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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1350225
審判番号 不服2018-9014  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-29 
確定日 2019-03-28 
事件の表示 特願2016- 80188「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016-147105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月3日に出願した特願2012-221452号の一部を平成28年4月13日に新たな特許出願(特願2016-80188号)としたものであって、平成29年2月27日付けで拒絶の理由が通知され、平成29年4月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年9月20日付けで最後の拒絶の理由が通知され、平成29年11月24日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成30年3月28日付け(発送日:平成30年4月3日)で、平成29年11月24日になされた手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、それに対して、平成30年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年6月29日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
本件補正は特許請求の範囲の請求項1を補正する内容を含んでおり、平成29年4月25日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載はそれぞれ、以下のとおりである(下線部は、補正箇所を示す。)。

(補正前:平成29年4月25日になされた手続補正)
「【請求項1】
特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機であって、
前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段と、
前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングに応じて、異なる割合により通過演出を実行する演出実行手段とを備え、
前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である、
ことを特徴とする遊技機。」

(補正後:本件補正である平成30年6月29日になされた手続補正)
「【請求項1】
特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機であって、
前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段と、
少なくとも、第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第1タイミングとは異なる第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能な演出実行手段とを備え、
前記演出実行手段は、前記第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により前記通過演出を実行可能であり、
前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である、
ことを特徴とする遊技機。」

2.本件補正の適否
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「特定領域を遊技媒体が通過したタイミングに応じて、異なる割合により通過演出を実行する演出実行手段」について、「タイミング」として「第1タイミング」と「第1タイミングとは異なる第2タイミング」があること、及び、「タイミングに応じて、異なる割合」が、「第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合」であることを特定することにより、本件補正前の請求項1に記載された「遊技機」を限定するものである。
そして、本件補正後の請求項1に記載された発明は、本件補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正は【0203】-【0205】、図21等の記載に基づいており、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下において検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記1.の本件補正の概要において示した次に特定されるとおりのものである(A?Eは、本願補正発明を分説するため当審で付した。)。

「A 特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機であって、
B 前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段と、
C 少なくとも、第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第1タイミングとは異なる第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能な演出実行手段とを備え、
前記演出実行手段は、前記第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により前記通過演出を実行可能であり、
D 前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である、
E ことを特徴とする遊技機。」

(2)引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶理由において提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-358148号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(ア)「【0033】
また、液晶表示装置4には、図4に示すように、大当たり判定がなされた場合には、大当たりの確定図柄を示す所定の賞態様(例えば、図4中の右上の”3”(3-3-3の大当たり図柄を示す)と、所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作が所定のラウンド数行われ、そのラウンドの回数を示すラウンド情報(例えば、図4中の中央下の”Round1(1回目のラウンドを示す)”)と、後述する特定領域804を遊技球が通過したことを示すV入賞(例えば、図4中の左下の”V”)と、所定のラウンドにおいて大入賞口8に入球した遊技球の数を示す入賞数情報(例えば、図4中の右下の”0”(Round1において大入賞口8に遊技球が入球されていないことを示す))とが含まれている。」

(イ)「【0038】
また、大入賞口8の内部には、図3(b)に示すように、蓋体801の開閉を所定回数だけ継続させるための遊技球を受け入れる特定領域804(いわゆるVゾーン)と、それ以外の遊技球を受け入れる一般領域803とが左右に離隔して設けられている。これらの一般領域803及び特定領域804には、領域を遊技球が通過したことを検出すると共に当該領域を通過した遊技球を計数するカウントスイッチ803S及びVカウントスイッチ804Sがそれぞれ設けられている。」

(ウ)「【0042】
また、主制御回路30には、大入賞口8に具備される一般領域803を遊技球が通過したことを検出すると共に一般領域803を通過した遊技球を計数するカウントスイッチ803Sと、大入賞口8に具備される特定領域804を遊技球が通過したことを検出すると共に特定領域804を通過した遊技球を計数するVカウントスイッチ804S(領域通過検出手段)と、一般入賞口16乃至19に遊技球が入球したことを検出する一般入賞球スイッチ16S乃至19Sと、普通図柄作動ゲート7を遊技球が通過したことを検出する通過球スイッチ7Sと、始動口6に遊技球が入球したことを検出する始動入賞球スイッチ6Sと、始動口6の羽根を開閉する始動口ソレノイド6aと、大入賞口8の蓋体801を開閉する大入賞口ソレノイド8aと、大入賞口8に入球した遊技球を特定領域804と一般領域803とに振り分ける流下方向切換部材802と、遊技盤3上の遊技領域に遊技球を発射する制御又は所定数の遊技球を払い出す制御を行う払出・発射制御回路80とが接続されている。」

(エ)「【0049】
メインCPU31は、液晶表示装置4に停止表示される結果が所定の賞態様(例えば、”3-3-3”等)を構成した場合に、所定の条件の下で所定の期間にわたって、遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)から遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)となるように大入賞口8を開放する制御を実行する大入賞口開閉制御手段である。すなわち、メインCPU31は、当該所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作を1ラウンドとし、当該1ラウンド内に特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行するものである。
・・・
【0051】
メインCPU31は、大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sによる検出が行われた場合には、第1の報知をスピーカ25L,25R、ランプ又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行し、大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sによる検出が行われた場合には、第1の報知とは異なる第2の報知をスピーカ25L,25R又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行する報知制御手段である。なお、大入賞口8開放動作が行われてから大入賞口8の開放動作が終了するまでの間(所定の期間,1ラウンド)は、上記所定の基準時間よりも長いものとする。」

(オ)「【0079】
次に、本実施形態における遊技機10のメイン処理について説明する。図5(b)は、遊技機10のメイン処理を示すフロー図である。
【0080】
図5(b)に示すように、ステップ10において、メインCPU31は、遊技機10における各種設定を、前回電源を切った際の設定に復帰するか、若しくは初期化する。ステップ20において、メインCPU31は、特別図柄に関する各処理を制御する。具体的には、図8に示すように、ステップ200において、メインCPU31は、始動記憶がメインRAM33に記憶されているか否かを確認する。」

上記(ア)?(オ)の記載事項から、以下の事項が導かれる。

(a)上記【0033】には、「大当たり判定がなされた場合には、・・・所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作が所定のラウンド数行われ」と記載され、上記【0038】には、「大入賞口8の内部には、・・・特定領域804(いわゆるVゾーン)と、・・・とが・・・設けられ」と記載され、上記【0049】には、「メインCPU31は、当該所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作を1ラウンドとし、当該1ラウンド内に特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する」と記載され、上記【0079】、【0080】には、「遊技機10のメイン処理について説明する。・・・メインCPU31は、遊技機10における各種設定を、前回電源を切った際の設定に復帰するか、若しくは初期化する。・・・」と記載されていることから、引用文献1には、大当たり判定がなされた場合に、所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作が所定のラウンド数行われ、大入賞口8の内部に設けられた特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行するメインCPU31を備える遊技機10が記載されている。

(b)上記【0042】には、「大入賞口8に具備される特定領域804を遊技球が通過したことを検出すると共に特定領域804を通過した遊技球を計数するVカウントスイッチ804S(領域通過検出手段)」、「大入賞口8に入球した遊技球を特定領域804と一般領域803とに振り分ける流下方向切換部材802」と記載され、上記【0038】には、「大入賞口8の内部には、・・・特定領域804(いわゆるVゾーン)と、・・・とが・・・設けられ」と記載され、上記【0049】には、「遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)から遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)となるように大入賞口8を開放する」と記載されていることから、引用文献1には、入球した遊技球が通過可能な特定領域804が内部に設けられ、遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)から遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)になる大入賞口8が記載されている。

(c)上記【0051】には、「メインCPU31は、大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sによる検出が行われた場合には、第1の報知をスピーカ25L,25R、ランプ又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行し、大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sによる検出が行われた場合には、第1の報知とは異なる第2の報知をスピーカ25L,25R又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行する報知制御手段である。」と記載され、上記【0038】には、「・・・特定領域804には、領域を遊技球が通過したことを検出すると共に当該領域を通過した遊技球を計数する・・・Vカウントスイッチ804Sが・・・設けられている。」と記載されていることから、引用文献1には、大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知をスピーカ25L,25R、ランプ又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行し、大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知とは異なる第2の報知をスピーカ25L,25R又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行するメインCPU31が記載されている。

(d)上記(a)に記載したとおり、引用文献1には、特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行するメインCPU31を備える遊技機10が記載されている。

(e)上記【0079】には、「遊技機10」と記載されている。

以上(ア)?(オ)の記載事項及び上記(a)?(e)の認定事項を総合すれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(a?eは、引用発明の構成を分説するため当審で付した。)。

「a 大当たり判定がなされた場合に、所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作が所定のラウンド数行われ、大入賞口8の内部に設けられた特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行するメインCPU31を備える遊技機10であって、
b 入球した遊技球が通過可能な特定領域804が内部に設けられ、遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)から遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)になる大入賞口8と、
c 大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知をスピーカ25L,25R、ランプ又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行し、大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知とは異なる第2の報知をスピーカ25L,25R又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行するメインCPU31とを備え、
d 特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する、
e 遊技機10。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。なお、見出し(a)?(e)は、本願補正発明の特定事項A?E、引用発明の特定事項a?eに対応させている。

(a)引用発明の「特定領域804」、「遊技球」は、それぞれ、本願補正発明の「特定領域」、「遊技媒体」に相当する。また、引用発明における「次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する」ことは、本願補正発明の「遊技者に遊技価値を付与可能」であることに相当する。してみると、引用発明の「大当たり判定がなされた場合には、所定の期間にわたる大入賞口8の開放動作が所定のラウンド数行われ、大入賞口8の内部に設けられた特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行するメインCPU31を備える遊技機10」は、本願補正発明の「特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機」に相当する。

(b)引用発明の「特定領域804が内部に設けられ」た「大入賞口8」が「遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)」は、本願補正発明の「前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態」に相当し、引用発明の「特定領域804が内部に設けられ」た「大入賞口8」が「遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)」は、本願補正発明の「前記特定領域を」「遊技媒体が通過不可能」「な第2状態」に相当する。してみると、引用発明の「入球した遊技球が通過可能な特定領域804が内部に設けられ、遊技球を受け入れない状態(蓋体801が閉じた状態)から遊技球を受け入れ易い状態(蓋体801が開いた状態)になる大入賞口8」は、本願補正発明の「前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段」に相当する。

(c)引用発明の「大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまで」、「大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後」、「特定領域を遊技球が通過」することは、それぞれ、本願補正発明の「第1タイミング」、「第2タイミング」、「特定領域を遊技媒体が通過」することに相当する。
そして、引用発明における「第1の報知」は、「大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合に」行われる、つまり第1タイミングにて特定領域を遊技球が通過したときに100%の割合で行われるものであり、「第2の報知」は、「大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合に」行われる、つまり第2タイミングにて特定領域を遊技球が通過したときに100%の割合で行われるものであることから、引用発明のCPU31は、「大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合」と「大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合」とで、「第1の報知」と「第2の報知」とを異なる割合により実行可能であるといえる。
してみると、引用発明の「CPU31」は、本願補正発明の「演出実行手段」に相当し、引用発明における「大入賞口8の開放動作が実行されてから所定の基準期間が経過するまでに、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知をスピーカ25L,25R、ランプ又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行し、大入賞口8の開放動作を実行させてから所定の基準期間が経過した後、大入賞口8の開放動作を終了させるまでの間に、Vカウントスイッチ804Sにより、特定領域を遊技球が通過したことを検出した場合には第1の報知とは異なる第2の報知をスピーカ25L,25R又は液晶表示装置4に行わせる制御を実行するメインCPU31とを備え」ることは、本願補正発明における「少なくとも、第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第1タイミングとは異なる第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能な演出実行手段とを備え、前記演出実行手段は、前記第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により前記通過演出を実行可能であ」ることに相当する。

(d)引用発明は「特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する」ものであり、特定領域を遊技球が通過したタイミングにかかわらず「次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する」ことから、引用発明における「特定領域804を遊技球が通過したことを条件として次のラウンドまで大入賞口8の開放動作を実行する」ことは、本願補正発明における「前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である」ことに相当する。

(e)引用発明と本願補正発明は共に「遊技機」に関する発明である点で一致する。

上記(a)?(e)によれば、本願補正発明と引用発明とは、

「A 特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機であって、
B 前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段と、
C 少なくとも、第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第1タイミングとは異なる第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能な演出実行手段とを備え、
前記演出実行手段は、前記第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により前記通過演出を実行可能であり、
D 前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である、
E ことを特徴とする遊技機。」
である点で一致し、相違する点はない。

(4)判断
したがって、本願補正発明は、引用発明であり、引用文献1に記載された発明である。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書3.において、「本願の請求項1に係る発明において、演出実行手段は、少なくとも、第1タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときと、第1タイミングとは異なる第2タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能にしています。そして、第1タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときと、第2タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により通過演出を実行可能です。」、「引用文献1に記載された発明では、基準時間以内に遊技球が入球すれば第1の報知を行わせ、基準時間を経過した後に遊技球が入球すれば第1の報知とは異なる第2の報知を行わせるので、遊技球が入球するタイミングによって報知の内容に偏りが生じ、遊技者に煩雑な報知の印象を与えてしまい、遊技興趣を低下させるおそれがあるという問題が生じます。・・・本願の請求項1に係る発明は、第1タイミングでも第2タイミングでも特定領域を遊技媒体が通過したときに実行可能な通過演出を、第1タイミングにて通過したときと、第2タイミングにて通過したときとで、異なる割合により実行可能であるので、遊技媒体が通過したタイミングを遊技者が認識可能としつつ、実行される通過演出の内容に偏りが生じることを防止できます。そうして、本願の請求項1に係る発明は、遊技者に煩雑な演出の印象を与えないようにして、遊技興趣の低下を防止することで、上記の問題を解決できる有利な効果が得られます。」と主張している。
しかし、請求人が本願補正発明について主張する、「演出実行手段は、少なくとも、第1タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときと、第1タイミングとは異なる第2タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときに、通過演出を実行可能」、「第1タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときと、第2タイミングにて特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合により通過演出を実行可能」との点は、上記(3)対比(c)で示したように、引用発明においても備えているものであり、請求人が主張する「遊技媒体が通過したタイミングを遊技者が認識可能としつつ、実行される通過演出の内容に偏りが生じることを防止でき」る、との効果は、引用発明においても期待できるものである。
なお、請求人は、効果について、「遊技者に煩雑な演出の印象を与えないようにして、遊技興趣の低下を防止することで、上記の問題を解決できる有利な効果が得られます。」との主張もしているが、本願補正発明で特定される技術的事項に由来するものではなく、当該主張を参酌することはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のように、本願補正発明は、引用発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることはできない。

4.補正却下の決定についてのむすび
上記3.において検討したことからみて、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成29年4月25日に提出された手続補正書により補正された、上記第2の1.で示した特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
特定領域を遊技媒体が通過したことに基づいて、遊技者に遊技価値を付与可能な遊技機であって、
前記特定領域を遊技媒体が通過可能な第1状態と遊技媒体が通過不可能または通過困難な第2状態とに変化する可変入賞手段と、
前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングに応じて、異なる割合により通過演出を実行する演出実行手段とを備え、
前記特定領域を遊技媒体が通過したタイミングにかかわらず、前記遊技価値を付与可能である、
ことを特徴とする遊技機。」

2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由である理由1は、本願は、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
引用文献1 特開2004-358148号公報

3.引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の3.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、本願補正発明の発明特定事項から、「演出実行手段」の処理に関して、「タイミング」について、「第1タイミング」と「第1タイミングとは異なる第2タイミング」があるという限定、「タイミングに応じて、異なる割合」について、「第1タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときと、前記第2タイミングにて前記特定領域を遊技媒体が通過したときとで、異なる割合」であるという限定を付加した部分を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2の3.(3)で検討したとおり、引用発明と同一の発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明と同一の発明である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-24 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-13 
出願番号 特願2016-80188(P2016-80188)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 113- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞壁 隆一  
特許庁審判長 瀬津 太朗
特許庁審判官 大山 栄成
松川 直樹
発明の名称 遊技機  
代理人 木村 満  

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