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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03B
管理番号 1350583
審判番号 不服2018-11535  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-27 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2014-143173「映像表示システムおよび映像表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 18195、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成26年7月11日
拒絶査定: 平成30年6月29日(送達日:同年7月3日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成30年8月27日
拒絶理由通知: 平成31年2月6日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月12日)
手続補正: 平成31年3月6日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成31年3月6日


第2 本願発明
本願請求項1-16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明16」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1-16は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5?80%であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5?80%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示システム。
【請求項2】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15?60度である、請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項3】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、
第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01?20μmである、請求項1または2に記載の映像表示システム。
【請求項4】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、請求項3に記載の映像表示システム。
【請求項5】
前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項3または4に記載の映像表示システム。
【請求項6】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、映像表示システム。
【請求項7】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15?60度である、請求項6に記載の映像表示システム。
【請求項8】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項6または7に記載の映像表示システム。
【請求項9】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5?80%であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、5?80%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、50%以下である、映像表示方法。
【請求項10】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15?60度である、請求項9に記載の映像表示方法。
【請求項11】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、表面に凹凸構造を有する第1の透明層を有し、
第1の透明層の凹凸構造の算術平均粗さRaが、0.01?20μmである、請求項9または10に記載の映像表示方法。
【請求項12】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、第1の透明層の凹凸構造側の面に沿うように形成された、入射した光の一部を透過する反射膜と、反射膜の表面を覆うように設けられた第2の透明層とをさらに有する、請求項11に記載の映像表示方法。
【請求項13】
前記映像表示透明部材における、第1の透明層の表面の凹凸構造が、不規則な凹凸構造である、請求項11または12に記載の映像表示方法。
【請求項14】
第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材に、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機から映像光を投射し、映像を表示させる方法であって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、
前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、映像表示方法。
【請求項15】
前記映像表示透明部材に表示された映像の投影機に最も近い部分における、映像表示透明部材の第1の面への映像光の入射角が、15?60度である、請求項14に記載の映像表示方法。
【請求項16】
前記映像表示透明部材が、第1の面と第2の面との間に、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された、面方向に沿って延びる複数の光散乱部とを有する、請求項14または15に記載の映像表示方法。」


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2014-509963号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0006】
本発明は、より詳しくは、部材を通して明瞭な視界を有し、部材の鏡のような反射を制限し、そして部材の拡散反射を促進することを同時に可能にする層状部材を提案することによってこれらの欠点を克服しようとするものである。
【0007】
この目的のため、本発明の1つの主題は、2つの平坦な外側の主表面を有する透明な層状部材であって、
それぞれが層状部材の2つの外側の主表面の一方を形成し、実質的に同じ屈折率を有する誘電体材料から構成される2つの外層、及び
外層の間に挿入された中心層であって、外層若しくは金属層とは異なる屈折率を有する誘電体層である単層によって形成されるか又は外層若しくは金属層とは異なる屈折率を有する少なくとも1つの誘電体層を含む層の積み重ねによって形成された中心層
を含み、一方が誘電体層でありそして他方が金属層であるか又は異なる屈折率を有する2つの誘電体層である層状部材の2つの隣接する層の間の各接触表面は、凹凸を付けられ、かつ一方が誘電体層でありそして他方が金属層であるか又は異なる屈折率を有する2つの誘電体層である2つの隣接する層の間の残りの凹凸を付けられた接触表面に平行であることを特徴とする層状部材である。」

「【0017】
本発明の結果、層状部材に入射する放射の正透過と拡散反射が得られる。正透過は、層状部材を通して明瞭な視界を確保する。拡散反射は、層状部材によるはっきりとした反射とまぶしさの危険性を回避することを可能にする。」

「【0025】
本発明の1つの態様によれば、層状部材の拡散反射特性は、放射が入射した側の複数の方向に放射の大部分を反射するのに利用される。この高い拡散反射を得る一方でそれと同時に、層状部材を通した明瞭な視界を有する、すなわち、層状部材は、層状部材の正透過特性のため半透明である。こうした高い拡散反射を有する透明な層状部材は、例えば、ディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーン向けの適用を満たす。
【0026】
特に、こうした高い拡散反射を有する層状部材は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる。既知の様式において、特に、飛行機コックピット、列車のみならず、今日では、個人の自動車(乗用車、トラックなど)でも使用されているHUDシステムは、ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にする。これらのシステムは、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能するので、それは安全性の大幅な増強を可能にする。ドライバーは、虚像がグレージングの後ろの一定の距離に位置していると認識する。」

「【0063】
本発明の別の主題は、上記の層状部材を含むディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーンである。特には、本発明の1つの主題は、上記の層状部材を含むヘッドアップディスプレイシステムのグレージングである。
【0064】
本発明の最後の主題は、自動車、建築物、街路備品、インテリア備品、ディスプレイスクリーン、ヘッドアップディスプレイシステム又はプロジェクションスクリーンのためのグレージングの全部又は一部としての上記の層状部材の使用である。」

「【0078】
図1は、放射の進路を例示していて、そしてそれは外層2の側面の層状部材1に入射する。入射光線Riは、所定の入射角θで外層2に到達する。図1に示したとおり、入射光線Riは、外層2と中心層3の間の接触表面S0に達するとき、金属面によって、又は、それぞれ図2の変形態様では外層2と中心層3の間、そして、図3の変形態様では外層2と層31の間のこの接触表面の屈折率の差のために反射される。接触表面S0には凹凸があるので、反射は複数の方向Rrに起こる。そのため、層状部材1による放射の反射は拡散する。
【0079】
入射する放射の一部もまた、中心層3で屈折する。図2の変形態様において、接触表面S0とS1は、互いに平行であり、そしてそれは、スネル-デカルトの法則に従って、n2.sin(θ)=n4.sin(θ’)(式中、θは外層2から始まる中心層3の放射の入射角であり、そしてθ’は中心層3から始まる外層4の放射の屈折角である)を含意している。図3の変形態様において、接触表面S0、S1、…、Skはすべて互いに平行なので、スネル-デカルトの法則に由来する関係n2.sin(θ)=n4.sin(θ’)は証明されたままである。したがって、前記2つの変形態様において、2つの外層の屈折率n2とn4は、互いに実質的に等しいので、層状部材によって透過される光線Rtは、層状部材のそれらの入射角θと等しい透過角θ’で透過される。そのため、層状部材1による放射の透過は正透過である。
【0080】
同様の様式により、前記2つの変形態様において、外層4の側面の層状部材1に入射する放射は、先と同じ理由で、層状部材によって拡散様式で反射され、そして正透過様式で透過される。」


「【実施例】
【0108】
本発明による層状部材の4つの実施例の反射特性を、以下の表1に示す。表1に示した層状部材の反射特性は、次のものである。
T_(L):標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した可視域の光透過(%単位)。
曇り度T:外層2の側面において層状部材に入射する放射に関して標準的なASTM D1003に従ってヘーズメーターを使用して計測した透過(%単位)。
R_(L):標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する可視域の総光反射(%単位)。
曇り度R:Minolta製ポータブル機で計測した可視域の総光反射(%単位)を可視域の非正光反射(%単位)で割った比率と規定される、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する反射における曇り度(%単位)。」


上記の【0108】及び【表1】実施例No.1の記載から、光透過T_(L)が76.7%、総光反射R_(L)が14.9%、曇り度Rが59.0%、曇り度Tが2.8%である層状部材の構成が読み取れる。
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「2つの平坦な外側の主表面を有する透明な層状部材(【0007】)であって、入射する放射の正透過と拡散反射が得られる層状部材(【0017】)を備えた、個人の自動車(乗用車、トラックなど)で使用されるヘッドアップディスプレイ(HUD)システム(【0026】)であって、
層状部材の光透過T_(L)が76.7%であり、
層状部材の総光反射R_(L)が14.9%であり、
層状部材の曇り度Rが59.0%であり、
層状部材の曇り度Tが2.8%である、(【0108】、【表1】)
ヘッドアップディスプレイ(HUD)システム。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2014-115600号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、映写機から投射された映像光を視認可能に表示し、展示物等も視認することが可能な表示システムに関する。」

「【0014】
図1は第一形態にかかる表示システム1が建物に設置された場面を表す斜視図である。図2は図1と同じ場面を建物の側面からみた図である。図1からわかるように、本形態の表示システム1は、映写機2、照明装置3、及びスクリーン100を備えて構成されている。以下、それぞれについて説明する。
【0015】
映写機2は、スクリーン100に表示したい映像光を投射する機器である。このような映写機は公知のものを用いることができる。映写機をスクリーン100の近くに置くことができれば、スペースを有効に利用することができるので、短焦点型の映写機であることが好ましい。」

「【0017】
スクリーン100は、映写機2から投影される映像光を視認可能に表示することができるとともに、照明装置3により照らし出された対象物や対象空間をスクリーン100を介して反対側に視認可能とする部材であり、全体として板状である。
【0018】
図3は、スクリーン100を図1、図2のように設置した姿勢(すなわち、スクリーン面を鉛直に立てた姿勢)においてスクリーン100を照明装置3が設置された側から見た正面図である。ただし、以下に説明するスクリーン100に含まれる光透過部や光散乱部は実際には微小な要素であり、図3は分かりやすさのため、これを大きく概念的に表している。以下で表す各図も同様である。
図4は、スクリーン100の鉛直方向における厚さ方向断面図を示し、スクリーン100の層構成を模式的に表した図である。図3、図4では見易さのため、繰り返しとなる符号は一部省略している(以降に示す各図において同じ。)。」

「【0025】
光散乱層115は光透過部116及び光散乱部117を有して構成されている。光散乱層115は、図4に示した断面を有し、基材層114の面に沿って図3に示したように水平方向に延在する。すなわち、図4に表れる断面を有して光透過部116及び光散乱部117が基材層114の面に沿った一方向(本形態では水平方向)に延び、該一方向とは異なる方向(本形態では鉛直方向)に基材層114の面に沿って複数の光透過部116が配列されている。そして光散乱部117は光透過部116の間に配置されている。
【0026】
光透過部116は光を透過する部位であり、光透過部116のうち基材層114側の面とその反対側面(接着層118側の面)とは平行かつ平滑に形成されている。これによって、後に説明するようにスクリーン100を通して照明装置3により照らし出された物質や空間を見易くすることができる。好ましくは光透過部は光を散乱させることなく透過する。これにより照明装置に照らし出された物質や空間の見易さがさらに向上する。ここで「散乱することなく光を透過する」とは、意図的に散乱させる材料等を添加することなく形成された部位であることを意味し、材料中を光が透過するときに不可避的に若干の散乱が生じることは許される。」

「【0064】
このように各構成部材が配置された表示システム1は以下に説明するように作用する。図4、図6に模式的な光路例を示した。図6は図2と同様の視点からの図であり、図6(a)は照明装置3が消灯している場面、図6(b)は照明装置3が点灯している場面をそれぞれ表している。なお各図に示した光路例は概念的なものであり、屈折、反射の程度等を厳密に表したものではない。以下同様である。
【0065】
初めに照明装置3が消灯している場面を考える。照明装置3が消灯している状態で、図6(a)のVIaのように映写機2からスクリーン100に向けて映像光を出射する。すると図4に表したように、映写機2から投射された映像光L101は、ハードコート層120、保護層119、及び接着層118を透過して光散乱層115の光散乱部117に到達する。光散乱部117に到達した映像光L101は、光散乱部117によって散乱反射される。そして、散乱反射された光の一部が観察者側に向きが変えられる。そしてスクリーン100から出射して観察者に映像として提供される。
スクリーン100によれば、光散乱部117に達した映像光が吸収されることなく散乱反射されて観察者に出射されるので、明るい映像光を提供することができる。すなわち、映写機2からの映像光が効率よく観察者側に反射されて出射することが可能である。
このとき、空間S1では照明装置3が消灯しているので、観察者から見てスクリーン100の背面側では映写機2による映像光が最も明るい。従って観察者は映像光を明確に視認することができる。」


また、【0065】及び図4,6の記載から、映写機2から投射された映像光L101は、スクリーン100の反対側から出射して観察者に映像として提供されることがわかる。 したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「映写機2から投影される映像光を視認可能に表示することができるとともに、照明装置3により照らし出された対象物や対象空間をスクリーン100を介して反対側に視認可能とする部材であり、全体として板状であるスクリーン100であり(【0017】)、光を散乱させることなく透過する光透過部を含み(【0018】、【0026】)、映写機2から投射された映像光L101は、スクリーン100の反対側から出射して観察者に映像として提供される(【0065】、図4,6)スクリーン100と、
映写機2と
を備えて構成されている表示システム1(【0014】)であって、
映写機2は、短焦点型の映写機である(【0015】)、表示システム1。」

3.引用刊行物3について
原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開2002-277962号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【技術分野】本発明は,映像光を投射することにより,フルカラー或いはモノクロの静止画,動画等の映像を映し出すホログラムスクリーンに関する。」

「【0035】そして,上記投射装置2は,図4に示すごとく,映像光3を上記ホログラムスクリーン1に対して,上方25?55°の角度範囲に入る角度で投射する。即ち,図4に示すごとく,上記投射装置2のレンズ中心21から上記ホログラムスクリーン1の上端18への投射角度θ1は25°以上であり,上記投射装置2のレンズ中心21から上記ホログラムスクリーン1の下端19への投射角度θ2は55°以下となるよう投射装置2を配置する。なお,上記ホログラムスクリーン1の中心17への映像光の投射角度θ0は,映像品質,製造容易等の観点から約35°とする。」

したがって、上記引用文献3には、「投射装置のレンズ中心からホログラムスクリーンの上端への投射角度が25°である投射装置。」という技術的事項が記載されている。


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
まず、引用発明1における「2つの平坦な外側の主表面を有する透明な層状部材」は、本願発明における「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材」に相当する。
次に、引用発明1における「層状部材」は、「入射する放射の正透過」「が得られる」ものであるから、いずれの面側の観察者からも、反対の面側の光景が視認可能であるといえる。また、「層状部材」は、「拡散反射が得られる」ものであって、「個人の自動車(乗用車、トラックなど)で使用されるヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」を構成するものであるから、投影機からの映像光を同じ面側の観察者に反射し、映像として視認可能に表示する部材であることも明らかである。そうすると、引用発明1における「個人の自動車(乗用車、トラックなど)で使用されるヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」が備える、「入射する放射の正透過と拡散反射が得られる層状部材」は、本願発明1における「第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材」に相当する。
また、引用発明1の「個人の自動車(乗用車、トラックなど)で使用されるヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」が、観察者と同じ側に配置される投影機を備えることは明らかであって、この投影機が本願発明における「映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機」に相当し、引用発明1における「ヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」は、本願発明における「映像表示システム」に相当する。
ここで、本願明細書において、「短焦点プロジェクタは、10?90cmの至近距離からの映像光の投射が可能なプロジェクタであり、超短焦点プロジェクタと呼ばれることもある。」(【0018】)と記載されていることから、本願発明1の「短焦点プロジェクタ」は、「10?90cmの至近距離からの映像光の投射が可能なプロジェクタ」を含むものである。一方、引用発明1は「個人の自動車(乗用車、トラックなど)で使用されるヘッドアップディスプレイ(HUD)システム」であり、その投影機の投射距離が90cmを超えることは常識的に考えられないものであるから、引用発明1の備える投影機は「短焦点プロジェクタ」であるといえる。
さらに、引用発明1における「光透過T_(L)」、「総光反射R_(L)」、「曇り度R」、及び「曇り度T」は、それぞれ本願発明における「透過率」、「反射率」、「後方ヘーズ」、及び「前方ヘーズ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第1の面側の観察者に映像として視認可能に表示する反射型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタであり、
前記映像表示透明部材の透過率が、76.7%であり、
前記映像表示透明部材の後方ヘーズが、59.0%であり、
前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、2.8%である、映像表示システム。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であ」るという構成を備えるのに対し、引用発明1においては「層状部材の総光反射R_(L)が14.9%であ」る点。

(2)相違点1についての判断
相違点1に係る本願発明1の「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であ」るという構成は、上記引用文献2、3には記載されていない。また、引用発明1において層状部材の他の値を保持しつつ、総光反射R_(L)の14.9%という値のみをさらに高くしようとする動機も見いだせない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
(なお、上記の判断は、引用発明1の層状部材の光透過T_(L)を54.6%、総光反射R_(L)を14.3%、曇り度Rを60.0%、曇り度Tを1.9%とした場合(引用文献1の【表1】実施例No.2)、または層状部材の光透過T_(L)を35.4%、総光反射R_(L)を10.0%、曇り度Rを49.4%、曇り度Tを6.0%とした場合(引用文献1の【表1】実施例No.4)に関しても同様である。)

2.本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1の「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であ」るという本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明9-13について
本願発明9-13は、本願発明1-5に対応する方法の発明であり、本願発明1-5の「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であ」るという構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1-5と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明6について
(1)対比
本願発明6と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

まず、引用発明2における「照明装置3により照らし出された対象物や対象空間をスクリーン100を介して反対側に視認可能とする部材であり、全体として板状であるスクリーン100」は、本願発明における「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材」に相当する。
また、引用発明2の「スクリーン100」は、「光を散乱させることなく透過する光透過部を含」むものであるから、いずれの面側の観察者からも、反対の面側の光景が視認可能であるといえる。したがって、引用発明2における「光を散乱させることなく透過する光透過部を含み、映写機2から投射された映像光L101は、スクリーン100の反対側から出射して観察者に映像として提供されるスクリーン100」は、本願発明における「第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材」に相当する。
さらに、引用発明2の「映写機2」は、本願発明の「短焦点プロジェクタであ」る「映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機」に相当し、引用発明2における「表示システム1」は、本願発明1における「映像表示システム」に相当する。

したがって、本願発明6と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「第1の面およびこれとは反対側の第2の面を有する透明部材であり、第1の面側の光景を第2の面側の観察者に視認可能に透過し、第2の面側の光景を第1の面側の観察者に視認可能に透過し、かつ第1の面側に設置された投影機から投射された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の映像表示透明部材と、
映像表示透明部材の第1の面側に設置された投影機と
を備えた映像表示システムであって、
前記投影機が、短焦点プロジェクタである、映像表示システム。」

(相違点)
(相違点2)本願発明6は、「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、」のに対し、引用発明2においては、透過率、反射率、及び前方ヘーズの値は不明である点。

(2)相違点2についての判断
相違点2に係る本願発明6の「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、」るという構成は、上記引用文献3には記載されていない。また、上記引用文献1の【表1】には、透過率、反射率(光透過T_(L)、総光反射R_(L))の値が上記の構成と部分的に一致する実施例が記載されてはいるものの、前方ヘーズ(曇り度T)が一致する実施例はない。そもそも、引用文献1記載の透明部材は反射型スクリーン部材として用いられているから、その光学特性の値を、透過型スクリーン部材である、引用発明2のスクリーン100の光学特性の値として、そのまま適用できるかは不明である。
したがって、本願発明6は、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5.本願発明7,8について
本願発明7,8も、本願発明6の「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明6と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6.本願発明14-16について
本願発明14-16は、本願発明6-8に対応する方法の発明であり、本願発明6-8の「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、」という構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明6-8と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
1.原査定の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-16
・引用文献等 1-3

2.判断
本件補正により補正された請求項1-5、9-13は、それぞれ「前記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であ」るという事項、またはそれに対応する事項を有するものとなっており、また請求項6-8、14-16は、それぞれ「前記映像表示透明部材の透過率が、5%以上であり、前記映像表示透明部材の反射率が、15%以下であり、前記映像表示透明部材の前方ヘーズが、8?40%である、」という事項、またはそれに対応する事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1-16は、当業者であっても、引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
「本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



a.請求項1,8において、
「前記映像表示透明部材の透過率が、5?90%であり、」
とあるが、同請求項においては、上記映像表示透明部材の反射率が、18%以上であるとの限定もなされている。したがって、請求項1,8の上記記載は、映像表示透明部材の透過率及び反射率の合計が100%を超える範囲を含み、不明瞭である。
また、請求項1,8を直接または間接的に引用する請求項2-5,10-13の記載に関しても同様である。

b.請求項2,7,10,15の冒頭において、
「映像表示透明部材に・・・」
とあり、請求項3-5,8,11-13,16の冒頭における、
「前記映像表示透明部材・・・」
との記載とは異なり、「前記」との特定がなされていない。したがって、請求項2,7,10,15の上記記載は、それぞれが引用する請求項1,6,9,14の「映像表示透明部材」を指すものであるのか否かが不明瞭である。
また、請求項2,7,10,15を直接または間接的に引用する請求項3-5,8,11-13、16の記載に関しても同様である。」

2.判断
本件補正により、上記記載はそれぞれ「前記映像表示透明部材の透過率が、5?80%であり、」及び「前記映像表示透明部材に・・・」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-16は、当業者が引用発明1及び引用発明2、並びに引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2014-143173(P2014-143173)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G03B)
P 1 8・ 121- WY (G03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 亮治小林 謙仁  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 須原 宏光
中塚 直樹
発明の名称 映像表示システムおよび映像表示方法  
代理人 特許業務法人 志賀国際特許事務所  

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