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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1350051
審判番号 不服2018-8404  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-19 
確定日 2019-04-09 
事件の表示 特願2014- 43312「水性防錆塗装金属製品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月28日出願公開、特開2015-168729、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年3月5日の出願であって、平成29年9月13日付で拒絶理由が通知され、同年11月16日に意見書が提出されたが、平成30年3月30日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年6月19日に手続補正書が提出されると同時に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1?2に係る発明は、平成30年6月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのもの(以下、それぞれ、「本願発明1」、「本願発明2」ともいう。)である。

「【請求項1】
水性防錆塗料を施したコンクリートに埋設される水性防錆塗装金属製品であって、
前記水性防錆塗料が、エポキシ樹脂エマルションと、水溶性アクリル樹脂と、水性防錆剤と、水性湿潤剤と、を含有し、
前記エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と前記水溶性アクリル樹脂との総量に対する前記エポキシ樹脂エマルションを構成するエポキシ樹脂量の割合が30質量%以上であり、
前記エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と前記水溶性アクリル樹脂との総量の前記水性防錆塗料に対する割合が10質量%以上40質量%以下であり、
前記水性防錆剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下であると共に、
前記水性湿潤剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下であって、
前記水溶性アクリル樹脂のガラス転移点が0℃以上125℃以下であり、かつ、
前記水溶性アクリル樹脂の酸価が80mg/KOH以上240mg/KOH以下であり、
前記水性防錆塗装金属製品表面の前記水性防錆塗料の乾燥後の膜厚が3μm以上20μm以下であることを特徴とするコンクリートに埋設される水性防錆塗装金属製品。
【請求項2】
前記水性湿潤剤が、ポリエーテル変性シリコーン系水性湿潤剤であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートに埋設される水性防錆塗装金属製品。」

第3 判断

1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1?2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、刊行物として下記の引用文献1?3を引用するものである。
なお、原査定時の請求項3に係る発明のうち、請求項1を引用する発明が、本願発明1に対応し、請求項2を引用する発明が、本願発明2に対応するものである。

引用文献1: 特開2004-277664号公報
引用文献2: 特開昭63-223093号公報
引用文献3: 特開2010-065241号公報

2 引用文献の記載事項
(1)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2004-277664号公報(引用文献1)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(I)カチオン性水性エポキシ樹脂及び(II)カチオン性又はノニオン性の水性アクリル樹脂を含む水性塗料組成物であって、該水性アクリル樹脂(II)の量が、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)の合計固形分量100重量部に対して5?90重量部の範囲内である水性塗料組成物。
【請求項2】
カチオン性水性エポキシ樹脂(I)が、数平均分子量が1500?10000、エポキシ当量が150?5000であるエポキシ基含有樹脂(A)と、第1級及び/又は第2級アミン化合物(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)とを反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂を水中に分散させることにより得られるものである請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
水性アクリル樹脂(II)が、カチオン性水性アクリルシリコン樹脂である請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
金属板上に、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して形成された塗装金属板。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属板、特に亜鉛/アルミニウム系メッキ鋼板等に対して耐食性と耐候性に優れる保護被膜を形成し得る非クロム系の水性塗料組成物、及び該組成物の塗膜が形成されてなる塗装金属板に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
コイルコーティングなどによって塗装されたプレコート鋼板などのプレコート金属板は、建築物の屋根、壁、シャッター、ガレージなどの建築資材、各種家電製品、配電盤、冷凍ショーケース、鋼製家具及び厨房器具などの住宅関連商品として幅広く使用されている。従来、プレコート鋼板の塗膜中には耐食性向上のためクロム系の防錆顔料を含ませることが行われていた。しかしながら、クロム系の防錆顔料は人体に悪影響を与えるので環境保護の観点から問題となっている。
【0003】
一方、近年、塗料分野において有機溶剤型から水系への転換も進められており、プレコート鋼板用塗料において水性の非クロム系の塗料の開発が望まれている。かかる塗料に使用される材料として、本発明者らは先に特許文献1等を提案したが、該組成物では耐候性が不十分な場合があった。
【特許文献1】特開2003-034713号公報
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、非クロム系であって、耐食性、耐候性を共に満足する優れた塗膜を形成できる水性塗料を得るために鋭意研究を行った結果、カチオン性水性エポキシ樹脂に水性アクリル樹脂を特定量併用させた塗料組成物により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
1.(I)カチオン性水性エポキシ樹脂及び(II)カチオン性又はノニオン性の水性アクリル樹脂を含む水性塗料組成物であって、該水性アクリル樹脂(II)の量が、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)の合計固形分量100重量部に対して5?90重量部の範囲内である水性塗料組成物、
2.カチオン性水性エポキシ樹脂(I)が、数平均分子量が1500?10000、エポキシ当量が150?5000であるエポキシ基含有樹脂(A)と、第1級及び/又は第2
級アミン化合物(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)とを反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂を水中に分散させることにより得られるものである1項に記載の水性塗料組成物、
3.水性アクリル樹脂(II)が、カチオン性水性アクリルシリコン樹脂である1項または2項に記載の水性塗料組成物、
4.金属板上に、1項ないし3項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して形成された塗装金属板、
に関する。」
「【0039】
上記水性塗料組成物は、さらに必要に応じて、酸化ケイ素、カルシウム又はカルシウム化合物、難溶性リン酸化合物、モリブデン酸化合物、含イオウ有機化合物等の非クロム系防錆剤、硬化触媒、顔料類、塗料用としてそれ自体既知の消泡剤、塗面調整剤、沈降防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定化剤などの添加剤を含有していてもよい。」
「【0044】
本発明組成物による塗膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常0.5?10μm、好ましくは1?5μmの範囲で使用される。塗膜の乾燥は、使用する樹脂の種類などに応じて適宜設定すればよいが、コイルコーティング法などによって塗装したものを連続的に焼付ける場合には、通常、素材到達最高温度が50?250℃、好ましくは80?200℃となる条件で0.1?60秒間焼付けられる。バッチ式で焼付ける場合には、例えば、雰囲気温度80?140℃で10?30分間焼付けることによっても行うことができる。」
「【0046】
【実施例】以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
カチオン性水性エポキシ樹脂の製造
製造例1
温度計、攪拌機、冷却管を備えたガラス製4つ口フラスコに、エピコート1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量約1930、数平均分子量2900)787.4部及びプロピレングリコールモノブチルエーテル425部を加え、110℃まで昇温して攪拌混合し、液が均一透明になった後100℃に冷却し、ジエタノールアミン20.7部を加えて100℃の温度に1時間保持した。その後、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(分子量84)16.5部を加え100℃の温度に5時間保持した後プロピレングリコールモノブチルエーテル250部を加えて変性エポキシ樹脂溶液を得た。さらに該変性エポキシ樹脂溶液205.6部に対して「タケネートB-882N」(商品名、武田薬品工業社製、ヘキサメチレンジイソシアネート系ブロックイソシアネート硬化剤、固形分70%)16.9部、「Scat-24」(商品名、三共有機合成株式会社製、ジブチル錫ジラウレート、固形分100%)0.36部配合した後、これにリン酸3.75部を加え、水を滴下しながら混合し、固形分濃度20%のカチオン型水性エポキシ樹脂分散液(I-1)を得た。」
「【0049】
【表1】


【0050】
(注1)「カネビノールKD-20」:商品名、日本NSC社製、水性カチオン型アクリルシリコン樹脂、粘度:1500mPa・s、Tg:45℃
(注2)「ヨドゾールAF-958」:商品名、日本NSC社製、水性カチオン型アクリル樹脂、粘度:500mPa・s、Tg:16℃
(注3)「ポリゾールAE-710」:商品名、昭和高分子社製、ノニオン型アクリル樹脂、粘度:50mPa・s、Tg:8℃
(注4)「KBM-3063」:商品名、信越化学工業社製、ヘキシルトリメトキシシラン
(注5)「KBM-7103」:商品名、信越化学工業社製、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン
【0051】
【発明の効果】
本発明の水性塗料組成物によれば、塗膜形成時に基材側にエポキシ樹脂成分が、表層側にアクリル樹脂成分が配向され、擬似2層構造を有する塗膜を形成することが可能である。本発明の水性塗料組成物を1回あるいは複数回塗装するのみでこのような擬似複層構造を有する塗膜が形成でき、耐食性と耐候性を両立することができる。本発明の水性塗料組成物はプレコート塗装金属板に特に好適に使用でき、該塗装金属板は、耐候性に優れるので屋外用途、例えば、住宅の屋根、壁、シャッター、ガレージなどの建築材料に使用することができる。」

(2)
原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-223093号公報(引用文献2)には、以下の事項が記載されている。
「(1)酸価20?160、ガラス転移温度5?100℃のアクリル系樹脂を75?97.7重量%と、防錆剤としてスルホンアミドカルボン酸と環状アミンとの混合物を0.3?5重量%と、撥水剤を2?20重量%とから成る、防錆性に優れた潤滑処理鋼材用塗料組成物。」(特許請求の範囲)
「(産業上の利用分野)
本発明は、プレス加工される鋼板(例えば、熱延酸洗鋼板、冷延鋼板、メッキ鋼板、ステンレス鋼板等)あるいは鋼管(本明細書では、これら鋼板、鋼管などのプレス加工用鋼素材を総称して鋼材という)の潤滑処理用の防錆性、特にスタック時の防錆性に優れた塗料組成物に関する。」(1頁左下欄16行-右下欄2行)
「 本発明者らは、従来の潤滑処理鋼材に多発している発錆現象について調査検討した結果、この発錆のメカニズムは、主として、鋼板あるいは鋼管が積み重ねられた条件下(スタック条件下)で鋼材間にできる隙間において大気中よりの水蒸気が結露し、この凝縮した水分の作用とスタック条件での荷重の作用により、この隙間で被膜損傷が起こり、さらに水分存在による電池作用も寄与して鋼材の発錆が加速される結果、発錆が多発することを突き止めた。つまり、従来より行われている単なる暴露条件に対応した防錆対策、すなわち、有機被膜で鋼材と大気とを遮断するだけでは、特にスタック条件下での潤滑処理鋼材の防錆力向上には必ずしも有効ではないことを見出した。
そこで、本発明者らは、前記メカニズムに対応した防錆力を発揮でき、しかも上述した他の特性、すなわち、潤滑性、脱脂洗浄性、耐ブロッキング性の点でも満足できる潤滑処理鋼材用の塗料組成物を提供すべくさらに研究した結果、特定の特性を示すアクリル系樹脂に特定の防錆剤および撥水剤を添加した組成物が最適であることを見出し、本発明を完成した。
ここに、本発明は、酸価20?160、ガラス転移温度5?100℃のアクリル系樹脂を75?97.7重量%と、防錆剤としてスルホンアミドカルボン酸と環状アミンとの混合物を0.3?5重量%と、撥水剤を2?20重量%とから成る、防錆性に優れた潤滑処理鋼材用塗料組成物である。」(2頁右上欄3行-左下欄10行)
「本発明の塗料組成物で使用するアクリル系樹脂は、酸価が20?160 、望ましくは40?120、ガラス転移温度が5?100℃、望ましくは10?85℃のものである。樹脂の酸価が20未満では、得られる樹脂被膜のアルカリ性溶液による脱脂洗浄性(脱膜性)が十分でない。一方、樹脂の酸価が160を超えると被膜の防錆性が非常に低下する。アクリル系樹脂のガラス転移温度は、5℃未満であると、樹脂の粘着性が大きすぎて、被膜の耐ブロッキング性が劣化し、100℃を超えると、樹脂の造膜性が悪化して防錆性が低下すると共に、脱脂洗浄性も低下する。」(第2頁右下欄6?17行)
「(発明の効果)
本発明の塗料組成物により鋼材を塗装し、乾燥すると、アクリル系樹脂が鋼材上に防錆剤および撥水剤を保持した状態で塗膜が形成される。本発明の組成物から得られた塗膜はプレス加工に十分な潤滑性を有している。この潤滑性は大部分は、アクリル系樹脂被膜自体に起因するものであり、これに撥水剤が添加されたことにより潤滑性は一層向上する。
本発明の潤滑処理鋼材用塗料組成物は、上述したプレス時の潤滑性に加えて、潤滑処理鋼材用の塗料に求められるその他の特性、すなわち潤滑処理鋼材の製造時からプレス後に脱脂洗浄するまでの間の防錆性、脱脂洗浄性および耐ブロッキング性にも優れ、以上の特性を同時に満足する。防錆性に関しては、特に従来の潤滑処理用鋼材の弱点であったスタック時の防錆性にも優れているため、潤滑処理鋼板の製造時、貯蔵中、輸送中、プレス時およびプレス後のいずれにおいても錆の発錆が抑制される。このスタック時の防錆性は、本発明によりアクリル系樹脂に防錆剤と撥水剤の両者を添加することにより初めて達成されるこの両者の相乗作用によるもので、一方が欠けてはこの効果は十分に達成されない。」(第4頁左下欄10?右下欄13行)


」(第5頁、第1表)

(3)
原査定の拒絶の理由で引用された特開2010-065241号公報(引用文献3)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)有機樹脂、
(B)バルブメタル化合物、
(C)ポリエーテル変性シリコーン、および
(D)水を含む、水性エマルション処理液であって、
前記(A)有機樹脂のエマルション粒子径は、10?100nmであり、
前記(B)バルブメタル化合物の含有量は、前記(A)有機樹脂100質量部に対し、0.1?5質量部であり、
前記(C)ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、前記(A)有機樹脂と(D)水の合計100質量部に対し、0.01?3.0質量部である、水性エマルション処理液。
【請求項2】
前記(C)ポリエーテル変性シリコーンは、分子中のSi原子の数とポリエーテル基の数の比率が、モル比にして1:0.001?1である、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
前記(A)有機樹脂は、ウレタン樹脂またはアクリル樹脂である、請求項1に記載の処理液。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルション処理液およびそれを用いた化成処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
外装材、内装材、表装材、車両用鋼板等には、耐食性の良好なめっき鋼板が使用されている。しかしながら、めっき鋼板は、湿潤雰囲気、排ガス雰囲気、海塩粒子飛翔雰囲気等に長期間曝されると、めっき鋼板の表面に白錆が発生する。白錆の発生は外観を著しく劣化させる。
【0003】
めっき鋼板の耐食性を向上させるため、例えば特許文献1には、有機樹脂、バルブメタル化合物、アンモニウム塩及び/又はアミン類を含む化成処理液で処理されためっき鋼板が開示されている。この化成処理鋼板は、化成処理皮膜中の全窒素に対するNCO基を構成する窒素の比率(窒素比)が0.8?0.95の範囲にあることを特徴とし、耐食性、対アルカリ性に優れるとされる。
【特許文献1】特開2005-226155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、特許文献1に記載されている化成処理鋼板について予備的に耐食性試験を行った。その結果、特許文献1に記載されている化成処理鋼板は、JIS Z237に準じた、雰囲気温度が50℃未満での塩水噴霧試験では良好な耐食性を維持できるが、夏季の倉庫内や輸出時の船倉保管を模擬した雰囲気温度が50℃以上、相対湿度が90%以上の高温高湿環境下では耐食性が劣ることが明らかとなった。高温高湿環境下で耐食性が低下した原因は、化成処理皮膜中の樹脂とバルブメタル化合物の界面から水分が浸透し易くなったためと推察された。
【0005】
すなわち、高温高湿環境下で耐食性に優れる化成処理鋼板が望まれていたものの、いまだ満足のゆく化成処理鋼板は存在しなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、めっき鋼板を化成処理した際に、高温高湿環境下での耐食性に優れる化成処理鋼板を与える(単に「高温高湿環境下での耐食性に優れる」ともいう)、水性エマルション処理液、およびこれにより化成処理された化成処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリエーテル変性シリコーンを含み、かつ有機樹脂エマルションの粒径が特定の範囲にある水性エマルション処理液により上記課題が解決できることを見出した。すなわち前記課題は、以下の水性エマルション処理液およびそれを用いた化成処理鋼板により解決される。」
「【0010】
(1) (A)有機樹脂
有機樹脂とは、有機高分子化合物である。有機樹脂は、めっき鋼板に塗布されて、化成処理皮膜を形成する。有機樹脂の例には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、ポリスチレン樹脂、またはこれらの変性物が含まれる。本発明においては、前記有機樹脂の2種以上を併用してもよい。
【0011】
本発明の有機樹脂としてはウレタン樹脂またはアクリル樹脂が好ましい。入手が容易であって、かつエマルションを調製しやすいからである。ウレタン樹脂とは、分子内にウレタン結合を有する樹脂の総称であり、通常は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られる。
ポリイソシアネートの例には、以下のものが含まれる。
フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、またはナフタレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート。
シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、またはテトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート。」
「【0015】
本発明の処理液は、鋼板の表面に塗布された後、乾燥されて化成処理皮膜を形成するが、その際に、ポリエーテル変性シリコーンが皮膜表面へ移動する。この結果、化成処理皮膜の表面近傍にポリエーテル変性シリコーンの濃化層が形成される。ポリエーテル変性シリコーンは疎水性が高いため、この濃化層により、化成処理皮膜に水が侵入しにくくなる。その結果、本発明の処理液で処理された化成処理鋼板は高温高湿下での耐水性に優れる。」
「【0029】
(3) (C)ポリエーテル変性シリコーン
ポリエーテル変性シリコーンとは、ポリシロキサン結合からなる主鎖を有するシリコーンであって、その末端または側鎖にポリエーテル基を有するシリコーンをいう。ポリシロキサン結合からなる主鎖を有するシリコーンの例には、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンにおける一部のメチル基が、他のアルキル基またはアリーレン基であるシリコーンが含まれる。
【0030】
ポリエーテル基は、シリコーンの親水性を高め、本発明の処理液においてシリコーンの分散性を安定させる役割を担う。
この他に、シリコーンの変性に用いられる基としては、アミノ基、カルボキシル基、またはメルカプト基が知られている。これらの基は、シリコーンの親水性を高める役割を果たすものの、本発明のバルブメタル化合物と反応しやすい。そのため、前記(A)成分と(B)成分とアミノ基等で変性されたシリコーンを含む処理液は、化成処理皮膜とされた際にシリコーンが皮膜中を移動しにくい。これに対し、本発明の処理液は、ポリエーテル基で変性されたシリコーンを採用するため、バルブメタル化合物と反応しにくく、シリコーンが皮膜の表層部へ移動しやすい。」


3 引用発明の認定

引用文献1には、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4に係る発明と共に、発明の属する技術分野について、金属板、特に亜鉛/アルミニウム系メッキ鋼板等に対して耐食性と耐候性に優れる保護被膜を形成し得る非クロム系の水性塗料組成物、及び該組成物の塗膜が形成されてなる塗装金属板に関するものであること(段落【0001】)、上記水性塗料組成物は、さらに必要に応じて、含イオウ有機化合物等の非クロム系防錆剤、塗面調整剤等の添加剤を含有していてもよいこと(【0039】)、当該発明組成物による塗膜の膜厚は通常0.5?10μmであること(【0044】)、が記載されている。また、実施例1?14で使用したカチオン性又はノニオン性の水性アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が45℃、16℃、または、8℃であったこと(【0050】)が記載されている。
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(I)カチオン性水性エポキシ樹脂及び(II)カチオン性又はノニオン性の水性アクリル樹脂を含む水性塗料組成物を金属板上に塗装して、耐食性と耐候性に優れる保護被膜が形成された塗装金属板であって、
該水性塗料組成物において、水性アクリル樹脂(II)の量が、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)の合計固形分量100重量部に対して5?90重量部の範囲内であり、
カチオン性水性エポキシ樹脂(I)が、数平均分子量が1500?10000、エポキシ当量が150?5000であるエポキシ基含有樹脂(A)と、第1級及び/又は第2級アミン化合物(B)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)とを反応させることにより得られる変性エポキシ樹脂を水中に分散させることにより得られるものであり、
水性アクリル樹脂(II)のガラス転移温度が、45℃、16℃、又は、8℃であり、
該水性塗料組成物は、含イオウ有機化合物等の非クロム系防錆剤、塗面調整剤等の添加剤を含有し、
塗膜の膜厚は0.5?10μmである、
塗装金属板。」


4 対比

本願発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「カチオン性水性エポキシ樹脂(I)」は、変性エポキシ樹脂を水中に分散させることにより得られるものであるから、変性エポキシ樹脂のエマルションといえるものであり、本願発明1の「エポキシ樹脂エマルション」に相当する。
引用発明の「水性アクリル樹脂」は、本願発明1の「水溶性アクリル樹脂」に相当する。
引用発明の「含イオウ有機化合物等の非クロム系防錆剤」は、「水性塗料組成物」に含まれているものであるから、本願発明1の「水性防錆剤」に相当する。
本願発明1の「水性防錆塗料」と、引用発明の「水性塗料組成物」とは、水性塗料という点で共通する。
引用発明の「塗装金属板」は、水性塗料組成物を塗装したものであるから、本願発明1の「水性塗装金属製品」に相当する。
引用発明の「(II)カチオン性又はノニオン性の水性アクリル樹脂のガラス転移温度が、45℃、16℃、または、8℃」は、本願発明1の「前記水溶性アクリル樹脂のガラス転移点が0℃以上125℃以下」に相当する。
引用発明の「塗膜の膜厚は0.5?10μm」は、本願発明1の「前記水性防錆塗装金属製品表面の前記水性防錆塗料の乾燥後の膜厚が3μm以上20μm以下」を、3μm以上10μm以下の範囲で充足する。

引用発明は、「該水性アクリル樹脂(II)の量が、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)の合計固形分量100重量部に対して5?90重量部の範囲内」であるから、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)の含有割合は、カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)の合計固形分量100重量部に対して95?10重量部(10?95質量%)である。
したがって、引用発明は、本願発明1の「前記エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と前記水溶性アクリル樹脂との総量に対する前記エポキシ樹脂エマルションを構成するエポキシ樹脂量の割合が30質量%以上」を、30?95質量%の範囲で充足する。

本願発明1の「水性湿潤剤」は、実施例(【表5】)で具体的に使用している水性湿潤剤A?E(【表4】)からみて、界面活性剤、分散剤、表面調整剤(塗面調整剤)等の固体の表面を濡れやすくする作用を増大するものということができる。一方、引用発明の「塗面調整剤」も、水性塗料組成物に含まれるものであり、金属板の表面を濡れやすくする作用を増大するものといえるから、本願発明1の「水性湿潤剤」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「水性塗料を施した水性塗装金属製品であって、
前記水性塗料が、エポキシ樹脂エマルションと、水溶性アクリル樹脂と、水性剤と、水性湿潤剤と、を含有し、
前記エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と前記水溶性アクリル樹脂との総量に対する前記エポキシ樹脂エマルションを構成するエポキシ樹脂量の割合が30質量%以上であり、
前記水溶性アクリル樹脂のガラス転移点が0℃以上125℃以下であり、かつ、
前記水性塗装金属製品表面の前記水性塗料の乾燥後の膜厚が3μm以上20μm以下であることを特徴とする
水性塗装金属製品。」

(相違点1)
水性塗料の用途について、本件発明1は、「防錆塗料」であることが規定されているのに対し、引用発明の「水性塗料組成物」は、「防錆」であることは規定されていない点。
(相違点2)
水性防錆剤の水性塗料に対する割合について、本願発明1は、「0.1質量%以上5質量%以下」と特定されているのに対し、引用発明の「非クロム系防錆剤」の割合は不明である点。
(相違点3)
水性湿潤剤の水性塗料に対する割合について、本願発明1は、「0.1質量%以上5質量%以下」と特定されているのに対し、引用発明の「塗面調整剤」の割合は不明である点。
(相違点4)
水溶性アクリル樹脂の酸価について、本願発明1は、「80mg/KOH以上240mg/KOH以下」と特定されているのに対し、引用発明の「水性アクリル樹脂」の酸価は不明である点。
(相違点5)
水性防錆塗装金属製品の使用態様について、本願発明1は、「コンクリートに埋設される」と特定されているのに対し、引用発明は、「コンクリートに埋設される」かどうかは不明である点。
(相違点6)
エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と水溶性アクリル樹脂との総量の水性防錆塗料に対する割合について、本願発明1は、「10質量%以上40質量%以下」であると特定されているのに対し、引用発明の「カチオン性水性エポキシ樹脂(I)と水性アクリル樹脂(II)との総量の水性塗料組成物に対する割合」は不明である点。
(相違点7)
エポキシ樹脂エマルションを構成する樹脂と水溶性アクリル樹脂との総量に対する前記エポキシ樹脂エマルションを構成するエポキシ樹脂の割合について、本願発明1では、「30質量%以上」であるのに対し、引用発明は、「10?95質量%」である点。
(相違点8)
水性塗料の乾燥後の膜厚について、本願発明1は、「3μm以上20μm以下」であるのに対し、引用発明は、「0.5?10μm」である点。

5 検討

事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(相違点2について)
引用文献2には、次の記載がある。
「 そこで、本発明者らは、前記メカニズムに対応した防錆力を発揮でき、しかも上述した他の特性、すなわち、潤滑性、脱脂洗浄性、耐ブロッキング性の点でも満足できる潤滑処理鋼材用の塗料組成物を提供すべくさらに研究した結果、特定の特性を示すアクリル系樹脂に特定の防錆剤および撥水剤を添加した組成物が最適であることを見出し、本発明を完成した。
ここに、本発明は、酸価20?160、ガラス転移温度5?100℃のアクリル系樹脂を75?97.7重量%と、防錆剤としてスルホンアミドカルボン酸と環状アミンとの混合物を0.3?5重量%と、撥水剤を2?20重量%とから成る、防錆性に優れた潤滑処理鋼材用塗料組成物である。」(2頁右上欄17行-左下欄10行)
「(発明の効果)
本発明の塗料組成物により鋼材を塗装し、乾燥すると、アクリル系樹脂が鋼材上に防錆剤および撥水剤を保持した状態で塗膜が形成される。本発明の組成物から得られた塗膜はプレス加工に十分な潤滑性を有している。この潤滑性は大部分は、アクリル系樹脂被膜自体に起因するものであり、これに撥水剤が添加されたことにより潤滑性は一層向上する。
本発明の潤滑処理鋼材用塗料組成物は、上述したプレス時の潤滑性に加えて、潤滑処理鋼材用の塗料に求められるその他の特性、すなわち潤滑処理鋼材の製造時からプレス後に脱脂洗浄するまでの間の防錆性、脱脂洗浄性および耐ブロッキング性にも優れ、以上の特性を同時に満足する。防錆性に関しては、特に従来の潤滑処理用鋼材の弱点であったスタック時の防錆性にも優れているため、潤滑処理鋼板の製造時、貯蔵中、輸送中、プレス時およびプレス後のいずれにおいても錆の発錆が抑制される。このスタック時の防錆性は、本発明によりアクリル系樹脂に防錆剤と撥水剤の両者を添加することにより初めて達成されるこの両者の相乗作用によるもので、一方が欠けてはこの効果は十分に達成されない。」(第4頁左下欄10?右下欄13行)

そうすると、引用文献2には、酸価20?160、ガラス転移温度5?100℃のアクリル系樹脂を75?97.7重量%と、防錆剤としてスルホンアミドカルボン酸と環状アミンとの混合物を0.3?5重景%と、撥水剤を2?20重量%とから成る潤滑処理鋼材用塗料組成物が記載され、該塗料組成物を鋼材に塗布することで、スタック時に鋼材の錆の発生が抑制されること、及び、塗料組成物による防錆性は、アクリル系樹脂に防錆剤と撥水剤の両方を添加することによって達成されるものであることが記載されていると認められる。

ここで、引用文献2の「防錆剤」は、「スルホンアミドカルボン酸と環状アミンとの混合物」であるから、「非クロム系防錆剤」ということができる。

しかしながら、引用文献2の記載に基づいて、引用発明において防錆性を向上させるためには、引用発明の「水性塗料組成物」において、防錆剤と撥水剤の両方を添加することになるところ、引用発明は撥水剤を含むものではなく、しかも、引用発明の「水性塗料組成物」に含有される添加物についての記載(【0039】)からみて、引用発明の「水性塗料組成物」が撥水剤を含有することは想定されていない、というべきである。
さらに、引用発明の「水性塗料組成物」に含有される「塗面調整剤」は、撥水剤によって、その作用効果が低減されると解されることから、引用発明の「水性塗料組成物」に撥水剤を含有させることには、阻害要因があるともいうことができる。

したがって、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献2の記載に基いて、当業者が容易に想到し得ることではない。

次に、相違点3について検討する。
(相違点3について)
引用文献3には、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)有機樹脂、
(B)バルブメタル化合物、
(C)ポリエーテル変性シリコーン、および
(D)水を含む、水性エマルション処理液であって、
前記(A)有機樹脂のエマルション粒子径は、10?100nmであり、
前記(B)バルブメタル化合物の含有量は、前記(A)有機樹脂100質量部に対し、0.1?5質量部であり、
前記(C)ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、前記(A)有機樹脂と(D)水の合計100質量部に対し、0.01?3.0質量部である、水性エマルション処理液。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルション処理液およびそれを用いた化成処理鋼板に関する。」
「【0005】
すなわち、高温高湿環境下で耐食性に優れる化成処理鋼板が望まれていたものの、いまだ満足のゆく化成処理鋼板は存在しなかった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、めっき鋼板を化成処理した際に、高温高湿環境下での耐食性に優れる化成処理鋼板を与える(単に「高温高湿環境下での耐食性に優れる」ともいう)、水性エマルション処理液、およびこれにより化成処理された化成処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリエーテル変性シリコーンを含み、かつ有機樹脂エマルションの粒径が特定の範囲にある水性エマルション処理液により上記課題が解決できることを見出した。すなわち前記課題は、以下の水性エマルション処理液およびそれを用いた化成処理鋼板により解決される。」
「【0015】
本発明の処理液は、鋼板の表面に塗布された後、乾燥されて化成処理皮膜を形成するが、その際に、ポリエーテル変性シリコーンが皮膜表面へ移動する。この結果、化成処理皮膜の表面近傍にポリエーテル変性シリコーンの濃化層が形成される。ポリエーテル変性シリコーンは疎水性が高いため、この濃化層により、化成処理皮膜に水が侵入しにくくなる。その結果、本発明の処理液で処理された化成処理鋼板は高温高湿下での耐水性に優れる。」
「【0029】
(3) (C)ポリエーテル変性シリコーン
ポリエーテル変性シリコーンとは、ポリシロキサン結合からなる主鎖を有するシリコーンであって、その末端または側鎖にポリエーテル基を有するシリコーンをいう。ポリシロキサン結合からなる主鎖を有するシリコーンの例には、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンにおける一部のメチル基が、他のアルキル基またはアリーレン基であるシリコーンが含まれる。
【0030】
ポリエーテル基は、シリコーンの親水性を高め、本発明の処理液においてシリコーンの分散性を安定させる役割を担う。
この他に、シリコーンの変性に用いられる基としては、アミノ基、カルボキシル基、またはメルカプト基が知られている。これらの基は、シリコーンの親水性を高める役割を果たすものの、本発明のバルブメタル化合物と反応しやすい。そのため、前記(A)成分と(B)成分とアミノ基等で変性されたシリコーンを含む処理液は、化成処理皮膜とされた際にシリコーンが皮膜中を移動しにくい。これに対し、本発明の処理液は、ポリエーテル基で変性されたシリコーンを採用するため、バルブメタル化合物と反応しにくく、シリコーンが皮膜の表層部へ移動しやすい。」

そうすると、引用文献3には、めっき鋼板を化成処理した際に、高温高湿環境下での耐食性に優れる化成処理鋼板を与える水性エマルション処理液について、有機樹脂のエマルション粒子とポリエーテル変性シリコーンと水を含み、ポリエーテル変性シリコーンの含有量は、有機樹脂と水の合計100質量部に対し、0.01?3.0質量部であり、有機樹脂のエマルションの粒子径が特定の範囲にある水性エマルション処理液を用いること、及び、該ポリエーテル変性シリコーンは、化成処理皮膜を形成する際に、皮膜表面へ移動し、化成処理皮膜の表面近傍にポリエーテル変性シリコーンの濃化層を形成して、化成処理鋼板を高温高湿下での耐水性に優れるものとするために用いられることが記載されていると認められる。

ここで、引用文献3に記載された「ポリエーテル変性シリコーン」は、「シリコーンの親水性を高め、本発明の処理液においてシリコーンの分散性を安定させる役割を担う」(【0030】)ものであるから、「有機樹脂のエマルション粒子」を塗料とみなせば、「塗面調整剤」ということができる。

しかしながら、引用文献3に記載された「ポリエーテル変性シリコーン」は、化成処理鋼板を高温高湿下での耐水性に優れるものとするために用いられるものであるところ、引用文献1の【0002】、【0051】の塗装金属板の用途の記載からみて、高温高湿下での使用は想定されていないというべきであって、引用文献3に記載された「ポリエーテル変性シリコーン」に関する技術的事項を、引用発明に採用する動機付けは見出せない。

したがって、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、引用文献3の記載に基いて、当業者が容易に想到し得ることではない。

(本願発明1の作用効果について)
また、仮に、引用発明に、引用文献2、3に記載された事項を採用することができたとしても、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1の「前記水性防錆剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下」について、水性防錆剤の添加割合が0.1質量%未満では、防錆剤の性能が十分に発揮されず、5質量%を超えると、乾燥後の塗膜とコンクリートとの接触抵抗が減少すること(段落【0037】)が記載されているとともに、水性防錆剤の含有率が0.1質量%未満では、防錆剤の性能が十分に発揮されないことを裏付ける比較例(【表6】の塗料26)、及び、水性防錆剤の含有率が5質量%を超えるとコンクリートとの付着性能が低下することを裏付ける比較例(【表6】の塗料27)が記載されており、
「前記水性湿潤剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下」については、水性湿潤剤の添加割合が0.1質量%未満では、水性防錆塗料の防錆性能が低下し、5質量%を超えると、塗膜とコンクリートとの接触抵抗が減少するため、コンクリートとの付着性能が低下すること(段落【0041】)が記載されているとともに、水性湿潤剤の添加割合が0.1質量%未満では、水性防錆塗料の防錆性能が低下することを裏付ける比較例(【表6】の塗料28)、及び、水性湿潤剤の添加割合が5質量%を超えると、コンクリートとの付着性能が低下することを裏付ける比較例(【表6】の塗料29)が記載されており、
「前記水溶性アクリル樹脂の酸価が80mg/KOH以上240mg/KOH以下」については、水溶性アクリル樹脂の酸価が80mg/KOH未満では、防錆性能が低下し、酸価が240mg/KOHを超えても、防錆性能が低下すること(段落【0032】)が記載されているとともに、水溶性アクリル樹脂の酸価が80mg/KOH未満、あるいは、240mg/KOHを超えても、いずれの場合も、防錆性能が低下することを裏付ける比較例(それぞれ、【表6】の塗料23、24)が記載されている。

そうすると、本願発明1は、「前記水性防錆剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下」(相違点2)、「前記水性湿潤剤の前記水性防錆塗料に対する割合が0.1質量%以上5質量%以下」(相違点3)、「前記水溶性アクリル樹脂の酸価が80mg/KOH以上240mg/KOH以下」(相違点4)、及び、「コンクリートに埋設される」(相違点5)という事項を同時に備えることにより、「コンクリートとの付着性能に優れ、塗装後の環境変化にも対応可能であり長期間の防錆性能に優れるという効果を提供することができる」(【0017】)ものである。

これに対し、引用文献2に記載された「潤滑処理鋼材用塗料組成物」、引用文献3に記載された「(A)有機樹脂、(C)ポリエーテル変性シリコーンおよび(D)水を含む、水性エマルション処理液」は、いずれも、「鋼材」ないし「鋼板」が「コンクリートに埋設される」される際に生じる課題に着目してなされたものではないことから、引用発明に、引用文献2、3に開示された事項を適用した場合、防錆性及び高温高湿環境下での耐食性に優れる塗装金属板が得られるとしても、塗装金属板のコンクリートの付着特性についてどのようなものとなるかは不明であり、本願発明1のように、相違点2?5に係る事項を同時に備えることにより、「コンクリートとの付着性能に優れ、塗装後の環境変化にも対応可能であり長期間の防錆性能に優れるという効果」(【0017】)を奏するものとなることは、当業者が予測しえることではない。

したがって、本願発明1の「コンクリートとの付着性能に優れ、塗装後の環境変化にも対応可能であり長期間の防錆性能に優れるという効果」は、当業者の予測を超えた顕著な作用効果というべきであって、相違点1、4?8について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献1?3の記載から、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。


6 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用し、さらに、「前記水性湿潤剤が、ポリエーテル変性シリコーン系水性湿潤剤であること」と特定するものであるが、上記「5 検討」に説示したとおり、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願発明2も、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明1-2は、当業者が引用発明及び引用文献1?3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2014-43312(P2014-43312)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 邦久五十棲 毅  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 蔵野 雅昭
天野 宏樹
発明の名称 水性防錆塗装金属製品  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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