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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1350511
審判番号 不服2018-6523  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-11 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2017-131743「偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-211657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事件の概要
1 手続等の経緯
特願2017-131743号(以下、「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)7月27日を国際出願日とする特願2016-540157号の一部を平成29年7月5日(優先権主張 平成26年8月4日(以下、「優先日」という。)に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成29年8月29日(起案日):拒絶理由通知
平成29年12月26日 :意見書提出
平成30年2月6日(起案日) :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成30年5月11日 :審判請求

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「厚みが65μm以下であり、単層フィルムである長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを原反ロールから巻出しつつ搬送させることにより、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤浴に浸漬させた後に引き出す膨潤処理工程と、
膨潤浴から引き出されたフィルムを染色浴に浸漬させた後に引き出す染色処理工程と、
をこの順に含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが膨潤浴に浸漬するときのフィルム幅方向両端部の少なくとも一方におけるカール角度が90°未満である、偏光フィルムの製造方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうちの一つは、概略、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2001-315140号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2001-315140号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当合議体で付した。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、延伸時に端部がカールしにくく、均一な延伸が可能であり、幅広の偏光フィルムの製造原料として有用なポリビニルアルコール系重合体フィルムとその製造法および偏光フィルムに関する。
・・・(中略)・・・
【0006】さらにまた、延伸時にPVAフィルムの両端部がカールして、均一な延伸ができず、偏光斑の小さい偏光フィルムを得ることができず、さらに幅方向の収率が悪化するという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、延伸時に端部がカールしにくく、均一な延伸が可能であり、幅広の偏光フィルムの製造原料として有用なPVAフィルムとその製造法、およびこのPVAフィルムを用いて作製した偏光フィルムを提供することにある。」

(イ)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るPVAフィルムのカール角度を測定する方法を示す構成図である。まず、PVAフィルムのTD方向に5cm幅で、MD方向に40cm長さのPVAフィルムを切り出す。この切り出したPVAフィルム1の一方の短辺1b側の下端に3.4gの錘2を糸で取り付け、他方の短辺1a側の上端を上下移動自在な支持体3に糸で取り付けて、PVAフィルム1を吊り下げる。この支持体3を下方向に移動させて、該PVAフィルム1全体を、容器4内の30℃、100リットルの水5の中に浸す。5分間浸した後のPVAフィルム1のカール角度を水面上より目視6で観察する。この場合、図2(a)の模式図のように、カール角度が180°またはそれ以下であることが極めて重要である。180°を超えると、延伸時に端部のカールが大きくて均一な延伸ができず、偏光斑の小さい偏光フィルムが得られない。前記水中に浸した時のカール角度で好ましいのは、図2(b)の模式図のように90°またはそれ以下、さらに好ましいのは、図2(c)の模式図のように45°またはそれ以下である。」

(ウ)「【0030】本発明において、PVAフィルムのフィルム幅は2m以上であることが重要である。PVAフィルムのフィルム幅は、2.3m以上が好ましく、2.6m以上がより好ましく、3m以上がさらに好ましく、3.3m以上が最も好ましい。2mよりフィルム幅が狭いと、ネックインの影響がPVAフィルム中央部付近にまで及び、幅広で偏光性能が良好な偏光フィルムが得られない。
【0031】PVAフィルムの厚さは、好ましくは5?150μmであり、より好ましくは20?100μmであり、さらに好ましくは30?90μmであり、最も好ましくは35?80μmである。
【0032】また、PVAフィルムを幅方向に50cm毎に測定した時の厚さ斑(最大厚さと最小厚さの差)は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下である。PVAフィルムの厚さ斑が10μmを超える場合には、得られる偏光フィルムに偏光斑が発生しやすい。
【0033】本発明のPVAフィルムから、偏光フィルムを製造するには、例えば、該PVAフィルムを染色、一軸延伸、固定処理、および乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行えばよく、染色、一軸延伸、固定処理の操作順に特に制限はない。また、一軸延伸を二回またはそれ以上行っても良い。
【0034】染色は一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれでも可能である。・・・(中略)・・・通常染色は、PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことが一般的であるが、PVAフィルムに混ぜて製膜するなど、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0035】一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法が使用でき、温水中(前記染料を含有する溶液中や後記固定処理浴中でもよい)または吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で行うことができる。延伸温度は特に限定されないが、PVAフィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合は30?90℃が、また乾熱延伸する場合は50?180℃が好適である。また一軸延伸の延伸倍率(多段の一軸延伸の場合には合計の延伸倍率)は、偏光性能の点から4倍以上が好ましく、4.5倍以上がより好ましく、5倍以上がさらに好ましい。延伸倍率の上限は特に制限はないが、8倍以下であると均一な延伸が得られやすいので好ましい。延伸後のフィルムの厚さは、3?75μmが好ましく、5?50μmがより好ましい。」

(エ)「




イ 引用発明
前記ア(ア)ないし(エ)より、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「PVAフィルムのTD方向に5cm幅で、MD方向に40cm長さのPVAフィルムを切り出し、この切り出したPVAフィルム1の一方の短辺1b側の下端に3.4gの錘2を糸で取り付け、他方の短辺1a側の上端を上下移動自在な支持体3に糸で取り付けて、PVAフィルム1を吊り下げ、この支持体3を下方向に移動させて、該PVAフィルム1全体を、容器4内の30℃、100リットルの水5の中に浸し、5分間浸した後のPVAフィルム1のカール角度を水面上より目視6で観察するという方法で測定されたカール角度が45°またはそれ以下であり、厚さが35?80μmであるPVAフィルムを、染料を含有する溶液中に浸漬させることにより染色し、一軸延伸し、固定処理し、および乾燥処理して、偏光フィルムを製造する方法。」

(2)周知例
ア 特開2014-109740号公報(以下、「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0025】
図1は、本発明に係る偏光フィルムを製造する方法で使用する製造装置の好適な配置例を断面模式図で示したものである。この製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10が、繰出しロール11から巻き出され、膨潤槽13、染色槽15、架橋槽17及び洗浄槽19を順次通過し、次いで水切り装置23に搬送され、最後に乾燥炉25を通るように構成されている。図1には明示されていないが、架橋槽17又はそれより前において、一軸延伸が施される。また、図1には、膨潤槽13、染色槽15、架橋槽17及び洗浄槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示したが、必要に応じ、ある一つの処理に対して複数の処理槽を設けてもよい。製造された偏光フィルム30は、そのまま次の保護フィルムを貼る工程に搬送される。以下、本発明で施す処理について説明する。
【0026】
(膨潤処理)
膨潤処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム表面の異物除去、フィルム中の可塑剤の除去、続く染色処理での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で、水に接触させることにより行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつフィルムの失透や極端な溶解等の不具合が生じない範囲で決定される。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し、最初に膨潤処理を施す場合は、例えば、温度10?50℃程度、好ましくは20?40℃程度の処理浴にフィルムを浸漬することにより行われる。フィルムの浸漬時間は、好ましくは30?300秒程度、より好ましくは60?240秒程度である。予め大気中で延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理を施す場合は、例えば、温度20?70℃程度、好ましくは30?60℃程度の処理浴にフィルムを浸漬することにより行われる。フィルムの浸漬時間は、好ましくは30?300秒程度、より好ましくは60?240秒程度である。
【0028】
膨潤処理では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが幅方向に膨潤し、フィルムにシワが入る等の問題が生じやすいので、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップなど、公知の拡幅装置を用いてフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。また、浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤槽13中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control 装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。
【0029】
膨潤処理では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、フィルムに積極的な延伸を行わない場合は、搬送方向のフィルムのたるみをなくすため、例えば、膨潤槽13の前後にある搬送ロールの周速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。また、原反フィルムに対し、膨潤処理、染色処理及び架橋処理の順に施す場合は、膨潤処理において一軸延伸を行ってもよく、その場合の延伸倍率は、通常 1.2?3倍、好ましくは 1.3?2.5 倍である。
【0030】
膨潤槽13で使用する処理浴には、純水のほか、ホウ酸(特開平10-153709 号公報)、塩化物(特開平06-281816 号公報)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などが約 0.01?10重量%の範囲で添加された水溶液を用いることもできる。
【0031】
(染色処理)
染色処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着させる目的で、例えば、ヨウ素及び水溶性二色性染料等の二色性色素を含有する処理浴にフィルムを浸漬させることによって行われる。染色処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつポリビニルアルコール系樹脂フィルムの極端な溶解や失透などの不具合が生じない範囲で決定される。
【0032】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、処理浴(染色浴)には、例えば、濃度が重量比でヨウ素/ヨウ化カリウム/水=約0.003?0.2/約0.1 ?10/100である水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。またヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理と区別され、水溶液が水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003 重量部以上含んでいるものであれば、染色浴と見なすことができる。フィルムを浸漬するときの染色浴の温度は、10?45℃程度、好ましくは20?35℃であり、フィルムの浸漬時間は、30?600秒程度、好ましくは60?300秒である。
【0033】
二色性色素として水溶性二色性染料を用いる場合、処理浴には、濃度が重量比で二色性染料/水=約0.001?0.1/100である水溶液を用いることができる。この処理浴には、染色助剤などを共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩や界面活性剤などを含有していてもよい。また、二色性染料は、単独で用いてもよいし、2種類以上の二色性染料を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの染色浴の温度は、20?80℃程度、好ましくは30?70℃であり、フィルムの浸漬時間は、30?600秒程度、好ましくは60?300秒である。
【0034】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、膨潤処理、染色処理、架橋処理の順に施す場合は、通常、染色槽でフィルムの延伸を行う。フィルムの延伸は、染色槽の前後に設置したニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行われる。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常、 1.6?4.5倍、好ましくは1.8?4倍である。延伸倍率が1.6倍未満であるとフィルムの破断の頻度が多くなり、歩留りを悪化させる傾向がある。
【0035】
また、染色処理においても、膨潤処理と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、拡幅ロール(エキスパンダーロール)、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバーなどを染色槽15の内部及び/又はその出入り口に設置することができる。」

(イ)「【図1】




イ 特開2013-148806号公報(以下、「周知例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0004】
従来から広く採用されている偏光フィルムの製造方法を、図5を参照して説明する。ここでは、二色性色素としてヨウ素を用いる場合を例に説明するが、二色性有機染料を二色性色素とする場合も、以下の説明におけるヨウ素を二色性色素に変えれば、後は基本的に同じである。
【0005】
図5を参照して、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10は、まず繰出しロール11から巻き出され、その後、水を膨潤浴とする膨潤槽13に導かれ、ここで膨潤浴(水)に浸漬され、膨潤処理が施される。膨潤処理が施されたフィルムは、ヨウ素を含む水溶液を染色浴とする染色槽15に導かれ、ここで染色され、ヨウ素が吸着される。その後、ホウ酸を含む水溶液を処理浴とする固定槽17に導かれ、ヨウ素を吸着したポリビニルアルコール系樹脂が、ここでホウ酸により架橋して、ヨウ素が固定される。」

(イ)「【0040】
図2に、本発明の偏光フィルムの製造方法における装置の好適な配置例を断面模式図で示した。図2は、先に説明した従来技術を示す図5に比べ、ホウ酸処理工程を行う固定槽17と、その後の水洗工程を行う水洗槽19との間に、上記の一次乾燥工程を行う一時乾燥炉21が配置されている点が異なるだけである。この図を参照しながら、本発明に係る偏光フィルムの製造方法を説明する。
【0041】
図2に示した装置は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10が、繰出しロール11から巻き出され、膨潤処理を行うための膨潤槽13、染色処理を行うための染色槽15、及びホウ酸処理を行うための固定槽17を、順次通過するように構成されている。固定槽17を経たフィルムは、上記した一次乾燥を行うための一次乾燥炉21を通って一次乾燥され、引き続き水洗槽19を通って未反応のヨウ素やホウ酸などが洗い流され、最後に最終乾燥炉23を通って乾燥され、偏光フィルム30が得られるように構成されている。そして、図には明示されていないが、固定槽17で、又はそれより前に、一軸延伸が施される。得られた偏光フィルム30は、巻取りロール27に巻き取る形態が示されているが、ここで巻き取らずに次の保護フィルムを貼る工程に供することもできる。また図2には、膨潤槽13、染色槽15、固定槽17及び水洗槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示したが、必要に応じ、ある一つの処理に対して複数の槽を設けてもよい。
【0042】
偏光フィルムの原料となるポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10は通常、図示のように、繰出しロール11にロール状に巻かれており、この繰出しロール11から長尺状のまま巻き出される。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10は、その厚みが通常20?100μm の範囲内、好ましくは30?80μm の範囲内であり、また、その工業上実用的な幅は1,500?6,000mmの範囲内である。
【0043】
〔1〕膨潤工程
膨潤処理を行う膨潤工程は、原反フィルムを水に接触させ、膨潤させる工程である。この膨潤処理は、フィルム表面に付着した異物の除去、フィルム中に含まれるグリセリン等の可塑剤の除去、後工程での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で行われる。膨潤処理の条件は、これらの目的が達成できる範囲で、かつフィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルム10を、例えば、温度10?50℃、好ましくは20?50℃の処理浴に浸漬することにより、膨潤処理が行われる。膨潤処理の時間は、通常5?300秒であり、好ましくは20?240秒である。
【0044】
通常、膨潤工程では、図示のように、処理浴が収容された膨潤槽13内に複数のガイドローラを配置して、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送する。また、フィルムが幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るなどの問題が生じやすいので、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、テンタークリップ、ベンドバーなど、公知の拡幅装置でフィルムのシワを除きつつフィルムを搬送することが好ましい。さらに、浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤槽13中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control 装置:フィルムの端部を検出してフィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。
【0045】
膨潤工程では、フィルムの搬送方向にもフィルムが膨潤拡大するので、搬送方向のフィルムのたるみをなくすために、例えば、膨潤槽13の前後にある搬送ロールの速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。具体的には、膨潤槽13の入口側搬送ロールの周速度に対する出口側搬送ロールの周速度の比を、処理浴の温度に応じて 1.2?2倍程度にするのが好ましい。また、所望であれば、この工程で一軸延伸を施すこともできる。
【0046】
膨潤槽13で使用する処理浴は、純水のほか、ホウ酸や塩化物、その他の無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などが 0.01?10重量%の範囲で添加された水溶液であってもよい。ただし、上記した目的からは、実質的に溶解成分を含まない純水が好ましく用いられる。溶解成分のない純水は、通常の水に対して逆浸透膜処理を行う方法などにより得ることができる。
【0047】
膨潤工程に引き続いて、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する水浸漬工程を設けることもできる。上述のとおり膨潤工程では、フィルムが幅方向及び搬送方向の双方に膨潤することになるが、その後に水浸漬工程を設けることで、フィルムの幅方向における吸水状態が整えられ、フィルムの機械的物性、さらには最終的に得られる偏光フィルムの光学特性の均一性が改善される可能性がある。水浸漬処理に用いる処理浴は、実質的に溶解成分を含まない純水であることが好ましく、また、その温度は10?50℃の範囲内が好ましい。
【0048】
〔2〕染色工程
染色工程は、ヨウ素を含む水溶液(染色浴)でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色し、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を吸着させるために行われる。この染色工程は、膨潤工程を経た後、場合によってはさらに水浸漬工程を経た後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、図示のように、染色浴が収容された染色槽15に浸漬することにより、通常行われる。染色処理の条件は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を吸着させることが可能な範囲で、かつフィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定することができる。
【0049】
染色工程で使用する染色浴は、水100重量部に対して、ヨウ素を0.003?0.2重量部及びヨウ化カリウムを 0.1?10重量部含む水溶液であることができる。また、ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛のような他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。さらに、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等のヨウ化物以外の化合物を共存させてもよい。ヨウ素以外の成分を含む場合であっても、
水100重量部に対し、ヨウ素を 0.003重量部以上含む水溶液であれば、染色浴とみなすことができる。染色浴の温度(染色温度)は、通常10?50℃、好ましくは20?40℃であり、また染色処理する時間(染色時間)は、通常10?600秒、好ましくは30?200秒である。
【0050】
染色工程においても、膨潤工程と同様にフィルムのシワを除きつつポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送するため、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー等の拡幅装置を適宜配置することができ、これらの装置を用いる場合は、染色槽15の内部及び/又はその出入り口に設置すればよい。」

(ウ)「【図2】




(エ)「【図5】




2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「PVAフィルム」は、本願発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」に相当する。
そして、引用発明の「PVAフィルム」は「厚さが35?80μmである」から、厚みが65μm以下のものを含んでいる。また、引用発明の「PVAフィルム」がフィルム上にコートされたものであるという事情は見出せないから、技術的にみて、単層フィルムであるといえる。
そうすると、引用発明の「PVAフィルム」は、本願発明の「厚みが65μm以下であり、単層フィルムである」「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」という要件を満たしている。

(2)引用発明の「染色」は、「PVAフィルムを、染料を含有する溶液中に浸漬させることにより」行われるから、PVAフィルムを染色浴に浸漬させた後に引き出す工程であるといえる。
そうすると、引用発明の「染色」は、本願発明の「フィルムを染色浴に浸漬させた後に引き出す染色処理工程」という要件を満たしている。

3 一致点及び相違点
(1)本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。

「厚みが65μm以下であり、単層フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色浴に浸漬させた後に引き出す染色処理工程を含む、偏光フィルムの製造方法。」

(2)本願発明と引用発明とは、以下の点において、相違する。

ア 相違点1
本願発明は、「長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを原反ロールから巻出しつつ搬送させる」のに対し、引用発明は、PVAフィルムが長尺であるのか、また、PVAフィルムを原反ロールから巻出しつつ搬送させるのかが明らかではない点。

イ 相違点2
本願発明は、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤浴に浸漬させた後に引き出す膨潤処理工程」を含んでおり、「膨潤処理工程」と「染色処理工程」とがこの順であるのに対し、引用発明では、「膨潤処理工程」を含むことは特定されておらず、本願発明のような構成を備えているとはいえない点。

ウ 相違点3
本願発明は、「前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが膨潤浴に浸漬するときのフィルム幅方向両端部の少なくとも一方におけるカール角度が90°未満である」のに対し、引用発明は、そのような構成を備えるのかが明らかではない点。

4 判断
(1)相違点1について
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムがロール状に巻かれてなる操出しロールから、長尺状のまま巻出され搬送されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して、各種処理を施すことによって、偏光フィルムとする製造方法は、優先日前に周知の技術である(例えば、周知例1(特開2014-109740号公報)の【0025】、【図1】等、周知例2(特開2013-148806号公報)の【0042】、【図2】等参照。)。また、偏光フィルムを製造するに際して、前記周知技術のように、長尺状のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連続的に処理して偏光フィルムとするほうが、製品サイズのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを1枚ずつ処理して偏光フィルムとするよりも生産性が高いことは、当業者に自明である(例えば、国際公開第2014/084154号の[0030]等参照。)。
引用発明は、PVAフィルムに対して、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理を施して、偏光フィルムを製造する方法であるところ、当該引用発明においても、長尺状のPVAフィルムを連続的に処理して偏光フィルムとするようにすれば、生産性が高いものにできることは当業者に自明であるから、引用発明において、前記周知技術を適用し、操出ロール(本願発明の「原反ロール」)から長尺状のまま巻出され搬送されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して、各種処理を施すような構成とすること、すなわち、相違点1に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
偏光フィルムの製造方法において、染色処理の前に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる原反フィルムを、膨潤槽に収容された処理浴中に浸漬する膨潤処理を行うことによって、フィルム表面に付着した異物の除去、フィルム中に含まれる可塑剤の除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化などを行うことは、優先日前に周知の技術である(例えば、周知例1の【0025】-【0027】等、周知例2の【0041】、【0043】、【0044】等参照。)。
PVAフィルムに対して、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理を施して、偏光フィルムを製造する引用発明においても、PVAフィルム表面に付着した異物の除去、フィルム中に含まれる可塑剤の除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化などがなされれば、製造される偏光フィルムの品質を向上できることは当業者に自明であるから、引用発明において、前記周知技術を適用し、PVAフィルムに対して、染色を行う前に、膨潤槽に収容された処理浴(本願発明の「膨潤浴」に相当)中に浸漬する膨潤処理を行うこと、すなわち、相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用文献1の【0041】-【0046】に記載された実施例1、2は、いずれも、染色前に、PVAフィルムを水中に5分間浸す予備膨潤を行っているから、引用発明を、相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることは、引用文献1の記載自体に基づいて、当業者が容易になし得たことであるともいえる。

(3)相違点3について
引用発明の「カール角度」は、引用文献1の【0010】及び【図2】(a)ないし(d)の記載から、カールしていないフィルム面の外挿面に対して、カールしているフィルム部分の末端がなす角度のことであると認められる。そして、引用発明のPVAフィルムは、容器内の30℃、100リットルの水の中に浸し、5分間浸した後でもカール角度が45°またはそれ以下であるから、水の中に浸されていないときには、そのカール角は45°よりも小さくなるものと認められる。
そして、前記(1)及び(2)で述べた構成の変更を行った引用発明において、PVAフィルムは原反ロールより巻出されてから膨潤浴に浸漬するまでの間に水の中に浸されないから、その間でのPVAフィルム幅方向両端部の少なくとも一方におけるカール角度は45°よりも小さくなっており、膨潤浴に浸漬するときのPVAフィルム幅方向両端部の少なくとも一方におけるカール角度も45°よりも小さくなっている、すなわち90°未満であるといえる。
そうすると、相違点3に係る本願発明の構成は、前記(1)及び(2)で述べた構成の変更を行った引用発明が当然具備することになる構成である。

第3 まとめ
本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-29 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-18 
出願番号 特願2017-131743(P2017-131743)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 偏光フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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