ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
---|---|
管理番号 | 1349969 |
審判番号 | 不服2018-3167 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-03-05 |
確定日 | 2019-03-11 |
事件の表示 | 特願2016-151056「経皮投薬装置及びその装置に使用するニードル形成体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月27日出願公開、特開2016-185411〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成24年3月21日(国内優先権主張 平成23年3月23日 平成23年11月2日)を国際出願日とする特願2013-542277号の一部を平成28年8月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年5月12日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年7月13日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年12月1日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。 これに対し、平成30年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに特許請求の範囲について手続補正がなされ、同年5月16日に上申書が提出されたものである。 第2 平成30年3月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成30年3月5日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 平成30年3月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成29年7月13日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1及び5に関する以下の補正を含むものである。(なお、下線部は補正箇所を明確にする目的で当審にて付与した。) (1)請求項1 ア 補正前 「薬液が充填される注射器と、該注射器の先端部に取り付けられるニードル形成体と、を有する経皮投薬装置であって、 該ニードル形成体は、3本のニードルを有し、 該3本のニードルは、該ニードル形成体の先端表面より突出し、かつ該ニードル形成体の先端表面上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のニードルの各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのニードルの先端に吐出口が形成され、 該3本のニードルの各々の吐出口が該円周の半径方向外向きに向いており、 該3本のニードルの各々の吐出口を形成する切断面として、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とが形成されている、経皮投薬装置。」 イ 補正後 「薬液が充填される注射器と、該注射器の先端部に取り付けられるニードル形成体と、を有する経皮投薬装置であって、 該ニードル形成体は、3本のニードルを有し、 該3本のニードルは、該ニードル形成体の先端表面より突出し、かつ該ニードル形成体の先端表面上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のニードルの各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのニードルの先端に吐出口が形成され、 該3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないように該3本のニードルの各々の吐出口が該円周の半径方向外向きに向いており、 該3本のニードルの各々の吐出口を形成する切断面として、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とが形成されている、経皮投薬装置。」 (2)請求項5 ア 補正前 「注射器の先端部に取り付けられるニードル形成体であって、 該ニードル形成体は、3本のニードルを有し、 該3本のニードルは、該ニードル形成体の先端表面より突出し、かつ該ニードル形成体の先端表面上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のニードルの各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのニードルの先端に吐出口が形成され、 該3本のニードルの各々の吐出口が該円周の半径方向外向きに向いており、 該3本のニードルの各々の吐出口を形成する切断面として、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とが形成されている、ニードル形成体。」 イ 補正後 「注射器の先端部に取り付けられるニードル形成体であって、 該ニードル形成体は、3本のニードルを有し、 該3本のニードルは、該ニードル形成体の先端表面より突出し、かつ該ニードル形成体の先端表面上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のニードルの各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのニードルの先端に吐出口が形成され、 該3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないように該3本のニードルの各々の吐出口が該円周の半径方向外向きに向いており、 該3本のニードルの各々の吐出口を形成する切断面として、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とが形成されている、ニードル形成体。」 2 本件補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1及び5に係る発明を特定するために必要な事項である、3本のニードルの先端に形成された吐出口が、各々、ニードルが配置された円周の半径方向外向きに向いている点に関して、「該3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないように」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。 そこで、本件補正後の請求項5に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。 (1)補正発明 補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)イに示す、補正後の特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 (2)引用文献の記載及び引用発明 (2-1)引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された、優先日前に頒布された特表2005-527249号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「ペンデバイスに基づいた薬物投与のためのマイクロ針および該マイクロ針の使用法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 A 「【技術分野】 【0001】 本発明は概して、薬物投与のペンデバイスに関する。特に、マイクロ針システムをユーザインタフェイスに結合させた、注入ペンデバイスおよびその方法に関する。・・・」 B 「【背景技術】 【0002】 現在、いくつかのペンシステムが皮下薬物投与に適用されている。これらペンシステムは、主に8mm程度の長さを有する31ゲージ針を用いており、インスリンのようなカートリッジの内容物を、極力迅速にまた痛みを伴わないように投与するために使用されている。・・・」 C 「【0013】 前記ハブアセンブリは、深い皮膚内あるいは浅い皮下に薬物を投与するための少なくとも1つのマイクロ針、およびマイクロ針とカートリッジとを連結するに適した流路を有する。駆動装置の起動により、カートリッジに接したプランジャーが加圧され、カートリッジ内容物がカートリッジより流出し、流路および少なくとも1つのマイクロ針を通過して、患者の深い皮内あるいは浅い皮下領域に到達する。」 D 「【0021】 本発明の第1の実施例におけるハブアセンブリ10は、図1Aに示されている。以下の説明では図1A?1B、図2A?2Dおよび図3A?3Bが参照され、また必要に応じて、特別な図にも注意が払われる。図1Aおよび図1Bは、本発明の第1の実施形態における単数マイクロ針のハブアセンブリ例を示した図である。図1Aはハブアセンブリの透視図であり、図1Bは側断面図である。図2A?2Dは、本発明の第1の実施形態における複数マイクロ針のハブアセンブリ例を示した図である。図2Aは、図2Dは複数マイクロ針のハブアセンブリにおける透視図、図2Bは第1の上断面図、図2Cは第2の上断面図、側断面図である。・・・」 E 「【0028】 図1Aおよび図2Aにおいて、ペン針システムの前端は、生体外の使用に当たっては確実な流れの点検と準備のために、また生体内に使用する際には薬物量を正確にするために、流体の流れを許容するのに充分な能力を有していなければならない。上述したように、針内部の抵抗は、カニューレの長さおよび半径の4乗に比例する。前端に位置する34ゲージの単針が、1mmの露出長を有する場合では、インスリンや他の薬のような5?25単位の所定の薬物(50?250マイクロリットルの流体物と同等)を放出するのに必要とする時間が大きく増大し得る。しかしながら、単数のマイクロ針14の変わりに、複数のマイクロ針列を適用し、図2Aに示すようにそれぞれが1mmの露出長であれば、従来の皮下システムで大気圧に対して放出を行ったのと同等の薬物投与時間が得られる。マイクロ針列の性能は、3つの34ゲージ針の断面積が、単数の31ゲージのストック針の断面積と略同等であるということに注意すれば説明される。 【0029】 マイクロ針システムが、皮内空間への投与のような生体内への投与に利用される場合、膨張性が制限されて本質的に密閉あるいは閉ざされた空間への流体量の注入速度によって、大きな背圧を受ける。例えば100マイクロリットル程度という皮内投与に用いられるにはかなり少量である液体薬品を投薬する場合であっても、500マイクロリットル以上を取り扱うに等しくなる。背圧の大きさもまた、量同様に注入速度にも比例する。この圧力のレベルは、皮下空間に投与している最中には測定することは通常出来ないが、高い圧縮性あるいは膨張性の組織に流体をかなり高い限度まで注入したに等しいと一般にみなされている。図2Aおよび3Bに示されるような、正面がマルチポートとなったハブアセンブリを利用することにより、配列されたそれぞれのマイクロ針を通して供給される相対供給速度および供給量は低減されるので、体内投与プロセスにおける改善策となる。 【0030】 先に述べたように、図1Aおよび図3Aに示したような34ゲージのマイクロ針1本を通しての皮内投与は、皮下への投与に必要な圧力と時間に比べて、高いレベルの圧力と長い投与時間を必要とするので、使用目的によっては困難になりうる。複数針のマイクロ配列を通しての生体内投与では、十分に低い圧力および迅速な薬物注入が望まれる。それゆえ、図2Aで示される本発明の別の実施形態では、上記図1Aで説明したマイクロ針と実質的に同様のものを2つ以上有する、マルチ針フロントエンドアセンブリを活用している。皮内空間への投与における圧力差が低減するという別の特徴もまた認識され得る。」 F 「【0031】 図2Aは、複数マイクロ針のハブアセンブリ40の例を示した図である。図2Aのアセンブリにおいて、ハブアセンブリは、図1Aと同様に、患者接触面60とペンデバイスに接続するための開口部62との間に延びた円筒形の筐体44を備えている。接触面60には3つのマイクロ針50a、50bおよび50cが備えられており、それぞれのマイクロ針を囲む深度制限サポート柱52a、52bおよび52cを、約1mm超えて突出させている。個々のマイクロ針50は、上述した図1Aのマイクロ針14と基本的には同様に、接着リザーバ56a、56bおよび56cによって所定の位置に固定されている。図2Bに示すように、マルチポート流路58は、図1Bの内部開口32で説明したように、マイクロ針50と後端針42との間の流れの伝達を行うように形成されている。」 【図2A】 G 「【0041】 図4は、図2A?図2Dおよび図3Bで説明した複数針のハブアセンブリを適用した薬物投与ペンデバイス80の例を示した図である。図4は、本発明の第1の実施形態における薬物投与ペンの側断面図である。また、図5Aおよび図5Bは第2の実施形態を示した図であり、患者接触面は装置の中心線に対して角度を浅くしたものとなっている。 【0042】 図4に示すように、マイクロ針50の列は、ペンデバイス本体66に着脱可能に結合されたハブアセンブリ44に、組み入れられている。・・・」 【図4】 H 「【0044】 使用の際、カートリッジ68は投与ペンデバイス80に設置されており、投与される薬物を収容している。隔壁64と反対側のカートリッジの端部では、薬品カートリッジストッパー70がプランジャー72に連結されており、既知の駆動機構73によってペン本来66の内部でスライド可能となっている。駆動機構73は、外部のユーザインタフェイス74を介して駆動され、これによりプランジャー72がストッパー70へ圧力をかける。この圧力によって、ストッパー70はカートリッジ68の内部で移動し、カートリッジ内の収容物は後端針42の露出した先端へと押出され、流路58に入り、マイクロ針50から流出する。」 I 【図2B】より、3つのマイクロ針50a、50b、50cが、ハブアセンブリ44の円形断面内で、その円形断面の円周に沿って等間隔で配置されていることが見て取れる。 【図2B】 J 【図2D】より、3つのマイクロ針50a、50b、50cの各々の先端が同じ高さに突出するとともに、それぞれのマイクロ針の長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのマイクロ針の先端に吐出口が形成されていることが見て取れる。 【図2D】 K 【図4】より、ハブアセンブリ44は、薬物投与ペンデバイス80の先端に取り付けられるものであることが見て取れる。 a 摘記事項Fの「接触面60には3つのマイクロ針50a、50bおよび50cが備えられており・・・個々のマイクロ針50は、上述した図1Aのマイクロ針14と基本的には同様に、接着リザーバ56a、56bおよび56cによって所定の位置に固定されている。」との記載及び図示内容Iを併せみると、引用文献1には、3本のマイクロ針は、ハブアセンブリ44の患者接触面60より突出し、かつ該ハブアセンブリ44の患者接触面60上の円周に沿って等間隔で配置されていることが開示されているといえる。 b 摘記事項Cの「【0013】 前記ハブアセンブリは、深い皮膚内あるいは浅い皮下に薬物を投与するための少なくとも1つのマイクロ針、およびマイクロ針とカートリッジとを連結するに適した流路を有する。・・・カートリッジ内容物がカートリッジより流出し、流路および少なくとも1つのマイクロ針を通過して、患者の深い皮内あるいは浅い皮下領域に到達する。」との記載及び摘記事項E「【0028】・・・単数のマイクロ針14の変わりに、複数のマイクロ針列を適用し、図2Aに示すようにそれぞれが1mmの露出長であれば、従来の皮下システムで大気圧に対して放出を行ったのと同等の薬物投与時間が得られる。マイクロ針列の性能は、3つの34ゲージ針の断面積が、単数の31ゲージのストック針の断面積と略同等であるということに注意すれば説明される。・・・【0030】 先に述べたように、図1Aおよび図3Aに示したような34ゲージのマイクロ針1本を通しての皮内投与は、皮下への投与に必要な圧力と時間に比べて、高いレベルの圧力と長い投与時間を必要とするので、使用目的によっては困難になりうる。複数針のマイクロ配列を通しての生体内投与では、十分に低い圧力および迅速な薬物注入が望まれる。それゆえ、図2Aで示される本発明の別の実施形態では、上記図1Aで説明したマイクロ針と実質的に同様のものを2つ以上有する、マルチ針フロントエンドアセンブリを活用している。」との記載から、引用文献1のハブアセンブリは、皮内に薬物を迅速に投与するためのものであって、同じ太さのマイクロ針を複数有することが理解できる。 引用文献1の摘記事項A?H、図示内容I?K及び認定事項a、bを、図面を参照しつつ技術常識をふまえて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「薬物投与ペンデバイス80の先端部に取り付けられる、皮内に薬物を迅速に投与するためのハブアセンブリ44であって、 該ハブアセンブリ44は、同じ太さの3本のマイクロ針を有し、 該3本のマイクロ針は、該ハブアセンブリ44の患者接触面60より同じ高さに突出し、かつ該ハブアセンブリ44の患者接触面60上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のマイクロ針の各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのマイクロ針の先端に吐出口が形成され、 ている、ハブアセンブリ44。」 (2-2)引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された、優先日前に頒布された特表2011-500252号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「極微針付き医療注射器具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。 A 「【技術分野】 【0001】 本発明は特に皮内注入用の医療注射器具に関する。 【背景技術】 【0002】 皮内注入は、患者に投与される注射であり、その目的は注射器の内容物が皮膚層間に吸収されて空にすることである。かかる皮内注入は、しばしば、皮膚アレルギーテストを実施しかつ抗体形成を試験するために使用される。 【0003】 これは一種の有痛治療でありかつ通常は小量の溶液が使用される。 【0004】 針、又は極微針を使用する皮内注入は、通常、注入時に皮膚水泡を起こす。その理由は、真皮へ注射される物質の急速静注薬(bolus)が瞬時に吸収または拡散されないことによる。即座に吸収されない物質は、そのような水泡になる。 【0005】 そこで仮に注入方法が迅速投与を可能にしても、かかる物質は非常にゆっくりと吸収され、従って拡散能力が時間を消耗しかつ決定要因となる。」 B 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 そこで、本発明の課題は、迅速かつ苦痛の少ない注入治療を可能にする医療注射器具を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の実施形態は、少なくとも2本の極微針を含み、且つ各極微針の先端(tips)が所定間隔をおいて設置された、患者に媒体を投与するための、特に皮内注入用の医療注射器具を提供する。 【0009】 本発明による器具は、注射された媒体を比較的広範囲の領域にわたり、従って一つの針による注射に代わり、拡散能力を向上する。」 C 「【0014】 本発明による医療注射器具により、例えば、医薬を投与するために、極微針の先端内に孔が形成され得る。好適には、そのような孔及び/又は極微針先端は、注射時に患者の皮膚上の広い面を覆うように配向される。 【0015】 幾つかの極微針を含むチップ又は基板を使用する場合に、極微針の配向及び/若しくは孔の配向は、全極微針及び/若しくは対応する孔若しくは先端が、チップから離れる方向に向かって「係止され」るか、又は何れかが所定方向に、そして他の何れかがその反対方向に可能な限り広い面を覆うように選択される。 ・・・ 【0017】 本発明の好適実施形態により、極微針先端が患者の皮膚上の最大面を覆うように配向される場合に、拡散能力は更に向上する。」 D 「【0025】 図2a及び2bの実施形態についても同様であり、孔を有する9本の極微針4a,b,c,d,e,f,g,h,iが基板1上に設置されている。針4a-iは、矩形または四辺形に配置されている。図2から理解されるように、それぞれの極微針4a-iの孔の配向はフラッシュで示され、媒体はそれぞれの方向へ投与又は配送されかつ従って可能な限り広い範囲の領域に投与又は配送される。」 E 図2aより、極微針4eを中心としてその周囲に配置された8本の極微針4a?d,4f?iから、矢印が、それぞれ8本の極微針4a?d,4f?iの配列の中央から離れる方向に配向されていることが見て取れる。 a 摘記事項Aの「【背景技術】・・・【0004】 針、又は極微針を使用する皮内注入は、通常、注入時に皮膚水泡を起こす。その理由は、真皮へ注射される物質の急速静注薬(bolus)が瞬時に吸収または拡散されないことによる。・・・ 【0005】 そこで仮に注入方法が迅速投与を可能にしても、かかる物質は非常にゆっくりと吸収され、従って拡散能力が時間を消耗しかつ決定要因となる。」との記載から、従来の極微針を用いた皮内注入では、皮膚内での薬剤の拡散に時間がかかるため、迅速な注入が困難であることが問題であることが理解できる。そして、摘記事項Bの「【発明が解決しようとする課題】【0007】 そこで、本発明の課題は、迅速かつ苦痛の少ない注入治療を可能にする医療注射器具を提供することにある。 【課題を解決するための手段】【0008】 本発明の実施形態は、少なくとも2本の極微針を含み、且つ各極微針の先端(tips)が所定間隔をおいて設置された、患者に媒体を投与するための、特に皮内注入用の医療注射器具を提供する。 【0009】 本発明による器具は、注射された媒体を比較的広範囲の領域にわたり、従って一つの針による注射に代わり、拡散能力を向上する。」との記載、摘記事項Cの「【0014】 本発明による医療注射器具により、例えば、医薬を投与するために、極微針の先端内に孔が形成され得る。好適には、そのような孔及び/又は極微針先端は、注射時に患者の皮膚上の広い面を覆うように配向される。 【0015】 幾つかの極微針を含むチップ又は基板を使用する場合に、極微針の配向及び/若しくは孔の配向は、全極微針及び/若しくは対応する孔若しくは先端が、チップから離れる方向に向かって「係止され」るか、又は何れかが所定方向に、そして他の何れかがその反対方向に可能な限り広い面を覆うように選択される。・・・ 【0017】 本発明の好適実施形態により、極微針先端が患者の皮膚上の最大面を覆うように配向される場合に、拡散能力は更に向上する。」との記載、摘記事項Dの「【0025】 図2a及び2bの実施形態についても同様であり、孔を有する9本の極微針4a,b,c,d,e,f,g,h,iが基板1上に設置されている。針4a-iは、矩形または四辺形に配置されている。図2から理解されるように、それぞれの極微針4a-iの孔の配向はフラッシュで示され、媒体はそれぞれの方向へ投与又は配送されかつ従って可能な限り広い範囲の領域に投与又は配送される。」並びに図示内容Eをふまえれば、上記の皮膚内での薬剤の拡散に時間がかかるため、迅速な注入が困難であるという問題の解決手段として、極微針を基板上に複数設けることに加え、該極微針の先端に設けられた孔を、それぞれ複数の極微針の配列の中央から離れる方向に配向することにより、薬剤を可能な限り広い範囲に投与し薬剤拡散能力を向上させて、迅速な注入治療を可能にすることが開示されているといえる。 引用文献2の摘記事項A?D、図示内容E及び認定事項aを、図面を参照しつつ技術常識をふまえて整理すると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「基板上に複数の極微針が設置されている、患者に薬剤を皮内注入するための医療注射器具において、薬剤拡散能力を向上することにより迅速な注入治療を可能にするために、前記複数の極微針の先端に設けられた孔を、それぞれ複数の極微針の配列の中央から離れる方向に配向した点。」 (3)対比及び判断 ア 対比 補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「薬物投与ペンデバイス80」は、その文言の意味、機能又は構成等からみて、補正発明の「注射器」に相当する。以下同様に、「ハブアセンブリ44」は「ニードル形成体」に、「マイクロ針」は「ニードル」に、「患者接触面60」は「先端表面」に、それぞれ相当する。 してみると、補正発明と引用発明1とは、以下の点において一致する。 (一致点) 「注射器の先端部に取り付けられるニードル形成体であって、 該ニードル形成体は、3本のニードルを有し、 該3本のニードルは、該ニードル形成体の先端表面より突出し、かつ該ニードル形成体の先端表面上の円周に沿って等間隔で配置されており、 該3本のニードルの各々の先端がそれぞれのニードルの長手方向に対して斜めに切断されることによりそれぞれのニードルの先端に吐出口が形成され、 ている、ニードル形成体。」 そして、補正発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。 (相違点1) 補正発明は、3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないように該3本のニードルの各々の吐出口が該円周の半径方向外向きに向いているのに対し、引用発明1では、そのような構成とされていない点。 (相違点2) 補正発明は、3本のニードルの各々の吐出口を形成する切断面として、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該3本のニードルの各々の長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とが形成されているのに対し、引用発明1では、3本のマイクロ針の先端がそれぞれのマイクロ針の長手方向に対して斜めに切断されてはいるものの、その切断面の構成は明らかでない点。 イ 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (ア)相違点1について 引用文献2には引用発明2が記載されているところ、文言の意味、機能または構成等からみて、その「極微針」は補正発明の「ニードル」に相当し、同様に「薬剤」は「薬液」に、「孔」は「吐出口」に、「複数の極微針の配列の中央から離れる方向」は「円周の半径方向外向き」に、それぞれ相当することは明らかといえる。 そして、上記(2-2)aでも検討したとおり、極微針、すなわちマイクロ針を用いた皮内注入においては、皮膚内での薬剤の拡散に時間がかかるため、迅速な注入が困難であることが問題であることは、優先日前の技術常識であって、引用発明1及び2はいずれもこの問題を解決することを課題とするものといえる。 そうすると、複数のマイクロ針を備えた皮内注入のための装置において、迅速な注入治療を可能にするという課題を解決するために、引用発明1の患者接触面60上の円周に沿って等間隔で配置された3本のマイクロ針の先端に形成された3つの吐出口において、引用発明2を適用することにより、3つの吐出口の向きを、それぞれ円周の半径方向外向きに向けることは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、補正発明の3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないようにとの構成について検討すると、請求人は、平成30年5月16日付け上申書において、「さらに、仮に、補正前の請求項1に規定される「半径方向外向き」が、3本のニードルの先端に形成された吐出口がちょうど半径方向外向きと解釈されたとしても(出願人はこの解釈に同意するわけではありませんが)、ニードルの太さや吐出口の深さが3本のニードルで一致していない場合には、3本のニードルの各々の吐出口から薬液が吐出される際にニードル形成体が移動することを阻止することができないというべきです。」と主張しているところ、この主張によれば、3本のニードルの各々の吐出口から薬液が吐出される際にニードル形成体が移動することを阻止することができるための条件は、吐出口の方向の他に、ニードルの太さ、吐出口の深さが3本のニードルで一致していることであると解される。これを前提として引用発明1を検討すると、引用発明1の3本のマイクロ針は同じ太さであって、同じ高さに突出する、すなわち吐出口の深さが同じものである。そうすると、引用発明1に引用発明2を適用した場合には、吐出口の方向、ニードルの太さ、吐出口の深さが3本のニードルで一致することになり、補正発明の3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないようにとの構成を備えるものといえる。 してみると、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことといえる。 (イ)相違点2について ニードルの吐出口を形成する切断面として、ニードルの長手方向に対する傾斜が緩いニードル根元側の切断面と、該ニードルの長手方向に対する傾斜がきついニードル先端側の切断面とを形成することは、優先日前の周知技術といえる。(必要があれば、特開2005-87521号公報(特に【0040】、【図2】を参照。)、特開2008-200528号公報(特に【0046】、【図7】を参照。)、特開2008-154843号公報(特に【0011】、【図1】を参照。)等を参照されたい。) そうすると、引用発明1のマイクロ針の先端の吐出口を形成する切断面において上記周知技術を適用することにより、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 そして、本件明細書に記載された補正発明の効果をみても、引用文献1、2及び周知技術に接した当業者であれば当然に認識できた程度のものであって、格別なものということはできない。 よって、補正発明は引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。 (4)本件補正についての結び 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下すべきものである。 よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 本件補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成29年7月13日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(2)アに示すとおりのものであると認める。 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち本願発明に対する理由は、概ね次のとおりである。 この出願の請求項5に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第5 引用文献の記載及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明1及び2は、上記第2 2(2)に示したとおりである。 第6 対比及び判断 本願発明は、補正発明から「該3本のニードルの各々の吐出口から該薬液が吐出される際に該ニードル形成体が移動しないように」という発明特定事項を削除したものに相当する。すなわち、補正発明は、本願発明の発明特定事項の全てを含んでいる。 そうすると、補正発明が上記第2 2(3)に示したように、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 第7 結び 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-01-16 |
結審通知日 | 2019-01-17 |
審決日 | 2019-01-29 |
出願番号 | 特願2016-151056(P2016-151056) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 吉信、芝井 隆 |
特許庁審判長 |
長屋 陽二郎 |
特許庁審判官 |
内藤 真徳 二階堂 恭弘 |
発明の名称 | 経皮投薬装置及びその装置に使用するニードル形成体 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 飯田 貴敏 |
代理人 | 山本 健策 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 大塩 竹志 |