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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01T
管理番号 1350188
審判番号 不服2016-5364  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-11 
確定日 2018-10-06 
事件の表示 特願2015-514669「職業および環境用線量測定のためのワイヤレス、動作および位置センシング集積放射線センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日国際公開、WO2013/179273、平成27年10月29日国内公表、特表2015-531052〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年6月1日、米国、2013年5月31日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年2月16日に手続補正がなされ、同年6月16日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年11月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、当審において、同年12月9日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である平成29年3月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年4月19日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である同年9月11日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたところである。

2 本願発明
本願請求項1ないし37に係る発明は、平成29年9月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし37に記載された事項により特定される発明であり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
プリント回路基板(PCB)上に積置された1つまたはそれ以上の放射線センサを備える放射線センサアレイと、
非電離放射線センサ、有害化学物質センサ、および他の生化学物質センサの少なくとも1つと
を備える、デバイスであって、
該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々がフィルタ材料により囲まれており、
それにより、該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々によって検出された放射線に対する最適角度応答が提供され;そして
該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々の該最適角度応答が該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々によって検出される放射線の入射角から独立している、デバイス。」

3 引用文献
(1)引用文献1の記載事項、引用発明
当審において平成29年4月19日付けで通知した拒絶の理由に引用された特開平7-311272号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。以下、同様。
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。

「【0021】本発明は前述の問題点を解決するためになされたものであり、感度の方向依存性の小さい放射線検出器を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】前述の目的を達成するために、本発明に係る放射線検出器は、放射線を検出する放射線検出素子と、この放射線検出素子を覆い放射線を減弱するフィルタとを含む放射線検出器において、フィルタが放射線検出素子の有感部を中心とする一様厚みの球殻形状をなすことを特徴とする。」

「【0028】図1において、基板10上には、3つの検出素子12、14及び16が配設されている。基板10は、銅などから成り、信号処理回路(図示せず)が設けられている。検出素子12?16は図示しないリード線によってその信号処理回路に接続される。なお、12a、14a及び16aは、検出素子の有感部であり、半導体から成っている。
【0029】検出素子12及び16は、それぞれフィルタ22及び26で覆われている。ここで、フィルタ22は減弱作用の小さいTiフィルタであり、フィルタ26は減弱作用の大きいPbフィルタである。フィルタ22及び26は、一様厚さの球殻形状をなしており、それぞれ検出素子12及び16の有感部の中心がそれぞれの球殻の中心となるように配置されている。なお、ここで挙げたたフィルタの材質はあくまで一例であり、この他にも、減弱作用の小さいフィルタとしては例えばアルミニウムを用いることもでき、また減弱作用の大きいフィルタとしては例えば銅やタングステンを用いることができる。」

「【0048】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る放射線検出器によれば、検出素子の正面側を覆うフィルタの形状を球殻状としたので、検出素子に入射する放射線が通過するフィルタの厚みが入射方向によらずほぼ一定となるため、検出素子の感度の方向依存性が低減される。」

「【図1】



イ 引用発明
上記図面より、基板上には、3つの検出素子が並んで配設されていることが見て取れるから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基板上には、3つの検出素子が並んで配設され、
基板は、信号処理回路が設けられ、
検出素子は、リード線によってその信号処理回路に接続され、
2つの検出素子は、それぞれフィルタで覆われ、
検出素子の正面側を覆うフィルタの形状を球殻状とし、検出素子に入射する放射線が通過するフィルタの厚みが入射方向によらずほぼ一定とし、検出素子の感度の方向依存性を低減させた、
放射線検出器。」

(2)引用文献2の記載事項、技術事項
ア 当審において平成29年4月19日付けで通知した拒絶の理由に引用された特開平1-227983号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「第8図には本発明の変形例を示す。この変形例は検出素子1の背面にも、しやへい材20を設け無指向性を図ったものである。当然、フラツトベース基材2の放射線吸収を考慮し、検出素子1の背面のしやへい材20は、前面のしやへい材5より薄く設計することになる。」(第4頁右上欄第13行?第18行)

「 「

」 」

イ 技術事項
上記「しやへい材20」は、放射線吸収の程度を調整し、検出素子1の感度を無指向性とするものであるから、検出素子1の感度を調整するフィルタであるといえる。また、「無指向性を図」るとは、言い換えれば、「検出素子の感度の方向依存性をなくす」ことである。
よって、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

「検出素子の感度の方向依存性をなくすために、検出素子の感度を調整するフィルタを、前面だけでなく、背面にも設けること。」

(3)引用文献3の記載事項
当審において平成29年4月19日付けで通知した拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2005/0248456号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、原文の後に、当審が作成した日本語翻訳文を付す。)。
「[0063]Sensor Subsystem: The sensor subsystem can utilize IEEE 1451-compliant protocols for communicating with one or more sensor modules. This allows the future addition of any sensor as long as it is compliant with the 1451 protocol. Some of the basic sensors, such as the GPS and the reefer data port reader, may utilize serial communications ports on the microprocessor. Sensor types that may be part of the RFID tag can include temperature, relative humidity, radiation, biological, chemical, accelerometer, door switch, intrusion, etc. 」
([0063]センサーサブシステム:センサーサブシステムは、1つまたはそれ以上のセンサーモジュールとの通信のために、IEEE1451準拠プロトコルを利用可能である。これにより、1451プロトコルに準拠していることを条件にいずれかのセンサーでも将来的に追加可能である。GPSおよびリーファーデータポート読み取り装置などの基本的なセンサーのいくつかは、マイクロプロセッサにおいてシリアル通信ポートを利用可能である。RFIDタグの一部であってもよいセンサータイプは、温度、相対湿度、放射線、生物、化学、加速度計、ドアスイッチ、侵入等を含むことができる。)

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「基板は、信号処理回路が設けられ」ているから、引用発明の「基板」と、本願発明の「プリント回路基板(PCB)」とは、ともに「回路基板」の点で共通する。

引用発明において、「放射線検出器」は、「基板上には、複数の検出素子が並んで配設され」ていることと、本願発明の「デバイス」は、「プリント回路基板(PCB)上に積置された1つまたはそれ以上の放射線センサを備える放射線センサアレイを備え」ていることは、ともに「デバイス」は、「回路基板上に積置された1つまたはそれ以上の放射線センサを備える放射線センサアレイを備え」る点で共通する。

引用発明の「2つの検出素子は、それぞれフィルタで覆われ」ることと、本願発明の「該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々がフィルタ材料により囲まれて」いることとは、ともに「該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々がフィルタ材料により」覆われている点で共通する。
」に相当する。

以上の相当関係から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「回路基板上に積置された1つまたはそれ以上の放射線センサを備える放射線センサアレイを備え、
該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々がフィルタ材料により覆われている
デバイス。」

(相違点1)
「回路基板」が、本願発明は、「プリント回路基板(PCB)」であるのに対し、引用発明の「信号処理回路が設けられ」ている「基板」が「プリント回路基板」であるかは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明における「最適角度応答」とは、平成29年3月21日に提出の意見書(【意見書の内容】「4.1」「(1)に関して」)によれば、「所定の放射線場に対するセンサの応答が、センサに関連する放射線源の配向角度に関わらず同じであることを意味する」。
よって、本願発明の相違点2に係る構成である、「放射線センサの各々がフィルタ材料により囲まれており、それにより、該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々によって検出された放射線に対する最適角度応答が提供され;そして該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々の該最適角度応答が該1つまたはそれ以上の放射線センサの各々によって検出される放射線の入射角から独立している」ことは、「放射線センサの各々がフィルタ材料により囲まれていることにより、」「所定の放射線場に対するセンサの応答が、センサに関連する放射線源の配向角度に関わらず同じである」ことを意味する。
一方、引用発明は、検出素子の正面側を覆うフィルタの形状を球殻状とし、検出素子に入射する放射線が通過するフィルタの厚みが入射方向によらずほぼ一定とし、検出素子の感度の方向依存性を低減させているが、検出素子が球殻状のフィルタにより覆われているのは、検出素子の正面側であり、検出素子の背面は覆われていない。
してみると、「所定の放射線場に対するセンサの応答が、センサに関連する放射線源の配向角度に関わらず同じである」ようにするための構成である放射線センサの各々がフィルタ材料により覆われる態様が、本願発明と引用発明では以下のとおり相違している。

放射線センサの各々がフィルタ材料により覆われる態様が、本願発明は、「囲まれていること」、言い換えると「正面側だけでなく、背面も含めて囲まれている」のに対し、引用発明は、正面側は覆われているものの、背面は覆われていない点。

(相違点3)
本願発明のデバイスは、「非電離放射線センサ、有害化学物質センサ、および他の生化学物質センサの少なくとも1つ」を備えるのに対し、引用発明の放射線検出器は、そのようなセンサを備えていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
回路が設けられた基板をプリント回路基板(PCB)で構成することは、周知慣用の技術事項であることに鑑みれば、引用発明における「信号処理回路が設けられ」ている「基板」は、プリント回路基板(PCB)である。または、引用発明の「基板」をプリント回路基板(PCB)で構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について
引用文献2に「検出素子の感度の方向依存性をなくすために、検出素子の感度を調整するフィルタを、前面だけでなく、背面にも設けること。」が記載されており、引用発明は、「検出素子の感度の方向依存性を低減させる」発明であるから、引用発明において、「検出素子の感度の方向依存性を」さらに「低減させる」べく、引用文献2に記載された「検出素子の感度の方向依存性をなくすため」の手段を採用することに困難性は見いだせない。
そして、引用文献2に記載された、検出素子の感度の方向依存性をなくすためにフィルタを前面だけでなく背面にも設ける手段を採用し、引用発明の「検出素子」「を覆うフィルタ」を前面だけでなく背面にも設け、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

なお、請求人は、平成29年9月11日に提出の意見書「4.拒絶理由に対して (2)」に、以下のとおり主張している。
「引用文献1では、上記ご指摘にも挙げられております通り、検出素子の感度の方向依存性を低減させるために「検出素子に入射する放射線が通過するフィルタの厚みが入射方向によらずほぼ一定」としているのに対し、引用文献2では、「当然、フラツトベース基材2の放射線吸収を考慮し、検出素子1の背面のしやへい材20は、前面のしやへい材5よりも薄く設計する」として、フィルタの厚みを一定にしないことを示唆しています。このように、引用文献1および2は、設計すべきフィルタの厚みの点で相異なる技術思想を示しています。
したがって、引用発明において、「検出素子の感度の方向依存性を」さらに「低減させる」べく、引用文献2に記載された「検出素子の感度の方向依存性をなくすため」の手段を採用することには、両引用文献における当該設計すべきフィルタの厚みに対する技術思想が相異なる点で、必ずしも容易ではありません。」(なお、下線は、請求人が付与したものである。)

しかしながら、引用文献1に記載されているのは、
「【0048】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る放射線検出器によれば、検出素子の正面側を覆うフィルタの形状を球殻状としたので、検出素子に入射する放射線が通過するフィルタの厚みが入射方向によらずほぼ一定となるため、検出素子の感度の方向依存性が低減される。」である(下線は、当審で付与したものである。)。
ここで、フィルタの厚みがほぼ一定となっているのは、検出素子の正面側を覆う球殻状のフィルタの厚みである。
そして、引用文献2に記載されているのは、
「第8図には本発明の変形例を示す。この変形例は検出素子1の背面にも、しやへい材20を設け無指向性を図ったものである。当然、フラツトベース基材2の放射線吸収を考慮し、検出素子1の背面のしやへい材20は、前面のしやへい材5より薄く設計することになる。」(第4頁右上欄第13行?第18行)である(下線は、当審で付与したものである。)。
これは、検出素子1の前面のしゃへい材5だけでなく背面にもしやへい材20を設ける変形例の場合において、「当然、フラツトベース基材2の放射線吸収を考慮し、検出素子1の背面のしやへい材20は、前面のしやへい材5より薄く設計することになる。」というものである。
一方、引用文献2は「フィルタの厚みを一定にしないことを示唆」するとの請求人の主張は、検出素子1の前面のしゃへい材5だけでなく背面にもしやへい材20を設ける変形例の場合という前提を無視し、前面と背面の「しやへい材」を区別することなく単に「しやへい材」(フィルタ)の厚さのみに着目した主張であり、引用文献2の記載から示唆されている技術思想とはいえない。

引用発明は、「検出素子の正面側を覆うフィルタ」を有する発明であり、引用文献2に記載されている、検出素子1の前面のしゃへい材5だけを有する変形前の態様に相当(引用文献2第1図参照。)するから、引用発明は、引用文献2の前記変形例の態様を適用する構成を備えるものである。
そして、引用発明に「検出素子1の前面のしゃへい材5だけでなく背面にもしやへい材20を設ける変形例」の態様を適用すると、言い換えると、引用発明に引用文献2に記載された技術事項である「検出素子の感度の方向依存性をなくすために、検出素子の感度を調整するフィルタを、前面だけでなく、背面にも設けること。」を適用すると、背面に設けるフィルタの厚みは、基板による放射線吸収を考慮して正面側のフィルタよりも薄く設計されることになる。
以上のとおり、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用した際の厚みに関する構成が導かれるものであり、そのように構成することに困難性は見いだせないから、厚みのみの観点に注目し、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を採用することは容易でないとする請求人の主張は、採用することはできない。

(ウ)相違点3について
放射線センサと他のセンサとを組合わせて用いることは、周知の技術事項であって、どのようなセンサを組合わせるかは、測定対象に応じて、当業者が適宜選択し得る設計事項である(例えば、引用文献3の[0063]の「センサータイプは、温度、相対湿度、放射線、生物、化学、加速度計、ドアスイッチ、侵入等を含む」との記載参照。)。
よって、引用発明の放射線検出器において、本願発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)また、本願発明の構成によって当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。

(オ)したがって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された技術事項、周知の技術事項及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された技術事項、周知の技術事項及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-11 
結審通知日 2017-12-19 
審決日 2018-01-05 
出願番号 特願2015-514669(P2015-514669)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 靖  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森 竜介
松川 直樹
発明の名称 職業および環境用線量測定のためのワイヤレス、動作および位置センシング集積放射線センサ  
代理人 進藤 卓也  
代理人 中道 佳博  

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