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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1349984
審判番号 不服2017-12731  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-29 
確定日 2019-03-14 
事件の表示 特願2016-116821「送電線網、及び送電線網の敷設工法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-225205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成28年6月13日に特許出願したものであって、同年6月22日付けで手続補正がなされ、平成29年3月6日付け拒絶理由通知に対して、同年4月26日付けで手続補正がなされたが、同年6月12日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月29日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知に対して、同年12月3日付けで手続補正がなされた。


2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成30年12月3日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「 【請求項1】
既設送電経路に接続された変電設備に、新設発電設備から電力を供給する送電線網において、
前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間のみに敷設された新設送電線と、
前記既設送電経路における前記連系点から変電設備まで敷設された連系送電線と、を有し、
前記新設送電線は、前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間で、新設の鉄塔又は地中に設けられ、
前記連系送電線は、前記既設送電経路に敷設されていた既設送電線のうち、前記連系点から前記変電設備の間のみを、下記の式(1)が成り立つ増容量送電線に張り替えたものであり、
前記既設送電線は2回線で構成され、
前記新設発電設備について、前記変電設備よりも前記既設送電経路における前記連系点の方が近距離であり、
前記既設送電線は、既設の複数の鉄塔に設けられ、
前記増容量送電線が、前記連系点から前記変電設備までの間で、新たな鉄塔が増設されること無く、前記既設送電線が設けられた前記既設の複数の鉄塔に設けられ、
前記増容量送電線は、前記連系点から前記変電設備の間のみに設けられたインバ電線であって、
前記インバ電線の電線断面積、重量、および弛度が張り替え前の前記既設送電線の電線断面積、重量、および弛度と変化が無いことにより、前記既設送電線が設けられた鉄塔の機械的強度を張り替え前と同じにさせ、
前記新設発電設備は、火力発電所であることを特徴とする送電線網。
P3≧P1+P2 (1)
P1は前記既設送電線の送電容量であり、P2は前記新設発電設備の送電容量であり、P3は、前記増容量送電線の送電容量である。」


3.平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知の概要
1)本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、下記の引用例1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

引用例1:四国電力株式会社高知支店、
「再生可能エネルギー発電の系統への連系について」、
第3回高知県新エネルギー導入促進協議会資料、2012年4月13日、
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/030901/files/2012041300238/2012041300238_www_pref_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_70249/pdf
引用例2:電気事業連合会、
「再生可能エネルギー導入拡大に伴う技術的課題と対応策について」、
新エネルギー小委員会(第2回)配付資料、2014年8月11日、
http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/pdf/002_04_00.pdf
(なお、上記URLは、平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知の起案時とは変更されている。)
引用例3:山藤泰、
「図解入門よくわかる最新 スマートグリッドの基本と仕組み[第2版]」、
第1版、日本、株式会社秀和システム、2011年8月20日、第26頁
引用例4:特開平7-211143号公報


4.引用例
(1)引用例1の記載
平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知に引用された上記引用例1には、スライド6に、「特別高圧送電線連系」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「66kVへの連系の場合
・鉄塔の新設及び分岐鉄塔の改造が必要
・地点によっては、数基?数十基の鉄塔新設が必要
・市街地などの鉄塔新設が困難な場合には、地中ケーブルでの連系となる」

イ.「



上記アないしイから、引用例1には、「特別高圧送電線連系」に関して以下の事項が記載されている。
・上記アによれば、66kVへの連系の場合、鉄塔の新設及び分岐鉄塔の改造が必要となるものである。
・上記イの図によれば、メガソーラーなどの発電所から「改造要」と記載された分岐鉄塔までの間に、新設された鉄塔に設けられた送電線が敷設されるものである。
・上記イの図によれば、「変電所」と記載された変電所と図面上の右上に記載された変電所との間の経路に、66kV送電線が敷設され、当該経路の途中に「改造要」と記載された分岐鉄塔が存在し、66kV送電線は、分岐鉄塔を含む複数の鉄塔に設けられるものである。すなわち、2つの変電所の間の経路に、66kV送電線が敷設され、2つの変電所の間の経路の途中に分岐鉄塔が存在し、66kV送電線は、分岐鉄塔を含む複数の鉄塔に設けられるものである。
・上記イの図によれば、66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系は、66kV送電線と新設された鉄塔に設けられた送電線とを含む複数の送電線により、「変電所」と記載された変電所と図面上の右上に記載された変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続することにより行われるものである。したがって、66kV送電線と新設された鉄塔に設けられた送電線とを含む複数の送電線は、66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系を行うために、2つの変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続するものである。
・上記アによれば、鉄塔新設が困難な場合には、地中ケーブルでの連系となるものである。

そうすると、上記摘示事項及びスライド6の図を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系を行うために、2つの変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続する複数の送電線において、
メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線と、
2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線とを、含み、
2つの変電所の間の経路の途中に分岐鉄塔が存在し、66kV送電線は、分岐鉄塔を含む複数の鉄塔に設けられ、
鉄塔新設が困難な場合には、地中ケーブルでの連系となる、複数の送電線。」

また、引用例1のスライド3には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ウ.「1.高圧(6.6kV配電線)への連系工事
・新設配電線工事の実施。(最寄りの配電線から発電所まで)(図1)」

エ.「(図1)配電線を新たに建設するケース



上記ウ、エの記載によれば、引用例1のスライド3には、「新設の配電線で、発電所と既設の配電線とを接続する際に、既設の配電線の経路のうち、発電所から最寄りの地点に接続する」という技術事項が記載されている。

(2)引用例2の記載
平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知に引用された上記引用例2には、スライド11に、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

オ.「○安定的かつ低廉な電気をお届けするため、発電側からお客様の設備に近づくにつれて電圧を下げ、送電容量も需要に見合う量とする効率的なネットワーク設備を形成。
○再生可能エネルギー電源が電力需要の少ない地域で増加すると、既存のネットワーク設備に容量不足が生じて電流を流せなくなるため、設備の増強等の対策を実施。」
カ.スライド11の右下の図には、「再エネ大量導入」により「送電線の容量不足」が生じることが示されている。

上記オ、カの記載によれば、引用例2には、「再生可能エネルギー電源を導入すると、送電線などの既存のネットワーク設備で容量不足が生じ、設備の増強等の対策を実施することが必要となる」という技術事項が記載されている。

(3)引用例3の記載
平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知に引用された上記引用例3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

キ.「再生可能エネルギーを最大限に取り込み、分散型発電も受け入れるためには、既存の送電系統で容量が不足する部分を拡張・新設することが必要となります。系統強化に要する時間とコスト、そして全体の制御が課題です。」(第26頁第2行ないし第4行参照)

上記キの記載によれば、引用例3には、「分散型発電を受け入れるためには、既存の送電系統で容量が不足する部分を拡張することが必要となる」という技術事項が記載されている。

(4)引用例4の記載
平成30年10月25日付け当審の拒絶理由通知に引用された上記引用例4には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ク.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特に既設送電線路の増容量化に有効な低弛度電線及びこの電線の芯線に用いられる送電線用低熱膨張高強度芯線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、架空送電線用ACSR(鋼心アルミ撚線)は芯線の周囲に、アルミ撚線を導体として撚り合せてなるものであり、その送電容量は導体の断面積に比例して増加する。そのため、架空送電線用ACSRの外径が一定条件の下でその送電容量を増加させると、その送電容量の増加に反比例して芯線が小径化するため、張力によってこれが伸びて架線時の弛度増大を招くこととなる。また、この芯線を小径化させることなく、このアルミ導体を耐熱性に優れたアルミ合金に代えることで送電容量を増やす方法も提案されているが、この方法では芯線が送電時の温度上昇によって熱膨張して電線伸びを招き、やはり弛度増大を防止することができない。従って、架空送電線用ACSRの外径が一定の場合、弛度増大を招くことなく送電容量を増大させるためには、引張強度が高く、かつ線膨張係数の小さい芯線が要求される。
【0003】このようなことから、線膨張係数の小さいインバーを芯線として用いたインバーACSRが開発され、既に一部実用化されている。例えば、このインバーACSRとして、特公昭57-17942号(以下、従来例1という)では120kgf/mm^(2) 以上の引張強さを有するACSR用低膨張合金が、また、特公昭57-56164号(以下、従来例2という)では線膨張係数2×10^(-5)から6×10^(-5)/℃のFe-Ni系のオーステナイト単相の合金線が提案されている。
【0004】具体的に説明すると、従来例1は、実用面では亜鉛メッキ後の引張強さが105から110kgf/mm^(2) 以上の亜鉛メッキインバ線を芯線とし、その上に丸形の超耐熱アルミ合金(ZTAL)を導体として撚り合せた亜鉛メッキインバ芯超耐熱アルミ合金撚り線(ZTACIR)が従来のACSR120mm^(2) から1520mm^(2) と同一構成で検討されており、一部サイズでは実線路に使用されている。一方、従来例2は、アルミ被覆後の引張強さが95から105kgf/mm^(2) 以上のアルミ被覆インバ線を芯線とし、その上に扇形の圧縮形特別耐熱アルミ合金線(XTAL)を導体として撚り合せたアルミ被覆インバ心特別耐熱アルミ合金撚り線(XTACIR)であり、特に、このXTACIRでは既設線路の電線の張り替えを行う場合、電線の外径・撚り線の引張荷重を従来電線と同等にするために、アルミ被覆インバ線を太いサイズ化して引張荷重を確保し、XTALを扇形にすることで撚り線外径の増加を防いでいる。」
ケ.「【0052】また、これらの特性は従来芯線No.41と較べると、引張強度に各段の差が見られる。さらに、本発明芯線No.1,2,27および28は、従来芯線よりもさらに30?310℃間の熱膨張係数が低く、導電体であるXTAlの設計耐熱限界(310℃)までの使用が可能となる。また、その他の本発明芯線についても、既設鉄塔の建て替えなしに、送電線を張り替えるためには、ピアノ線と同等の強度を持つことが絶対条件となるので、弛度の点では、従来芯線に同等あるいはやや劣る程度であり、310℃までの使用が困難な点もあるが、それよりも設計上低い送電温度の場合は、張り替えが可能となる。」

上記クによれば、引用例4には、「既設送電線路の増容量化に関して、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電容量を増大させるために、インバーを芯線として用い、電線の外径を従来電線と同等にした送電線に、既設線路の送電線の張り替えを行う」という技術事項が示されている。
また、上記ケの「また、その他の本発明芯線についても、既設鉄塔の建て替えなしに、送電線を張り替えるためには、」との記載から、送電線の「張り替え」が、既設の鉄塔を建て替えることなく、送電線のみ交換することを意味するものであることは、明らかである。


5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「新設された鉄塔に設けられた送電線」は、鉄塔とともに新設されたものであることは明らかであり、本願発明の「新設送電線」に相当する。
また、引用発明の「メガソーラーなどの発電所」は、「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」に接続される前は送電線に接続されていない発電所であるから、新設されたものと解するのが自然である。したがって、引用発明の「メガソーラーなどの発電所」は本願発明の「新設発電設備」に相当する。
ただし、新設発電設備について、本願発明では「火力発電所である」のに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。

b.引用発明の「分岐鉄塔を含む複数の鉄塔」は、「新設された鉄塔」が新設される前から存在するものと解するのが自然であるから、既設のものであり、本願発明の「既設の複数の鉄塔」に相当する。
また、引用発明の「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」は、既設の「分岐鉄塔を含む複数の鉄塔に設けられ」るものであるから、既設のものと解するのが自然であり、本願発明の「既設送電線」に相当する。
さらに、引用発明の「2つの変電所の間の経路」は、既設の「66kV送電線」が敷設されるものであるから、本願発明の「既設送電経路」に相当する。
ただし、既設送電線について、本願発明では「2回線で構成され」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。

c.引用発明の「2つの変電所」は、いずれも「2つの変電所の間の経路」に接続されるものであるから、本願発明の「既設送電経路に接続された変電設備」に対応するものである。
また、引用発明の「複数の送電線」は、「2つの変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続する」ものであるから、網を形成しているものといえ、本願発明の「送電線網」に相当する。
そして、「連系」とは、発電設備から電力を供給するために、発電設備を電力会社の送電線に接続することであるから、引用発明の「メガソーラーなどの発電所」は、「66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系を行うために、2つの変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続する複数の送電線」に接続されることにより、2つの変電所の一方の変電所に電力を供給するものであることは明らかである。したがって、引用発明の「2つの変電所」のうち、メガソーラーなどの発電所から電力を供給される一方の変電所(以下「第1の変電所」という。)は、本願発明の「既設送電経路に接続された変電設備」に相当し、引用発明の「66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系を行うために、2つの変電所とメガソーラーなどの発電所とを接続する複数の送電線」は、本願発明の「既設送電経路に接続された変電設備に、新設発電設備から電力を供給する送電線網」に相当する。

d.引用発明の「分岐鉄塔」は、「2つの変電所の間の経路の途中に」存在し、「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」が接続されるものであるから、「新設された鉄塔に設けられた送電線」と「2つの変電所の間の経路」との接続点であるといえる。さらに、引用発明の「分岐鉄塔」は、「特別高圧送電線連系」に関するものであるから、連系点であるといえる。したがって、引用発明の「分岐鉄塔」は本願発明の「前記既設送電経路との連系点」に相当する。
よって、引用発明の「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」は、本願発明の「前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間のみに敷設された新設送電線」に相当する。
ただし、新設発電設備について、本願発明では、「前記変電設備よりも前記既設送電経路における前記連系点の方が近距離であ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。

e.引用発明の「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」は、「2つの変電所の間の経路の途中に分岐鉄塔が存在」するものであるから、「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」のうち、分岐鉄塔から第1の変電所までの送電線(以下「第1の送電線」という。)を含むものである。そして、引用発明の第1の送電線は、「特別高圧送電線連系」に関するものであるから、連系送電線であり、本願発明の「前記既設送電経路における前記連系点から変電設備まで敷設された連系送電線」に相当する。
したがって、引用発明の「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」は、本願発明の「前記既設送電経路における前記連系点から変電設備まで敷設された連系送電線」に相当する第1の送電線を含むものである。

f.引用発明の「・・・複数の送電線において、・・・新設された鉄塔に設けられた送電線と、・・・2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線とを、含み、」は、「複数の送電線」が「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」に含まれる第1の送電線を含むことになるので、本願発明の「・・・送電線網において、・・・新設送電線と、・・・連系送電線と、を有し、」に相当する。

g.引用発明の「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」は、本願発明の「新設送電線」と同様に、「前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間で、新設の鉄塔」に「設けられ」るものであるといえる。
また、引用発明の「鉄塔新設が困難な場合には、地中ケーブルでの連系となる、」とは、「新設された鉄塔に設けられた送電線」の代わりに、「地中ケーブル」を用いることを意味するものであるから、本願発明の「新設送電線」と同様に、「前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間で、」「地中に設けられ」るものであるといえる。
したがって、引用発明の「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」及び「鉄塔新設が困難な場合には、地中ケーブルでの連系となる、」は、本願発明の「前記新設送電線は、前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間で、新設の鉄塔又は地中に設けられ、」に相当する。

h.引用発明の「2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線」は、本願発明の「前記既設送電経路に敷設されていた既設送電線」に相当する。
ただし、連系送電線について、本願発明では、「前記既設送電経路に敷設されていた既設送電線のうち、前記連系点から前記変電設備の間のみを、下記の式(1)が成り立つ増容量送電線に張り替えたものであり」、式(1)は、「P3≧P1+P2 (1) P1は前記既設送電線の送電容量であり、P2は前記新設発電設備の送電容量であり、P3は、前記増容量送電線の送電容量である」のに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。

i.引用発明の「66kV送電線は、分岐鉄塔を含む複数の鉄塔に設けられ、」は、本願発明の「前記既設送電線は、既設の複数の鉄塔に設けられ、」に相当する。
ただし、増容量送電線について、本願発明では、「前記連系点から前記変電設備までの間で、新たな鉄塔が増設されること無く、前記既設送電線が設けられた前記既設の複数の鉄塔に設けられ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。
また、増容量送電線について、本願発明では、「前記連系点から前記変電設備の間のみに設けられたインバ電線であって、前記インバ電線の電線断面積、重量、および弛度が張り替え前の前記既設送電線の電線断面積、重量、および弛度と変化が無いことにより、前記既設送電線が設けられた鉄塔の機械的強度を張り替え前と同じにさせ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない。

上記aないしiから、本願発明と引用発明とは、次の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「既設送電経路に接続された変電設備に、新設発電設備から電力を供給する送電線網において、
前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間のみに敷設された新設送電線と、
前記既設送電経路における前記連系点から変電設備まで敷設された連系送電線と、を有し、
前記新設送電線は、前記新設発電設備から前記既設送電経路との連系点までの間で、新設の鉄塔又は地中に設けられ、
前記既設送電線は、既設の複数の鉄塔に設けられることを特徴とする送電線網。」

<相違点1>
連系送電線について、本願発明では、「前記既設送電経路に敷設されていた既設送電線のうち、前記連系点から前記変電設備の間のみを、下記の式(1)が成り立つ増容量送電線に張り替えたものであり」、式(1)は、「P3≧P1+P2 (1) P1は前記既設送電線の送電容量であり、P2は前記新設発電設備の送電容量であり、P3は、前記増容量送電線の送電容量である」のに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。

<相違点2>
既設送電線について、本願発明では「2回線で構成され」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。

<相違点3>
新設発電設備について、本願発明では、「前記変電設備よりも前記既設送電経路における前記連系点の方が近距離であ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。

<相違点4>
増容量送電線について、本願発明では、「前記連系点から前記変電設備までの間で、新たな鉄塔が増設されること無く、前記既設送電線が設けられた前記既設の複数の鉄塔に設けられ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。

<相違点5>
増容量送電線について、本願発明では、「前記連系点から前記変電設備の間のみに設けられたインバ電線であって、前記インバ電線の電線断面積、重量、および弛度が張り替え前の前記既設送電線の電線断面積、重量、および弛度と変化が無いことにより、前記既設送電線が設けられた鉄塔の機械的強度を張り替え前と同じにさせ」るのに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。

<相違点6>
新設発電設備について、本願発明では「火力発電所である」のに対し、引用発明ではその旨の特定はされていない点。


6.判断
そこで、上記相違点1ないし6について検討する。

相違点1、4、5について
引用例2(上記「4.(2)」を参照。)及び引用例3(上記「4.(3)」を参照。)にそれぞれ記載されているように、新設発電設備を導入して既存の送電系統に接続する場合、既存の送電系統で容量が不足する場合があり、その場合に系統の拡張が必要となるということは、周知の課題である。
また、引用例4(上記「4.(4)」を参照。)に記載されるように、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電線の容量を増加するための手法として、既設の鉄塔を建て替えることなく、送電線の外径を既設送電線と同等にしたインバ電線に、既設送電線を張り替える手法を用いることは、周知の技術事項である。
したがって、上記周知の課題を考慮すると、引用発明において、メガソーラーなどの発電所が導入されたことにより、分岐鉄塔から第1の変電所までの送電線である第1の送電線(本願発明の「連系送電線」に相当)において、容量が不足する場合があり、系統の拡張、すなわち、送電線の容量の増加が必要となるという課題が生じるものであるから、当該課題を解決するために、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電線の容量を増加するための手法である上記周知の技術事項を適用し、第1の送電線を、既設の鉄塔を建て替えることなく、送電線の外径を張り替え前の送電線と同等にしたインバ電線、すなわち、電線断面積が張り替え前の送電線の電線断面積と変化が無いインバ電線に張り替えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、第1の送電線のインバ電線への張り替えは、メガソーラーなどの発電所を導入したことによる送電線の容量の不足を解決するために行うものである以上、張り替え後のインバ電線(本願発明の「増容量送電線」に相当)の送電容量(本願発明の「P3」に相当)を、張り替え前の送電線の送電容量(本願発明の「P1」に相当)に、メガソーラーなどの発電所の送電容量(本願発明の「P2」に相当)を加えた値以上にすることにより、上記相違点1の構成とすることは、当業者が通常なし得る程度のことである。
また、第1の送電線のインバ電線への張り替えは、既設の鉄塔を建て替えることなく行われるものであるから、張り替え後のインバ電線(本願発明の「増容量送電線」に相当)は、新たな鉄塔が増設されること無く、第1の送電線が設けられていた既設の鉄塔に設けられるものである。そして、張り替え後のインバ電線が設けられる区間の既設の鉄塔の個数は、当該区間の長さなどに依存して決定されるものであるから、張り替え後のインバ電線が設けられる区間の既設の鉄塔の個数を複数にすることで、上記相違点4の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
さらに、第1の送電線のインバ電線への張り替えは、既設の鉄塔を建て替えることなく行われるものであるから、鉄塔の機械的強度が張り替え前と同じであることは、明らかである。また、第1の送電線のインバ電線への張り替えは、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電線の容量を増加するための手法により、既設の鉄塔を建て替えることなく行われるものである以上、張り替え後のインバ電線(本願発明の「増容量送電線」に相当)について、電線断面積だけでなく弛度も、張り替え前の送電線と変化が無いものとすることや、既設の鉄塔に与える荷重が大きくならないように、重量も張り替え前の送電線と変化が無いものとすることで、上記相違点5の構成とすることは、当業者が通常なし得る程度のことである。

なお、審判請求人は、平成30年12月3日付け意見書において、「また、引用文献4には、既設送電線路の増容量化のために既設線路の電線の張り替えを行う場合に、『アルミ被覆インバ線を太いサイズ化して引張荷重を確保し、XTALを扇形にすること』が記載されていますが、『増容量送電線としてのインバ電線の電線断面積、重量、および弛度が張り替え前の既設送電線の電線断面積、重量、および弛度と変化が無いことにより、既設送電線が設けられた鉄塔の機械的強度を張り替え前と同じにさせる』ことについては、記載されていません。特に、引用文献4には、インバ線の『弛度』を張り替え前の既設送電線と同じにすることについては、記載も示唆もされていません。・・・(中略)・・・したがって、引用文献1に係る発明に引用文献2乃至4に開示された技術的事項を組み合わせたとしても、本願発明に容易に想到することはないと言えます。」との主張をしている。
しかし、引用例4に示される技術事項(上記「4.(4)」を参照。)は、「既設送電線路の増容量化に関して、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電容量を増大させるために、インバーを芯線として用い、電線の外径を従来電線と同等にした送電線に、既設線路の送電線の張り替えを行う」ものであり、弛度増大を招くことなく送電容量を増大させる技術であるから、インバ線の「弛度」を張り替え前の既設送電線と同じにすることが示唆されているものといえる。
また、引用例4に示される技術事項(上記「4.(4)」を参照。)は、「既設線路の送電線の張り替えを行う」ものであって、「既設鉄塔の建て替えなしに、送電線を張り替える」ものであるから、引用発明に、引用例4に示される技術事項に基づく周知技術を適用するにあたり、上述したとおり、既設の鉄塔に与える荷重が大きくならないように、重量も張り替え前の送電線と変化が無いものとすることは、当業者が通常なし得る程度のことである。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

また、上記相違点5に関して、既設の鉄塔を利用して送電線の容量を増加するための手法として、外径(本願発明の「電線断面積」に相当)、質量(本願発明の「重量」に相当)、および弛度レベル(本願発明の「弛度」に相当)が既存の送電線と変化がないインバ電線を用いることは、例えば、「桜井隆、『電力設備の高効率・高耐久性化と材料』、まてりあ第41巻第2号、2002年、第74頁?第77頁、」(「3.送電設備」の「(1)架空送電線」を参照)や、「鈴木和素、『インバー線の架空送電線への応用』、まてりあ第36巻第11号、1997年、第1075頁?第1079頁、」(「1.まえがき」を参照)に、それぞれ記載されているように、周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、第1の送電線に対して、既設の鉄塔を利用して送電線の容量を増加するための手法として、当該周知の技術事項を適用し、外径、質量、および弛度レベルが既存の送電線と変化がないインバ電線を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点2について
鉄塔に設けられる送電線を、いわゆる平行2回線の送電線のように、2回線で構成することは、例を挙げるまでもなく周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、当該周知の技術事項を適用して、2つの変電所の間の経路に敷設された66kV送電線(本願発明の「既設送電線」に相当)を2回線で構成することで、上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点3について
引用例1のスライド3に、新設の配電線で、発電所と既設の配電線とを接続する際に、既設の配電線の経路のうち、発電所から最寄りの地点に接続するという技術事項(上記「4.(1)」を参照。)が記載されているように、送電線や配電線を新設する際に、新設する電線の距離を最小にすることは、一般的な事項である。
そして、引用発明において、メガソーラーなどの発電所から第1の変電所までの距離よりも、発電所から分岐鉄塔までの距離の方が長い場合には、発電所から分岐鉄塔まで新設の送電線を設けるよりも、発電所から第1の変電所まで新設の送電線を設けた方が、新設する電線の距離が短くなるのであるから、メガソーラーなどの発電所(本願発明の「新設発電設備」に相当)から第1の変電所(本願発明の「変電設備」に相当)までの距離よりも、メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔(本願発明の「連系点」に相当)までの距離の方が短い場合(本願発明の「連系点の方が近距離」)にのみ、引用発明の「メガソーラーなどの発電所から分岐鉄塔までの間に敷設され、新設された鉄塔に設けられた送電線」(本願発明の「新設送電線」に相当)を設ける構成にすることで、上記相違点3の構成とすることは、当業者が通常なし得る程度のことである。

相違点6について
引用例1は、「再生可能エネルギー発電の系統への連系について」(スライド1参照)のものであるため、引用発明の「メガソーラーなどの発電所」は、必ずしも火力発電所を含むものではないものの、引用発明は、技術的には発電所の種類に依存するのではないため、「メガソーラーなどの発電所」としては、再生可能エネルギー発電に限られず、任意の発電所が利用可能であることは、当業者にとって明らかである。そして、一般に、発電所として火力発電所を選定することは、例を挙げるまでもなくごく普通に行われていることであるから、引用発明において、「メガソーラーなどの発電所」として火力発電所を選定することで、上記相違点6の構成とすることに、格別な想到困難性は存在しない。

なお、審判請求人は、平成30年12月3日付け意見書において、「更に、上述したように、引用文献1乃至3に開示された技術は、新設の発電設備として、再生可能エネルギーの発電所を想定しており、一般的に再生可能エネルギーの発電所よりも発電容量の大きい火力発電所を想定したものではありません。また、引用文献4は、既設線路の電線の張り替える場合の一つの選択肢としてアルミ被覆インバ線が例示されているに止まり、新設の火力発電所を既設送電網に連系することや、新設の火力発電所を既設送電網に連系する際の既設送電線の張り替えに最適な電線としてインバ線を用いることについては、記載も示唆もされていません。したがって、引用文献1に係る発明に引用文献2乃至4に開示された技術的事項を組み合わせたとしても、本願発明に容易に想到することはないと言えます。」との主張をしている。
しかし、上述したとおり、引用発明は、技術的には発電所の種類に依存するのではないため、「メガソーラーなどの発電所」としては、再生可能エネルギー発電に限られず、任意の発電所が利用可能であることは、当業者にとって明らかである。
加えて、引用発明は「66kVへの連系の場合の特別高圧送電線連系」を行うものであるところ、引用例1のスライド2(「連系の区分」に関する表を参照)にも記載されているように、「66kVへの連系」は、発電容量が大きい場合(引用例1のスライド2では「10,000kW以上」)に適用されるものであることは技術常識である。したがって、引用発明において、「66kVへの連系」を行う「メガソーラーなどの発電所」は、火力発電所と同様に発電容量の大きい発電所である。
よって、引用発明において、「メガソーラーなどの発電所」として火力発電所を選定することに、格別な想到困難性は存在しない。
また、引用例4に示される技術事項(上記「4.(4)」を参照。)は、送電線の外径を一定とし、弛度増大を招くことなく送電線の容量を増加するための手法に関する技術であるところ、引用発明において、第1の送電線の容量の増加が必要となるという課題が生じることが、メガソーラーや火力発電所などの発電所の種類に依存するものではないことは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用例1に開示された技術が、「新設の発電設備として、再生可能エネルギーの発電所を想定しており、一般的に再生可能エネルギーの発電所よりも発電容量の大きい火力発電所を想定したもの」ではなく、引用例4に、「新設の火力発電所を既設送電網に連系することや、新設の火力発電所を既設送電網に連系する際の既設送電線の張り替えに最適な電線としてインバ線を用いることについては、記載も示唆もされてい」ないとしても、引用発明において、「メガソーラーなどの発電所」として火力発電所を選定するとともに、引用例4に示されるような上記周知の技術事項を適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

そして、上記相違点1ないし6を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用発明と周知の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明および周知の技術事項により当業者が容易になし得たものである。


7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-07 
結審通知日 2019-01-15 
審決日 2019-01-28 
出願番号 特願2016-116821(P2016-116821)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 東 昌秋
國分 直樹
発明の名称 送電線網、及び送電線網の敷設工法  
代理人 上島 類  
代理人 住吉 秀一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  

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