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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21B
管理番号 1350211
審判番号 不服2017-11194  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-27 
確定日 2019-03-28 
事件の表示 特願2013-201805「高圧噴射ノズル及び高圧噴射ノズル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月13日出願公開,特開2015- 66567〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年9月27日の出願であって,その主な手続の経緯は,以下のとおりである。
平成29年 2月22日付け:拒絶理由通知
同 年 4月26日 :意見書及び手続補正書の提出
同 年 5月12日付け:拒絶査定
同 年 7月27日 :審判請求と同時に手続補正書の提出
平成30年 8月30日付け:拒絶理由通知
同 年10月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
平成31年 1月21日 :電話及びファクシミリによる応対


第2 本願発明
平成30年10月4日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の記載は,以下のとおりである。

「内部にオリフィスが形成され,かつフランジ部を有する円筒状ノズルケースを含むノズル本体と,
銅,黄銅,鉛,スズ,アルミニウム又はこれらの合金で形成され,中空円板状であり,前記フランジ部の上流側の側面と接触して配設可能なガスケットと,
前記ガスケットを介在させてフランジ部を係合可能なアダプターとを備えたデスケーリングノズルであって,
前記フランジ部の上流側の側面が,ノズル本体の軸に垂直な方向に形成され,かつガスケットと接触可能な接触部を有するとともに,この接触部の内周端から傾斜部が延出し,
前記傾斜部が,外周からノズル本体の中心軸に向かうにつれて下流方向に傾斜角度3?30°で傾斜し,
ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部の幅と,前記フランジ部の外径との比が,前者/後者=1/30?1/5であり,
ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部と前記接触部との幅比が,前者/後者=1/6?20/1であり,かつ
前記接触部と前記ガスケットとの幅比が,前者/後者=1/200?3/1であるデスケーリングノズル。」


第3 拒絶の理由
平成30年8月30日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2の概要は,次のとおりである。
本願発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:実公平3-35446号公報
引用文献2:特開2011-252577号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
引用文献1には,以下の事項が記載されている。

(1)第1欄第11行ないし第2欄第16行
「[産業上の利用分野]
本考案は,金属表面のデスケーリングを行うために高圧流体を噴射させるためのノズルに関するものである。
[従来の技術]
第3,4図は従来のデスケーリングノズルの一例を示すもので,ヘツダー1に固定されたアダプター2と,該アダプター2に取付けるようにしたノズル体3と,該ノズル体3をアダプター2に着脱可能に取付けるためにアダプター2のねじ4に螺合するようにしたキヤツプ5から構成されている。
又,前記ノズル体3は整流器6によつて整流された圧力流体7を所要のうすい厚さで且つ所要角度の広がり幅をもつて噴射させるように噴射口8の前面にスリツト9を形成している。
デスケーリングノズルは,デスケールの条件等に応じてノズルの捩れ角度,即ちスリツト9の傾斜角度θを変更する必要があり,このため,従来は前記アダプター2の内面に形成したキー溝aに嵌合する突起bがノズル体3の外周に形成され,ノズル体3を差し込むことによりその傾斜角度θが決定されるようになつており,又,前記アダプター2の前端部とノズル体3に形成したフランジ部cとの間に焼鈍しを行つた銅パツキンdを設けてキヤツプ5を締付けることにより,アダプター2と整流器6との間を通つて作用する圧力流体7が外部に漏出しないようにシールを行うようにしている。」

(2)第3図
第3図には,銅パッキンdについて,半径方向の中心部が空洞であり,フランジ部cの上流側の側面と接触して配設されること,フランジ部cの上流側の側面が,ノズル体3の軸に垂直な方向に形成され,かつ銅パッキンdと接触可能な接触部を有することが図示されている。


2.引用発明
上記1.の記載からみて,引用文献1には,従来の技術に関する,以下の発明が記載されている。
「内部に噴射口8が形成され,かつフランジ部cを有するノズル体3を含むノズル本体と,
銅で形成され,中空円板状であり,前記フランジ部cの上流側の側面と接触して配設可能な銅パッキンdと,
前記銅パッキンdを介在させてフランジ部cを係合可能なアダプター2とを備えたデスケーリングノズルであって,
前記フランジ部cの上流側の側面が,ノズル本体の軸に垂直な方向に形成され,かつ銅パッキンdと接触可能な接触部を有する,
デスケーリングノズル。」(以下「引用発明」という。)

3.引用文献2の記載
(1)「【0002】
従来,部品をユニオンナットおよびユニオンねじで挟んで接続するユニオン式の組立管継手が知られている。なお,「ユニオン式」とは,部品をユニオンナットおよびユニオンねじで挟んで接続する接続方式のことである。
ユニオン継手とは,接続する一方の配管端部にユニオンねじ,他方の配管端部にユニオンつばを取り付け,ユニオンねじとユニオンつばの各対向面間にを保持し,ユニオンナットを両者にまたがって嵌めて接続する間継手である。接続や分離の際,ユニオンナットだけを回せばよく,管を回す必要がないのが特長である。」(なお,「間継手」の記載は,「管継手」の誤記と認める。)

(2)「【0019】
図1は,本発明の第1実施形態に係るユニオン継手1の上半分断面図である。この図では,ユニオンナット4を標準締め付けトルクで締め付けた状態を示している。図1に示すように,本実施形態に係るユニオン継手1は,径方向外周に雄ねじ部23を有するユニオンねじ2と,径方向外周に鍔部31を有するユニオンつば3と,ユニオンねじ2の雄ねじ部23に螺合可能な雌ねじ部43,および,ユニオンつば3の鍔部31に引っ掛かる径方向内周の鍔部41,を有するユニオンナット4と,ユニオンねじ2とユニオンつば3との対向面部22,32間に形成されるユニオンねじ2のシール面221とユニオンつば3のシール面321との間に挟圧されるパッキン5と,を含むユニオン継手1である。」

(3)「【0027】
次に,第1実施形態に係るユニオン継手1の窪み部6について,図1または図2に基づいて説明する。図2は,図1の二点鎖線で囲んだ部分の拡大断面図である。
【0028】
ここで,窪み部6について説明する。第1実施形態では,ユニオンねじ2のシール面221にパッキン5の挟圧面積を減少させる窪み部6を形成している。該窪み部6を形成することによって,パッキン5を挟圧させたときの挟圧面積を従来に比べて減少させることができ,少ない締め付けトルクでシール面圧を上昇させることができる。」

(4)図1


(5)図2


(6)「【0041】
図3に示すように,第2実施形態では,パッキン5の軸方向他方の面5bと間隙を介して対向するユニオンねじ2の第1面部221aの軸方向一方の面を,径方向内側に向かうにつれて内径が増大するテーパ状に形成する構成にすることも可能である。本実施形態では,窪み部6を有する第1面部221a(もしくは窪み部6自体)を傾斜面状(テーパ状)に形成し,第1面部221aと径方向外側に隣接する第2面部221bがパッキン5と当接可能なユニオン継手1に構成している。・・・」

(7)図3


(8)「【0043】
上記実施形態では,ユニオンねじ2に窪み部6を設けていたが,ユニオンつば3に設ける構成にすることも可能である。例えば,図5は,本発明の第4実施形態に係るユニオン継手の上半分断面図で部分拡大図であり,図5に示すように,ユニオンつば3のシール面321に窪み部6を形成している。」

(9)図5


(10)「【0045】
・・・つまり,窪み部6を設けたことによってパッキン5の軸方向他方の挟圧面積を減少させている。よって,接触面(シール面)321b,5aの面圧が上昇し,シール性能が向上する。・・・」

4.引用文献2記載の技術的事項
(1)上記3.(2)及び(3)の記載事項,並びに上記3.(4)及び(5)の図示からみて,鍔部31を有するユニオンつば3と,パッキン5と,パッキン5を介在させて鍔部31のシール面321と対向するシール面221を有するユニオンねじ2とを備えたユニオン継手1であって,シール面221が,ユニオン継手1の軸に垂直な方向に形成され,かつシール面221の内周端に窪み部6が形成されることによって,シール面圧を上昇させてシール性能を向上させることを理解できる。

(2)上記3.(6)の記載事項及び上記3.(7)の図示からみて,ユニオン継手1の窪み部6自体を傾斜面状(テーパ状)に形成することを理解でき,上記3.(8)及び(9)の記載事項からみて,ユニオンねじ2に設けていた窪み部6を,ユニオンつば3に設けること,すなわちシール面321の内周端に窪み部6を形成することも可能であると理解できる。

(3)引用文献2のこれらの記載事項や図示に接した当業者であれば,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認識できる。
「鍔部31を有するユニオンつば3と,パッキン5と,パッキン5を介在させて鍔部31のシール面321と対向するシール面221を有するユニオンねじ2とを備えたユニオン継手1であって,シール面321が,ユニオン継手1の軸に垂直な方向に形成され,かつシール面321の内周端から傾斜面状の窪み部6が形成されることによって,シール面圧を上昇させてシール性能を向上させること。」(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)


第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「噴射口8」が本願発明の「オリフィス」に相当することは明らかであり,以下同様に,「フランジ部c」が「フランジ部」に,「ノズル体3」が「円筒状ノズルケース」に,「銅パッキンd」が「ガスケット」に,「アダプター2」が「アダプター」に,それぞれ相当する。
したがって,本願発明と引用発明は,以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「内部にオリフィスが形成され,かつフランジ部を有する円筒状ノズルケースを含むノズル本体と,
銅で形成され,中空円板状であり,前記フランジ部の上流側の側面と接触して配設可能なガスケットと,
前記ガスケットを介在させてフランジ部を係合可能なアダプターとを備えたデスケーリングノズルであって,
前記フランジ部の上流側の側面が,ノズル本体の軸に垂直な方向に形成され,かつガスケットと接触可能な接触部を有する,
デスケーリングノズル。」

<相違点>
本願発明のデスケーリングノズルは,「接触部の内周端から傾斜部が延出し,前記傾斜部が,外周からノズル本体の中心軸に向かうにつれて下流方向に傾斜角度3?30°で傾斜し,ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部の幅と,前記フランジ部の外径との比が,前者/後者=1/30?1/5であり,ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部と前記接触部との幅比が,前者/後者=1/6?20/1であり,かつ前記接触部と前記ガスケットとの幅比が,前者/後者=1/200?3/1である」ものであるのに対して,引用発明のデスケーリングノズルは,接触部の内周端から傾斜部が延出していない点。

第6 判断
1.相違点の検討
(1)上記相違点について検討するため,上記引用文献2記載の技術的事項を参照すると,引用文献2記載の技術的事項の「鍔部31」が本願発明の「フランジ部」に相当し,以下同様に,「シール面321」が「接触部」に相当し,「傾斜面状の窪み部6」が「傾斜部」に相当する。
そうすると,上記相違点に係る「接触部の内周端から傾斜部が延出」することは,上記引用文献2記載の技術的事項に示されている。

(2)上記引用文献2記載の技術的事項は,フランジ部に傾斜部を設けることにより,シール面圧を上昇させてシール性能を向上させるという技術的意義を有するところ,引用文献1の第3欄第2行に「良好なシール」との示唆があるように,引用発明においてもシール性能を向上させることを意図しているといえるから,当業者にとって,引用発明のフランジ部に上記引用文献2記載の技術的事項の傾斜部を設ける動機があるといえる。

(3)ア.もっとも,上記相違点は,「前記傾斜部が,外周からノズル本体の中心軸に向かうにつれて下流方向に傾斜角度3?30°で傾斜し,ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部の幅と,前記フランジ部の外径との比が,前者/後者=1/30?1/5であり,ノズル本体の中心軸に垂直な方向における前記傾斜部と前記接触部との幅比が,前者/後者=1/6?20/1であり,かつ前記接触部と前記ガスケットとの幅比が,前者/後者=1/200?3/1である」というものであるのに対して,上記引用文献2記載の技術的事項は,
(a)傾斜部の傾斜角度が3?30°,
(b)傾斜部の幅とフランジ部の外径との比が1/30?1/5,
(c)傾斜部と接触部との幅比が1/6?20/1,
(d)接触部とガスケットとの幅比が1/200?3/1,
という4つの数値について具体的に明らかでない。

イ.しかし,傾斜部によりシール面圧を上昇させるという技術的意義に鑑みれば,(c)傾斜部と接触部との幅比や,(d)接触部とガスケットとの幅比は,シール面圧に密接に関連する数値であるから,当業者は当然にシール面圧を高めるように(c)及び(d)の数値を決定するといえる。
そして,引用文献2の図3(上記第4の3.(7))からみて,(c)の傾斜部と接触部との幅比については,おおむね2/1程度,すなわち1/6?20/1の範囲内にあり,(d)の接触部とガスケットとの幅比については,おおむね1/3程度,すなわち1/200?3/1の範囲内にあることを理解できるから,上記相違点に係る傾斜部と接触部との幅比を1/6?20/1とし,接触部とガスケットとの幅比を1/200?3/1とすることは,引用文献2記載の技術的事項の技術的意義に鑑みて当然に選択される程度の事項にすぎない。

ウ.同様に,引用文献2の図1(上記第4の3.(4))及び図3(上記第4の3.(7))を参照すれば,(a)の傾斜部の傾斜角度については,おおむね20°程度,すなわち3?30°の範囲にあり,(b)の傾斜部の幅とフランジ部の外径との比については,おおむね1/12程度,すなわち1/30?1/5という数値範囲内に含まれるものであることを理解できるから,上記相違点に係る傾斜部の傾斜角度を3?30°とし,傾斜部の幅とフランジ部の外径との比を1/30?1/5とすることは,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用する際になされる設計的事項にすぎない。

2.本願発明の効果の検討
(1)本願発明の効果は,本願の明細書の段落【0020】からみて,シール性能を向上させ,長期間使用してもガスケットの外周方向への変形を抑制でき,ネジ部の螺合によりガスケットを締め付けて固定する高圧噴射ノズル装置であっても,ガスケットの螺合部への噛み込み(齧り付き)を抑制でき,ノズルの交換作業性を向上できる,というものである。

(2)これに対して,シール性能を向上させる効果は,引用文献2にも記載されている(上記第4の3.(10))から,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用する際に,当業者が予測できる程度のものである。

(3)また,ガスケットの外周方向への変形や,螺合部への噛み込みを抑制する効果は,傾斜部を設けることにより生じる付随的な効果であって,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用すれば,必然的に生じるものであるから,格別に顕著な効果ということはできない。

3.小括
したがって,本願発明は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。

4.請求人の主張について
(1)請求人の主張の概要
請求人は,平成30年10月4日に提出された意見書(以下「意見書」という。)において,おおむね以下の6点を主張した。

ア.本願発明は,高圧噴射ノズルがデスケーリングに限定されているが,引用文献2では,デスケーリングノズルにおける10MPa以上という高圧での特殊用途について記載も示唆もされていない。(意見書第4ページ第8ないし13行)

イ.本願発明のガスケットは,特定の金属材料で形成されたガスケットに限定されているが,このようなガスケットと,引用文献2のパッキンとは大きく異なる。すなわち,パッキンは,運動用シール材であるのに対して,ガスケットは固定用シール材であり,シール材の中でも両者は異なったシール材として分類され,加えて,引用文献2のパッキンはフッ素樹脂製パッキンやノンアスベストパッキンであり,特定の金属材料ではない。引用文献2のフッ素樹脂製パッキンやノンアスベストパッキンでは,デスケーリングノズルのような10MPa以上の高圧噴射ノズルでは使用できない。(意見書第4ページ第14ないし23行)

ウ.引用文献2では,ユニオンつばの窪み部を傾斜面状に形成することは記載されているが,ユニオンつば,ユニオンねじのいずれに傾斜面状を形成してもよく,図面の中で,唯一,傾斜面状が形成されている図3ではユニオンねじに傾斜面状が形成されている。本願発明のデスケーリングノズルでは,フランジ部側に傾斜部を形成することが重要であるが,デスケーリングノズルについて想定されていない引用文献2には,このような技術的意義は記載されていない。(意見書第4ページ第24ないし29行)

エ.発明の目的においても,本願発明が高圧なデスケーリングノズルにおけるシール性能を向上させるのに対して,引用文献2では,締め付けトルクを低くすることであり,シール性能の向上を直接の目的としていない。このような目的の違いは,前述の用途の違い,パッキンとガスケットとの違い,傾斜部における技術的意義とも表裏一体である。(意見書第4ページ第30ないし36行)

オ.本願発明は,接触部及び傾斜部の幅を限定しており,それぞれの幅や傾斜角度の調整により,金属同士が陥没変形してシール性を向上させる。このような技術的意義は,引用文献2における樹脂の変形とは関与する機械的圧力などが大きく異なるので,本願発明の構成要件を容易に予測できない。そのため,仮に引用文献2を引用発明に適用しても,デスケーリングノズルのアダプター本体ではなく,フランジ部において,それぞれの幅及び傾斜部の傾斜角度が限定された特定形状の接触部及び傾斜部を形成することまで容易に到達できない。(意見書第4ページ第37ないし48行)

カ.本願発明は,デスケーリングノズルを構成する円筒状ノズルケースのフランジ部上流側の側面に形成され,かつそれぞれ特定の幅比を有するガスケットとの接触部及びこの接触部の内周端から特定の傾斜角で延出する傾斜部と,前記フランジ部の上流側の側面と接触して配設可能であり,かつ特定の金属材料で形成された中空円板状ガスケットとを組み合わせているので,シール性能を向上できる。特に,長期間使用してもガスケットの外周方向への変形を抑制でき,ネジ部の螺合によりガスケットを締め付けて固定するデスケーリング装置であっても,ガスケットの螺合部への噛み込み(齧り付き)を抑制でき,ノズルの交換作業性を向上できる。また,特定の接触部及び傾斜部を有するため,変形したガスケットが接触部及び傾斜部に密着できる上に,フランジ部の厚みも薄くできるという,顕著な効果を奏するが,一般配管設備に利用されるユニオン継手に係る引用文献2からデスケーリングノズルの効果を容易に予測できない。(意見書第4ページ最終行ないし第5ページ第15行)

(2)請求人の主張の検討
ア.引用文献2には,シール面の面圧を高めることで,シール性能を向上させる効果が記載されている(上記第4の3.(10))が,当該効果は,シールの用途に関わらずに期待できる効果といえる。そして,当業者であれば,10MPaを超えるような高圧で使用される引用発明には,より高いシール性能が求められると認識し,引用文献2記載の技術的事項を適用する動機があるといえる。
そして,流体のシール技術は,様々な分野(用途)で用いられている一般的な技術にすぎないものであり,引用文献2に,デスケーリングノズルの用途について記載や示唆がないとしても,上記3.の判断を覆す根拠とはならず,上記(1)ア.の主張は採用できない。

イ.本願の明細書の段落【0054】には,ガスケットの材質として,本願発明で特定する金属材料以外に,ゴムやプラスチックであってもよいことが示されていることからみても,本願発明におけるシール性能の向上という効果は,特定の金属材料で形成されたガスケットによってのみ生じるものではない。
また,金属材料のガスケットにおいて,シール面の面積を小さくして面圧を高めることは,以下のとおり周知の技術的事項であるから,当業者であれば,シール面圧を高めることで,シール性能を向上させるという引用文献2記載の技術的事項に係る効果は,金属材料のガスケットにおいても生じるものと認識する。
さらに,引用文献2は,ユニオン継手のシール構造に関する文献であるが,ユニオン継手は,ユニオンナット及びユニオンねじで挟んで接続する方式であり,本願発明と同様に,2つの管を固定的に接続する場合にも用いられるものである。そして,引用文献2には,ユニオンつば3とユニオンねじ2を相互に運動させることについて,特に記載がないから,引用文献2のパッキン5について「運動用シール材」(引用文献2の段落【0024】)と記載されているとしても,当業者は,引用文献2のユニオン継手について,2つの管を固定的に接続する場合にも適用できるものと認識するといえる。
したがって,上記(1)イ.の主張は採用できない。

周知の技術的事項
実公昭40-19203号公報
第1ページ右欄第24ないし41行及び第4図
「本考案の一実施例を図面について説明すると19および20は締付体で締付体19にはガスケツト挿入孔21が設けられ,該挿入孔には金属ガスケツト22が挿入されている。締付体20には突起23が設けられ,該突起の先端面とガスケツト挿入孔21の底面にて金属ガスケツト22は圧着されている。突起23の基部は先端よりも厚い肉厚部24とされ,該肉厚部の側壁はガスケツト挿入孔20の側壁に接触されている。締付体19,20の中央部は真空を必要とする中空部25とされている。
上記の構成より明らかな如く本考案は一方の締付体にガスケツト挿入孔を設け,他方の締付体に突起を設けて該突起の先端にてガスケツト挿入孔に挿入されるガスケツトを圧着するように突起をガスケツト挿入孔に挿入し,突起の先端以外の部分には先端の肉厚よりも厚い肉厚部を有して,該肉厚部をガスケツト挿入孔の側壁に接触せしめたものである。」


ウ.引用文献2に接した当業者であれば,引用文献2には,フランジ部側に傾斜部を形成することについても記載されていると認識するといえる(上記第3の4.(3))から,上記(1)ウ.の主張は採用できない。

エ.引用文献2には「シール性能が向上する」との明記がある(上記第3の3.(10))から,上記(1)エ.の主張は採用できない。

オ.本願発明について特定した数値範囲は,引用文献2記載の技術的事項の技術的意義に鑑みて当然に選択される程度の事項である(上記1.(3)イ.)か,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用する際になされる設計的事項にすぎない(上記1.(3)ウ.)。すなわち,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用しようとすれば,何らかの値で設計せざるを得ないところ,本願発明において特定した数値範囲はかなり幅広く,普通に設計すれば含まれてしまう程度の値であるから,上記(1)オ.の主張は採用できない。

カ.シール性能を向上させる効果は,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用する際に,当業者が予測できる程度のものである(上記2.(2))し,ガスケットの螺合部への噛み込みを抑制する効果は,引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用することで必然的に生じるものであって,格別に顕著な効果ではない(上記2.(3))から,上記(1)カ.の主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-22 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-12 
出願番号 特願2013-201805(P2013-201805)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 英夫  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 刈間 宏信
中川 隆司
発明の名称 高圧噴射ノズル及び高圧噴射ノズル装置  
代理人 鍬田 充生  
代理人 阪中 浩  

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