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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1350519
審判番号 不服2017-13707  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-14 
確定日 2019-04-23 
事件の表示 特願2016- 2835「遮蔽された電気ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開,特開2016- 96153,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年(平成22年)6月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年(平成21年)6月19日(以下,「本願優先日」という。),米国,同年11月13日,米国,2010年(平成22年)5月27日,米国,同年6月8日,米国)を国際出願日とする特願2012-516285号の一部を2013年(平成25年)12月20日に新たな特許出願(特願2013-263924号)とし,さらにその一部を2016年(平成28年)1月8日に新たな出願としたものであって,平成28年12月8日付け拒絶理由通知に対して,平成29年6月12日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年6月22日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年9月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたところ,当審から,平成30年8月21日付けで最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成31年1月9日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし9は以下のとおりである。

「【請求項1】
実質的に平行な長手方向の絶縁導体であって,導電性ワイヤ及びこれを包囲する絶縁体を含む絶縁導体を1つ以上含む伝導体セットと,
前記伝導体セットの周辺に配置される2つの概ね平行な遮蔽フィルムであって,前記導電性ワイヤが第1の断面積を有する前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心である同心部分と,前記遮蔽フィルムが実質的に平行である平行部分と,を含む,2つの遮蔽フィルムと,
前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間に直角でない緩やかな移行を提供する,移行部分と,を含み,
前記移行部分は,前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積を含み,当該第2の断面積は前記第1の断面積よりも小さく,
前記絶縁導体は絶縁厚さを有し,且つ,前記移行部分は前記第1の移行ポイント同士の間の長さとして定められる横方向長さを有し,前記横方向長さが前記絶縁厚さ未満である,遮蔽された電気ケーブル。
【請求項2】
実質的に平行な長手方向の絶縁導体であって,導電性ワイヤ及びこれを包囲する絶縁体を含む絶縁導体を一つ以上含む伝導体セットと,
前記伝導体セットの周辺に配置される2つの概ね平行な遮蔽フィルムであって,前記導電性ワイヤが第1の断面積を有する前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心である同心部分と,前記遮蔽フィルムが実質的に平行である平行部分と,を含む,2つの遮蔽フィルムと,
前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間に直角でない緩やかな移行を提供する,移行部分と,を含み,
前記移行部分は,前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積を含み,当該第2の断面積は前記第1の断面積よりも小さく,
前記移行部分は,前記第1の移行ポイント同士の間の長さとして定められる横方向長さを有し,前記横方向長さが前記絶縁導体の前記導電性ワイヤの直径未満である,
遮蔽された電気ケーブル。
【請求項3】
前記第2の断面積は,前記絶縁導体の長さに沿って実質的に同じである,請求項1又は2に記載の遮蔽された電気ケーブル。
【請求項4】
前記遮蔽された電気ケーブルが,前記伝導体セットの両側に配置される移行部分を含む,請求項1又は2に記載の遮蔽された電気ケーブル。
【請求項5】
前記遮蔽フィルム間に配置され,前記遮蔽フィルムを互いに,前記伝導体セットの両側で結合させる順応性接着層を更に含み,前記順応性接着層は,前記伝導体セットに実質的に順応し,前記順応性接着層は前記伝導体セットに直接隣接した領域ではより厚くなるように順応し,且つ,前記順応性接着層は前記遮蔽フィルムが実質的に平行となる前記伝導体セットの両端ではより薄くなる,請求項1又は2に記載の遮蔽された電気ケーブル。
【請求項6】
1mの長さにわたってターゲットインピーダンス値の5?10%以内の特性インピーダンスを含む,請求項1又は2に記載の遮蔽された電気ケーブル。
【請求項7】
概ね単一平面に配置される複数の離間された伝導体セットであって,前記各伝導体セットは,実質的に平行な長手方向の絶縁導体であって,導電性ワイヤ及びこれを包囲する絶縁体を含む絶縁導体を1つ以上含む,伝導体セットと,
前記伝導体セットの周辺に配置される2つの概ね平行な遮蔽フィルムであって,前記導電性ワイヤが第1の断面積を有する前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心である複数の同心部分と,前記遮蔽フィルムが実質的に平行である複数の平行部分と,を含む,2つの遮蔽フィルムと,
前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間に直角でない緩やかな移行を提供する,複数の移行部分と,を含み,
前記移行部分は,前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積を含み,当該第2の断面積は前記第1の断面積よりも小さく,
前記絶縁導体は絶縁厚さを有し,且つ,前記移行部分は前記第1の移行ポイント同士の間の長さとして定められる横方向長さを有し,前記横方向長さが前記絶縁厚さ未満である,
遮蔽された電気ケーブル。
【請求項8】
概ね単一平面に配置される複数の離間された伝導体セットであって,前記各伝導体セットは,実質的に平行な長手方向の絶縁導体であって,導電性ワイヤ及びこれを包囲する絶縁体を含む絶縁導体を1つ以上含む,伝導体セットと,
前記伝導体セットの周辺に配置される2つの概ね平行な遮蔽フィルムであって,前記導電性ワイヤが第1の断面積を有する前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心である複数の同心部分と,前記遮蔽フィルムが実質的に平行である複数の平行部分と,を含む,2つの遮蔽フィルムと,
前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間に直角でない緩やかな移行を提供する,複数の移行部分と,を含み,
前記移行部分は,前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積を含み,前記第2の断面積は前記第1の断面積よりも小さく,
前記移行部分は,前記第1の移行ポイント同士の間の長さとして定められる横方向長さを有し,前記横方向長さが前記絶縁導体の直径未満である,
遮蔽された電気ケーブル。
【請求項9】
前記移行部分が前記各伝導体セットの両側に配置される,請求項7又は8に記載の遮蔽された電気ケーブル。」

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-108754号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下同じ。)。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の被覆電線と一本のドレイン線を備えたフラットシールドケーブルの製造方法及びフラットシールドケーブルに関する。」

(2) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下,本発明の一実施形態にかかるフラットシールドケーブル及び該フラットシールドケーブルの製造方法を,図1ないし図7を参照して説明する。フラットシールドケーブル1は,帯状に形成されており,図1及び図2に示すように,複数の被覆電線2と,一本のドレイン線3と,導体層4と,絶縁層5とを備えている。フラットシールドケーブル1は,図2中の長手方向の中央部に位置するシールド箇所1aと,図2中の両端部に位置する非シールド箇所1bとが形成されている。
【0035】
被覆電線2は,互いに平行に配されている。被覆電線2は,図3及び図4に示すように,芯線6と被覆部7とを備えている。芯線6は,複数の素線が撚られて形成されている。素線は,導電性の金属からなる。このため,芯線6は,導電性の金属からなる。芯線6は,断面丸形に形成されている。また,芯線6は,一本の素線から構成されても良い。被覆部7は,円管状に形成されており,絶縁性の合成樹脂からなり,芯線6を被覆している(収容している)。被覆電線2は,前述した芯線6と被覆部7とを備えて,断面丸形に形成されている。また,被覆電線2は,可撓性を有している。
【0036】
ドレイン線3は,複数の被覆電線2と平行に配されている。複数の被覆電線2とドレイン線3は,互いに間隔をあけて配されている。また,図示例では,複数の被覆電線2とドレイン線3は,等間隔に配されている。ドレイン線3は,複数の素線が撚られて形成されている。素線は,導電性の金属からなる。このため,ドレイン線3は,導電性の金属からなる。ドレイン線3は,断面丸形に形成されている。また,ドレイン線3は,一本の素線から構成されても良い。
【0037】
導体層4は,シールド箇所1aに設けられている。導体層4は,図4に示すように,一対の導体シート4a,4bを有している。導体シート4a,4bは,導電性の金属などからなりシート状に形成されている。導体シート4a,4bの平面形状は,矩形状に形成されている。導体シート4a,4bは,可撓性を有している。導体層4は,一対の導体シート4a,4b間に前述した複数の被覆電線2とドレイン線3とを位置付けて,これらを被覆している。このため,導体シート4a,4b則ち導体層4は,ドレイン線3と電気的に接続する。図示例では,導体層4は,複数の被覆電線2とドレイン線3の長手方向の中央部を被覆している。
【0038】
絶縁層5は,シールド箇所1aに設けられている。絶縁層5は,図3及び図4に示すように,一対の絶縁シート5a,5bを有している。絶縁シート5a,5bは,絶縁性の合成樹脂などからなりシート状に形成されている。絶縁シート5a,5bの平面形状は,矩形状に形成されている。絶縁シート5a,5bの平面形状は,導体シート4a,4bの平面形状より大きい。このことを本明細書では,絶縁シート5a,5bが導体シート4a,4bより大きいという。絶縁シート5a,5bは,可撓性を有している。
【0039】
絶縁層5は,一対の絶縁シート5a,5b間に前述した複数の被覆電線2とドレイン線3とを被覆した導体層4を位置付けて,これらを被覆している。則ち,絶縁層5は,導体層4を被覆している。また,絶縁層5則ち一対の絶縁シート5a,5bは,導体層4則ち一対の導体シート4a,4bの全体を被覆している。このため,導体層4則ち導体シート4a,4bは,フラットシールドケーブル1外に露出していない。
【0040】
前述した構成のフラットシールドケーブル1は,前述したシールド箇所1aで,一対の絶縁シート5a,5bのうち一方の絶縁シート5aと,一対の導体シート4a,4bのうち一方の導体シート4aと,複数の被覆電線2及びドレイン線3と,他方の導体シート4bと,他方の絶縁シート5bとが順に重ねられている。また,フラットシールドケーブル1は,前述したシールド箇所1aで,一方の絶縁シート5aと,一方の導体シート4aと,複数の被覆電線2及びドレイン線3と,他方の導体シート4bと,他方の絶縁シート5bとの間に隙間が生じることなく,これらが互いに密着している。さらに,フラットシールドケーブル1は,前述したシールド箇所1aで,一対の絶縁シート5a,5bの少なくとも外縁部が互いに溶着しているとともに,各絶縁シート5a,5bの少なくとも外縁部と各被覆電線2の被覆部7とが互いに溶着している。
【0041】
このように,フラットシールドケーブル1は,シールド箇所1aと,非シールド箇所1bとが設けられている。シールド箇所1aでは,導体層4則ち導体シート4a,4bにより複数の被覆電線2とドレイン線3とが被覆されている。シールド箇所1aは,導体層4により被覆電線2の芯線6に外部から電気的なノイズが侵入することを防止するとともに,導体層4により被覆電線2の芯線6から外部に電気的なノイズが放出されることを防止する。則ち,シールド箇所1aでは,被覆電線2の芯線6は,電気的にシールドされている。図示例では,シールド箇所1aは,フラットシールドケーブル1の長手方向の中央部に設けられている。
【0042】
非シールド箇所1bでは,導体層4則ち導体シート4a,4b外に複数の被覆電線2とドレイン線3とが露出しており,導体層4則ち導体シート4a,4bにより複数の被覆電線2とドレイン線3とが被覆されていない。則ち,非シールド箇所1bでは,複数の被覆電線2とドレイン線3とが露出している。非シールド箇所1bは,被覆電線2の芯線6に外部から電気的なノイズが侵入することを許容するとともに,被覆電線2の芯線6から外部に電気的なノイズが放出されることを許容する。則ち,非シールド箇所1bでは,被覆電線2の芯線6は,電気的にシールドされていない。図示例では,非シールド箇所1bは,フラットシールドケーブル1の長手方向の両端部に設けられている。」

(3) 「【0056】
そして,交流電源12から高周波電圧を一対の電極11a,11b間に印加する。すると,電極11a,11bそれぞれの極性が前述した周波数で変化する。高周波溶着装置10は,絶縁シート5a,5bと被覆電線2の被覆部7を構成している分子の双極子を一斉に動かし,互いに衝突・振動・摩擦することで絶縁シート5a,5bと被覆部7を自らの内部から発熱させる。則ち,高周波溶着装置10は,絶縁シート5a,5bと被覆部7の誘電損失により,これらの絶縁シート5a,5bと被覆部7を加熱する。
【0057】
このため,一対の電極11a,11b間に挟まれた絶縁シート5a,5bと被覆電線2の被覆部7を短時間で均一に加熱する(所謂高周波加熱する)。加熱された(発熱した)絶縁シート5a,5bと被覆部7は,少なくとも一部が溶ける。すると,前述したように一対の保持部材14間にシート4a,4b,5a,5bが位置付けられているので,加熱されて溶けた絶縁シート5a,5bと被覆部7は,電極11a,11b間からはみ出ない(電極11a,11b間に位置付ける)。」

(4) 【図4】は,フラットシールドケーブルの導体層4及び絶縁層5を有する部分であって,被覆電線2(芯線6及び被覆部7)を覆う部分の断面図であり,「一方の絶縁シート5a」と「一方の導体シート4a」,「他方の導体シート4b」と「他方の絶縁シート5b」が密着して平行に形成されている部分を有することが示されている。

2 引用発明
したがって,上記引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数の被覆電線2と,一本のドレイン線3と,導体層4と,絶縁層5とを備え,帯状に形成されるフラットシールドケーブル1であって,
被覆電線2は,芯線6と被覆部7とを備え,互いに平行に配されており,芯線6は,導電性の金属からなり,断面丸形に形成されており,被覆部7は,円管状に形成され,絶縁性の合成樹脂からなるとともに,芯線6を被覆しており,
導体層4は,導電性の金属などからなるシート状に形成された一対の導体シート4a,4bを有しており,一対の導体シート4a,4b間に複数の被覆電線2とドレイン線3とを位置付けて,これらを被覆しており,
絶縁層5は,絶縁性の合成樹脂などからなるシート状に形成された一対の絶縁シート5a,5bを有しており,一対の絶縁シート5a,5b間に,導体層4を被覆しており,
一方の絶縁シート5aと,一方の導体シート4aと,複数の被覆電線2及びドレイン線3と,他方の導体シート4bと,他方の絶縁シート5bとの間に隙間が生じることなく,これらが互いに密着しており,
導体層4により被覆電線2の芯線6に外部から電気的なノイズが侵入することを防止するとともに,導体層4により被覆電線2の芯線6から外部に電気的なノイズが放出されることを防止することによって,被覆電線2の芯線6は,電気的にシールドされている,
フラットシールドケーブル1。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「芯線6」は,「導電性の金属からなり,断面丸形に形成されて」いるところ,ある程度の断面積を有することは明らかであるから,本願発明1の第1の断面積を有する「導電性ワイヤ」に相当する。また,引用発明の「被覆部7」は,「絶縁性の合成樹脂からなる」から,本願発明1の「絶縁体」に相当する。そうすると,引用発明の「被覆電線2」は本願発明1の「絶縁導体」に相当し,引用発明の複数の「被覆電線2」は「伝導体セット」ということができる。

イ 引用発明では,「一方の絶縁シート5aと,一方の導体シート4aと,複数の被覆電線2及びドレイン線3と,他方の導体シート4bと,他方の絶縁シート5bとの間に隙間が生じることなく,これらが互いに密着しており」,「導体層4により被覆電線2の芯線6に外部から電気的なノイズが侵入することを防止するとともに,導体層4により被覆電線2の芯線6から外部に電気的なノイズが放出されることを防止することによって,被覆電線2の芯線6は,電気的にシールドされている」から,引用発明の「一方の絶縁シート5a」と「一方の導体シート4a」,「他方の導体シート4b」と「他方の絶縁シート5b」は,それぞれ,「遮蔽フィルム」ということができ,「芯線6」は「断面丸形に」,「被覆部7は,円管状に形成され」ているから,それらを覆う2つの「遮蔽フィルム」は,「被覆電線2」(絶縁導体)と「実質的に同心である同心部分」を含んでいるということができる。そして,上記1(4)によれば,2つの「遮蔽フィルム」は,「実質的に平行である平行部分」とを含んでいるということができる。

ウ 上記イのとおり,引用発明の2つの「遮蔽フィルム」は,「絶縁導体」と「実質的に同心である同心部分」及び「実質的に平行である平行部分」を含んでいるから,その境界は,一方の部分から他方の部分への「移行部分」ということができる。そうすると,引用発明は,「前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間の移行を提供する,移行部分」を含んでいるということができる。

エ 引用発明の「被覆電線2」の「被覆部7」は,「円管状に形成され,絶縁性の合成樹脂」からなるものであるから,「絶縁厚さ」を有しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明とは,以下の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「実質的に平行な長手方向の絶縁導体であって,導電性ワイヤ及びこれを包囲する絶縁体を含む絶縁導体を1つ以上含む伝導体セットと,
前記伝導体セットの周辺に配置される2つの概ね平行な遮蔽フィルムであって,前記導電性ワイヤが第1の断面積を有する前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心である同心部分と,前記遮蔽フィルムが実質的に平行である平行部分と,を含む,2つの遮蔽フィルムと,
前記遮蔽フィルム及び前記伝導体セットによって画定され,前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間の移行を提供する,移行部分と,を含み,
前記絶縁導体は絶縁厚さを有する,遮蔽された電気ケーブル。」

(相違点)
「移行部分」について,本願発明1は,「前記遮蔽フィルムの前記同心部分と前記平行部分との間に直角でない緩やかな移行を提供」するものであって,「前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積を含み,当該第2の断面積は前記第1の断面積よりも小さく」,「前記第1の移行ポイント同士の間の長さとして定められる横方向長さを有し,前記横方向長さが前記絶縁厚さ未満である」のに対し,引用発明は,不明である点。

(2) 相違点についての判断
本願発明1の「移行部分」は,「前記2つの遮蔽フィルムが前記絶縁導体の少なくとも1つと実質的に同心状態から逸脱する第1の移行ポイントと,前記2つの遮蔽フィルムが実質的に平行な状態から逸脱する第2の移行ポイントとの間の領域として画定されるゼロではない第2の断面積」を含むものである。
これに対し,引用発明の「移行部分」は,2つの「遮蔽フィルム」において,「絶縁導体」と「実質的に同心である同心部分」と,「実質的に平行である平行部分」との境界であるところ(上記(1)ウ),2つの「遮蔽フィルム」と「絶縁導体」の間は「隙間が生じることなく,これらが互いに密着して」いるのであるから,引用発明において,「同心状態から逸脱する」移行ポイントと,「平行な状態から逸脱する」移行ポイントは同じであって,両者の間の領域として確定される断面積は存在しないものと認められる(すなわち,「第2の断面積」はゼロである。)。
さらに,上記第3の1(3)のとおり,引用文献1には,フラットシールドケーブルの製造方法について,「絶縁シート5a,5bと被覆電線2の被覆部7を短時間で均一に加熱」し,「加熱された(発熱した)絶縁シート5a,5bと被覆部7は,少なくとも一部が溶ける」と記載されており,製造方法の観点からみても,引用発明の「フラットシールドケーブル1」は,2つの「遮蔽フィルム」と「絶縁導体」の間に隙間を生じさせず,密着することを前提として構成されていると認められるから,引用発明において,「同心状態から逸脱する」移行ポイントと,「平行な状態から逸脱する」移行ポイントとの間にゼロではない断面積を形成することが想定されているとはいえず,かえって,ゼロにすることが示唆されているといえる。
そうすると,引用発明において,上記相違点に係る構成を採用することは,当業者であっても容易に想到することはできない。
そして,本願発明1は,上記相違点に係る構成を採用することにより,「・・・直角の移行又は移行ポイント(移行部分と反対に)など,急な移行とは反対に,緩やかな移行,例えば実質的にS字状の移行は,遮蔽フィルム・・・に,移行部分・・・における応力緩和を提供し,遮蔽された電気ケーブル・・・が使用中である場合に,例えば遮蔽された電気ケーブル・・・を横方向若しくは軸方向に曲げるときに,遮蔽フィルム・・・への損傷を防ぐ。」,「更に,緩やかな移行は,遮蔽された電気ケーブル・・・の製造における遮蔽フィルム・・・への損傷・・・を防ぐ。」(本願明細書【0041】)という顕著な効果を奏するものである。

(3) まとめ
したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は,本願発明1と同一の「第2の断面積」を発明特定事項として備えるものであるから,上記1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1ないし9に係る発明について,上記引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,本件補正により補正された請求項1ないし9に係る発明は,上記第4のとおり,原査定で引用された上記引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では,請求項1ないし9の記載は不明であるから,当該請求項に係る発明は明確でなく,本願は,特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないとの拒絶の理由を通知しているが,本件補正によって,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし9は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-09 
出願番号 特願2016-2835(P2016-2835)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 河合 俊英
梶尾 誠哉
発明の名称 遮蔽された電気ケーブル  
代理人 赤澤 太朗  
代理人 野村 和歌子  
代理人 吉野 亮平  
代理人 佃 誠玄  

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