• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1350620
異議申立番号 異議2017-701226  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2019-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6152177号発明「二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6152177号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6?8、10?13〕、9について訂正することを認める。 特許第6152177号の請求項1?8、10?13に係る特許を維持する。 特許第6152177号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6152177号の請求項1?13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年1月22日に特許出願され、平成29年6月2日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月21日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年12月21日に特許異議申立人恒川朱美(以下、「申立人」という。)より請求項1?13に対して特許異議の申立てがなされ、平成30年2月14日付けで取消理由(以下、「取消理由通知」という。)が通知され、これに対して、同年4月9日に意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされ、同年8月20日付けで取消理由(決定の予告)(以下、「決定の予告」という。)が通知され、これに対して、同年10月17日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、平成30年2月14日になされた訂正請求に係る訂正請求書、及び、同年10月17日になされた訂正請求に係る訂正請求書は申立人に送付されたが、いずれについても申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6152177号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、平成30年4月9日になされた訂正請求は、その後本件訂正が請求されたので、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において50mm以下、かつ、流下直後から5分後において20mm以下であり、前記成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が100?3000重量部である」を「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下であり、前記成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部であり、前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2?5についても、同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項6について、本件訂正前の「前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.01?10重量部、前記成分(B)が0.1?50重量部であり、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において50mm以下、かつ、流下直後から5分後において25mm以下である」を「前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種であり、前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15重量部であり、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である」と訂正する。
請求項6を引用する請求項7、8、10?13についても、同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
請求項9を削除する。

2 当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
ア-1 訂正事項1は、請求項1において、本件訂正前の「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力」について、「流下直後において50mm以下、かつ、流下直後から5分後において20mm以下であ」る事項を、「流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下であ」る事項と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項1-1」という。)、本件訂正前の「成分(A)を100重量部としたとき」の「前記成分(B)」が、本件訂正前の「100?3000重量部である」事項を、「500?2500重量部であ」る事項と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項1-2」という。)、本件訂正前の「成分(A)」を「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項1-3」という。)を含むものである。
ア-2 まず、訂正事項1-1について検討する。
訂正事項1-1は、数値範囲を狭めているから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
次に、訂正事項1-1が、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面(以下、これらをまとめて「本件明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正であるか否かを検討するに、本件明細書の【表3】に示された製造例5は、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mmであり、また、製造例5,6は、該起泡力が、流下直後から5分後において10mmである。
したがって、訂正事項1-1は、本件明細書等に記載した範囲内の訂正であるといえる。
ア-3 次に、訂正事項1-2について検討する。
訂正事項1-2は、数値範囲を狭めているから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
次に、訂正事項1-2が、本件明細書等に記載した範囲内の訂正であるか否かを検討するに、本件特許明細書の【表3】及び【表4】に示された製造例5、12は、成分(A)を100重量部としたとき成分(B)が2500重量部であり、製造例2、11は、成分(A)を100重量部としたとき成分(B)が500重量部である。
したがって、訂正事項1-2は、本件明細書等に記載した範囲内の訂正であるといえる。
ア-4 最後に、訂正事項1-3について検討する。
訂正事項1-3は、成分(A)としての化合物を具体的に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書【0020】に、「変性ポリシロキサンが、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも一種を必須成分として含むと塗布性に優れるので好ましい」と記載されているように、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。
ア-5 以上によれば、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

イ 訂正事項2について
イ-1 訂正事項2は、請求項6において、本件訂正前の「成分(A)」を「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項2-1」という。)、本件訂正前の「無機粒子の含有量を100重量部としたときに、」「成分(A)」及び「成分(B)」の含有量が、それぞれ「0.01?10重量部」及び「0.1?50重量部」であるのを、それぞれ「0.1?1.8重量部」及び「2.8?15重量部」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項2-2」という。)、本件訂正前の「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力」について、「流下直後において50mm以下、かつ、流下直後から5分後において20mm以下であ」るのを、「流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項2-3」という。)を含むものである。
イ-2 まず、訂正事項2-1について検討する。
訂正事項2-1は、成分(A)としての化合物を具体的に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書【0020】に、「変性ポリシロキサンが、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも一種を必須成分として含むと塗布性に優れるので好ましい」と記載されているように、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。
イ-3 次に、訂正事項2-2について検討する。
訂正事項2-2は、数値範囲を狭めているから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
さらに、本件明細書【0070】に、「成分(A)」の含有量が「無機粒子100重量部に対して」「0.1?5重量部」、すなわち下限が0.1重量部である事項、本件明細書【表6】の実施例2は、「成分(A)」の含有量が無機粒子100重量部に対して1.8重量部である事項、本件明細書【0071】に、「成分(B)」の含有量が「1?15重量部」、すなわち上限が15重量部である事項、本件明細書【表9】の実施例27は、「成分(B)」の含有量が無機粒子100重量部に対して2.8重量部である事項が、それぞれ記載されているから、訂正事項2-2は、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。
イ-3 最後に、訂正事項2-3について検討する。
訂正事項2-3は、数値範囲を狭めているから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。
次に、訂正事項2-3が、本件明細書等に記載した範囲内の訂正であるか否かを検討するに、本件明細書の【表6】に示された実施例5、8は、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mmであり、また、【表6】、【表9】に示された実施例5、8、26は、該起泡力が、流下直後から5分後において10mmである。
したがって、訂正事項2-3は、本件明細書等に記載した範囲内の訂正であるといえる。
イ-4 以上によれば、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、願書に添付した明細書等に記載した範囲内の訂正であるから、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項9を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(2) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?5は、請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項7、8、10?13は、請求項6を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5、及び、6?8、10?13はそれぞれ一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6?8、10?13〕、9をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

5 本件訂正請求のむすび
以上のとおりであるから、平成30年10月17日に特許権者が行った本件訂正、すなわち、訂正事項1について、請求項1?5についての訂正、訂正事項2について、請求項6?8、10?13についての訂正、訂正事項3について、請求項9についての訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項1?13を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
平成30年10月17日に特許権者が行った請求項1?13についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明13」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
変性ポリシロキサン成分(A)および高分子粒子成分(B)を含有し、
ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下であり、
前記成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部であり、前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である、二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項2】
前記組成物の有効濃度の0.1重量%水溶液の25℃における表面張力が20?50mN/mである、請求項1に記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃である、請求項1又は2に記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項4】
前記変性ポリシロキサンが、ポリエーテル変性ポリシロキサン及びポリグリセリル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1?3のいずれかに記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項5】
有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が30℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)をさらに含む、請求項1?4のいずれかに記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項6】
変性ポリシロキサン成分(A)と、高分子粒子成分(B)と、無機粒子とを含有する二次電池スラリー組成物であって、前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種であり、前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15重量部であり、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である、二次電池スラリー組成物。
【請求項7】
有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が30℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)をさらに含む、請求項6に記載の二次電池スラリー組成物。
【請求項8】
前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、前記成分(C)が0.01?10重量部である、請求項7に記載の二次電池スラリー組成物。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
集電体上に正極用被膜を有する二次電池用正極であって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用正極。
【請求項11】
集電体上に負極用被膜を有する二次電池用負極であって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用負極。
【請求項12】
セパレータ用被膜を有するセパレータであって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用セパレータ。
【請求項13】
負極、正極、セパレータ及び電解液を含む二次電池であって、前記負極、前記正極及び前記セパレータのうちの少なくとも1つが、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる被膜を有する、二次電池。」

2 申立理由の概要
(1)取消理由の概要
ア 「変性ポリシロキサン成分(A)」が、「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン」以外のものを含み、「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下」以外のものを含み、「成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部」以外のものを含む、本件特許公報に記載された請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 「無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?13.5重量部」以外のものを含み、「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である」以外のものを含む、本件特許公報に記載された請求項6?8、10?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 請求項9に係る発明は、「変性ポリシロキサン成分(A)及び溶媒を混合して混合液を得る工程(a)と、前記混合液及び高分子粒子成分(B)を混合して分散剤組成物を得る工程(b)」「を含む」事項を有するものであるが、該事項は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)決定の予告の概要(取消理由のみ)
ア 「無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15.5重量部」以外のものを含む、平成30年4月9日付けの訂正請求により訂正された請求項6?8、10?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(一部上記(1)イと重複。)
イ 「変性ポリシロキサン成分(A)」が、「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン」以外のものを含む、平成30年4月9日付けの訂正請求により訂正された請求項6?8、10?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由及び決定の予告で採用しなかった申立理由
ア 本件特許公報に記載された請求項1?13に係る発明は、下記1?6の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(刊行物)
1 国際公開第2011/129169号(申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)
2 特開2014-229406号公報(申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)
3 国際公開第2009/096451号(申立人が提出した甲第3号証:以下、「甲3」という。)
4 特開2014-212132号公報(申立人が提出した甲第4号証)
5 特開2012-38597号公報(申立人が提出した甲第5号証)
6 信越化学工業株式会社 「信越シリコーン 反応性・非反応性変性シリコーンオイル」(申立人が提出した甲第6号証)
イ 「高分子粒子成分(B)」が、「アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル」以外のものを含む、本件特許公報に記載された請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 「有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が51℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)」以外の「アルキレンオキサイド付加物成分(C)」を含む、本件特許公報に記載された請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 「高分子粒子成分(B)」が、「アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル」以外のものを含み、「無機粒子」が、「αアルミナ、γアルミナ、θアルミナ、シリカ、コバルト酸リチウム、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2))、マンガン酸リチウム(LiMnO_(2))、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノ繊維」以外のものを含む、本件特許公報に記載された請求項6?8、10?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、当該請求項に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
(1)発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用に関する。さらに詳細には、スラリーの分散安定性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物、塗布性、被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物、耐熱性および保液性に優れた二次電池用被膜、およびその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分散安定性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物と、塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物と、塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物の製造方法と、該二次電池スラリー組成物を用いた電池とを提供することである。」
「【0022】
〔高分子粒子成分(B)〕
成分(B)である高分子粒子は、無機粒子の分散助剤、二次電池スラリー組成物の塗布性向上剤として機能する。また、二次電池用スラリーを基材に塗布して水を乾燥した後の無機粒子同士の結着剤としても機能する。本発明の二次電池スラリー用分散剤組成物が含有する前記成分(B)としては、特に限定はなく、二次電池スラリー組成物の分散性あるいは塗布性や水を除去した後の無機粒子の相互の結着を阻害しない化合物であれば、特に制限はない。
【0023】
前記成分(B)としては、特に限定はないが、たとえば、ポリイソブチレン等のイソブチレン系高分子粒子;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等のジエン系高分子粒子;フッ化ビニリデン系高分子、フッ化エチレン-プロピレン共重合体等のフッ素系高分子粒子;アクリル系高分子粒子;ジメチルポリシロキサン等のポリシロキサン系高分子粒子;ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル等のビニル系高分子粒子;スチレン-塩化ビニル共重合体、スチレン-酢酸ビニル共重合体等のスチレン系高分子粒子;ウレタン系高分子粒子;フェノール系高分子粒子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン等のオレフィン系高分子粒子;ケトン系高分子粒子;アミド系高分子粒子;ポリフェニレンオキサイド系高分子粒子;エポキシ系高分子粒子;天然ゴム;セルロース系高分子粒子;ポリペプチド;蛋白質等が挙げられる。なかでも、水中での分散性および水を除去した後の無機粒子の結着性に優れるので、アクリル系高分子粒子が好ましい。」
「【実施例】
【0114】
以下に、本発明の実施例を、その比較例とともに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。」
「【0118】
〔起泡力〕
JIS K3362の方法に準拠したロスマイルス試験法により温度25℃の測定条件下で測定した。組成物の有効濃度が0.1重量%水溶液を試験液とし、試験液の50mlをロスマイルス測定装置の管壁に沿って流し込み、上部の流下ピペットにも試験液の200mlを入れて準備した。ロスマイルス測定装置の円筒中央に試験液の液滴が落ちるようにピペットをセットし、90cmの高さから試験液を流下させ、流下が終わった直後(流下直後)の泡沫の高さと、流下直後から5分後の泡沫の高さを測定した。なお、ここでいう有効濃度とは、組成物の重量に対して、組成物を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分の重量割合をいう。
【0119】
〔表面張力〕
有効濃度の0.1重量%水溶液を試験液とし、自動表面張力計(KRUSS社製、品番TensiometerK100)を用いて、ウィルヘルミー法により温度25℃の測定条件下で測定した。
【0120】
〔臨界ミセル濃度(CMC)〕
自動表面張力計(KRUSS社製、品番TensiometerK100)を用いて、温度25℃の測定条件下で測定した。
〔接触角〕
接触角計(協和界面科学株式会社製、品番DM-901)を用いて測定した。」
「【0123】
〔変性ポリシロキサン〕
実施例および比較例で用いたポリシロキサンを以下に示す。
変性ポリシロキサンA-1:ポリエーテル変性ポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度20mPa・s、HLB12、0.1%水溶液の表面張力23mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)200mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)50mm、曇点(BDG法)62℃
変性ポリシロキサンA-2:ポリエーテル変性ポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度10mPa・s、HLB16、0.1%水溶液の表面張力25mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)250mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)100mm、曇点(BDG法)71℃
変性ポリシロキサンA-3:ポリエーテル変性ポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度1500mPa・s、HLB7、0.1%水溶液の表面張力28mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)150mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)30mm、曇点(BDG法)50℃
変性ポリシロキサンA-4:ポリグリセリン変性ポリシロキサン、一般式(2)でXにポリグリセリル基を含むポリシロキサン、粘度100mPa・s、HLB10、0.1%水溶液の表面張力30mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)150mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)50mm、曇点(BDG法)61℃
変性ポリシロキサンA-5:ポリエーテル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度200mPa・s、HLB4、0.1%水溶液の表面張力30mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)10mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm、曇点(BDG法)22℃
変性ポリシロキサンA-6:ポリエーテル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度20mPa・s、HLB6、0.1%水溶液の表面張力34mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)15mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)5mm、曇点(BDG法)43℃
変性ポリシロキサンA-7:ポリエーテル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度20mPa・s、HLB3、0.1%水溶液の表面張力41mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)10mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)5mm、曇点(BDG法)21℃
変性ポリシロキサンA-8:ポリエーテル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにポリエーテル基を含むポリシロキサン、粘度20mPa・s、HLB1、0.1%水溶液の表面張力45mN/m、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)5mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm、曇点(BDG法)5℃
変性ポリシロキサンA-9:アルキル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにアルキル基を含むポリシロキサン、アルキルの炭素数12、粘度100mPa・s、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm
変性ポリシロキサンA-10:アルキル基を有するポリシロキサン(アルキルの炭素数12?14)、一般式(2)でXにアルキル基を含むポリシロキサン、粘度1000mPa・s、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm
変性ポリシロキサンA-11:フェニル基を有するポリシロキサン、一般式(2)でXにフェニル基を含むポリシロキサン、粘度100mPa・s、官能基当量1000g/mol、流下直後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm、流下直後から5分後の起泡力(ロスマイルス試験)0mm
【0124】
〔高分子粒子〕
実施例および比較例で用いた高分子粒子成分(B)について、それらの具体的な製造方法および物性を以下の表1の製造例B-1?B-8に示す。
【0125】
〔アルキレンオキサイド付加物〕
実施例および比較例で用いたポリアルキレンオキサイド付加物C-1?C-8について、その一般式と物性を以下に示す。また、それらの具体的な製造方法を以下の製造例C-1?C-8に示す。
アルキレンオキサイド付加物C-1:C_(12)H_(25)O-(EO)_(10)-H、重量平均分子量626、曇点68℃、HLB14.0
アルキレンオキサイド付加物C-2:C_(10)H_(21)O-(EO)_(8)-H、重量平均分子量511、曇点51℃、HLB13.8
アルキレンオキサイド付加物C-3:C_(14)H_(29)O-(EO)_(12)-H、重量平均分子量740、曇点85℃、HLB14.5
アルキレンオキサイド付加物C-4:C_(18)H_(37)O-(EO)_(50)-H、重量平均分子量2470、曇点100℃以上、HLB17.9
アルキレンオキサイド付加物C-5:POE(10)スチレン化フェニルエーテル、重量平均分子量750、曇点61℃、HLB11.7
アルキレンオキサイド付加物C-6:POE(20)スチレン化フェニルエーテル、重量平均分子量1190、曇点100℃以上、HLB14.8
アルキレンオキサイド付加物C-7:POE(40)硬化ひまし油エーテル、重量平均分子量1820、曇点100℃以上、HLB13.1
アルキレンオキサイド付加物C-8:C12-C14混合2級アルコールのEO9モル付加物、重量平均分子量600、曇点56、HLB13.3
【0126】
〔消泡剤〕
実施例および比較例で用いた消泡剤を以下に示す。
ポリシロキサン系消泡剤1:ジメチルポリシロキサン、粘度100mPa・s
ポリシロキサン系消泡剤2:ジメチルポリシロキサン、粘度1000mPa・s
シリカ微粉末系消泡剤:トリメチルエトキシシランにより疎水化処理されたシリカ微粉末鉱物油系消泡剤:パラフィン系鉱物油
【0127】
〔無機粒子〕
実施例および比較例で用いた無機粒子を以下に示す。
αアルミナ1:一次粒子径0.3μm、BET比表面積8.4m^(2)/g
αアルミナ2:一次粒子径0.8μm、BET比表面積4.9m^(2)/g
γアルミナ:一次粒子径0.3μm、BET比表面積4.7m^(2)/g
θアルミナ:一次粒子径0.3μm、BET比表面積5.3m^(2)/g
シリカ:一次粒子径0.3μm、BET比表面積5.4m^(2)/g
コバルト酸リチウム;一次粒子径7.3μm、BET比表面積0.4m^(2)/g
リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2);一次粒子径11.5μm、BET比表面積0.3m^(2)/g
マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMnO_(2));一次粒子径10.1μm、BET比表面積0.3m^(2)/g
グラファイト;一次粒子径11.1μm、BET比表面積0.4m^(2)/g
アセチレンブラック;平均粒子径70.1nm、BET比表面積68m^(2)/g
カーボンナノ繊維:繊維系150.0nm、BET比表面積13m^(2)/g
【0128】
〔製造例B-1〕
まず、重合性単量体として、5gのアクリル酸および95gのアクリル酸ブチルを準備し、乳化剤として、2.0gのアルキルベンゼンスルフォン酸ソーダ塩を準備した。
上記で準備した重合性単量体および乳化剤と、150gのイオン交換水とをホモジナイザーで混合攪拌し、500mlのセパラブルフラスコ中で窒素気流下、80℃で3時間反応してアクリル系高分子粒子B-1のエマルションを得た。このアクリル系高分子粒子B-1のエマルションは、非水溶性であって、不揮発分濃度40.3重量%、粘度2mPa・s、平均粒子径164nm、ゼータ電位-45mV、熱重量測定0.1%、ガラス転移点-14℃、無機酸化物板としてアルミナ板への接触角が100msec経過時で58°、1600msec経過時で45°であった
【0129】
〔製造例B-2?B-8〕
製造例B-2?B-8では、製造例B-1において、表1に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、製造例B-1と同様に高分子粒子エマルションをそれぞれ得て、物性等も製造例B-1と同様に評価した。
【0130】
〔製造例C-1〕
(アルキレンオキサイド付加物C-1の製造)
エチレンオキサイドの供給ラインを接続した1Lのオートクレーブに、ラウリルアルコール(分子量186)100gと、水酸化カリウム0.3gとを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素置換してから、攪拌しつつ80℃で減圧脱水を行った。
次いで、130℃まで昇温した後、反応温度145±5℃、反応圧力3.5±0.5kg/cm2を維持しつつ、約120分間でエチレンオキサイド237gを供給した。
エチレンオキサイドの供給が完了した後、反応温度を維持しつつ、内圧が低下して一定になるまで熟成させ、80℃まで冷却した。後処理として、得られた反応混合物に合成吸着剤(キョーワード700、協和化学工業(株))3gを加えて、90℃で窒素気流下1時間攪拌して処理した後、ろ過により触媒を除去して、アルキレンオキサイド付加物C-1を得た。
得られたアルキレンオキサイド付加物C-1のエチレンオキサイド付加モル数(n)は10であった。アルキレンオキサイド付加物C-1は水溶性を示し、重量平均分子量は626、1%水溶液の曇点は68℃、HLBは14.0、表面張力は30.1mN/m、CMCは89mg/l、起泡力は直後の値が140mm、5分後の値が90mmであった。
【0131】
〔製造例C-2?C-8〕
製造例C-2?C-8では、製造例C-1において、表2に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、製造例C-1と同様にアルキレンオキサイド付加物をそれぞれ得て、物性等も製造例C-1と同様に評価した。
【0132】
〔製造例1〕
成分(A)である変性ポリシロキサンA-1を100gと、成分(B)である高分子粒子B-1を1000g含むアクリル系高分子粒子1エマルションの2500gを均一に混合して、二次電池スラリー用分散剤組成物を得た。イオン交換水の量はアクリル系高分子粒子1エマルションに含まれるイオン交換水の1500gであった。二次電池スラリー用分散剤組成物は、不揮発分濃度44.8%、粘度5mPa・s、pH8.2、表面張力24.3、ゼータ電位-45mV、起泡力は直後の値が30mm、5分後の値が5mm、無機酸化物板としてアルミナ板への接触角が1600msec経過時で41°、ポリオレフィン樹脂への接触角が1600msec経過時で13°であった。
【0133】
〔製造例2?20〕
製造例2?20では、表3、4、5に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、製造例1と同様に二次電池スラリー用分散剤組成物をそれぞれ得て、物性等も製造例1と同様に評価した。その結果を表3、4、5に示す。
【0134】
〔実施例1〕
無機粉末であるαアルミナ1の100gと分散剤である二次電池スラリー用分散剤組成物1の30gとイオン交換水100gを均一に混合して、二次電池スラリー組成物を得た。
得られた二次電池スラリー組成物は、不揮発分濃度48.6重量%、粘度343mPa・s、平均粒子径332nm、ゼータ電位-40mV、起泡力は直後の値が35mm、5分後の値が5mmであった。
【0135】
この二次電池スラリー組成物を用いて、二次電池スラリー用分散剤組成物による二次電池スラリー組成物の分散安定性を評価したところ、沈降物の重量が5重量%未満であり分散安定性に優れていた。
上記で得られた二次電池スラリー組成物を膜厚20μmのポリオレフィン樹脂系セパレータに塗布し、80℃のオーブン中で乾燥させた。乾燥後セパレータ表面を表面コートした被覆面積は95%以上であり塗布性に優れていた。表面コート膜厚は5μmであった。セパレータ表面を表面コートした表面コートセパレータは収縮率が95%以上であり、耐熱性に優れる。
【0136】
〔実施例2?15〕
実施例2?15では、実施例1において、表6、7に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様に二次電池スラリー組成物をそれぞれ得て、物性等も実施例1と同様に評価した。その結果を表6及び7に示す。但し、実施例14は、参考例14とする。
【0137】
〔実施例16〕
無機粉末であるコバルト酸リチウムの95g、アセチレンブラック5gと分散剤である二次電池スラリー用分散剤組成物1の30gとイオン交換水50gを均一に混合して、二次電池スラリー組成物を得た。得られた二次電池スラリー組成物は、不揮発分濃度56.1重量%、粘度6000mPa・s、平均粒子径10.5μm、pH7.4、ゼータ電位-35mV、起泡力は直後の値が20mm、5分後の値が5mmであった。
この二次電池スラリー組成物を用いて、二次電池スラリー用分散剤組成物による二次電池スラリー組成物の分散安定性を評価したところ、沈降物の重量が5重量%未満であり分散安定性に優れていた。
上記で得られた二次電池スラリー組成物を膜厚20μmのアルミ箔に塗布し、150℃のオーブン中で乾燥させて二次電池用正極被膜を得た。乾燥後集電体の被覆面積は95%以上であり表面にひび割れなく塗布性に優れていた。乾燥性も300秒以内であり乾燥性に優れていた。二次電池用正極被膜の膜厚は60μmであった。二次電池用正極被膜の表面にエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの当量混合液を滴下して1600msec経過時の接触角を測定したところ、接触角が20°未満であり、電解液の保液性に優れた。
【0138】
〔実施例17?24〕
実施例17?24では、実施例16において、表8、9に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、実施例16と同様に二次電池スラリー組成物をそれぞれ得て、物性等も実施例16と同様に評価した。その結果を表8、9に示す。
【0139】
〔実施例25〕
無機粉末であるグラファイトの95g、アセチレンブラック5gと分散剤である二次電池スラリー用分散剤組成物6の40gとイオン交換水40gを均一に混合して、二次電池スラリー組成物を得た。得られた二次電池スラリー組成物は、不揮発分濃度64.5重量%、粘度6900mPa・s、平均粒子径12.4μm、ゼータ電位-36mV、起泡力は直後の値が10mm、5分後の値が0mmであった。
【0140】
この二次電池スラリー組成物を用いて、二次電池スラリー用分散剤組成物による二次電池スラリー組成物の分散安定性を評価したところ、沈降物の重量が5重量%未満であり分散安定性に優れていた。
上記で得られた二次電池スラリー組成物を膜厚18μmの銅箔に塗布し、150℃のオーブン中で乾燥させて二次電池用負極被膜を得た。乾燥後集電体の被覆面積は95%以上であり表面にひび割れなく塗布性に優れていた。乾燥性も300秒以内であり乾燥性に優れていた。二次電池用負極被膜の膜厚は80μmであった。二次電池用負極被膜の表面にエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの当量混合液を滴下して1600msec経過時の接触角を測定したところ、接触角が20°未満であり、電解液の保液性に優れた。
【0141】
〔実施例26?29〕
実施例26?29では、実施例25において、表9に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、実施例25と同様に二次電池スラリー組成物をそれぞれ得て、物性等も実施例25と同様に評価した。その結果を表9に示す。
【0142】
〔比較例1〕
無機粉末であるαアルミナ1の100gと分散剤である二次電池スラリー用分散剤組成物15の30gとイオン交換水100gを均一に混合して、二次電池スラリー組成物を得た。
得られた二次電池スラリー組成物は、不揮発分濃度50.1重量%、粘度150mPa・s、平均粒子径840nm、ゼータ電位-5mV、起泡力は直後の値が20mm、5分後の値が0mmであった。
【0143】
この二次電池スラリー組成物を用いて、二次電池スラリー用分散剤組成物による二次電池スラリー組成物の分散安定性を評価したところ、沈降物の重量が10重量%以上30重量%未満であり、分散安定性に劣る。
上記で得られた二次電池スラリー組成物を膜厚20μmのポリオレフィン樹脂系セパレータに塗布し、80℃のオーブン中で乾燥させた。乾燥後セパレータ表面を表面コートした被覆面積は80%未満であり、塗布性に劣る。表面コート膜厚は3μmであった。セパレータ表面を表面コートした二次電池用被膜は収縮率が80%未満であり、耐熱性に劣る。
【0144】
〔比較例2?12〕
比較例2?12では、比較例1において、表10及び表11に示すように原料をそれぞれ変更する以外は、比較例1と同様に二次電池スラリー用分散剤組成物をそれぞれ得て、物性等も比較例1と同様に評価した。その結果を表10及び表11に示す。
【0145】
〔分散安定性の評価〕
作製した二次電池スラリー組成物を100mlの遠沈管にとって室温で24時間保管した後の沈降物の重量を測定した。分散安定性の評価基準は以下のとおり。
◎:沈降物の重量が5重量%未満であり、分散安定性に優れる。
〇:沈降物の重量が5重量%以上10重量%未満であり、分散安定性に優れる。
△:沈降物の重量が10重量%以上30重量%未満であり、分散安定性に劣る。
×:沈降物の重量が30重量%以上であり、分散安定性に劣る。
【0146】
〔塗布性の評価〕
(セパレータの場合)
二次電池スラリー組成物をポリオレフィン系セパレータ表面に15g/m2塗布して、80℃の温度に加熱して乾燥した。セパレータ表面を表面コートした被覆面積を測定した。塗布性の評価基準は以下のとおり。
◎:被覆面積が95%以上であり、塗布性に優れる。
〇:被覆面積が90%以上95%未満であり、塗布性に優れる。
△:被覆面積が80%以上90%未満であり、塗布性に劣る。
×:被覆面積が80%未満であり、塗布性に劣る。
【0147】
(正極および負極の場合)
二次電池スラリー組成物を集電体表面に10mg/cm2塗布して、150℃の温度に加熱して乾燥した。集電体表面を表面コートした被覆面積を測定した。塗布性の評価基準は以下のとおり。
○:被覆面積が95%以上であり乾燥時に塗布表面のひび割れなく、塗布性に優れる。
×:乾燥時に塗布表面のひび割れ発生し被覆面積が95%未満であり、塗布性に劣る。
【0148】
〔乾燥性の評価〕
(セパレータの場合)
二次電池スラリー組成物をポリオレフィン系セパレータ表面に15g/m^(2)塗布して、80℃の温度で塗布表面が乾くまでの時間を目視にて測定する。乾燥性の評価基準は以下のとおり。
○:乾燥時間が30秒以下であれば、待ち時間が少なく乾燥性が良い。
×:乾燥時間が30秒超であれば、待ち時間が長く作業性に支障をきたすため乾燥性が良くない。
(正極および負極の場合)
二次電池スラリー組成物を集電体表面に10mg/cm^(2)塗布して、150℃の温度で塗布表面が乾くまでの時間を目視にて測定する。乾燥性の評価基準は以下のとおり。
○:乾燥時間が300秒以下であれば、待ち時間が少なく乾燥性が良い。
×:乾燥時間が300秒超であれば、待ち時間が長く作業性に支障をきたすため乾燥性が良くない。
【0149】
〔耐熱性の評価〕
作製した表面コートセパレータの試料縦10cm×横10cmを120℃の恒温槽中に8時間保管して加温した後、試料の縦横それぞれの長さを測定して収縮率を算出した。耐熱性の評価基準は以下のとおり。表面コートセパレータの耐熱性は縦あるいは横のいずれか小さい方の収縮率で評価した。
収縮率(%)=(8時間加温後の表面コートセパレータの縦あるいは横の長さ/10)×100
◎:収縮率が95%以上であり、耐熱性に優れる。
〇:収縮率が90%以上95%未満であり、耐熱性に優れる。
△:収縮率が80%以上90%未満であり、耐熱性に劣る。
×:収縮率が80%未満であり、耐熱性に劣る。
【0150】
〔水の保液性の評価〕
接触角計(協和界面科学株式会社製、品番DM-901)を用いて、表面コートセパレータに水を滴下後1600msec経過時の接触角を測定して評価した。
◎:接触角が20°未満であり、水の保液性に優れる。
〇:接触角が20°以上30°未満であり、水の保液性に優れる。
△:接触角が30°以上40°未満であり、水の保液性に劣る。
×:接触角が40°以上であり、水の保液性に劣る。
【0151】
〔電解液の保液性の評価〕
接触角計(協和界面科学株式会社製、品番DM-901)を用いて、表面コートセパレータ、正極、負極のいずれかににエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの当量混合液を滴下して1600msec経過時の接触角を測定して評価した。
◎:接触角が20°未満であり、電解液の保液性に優れる。
〇:接触角が20°以上30°未満であり、電解液の保液性に優れる。
△:接触角が30°以上40°未満であり、電解液の保液性に劣る。
×:接触角が40°以上であり、電解液の保液性に劣る。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】

【0154】
【表3】

【0155】
【表4】

【0156】
【表5】

【0157】
【表6】

【0158】
【表7】

【0159】
【表8】

【0160】
【表9】

【0161】
【表10】

【0162】
【表11】


【0163】
表6?11から分かるように、実施例1?29の二次電池用スラリー組成物は、変性ポリシロキサン成分(A)および高分子粒子成分(B)を含有するため、分散安定性及び濡れ性が良好である。
一方、成分(A)がない分散剤組成物を用いた場合(比較例1?12)には、本願の課題が解決していない。」

4 当審の判断
(1)取消理由通知及び決定の予告で採用した取消理由
ア 上記2(1)アについて
本件発明1?5の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「分散安定性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明1?5が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」に使用されている「二次電池用分散剤組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
具体的には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、製造例1?14の「二次電池スラリー用分散剤組成物」を用いたものであるから、本件明細書【表3】、【表4】によれば、「変性ポリシロキサン成分(A)」として、A-1?A-11、すなわち、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、または、アルキル変性ポリシロキサンを含む「二次電池スラリー用分散剤組成物」を用いたものであり、また、「二次電池スラリー用分散剤組成物」の「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力」が、「流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下」であり、さらに、「二次電池スラリー用分散剤組成物」の「成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部」であり、「分散安定性」の評価が「◎」または「○」となっている。
したがって、製造例1?14の「二次電池スラリー用分散剤組成物」は、請求項1で規定する要件を満たす「二次電池スラリー用分散剤組成物」であって、しかも、「分散安定性」の評価が「◎」または「○」となっているから、上記課題を解決し得るものである。
そして、本件訂正により、本件発明1?5は、「変性ポリシロキサン成分(A)」が、「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種」に、「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下」に、「成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部」にそれぞれ特定され、上記課題を解決し得る発明となったから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件発明1?5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

イ 上記2(1)イ及び上記2(2)アについて
本件発明6?8、10?13の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明6?8、10?13が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」に使用されている「二次電池用分散剤組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
具体的には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、「無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15.5重量部」であり、「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下」であり、「塗布性」及び「乾燥性」の評価が「◎」または「○」となっている。
したがって、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、請求項6で規定する要件を満たす「二次電池スラリー組成物」であって、しかも、「塗布性」及び「乾燥性」の評価が「◎」または「○」となっているから、上記課題を解決し得るものである。
そして、本件訂正により、本件発明6?8、10?13は、「成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種であり、前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15重量部であり、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である」事項が特定され、上記課題を解決し得る発明となったから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件発明6?8、10?13は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

ウ 上記2(1)ウについて
本件訂正前の請求項9に係る発明は、本件訂正により削除されたので、上記2(1)ウの取消理由は解消された。

エ 上記2(2)イについて
本件発明6?8、10?13の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明6?8、10?13が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
具体的には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、製造例1?14の「二次電池スラリー用分散剤組成物」を用いたものであるから、本件明細書【0154】、【0155】の【表3】、【表4】によれば、「変性ポリシロキサン成分(A)」として、A-1?A-11、すなわち、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、または、アルキル変性ポリシロキサンを含む「二次電池スラリー用分散剤組成物」を用いたものである。
そして、本件訂正により、本件発明6?8、10?13は、「変性ポリシロキサン成分(A)」が、「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種」に特定され、上記課題を解決し得る発明となったから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件発明6?8、10?13は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(2)取消理由通知及び決定の予告で採用しなかった申立理由
ア 上記2(3)アについて
(ア)本件発明1に対して
(ア)-1 甲1の記載及び甲1発明
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付した(以下、同じ。)。
「[0001]本発明は、耐熱性の高い層を有し、かつ生産性が良好な電気化学素子用セパレータ、その電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子、およびその電気化学素子用セパレータの製造方法に関するものである。」
「[0070]次に、本発明の電気化学素子について説明する。本発明の電気化学素子は、本発明のセパレータを用いていれば、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている非水電解液を有する各種電気化学素子、例えば、リチウムイオン電池(一次電池および二次電池)、ポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどとすることができる。特に、本発明の電気化学素子は、高温での安全性が要求される用途に好適に適用できる。」
「[0089](実施例1)
有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):300gと、水:4000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌した。この分散液に耐熱温度が150℃以上の耐熱性微粒子であるベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10):4000gを4回に分けて加え、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分として、耐熱性微粒子100質量に対して1質量部)を添加し、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリーを調製した。このスラリーにフッ素系界面活性剤であるパーフルオロオクタンスルフォン酸を、水100質量部に対して0.1質量部添加して、耐熱多孔質層形成用スラリーを得た。この耐熱多孔質層形成用スラリーを、樹脂多孔質膜であるPE製多孔質膜(厚み12μm)上にグラビアコーターを用いて塗布した後、乾燥して、樹脂多孔質膜と耐熱多孔質層との2層構造の厚み16μmのセパレータを得た。ここで、樹脂多孔質膜として使用したPE製多孔質膜の表面張力(濡れ指数)Aは30mN/mであり、耐熱多孔質層形成用スラリーの表面張力Bは21.5mN/mであった。
[0090](実施例2)
界面活性剤をシリコーン系界面活性剤であるジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体に変更した以外は、実施例1と同様にして耐熱多孔質層形成用スラリーを調製し、このスラリーを用いた以外は実施例1と同様にしてセパレータを作製した。」

上記[0089]に記載された「耐熱多孔質層形成用スラリー」は、セパレータに塗布するものであるところ、該セパレータは、上記[0001]及び[0070]の記載からすると、リチウムイオン二次電池用セパレータを含むものである。
そうすると、上記記載から、実施例2に注目すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池用セパレータに塗布する耐熱多孔質層形成用スラリーであって、有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):300gと、水:4000gとを容器に入れ、均一に分散するまで室温で攪拌し、この分散液に耐熱温度が150℃以上の耐熱性微粒子であるベーマイト粉末(板状、平均粒径1μm、アスペクト比10):4000gを4回に分けて加え、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分として、耐熱性微粒子100質量に対して1質量部)を添加し、ディスパーにより2800rpmで5時間攪拌して均一なスラリーを調製し、このスラリーにシリコーン系界面活性剤であるジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体を、水100質量部に対して0.1質量部添加して得た、耐熱多孔質層形成用スラリー。」

(ア)-2 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池多孔膜用スラリー組成物、それを用いた二次電池用多孔膜の製造方法および二次電池用多孔膜、並びに、その二次電池用多孔膜を備える二次電池用セパレーター、二次電池用電極および二次電池に関する。」
「【0062】
なお、消泡剤をスラリー組成物に添加するタイミングは、任意のタイミングとすることができる。具体的には、乳化剤を用いて調製した非水溶性粒子状重合体を使用してスラリー組成物を製造する場合には、スラリー組成物調製前に非水溶性粒子状重合体の水分散液中の未反応の単量体(残留モノマー)を加熱減圧蒸留によって除去する際に添加することにより、スラリー組成物を調製する際に消泡剤がスラリー組成物中に含まれるようにしてもよいし、非水溶性粒子状重合体を調製した後、非水溶性粒子状重合体と非導電性微粒子等とを混合してスラリー組成物を調製する際に消泡剤を添加してもよい。
【0063】
<スラリー組成物の泡立ち高さ>
そして、上述した乳化剤および消泡剤を含有する多孔膜用スラリー組成物は、JIS K3362に準拠して測定した初期泡立ち高さが100mm以上200mm以下であり、かつ、5分後の泡立ち高さが120mm以下であることが必要である。初期泡立ち高さが100mm以上であれば、多孔膜用スラリー組成物を塗布する際の塗布ムラの発生に起因したピンホール、ハジキの発生を抑制することができると共に、スラリー組成物の経時的な安定性を良好なものとすることができる。また、初期泡立ち高さが200mm以下であり、かつ、5分後の泡立ち高さが120mm以下であれば、泡立ちに起因して多孔膜にピンホール、ハジキが発生するのを抑制することができる。
【0064】
なお、スラリー組成物の泡立ち高さは、スラリー組成物中の乳化剤および消泡剤の量、並びに、それらの種類および存在比を調整することにより、調節することができる。」
「【0122】
<スラリー組成物の泡立ち高さ>
調製した多孔膜用スラリー組成物の泡立ち高さは、JIS K3362:2008(8.5 起泡力および泡の安定度)に準じて評価した。
具体的には、得られたスラリー組成物(固形分濃度40%、恒温水槽で25±2℃に調整)200mLを採取し、常温下で、900mmの高さから30秒間かけて全量(200mL)を液面上に落下させたときに生じる泡の高さ(初期泡立ち高さ)を測定した。さらに、5分経過後の泡の高さ(5分後泡立ち高さ)を測定した。そして、上述した測定を3回実施し、その平均値を測定値とした。」

(ア)-3 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「[0001]本発明は、電気化学素子用セパレータを構成するのに好適な絶縁層を形成するためのスラリー、上記スラリーを用いて形成される絶縁層を有する電気化学素子用セパレータおよびその製造方法、並びに上記電気化学素子用セパレータを有する電気化学素子に関するものである。
背景技術
[0002]電気化学素子の一種であるリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴ってリチウム二次電池の高容量化が更に進む傾向にあり、その安全性の確保が重要となっている。」
「[0061]また、上記絶縁層形成用スラリーが発泡しやすく、塗布性に影響する場合には、消泡剤を用いることができる。消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤を用いることができる。消泡剤の具体例としては、日華化学社製の「フォームレックス(商品名)」、日信化学社製の「サーフィノール(商品名)シリーズ」、荏原エンジニアリング社製の「アワゼロン(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製の「SNデフォーマー(商品名)シリーズ」などが挙げられる。」

(ア)-4 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)-4-1 甲1発明の「有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%)」の固形分は、本件発明1の「高分子粒子成分(B)」に相当する。
(ア)-4-2 甲1発明の「シリコーン系界面活性剤であるジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体」と本件発明1の「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である」「変性ポリシロキサン成分(A)」とは、「変性ポリシロキサン成分(A)」で共通する。
(ア)-4-3 甲1発明の「有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):300g」において、SBRの含有量は300g×40質量%=120gであり、残りの水分は300g-120g=180gである。
そして、甲1発明の「スラリー」は、「有機バインダであるSBRのエマルジョン(固形分比率40質量%):300gと、水:4000gとを容器に入れ、・・・(略)・・・攪拌し、この分散液に・・・(略)・・・ベーマイト粉末・・・(略)・・・を4回に分けて加え、増粘剤・・・(略)・・・を添加し、・・・(略)・・・攪拌して」「調製し」たものであるから、水が180g+4000g=4180g含まれていることとなる。
そして、甲1発明の「耐熱多孔質層形成用スラリー」は、「スラリーにシリコーン系界面活性剤であるジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体を、水100質量部に対して0.1質量部添加して得た」ものであるから、「耐熱多孔質層形成用スラリー」における「ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体」の含有量は、4180g×0.1質量部=4.18gである。
したがって、甲1発明の「耐熱多孔質層形成用スラリー」における「ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体」と「SRB」との含有量は、それぞれ4.18gと120gであるから、「ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体」の含有量を100重量部としたとき、「SRB」の含有量は、約2871重量部となる。
よって、甲1発明は、本件発明1の「成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部であ」る事項を含むものではない。
(ア)-4-4 上記(ア)-4-1?3より、本件発明と甲1発明とは、
「変性ポリシロキサン成分(A)および高分子粒子成分(B)を含有する事項。」で一致し、次の相違点1?5で相違する。

(相違点)
1 「ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力」が、本件発明1は、「流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下であ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
2 「成分(A)が、」本件発明1は、「ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である」のに対し、甲1発明は、「ジメチルポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体」である点。
3 「成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)」の含有量が、本件発明1は、「500?2500重量部であ」るのに対し、甲1発明は、約2871重量部である点。
4 「二次電池スラリー用分散剤組成物を含むもの」が、本件発明1は、「二次電池スラリー用分散剤組成物」であるのに対し、甲1発明は、「耐熱多孔質層形成用スラリー」である点。
5 本件発明1は、「二次電池スラリー用分散剤組成物」であるのに対し、甲1発明は、「リチウムイオン二次電池用セパレータに塗布する耐熱多孔質層形成用スラリー」である点。

(ア)-5 相違点についての検討
(相違点1について)
(ア)-5-1 甲2には、「二次電池多孔膜用スラリー組成物」において、「初期泡立ち高さが200mm以下であり、かつ、5分後の泡立ち高さが120mm以下であれば、泡立ちに起因して多孔膜にピンホール、ハジキが発生するのを抑制することができる」(【0063】)、すなわち、「泡立ちに起因して多孔膜にピンホール、ハジキが発生するのを抑制する」ために、「初期泡立ち高さ」及び「5分後泡立ち高さ」をある程度小さくすることが記載されている。
(ア)-5-2 そして、甲1発明の「耐熱多孔質層形成用スラリー」において、上記(ア)-5-1の「泡立ちに起因して多孔膜にピンホール、ハジキが発生するのを抑制する」ために、「初期泡立ち高さ」及び「5分後泡立ち高さ」をある程度小さくすることが採用できれば、甲1発明の「耐熱多孔質層形成用スラリー」の「起泡力」を小さくすることができるといえる。
(ア)-5-3 しかしながら、甲1には、「起泡力」を調製するための具体的な手段や方法が記載も示唆もされていない。
(ア)-5-4 また、甲2には、上記(ア)-5-1の記載に加えて、「初期泡立ち高さが100mm以上であれば、多孔膜用スラリー組成物を塗布する際の塗布ムラの発生に起因したピンホール、ハジキの発生を抑制することができると共に、スラリー組成物の経時的な安定性を良好なものとすることができる」(【0063】)とも記載されており、この記載は、「塗布ムラの発生に起因したピンホール、ハジキの発生を抑制する」ためには、甲2における「初期泡立ち高さ」をある程度大きくしなければならないことに他ならない。
(ア)-5-5 そして、上記(ア)-5-4の「塗布ムラの発生に起因したピンホール、ハジキの発生を抑制する」ためには、甲2における「初期泡立ち高さ」をある程度大きくしなければならないことを勘案すると、甲2に記載された「泡立ち高さ」は、上記(ア)-5-1で検討したように、単に小さくするだけではなく、適切な高さに調製することにより、「泡立ち」及び「塗布ムラ」の双方に起因した「ピンホール、ハジキの発生を抑制することができる」ものであるから、甲1発明において、甲2記載の点を採用できたとしても、「起泡力」を下限値を考慮することなく、単に小さくすることを導き出すことはできない。
(ア)-5-6 さらに、本件発明1は、「有効濃度0.1重量%の起泡力」を規定しているのに対し、甲2では、「固形分濃度40%」の「スラリー組成物」の「泡立ち高さ」(【0122】)を規定しているから、これらの数値を単純に比較することもできない。
(ア)-5-7 また、甲3には、リチウム二次電池用セパレータを構成する絶縁層を形成するためのスラリーにおいて、塗布性に影響する場合には、消泡材を用いる点([0001]、[0002]、[0061])が記載されているものの、甲1発明において、上記点を採用する動機付けが存在しない。
(ア)-5-8 したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ア)-5-9 よって、他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明、並びに、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、本件発明1を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)本件発明2?8、10?13に対して
本件発明2?8、10?13は、甲1発明に対し、少なくとも、上記相違点1で相違するものであるから、上記(ア)で検討した理由と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 上記2(3)イについて
本件発明1?5の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「分散安定性が良好な二次電池スラリー用分散剤組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明1?5が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」に使用されている「二次電池用分散剤組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
ここで、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、製造例1?14の分散剤組成物を用いたものであるから、成分BについてはB1?B8が採用されており、本件明細書【表1】によれば、B1?B8は、アクリル系の単量体、または、アクリル系の単量体とスチレンの単量体とを合成したものである。
他方、本件明細書には、「成分(B)である高分子粒子は、無機粒子の分散助剤、二次電池スラリー組成物の塗布性向上剤として機能する。また、二次電池用スラリーを基材に塗布して水を乾燥した後の無機粒子同士の結着剤としても機能する。本発明の二次電池スラリー用分散剤組成物が含有する前記成分(B)としては、特に限定はなく、二次電池スラリー組成物の分散性あるいは塗布性や水を除去した後の無機粒子の相互の結着を阻害しない化合物であれば、特に制限はない」(【0022】。当審注:下線は当審で付与。)と記載され、さらに、【0030】には、市販の各種高分子粒子を挙げて、これら市販の各種高分子粒子を使用し得る旨が記載されている。
そして、二次電池用スラリーに、分散助剤、塗布性向上剤、または、結着剤である高分子粒子を含有させることは周知であるから、本件発明1?5は、「成分(B)である高分子粒子」として、アクリル系の単量体、または、アクリル系の単量体とスチレンの単量体とを合成したものを用いるとの特定がなくても、二次電池用スラリーに含有する周知の高分子粒子を用いることにより、上記課題を解決し得ると理解される。
よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

ウ 上記2(3)ウについて
本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そして、上記4(1)アで検討したとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決し得るものであって、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、たとえ、本件発明5が、「有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が51℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)」以外の「アルキレンオキサイド付加物成分(C)」を含むものであったとしても、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明5は、本件発明の課題を解決し得るものであって、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
よって、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

エ 上記2(3)エについて
(ア)高分子粒子成分(B)について
本件発明6?8、10?13の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明6?8、10?13が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
ここで、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、製造例1?14の「二次電池スラリー用分散剤組成物」を用いたものであるから、成分BについてはB1?B8が採用されており、本件明細書【0152】の【表1】によれば、B1?B8は、アクリル系の単量体、または、アクリル系の単量体とスチレンの単量体とを合成したものである。
他方、本件明細書には、「成分(B)である高分子粒子は、無機粒子の分散助剤、二次電池スラリー組成物の塗布性向上剤として機能する。また、二次電池用スラリーを基材に塗布して水を乾燥した後の無機粒子同士の結着剤としても機能する。本発明の二次電池スラリー用分散剤組成物が含有する前記成分(B)としては、特に限定はなく、二次電池スラリー組成物の分散性あるいは塗布性や水を除去した後の無機粒子の相互の結着を阻害しない化合物であれば、特に制限はない」(【0022】)と記載され、さらに、【0030】には、市販の各種高分子粒子を挙げて、これら市販の各種高分子粒子を使用し得ると記載されている。
そして、二次電池用スラリーに、分散助剤、塗布性向上剤、または、結着剤である高分子粒子を含有させることは周知であるから、本件発明6?8、10?13は、「成分(B)である高分子粒子」として、アクリル系の単量体、または、アクリル系の単量体とスチレンの単量体とを合成したものを用いるとの特定がなくても、二次電池用スラリーに含有する周知の高分子粒子を用いることにより、上記課題を解決し得ると考えられる。
よって、本件発明6?8、10?13は、高分子粒子成分(B)の種類が特定されていないことをもって、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(イ)無機粒子について
本件発明6?8、10?13の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「塗布性及び被膜の乾燥性が良好な二次電池スラリー組成物」「を提供すること」(【0008】)であると認められる。
一方、本件明細書には、本件発明6?8、10?13が上記課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載である【0157】?【0160】の【表6】?【表9】には、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」が、上記課題を解決し得ることが示されている。
そして、これらの表によれば、実施例1?13,15?29の「二次電池スラリー組成物」は、「無機粒子」として、αアルミナ、γアルミナ、θアルミナ、シリカ、コバルト酸リチウム、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(LiNi_(0.33)Co_(0.33)Mn_(0.33)O_(2))、マンガン酸リチウム(LiMnO_(2))、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノ繊維を用いたものである。
他方、上記課題である「二次電池スラリー組成物」における「塗布性及び被膜の乾燥性」は、分散剤組成物には大きく影響されるものの、無機粒子の材料にはさほど影響されるものではないと理解される。
そうすると、本件発明6?8、10?13は、無機粒子の材料が規定されていなくても、上記課題を解決し得るか否かにさほど影響されないから、無機粒子の材料が規定されていないことをもって、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?8、10?13に係る特許は、取消理由通知及び決定の予告に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すべき理由を発見しない。また、他に本件の請求項1?8、10?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件の請求項9に係る特許は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項9に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリシロキサン成分(A)および高分子粒子成分(B)を含有し、
ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下であり、
前記成分(A)を100重量部としたときに、前記成分(B)が500?2500重量部であり、前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種である、二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項2】
前記組成物の有効濃度の0.1重量%水溶液の25℃における表面張力が20?50mN/mである、請求項1に記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のブチルジグリコール法(BDG法)により測定される曇点が20?95℃である、請求項1又は2に記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項4】
前記変性ポリシロキサンが、ポリエーテル変性ポリシロキサン及びポリグリセリル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1?3のいずれかに記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項5】
有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が30℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)をさらに含む、請求項1?4のいずれかに記載の二次電池スラリー用分散剤組成物。
【請求項6】
変性ポリシロキサン成分(A)と、高分子粒子成分(B)と、無機粒子とを含有する二次電池スラリー組成物であって、前記成分(A)が、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリグリセリン変性ポリシロキサン、フェニル変性ポリシロキサン及びアルキル変性ポリシロキサンから選ばれる少なくとも1種であり、前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、それぞれの含有量が、前記成分(A)が0.1?1.8重量部、前記成分(B)が2.8?15重量部であり、ロスマイルス試験法による25℃における有効濃度0.1重量%の起泡力が、流下直後において40mm以下、かつ、流下直後から5分後において10mm以下である、二次電池スラリー組成物。
【請求項7】
有効濃度が1重量%の水溶液の曇点が30℃以上である、アルキレンオキサイド付加物成分(C)をさらに含む、請求項6に記載の二次電池スラリー組成物。
【請求項8】
前記無機粒子の含有量を100重量部としたときに、前記成分(C)が0.01?10重量部である、請求項7に記載の二次電池スラリー組成物。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
集電体上に正極用被膜を有する二次電池用正極であって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用正極。
【請求項11】
集電体上に負極用被膜を有する二次電池用負極であって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用負極。
【請求項12】
セパレータ用被膜を有するセパレータであって、前記被膜が、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる、二次電池用セパレータ。
【請求項13】
負極、正極、セパレータ及び電解液を含む二次電池であって、前記負極、前記正極及び前記セパレータのうちの少なくとも1つが、請求項7又は8に記載の二次電池スラリー組成物の不揮発分により形成されてなる被膜を有する、二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-04 
出願番号 特願2016-10325(P2016-10325)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 土屋 知久
池渕 立
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6152177号(P6152177)
権利者 松本油脂製薬株式会社
発明の名称 二次電池スラリー用分散剤組成物及びその利用  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ