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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1350165
審判番号 不服2016-19452  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-27 
確定日 2019-03-20 
事件の表示 特願2014-558850「毛髪染色方法及びその組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月29日国際公開、WO2013/126657、平成27年 4月16日国内公表、特表2015-511246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年(平成25年)2月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年2月24日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月29日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月1日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、同年8月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成28年12月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成28年12月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、平成28年4月1日提出の誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「 【請求項1】
毛髪を染色するための方法であって、
i)顕色剤成分を染料成分と混合し、非希釈の毛髪染色組成物を得る工程であって、前記顕色剤成分が酸化剤を含み、前記染料成分が少なくとも1つの酸化染料前駆体及び/又はアルカリ化剤を含む、工程と、
ii)工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第1の部分を前記毛髪に適用し、かつ工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分を保持する工程と、
iii)前記第2の部分を、水を含む希釈剤成分と、4:1?1:2の混合比で混合し、希釈された毛髪染色組成物を得る工程と、
iv)前記希釈された毛髪染色組成物を前記毛髪に適用する工程と、
v)前記毛髪をすすぐ工程と、
を含み、前記希釈剤成分は10重量%未満の界面活性剤を含む、方法。」

を、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的として、

「 【請求項1】
毛髪を染色するための方法であって、
i)顕色剤成分を染料成分と混合し、非希釈の毛髪染色組成物を得る工程であって、前記顕色剤成分が酸化剤を含み、前記染料成分が少なくとも1つの酸化染料前駆体及び/又はアルカリ化剤を含む、工程と、
ii)工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第1の部分を前記毛髪に適用し、かつ工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分を保持する工程と、
iii)前記第2の部分を、水を含む希釈剤成分と、4:1?1:2の混合比で混合し、希釈された毛髪染色組成物を得る工程と、
iv)前記希釈された毛髪染色組成物を前記毛髪に適用する工程と、
v)前記毛髪をすすぐ工程と、
を含み、前記希釈剤成分は界面活性剤を含まない、方法。」

と補正し、特許請求の範囲の請求項22に係る発明について、平成28年4月1日提出の誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項25に記載の、

「 【請求項25】
酸化剤を含む顕色剤成分と、少なくとも1つの酸化染料前駆体及び/又はアルカリ化剤を含む染料成分と、水を含む希釈剤成分とを含む、請求項1?24のいずれか一項に記載の毛髪を染色するための方法を実施するための毛髪染色キット。」

を、請求項10ないし12の削除に伴い請求項22とするとともに、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的として、

「 【請求項22】
酸化剤を含む顕色剤成分と、少なくとも1つの酸化染料前駆体及び/又はアルカリ化剤を含む染料成分と、水を含む希釈剤成分とを含み、該希釈剤成分は界面活性剤を含まない、請求項1?21のいずれか一項に記載の毛髪を染色するための方法を実施するための毛髪染色キット。」

と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)

すなわち、これらの補正は、発明特定事項である「水を含む希釈剤成分」の組成について、請求項1においては、補正前の「10重量%未満の界面活性剤を含む」ものであったのを「界面活性剤を含まない」ものに限定し、請求項22(補正前の請求項25)においては、界面活性剤に関する特定はされていないものであったのを「界面活性剤を含まない」ものに限定することを含むものである。

2 独立特許要件についての検討

(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び22に係る発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」及び「本願補正発明22」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものか)について検討する。

(2)引用文献及び引用発明

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2008/0178399号明細書(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。また、和訳は当審による。)。

(引1-ア)「TECHNICAL FIELD
[0001] This invention is in the field of methods and kits for improved oxidative coloration of hair.」
(技術分野
[0001] 本発明は、改善された酸化染毛の方法及びキットに関する。)

(引1-イ)「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0002] A significant percentage of oxidative hair color users are consumers with gray hair who wish to cover the gray. However, there are certain problems encountered when oxidatively coloring gray hair, particularly when performing regular maintenance oxidative coloring to color virgin roots that have grown out. In this situation, the hair that is to be colored has new gray hair growth at the roots, with the remaining portion of the hair exhibiting the color that was applied in the prior coloring session. Another subset of consumers who oxidatively color their hair generally start with one hair color and dye their hair another color that is distinctly different. As the hair grows out, the difference in color between the virgin hair roots and remaining hair is noticeable.
[0003] In any oxidative hair dyeing procedure the resulting hair color, to some extent, depends on the color of the base hair shade. When the consumer has a mixture of colors as the base hair shade, e.g. 50% gray hair and 50% virgin color, or virgin gray roots with the remaining hair colored, or roots and remaining hair with two visually distinct colors, the oxidative dye will tend to provide a noticeably different color on the differently colored strands. In the ease(当審注:“ease”は、“case”の誤記と認める。) where the consumer oxidatively colors her hair every six to eight weeks to treat gray roots, there can be a noticeable color difference between the dyed roots and ends of the hair after the oxidative color procedure. This is obviously undesirable. In the case where the consumer oxidatively colors her hair to provide a dramatic color difference, any visually perceptible difference in color after the maintenance oxidative dye process is undesirable.
・・・
[0005] When hair is colored by professionals in the salon environment, the banding is ameliorated in a variety of different ways. ・・・
[0006] The at-home hair color user typically doesn't have the skill to do many of the hair coloring processes that take place in the salon environment. This is particularly true when coloring hair in stages, where only a portion of the color is applied to the roots. It requires a certain degree of skill to apply the color to just the root area, to know how much to apply and when, and ensure that the subsequent application of dye composition to the entire head of hair will provide a uniform color from root to tip with no grabbing or otherwise damaging of the hair ends.
[0007] Accordingly, there is a need for a retail hair color kit and method that will enable the consumer who colors her hair at home to obtain salon quality oxidative hair color on gray hair or hair that exhibits two or more visually perceptible colors.
[0008] It is an object of the invention to provide an oxidative hair color kit for retail consumers who have gray hair and wish to obtain uniform, natural coloration to virgin hair and hair that is subjected to regular oxidative hair color procedures.
・・・
[0011] It is a further object of the invention to provide a method for coloring hair that has at least some gray by treating the hair in steps by applying a first portion of oxidative dye composition to the hair roots and/or faded or discolored strands of hair for a certain period of time, then applying a second diluted portion of oxidative dye composition to the remaining hair for a second additional period of time.」
(背景技術
[0002] 酸化毛髪染色の利用者の大多数は、グレーヘアを隠したいと望んでいるグレーヘアを有する消費者である。しかしながら、グレーヘアを酸化染毛する場合、特に、定期的な酸化染毛処置で成長したバージン根元部を染毛する場合に遭遇する問題がある。この状況では、染毛すべき毛髪は、根元部における成長した新たなグレーヘアと、以前の染毛処方で適用された色を呈する毛髪の残りの部分とを有する。毛髪を酸化染毛する消費者の別の集団は、一般に、ある色から始めて、それとは明確に異なる他の色に染毛する。髪が伸びたとき、根元部のバージンヘアと残りの毛髪との色の違いは顕著である。
[0003] いずれの酸化染毛手順においても、得られる毛髪の色は、ある程度、ベースとなる毛髪の色合いの色に依存する。消費者が、ベースとなる毛髪の色合いとして、混色、例えば50%のグレーヘアと50%のバージンカラー、又は根元部のバージングレーヘアと染毛された残りの部分、又は視覚的に異なる2色の根元部と残りの部分の毛髪、を有する場合には、酸化染毛は、異なる色の毛束に著しく異なった色を提供する傾向がある。消費者が根元部のグレーヘアを処置するために6?8週間ごとに酸化染毛する場合に、酸化染毛処理後の染毛された根元部と先端部との間に、顕著な色の差が生じることがある。これは明らかに望ましくない。消費者が劇的に異なる色差を提供するために酸化染毛する場合には、酸化染毛工程処置後における視覚的に認知可能な色の差は望ましくない。
・・・
[0005] 美容院において専門家により染毛される場合、帯状の色差(banding)は様々な異なる方法で緩和されている。・・・
[0006] 自宅染毛利用者は、通常、美容院で実施される多くの染毛工程を実施するための技術を持っていない。これは、染毛においてカラーの一部のみを根元に適用する工程の場合に特に言えることである。根元領域にのみ染料を加え、適用すべき量及び時間の程度を知り、そして、後続する処置における毛髪の頭全体への染料組成物の適用により、根元から先端部まで均一な色を提供し、毛髪の末端部での接着又は損傷を生じさせないことを確実にするためには、ある程度の技術を必要とする。
[0007] したがって、自宅で染毛する消費者にとって、グレーヘア又は2以上の視覚的に知覚可能な色を呈する毛髪に対して美容院品質の酸化染毛を得ることを可能にする、小売染毛キット及び方法に対する要望がある。
[0008] 本発明の目的は、グレーヘアを有し、バージンヘアと定期的酸化染毛処理が施される毛髪とに対して均一で自然な発色を得たいと望む小売り消費者のために、酸化染毛キットを提供することである。
・・・
[0011] 本発明の更なる目的は、少なくともいくらかのグレーヘアを有する毛髪に対する染毛方法を提供することであり、その方法は、酸化染毛組成物の第1の部分を、毛髪の根元部及び/又は色あせた又は脱色した毛束に対して一定時間にわたって適用する段階、次に、酸化染毛組成物の第2の希釈部分を、残りの毛髪に対して第2の追加の時間にわたって適用する段階、の多段階的に毛髪を処理するものである。)

(引1-ウ)「BRIEF DESCRIPTION OF DRAWINGS
[0022] FIG. 1 depicts a retail oxidative hair color kit in accordance with the invention and the various components that may be found in the kit.」
(図面の簡単な説明
[0022] 図1は、本発明による小売り酸化染毛キットと、キットにおいて見出され得る様々な構成要素を示す。)

(引1-エ) FIG. 1(図1)




(引1-オ)「DETAILED DESCRIPTION
I. The Kit
[0023] The kit of the invention and the various items that may be found in the kit is depicted in FIG. 1 .
[0024] A. Kit Container
[0025] The kit generally comprises a container 2 for holding the various items in the kit 1 . The container 2 may be a carton, possibly made from cardboard, paper, or thermoplastic material. ・・・」
(発明の詳細な説明
I.キット
[0023] 本発明のキットとキットにおいて見出され得る様々な品目は、図1に示されている。
[0024] A.キット収納容器
[0025] キットは、一般的に、キット1の各種品目を収納する収納容器2を備えている。収納容器2は、カートン、厚紙、紙、または熱可塑性材料から作ることができる。・・・)

(引1-カ)「[0027] B. Developer
[0028] 1. The Receptacle for the Developer
[0029] The kit 1 contains a developer composition 3 . The term “developer” means an aqueous based oxidizing agent composition that, when combined with the oxidative dye composition, activates the oxidative dye composition to form a composition that is operable to oxidatively color hair. The developer composition 3 is most often found in a bottle B that is made of a thermoplastic material such as high density polyethylene or the like. ・・・」
([0027] B.顕色剤
[0028] 1.顕色剤のための容器
[0029] キット1は顕色剤組成物3を含んでいる。用語「顕色剤」とは、水性ベースの酸化剤組成物を意味し、酸化染毛組成物と混合したときに、酸化染毛組成物を活性化し、酸化染毛するように動作可能である組成物を形成する。顕色剤組成物3は、通常、高密度ポリエチレン等の熱可塑性材料で形成されているボトルBの中にある。・・・)

(引1-キ)「[0033] 2. The Developer Composition
[0034] The developer composition comprises a certain ratio of water phase, oil phase, and an aqueous based oxidizing agent such as urea peroxide or hydrogen peroxide.」
([0033] 2.顕色剤組成物
[0034] 顕色剤組成物は、適当な配合比で、水相、油相、及び、過酸化尿素又は過酸化水素のような水性ベースの酸化剤を含む。)

(引1-ク)「[0101] C. Oxidative Dye Composition
[0102] 1. The Receptacle
[0103] The kit contains an oxidative dye composition found in a receptacle 5 . While a tube 5 is depicted, the oxidative dye composition may be found in a variety of other receptacles such as bottles, jars, packettes, etc.
[0104] 2. The Oxidative Dye Composition
[0105] In general, the oxidative dye compositions are aqueous based and comprise about 0-20%. preferably about 0.001-10%, more preferably about 0.01-8% by weight of the total oxidative dye composition of dyestuff components and about 0.0001-99.9%, preferably about 0.001-98%, more preferably about 0.001-90% by weight of the total composition of a water base.
[0106] (a). Dyestuff Components
[0107] Dyestuff components include primary intermediates and, optionally, couplers for the formation of oxidation dyes.
・・・
[0115] (b). Alkalizing Agent
[0116] The oxidative dye composition may also contain one or more alkalizing agents preferably in a range of about 0.1-5% based on the total weight of the oxidative dye composition. The term “alkalizing agent” means an ingredient that is capable of imparting alkalinity (e.g. a pH of greater than 7) to the dye mixture.」
([0101] C.酸化型染料組成物
[0102] 1.容器
[0103] キットは、容器5の中にある酸化型染料組成物を含む。チューブ5が図示されているが、酸化型染料組成物は、ボトル、ジャー、包み等の様々な他の容器の中に含まれうる。
[0104] 2.酸化型染料組成物
[0105] 一般に、酸化型染料組成物は、水性ベースであり、総酸化型染料組成物の重量に対して約0-20%、好ましくは約0.001-10%、より好ましくは約0.01-8%の染料成分と、組成物全重量の約0.0001-99.9%、好ましくは約0.001-98%、より好ましくは約0.001-90%の水を含む。
[0106] (a).染料成分
[0107] 染料成分は、酸化型染料を形成するための一次中間体、及び、選択的に、カプラーを含む。
・・・
[0115] (b).アルカリ化剤
[0116] 酸化型染料組成物は、酸化型染料組成物の全重量に基づいて、好ましくは約0.1-5%の範囲で、1つ以上のアルカリ化剤を含有してもよい。用語「アルカリ化剤」は、染料混合物にアルカリ性(例えば7を超えるpH)を付与することができる成分を意味する。)

(引1-ケ)「[0134] C. The Diluent
[0135] The kit contains at least one receptacle containing the diluent, an aqueous based composition suitable for diluting the oxidative dye mixture that is formed by combining the developer and oxidative dye composition.
[0136] 1. The Diluent Receptacle
[0137] The diluent 6 is found in a receptacle within the kit 1 . The diluent receptacle 7 may be a bottle, jar, or any other type of container that is suitable for containing the aqueous based composition. Shown in FIG. 1 is where the diluent receptacle 7 is a bottle with a screw cap 8 . ・・・
・・・
[0139] 2. The Diluent Composition
[0140] The diluent composition is preferably an aqueous based composition that is suitable for diluting the oxidative hair dye mixture that is formed by combining the developer composition and the oxidative hair dye composition. The diluent composition comprises from about 0.1-100%, preferably from about 20-99%, more preferably from about 50-98% water. The diluent composition may also contain any one or more of the ingredients set forth for use in the developer composition and/or oxidative dye composition (including oxidative or semi-permanent dyes), and in the same general percentage ranges.」
([0134] C.希釈剤
[0135] キットは、希釈剤を収容した少なくとも1つの容器を含む。希釈剤は、顕色剤と酸化型染料組成物を混合して形成される酸化染料混合物を希釈するのに適した水性ベースの組成物である。
[0136] 1.希釈剤容器
[0137] 希釈剤6は、キット1に含まれる容器の中にある。希釈剤容器7は、ボトル、ジャー、又は水性ベースの組成物を収容するのに適した他の任意のタイプの容器とすることができる。図1に示した希釈剤容器7は、ねじ付きキャップ8を備えたボトルである。・・・
・・・
[0139] 2.希釈剤組成物
[0140] 希釈剤組成物は、顕色剤組成物と酸化型染毛組成物を混合して形成される酸化染毛剤混合物を希釈するのに適した水性ベースの組成物であることが好ましい。希釈剤組成物は、約0.1-100%、好ましくは約20-99%、より好ましくは約50-98%の水を含む。希釈剤組成物はまた、顕色剤組成物及び/又は酸化型染料組成物(酸化又は半永久染料を含む)で使用される成分のうちの1つ又はそれ以上を、同様の一般的な百分率範囲内で含むことができる。)

(引1-コ)「II. The Method
[0159] The invention further comprises a method for oxidatively coloring hair that exhibits at least two visually perceptible different colors wherein one of such colors is exhibited by virgin hair, comprising:
[0160] (a) combining an oxidative dye composition and a developer composition to form an oxidative dye mixture,
[0161] (b) applying a portion of the dye mixture selectively to the virgin hair for a certain period of time,
[0162] (c) diluting the remaining portion of the oxidative dye mixture with an aqueous based diluent to form a diluted oxidative dye mixture,
[0163] (d) applying the diluted oxidative dye mixture to the remaining prior colored hair for a certain period of time. The term “virgin hair” when used herein, means hair that has not previously been treated with oxidative dye. For example, in the case where gray hair is being dyed, the virgin hair is gray and includes hair roots with the remaining non-virgin hair being generally the color applied in the previous oxidative dye procedure. ・・・」
(II.方法
[0159] 本発明は、少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪を酸化染毛する方法を更に含む。そのような色のうちの1つは、バージンヘアが呈するものである。該方法は、以下の工程を含む。
[0160] (a)酸化型染料組成物と顕色剤組成物を混合して酸化染料混合物を形成する工程、
[0161] (b)前記染料混合物の一部を、一定時間にわたってバージンヘアへ選択的に適用する工程、
[0162] (c)前記酸化染料混合物の残りの部分を水性ベース希釈剤で希釈して希釈酸化染料混合物を形成する工程、
[0163] (d)希釈酸化染料混合物を、一定時間にわたって残りの以前に染毛された毛髪に適用する工程。本明細書で用いる「バージンヘア」という用語は、以前に酸化型染毛剤で処理されていない毛髪を意味する。例えば、グレーヘアが染毛されている場合、バージンヘアはグレーであり、一般的に以前の酸化染毛処置により印加された色を有する非バージンヘアである残りの部分を伴う根元部分の毛髪を含む。・・・)

(引1-サ)「[0170] The oxidative dyeing process of the invention is in at least two steps. In the first step, the oxidative dye composition and developer are combined as noted above and applied to the desired hair strands. In the case where the hair has been previously oxidatively dyed, a portion of the mixture may be applied to the new hair growth and any faded or discolored strands. Typically, the mixture is applied to the hair for anywhere from 5 to 60 minutes, preferably from about 8 to 45 minutes, more preferably from about 10-35 minutes. Then, the user dilutes the remaining oxidative dye mixture using the diluent to form a diluted mixture which is applied to the entire head of hair for a period of time ranging from about 1 to 20, preferably from about 2 to 15, more preferably from about 3 to 10 minutes. The mixture is then completely rinsed from the hair. If desired other post oxidative treatment products can be applied such as shampoo, hair conditioner, color glaze, and the like.」
([0170] 本発明の酸化染毛工程は、少なくとも2段階である。第1ステップでは、酸化型染料組成物と顕色剤は、上述したように混合して所望の毛束に適用される。以前に毛髪が酸化染毛されている場合には、前記混合物の一部は、新たな発毛及び任意の色あせた又は色落ちした毛束に適用するのがよい。典型的には、前記混合物は、5-60分のいずれかの間、好ましくは約8-45分、より好ましくは約10-35分、毛髪に適用される。次に、利用者は希釈剤を使用して残りの酸化染料混合物を希釈して希釈混合物を形成し、約1-20分の範囲の間、好ましくは約2-15分、さらに好ましくは3-10分、頭髪全体に適用する。前記混合物は、その後、毛髪から完全にすすぎ流される。必要に応じて、シャンプー、ヘアコンディショナー、カラーグレーズなどのような、酸化染毛後処置を適用することができる。)

イ 引用文献1に記載された発明の認定

(ア) (引1-ク)の[0105]に酸化型染料組成物が染料成分を含むことが、[0107]に染料成分が酸化型染料を形成するための一次中間体を含むことが、[0116]に酸化型染料組成物がアルカリ化剤を含有してもよいことが記載されていることから、酸化型染料組成物が酸化型染料を形成するための一次中間体及びアルカリ化剤を含むものである態様が読み取れる。

(イ) (引1-サ)の「前記混合物は、その後、毛髪から完全にすすぎ流される。」との記載から、(引1-コ)の[0163]に記載された(d)の工程の後に、毛髪をすすぐ工程を実施することが読み取れる。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)を踏まえると、(引1-ア)ないし(引1-サ)の記載から、引用文献1には、

「 少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪を酸化染毛する方法であって、
(a)酸化型染料組成物と顕色剤組成物を混合して酸化染料混合物を形成する工程であって、前記顕色剤組成物が酸化剤を含み、前記酸化型染料組成物が酸化型染料を形成するための一次中間体及びアルカリ化剤を含む、工程と、
(b)前記酸化染料混合物の一部を、一定時間にわたってバージンヘアへ選択的に適用する工程と、
(c)前記酸化染料混合物の残りの部分を水性ベース希釈剤で希釈して希釈酸化染料混合物を形成する工程と、
(d)希釈酸化染料混合物を、一定時間にわたって残りの以前に染毛された毛髪に適用する工程と、
(e)毛髪をすすぐ工程と、
を含む、方法。」

の発明(以下「引用方法発明」という。)、及び、

「 酸化剤を含む顕色剤組成物3を入れたボトルB、酸化型染料を形成するための一次中間体及びアルカリ化剤を含む酸化型染料組成物を入れたチューブ5、及び水性ベース希釈剤を入れた希釈剤容器7を含む各種品目を収納した収納容器2を備えた、引用方法発明を実施するための酸化染毛キット。」

の発明(以下「引用キット発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明1について

ア 本願補正発明1と引用方法発明とを対比する。

(ア)引用方法発明の「少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪」、「バージンヘア」、及び「残りの以前に染毛された毛髪」は、それぞれ本願補正発明1の「毛髪」と、「染色対象の毛髪」である点で共通する。

(イ)引用方法発明の「少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪を酸化染毛する方法」と、本願補正発明1の「毛髪を染色するための方法」とは、「染色対象の毛髪を染色するための方法」の点で共通する。

(ウ)引用方法発明の「酸化剤」及び「顕色剤組成物」は、それぞれ本願補正発明1の「酸化剤」及び「顕色剤成分」に相当する。

(エ)引用方法発明の「酸化型染料を形成するための一次中間体」、「アルカリ化剤」及び「酸化型染料組成物」は、それぞれ本願補正発明1の「酸化染料前駆体」、「アルカリ化剤」及び「染料成分」に相当する。

(オ)引用方法発明の「酸化染料混合物」は、本願補正発明1の「非希釈の毛髪染色組成物」に相当する。

(カ)引用方法発明の「酸化染料混合物の一部」は、本願補正発明1の「非希釈の毛髪染色組成物の第1の部分」に相当する。

(キ)引用方法発明の「酸化染料混合物の残りの部分」は、本願補正発明1の「非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分」に相当する。

(ク)引用方法発明の「(b)前記酸化染料混合物の一部を、一定時間にわたってバージンヘアへ選択的に適用する工程」において、酸化染料混合物の一部のみを適用して「酸化染料混合物の残りの部分」を残すことは、本願補正発明1において、「非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分を保持する」ことに相当する。

(ケ)引用方法発明の「水性ベース希釈剤」は、本願補正発明1の「水を含む希釈剤成分」に相当する。

(コ)引用方法発明の「希釈酸化染料混合物」は、本願補正発明1の「希釈された毛髪染色組成物」に相当する。

イ 一致点及び相違点

よって、本願補正発明1と引用方法発明とは、

「 染色対象の毛髪を染色するための方法であって、
i)顕色剤成分を染料成分と混合し、非希釈の毛髪染色組成物を得る工程であって、前記顕色剤成分が酸化剤を含み、前記染料成分が少なくとも1つの酸化染料前駆体及びアルカリ化剤を含む、工程と、
ii)工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第1の部分を前記染色対象の毛髪に適用し、かつ工程i)で得られた前記非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分を保持する工程と、
iii)前記第2の部分を、水を含む希釈剤成分と混合し、希釈された毛髪染色組成物を得る工程と、
iv)前記希釈された毛髪染色組成物を前記染色対象の毛髪に適用する工程と、
v)前記染色対象の毛髪をすすぐ工程と、
を含む、方法。」

の発明である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1)
非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分と水を含む希釈剤成分との混合比に関し、本願補正発明1においては、「4:1?1:2」であるのに対し、引用方法発明においては、特定されていない点。

(相違点2)
水を含む希釈剤成分が、本願補正発明1においては、「界面活性剤を含まない」のに対し、引用方法発明においては、そのような特定はされていない点。

(相違点3)
本願補正発明1は、染色対象の毛髪の種類、並びに、非希釈の毛髪染色組成物及び希釈された毛髪染色組成物を適用する毛髪の部分を特定せず、工程ii)で非希釈の毛髪染色組成物を適用した毛髪に、工程iv)で希釈された毛髪染色組成物を適用するのに対し、引用方法発明は、「少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪」を染色対象とし、工程(b)で酸化染料混合物(非希釈の毛髪染色組成物)を「バージンヘアへ選択的に適用」し、工程(d)で希釈酸化染料混合物(希釈された毛髪染色組成物)を「残りの以前に染毛された毛髪に適用する」点。

ウ 当審の判断

(ア)上記各相違点について検討する。

a 相違点1について
引用方法発明は、少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する毛髪を酸化染毛する方法であって、色が異なるバージンヘアとその他の部分とにおいて、希釈しない酸化染料混合物と希釈酸化染料混合物とを使い分けることにより、均一で自然な発色を得ようとするものである((引1-イ)の[0008]参照。)。
そうすると、引用方法発明において、希釈酸化染料混合物を形成するために酸化染料混合物の残りの部分と水性ベース希釈剤とをどのような混合比で混合するかは、バージンヘアとその他の部分とが呈する色の差の程度や、希釈しない酸化染料混合物及び希釈酸化染料混合物それぞれを適用する時間の長さを考慮して選択すべき事項であると認められる。
そして、前記混合比として4:1?1:2の範囲の比を選択することに困難性があるとも認められない。

b 相違点2について
(引1-ケ)の[0140]には、引用方法発明の水性ベース希釈剤に相当する希釈剤組成物の成分に関して、「希釈剤組成物は、顕色剤組成物と酸化型染毛組成物を混合して形成される酸化染毛剤混合物を希釈するのに適した水性ベースの組成物であることが好ましい。希釈剤組成物は、約0.1-100%、好ましくは約20-99%、より好ましくは約50-98%の水を含む。希釈剤組成物はまた、顕色剤組成物及び/又は酸化型染料組成物(酸化又は半永久染料を含む)で使用される成分のうちの1つ又はそれ以上を、同様の一般的な百分率範囲内で含むことができる。」と記載されている。
上記[0140]の記載によると、水100%の例示があることからもわかるように、水性ベース希釈剤として必須な成分は水のみであり、顕色剤組成物及び/又は酸化型染料組成物に含まれる水以外の成分は、任意付加的な成分であると理解できる。
よって、引用文献1の記載に基づき、引用方法発明における水性ベース希釈剤を、界面活性剤を含まないものと特定し、上記相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

請求人は、審判請求書の第8頁3行?第9頁下から4行において、
「 引用文献1では、水系希釈剤に含まれる成分に関し、顕色剤組成物や酸化的染料組成物で配合できる成分を含むことができる旨記載されています(第9頁段落[0139]、[0140])。
そして、顕色剤組成物に配合する界面活性剤について、引用文献1第5頁段落[0078]?第6頁段落[0093]に詳細に説明されています。ここでは、非イオン性界面活性剤であれば約0.01?10%(段落[0078])、アニオン性界面活性剤であれば0.1?25%配合可能である(段落[0087])ことが記載されています。
さらに、EXAMPLE1では、3種類の水系希釈剤が具体的に開示されており、処方例Aはラウレス硫酸ナトリウム20%、ラウリル硫酸ナトリウム10%、コカミドプロピルベタイン4%、コカミドMEA2%配合され、界面活性剤が36%配合されています。処方例Bはラウレス硫酸ナトリウム20%、ラウリル硫酸ナトリウム5%、コカミドプロピルベタイン5%、コカミドMEA2%で、界面活性剤が32%配合されています。処方例Cはラウリル硫酸ナトリウムのみ10%配合されています(第11頁段落[0174])。つまり、示されている希釈剤の処方例はすべて界面活性剤を少なくとも10%以上含んでいます。
引用文献1では、界面活性剤を顕色剤組成物や酸化的染料組成物に配合する目的として特に言及していませんが、顕色剤組成物や酸化的染料組成物に配合する場合にこれらの粘度を低下される目的であるとは当業者は認識しないと思料します。これらの組成物の他の成分の可溶化に寄与されるために配合すると考えられます。
また、引用文献1の第4頁段落[0076]では、最終的な酸化的染料混合物の粘度を上昇させるために、顕色剤組成物に増粘剤を配合することが記載されています。また、引用文献1第9頁段落[0126]では、酸化的染料組成物が毛髪から液だれしないように増粘剤を配合することが記載されています。
これらの記載を参照しても、引用文献1の組成物の粘度を調整する成分としては増粘剤の記載があるのみです。
・・・
引用文献1の記載からは、明らかに水系希釈剤に界面活性剤を配合することを示唆しています。そして、界面活性剤と組成物の粘度の関係について何ら認識していません。
以上より、希釈された毛髪染色剤組成物の粘度の低下を抑えるために、希釈剤成分に界面活性剤を配合しないことについて、引用文献1では明確な示唆はありません。
・・・
しかしながら、引用文献1には上述の通り、組成物の粘度に関しては増粘剤を使用することのみ記載し、界面活性剤の濃度を制御することは何ら記載されていません。むしろ、引用文献1の実施例では高い濃度の界面活性剤を含む水系希釈剤が示されるのみで、界面活性剤を高い濃度で含む組成物の粘度が低下することが周知技術であったとしても、明確な示唆がない以上、引用文献1の記載から本願発明の構成を導くことは当業者に容易ではないと思料します。」
と主張する。

しかしながら、引用文献1には引用方法発明の水性ベース希釈剤が界面活性剤を必須の成分とすることが記載されていないことは、上述したとおりであり、また、実施例として記載された希釈剤組成物の全てが界面活性剤を含んでいることが、直ちに引用方法発明の水性ベース希釈剤が界面活性剤を必須の成分とするものであると限定的に解釈すべき根拠となるものでもない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

c 相違点3について
本願補正発明1は、染色対象の毛髪の種類、並びに、非希釈の毛髪染色組成物及び希釈された毛髪染色組成物を適用する毛髪の部分を特定するものではない。
ところで、上記の本願補正発明1に係る実施の態様として、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載(下線は当審で付加した。)がある。

「【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書は、本発明を詳しく指摘し明確に請求する特許請求の範囲にまとめられるが、本発明は、以下の説明からよりよく理解されるものと考えられる。
【0010】
本明細書で使用するとき、扱われる用語「毛髪」は、「生きている」、すなわち、生体上にあるものであり得、又は、「生きていない」、すなわち、かつら、ヘアピース又は他の非生体ケラチン性繊維の集合体であり得る。哺乳類、好ましくはヒトの毛髪が好ましい。しかしながら、ウール、毛皮及び他のケラチン含有繊維は、本発明による組成物に好適な基材である。用語「根元」、「毛根」、「根元毛髪線」、及び「新しい毛髪」は、全て毛髪染色組成物で以前に処置されたことがない毛髪を指す。
【0011】
本発明に従う好ましい実施形態において、毛髪染色組成物は、毛髪染色組成物で以前に染色されたことがある毛髪に適用される。かかる場合においては、用語「根元」、「毛根」、「根元毛髪線」、及び「新しい毛髪」は、全て、最近の毛髪彩度以来、成長した毛髪の部分を指し、前記新しい状態の毛髪の部分は、つまり、自然に染色され、用語「毛髪の長さ部分及び先端」は、以前に染色された毛髪の残りの部分を指す。
【0012】
特に記述されない限り、全ての百分率は、総組成物の重量によるものである。特に記載しない限り、全ての比率は重量比である。
【0013】
毛髪の染色方法
本明細書に前述のように、本発明は、毛髪を染色するための方法に関する。
【0014】
非希釈の毛髪染色組成物の第1の部分は、好ましくは、毛根に適用され、希釈された毛髪染色組成物は、好ましくは毛髪の長さ部分及び先端に適用される。」

そうすると、本願補正発明1は、以前に染色されたことのある部分と、以前の染色の後に成長し染色されたことのない部分とを有する毛髪を染色対象とし、工程ii)において非希釈の毛髪染色組成物を毛髪のうち以前の染色の後に成長し染色されたことのない部分に適用し、工程iv)において希釈された毛髪染色組成物を毛髪のうち以前に染色されたことのある部分に適用する態様を包含するものと解される。
そして、引用方法発明の「バージンヘア」及び「残りの以前に染毛された毛髪」は、それぞれ本願補正発明1の上記態様における「毛髪のうち以前の染色の後に成長し染色されたことのない部分」及び「毛髪のうち以前に染色されたことのある部分」に相当するものであるといえるところ、「以前の染色の後に成長し染色されたことのない部分」と「以前に染色されたことのある部分」とを有する毛髪が、「少なくとも2つの視覚的に知覚可能な異なる色を呈する」ことは明らかである。
したがって、上記相違点3は、実質的な相違点ではない。

(イ)本願補正発明1の奏する作用効果

染毛剤組成物に界面活性剤を配合することで、粘度低下が生じうることは、本願優先権主張日前において周知な事項である(例えば、特開2009-161492号公報の段落【0018】、特開2010-150180号公報の段落【0087】、国際公開第2011/138838号の第15頁1?3行を参照。)。
よって、本願の発明の詳細な説明の段落【0092】の「希釈剤成分は、10重量%未満、好ましくは8重量%未満、より好ましくは6重量%未満の界面活性剤を含み、更により好ましくは実質的に界面活性剤を含まない。本発明者らは、驚くべきことに、高すぎる濃度の界面活性剤を含む希釈剤成分が非希釈の毛髪染色組成物の第2の部分に添加され、希釈された毛髪染色組成物を得る場合、粘度の相当な下降が観察されることがあり、希釈された毛髪染色組成物の粘度が毛髪の長さ部分及び先端に、毛髪から組成物がしたたり落ちることなく適用するには低すぎて適用できないことを見出した。」という記載から把握される、本願補正発明1の希釈剤成分が界面活性剤を含まないことによってもたらされる、希釈された毛髪染色組成物が毛髪からしたたり落ちることがないという効果は、引用文献1の記載事項及び本願優先権主張日前において周知な事項から、当業者が予測し得る程度のものである。
また、本願補正発明1によってもたらされるその他の効果も、引用文献1の記載事項及び本願優先権主張日前において周知な事項から当業者が予測し得る程度のものである。

(ウ)小括

以上のとおりであるから、本願補正発明1は、引用方法発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)本願補正発明22について

ア 本願補正発明22と引用キット発明とを対比する。

(ア)引用キット発明の「酸化剤」及び「顕色剤組成物3」は、それぞれ本願補正発明22の「酸化剤」及び「顕色剤成分」に相当する。

(イ)引用キット発明の「酸化型染料を形成するための一次中間体」、「アルカリ化剤」及び「酸化型染料組成物」は、それぞれ本願補正発明22の「酸化染料前駆体」、「アルカリ化剤」及び「染料成分」に相当する。

(ウ)引用キット発明の「水性ベース希釈剤」は、本願補正発明22の「水を含む希釈剤成分」に相当する。

(エ)引用キット発明における「引用方法発明を実施するための」と、本願補正発明22における「請求項1?21のいずれか一項に記載の毛髪を染色するための方法を実施するための」とは、「毛髪の染色方法を実施するための」の点で共通する。

(オ)引用キット発明の「酸化染毛キット」は、本願補正発明22の「毛髪染色キット」に相当する。

イ 一致点及び相違点

よって、本願補正発明22と引用キット発明とは、

「 酸化剤を含む顕色剤成分と、少なくとも1つの酸化染料前駆体及びアルカリ化剤を含む染料成分と、水を含む希釈剤成分とを含む、毛髪の染色方法を実施するための毛髪染色キット。」

の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点4)
水を含む希釈剤成分が、本願補正発明22においては、「界面活性剤を含まない」のに対し、引用キット発明においては、そのような特定はされていない点。

(相違点5)
毛髪の染色方法が、本願補正発明22においては、「請求項1?21のいずれか一項に記載の毛髪を染色するための方法」であるのに対し、引用キット発明においては、「引用方法発明」に係る染色方法である点。

ウ 当審の判断

(ア)上記各相違点について検討する。

a 相違点4について
上記相違点4は、本願補正発明1と引用方法発明とに係る上記相違点2と実質的に同じものである。
よって、上記(3)ウ(ア)bにおいて検討した上記相違点2と同様の理由により、引用キット発明において、上記相違点4に係る本願補正発明22の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

b 相違点5について
「毛髪染色キット」という物の発明である本願補正発明22において、「請求項1?21のいずれか一項に記載の毛髪を染色するための方法を実施するための」ものであることは、「毛髪染色キット」としての構成を何ら特定するものとは認められない。
したがって、上記相違点5は、実質的な相違点ではない。

(イ)本願補正発明22の奏する作用効果

本願補正発明22の希釈剤成分が界面活性剤を含まないことによって、希釈された毛髪染色組成物が毛髪からしたたり落ちることがないという効果をもたらすとしても、当該効果は、上記(3)ウ(イ)で示した本願補正発明1が奏する作用効果に対する判断と同様な理由により、引用文献1の記載事項及び本願優先権主張日前において周知な事項から、当業者が予測し得る程度のものである。
また、本願補正発明22によってもたらされるその他の効果も、引用文献1の記載事項及び本願優先権主張日前において周知な事項から当業者が予測し得る程度のものである。

(ウ)小括

以上のとおりであるから、本願補正発明22は、引用キット発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明22は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本願補正発明1及び本願補正発明22は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成28年12月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び25に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明25」という。)は、それぞれ平成28年4月1日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び25に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 原査定の拒絶の理由

原査定の請求項1及び25に係る拒絶の理由は、この出願の請求項1及び25に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2008/0178399号明細書

3 引用文献及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献1の記載内容及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 本願発明1についての対比・判断

本願発明1は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明1における希釈剤成分が含む界面活性剤の量に係る限定事項を、「含まない」から「10重量%未満」に拡張したものに相当する。

そうすると、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに希釈剤成分が含む界面活性剤の量の範囲を減縮したものに相当する本願補正発明1が、上記第2[理由]2(3)に記載したとおり、引用方法発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用方法発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、本願の請求項12において請求項1を引用する発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明1と同一である。

5 本願発明25についての対比・判断

本願発明25は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明22における希釈剤成分が含む界面活性剤の量に係る限定事項を、削除、又は「含まない」から「10重量%未満」に拡張したものに相当する。

そうすると、本願発明25の発明特定事項をすべて含み、さらに希釈剤成分が含む界面活性剤の量の範囲を減縮したものに相当する本願補正発明22が、上記第2[理由]2(4)に記載したとおり、引用キット発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明25も、同様の理由により、引用キット発明及び引用文献1の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求項1を引用する請求項12を引用する本願発明25は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明22と同一であるともいえる。

6 むすび

以上のとおりであるから、本願発明1及び25は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2017-11-22 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2018-10-26 
出願番号 特願2014-558850(P2014-558850)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 吾一駒木 亮一  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渡戸 正義
関 美祝
発明の名称 毛髪染色方法及びその組成物  
代理人 小田 直  
代理人 岩堀 明代  
代理人 高橋 香元  
代理人 高岡 亮一  

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