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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1350498
審判番号 不服2017-14368  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2013-189453「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 56534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年9月12日に特許出願したものであって、平成28年8月19日付け拒絶理由通知に対して同年10月18日付けで手続補正がなされ、同年12月20日付け拒絶理由通知に対して平成29年2月24日付けで意見書が提出されたが、同年7月31日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年9月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成30年10月17日付け当審の拒絶理由通知に対して同年12月13日付けで手続補正がなされたものである。


2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成30年12月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
金属製のシャーシを有する機器本体と、
導電層と絶縁層とが積層されてなり、前記機器本体を包んで設けられるシールドシートと、
前記シールドシートに包まれた前記機器本体に取り付けられ、前記機器本体のシャーシと前記シールドシートとに電気的に接続される金属製の構造用部材とを備え、
前記シールドシートは、当該シールドシートを折り曲げる方向における前記機器本体の全周面を覆うように包んで設けられ、
前記シールドシートの一方の面は導電層の面であり、他方の面は絶縁層の面であることを特徴とする電子機器。」


3 平成30年10月17日付け当審の拒絶理由通知の概要
この出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、この出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前日本国において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献>
実願昭56-109494号(実開昭58-15397号)のマイクロフィルム


4 引用文献
平成30年10月17日付け当審の拒絶理由通知で引用された上記引用文献には、「車載用音響機器のシールド構造」について、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付与した。

ア.「すなわち、本考案の実施例を第2図?第6図を用いて詳細に説明すると、(1)は音響機器(ラジオ付テーププレーヤ)で、該音響機器(1)は前記従来例と同様、ダッシュボード(20)内もしくはダッシュボード(20)の下側に取付けられるものである。(2)はラジオ付テーププレーヤ(1)の主要構成部品であるカセットテーププレーヤのメカニズム、回路部、ラジオのチューニイングメカニズム等を収納した金属製のシャーシ、・・・(以下略)」(第4頁10行?17行。なお、頁数はマイクロフィルムの表紙から数えており、各頁の右上に記載された「p.」で示される数字の頁ではない。以下同様。)

イ.「次に、多層シールド板(S)について詳述すると、多層シールド板(S)は可撓性があり、第3図の断正面図に示すように細長い例えば絶縁テープ等より成る絶縁板(11a)上に細長い例えばアルミ箔等の導電板(12a)を積層し、さらに、導電板(12a)上に前記絶縁板(11a)と同一の材質より成る絶縁板(11b)を積層し、さらに、また、前記導電板(12a)と同一の材質の導電板(12b)を積層し、最後に絶縁板(11c)を積層して成る。もちろん、各板(11a)?(11c)、(12a)、(12b)間は接着剤等により接着し、一体化してある。また、同図から明らかなように、多層シールド板(S)の1側面の導電板(12a)、(12b)は絶縁板(11a)?(11d)より外方へ突出した突出部(12a’)、(12b’)となっている。」(第5頁4行?17行。なお、文中の(11d)は(11c)の誤記と認められる。)

ウ.「次に、前記多層シールド板(S)の使用方法について説明すると、先ず、第2図に示すように、突出部(12a’),(12b’)がシャーシ(2)の裏面側になるように位置されて、1回転させれば、第4図に示すようにシャーシ(2)の主要部が多層シールド板(S)に覆われ、余った部分を切断し、接着テープ等にて固着する。その後、第5図および第6図に示すように、突出部(12a’),(12b’)をシャーシ裏面に接触するように折り曲げ、ネジ(13)・・止めすれば、各導電板(12a)、(12b)はシャーシ(2)に接地され、その後、第1図に示した従来例と同様の取り付け方法により音響機器(1)を取付ければ、シャーシ(2)は取付具を介してバックボード(23)に接地され、シャーシ(2)を確実にシールドすることができる。」(第5頁18行?第6頁11行)

エ.「本考案は叙上の通り、車載用音響機器(1)の主要構成部品を収納したシャーシ(2)の外周に絶縁板(11a)?(11c)とを交互に積層して成る多層シールド板(S)を巻回すると共に前記各導電板(12a)、(12b)の一部を絶縁板(11a)?(11c)より突出させ、該突出部(12a’)、(12b’)をシャーシ(2)に接地したので、シャーシは確実にシールドすることができ、シャーシからノイズを拾うことなく、常に、雑音のない音をキャッチすることができ、しかも、その取り扱いは簡単である等の効果があり、さらに、多層シールド板(S)の接地は、突出部(12a’)、(12b’)により簡単に、且つ、確実にシャーシに行うことができる等の効果がある。」(第7頁1行?13行)

オ.「なお、前記実施例では導電板(12a)、(12b)を2重に、絶縁板(11a)?(11c)を3重にしたが、必ずしも2重、3重に限定されることなく、必要に応じ、何重に構成してもよいものである。」(第7頁14行?17行)

上記アによれば、引用文献の車載用音響機器は、主要構成部品を収納した金属製シャーシを備えるものである。
上記ウ及びエによれば、シャーシの主要部は、多層シールド板で覆われるものである。
上記イ及びエによれば、多層シールド板は、絶縁テープ等よりなる絶縁板とアルミ箔等の導電板とを交互に積層した可撓性があるものである。また、導電板は、絶縁板より外方に突出した突出部を備えるものである。
上記ウ及びエによれば、導電板の突出部は、シャーシの裏面に折り曲げられ、ネジ止めされて(引用文献の第5図、第6図に記載された「ネジ13」に注目。)、導電板がシャーシに接地されるものである。そして、シャーシの裏面に取付けられた取付具が自動車のバックボードに固定され、シャーシは取付具を介してバックボードに接地されるものである。

上記アないしエの記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「車載用音響機器の主要構成部品を収納した金属製シャーシと、
絶縁テープ等よりなる絶縁板とアルミ箔等の導電板とを交互に積層して成り、金属製シャーシの主要部を覆う可撓性の多層シールド板と、
多層シールド板の導電板を金属製シャーシの裏面側に接地するためのネジ、金属製シャーシがバックボードに接地するための取付具を備えた
車載用音響機器。」


5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「主要構成部品」とこれを収納する「金属製シャーシ」とが、本願発明の「機器本体」に相当する。
よって、引用発明の「車載用音響機器の主要構成部品を収納した金属製シャーシ」は、本願発明の「金属製のシャーシを有する機器本体」の構成に相当する。

(2)引用発明の「絶縁テープ等よりなる絶縁板とアルミ箔等の導電板とを交互に積層して成り、金属製シャーシの主要部を覆う可撓性の多層シールド板」は、本願発明の「導電層と絶縁層とが積層されてなり、前記機器本体を包んで設けられるシールドシート」に相当する。

(3)上記「4 ウ.」によれば、各導電板をシャーシにネジ止めすることにより接地され、その後、シャーシを取付具を介してバックボードに接地することにより、シャーシを確実にシールドすることができるから、「ネジ(13)」と「取付具」は、多層シールド板の導電板と金属製シャーシとを電気的に接続するものである。ここで、接地を行うための「ネジ(13)」及び「取付具」は、導電的な接続を行うから、金属製と解釈するのが自然である。
よって、引用発明の「多層シールド板の導電板を金属製シャーシに接地するためのネジ、金属製シャーシがバックボードに接地するための取付具」は、本願発明の「前記シールドシートに包まれた前記機器本体に取り付けられ、前記機器本体のシャーシと前記シールドシートとに電気的に接続される金属製の構造用部材」に相当する。

(4)上記「4 ウ.」、引用文献の第2図によれば、引用発明の「可撓性の多層シールド板」は、当該シールド板を折り曲げる方向における金属製シャーシの主要部である4つの周面(金属製シャーシの前面及び裏面を除いた残りの面)を覆っているものである。
よって、引用発明の「金属製シャーシの主要部を覆う多層シールド板」は、本願発明の「前記シールドシートは、当該シールドシートを折り曲げる方向における前記機器本体の全周面を覆うように包んで設けられ」る構成を備えている。

(5)引用文献には、上記「4 イ.」にあるように、絶縁板が3重、導電板が2重、つまり多層シールド板の両面が絶縁板となっている実施例が記載されているが、上記「4 オ.」によれば、絶縁板と導電板が何重に構成されていてもよいものであるから、絶縁板と導電板がそれぞれ同数ずつ重ねた構成も含まれると解釈できる。
よって、引用発明の「可撓性の多層シールド板」は、本願発明の「前記シールドシートの一方の面は導電層の面であり、他方の面は絶縁層の面である」構成を実質的に備えている。

この点について、審判請求人は、平成30年12月13日付け意見書において、「仮に、引用文献に記載の発明において、多層シールド板の少なくとも一面を導電板で構成することを考えると、導電板により外部から拾ったノイズがシャーシの主要部分に伝搬してしまったり、導電板により外部から拾ったノイズが再び放電してしまう虞があり、引用文献に記載の発明においては、このように変更することの動機付けがあるとは言えません。」と主張している。
しかしながら、上記「4 ウ.」に記載されているように、多層シールド板の導電板がシャーシに接地され、シャーシがバックボードに接地されることにより、シャーシを確実にシールドすることができるのだから、引用発明において、導電板が多層シールド板の一面にあろうがなかろうが、導電板が拾ったノイズはシャーシ表面からバックボードに伝搬するものと認められる。なお、本願発明も「一方面に導電性、他方面に絶縁性を備えたシールドシート」と「シャーシ」とを「金属製の構造用部材で電気的接続」しており、この点において引用発明と構成上の差異はないから、本願発明と引用発明におけるシールド機能に格別な差異があるとは認められない。
よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

(6)引用発明の「車載用音響機器」は、金属製シャーシ、シールドシート、金属製構造用部材を備えているから、本願発明の「電子機器」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは相違点がない。
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明である。

仮に、上記(5)に係る本願発明の「前記シールドシートの一方の面は導電層の面であり、他方の面は絶縁層の面である」点が、引用発明にその旨の特定がないとして(以下、「相違点」という。)、予備的に判断を行う。
上記「4 オ.」によれば、多層シールド板の導電板と絶縁板を何重にしても良い旨の示唆があり、そもそもシールドの「一方面を導電層、他方面を絶縁層」として構成することは、周知の技術手段である(一例として、特開平10-284871号公報、実願昭63-114716号(実開平2-36098号)のマイクロフィルムを参照)。そして、上記したとおり、引用発明の導電板、シャーシおよびバックボードは接地されているから、導電板が多層シールド板の一面にあろうがなかろうが、シールド機能として格別な差異は認められない。
そうすると、引用発明の多層シールド板の構成として、周知の技術手段を採用して相違点の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明の技術事項から当業者が容易に予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明および周知の技術事項により当業者が容易になし得たものである。


6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条1項3号に該当する。また、引用文献に記載された発明および周知の技術事項に基づき容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-31 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-18 
出願番号 特願2013-189453(P2013-189453)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
P 1 8・ 113- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三森 雄介岩間 直純  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
山澤 宏
発明の名称 電子機器  
代理人 井上 和真  
代理人 坂元 辰哉  
代理人 濱田 初音  
代理人 辻岡 将昭  
代理人 田澤 英昭  
代理人 中島 成  

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