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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G11B
審判 一部無効 2項進歩性  G11B
管理番号 1350553
審判番号 無効2016-800069  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-10 
確定日 2019-04-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第4672824号発明「テープドライブ装置、記録媒体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許の出願の経緯
平成11年 3月17日 出願
平成17年12月26日 手続補正書
平成20年 3月 4日 拒絶理由通知(起案日)
平成20年 5月12日 意見書、手続補正書
平成20年 5月29日 拒絶査定(起案日)
平成20年 7月 3日 審判請求書
平成20年 8月 1日 手続補正書
平成22年12月 7日 拒絶理由通知(起案日)
平成22年12月16日 手続補正書
平成23年 1月18日 審決(送達日)
平成23年 1月28日 設定登録

2.本件無効審判の経緯
平成28年 6月10日 審判請求書
平成28年 8月29日 答弁書
平成28年10月19日 審理事項通知書
平成28年12月 5日 口頭審理陳述要領書(請求人、被請求人)
平成28年12月19日 口頭審理
平成28年12月26日 上申書(被請求人)
平成29年 1月17日 上申書(請求人)


第2 当事者の主張
1.請求人の主張
(1)請求の趣旨
特許第4672824号に係る特許請求の範囲の請求項2に係る特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2)無効理由の概要
特許第4672824号に係る特許請求の範囲の請求項2に係る特許発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(無効理由1)
本件特許発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(無効理由2)

<請求人が提出した甲号証>
甲第1号証 特表平7-500445号公報
甲第2号証 特開平9-171675号公報
甲第3号証 新英和大辞典(第5版)
甲第4号証 広辞苑第六版471頁
甲第5号証 マグローヒル科学技術用語大辞典第3版1884頁

2.被請求人の主張
(1)答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

(2)答弁の概要
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、当業者といえども容易に想到し得るものとはいえないから、特許法29条1項3号及び同条2項のいずれにも該当しない。よって、本件特許発明には、特許法123条1項2号の無効理由は存在しない。


第3 本件特許発明
本件特許発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項2】
磁気テープが収納されたテープカセットと、前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する記録または再生を管理するための管理情報を記録する、読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体において、
前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットの識別情報が記憶され、該二個の識別情報が一致していると判別された場合は記録、再生動作を実行させることができ、前記二個の識別情報が一致していないと判別された場合は記録、再生動作を実行させることができないこととされ、
前記メモリの読み出し専用とされるROM領域として設定された記憶領域及び前記磁気テープに前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され、
前記用途識別情報は、ユーザが改変することができず、前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能とされていることを特徴とする記録媒体。」

本件特許発明を分説すると、次のようになる。(以下、「構成要件A」ないし「構成要件G」という。)

A 磁気テープが収納されたテープカセットと、
B 前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する記録または再生を管理するための管理情報を記録する、読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体において、
C 前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットの識別情報が記憶され、
D 該二個の識別情報が一致していると判別された場合は記録、再生動作を実行させることができ、前記二個の識別情報が一致していないと判別された場合は記録、再生動作を実行させることができないこととされ、
E 前記メモリの読み出し専用とされるROM領域として設定された記憶領域及び前記磁気テープに前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され、
F 前記用途識別情報は、ユーザが改変することができず、前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能とされている
G ことを特徴とする記録媒体。


第4 当審の判断
無効理由1及び2について、以下検討をする

1.甲第1号証(特表平7-500445号公報)に記載された発明
甲第1号証には、「磁気テープカセット用メモリ装置」について、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「本発明は磁気テープカセット用の電子的メモリ装置部およびそれに適する記録および/又は再生装置機器、例えばデジタルコード化されたビデオ/オーディオ信号のデジタル処理付のVTR用の磁気テープカセット用メモリ装置に関する。当該磁気テープカセットはケーシングを有し、該ケーシング中には1つ又は複数の磁気テープリール及び電子的メモリ装置部が設けられており、該電子的メモリ装置部は記録および/又は再生機器にて配置の際、該機器に接続可能であり、該機器によってはデータ処理及び制御回路を用いて可制御であり、上記メモリ装置部は所定の記録および/又は再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含む。」(第2頁右下欄3行?15行)

イ.「図1は空らカセットの場合において前述の電子的メモリ装置のメモリ内容の実施例を示す。
図2は個人的なユーザより最初に使用されたカセットの場合における前述のメモリ装置のメモリ内容に対する実施例を示す。
図3はレンタル又は販売のため定められたカセットの場合において前述の電子的メモリ装置のメモリ内容の実施例を示す。
図4はメモリ装置の収容されている磁気テープカセットを示す。
図1?図3に示すメモリは異なった長さを有するつながっている関連のあるユニットに分割されており、例えば、各8ビツト長を有するバイト又はバイト群に分けられている。
第1のバイト中にはそれ自体公知の容量で、カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式例えばここでは(16進法表示の場合X)x3fが含まれている。上記情報は可変でない。
第2バイト中にはカセットの利用についての情報が記憶されている。当該情報はカセットの最初の使用の際1度可変できる。しかる後は上記情報も可変でなくなる。
図1に示す空らカセットのメモリ内容の場合、例えば00が示されている。その際当該の識別子によっては同時にエントリの1度の可変が許可される。空らカセットの場合のにおけるメモリ内容の残部は重要性がなく、従って任意であり、例えば定数00である。
図2に示す、個人的ユーザにより最初にカムコーダ(camcorder)にて使用されたカセットメモリ内容が第2の位置にて例えばエントリによりマーキング表示されている。初めてVTRにて使用されたカセットは02によりマーキング表示され録音機にて最初に使用されるカセットは03でマーキング表示され得る。
図1および図2における次のメモリ領域は初期点、終端点、そのつどの記録の持続時間との組合せの表示のため用いられる。ここにおいては分および秒で表される初期時間と分および秒で表される終了時間と付加的に情報に対する複数のバイトからなるデータセットが示してある。磁気テープ上の記録のためそのようなデータセットが設けられている。それに対して例えば、レンタル又は販売のために定められた事前記録されたカセットは第2の箇所にてxffによりマーキング表現され得る。事前記録されたカセットの場合における図3に示すメモリ内容は次の点で差異がある即ち、第一の2つのバイトと、後続のデータセット間でさらなる情報箇所が挿入されている点で差異がある。上記のさらなる情報箇所は例えば次のような連続番号を有し、即ち所定のプログラムで記録されたカセットが一義的に識別され得る連続番号を有し、さらなるメモリ箇所にて例えば再生許可状態(権限付け)のモードについての情報が含まれる。」(第3頁右上欄12行?同頁右下欄14行)

ウ.「2.個人的に記録されたカセット
第2のメモリ領域にてカセットが個人的使用のものであることが当該識別子により指示される場合次のメモリ領域の分割も規定される。
2.1記録上の保護
既に存在している記録の不本意乍らのオーバーライトないし消去の防止は次のようにして達成される、即ち実際のテープ位置とメモリにおけるエントリとの比較を記録装置が常に行うようにするのである。当該比較によりオーバーライトの可能性のないことが指示された際のみ記録機能がトリガされる。但しオーバーライトの可能性が発見されると、記録機能は全く阻止されるか、又は問い合わせおよび確認の後トリガされ得る。更に、個々の記録に対して記録機能の全くのブロッキングを付加データに対して設けられたメモリの箇所における相応のエントリにより行なわせることもできる。上記エントリはユーザによりレコーダ又はカムコーダにて相応の機能を用いて行われ得、再び除去され得る。もって、そのような前述の機能は実質的に遥かにフレキシブルな形態でこれまでの通常であった破断可能な舌片又はスライダの形の機械的な消去ブロッキングにとって替わる。」(第3頁右下欄22行?第4頁左上欄18行)

エ.「3.事前記録されたカセット
事前記録されたカセットとしてマーキング表示されているカセットの場合、例えば基本的に再生のみをトリガし得るようにするとよく、それにより、不都合な消去が確実に阻止される。
そのようなカセットの盗難の危険を低減するため、利用権限のため設けられた箇所にて特別なエントリが必要とされ得る(再生装置の再生機能がトリガされるために)、当該のエントリは例えばビデオレンタルショップの棚に据えられたカセットには存在し得ず、出納(チェックアウト)のところでのみ行われ得る。そのようなエントリは適当な機器を用いて操作され得るので、当該棚に陳列されたカセットにおいて当該内容に係わるデータセット全体を消去するのがさらに好適である。そのようなカセットは実際上無価値の状態におかれている。チェックアウト(出納)にてはじめて当該カセットは連続番号を用いて識別され、データセットは例えばコンピュータのメモリからリロードされる。
基本的にカセットの再生を相応のエントリにより許可することのみが可能であるのみでない。更に、再生のためのための所定の機能のみを許可することもできコンパチブルのHDTV/TV記録の場合、例えば比較的分解能の低いTV再生のみを行うことが可能であり、ステレオ-およびサラウンド-サウンド付の記録の場合当該のサラウンド-サウンドの再生を阻止できる。更に、メモリ装置にて成るメモリ箇所を許可された再生回数に対するカウンタとして構成することもできる。
事前記録されたカセットに対して典型的なエントリのほかに付加的に更に、ユーザによっては個人的に記録されたカセットの場合におけるように個々の再生ブロックを働かせ得る。カセットの返却がなされた後、そのようなブロックエントリは場合により暗証番号によりメモリ装置内に記憶され得る。但し上記ブロックエントリは返却後、又はチェックアウトにて新たな許可(付与)の際、全くブロック全体と共にメモリ装置から除去することが可能である。
4.高められた保護作用付の事前記録されたカセット(サブコードとの比較)。
正当な権限のないものにより適当な補助手段を用いてメモリ装置の内容が改善される可能性がある。ことに許可(状態)を表示マーキングするメモリ箇所の内容が改善される可能性がある。高められた保護作用は次のようにして形成され得る、即ち、事前記録されたカセットの場合メモリ装置の内容全体又はそれの一部が、有効信号の記録と共に所謂サブコードとして記録されるようにするのである。
メモリ装置の内容が記録されたサブコードと一致する際のみ再生がトリガされるようにすれば、再生のブロックのためにはメモリ装置の内容を1つ又は少数の個所で所期のように変化させるだけで事足りる。」(第4頁右上欄4行?同頁右下欄6行)

オ.「図4はケーシング付磁気テープカセットを有する。磁気テープカセットは2つの磁気テープリール8,9を有し該磁気テープリール上には1つの磁気テープ10が巻付けられている。更に磁気テープカセットは前述のメモリ装置11を有し、上記メモリ装置11は磁気テープカセットの外壁のほうに向いた側12にて磁気テープ装置内に設けられた書込および/又は読出装置に接続又は結合され得る。」(第4頁右下欄13行?20行)

カ.「更なるブロッキング手法はメモリ内容と、磁気テープ上に記憶されたサブコートとの比較により実現される。
例えば再生は次のような解除のみ行われる、即ち、サブコートの所定部分がメモリにおける所定のエントリと一致する際のみである。勿論、各カセットに番号付けをし、当該番号を一方ではメモリ内に可用にし、他方では各記憶ごとにサブコート中に記憶すると有利である。それによりカセットケーシング(=メモリ)および記録されたテープが相互に関連し合うようになる。」(第5頁右上欄4行?18行)

上記の記載事項及び図面から、甲第1号証の磁気テープカセットには以下のことが記載されている。

(1)上記ア、オ、図4によれば、磁気テープカセットは、磁気テープ及びメモリ装置を有したものである。

(2)上記ア、イ、図2ないし図3によれば、メモリ装置は、所定の記録および/又は再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含んでいて、該メモリ装置のメモリは、複数のバイトに分けられているものである。
そして、メモリ装置のメモリの第1バイトには、カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式が(例えばx3fと)記憶されているものであり、これらの情報は可変ではない。

(3)上記イ、図2ないし図3によれば、メモリ装置のメモリの第2バイトには、カセットの利用についての情報が記憶され、カセットの最初の使用の際に該情報は1度可変されるものである。
ここで、第2バイトは、個人的に記録されたカセットとして使用する場合、該カセットを最初に使用した機器によってエントリによりマーキング表示が変わるものであって、初めてVTRにて使用されたカセットは02、録音機にて最初に使用されたカセットは03とマーキング表示され、事前記録されたカセットとして使用する場合、xffとマーキング表現されるものである。

(4)上記イ、図2ないし図3によれば、メモリ装置のメモリは、第2バイトの次のバイト以降に、複数のバイトからなるデータセットがある。
また、事前記録されたカセットとして使用する場合、第2バイトとデータセットとの間に更にバイトが挿入され、カセットが一義的に識別され得る連続番号、及び再生許可状態のモードについての情報が含まれる。

(5)上記ウ、図2によれば、個人的に記録されたカセットとして使用する場合、オーバーライトないし消去の防止は、実際のテープ位置とメモリにおけるエントリとの比較を記録装置が常に行い、当該比較によりオーバーライトの可能性のないことが指示された際のみ記録機能がトリガされるものである。そうすると、ここでいう「エントリ」とは、実際のテープ位置と常に比較が行なわれているから、第2のバイトの次のバイト以降にある「データセット」にあるものと解される。
なお、上記ウには「更に、個々の記録に対して記録機能の全くのブロッキングを付加データに対して設けられたメモリの箇所における相応のエントリにより行なわせることもできる。」とも記載されているが、ここでいう「相応のエントリ」とは、図2における付加データ中のそれぞれのエントリ(自由アクセス許可、オーバーライト阻止、再生阻止)をいうものである。つまり、データセット中のエントリを個々に特徴付けることが可能である旨を示唆しており、「エントリ」を「相応のエントリ」にすることもできることが記載されていると認められる。
そして、「付加データに対して設けられたメモリの箇所における相応のエントリ」は、上記ウの「ユーザによりレコーダ又はカムコーダにて相応の機能を用いて行われ得、再び除去され得る。」との記載から、可変(書き込み・消去可能)である。よって、データセット(第2のバイトの次のバイト以降)は「可変」であるといえる。

(6)上記エ、図3によれば、事前記録されたカセットとして使用する場合、(メモリ装置のメモリの)箇所に、カセットの再生や再生回数を許可する特別なエントリがなされるものである。なお、特別なエントリがある箇所は、上記イ及び第3図を参照すると、第2バイトの次のバイト群である5番目のバイトと認められる。
そして、該エントリは、例えばビデオレンタルショップの棚に据えられたときは存在せず、出納(チェックアウト)のところで行われるものであるから、可変であるといえる。

(7)上記エによれば、事前記録されたカセットとして使用する場合、「サブコード」を用いて高められた保護作用を形成することができるものである。
また、上記エおよびカによれば、メモリ装置の内容全体をサブコードとして磁気テープに記憶されるものである。そして、サブコードとメモリの所定のエントリとが一致する際のみ、カセットの再生を許可できるものである。ここで、「所定のエントリ」とは、上記イ及び第3図を参照すると、カセット番号(カセットが一義的に識別され得る連続番号)が該当し、第2バイトの次のバイト群である3番目および4番目のバイトに記憶されていると認められる。なお、上記のとおり、サブコードは、メモリ装置に記憶されている情報を全て含み得るから、メモリ装置のメモリの全てのバイトに記憶された情報を磁気テープに記憶し得るものである。
そして、上記カによるサブコードの記載は、再生に関するものであり、サブコードなる用語は上記エの「4.高められた保護作用付の事前記録されたカセット(サブコードとの比較)」のみに記載されたものであるから、「サブコード」は、事前記録されたカセットに用いられるものである。

(8)上記エによれば、事前記録されたカセットとして使用する場合、付加的に個々の再生ブロックを働かせるブロックエントリを書き込み、消去可能にしているもの(可変)である。ここで、ブロックエントリは、「個人的に記録されたカセットの場合におけるように個々の再生ブロックを働かせ得る。」との記載から、データセットにある情報と認められる。

そうすると、甲第1号証には、次のように「個人的に記録されたカセット」による発明(以下、「引用発明1」という。)、及び「事前記録されたカセット」による発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

<引用発明1>
磁気テープ及びメモリ装置を有した磁気テープカセットにおいて、
所定の記録および/又は再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含んでいるメモリ装置のメモリであって、
メモリ装置のメモリは複数のバイトに分けられており、
メモリ装置のメモリの第1のバイトは、カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式が記憶されており、これらの情報は可変でなく、
メモリ装置のメモリの第2のバイトは、カセットの利用についての情報が記憶されており、カセットの最初の使用の際に1度可変され、また、カセットを最初に使用した機器によって情報が変わるものであり、
メモリ装置のメモリの第2バイトの次のバイト以降(データセット)には、記録および/又は再生機器におけるオーバーライトないし消去の防止に必要なエントリが記憶されており、該エントリは可変することが可能である、
磁気テープカセット。

<引用発明2>
磁気テープ及びメモリ装置を有した磁気テープカセットにおいて、
所定の再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含んでいるメモリ装置のメモリであって、
メモリ装置のメモリは複数のバイトに分けられており、
メモリ装置のメモリの第1のバイトは、カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式が記憶されており、これらの情報は可変でなく、
メモリ装置のメモリの第2バイトは、カセットの利用についての情報が記憶されており、カセットの最初の使用の際に1度可変され、
メモリ装置のメモリの3番目および4番目のバイトは、磁気テープに記憶されたサブコードと比較する所定エントリ(カセット番号)が記憶され、サブコードと所定エントリとが一致する際のみ、該カセットの再生を許可し、
メモリ装置のメモリの5番目のバイトは、カセットの再生や再生回数を許可する特別なエントリがなされ、該エントリは可変であり、
メモリ装置のメモリのそれ以降のバイト(データセット)は、ブロックエントリが可変で記憶され、
磁気テープには、メモリ装置のメモリに記憶された情報を全て記憶される、
磁気テープカセット。

2.対比・判断
(1)引用発明1について
本件特許発明(構成要件AないしG)と引用発明1とを対比する。

a.引用発明1の「磁気テープ・・・を有した磁気テープカセット」は、構成要件Aの「磁気テープが収納されたテープカセット」に相当する。
よって、引用発明1は、構成要件Aに相当する構成を備えている。

b.引用発明1の「・・・メモリ装置を有した磁気テープカセットにおいて、所定の記録および/又は再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含んでいるメモリ装置のメモリ」は、磁気テープへの記録や再生を管理する情報を含んでいるといえるから、構成要件Bの「前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する記録または再生を管理するための管理情報を記録する・・・メモリと、を備えた記録媒体」に相当する。
なお、本件特許発明でいう「管理情報」は、本件特許明細書の段落【0014】を参照すると、「テープカセットごとの製造情報やシリアル番号情報、テープの厚さや長さ、材質、各パーティションごとの記録データの使用履歴等に関連する情報、ユーザ情報等」も含まれるから、引用発明1の第1バイトに記憶された情報「カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式」は、少なくとも構成要件Bの「管理情報」の一部といえる。
そして、引用発明1の「メモリ装置のメモリの第1のバイトには・・・が記憶されており、これらの情報は可変でなく」及び「メモリ装置のメモリの第2バイトの次のバイト以降(データセット)には・・・エントリが記憶されており、該エントリは可変することが可能」は、メモリ装置のメモリが少なくとも読み出し専用のバイトと読み書き可能なバイトとを備えていることを意味するから、構成要件Bの「読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体」に相当する。
よって、引用発明1は、構成要件Bに相当する構成を備えている。

c.本件特許発明でいう「識別情報」とは、本件特許明細書の段落【0005】、【0007】、【0010】、【0012】、【0130】及び【0132】によれば、例えばテープカセットのシリアルナンバであり、メモリと磁気テープに記録された「識別情報」が同一のものである場合のみ、磁気テープに対する再生や記録を行うことができるものである。
そうすると、引用発明1には、メモリと磁気テープとに同一の(識別)情報が備えられていない。
よって、引用発明1は、構成要件Cに相当する構成を備えていない。

この点について、請求人は、平成28年12月5日付け口頭審理陳述要領書の第18頁ないし第23頁において、「甲第1号証に記載された各カセットに番号付けをし、当該番号を一方ではメモリ内に可用にし、他方では各記憶ごとにサブコート中に記憶し、サブコートの所定部分がメモリにおける所定のエントリと一致する際のみ、再生や記録のブロッキングを解除する、という手法は、高められた保護作用付の事前記録されたカセットのみならず、事前記録されたカセットはもちろん、個人的に記録されたカセットにおいても採用され得るものとして記載されている。よって、甲第1号証には、メモリと磁気テープ上のカセット番号が一致しているか否かで、当該カセットの磁気テープに対する記録動作を実行させたりさせなかったりすることが記載されている。」と主張している。
しかしながら、サブコードは、上記エによれば「(高められた保護作用付の)事前記録されたカセット」に限定されるものである。また、上記カによれば、サブコードは、再生のブロックの解除に使用されることが記載されているものの、記録の制御に利用される旨の記載や個人的に記録されたカセットに適用できる旨の記載(例えば、カセット番号をメモリのどこに記憶するのか等の具体的な記載)は甲第1号証に認められない。また、個人的に記録されたカセットにカセット番号やサブコードを使用する理由である「正当な権限のないものにより適当な補助手段を用いてメモリ装置の内容が改ざん(メモリ箇所の内容が改ざん)される可能性」(上記エを参照。)は、個人的に記録されたカセットにおいても想定し得る旨の記載もない。よって、個人的に記録されたカセットにカセット番号及びサブコードを使用することは、甲第1号証全体から読み取ることはできない。
したがって、甲第1号証におけるカセット番号及びサブコードに係わる事項は、事前記録されたカセットに限定されたものと解するのが自然であるから、請求人の主張を採用することはできない。

d.上記cのとおり、引用発明1は、メモリと磁気テープとに(同一の)識別情報が備えられていることは記載されていないから、構成要件Dに相当する構成も備えていない。

e.本件特許は、本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】(段落【0003】ないし【0005】、【0007】、【0009】を参照。)によれば、CD-Rよりも大容量の「磁気テープ」をWORMの記録媒体に用いる場合、磁気テープに記録されているデータの保守性を優れたものとするために、磁気テープへの記録及び/又は再生を管理する「メモリに用途識別情報を記憶」し、テープドライブ装置において磁気テープの記録/再生を行うとき、テープドライブ装置の制御手段が「用途識別情報に基づいて磁気テープに対する動作(記録/再生)を行う」ものである。つまり、本件特許発明1でいう「用途識別情報」とは、テープドライブ装置に対して磁気テープの記録動作や再生動作を制御するための情報である。なお、請求人も、用途識別情報について、テープカセットの用途が単に示されているものではなく、磁気テープに対する記録や再生の制御を行うものと主張している(平成28年12月5日付け口頭審理陳述要領書の第9頁を参照。)。
そうすると、引用発明1の「カセットの利用についての情報」は、当該情報がメモリの第2バイトに記憶されると、メモリの第2バイトの次の領域を複数のバイトに分割させるものとは認められるが(上記ウを参照。)、甲第1号証には、カセットの利用についての情報が記録装置の動作に対してどのように作用しているのか(記録装置がテープの記録や再生を行う際に、カセットの利用についての情報を参照する等)具体的な記載がない。よって、引用発明1の「カセットの利用についての情報」が、本件特許発明の「用途識別情報」に相当するとは認められない。
なお、引用発明1の「カセットの利用についての情報」が記憶されている「第2バイト」について一応指摘しておくと、「第2バイト」の情報はカセットの最初の使用の際に1度可変できるものでありその後可変でなくなるものであるから、「第2バイト」は一種の「ROM領域」に相当すると認められる。しかしながら、ユーザである個人が使用することにより情報が変えられる(最初に使用する記録・再生装置の選択によって、異なる情報を書き込むことができる)事実から、ユーザに対して「読み出し専用とされる」領域とはいえない。
そして、引用発明1のデータセット中の「エントリ」が、記録装置で比較対象となり、それによりオーバーライトないし消去の防止を行い得るのであるから、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する。ここで、データセットは第2バイトの次のバイト以降にあるところ、当該バイトは可変領域である。
更に、引用発明1の磁気テープには、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する情報が記憶されていない。
よって、引用発明1は、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する情報(エントリ)がメモリの可変領域のみにしか認められず、磁気テープには「用途識別情報」に相当する情報が記憶されていないので、構成要件Eに相当する構成を備えていない。

この点について、請求人は、平成28年12月5日付け口頭審理陳述要領書の第9頁ないし第12頁、及び平成29年1月17日付け上申書の第7頁ないし第14頁において、「甲第1号証には、第2バイトに記憶されている情報に基づいて、カセットの磁気テープに対する記録、再生の制御を行うことが記載されている。」旨を主張している。
しかしながら、甲第1号証には、記録、再生の制御を行う際に第2バイトに記憶されている情報を用いる(参照する)具体的な記載は見当たらず、第2バイトに記憶されている情報によりメモリの分割が行われることと、実際のテープ位置とメモリにおけるエントリとの比較を記録装置が常に行うことしか記載されていない。なお、「メモリにおけるエントリ」は、請求人が認めているように「分および秒で表される初期時間と分と秒で表される終了時間」である(平成29年1月17日付け上申書の第7頁15?17行を参照。)とすると、エントリは第2バイトに記憶されている情報ではない。よって、甲第1号証には、第2バイトに記憶されている情報で記録、再生の制御を行うことが記載されているとは認められない。
また、請求人は、平成28年12月5日付け口頭審理陳述要領書の第15頁ないし第16頁、及び平成29年1月17日付け上申書の第9頁において、「第3バイト以下の領域の情報に基づいて記録や再生の制御が行われる場合でも、まず第2バイトに記録された情報が参照され、当該情報に基づいて制御が行われるのであるから、第3バイト以下の領域の情報の存在は、第2バイトに記録された情報が「用途識別情報」に該当することを否定する根拠にはならない。」と主張している。
しかしながら、上記でも指摘したとおり、甲第1号証には、記録や再生を行う際に、第2バイトに記憶されている情報を参照する旨の具体的な記載はない。よって、請求人が主張する事項は甲第1号証に記載されているとはいえないので、請求人の主張を採用することはできない。

f.上記eのとおり、引用発明1は、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する情報(エントリ)はメモリの可変領域のみにしか認められないので、構成要件Fに相当する構成も備えていない。

g.引用発明1の「磁気テープカセット」は、テープ及びその記録や再生を管理するメモリを備えているから、構成要件Gの「記録媒体」に相当する。
よって、引用発明1は、構成要件Gに相当する構成を備えている。

したがって、本件特許発明と引用発明1とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「磁気テープが収納されたテープカセットと、
前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する記録または再生を管理するための管理情報を記録する、読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体において、
前記メモリの記憶領域に前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され、
前記用途識別情報は、前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能とされている
ことを特徴とする記録媒体。」

<相違点1>(構成要件C、Dに対して)
本件特許発明は、「前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットの識別情報が記憶され」、「該二個の識別情報が一致していると判別された場合は記録、再生動作を実行させることができ、前記二個の識別情報が一致していないと判別された場合は記録、再生動作を実行させることができないこととされ」ているのに対し、引用発明1は、そもそも「識別情報」に相当する情報がないから、その旨の特定がない。

<相違点2>(構成要件E、Fに対して)
本件特許発明は、「前記メモリの読み出し専用とされるROM領域として設定された記憶領域及び前記磁気テープに前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され」、「前記用途識別情報は、ユーザが改変することができず、前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能とされている」のに対し、引用発明1は、用途識別情報が可変領域のみに記憶され、「読み出し専用とされるROM領域」及び「磁気テープ」に記憶されていない。

以上のとおり、本件特許発明と引用発明1とは相違点1及び相違点2を有するから、本件特許発明は、引用発明1と同一の発明ではない。よって、請求人の無効理由1についての主張を認めることができない。

次に、相違点1についての容易性(無効理由2についての主張)を判断すると、上記cで指摘したとおり、サブコードが記録の制御に利用される旨の記載や個人的に記録されたカセットに適用できる旨の記載は甲第1号証に認められないし、個人的に記録されたカセットにサブコードを使用する理由「正当な権限のないものにより適当な補助手段を用いてメモリ装置の内容が改ざん(メモリ箇所の内容が改ざん)される可能性」(上記エを参照。)も甲第1号証には記載も示唆もない。よって、個人的に記録されたカセットに、カセット番号及びサブコードを使用することは、引用発明1から容易になし得た事項とは認められない。
仮に、請求人の主張(無効理由2についての主張)を認め、相違点1に係る構成が引用発明1から容易になし得たとしても、相違点2に係る構成が容易である根拠は見当たらない。なお、請求人は、相違点2に係る構成が容易である旨の主張は無効理由2においてされていない。
したがって、本件特許発明は、引用発明1から容易になし得た発明ではなく、請求人の無効理由2についての主張を認めることはできない。

(2)引用発明2について
本件特許発明(構成要件AないしG)と引用発明2とを対比する。

a.引用発明2の「磁気テープ・・・を有した磁気テープカセット」は、構成要件Aの「磁気テープが収納されたテープカセット」に相当する。
よって、引用発明2は、構成要件Aに相当する構成を備えている。

b.引用発明2の「・・・メモリ装置を有した磁気テープカセットにおいて、所定の再生機器の所定動作状態の阻止および/又は可能にする情報を含んでいるメモリ装置のメモリ」は、磁気テープへの再生を制御する情報を含んでいるから、構成要件Bの「前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する(記録または)再生を管理するための管理情報を記録する・・・メモリと、を備えた記録媒体」に相当する。
なお、本件特許発明でいう「管理情報」は、本件特許明細書の段落【0014】を参照すると、「テープカセットごとの製造情報やシリアル番号情報、テープの厚さや長さ、材質、各パーティションごとの記録データの使用履歴等に関連する情報、ユーザ情報等」も含まれるから、引用発明2の第1バイトに記憶された情報「カセット自体、カセット型式、含まれている磁気テープ長又はテープカセットの型式」は、少なくとも構成要件Bの「管理情報」の一部といえる。
そして、引用発明2の「メモリ装置のメモリの第1のバイトには・・・が記憶されており、これらの情報は可変でなく」、「メモリ装置のメモリの5番目のバイトは、カセットの再生や再生回数を許可する特別なエントリがなされ、該エントリは可変であり」及び「メモリ装置のメモリのそれ以降のバイト(データセット)は、ブロックエントリが可変で記憶」は、メモリ装置のメモリが少なくとも読み出し専用のバイトと読み書き可能なバイトとを備えていることを意味するから、構成要件Bの「読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体」に相当する。
よって、引用発明2は、構成要件Bに相当する構成を備えている。

c.本件特許発明でいう「識別情報」とは、本件特許明細書の段落【0005】、【0007】、【0010】、【0012】、【0130】及び【0132】によれば、例えばテープカセットのシリアルナンバであり、メモリと磁気テープに記録された「識別情報」が同一のものである場合のみ、磁気テープに対する再生や記録を行うことができるものである。
そうすると、引用発明2の「メモリ装置のメモリの3番目および4番目のバイトは、磁気テープに記憶されたサブコードと比較する所定エントリ(カセット番号)が記憶され」は、サブコードと所定エントリとが本件特許発明の「識別情報」に相当するから、本件特許発明の「前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットの識別情報が記憶され」に相当する。
よって、引用発明2は、構成要件Cに相当する構成を備えている。

d.引用発明2の「サブコードと所定エントリとが一致する際のみ、該カセットの再生を許可」することは、一致すれば再生ができ、一致しないと再生できないことだから、本件特許発明の「該二個の識別情報が一致していると判別された場合は(記録、)再生動作を実行させることができ、前記二個の識別情報が一致していないと判別された場合は(記録、)再生動作を実行させることができない」ことに相当する。
よって、引用発明2は、構成要件Dに相当する構成を備えている。

e.本件特許は、本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】(段落【0003】ないし【0005】、【0007】、【0009】を参照。)によれば、CD-Rよりも大容量の「磁気テープ」をWORMの記録媒体に用いる場合、磁気テープに記録されているデータの保守性を優れたものとするために、磁気テープへの記録及び/又は再生を管理する「メモリに用途識別情報を記憶」し、テープドライブ装置において磁気テープの記録/再生を行うとき、テープドライブ装置の制御手段が「用途識別情報に基づいて磁気テープに対する動作(記録/再生)を行う」ものである。つまり、本件特許発明1でいう「用途識別情報」とは、テープドライブ装置に対して磁気テープの記録動作や再生動作を制御するための情報である。なお、請求人も、用途識別情報について、テープカセットの用途が単に示されているものではなく、磁気テープに対する記録や再生の制御を行うものと主張している(平成28年12月5日付け口頭審理陳述要領書の第9頁を参照。)。
そうすると、引用発明2の「カセットの利用についての情報」は、上記ウを加味して上記イを参照すると、当該情報がメモリの第2バイトに記憶されると、複数のバイトからなるデータセット、及び第2バイトとデータセット間でさらなる情報箇所(3番目?5番目のバイト)が挿入されるものであるが、甲第1号証には、カセットの利用についての情報が再生装置の動作に対してどのように作用しているのか(再生装置がテープの再生を行う際に、カセットの利用についての情報を参照する等)具体的な記載がない。よって、引用発明2の「カセットの利用についての情報」が、本件特許発明の「用途識別情報」に相当するとは認められない。
なお、引用発明2の「カセットの利用についての情報」が記憶されている「第2バイト」について一応指摘しておくと、「第2バイト」の情報はカセットの最初の使用の際に1度可変できるものであるところ、事前記録されたカセットの場合、当該第2バイトに情報(xff)を書き込むのは、カセットに記録を行う者(データ配布業者、ファームウエア業者等)と認められる。ここで、本件特許発明において「読み出し専用」と特定するのは、本件明細書の段落【0105】に記載されているように「ユーザが改変することができないようにする」ためのものであり、ここでいうユーザとは、記録されたカセットを利用する者、すなわち甲第1号証でいうと「当該カセットを貸し出すビデオレンタルショップ(店員)、当該カセットをレンタルして再生を行う個人」が該当すると認められる。そうすると、引用発明2の「第2バイト」は、本件特許発明の「読み出し専用とされるROM領域」に相当するといえる。(但し、上記のとおり、第2バイトに記憶された情報は、本件特許発明の用途識別情報に相当しない。)
そして、引用発明2の5番目のバイト中の「特別なエントリ」が、カセットの各種再生や再生回数を許可するものであり、再生装置の再生をトリガするものであるから、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する。ここで、当該エントリは可変であるから、当該5番目のバイトは可変領域である。
また、引用発明2の「磁気テープには、メモリ装置のメモリに記憶された情報を全て記憶される」は、引用発明2の5番目のバイト中の「特別なエントリ」が磁気テープに記憶されていることを含むから、本件特許発明の「前記磁気テープに前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され」に相当する。
よって、引用発明2は、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する情報(特別なエントリ)がメモリの可変領域と磁気テープのみにしか認められず、メモリの読み出し専用とされるROM領域に記憶されていないから、構成要件Eに相当する構成を備えていない。

なお、請求人の主張及びそれに対する判断は、上記「(1)e」に記載したとおりであるから省略する。

f.上記eのとおり、引用発明2は、本件特許発明の「用途識別情報」に相当する情報(特別なエントリ)は、メモリの可変領域のみにしか認められず、ユーザが改変することができないとはいえないから、構成要件Fに相当する構成も備えていない。

g.引用発明2の「磁気テープカセット」は、テープ及びその記録や再生を管理するメモリを備えているから、構成要件Gの「記録媒体」に相当する。
よって、引用発明2は、構成要件Gに相当する構成を備えている。

したがって、本件特許発明と引用発明2とは、以下の点で一致ないし相違する。

磁気テープが収納されたテープカセットと、
前記テープカセットに備えられ、前記磁気テープに対する再生を管理するための管理情報を記録する、読み出し専用とされるROM領域および読み出し/書き込み可能とされるRWM領域が設定された記憶領域を有するメモリと、を備えた記録媒体において、
前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットの識別情報が記憶され、
該二個の識別情報が一致していると判別された場合は再生動作を実行させることができ、前記二個の識別情報が一致していないと判別された場合は再生動作を実行させることができないこととされ、
前記メモリ及び前記磁気テープに前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され、
前記用途識別情報は、前記磁気テープに対して再生のみ可能とされている
ことを特徴とする記録媒体。

<相違点3>(構成要件E、Fに対して)
本件特許発明は、「前記メモリの読み出し専用とされるROM領域として設定された記憶領域に前記テープカセットに対応した用途を指示する用途識別情報が記憶され、前記用途識別情報は、ユーザが改変することができず、前記磁気テープに対して追加記録または再生のみ可能とされている」のに対し、引用発明2は、用途識別情報が「読み出し専用とされるROM領域」に記憶されておらず、「ユーザが改変することができ」ないものでもない。

以上のとおり、本件特許発明と引用発明2とは相違点3を有するから、本件特許発明は、引用発明2と同一の発明ではない。よって、請求人の無効理由1についての主張は認めることができない。
そして、相違点3に係る構成が容易である根拠は見当たらない。なお、請求人は、相違点2に係る構成が容易である旨の主張は無効理由2においてされていない。したがって、本件特許発明は、引用発明2から容易になし得た発明ではなく、請求人の無効理由2についての主張を認めることはできない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、甲第1号証に記載された発明から容易になし得たものでもない。よって、無効理由1及び2は存在しない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-12 
結審通知日 2017-04-18 
審決日 2017-05-08 
出願番号 特願平11-72042
審決分類 P 1 123・ 113- Y (G11B)
P 1 123・ 121- Y (G11B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 関谷 隆一
酒井 朋広
登録日 2011-01-28 
登録番号 特許第4672824号(P4672824)
発明の名称 テープドライブ装置、記録媒体  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 小栗 久典  
代理人 中村 閑  
代理人 服部 誠  
代理人 佐志原 将吾  
代理人 小林 浩  
代理人 高橋 正憲  
代理人 黒田 薫  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 黒川 恵  
代理人 和田 祐造  
代理人 岩間 智女  
代理人 片山 英二  
代理人 丸山 真幸  

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