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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1350128
審判番号 不服2017-12949  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-01 
確定日 2019-03-22 
事件の表示 特願2014-521350「複合基板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日国際公開、WO2013/187410〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2013年(平成25年)6月11日(パリ条約による優先権主張 2012年6月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月4日付けで拒絶査定がされ、これに対し同年9月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後当審より平成30年10月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は、平成29年9月1日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板であって、
前記支持基板の材料は、透光性セラミックであり、
前記支持基板の可視光領域(360?750nm)における直線透過率及び前方全光線透過率は、それぞれ10%以上及び70%以上であり、
前記支持基板と前記圧電基板とは接着層を介して張り合わされており、前記接着層の屈折率は、前記支持基板の屈折率と前記圧電基板の屈折率との間の値である、
複合基板。」

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年10月15日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-214902号公報
2.特開2007-258228号公報
3.特開平5-160240号公報
4.特開2005-191283号公報
5.特開2000-22488号公報
6.特開2004-129222号公報
7.特開2004-311153号公報
8.特開2004-101974号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明等
1 引用文献1と引用発明について
当審拒絶理由に引用された特開2007-214902号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。以下の文献についても同様。)

ア 「【0022】
以下では、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明に係る弾性表面波素子の実施形態の一例を示す断面概略図である。
この弾性表面波素子8は、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤(接着層)4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップ1と、複合圧電チップ1をバンプ5を介してフリップチップボンディングによって実装する実装基板6とを具備する。また、圧電基板2上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する電極7が形成されたものである。
そして、圧電基板2の表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、実装基板6の膨張係数αs(ppm/℃)とが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする。」

イ 「【0026】
次に、複合圧電チップ1の構成要素について具体的に説明する。
図1で示した複合圧電チップ1は、上記のように、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工して形成したものである。
図2は本発明に係る弾性表面波素子8に用いる複合圧電基板9の実施形態の一例を示す概略断面図である。この複合圧電基板9は、圧電基板2と厚さが例えば100μm以上のセラミック基板3とを接着剤4を介して貼り合せて形成されたものであって、圧電基板2の表面には弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振するための金属電極7が形成されている。
このような構成により、温度変化に応じて圧電基板2に応力が発生し、効果的に補正を行うことができ、面内で一様な周波数温度特性改善効果を得る事ができる。」

ウ 「【0034】
そして、セラミック基板3の材料としては、主成分がアルミナであると良い。アルミナを主成分とするものであれば、比較的安価であり、硬いため加熱しても反りが抑制される複合圧電基板9とすることができる。例えばアルミナが92.0%のものであれば、ヤング率は250GPa程度であり、99.9%のものであれば、ヤング率は400GPa程度であり十分に硬いものである。」

エ 「【0035】
また、圧電基板2としては、LiTaO_(3)、LiNbO_(3)、Li_(2)B_(4)O_(7)のいずれか1つからなるものが好ましい。これらは電気機械結合係数が大きい結晶材料であるので、周波数選択フィルタとしての帯域幅が広く、挿入損失が小さいSAWデバイスが製造可能な複合圧電基板9とできる。」

オ 「【0036】
そして、この複合圧電基板9は、圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであるのが好ましい。このようなものであれば、例えば0.5μm線幅のAl等のフォトリソグラフィーが圧電基板単体の場合と同様に行えるため好ましい。
これに対し、セラミック基板3の代わりに例えばSi基板などを用いると、複合圧電基板9の接合界面より反射が生じるため、反射率が通常圧電基板単体より大きくなり、フォトリソグラフィーにおいて露光の異常が生じて好ましくない。

カ 「【0051】
(実施例2)
支持基板であるセラミック基板として、直径4インチ(100mm)で厚さが100μmであり、貼り合せ面とその反対側の面のそれぞれの表面粗さRaが共に0.02μmであって、気孔率が0.1%、ヤング率が400GPa、抵抗率が1015Ωcmであるアルミナ基板を用意した(表1参照)。
この用意したセラミック基板を以下の2点を除き、実施例1と同様にして、複合圧電基板を作製し、Al電極(厚み0.07μm、電極幅0.5μm)からなる1ポートSAW共振子のパターンをプラズマエッチング法にて形成した。1点目として、貼り合せ後の圧電基板の外周除去は3mmとした(実施例1では0.5mm)。2点目として、実施例1では、パターン形成後にアルミナ基板を150μm削り落としているが、実施例2では十分な薄さであるのでこの研削は行わなかった。
【0052】
そして、この複合圧電基板をチップ形状に加工した。
このとき、LiTaO_(3)基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=9ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。」

キ 図1は以下のとおり。

ク 図2は以下のとおり。

引用文献1には、上記アないしクの記載からみて、図1の弾性表面波素子8に使用する、図2に記載された複合圧電基板9について、以下の事項が記載されていると認められる。
上記ア、イより、前記複合圧電基板9は、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤(接着層)4を介して貼り合わせたものである。
上記カには実施例2として、支持基板である前記セラミック基板3として、気孔率0.1%、ヤング率400GPaのアルミナ基板を用い、圧電基板としてLiTaO_(3)基板を用いたものが記載され、さらに、上記ウより、ヤング率400GPaのアルミナ基板は、主成分のアルミナが99.9%のものといえる。
上記オより、前記複合圧電基板9は、圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであることの示唆があるといえる。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合圧電基板であって、
前記支持基板は、主成分が99.9%のアルミナで、気孔率0.1%のアルミナ基板であるセラミック基板であり、
前記圧電基板は、LiTaO_(3)基板であり、
前記セラミック基板と前記圧電基板とは接着層を介して貼り合わされており、
前記圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、前記圧電基板単体のそれと同じものである
複合圧電基板。」

2 引用文献2、3に記載された技術事項について
(1) 当審拒絶理由に引用された特開2007-258228号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0018】
本発明の拡散板は、実質的に均質な緻密質多結晶セラミックからなる。このようなセラミックスの種類は特に限定されず、透光性アルミナ、あるいはAlN、酸窒化アルミニウム、MgO、スピネル、YAGの焼結体を例示できる。
【0019】(略)
【0020】
拡散板の可視光域の直線透過率は、光の拡散のため、65%以下とすることが好ましく、10%以下とすることが更に好ましい。
また、拡散板の全光線透過率は、発光効率の観点から90%以上が好ましい。
【0021】(略)
【0022】
また、拡散板を構成するセラミックスの相対密度は、透光性を確保するという観点からは、98%以上とすることが好ましく、99%以上とすることが更に好ましい。セラミックス内の気孔は、入射する光を散乱させ、全光線透過率を著しく低下させる。
【0023】-【0026】(略)
【0027】
特に好ましくは、純度99.9%以上(好ましくは99.95%以上)の高純度アルミナ粉末に対して、150?1000ppmの助剤を添加した原料を用いる。このような高純度アルミナ粉末としては、大明化学工業株式会社製の高純度アルミナ粉体を例示できる。」
上記記載より引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「可視光域における平均直線透過率を65%以下、全光線透過率を90%以上である拡散板に、純度99.9%以上の高純度アルミナ粉末を用い、相対密度が99%以上すなわち気孔率1%以下である緻密質多結晶セラミックを用いること。」

(2) 当審拒絶理由に引用された特開平5-160240号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0007】
【課題を解除するための手段】前記課題を解決するため、本発明のダミーウェーハは、純度が99.9%以上、かさ比重が3.98以上の透光性多結晶アルミナセラミックスからなるものである。透光性多結晶アルミナセラミックスの平均結晶粒径は、10?100μmであることが好ましい。又、表面は、CVDアルミナ膜で覆われていることが好ましい。
【0008】
【作用】上記手段においては、透光性多結晶アルミナセラミックスが、高純度で、実質的に気孔が無く、真密度焼結体となり、一般的なアルミナセラミックスのように、不純物による二次相及び気孔が含まれることにより透光性が失われることは無く、光を通すスリガラス状の外観を呈する。
【0009】-【0011】(略)
【0012】更に、透光性多結晶アルミナセラミックスは、光学直線透過率が可視光線領域で10%以上あることが好ましく、このようにすることにより、ダミーウェーハの内部が目視できるようになり、内部の混入物やクラックが一目瞭然となり、使用前の目視によって不良品を発見することが可能となり、その信頼性を大幅に向上することができる。」
上記記載より引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「光学直線透過率が可視光線領域で10%以上あることが好ましいダミーウェーハに、純度が99.9%以上で実質的に気孔がない透光性多結晶アルミナセラミックスを用いること。」

3 引用文献4ないし6に記載された周知事項1について
(1) 当審拒絶理由に引用された特開2005-191283号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図1とともに以下の事項が記載されている。
「【0032】
図1は、本発明の実施形態に係る電子装置を示す断面図である。本実施の形態に係る電子装置10は、一方の面11aにおいて露出し、所定の形状にパターン化されたパターン化導体部12を有する実装基板11と、一方の面13aにおいて接続電極14を有し、この接続電極14を有する面13aが実装基板11の一方の面11aに対向するように配置される。
【0033】
接続電極14が、実装基板11のパターン化導体部12に電気的に接続され、かつ、機械的に接合された電子部品13と、電子部品13の実装基板11とは反対側の面13bと、電子部品13の周辺の部分における実装基板11の一方の面11aとに密着するように、電子部品13および実装基板11を覆う保護材15とを備えている。
【0034】
実装基板11は、ガラス、樹脂またはセラミック等で形成されている。電子部品13は、例えば弾性表面波素子、振動子、高周波回路部品等であるが、その他の電子部品であってもよい。電子部品13は、その基板が、例えばタンタル酸リチウム単結晶基板から形成されている。電子部品13は、上述するように、接続電極14を有する面13aが実装基板11に向くように配置される、フェースダウンボンディングによって、実装基板11に実装されている。電子部品13の一方の面13aと実装基板11の一方の面11aとの間には、空間16が形成されている。
【0035】
なお、二つ表示されている接続電極14のうち左側の接続電極14は、クラックが生じている例を示している。このクラックは、製造工程で電子装置10に数kgの衝撃加重がかかると、頻繁に発生する可能性がある。このようなクラックには、たとえばリフローや落下などの負荷が加わると、実装基板11と電子部品13との接続が断線する可能性が高くなる。
【0036】
電子部品13の実装基板11とは反対側の面13bは、保護材15によって隙間なく覆われている。実装基板11の一方の面11aのうち、電子部品13の周辺の部分も、隙間なく保護材15によって覆われている。また、保護材15は、電子部品13の接続電極14と実装基板11のパターン化導体部12との電気的接続部分を含めて、電子部品13の全体を封止している。
【0037】
保護材15は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂によって形成されている。保護材15の厚みについては後述する。
【0038】
次に、本実施の形態に係る電子装置10の製造方法の概略について説明する。この電子装置10の製造方法は、電子部品13の一方の面13aが実装基板11の一方の面11aに対向するように、電子部品13と実装基板11とを配置し、電子部品13の接続電極14を、実装基板11のパターン化導体部12に電気的に接続し、かつ、機械的に接合する工程がある。そして、さらに、電子部品13の実装基板11とは反対側の面13bと、電子部品13の周辺の部分における実装基板11の一方の面11aとに、密着して電子部品13および実装基板11を覆うように保護材15を配置し、保護材15を実装基板11に接着する工程とを備えている。
【0039】
図2は、図1示す電子装置の接合検査を示す図である。本実施の形態では、実装された電子装置10を、矢印方向から倍率200以上の金属顕微鏡を用いて、接続電極14の接合検査を行っている。特に制限されないが、実装基板11に形成された複数の電子部品13のうち、それぞれのコーナー部と中央部の5個の電子部品13を、接合検査している。
【0040】
また、電子部品13は、可視光率の高い保護材15で、図1に示す電子部品13の粗面化側13bを覆うことにより、粗面化による乱反射を防ぎ、金属顕微鏡による接合面の観察を可能としている。これにより、圧電体のバンプ接合部にクラックが生じたときに、可視光で保護材15と圧電体を透過してクラックを確認することができる。
【0041】
接合検査の結果、割れやクラックがある場合は、フリップチップ実装の条件の変更を速やかに行い、不良品の発生を最低限に抑えるよう、製造工程中でのフィードバックをかける。具体的には、接続電極が金(Au)の場合における熱圧着・超音波接合の製造工程の衝撃加重を軽減したりする。割れやクラックがある実装基板11は廃棄される。
【0042】
これまでは、実装後にロットからの抜き取り検査、破壊検査および特性検査で断線などの状態を確認していた。そして、割れやクラックなどが、ある基準を超えるロットは、その全てをロットアウトとして廃棄していた。本実施の形態によれば、製品の歩留まりを著しく向上させるとともに、製品不良が市場に流出することを効果的に防ぎ、製品の信頼性を飛躍的に向上させることができる。」
「【0052】
すなわち、本発明は保護材15の透過率、厚さなどの選定と、弾性表面波素子用の圧電体である電子部品13の厚さ、表面粗さなどを、総合的に考慮しなければならないのがわかる。保護材15の具体的な透過率、厚さなどの数値と、弾性表面波素子用の圧電体である電子部品13の厚さ、表面粗さの具体的な数値は、実験結果をもとに以下に説明する。」
段落【0052】より段落【0040】の「圧電体」は、「弾性表面波素子用の圧電体である電子部品13」と解されるから、上記記載より、引用文献4には、「実装基板11に接続電極14によりフリップチップ実装した電子部品13(弾性表面波素子)を可視光を透過する保護材15で被覆し、可視光で前記保護材15と前記電子部品13を透過して接続電極14のクラックや割れを確認すること。」が記載されていると認められる。

(2) 当審拒絶理由に引用された特開2000-22488号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0018】以上のとおり、本発明の弾性表面波ムーブメントは、圧電基板、表面にダイヤモンド薄膜が形成された圧電基板、表面に圧電薄膜が形成された非圧電基板に対して作製することができる。
【0019】このように、本発明は、すべての弾性表面波フィルタや弾性表面波振動子に適用可能であるが、特に超小型化、高機能化が要請される各種通信分野でのモジュール部品の心臓部としての弾性表面波デバイスの超小型化・高機能化を目的として弾性表面波チップ自体を単体デバイスとするパッケージレス弾性表面波フィルタやパッケージレス弾性表面波振動子を提供するものである。本発明の弾性表面波ムーブメントの弾性表面波振動領域に形成されるトータル膜厚は、使用される周波数領域での高信頼性の確保と組合せ材料を考え、実用的な値として300ミクロン以下とした。
【0020】本発明の弾性表面波ムーブメントは、基板として透光性材料を使用した場合は、弾性表面波ムーブメントの裏面を鏡面状態にすることで、上面から、弾性表面波ムーブメントを機器ボードに直接ハンダ付した時の実装状態を検査でき、信頼性の点から極めて有利である。」
上記記載より、引用文献5には、「弾性表面波ムーブメントを表面に圧電薄膜が形成された非圧電基板に対して作製し、前記基板として透光性材料を使用した場合は、上面から、前記弾性表面波ムーブメントを機器ボードに直接ハンダ付けした時の実装状態を検査できること。」が記載されていると認められる。

(3) 当審拒絶理由に引用された特開2004-129222号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図3とともに以下の事項が記載されている。
「【0056】
次いで、図3に示すように、工程6において、工程1で作製したSAW素子6と工程2?5で作製した接着層21を有する接合基板20とを貼り合わせる。このとき、SAW素子6のアライメントマーク5と接合基板20のアライメントマーク用貫通孔19とを位置合わせする。これにより、SAW素子6の導通パッド3と接合基板20の導通パッド用貫通孔18とも位置が合わせを行ってから、貼り合わせる。また、ガラス基板およびLiTaO_(3)の圧電基板は、平坦度が高いので、その両方を貼り合わせる際に行う仮固定が容易である。また、透明なガラス基板を用いているので、位置合わせが容易となる。なお、図3では、貼り合わされたSAW素子6と接合基板20との組は、一組しか図示していないが、複数組が形成されている。
【0057】-【0058】(略)
【0059】
上記の方法では、接合基板20にガラス基板を用いているが、これに限らず、例えば、単結晶SiO_(2)(水晶)基板、溶融石英基板を用いることができる。上記の基板によれば、ウェットエッチングすることができるため、容易にかつ安価に貫通孔、励振部分保護用中空構造等を形成することができる。特に、上記接合基板20は、位置合わせを容易にするため、透明であることが好ましい。また、接合基板としては、ポリイミドなどからなる樹脂フィルムを用いることも可能である。つまり、つまり、接合基板は、絶縁物であって、SAW素子の圧電基板よりも比誘電率が低い(圧電基板であるLiTaO_(3)やLiNbO_(3)は比誘電率が20以上であるため、比誘電率が4以下が好ましい)ことが好ましい。」
上記記載より、引用文献6には、「SAW素子6と貼り合わせる接合基板20を、位置合わせを容易にするため透明にすることが好ましいこと。」が記載されていると認められる。

(4) 上記(1)ないし(3)の引用文献4ないし6の記載より、次の事項(以下、「周知事項1」という。)は、周知である。
「弾性表面波素子を有する部品として、上面から可視光による接続部分の検査を可能とし、また、位置合わせを容易にするために、透光性の部材を用いること。」

4 引用文献7及び8に記載された周知事項2について
当審拒絶理由に引用された特開2004-311153号公報(以下、「引用文献7」という。)には、「光の反射・屈折角に乱れを生じされる領域7に発光性材料8を含ませた光散乱性色変換層を、支持基板(ガラス基板)1上に粘着剤を用いて貼り合わせる場合、この粘着剤の屈折率は、ガラス基板の屈折率より高くかつ光散乱性色変換層の屈折率より小さくするのが望ましい。これによりガラス基板/粘着剤および粘着剤/光散乱性色変換層の界面で全反射が起こらず効率良く光拡散性色変換層に励起光を入射させることができる。」(段落【0053】)と記載されている。
また、当審拒絶理由に引用された特開2004-101974号公報(以下、「引用文献8」という。)には、「薄膜回路基板における光透過性を良好にするために、スペーサ9および接着剤5の屈折率が、支持基板7の屈折率と薄膜回路層3の大部分を構成する絶縁膜の屈折率との中間であることが好ましい。」(段落【0019】)と記載されている。
上記記載より、次の事項(以下、「周知事項2」という。)は、周知である。
「接着界面での反射を抑制するために、接着剤(接着層)の屈折率を接着する2つの部材の屈折率の間の屈折率とすること。」

第5 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「圧電基板」及び「LiTaO_(3)基板」は、いずれも本願発明の「圧電基板」に相当し、引用発明の「支持基板」は下記相違点1を除いて本願発明の「支持基板」に相当し、引用発明の「接着層」は下記相違点2を除いて本願発明の「接着層」に相当する。そうすると、引用発明の「支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合圧電基板」は本願発明の「支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板」に相当し、両者は「接着層を介して張り合わされて」いる点で共通する。

次に、引用発明の「支持基板」である、「主成分が99.9%のアルミナで、気孔率0.1%のアルミナ基板であるセラミック基板」について検討する。
ア 引用文献1の、「この複合圧電基板9は、圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであるのが好ましい。このようなものであれば、例えば0.5μm線幅のAl等のフォトリソグラフィーが圧電基板単体の場合と同様に行えるため好ましい。
これに対し、セラミック基板3の代わりに例えばSi基板などを用いると、複合圧電基板9の接合界面より反射が生じるため、反射率が通常圧電基板単体より大きくなり、フォトリソグラフィーにおいて露光の異常が生じて好ましくない。」(上記第2の1のオ参照。)の記載は、セラミック基板3の代わりに接合界面より反射が生じるSi基板を用いる場合との対比において、セラミック基板3を用いた場合、波長365nm(可視光)において複合圧電基板9の接合界面では反射が生じないこと、すなわち波長365nmの光はアルミナ基板であるセラミック基板3を透過することを示唆するものといえる。
イ 上記引用文献等2及び3の記載事項からみて、「主成分が99.9%のアルミナで、気孔率0.1%のアルミナ基板であるセラミック基板」は可視光を透過する蓋然性が高い。
上記ア、イより、支持基板である引用発明の「主成分が99.9%のアルミナで、気孔率0.1%のアルミナ基板であるセラミック基板」は、本願発明の「透光性セラミック」に含まれるといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板であって、
前記支持基板の材料は、透光性セラミックであり、
前記支持基板と前記圧電基板とは接着層を介して張り合わされている、
複合基板。」

(相違点1)
一致点である「支持基板」について、本願発明では、「可視光領域(360?750nm)における直線透過率及び前方全光線透過率は、それぞれ10%以上及び70%以上であ」ると特定されているのに対し、引用発明ではこの特定がない点。

(相違点2)
一致点である「接着層」について、本願発明では、「屈折率は、前記支持基板の屈折率と前記圧電基板の屈折率との間の値である」と特定されているのに対し、引用発明ではこの特定がない点。

第6 判断
相違点1、2についてまとめて検討する。
引用発明の圧電基板であるLiTaO_(3)基板は、特開2010-171392号公報に「照射光がi線(波長365nm)の場合、…、厚さ30μmのタンタル酸リチウム製の圧電基板の透過率は約95%」(段落【0005】)と記載されているように透光性を有していることが明らかであり、また、上記第5に記載したとおり、引用発明の主成分が99.9%のアルミナで、気孔率0.1%のアルミナ基板であるセラミック基板である支持基板は、上記波長において透光性を有する透光性セラミックに含まれるといえる。
一方、上記第4の3のとおり、「弾性表面波素子を有する部品として、上面から可視光による接続部分の検査を可能とし、また、位置合わせを容易にするために、透光性の部材を用いること。」(周知事項1)は周知であるから、引用発明において、周知事項1を勘案して、透光性を有する前記圧電基板及び支持基板を介して、可視光による接続部分の検査又は位置合わせをすることは、当業者が容易に想到し得るものであり、そのために、支持基板の直線透過率を10%以上、前方光線透過率を70%以上とすることは、当業者が適宜に設定し得るものである。
この場合、支持基板と圧電基板との接着界面での反射率を低減すべきことは自明の技術課題である。さらに、引用発明の「前記圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、前記圧電基板単体のそれと同じものである」との構成は、引用文献1の段落【0036】(上記第2の1のオ参照。)の記載に照らせば、接合界面(接着界面)での反射はフォトリソグラフィーにおいて露光の異常の発生につながることの認識によるものであり、引用文献1においても、前記接着界面での反射率を低減するという技術課題が示唆されているといえる。そして、上記第4の4のとおり「接着界面での反射を抑制するために、接着剤(接着層)の屈折率を接着する2つの部材の屈折率の間の屈折率とすること。」(周知事項2)は、周知であるから、引用発明に周知事項2を適用して、前記支持基板と圧電基板を接着する接着層の屈折率を、前記支持基板の屈折率と前記圧電基板の屈折率の間の屈折率とすることは、当業者が適宜になし得ることである。

よって、本願発明は、引用発明と周知事項1、2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知事項1、2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-15 
結審通知日 2019-01-22 
審決日 2019-02-06 
出願番号 特願2014-521350(P2014-521350)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐角張 亜希子  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
発明の名称 複合基板  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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