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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1350619
異議申立番号 異議2018-700284  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-03 
確定日 2019-02-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6207753号発明「球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6207753号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?9〕について訂正することを認める。 特許第6207753号の請求項1?4、6、7、9に係る特許を維持する。 特許第6207753号の請求項5、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6207753号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年) 8月25日(優先権主張 平成26年 8月25日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 9月15日に特許権の設定登録がされ、同年10月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年 4月 3日付けで特許異議申立人 大井四郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 6月 6日付けで取消理由が通知され、同年 8月 7日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して、申立人から同年10月 2日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成30年 8月 7日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項(1)?(12)からなるものである(下線部は、訂正箇所)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の訂正前の請求項1に、
「400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むことを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。」
とあるのを、
「400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含み、平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の訂正前の請求項6に、
「アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。」
とあるのを、
「アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の訂正前の請求項7に、
「400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。」
とあるのを、
「400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の訂正前の請求項9に、
「アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、請求項7?8のいずれか1項に記載の方法。」
とあるのを、
「アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、請求項7に記載の方法。」
に訂正する。

(7)訂正事項7
本件明細書の訂正前の段落【0017】に、
「本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含むことを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
[2]
結晶相を90%以上含むことを特徴とする、項目1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[3]
結晶相の95?100%がクリストバライト結晶相であることを特徴とする、項目1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子
[4]
クリストバライト結晶相の相転移開始温度が220?245℃であることを特徴とする、項目1?3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[5]
平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、項目1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[6]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、項目1?5のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[7]
アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含む、項目1?6のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[8]
400?5000ppmのアルミニウムを含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[9]
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、項目8に記載の方法。
[10]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、項目8?9のいずれか1項に記載の方法。
[11]
アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、項目8?10のいずれか1項に記載の方法。」
とあるのを、
「 本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm以下含み、平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
[2]
結晶相を90%以上含むことを特徴とする、項目1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[3]
結晶相の95?100%がクリストバライト結晶相であることを特徴とする、項目1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子
[4]
クリストバライト結晶相の相転移開始温度が220?245℃であることを特徴とする、項目1?3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[5]
(削除)
[6]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、項目1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[7]
400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[8]
(削除)
[9]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、項目7に記載の方法。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
本件明細書の訂正前の段落【0050】の【表3】において、「実施例」とあるのを、「参考例」 に訂正する。

(9)訂正事項9
本件明細書の訂正前の段落【0052】の【表4】において、上から1行目、右から2列目の欄に「実施例」とあるのを、「参考例」 に訂正する。

(10)訂正事項10
本件明細書の訂正前の段落【0054】の【表5】において、「比較例」及び「実施例」とあるのを、「参考例」 に訂正する。

(11)訂正事項11
本件明細書の訂正前の段落【0056】の【表6】において、「比較例」及び「実施例」とあるのを、「参考例」 に訂正する。

(12)訂正事項12
本件明細書の訂正前の段落【0058】の【表7】において、「比較例」及び「実施例」とあるのを、「参考例」 に訂正する。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1において、球状結晶性シリカ粒子について「平均粒径(D50)が1?100μmである」ことを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1の球状結晶性シリカ粒子の粒径の特定は、本件明細書の段落【0025】の「本発明のシリカ粒子は、平均粒径(D50)が1?100μmであってもよい。」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1によって、訂正前の請求項1には包含されていなかった球状結晶性シリカ粒子が新たに加わるということはないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項6において、選択的に引用した請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項3は、選択的に引用した請求項の一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内に範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項7において、溶射された球状シリカ粒子について「溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、」と特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項4の球状結晶性シリカ粒子の粒径の特定は、本件明細書の段落【0035】の「溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均粒径(D50)が1?100μmであってもよい。」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4によって、訂正前の請求項7には包含されていなかった溶射された球状シリカ粒子が新たに加わるということはないから、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項5は、請求項8を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項9において、選択的に引用した請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項6は、選択的に引用した請求項の一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正事項1?3、4?6により特許請求の範囲を訂正したことに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、本件明細書の段落【0017】の記載を特許請求の範囲の訂正と同様に訂正するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項7は、訂正事項1?3、4?6の特許請求の範囲の訂正と同様に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(8)訂正事項8、9について
ア 訂正の目的について
訂正事項8、9は、特許請求の範囲において「アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含む」と特定しているところ、本件明細書の段落【0050】【表3】のC1?C3、段落【0052】【表4】のD4のアルカリ金属が当該特定事項の範囲外であるので、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、各表において「実施例」の記載を「参考例」に訂正するものである。
したがって、訂正事項8、9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項8、9は、特許請求の範囲の記載との整合を図るために訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項8、9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(9)訂正事項10?12について
ア 訂正の目的について
訂正事項10?12は、特許請求の範囲において「アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含む」と特定しているところ、本件明細書の段落【0054】【表5】のE1?E15、段落【0056】【表6】のF1?F7及び段落【0058】【表7】G1?G4は、アルカリ金属が特定されていないので、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、それぞれの表において「実施例」及び「比較例」の記載を「参考例」に訂正するものである。
したがって、訂正事項10?12は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項10?12は、特許請求の範囲の記載との整合を図るために訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項10?12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項2?6は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項8、9は、直接的又は間接的に請求項7を引用するものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1と訂正事項4とを含む本件訂正請求は、それらの一群の請求項に対してされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項7?12は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であり、一群の請求項1?6及び請求項7?9の全てに関係する訂正である。
したがって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

5 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、訂正前の請求項1?9に係る訂正事項1?6については、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用はされない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?9〕について訂正を認める。


第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4、6、7、9に係る発明(以下、それぞれ本件発明1?4、6、7、9といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4、6、7、9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所)。

【請求項1】
400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含み、平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
【請求項2】
結晶相を90%以上含むことを特徴とする、請求項1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項3】
結晶相の95?100%がクリストバライト結晶相であることを特徴とする、請求項1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項4】
クリストバライト結晶相の相転移開始温度が220?245℃であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項7】
400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、請求項7に記載の方法。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して平成30年 6月 6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

・取消理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

・取消理由2 本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


(1)取消理由1
請求項1?4、6、7、9
本件明細書の実施例2の表4において、比較例D11のシリカ粒子は、請求項1?4、6、7、9で規定するAl及びアルカリ金属の含有量並びに結晶相の割合を充足すると認められるが、凝集したものであって、球状の粒子ではない。
そうすると、請求項1?4、6、7、9に係る発明は、高分散性、高充填性などを有する球状結晶性シリカ粒子を提供するという本件発明の課題を達成することができない場合を含むから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(2)取消理由1、2
請求項1?9
本件明細書の発明の詳細な説明において、請求項1?9に係る発明は、「アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含む」という特定事項により「アルカリ成分が含有されている方が結晶化が進む効果が得られる」ことが記載されている。
しかし、表4の実施例D4は、上記特定事項を充足しないにもかかわらず、結晶化率は高く、また、比較例D1?D3は、当該特定事項を充足するか否かにかかわらず結晶化率が低くなっている。さらに、【実施例3】?【実施例5】の結果を示す表5?表7の実施例は、アルカリ成分について記載がない。
そうすると、請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、請求項1?9に係る発明の技術上の意義を明らかにしたものであるとはいえない。


3 取消理由についての判断
(1)「(1) 取消理由1」について
本件訂正請求により、本件発明において、球状結晶性シリカ粒子は、平均粒径(D50)が1?100μmであることが特定され、平均粒径(D50)が0.5μmであって凝集したシリカ粒子を含む比較例D11は、本件発明の比較例であることが明らかとなったから、本件発明は、球状であるために、高流動性、高分散性、高充填性を有する球状結晶性シリカ粒子を提供することにより本件発明の課題を解決できると認識できるものとなった。
したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

(2)「(2) 取消理由1、2」について
本件発明は、本件明細書の段落【0020】に「・・・球状結晶性シリカ粒子の製造方法において、原料のシリカ粒子粉末にアルミニウムを混合して、原料中にアルミニウムを400?5000ppm含むようにし、当該原料を溶射して生じたシリカ粒子は、驚くべきことに、その後の結晶化に必要な熱処理が、従来よりも緩やかな条件、すなわち、熱処理温度が1100℃?1600℃と低い温度域で処理しても、また、熱処理時間が1?12時間と短い時間間隔で処理しても、出来上がった球状シリカ粒子中の結晶相の割合を80%?100%とすることができ、従来のシリカ粒子製造方法よりも、生産性が高く、製造コストを低くすることができることを見出した。更に、このようにして製造された、『400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含むことを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子』によって、結晶化率が高いために、高熱膨張率、高熱伝導率を有し、球状で有るために、高流動性、高分散性、高充填性、低摩耗性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子を実現できることを見出した。」と記載されているように、アルミニウムを400?5000ppm含むことを前提とする発明である。
そうすると、本件発明において、上記のようにアルミニウムの含有量が規定されているところ、比較例D1?D3は、アルミニウムをそれぞれ43、79、122ppm含むものであって、本件発明のアルミニウムの含有量を充足しないから、各比較例は、アルカリ成分の含有量によらず結晶化率が低くなり、本件発明に対する比較例であることが認識できる。
また、本件発明において、「アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含む」と特定されているため、表4において、訂正前は「実施例」と記載されていたサンプルD4は、アルミニウムを521ppm含み本件発明のアルミニウム含有量を充足するが、アルカリ成分が11ppmであり本件発明のアルカリ成分の含有量を充足しないため、本件訂正により「参考例」D4とされた。
さらに、本件訂正により、アルカリ成分の含有量が本件発明の上限を超える表3に記載の具体例C1?C3、及びアルカリ成分について記載のない表5?表7に記載の具体例は、すべて「参考例」とされた。
したがって、本件発明と、本件明細書の「実施例」の欄の記載とは整合しているといえる。

そして、本件明細書の段落【0029】に「アルカリ成分が含有されている方が結晶化が進む効果が得られるため、本発明の球状結晶性シリカ粒子は、20?300ppmのアルカリ成分を含んでもよい。20ppmより少ないアルカリ成分では、20ppm以上アルカリ成分を含む場合よりも結晶化の度合いが低くなるため、20ppm以上のアルカリ成分を含むことが望ましい。」と記載され、表4において、上記参考例D4の結晶性シリカ粒子は、アモルファス相を含んでいるのに対して、アルミニウムが544ppmであって参考例D4と同程度のアルミニウムを含み、アルカリ成分が29ppmであり本件発明のアルカリ成分の含有量を充足する実施例D5の結晶性シリカ粒子は、結晶相が100%でありアモルファス相は存在しないことが示されている。
そうすると、上記段落【0029】に記載された「20ppmより少ないアルカリ成分では、20ppm以上アルカリ成分を含む場合よりも結晶化の度合いが低くなる」という作用効果は、参考例D4と実施例D5とを比較対照することにより、具体的に裏付けられていることが認識できるといえる。
また、本件発明のアルカリ成分の上限300ppmについては、本件明細書の段落【0029】に「また、本発明の球状結晶性シリカ粒子は、樹脂と混合して半導体用の封止材料等に用いることができるが、アルカリ成分を多く含まないことが望ましい。これは、アルカリ成分が多いと、樹脂の硬化を阻害したり、半導体の封止材として使用した際、腐食が発生して半導体の性能を劣化させる原因となる。また、アルカリ成分が300ppmを超えて含まれると結晶化の熱処理(保定)の際に粒子の軟化温度が下がるため、粒子同士がくっついて、円形度を低下させてしまう。このため、シリカ粒子に含まれるアルカリの量は300ppm以下であることが望ましい。」と記載されているから、本件発明のアルカリ成分の含有量の上限を規定した理由について説明されているといえる。

よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、発明の詳細な説明は、本件発明の技術上の意義を明らかにしたものであるといえる。

(3) まとめ
上記(1)、(2)に記載のとおり、 「(1) 取消理由1」及び「(2) 取消理由1、2」の取消理由は、いずれも理由がない。

4 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)採用しなかった申立理由
申立人は、上記「(2) 取消理由1、2」の他に、甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」?「甲6」という。)を提出して、以下の理由を申し立てた。

ア 訂正前の請求項1?9に係る発明は、甲2?甲4の記載を参酌すると、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲1若しくは甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

イ 訂正前の請求項1?9に係る発明は、甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2) 証拠方法
上記甲1?甲6は、以下のとおりである。
甲1:特開2008-162849号公報
甲2:特開2001-172472号公報
甲3:特開2015-44939号公報
甲4:特開2015-44940号公報
甲5:特開昭63-233008号公報
甲6:特開平10-251042号公報

(3)甲1?甲6の記載事項
甲1?甲6には、それぞれ次の事項が記載されている。
ア 甲1
1a 「【請求項1】
表面の一部又は全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属及び/又はその酸化物が、金属換算で200?2,000ppm存在する高純度クリストバライト粒子。
【請求項2】
ウラン及びトリウムのそれぞれの含有量が1ppb以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下、最大粒径が200μm以下である請求項1記載の高純度クリストバライト粒子。
【請求項3】
クリストバライト粒子が球状である請求項1又は2記載の高純度クリストバライト粒子。」

1b 「【請求項4】
ウラン及びトリウムのそれぞれの含有量が1ppb以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下、最大粒径が200μm以下の高純度非晶質シリカを、アルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属を含有する有機金属化合物又は該有機金属化合物のゾルもしくはスラリーで表面処理した後、1,000?1,600℃で加熱処理することを特徴とする高純度クリストバライト粒子の製造方法。」

1c 「【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ウラン及びトリウムの含有量が少なく、かつアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量が少ない高純度のクリストバライト粒子、及びこのクリストバライト粒子を短時間で効率よく、しかも経済的に製造する方法を提供することを目的とする。」

1d 「【0012】
本発明で使用する原料となる高純度非晶質シリカは、合成又は天然に存在する高純度水晶や結晶シリカを粉砕し所定の粒度に調整したものや、この粒度調整した粉砕粒子を火炎中に通し溶融球状化させることで得られる球状非晶質シリカである。必要とする粒度に調整するために異なる粒度の球状シリカをブレンドしても良い。」

1e 「【0014】
また、本発明で使用する高純度非晶質シリカは、ウラン及びトリウムのそれぞれの含有量(金属元素質量換算、以下同じ)が1ppb以下、好ましくは0.5ppb以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下、好ましくは5ppm以下のものを使用する。 ・・・・・ また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量が多いと半導体封止用樹脂組成物の充填剤に使用した場合、半導体素子の電極が腐食する問題がある。 ・・・・・ 」

1f 「【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、下記の例において、不純物及び金属含有量は、ICP-AES、ICP-MS等の装置により予め濃度既知の試料を用いて作成しておいた検量線から求めたものである。測定方法としては、原料(シリカ又はクリストバライト)0.50gをポリテトラフルオロエチレン容器に精秤し、1mLの硫酸と5mLのフッ化水素酸を加えて200℃で加熱し、シリカ又はクリストバライトを揮散除去した。乾固の後、0.5mLの硝酸と数滴の過酸化水素を加えた。過酸化水素の発泡が穏やかになった後、15mLのポリプロピレン容器に移して純水を加えて5mLの定容とした。そのままもしくはその0.15mLを希硝酸溶液で3.0mLに希釈してICP-AESに供して金属不純物元素を測定した。・・・・・
また、平均粒径及び最大粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した値を示し、比表面積はBET法により測定した値を示す。
【0027】
表1に本発明の実施例、比較例で使用した原料である高純度シリカ(シリカA?C)、及び通常のシリカ(シリカD)中の不純物含有量、並びに粒度について示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表2に本発明の実施例、比較例で表面処理に使用した有機金属化合物、該化合物のゾル又はスラリー中の金属元素の含有量を示した。なお、下記表中、%は質量%である。
【0030】
【表2】



1g「【0031】
[実施例1?7、比較例1]
1kgの表1で示されるシリカを高速混合装置に入れ、高速で混合しながら表2で示されるアルミニウム、チタン又はマグネシウム化合物溶液をスプレーで塗布し、シリカの表面処理を10分間行った。表面処理量を下記表3に示す。表面処理したシリカを100℃で5時間乾燥させた後、1次粒子に解砕した。
解砕した1次粒子を常温から1,400℃まで6時間かけて昇温し、1,400℃で6時間維持、その後1,400℃から600℃まで6時間、600℃から200℃まで4時間かけて下げた。200℃から室温までは自然放冷した。
得られたクリストバライト粒子について、金属含有量、最大粒径及びクリストバライト化率を測定した。なお、クリストバライト化率の算出方法は、下記に示す。これらの結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3の結果から明らかなように、実施例1?5で得られたクリストバライト表面には、XMA(X線マイクロアナライザー)による分析で、いずれもアルミニウム元素が観測された。また、実施例6のクリストバライト表面にはチタン元素が確認された。実施例7のクリストバライト表面にはマグネシウム元素が確認された。」

イ 甲2
2a 「【0019】ここで、上記球状クリストバライトは、従来公知の製法で製造された球状溶融シリカのクリストラバイト化により得ることができるが、原料としての球状溶融シリカとしては、平均粒径が0.3?50μm、特に0.3?30μm、とりわけ0.3?20μmで最大粒径が150μm以下、特に100μm以下、とりわけ75μm以下のものが望ましい。
・・・・・
【0020】また、球状溶融シリカは、不純物として含まれるアルカリ金属やハロゲン元素量がそれぞれ20ppm以下、特に10ppm以下であることが好ましい。いずれかの不純物量が20ppmを超える球状溶融シリカをクリストバライト化したものを充填剤として使用すると、耐湿性低下が生ずる場合がある。なお、上記アルカリ金属やハロゲン元素量は、具体的には、試料10gを250ccのプラスティック容器に入れ、純水100ccを加え、30分間振とう後、95℃の恒温槽で20時間放置し、次いで試料を分離した後の抽出水のアルカリ金属やハロゲン元素量をイオンクロマトグラフィーにより測定した値である。」

ウ 甲3
3a 「【0019】
(B)無機充填剤
本発明において無機充填剤の種類は特に制限されず、半導体封止用樹脂組成物の無機充填剤として公知のものを使用できる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類・・・・・が挙げられる。・・・・・中でも、シリコンに近い熱膨張係数を得るためには、溶融シリカが好ましく、形状は球状のものが好適である。無機充填剤の平均粒径は0.1?40μmであることが好ましく、より好ましくは0.5?15μmであるのがよい。該平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができる。
【0020】
無機充填剤は、120℃、2.1気圧でサンプル5g/水50gの抽出条件で抽出される不純物として塩素イオンが10ppm以下、ナトリウムイオンが10ppm以下であることが好適である。10ppmを超えると組成物で封止された半導体装置の耐湿特性が低下する場合がある。」

エ 甲4
4a 「【0024】
(C)無機充填剤
本発明において無機充填剤の種類は特に制限されず、半導体封止用樹脂組成物の無機充填剤として公知のものを使用できる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類・・・・・が挙げられる。これら無機充填剤の平均粒径や形状は、用途に応じて選択されればよい。中でも、シリコンに近い熱膨張係数を得るためには、溶融シリカが好ましく、形状は球状のものが好適である。無機充填剤の平均粒径は0.1?40μmであることが好ましく、より好ましくは0.5?15μmであるのがよい。該平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができる。
【0025】
無機充填剤は、120℃、2.1気圧でサンプル5g/水50gの抽出条件で抽出される不純物として塩素イオンが10ppm以下、ナトリウムイオンが10ppm以下であることが好適である。10ppmを超えると組成物で封止された半導体装置の耐湿特性が低下する場合がある。」

オ 甲5
5a 「【特許請求の範囲】
1) 非晶質シリカをアルカリ成分の存在下で加熱してクリストバライト化するにあたり、比表面積(BET法)が50m^(2)/g以上である非晶質シリカを、該シリカに対して5?600ppmの範囲のアルカリ金属元素の存在下で、温度1000?1300℃の範囲で加熱して部分的ないしは完全にクリストバライト化し、ついで1300℃を超える温度で加熱して脱アルカリを行うことを特徴とする非焼結クリストバライト化シリカの製造方法。」

5b 「以下、本発明について詳述する。本発明の実施態様は、次の3工程から構成される。
・工程-1:(アルカリ成分調整工程)
原料シリカに対するアルカリ成分濃度を調整する。
・工程-2:(クリストバライト化工程)
アルカリ成分濃度を調整したシリカを、1000?1300℃の温度範囲で加熱処理し、部分的ないしは完全にクリストバライト化したシリカを非焼結ないしは凝集状態で得る。
・工程-3:(脱アルカリ工程)
ついで、得られたクリストバライト化シリカを1300℃を超える温度で加熱処理して脱アルカリすることにより、クリストバライト化低アルカリシリカを非焼結ないし凝集状態で得る。」(2ページ左下欄1行?15行)

5c 「〔工程-1:(アルカリ成分調整工程)〕
本発明の方法で用いられる原料シリカは、比表面積(BET法)が50m^(2)/g以上である非晶質シリカであれば、その製法は限定されず、何れの方法で得られたものであってもよい。このようなシリカは、・・・・・などの明細書に記載の方法によって得ることができる。
・・・・・
上記方法によって、アルカリ金属元素や塩素のほか、ウランなど放射性を有する物質、更には、Al, Feなと各種の不純物含有率がいずれも1ppm以下と極めて少なく、更に、任意の比表面積を有する高純度シリカを得ることができる。
また、別の方法としてアルコキシシランを加水分解することによっても得ることができる。
半導体分野に用いられる透明石英ガラス製造用の原料シリカは、不純物ができるだけ少ない方がよく、Al, P, B, アルカリ金属元素・・・・・などの遷移金属元素などそれぞれの含有率が1ppm以下であることが望まれている。
・・・・・従って、たとえば前記のような方法によって得られる、Al含有率の少ない合成シリカは半導体分野向けの高純度石英ガラス製造用原料として有利である。
・・・・・
本発明の方法でアルカリ金属元素とは、Na,K,Liからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素をいう。これらの元素は少量で非晶質シリカのクリストバライト化速度を増大させると共に、クリストバライト化後の脱アルカリが容易である。
本発明の方法においては、シリカに対する前記アルカリ金属元素の濃度が5?600ppm・・・・・更に好ましくは5?100ppmの範囲となるよう調整する。アルカリ金属元素の濃度が、5ppm未満の場合には非晶質シリカのクリストバライト化速度を増大させる度合いが小さくて実用的でなく、また一方、600ppmを超えると脱アルカリに長時間を要するので好ましくない。」(2ページ右下欄2行?3ページ左下欄12行)

5d 「〔工程-2:(クリストバライト化工程)〕
工程-1で得られたアルカリ成分調整シリカを本工程において、温度1000?1300℃・・・・・の範囲で加熱処理し、クリストバライト化する。
・・・・・
クリストバライト化速度は処理温度の上昇と共に増大するので、本工程においては1000?1300℃の温度範囲で1300℃にできるだけ近い温度で処理するのが有利である。
本工程における加熱処理時間は、20分以上、好ましくは1?10時間の範囲である。
・・・・・
本発明の方法において加熱処理を行う際の雰囲気としては、酸素や炭酸ガスなどでもよいし、必要によっては窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることもできる。実用的には空気とするのがよい、加熱処理を行う装置としてはシリカを所定の温度に維持することができればよく、管状炉,箱型炉,トンネル炉などの他、流動焼成炉などを使用することができ、加熱方式としては、電熱,燃焼ガスなどによればよい。
〔工程-3: (脱アルカリ処理)〕
本工程においては熱拡散による脱アルカリ処理を行う、工程-2で得られた部分的ないし完全にクリストバライト化した粒子状のシリカはクリストバライトの融点近くまで焼結性を示さなくなる。
よって、本発明の方法においてはクリストバライト化に際して添加したアルカリ成分を除去する為に、1300℃を超え、得られたクリストバライト化シリカが焼結性を示す温度より低い温度範囲で加熱処理する。
本工程において処理時間が長い程脱アルカリが進むが、実用的には6?20時間程度である。
粒子状クリストバライト化シリカは、クリストバライト化シリカ焼結体に比較して熱拡散による脱アルカリが容易である。飛散するアルカリ成分を除去するためには通風状態で加熱処理することが好ましく、特に本発明の方法のように少ないアルカリ添加量でクリストバライト化したシリカの場合にはその効果が顕著である。」(4ページ左上欄4行?4ページ左下欄20行)

5e 「実施例-1
比表面積:779m^(2)/g(BET法),粒径範囲:30?400μm,Al,Na,K,Li がそれぞれ1ppm以下であるシリカ乾粉(水分8%含有)を原料とした。
NaOH 1/100規定水溶液8ccをイオン交換水905ccに添加してアルカリ成分(Na)含浸用溶液を調製し、温度50℃に保持した該液中に上記シリカ87gを浸漬して、50℃で撹拌しながら1時間アルカリ処理した。アルカリ処理の後、遠心分離器で液分を分離した後150℃で1夜乾燥した。
乾燥前Na含浸シリカは乾燥シリカ基準で含液率が約 150%,Na吸着量は20 ppm、乾燥して得られたNa含浸シリカの重量は86.5gであった。
次いで、Na含浸シリカ30gをアルミナ製ルツボ(6mmφ ×7.5 mmH)に充填し、1290℃で2時間加熱した後、温度1400℃で更に8時間加熱した。
得られた粒子状シリカは、真比重:2.33,X線回折の結果からもクリストバライト化シリカであることが確認された。また、シリカ中の不純物が、Al<1ppm, K<0.1ppm,Li<0.1ppm,Na:0.6ppmである非焼結クリストバライト化高純度シリカであった。」(5ページ左上欄1行?右上欄2行)

5f 「参考例-1,および比較例-1,
実施例-1に準じて調製して得られたアルカリ含浸シリカ乾粉を、それぞれ800,1200,1300,1400℃の各温度でおのおの7時間づつ第1段階の加熱処理を行い、表-1に示す結果を得た。
表-1,第1段階加熱処理温度の影響;

*1・・・原料シリカに対する値.
参考例ではX線回折の結果は、いづれもクリストバライト化シリカであることが確認され、また非焼結体ないしは凝集体で得られた。
比較例1-1では、非晶質のままでクリストバライト化していない、また、比較例1-2ではクリストバライト化しているが強い焼結性が認められ、粉砕装置を用いないと粒子状にすることができなかった。」(5ページ左下欄13行?右下欄末行)

5g 「実施例-5,および比較例-2.
粒径が30?400 μmで比表面積の異なる、アルカリ金属元素の濃度がそれぞれ1ppm以下である高純度シリカに実施例-1と同様にしてNa含浸ならびに加熱処理を行い、表-3に示す結果を得た。
表-3. 原料シリカ比表面積の影響;

*1・・・原料シリカに対する値.
実施例ではいづれも、X線回折の結果はクリストバライト化シリカであることが確認され、また非焼結体ないしは凝集体であった。
比較例では、いづれも非晶質のままで焼結体となり脱アルカリが妨げられている。」(6ページ右上欄1行?末行)

カ 甲6の記載事項
6a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶性シリカ粒子の表面に、酸化アルミニウム系セラミックからなる被膜が形成されてなることを特徴とするシリカフィラー粉末。
【請求項2】 結晶性シリカ粒子が、クリストバライトを主結晶とすることを特徴とする請求項1のシリカフィラー粉末。
【請求項3】 結晶性シリカ粒子が、球状であることを特徴とする請求項1のシリカフィラー粉末。」

6b 「【0014】次に、上記シリカ粉末の製造方法の一例を以下に説明する。
【0015】まず非晶質シリカ粒子と、アルミナ微粉、ムライト微粉等の酸化アルミニウム系セラミック微粉を混合する。ここで球状のフィラーを得たい場合は、球状の非晶質シリカ粒子を使用すればよい。・・・・・
【0016】次いで混合粉末を焼成する。焼成は1300?1600℃で5?20時間、好ましくは約1400?1500℃で5?10時間焼成する。焼成温度が1300℃よりも低いとクリストバライト等の結晶の生成がきわめて緩慢になり、焼成に著しく時間がかかるので好ましくない。1600℃よりも高くなると堅く焼結するため、表面に被膜を有するシリカフィラー粉末を得ることが困難になる。混合粉末を焼成すると、非晶質シリカ粒子が結晶化して、クリストバライト等を主結晶とする結晶性シリカ粒子となり、また粒子表面に微粉が固着して被膜を形成する。焼成条件によっては、さらに結晶性シリカ粒子同士が微粉を介して軽く凝集し、脆い塊となる。この場合は、軽く解砕し、分級することにより、表面に被膜が形成されたシリカフィラー粉末を得ることができる。
【0017】また、上記以外の製造方法として、例えば非晶質シリカ粒子の表面に、アルミン酸ナトリウム等のAlを含む液体を塗布し、乾燥後、加熱して粒子表面に酸化アルミニウム系セラミックを生成させた後、焼成する方法等が使用できる。」

6c 「【0023】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0024】(実施例1)表1は、本発明のシリカフィラー粉末(試料No.1?7)を示している。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】各試料は次のようにして調製した。
【0028】まず、出発原料として球状の非晶質シリカ粒子(ICパッケージ用プラスチック封止材に用いられる市販の充填材)を用意した。この非晶質シリカ粒子は、最大45μmで結晶3%以下のものであり、粉末X線回折では非晶質を示すブロードなピークのみで、結晶のピークは見られなかった。またアルミナ微紛として、市販のアエロジルを用いた。
【0029】次に両者を振動混合器で充分に混合した後、1450℃で10時間焼成した。得られた焼成物のうち、試料No.2?7は粉末状であった。また試料No.1は軽く凝集していたため、解砕器で解砕した。その後、目開き45μmの篩を通過させ、試料を得た。
【0030】このようにして得られた各試料について、析出結晶、真球度、被膜の膜厚、熱膨張係数、及びα線放出量について評価した。結果を表1に示す。
【0031】表から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1、2、5?7は、クリストバライトを主結晶とする結晶性シリカ粒子の表面に、ムライトからなる被膜が形成されていることが確認された。試料No.3、4は、クリストバライトを主結晶とする結晶性シリカ粒子の表面に、ムライト及びアルミナ(コランダム)からなる被膜が形成されていた。各試料は、結晶性シリカ粒子の真球度が0.3?1.0、被膜の膜厚が結晶性シリカ粒子の長径の1?9%であり・・・・・」

(4)採用しなかった申立理由についての判断
ア 「(1)ア」について
本件発明1?4、6、7、9が、甲1に記載された発明であるか、または、甲1若しくは甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたかどうかについて検討する。

(ア)甲1に記載された発明
記載事項1a、1bによると、甲1には、高純度クリストバライト粒子及びその製造方法について記載されており、記載事項1gの表3によると、比較例1のクリストバライト粒子は、表面のAlは870ppmであり、また、Na^(+)は1ppm、K^(+)は2ppm含み、クリストバライト化率は97%である。
また、上記表3によると、上記クリストバライト粒子は最大粒径が5μmである(なお、記載事項1gに「1kgの表1で示されるシリカを・・・」(段落【0031】)と記載され、記載事項1fの表1のシリカ粒子を使用してクリストバライト粒子を得ている。当該クリストバライト粒子は、表面処理後に解砕されたものであって、上記表1において、シリカD(比較例1)と同じ粒度(平均粒径、最大粒径、及び比表面積)であるシリカBを用いた、上記表3の実施例3は、比較例1と同様な解砕処理を行ったことで、クリストバライト粒子の最大粒径が75μmとなっているから、上記表3の比較例1の最大粒径「5μm」の記載は、「75μm」の誤記である可能性はあるが、以下の判断には影響しないので、上記表3に記載のとおり最大粒径は5μmであると認定した)。
以上のことから、本件請求項1の記載に沿って整理すると、甲1には、
「表面に870ppmのアルミニウムを含み、クリストバライト化率が97%であり、アルカリ成分をNa^(+)として1ppm、K^(+)として2ppm含み、最大粒径が5μmである、球状クリストバライト粒子。」
の発明(以下、「甲1A発明」という。)が記載されているといえる。

また、記載事項1b、記載事項1fの表1、2及び記載事項1gの表3などによると、比較例1は、Alを30ppm、Naを10ppm及びKを12ppm含むシリカDを使用し、これに表2のIIの有機アルミニウム化合物で表面処理を行った後、1400℃で6時間維持することを含む加熱処理を行うことにより、球状クリストバライト粒子を得ている。
以上のことから、本件請求項7の記載に沿って整理すると、甲1には、
「アルミニウムを30ppm、アルカリ成分をNaとして10ppm、Kとして12ppm含むシリカを有機アルミニウム化合物により表面処理し、 表面処理されたシリカの平均粒径が18μmであり、
表面処理されたシリカを1400℃で6時間維持して加熱処理し、
自然放冷した球状クリストバライト粒子が、クリストバライト化率が97%である、球状クリストバライト粒子の製造方法。」
の発明(以下、「甲1B発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)発明の対比・判断
(i)本件発明1について
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
甲1A発明の「クリストバライト」とは、シリカの結晶構造の一つであるから、甲1A発明の「クリストバライト化率が97%」であることは、本件発明1の「結晶相を80%以上」含むことに相当する。
また、甲1A発明の「球状クリストバライト粒子」は、本件発明1の「球状結晶性シリカ粒子」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、
「アルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を含む、球状結晶性シリカ粒子。」
の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、400?5000ppmのアルミニウムを含むことが特定されているのに対して、甲1A発明は、クリストバライト粒子の表面に870ppmのアルミニウムを含む点。

相違点2:本件発明1は、平均粒径(D50)が1?100μmであること特定されているのに対して、甲1A発明は、最大粒径が5μmであることが規定されている点。

相違点3:本件発明1は、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むこと特定されているのに対して、甲1A発明は、アルカリ成分をNa^(+)として1ppm、K^(+)として2ppm含むことが規定されている点。

申立人は、上記相違点3に関して、記載事項1gの「比較例1」に係るシリカ粒子の「アルカリ成分をNa^(+)として1ppm、K^(+)として2ppm含む」点は、甲2の記載事項2a、甲3の記載事項3a及び甲4の記載事項4aによると、シリカ粒子から溶出する金属イオンの量であって、粒子に含有されるNaとKの量ではなく、当該「比較例1」に係るクリストバライト粒子のアルカリ含有量は、記載事項1fの表1の原料であるシリカDのNaとKの量(Naが10ppm、Kが12ppm)がそのまま引き継がれ、22ppmとなる蓋然性が高いから、本件発明1と、「比較例1」から認定されるクリストバライト粒子の発明とは、アルカリ成分の含有量の点は差異がないと主張している(特許異議申立書10/19ページ6行?13/19ページ6行)。
そこで、この主張について検討すると、甲1A発明の認定に用いた甲1の「比較例1」は、記載事項1f、1gによると、Naを10ppm、Kを12ppm含有する原料であるシリカDを、Na及びKを不純物として含む有機アルミニウム化合物で表面処理した後、乾燥させ1次粒子に解砕し、解砕した1次粒子を、1400℃で6時間維持することを含む加熱処理を行ってクリストバライト化してクリストバライト粒子を得たものである。
一方、甲5には、記載事項5a?5dによると、アルカリ金属元素の濃度を5?600ppmとした非晶質シリカを1000?1300℃で加熱し、次いで1300℃を超える温度で加熱して脱アルカリするクリストバライト化シリカの製造方法について記載されている。そして、記載事項5e、5fによると、1400℃で7時間加熱処理することによりシリカ粒子の脱アルカリ及びクリストバライト化が進行し、また、記載事項5gによると、「実施例5,および比較例2」は、1400℃で8時間加熱処理することにより、原料シリカの比表面積によって脱アルカリ量は変動するものの、比表面積が小さい場合であっても、シリカに含まれるアルカリ量は減少していることが把握できる。
そうすると、甲1の「比較例1」における1400℃で6時間維持する熱処理は、甲5に記載された脱アルカリ工程と同じ温度で同程度の長時間の熱処理を行っているといえ、当該熱処理によりクリストバライト粒子のアルカリ成分は減少すると推認できるから、甲1A発明に係るクリストバライト粒子は、原料のアルカリ成分が維持されて、本件発明1と同じ20ppm以上のアルカリ成分を含んでいるとは必ずしもいうことはできない。
したがって、相違点3に係る甲1A発明のアルカリ成分濃度は、溶出する金属イオンの量を示すとしても、本件発明1のアルカリ成分の含有量が、甲1A発明と一致するとはいえない。

次に、甲1において、記載事項1c、1eによると、アルカリ金属の含有量が少ない高純度のクリストバライト粒子を提供することを目的とし、原料となる非晶質シリカ粒子のアルカリ成分は、10ppm以下、好ましくは5ppm以下であるものを使用することとされ、クリストバライト粒子はアルカリ成分を含有することは望ましくないものとされているから、甲1には、クリストバライト粒子のアルカリ成分を20ppm以上にするという動機はない。
一方、甲5には、記載事項5aなどによると、非晶質シリカのアルカリ成分濃度を5?600ppmに調製してクリストバライト化を行うことが記載されているが、記載事項5c,5eによると、原料シリカ及びクリストバライト化シリカのアルミニウムの含有量は1ppm以下に維持するものであるといえる。
そうすると、甲5の記載を参照しても、甲1A発明において、アルミニウムを含有したままクリストバライト粒子のアルカリ成分を20ppm以上とする動機があるとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明といえず、また、甲1又は甲1及び甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ii)本件発明2?4、6について
本件発明2?4、6は、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(i)と同様の理由により、本件発明2?4、6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1又は甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(iii)本件発明7について
本件発明7と甲1B発明とを対比すると、本件発明7は、少なくともアルミニウム成分及びアルカリ成分の含有量を調製したシリカ粉末を溶射する点で、甲1B発明と相違している。
そして、甲1、甲5の記載事項をみても、上記シリカ粉末を溶射する点は、記載も示唆もされていない。
また、アルミニウム及びアルカリ成分を調製されたシリカ粉末を、熱処理前に溶射するという当該相違点に係る本件発明7の発明特定事項が、本件優先日前に周知慣用技術であったともいえない。
なお、甲1の記載事項1dには、球状非晶質シリカを得る際に、粉砕粒子を火炎中に通し溶融球状化させること、すなわち溶射することについて記載されているが、これは、有機アルミニウム化合物などで表面処理するための原料となる球状非晶質シリカの調製について記載したものであって、本件発明7のように、アルミニウム及びアルカリ成分の含有量を調製したシリカ粉末を溶射することを示唆するものとはいえない。
また、申立人は、甲5の4ページ右上欄13行目?左下欄1行目において、「・・・加熱方式としては・・・燃焼ガスなどによればよい。」との開示があり、前記「燃焼ガス」の記載は、本件明細書の【0032】の「溶射では、粒子を火炎中に通すことにより・・・」における「火炎」に相当すると主張している(特許異議申立書14/19ページ10?17行)。
しかし、記載事項5dによると、上記「燃焼ガス」は、シリカの加熱処理を行う装置として、管状炉などの加熱方式を記載しているにすぎず、シリカを燃焼ガス中に通すことが示唆されているわけではないから、この主張は採用できない。

よって、本件発明7は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1又は甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(iv)本件発明9について
本件発明9は、本件発明7の特定事項の全てを含むものであるから、上記(iii)と同様の理由により、本件発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1又は甲1及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 「(1)イ」について
本件発明1?4、6、7、9が、甲6に記載された発明であるか、または、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたかどうかについて検討する。

甲6の記載事項6a?6cをみると、酸化アルミニウム系セラミックからなる被膜が表面に形成され、クリストバライトを主結晶とし、球状である結晶性シリカ粒子からなるシリカフィラー粉末、及び非晶質シリカ粒子の表面に酸化アルミニウム系セラミックからなる被膜を形成した後、1300?1600℃で5?10時間焼成する上記シリカフィラー粉末を製造する方法について記載されていると認められる。
しかし、特に上記シリカフィラー粉末がアルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むこと、及び当該アルカリ成分を含むようにシリカ粉末を調製して、調製されたシリカ粉末を溶射することについて、甲6には、何ら記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1?4、6に係る球状結晶性シリカ粒子の発明及び本件発明7、9に係る球状結晶性シリカ粒子を製造する方法の発明は、甲6に記載された発明とはいえず、また、甲6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

5 申立人の意見について
申立人は、平成30年10月 2日付けの意見書において、本件発明は、依然として下記取消理由を有すると主張しているので、以下に検討する。

(1) 特許法第36条第4項第1号
特許権者の意見書において、アルカリ成分が少ない参考例D4は、アモルファス相を含むことから、アルカリ成分の意義が裏付けられたとしているが、甲1をみるとアルミニウム含有量が多い範囲では、アルミニウムの作用だけで結晶化度の高いクリストバライトが得られるから、アルカリ成分を存在させる意義が充分に示されていないと、申立人は主張している。
しかし、上記「3(2)」に記載したとおり、本件明細書の段落【0029】を参照すると、本件発明の球状結晶性シリカのアルカリ成分を300ppmを上限として存在させる理由は明らかであるから、申立人の当該主張に理由はない。

(2) 特許法第29条第2項
甲1には、アルカリ成分の含有量にかかわらず、アルミニウムの含有量が200?2000ppmの範囲であれば高い結晶化度のクリストバライトが得られることが開示され、また、甲5には、アルカリ成分(アルカリ金属)を5?600ppm含有させることで結晶化度の高いクリストバライト化シリカが得られることが開示さているから、高い結晶化度を実現するために甲1と甲5を組み合わせることに困難性はなく、また、甲5のアルカリ成分を30ppm含有する「参考例1-2」は高い結晶化度が実現できているから、本件発明は顕著な効果を奏するものでもないと、申立人は主張している。
しかし、上記「4(4)ア(イ)(i)」の本件発明1の対比・判断において記載したとおりであって、甲1では、クリストバライト粒子のアルカリ金属の含有量が10ppm以下などと規定するものであり、本件発明のようにクリストバライト粒子のアルカリ成分を20ppm以上とする動機は存在せず、また、甲5では、Alはできるだけ少ない方がよく、1ppm未満に規定されるものであって、本件発明のようにアルミニウムを400ppm以上とする動機は存在しないから、甲1及び甲5の記載に基づいて、アルミニウム及びアルカリ成分の含有量を本件発明のように設定することは、容易になし得るものであるとはいえない。
よって、申立人の当該主張に理由はない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1?4、6、7、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4、6、7、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項5、8に係る特許は、訂正により削除されたため、これらの特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶性シリカ粒子、およびその製造方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子は樹脂フィラーとして用いられており、例えば、半導体素子の封止材用のフィラーとして用いられている。シリカ粒子の形状について、角張った形状であると樹脂中での流動性、分散性、充填性が悪くなり、また製造装置の摩耗も進む。これらを改善するため、球状のシリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
一般的には、球状シリカの製法として溶射が用いられている。溶射では、粒子を火炎中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。溶融球状化された粒子どうしが融着しないように気流搬送して回収されるが、溶射後の粒子は急冷される。溶融状態から急冷されるため、シリカは、ほとんど結晶を含有せず、非晶質(アモルファス)構造を有する。
【0004】
球状シリカは非晶質であるため、その熱膨張率および熱伝導率が低い。非晶質シリカの熱膨張率は、0.5ppm/Kであり、熱伝導率は1.4W/mKである。これらの物性は、結晶構造を有さず非晶質(アモルファス)構造を有する、石英ガラスの熱膨張率と概ね同等である。
【0005】
熱膨張率が低い非晶質シリカを高充填した封止材は、熱膨張率が非常に小さいので、リフロー時の加熱温度や半導体デバイスの作動温度により、反りやクラックが生じることがある。また、熱伝導率が低いことにより、半導体デバイスから発生する熱の放散も問題となっている。
【0006】
一方で、シリカの結晶構造として、クリストバライト、石英、トリジマイト等があり、これらの結晶構造を有するシリカは非晶質シリカと比べて、高い熱膨張率および熱伝導率を有することが知られている。そのため、非晶質の球状シリカを、結晶化して、熱膨張率を高めるための種々の方法が提案されてきた(特許文献1、2)。
【0007】
非晶質のシリカを結晶化するための従来型の手段の一つは、高純度の非晶質シリカを高温で熱処理し、その後徐冷することにより、結晶化を促進させるものである。特許文献3では、球状の非晶質シリカを、1200?1600℃の高温で5?24時間加熱し、結晶を確実に成長させた後、20?50時間かけてゆっくりと室温まで冷却することでクリストバライト化させることができると提案している。
【0008】
また、非特許文献1では、非晶質の球状シリカにアルカリ金属酸化物を0.5?7.0mass%添加して焼成処理を行い、この添加による結晶化と相転移への影響を報告している。無添加の場合、焼成後のシリカに結晶相は認められなかった。添加量が多く焼成温度が高くなるほど、結晶化が促進された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】公開特許公報 2012-102016号明細書
【特許文献2】公開特許公報 平10-251042号明細書
【特許文献3】公開特許公報 2001-172472号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】樋口昌史ら、J.Ceramic Society of Japan 105[5]385-390(1997)非晶質シリカの焼結に伴う結晶化と相転移におけるアルカリ金属酸化物の影響
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多様な環境で半導体製品を利用することが求められており、特に高温環境で利用した場合に、反りやクラック等のないことが求められている。その場合、熱膨張率および熱伝導率の高いフィラーとして、球状結晶性シリカは有用である。
【0012】
球状結晶性シリカを得る方法の一つは、高純度の非晶質シリカを高温で熱処理し、その後徐冷することにより、結晶化を促進させるものである(特許文献3)。しかしながら、1200?1600℃の高温での熱処理の際に、シリカ粒子どうしが融着したり、焼結したりすることにより結合してしまうという問題がある。また、確実な結晶化のために、高温処理を24時間まで行って、その後20?50時間かけてゆっくりと室温まで冷却しており、生産性が低く、製造コストが高いという問題もある。
【0013】
なお、特許文献1は、シリカゾル分散液を細孔に通して球状のエマルジョンにした上で、ゲル化、熱処理して結晶質のシリカを得る方法を提案している。特許文献1の方法は、エマルジョンを分離、乾燥する工程が加わるために、生産性は低く、高価なシリカゾルを原料として用いるため製造コストも高くなる。また、溶射による球状シリカ粒子を結晶化したものが緻密なのに比べて、粒子内部にポアが残りやすい問題がある。
【0014】
特許文献2は、結晶性シリカ粒子の表面に、酸化アルミニウム系セラミックからなる被膜が形成されてなる、シリカフィラー粉末を提案している。その製法では、非晶質シリカ粒子と、アルミナ微粉、ムライト微粉等の酸化アルミニウム系セラミック微粉を混合し、次に混合粉末を焼成(1300?1600℃で5?20時間)することにより、非晶質シリカ粒子が結晶化して、クリストバライト等を主結晶とする結晶性シリカ粒子となり、また粒子表面に微粉が固着して被膜が形成される。特許文献2の方法も、高温且つ長時間の熱処理で結晶化する点で特許文献3と同様の問題を含む。なお、酸化アルミニウム系セラミックからなる被膜は、熱膨張率に差のあるガラス粉末等の材料と混合して使用した場合に、両者の膨張差を緩和する緩衝効果を期待するためのものである。
【0015】
非特許文献1は、非晶質の球状シリカにアルカリ金属炭酸塩を酸化物換算で0.5?7.0mass%添加して焼成処理を行ったところ、添加量が多く焼成温度が高くなるほど、結晶化が促進されることを報告している。しかしながら、半導体封止材では高純度が必要とされており、アルカリ金属酸化物を0.5mass%(5000ppm)以上添加することは受け入れられない。万一、非特許文献1の教示にしたがって、球状シリカ粒子にアルカリ金属を酸化物換算で0.5mass%以上添加した場合、高濃度のアルカリ金属酸化物による融点降下が進み、球状シリカ粒子どうしの融着や焼結が進み、非特許文献1のSEM写真に示される通り球状シリカ粒子の形状を保つことができない。また、この球状シリカ粒子をフィラーとして半導体封止材に混入させた場合、樹脂の硬化阻害により封止材が固体化しない可能性もある。
【0016】
本発明は、従来よりも生産性が高く、製造コストは低く、且つ高熱膨張率、高熱伝導率を有し、球状であるために、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm以下含み、平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
[2]
結晶相を90%以上含むことを特徴とする、項目1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[3]
結晶相の95?100%がクリストバライト結晶相であることを特徴とする、項目1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子
[4]
クリストバライト結晶相の相転移開始温度が220?245℃であることを特徴とする、項目1?3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[5]
(削除)
[6]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、項目1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
[7]
400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
[8]
(削除)
[9]
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、項目7に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、結晶化率が高いために、高熱膨張率、高熱伝導率を有し、球状であるために、高流動性、高分散性、高充填性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子が提供される。また、本発明によれば、従来のシリカ粒子製造方法よりも、生産性が高く、製造コストが低い、前記球状結晶性シリカ粒子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱処理(保定)前後の球状シリカ粒子(本発明例)走査型電子顕微鏡写真
【図2】熱処理(保定)前後の球状シリカ粒子(比較例)走査型電子顕微鏡写真
【図3】本発明例および比較例のシリカ粒子の樹脂混合物の熱膨張率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、球状結晶性シリカ粒子の製造方法において、原料のシリカ粒子粉末にアルミニウムを混合して、原料中にアルミニウムを400?5000ppm含むようにし、当該原料を溶射して生じたシリカ粒子は、驚くべきことに、その後の結晶化に必要な熱処理が、従来よりも緩やかな条件、すなわち、熱処理温度が1100℃?1600℃と低い温度域で処理しても、また、熱処理時間が1?12時間と短い時間間隔で処理しても、出来上がった球状シリカ粒子中の結晶相の割合を80%?100%とすることができ、従来のシリカ粒子製造方法よりも、生産性が高く、製造コストを低くすることができることを見出した。更に、このようにして製造された、『400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含むことを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子』によって、結晶化率が高いために、高熱膨張率、高熱伝導率を有し、球状で有るために、高流動性、高分散性、高充填性、低摩耗性を有し、半導体分野にも適用可能な、球状結晶性シリカ粒子を実現できることを見出した。
【0021】
本発明のシリカ粒子は、400?5000ppmのアルミニウムを含むようになる。
原料のシリカ粒子粉末に、アルミニウムを400?5000ppmの範囲で含むことにより、シリカの結晶化が、1100?1600℃の温度範囲で1?12時間の加熱処理(保定)し、冷却することで実現される。特許文献3に記載されるような従来の結晶化方法は、1200?1600℃の高温で24時間までの熱処理を行って、その後20?50時間かけてゆっくりと室温まで冷却している。すなわち、本発明の製造方法において、加熱処理温度を従来よりも低温でも行うことができ、加熱処理時間も従来よりも短時間で行うことができる。また、本発明の冷却時間は特に制限がなく、急冷しても結晶化率は低下しない。そのため、冷却のための特別な工程を必要とせず、実際の操業条件をそのまま適用可能である。例えば、冷却時間は、数十分から、およそ20時間またはそれ未満であってもよい。したがって、本発明のシリカ粒子は、従来よりも生産性が高く、製造コストが低い。
【0022】
特定の理論に拘束されるものではないが、アルミニウムは熱処理(保定)の際に結晶核形成剤として作用することが考えられる。また、アルミニウムが酸化したアルミナはシリカ粒子の化学耐久性(耐酸性など)を高める効果も期待できる。アルミニウムの含有量が400ppm未満では、結晶化促進効果や化学耐久性向上効果が十分でないことがある。結晶化促進効果や化学耐久性向上効果を高めるために、アルミニウム含有量の下限値を410ppm、好ましくは420ppm、さらに好ましくは430ppm、より好ましくは440ppm、さらに好ましくは450ppm、より好ましくは460ppm、さらに好ましくは470ppm、より好ましくは480ppm、さらに好ましくは490ppm、より好ましくは500ppm、さらに好ましくは510ppm、より好ましくは520ppm、より好ましくは530ppm、さらに好ましくは540ppm、より好ましくは550ppmとしてもよい。一方でアルミニウムまたはアルミナは、シリカの融点を低下させる効果も知られており、例えばアルミナシリカガラスの融点は、純粋なシリカガラスの融点よりも低い。そのため、アルミニウムの含有量が5000ppmを超えると、シリカ粒子の融点が低下し、熱処理(保定)中に、シリカ粒子どうしが融着または焼結により結合しやすくなる。粒子どうしの結合が進むと、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなく、また封止材作製用機器の摩耗も促進される。また、半導体封止材では概して高純度が必要とされており、アルミニウムを5000ppm以上添加することは、適当でない場合がある。融点の低下を避けるために、アルミニウム含有量の上限値を4500ppm、好ましくは4000ppm、さらに好ましくは3500ppm、より好ましくは3000ppm、さらに好ましくは2500ppm、さらに好ましくは2000ppm、より好ましくは1500ppm、さらに好ましくは1000ppmとしてもよい。
アルミニウムの含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP-MS)により測定することができる。好ましくは、原子吸光法である。
【0023】
本発明のシリカ粒子は、結晶相を80%以上含む。非晶質シリカの熱膨張率は、0.5ppm/Kであり、熱伝導率は1.4W/mKである。これに対して、結晶性のシリカは結晶構造によって違いはあるが、非晶質シリカよりも高い熱膨張率、熱伝導率を有する。具体的には、石英は、熱膨張率14ppm/K、熱伝導率6.6W/mKを有する。クリストバライトおよびトリジマイトは、熱膨張率20?34ppm/K、熱伝導率10W/mKを有する。本発明のシリカ粒子の結晶相は、クリストバライト、石英、トリジマイトの少なくとも一つであってもよい。したがって、本発明の結晶性シリカ粒子は、結晶化率が高いために、非晶質のシリカよりも、高い熱膨張率、熱伝導率を有する。シリカ粒子を半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、半導体素子に大電流が流れるため半導体装置の発熱が大きく、この熱を逃すために熱伝導率の高い結晶性シリカは有用である。また、半導体装置の発熱に伴い、半導体封止材が熱膨張、収縮し、クラックや反りを生じることがある。本発明の結晶性シリカは、熱膨張率が高いため、クラックや反りを生じにくい。結晶相が80%未満であると、シリカ粒子としての熱膨張率、熱伝導率が十分に高くない場合がある。
更に、結晶相を90%以上含む場合に、半導体封止材のクラックや反りを低減させるのに有効であるため、結晶相の割合は90%以上であることが望ましい。
結晶相の割合は、例えばX線回折(XRD)により測定することができる。XRDで測定する場合、結晶性ピークの積分強度の和(Ic)と非晶質のハロー部分の積分強度(Ia)から、以下の式で計算することができる。
X(結晶相割合)=Ic/(Ic+Ia)×100 (%)
また、シリカ粒子の結晶相では、石英やトリジマイトに比べて、クリストバライトが熱膨張が大きく、半導体封止材のクラックや反りの低減のために効果的である。これは、クリストバライトが220?245℃でα相からβ相に相転移する際、結晶構造の変化に伴い大きく体積膨張するためである。このため、結晶相の95?100%がクリストバライトの結晶相であることが望ましい。
シリカ粒子に含まれる結晶相中における各種結晶相の割合は、XRDにより測定することができる。例えば、石英はPDF 33-1161、クリストバライトはPDF11-695、トリディマイトはPDF18-1170のピークのデータを用いて、それぞれのピークの積分強度の和の比率、あるいはピーク強度の和の比率から、それぞれの結晶相の割合を算出することができる。また、より簡便な方法としては、石英の最大強度のピーク(101面、d=3.342)、クリストバライトの最大強度のピーク(101面、d=4.05)、トリディマイトの最大強度のピーク(211面、d=4.107)の強度比から結晶相の割合を算出することができる。また、クリストバライトとトリディマイトの最大強度のピーク位置は近接しているため、それぞれのピークをピーク分離して強度を算出するか、2番目以降の強度のピークをpdfデータの強度比を元に補正して計算に用いることができる。
また、本発明のシリカ粒子は、相転移開始温度が220?245℃であることが望ましい。これはこの温度で相転移が起こる場合、クリストバライトの熱膨張率が大きく変化し、反りや割れを低減する効果が得られるためである。
相転移開始温度が220℃より低い場合、クリストバライトの熱膨張率の変化が小さく、反りや割れを低減する効果を得にくくなる。また、相転移開始温度が245℃より高い場合、熱膨張率の変化は大きいものの、樹脂が硬化する温度より、高い温度で熱膨張が起こるため、反りや割れを低減する効果を得にくくなる。
相転移開始温度は、示差熱分析(DTA)により測定することができ、クリストバライトの相転移は吸熱ピークとして現れるため、吸熱ピークの外挿の開始温度を相転移開始温度として測定することができる。
【0024】
本発明のシリカ粒子は、球状である。球状にするための手段は特に制限されるものではなく、粉砕、研磨等の手段を用いてもよい。特に、結晶化する前に溶射する手段は、生産性が高く、低コストで球状化することができる。球状のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高く、また封止材作製用機器の摩耗も抑えることができる。
【0025】
本発明のシリカ粒子は、平均粒径(D50)が1?100μmであってもよい。平均粒径が100μmを超えると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、粒径が粗くなりすぎてゲートづまりや金型摩耗を引き起こしやすくなることがあり、また粒径が大きいため粒子全体が結晶化しにくくなる。そのため、50μm以下とすることが好ましい。また、平均粒径が1μm未満では粒子が細かくなりすぎて、つまり粒子の表面積比が大きくなり、粒子どうしの融着または焼結による結合が生じやすくなり、多量に充填することができなくなることがある。
更に望ましくは、平均粒径が3μm以上の粒子を用いる。熱処理による結晶化させる場合、高温の方が結晶化の度合いが進み、特性の良い結晶性球状粒子を得ることができるが、このような高温では平均粒径3μm未満の粒子は、凝集を起こしやすく、円形度が低くなることがある。3μm以上の粒子を用いることにより、結晶化の度合いが十分に進むような温度でも凝集を起こさずに結晶化することが可能である。
なお、ここでの平均粒径は、例えばレーザー回折法による粒度分布測定等により求めることができる。レーザー回折法による粒度分布は、例えばCILAS社製CILAS920で測定することができる。
ここで言う平均粒径は、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法等の方法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0026】
上記の粒径範囲にするためには、原料のシリカ粒子(結晶化する前の粒子)の粒径を調節することで可能である。前述の溶射手段であれば、容易に粒径を調節することができる。言い換えると、本発明のシリカ粒子の平均粒径は、結晶化のための加熱処理(保定)の前後で、ほとんど変化をしない。非晶質のシリカ粒子どうしは、1100?1600℃程度でも粒子が軟化し、融着または焼結により結合することがあるが、本発明のシリカ粒子は、1100?1600℃で結晶質にされており、非晶質のように軟化しないため、1100?1600℃程度での融着または焼結により結合することが十分に抑えられる。特に、粒子どうしの融着または焼結による結合は、粒子の表面積比が大きいほど、つまり粒径が小さいほど生じやすい。ただし、本発明のシリカ粒子は、結晶性であるため、平均粒径が1μmであっても、融着または焼結による結合をすることがなく、凝集しにくい。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高く、また封止材作製用機器の摩耗も抑えることができる。
【0027】
本発明の球状シリカ粒子は、円形度が0.88以上である。本発明での円形度は、市販のフロー式粒子像分析装置により測定することが簡便であり、好ましい。また、相対的に大きい粒子は光学顕微鏡の顕微鏡写真、相対的に小さい粒子は走査型電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡写真から画像解析処理ソフトウェアを用いて次のように求めることができる。少なくとも100個のシリカ粒子のサンプルの写真を撮影し、それぞれのシリカ粒子(二次元投影図)の面積、周囲長さを計測する。シリカ粒子が真円であると仮定し、計測された面積を有する真円の円周を計算する。円形度=円周/周囲長さの式により、円形度を求める。円形度=1のときが、真円である。つまり、円形度が1に近いほど、真円に近いとされる。このようにして求めた各粒子の円形度の平均を計算し、本発明の粒子の円形度とする。円形度が0.88未満であると、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が十分でなく、また封止材作製用機器の摩耗が促進される場合がある。
【0028】
上記の円形度にするためには、原料のシリカ粒子(結晶化する前の粒子)の円形度を調節することで可能である。前述の溶射手段であれば、容易に円形度の高い粒子を得ることができる。そして、本発明のシリカ粒子の円形度は、結晶化のための加熱処理(保定)の前後で、ほとんど低下しない。本発明のシリカ粒子は、アルミニウムを400?5000ppmの範囲で含むことにより、1100?1600℃で結晶質にされており、この温度範囲では円形度がほとんど低下しないためである。また、非晶質のシリカ粒子どうしは、1100?1600℃程度で、融着または焼結により結合することがあるが、本発明のシリカ粒子は、アルミニウムを400?5000ppmの範囲で含むことにより、1100?1600℃で結晶質にされているため(既に非晶質でないため)、1100?1600℃程度での融着または焼結により結合することが十分に抑えられる。結合すると円形度は低下するが、本発明のシリカ粒子どうしは結合が十分に抑えられているために、円形度がほとんど低下しない。したがって、本発明のシリカ粒子は、半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、流動性、分散性、充填性が高く、また封止材作製用機器の摩耗も抑えることができる。
【0029】
また、本発明の球状結晶性シリカ粒子は、樹脂と混合して半導体用の封止材料等に用いることができるが、アルカリ成分を多く含まないことが望ましい。これは、アルカリ成分が多いと、樹脂の硬化を阻害したり、半導体の封止材として使用した際、腐食が発生して半導体の性能を劣化させる原因となる。また、アルカリ成分が300ppmを超えて含まれると結晶化の熱処理(保定)の際に粒子の軟化温度が下がるため、粒子同士がくっついて、円形度を低下させてしまう。このため、シリカ粒子に含まれるアルカリの量は300ppm以下であることが望ましい。
また、アルカリ成分が含有されている方が結晶化が進む効果が得られるため、本発明の球状結晶性シリカ粒子は、20?300ppmのアルカリ成分を含んでもよい。20ppmより少ないアルカリ成分では、20ppm以上アルカリ成分を含む場合よりも結晶化の度合いが低くなるため、20ppm以上のアルカリ成分を含むことが望ましい。
アルカリ成分とは、周期表において第1族に属する元素のうち水素を除いたリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムをいう。
アルカリ成分の含有量は、例えば原子吸光法、ICP質量分析(ICP-MS)により測定することができる。
【0030】
本発明の製造方法について説明する。本発明の球状結晶性シリカ粒子は、以下の工程を含む方法で製造することができる。すなわち、本発明の製造方法は、
金属アルミニウム換算で400?5000ppmのアルミニウムを含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の熱処理(保定)し、
熱処理(保定)された球状シリカ粒子を冷却する工程を含む。そして、この方法によって製造された球状結晶性シリカ粒子は、80%以上の結晶相を有する。
【0031】
出発原料となる、シリカ粉末は、非晶質であるか結晶質であるかを問わない。また、シリカ粉末は多孔質であるか非多孔質であるかを問わない。シリカ粉末は不純物としてアルミニウムもしくはアルミニウム化合物を含んでもよい。不純物として含まれるアルミニウム量を考慮して、400?5000ppmの量でアルミニウムが含まれるようにシリカ粉末を調製する。アルミニウム含有量の下限値が410ppm、好ましくは420ppm、さらに好ましくは430ppm、より好ましくは440ppm、さらに好ましくは450ppm、より好ましくは460ppm、さらに好ましくは470ppm、より好ましくは480ppm、さらに好ましくは490ppm、より好ましくは500ppm、さらに好ましくは510ppm、より好ましくは520ppm、より好ましくは530ppm、さらに好ましくは540ppm、より好ましくは550ppmとなるように調製してもよい。アルミニウム含有量の上限値が4500ppm、好ましくは4000ppm、さらに好ましくは3500ppm、より好ましくは3000ppm、さらに好ましくは2500ppm、さらに好ましくは2000ppm、より好ましくは1500ppm、さらに好ましくは1000ppmとなるように調製してもよい。調製のために、アルミニウムを添加してもよく、添加するアルミニウムとしてアルミニウム化合物を用いてもよい。
添加するアルミニウムもしくはアルミニウム化合物としては、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アルミナゾル、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドなどを用いることができる。溶射アルミニウムもしくはアルミニウム化合物を添加する場合、シリカ粒子と均一に混合し、溶射の際にシリカ粒子に均一に取り込まれることが望ましいため、シリカ粉末より微細な粉末で添加して混合するか、水溶液等の溶液にしてシリカ粉末と混合することが望ましい。また、原料のシリカ粉末を粉砕により粒度調整する段階で、アルミナボールを用いたボールミル粉砕を行うことで、アルミナボールの摩耗粉をシリカ粉末に混入させる方法でもアルミニウムを添加することができる。
シリカ粉末の粒径は、調製され、溶射されるので、調製や溶射工程に応じて適宜調整される。また、シリカ粉末は、平均粒径(D50)が1?100μmのものを用いることができる。平均粒径(D50)が1μmより小さいシリカ粉末を用いた場合、粒子が凝集してしまい、溶射の際の原料供給が困難になる場合がある。また、凝集した状態で溶射した場合、凝集体のまま溶融して、球状化するため、目的とする粒子よりも大きな粒子になってしまうことがある。平均粒径(D50)が100μmより大きいシリカ粉末を用いた場合、前述したように、ゲートづまりや金型摩耗を引き起こしやすくなることがある。より好ましくは、3?100μmで、更に好ましくは、3?50μmである。
【0032】
400?5000ppmのアルミニウムを含むように調製されたシリカ粉末、を溶射し、球状シリカ粒子を得る。溶射では、粒子を火炎中に通すことにより、粒子が溶融し、粒子の形状は表面張力により球状となる。また、この溶射工程(溶融)を通じて、調製したシリカ粉末に含まれるアルミニウムがシリカ粒子に分散する。アルミニウムは、続く熱処理(保定)工程の際に結晶核形成剤として作用することが考えられ、シリカ粒子中に分散していることにより、均等且つ従来よりも低い温度と短い時間での結晶成長が実現される。
溶融球状化された粒子どうしが融着しないように、溶射後の粒子は急冷処理してもよい。その場合、溶融状態から急冷されるため、球状シリカ粒子は、結晶構造を有さず、非晶質(アモルファス)構造を有してもよい。球状シリカ粒子は溶射されているため、非多孔質であってもよい。非多孔質の球状シリカ粒子は、緻密であり、熱伝導率が高くなると期待される。
【0033】
上記の400?5000ppmのアルミニウムに加えて、アルカリ成分が300ppm以下となるように調製されたシリカ粉末を調整してもよい。アルカリ成分が300ppmを超えて含まれると結晶化の熱処理(保定)の際に粒子の軟化温度が下がるため、粒子同士がくっついて、円形度を低下させてしまう。このため、シリカ粉末に含まれるアルカリの量は300ppm以下であることが望ましい。
【0034】
また、アルカリ成分が含有されている方が結晶化が進む効果が得られるため、20?300ppmのアルカリ成分を含むようにシリカ粉末を調整してもよい。20ppmより少ないアルカリ成分では、20ppm以上アルカリ成分を含む場合よりも結晶化の度合いが低くなるため、20ppm以上のアルカリ成分を含むことが望ましい。
【0035】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、平均粒径(D50)が1?100μmであってもよい。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1600℃程度であるため、球状シリカ粒子の粒径はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に粒径を調節することができる。このため、本発明の方法では、所望の平均粒径の球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
【0036】
溶射して得られた球状シリカ粒子は、円形度が0.88以上である。続く結晶化のための加熱、冷却工程は最大温度が1600℃程度であるため、球状シリカ粒子の円形度はほとんど変化をしない。そして、溶射手段であれば、容易に円形度の高い粒子を得ることができる。このため、本発明の方法では、所望する円形度の高い球状結晶性シリカ粒子を容易に実現できる。
溶射して得られる球状シリカ粒子の円形度を0.88以上にするためには、原料のシリカ粉末を溶融状態にして球状にすることが必要であるため、溶射する際の火炎の温度はシリカが溶融する温度より高くする必要がある。より円形度の高い球状シリカを得るためには、火炎の温度が2000℃以上であることが望ましい。
また、溶射の際のシリカ粒子同士が接触すると、粒子同士が結合して、いびつな形状になりやすいため、火炎中への原料の供給は、ガス気流中に原料を分散させて供給したり、供給量を調整することが望ましい。
【0037】
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の熱処理(保定)し、熱処理(保定)された球状シリカ粒子を冷却し、球状結晶性シリカ粒子を得る。冷却時間は特に制限されない。溶射された球状シリカ粒子は、結晶核形成剤として作用することが考えられるアルミナが、シリカ粒子中に分散していることにより、均等且つ従来よりも低い温度と短い時間で結晶成長が実現される。
また、温度と時間の組合せは、所望するシリカ粒子の結晶化率と円形度を考慮して、適宜設定される。概して、熱処理(保定)時間を長くするにつれて、または、熱処理(保定)温度を高くするにつれて、結晶化率は高くなる。低温で短時間の処理では、結晶相の含有割合が80%未満になってしまう場合がある。また、高温で熱処理(保定)する場合、熱処理(保定)時間を長くすると、粒子同士の結合が起こり、円形度が0.88未満になってしまう場合がある。このため、本発明による球状結晶性シリカ粒子を得るためには、熱処理(保定)温度と熱処理(保定)時間の組合せを原料の不純物量や粒径によって調整することが望ましい。結晶化率を高めるために、熱処理(保定)時間の下限値を、2時間、好ましくは3時間、より好ましくは4時間、さらに好ましくは5時間とし、また、熱処理(保定)温度の下限値を、1150℃、好ましくは1200℃、より好ましくは1250℃、さらに好ましくは1300℃としてもよい。また、円形度の低下を避けるために、熱処理(保定)時間の上限値を、11時間、好ましくは10時間、より好ましくは9時間、さらに好ましくは8時間とし、また、熱処理(保定)温度の上限値を、1550℃、好ましくは1500℃、より好ましくは1450℃、さらに好ましくは1400℃としてもよい。
また、前述したように、本発明のシリカ粒子は、相転移開始温度が220?245℃の場合に高い効果が得られるが、熱処理(保定)温度、熱処理(保定)時間を調整することにより、相転移開始温度がこの温度範囲のシリカ粒子を得ることができる。
【0038】
冷却された球状結晶性シリカ粒子は、80%以上の結晶相を有する。結晶性シリカ粒子は、結晶化率が高いために、非晶質のシリカよりも、高い熱膨張率、熱伝導率を有する。シリカ粒子を半導体封止材用のフィラー等として利用する場合に、半導体装置の大きな発熱を逃すために熱伝導率の高い結晶性シリカは有用である。また、半導体装置の発熱に伴い、半導体封止材が熱膨張、収縮し、クラックや反りを生じることがあるが、得られた結晶性シリカは、熱膨張率熱膨張率が高いため、クラックや反りを生じにくい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例1】
【0040】
表1の平均粒径、不純物含有量の原料シリカ粉末を溶射して、球状シリカ粒子を作製した。得られた球状シリカ粒子を大気中で昇温速度200℃/時で1300℃まで昇温し、1300℃で6時間保持した後、降温速度200℃/時で常温まで冷却した。得られたシリカ粒子の円形度、結晶化率を求め、表2に示す。
【0041】
円形度は、Sysmex社製フロー式粒子像解析装置「FPIA-3000」を用いて測定した。顕微鏡を用いて測定した円形度も、フロー式解析による円形度と同じであった。
【0042】
結晶化率は、X線回折により、非晶質のピークと結晶質のピークの積分面積を求め、その結晶質の面積の比率を結晶化率とした。つまり、結晶化率=結晶質のピークの積分面積/(非晶質のピークの積分面積+結晶質のピークの積分面積)として計算した。
原料および熱処理(保定)後の平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(CILAS社製CILAS920)を用いて測定した。尚、D50とは、メディアン径ともよばれ、積算重量%が50%となる粒径である。
原料および熱処理(保定)後の不純物含有量は、試料を酸で加熱分解して得られた試料水溶液を原子吸光法により測定した。
また比表面積は、Micromeritics製TristarIIを用いてBET法により測定した。
結晶化率は、XRD装置にリガク製RINT-TTRIIIを用い、Cu管球で管電圧50kV、管電流300mA、発散スリット1/2°、散乱スリット8mm、受光スリット13mm、スキャン速度2°/min、サンプリング幅0.01°の条件で測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
本発明による実施例Aでは、円形度が0.95であり、結晶化率は100%であった。なお、結晶形態はクリストバライトであった。
【0046】
比較例Bでは、アルミニウム含有量が、本発明の範囲よりも少なく、X線回折での結晶ピークは確認されず、非晶質のピークのみが確認された。すなわち、結晶化率は0%であった。円形度については、粒子どうしが結合してしまい、粒子ごとの円形度測定ができなかった。
【0047】
次に、共通の平均粒径、不純物含有量を有する原料シリカ粉末を溶射して、球状シリカ粒子を作製した。その後、得られた球状シリカ粒子を熱処理温度(保定温度)を変えて処理した結果を表3に示す。保持温度以外の昇温速度、保持時間、降温速度は前述のものと同じ条件とした。
【0048】
表3に示すとおり、1100?1300℃で処理した場合(C1?C3)では、円形度が0.92以上であり、結晶化率が91%以上であった。なお、結晶形態はクリストバライトであった。
【0049】
1000℃で保持したもの(C4)は、結晶化率が11%と低かった。
【0050】
【表3】

【実施例2】
【0051】
Al含有量の異なる原料シリカ粉末を溶射して得られた球状粒子を作製し、実施例1と同じ条件で熱処理(保定)した結果を表4に示す。
真比重は、Micromeritics製AccupycII 1340を用いて、気体置換法により測定した。
結晶相の割合とクリストバライトのメインピークの半値幅は、XRD装置にリガク製RINT-TTRIIIを用い、Cu管球で管電圧50kV、管電流300mA、発散スリット1/2°、散乱スリット8mm、受光スリット13mm、スキャン速度2°/min、サンプリング幅0.01°の条件で測定した。
相転移開始温度は、SETARAM Instrumentation製SETSYS Evolution示差熱分析装置により測定した。
Alが400ppm以上のサンプルがいずれも結晶化したのに対し、400ppmより少ないものは結晶化しなかった。また、Alが5000ppm以上のサンプルは、凝集が起こり球状の粒子を得ることができなかった。平均粒径が1μm未満のサンプルも凝集が起こり球状の粒子を得ることができなかった。
また、結晶相を80%以上含むものはいずれも相転移温度が219℃以上であった。
【0052】
【表4】

【実施例3】
【0053】
Al含有量910ppmの球状シリカ粒子で、温度を変えて熱処理(保定)した結果を表5に示す。熱処理は、大気中で昇温速度100℃/時で所定温度まで昇温し、6時間保持した後、降温速度100℃/時で常温まで冷却した。得られたシリカ粒子は、熱処理の温度を高くするにつれて、非晶質相の比率が低下した。保持時間6hの場合、熱処理(保定)温度を1280℃超で、結晶相を80%以上含むものが得られた。非結晶相が20%以上で結晶相が80%未満のものは相転移温度が223℃以下であったのに対し、結晶相を80%以上含むものはいずれも相転移温度が225℃以上であった。
また、サンプルE4とサンプルE7を全体の82wt%となるようにクレゾールノボラック系エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、シランカップリング剤と混合し、φ10×13mmのサイズに200℃で成形・硬化させたサンプルを作製し、熱膨張率の測定を行った。熱膨張率は、接触式の熱膨張系を用いて、室温から300℃までの温度で測定した。図3に示すように、結晶質の割合が80%未満のE4のサンプルでは、熱膨張率がほぼ一定の割合で増加するのに対して、結晶質の割合が100%のE7のサンプルでは、相転移開始温度と同じ230℃付近から熱膨張率が大きく上昇した。
【0054】
【表5】

【実施例4】
【0055】
Al含有量544ppmのフィラーで、1300℃で保持時間を変えて熱処理(保定)した結果を表6に示す。保定時間を長くするにつれて、非晶質相の比率が低下した。熱処理(保定)温度を1300℃の場合、保持時間3.5hで、結晶相を80%以上含むものが得られた。結晶相を80%以上含むものはいずれも相転移温度が225℃以上であった。
【0056】
【表6】

【実施例5】
【0057】
Al含有量431ppmのフィラーで、保持時間6時間で温度を変えて熱処理(保定)した結果を表7に示す。1250℃以下では非結晶(アモルファス)相が40%以上と多く、相転移が起こらなかった。これに対し、1260℃以上では非結晶(アモルファス)相が20%以下となり、相転移が起こることが確認された。相転移の有無はDTAチャートのピークの有無により判定した。
【0058】
【表7】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
400?5000ppmのアルミニウムを含み、結晶相を80%以上含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含み、平均粒径(D50)が1?100μmであることを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子。
【請求項2】
結晶相を90%以上含むことを特徴とする、請求項1に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項3】
結晶相の95?100%がクリストバライト結晶相であることを特徴とする、請求項1または2に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項4】
クリストバライト結晶相の相転移開始温度が220?245℃であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子。
【請求項7】
400?5000ppmのアルミニウムを含み、アルカリ成分を金属換算で20?300ppm含むようにシリカ粉末を調製し、
調製されたシリカ粉末を溶射し、
溶射された球状シリカ粒子の平均粒径(D50)が1?100μmであり、
溶射された球状シリカ粒子を1100?1600℃で1?12時間の保定し、
冷却された球状シリカ粒子が、80%以上の結晶相を有することを特徴とする、球状結晶性シリカ粒子を製造する方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
アルカリ成分を金属換算で300ppm以下含むように前記シリカ粉末を調整することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-08 
出願番号 特願2016-545549(P2016-545549)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 853- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨浅野 昭  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6207753号(P6207753)
権利者 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
発明の名称 球状結晶性シリカ粒子およびその製造方法  
代理人 齋藤 学  
代理人 齋藤 学  
代理人 堂垣 泰雄  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  
代理人 福地 律生  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 良博  
代理人 古賀 哲次  
代理人 堂垣 泰雄  
代理人 出野 知  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 福地 律生  
代理人 三橋 真二  

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