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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1350397 |
審判番号 | 不服2018-1119 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-01-26 |
確定日 | 2019-04-23 |
事件の表示 | 特願2014-550792「選択的な領域粗化による制御されたLED光出力」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月18日国際公開、WO2013/105004、平成27年 2月 2日国内公表、特表2015-503849、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)1月3日の出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)1月10日、米国)であって、その主な経緯は次のとおりである。 平成28年10月20日付け:拒絶理由通知 平成29年 4月25日 :意見書・手続補正書 平成29年 5月30日付け:拒絶理由通知(最後) 平成29年 9月 6日 :意見書・手続補正書 平成29年 9月20日付け:平成29年9月6日提出の手続補正書でし た補正の却下の決定・拒絶査定(送達日平 成29年9月26日) 平成30年 1月26日 :審判請求書・手続補正書 平成30年10月11日付け:当審拒絶理由通知 平成31年 1月15日 :意見書・手続補正書 第2 原査定及び当審拒絶理由通知の概要 1 平成29年9月20日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?15に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?9に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。なお、本願の請求項1?10は、当審拒絶理由通知の対象とはなっていない。 (1)本願の請求項11?15の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合していない。 (2)本願の請求項11に係る発明は、引用文献10に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (3)本願の請求項11?15に係る発明は、引用文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1 特開2006-191103号公報 2 国際公開第2009/084325号(周知例) 3 特開2011-100829号公報(周知例) 4 特表2007-521641号公報(周知例) 5 米国特許出願公開第2005/0023549号明細書(周知例) 6 特開2007-273975号公報(周知例) 7 特開2007-150304号公報(周知例) 8 国際公開第2009/084670号(周知例) 9 特開2011-66453号公報(周知例) 10 国際公開第2007/094490号 第3 本願発明の認定 本願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成31年1月15日提出の手続補正書により補正(以下、この補正を「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1は、以下のとおりの発明である。 「発光素子の目標光取り出し効率を決定し、 粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定し、 発光面を通して光を発するように構成された前記発光素子を生成し、前記発光面は、コンタクトによって被覆されない前記発光素子の頂面であり、 前記発光面に表面エッチングプロセスを適用して、前記粗化された表面領域を作り出し、粗化されない表面領域に対する粗化される表面領域が前記決定された割合に基づき、且つ 前記発光面上にエッチング阻止パターンを適用して、前記粗化されていない領域を作り出し、粗化された表面領域の量に対する粗化されていない表面領域の量は前記決定された割合に基づき、前記粗化されていない表面領域は、前記粗化された表面領域を取り囲む、 ことを有する方法。」 なお、本願発明2?10は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 原査定の理由についての判断 1 引用文献等の記載事項 (1)引用文献1 ア 引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである(以下、同じ)。 (ア)「図1-1および図1-2は例えば特許文献1に記載されている従来の窒化物半導体発光素子及びフリップチップ窒化物半導体発光装置の側断面図である。こうした光取り出し効率の問題を改善するために、特許文献1においては、図1-1に示すように基板の下面を粗面としたフリップチップ窒化物発光素子を提案している。」(【0006】)、 「図1-1によると、特許文献1による窒化物半導体発光素子10は、サファイア基板11とそのサファイア基板11上に順次に形成された第1導電型窒化物半導体層14、活性層15及び第2導電型窒化物半導体層16を備える。さらに、上記サファイア基板上面に窒化物半導体層の結晶性を向上させるためのバッファ層12が形成され、上記窒化物半導体発光素子10は上記第1導電型窒化物半導体層14と上記第2導電型窒化物半導体層16に各々接続された第1及び第2電極19a、19bを備える。ここで、サファイア基板11の下面をエッチング工程により粗くさせ光散乱面とする。」(【0007】)、 「さらに、図1-2に示すように、こうした窒化物半導体発光素子10は第1及び第2導電ライン22a、22bを有するパッケージ基板21に搭載され、各電極19a、19bと上記第1及び第2導電ライン22a、22bをハンダ付けのような接続手段Sで連結(「連結」は電気的連結を含む)させることによりフリップチップ窒化物半導体発光素子20を製造することができる。この場合、光散乱面であるサファイア基板11の下面11aは光放出面に提供される。活性層15において生成された光は直接光放出面11aに向かうか(a)、あるいは下面において反射され光放出面11aに向かうか(b)のいずれかである。到達した光は上記サファイア基板11の粗い下面において散乱するが、微細な凹凸パターンにより大きい臨界角が設けられ効果的に光を放出させることが可能になる。」(【0008】) (イ)図1-1及び図1-2は次のとおりである。 イ 上記アの各記載事項によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「サファイア基板11を準備し、 そのサファイア基板11上に、順次、第1導電型窒化物半導体層14、活性層15及び第2導電型窒化物半導体層16を形成し、 さらに、上記サファイア基板上面に窒化物半導体層の結晶性を向上させるためのバッファ層12を形成し、 上記第1導電型窒化物半導体層14と上記第2導電型窒化物半導体層16に各々接続された第1及び第2電極19a、19bを形成し、 サファイア基板11の下面をエッチング工程により粗くさせ光散乱面とした、 窒化物系半導体素子の製造方法であって、 光散乱面であるサファイア基板11の下面11aは光放出面に提供される、 窒化物系半導体素子の製造方法。」 (2)引用文献2 引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「LED素子において、透明導電膜に覆われた第1半導体層の表面に、高出力化のための粗面部を設けるだけでなく、粗面部に混在させて平坦部を設けることにより、第1半導体層と透明導電膜との間の良好な電気的接触を保つこと、([0003]・[0008]) 平坦部と粗面部がなす混在パターンには、種々の態様が含まれること、([0048]?[0051]・図10?図12) 混在パターンに占める平坦部の面積比は、例えば、20%?90%とすることができ、平坦部の面積比を小さくする程、光取り出し効率は高くなる一方、発光部に対し面内均一に電流を供給することが困難となるので、両者のバランスを考慮して投入電力に対する光出力の比率が最大となる面積比を選択すること。([0052])」 (3)引用文献3 引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「粗面化状態指数(粗面化処理を施された面における凹凸部の占める面積比率)が大きくなるにつれて、半導体発光装置の光出力が向上すること。(【0054】・【0055】・図8)」 (4)引用文献4 引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「LEDは、エッチングによる粗面化処理を行った後、出力が増加すること、(【0058】) 上記のエッチング時間が長いほど、光出力がより増加すること。(図10)」 (5)引用文献5 引用文献5には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 「テクスチャ層12が設けられた半導体発光素子は、それが設けられていない半導体発光素子よりも相対的外部量子効率が大きいこと。([0043]・Fig.12・Fig.16)」 2 判断 (1)本願発明1について ア 本願発明1と引用発明1との対比 (ア)本願発明1の「発光素子の目標光取り出し効率を決定し、」との特定事項について 引用発明1は、上記特定事項を備えない。 (イ)本願発明1の「粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定し、」との特定事項について a 引用発明1の「光散乱面」は、本願発明1の「粗化された表面領域」に相当する。 b しかし、引用発明1は、本願発明1の「粗化されていない表面領域」を備えず、本願発明1の「粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定し、」との特定事項も備えない。 (ウ)本願発明1の「発光面を通して光を発するように構成された前記発光素子を生成し、前記発光面は、コンタクトによって被覆されない前記発光素子の頂面であり、」との特定事項について a 引用発明1の「窒化物系半導体素子」は、本願発明1の「発光素子」に相当する。 b 引用発明1の「光散乱面」は、「光散乱面であるサファイア基板11の下面11aは光放出面に提供される」ものであるから、本願発明1の「発光面」に相当するとともに、「コンタクトによって被覆されない前記発光素子の頂面」ともいえる。 c 上記bからすると、引用発明1が、本願発明1の「発光面を通して光を発するように構成された前記発光素子を生成し、」との特定事項を備えることは、明らかである。 d よって、引用発明1は、本願発明1の「発光面を通して光を発するように構成された」「発光素子を生成し、前記発光面は、コンタクトによって被覆されない前記発光素子の頂面であり、」との特定事項を備える。 (エ)本願発明1の「前記発光面に表面エッチングプロセスを適用して、前記粗化された表面領域を作り出し、」との特定事項について 引用発明1は、「サファイア基板11の下面をエッチング工程により粗くさせ光散乱面とし」ているから、本願発明1の「前記発光面に表面エッチングプロセスを適用して、」「粗化された表面領域を作り出し、」との特定事項を備える。 (オ)本願発明1の「粗化されない表面領域に対する粗化される表面領域が前記決定された割合に基づき、」との特定事項について 引用発明1は、上記特定事項を備えない。 (カ)本願発明1の「前記発光面上にエッチング阻止パターンを適用して、前記粗化されていない領域を作り出し、粗化された表面領域の量に対する粗化されていない表面領域の量は前記決定された割合に基づき、」との特定事項について 引用発明1は、上記特定事項を備えない。 (キ)本願発明1の「前記粗化されていない表面領域は、前記粗化された表面領域を取り囲む、」との特定事項について 引用発明1は、上記特定事項を備えない。 (ク)本願発明1の「方法」との特定事項について 引用発明1の「窒化物系半導体素子の製造方法」は、本願発明1の「方法」に相当する。 イ 一致点及び相違点の認定 上記アによれば、本願発明1と引用発明1とは、 「発光面を通して光を発するように構成された発光素子を生成し、前記発光面は、コンタクトによって被覆されない前記発光素子の頂面である、 方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1]本願発明1は、「発光素子の目標光取り出し効率を決定し、 粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定し、 前記発光面に表面エッチングプロセスを適用して、前記粗化された表面領域を作り出し、粗化されない表面領域に対する粗化される表面領域が前記決定された割合に基づき、且つ 前記発光面上にエッチング阻止パターンを適用して、前記粗化されていない領域を作り出し、粗化された表面領域の量に対する粗化されていない表面領域の量は前記決定された割合に基づき、」というものであるのに対し、 引用発明1は、粗化された表面領域を備え、発光面に表面エッチングプロセスを適用して、前記粗化された表面領域を作り出しているけれども、その余の構成、特に、「発光素子の目標光取り出し効率を決定し、 粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定」するとの構成を備えない点。 [相違点2]本願発明1は、「前記粗化されていない表面領域は、前記粗化された表面領域を取り囲む」ものであるのに対し、引用発明1は、そうではない点。 ウ 相違点1の判断 上記相違点1のうち、「発光素子の目標光取り出し効率を決定し、 粗化されていない表面領域に対する粗化された表面領域の割合であって、決定された当該割合に基づいて構成されたときに前記発光素子が前記目標光取り出し効率で発光することになる割合を、出力関数に基づいて決定」するとの構成は、引用文献2?5のいずれにも記載されておらず、示唆すらない。 したがって、当業者が、引用発明1及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基づいて、相違点1の構成に至ることはない。引用文献6?9を考慮しても、この判断が左右されることはない。 エ 本願発明1についての小括 よって、相違点2を検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が、引用発明1及び引用文献2?9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 (2)本願発明2?10について 本願発明2?10は、本願発明1を減縮したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者が、引用発明1及び引用文献2?9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 (3)原査定の理由についてのまとめ したがって、原査定を維持することはできない。 なお、当審が原査定を維持せずに当審拒絶理由を通知したのは、次の判断、すなわち、当業者が、引用文献1に記載された発明から出発して、本件補正前の時点における請求項11?15に記載された「前記粗化された表面領域を取り囲む粗化されていない表面領域であり、当該発光素子の目標光取り出し効率が、該粗化されていない表面領域に対する前記粗化された表面領域の割合に基づいて得られており、該割合は出力関数に基づいて決定されて、前記粗化された表面領域の量と該粗化されていない表面領域の量との前記決定された割合が、前記目標光取り出し効率を得ることをもたらしている、粗化されていない表面領域」との構成に至ることは、困難であるとの判断、に基づくものであることを付言する。 第5 当審拒絶理由についての判断 本願発明1?10は、当審拒絶理由の対象となっていない。すなわち、当審拒絶理由が通知された対象は、上記第2の2のとおり、本件補正前の時点における請求項11?15であり、本件補正前の時点における請求項1?10は対象ではなかった。そして、当該請求項11?15は、本件補正により削除され、また、当該請求項1?10は、本件補正の前後で変化していない。 よって、当審拒絶理由により、本願を拒絶することはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-04-03 |
出願番号 | 特願2014-550792(P2014-550792) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 島田 英昭 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
村井 友和 山村 浩 |
発明の名称 | 選択的な領域粗化による制御されたLED光出力 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |