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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23C |
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管理番号 | 1350166 |
審判番号 | 不服2017-5375 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-14 |
確定日 | 2019-03-20 |
事件の表示 | 特願2015- 47920号「長い貯蔵寿命の乳及び乳-関連製品類、及びそれらの製造方法及び乳加工プラント」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日出願公開、特開2015-109872号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年1月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年1月27日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-546594号の一部を平成27年3月11日に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成27年 3月24日 :手続補正書、上申書 平成28年 2月15日付け:拒絶理由通知書 平成28年 8月 2日 :意見書、手続補正書、誤訳訂正書 平成28年12月15日付け:拒絶査定 平成29年 4月14日 :審判請求 平成30年 3月 9日付け:拒絶理由通知書 平成30年 6月13日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「ミクロ濾過にかけられそして高温(HT)-処理に暴露された、そして変性された及び変性されていない両β-ラクトグロブリンの合計量に対して、多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている、貯蔵寿命の長い乳製品であって、当該乳製品が、 ラクトースが減じられた乳であるか、或いは 2?4%(w/w)の乳脂肪を含む全脂肪乳、0.7?2%(w/w)の乳脂肪を含む半-脱脂乳、0.1?0.7%(w/w)の乳脂肪を含む脱脂乳、及び0.05?0.1%(w/w)の脂肪を含む脱脂乳から成る群から選択される乳製品である、 ことを特徴とする乳製品。」 第3 拒絶の理由 平成30年3月9日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由3及び4は、次のとおりのものである。 理由3.(新規性) 本願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由4.(進歩性) 本願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用例等一覧> 1.特開2008-161181号公報 第4 引用例の記載及び引用発明 1 引用例1の記載 引用例1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 「【請求項11】 タンパク質を約9から約26パーセント、 脂肪を約0から約26パーセント、 水を約40から約85パーセント 含む実質的に無菌の濃縮乳液体であって、前記実質的に無菌の濃縮乳液体を出発乳液体から調製し、前記実質的に無菌の濃縮乳液体は、出発乳液体に対して全細菌が少なくとも4ログ減少し、前記実質的に無菌の濃縮乳液体は、1グラム当たりの胞子形成細菌のコロニー形成単位が約5未満であり、前記実質的に無菌の濃縮乳液体を、有意な熱処理への曝露なしに調製することを特徴とする、実質的に無菌の濃縮乳液体。」 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、濃縮液体乳製品の製造方法、特に、有意な熱処理なしに無菌または実質的に無菌の濃縮液体乳製品を製造する方法に関する。本発明は、また、別の形態として、濃縮液体乳製品、特に、有意な熱処理なしに得られる無菌または実質的に無菌の濃縮液体乳製品に関する。」 「【背景技術】 【0002】 乳などの液体乳製品の濃縮は、しばしば、望まれているところである。というのは、それによって保存および運送される体積を減少させ、その結果、保存および輸送費用を低減することができるからである。液体乳濃縮物は、また、パッケージングや、乳製品の使用を、より効率的に実施することを可能にする。例えば、温かい飲料および冷たい飲料を一度に提供するという要望に沿った飲料システムの人気に伴って、濃縮形態の飲料は、飲料システムによって希釈されるときに通常の濃さの飲料を提供するためのカートリッジまたは容器に入れてしばしば利用されている。濃縮乳は、例えば、一般にラッテ、カプチーノ、ならびに他の温かい飲料および冷たい飲料を提供するための、オンデマンド飲料システムと共に使用される。他の具体例では、濃縮乳製品は、風味成分または発酵チーズ濃縮物などの他の乳製品の製造のために、その全体が本明細書に組み込まれる特許文献1に記載の中間体などの中間体原料として使用される。当然のことながら、濃縮乳製品のための他の使用もある。 【0003】 官能上優れた、高度に濃縮された乳の製造は、困難となり得る。というのは、乳の濃縮においては、生物学的に安定にするために濃縮物が受けねばならない高温加工の際に、安定性に問題が生じるからである。例えば、タンパク質レベルに対して少なくとも3倍(3×)に濃縮された乳は、タンパク質の変性、凝固、ゲル化を生じ、褐変を示し、かつ/または後の熱加工中にタンパク質を沈殿させる傾向がある。さらに、このような濃縮乳は、製品が古くなるにつれてやがて分離し、ゲルを形成し、それによって製品の有効な品質保持期間を制限する傾向もある。濃縮乳は、結果として、一般に濃度が約2.5×から3×以下に制限され、全固体が約25パーセント以下であり、タンパク質が約9パーセント以下であり、品質保持期間が約3から約6ヵ月以下である。 【0004】 濃縮乳の一般的な製造方法は、乳の濃縮と共に熱処理を伴う。例えば、一方法は、まず乳を固体と脂肪の所望の比に標準化し、次いでその乳を予熱して、後の高温加工中に乳カゼインが凝固する可能性を低減する。予熱された乳は、次いで蒸発、限外濾過、または他の適切な方法によって、所望の濃度に濃縮される。その後その乳は、しばしばホモジナイズされ、冷却され、再標準化され、パッケージされる。パッケージの前または後に、製品は、乳を高温にかける短時間の高温加工(例えば乾留)によって(例えば、約135℃以上で数秒間)、生物学的に安定にされなければならない。あいにく、高度に濃縮された乳(タンパク質に対して約3×超の濃度)のこのような熱加工は、しばしば前述の望ましくない凝固、ゲル化、褐変、および/またはタンパク質沈殿を生ずる。 【0005】 高度に濃縮された乳への熱加工の望ましくない効果を最小限に抑えるための1つの試みは、濃縮乳に安定剤または他の添加剤をブレンドして、タンパク質を可溶化させ、褐変を最小限に抑えることである。例えば、濃縮乳は、カルシウム結合緩衝剤(リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、EDTA、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムの水溶液等)、糖類、および他の安定剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム、カラゲナン等)を使用して調製されている。例えば、特許文献2?4、および非特許文献1?3を参照されたい。 【0006】 高度に濃縮された乳の安定性を改善するための安定剤および他の添加剤の添加には、いくつかの欠点がある。追加成分は、濃縮物または再構成乳に、望ましくない官能性を付与し、または不要な口当たりをもたらすことがある。また追加成分によって、濃縮乳の加工費用および処理費用が増加することがある。濃縮乳が中間体原料として使用される場合には、添加剤および安定剤は、その濃縮物の後の使用を制限することがある。例えば、乳濃縮物がチーズ製造に使用される場合、添加剤の使用によって、乳が固いゲルに凝固するのを防止することがあり、またはその他の点では発酵を妨げることがある。例えば、非特許文献3を参照されたい。 【0007】 熱的方法を使用して液体乳製品を滅菌し濃縮するのではなく、細菌を除去し、液体乳製品を濃縮するために、濾過も使用されている。このような滅菌および濃縮濾過技術は、液体乳製品をまず滅菌し、次いで濃縮する段階的な濾過プロセスを用いる。最適な流動速度のためには、フィルタ孔径は、まず滅菌するための大きい孔径(精密濾過膜など)から、その後濃縮するための小さい孔径(限外濾過膜など)に段階分けされる。例えば、特許文献5には、0.8ミクロンのフィルタを使用して、まずクリーム状の未透過物を脱脂乳透過水から分離し、次いで0.4ミクロンのフィルタを使用して、細菌を脱脂乳透過水から分離し、次いで0.05から0.2ミクロンのフィルタを使用して、カゼインタンパク質を乳清透過水から濃縮する、段階的濾過の一般的方法が開示されている。その方法は、さらに小さいフィルタを用いて継続され、関心の対象である特定の分子を単離する。このような濾過法では、小さい濾過膜の前に大きい濾過膜を使用して、後の小さい方のフィルタ膜に詰まるまたは固まることができる大きな粒子を除去する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 したがって、濃縮乳などの無菌または実質的に無菌の濃縮液体乳製品を、有意な熱処理なしに製造する方法が依然として必要とされている。本発明は、このような方法を提供する。 【課題を解決するための手段】 【0011】 乳などの無菌または実質的に無菌の濃縮乳液体を、有意な熱処理なしに提供する方法は、製品を濃縮しかつ滅菌する濾過技術を使用して提供される。一形態では、本方法は、まずタンパク質が約3.0から約3.8パーセントの出発乳液体を、限外濾過膜を使用して、濃度約2×から約7×(タンパク質レベルに対して)まで濃縮して、タンパク質が約6から約26パーセントの乳濃縮物を提供するステップを含む。次に、その乳濃縮物を、細菌および/または細菌の胞子を除去するのに適した精密濾過膜を使用して濾過し、それによって、タンパク質を約6から約26パーセント含む無菌または実質的に無菌の濃縮乳液体を提供する。本方法は、好ましくは、このような無菌条件を実現するための有意な熱処理なしに、全細菌が少なくとも4ログ減少し、1グラム当たりの胞子形成細菌のコロニー形成単位が約5未満である濃縮乳液体を提供する。さらに、本明細書に記載される方法によって形成される約2×から約7×の無菌または実質的に無菌の濃縮乳液体は、安定性を高めるための安定剤および他の添加剤を使用せずに、低温または周囲温度の保存条件で少なくとも6カ月間、ゲルを形成せず安定であると予測される。 【0012】 本明細書の方法は、有意な熱処理、添加される安定剤または他の添加剤に曝す必要のない約2×から約7×の濃縮乳を製造して、その濃縮物を無菌または実質的に無菌にし、安定にするために使用できるがゆえに有利である。実際、本明細書に定義する有意な熱処理は、プロセスにおいて使用されず、製品を安定にするための添加剤または他の安定剤は好ましくは使用されない。その結果、濃縮乳は、有意な熱処理がそれに付与することがある望ましくない影響を実質的に受けず、添加される安定剤または他の添加剤が必要でないことから、一般に、後の加工に対して制限されない。」 「【0013】 無菌または実質的に無菌の濃縮乳の好ましい一使用は、チーズ製造、特に発酵チーズ濃縮物の製造における中間体としてのものである。例えば、無菌または実質的に無菌の濃縮乳は、pH約5.5から約8.0および約86から約95°F(約30から約35°C)で、ブレビバクテリウムリネンス(Brevibacterium linens)を使用して発酵させて、硫黄の香りを有する、微生物が発生する風味成分を形成することができる。このような風味成分は、例えばチェダーチーズを形成するために使用することができる。別の使用では、無菌または実質的に無菌の乳は、少なくとも6カ月間、依然として十分に安定でありゲルを形成せず、したがって、要望に応じた飲料システム用に構成されたカートリッジまたは容器中で使用することもできると予測される。当然のことながら、無菌または実質的に無菌の濃縮乳の他の使用および適用も可能である。」 「【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 無菌または実質的に無菌の濃縮乳を、有意な熱処理なしに形成するための方法が提供される。一形態では、本方法は、まず透析濾過(diafiltration)を伴うまたは伴わない限外濾過を使用して、出発乳を濃縮して、乳タンパク質に関して約2×から約7×の濃度、好ましくは約3×から約7×の濃度を有する濃縮乳を形成するステップを含む。次いで、濃縮乳を精密濾過技術にかけて、細菌および細菌胞子を実質的に除去して、無菌または実質的に無菌の濃縮乳を提供する。」 「【0018】 本明細書では、「有意な熱処理」とは、乳が、加工中に約250°F(約121°C)を上回り約5分間を超える熱処理を受けず、好ましくはせいぜい約1分間であることを意味する。さらに好ましくは、乳は、加工中に約180°F(約82°C)を上回り約10分間を超える熱処理を受けず、好ましくはせいぜい約5分間、より好ましくはせいぜい約1分間である。さらに、「乳」とは、その乳がヒト用食品源として有用な、任意の泌乳家畜に由来する乳液体を意味する。このような家畜には、それらには限定されないが、牛、バッファロー、他の反芻類、ヤギ、羊等が含まれる。しかし一般に、牛乳が乳の好ましい供給源である。最も好ましくは、乳は、低脂肪乳または脱脂乳であり、それは乳脂肪0.2パーセント未満である乳製品を意味する。あるいは、本明細書に記載される方法は、豆乳を用いて使用することもできる。本明細書の目的では、濃縮係数は、濃縮乳のタンパク質レベルを、出発乳のタンパク質レベルで除することによって計算される。例えば、タンパク質が約6パーセントに濃縮されるタンパク質約3パーセントの出発乳は、約2×の濃縮係数を有する。 【0019】 濾過の順序、特にまず乳タンパク質を濃縮するための限外濾過、および次に細菌を除去するための精密濾過は、有意な熱処理を必要としない無菌濃縮乳を効果的に提供して、このような無菌条件および安定性を実現できることが発見されている。この濾過の順序は、従来の濾過技術とは明らかに異なっている。というのは、乳は、精密濾過(大きい膜)による滅菌の前に、限外濾過(小さい膜)によって濃縮されるからであり、これは、背景技術で論じられているように、認められているものとは逆の実施である。一方、本明細書に記載される方法は、濃縮乳の安定性に悪影響を及ぼす有意な熱処理に頼らずに、無菌の2×から7×の濃縮乳を提供する。 【0020】 一手法により、本明細書の方法によって製造された無菌濃縮乳は、さらなる熱処理および添加剤なしに十分に安定かつ無菌であり、したがってそれを発酵プロセスで使用して、ブレビバクテリウムリネンスを用いてpH7.0および温度約86から約95°F(約30から約35°C)の最適条件で、『硫黄質のチェダー』風味成分を製造することができる。換言すれば、本明細書の方法は、ブレビバクテリウムリネンスの最適な発酵条件を妨げることになる添加剤または安定剤を好ましくは含まない、無菌の2×から7×の乳濃縮物を提供する。所望ならば、発酵の前に、濃縮乳を場合によっては低温殺菌し、ホモジナイズし、脂肪を添加または除去し、かつ/あるいは所望により他の成分を添加することができる。例えば、本明細書の方法によって調製された濃縮乳は、UHT処理クリーム、メチオニン(例えば、約0.2パーセント)、およびDVS(Direct vat set)形態からのブレビバクテリウムリネンス(例えば、約1×108)と組み合わせることができる。次いで、その混合物を、フラスコを150rpmで撹拌することによって約25℃で好気的にインキュベートして、発酵を進行させることができる。このような発酵方法は、特許文献6(2006年3月31日出願)に記載されており、その全体を参照によって本明細書に組み込む。」 「【0023】 本明細書の方法によって濃縮された乳は、少なくとも約6カ月間、好ましくは約9から約18ヵ月間の品質保持期間を有すると予想される。本明細書の目的では、『品質保持期間』とは、乳製品が、好ましくない匂い、外観、味、粘稠度、または口当たりなどの受け入れ難い官能刺激性を生じずに、周囲温度(すなわち約70°F(約21°C))で保存することができる期間を意味する。さらに、所与の品質保持期間での官能刺激上許容される乳製品は、著しい異臭、悪臭、または変色(すなわち褐変)がなく、塊状、粘着性、またはぬめり感がなく、ゲル化しないままである。『安定』または『品質保持上安定な』はまた、所与の期間での乳製品が、先に定義されたような好ましくない官能刺激性を有することなく、官能刺激上許容されることを意味する。 【0024】 図1に示されるように、無菌または実質的に無菌の濃縮乳は、まず、出発乳(好ましくは脱脂乳)を、透析濾過を伴うまたは伴わない限外濾過(UF)を使用して濃縮して、液体乳濃縮物(すなわち、未透過物)を形成することによって調製される。次いで液体乳濃縮物は、細菌および/または細菌胞子を除去するために、精密濾過を使用して処理される。次いで、無菌または実質的に無菌の濃縮乳は、精密濾過単位からの透過物として収集される。 【0025】 UFは、主に、極度に小さい粒子と、流体に溶解した分子とを分離するために使用される膜分離技術であり、液体中の固体を濃縮するのに十分適している。UFでは、他の因子も要素となり得るが、分離の主たるベースは分子のサイズである。一形態では、約1,000から約1,000,000の範囲のMWCOを有するUF膜を使用して、タンパク質を約3.0から約3.8パーセント有する出発脱脂乳を、タンパク質を約6から約26パーセント有する乳濃縮物に濃縮する(すなわち、全タンパク質レベルに対して約2×から約7×の濃度)。このようなUF膜は、乳タンパク質、細菌、細菌胞子、脂肪ミセルを乳濃縮物中に保持するのに十分であり、溶媒(水)、より小さい分子、無機塩、およびラクトースを、膜を介して透過水に通過させる。場合によっては、限外濾過と共に、透析濾過を使用することもできる。この場合には、透析濾過を使用して、UF透過水中の多量のラクトースを洗浄することによって、UF未透過物が少量のラクトースを有するようにすることができる。例えば、透析濾過を用いない場合には、UF透過水およびUF未透過物中のラクトースの量は、一般におよそ同じである。一方、透析濾過を用いる場合には、UF未透過物中のラクトースは、約0.1パーセントに低減することができる。このようなレベルのラクトースは、ラクトースに感応性のある後の発酵において有利となり得る。他の用途では、このようなレベルのラクトースは、一般に、褐変および/または不要な風味を最小限に抑えることが望ましい。」 「【0032】 まず限外濾過、次いで精密濾過を使用するこのようなプロセスは、元の濾過されていない脱脂乳中に含まれるタンパク質の約95から約97パーセントおよびカゼインの約95から約97パーセントを含む、精密濾過システムからの透過水(すなわち、無菌または実質的に無菌の濃縮乳)を提供する。・・・」 「【0036】 以下の特に好ましい実施例は、本発明を例示するものであり、それを制限するものではない。本明細書の全てのパーセンテージは、別段の指示がない限り重量によるものである。 【実施例】 【0037】 (実施例1) 脱脂乳(Elgin Dairy、イリノイ州)(タンパク質約3.2パーセント、ラクトース約2.5パーセント、および脂肪約0.1パーセント未満)を、限外濾過膜(NCSRT,Inc.、ノースカロライナ州)を使用して、10,000MWCOの透析濾過を用いて120°F(49°C)で濃縮して、タンパク質約14パーセント、ラクトース1.5パーセント、および脂肪2パーセントを有する約4.4×の乳濃縮物/未透過物を製造した。限外濾過は、25?35psig(172?207kPa)および115?125°F(46?52°C)で実施した。限外濾過後、乳濃縮物は、1グラム当たりの細菌胞子のコロニー形成単位約1.2×10^(4)(cfu/g)を有していた。 【0038】 次いで、その4.4×乳濃縮物を、平均孔径約1.4ミクロンの精密濾過膜(Membralox Filter,Pall Corporation,NY)に、約120°(約49°C)Fおよび約20?30psig(約138?207kPa)で通過させた。乳濃縮物約80ポンド(約36kg)を、精密濾過膜を使用して濾過し、それによって透過水(無菌濃縮乳)約75ポンド(約34kg)および未透過物約5ポンド(約2.3kg)を得た。透過水は、タンパク質約14パーセント、ラクトース約1.5パーセント、および脂肪約2パーセントを有しており、約4.4×の乳濃縮物(すなわち、濃縮物中のタンパク質14パーセントを、出発乳中のタンパク質3.2パーセントで除する)を製造した。透過水は、出発乳液体中のタンパク質を約95パーセント有していた。 【0039】 精密濾過単位からの透過水サンプルを培養し、汚染細菌、胞子形成細菌、および大腸菌群の合計数をスクリーニングした。細菌レベルを、透過水1グラムアリコートをプレーティングする、あるいは連続希釈技術によって透過水の11グラムアリコートサンプルを無菌食塩水で約10×に連続的に希釈するといった、標準の微生物学的目測技術を使用して決定した。各サンプルを、血液寒天上にプレーティングし、37°F(2.8°C)で24時間インキュベートした。次いで、インキュベートしたサンプルを、細菌増殖について、細菌増殖を視覚的に計数することによって読み取った。透過水は、精密濾過後に、精密濾過前と比較して全細菌数において約4ログの減少を示し、全胞子形成細菌は、約1cfu/g未満に減少した。」 2 引用発明 上記1からみて、実施例1の脱脂乳から得られる透過水に着目すると、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「脱脂乳(タンパク質約3.2パーセント、ラクトース約2.5パーセント、および脂肪約0.1パーセント未満)を、限外濾過膜を使用して濃縮し、タンパク質約14パーセント、ラクトース1.5パーセント、および脂肪2パーセントを有する約4.4×の乳濃縮物/未透過物を製造し、その4.4×乳濃縮物を平均孔径約1.4ミクロンの精密濾過膜を使用して濾過し、それによって透過水(無菌濃縮乳)約34kgおよび未透過物約2.3kgを得、透過水は、タンパク質約14パーセント、ラクトース約1.5パーセント、および脂肪約2パーセントを有している、約4.4×の乳濃縮物(すなわち、濃縮物中のタンパク質14パーセントを、出発乳中のタンパク質3.2パーセントで除する)。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明の「乳濃縮物」は、「透過水(無菌濃縮乳)」であって、「タンパク質約14パーセント、ラクトース約1.5パーセント、および脂肪約2パーセントを有している」ものである。 そうすると、引用発明の「乳濃縮物」は、「透過水(無菌濃縮乳)」であって、脂肪約2パーセントを有しているから、本願発明の「2?4%(w/w)の乳脂肪を含む全脂肪乳」又は「0.7?2%(w/w)の乳脂肪を含む半-脱脂乳」に相当するとともに、これらから選択される「乳製品」に相当する。 また、本願明細書(【0172】、【0173】)において、「貯蔵寿命(ESL)」として、6ヵ月程度までが想定されていることを踏まえると、引用発明は、引用例1の発明の詳細な説明の記載事項を参酌すると、有意な熱処理なしに無菌または実質的に無菌の濃縮液体乳製品を製造する方法に関するもので(【0001】)、少なくとも約6ヵ月間、好ましくは約9から約18ヵ月間の品質保持期間を有すると予想されるものである(【0023】)から、本願発明の「貯蔵寿命の長い乳製品」に相当する。 さらに、引用発明は、「平均孔径約1.4ミクロンの精密濾過膜を使用して濾過」するものなので、本願発明の「ミクロ濾過にかけられ」るものといえる。 以上のことから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 「ミクロ濾過にかけられ、貯蔵寿命の長い乳製品であって、当該乳製品が、 ラクトースが減じられた乳であるか、或いは 2?4%(w/w)の乳脂肪を含む全脂肪乳、0.7?2%(w/w)の乳脂肪を含む半-脱脂乳、0.1?0.7%(w/w)の乳脂肪を含む脱脂乳、及び0.05?0.1%(w/w)の脂肪を含む脱脂乳から成る群から選択される乳製品である、 乳製品。」 <相違点> 本願発明は、「高温(HT)-処理に暴露された、そして変性された及び変性されていない両β-ラクトグロブリンの合計量に対して、多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている」と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定はしていない点。 第6 相違点についての判断 1 本願発明が特定する「高温(HT)-処理に暴露された」とは、「物」の具体的な構成を特定するものではなく、本願発明の「乳製品」がその製造工程において、熱処理されたことをいうにすぎないものである。 そして、本願明細書には、熱処理により、pH低下、カルシウム沈殿、タンパク質変性、メイラード褐変、及びカゼインの変化等が引起こされる旨記載されているものの(【0005】)、本願発明の「高温(HT)-処理に暴露された」との特定は、具体的な温度や時間までは特定されておらず、当該特定の前後に特定される「ミクロ濾過にかけられ」及び「変性された及び変性されていない両β-ラクトグロブリンの合計量に対して、多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている」との特定事項と併せてみても、結局、本願発明が、乳製品として「多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている」ことを特定すること以上に、乳製品の物性について何らかの特定をしているものとは解せない。 一方、引用発明も、引用例1において、「無菌または実質的に無菌の濃縮乳を、有意な熱処理なしに形成するための方法が提供される。」(【0016】)、「本明細書では、『有意な熱処理』とは、乳が、加工中に約250°F(約121°C)を上回り約5分間を超える熱処理を受けず、好ましくはせいぜい約1分間であることを意味する。さらに好ましくは、乳は、加工中に約180°F(約82°C)を上回り約10分間を超える熱処理を受けず、好ましくはせいぜい約5分間、より好ましくはせいぜい約1分間である。」(【0018】)と記載されていて、有意な熱処理は受けないものである。 そして、引用例1に、「まず限外濾過、次いで精密濾過を使用するこのようなプロセスは、元の濾過されていない脱脂乳中に含まれるタンパク質の約95から約97パーセントおよびカゼインの約95から約97パーセントを含む、精密濾過システムからの透過水(すなわち、無菌または実質的に無菌の濃縮乳)を提供する。」(【0032】)と記載されるように、元々含まれていたタンパク質の約95から約97パーセントが含まれるものであり、また、熱処理を受けるとしても、有意な熱処理は受けないものである。 そうすると、引用発明の成分の一つとして、乳製品に含有されていることが明らかな、β-ラクトグロブリンについてみても、その変性がほとんど行われていないといえ、本願発明で特定される「そして変性された及び変性されていない両β-ラクトグロブリンの合計量に対して、多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている」を満たしている蓋然性は高い。 そうすると、上記相違点は実質的な相違点であるとはいえない。 また、仮に実質的な相違点であるとしても、引用発明は有意な熱処理を受けないようにするものであるから、許容される程度の熱処理を行うこととして、「高温(HT)-処理に暴露された」ものとするとともに、β-ラクトグロブリンについて、熱処理を過度に受けないことをいう、「変性された及び変性されていない両β-ラクトグロブリンの合計量に対して、多くとも40%(w/w)のβ-ラクトグロブリンが変性されている」程度とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 2 効果について 本願発明の効果は、当業者が予測し得た範囲のものである。 3 請求人の主張について 請求人は、「(3)本願発明(すなわち、唯一の独立請求項である請求項1の発明)の構成要件(発明特定事項)である、『高温(HT)-処理』の具体的な定義は、明細書の段落〔0013〕、〔0015〕、〔0024〕、〔0059〕などに記載されているとおり、『140?180℃』で、『長くとも200m秒』の間加熱することであり、一義的に、且つ明確に定義されています。 なお、明細書中には、高温処理に関し、上記温度範囲、及び加熱時間の範囲内で、種々の温度範囲、及び加熱時間の範囲が記載されています(例えば 、明細書の段落〔0069〕、〔0070〕、〔0073、〔0074〕など〕が、それらはいずれも「好ましい」態様であり、本願発明を定義する請求項1においては、『高温(HT)-処理』の条件は『140?180℃』及び『長くとも200m秒』です。」(平成30年6月13日の意見書1の(3)参照。)と主張している。 しかしながら、明細書の段落〔0013〕、〔0015〕、〔0024〕、〔0059〕には、以下の事項が記載されている。 「【0013】 本発明のさらに特定の観点は、 a)乳誘導体を供給し、 b)前記乳誘導体から微生物を物理的に分離し、従って、部分的に除菌された乳誘導体を入手し、そして c)前記部分的に除菌された乳誘導体を含んで成る第1組成物を、高温(HT)-処理に暴露し、ここで前記第1組成物は、140?180℃の範囲の温度に加熱され、長くとも200m秒の期間、前記温度範囲で維持し、そして次に最終的に冷却する、段階を含んで成る、乳又は乳-関連製品の生成方法に関する。」 「【0015】 さらに、本発明の観点は、 -乳誘導体から微生物を除去するよう適合された物理的分離セクション、 -前記物理的分離セクションと液体伝達下にあるHT-処理セクション、ここで前記HT-処理セクションは前記物理的分離セクションの液体製品を140?180℃の範囲の温度に、長くとも200m秒の間、加熱し、そして続いて、液体製品を冷却するよう適合され、そして -前記乳加工プラントの製品を包含するために前記HT-処理セクションと、液体伝達下にある包装セクションを含んで成る、乳誘導体を、長い貯蔵寿命を有する乳又は-関連製品に転換するための乳加工プラントに関する。」 「【0024】 発明の特定の記載: 上記に記載されるように、本発明の1つの観点は、 a)乳誘導体を供給し、 b)前記乳誘導体から微生物を物理的に分離し、従って、部分的に除菌された乳誘導体を入手し、そして c)前記部分的に除菌された乳誘導体を含んで成る第1組成物を、高温(HT)-処理に暴露し、ここで前記第1組成物は、140?180℃の範囲の温度に加熱され、長くとも200m秒の期間、前記温度範囲で維持し、そして次に最終的に冷却する、段階を含んで成る、乳又は乳-関連製品の生成方法に関する。」 「【0059】 前記方法の段階c)は、前記一部殺菌された乳誘導体を含んで成る第1組成物を、高温(HT)-処理に暴露することを包含する。前記第1組成物は、140?180℃の温度に加熱され、その温度で長くとも200m秒間、保持され、そして次に、最終的に冷却される。 本発明の1つの態様においては、前記第1組成物は、段階a)の一部殺菌された乳誘導体から成る。」 しかしながら、これらの記載からは、「高温(HT)-処理」の例が示されていると認められるものの、「高温(HT)-処理」の具体的な定義がなされているとまでいうことはできない。 加えて、本願明細書には、以下の記載がなされていて、これらの記載事項を併せてみても、「高温(HT)-処理」の具体的な定義がなされているとまでいうことはできない。 「【0078】 本発明の好ましい態様においては、第1組成物の加熱、保持及び冷却を包含するHT-処理の期間は、多くとも500m秒、好ましくは多くとも300m秒、及びさらにより好ましくは200m秒、例えば多くとも150m秒である。 【0079】 例えば、第1組成物の加熱、保持及び冷却を包含するHT-処理の期間は、多くとも400m秒、好ましくは多くとも350m秒、及びさらにより好ましくは250m秒、例えば多くとも175m秒である。 第1組成物の加熱、保持及び冷却を包含するHT-処理の期間は、第1組成物の温度が少なくとも95℃である持続期間として計算され得る。」 さらに、請求人が述べている(平成30年6月13日の意見書1の(3)参照。)段落〔0069〕、〔0070〕、〔0073〕、〔0074〕の以下の事項を参酌しても、「高温(HT)-処理」の例が示されていると認められるものの、具体的な定義がなされているとまでいうことはできない。 「【0069】 従って、本発明の好ましい態様においては、1又は複数の脂質源、例えば乳脂肪源、例えばクリームは、70?100℃の範囲の温度で2?200秒間、熱処理される。例えば、1又は複数の脂質源は、70?85℃の範囲の温度で、100?200秒間、熱処理され得る。他方では、1又は複数の脂質源は、85?100℃の範囲の温度で、2?100秒間、熱処理され得る。」 「【0070】 本発明のもう1つの好ましい態様においては、1又は複数の脂質源、例えば乳脂肪源、例えばクリームは、100?180℃の範囲の温度で10m秒?4秒間、熱処理されている。 例えば、1又は複数の脂質源は、100?130℃の範囲の温度で、0.5?4秒間、熱処理され得る。他方では、1又は複数の脂質源は、130?180℃の範囲の温度で、10m秒?0.5秒間、熱処理され得る。」 「【0073】 本発明のもう1つの態様においては、段階c)のHT-処理は、第1組成物を、150?180℃、好ましくは155?170℃、及びさらにより好ましくは、160?165℃の範囲の温度に加熱することを包含する。 【0074】 本発明のさらなる態様においては、第1組成物は、段階c)に供給される場合、70?75℃の範囲の温度を有する。 HT-処理の高温は例えば、意図された温度から多くとも+/-2℃、好ましくは多くとも+/-1℃, 及びさらにより好ましくは多くとも+/-0.5℃、例えば多くも+/-0.25℃であり得る。」 したがって、上記請求人の主張は、採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明であるか、又は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-10-18 |
結審通知日 | 2018-10-23 |
審決日 | 2018-11-05 |
出願番号 | 特願2015-47920(P2015-47920) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(A23C)
P 1 8・ 121- WZ (A23C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大久保 智之 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
槙原 進 山崎 勝司 |
発明の名称 | 長い貯蔵寿命の乳及び乳-関連製品類、及びそれらの製造方法及び乳加工プラント |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 福本 積 |
代理人 | 中島 勝 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 中村 和美 |
代理人 | 青木 篤 |