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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1350305
審判番号 不服2016-17368  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-21 
確定日 2019-03-27 
事件の表示 特願2012-119190「ハイブリッド車両の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月10日出願公開、特開2013-116037〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年5月25日(パリ条約による優先権主張 2011年11月29日、大韓民国)の出願であって、平成27年12月3日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年3月8日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年7月14日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成28年7月19日)、これに対して平成28年11月21日に審判の請求がなされ、その後、当審において、平成29年8月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、平成30年1月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年3月26日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、平成30年6月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成30年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行し、モータの出力トルクが0である地点が前記車両の設定速度範囲に延長されたトルクプロファイルを備えるモータ、モータコントロールユニット、及びレゾルバを備え、
前記モータコントロールユニットの制御部が、電流制御器、電流指令生成器、及びレゾルバオフセット判断部を含み、
前記レゾルバオフセット判断部が、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部、及び電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部を更に含むハイブリッド車両が走行中、
上位制御部が、
モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、
前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、
前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、
を順次に含み、
前記オフセットモードに進入する段階は、
前記上位制御部が前記モータコントロールユニットを制御して、前記電流指令生成器にD軸Q軸電流指令を生成させ、前記電流制御器にインバータ電流が前記D軸Q軸電流指令に従うように電流制御を実施させ、
前記上位制御部が前記レゾルバオフセット演算部を制御して前記速度/トルク判断部に現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングさせ、前記0電流コントロールパネル端部に現在のモータに要求されるトルクをモニタリングさせ、前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部に前記モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングさせ、所定の式に基づきこれを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算させることを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
車両の速度が0でない状態で、前記オフセットモードに進入することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記モータの電圧が一定数値に収斂する段階において、
前記モータのD軸電圧が設定区間に収斂されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記モータの電圧が一定数値に収斂する段階において、
前記モータのD軸またはQ軸電圧が設定区間に収斂されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法
【請求項5】
前記モータのトルクが0であることを確認する段階において、
前記モータは0電流制御されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記モータのトルクが0であることを確認する段階において、
前記モータのD軸またはQ軸電流を0で制御をすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年1月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルを備えるモータ、モータコントロールユニット、及びレゾルバを備えたハイブリッド車両が走行中、
上位制御部が、
モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、
前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、
前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理してレゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、
を含み、
前記オフセットモードに進入する段階は、
前記上位制御部の指示によって、前記モータコントロールユニットが、電流指令生成器を制御してD軸Q軸電流指令を生成し、電流制御器を制御してインバータ電流が電流指令に従うように電流制御を実施し、前記モータの出力トルクが0である地点を前記車両の設定速度範囲に延長するように前記トルクプロファイルを変更し、前記モータコントロールユニットに備えられたレゾルバオフセット判断部は、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部、電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部を含み、前記速度/トルク判断部が、現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングリングし、前記0電流コントロールパネル端部が、現在のモータに要求されるトルクをモニタリングし、前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部が、モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングし、所定の式に基づきこれを処理してレゾルバのオフセット値を演算することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項2】
車両の速度が0でない状態で、前記オフセットモードに進入することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項3】
前記モータの電圧が一定数値に収斂する段階において、
前記モータのD軸電圧が設定区間に収斂されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項4】
前記モータの電圧が一定数値に収斂する段階において、
前記モータのD軸またはQ軸電圧が設定区間に収斂されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法
【請求項5】
前記モータのトルクが0であることを確認する段階において、
前記モータは0電流制御されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記モータのトルクが0であることを確認する段階において、
前記モータのD軸またはQ軸電流を0で制御をすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。」

2.補正の適否
2-1.目的要件
本件補正前後の特許請求の範囲は、いずれも、請求項の数が6であり、請求項1が「ハイブリッド車両の制御方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項2?6が請求項1を引用し、更に発明特定事項を付加する引用形式の請求項である。そして、本件補正前後で請求項2?6の記載に変更はないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に対応するものである。
本件補正前後の請求項1の記載を比較すると、本件補正は、請求項1について、本件補正前の請求項1に記載されていた「前記オフセットモードに進入する段階は、前記上位制御部の指示によって、前記モータコントロールユニットが、」「前記モータの出力トルクが0である地点を前記車両の設定速度範囲に延長するように前記トルクプロファイルを変更」するという事項(以下、「補正前事項」という。)を削除する補正(以下、「補正事項1」という。)を包含するものである。そして、本件補正後の請求項1の記載全体をみても、モータコントロールユニットが、モータの出力トルクが0である地点を車両の設定速度範囲に延長するようにトルクプロファイルを変更する旨の記載はない。
そうすると、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項を削除する補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
そして、補正前事項が意味するところは明りょうであって、さらに、前記のとおり、本件補正後の請求項1の記載全体をみても、モータコントロールユニットが、モータの出力トルクが0である地点を車両の設定速度範囲に延長するようにトルクプロファイルを変更する旨の記載はないから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。
さらに、補正事項1が特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び同条同項第3号の誤記の訂正を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
2-2.独立特許要件について
前記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に、本件補正が同条同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1(1)」に記載されたとおりのものである。
(2)引用例の記載事項
ア.引用例1
(ア)当審拒絶理由1で引用された本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2010-148270号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
ア-a.「【0013】
また、零電流状態で、磁極検出位置が真の磁極位置に対して誤差があるとする。例えば図14(b)に示すように、指令軸座標dc-qcが実座標d-qに対して角度θofsの誤差を有するとする(以下、角度θofsを磁極位置誤差角θofsという)。このとき、dqベクトル制御の処理によって求められるd軸電圧指令値Vdc(指令軸dc上の電圧指令値)はVdc≠0となり、q軸電圧指令値Vqc(指令軸qc上の電圧指令値)はVqc≠Eとなる。そして、Vdcの2乗値と、Vqcの2乗値との和の平方根√(Vdc2+Vqc2)が逆起電圧Eの大きさに等しくなる。さらにこの場合、d軸電圧指令値Vdcとq軸電圧指令値Vqcとの比(Vdc/Vqc)は、磁極位置誤差角θofsの正接tanθofsに等しくなる。すなわち、次式(1)が成立する。
【0014】
θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc) ……(1)
【0015】
尚、逆起電圧Eの大きさ、ひいてはd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcの大きさ自体は、回転子の回転速度に依存するが、式(1)は、零電流状態であれば回転子4の回転速度によらずに成立する。」
ア-b.「【0030】
本発明の一実施形態を図14並びに図1?図10を参照して説明する。図1は本実施形態の装置構成を示すブロック図である。なお、図1において、図12と共通する構成要素には同じ参照符号が付されている。永久磁石式回転電機1(以下、モータ1という)の電流制御を行なうモータ制御装置100が、本実施形態の永久磁石式回転電機の制御装置として設けられている。
【0031】
本実施形態では、モータ1は、パラレル型ハイブリッド車両に、必要に応じてエンジン3の出力(車両推進力)を補助する補助出力(補助的な車両推進力)を発生させる原動機として搭載されたものである。そして、モータ1の回転子(ロータ)4は、エンジン3の出力軸3aと連動して回転し得るように該出力軸3aに接続されると共に、該回転子4に発生させる出力(トルク)をエンジン3の出力と共に、図示しない変速機等の動力伝達装置を介して車両の駆動輪に伝達するようにしている。
・・・(中略)・・・
【0033】
図1に戻って、モータ1には、回転子4の磁極位置を検出する磁極位置検出器8が取り付けられている。該磁極位置検出器8は、ホール素子やエンコーダ、レゾルバ等であり、回転子4の所定の基準回転位置からの磁極の回転角度θact(q軸の回転角度)の検出値を示す信号を磁極位置の検出信号として出力する。尚、磁極位置検出器8により得られる回転角度θactの検出値(以下、磁極検出角θactという)は、該磁極位置検出器8の取り付け誤差等に起因して、一般には回転子4の実際の磁極位置(磁極の実際の回転角度)に対して誤差を生じる。」
ア-c.「【0034】
モータ制御装置100は、上述したdqベクトル制御によってモータ1の運転制御を行なうものであり、モータ1に発生させるトルクの指令値であるトルク指令値Trcに応じて、d軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcを求める電流指令生成器9と、この電流指令生成器9が出力するd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とを選択的に出力する電流指令切換器10とを備えている。この場合、電流指令生成器9に入力されるトルク指令値Trcは、図外の演算処理装置によって車両の運転状態(アクセル操作量等)に応じて設定されるものである。そして、電流指令生成器9は、入力されたトルク指令値Trcのトルクをモータ1に発生させるために要するd軸電流、q軸電流を求め、それらをd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcとして出力する。また、電流指令切換器10は、その出力を後述する位相補正器101の指令に応じて切換える。
【0035】
また、モータ制御装置100は、モータ1の電機子7のU相、V相を流れる電機子電流Iu,Ivをそれぞれ検出する電機子電流検出器11u,11vと、その電機子電流Iu,Ivの検出値を座標変換することによって指令軸座標dc-dqでのd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する電流座標変換器12とを備えている。・・・(中略)・・・
【0037】
この座標変換により求められるId及びIqは、磁極回転角θにより定まる指令軸座標dc-qc(θをd軸の回転位置として定まるdq座標)でのd軸電流の検出値、q軸電流の検出値としての意味を持つものである。以下の説明では、Id及びIqをd軸検出電流Id,q軸検出電流Iqと称する。」
ア-d.「【0038】
さらにモータ制御装置100は、電流指令切換器10から出力されるd軸電流指令値Idcと電流座標変換器12により求められるd軸検出電流Idとの偏差、並びに、電流指令切換器10から出力されるq軸電流指令値Iqcと電流座標変換器12により求められるq軸検出電流Iqとの偏差をそれぞれ求める減算処理器13,14と、これらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める電圧指令生成器15と、そのd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを座標変換することによって電機子7の各相の印加電圧の指令値Vuc,Vvc,Vwc(以下、相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcという)を算出する電圧座標変換器16と、該相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcに従って電機子7の各相の実際の印加電圧を操作するPWMインバータ回路17とを備えている。
【0039】
電圧指令生成器15は、基本的には、前記偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)をそれぞれ「0」にするようにPI制御則等のフィードバック制御則に基づいてd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求めるものである。尚、この種の電圧指令生成器15は、公知のものであるのでここでの詳細な説明は省略するが、該電圧指令生成器15は、フィードバック制御則の処理に加えて、d,q軸間での速度起電力の干渉を補償するための非干渉制御の処理を行なうことにより、d軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める。
・・・(中略)・・・
【0042】
この座標変換により求められる相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcは、電機子7の各相U,V,Wの印加電圧の大きさ及び位相を規定するものであり、PWMインバータ回路17は、該相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcに従って電機子7の各相U,V,Wの印加電圧の大きさ(振幅)及び位相を操作する。
【0043】
モータ制御装置100は、さらに、磁極位置検出器8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofsを本発明における磁極位置補正量として求めて出力する位相補正器101と、この位相補正器101から出力される磁極位置誤差角θofs(以下、磁極補正角θofsという)を磁極位置検出器8による磁極検出角θactから減算することにより、電流座標変換器12及び電圧座標変換器16の座標変換で用いる磁極回転角θ(=θact-θofs)を求める減算処理器19と、磁極検出角θactを微分することによりモータ1の回転子4の回転速度(詳しくは回転角速度)ω=dθact/dtを求める速度算出器20とを備えている。尚、回転速度ωは、適宜の速度センサを用いて検出するようにしてもよい。あるいは、エンジン3の図示しない回転速度センサにより検出されるエンジン3の回転速度Neを回転角速度ωの代わりに用いてもよい。
【0044】
ここで、位相補正器101は、本発明における補正量決定手段に相当するものである。その処理の詳細は後述するが、該位相補正器101は、所定の条件下で磁極補正角θofsを求めて記憶保持し、該所定の条件下以外のモータ1の通常的な運転時には、記憶保持している磁極補正角θofsを出力するものである。そして、位相補正器101は、磁極補正角θofsを求める処理を実行しているときには、磁極補正角θofsの仮設定値α(以下、仮設定補正角αという)を出力するようにしている。この場合には、減算処理器19が求める磁極回転角θは、θ=θact-αとなる。」
ア-e.「【0045】
モータ制御装置100の外部には、車両の図示しない始動スイッチの操作に応じたエンジン3の運転モードを表すデータ(例えばエンジン3の始動モードであるか否かを示すフラグデータ等)に基づいてトルク指令Trcを出力する車両制御部50が設けられている。車両制御部50から出力されたトルク指令Trcは電流指令生成器9に入力される。また、車両制御部50は、トルク指令Trcが略0、かつ、モータ1の回転速度ωが所定値以下であって略一定に制御し、後述する磁極位置補正の実行の可否を示す磁極位置補正許可信号を出力する。車両制御部50から出力された磁極位置補正許可信号は位相補正器101に入力される。さらに、車両制御部50は、エンジン3の動作を制御する制御部3bに、エンジン3の回転数を指示する信号を出力する。
【0046】
そして、位相補正器101には、電圧指令生成器9からd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcの算出値が入力され、速度算出器20から回転角速度ωの算出値が入力される。さらに、位相補正器101には、車両制御部50から出力された磁極位置補正許可信号が入力される。位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極補正角θofsを求める処理を開始すると、電流指令切換器10から値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)を出力させるための切換指令を電流指令切換器10に出力するようにしている。」
ア-f.「【0054】
以上説明した本実施形態の装置において、電流指令生成器9、電流指令切換器10、減算処理器13,14,19、電圧指令生成器15、電流座標変換器12、電圧座標変換器16、位相補正器101、速度算出器20は、本実施形態では所定のプログラムが実装されたマイクロコンピュータ(入出力回路を含む)の機能的手段として構成されている。」
ア-g.「【0055】
次に、本実施形態の装置の作動を位相補正器101の詳細な処理を中心に図6及び図7のタイミングチャート及び図8?図10のフローチャートを参照して説明する。・・・(中略)・・・
【0056】
このエンジン3の始動により、図6の第5段図に示すようにエンジン3の回転速度Ne(本実施形態では、これはモータ1の回転角速度ωに等しい)が上昇し、該Neが所定値以上になると、エンジン3の始動モードは終了し(エンジン3のアイドリング運転が開始する)、モータ1のトルク指令Trcが「0」になる(図6の時刻t2)。尚、ここでは、車両のアクセル操作はなされていないものとする。
【0057】
そして、このとき、図示しない演算処理装置により、図6の第4段図に示すように、エンジン3の始動が完了したか否かを示す始動完了フラグが「1」にセットされる。この始動完了フラグは、エンジン3の運転モードを表すデータとしてモータ制御装置100の位相補正器101に入力される。
【0058】
次いで、エンジン3のアイドリング運転が継続し、エンジン3の回転速度Neあるいはモータ1の回転角速度ωが所定のアイドリング回転速度(例えば800?1000rpm)付近でほぼ一定に維持されるようになると、モータ1の回転速度が所定値(例えば2000rpm)以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを示す安定チェックフラグが位相補正器101で「1」にセットされる(図6の時刻t3)。そして、このとき、位相補正器101には磁極位置補正許可信号が入力されるため、位相補正器101は、磁極補正角θofsを新たに求めるための処理を実行する(図6の時刻t3?t4)。」
ア-h.「【0059】
以下、磁極補正角θofsを新たに求めるための処理について、図6を参照して詳細に説明する。図6は、図1に示したモータ制御装置100が回転数-誤差特性を求める際のエンジン3の回転数、d軸電流、q軸電流及び電圧位相の変化を示すグラフである。位相補正器101は、回転数-誤差特性を新たに求めるための処理を開始すると、エンジン3が例えば1500rpmの一定回転数で回転している状態で、電流指令切換器10から値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)を出力させるための切換指令を電流指令切換器10に出力する。位相補正器101は、当該切換指令を出力して電圧位相が収束すると、磁極補正角θofsを求める。位相補正器101は、このときの回転数と求めた磁極補正角θofsの組をメモリ103に記録する。」
ア-i.「【0061】
上述のようなシーケンスにおける位相補正器101の処理は、図8?図10のフローチャートに示すように実行される。
【0062】
位相補正器101は、エンジン3の始動が完了した直後であるか否かを始動完了フラグ(図6参照)の値によりステップS101で判断する。この判断結果がYESである場合には(図6の時刻t2)、位相補正器101はさらに、モータ1の回転速度ωが第1の所定値以下(例えば1250rpm)であるか否か、略一定であるか否かをそれぞれステップS103,S105で判断する。ステップS105の判断は、例えば速度算出器20により求められるモータ1の回転速度ωの経時的な変動幅が所定時間以上、所定幅δ以下(図6の第5段図参照)に収まっているか否かを判断することにより行なわれる。そして、これらの判断結果がいずれもYESである場合には、位相補正器101は、さらにトルク指令値Trcが略「0」であるか否かをステップS107で判断する。この判断は、トルク指令値Trcがあらかじめ定めた「0」近傍の範囲内にあるか否かを判断することにより行なわれる。
【0063】
位相補正器101は、ステップS107の判断結果がYESである場合(ステップS101?S107の判断結果がいずれもYESである場合)にはステップS109の処理を実行して、磁極補正角θofsを以下に説明するように求める。また、ステップS101?S107のいずれかの判断結果がNOである場合には処理を終了する。この場合、位相補正器101は、現在保持している回転数-誤差特性に基づいて回転数に応じた磁極補正角θofsを出力する。
【0064】
ステップS109では位相補正器101は、値「0」のd軸電流指令値Id=0及びq軸電流指令値Iq=0を電流指令切換器10に出力させる切換指令を該電流指令切換器10に与える。次に、ステップS111で、位相補正器101は、磁極補正角θofs1を算出し、このときのエンジン3の回転数Nm1と算出した磁極補正角θofs1をメモリ103に記録する。ステップS111で行われる処理の詳細を図10に示す。図10に示すように、位相補正器101は、ステップS201において、仮設定補正角αを「0」として、これを磁極補正角θofsの代わりに出力する。
【0065】
この場合、減算処理器19で求められる磁極回転角θは、θ=θact-α=θactとなる。従って、磁極位置検出器8による磁極検出角θactがそのまま、電流座標変換器12及び電圧座標変換器16の座標変換で用いる磁極回転角θとして、それらの変換器12,16に入力されることとなる。そして、この状態で、モータ制御装置100は、d軸検出電流Id及びq軸検出電流Iqをそれらの指令値である「0」に合致させるように相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcを求めて、モータ1の電機子の印加電圧を操作する。この結果、モータ1の実際の電機子電流(U,V,Wの各相を流れる電流)がほぼ「0」に制御される。
【0066】
ステップS201の処理を実行した後、位相補正器101はステップS203で所定時間、待機した後、後述するステップS205の処理を実行する。ここで、上記所定時間は、ステップS109の処理を実行してから、モータ1の実際の電機子電流が十分に「0」近傍に収束するまでに必要十分な時間としてあらかじめ定められた時間であり、例えば0.5秒である。尚、ステップS203で所定時間待機する代わりに、電機子電流検出器11u,11vにより検出される電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、ステップS205の処理を実行するようにしてもよい。
【0067】
ステップS203において、モータ1の状態は、零電流状態となる。そして、このとき、モータ制御装置100のdqベクトル制御の処理上で認識されている磁極の回転角度(図14(b)の指令軸dcの回転角度位置)、すなわち、磁極回転角θは、磁極位置検出器8による磁極検出角θactであるので、該磁極検出角θactの、実際の磁極位置の回転角に対する誤差角は、式(1)により表される。そこで、ステップS205においては、位相補正器101は、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極補正角θofs1として求める。さらに、位相補正器101は、この求めた磁極補正角θofs1及びエンジン3の回転数Nm1をステップS207でメモリ103に記録する。
・・・(中略)・・・
【0071】
上述のようにステップS125で求められる磁極補正角θofsは、図14を参照して説明した原理に従って、磁極検出角θactの、実際の磁極位置の回転角に対する誤差角を表すものとなる。そして、この場合、本実施形態では、モータ1の回転速度ωが所定値以下であるとき、すなわち、d軸電流指令値Idcを意図的に負の値に設定する界磁弱め制御を行なう必要のない状態で磁極補正角θofsを求める処理を実行する。さらに、モータ1の回転速度ωがほぼ一定の回転速度である状態、すなわち、電機子7の各相に発生する逆起電圧がほぼ一定となる状態で磁極補正角θofsを求める。このため、磁極補正角θofsを精度よく求めることができる。このことは、回転子4の永久磁石5が円筒形のものである場合に限らず、突極形のものである場合でも同様である。」
ア-j.「【0081】
また、本発明は、基本的には、モータ1にトルクを発生させる必要のない状況では、磁極補正角θofsを求めることができるので、例えばモータ1にトルクを発生させずに、車両の空走運転を行なう場合、すなわち、走行中にアクセル操作量を「0」にして駆動輪に駆動力を付与することなく、車両の惰性走行を行なっているときに、磁極補正角θofsを求めるようにしてもよい。例えば、モータ1の回転摩擦により回転数が下降中であっても、回転子4の回転速度が略一定であれば磁極補正角θofsを求める。この場合の実施形態は、例えば、図8のステップS101の判断処理に代えて、車両のアクセル操作がOFFになっているか否か(アクセル操作量が「0」であるか否か)を判断し、その判断結果がYESである場合に次のステップに進むようにすればよい。」
ア-k.「【0085】
また、本実施形態では、パラレル型ハイブリッド車両に搭載したモータ1の制御に関して説明したが、本発明は、例えば、シリーズ型ハイブリッド車両に走行用原動機として搭載された永久磁石式回転電機についても適用することができることはもちろんである。さらには、車両以外の原動機として用いる永久磁石式回転電機(永久磁石式電動機又は永久磁石式発電機)についても本発明を適用できる。」
そして、記載事項ア-b及び図1の記載からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-l.ハイブリッド車両は、モータ1、モータ制御装置100及び磁極位置検出器であるレゾルバ8を備える。
記載事項ア-c及びア-d並びに事項ア-lからみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-m.モータ制御装置100は、トルク指令値Trcに応じてd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcを求める電流指令生成器9と、電流指令生成器9が出力するd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とを選択的に出力する電流指令切換器10と、d軸電流指令値Idcとd軸検出電流Idとの偏差及びq軸電流指令値Iqcとq軸検出電流Iqとの偏差をそれぞれ求める減算処理器13,14と、これらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める電圧指令生成器15と、レゾルバ8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofsを求めて出力する位相補正器101と、を含む。
記載事項ア-eからみて、引用例1に記載された永久磁石式回転電機の制御装置において、磁極位置補正許可信号は車両制御部50により出力され、当該信号を出力するにあたっては、当然、当該信号を出力するための条件が成立しているか否かを判断する必要があるから、記載事項ア-e,ア-g及びア-j並びに図8の記載からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-n.「車両制御部50は、
アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、
モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを判断するステップと、
磁極位置補正許可信号を出力するステップと、
を順次実行する。」
引用例1において、「レゾルバ8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofs」と「磁極補正角θofs」とは同じものであるから、記載事項ア-a,ア-e,ア-h,ア-i及びア-j並びに図8?10からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-o.「位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、
アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、
モータ1の回転速度ωが所定値以下であるか否かを判断するステップS103と、
モータ1の回転速度ωが略一定であるか否かを判断するステップS105と、
トルク指令値Trcが略「0」であるか否かを判断するステップS107と、
値「0」のd軸電流指令値Id=0及びq軸電流指令値Iq=0を電流指令切換器10に出力させる切換指令を該電流指令切換器10に与えるステップS109と、
磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111と、を順次実行し、
前記磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111において、
モータ制御装置100は、d軸検出電流Id及びq軸検出電流Iqをそれらの指令値である「0」に合致させるように相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcを求めてモータ1の電機子の印加電圧を操作し、モータ1の実際の電機子電流(U,V,Wの各相を流れる電流)をほぼ「0」に制御し、
位相補正器101は、電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極位置誤差角θofsとして求める、
θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc) ……(1)。」
そして、特に記載事項ア-b及びア-k並びに事項ア-n及びア-oからみて、引用例1には、ハイブリッド車両に搭載されたモータの制御方法が記載され、さらに記載事項ア-jを考慮すると、当該制御方法はハイブリッド車両が惰性走行を行なっているときに行われるといえる。
(イ)そうすると、これらの事項からみて、本件出願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「モータ1、モータ制御装置100及びレゾルバ8を備え,
モータ制御装置100は、トルク指令値Trcに応じてd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcを求める電流指令生成器9と、電流指令生成器9が出力するd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とを選択的に出力する電流指令切換器10と、d軸電流指令値Idcとd軸検出電流Idとの偏差及びq軸電流指令値Iqcとq軸検出電流Iqとの偏差をそれぞれ求める減算処理器13,14と、これらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める電圧指令生成器15と、レゾルバ8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofsを求めて出力する位相補正器101と、を含むハイブリッド車両が惰性走行を行なっているとき、
車両制御部50が、
アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、
モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを判断するステップと、
磁極位置補正許可信号を出力するステップと、
を順次実行し、
位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、
アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、
モータ1の回転速度ωが所定値以下であるか否かを判断するステップS103と、
モータ1の回転速度ωが略一定であるか否かを判断するステップS105と、
トルク指令値Trcが略「0」であるか否かを判断するステップS107と、
値「0」のd軸電流指令値Id=0及びq軸電流指令値Iq=0を電流指令切換器10に出力させる切換指令を該電流指令切換器10に与えるステップS109と、
磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111と、を順次実行し、
前記磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111において、
モータ制御装置100は、d軸検出電流Id及びq軸検出電流Iqをそれらの指令値である「0」に合致させるように相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcを求めて、モータ1の電機子の印加電圧を操作し、モータ1の実際の電機子電流(U,V,Wの各相を流れる電流)をほぼ「0」に制御し、
位相補正器101は、電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極位置誤差角θofsとして求める、
θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc) ……(1)
ハイブリッド車両に搭載されたモータの制御方法。」
イ.引用例2
(ア)当審拒絶理由1で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開平9-37415号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
イ-a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電気自動車の駆動制御装置に関し、詳しくはアクセルOFF時のクリープの発生を制御する駆動制御装置に関する。」
イ-b.「【0009】
【発明の実施の形態】以下、図1乃至図3の図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。本実施例における駆動制御装置の構成を図1に基づき説明すると、1はモータコントローラで、インバータ1aとモータトルク指令手段1bとにより構成され、メインスイッチ8を介してバッテリ2に接続されている。インバータ1aは、バッテリ2から供給される直流電圧をモータトルク指令手段1bのトルク指令に応じて三相パルス電圧に変換し、モータ3に出力する。モータ3としては、例えば三相DCブラシレスモータが用いられ、モータ3の回転は、変速機(図示せず)等を介して車輪に伝達される。」
イ-c.「【0010】モータトルク指令手段1bには、ブレーキ操作検出手段4と、アクセル操作量検出手段5と、車速検出手段6と、シフト位置検出手段7の各出力が入力されると共に、例えば図3に示すような、車速とモータトルクとのトルク特性マップが予め記憶されている。モータトルク指令手段1bでは、図2に示す制御フローに従って、各入力信号およびトルク特性マップを利用してモータトルクを決定し、インバータ1aにトルク指令を出力している。」
イ-d.「【0012】Dレンジの場合には、車速検出手段6,アクセル操作量検出手段5,ブレーキ操作検出手段4から車速,アクセル操作量およびブレーキ操作の有無を示す各信号が読み込まれる(ステップS3)。この読み込まれた各信号のうち、アクセル操作量の信号からアクセル操作がなされているか否か判定(ステップS4)される。アクセル操作がなされている場合、即ちアクセルON時には、アクセル操作量に応じてモータトルクが決定(ステップS5)され、モータトルクの指令がモータトルク指令手段1bからインバータ1aに出力される。アクセル操作がなされてない場合、即ちアクセルOFF時には、ブレーキ操作がなされているか否か判定(ステップS6)される。
【0013】ブレーキ操作がなされてない場合、即ちブレーキOFF時、図3(イ)に示すようなトルク特性マップに従い、車速に応じてモータトルクが決定(ステップS7)され、モータトルクの指令がモータトルク指令手段1bからインバータ1aに出力される。車速が0?a_(1)km/hの場合20%のクリープトルク,a_(1)?a_(2)km/hの場合20%から0%に徐々にクリープトルクが減少する。a_(2)?a_(3)km/hの場合0%,a_(3)?a_(4)km/hの場合0%から-20%に徐々に回生制動が増加する。a_(4)?a_(5)km/hの場合-20%の回生制動,a_(5)km/h以上の場合-20%から回生制動が減少する。このように、停止時には20%のクリープトルクを発生しており、速度が大きくなるとクリープトルクの量が減少し、さらに速度が大きくなると回生制動領域に移行する。」
そして、記載事項イ-b及びイ-c並びに図1の記載からみて、引用例2には次の事項が開示されていると理解できる。
イ-e.電気自動車の駆動制御装置は、各入力信号およびトルク特性マップを利用してモータトルクを決定してトルク指令を出力するモータトルク指令手段1bと、モータトルク指令手段1bのトルク指令に応じた三相パルス電圧をモータ3に出力するインバータ1aと、により構成されるモータコントローラ1を備える。
記載事項イ-c及びイ-d並びに図2及び3からみて、引用例2には次の事項が開示されていると理解できる。
イ-f.モータトルク指令手段1bは、車速が0?a_(2)km/hの場合クリープトルクを発生し、車速がa_(2)?a_(3)km/hの場合モータトルクが0となり、車速がa_(3)km/h以上の場合回生制動となる車速とモータトルクとのトルク特性マップを予め記憶し、アクセル操作がなされておらず、ブレーキ操作もなされていない場合、前記トルク特性マップに従い、車速に応じてモータトルクを決定する。
(イ)そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「各入力信号およびトルク特性マップを利用してモータトルクを決定してトルク指令を出力するモータトルク指令手段1bと、モータトルク指令手段1bのトルク指令に応じた三相パルス電圧をモータ3に出力するインバータ1aと、により構成されるモータコントローラ1を備える電気自動車の駆動制御装置において、
モータトルク指令手段1bは、
車速が0?a_(2)km/hの場合クリープトルクを発生し、車速がa_(2)?a_(3)km/hの場合モータトルクが0となり、車速がa_(3)km/h以上の場合回生制動となる車速とモータトルクとのトルク特性マップを予め記憶し、
アクセル操作がなされている場合、アクセル操作量に応じてモータトルクを決定し、
アクセル操作がなされておらず、ブレーキ操作もなされていない場合、前記トルク特性マップに従い、車速に応じてモータトルクを決定する。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
a.引用発明の「モータ1」、「モータ制御装置100」及び「レゾルバ8」は、それぞれ、本件補正発明の「モータ」、「モータコントロールユニット」及び「レゾルバ」に相当するから、引用発明の「モータ1、モータ制御装置100及びレゾルバ8を備え」る「ハイブリッド車両」は、本件補正発明の「車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルを備えるモータ、モータコントロールユニット、及びレゾルバを備え」る「ハイブリッド車両」と、「モータ、モータコントロールユニット、及びレゾルバを備えるハイブリッド車両」の点で一致する。
b.引用発明の「モータ制御装置100」は、モータ1の運転制御を行うものであるから、本件補正発明の「モータコントロールユニットの制御部」にも相当する。引用発明は、減算処理器13,14がd軸電流指令値Idcとd軸検出電流Idとの偏差(Idc-Id)及びq軸電流指令値Iqcとq軸検出電流Iqとの偏差(Iqc-Iq)をそれぞれ求め、電圧指令生成器15がこれらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求め、もってd軸電流及びq軸電流をそれぞれd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcに一致するよう制御するものである。そうすると、引用発明の「d軸電流指令値Idcとd軸検出電流Idとの偏差及びq軸電流指令値Iqcとq軸検出電流Iqとの偏差をそれぞれ求める減算処理器13,14」及び「これらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める電圧指令生成器15」は、合わせて、本件補正発明の「電流制御器」に相当する。
引用発明は、トルク指令値Trcに応じて電流指令生成器9が求めるd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とが選択的に電流指令切換器10から減算処理器13,14に出力されるものであるから、引用発明の「d軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcを求める電流指令生成器9と、電流指令生成器9が出力するd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とを選択的に出力する電流指令切換器10」は、合わせて、本件補正発明の「電流指令生成器」に相当する。
引用発明の「磁極位置誤差角θofs」は、本件補正発明の「レゾルバのオフセット値」に相当するから、引用発明の「レゾルバ8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofsを求めて出力する位相補正器101」は、本件補正発明の「レゾルバオフセット判断部」に相当する。
してみれば、引用発明の「モータ制御装置100は、トルク指令値Trcに応じてd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcを求める電流指令生成器9と、電流指令生成器9が出力するd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(Idc,Iqc)と値「0」のd軸電流指令値Idc及びq軸電流指令値Iqcの組(0,0)とを選択的に出力する電流指令切換器10と、d軸電流指令値Idcとd軸検出電流Idとの偏差及びq軸電流指令値Iqcとq軸検出電流Iqとの偏差をそれぞれ求める減算処理器13,14と、これらの偏差(Idc-Id),(Iqc-Iq)に応じて指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを求める電圧指令生成器15と、レゾルバ8による磁極検出角θactの、実際の磁極の回転角度からの誤差角を表す磁極位置誤差角θofsを求めて出力する位相補正器101と、を含むハイブリッド車両」は、本件補正発明の「前記モータコントロールユニットの制御部が、電流制御器、電流指令生成器、及びレゾルバオフセット判断部を含」む「ハイブリッド車両」に相当する。
c.引用発明の「ハイブリッド車両が惰性走行を行なっているとき」は、本件補正発明の「ハイブリッド車両が走行中」に相当する。
d.引用発明の「車両制御部50」は、トルク指令Trcを電流指令生成器9に出力し、磁極位置補正許可信号を位相補正器101に出力するものであるから、本件補正発明の「上位制御部」に相当する。
本願明細書を参照すると、本件補正発明の「出力トルクが0であることを確認」は、モータの出力トルクを直接確認するのではなく、モータに要求されるトルクが0であることを確認することを包含する(段落0025参照)。そして、引用発明の「アクセル操作量」は、本件補正発明の「モータに要求されるトルク」に相当する。そうすると、引用発明の「引用発明において「車両制御部50が、アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップ」は、本件補正発明の「モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階」と、「モータの出力トルクが0であることを確認する段階」である点で一致する。
引用発明の制御方法はハイブリッド車両が惰性走行を行っているときに行われるものであるから、引用発明において、モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっていることを判断すると、おのずと、モータ1の回転速度は0でないことが判断されることになり、さらに特に記載事項ア-aを併せ考慮すれば、モータ1の回転速度ωがほぼ一定の回転速度になれば、モータ1の逆起電力Eの大きさ並びにd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcの大きさはほぼ一定の大きさに収斂する。そうすると、引用発明の「モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを判断するステップ」は、本件補正発明の「モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階」と、「モータ速度が0でないことを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階」である点で一致する。
引用発明は、車両制御部50が磁極位置補正許可信号を出力し、該磁極位置補正許可信号が入力されると、位相補正器101が磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始するものであって、位相補正器101は、磁極位置誤差角θofsを求める処理において、アクセル操作量、モータ1の回転速度ω、トルク指令値Trc、電機子電流、d軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いているから、引用発明の「磁極位置補正許可信号を出力するステップ」は、本件補正発明の「前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階」に相当する。
してみれば、引用発明において「車両制御部50が、アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを判断するステップと、磁極位置補正許可信号を出力するステップと、を順次実行」することは、本件補正発明において「上位制御部が、モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、を順次に含」むことと、「上位制御部が、モータ速度が0でないことを確認する段階と、前記モータの出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、を含み、次いで前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階を含」む点で一致する。
e.引用発明は、前記のとおり、車両制御部50から磁極位置補正許可信号が入力されると、位相補正器101が磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始するものであるから、引用発明において「位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、」「値「0」のd軸電流指令値Id=0及びq軸電流指令値Iq=0を電流指令切換器10に出力させる切換指令を該電流指令切換器10に与えるステップS109」「を順次実行し、」「前記磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111において、モータ制御装置100は、d軸検出電流Id及びq軸検出電流Iqをそれらの指令値である「0」に合致させるように相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcを求めて、モータ1の電機子の印加電圧を操作し、モータ1の実際の電機子電流(U,V,Wの各相を流れる電流)をほぼ「0」に制御」することは、本件補正発明において「前記オフセットモードに進入する段階は、前記上位制御部が前記モータコントロールユニットを制御して、前記電流指令生成器にD軸Q軸電流指令を生成させ、前記電流制御器にインバータ電流が前記D軸Q軸電流指令に従うように電流制御を実施させ」ることに相当する。
本件補正発明において、「速度/トルク判断部」は、「現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリング」するものであり、「0電流コントロールパネル端部」は、「現在のモータに要求されるトルクをモニタリング」するものである。
一方、引用発明において、位相補正器101は、アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、モータ1の回転速度ωが所定値以下であるか否かを判断するステップS103と、モータ1の回転速度ωが略一定であるか否かを判断するステップS105と、トルク指令値Trcが略「0」であるか否かを判断するステップS107と、を順次実行する。そして、引用発明の「モータ1の回転速度ω」は、本件補正発明の「モータの速度」に相当し、引用発明の「トルク指令値Trc」は、本件補正発明の「トルク指令」及び「モータに要求されるトルク」のいずれにも相当し、前記各ステップを実行するために位相補正器101がアクセル操作量、モータ1の回転速度ω及びトルク指令値Trcをモニタリングしていることは明らかである。
そうすると、引用発明の「位相補正器101」が本件補正発明の「速度/トルク判断部」及び「0電流コントロールパネル端部」に相当するものを備えていることは、明らかであり、引用発明の「位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、モータ1の回転速度ωが所定値以下であるか否かを判断するステップS103と、モータ1の回転速度ωが略一定であるか否かを判断するステップS105と、トルク指令値Trcが略「0」であるか否かを判断するステップS107と、」「を順次実行する」ことは、本件補正発明の「前記レゾルバオフセット判断部が、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部」「を更に含」み、「前記オフセットモードに進入する段階は、」「前記上位制御部が前記レゾルバオフセット演算部を制御して前記速度/トルク判断部に現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングさせ、前記0電流コントロールパネル端部に現在のモータに要求されるトルクをモニタリングさせ」ることに相当する。
また、本件補正発明において、「電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部」は、「前記モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングさせ、所定の式に基づきこれを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算」するものである。
一方、引用発明において、位相補正器101は、前記ステップS103?S109を順次実行した後に磁極位置誤差角θofsを算出し、当該磁極位置誤差角θofsの算出において、電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)(θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc))の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極補正角磁極位置誤差角θofs1として求める。すなわち、位相補正器101は、モータ1の回転速度ωが所定値以下でありかつ略一定である状態において磁極位置誤差角θofsを算出しており、引用発明の「電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったとき」は、本件補正発明の「0電流状態」に相当する。さらに、引用発明の「d軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqc」、及び「式(1)」かつ「θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc)・・・(1)」は、それぞれ、本件補正発明の「電圧」及び「所定の式」に相当し、位相補正器101がd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcをセンシングしていることは明らかである。
そうすると、引用発明の「位相補正器101」が本件補正発明の「電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部」に相当するものを備えていることは、明らかであり、引用発明の「位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、」「磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111と、を順次実行し、前記磁極位置誤差角θofsを算出するステップS111において、」「位相補正器101は、電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極補正角磁極位置誤差角θofs1として求める、θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc) ……(1)」」は、本件補正発明の「前記レゾルバオフセット判断部が、」「電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部を更に含」み、「前記オフセットモードに進入する段階は、」「前記上位制御部が前記レゾルバオフセット演算部を制御して」「前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部に前記モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングさせ、所定の式に基づきこれを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算させる」ことに相当する。
してみれば、引用発明の「位相補正器101は、磁極位置補正許可信号が入力され、磁極位置誤差角θofsを求める処理を開始すると、アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップと、モータ1の回転速度ωが所定値以下であるか否かを判断するステップS103と、モータ1の回転速度ωが略一定であるか否かを判断するステップS105と、トルク指令値Trcが略「0」であるか否かを判断するステップS107と、値「0」のd軸電流指令値Id=0及びq軸電流指令値Iq=0を電流指令切換器10に出力させる切換指令を該電流指令切換器10に与えるステップS109と、磁極位置誤差角θofs1を算出するステップS111と、を順次実行し、
前記磁極位置誤差角θofs1を算出するステップS111において、モータ制御装置100は、d軸検出電流Id及びq軸検出電流Iqをそれらの指令値である「0」に合致させるように相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcを求めて、モータ1の電機子の印加電圧を操作し、モータ1の実際の電機子電流(U,V,Wの各相を流れる電流)をほぼ「0」に制御し、位相補正器101は、電機子電流を監視し、それらが「0」近傍の所定の範囲内に収まったときに、電圧指令生成器15が求めたd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを用いて式(1)の右辺の演算を行い、その演算により求めた値を新たに磁極位置誤差角θofsとして求める、
θofs=tan^(-1)(Vdc/Vqc) ……(1)」は、
本件補正発明の「前記レゾルバオフセット判断部が、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部、及び電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部を更に含」み、「前記オフセットモードに進入する段階は、前記上位制御部が前記モータコントロールユニットを制御して、前記電流指令生成器にD軸Q軸電流指令を生成させ、前記電流制御器にインバータ電流が前記D軸Q軸電流指令に従うように電流制御を実施させ、前記上位制御部が前記レゾルバオフセット演算部を制御して前記速度/トルク判断部に現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングさせ、前記0電流コントロールパネル端部に現在のモータに要求されるトルクをモニタリングさせ、前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部に前記モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングさせ、所定の式に基づきこれを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算させる」ことに相当する。
f.引用発明の「ハイブリッド車両に搭載されたモータの制御方法」は、本件補正発明の「ハイブリッド車両の制御方法」に相当する。
g.以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「モータ、モータコントロールユニット、及びレゾルバを備え、
前記モータコントロールユニットの制御部が、電流制御器、電流指令生成器、及びレゾルバオフセット判断部を含み、
前記レゾルバオフセット判断部が、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部、及び電圧センシング及びレゾルバオフセット演算部を更に含むハイブリッド車両が走行中、
上位制御部が、
モータ速度が0でないことを確認する段階と、
その出力トルクが0であることを確認する段階と、
前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、
を含み、次いで
前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階を含み、
前記オフセットモードに進入する段階は、
前記上位制御部が前記モータコントロールユニットを制御して、前記電流指令生成器にD軸Q軸電流指令を生成させ、前記電流制御器にインバータ電流が前記D軸Q軸電流指令に従うように電流制御を実施させ、
前記上位制御部が前記レゾルバオフセット演算部を制御して前記速度/トルク判断部に現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングさせ、前記0電流コントロールパネル端部に現在のモータに要求されるトルクをモニタリングさせ、前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部に前記モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングさせ、所定の式に基づきこれを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算させることを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。」
【相違点1】
本件補正発明は、モータが、車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行し、モータの出力トルクが0である地点が前記車両の設定速度範囲に延長されたトルクプロファイルを備えるのに対し、
引用発明は、モータ(モータ1)がどのようなトルクプロファイルを備えるのか不明である点。
【相違点2】
「上位制御部が、モータ速度が0でないことを確認する段階と、前記モータの出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、を含み、次いで前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階を含む」ことに関し、
本件補正発明は、上位制御部が、モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、を順次に含むのに対し、
引用発明は、上位制御部(車両制御部50)が、モータの出力トルクが0であることを確認する段階(アクセル操作量が「0」であるか否かを判断するステップ)と、モータ速度が0でなく、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階(モータ1の回転速度が所定値以下でほぼ一定の回転速度になっているか否かを判断するステップ)と、前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階(磁極位置補正許可信号を出力するステップと、を順次に含む点。
(4)判断
ア.相違点1について検討する。
本件補正発明と引用例2に記載された技術を比較する。引用例2に記載された技術は、モータトルク指令手段1bがトルク指令を出力し、インバータ1aが該トルク指令に応じた三相パルス電圧をモータ3に出力するものであるから、モータ3は、当然、モータトルク指令手段1bが決定したモータトルクを発生する。そうすると、引用例2に記載された技術の「モータ3」は、本件補正発明の「モータ」に相当し、引用例2に記載された技術において「モータトルク指令手段1bは、車速が0?a2km/hの場合クリープトルクを発生し、車速がa2?a3km/hの場合モータトルクが0となり、車速がa3km/h以上の場合回生制動となる車速とモータトルクとのトルク特性マップを予め記憶し、」「前記トルク特性マップに従い、車速に応じてモータトルクを決定する」ことは、本件補正発明において、モータが「車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行し、モータの出力トルクが0である地点が前記車両の設定速度範囲に延長されたトルクプロファイルを備える」ことに相当する。すなわち、引用例2に記載された技術は、相違点1に係る本件補正発明を特定する事項に相当する事項を備えている。
そして、引用例1には、前記ハイブリッド車両がシリーズ型ハイブリッド車両でもよいことが記載されており(記載事項ア-k参照)、シリーズ型ハイブリッド車両と電気自動車は、走行用原動機が該車両に搭載されたモータのみである点で共通している。さらに、引用例2に記載された技術における、アクセル操作がなされておらず、ブレーキ操作もなされていない場合は、引用発明における車両の惰性走行に相当するから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者にとって容易である。
してみれば、引用発明において、引用例2に記載された技術を適用し、相違点1に係る本件補正発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易になし得る事項である。
イ.相違点2について検討する。
本件補正発明と引用発明は、いずれも、上位制御部が、モータ速度が0でないこと、モータの出力トルクが0であること及び前記モータの電圧が一定数値に収斂することの3つを確認すると、前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理して前記レゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階に入るものであるから、前記3つを確認する順番に技術的意味はなく、当該順番は当業者が適宜選択し得る事項である。
してみれば、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
ウ.本件補正発明は、相違点1に係る本件補正発明を特定する事項である、モータが、車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行し、モータの出力トルクが0である地点が車両の設定速度範囲に延長されたトルクプロファイルを備えることにより、より容易なオフセットモードへの進入が可能となるという効果を奏するものである(段落0022参照)。一方、前記(3)において検討したとおり、引用発明もモータの出力トルクが0であることを条件の1つとしてオフセットモードに進入するものであるから、引用発明において、引用例2に記載された技術を適用し、モータ(モータ1)が、その出力トルクが0である地点が車両の設定速度範囲に延長されたトルクプロファイルを備えるようにすれば、オフセットモードに進入する条件の成立が容易になることは明らかである。そうすると、本件補正発明において相違点1に係る本件補正発明を特定する事項により奏される効果に、引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
また、前記イ.において検討したとおり、本件補正発明において相違点2に係る本件補正発明を特定する事項により奏される効果に、引用発明が奏する効果と異なるところはない。
さらに、本件補正発明を特定する事項を総合してみても、本件補正発明の奏する効果に、引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
(5)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同条同項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであったとしても、前記「2.2-2 独立特許要件について」で指摘したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成30年6月27日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年1月4日にされた手続補正(以下、「本件先行補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1.(2)」に記載されたとおりのものである。

2.拒絶の理由
当審拒絶理由2の理由Aの概要は、次のとおりである。
A.本件先行補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

1.本件先行補正後の請求項1、特に「車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルを備えるモータ・・・(中略)・・・を備えたハイブリッド車両が走行中、
上位制御部が、
モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、
前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、
前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理してレゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、
を含み、
前記オフセットモードに進入する段階は、
前記上位制御部の指示によって、前記モータコントロールユニットが、電流指令生成器を制御してD軸Q軸電流指令を生成し、電流制御器を制御してインバータ電流が電流指令に従うように電流制御を実施し、前記モータの出力トルクが0である地点を前記車両の設定速度範囲に延長するように前記トルクプロファイルを変更し、」との記載(下線は、当審が付加した。)により、前記上記制御部が、3つの段階を取り得るものであって、該3つの段階の1つである、前記オフセットモードに進入する段階になると、モータが備える、車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルが、前記モータの出力トルクが0である地点を車両の設定速度範囲に延長するように変更されることが明確になった。
しかしながら、当初明細書等には、モータが備える、車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルを、前記オフセットモードに進入する段階において、前記モータの出力トルクが0である地点を前記車両の設定速度範囲に延長するように変更することは記載も示唆もされていない。
したがって、本件先行補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。

3.当審の判断

当初明細書等には、ハイブリッド自動車に備えられるモータの車速に応じたトルクプロファイルを、車速が一定区間の状態において、モータ110の0トルク区間が増えるようにされたトルクプロファイルとしたものしか記載されていない。
すなわち、当初明細書等の請求項3には「前記モータの出力トルクが0である地点を、車両の設定速度範囲に延長する」とは記載されているが、該請求項3が引用する請求項1を併せて参照しても、当該「前記モータの出力トルクが0である地点を、車両の設定速度範囲に延長する」ことと、該請求項3に係る発明を特定するその他の事項と、の関係は何ら記載されていない。そうすると、該請求項1に記載された、「車両が走行中、モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階」、「前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階」及び「前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理してレゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階」のいずれかの段階になると、前記モータの出力トルクが0である地点を車両の設定速度範囲に延長すると解することはできない。
さらに、当初明細書等の発明の詳細な説明には、段落0022に、ハイブリッド自動車に備えられるモータの車速によるトルクプロファイルの変形した様子として、車速が一定区間の状態においてモータの出力トルクが0であるようにし、車速が該一定区間以下ではモータは駆動モードであり、車速が該一定区間以上ではモータが充電(回生モード)を実行するトルクプロファイル(図5参照)(以下、「変形したトルクプロファイル」という。)が記載されているにすぎない。すなわち、当初明細書等の発明の詳細な説明には、「ハイブリッド自動車に備えられるモータの車速によるトルクプロファイルの変形した様子」としか記載されておらず、前記モータのトルクプロファイルを、一の条件又は状況が成立すると、他のトルクプロファイル(例えば、車両の速度が一定速度以下ではモータ110は駆動モードであり、一定速度以上ではモータ110が充電(回生モード)を実行するトルクプロファイル(段落0022,図4参照))から前記の変形したトルクプロファイルに変更し、当該一の条件又は状況が成立しなくなると、あるいは他の一の条件又は状況が成立すると、前記の変形したトルクプロファイルから前記他のトルクプロファイルに変更することは記載されていない。
加えて、本件先行補正後の請求項1の「上位制御部が、
モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、
前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、
前記モータを制御するためのデータを収集し、これを処理してレゾルバのオフセット値を演算するためのオフセットモードに進入する段階と、
を含み、
前記オフセットモードに進入する段階は、
・・・(中略)・・・前記モータコントロールユニットに備えられたレゾルバオフセット判断部は、速度/トルク判断部、0電流コントロールパネル端部、電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部を含み、前記速度/トルク判断部が、現在のモータの速度およびトルク指令をモニタリングリングし、前記0電流コントロールパネル端部が、現在のモータに要求されるトルクをモニタリングし、前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部が、モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングし、所定の式に基づきこれを処理してレゾルバのオフセット値を演算する」との記載からみて、さらに平成30年1月4日受付の意見書における請求人の主張、特に【意見の内容】六、3.(2)における主張を参酌すれば、前記オフセットモードに進入する段階は、モータ速度が0でなく、その出力トルクが0であることを確認する段階と、前記モータの電圧が一定数値に収斂することを確認する段階と、の後に実行される段階であって、前記レゾルバオフセット判断部が含む前記電圧センシングおよびレゾルバオフセット演算部が、モータの速度と0電流状態によって電圧をセンシングし、所定の式に基づきこれを処理してレゾルバのオフセット値を演算する段階であるから、当初明細書等の発明の詳細な説明に記載された「オフセット判断モード」に相当する。一方、当初明細書等に記載された発明が、オフセット判断モードに進入すると、車速が一定区間の状態においてモータ110の0トルク区間が増えるように、モータの車速によるトルクプロファイルを変更するものではないことは、「図4と比較し、トルクプロファイルが変形して車速が一定区間の状態において、モータ110の0トルク区間が増えるようにすれば、より容易なオフセット判断モードの進入が可能となる。」との記載(段落0022。下線は、当審が付加した。)からも明らかである。
したがって、当初明細書等には、モータが備える、車両の速度が一定速度以下では駆動モードであり一定速度以上では充電を実行するトルクプロファイルを、前記オフセットモードに進入する段階において、前記モータの出力トルクが0である地点を前記車両の設定速度範囲に延長するように変更することは記載も示唆もされておらず、本件先行補正後の請求項1の記載は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項である事項を包含するものである。

なお、この点に関して、請求人は、平成30年1月4日受付の意見書において、ハイブリッド自動車において、モータ(モータコントロールユニット)は複数のトルクプロファイルを備え、運転モードに応じてそれらを変更して使用するのは、出願時の技術常識であった旨主張している(【意見の内容】六、1.(2),六、4.(2)参照)。
しかしながら、たとえ、ハイブリッド自動車において、モータ(モータコントロールユニット)が複数のトルクプロファイルを備え、運転モードに応じてそれらを変更して使用することが出願時の技術常識であったとしても、当初明細書等に2つのトルクプロファイルが並列して記載されていることのみから、当初明細書等に記載されたモータが該2つのトルクプロファイルのいずれをも備え、状況に応じて当該2つのトルクプロファイルのいずれかを使用することが当初明細書等に開示されているとはいえず、ましてや前記オフセットモードに進入する段階又は前記オフセット判断モードという具体的なモードになると、前記トルクプロファイルを前記2つのトルクプロファイルの一方から他方に変更することが当初明細書等に開示されているとはいえない。

以上のとおりであるから、本件先行補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

第4 むすび

以上のとおり、本件先行補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-26 
結審通知日 2018-10-30 
審決日 2018-11-12 
出願番号 特願2012-119190(P2012-119190)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (B60L)
P 1 8・ 121- WZ (B60L)
P 1 8・ 57- WZ (B60L)
P 1 8・ 55- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相羽 昌孝笹岡 友陽  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 堀川 一郎
久保 竜一
発明の名称 ハイブリッド車両の制御方法  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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