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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A24F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A24F
管理番号 1350485
審判番号 不服2018-1811  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-08 
確定日 2019-04-03 
事件の表示 特願2016-123816号「電子蒸気供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月17日出願公開、特開2016-192972号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)7月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年7月16日(GB)英国)を国際出願日とする特許出願である特願2015-522060号の一部を平成28年6月22日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 6月23日 : 手続補正書
平成29年 4月21日 : 拒絶理由通知
同年 7月25日 : 意見書及び手続補正書
同年10月 2日 : 拒絶査定
平成30年 2月 8日 : 審判請求書及び手続補正書
同年 3月19日 : 手続補正書(方式)

第2 平成30年2月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年2月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
動力電池と気化器とを含み、この気化器は加熱エレメントと加熱エレメント支持体とを含み、前記加熱エレメント支持体は加熱エレメントを支持するように構成された平坦な基板であり、前記加熱エレメントがジグザグ形状を有する電子蒸気供給装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成29年7月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
動力電池と気化器とを含み、この気化器は加熱エレメントと加熱エレメント支持体とを含み、前記加熱エレメント支持体は加熱エレメントを支持するように構成された平坦な基板である電子蒸気供給装置。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「加熱エレメント」について、「ジグザグ形状を有する」という事項を付加して限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第97/48293号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「請求の範囲
1. 内部に空気を取込むための空気取込口と使用者が香味を吸引するための吸引口とを有すると共に、前記取込口と前記吸引口との間にガス流路を規定するケーシングと、
少なくとも香味物質を含む液体状原料を貯蔵すると共に前記原料の吐出口を有する、前記ケーシングに取付けられた原料容器と、
前記吐出口を通して前記容器から前記原料を液滴として吐出させるための吐出駆動手段と、
前記ガス流路内に配設され、前記容器から吐出される前記原料の前記液滴を受取ると共にこれを電気的に加熱することによりガス化するためのガス化手段と、
前記ガス化手段に電気エネルギーを供給するための電源と、を具備することを特徴とする香味生成物品。」(28頁)
「吐出口35に対向するようにガス流路26内にセラミックヒーター42が配設される。セラミックヒーター42は、支持部材44によって、ケーシング本体14の内面上に固定される。吐出へッド34の吐出口35とセラミックヒーター42との間の間隙27は、絞り孔20からの空気が通るように設定される。従って、空気取込口24からの空気は絞り孔20により、吐出口35とセラミックヒーター42との間の間隙27に指向けられる。
セラミックヒーター42上には、吐出駆動部38により駆動されて吐出口35から放出された1パフ分に相当する原料が、液体飛沫或いは液滴として供給される。セラミックヒーター42はセラミック板とその上にコーティングされた抵抗発熱体とからなり、従って、原料の飛沫を受取るための受皿とこの受皿を加熱するための加熱手段とが一体となったものである。しかし、受皿と加熱手段とは夫々別体として配設することも可能である。
セラミックヒーター42の原料の液体飛沫を受取る側の面、即ち受皿として機能する側の面上には、0.01mm?2.0mmの厚さを有する吸液性の多孔質層46、例えば、厚さ約0.5mmの活性炭素層が配設される。多孔質層46は、セラミックヒーター42の表面を保護するだけでなく、原料の飛沫を保持すると共にヒーター42からの熱伝達を緩和することにより、原料の飛沫のガス化を安定化させる役割を果たす。」(11頁11行?12頁9行)





(イ)FIG.1を参照すると、次の事項が記載されている。
a 上記(ア)の「セラミックヒーター42はセラミック板とその上にコーティングされた抵抗発熱体とからなり」という記載についてFIG.1を参照すると、セラミックヒーター42に対して原料を液滴として供給する吐出ヘッド34側、すなわち図示上セラミックヒーター42の下側部分が抵抗発熱体となり、セラミックヒーター42の上側部分がセラミック板となることが分かる。
b 上記aに加え、上記(ア)の「セラミックヒーター42は、支持部材44によって、ケーシング本体14の内面上に固定される。」という記載を踏まえてFIG.1を参照すると、セラミック板はケーシング本体14に支持部材44によって支持されるものであり、同様に抵抗発熱体はセラミック板により支持されるものといえるから、セラミック板は抵抗発熱体を支持するように構成された板である。

(ウ)上記(ア)及び(イ)並びにFIG.1の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電源とガス化手段とを含み、ガス化手段はセラミック板とその上にコーティングされた抵抗発熱体とを含み、セラミック板は抵抗発熱体を支持するように構成された板である香味生成物品。」

イ 引用文献2
(ア)特開2001-248842号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0015】なお、発熱体17は幅5.25mmのリボン状のFe-Cr-Al材としている。図3に示すように波形に成形したものであり、反射部16と一体化して金属カバー19に収納されている。本実施例では、発熱体17の厚みは50μmとし、消費電力は100v750wである。又、図3に示すように、発熱体17は反射部16の表面に出ている露出部17aと、埋設部17bで構成し、埋設部17bによって反射部16に固定されたものである。」
「【0017】下ヒータ21も発熱体23が反射部22にその一部が表面に露出し、他が埋設した構成であり、幅2.25mm、厚み50μm、リボン状で波形形状、同組成の材料を使用している。消費電力は100v480wとしている。」





ウ 引用文献3
(ア)特開2003-226577号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0021】ウッドセラミックスパネル37の裏面には、U字状に蛇行して配置された電熱ヒータ38が配置されている。電熱ヒータ38は、2個の電熱ヒータ固定金物39でウッドセラミックスパネル37の裏面にビス40で固定されている。電熱ヒータ38は、電源41から必要な電力が供給できる。」





(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「電源」は、その作用、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明の「動力電池」に相当し、以下同様に、「ガス化手段」は「気化器」に、「抵抗発熱体」は「加熱エレメント」に、「セラミック板」は「加熱エレメント支持体」に、「香味生成物品」は「電子蒸気供給装置」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「板」と、本件補正発明の「平坦な基板」とは、「板」であることで共通し、その限りにおいて一致する。
イ 以上から、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「動力電池と気化器とを含み、この気化器は加熱エレメントと加熱エレメント支持体とを含み、加熱エレメント支持体は加熱エレメントを支持するように構成された板である電子蒸気供給装置。」
[相違点1]
加熱エレメント支持体は加熱エレメントを支持するように構成された板であることについて、本件補正発明は、「平坦な基板」であるのに対し、引用発明は、「板」である点。
[相違点2]
加熱エレメントについて、本件補正発明においては、「ジグザグ形状を有する」ものであるのに対し、引用発明においては、当該構成を有しない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の抵抗発熱体について引用文献1に記載された事項及びFIG.1を参照すると、抵抗発熱体は吐出ヘッド34から供給された液滴等をガス化するものであり、液滴等を受けるための所定の面積すなわち引用文献1のFIG.1の紙面奥側に奥行寸法を有して設置されるものである。加えて、該抵抗発熱体はセラミック板にコーティングされるものであるところ、セラミック板及び抵抗発熱体は共に同等の奥行の寸法を有するものである。
そして、奥行寸法を有して配置されるセラミック板についてFIG.1を参照すると、セラミックヒータ42の表面を保護する多孔質層46(厚さ0.01mm?2.0mm)は実線にてセラミックヒータ42の下側に記載されているものの、抵抗発熱体とセラミック板との境界は記載されていない。この点、一般にコーティングが薄膜であることを考慮すると、FIG.1に薄膜の抵抗発熱体が描かれる際には同様に薄膜といえる多孔質層46と同等の記載となるから、セラミック板、抵抗発熱体及び多孔質層はともに側面視長方形の記載になると認められる。そして、側面視長方形に記載され奥行寸法を有する板は、当該板が全体として「平坦な板」と理解することが合理的である。
また、本件補正発明は、「基板」という用語を用いているが、該用語について発明の詳細な説明を参照しても特殊な板として理解すべき記載はないから、当該基板は単に他部材を支持するための土台や基礎といった「基(もとい)」の「板」という程度の文言どおりのものとして理解すべきであり、引用発明のセラミック板との差異はないといえる。
以上から、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

また、相違点1が実質的な相違点であるとしても、「板」を「平坦な基板」とすることは、一般的に用いられる慣用手段であるので、相違点1に係る本件補正発明の構成は、引用発明に基づき当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の抵抗発熱体はセラミック板という支持板の表面に配置された面状の発熱体といえるものである。
そして、面状発熱体の具体化手段として、ワイヤー等の線状発熱体を面状発熱体の構成の一部としてジクザグ形状にすることや、単に線状発熱体をジグザグ形状の発熱体とすることは、広く種々の技術分野において一般に用いられる慣用手段である。
そうすると、加熱エレメントにおいて、詳細な形状・構造等を特別に具体化することなく単に「ジグザグ形状を有する」とする程度のことは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、相違点2に係る本件補正発明の構成は、引用発明及び慣用手段に基づき当業者が容易に想到し得たことである。

また、原査定において、発熱体を支持体の外側に設けることの周知例として提示した引用文献2及び引用文献3は、ジグザグ形状の発熱体についても開示されていることが明らかであり(上記(2)イ及びウ参照。)、上記慣用手段の例となり得るものである。

ウ 作用効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び慣用手段の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び慣用手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年2月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年7月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、又は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第97/48293号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、上記第2[理由]2に記載した限定する事項である「加熱エレメントがジグザグ形状を有する」という構成を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記第2の[理由]2(3)に記載した一致点で一致し、相違点1のみで相違する。
そして、相違点1については、上記第2の[理由]2(4)に記載したとおり実質的な相違点でないか、又は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、又は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号の規定により、又は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2016-123816(P2016-123816)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A24F)
P 1 8・ 121- Z (A24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 宮崎 賢司
藤原 直欣
発明の名称 電子蒸気供給装置  
代理人 森田 順之  
代理人 轟木 哲  
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