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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1350153
審判番号 不服2017-19374  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-27 
確定日 2019-03-20 
事件の表示 特願2014-549276「セミコマンド式弁システムを備える往復式圧縮機、および往復式圧縮機の容量を調節する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/097006、平成27年 3月 5日国内公表、特表2015-507120〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)11月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年12月26日、ブラジル国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年8月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成29年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
セミコマンド式弁システムを備える往復式圧縮機にして、少なくとも1つのシリンダ(1)と、少なくとも1つのピストン(2)と、少なくとも1つの圧縮室(3)と、吸込オリフィス(7)上で作動する少なくとも1つの吸込弁(71)および吐出オリフィス(8)上で作動する少なくとも1つの吐出弁(81)と、少なくとも1つの選択的に起動される磁場生成要素(72、82)とを備える往復式圧縮機であって、
前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)が、開放状態であるようにプリストレスを受け、かつ少なくとも1つの鉄製部位を備え、
前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)が、前記磁場生成要素(72、82)を起動させることによって開放状態から閉鎖状態に選択的に切り替えられ、
前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)とそれぞれの磁場生成要素(72、82)とが、少なくとも1つの弁プレート(6)上/内に配設され、
前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)の両方またはいずれか一方を、前記往復式圧縮機の吸込工程または吐出工程における所定期間中に開放状態または閉鎖状態に設定して、前記往復式圧縮機の容量を調節することを特徴とする、往復式圧縮機。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-3に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明、引用文献5に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
また、この出願の請求項4,5に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明、引用文献4に記載された発明、引用文献5に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開昭57-079287号公報(周知技術を示す文献)
引用文献2.特開平04-027778号公報
引用文献3.特開2006-097592号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2003-56741号公報
引用文献5.特開昭61-055382号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(1)「一般に、レシプロ式の空気圧縮機には、シリンダとヘッドとの間に吸入弁と吐出弁が設けられており、吸入弁からシリンダ内に吸入した空気をピストンによって圧縮し、この空気を吐出弁より圧縮空気貯蔵タンク等へ送り込むようになっている。」(第1ページ右欄第13行?第17行)

(2)「まず、第1図ないし第4図によって第1の実施例の空気圧縮機を説明する。
第1図において、符号1は空気圧縮機である。この空気圧縮機1は、シリンダ2及びクランク室3より構成されており、その上部には弁部材4を介してヘッド5が取り付けられている。このヘッド5には、吸入室6及び吐出室7が形成されており、これら吸入室6及び吐出室7のそれぞれの側壁には、吸入口8及び吐出口9が形成されている。
ここで、弁部材4の構造を第2図によって説明する。
弁座10には、ヘッド5に形成された吸入室6及び吐出室7とシリンダ2内とにそれぞれ連通する流路11,12が形成されており、この流路11,12には、それぞれ、吸入弁13及び吐出弁14がそれぞれ設けられている。これら吸入弁13及び吐出弁14は、それぞれ弁体15、16と弁受け17,18とから構成されたもので、吸入弁13はシリンダ2側に、吐出弁14は吐出室7側に設けられている。
これら吸入弁13及び吐出弁14の弁体15,16及び弁受け17,18はそれぞれボルト20,20によって一端部が弁座10に固定されて、弁体15,16がそれぞれ弁座10と弁受け17,18との間に支持されている。
ここで、弁体15及び16は弾性変形可能な金属材料から形成されており、この弁体15及び16が弾性変形してその他端部が弁座10方向へ移動し弁座10に当接すると前記流路11及び12が閉鎖され、弁受け17及び18方向へ移動すると、流路11及び12が開口されるようになっている。
また、それぞれの弁受け17及び18の先端部近傍には、電磁石(移動手段)Mg1,Mg4が設けられており、弁座10には流路11,12の弁体15,16側の開口部近傍に、電磁石Mg2,Mg3が設けられている。そして、これら電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4は、それぞれ後述する制御部(制御手段)42から制御電流(制御信号)が供給されることにより、磁力を発生して弁体15及び16を吸引するようになっている。
上記のような弁部4を設けた空気圧縮機1のシリンダ2の内部にはピストン20が上下方向へ摺動自在に嵌合されている。このピストン20には、水平方向に連結ピン21が設けられており、連接棒22の一端部がベアリング23を介して連結されている。」(第3ページ左上欄第11行?左下欄第17行)

(3)「そして、制御部42は、この検知結果に基づいて電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4へ選択的にそれぞれ制御電流を供給し、それぞれの電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4の磁力の発生を制御するようになっている。」(第3ページ右下欄第20行?第4ページ左上欄第4行)

(4)「ここで、前記制御部42による電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4の制御を、第4図によって、ピストン20が1サイクル移動するときの各行程別に説明する。
(1)膨張行程(クランク軸の回転角度がaからbへ変化するとき)
回転角度検知センサ41が、クランク軸24の回転角度がaからbの範囲であることを検知してその検知結果を出力すると、この検知結果に基づいて制御部42から電磁石Mg2及びMg3へ制御電流が供給され、電磁石Mg2及びMg3がそれぞれONとなり、電磁石Mg1及びMg4がそれぞれOFFとなる。
これにより、電磁石Mg2及びMg3に磁力が発生し、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16が電磁石Mg2及びMg3の磁力によって吸引されて弁座10に当接して、それぞれの流路11及び12が閉鎖される。
(2)吸入行程(クランク軸の回転角度がbからcへ変化するとき)
回転角度検知センサ41が、クランク軸24の回転角度がbからcの範囲であることを検知してその検知結果を出力すると、この検知結果に基づいて制御部42から電磁石Mg1及びMg3へ制御電流が供給され、電磁石Mg1及びMg3がそれぞれONとなり、電磁石Mg2及びMg4がそれぞれOFFとなる。
これにより、電磁石Mg1及びMg3に磁力が発生し、弁体15が電磁石Mg1の磁力によって吸引されて弁受け17方向へ移動し、流路11が開口され、弁体16が電磁石Mg3の磁力によって吸引されて弁座10に当接したままとなり、流路12が閉鎖された状態に維持される。
(3)圧縮行程(クランク軸の回転角度がcからdへ変化するとき)
回転角度検知センサ41が、クランク軸24の回転角度がcからdの範囲であることを検知してその検知結果を出力すると、この検知結果に基づいて制御部42から電磁石Mg2及びMg3へ制御電流が供給され、電磁石Mg2及びMg3がそれぞれONとなり、電磁石Mg1及びMg4がそれぞれOFFとなる。
これにより、電磁石Mg2及びMg3に磁力が発生し、弁体15及び16が電磁石Mg2及びMg3の磁力によって吸引されて弁座10に当接して、前記膨張行程のときと同様に、それぞれの流路11及び12が閉鎖される。
(4)吐出行程(クランク軸の回転角度がdからaへ変化するとき)
回転角度検知センサ41が、クランク軸24の回転角度がdからaの範囲であることを検知してその検知結果を出力すると、この検知結果に基づいて制御部42から電磁石Mg2及びMg4へ制御電流が供給され、電磁石Mg2及びMg4がそれぞれONとなり、電磁石Mg1及びMg3がそれぞれOFFとなる。
これにより、電磁石Mg2及びMg4に磁力が発生し、弁体15が電磁石Mg2の磁力によって吸引されて弁座10に当接したままとなり、流路11が閉鎖された状態に維持され、弁体16が電磁石Mg4の磁力によって吸引されて弁受け18方向へ移動し、流路12が開口される。
このように、この空気圧縮機1は、ピストン20が上死点より下方に移動するときに、シリンダ2内の圧力が吐き出し圧P1から大気圧P2まで下がるまでは、吸入弁13及び吐出弁14を閉鎖させておき、シリンダ2内の圧力が大気圧P2となる時点にて、迅速に吸入弁13の弁体15を開口させ、シリンダ2内へ空気を流入させ、ピストン20が下死点を通過して上方へ移動するときに、再び吸入弁13及び吐出弁14の弁体15,16を閉鎖させて、シリンダ2内の圧力が吐出圧P1に達する時点にて、迅速に吐出弁14の弁体16を開口させて、シリンダ2内の空気を図示しない圧縮空気貯蔵タンクへ送り込ませるものである。
すなわち、この空気圧縮機1は、クランク軸24の回転角度に応じて吸入弁13及び吐出弁14の開閉のタイミングをとり、制御部42によって制御される電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4によって吸入弁13及び吐出弁14のそれぞれの弁体15及び16を極めて迅速に移動させて、流路11及び12の開閉を行うものであるので、吸入弁13及び吐出弁14の閉じ遅れをなくすことができるとともに、吸入弁13及び吐出弁14を開閉させるためのピストン20への負荷をなくすことができる。」(第4ページ左上欄第11行?第5ページ左上欄第16行)

(5)「なお、上記第1及び第2の実施例では、各弁体15及び16を磁力によって吸引して開閉させるそれぞれ一対づつの電磁石Mg1,Mg2及びMg3,Mg4を設けたが、弁体15及び16をそれぞれ弁受け17及び18側あるいは弁座10側へ付勢させておき、この付勢方向と逆側にそれぞれ一つの電磁石を設け、弁体15及び16を付勢に反して移動させるようにしても良く、この具体的な構造を第8図に示す吸入弁13を例にとって説明する。
図に示すように、弁体15と弁受け17との間には、それぞれの先端部に引っ張りばね50が設けられており、この引っ張りばね50によって弁体15が常に弁受け17側へ付勢されている。また、弁座10側には一つの電磁石Mg2が設けられている。
つまり、電磁石Mg2へ制御電流が供給されてこの電磁石Mg2に磁力が発生すると、弁体15が引っ張りばね50による付勢に反して弁座10方向へ吸引されて弁座10へ当接し、流路11の開閉が行なわれるようになっている。
また、引っ張りばね50を使用する代わりに、弁体15自体にばね性を持たせて、この弁体15を弁座10から離れた状態に支持させても良い。」(第6ページ左下欄第6行?右下欄第9行)

2 引用発明
上記1.(3)及び(4)の記載によると、電磁石Mg1,Mg2,Mg3,Mg4に選択的に制御電流を供給することにより、磁力の発生を制御し、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を移動させるものであるから、空気圧縮機1は、「選択的に制御電流が供給される電磁石と電磁石により移動させられる吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16」とを備えているといえる。
また、上記1.(2)、(3)及び(4)に記載された空気圧縮機1は、吸入弁13からシリンダ内に吸入した空気をピストン20によって圧縮し、この空気を吐出弁14より圧縮空気貯蔵タンクへ送り込むものであるから「レシプロ式の空気圧縮機」であるといえる。
そして、上記1.(2)の記載、及び第1図、第2図の図示内容によると、シリンダ4の上部に弁部材4が取り付けられており、当該弁部材4を構成する弁座10は、シリンダ2及びピストン20との間に空間を形成していると解されるから、空気圧縮機1は、「弁座10、シリンダ2及びピストン20で囲まれる空間」を有しているといえる。
また、上記1.(2)の記載によると、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16はそれぞれボルト20,20によって一端部が弁座10に固定されており、当該弁体15及び弁体16を吸引する電磁石Mg2,Mg3は、弁座10における流路11,12の弁体15,16側の開口部近傍に設けられているから、「吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16の一端部がそれぞれ弁座10にボルトで固定されるとともに、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を吸引する電磁石Mg2,Mg3が弁座10に設けられ」ているといえる。
さらに、上記1.(5)には、上記1.(2)、(3)及び(4)に記載された第1の実施例における電磁石Mg1,Mg2及びMg3,Mg4を設ける構成に代えて、弁体15及び弁体16をそれぞれ弁受け17及び弁受け18側へ付勢させておき、この付勢方向と逆側にそれぞれ1つの電磁石を設けることにより、弁体15及び弁体16を付勢に反して弁座10方向へ吸引して弁座10へ当接させるようにしてもよい旨が記載されており、「吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16」が、「弁受け17及び弁受け18側へ付勢され」る点、「電磁石Mg2、Mg3に選択的に制御電流が供給されることによって弁受け17及び弁受け18側へ付勢された状態から弁座10へ当接した状態に切り替えられ」る点が記載されているといえる。

したがって、前記引用文献2の記載事項(1)?(5)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「選択的に制御電流が供給される電磁石Mg2、Mg3と電磁石Mg2、Mg3により移動させられる吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16とを備えたレシプロ式の空気圧縮機にして、シリンダ2と、ピストン20と、弁座10、シリンダ2及びピストン20で囲まれる空間と、流路11に対応して設けられた吸入弁13の弁体15及び流路12に対応して設けられた吐出弁14の弁体16と、選択的に制御電流が供給される電磁石Mg2,Mg3とを備えるレシプロ式の空気圧縮機であって、
前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16が、弁受け17及び弁受け18側へ付勢され、かつ金属材料から形成され、
前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16が、電磁石Mg2、Mg3に選択的に制御電流が供給されることによって弁受け17及び弁受け18側へ付勢された状態から弁座10へ当接した状態に切り替えられ、
前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16の一端部がそれぞれ弁座10にボルトで固定されるとともに、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を吸引する電磁石Mg2,Mg3が弁座10に設けられ、
前記レシプロ式の空気圧縮機の膨脹行程において吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、吸入行程において吸入弁13の弁体15を弁受け17方向へ移動させるとともに吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、圧縮行程において吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、吐出行程において吸入弁13の弁体15を弁座10に当接させ、吐出弁14の弁体16を弁受け18方向へ移動させるレシプロ式の空気圧縮機」

3 引用文献5の記載
引用文献5には、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。)。
(1)「本発明の目的は、駆動軸の回転数を一定にしたまま流量、圧縮比を変化させることができ、しかもこの流量、圧縮比の変化が連続性を有し、微調整を可能にした往復動型圧縮装置及びその圧縮方法を提供するところにある。」(第2ページ右上欄第7行?第11行)

(2)「本実施例に係る往復動型圧縮装置はヒートポンプ用であるため、吸気通路1の端部の低温側熱源部と排気通路2の端部の高温側熱需要部とには熱交換器が配置され、吸気通路1、排気通路2に冷媒が流通する。吸気通路1、排気通路2はシリンダ3の頂部に開口形成された吸気口3A、排気口3Bに接続され、これらの吸気口3A、排気口3Bは吸気弁4、排気弁5で開閉される。吸気弁4、排気弁5にはソレノイド或いは油圧シリンダ等による弁駆動部6,7が連結され、これらの弁駆動部6,7によって構成される駆動手段で吸気弁4、排気弁5は強制的に開閉動せしめられる。
シリンダ3内を往復動するピストン8はコンロッド9を介して駆動軸であるクランク軸10に連結され、クランク軸10は電動機等の駆動源によって回転せしめられる。」(第2ページ右下欄第3行?第19行)

(3)「第1図中、ピストン8が右動して上死点に達したとき、前記吸気弁4は開き、排気弁5は閉じる。次いでピストン8が左動し吸気行程が始まると、吸気通路1からシリンダ3内に冷媒が流入する。ピストン8が下死点に達した後、ピストン8の右動による圧縮行程が開始するが、吸気弁4は直ちに閉動せず、必要とされる冷媒の流量と対応する位置までピストン8が達したときに吸気弁4は弁駆動部6によって閉動せしめられる。これにより吸気弁4が閉じたピストン位置から上死点までのシリンダ長さに比例した冷媒量がシリンダ3の内部に蓄えられる。尚、蓄え得る冷媒量はピストン8が下死点に達したときに吸気弁4を閉じることにより最大とすることができる。また、ピストン8の圧縮行程時における吸気弁4の閉動によって得られるシリンダ3内の冷媒量と同じ量は、ピストン8の吸気行程において、上記圧縮行程時に吸気弁4を閉動させたときにおけるピストン位置と同じ位置にピストン8が達したときに吸気弁4を閉じさせても得られる。
以上の通り吸気弁4の閉動によってシリンダ3内に所定の冷媒量が収容された後、引続きピストン8の圧縮行程が行われ、この間に冷媒は断熱圧縮される。ピストン8が必要とされる圧縮比と対応する位置に達したときに前記弁駆動部7の駆動によって前記排気弁5が開く。これにより吸気弁4が閉動したピストン位置から上死点までのシリンダ長さと、排気弁5が開いたピストン位置から上死点までのシリンダ長さとの比率に等しい圧縮比に冷媒は圧縮され、このように圧縮され昇温した冷媒はピストン8の右動により排気通路2に送出される。ピストン8が上死点に達すると、上述の通り吸気弁4は開き、排気弁5は閉じ、以後上述と同じサイクルを繰返えす。
以上のピストン移動行程における吸気弁4、排気弁5の開閉動は前記操作盤13で設定された冷媒の流量、圧縮比が得られるように行われる。操作盤13で設定された流量、圧縮比に従って前記制御ボックス12においてピストン移動程における吸気弁4、排気弁5の開閉タイミングが定められる。ピストン移動行程中におけるシリンダ3内のピストン8位置の検出は前記センサ11によって行われ、このセンサ11からのピストン位置信号により制御ボックス12は吸気弁4、排気弁5の前記開閉タイミングに従って前記弁駆動部6,7を駆動させ、これにより吸気弁4、排気弁5を開閉させる。」(第3ページ右上欄第3行?右下欄第9行)

第5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「レシプロ式の空気圧縮機」、「シリンダ2」、「ピストン20」及び「弁座10、シリンダ2及びピストン20で囲まれる空間」は、それぞれ本願発明の「往復式圧縮機」、「シリンダ(1)」、「ピストン(2)」、「圧縮室(3)」に相当する。
引用発明の「流路11」及び「吸入弁13の弁体15」は、それぞれ本願発明の「吸込オリフィス(7)」及び「吸込弁(71)」に相当し、引用発明の「流路11に対応して設けられた吸入弁13の弁体15」は、吸入弁13の弁体15が、流路11の端部を上から塞ぐように動作するものであるから、本願発明の「吸込オリフィス(7)上で作動する少なくとも1つの吸込弁(71)」に相当する。同様に、引用発明の「流路12」及び「吐出弁14の弁体16」は、本願発明の「吐出オリフィス(8)」及び「吐出弁(81)」に相当し、引用発明の「流路12に対応して設けられた吐出弁14の弁体16」は、本願発明の「吐出オリフィス(8)上で作動する少なくとも1つの吐出弁(81)」に相当する。
引用発明の「電磁石Mg2,Mg3」は、本願発明の「磁場生成要素(72、82)」に相当し、引用発明の「選択的に制御電流が供給される電磁石Mg2,Mg3」は、本願発明の「少なくとも1つの選択的に起動される磁場生成要素(72、82)」に相当する。
引用発明の「前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16が、弁受け17及び弁受け18側へ付勢され」るという事項は、弁体15及び弁体16が開放方向に付勢力を予め受けるように構成されるものであるから、本願発明の「前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)が、開放状態であるようにプリストレスを受け」るという事項に相当する。
引用発明の「金属材料から形成され」るという事項は、本願発明の「少なくとも1つの鉄製部位を備え」るという事項と対比して、少なくとも1つの金属製部位を備える点において共通する。
引用発明の「前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16が、電磁石Mg2、Mg3に選択的に制御電流が供給されることによって弁受け17及び弁受け18側へ付勢された状態から弁座10へ当接した状態に切り替えられ」るという事項は、本願発明の「前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)が、前記磁場生成要素(72、82)を起動させることによって開放状態から閉鎖状態に選択的に切り替えられ」るという事項に相当する。
また、本願発明の「セミコマンド式弁システム」は一般的な用語とはいえず、本願の明細書等に特段の定義もないことから、本願の明細書の段落【0022】、段落【0030】?段落【0031】等に開示された、開放状態であるようにプレストレスを受け、選択的に起動される磁気生成要素により吸引されて開放状態から閉鎖状態に切り替えられる吸込弁及び吐出弁を備えたシステムを意味すると解されるところ、引用発明の「選択的に制御電流が供給される電磁石Mg2、Mg3と電磁石Mg2、Mg3により移動させられる吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16」を備えたシステムは、前記のとおり開放状態であるようにプレストレスを受ける弁体15及び弁体16を、電磁石Mg2、Mg3に選択的に制御電流を供給することによって、閉鎖状態とするものであって、本願発明の「セミコマンド式弁システム」に相当するといえる。
引用発明の「弁座10」は、本願発明の「弁プレート(6)」に相当する。そして、引用発明の吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16は、一端部が弁座10にボルトで固定されるものであって、引用文献2の第2図、第8図も参酌すると、弁座10上に設けられているといえ、また、引用発明の弁座10に設けられる電磁石Mg2,Mg3は、同様に引用文献2の第2図、第8図を参酌すると、弁座10内に設けられているといえる。そうすると、引用発明の「前記吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16の一端部がそれぞれ弁座10にボルトで固定されるとともに、吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を吸引する電磁石Mg2,Mg3が弁座10に設けられ」るという事項は、本願発明の「前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)とそれぞれの磁場生成要素(72、82)とが、少なくとも1つの弁プレート(6)上/内に配設され」るという事項に相当する。
引用発明の「前記レシプロ式の空気圧縮機の膨脹行程において吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、吸入行程において吸入弁13の弁体15を弁受け17方向へ移動させるとともに吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、圧縮行程において吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ、吐出行程において吸入弁13の弁体15を弁座10に当接させ、吐出弁14の弁体16を弁受け18方向へ移動させる」という事項は、本願発明の「前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)の両方またはいずれか一方を、前記往復式圧縮機の吸込工程または吐出工程における所定期間中に開放状態または閉鎖状態に設定して、前記往復式圧縮機の容量を調節する」という事項と対比して、吸込弁および吐出弁の両方を、開放状態または閉鎖状態に設定する点において共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「セミコマンド式弁システムを備える往復式圧縮機にして、少なくとも1つのシリンダと、少なくとも1つのピストンと、少なくとも1つの圧縮室と、吸込オリフィス上で作動する少なくとも1つの吸込弁および吐出オリフィス上で作動する少なくとも1つの吐出弁と、少なくとも1つの選択的に起動される磁場生成要素とを備える往復式圧縮機であって、
前記吸込弁および前記吐出弁が、開放状態であるようにプリストレスを受け、かつ少なくとも1つの金属製部位を備え、
前記吸込弁および前記吐出弁が、前記磁場生成要素を起動させることによって開放状態から閉鎖状態に選択的に切り替えられ、
前記吸込弁および前記吐出弁とそれぞれの磁場生成要素とが、少なくとも1つの弁プレート上/内に配設され、
前記吸込弁および前記吐出弁の両方を、開放状態または閉鎖状態に設定する往復式圧縮機。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
吸込弁および吐出弁の金属製部位について、本願発明は「鉄製」であるのに対し、引用発明はこのような材料であるのか不明である点。

[相違点2]
吸込弁および吐出弁を開放状態または閉鎖状態に設定する態様について、本願発明は「前記吸込弁(71)および前記吐出弁(81)の両方またはいずれか一方を、前記往復式圧縮機の吸込工程または吐出工程における所定期間中に開放状態または閉鎖状態に設定して、前記往復式圧縮機の容量を調節する」ものであるのに対し、引用発明はこのような態様を備えていない点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
[相違点1]について
前記第4,1(2)の引用文献2の記載によると、引用発明の吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16は金属材料から形成されるともに、電磁石から発生する磁力によって吸引されるものであるから、当該金属材料は磁力により吸引される物質、つまり磁性体から構成されていると考えることができる。そして、磁性体として鉄は代表的な物質ということができる。
また、往復式圧縮機に用いられ、磁力で吸引される弁を鉄で形成することは、例えば、引用文献1の第1ページ右欄第3行?第8行、引用文献3の段落【0018】に記載されているように、本願の優先日前より周知の技術である。
すると、引用発明の金属材料から形成される吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を、前記周知の技術にならい、磁性体の代表的な物質である鉄で形成することに格別の困難性はない。

[相違点2]について
前記第4,3の引用文献5の記載によると、引用文献5には、吸気弁4及び排気弁5を駆動手段で強制的に開閉動させるものであって、ピストン8が下死点に達した後、ピストン8の右動による圧縮行程が開始されても、吸気弁4を直ちに閉動せずに必要とされる流量と対応する位置までピストン8が達したときに吸気弁4を閉動させ、その後、排気弁5を開き、冷媒を送出するものであって、設定された流量等にしたがって吸気弁4や排気弁5の開閉タイミングを定める点が記載されている。また、引用文献5に記載されたような往復式圧縮機において、排出する流量を調節するということは、圧縮機の容量を調節することと等価といえる。
ここで、本願発明における往復式圧縮機の「吸込工程」、「吐出工程」について、本願の明細書等に特段の定義はないが、本願の明細書の段落【0035】?段落【0038】によると、本願発明は、吸込弁71および/または吐出弁81をサイクル中の任意の時間に閉鎖させることを可能とし、吸込弁71および/または吐出弁81に生じる逆流を調節することによって、容量調節を行うものと解される。つまり、吸込弁71が本来、閉じられるべき「ピストンが下死点から上死点まで移動する工程」において、吸込弁71をすぐに閉鎖状態とせずに、所望の容量に応じた所定期間、開放状態として、逆流を生じさせた後、閉鎖状態とすることにより容量を調節するものと解され、同様に、吐出弁81が本来、閉じられるべき「ピストンが上死点から下死点まで移動する工程」において、吐出弁81をすぐに閉鎖状態とせずに、所望の容量に応じた所定期間、開放状態として、逆流を生じさせた後、閉鎖状態とすることにより容量を調節するものと解される。したがって、本願発明の「吸込弁(71)および前記吐出弁(81)の両方またはいずれか一方」を、「所定期間中に開放状態または閉鎖状態に設定」する往復式圧縮機の「吸込工程」、「吐出工程」とは、それぞれ「ピストンが上死点から下死点まで移動する工程」、「ピストンが下死点から上死点まで移動する工程」を意味すると解される。そうすると、引用文献5に記載された事項におけるピストン8が下死点に達した後に開始される圧縮行程は、本願発明の「吐出工程」に含まれるものと解される。
してみると、引用文献5には、吸気弁4(本願発明の「吸込弁(71)」に相当)を、ピストンが下死点に達した後に開始される圧縮行程(本願発明の「吐出工程」に相当)における所定期間中に開放状態に設定して、往復動型圧縮装置(本願発明の「往復式圧縮機」に相当)の流量(本願発明の「容量」に相当)を調節する点が記載されているといえる。
また、開閉自在な吸込弁及び吐出弁を備えた往復式圧縮機において、電動機の回転数を変化させることなく容量を調節可能にするという課題は、例えば、特開昭56-154185号公報の第1ページ左欄第11行?右欄第15行に記載されているように、本願の優先日前より周知の課題である。
そして、引用発明と引用文献5に記載された事項とは、ともに往復式圧縮機に関するものであって技術分野が関連するものであり、また、吸込側の流路及び吐出側の流路を選択的に開閉可能にするという作用、機能が共通する吸込弁及び吐出弁をともに備えるものである。さらに、前記したように開閉自在な吸込弁及び吐出弁を備えた往復式圧縮機において、電動機の回転数を変化させることなく容量を調節可能にするという課題は周知のものであるから、引用発明に内在している前記周知の課題を解決すべく、引用発明の吸入弁13の弁体15を、引用文献5に記載された事項に基づき、吐出工程における所定期間中に開放状態に設定して、往復式圧縮機の容量を調節することは当業者が容易に想到し得たものである。
なお、引用文献2の第5ページ左上欄第12行?第14行によると、引用発明は、吸入弁13及び吐出弁14の閉じ遅れをなくすために、選択的に制御電流を電磁石Mg2、Mg3に供給するものであって、圧縮行程においても速やかに「吸入弁13の弁体15及び吐出弁14の弁体16を弁座10に当接させ」るものと解されるが、当該態様は、引用文献5に記載された流量の調節における流量を最大にする際の態様と同等といえ(引用文献5の第3ページ右上欄第14行?第16行参照)、引用発明の圧縮行程において、引用文献5に記載された事項に基づき、容量を調節するにあたり、当該容量の調節を優先して、吸入弁13の弁体15の閉じを遅らせることに格別の困難性はない。
してみると、前記したように引用発明に引用文献5に記載された事項を適用し、本願発明の前記相違点2に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明を全体としてみても、作用効果については、引用発明、引用文献5に記載された事項及び前記周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

そうすると、本願発明は、引用発明、引用文献5に記載された事項及び前記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-22 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-05 
出願番号 特願2014-549276(P2014-549276)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北川 大地新井 浩士  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 長馬 望
柿崎 拓
発明の名称 セミコマンド式弁システムを備える往復式圧縮機、および往復式圧縮機の容量を調節する方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
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