアシスト力付与を継続することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。」

「【0029】
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0030】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0031】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、モータ12には、ブラシ付きの直流モータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0032】
一方、ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15、及び舵角検出手段としてのステアリングセンサ(操舵角センサ)16が接続されている。そして、ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V及び操舵角θsを検出する。
【0033】
本実施形態のトルクセンサ14は、そのセンサ素子(14a、14b)に磁気検出素子(ホールIC)を用いた磁気式のトルクセンサである。本実施形態では、コラムシャフト3aの途中、詳しくは、上記EPSアクチュエータ10を構成する減速機構13よりもステアリング2側にトーションバー17が設けられている。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、このトーションバー17の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成されている。
【0034】
尚、このようなトルクセンサは、例えば、上記特許文献1に記載のように、トーションバー17の捩れに基づき磁束変化が生ずるセンサコア(図示略)の外周に、二つの磁気検出素子(本実施形態ではホールIC)を上記各センサ素子14a、14bとして配置することにより形成することが可能である。
【0035】
即ち、回転軸であるステアリングシャフト3のトルク入力によりトーションバー17が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化する。そして、本実施形態のトルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっている。」

【図1】

図1より、電動パワーステアリング装置(EPS)1が、トルクセンサ14とECU11を備えていることが見て取れる。

「【0038】
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路22とを備えている。
【0039】
詳述すると、本実施形態のマイコン21は、EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24と、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbに基づいて操舵トルクτを検出する操舵トルク検出部25と、を備えている。・・・」

【図2】

図2より、異常検出信号Strは異常検出部30から出力されているのが見て取れる。

「【0043】
(トルクセンサ異常時のアシスト継続制御)
次に、本実施形態のEPSにおけるトルクセンサ異常時のアシスト継続制御について説明する。
図2に示すように、電流指令値演算部23は、基本アシスト制御量Ias*及び操舵角θsから車両の操舵状態を示すFLG信号(本実施形態では、0、1、2のいずれか)を生成するアシスト制御量判定部28と、アシスト制御部28から入力されるFLG信号に基づき瞬発的なモータトルクの基礎成分としての試験トルク制御量Itt*を出力する試験トルク制御部31と、アシスト電流切替部29と、車両が直進状態に移行してからの経過時間Thを計測するタイマ34と、を備える。
【0044】
試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*を出力する毎に、試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクが印加される旨を示す印加信号Simを異常検出部30に出力する。また、試験トルク制御部31は、アシスト制御量判定部28から入力されるFLG信号に基づいて、アシスト電流切替部29にアシスト電流切替信号Sichを出力すると共に、瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*を加算器33に出力する。尚、試験トルク制御部31が出力する試験トルク制御量Itt*は、当該試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクの印加時、その慣性によりステアリング2がほとんど動かない程度に、一回当たりの出力時間(本実施形態では、1ms)が設定されている。」

「【0046】
また、図2に示すように、マイコン21には、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30が設けられている。ECU11(マイコン21)は、異常検出部30の異常検出に基づいてトルクセンサ14の異常を判定する。そして、制御手段及び異常検出手段としてのECU11は、異常検出部30によって検出されるトルクセンサ14の異常発生モードに応じて、そのパワーアシスト制御を実行する。」

「【0050】
図2に示すように、異常検出部30が実行する各センサ信号Sa,Sbの異常検出、及びその対応する各センサ素子14a,14bの故障検出の結果は、異常検出信号Strとして電流指令値演算部23及び操舵トルク検出部25に入力される。また、アシスト継続制御中を示すフラグASFLGも異常検出部30からモータ制御信号出力部24に入力される。そして、電流指令値演算部23は、各センサ信号Sa,Sbに対応する各センサ素子14a,14bの両方がともに故障した旨を示す異常検出信号Strが入力された場合には、その電流指令値I*の出力を停止する。
【0051】
また、異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合、操舵トルク検出部25は、故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号を用いることにより、その操舵トルクτを検出する。本実施形態のEPS1は、残存センサ信号から検出される操舵トルクτを用いて、電流指令値I*の演算及び出力を続行し、アシスト継続制御を行う。尚、この場合、上記のような二つのセンサ信号Sa,Sbを用いた補完処理は実行されない。」

「【0054】
ここで、各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障した場合、残存センサ信号については、当然ながら上記のような他のセンサ信号との比較に基づく異常判定(検出)を行うことができない。そこで、本実施形態のECU11は、アシスト継続制御において、EPS本来の機能であるアシスト力の付与に関連して、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加し、残存センサ信号の異常を検出する。具体的には、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加されると、瞬発的なモータトルクに起因する捩れが操舵系を構成するトーションバー16生じる。本実施形態のECU11は、この瞬発的なモータトルクに起因する捩れが、残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常検出を行う。
【0055】
即ち、本実施形態のEPS1は、その残存センサ信号の変化を監視することにより、当該残存センサ信号が明らかに異常な値を示す以前の段階で、早期に、その異常を検出することが可能となっている。例えば、図16に示すように、本実施形態のEPS1は、瞬発的なモータトルクを印加するための制御成分として試験トルク制御量Itt*を時点t(l)から所定時間tr(本実施形態では、1ms)出力し、操舵系に瞬発的なモータトルクを印加する。操舵系に瞬発的なモータトルクが印加されると、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(本実施形態では、10ms)後に、瞬発的なモータトルクに起因する捩れがトーションバーに生じる。EPS1は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける操舵トルクτの変化量Δτを測定し、この変化量Δτが所定値(本実施形態では、0.5Nm)以下であることを条件として、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常であると判定する。
【0056】
本実施形態において、操舵系に対する瞬発的なモータトルクの印加は、車両の操舵状態に応じて大きさ且つその印加方向が変化する。・・・
【0057】
図7?図9は、車両のある操舵状態を仮想した場合における基本アシスト制御量及び操舵角の出力図である。図7?図9の左縦軸は、基本アシスト制御量Ias*を表し、右縦軸は、操舵角θsを表し、横軸は時間軸を表す。ここで図7?図9の左縦軸には、+側試験トルク制御量である第1所定電流値Ia1及び-側試験トルク制御量である第2所定電流値-Ia1が設定されている。第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1は、瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値であり、車両の系や環境に応じて適宜設定される。また、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1は、トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付くと共に、瞬発的なモータトルクの慣性によってステアリング2がほとんど動かない程度の大きさ(本実施形態では、60A)に設定されている。」

「【0076】
次に、試験トルク制御部31の機能を説明する。図12?14に示すように、試験トルク制御部31は、アシスト制御量判定部28から受取ったFLG信号に基づいて、時間軸上の時点t1?t13のタイミングで試験トルク制御量Itt*(瞬発的なモータトルクの印加)を出力する。尚、試験トルク制御量Itt*が出力される各時点t1、t2、t3・・・の各間隔は、試験トルク制御量Itt*が出力される試験トルク制御量出力時間trよりも長くなるように設定される。」

「【0088】
次に、図15及び図16を用いてトルクセンサ14の異常判定方法について具体的に説明する。
図15は、図7の操舵状態にある車両に対して、図10及び図11で示したアルゴリズムを適用した場合における電流指令値I*及び操舵トルクτを示すグラフである。また、図16は、図15の一部を拡大したグラフである。図15および図16において、左縦軸は、基本アシスト制御量Ias*に試験トルク制御量Itt*を重畳させた電流指令値I*を表す。また、右縦軸は、トルクセンサ14が検出する操舵トルクτを表し、横軸は時間軸を表す。
【0089】
図15および図16には、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加された場合に、トルクセンサによって検出される操舵トルクτが変動する様子が示されている。図16における車両の操舵状態は、ハンドルを右に操舵した場合の切込み状態(例えば、図7のゾーンA)を表しており、基本アシスト制御量Ias*が増加している時点t(l)で、試験トルク制御量Itt*が所定時間tr(本実施形態では、例えば1ms)出力されている。
【0090】
これにより操舵系には、瞬発的なモータトルクが印加され、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(本実施形態では、例えば10ms)後に、トーションバーには瞬発的なモータトルクに起因する捩れが生じる。異常検出部30は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(本実施形態では、例えば0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定する。
【0091】
また、図2に示すように、本実施形態の試験トルク制御部31は、試験トルク制御量Itt*を出力する毎に、試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクが印加される旨を示す印加信号Simを異常検出部30に対して出力する。本実施形態の異常検出部30は、この印加信号Simに基づいて、そのアシスト継続制御時における残存センサ信号の異常検出を実行する。
【0092】
・・・尚、図16に示すように、本実施形態では、上記残存センサ信号に瞬発的なモータトルクの印加が反映されるか否かの判定は、当該瞬発的なモータトルクの印加に対応した適当なタイミング(所定時間trr内)で同残存センサ信号が変化するか否か、及びその変化の方向及び大きさが適当な値であるか否かに基づき行われる。
【0093】
そして、異常検出部30は、その残存センサ信号に瞬発的なモータトルクの印加が反映される場合(ステップ204:YES)、当該残存センサ信号は正常であると判定し(ステップ205)、反映されない場合(ステップ204:NO)、当該残存センサ信号は異常であると判定する(ステップ206)。・・・」

【図15】

【図16】

「【0106】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)ECU11は、トルクセンサ14を構成する各センサ素子14a,14bの何れか一方の故障が検出された場合、その故障が検出されていない方のセンサ素子が出力するセンサ信号(残存センサ信号)を用いて操舵トルクτを検出することにより、そのパワーアシスト制御を継続する(アシスト継続制御)。また、ECU11は、アシスト継続制御の実行時には、そのアシスト力と同一方向に、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加すべくEPSアクチュエータ10の作動を制御する。そして、この瞬発的なモータトルクの印加が、そのアシスト継続制御の基礎となる残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常を検出する。
【0107】
上記構成によれば、その瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせることで、その残存センサ信号が変化するタイミング及び変化方向を当然に予想し得る状況を作り出すことができる。そして、このような状況下において、その残存センサ信号の変化を監視することにより、当該残存センサ信号が明らかに異常な値を示す以前の段階で、早期に、その異常を検出することができる。その結果、残存センサ信号を用いたアシスト制御の実行時においても、より安定的に、そのアシスト付与を継続することができるようになる。」

「【0109】
(3)ECU11は、残存センサ信号に対応するセンサ素子について故障判定を実行する間は、瞬発的なモータトルクを印加する周期を短くする。即ち、迅速且つ高精度に故障判定を行う観点からは、上記瞬発的なモータトルクの印加周期は、より短い方が好ましい。しかしながら、こうした印加周期の短縮化は、その操舵フィーリングを悪化させる方向に作用する。この点、上記構成によれば、アシスト継続制御の実行時における良好な操舵フィーリングを確保しつつ、迅速且つ高精度に、その残存センサ信号に対応するセンサ素子の故障判定を行うことができる。その結果、より安定的に、そのアシスト力付与を継続することができるようになる。」

(2)したがって、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「トルクセンサ14とECU11を備えた電動パワーステアリング装置(EPS)1(【0029】、【0030】、図1より。以下同様。)において、
ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動がナックルに伝達されることにより、車両の進行方向が変更され(【0029】)、
ECU11には、トルクセンサ14が接続され、ECU11は、センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτを検出し(【0032】)、
トルクセンサ14は、トーションバー17の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成され(【0033】)、
回転軸であるステアリングシャフト3のトルク入力によりトーションバー17が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化し、トルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となっており(【0035】)、
ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ10の駆動源であるモータ12に駆動電力を供給する駆動回路22とを備え(【0038】)、
マイコン21は、EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24と、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbに基づいて操舵トルクτを検出する操舵トルク検出部25と、を備え(【0039】)、
電流指令値演算部23は、瞬発的なモータトルクの基礎成分としての試験トルク制御量Itt*を出力する試験トルク制御部31を備え(【0043】)、
マイコン21には、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30が設けられ、ECU11(マイコン21)は、異常検出部30の異常検出に基づいてトルクセンサ14の異常を判定し(【0046】)、
異常検出部30が実行する各センサ信号Sa,Sbの異常検出、及びその対応する各センサ素子14a,14bの故障検出の結果は、異常検出信号Strとして電流指令値演算部23及び操舵トルク検出部25に入力され(【0050】)、異常検出信号Strは異常検出部30から出力され(図2)、
異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合、操舵トルク検出部25は、故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号を用いることにより、その操舵トルクτを検出し、EPS1は、残存センサ信号から検出される操舵トルクτを用いて、電流指令値I*の演算及び出力を続行し、アシスト継続制御を行い(【0051】)、
ECU11は、アシスト継続制御において、EPS本来の機能であるアシスト力の付与に関連して、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加し、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加されると、瞬発的なモータトルクに起因する捩れが操舵系を構成するトーションバー16生じ、この瞬発的なモータトルクに起因する捩れが、残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常検出を行い(【0054】)、
例えば、EPS1は、瞬発的なモータトルクを印加するための制御成分として試験トルク制御量Itt*を時点t(l)から所定時間tr(1ms)出力し、操舵系に瞬発的なモータトルクを印加し、操舵系に瞬発的なモータトルクが印加されると(【0055】)、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(10ms)後に、トーションバーには瞬発的なモータトルクに起因する捩れが生じ、異常検出部30は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定し(【0090】)、
試験トルク制御部31が出力する試験トルク制御量Itt*は、当該試験トルク制御量Itt*に基づく瞬発的なモータトルクの印加時、その慣性によりステアリング2がほとんど動かない程度に、一回当たりの出力時間(1ms)が設定され(【0044】)、
瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値である、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1は、トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付くと共に、瞬発的なモータトルクの慣性によってステアリング2がほとんど動かない程度の大きさ(60A)に設定され(【0057】)、
試験トルク制御量Itt*が出力される各時点t1、t2、t3・・・の各間隔は、試験トルク制御量Itt*が出力される試験トルク制御量出力時間trよりも長くなるように設定され(【0076】)、
瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせることで、その残存センサ信号が変化するタイミング及び変化方向を当然に予想し得る状況を作り出すことができる(【0107】)、
電動パワーステアリング装置(EPS)1(【0029】)。」

2.引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2015/071974号(引用文献2)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0003】
また下記特許文献2には、同様に電動パワーステアリング装置において、異常検知のための瞬発的なモータトルクを印加し、その瞬発的なモータトルクの印加がトルクセンサのセンサ信号に反映されない場合に、トルクセンサのセンサ信号の異常を検知するものが開示されている。
【0004】
また、その他の一般的で基本的な装置の例として、各センサをそれぞれ2系統備えて、それらの相互比較によって、各センサの異常を検知するものがある。例えば、トルク検出部を2系統備えて、それらの相互比較によりいずれかの系統のトルク検出部に生じる異常を検知するものである。回転状態検出部についても2系統備えるものもある。」

「【0007】
また、上記特許文献2のような装置においては、異常検知のための瞬発的なモータトルクがトルクセンサのセンサ信号に反映されるか否かで異常を検知するものである。例えば、負荷状態などに応じて摩擦の大きさが変化すると、瞬発的なモータトルクが摩擦で減衰し、実際のトルクとして応答しない場合がある。そのときは、トルクセンサが正常であっても瞬発的なモータトルクの応答はセンサ信号には現れないことになる。そのため、トルクセンサ信号は、本来は正常であるのにも係わらず、異常であると誤って検知する誤検知に対する余裕が小さくなる恐れがあるという課題があった。
【0008】
また、上述の一般的な例として挙げた方式、すなわち、各センサをそれぞれ2系統備えるものは、センサのコストが2倍になるため、装置のコストが高くなるという課題があった。」

「【0020】
回転機1の回転軸ARには、回転状態検出部3とトルク検出部4が接続されている。回転状態検出部3は、回転機1の回転軸ARの回転位置θmを回転状態として検出する。トルク検出部4は、回転機1で発生し負荷8に伝達されたトルク、すなわち出力トルクTsを検出する。
【0021】
基本指令とは、回転機1の利用用途に応じた基本的な回転動作に対応した指令である。給電指令発生部を構成する加算部6は、異常の検知のために用いる加振指令を基本指令に加算し給電指令を演算する。この加振指令は、回転状態検出部3およびトルク検出部4に生じる異常を検知することを目的に、加振指令発生部5において生成されるものである。加振指令は、この実施の形態では、
【0022】
Ae・sin(ωe・t+Φe)
Ae:加振振幅、
ωe:加振周波数
Φe:加振位相
【0023】
で表せるような正弦波を用いる。加振指令が重畳された給電指令により、回転機1に振動的な電力が給電され、その応答として振動的な出力トルクが出力され、また、回転位置θmが振動する。この発明は、この加振指令に対する回転位置θmおよび出力トルクTsの応答を相互に参照し、その整合性を判定することで、回転状態検出部3とトルク検出部4のいずれかに生じた異常を検出するものである。」

「【0030】
図2に戻り、比較判定部703は、加振応答演算器702から出力された加振応答振幅に基づいて、換算回転位置θtの加振応答振幅、出力トルクTsの加振応答振幅を比較し、その差が、通常の誤差範囲で決められた所定値を超えるか否かを判定する。そして差が、所定値を超える期間が所定時間以上経過(継続)したときに、回転状態検出部3または、トルク検出部4に異常が生じたものと判定する。
【0031】
図5にこの発明の実施の形態1による加振応答振幅の時間応答波形の一例を示す。この発明による制御装置を用いて異常を検知した場合の波形の時間的変化は図5のようになる。図5において、横軸が経過時間、縦軸が加振応答振幅を示す。薄い線Aが換算回転位置θtの加振応答振幅を示し、濃い線Bが出力トルクTsの加振応答振幅を示す。7秒付近で故障が発生するまでは、2つの加振応答振幅はほとんど同等の値を示しているが、時刻7秒付近でトルク検出部4が故障して以降は、出力トルクTsの加振応答振幅のみが小さな値を示し、2つの加振応答振幅の差異が拡大していることが分かる。この差を比較判定部703が判定し、所定時間以上カウントすることで、異常を確定できる。
【0032】
ここで、時刻5秒付近に注目されたい。この付近では、2つの加振応答振幅がともに、非常に小さな値を示している。すなわち、加振指令に対して、出力トルクTsおよび回転状態θmがほとんど応答していないことを示している。これは、負荷8の状態が変化したことにより、回転軸ARにかかる摩擦が大きくなり、その結果、加振指令により発生させた回転機1のトルクが、トルク検出部4で検出される出力トルクに伝達するまでに減衰し、また同様に、回転状態検出部3で検出される回転状態に伝達するまでに減衰したため加振応答振幅が小さくなったものである。このように、加振指令が出力トルクおよび回転状態に伝達されるまでの応答は、通常時の生じる負荷状態や摩擦など異常でない変動に応じて変化するものである。したがってこの発明のように、加振指令が出力トルクおよび回転状態に伝達するまでの応答を、相互に参照して異常を検知することで、正常な状態を誤検知することなく、正確に異常を検知できる。
【0033】
一方、特許文献2の装置のように、1つのセンサ応答のみで異常を検知しようとすると、上述のような摩擦が大きい状態のような場合に、加振指令の役割をする瞬発的なトルクがセンサ信号に伝達するまでの応答が減衰して、加振応答振幅が非常に小さな値になり、これを異常であると誤って判定する恐れがあった。例えば、図5の時刻5秒付近のような状態であり、このときの出力トルクの加振応答振幅は、時刻7秒以降の故障発生後の値とほぼ等しいので、異常か正常かを判断し難い。そのため、従来技術で、このような誤検知を回避するには、異常検知のための瞬発的なトルクを摩擦に埋もれないように十分大きな値にする必要があったので、不快な振動が大きくなるという課題があった。また、特許文献2のような装置が、別の方法で回避しようとすると、加振に対して正常に応答しないと判断する振幅の閾値を、極めて小さな値に設定するなどして対処する必要があるため、本来、異常であると即座に判定したい応答レベル(例えば図5の7秒以降の出力トルク応答)であっても、異常を検知できず、応答が異常を検知できるほど極めて小さな値になるまで待つ必要があった。
【0034】
この実施の形態によれば、負荷状態や摩擦など異常でない変動に応じて加振指令に対する各検出部の応答が変動する場合に、この変動を異常であると誤検知する恐れはなく、加振指令に対する出力トルクおよび回転状態の応答の関係が異常に乖離した場合に、異常を検知できるので、検知精度が非常に高いという効果がある。」

「【0045】
なお、加振振幅Aeは、回転軸ARにかかる最大の摩擦トルクよりも大きく設定することで、回転状態や出力トルクの各検出部3,4において、ゼロ以上の振幅で応答が現れる。従って加振振幅Aeを回転軸ARにかかる最大摩擦トルクよりも大きく設定することで、異常を検知できる範囲はより広がるが、反面、振動が大きくなり、不快になる場合がある。従って、加振振幅Aeは用途に応じた大きさに設定すればよい。少なくとも回転軸ARにかかる最小の摩擦トルクよりも大きく設定することで、この発明であれば異常は検知できる。特許文献2のような、異常検知のための瞬発的なモータトルクを印加する装置では、テスト用のパルスが小さいと、摩擦で減衰して応答しなくなるので、異常を検知し難くなるが、この発明であれば、異常を誤検知する恐れはない。
【0046】
なお、加振周波数ωeは、給電指令から出力トルクと回転状態の応答が概ね等しい周波数の範囲に定めればよい。この範囲は、回転機1を接続する負荷8などによって異なるが、回転機1の慣性や回転軸ARや検出部3,4の軸の剛性で決まる共振周波数よりは高い領域に設定するのが望ましい。」

「【0106】
実施の形態14.
図21はこの発明の実施の形態14による電動パワーステアリング装置の構成を示すブロック図である。図21の電動パワーステアリング装置は、上述した各実施の形態で示した回転機の制御装置を適用した一例である。図示しない運転者によりステアリングホイール101に加えられた操舵力は、回転軸ARであるステアリングシャフト103、ラック・ピニオンギヤ104を順に介してラックに伝達されて、車輪105を転舵させる。回転機1は、モータ減速ギア102を介してステアリングシャフト103と連結している。回転機1が発生するトルク(以下補助力とも言う)は、モータ減速ギア102を介してステアリングシャフト103に伝達され、操舵時に運転者が加える操舵力を軽減する。
【0107】
トルク検出部4は、運転者がステアリングホイール101を操舵することによりステアリングシャフト103に加わった操舵トルクと、回転機1が発生するトルクとの混合されたトルクを出力トルクとして検出する。制御装置20は、トルク検出部4で検出した出力トルクに応じて、回転機1が付与する補助力の方向と大きさを決定し、この補助力を発生させるべく回転機1に流れる電流を制御する。また例えば回転機1に取り付けられた回転状態検出部3は、回転機1の回転位置または回転速度を検出する。」

「【0111】
図22は電動パワーステアリングにおける回転機1のトルクから回転機1の回転位置とトルク検出部4の出力トルクまでの応答振幅の差異の周波数特性を示すボード線図である。なお、回転位置は換算回転位置θtに換算してある。図22によると、縦軸に0と付した値の線が、応答の差異が無いことを示しており、楕円形で囲った推奨帯域Aが、縦軸における0近傍で横に平坦な特性を示しており、応答が等しいことを示している。応答が横に平坦であることは、応答の振幅だけでなく、応答の位相も等しいことを意味している。なお、応答振幅の差異とは、各応答振幅の比について対数をとったものである。ここで、推奨帯域は、回転位置と出力トルクの応答振幅の差異、横に平坦な特性を示す帯域といえる。また、楕円よりも低周波側に共振点があるように、回転機1の慣性や負荷8の慣性で決まる共振点よりも高い周波数帯域であるともいえる。
【0112】
加振指令は、出力トルクと回転状態の応答が概ね等しいまたは等しい推奨帯域の周波数の正弦波を含有するよう選ぶことで、異なる状態変数を検出する回転状態検出部とトルク検出部の加振指令に対する応答に基づいて、これらの加振応答を相互に参照して、異常を精度良く、概ね常時において、検知することができる。」

(2)したがって、引用文献2には次の技術が記載されていると認められる。
「運転者によりステアリングホイール101に加えられた操舵力は、回転軸ARであるステアリングシャフト103、ラック・ピニオンギヤ104を順に介してラックに伝達されて、車輪105を転舵させ、回転機1は、モータ減速ギア102を介してステアリングシャフト103と連結し、回転機1が発生するトルク(以下補助力とも言う)は、モータ減速ギア102を介してステアリングシャフト103に伝達され、操舵時に運転者が加える操舵力を軽減する、電動パワーステアリング装置(【0106】)において、
トルク検出部4は、運転者がステアリングホイール101を操舵することによりステアリングシャフト103に加わった操舵トルクと、回転機1が発生するトルクとの混合されたトルクを出力トルクとして検出し、回転機1に取り付けられた回転状態検出部3は、回転機1の回転位置または回転速度を検出し(【0107】)、
回転機1の利用用途に応じた基本的な回転動作に対応した基本指令に、異常の検知のために用いる加振指令を加算し、加振指令は、回転状態検出部3およびトルク検出部4に生じる異常を検知することを目的に生成されるものであり(【0021】)、正弦波を用い、加振指令が重畳された給電指令により、回転機1に振動的な電力が給電され、その応答として振動的な出力トルクが出力され、また、回転位置θmが振動し(【0023】)、
換算回転位置θtの加振応答振幅、出力トルクTsの加振応答振幅を比較し、その差が、所定値を超える期間が所定時間以上経過(継続)したときに、回転状態検出部3または、トルク検出部4に異常が生じたものと判定する(【0030】)、
電動パワーステアリング装置(【0106】)。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由において引用された特開2010-138666号公報(引用文献3)には、【0018】、【0021】、【0029】、【0031】、【0040】-【0042】の記載より、概略、「車両Sのドア10に配設されるウインドウガラス11をモータ20の回転駆動により昇降(開閉)作動させるパワーウインドウ装置1において、モータ20には、回転を検出するための回転検出装置としてのホールIC25が備えられ、モータ駆動回路32は、FETにより、モータ20をPWM駆動させ、異常が発生した場合には、コントローラ31は、異常の検知信号を受信し、異常報知信号を発生させてモータ駆動回路32へ送信し、モータ駆動回路32は、この異常報知信号に応じたモータ駆動パターン(周波数パターン又はデューティ比率パターン)にパターンを切り換えて、モータ20を駆動させ、コントローラ31は、各種異常(フェール)の有無を監視し、各種フェールを認識すると、そのフェールの種類(状態)に応じて、FETによってPWM駆動する際に、PWMの周波数を通常周波数から様々に変化させ、フェールの種類によりモータ20の駆動音パターンが変化し、ユーザは異常が生じたことを認知することができるとともに、その駆動音パターンにより、発生した異常の種類を特定することができ、監視するフェールの種類として、ホールセンサ異常(モータ20の回転を検出するホールIC25が正常に作動していない)があり、フェールが発生した場合には、PWMの周波数を通常周波数(20kHz)から、通常(20kHz)と異常対応周波数(1?5kHz)の時間的長さを組み合わせることにより、各種フェールの種類に対応したパターンを作成し、異常の種類によって、モータ20の作動音のパターンが変わるので、フェールの種類(状態)を判別することができる」技術が記載されていると認められる。

4.先願について
当審拒絶理由において引用された特願2017-104589号(特許第6228341号公報)(先願)の特許請求の範囲には、次の発明が記載されている。
「【請求項1】
回転軸に印加されたトルクを複数のトルクセンサにて検出するトルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
前記故障検出部が前記トルク検出部の故障を検出した場合に、前記複数のトルクセンサの少なくとも1つが正常である場合に前記トルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力するようにモータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動にて前記トルク検出部の故障を報知するように前記モータの駆動を制御し、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動の周波数を5Hz?7kHzとする故障検出装置。
【請求項2】
前記故障検出部は、前記制御部が前記連続トルクを出力するように前記モータの駆動を制御した場合に前記トルク検出部が有する前記複数のトルクセンサの内のいずれのトルクセンサが故障しているかを検出する
請求項1に記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記故障検出部は、前記トルク検出部が有する2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合には、前記制御部が前記連続トルクを出力するように前記モータの駆動を制御した場合に前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサが故障しているか否かを検出する
請求項1又は2に記載の故障検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記連続トルクにて車両のステアリングホイールに振動を与えることで前記トルク検出部の故障を報知するように前記モータの駆動を制御する
請求項1?3のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記連続トルクによる振動の音にて前記トルク検出部の故障を報知するように前記モータの駆動を制御する
請求項1?3のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記連続トルクを出力させるために前記モータに供給する電流の波形を正弦波状とする
請求項1?5のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記連続トルクを出力させるために前記モータに供給する電流の波形を、矩形波、三角波、のこぎり波のいずれかとする
請求項1?5のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記連続トルクにて前記ステアリングホイールに与える振動の周波数を5Hz以上30Hz以下とする
請求項4に記載の故障検出装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記連続トルクによる振動の音の周波数を30Hz以上4kHz以下とする
請求項5に記載の故障検出装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記故障検出部が前記トルク検出部の故障を検出した後の経過時間に応じて前記連続トルクに起因する振動の振幅を変更する
請求項1?9のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記故障検出部が前記トルク検出部の故障を検出した後の経過時間に応じて前記連続トルクに起因する振動の周波数を小さくする
請求項1?9のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項12】
前記故障検出部は、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動の振幅が基準振幅未満である場合に前記トルクセンサが故障していると判断すると共に、前記基準振幅を可変とする
請求項1?11のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項13】
前記故障検出部は、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動の周波数が基準周波数未満である場合に前記トルクセンサが故障していると判断すると共に、前記基準周波数を可変とする
請求項1?11のいずれか1項に記載の故障検出装置。
【請求項14】
操舵トルクを複数のトルクセンサにて検出するトルク検出部と、
前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
前記故障検出部が前記トルク検出部の故障を検出した場合に、前記複数のトルクセンサの少なくとも1つが正常である場合に前記トルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力するようにモータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動にて前記トルク検出部の故障を報知するように前記モータの駆動を制御し、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動の周波数を5Hz?7kHzとする電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
回転軸に印加されたトルクを検出するトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力するようにモータの駆動を制御する制御部と、
前記制御部が前記連続トルクを出力するように前記モータの駆動を制御した場合に前記連続トルクに起因して前記回転軸に印加されるトルクを前記トルクセンサが検出するか否かで前記トルクセンサの故障を検出する故障検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動にて前記トルクセンサの故障を報知するように前記モータの駆動を制御し、
前記制御部は、前記連続トルクに起因する振動の周波数を5Hz?7kHzとする故障検出装置。」

第6 対比・判断
1.本願発明13について
(1)対比
本願発明13と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「センサ素子14a、14b」は、「トーションバー17の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力する」ものであるから、本願発明13の「2つのトルクセンサ」に相当する。
また、引用発明において、その「センサ素子14a、14bを備えて構成され」る「トルクセンサ14」は、本願発明13の「操舵トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部」に相当する。

イ 引用発明では、「異常検出部30が実行する各センサ信号Sa,Sbの異常検出、及びその対応する各センサ素子14a,14bの故障検出の結果は、異常検出信号Strとして」「異常検出部30から出力され」るから、引用発明における「トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30」は、「各センサ素子14a,14bの故障」を「検出」しているといえ、上記アを踏まえると、本願発明13の「前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部」に相当する。

ウ 引用発明における、「EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23」及び「電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24」は、本願発明13の「モータの駆動を制御する制御部」に相当する。

エ 引用発明では、「電動パワーステアリング装置(EPS)1」は「トルクセンサ14とECU11を備え」、「ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21」「を備え」、「マイコン21は、EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24」「を備え」、「マイコン21には、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30が設けられ」るから、引用発明における「電動パワーステアリング装置(EPS)1」は、「トルクセンサ14」、「電流指令値演算部23と」「モータ制御信号出力部24」、「異常検出部30」を備えている。
よって、引用発明における、「トルクセンサ14」、「電流指令値演算部23と」「モータ制御信号出力部24」、「異常検出部30」を備えた「電動パワーステアリング装置(EPS)1」は、上記アないしウを踏まえると、本願発明13における、「操舵トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部と、前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部と、モータの駆動を制御する制御部と、を備え」た「電動パワーステアリング装置」に相当する。

オ 引用発明における、「異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合」は、上記アを踏まえると、本願発明13における、「前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合」に相当する。
また、引用発明における「故障していないセンサ素子」は、上記アを踏まえると、本願発明13における「前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサ」に相当する。

カ 引用発明では、「故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号を用いることにより、その操舵トルクτを検出し、EPS1は、残存センサ信号から検出される操舵トルクτを用いて、電流指令値I*の演算及び出力を続行」する「アシスト継続制御において、EPS本来の機能であるアシスト力の付与に関連して、周期的に瞬発的なモータトルクを操舵系に印加し、瞬発的なモータトルクが操舵系に印加されると、瞬発的なモータトルクに起因する捩れが操舵系を構成するトーションバー16生じ、この瞬発的なモータトルクに起因する捩れが、残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常検出を行」うから、「周期的」な「瞬発的なモータトルク」は、「故障していないセンサ素子」に異常がなければ、「故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号」「に反映される」はずのものである。
また、引用発明では、「瞬発的なモータトルクの基礎成分としての試験トルク制御量Itt*を出力する試験トルク制御部31を備え」るのは、「電流指令値演算部23」である。
そうすると、引用発明における、「電流指令値演算部23」が備える「試験トルク制御部31」が、「異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合」の「アシスト継続制御」において、「故障していないセンサ素子」に異常がなければ、「故障していないセンサ素子が出力する残存センサ信号」「に反映される」はずの「周期的」な「瞬発的なモータトルクを操舵系に印加」することは、上記ア、ウ、オを踏まえると、本願発明13における、「前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力させ」ることと、「前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを発生させるトルクを出力させ」る点で共通する。

キ 引用発明では、「瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値である、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1は」、「瞬発的なモータトルクの慣性によってステアリング2がほとんど動かない」ものの、「瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせ」、「トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付く」「程度の大きさ(60A)に設定され」ているところ、引用発明は、「ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動がナックルに伝達されることにより、車両の進行方向が変更され」る「電動パワーステアリング装置」に関するものであるから、上記において「運転者が気付く」のは、「瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせ」たものが、「ステアリング2」に伝達されるからであることは明らかである。
ここで、引用発明における、「車両の進行方向が変更され」る際に用いられる「ステアリング2」は、本願発明13の「車両のステアリングホイール」に相当する。
また、「瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせ」たものが、「ステアリング2」に伝達されたものは、「ステアリング2がほとんど動かない」ものの、(「ステアリング2」を握る)「運転者が気付く」ようなものであるから、本願発明13における、「車両のステアリングホイールに」「与え」られる「振動」に相当するといえる。
そして、引用発明において、「トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付く」ようにすることは、上記アを踏まえると、本願発明13における「前記トルク検出部の故障を報知」することに相当する。
よって、引用発明における、「瞬発的なモータトルクの印加により、操舵系を構成するステアリングシャフト3に設けられたトーションバー16に大きな捩れを生じさせ」、それが「ステアリング2」に伝達され、「瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値である、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1」が、「トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付く」「程度の大きさ(60A)に設定され」ていることは、上記カを踏まえると、本願発明13における、「前記連続トルクにて車両のステアリングホイールに振動を与えることで前記トルク検出部の故障を報知」することと、「前記トルクにて車両のステアリングホイールに振動を与えることで前記トルク検出部の故障を報知」する点で共通する。

ク 引用発明では、「瞬発的なモータトルクを印加するための制御成分として試験トルク制御量Itt*を時点t(l)から所定時間tr(1ms)出力し、操舵系に瞬発的なモータトルクを印加し、操舵系に瞬発的なモータトルクが印加されると、試験トルク制御量Itt*が出力された時点t(l)から所定時間trr(10ms)後に、トーションバーには瞬発的なモータトルクに起因する捩れが生じ、異常検出部30は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定し」ているところ、引用発明における、「瞬発的なモータトルクを印加するための制御成分として試験トルク制御量Itt*を時点t(l)から所定時間tr(1ms)出力し、操舵系に瞬発的なモータトルクを印加し、操舵系に瞬発的なモータトルクが印加されると」、という事項は、本願発明13における「前記モータが前記連続トルクを出力した場合」と、「前記モータが前記トルクを出力した場合」である点で共通する。
また、引用発明における、「トルクセンサ14」が備える「センサ素子14a、14b」が「操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力」し、「瞬発的なモータトルクに起因する捩れが、残存センサ信号に反映されるか否かに基づいて、当該残存センサ信号の異常検出を行」うことであって、「異常検出部30は、試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定」することは、上記ア、イ、オ、カ、キを踏まえると、本願発明13における、「前記故障検出部は」、「前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断し、前記振動の振幅が基準振幅未満である場合に前記他方のトルクセンサが故障していると判断する」ことと、「前記故障検出部は、前記トルクセンサが検出する前記トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断」する点で共通するといえる。

したがって、本願発明13と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「操舵トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部と、
前記トルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
モータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを発生させるトルクを出力させ、前記トルクにて車両のステアリングホイールに振動を与えることで前記トルク検出部の故障を報知し、
前記故障検出部は、前記モータが前記トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断する
電動パワーステアリング装置。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明13では、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを「連続的に」発生させる「連続トルク」を出力させるのに対して、
引用発明では、「周期的に瞬発的な」モータトルクを操舵系に印加している点。

(相違点2)
本願発明13では、「トルクにて前記ステアリングホイールに与える振動の周波数を5Hz以上600Hz以下とし」ているのに対して、
引用発明では、「周期的に瞬発的な」モータトルクを操舵系に印加しており、また、その周期については「試験トルク制御量Itt*が出力される各時点t1、t2、t3・・・の各間隔は、試験トルク制御量Itt*が出力される試験トルク制御量出力時間trよりも長くなるように設定され」るとしか特定されていない点。

(相違点3)
本願発明13では、「前記振動の振幅が基準振幅未満である場合に前記他方のトルクセンサが故障していると判断する」のに対して、
引用発明では、「試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定し」ている点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点2について先に検討する。
ア 引用発明について
相違点2に係る本願発明13の構成について、本願明細書には「ステアリングホイール101が5Hz以上の周波数で振動すると、ステアリングホイール101を握っている運転者は、ステアリングホイール101の振動を感じることが可能となる。その結果、運転者は、トルク検出装置200が故障していることを把握することが可能となる。」(【0048】)、「強制振動発生電流の周波数は600Hz以下であることが好ましい。この範囲ではイナーシャによって振動が伝達しづらくなるという現象が発生しづらくなり、より好適に振動を伝えることができるからである。」(【0049】)と記載されている。
一方で、引用発明は、「瞬発的なモータトルクを発生させる基礎成分である試験トルク制御量Itt*の値である、第1所定電流値Ia1及び第2所定電流値-Ia1は、トルクセンサ14の各センサ素子14a,14bの何れか一方が故障したことに運転者が気付く」「程度の大きさ(60A)に設定され、試験トルク制御量Itt*が出力される各時点t1、t2、t3・・・の各間隔は、試験トルク制御量Itt*が出力される試験トルク制御量出力時間trよりも長くなるように設定され」るものであるが、引用文献1には「迅速且つ高精度に故障判定を行う観点からは、上記瞬発的なモータトルクの印加周期は、より短い方が好ましい。しかしながら、こうした印加周期の短縮化は、その操舵フィーリングを悪化させる方向に作用する。」(【0109】)と記載されており、5Hz以上600Hz以下の周波数で周期的に瞬発的なモータトルクを印加するようにすると、操舵フィーリングを悪化させてしまうおそれがあるから、引用発明において、ステアリング2に伝達される振動の周波数を5Hz以上600Hz以下とすることに、動機づけを見出すことはできない。

イ 引用文献2について
引用文献2に記載された技術は、「異常の検知のために用いる加振指令」に「正弦波を用い」るものであるが、「加振指令」は、引用発明のように「異常検出信号Strが、各センサ素子14a,14bの何れか一方のみが故障した旨を示す場合」に加えられるようなものではないから、「加振指令」が加えられていることを運転者に報知する必要性はない。そして、引用文献2に「このような誤検知を回避するには、異常検知のための瞬発的なトルクを摩擦に埋もれないように十分大きな値にする必要があったので、不快な振動が大きくなるという課題があった」(【0033】)、「加振振幅Aeを回転軸ARにかかる最大摩擦トルクよりも大きく設定することで、異常を検知できる範囲はより広がるが、反面、振動が大きくなり、不快になる場合がある」(【0045】)と記載されていることからしても、引用文献2に記載された技術において、「加振指令」による振動に、運転者に報知するという機能を持たせることは想定されていないといえる。
また、「加振指令」の周波数についても、引用文献2には「加振周波数ωeは、給電指令から出力トルクと回転状態の応答が概ね等しい周波数の範囲に定めればよい。この範囲は、回転機1を接続する負荷8などによって異なるが、回転機1の慣性や回転軸ARや検出部3,4の軸の剛性で決まる共振周波数よりは高い領域に設定するのが望ましい。」(【0046】)、「加振指令は、出力トルクと回転状態の応答が概ね等しいまたは等しい推奨帯域の周波数の正弦波を含有するよう選ぶことで、異なる状態変数を検出する回転状態検出部とトルク検出部の加振指令に対する応答に基づいて、これらの加振応答を相互に参照して、異常を精度良く、概ね常時において、検知することができる。」(【0112】)と記載されているのみである。
よって、引用文献2に記載された技術は、引用発明において、ステアリング2に伝達される振動の周波数を5Hz以上600Hz以下とすることを動機づけるものではない。

ウ 引用文献3について
引用文献3に記載された技術は、「車両Sのドア10に配設されるウインドウガラス11をモータ20の回転駆動により昇降(開閉)作動させるパワーウインドウ装置1において」、「モータ20に」「備えられ」た「回転を検出するための回転検出装置としてのホールIC25」「が正常に作動していない」「ホールセンサ異常」を、「モータ20を駆動させ」、「モータ20の駆動音パターン」により「ユーザ」に「異常が生じたことを認知」させ、「発生した異常の種類を特定」させるものであるが、ユーザに認知させる手段は、ウインドウガラス11を昇降(開閉)作動させるモータ20の駆動音パターンであり、また、PWMの異常対応周波数は1?5kHzである。
よって、引用文献3に記載された技術は、引用発明において、ステアリング2に伝達される振動の周波数を5Hz以上600Hz以下とすることを動機づけるものではない。

エ よって、相違点2に係る本願発明13の構成は、引用文献1-3に基づいて当業者が容易に想到できた構成であるとはいえず、また、本願出願前において周知技術であるともいえない。

(3)したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明13は、当業者であっても引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 本願発明1における「トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部の故障を検出する故障検出部と、モータの駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを連続的に発生させる連続トルクを出力させ」及び「前記故障検出部は、前記モータが前記連続トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記連続トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断し」という事項は、本願発明13と共通する事項であり、かかる事項についての引用発明との対比は、上記1.(1)に記載したとおりである。

イ 本願発明1では、「トルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部」について、「トルク」が「回転軸に印加されたトルク」であると特定されている。
一方で、引用発明では、「トルクセンサ14は、トーションバー17の捩れに基づいて、ステアリングシャフト3を介して伝達される操舵トルクτを検出可能なセンサ信号Sa,Sbを出力するセンサ素子14a、14bを備えて構成され」ているが、「回転軸であるステアリングシャフト3のトルク入力によりトーションバー17が捩れることで、その各センサ素子14a、14bを通過する磁束が変化し、トルクセンサ14は、その磁束変化に伴い変動する各センサ素子14a、14bの出力電圧を、それぞれセンサ信号Sa,SbとしてECU11に出力する構成となって」いる。
よって、引用発明における「回転軸であるステアリングシャフト3」に「入力」される「トルク」は、本願発明1における「回転軸に印加されたトルク」に相当する。

ウ 引用発明では、「ECU11は、モータ制御信号を出力するマイコン21」「を備え」、「マイコン21は、EPSアクチュエータ10に発生させるべき目標アシスト力に対応した電流指令値I*を演算する電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値I*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部24」「を備え」、「マイコン21には、トルクセンサ14が出力する各センサ信号Sa,Sbの異常を検出する異常検出部30が設けられ」るから、引用発明における「ECU11」は、「電流指令値演算部23と」「モータ制御信号出力部24」、「異常検出部30」を備えている。
よって、引用発明における、「電流指令値演算部23と」「モータ制御信号出力部24」、「異常検出部30」を備えた「ECU11」は、上記イ、及び、上記1.(1)アないしウを踏まえると、本願発明1における、「回転軸に印加されたトルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部の故障を検出する故障検出部と、モータの駆動を制御する制御部と、を備え」た「故障検出装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「回転軸に印加されたトルクを2つのトルクセンサにて検出するトルク検出部の故障を検出する故障検出部と、
モータの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルク検出部が有する前記2つのトルクセンサの内の一方のトルクセンサが故障していることを検出した場合に、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを発生させるトルクを出力させ、
前記故障検出部は、前記モータが前記トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断する
故障検出装置。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では、前記2つのトルクセンサの内の他方のトルクセンサにて検出可能なトルクを「連続的に」発生させる「連続トルク」を出力させるのに対して、
引用発明では、「周期的に瞬発的な」モータトルクを操舵系に印加している点。

(相違点4)
本願発明1では、「前記振動の1周期内で、前記他方のトルクセンサの出力値が、トルクがゼロである場合の出力値を跨らない場合に故障していると判断する」のに対して、
引用発明では、「試験トルク制御量Itt*が出力された時点から所定時間trrにおける、操舵トルクτの変化量Δτが所定値(0.5Nm)以下の場合は、残存センサ信号に対応するセンサ素子が異常と判定し」ている点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点4について先に検討する。
「前記モータが前記トルクを出力した場合に、前記トルクセンサが検出する前記トルクに起因する振動のパターンによって前記他方のトルクセンサの故障を診断」することを、「前記振動の1周期内で、前記他方のトルクセンサの出力値が、トルクがゼロである場合の出力値を跨らない場合に故障していると判断する」ことで診断することは、引用文献2-3に記載されておらず、また、本願出願前において周知技術であるともいえない。

(3)したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
なお、本願発明1は、原査定の対象とはされていない原査定時の請求項2に対応するものである。

3.本願発明2-12について
本願発明2-12は、本願発明1を減縮した発明であり、相違点4に係る本願発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明14について
本願発明14は、本願発明1に対応する電動パワーステアリング装置の発明であり、本願発明1の上記相違点4に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
なお、本願発明14は、原査定の対象とはされていない原査定時の請求項16に対応するものである。

第7 原査定についての判断
以上のとおりであって、本願発明1-14は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1.特許法第36条第6項第2号について
特許法第36条第6項第2号に係る当審拒絶理由は、請求項8が請求項1を引用する請求項6または7を引用する場合に請求項8の記載が明確でない、というものであるが、本件補正により引用元の請求項1が削除されたから、特許法第36条第6項第2号に係る当審拒絶理由は解消した。

2.特許法第39条第1項について
本件補正により請求項1、14が削除されたから、特許法第39条第1項に係る当審拒絶理由の対象であった、請求項1に係る発明、請求項11-1発明、請求項12-1発明、請求項13-1発明、及び請求項14-1発明は存在しなくなり、特許法第39条第1項に係る当審拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由、当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2017-193045(P2017-193045)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01L)
P 1 8・ 121- WY (G01L)
P 1 8・ 4- WY (G01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 公文代 康祐  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 中村 説志
清水 稔
発明の名称 故障検出装置、電動パワーステアリング装置  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  

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