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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1350502
審判番号 不服2017-18682  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-15 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2013-273559「電力変換装置、及びモータ駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-128358〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年12月27日の出願であって、平成29年7月20日付けで拒絶理由が通知され、同年9月21日付けで手続補正がなされたが、同年10月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成29年12月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成29年9月21日付け手続補正書参照。)に、

「【請求項1】
上下アームが2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する負荷へ電圧を出力する電力変換装置であって、
前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を接続又は遮断する開閉器(27)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにし、直ちに前記開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する、
電力変換装置。」

とあったものが、

「【請求項1】
上下アームが2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する負荷へ電圧を出力する電力変換装置であって、
商用電源(91)から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を接続又は遮断する開閉器(27)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記交流電圧の変動によって前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記電圧検出部(23)の検出値が前記スイッチング素子の耐圧に至る前に、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにし、直ちに前記開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する、
電力変換装置。」

と補正された。 (下線部は、補正箇所である。)

2.補正の適否

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電源供給部」及び「制御部」について、上記下線のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

(1)本願補正発明

本願補正発明は、上記「第2 1.」に補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開2012-070573号公報(平成24年4月5日公開。以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

ア.「【0003】
図9に従来のインバータ装置の回路図を示す。
【0004】
この図において、1は商用電源等の交流電源、2はインバータ装置、3は交流電動機であり、交流電源1からの交流電力はインバータ装置2により可変電圧・可変周波数の交流電力に変換され、この変換された交流電力で交流電動機3を所望の回転速度で運転する。4はインバータ装置2と交流電動機3との間に設けられたコンタクタである。
【0005】
21は交流電源1からの交流電圧を整流するダイオードを三相ブリッジ構成した整流部、22は直流母線間に接続されて整流部21の出力を平滑する平滑コンデンサ、23は平滑コンデンサ22両端の平滑された直流電圧を入力として所望の周波数と電圧とをもつ交流電圧に変換するインバータ部であり、IGBT等のスイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を三相ブリッジ接続したものである。これら整流部21,平滑コンデンサ22,インバータ部23によりインバータ装置2の主回路が構成されている。
【0006】
51はインバータ部23を構成するIGBT等のスイッチング素子に対してゲート信号を供給するゲート駆動回路、52は平滑コンデンサ22の両端電圧を検出する直流電圧検出器、53は直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)と予め定めた直流電圧レベルV_(OV)とを比較し、直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えたとき過電圧信号を出力する比較器、54はインバータ装置2の運転を一時停止後に所定のリトライ動作条件に基づいてインバータ装置2の運転を再開させるリトライ信号を出力するリトライ回路、55はインバータ装置2の一時停止の回数が予め定められた回数以上発生した際にインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力する異常信号発生器、50は比較器53からの過電圧信号を受けてゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の一時停止を行うとともに、リトライ回路54からのリトライ信号を受けてゲート駆動回路51に許可信号を出力してインバータ装置2の運転再開を行う保護回路である。
【0007】
図10は図9の動作を示す波形図であり、以下、従来の過電圧保護方法の動作を図10の動作波形図を用いて説明する。
【0008】
ここでは、過電圧によるインバータ装置2の停止が1回目で装置異常と判断する場合について説明する。何らかの原因で直流電圧が上昇し、時刻t_(1)で直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えると比較器53が過電圧信号を出力する。この過電圧信号は保護回路50に入力され、保護回路50はゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行う。さらに、一時停止の回数が予め定めた回数以上発生しているため(この例では1回目の一時停止により装置異常と判断)、保護回路50から異常信号発生器55に異常信号が出力され、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する。」

上記ア.の記載、及び、図9、10の記載によれば、引用例には以下の事項が記載されている。

・段落【0004】によれば、インバータ装置2と交流電動機3との間にコンタクタ4が設けられる。
・段落【0005】、【0006】、【0008】によれば、インバータ装置2は、交流電源1からの交流電圧を整流する整流部21、直流母線間に接続されて整流部21の出力を平滑する平滑コンデンサ22、平滑コンデンサ22両端の平滑された直流電圧を入力として所望の周波数と電圧とをもつ交流電圧に変換するインバータ部23により主回路が構成され、さらに、インバータ部23を構成するIGBT等のスイッチング素子に対してゲート信号を供給するゲート駆動回路51、平滑コンデンサ22の両端電圧を検出する直流電圧検出器52、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)と予め定めた直流電圧レベルV_(OV)とを比較し、直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えたとき過電圧信号を出力する比較器53、インバータ装置2の一時停止の回数が予め定められた回数以上発生した際にインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力する異常信号発生器55、ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の一時停止を行うとともに、ゲート駆動回路51に許可信号を出力してインバータ装置2の運転再開を行う保護回路50を備える。
・段落【0005】によれば、インバータ部23は、IGBT等のスイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を三相ブリッジ接続したものである。そして、具体的な構造は、図9によれば、スイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を2つ直列に接続したものを3つ備え、それぞれの接続点がコンタクタ4を介して交流電動機3に接続されているものである。
・段落【0008】によれば、何らかの原因で直流電圧が上昇し、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えると、過電圧信号が保護回路50に入力される。
・段落【0008】によれば、保護回路50は、過電圧信号が入力されると、ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行う。
・段落【0008】によれば、1回目の一時停止により装置異常と判断する場合は、インバータ装置2が停止すると、保護回路50は、異常信号発生器55に異常信号を出力し、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する。
・段落【0008】及び図10によれば、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えた時刻t_(1)において、インバータ装置2の運転の停止を行うとともに、異常信号の出力とコンタクタ4の開放が行われている。

そうすると、図9、10に示される従来のインバータ装置に着目するとともに、「インバータ装置2」及び「コンタクタ4」に係る発明として捉え、上記摘示事項、及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「交流電源1からの交流電圧を整流する整流部21、直流母線間に接続されて整流部21の出力を平滑する平滑コンデンサ22、平滑コンデンサ22両端の平滑された直流電圧を入力として所望の周波数と電圧とをもつ交流電圧に変換するインバータ部23により主回路が構成され、さらに、インバータ部23を構成するIGBT等のスイッチング素子に対してゲート信号を供給するゲート駆動回路51、平滑コンデンサ22の両端電圧を検出する直流電圧検出器52、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)と予め定めた直流電圧レベルV_(OV)とを比較し、直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えたとき過電圧信号を出力する比較器53、インバータ装置2が一時停止すると、インバータ装置2の外部に異常出力信号を出力する異常信号発生器55、ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の一時停止を行うとともに、ゲート駆動回路51に許可信号を出力してインバータ装置2の運転再開を行う保護回路50を備えるインバータ装置2、及び、インバータ装置2と交流電動機3との間に設けられたコンタクタ4であって、
インバータ部23は、IGBT等のスイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を2つ直列に接続したものを3つ備え、それぞれの接続点がコンタクタ4を介して交流電動機3に接続されているものであり、
何らかの原因で直流電圧が上昇し、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えた時刻t_(1)において、保護回路50に過電圧信号が入力され、保護回路50は過電圧信号が入力されると、ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行うとともに、異常信号発生器55に異常信号を出力し、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する、
インバータ装置2、及び、コンタクタ4。」


(3)対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「交流電動機3」は、本願補正発明の「負荷」に相当する。
・引用発明の「インバータ装置2」が備えるインバータ部23は、「IGBT等のスイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を2つ直列に接続したものを3つ備え、それぞれの接続点がコンタクタ4を介して交流電動機3に接続されている」ものであり、かかる構成は、本願補正発明の「上下アームが2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する負荷へ電圧を出力する」ものに相当する。
・引用発明の「交流電源1」は、本願補正発明の「商用電源(91)」に相当する。
・引用発明の「整流部21」は、交流電源1からの交流電圧を整流して直流母線に出力するものであり、直流母線に出力された直流電圧は、平滑コンデンサ22を介して平滑され、インバータ部23へ入力されている。すなわち、引用発明の「整流部21」は、「交流電源1」からの交流電圧を整流してインバータ部に直流電圧を出力するものであるから、本願補正発明の「商用電源(91)から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)」に相当する。
・引用発明の「直流電圧検出器」は、平滑コンデンサ22の両端電圧を検出するものであり、平滑コンデンサ22の両端はインバータ部23に接続されている。よって、引用発明の「直流電圧検出器」は、インバータ部23に並列に接続されているといえるから、本願補正発明の「前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)」に相当する。
・引用発明のインバータ部23は、それぞれの接続点がコンタクタ4を介して交流電動機3に接続されており、コンタクタ4は、異常信号発生器55の出力する異常出力信号によって開放されるものである。よって、引用発明の「コンタクタ4」は、接続点と交流電動機3との間を接続又は開放するものといえるから、本願補正発明の「前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を接続又は遮断する開閉器(27)」に相当する。
・引用発明の「ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の一時停止を行うとともに、ゲート駆動回路51に許可信号を出力してインバータ装置2の運転再開を行う保護回路50」は、本願補正発明の「前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)」に相当する。
・引用発明は、「保護回路50」に「過電圧信号が入力されると」、「保護回路50」が、「ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行うとともに、異常信号発生器55に異常信号を出力し、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する」ものである。
そして、引用発明において、「保護回路50に過電圧信号が入力され」るのは、「直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えた」ときであり、これは、本願補正発明の「前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき」に相当する。
また、インバータ装置の運転を停止させる手法としては、全てのスイッチング素子をオフにする3相オープンと、上下アームの一方のスイッチング素子をオフにして他方をオンにする3相ショートが従来から知られているが、引用発明では、「ゲート駆動回路51に禁止信号を出力して」、「インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断」を行っていることから、全てのスイッチング素子をオフにする3相オープンが実行されているものと認められる。したがって、引用発明の「ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行」うことは、本願補正発明の「前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフに」することに相当する。
また、引用発明の、「異常信号発生器55に異常信号を出力し、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する」ことは、本願補正発明の「前記開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する」ことに相当する。そして、引用発明では、直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えた時刻t_(1)において、コンタクタ4の開放が行われているから、コンタクタ4を開放することは、「直流電圧検出器52によって検出された直流電圧検出値V_(dc)が直流電圧レベルV_(OV)を超えた」ときに、「直ちに」行われているものと認められる。
以上のことを総合勘案すると、引用発明の、「保護回路50は過電圧信号が入力されると、ゲート駆動回路51に禁止信号を出力してインバータ装置2の運転の停止(インバータ部23を構成するスイッチング素子のゲート遮断)を行うとともに、異常信号発生器55に異常信号を出力し、異常信号発生器55ではインバータ装置2の外部に異常出力信号を出力してコンタクタ4を開放する」ことは、本願補正発明の「前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにし、直ちに開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する」ことに相当する。
・引用発明の「コンタクタ4」は、「インバータ部23」のそれぞれの接続点と「交流電動機3」との間に設けられるものであるのに対して、本願補正発明の「開閉器(27)」も「前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間」に設けられており、両者の構造は相違していない。そうすると、引用発明の「インバータ装置2」に「コンタクタ4」を含めたものが、本願補正発明の「電力変換装置」に相当するといえる。
・本願補正発明では、「電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超え」る原因が、「交流電圧の変動」によるものに特定されているのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。
・本願補正発明では、スイッチング素子をオフにすることと、開閉器を介して接続点と負荷との間を遮断することを、「電圧検出部(23)の検出値が前記スイッチング素子の耐圧に至る前に」行うものであるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「上下アームが2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する負荷へ電圧を出力する電力変換装置であって、
商用電源(91)から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成し前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を接続又は遮断する開閉器(27)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにし、直ちに開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する、
電力変換装置。」

<相違点1>
本願補正発明では、「電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超え」る原因が、「交流電圧の変動」によるものであるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。

<相違点2>
本願補正発明では、スイッチング素子をオフにすることと、開閉器を介して接続点と負荷との間を遮断することを、「電圧検出部(23)の検出値が前記スイッチング素子の耐圧に至る前に」行うものであるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。

(4)判断

上記<相違点1>及び<相違点2>について検討する。

<相違点1>について
引用発明の直流電圧検出器52によって両端電圧が検出される平滑コンデンサ22は、交流電源1からの交流電圧を整流するダイオードを三相ブリッジ構成した整流部21の出力を平滑するものである。したがって、平滑コンデンサ22の電圧は、交流電源1の交流電圧の変動による影響を受けるものであると認められる。
よって、引用発明における電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超える「何らかの原因」として、交流電源1の交流電圧の変動によって過電圧となる場合も含まれることは、当業者にとって自明の事項にすぎない。
したがって、かかる相違点1は、実質的な相違点ではない。

<相違点2>について
電力変換装置において、直流電圧の過電圧を検出した場合にスイッチング素子のスイッチング動作を停止する理由が、上下アームのスイッチング素子を耐圧破壊から保護することであることは、当業者にとって周知の技術事項(例えば特開2011-64559号公報の段落【0026】を参照。)である。
よって、引用発明においても、スイッチング素子をオフにすることと、開閉器を介して接続点と負荷との間を遮断することを、スイッチング素子の耐圧に至る前に行うことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用例及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


(5)むすび

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

上記のとおり、平成29年12月15日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年9月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
上下アームが2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する負荷へ電圧を出力する電力変換装置であって、
前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を接続又は遮断する開閉器(27)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにし、直ちに前記開閉器(27)を介して前記接続点(NU,NV,NW)と前記負荷との間を遮断する、
電力変換装置。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 2.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明における、「電源供給部(20)」が「商用電源(91)から出力される交流電圧を整流して直流電源を生成」するものであることの限定、「電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超え」る原因が、「交流電圧の変動」によるものであることの限定、及び、スイッチング素子をオフにすることと、開閉器を介して接続点と負荷との間を遮断することを、「電圧検出部(23)の検出値が前記スイッチング素子の耐圧に至る前に」行うものであることの限定を省いたものである。
すなわち、本願発明は、少なくとも上記「第2 2.(3)」に記載した<相違点1>及び<相違点2>に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用例に記載された発明とは相違点を有していないから、本願発明は、引用例に記載された発明である。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-30 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-21 
出願番号 特願2013-273559(P2013-273559)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M)
P 1 8・ 113- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 秀和  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 田中 慎太郎
関谷 隆一
発明の名称 電力変換装置、及びモータ駆動装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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